説明

工作物表面位置変動測定方法および研削盤

【課題】研削盤の機上で、工作物系の固有振動数と工作物の形状精度を短時間に測定できる簡便な方法を提供する
【解決手段】砥石車7を回転した状態で、研削液ノズル12から研削液を供給し工作物Wと砥石車7を接近させると動圧力を発生する。この動圧力は砥石車7と工作物Wの隙間の変動に応じて変動し、砥石車7と砥石台3を介して砥石台送り8の駆動モータに伝わる。駆動モータには作用した力に対する抵抗力を発生するために駆動電流が流れる、その電流値を動圧力に換算し、動圧力の大きさと隙間の関係から所定の計算をすることで工作物表面位置の変動を測定する。工作物表面位置の変動の周期を測定することで工作物支持系の固有振動数と工作物Wの外径形状を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の研削特性の測定に関するものであり、詳しくは工作物と砥石車の間のクーラント液に発生する動圧力を用いて、固有振動数や形状精度を測定する工作物表面位置変動測定方法および研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削盤においては、工作物を高精度かつ高能率に研削することを目的として、工作物支持系と砥石車支持系の固有振動数を把握して、共振を避けたり工作物加工面のビビリが小さくなるような砥石車と工作物の回転速度を選択することが実施されている。そのためには、固有振動数の測定や、工作物加工面の形状測定が必要である。
固有振動数を把握する手段として振動ピックアップを加工装置に取り付けて振動を測定する従来技術1(例えば、特許文献1参照)や、研削された工作物表面の形状測定データを周波数分析して固有振動数を測定する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
また、砥石台に測定装置を設けて機上で工作物の形状測定をする従来技術3(例えば、特許文献3参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−138499号公報
【特許文献2】特開2001−179620号公報
【特許文献3】特開平6−91489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、振動ピックアップを加工装置に取り付けて振動を測定するため、特別な測定装置を必要とし、工作物自身の振動を測定するには振動ピックアップを工作物に取り付けなければならず、測定に時間を要する。また、工作物の形状測定はできない。
従来技術2では、振動ピックアップを工作物に取り付ける必要はないが、形状測定や周波数分析に特別な装置を必要とし、高価で測定に時間を要する。
従来技術3では、機上で工作物の加工直後に形状計測できるが、特別な装置を必要とし、高価となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、短時間に機上で工作物系の固有振動数と工作物の形状精度を測定できる簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段を移動させる工作物移動手段と、前記砥石車支持手段を移動させる砥石車移動手段と、研削作用点に研削液を供給する研削液供給手段と、所定の研削プログラムに基づき研削制御を行う制御手段とを備えた研削盤を用いた研削方法において、
前記砥石車の回転中に、前記工作物と前記砥石車の間の前記研削作用点の前記研削液に発生する動圧力を測定する動圧力測定工程と、
測定された前記動圧力の変動である動圧力変動に基づき工作物表面の位置変動を演算する工作物表面位置変動演算工程を備えたことである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記動圧力測定工程を前記砥石車移動手段の駆動モータの負荷変動を検出する工程で構成することである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、工作物の回転を停止して前記動圧力変動を測定し、その振幅が最大の周波数を工作物支持系の固有振動数とみなすことである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、工作物1回転中の動圧変動の関数として工作物外周の半径変動を算出して、工作物外径形状測定をすることである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、
砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段を移動させる工作物移動手段と、
前記砥石車支持手段を移動させる砥石車移動手段と、
研削作用点に研削液を供給する研削液供給手段と、
前記砥石車の回転中に前記工作物と前記砥石車の間の前記研削作用点の前記研削液に発生する動圧力を、前記砥石車移動手段の駆動モータの負荷を検出して測定する動圧力測定手段と、
測定された前記動圧力の変動である動圧力変動に基づき工作物表面位置の変動を演算する工作物表面位置変動演算手段を備えたことである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1と請求項2に係る発明によれば、砥石車と工作物の隙間の変動により変化する動圧力を砥石車移動手段の駆動モータの負荷変動を検出することで測定できる。この負荷変動の測定値から工作物表面位置変動演算工程により工作物の表面位置の変動を測定できる。負荷変動検出は砥石車移動手段の具備している基本機能であり、工作物表面位置変動演算は制御手段に演算用プログラムを付加することにより特別な装置を付加することなく、工作物表面位置の変動測定を低コストに機上で実現できる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、工作物自身を含めた工作物系の固有振動数を特別な装置を付加することなく、低コストで短時間に測定できる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、工作物の表面の凹凸を特別な装置を付加することなく、低コストで短時間に測定できる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、工作物自身を含めた工作物系の固有振動数と工作物の表面の凹凸を、特別な装置を付加することなく、低コストで短時間に測定できる研削盤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のA断面矢視図である。
【図3】本実施形態の動圧発生状態を示す概念図である。
【図4】本実施形態の動圧力と隙間量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を円筒研削盤の実施例に基づき、図1〜図4を参照しつつ説明する。
図1、図2に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上に砥石台送り8によりX軸方向に往復可能に支持された砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石7を回転自在に支持し、砥石車7は砥石軸回転モータ(図示省略する)により回転駆動される。砥石台3の側面に砥石車7を覆うように砥石ガード13が取り付けられている。砥石ガード13の前面に研削液ノズル12が設置されている。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。 ツルーイングモータ11により回転駆動されるツルーイングロール9を回転自在に支持したツルーイング装置10が、主軸5に付設されている。
【0017】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工やツルーイングを実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、ツルーイング装置10を制御するツルーイング制御手段33、主軸5の回転を制御する主軸制御手段34、砥石7の回転を制御する砥石軸制御手段35、動圧力変動値から工作物表面位置変動値や変動周期を算出する演算手段36などを具備している。
【0018】
本研削盤1における動圧の測定方法を以下に説明する。
砥石車7を回転した状態で、研削液ノズル12から研削液20を供給しつつ砥石台3を所定の位置まで前進させて、工作物Wに砥石車7を接近させる。研削液20は砥石車7に連れ回りながら砥石車7と工作物Wの隙間を通りベッド2上に落下する。このときに、研削液20は楔状の狭い隙間を高速で通過することにより、図3の砥石車7から工作物Wに向かう矢印で示すような動圧を発生する。動圧と動圧の作用する面積の積である動圧力と隙間量の関係は図4に示すように、砥石車7と工作物Wの隙間が広いほど動圧力が小さくなる。動圧力は砥石車7の回転速度が速いほど、砥石車7と工作物Wの接触部の幅が大きいほど、また研削液の供給量が多いほど大きくなる。
動圧力の発生により、砥石車7と工作物Wには反対方向の力が作用する。この力は砥石車7と砥石台3を介して、砥石台送り8の駆動モータに伝わる。作用した力に対する抵抗力を発生するために駆動モータの駆動電流が大きくなる、この駆動電流の増大値を検出し、所定の計算をすることで動圧力の大きさを測定できる。
【0019】
工作物支持系の固有振動数の測定は以下のように行う。
工作物Wの回転を停止した状態で、研削液20を供給しつつ砥石台3を動圧力が検出できる位置まで前進させる、次に砥石台3を砥石車7が工作物Wに接触しない位置まで急速に前進後急速に元の位置まで後退させる。この急速な前後進により工作物に衝撃力が負荷され、工作物支持系は系の固有振動数で自由振動を始める。この振動に伴う隙間の変動に起因する動圧力変動の周期を測定することで工作物支持系の固有振動数を測定する。具体的には、砥石台送り8の駆動モータに流れる駆動電流を検出し、検出された電流値変動データをFFT解析し、最大の振幅となる周波数を工作物支持系の固有振動数とする。
上記実施例では工作物Wの回転を停止したが、工作物Wの表面の凹凸が小さな場合は工作物Wを回転させた状態で固有振動数の測定をしてもよい。
ここで、砥石車の表面位置が変動すると工作物の表面位置が一定でも動圧力の変動が発生し、工作物の振動を正確に測定できなくなる。これを防止するためには、砥石車7のツルーイング位置を工作物Wの接触位置と同位相とすることで、工作物Wの接触位置における砥石車7の表面位置を一定とすることが有効である。
【0020】
工作物Wの表面の凹凸の測定は以下のように行う。
工作物Wの測定個所が砥石車7と対向する位置にテーブル4を移動させる。工作物Wの回転を停止した状態で、研削液を供給しつつ砥石台3を動圧力が検出できる位置まで前進させる。主軸5により工作物Wを1回転させながら、回転中心からの工作物表面位置の変動に起因する動圧力変動を主軸5の回転位相と共に記録する。動圧力変動値をΔP、変換係数をK、工作物Wの表面の凹凸をSとすると、S=K・ΔPにより動圧力変動値を工作物Wの表面の凹凸に換算する。変換係数Kは所定の砥石車7の回転速度、所定の砥石車7と工作物Wの接触部の幅、所定の研削液の供給量で実験してあらかじめ求めておいた値を用いる。
【0021】
<本実施形態の変形態様>
動圧力の測定を砥石軸に加わる力を測定することで実施してもよい。
動圧力の測定を工作物に加わる力を測定することで実施してもよい、この場合は、主軸に加わる力と心押し台に加わる力の和を動圧力とする。
【符号の説明】
【0022】
W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:心押し台 7:砥石車 8:砥石台送り 9:ツルーイングロール 10:ツルーイング装置 11:ツルーイングモータ 30:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段を移動させる工作物移動手段と、前記砥石車支持手段を移動させる砥石車移動手段と、研削作用点に研削液を供給する研削液供給手段と、所定の研削プログラムに基づき研削制御を行う制御手段とを備えた研削盤を用いた研削方法において、
前記砥石車の回転中に、前記工作物と前記砥石車の間の前記研削作用点の前記研削液に発生する動圧力を測定する動圧力測定工程と、
測定された前記動圧力の変動である動圧力変動に基づき工作物表面の位置変動を演算する工作物表面位置変動演算工程をそなえた工作物表面位置変動測定方法。
【請求項2】
前記動圧測定工程を前記砥石車移動手段の駆動モータの負荷変動を検出する工程で構成する、請求項1に記載の工作物表面位置変動測定方法。
【請求項3】
工作物の回転を停止して、前記動圧力変動を測定し、その振幅が最大の周波数を工作物支持系の固有振動数とみなす、請求項1または請求項2に記載の工作物表面位置変動測定方法。
【請求項4】
工作物1回転中の動圧力変動の関数として工作物外周の半径変動を算出して、工作物外径形状測定をする、請求項1または請求項2に記載の工作物表面位置変動測定方法。
【請求項5】
円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、
砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段を移動させる工作物移動手段と、
前記砥石車支持手段を移動させる砥石車移動手段と、
研削作用点に研削液を供給する研削液供給手段と、
前記砥石車の回転中に前記工作物と前記砥石車の間の前記研削作用点の前記研削液に発生する動圧力を、前記砥石車移動手段の駆動モータの負荷を検出して測定する動圧力測定手段と、
測定された前記動圧力の変動である動圧力変動に基づき工作物表面位置の変動を演算する工作物表面位置変動演算手段を備えた研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30319(P2012−30319A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171760(P2010−171760)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】