嵌合式鉄骨柱接合部
【課題】鉄骨構造物の建方現場における鉄骨柱同士の接合を簡易な作業で行えることで組み立てスピードのアップを可能にし、使用後の部材のリユースを可能とする接合部を提供すること。
【解決手段】メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する接合部において、メス型受金具1aには、先端に幅が広くなるテーパー状の凹部29を有し、オス型挿込金具2aには、先端に幅が狭くなるテーパー状の凸部30を有する鉄骨柱の接合部とすることで、従来のボルト接合のようなトルクレンチによる作業を必要とせず、鉄骨柱同士の接合が完了する。さらに、使用後の柱部材はガス切断を行わなくても簡易に取外すことができるため、リユースが可能となる。
【解決手段】メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する接合部において、メス型受金具1aには、先端に幅が広くなるテーパー状の凹部29を有し、オス型挿込金具2aには、先端に幅が狭くなるテーパー状の凸部30を有する鉄骨柱の接合部とすることで、従来のボルト接合のようなトルクレンチによる作業を必要とせず、鉄骨柱同士の接合が完了する。さらに、使用後の柱部材はガス切断を行わなくても簡易に取外すことができるため、リユースが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨柱の接合に関し、特に、オス型挿込金具とメス型受金具を有する嵌合式鉄骨柱の接合部に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造物は、H形鋼などの形鋼、および角形鋼管、円形鋼管などの鋼材を柱、梁、ブレースなどの部材として使い、それらを接合して組み立てられる。
鉄骨構造物の建設では、輸送可能な大きさで、予め工場製作された部材を建設現場に搬入し、それらを現場で接合して組み立てていく。この場合、部材等の接合には、工場においては溶接接合が、現場においては、火気や特別な技術が必要無い、省力化工法であるボルト接合が通常用いられる。
【0003】
ボルト接合する場合は、図9に示すように、予め接合するH形鋼柱部材26に、ボルト貫通のための孔を開け、ボルト挿通孔を備えた鋼製の添え板20を添え、ボルト21の締め付けにより摩擦接合する方法が用いられている。ボルトの締め付け作業は、足場などを利用し、作業員が接合部に接近し、トルクレンチを用いて行う。
【0004】
また、仮設構造物の分野においては、本設の建物よりも、組み立て、解体のスピードが要求される傾向にあること、部材の使用期間が短期的であること、構成部材の負担荷重が小さいこと、鋼管で構造体が形成されることから、接合される2つの鋼管の一方の端部に、他方の鋼管の端部の内径よりも外径を小さくした絞り加工部を差込む(嵌合させる)ことで接合を行い、組み立て及び解体のスピードのアップ、使用後の部材の再利用を可能とした接合法が用いられている。
【0005】
また、図11に示すように、送電線支持用支柱において、薄肉の鋼板を材料とし、部材長手方向上方に向かって漸次径が縮小する複数の短尺の鋼管柱部材bを嵌合させ、長尺柱を構成する工法(パンザマスト)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この工法は、柱の撤去、移設の際に長尺柱を短尺の鋼管柱部材bに分解することが容易であり、短尺の鋼管柱部材bのリユースが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭29−8262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のボルトによる接合の場合には、作業員が接合部に接近し、トルクレンチを用いてボルト1本1本の締め付け作業を行うことから、接合する部材の断面が大きな場合、ボルト本数が多くなるため、接合にかかる時間が長くなり、施工期間が長くなるという問題がある。
【0008】
また、仮設構造物などの解体を前提とした構造物に使用した場合は、例えば、接合部のボルトの取り外し若しくは部材のガス切断によって構造物の解体を行う方法があるが、接合部のボルトを取外す場合は、作業員が接合部に接近し、工具を用いてボルトの取り外しの作業を行う必要があり、解体のスピードが遅くなる。ガス切断により解体を行うと、解体スピードは速くなるが、部材を短く切断するため、再度同一の構造物を築造する際に、リユースが不可能となる。
【0009】
鋼管の嵌合の場合は、接合部に求められる荷重伝達性能が軽微な場合及び接合される部材が鋼管の場合に限定され、嵌合後のガタツキをできるだけ抑制するためには、絞り加工部の外径と、鋼管端部の内径の差を出来る限り小さくすることが必要であるが、この差を小さくするほど、嵌合させる部材間のクリアランスが小さくなり、嵌合時の作業性が悪くなる。
テーパー状鋼管部材bを用いる場合は、長尺柱を構成する鋼管柱部材bが薄肉の鋼板を材料として製造されているため、柱に曲げモーメントが生じた際の抵抗性能が弱いという問題がある。また、この場合、柱の形状は、鋼管に限定され、柱自体にテーパー状の傾斜がつくという制約が生じる。
本発明は、鉄骨構造物の柱の接合部おいて、接合時の作業性能と、接合部の強度を両方満足する嵌合式とすることで、組み立て、解体の作業手間を削減し、組み立て作業のスピードおよび解体作業のスピードをアップさせることができ、前記の課題を有利に解決した鉄骨柱の接合構造を提供することを主目的とする。
また、ガス切断や機械切断による鉄骨柱部材の損傷を無くし、再度同一の構造物を築造する場合等には、鉄骨柱部材のリユースが可能となる接合構造を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
第1発明では、メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する鉄骨柱の接合部において、
前記メス型受金具には、その先端に向かって漸次幅が広くなるテーパー状の凹部を有し、前記オス型挿込金具には、その先端に向かって漸次幅が狭くなるテーパー状の凸部を有することを特徴とする。
第2発明では、前記メス型受金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角と、オス型挿込金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角が同じ傾斜角であり、かつその傾斜角度が2.5°以上、20°以下であり、
オス型挿込金具とメス型受金具が接触する鉄骨柱の軸方向の長さが、鉄骨柱の幅の2/3倍以上、2倍以下としてもよい。
第3発明のように、前記の場合に、前記メス型受金具のテーパー部表面、または、オス型挿込金具のテーパー部表面は、粗面とする表面処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明によれば、オス型挿込金具をメス型受金具に嵌合させることで、鉄骨柱相互の接合が完了し、従来の接合法に比べて簡単に接合を完了することができる。また、組み立て作業のスピードおよび解体作業のスピードをアップさせることができ、鉄骨柱部材のリユースも可能となる。
また、嵌合完了時に接合された鉄骨柱のテーパー部相互が密着しガタツキがなく、曲げモーメントに対する抵抗性能を発揮することができる。
また、テーパー部表面粗面とすると、密着する2つの面の間の最大摩擦力が増大し、接合がより強固になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鉄骨構造物における嵌合接合部の適用位置の例を示す正面図である。
【図2】嵌合接合する場合の鉄骨柱の接合要領を示す図で、(a)は離れた状態、(b)は嵌合した状態を示す正面図である。
【図3】嵌合時の接合部状態を示す拡大した縦断正面図である。
【図4】メス型受金具を説明するための図で、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図5】オス型挿込金具を説明するための図で、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図6】鉄骨柱がH形鋼の場合の例を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図7】鉄骨柱が角形鋼管の場合の例を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は鉄骨柱部材の断面図である。
【図8】構造実験の結果を示す図である。
【図9】従来型のボルト接合を示す正面図である。
【図10】実施例の強度試験の状況を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のa−a断面図である。
【図11】パンザマスト工法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
鉄骨構造物の一形態としては、図1に示すように、鉄骨柱22と鉄骨トラス梁23により構成される門型フレーム26がある。門型フレーム26は、鉄骨加工工場で加工された鉄骨が、建設現場に輸送され、接合されて組み立てられる。
鉄骨柱22の接合される位置(継手位置)は、輸送の際の長さ制限、施工法、フレームに生じる応力などを考慮して決められる。図1は一形態として、門型フレーム26の2本の鉄骨柱22の中間の継手位置にそれぞれ2箇所ずつ、合計4箇所に、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aからなる継手を設けた例を示す。
【0015】
本発明の一実施形態の嵌合接合は、鉄骨加工工場もしくは建設現場で、予めメス型受金具及びオス型挿込金具2aを、鉄骨柱部材に溶接接合により取り付けた状態で鉄骨建方工事を行う。
組み立ての要領は、図2に示すように、差込用の凸部を有するオス型挿込金具2aを取り付けた下側の鉄骨柱23を、オス型挿込金具2a側の端を上に向け、他方を基礎25に固定する。そして、オス型挿込金具2aを嵌合させるためのテーパー状の凹部29を有するメス型受金具1aを取り付けた上側の鉄骨柱24を、メス型受金具1a側の端を下に向け、重機等により、下側の鉄骨柱23の直上に移動し、オス型挿込金具2aを嵌合させる。なお、メス型受金具1aを取り付けた鉄骨柱24が下側に、オス型挿込金具2aを取り付けた鉄骨柱23が上側となってもよい。
【0016】
図4を参照して、メス型受金具1aの詳細を説明する。
メス型受金具1aは、傾斜板1と、傾斜板2と、側面板3と、側面板4と、鉄骨柱部材側の閉塞板5との5枚から構成され、鋼板相互を溶接されることで構成され、6面体に対してオス型挿込金具のための挿入口6の1面だけ鋼板が欠けた形となる。
【0017】
より具体的には、間隔をおいて平行に対向するように配置された台形状の側面板3,4の一端側(底辺側)が相互に離反し、他端側(上辺側)が相互に接近するように傾斜して同レベルに配置され、前記側面板3,4の幅方向側縁部に、長方形の傾斜板1、2が同レベルに配置されて、溶接Wにより固定されている。また、前記側面板3,4の上辺と各傾斜板1、2の上辺の4辺を塞ぐように鉄骨柱部材側の閉塞板5が、前記側面板3,4間および各傾斜板1、2上に配置されて、前記傾斜板1,2および各側面板3,4に溶接により固定されている。前記の溶接Wは、メス型受金具1aの外側からの溶接により行われ、メス型受金具1aの内側面に溶接ビードが生じないようにされている。
前記の傾斜板1,2および各側面板3,4並びに閉塞板5に囲まれる内側空間により、凹部29が形成され、前記傾斜板1,2が対向して傾斜配置されていることで、テーパー状の凹部29とされている。
【0018】
また、オス型挿込金具挿入口6は、オス型挿込金具2aの挿入口の役割を担う。また、強軸方向の曲げモーメントに抵抗する面である各傾斜板1および2は、鉄骨柱長手方向の材軸(柱軸線)Yに対して、挿入口6側(先端側)が、互いに漸次離反するように、傾斜角θで傾斜した傾斜面(傾斜角θ)となっている。
前記各傾斜板1と2の基端側は、断面H形鉄骨柱部材1bのフランジ27に溶接Wにより固定され、前記の閉塞板5は、断面H形鉄骨柱部材1bのウェブ28に溶接Wにより固定されている。各側面板3,4の内側間隔は、断面H形鉄骨柱部材1bにおけるフランジ27の幅寸法よりも僅かに大きくされている。
前記の傾斜板1、2間の基端側の間隔(閉塞板5の傾斜板1、2間の長さ寸法に相当)は、後記のオス型挿込金具2aにおける傾斜板8と傾斜板9とにより形成される先端部間の幅寸法よりも小さくされて、オス型挿込金具2aにおける面板13,16が、閉塞板5に接触しないようにされ、また、メス型受金具1a内にオス型挿込金具2a全体を収納可能なように、メス型受金具1a内の柱軸方向の寸法はメス型受金具1aの柱軸方向の寸法より長くされて、メス型受金具1a全体がオス型挿込金具2aに確実に嵌合されるようにされている。
なお、弱軸方向の曲げモーメントに対しては、側面板3,4が抵抗するようになる。
【0019】
次に、図5を参照して、オス型挿込金具2aの詳細を説明する。
オス型挿込金具2aは、傾斜板8、傾斜板9、ウェブ部板10、鉄骨柱部材側の面板11、リブ補強材12、先端板13、鉄骨柱部材側の面板14、リブ補強材15、先端板16の鋼板を組み立て、鋼板相互を溶接Wされることで、テーパー状の凸部30を有するオス型挿込金具とされている。
【0020】
より具体的には、幅方向中央に位置するように配置された左右の辺が対称に傾斜した台形状のウェブ部板10の上端部の表裏両側に、上辺とほぼ同じ長さ寸法の長方形の前記先端板13,16が配置されて溶接Wにより固定されている。前記先端板13,16に間隔をおいて平行に、ウェブ部板10の中間部の幅寸法とほぼ同じ長さ寸法の長方形の補強材12,15が、ウェブ部板10に溶接Wにより固定されている。同様に長方形の面板11,14が前記補強材12,15に平行に配置されて、ウェブ部板10に溶接Wにより固定されている。
【0021】
前記の先端板13,16と、補強材12,15と、面板11,14とは、その幅寸法は同じ幅寸法とされている。
長方形状の傾斜板8および9の幅寸法は、先端板13,16の各幅寸法にウェブ部板10の板厚寸法を足した寸法とされ、そのような傾斜板8,9が、各先端板13,16と、補強材12,15と、面板13,16と、ウェブ部板10に傾斜端面に当接されて、溶接により固定されている。
【0022】
オス型挿込金具2aにおける溶接部は、先端板13,16部分の溶接Wを除いてオス型挿込金具2aの主として内側からの溶接Wにより行われ、オス型挿込金具2aの外側面に溶接ビードが生じないようにされている。
前記各傾斜板8,9の基端側は、断面H形鉄骨柱部材1cのフランジ27に溶接Wにより固定され、前記の面板11,14およびウェブ部板10は、断面H形鉄骨柱部材1cのウェブ28に溶接Wにより固定されている。
【0023】
前記の実施形態では、各傾斜板8,9と、先端板13,16とによりテーパー状の凸部30が形成されている。前記のウェブ部板10の板厚の先端側の端面に、先端板13,16を固定する場合には、先端板13,16に代えて、1枚の鋼板からなる先端板にすることも可能である。補強材12は縦向きの補強材としてもよく、あるいは縦向きあるいは横向きの両方を備えた十字状の補強材としてもよい。
【0024】
前記の各傾斜板8,9の幅寸法は、前記の側面板3,4間の寸法よりも僅かに小さくされて、オス型挿し込み金具2aをメス型受金具1aに嵌合可能にされている。
なお、弱軸方向の曲げモーメントに対しては、面板11,14と、補強材12,15と、面板13,16の端部が抵抗するようになる。
また、強軸方向Yの曲げモーメントに抵抗する面である傾斜板8および傾斜板9は、鉄骨柱長手方向の材軸(柱軸線)Yに対して傾斜した傾斜面(傾斜角θ)となっており、H形鋼のウェブに当たる位置には、前記のようにウェブ部板10を設置する。
各傾斜板9と10の基端部は、断面H形の鉄骨柱部材1cにおけるフランジ27に溶接により固定され、また、傾斜板8および9は、その幅方向中央に配置されたウェブ部板10に溶接Wにより固定されて一体化され、前記ウェブ部板10を境にしてこれに対して直角に、上面板11および14と、補強材12および15と、先端板13および16とは、溶接Wにより固定されている。
本発明においては、接合される鉄骨柱の断面形状は適宜の形状でよいから限定されず、図6は、鉄骨柱がH形鋼の場合、図7は角形鋼管の場合の実施形態を示す。
なお、鉄骨柱部材1bおよび1cが角形鋼管の場合には、鉄骨柱部材1bにあっては、角形鋼管の端面4辺の内2辺を、傾斜板1,2に溶接Wにより固定し、他の2辺を閉塞板5に溶接により固定する。
【0025】
接合部を構成する鋼板は、接合部にかかる所定以上の曲げモーメントに対して、降伏、座屈を起さないように板厚を設定する。
オス型挿込金具2a、メス型受金具1aの傾斜面の鉄骨柱長手方向の材軸に対する傾斜角θは同一とし、接合完了時には、図3に示すように、メス型受金具1aの傾斜板1及び2の内面と、オス型挿込金具2aにおける傾斜板8及び9の外側面が、全体に面接触して密着する形態となるように、オス型挿込金具2a及びメス型受金具1aの各部の寸法を設定する。
【0026】
このように各傾斜板の傾斜角θ、寸法を設定すると、メス型受金具1aの傾斜板1及び2の内側面と、オス型挿込金具における傾斜板8及び9の外側面が、互いにガイド面として案内して、嵌合することができ、嵌合完了時には接合された二つの鉄骨部柱1b、1c(2b,2c))の材軸Yが合致することとなる。
また、メス型受金具1aの鉄骨柱材軸方向の長さL1(図4参照)は、オス型挿込金具2aの鉄骨柱材軸方向の長さL2(図5参照)に対して余裕を持たせ、嵌合完了時にメス型受金具1aもしくはオス型挿込金具2aの製作誤差の吸収しろを持たせておくことが好ましい。
嵌合完了時に密着するメス型受金具1aにおける傾斜板1及び2の内側面と、オス型挿込金具2aにおける傾斜板8及び9の外側面には、サンドブラストあるいはショットブラスト等のブラスト処理などにより、テーパー部表面の粗さの値を増加させる表面処理をほどこして、粗面とすると、密着する2つの面の間の最大摩擦力が増大し、接合がより強固になる。
このように、メス型受金具1a及びオス型挿込金具2aを構成することで、鉄骨柱嵌合時のメス型受金具1aの先端と、オス型挿込金具2aの先端の間のクリアランスを確保でき、かつ、嵌合完了時には鉄骨柱同士を密着させることができ、接合部において所定以上の荷重を伝達することが可能となる。
また、接合された状態の柱材の解体の際も、重機で接合部の上位に位置する鉄骨柱部材1bを吊り上げるだけで簡単に取外すことができ、従来のガス切断のような損傷も無いため、再度同じ構造物を構築する際は、同じ鉄骨柱部材1b、1cをリユースすることができる。
【実施例】
【0027】
本発明における鉄骨柱の接合構造の実施例を示す。
図10には、本発明の接合構造において、接合部の荷重伝達性能と接合部のオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱17の軸方向の差込長さL、及びテーパー状の傾斜角θの間係を確認する試験の実施状況が示されている。
試験体は、H形鋼からなる鉄骨柱部材17及びこれに固定された本発明の接合部18から構成され、試験体は試験機の制約上、鉄骨柱長手方向の材軸を水平方向とし、2箇所の支点19、及び支点19間の中央に本発明の接合部18を有する。
載荷は試験体の中央から等距離となる2箇所において、点に集中して載荷を行う。この載荷方法により本発明の接合部18に曲げモーメントを生じさせることができる。
試験体における鉄骨柱H形鋼サイズは、強軸幅Hが294mm、弱軸幅Bが200mm、ウェブ板厚tWが8mm、フランジ板厚tfが12mmである。
【0028】
試験の結果、図10におけるオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱の軸方向の差込長さLは、鉄骨柱の強軸幅H対して2/3倍以上、かつ、テーパー状の傾斜角θは20°以下であれば、鉄骨柱H形鋼が降伏する曲げモーメントを載荷しても本発明の接合部はオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが分離することなく、曲げモーメントを伝達することが可能であった。
一方で、前記差込長さLが鉄骨柱の強軸幅Hに対して2/3倍未満、または、傾斜角θが20°より大きい場合は、鉄骨柱H形鋼が降伏する曲げモーメントよりも小さな曲げモーメントでオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが外れる結果となった。
テーパー状の傾斜角θと嵌合容易性の関係は、傾斜角θが大きい程、嵌合時のクリアランスが大きくなり、オス型挿込金具2aとメス型受金具1aの嵌合が容易になるが、傾斜角θが2.5°以上の場合、嵌合をスムーズに行うことができ、2.5°未満の場合は嵌合が著しく困難であった。
材軸方向の差込長さLを長くすると当然ながら使用鉄骨量が多くなり、製造コストが高くなる。差込長さLを鉄骨柱強軸幅H対して2倍よりも長くすると、本発明の接合部を制作するための鉄骨量が、従来のボルト接合の場合に必要な鉄骨量の5倍を超えるため、コストの合理性に欠けるといえる。
以上の実施の結果をまとめたものが図8に示す図である。テーパー状の傾斜角θ及びオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱の軸方向の差込長さLの鉄骨柱の強軸幅Hに対する倍率は、荷重伝達性、施工性、コストを考慮するとXの範囲に絞るとよい。
【0029】
本発明を実施する場合、前記実施形態では、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aにおける対向する2面について、傾斜面としたが、他の対向する2面(メス型受金具1aあるいはオス型挿込金具2aについて)についても、傾斜させるようにして、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aの周側部の4面を傾斜面としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1a メス型受金具
2a オス型挿込金具
1b メス型受金具に接合するH形鋼鉄骨柱部材
2b メス型受金具に接合する角形鋼管鉄骨柱部材
1c オス型挿込金具に接合するH形鋼鉄骨柱部材
2c オス型挿込金具に接合する角形鋼管鉄骨柱部材
b パンザーマストにおける長尺柱を構成する鋼管柱部材
L1 メス型受金具の材軸方向長さ
L2 オス型挿込金具の材軸方向長さ
B1 メス型受金具の材軸直角方向幅
B2 オス型挿込金具の材軸直角方向幅
θ 傾斜部角度
H 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱の強軸幅
B 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱の弱軸幅
tf 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱のフランジ厚
tw 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱のウェブ厚
L 実施試験における嵌合接合部差込長さ
1 メス型受金具の傾斜板
2 メス型受金具の傾斜板
3 メス型受金具の側面板
4 メス型受金具の側面板
5 メス型受金具の鉄骨柱部材側板
6 メス型受金具におけるオス型挿込金具挿入口
7 オス型挿込金具の傾斜板
8 オス型挿込金具の傾斜板
9 オス型挿込金具の傾斜板
10 オス型挿込金具のウェブ部板
11 オス型挿込金具における鉄骨柱部材側の面板
12 オス型挿込金具リブ補強材
13 オス型挿込金具の先端板
14 オス型挿込金具における鉄骨柱部材側の面板
15 オス型挿込金具のリブ補強材
16 オス型挿込金具の先端板
17 実施試験におけるH形鋼柱部材
18 実施試験における本発明の接合部
19 実施試験における試験体の支点
20 ボルト接合における添板
21 ボルト接合におけるボルト
22 門形フレームにおける鉄骨柱
23 梁
24 鉄骨柱
25 基礎
26 門型フレーム
27 フランジ
28 ウェブ
29 テーパー状の凹部
30 テーパー状の凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨柱の接合に関し、特に、オス型挿込金具とメス型受金具を有する嵌合式鉄骨柱の接合部に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造物は、H形鋼などの形鋼、および角形鋼管、円形鋼管などの鋼材を柱、梁、ブレースなどの部材として使い、それらを接合して組み立てられる。
鉄骨構造物の建設では、輸送可能な大きさで、予め工場製作された部材を建設現場に搬入し、それらを現場で接合して組み立てていく。この場合、部材等の接合には、工場においては溶接接合が、現場においては、火気や特別な技術が必要無い、省力化工法であるボルト接合が通常用いられる。
【0003】
ボルト接合する場合は、図9に示すように、予め接合するH形鋼柱部材26に、ボルト貫通のための孔を開け、ボルト挿通孔を備えた鋼製の添え板20を添え、ボルト21の締め付けにより摩擦接合する方法が用いられている。ボルトの締め付け作業は、足場などを利用し、作業員が接合部に接近し、トルクレンチを用いて行う。
【0004】
また、仮設構造物の分野においては、本設の建物よりも、組み立て、解体のスピードが要求される傾向にあること、部材の使用期間が短期的であること、構成部材の負担荷重が小さいこと、鋼管で構造体が形成されることから、接合される2つの鋼管の一方の端部に、他方の鋼管の端部の内径よりも外径を小さくした絞り加工部を差込む(嵌合させる)ことで接合を行い、組み立て及び解体のスピードのアップ、使用後の部材の再利用を可能とした接合法が用いられている。
【0005】
また、図11に示すように、送電線支持用支柱において、薄肉の鋼板を材料とし、部材長手方向上方に向かって漸次径が縮小する複数の短尺の鋼管柱部材bを嵌合させ、長尺柱を構成する工法(パンザマスト)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この工法は、柱の撤去、移設の際に長尺柱を短尺の鋼管柱部材bに分解することが容易であり、短尺の鋼管柱部材bのリユースが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭29−8262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のボルトによる接合の場合には、作業員が接合部に接近し、トルクレンチを用いてボルト1本1本の締め付け作業を行うことから、接合する部材の断面が大きな場合、ボルト本数が多くなるため、接合にかかる時間が長くなり、施工期間が長くなるという問題がある。
【0008】
また、仮設構造物などの解体を前提とした構造物に使用した場合は、例えば、接合部のボルトの取り外し若しくは部材のガス切断によって構造物の解体を行う方法があるが、接合部のボルトを取外す場合は、作業員が接合部に接近し、工具を用いてボルトの取り外しの作業を行う必要があり、解体のスピードが遅くなる。ガス切断により解体を行うと、解体スピードは速くなるが、部材を短く切断するため、再度同一の構造物を築造する際に、リユースが不可能となる。
【0009】
鋼管の嵌合の場合は、接合部に求められる荷重伝達性能が軽微な場合及び接合される部材が鋼管の場合に限定され、嵌合後のガタツキをできるだけ抑制するためには、絞り加工部の外径と、鋼管端部の内径の差を出来る限り小さくすることが必要であるが、この差を小さくするほど、嵌合させる部材間のクリアランスが小さくなり、嵌合時の作業性が悪くなる。
テーパー状鋼管部材bを用いる場合は、長尺柱を構成する鋼管柱部材bが薄肉の鋼板を材料として製造されているため、柱に曲げモーメントが生じた際の抵抗性能が弱いという問題がある。また、この場合、柱の形状は、鋼管に限定され、柱自体にテーパー状の傾斜がつくという制約が生じる。
本発明は、鉄骨構造物の柱の接合部おいて、接合時の作業性能と、接合部の強度を両方満足する嵌合式とすることで、組み立て、解体の作業手間を削減し、組み立て作業のスピードおよび解体作業のスピードをアップさせることができ、前記の課題を有利に解決した鉄骨柱の接合構造を提供することを主目的とする。
また、ガス切断や機械切断による鉄骨柱部材の損傷を無くし、再度同一の構造物を築造する場合等には、鉄骨柱部材のリユースが可能となる接合構造を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
第1発明では、メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する鉄骨柱の接合部において、
前記メス型受金具には、その先端に向かって漸次幅が広くなるテーパー状の凹部を有し、前記オス型挿込金具には、その先端に向かって漸次幅が狭くなるテーパー状の凸部を有することを特徴とする。
第2発明では、前記メス型受金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角と、オス型挿込金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角が同じ傾斜角であり、かつその傾斜角度が2.5°以上、20°以下であり、
オス型挿込金具とメス型受金具が接触する鉄骨柱の軸方向の長さが、鉄骨柱の幅の2/3倍以上、2倍以下としてもよい。
第3発明のように、前記の場合に、前記メス型受金具のテーパー部表面、または、オス型挿込金具のテーパー部表面は、粗面とする表面処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明によれば、オス型挿込金具をメス型受金具に嵌合させることで、鉄骨柱相互の接合が完了し、従来の接合法に比べて簡単に接合を完了することができる。また、組み立て作業のスピードおよび解体作業のスピードをアップさせることができ、鉄骨柱部材のリユースも可能となる。
また、嵌合完了時に接合された鉄骨柱のテーパー部相互が密着しガタツキがなく、曲げモーメントに対する抵抗性能を発揮することができる。
また、テーパー部表面粗面とすると、密着する2つの面の間の最大摩擦力が増大し、接合がより強固になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鉄骨構造物における嵌合接合部の適用位置の例を示す正面図である。
【図2】嵌合接合する場合の鉄骨柱の接合要領を示す図で、(a)は離れた状態、(b)は嵌合した状態を示す正面図である。
【図3】嵌合時の接合部状態を示す拡大した縦断正面図である。
【図4】メス型受金具を説明するための図で、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図5】オス型挿込金具を説明するための図で、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図6】鉄骨柱がH形鋼の場合の例を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図7】鉄骨柱が角形鋼管の場合の例を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は鉄骨柱部材の断面図である。
【図8】構造実験の結果を示す図である。
【図9】従来型のボルト接合を示す正面図である。
【図10】実施例の強度試験の状況を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のa−a断面図である。
【図11】パンザマスト工法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
鉄骨構造物の一形態としては、図1に示すように、鉄骨柱22と鉄骨トラス梁23により構成される門型フレーム26がある。門型フレーム26は、鉄骨加工工場で加工された鉄骨が、建設現場に輸送され、接合されて組み立てられる。
鉄骨柱22の接合される位置(継手位置)は、輸送の際の長さ制限、施工法、フレームに生じる応力などを考慮して決められる。図1は一形態として、門型フレーム26の2本の鉄骨柱22の中間の継手位置にそれぞれ2箇所ずつ、合計4箇所に、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aからなる継手を設けた例を示す。
【0015】
本発明の一実施形態の嵌合接合は、鉄骨加工工場もしくは建設現場で、予めメス型受金具及びオス型挿込金具2aを、鉄骨柱部材に溶接接合により取り付けた状態で鉄骨建方工事を行う。
組み立ての要領は、図2に示すように、差込用の凸部を有するオス型挿込金具2aを取り付けた下側の鉄骨柱23を、オス型挿込金具2a側の端を上に向け、他方を基礎25に固定する。そして、オス型挿込金具2aを嵌合させるためのテーパー状の凹部29を有するメス型受金具1aを取り付けた上側の鉄骨柱24を、メス型受金具1a側の端を下に向け、重機等により、下側の鉄骨柱23の直上に移動し、オス型挿込金具2aを嵌合させる。なお、メス型受金具1aを取り付けた鉄骨柱24が下側に、オス型挿込金具2aを取り付けた鉄骨柱23が上側となってもよい。
【0016】
図4を参照して、メス型受金具1aの詳細を説明する。
メス型受金具1aは、傾斜板1と、傾斜板2と、側面板3と、側面板4と、鉄骨柱部材側の閉塞板5との5枚から構成され、鋼板相互を溶接されることで構成され、6面体に対してオス型挿込金具のための挿入口6の1面だけ鋼板が欠けた形となる。
【0017】
より具体的には、間隔をおいて平行に対向するように配置された台形状の側面板3,4の一端側(底辺側)が相互に離反し、他端側(上辺側)が相互に接近するように傾斜して同レベルに配置され、前記側面板3,4の幅方向側縁部に、長方形の傾斜板1、2が同レベルに配置されて、溶接Wにより固定されている。また、前記側面板3,4の上辺と各傾斜板1、2の上辺の4辺を塞ぐように鉄骨柱部材側の閉塞板5が、前記側面板3,4間および各傾斜板1、2上に配置されて、前記傾斜板1,2および各側面板3,4に溶接により固定されている。前記の溶接Wは、メス型受金具1aの外側からの溶接により行われ、メス型受金具1aの内側面に溶接ビードが生じないようにされている。
前記の傾斜板1,2および各側面板3,4並びに閉塞板5に囲まれる内側空間により、凹部29が形成され、前記傾斜板1,2が対向して傾斜配置されていることで、テーパー状の凹部29とされている。
【0018】
また、オス型挿込金具挿入口6は、オス型挿込金具2aの挿入口の役割を担う。また、強軸方向の曲げモーメントに抵抗する面である各傾斜板1および2は、鉄骨柱長手方向の材軸(柱軸線)Yに対して、挿入口6側(先端側)が、互いに漸次離反するように、傾斜角θで傾斜した傾斜面(傾斜角θ)となっている。
前記各傾斜板1と2の基端側は、断面H形鉄骨柱部材1bのフランジ27に溶接Wにより固定され、前記の閉塞板5は、断面H形鉄骨柱部材1bのウェブ28に溶接Wにより固定されている。各側面板3,4の内側間隔は、断面H形鉄骨柱部材1bにおけるフランジ27の幅寸法よりも僅かに大きくされている。
前記の傾斜板1、2間の基端側の間隔(閉塞板5の傾斜板1、2間の長さ寸法に相当)は、後記のオス型挿込金具2aにおける傾斜板8と傾斜板9とにより形成される先端部間の幅寸法よりも小さくされて、オス型挿込金具2aにおける面板13,16が、閉塞板5に接触しないようにされ、また、メス型受金具1a内にオス型挿込金具2a全体を収納可能なように、メス型受金具1a内の柱軸方向の寸法はメス型受金具1aの柱軸方向の寸法より長くされて、メス型受金具1a全体がオス型挿込金具2aに確実に嵌合されるようにされている。
なお、弱軸方向の曲げモーメントに対しては、側面板3,4が抵抗するようになる。
【0019】
次に、図5を参照して、オス型挿込金具2aの詳細を説明する。
オス型挿込金具2aは、傾斜板8、傾斜板9、ウェブ部板10、鉄骨柱部材側の面板11、リブ補強材12、先端板13、鉄骨柱部材側の面板14、リブ補強材15、先端板16の鋼板を組み立て、鋼板相互を溶接Wされることで、テーパー状の凸部30を有するオス型挿込金具とされている。
【0020】
より具体的には、幅方向中央に位置するように配置された左右の辺が対称に傾斜した台形状のウェブ部板10の上端部の表裏両側に、上辺とほぼ同じ長さ寸法の長方形の前記先端板13,16が配置されて溶接Wにより固定されている。前記先端板13,16に間隔をおいて平行に、ウェブ部板10の中間部の幅寸法とほぼ同じ長さ寸法の長方形の補強材12,15が、ウェブ部板10に溶接Wにより固定されている。同様に長方形の面板11,14が前記補強材12,15に平行に配置されて、ウェブ部板10に溶接Wにより固定されている。
【0021】
前記の先端板13,16と、補強材12,15と、面板11,14とは、その幅寸法は同じ幅寸法とされている。
長方形状の傾斜板8および9の幅寸法は、先端板13,16の各幅寸法にウェブ部板10の板厚寸法を足した寸法とされ、そのような傾斜板8,9が、各先端板13,16と、補強材12,15と、面板13,16と、ウェブ部板10に傾斜端面に当接されて、溶接により固定されている。
【0022】
オス型挿込金具2aにおける溶接部は、先端板13,16部分の溶接Wを除いてオス型挿込金具2aの主として内側からの溶接Wにより行われ、オス型挿込金具2aの外側面に溶接ビードが生じないようにされている。
前記各傾斜板8,9の基端側は、断面H形鉄骨柱部材1cのフランジ27に溶接Wにより固定され、前記の面板11,14およびウェブ部板10は、断面H形鉄骨柱部材1cのウェブ28に溶接Wにより固定されている。
【0023】
前記の実施形態では、各傾斜板8,9と、先端板13,16とによりテーパー状の凸部30が形成されている。前記のウェブ部板10の板厚の先端側の端面に、先端板13,16を固定する場合には、先端板13,16に代えて、1枚の鋼板からなる先端板にすることも可能である。補強材12は縦向きの補強材としてもよく、あるいは縦向きあるいは横向きの両方を備えた十字状の補強材としてもよい。
【0024】
前記の各傾斜板8,9の幅寸法は、前記の側面板3,4間の寸法よりも僅かに小さくされて、オス型挿し込み金具2aをメス型受金具1aに嵌合可能にされている。
なお、弱軸方向の曲げモーメントに対しては、面板11,14と、補強材12,15と、面板13,16の端部が抵抗するようになる。
また、強軸方向Yの曲げモーメントに抵抗する面である傾斜板8および傾斜板9は、鉄骨柱長手方向の材軸(柱軸線)Yに対して傾斜した傾斜面(傾斜角θ)となっており、H形鋼のウェブに当たる位置には、前記のようにウェブ部板10を設置する。
各傾斜板9と10の基端部は、断面H形の鉄骨柱部材1cにおけるフランジ27に溶接により固定され、また、傾斜板8および9は、その幅方向中央に配置されたウェブ部板10に溶接Wにより固定されて一体化され、前記ウェブ部板10を境にしてこれに対して直角に、上面板11および14と、補強材12および15と、先端板13および16とは、溶接Wにより固定されている。
本発明においては、接合される鉄骨柱の断面形状は適宜の形状でよいから限定されず、図6は、鉄骨柱がH形鋼の場合、図7は角形鋼管の場合の実施形態を示す。
なお、鉄骨柱部材1bおよび1cが角形鋼管の場合には、鉄骨柱部材1bにあっては、角形鋼管の端面4辺の内2辺を、傾斜板1,2に溶接Wにより固定し、他の2辺を閉塞板5に溶接により固定する。
【0025】
接合部を構成する鋼板は、接合部にかかる所定以上の曲げモーメントに対して、降伏、座屈を起さないように板厚を設定する。
オス型挿込金具2a、メス型受金具1aの傾斜面の鉄骨柱長手方向の材軸に対する傾斜角θは同一とし、接合完了時には、図3に示すように、メス型受金具1aの傾斜板1及び2の内面と、オス型挿込金具2aにおける傾斜板8及び9の外側面が、全体に面接触して密着する形態となるように、オス型挿込金具2a及びメス型受金具1aの各部の寸法を設定する。
【0026】
このように各傾斜板の傾斜角θ、寸法を設定すると、メス型受金具1aの傾斜板1及び2の内側面と、オス型挿込金具における傾斜板8及び9の外側面が、互いにガイド面として案内して、嵌合することができ、嵌合完了時には接合された二つの鉄骨部柱1b、1c(2b,2c))の材軸Yが合致することとなる。
また、メス型受金具1aの鉄骨柱材軸方向の長さL1(図4参照)は、オス型挿込金具2aの鉄骨柱材軸方向の長さL2(図5参照)に対して余裕を持たせ、嵌合完了時にメス型受金具1aもしくはオス型挿込金具2aの製作誤差の吸収しろを持たせておくことが好ましい。
嵌合完了時に密着するメス型受金具1aにおける傾斜板1及び2の内側面と、オス型挿込金具2aにおける傾斜板8及び9の外側面には、サンドブラストあるいはショットブラスト等のブラスト処理などにより、テーパー部表面の粗さの値を増加させる表面処理をほどこして、粗面とすると、密着する2つの面の間の最大摩擦力が増大し、接合がより強固になる。
このように、メス型受金具1a及びオス型挿込金具2aを構成することで、鉄骨柱嵌合時のメス型受金具1aの先端と、オス型挿込金具2aの先端の間のクリアランスを確保でき、かつ、嵌合完了時には鉄骨柱同士を密着させることができ、接合部において所定以上の荷重を伝達することが可能となる。
また、接合された状態の柱材の解体の際も、重機で接合部の上位に位置する鉄骨柱部材1bを吊り上げるだけで簡単に取外すことができ、従来のガス切断のような損傷も無いため、再度同じ構造物を構築する際は、同じ鉄骨柱部材1b、1cをリユースすることができる。
【実施例】
【0027】
本発明における鉄骨柱の接合構造の実施例を示す。
図10には、本発明の接合構造において、接合部の荷重伝達性能と接合部のオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱17の軸方向の差込長さL、及びテーパー状の傾斜角θの間係を確認する試験の実施状況が示されている。
試験体は、H形鋼からなる鉄骨柱部材17及びこれに固定された本発明の接合部18から構成され、試験体は試験機の制約上、鉄骨柱長手方向の材軸を水平方向とし、2箇所の支点19、及び支点19間の中央に本発明の接合部18を有する。
載荷は試験体の中央から等距離となる2箇所において、点に集中して載荷を行う。この載荷方法により本発明の接合部18に曲げモーメントを生じさせることができる。
試験体における鉄骨柱H形鋼サイズは、強軸幅Hが294mm、弱軸幅Bが200mm、ウェブ板厚tWが8mm、フランジ板厚tfが12mmである。
【0028】
試験の結果、図10におけるオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱の軸方向の差込長さLは、鉄骨柱の強軸幅H対して2/3倍以上、かつ、テーパー状の傾斜角θは20°以下であれば、鉄骨柱H形鋼が降伏する曲げモーメントを載荷しても本発明の接合部はオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが分離することなく、曲げモーメントを伝達することが可能であった。
一方で、前記差込長さLが鉄骨柱の強軸幅Hに対して2/3倍未満、または、傾斜角θが20°より大きい場合は、鉄骨柱H形鋼が降伏する曲げモーメントよりも小さな曲げモーメントでオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが外れる結果となった。
テーパー状の傾斜角θと嵌合容易性の関係は、傾斜角θが大きい程、嵌合時のクリアランスが大きくなり、オス型挿込金具2aとメス型受金具1aの嵌合が容易になるが、傾斜角θが2.5°以上の場合、嵌合をスムーズに行うことができ、2.5°未満の場合は嵌合が著しく困難であった。
材軸方向の差込長さLを長くすると当然ながら使用鉄骨量が多くなり、製造コストが高くなる。差込長さLを鉄骨柱強軸幅H対して2倍よりも長くすると、本発明の接合部を制作するための鉄骨量が、従来のボルト接合の場合に必要な鉄骨量の5倍を超えるため、コストの合理性に欠けるといえる。
以上の実施の結果をまとめたものが図8に示す図である。テーパー状の傾斜角θ及びオス型挿込金具2aとメス型受金具1aが接触する鉄骨柱の軸方向の差込長さLの鉄骨柱の強軸幅Hに対する倍率は、荷重伝達性、施工性、コストを考慮するとXの範囲に絞るとよい。
【0029】
本発明を実施する場合、前記実施形態では、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aにおける対向する2面について、傾斜面としたが、他の対向する2面(メス型受金具1aあるいはオス型挿込金具2aについて)についても、傾斜させるようにして、メス型受金具1aおよびオス型挿込金具2aの周側部の4面を傾斜面としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1a メス型受金具
2a オス型挿込金具
1b メス型受金具に接合するH形鋼鉄骨柱部材
2b メス型受金具に接合する角形鋼管鉄骨柱部材
1c オス型挿込金具に接合するH形鋼鉄骨柱部材
2c オス型挿込金具に接合する角形鋼管鉄骨柱部材
b パンザーマストにおける長尺柱を構成する鋼管柱部材
L1 メス型受金具の材軸方向長さ
L2 オス型挿込金具の材軸方向長さ
B1 メス型受金具の材軸直角方向幅
B2 オス型挿込金具の材軸直角方向幅
θ 傾斜部角度
H 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱の強軸幅
B 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱の弱軸幅
tf 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱のフランジ厚
tw 実施試験におけるH形鋼鉄骨柱のウェブ厚
L 実施試験における嵌合接合部差込長さ
1 メス型受金具の傾斜板
2 メス型受金具の傾斜板
3 メス型受金具の側面板
4 メス型受金具の側面板
5 メス型受金具の鉄骨柱部材側板
6 メス型受金具におけるオス型挿込金具挿入口
7 オス型挿込金具の傾斜板
8 オス型挿込金具の傾斜板
9 オス型挿込金具の傾斜板
10 オス型挿込金具のウェブ部板
11 オス型挿込金具における鉄骨柱部材側の面板
12 オス型挿込金具リブ補強材
13 オス型挿込金具の先端板
14 オス型挿込金具における鉄骨柱部材側の面板
15 オス型挿込金具のリブ補強材
16 オス型挿込金具の先端板
17 実施試験におけるH形鋼柱部材
18 実施試験における本発明の接合部
19 実施試験における試験体の支点
20 ボルト接合における添板
21 ボルト接合におけるボルト
22 門形フレームにおける鉄骨柱
23 梁
24 鉄骨柱
25 基礎
26 門型フレーム
27 フランジ
28 ウェブ
29 テーパー状の凹部
30 テーパー状の凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する鉄骨柱の接合部において、
前記メス型受金具には、その先端に向かって漸次幅が広くなるテーパー状の凹部を有し、前記オス型挿込金具には、その先端に向かって漸次幅が狭くなるテーパー状の凸部を有することを特徴とした鉄骨柱の接合部。
【請求項2】
前記メス型受金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角と、オス型挿込金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角が同じ傾斜角であり、かつその傾斜角度が2.5°以上、20°以下であり、
オス型挿込金具とメス型受金具が接触する鉄骨柱の軸方向の長さが、鉄骨柱の幅の2/3倍以上、2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨柱の接合部。
【請求項3】
前記メス型受金具のテーパー部表面、または、オス型挿込金具のテーパー部表面は、粗面とする表面処理を施したことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄骨柱の接合部。
【請求項1】
メス型受金具とオス型挿込金具を嵌合する鉄骨柱の接合部において、
前記メス型受金具には、その先端に向かって漸次幅が広くなるテーパー状の凹部を有し、前記オス型挿込金具には、その先端に向かって漸次幅が狭くなるテーパー状の凸部を有することを特徴とした鉄骨柱の接合部。
【請求項2】
前記メス型受金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角と、オス型挿込金具のテーパー状部の柱軸線に対する傾斜角が同じ傾斜角であり、かつその傾斜角度が2.5°以上、20°以下であり、
オス型挿込金具とメス型受金具が接触する鉄骨柱の軸方向の長さが、鉄骨柱の幅の2/3倍以上、2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨柱の接合部。
【請求項3】
前記メス型受金具のテーパー部表面、または、オス型挿込金具のテーパー部表面は、粗面とする表面処理を施したことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄骨柱の接合部。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−281055(P2010−281055A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133441(P2009−133441)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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