説明

嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板材

【課題】低コストで、摩擦係数が小さい嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板を提供する。
【解決手段】錫めっき層の表面に粒径0.1μm以上の黒鉛粒子が100μmあたり50個以上付着した錫めっき付き銅合金板。付着した粒径0.1μm以上の黒鉛粒子のうち粒径0.1〜1μmの粒子の数が80%以上であり、最大粒径が3μm以下である。この銅合金板を用いて製造した嵌合型端子は、挿入力を大きく低減できるから、小型多極化に適する。またこの銅合金板は接触抵抗の経時変化が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数で嵌合型接続端子用として適する錫めっき付き銅合金板材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、雄端子と雌端子の嵌合によって電気的接触を得る車載用等の嵌合型端子として、錫めっき付き銅合金板材を打抜き加工して端子に成形したものが汎用的に用いられている。
端子の嵌合作業において、雄端子は雌端子のインデント部に接触しながら挿入される。錫めっき付き銅合金板材を用いた端子では、錫めっきが非常に軟らかいことから、摺動部において、錫の凝着、堆積、脱落が繰返されるため、摺動抵抗が高くなり、挿入に要する力が大きくなる。
【0003】
近年、車載部品の軽量化・小型化に伴い、これら嵌合型端子も小型多極化の傾向にある。嵌合型端子の嵌合は作業者が手作業で行っており、前記の錫めっき付き銅合金板材を用いた端子では嵌合時の挿入力が高いことから、特に多極化した場合の作業者の肉体的負荷が大きくなり、端子嵌合時の挿入力低減が強く求められている。
そのため、接続端子を小型多極化しても、挿入力低減が可能で、かつ電気的特性を確保できる嵌合型端子用の錫めっき付き銅合金板材の要求が高くなっている。
【0004】
このような要求に対して、銅合金板材の表面にNiめっき層、Cu−Sn合金層、さらにSnめっき層からなる多層めっき層を形成することにより、嵌合型端子の挿入力低減、及び接触抵抗の経時変化低減が可能な錫めっき付き銅合金板材が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この板材は従来材になかったNiめっき層が必要であり、従来使用していためっき設備をそのまま使用できず、また、Niめっきを追加するためコストアップにつながり、板材の価格が上昇するという問題がある。
【0005】
また、銅合金板材の表面に黒鉛粒子が分散したSnめっき層を形成することにより、嵌合型端子の挿入力低減、及び接触抵抗の経時変化低減を可能とした錫めっき付き銅合金板材が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この板材を製造するには、黒鉛粒子を分散させた特殊なSnめっき浴が必要であり、黒鉛粒子が均一かつ所定量分散したSnめっき層を形成するための浴管理が困難で、また、これがコストアップにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−68026号公報
【特許文献2】特開2006−97062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、摩擦係数が小さく挿入力を低減でき、電気的信頼性が高く(接触抵抗の経時変化が少なく)、かつ安価な嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板材は、表面に錫めっき層が形成された銅合金板材であって、前記錫めっき層の表面に粒径0.1μm以上の黒鉛粒子が100μmあたり50個以上付着しており、そのうち粒径0.1〜1μmの黒鉛粒子の数が80%以上であり、最大粒径が3μm以下であることを特徴とする。粒径0.1μm以上の黒鉛粒子のうち粒径0.5μm以下の黒鉛粒子の数が50%以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、錫めっき付き銅合金板の摩擦係数を大きく低下させ、嵌合型端子の挿入力を大きく低減することができ、しかもそれを黒鉛粒子を錫めっき層表面に付着させるという簡単で安価な手段で実現できる。また、錫めっき層表面に付着した黒鉛粒子により、錫めっき付き銅合金板材の電気的信頼性が低下することはない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る錫めっき付き銅合金板についてより具体的に説明する。
(錫めっき層)
通常の電気錫めっきによる小型端子の場合、錫めっきに発生するウィスカーによる短絡が問題になる。そのため、錫めっき付き銅合金板を錫の融点以上の温度に保持し、錫めっき層を溶融させるリフロー処理を施すことが望ましい。錫めっきからのウィスカーが問題とならない場合、コスト低減のため光沢電気錫めっきを行い、リフロー処理を施さない状態の銅合金板材でもよい。電気錫めっきの厚さは0.2〜2.0μm程度が望ましい。0.2μmに満たない場合、接触抵抗の経時変化が大きくなり、2.0μmを越えると摩擦係数が大きくなる。必要であれば、錫めっき前の銅合金板材の表面に下地処理として銅めっき層を形成した後、錫めっきを行ってもよい。銅めっき層の厚さは0.1〜0.5μm程度が望ましい。本発明において錫めっきは、純Snのみでなく、Cu、Ag、Bi、Pb、Zn等の群より選んだ1種以上の元素を1〜10質量%程度含む錫合金めっきを含む。
【0011】
(銅合金板材)
銅合金板材(めっき基材)は、端子に成形して使用することができるものであれば、どのような組成、特性のものを用いても良い。例えば、黄銅、りん青銅、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Fe−P系合金、Cu−Ni−Sn−P系合金等を用いることができる。板厚は端子の用途、板材の導電率、機械的性質などに合わせて決めれば良いが、0.1〜2.0mm程度が一般に適当である。
【0012】
(黒鉛粒子)
表面に黒鉛粒子を付着させた錫めっき付き銅合金板材を用いて嵌合型端子を成形すると、黒鉛の潤滑性によって、該嵌合型端子の摺動部における摩擦係数が低下し、挿入力の低減が可能となる。黒鉛粒子の付着密度(単位面積当たりの付着数)が低いと摩擦係数低減の効果が小さく、また付着した黒鉛粒子の粒径が小さく揃った方が摩擦係数低減の効果が大きい。一方、粒径があまりに小さい黒鉛粒子は凝集しやすく、粒径0.1μm未満になると摩擦係数低減効果が飽和する。具体的には、粒径0.1μm以上の黒鉛粒子の付着量が100μmあたり50個以上で、そのうち粒径0.1〜1μmの黒鉛粒子の数が80%以上、かつ最大粒径が3μm以下であることが望ましく、この条件で、特許文献2に記載された黒鉛粒子分散錫めっき付き銅合金板と同レベル以上の低い摩擦係数(0.1〜0.2程度)が得られる。
さらに望ましくは、粒径0.1μm以上の黒鉛粒子のうち粒径0.5μm以下の粒子の数が50%以上である。粒径0.1μm以上の黒鉛粒子の付着密度は100μm2あたり150個以上、さらに300個以上であることが望ましい。
黒鉛粒子の密度及び粒径は、黒鉛粒子が付着した錫めっき付き銅合金板材の表面をSEMにより観察して表面の画像を取得し、その画像を元に、画像解析ソフトを用いて求めることができる。粒径は画像に現れた粒子と同一面積の円の直径として求めた。
【0013】
錫めっき付き板材の表面に黒鉛粒子を付着させるには、錫めっき後、あるいは更にリフロー処理した後、錫めっき付き板材の表面(片面又は両面)に、エアー等によりグラファイト粒子を吹き付ける、黒鉛粒子を懸濁させたアルコールを吹き付ける、黒鉛粒子を充填した容器中を板材を通過させ、あるいは板材を通板しながらその表面に黒鉛粒子を落下させ、その後エアブローして余分な黒鉛粒子を除去する、等の方法が可能である。なお、前記の方法によって付着した黒鉛粒子は、端子形成のためのプレス打抜き及びプレス曲げ工程等(プレス油塗付、電解脱脂)を経ても、脱離するものは少ない。
また、黒鉛粒子に代えて、黒鉛を含む粒子(例えば鉛筆の芯を粉末にしたもの)を用いても、黒鉛粒子と同等の効果をもたせることができる。
【実施例】
【0014】
厚さ0.25mm、幅50mm、長さ100mmのC2600黄銅板材に、厚さ0.5μmの銅めっき、及び厚さ1μmの錫めっきをこの順で行って、錫めっき付き銅合金板材を作製した。めっき浴及びめっき条件を表1,表2に示す。
この錫めっき付き黄銅板材に黒鉛粒子を付着させていないもの(No.1)と、その表面に黒鉛粒子を付着させたものを供試材とし、摩擦係数と160℃×120時間加熱後の接触抵抗値を、下記要領にて測定した。粒径0.1μm以上の黒鉛粒子の付着数、そのうち粒径0.1〜1μmの黒鉛粒子の割合、最大粒径、摩擦係数、及び加熱後接触抵抗を、表3に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【0018】
(動摩擦係数の測定方法)
端子嵌合時の挿入力の評価として、動摩擦係数を用いた。嵌合型端子の接点部の形状を想定して、供試材から切り出した板状の雄試験片を水平な台に固定し、その上に供試材を内径1.5mmで半球加工した雌試験片を置いて、黒鉛を付着させた錫めっき面同士を接触させ、雌試験片に荷重W(3.0N)をかけて雄試験片を押え、横型荷重測定機(アイコーエンジニアリング株式会社製Model−2152)を用いて、雄試験片を水平方向に引張り(摺動速度80mm/min)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力Fを測定した。摩擦係数Fを下記式(1)により求めた。
摩擦係数=F/W・・・・(1)
【0019】
(高温放置後の接触抵抗測定)
加熱時の電気接点における信頼性の評価として、高温放置後の接触抵抗値を用いた。供試材に対し大気中にて160℃×120hrの熱処理を行った後、接触抵抗を4端子法により、開放電圧20mV、電流10mA、摺動の条件にて測定し、荷重が3Nの際の値を読み取った。
【0020】
表3に示すように、黒鉛粒子を付着させていないNo.1をベンチマークとして、No.2〜5をみると、黒鉛粒子の付着数、粒径1μm以下の黒鉛粒子の割合、及び最大粒径について、本発明の規定を全て満たすNo.2は、動摩擦係数が0.15と大きく低下し、長時間加熱後の接触抵抗の低下もない。なお、動摩擦係数0.15は、特許文献2に開示された黒鉛粒子分散錫めっき付き銅合金板の動摩擦係数と同レベルかそれより低い。
一方、No.3は、粒径1μm以下の黒鉛粒子の割合が不足するため、動摩擦係数の低下が大きくない。なお、動摩擦係数0.43は、特許文献1に開示された3層めっき材と同レベルかそれよりやや高いレベルである。
No.4は、粒径1μm以下の黒鉛粒子の割合が少なく、かつ最大粒径が大きいため、No.5は黒鉛粒子の付着量が少なく、かつ粒径1μm以下の黒鉛粒子の割合が少ないため、動摩擦係数の改善の程度はごく小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に錫めっき層が形成された銅合金板材であって、前記錫めっき層の表面に粒径0.1μm以上の黒鉛粒子が100μmあたり50個以上付着しており、そのうち粒径0.1〜1μmの黒鉛粒子の数が80%以上であり、最大粒径が3μm以下であることを特徴とする嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板材。
【請求項2】
粒径0.1μm以上の黒鉛粒子のうち、粒径0.1〜0.5μmの黒鉛粒子の数が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載された嵌合型端子用錫めっき付き銅合金板材。

【公開番号】特開2010−222675(P2010−222675A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73620(P2009−73620)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】