説明

工業用ロール及びその製造方法

【課題】 ロール表面を被覆する樹脂カバー内に、前記ロールの作動パラメータを検出可能なセンサやその導線を損傷せずに埋設可能な工業用ロールおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 工業用ロール20は、外側表面及び内部空間を有する実質的に円筒形のシェルと、該シェルの外側表面を被覆する樹脂カバー24と、検知システム26とを含んでいる。該検知システムは、前記樹脂カバーに埋設された複数のセンサ30と、該複数のセンサに動作可能に関連付けられていて、該複数のセンサにより発生された信号を処理するプロセッサ32とを備えており、前記複数のセンサは、前記工業用ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されていると共に、該複数のセンサの少なくとも一部は開口を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総括的には工業用ロールに関し、特に、製紙用ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒形ロールは、多くの工業用途、特に製紙に関係する用途に用いられている。このようなロールは、過酷な環境において用いられるのが一般的であり、該環境において、高い動荷重及び高い温度や、侵襲性又は腐食性の化学薬品にさらされる可能性がある。一例として、典型的な製紙工場において、ロールは、繊維質の紙匹を処理ステーション間に搬送するだけでなく、プレス部及びカレンダーロールの場合、紙匹自体を処理して紙にするためにも使用されている。
【0003】
抄紙機は、帯状体(例えばプレスフェルト)及び/又は紙匹から水分を引き出すために、該抄紙機内の種々の位置に置かれた1つ以上の吸引ロールを含むことができる。各吸引ロールは、樹脂カバーで覆われた金属製シェルから構成され、半径方向に貫通する複数の穴を有するのが典型的である。吸引圧力は、吸引ロールシェルの内部に配置されたサクションボックスにより発生する。水は、吸引されて半径方向の穴に入り、該穴が移動して吸引ゾーンを通過した後には、遠心力で穴から放出されるか、或いは適当な流体導管又は配管を介して吸引ロールシェルの内部から排出される。穴は、多数の列設された穴を一度に形成する多重ビットドリル(例えば、ドリルは一度に50個の列設された穴を形成しうる)により格子状パターンに形成されるのが一般的である。大抵の格子状パターンにおいて、穴は、該穴の列及び行がロールの長手方向軸心に対して斜めの角度であるように配列されている。
【0004】
紙匹が抄紙機を通り搬送されるときに、該紙匹が経過する圧力分布を理解することが非常に重要である。圧力の変化は、紙匹から排出される水の量に影響を与える可能性があり、これは最終的な紙匹湿分含有量、厚さ及びその他の特性に影響を及ぼす可能性がある。従って、吸引ロールにより加えられる圧力の大きさは、抄紙機により製造される紙の品質に影響を与えることになる。
【0005】
吸引ロールの他の特性もまた重要である。例えば、ロールカバーが受けるマシン横断方向の応力及び歪みは、該ロールカバーの耐久性及び寸法安定性についての情報を提供することができる。また、ロールの温度分布は、カバーの潜在的問題領域の同定を容易にすることができる。
【0006】
工業用ロールのカバー内に圧力及び/又は温度センサを入れることは既知である。例えば、モシェル(Moschel)他の特許文献1に記載されているらせん配列の繊維を有するロールは、該ロールの樹脂カバーに埋設された複数の圧力センサを含んでいる。しかしながら、上述した形式の吸引ロールは、従来のロールにない技術的な問題を提起している。例えば、吸引ロールの穴のパターンは、これら穴のいくつかが圧力センサの一部の上に重なるような十分な密度を有して設計されるのが一般的である。従来、センサ及びそれに付随する信号搬送体(例えば、ファイバー又はケーブル)は、樹脂カバーの施工前に金属シェルに取り付けられ、吸引穴は樹脂カバーの施工及び硬化後に穿孔されている。従って、従来の方法で樹脂カバーに穴を穿設する場合、相当の確率でセンサを損傷させ、信号搬送体を損傷させる可能性がある。また、樹脂カバーの硬化中に、樹脂材料がコアもしくはシェル上で僅かにずれることがあり、それに伴い信号搬送体やセンサの位置がずれる可能性がある。従って、樹脂カバーの下の信号搬送体及びセンサの位置を正確に設定することが常に可能であるとは限らず、また、コアもしくはシェルの位置ずれによりセンサや信号搬送体が穴の直下に移動する可能性がある。更に、通常、光ファイバは適切な特性を維持するために許容される最小曲げ半径が比較的大きい。従って、信号搬送体として光ファイバが採用される場合に、光ファイバを樹脂カバーの穴と穴との間に組み入れようとすれば、光ファイバ内の光の透過を困難にする結果を招くかも知れない。
【0007】
吸引ロールにおけるセンサの使用についての解決策の1つは特許文献2に記載されており、これは、信号搬送体が吸引ロールの穿孔パターンの傾斜角度に沿った通路をトレースすることを提案している。この構造は、排水穴の穿孔中における搬送体に対する損傷を回避しつつ、外層カバーの施工前にロールカバーの基層に信号搬送体を設けることを可能にしている。しかしながら、幾つかの実例においてはセンサが相当に大きいので、該センサを排水穴間のスペース内に収められない可能性がある。このような場合、カバーにある穴パターンを維持するために、センサ上では貫通穴の代わりに盲穴を形成することがある。しかしながら、この解決策は全てのロールカバーについて必ずしも最適ではない。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,699,729号公報
【特許文献2】米国特許公開2004−0053758号公報
【発明の開示】
【0009】
本発明は、先行技術の吸引ロールにより提起された種々の課題の幾つかに対処することができる。本発明は、第1の形態として、外側表面及び内部空間を有する実質的に円筒形のシェルと、該シェルの前記外側表面を円周方向に被覆する樹脂カバーと、検知システムとを備える工業用ロールに向けられている。該検知システムは、前記樹脂カバーに埋設された複数のセンサと、該複数のセンサに動作可能に関連付けられ該複数のセンサにより発生された信号を処理するプロセッサとを備えており、前記複数のセンサは、前記工業用ロールの作動パラメータを検知して、該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されていると共に、該複数のセンサの少なくとも一部は開口を含んでいる。
【0010】
幾つかの実施形態において、前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と大気との間に流体連通をもたらす複数の貫通穴を含んでいる。更なる実施形態において、前記センサは、前記樹脂カバーにある前記貫通穴が前記センサの開口に広がるように位置決めされている。他の実施形態において、前記開口は内部開口である。別の実施形態において、前記センサは圧電式センサである。
【0011】
第2の形態として、本発明は、外側表面及び内部空間を有する実質的に円筒形のシェルと、該シェルの前記外側表面上に円周方向に覆い被さる樹脂カバーと、検知システムとを備えており、前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と大気との間に流体連通をもたらす複数の貫通穴を有している、工業用ロールに向けられている。前記検知システムは、前記樹脂カバーに接触すると共に、前記工業用ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されている複数のセンサと、該複数のセンサに動作可能に関連付けられていて、該複数のセンサにより発生された信号を処理するプロセッサとを備えており、前記複数のセンサの少なくとも一部は開口を含んでおり、前記樹脂カバーの前記複数の貫通穴の一部は前記複数のセンサのそれぞれの開口に広がっている。
【0012】
第3の形態として、本発明は、外側表面及び内部空間を有する実質的に円筒形のシェルと、該シェルの前記外側表面上に円周方向に覆い被さる樹脂カバーと、検知システムとを備えており、前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と大気との間に流体連通をもたらす複数の貫通穴を有している、工業用ロールに向けられている。前記検知システムは、前記樹脂カバーに埋設されると共に、前記工業用ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されている複数の圧電式センサと、該複数の圧電式センサに動作可能に関連付けられていて、該複数の圧電式センサにより発生された信号を処理するプロセッサとを備えており、前記複数の圧電式センサの少なくとも一部は内部開口を含んでおり、前記樹脂カバーの前記複数の貫通穴の一部は前記複数の圧電式センサのそれぞれの内部開口に広がっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は例示した実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態は、当業者に対して本発明を十分に且つ完全に開示することを意図している。各図面において、同様の符号は全体にわたり同様の要素に言及している。幾つかの構成要素の図面上における厚さ及び寸法は明瞭にするため誇張されることがある。
【0014】
ここで使用されている全ての技術的及び科学的な用語は、特別に定義されていない限り、本発明が属する技術について通常の知識を有する者により普通に理解されるのと同じ意味を有している。ここで本発明の説明に使用されている専門用語は、特定の実施形態についてのみ説明するためではなく、また、本発明を限定することを意味しているものでもない。本発明の説明及び添付特許請求の範囲で使用されている、個数について限定していない用語は、文脈が明らかに別のことを示していない限り、単数及び複数の個数を含むと考えられる。ここで使用されている用語「及び/又は」は、1つ以上の関連した記載項目の組合せのいずれか1つ又は全てを含んでいる。また、ここで使用されている用語「取付け」、「接続」、「相互接続」、「接触」、「組合せ」、「装着」等は、別段の記載がなければ、要素間の直接的又は間接的な取付け又は接触を意味すると考えられる。
【0015】
図面を参照すると、総括的に符号20で表わされた吸引ロールが図1に例示されている。この吸引ロール20は、中空の円筒形シェルもしくはコア22(図2参照)と、該シェル22を囲むカバー24(一種以上の樹脂材料から形成されるのが典型的である)とを含んでいる。圧力、温度、湿度、又はその他重要な作動パラメータを検知するための検知システム26は、1対の導線28a,28bと複数のセンサ30とを含んでおり、それらの各々はカバー24内に埋設されている。ここで使用する、センサがカバー内に「埋設」されているとは、センサがカバー内に完全に入っているか、或いはそれがシェルに設けられていると共にカバーにより完全に覆われていることを意味している。検知システム26は、センサ30により発生された信号を処理する処理ユニット、即ちプロセッサ32も含んでいる。
【0016】
シェル22は、ステンレス鋼又は青銅のような耐食性金属材料から形成されるのが一般的である。サクションボックス(図示せず)は、シェル22及びカバー24にある穴を介して負の圧力(即ち、吸引)を付加するために、シェル22の内部空間内に配置されるのが典型的である。一般に、シェル22は、後にカバー24にある貫通穴82に一致される貫通穴を既に含んでいる。典型的なシェル及びサクションボックスの組合せはハッツンネン(Huttunen)に対する米国特許第6,358,370号公報に例示されかつ記載されており、その開示内容全体はここに組み込まれる。
【0017】
カバー24は、任意の形を取ることができると共に、当業者が吸引ロールで使用するのに適すると認める任意の樹脂及び/又は弾性材料から形成することができる。典型的な材料には、天然ゴムや、ネオプレン、スチレンブタジェン(SBR)、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(即ち「CSPE」、商品名「HYPALON」としても知られている)、EDPM(エチレン・プロピレンジエンモノマから形成されるエチレン―プロピレンターポリマーに与えられる名称である)、エポキシ、及びポリウレタンのような合成ゴムがある。多くの場合、カバー24は多層から構成される。図2、図7A及び図7Bは、内側基層42a,外側基層42b及び表面原料層70の施工を例示している。内側基層42a,外側基層42b及び表面原料層70の間の介在層、並びにシェル22及び内側基層42aの間の接着層のような追加の層が含まれていてもよい。カバー24はまた、補強・充填剤及び添加剤等も含んでいてよい。例示的な追加材料は、スティーヴンズ(Stephens)に対する米国特許第6,328,681号公報、ジョーンズ(Jones)に対する米国特許第6,375,602号公報及び米国特許公開2004−0053758号に記載されており、それらの各々の開示内容全体はここに組み込まれる。
【0018】
カバー24は、吸引ロールで慣用的に用いられている穴パターンのどれでもよく、製紙用フェルト及び/又は紙匹がロール20の上を走行するとき、それに吸引力を作用させるのに適すると認められる穴パターン(貫通穴82を含むと共に、盲穴も含んでいてよい)を有する。代表的には、これらの穴は、直径が約1.524〜6.35mm(約0.060〜0.250インチ)であると共に、互いに約1.524〜9.525mm(約0.060〜0.375インチ)離間している。1つの例示的な穴パターンの基本繰返しユニット86が図6に示されている。この繰返しユニット86は、パターンの高さ即ち周方向広がり(この寸法は代表値で約12.7〜38.1mm(約0.5〜1.5インチ)である)を表わすフレーム88と、パターンの幅即ち軸方向広がり(この寸法は代表値で約25.4〜76.2mm(約1.0〜3.0インチ)である)を表わすドリル間隔90とにより規定することができる。従来のように、穴82の列は、ロール20の長手方向軸心に垂直な面に対して傾斜角θ(代表的には約5〜20度である)を規定している。
【0019】
次に図5及び図6を参照すると、センサ30は、対象となっている作動パラメータ(例えば、応力、歪み、圧力又は温度)を検出するのに適当であるとこの技術に習熟した者により認められる任意の形態を取ることができる。典型的な圧力センサには、圧電式センサ(特に、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、水晶、合成水晶、トルマリン、オルト燐酸ガリウム、CGG(Ca3Ga2GeO14)、ニオブ酸リチウム、リチウムタンタライト、ロッシェル塩、硫酸タリウム−水和物のような圧電セラミックから形成される圧電式センサ)、力抵抗センサ(force-resistive sensor)、薄膜センサ(membrane sensor)等がある。特に、各センサ30は、カバー24にある関連の穴82よりも大きく作られた内部開口31を含んでいる。該開口31の代表的な寸法は、約2.032〜12.7mm(約0.080〜0.5インチ)である。センサ30の外側寸法は、センサ30が周囲にある貫通穴82のどれにも重ならないように選択されており、センサ30の代表的な寸法は、約31.75〜7.62mm(約0.125〜0.300インチ)である。例示した実施形態において、センサ30は環状であるから、内部開口31は円形である。しかしながら、他の形状のセンサ及び/又は開口もまた適していると考えられる。例えば、センサ30自体は、正方形、矩形、三角形、楕円形、六角形、八角形等とすることができ、開口もこれらの形状のいずれかとすることができる。開口31がセンサ30の内側にある(即ち、開口31が閉じた外周を有する)代わりに、開口31の一部が開放されていてもよく、従って、センサ30はU形もしくはC形でよい。センサ30は、該センサが円周方向に互いにほぼ等間隔であるように、ロール20の周囲に分布している。
【0020】
図5を再び参照すると、検知システム26の導線28a,28bは、吸引ロールにおける電気信号の通過に適すると当業者により認められる任意の信号搬送部材とすることができる。例示した実施形態において、導線28aは、例示したセンサ30の側方縁部に接してその上方を通り、導線28bは、センサ30の正反対の側方縁部に接してその下方を通っている。この配列は他の各センサ30でも採り入れられている。代案として、導線はセンサの同一表面上に配置されてもよい。別の代案として、西暦2004年10月29日に出願された同時係属の米国特許願第10/977,948号明細書「ロールカバー内のワイヤレスセンサ」に記載されたようなワイヤレスシステムを採用してもよい。
【0021】
図1を再び参照すると、プロセッサ32は、典型的にはパーソナルコンピュータ又は類似のデータ変換装置であり、例えば、センサ30と動作可能に連係して該センサ30からの信号を処理し、有効かつ容易に分かる情報とすることができる製紙工場内の個別制御システムである。好ましいのは、RF信号方式のようなワイヤレス通信モードを使用してセンサ30から集めたデータをプロセッサ32に伝達することである。その他の代替形態には、信号がセンサ30からプロセッサ32に伝達されるのを可能にするスリップリングコネクタがある。適当な処理ユニットの例は、ムーア(Moore)に対する米国特許第5,562,027号、グスタフソン(Gustafson)に対する米国特許第6,752,908号及び上述した米国特許願第10/977,948号各明細書において論じられており、それらの開示内容全体はここに組み込まれる。
【0022】
吸引ロール20は、図2〜図9に示された以下に述べる方法で製造することができる。この方法では、先ず、シェル22がカバー24の一部分(例えば内側基層42a)で被覆される。図2から分かるように、内側基層42aは押出ノズル40を用いて施工することができるが、該内側基層42aは、この技術に習熟した者が既知の他の技術により施工してもよい。吸引ロールについて典型的には、内側基層42aはゴム又はエポキシを基剤とした複合材料から形成されている。また、この技術に習熟した者により理解されるように、図3〜図6に例示した以下に記載の諸ステップは内側基層42aに対して行なわれるものとして記載されているが、カバー24の他の内層(例えば、外側基層42b又は連結層)もまた導線28a,28b及びセンサ30に対する下側表面としての機能を果しうる。
【0023】
図3を参照すると、カバー24の内側基層42aは、例えば多重ビットドリル46を使用して、ロール20に最終的に形成される穴82の所望パターンに対応する下穴44(score mark)を設けるか或いは別の手段でマークされる。該下穴44は、穴が最終的に形成される個所を指示するために目視できる深さとすべきであるが、それよりも深くする必要はない。
【0024】
次に図4を参照すると、ここに例示した旋盤52のような切削装置を使用して、一対の連続螺旋溝50a,50bが内側基層42aに形成される。該螺旋溝50a,50bは、約0.254mm(約0.010インチ)の深さで下穴44の間に形成され(螺旋溝はその中に導線28a,28bを保持しておくのに十分な深さとすべきである)、基層42の周りを1回転以上するべきである。一部の実施形態において、螺旋溝50a,50bは、貫通穴82により規定される角度θで形成されると共に、穴の列と列との間に配設される。大抵の実施形態において、角度θは、螺旋溝50a,50bが内側基層42aを複数回囲むように選択されており、例えば、610cm(240インチ)の長さ、91.4cm(36インチ)の直径及び10°の角度θを有するロールの場合、螺旋溝50a,50bは端から端までロール20を12回取り巻いている。
【0025】
次に図5を参照すると、螺旋溝50a,50bが内側基層42aに形成された後、検知システム26の導線28a,28b及びセンサ30が取り付けられる。導線28a,28bは、センサ30を所望部位の直ぐ近くに位置させて、それぞれの螺旋溝50a,50b内に螺旋状に巻き付けられている。導線28a,28bは、螺旋溝50a,50b内に保持され、そのため側方への移動を阻止されている。
【0026】
センサ30を、一旦所定位置に位置決めした後、該センサを該所定位置に付着させることができる。付着は、この技術に習熟した者に既知の任意の技術により行なうことができ、技術の一例は接着結合である。
【0027】
図7A及び図7Bを参照すると、センサ30及び導線28a,28bを一旦位置決めして内側基層42aに取り付けた後、カバー24の残りが施工される。図7Aは、外側基層42bの施工を例示しており、図7Bは、表面原料層70の施工を例示している。これらの層は、いずれも押出ノズル72を使用して施工されるものとして示されている。当業者は、表面原料層70の施工を、かかる施工に適すると認められる任意の技術により行ないうることが分かるであろう。代表的な吸引ロールにおいて、外側基層42bはゴム又はエポキシを基剤とした複合材料から形成され、表面原料層70はゴム又はポリウレタンから形成されている。上述したように、本発明は、基層及び表面原料層のみを含むカバーを有するロールばかりでなく、追加の中間層を備えたカバーを有するロールを含むことを想定している。表面原料層70の施工の後に硬化が続き、その技術は、当業者に既知でありここで詳細に説明する必要はない。
【0028】
図8を参照すると、表面原料層70の硬化後、貫通穴82及び盲穴がカバー24に形成され、その際、貫通穴82が未だシェル22に形成されていない場合にも、同様に形成される。貫通穴82は、当業者に既知のどの技術でも形成することができるが、好ましくは、多重ビットドリル80(代表的なドリルはイタリヤ国ポルデノーネのサフォップ(Safop, Pordenone, Italy)から入手しうるドリルマチィック(DRILLMATIC))を使用して形成される。図6から分かるように、センサ30に関連した貫通穴82の各々は、センサ30にある開口31に広がっている。即ち、かかる貫通穴82の各々は、関連センサ30の開口31に広がる通路を規定している。
【0029】
穴のパターンは、導線28a,28b(及び同様に螺旋溝50a,50b)がたどることができる通路を規定しうるので、一部のロールでは、センサ30の慣行的な配置(即ち、単一螺旋になって、軸方向及び円周方向に等しい間隔で配置される)は可能ではない場合がある。そのため、どの軸方向及び円周方向位置が特定ロールに使用可能であるのか決めなければならない。センサの位置決めに影響を与えうる変数には、ロールの大きさ(長さ、直径及び/又は周囲長)、及び穴のパターンにより規定される角度θがある。特に、これら変数間の関係は、上述した米国特許公報第20040053758号において論じられている態様で記載されることができ、その開示内容全体はここに組み込まれる。
【0030】
上述したセンサの実施形態は吸引ロールにより提示される問題点の幾つかに対処しうることが分かる。貫通穴が貫いて延びることができる開口をセンサに含めることにより、本発明のロールは、吸引ロールの穴パターンとの干渉を避けることができると共に、センサ上の位置を盲穴とする必要がない。
【0031】
上述したことは、本発明を例証するものであって、本発明を限定する意味にとられるべきではない。本発明の例示的実施形態について記載してきたが、当業者には即座に明らかであるように、本発明の新規な教示事項及び利点から著しく逸脱することなく、該例示的実施形態において多くの改変が可能である。従って、かかる改変の全ては特許請求の範囲に規定された本発明の範囲内に含まれるものと考えられる。本発明は、添付の特許請求の範囲により規定されており、同特許請求の範囲と同等のことはそこに含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の吸引ロール及び検知システムの位置関係図である。
【図2】図1の吸引ロールの製造に際して形成されるシェル及び内側基層の位置関係斜視図である。
【図3】ドリルで刻み目が付けられつつある図2のシェル及び内側基層の位置関係斜視図である。
【図4】図3の内側基層に旋盤を使用して形成されつつある螺旋溝の位置関係斜視図である。
【図5】図1のロール用のセンサと取り付けられたケーブルの大きく拡大した位置関係図である。
【図6】図4に示したようにカバー基層に形成された螺旋溝内に位置決めされた図5のケーブル及びセンサの大きく拡大した位置関係図であって、センサは、図3に示した刻み入れ手順で形成された刻み円の1つを包囲するよう位置決めされている。
【図7A】図5及び図6の内側基層、ケーブル及びセンサ上に施工されつつある外側基層の位置関係斜視図である。
【図7B】図7Aの外側基層上に施工されつつある表面原料層の位置関係斜視図である。
【図8】図7Bの表面原料層とドリルで穿孔されつつある図3及び図7Aのシェル並びに内側及び外側基層の位置関係斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
20 吸引ロール(工業用ロール)
22 シェル
24 カバー
26 検知システム
28a 導線
28b 導線
30 センサ
31 内部開口
32 プロセッサ
42a 内側基層
42b 外側基層
70 表面材料層
82 貫通穴
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側表面及び内部空間を有する円筒形のシェルと、
前記シェルの前記外側表面を周方向に被覆する樹脂カバーと、
検知システムと、を備えた工業用ロールであって、
前記検知システムは、前記樹脂カバーに埋設された複数のセンサと、前記複数のセンサに動作可能に関連付けられ、前記複数のセンサにより発生された信号を処理するプロセッサとを備えており、
前記複数のセンサは、前記ロールの作動パラメータを検知して、該作動パラメータに関連した信号を発生するよう構成され、
前記複数のセンサの少なくとも1つが開口を備えている、工業用ロール。
【請求項2】
前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と外部とを連通させる複数の貫通穴を備えている、請求項1に記載の工業用ロール。
【請求項3】
前記樹脂カバーの前記複数の貫通穴のうち少なくとも1つが、前記センサの開口の位置に配置されている、請求項2に記載の工業用ロール。
【請求項4】
前記開口は、その外周が閉じた内部開口である、請求項3に記載の工業用ロール。
【請求項5】
前記センサは平面形状が円形である、請求項4に記載の工業用ロール。
【請求項6】
前記センサは圧電材料から形成されている、請求項5に記載の工業用ロール。
【請求項7】
前記検知システムは、前記複数のセンサの各々と接続する2本の導線を更に備えている、請求項6に記載の工業用ロール。
【請求項8】
前記2本の導線のうちの一方は、前記複数のセンサの1つの上面に接触しており、他方は、同センサの下面に接触している、請求項7に記載の工業用ロール。
【請求項9】
前記圧電材料は圧電セラミックである、請求項6に記載の工業用ロール。
【請求項10】
前記センサは圧力を検知するように構成されている、請求項1に記載の工業用ロール。
【請求項11】
前記樹脂カバーは、前記シェルの表面を円周方向に被覆する基層と、該基層の表面を円周方向に被覆する表面原料層とを備え、前記複数のセンサは、前記基層に埋設されている、請求項1に記載の工業用ロール。
【請求項12】
前記基層は内側基層と外側基層とを備え、前記複数のセンサは、前記内側基層と前記外側基層との層間に配置されている、請求項11に記載の工業用ロール。
【請求項13】
前記基層はゴム又はエポキシを基剤とした複合材料から形成されている、請求項11に記載の工業用ロール。
【請求項14】
前記表面原料層は、ゴム及びポリウレタンからなるグループから選択された材料で形成されている、請求項11に記載の工業用ロール。
【請求項15】
外側表面及び内部空間を有する円筒形のシェルと、
前記シェルの前記外側表面を周方向に被覆する樹脂カバーと、
検知システムと、を備えた工業用ロールであって、
前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と外部とを連通させる複数の貫通穴を有しており、
前記検知システムは、
前記樹脂カバーに接触すると共に、前記ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されている複数のセンサと、
前記複数のセンサに動作可能に関連付けられ、前記複数のセンサにより発生された信号を処理するプロセッサと、を備えており、
前記複数のセンサのうちのいくつかが開口を備え、前記樹脂カバーの前記複数の貫通穴のうちのいくつかが、前記いくつかのセンサのそれぞれの開口の位置に配置されている、工業用ロール。
【請求項16】
前記複数のセンサは、前記樹脂カバーに埋設されている、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項17】
前記開口は、その外周が閉じた内部開口である、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項18】
前記センサは、平面形状が円形である、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項19】
前記センサは、圧電材料から形成されている、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項20】
前記検知システムは、前記複数のセンサの各々と接続する2本の導線を更に備えている、請求項19に記載の工業用ロール。
【請求項21】
前記2本の導線のうちの一方は、前記複数のセンサの1つの上面に接触しており、他方は、同センサの下面に接触している、請求項20に記載の工業用ロール。
【請求項22】
前記圧電材料は圧電セラミックである、請求項19に記載の工業用ロール。
【請求項23】
前記センサは圧力を検知するように構成されている、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項24】
前記樹脂カバーは、前記シェルの表面を円周方向に被覆する基層と、該基層の表面を円周方向に被覆する表面原料層とを備え、前記複数のセンサは、前記基層に埋設されている、請求項15に記載の工業用ロール。
【請求項25】
前記基層は内側基層と外側基層とを備え、前記複数のセンサは、前記内側基層と前記外側基層との層間に配置されている、請求項24に記載の工業用ロール。
【請求項26】
前記基層はゴム又はエポキシを基剤とした複合材料から形成されている、請求項24に記載の工業用ロール。
【請求項27】
前記表面原料層は、ゴム及びポリウレタンからなるグループから選択された材料で形成されている、請求項24に記載の工業用ロール。
【請求項28】
外側表面及び内部空間を有する円筒形のシェルと、
前記シェルの前記外側表面を周方向に被覆する樹脂カバーと、
検知システムと、を備えた工業用ロールであって、
前記シェル及び前記樹脂カバーは、前記内部空間と外部とを連通させる複数の貫通穴を有しており、
前記検知システムは、
前記樹脂カバーに埋設されると共に、前記工業用ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されている複数の圧電式センサと、
前記複数の圧電式センサに動作可能に関連付けられ、前記複数の圧電式センサにより発生された信号を処理するプロセッサと、を備えており、
前記複数の圧電式センサのいくつかが内部開口を備え、前記樹脂カバーの前記複数の貫通穴のいくつかが前記複数の圧電式センサのそれぞれの内部開口の位置に配置されている、工業用ロール。
【請求項29】
前記圧電式センサは平面形状が円形である、請求項28に記載の工業用ロール。
【請求項30】
前記検知システムは、前記複数のセンサの各々と接続する2本の導線を更に備えている、請求項28に記載の工業用ロール。
【請求項31】
前記2本の導線のうちの一方は、前記複数の圧電式センサの1つの上面に接触しており、他方は、同センサの下面に接触している、請求項30に記載の工業用ロール。
【請求項32】
圧電材料は圧電セラミックである、請求項28に記載の工業用ロール。
【請求項33】
前記樹脂カバーは、前記シェルの表面を円周方向に被覆する基層と、該基層の表面を円周方向に被覆する表面原料層とを備え、前記複数の圧電式センサは、前記基層に埋設されている、請求項28に記載の工業用ロール。
【請求項34】
前記基層は内側基層と外側基層とを備え、前記複数の圧電式センサは、前記内側基層と前記外側基層との層間に配置されている、請求項33に記載の工業用ロール。
【請求項35】
前記基層はゴム又はエポキシを基剤とした複合材料から形成されている、請求項33に記載の工業用ロール。
【請求項36】
前記表面原料層は、ゴム及びポリウレタンからなるグループから選択された材料で形成されている、請求項33に記載の工業用ロール。
【請求項37】
作動パラメータを検出可能な工業用吸引ロールの製造方法であって、
外側表面と内部空間とを有する円筒形をなし、前記内部空間と外部とを連通させる複数の貫通穴を有するシェルを用意するステップと、
前記シェルの前記外側表面を円周方向に被覆する樹脂カバーの基層を施工するステップと、
前記吸引ロールの作動パラメータを検知して該作動パラメータに関係した信号を発生するよう構成されている複数のセンサを前記基層に埋設するステップと、
前記基層を円周方向に被覆する前記樹脂カバーの表面原料層を施工するステップと、
前記シェルの前記内部空間が外部と連通するように、前記樹脂カバーに、前記シェルの前記貫通穴と連通する貫通穴を形成するステップとを含み、
前記樹脂カバーの前記貫通穴の少なくともいくつかは、前記センサのそれぞれの開口の位置に配置されている、方法。
【請求項38】
前記基層を施工するステップは、前記シェルの上に内側基層を付着するステップと、前記内側基層の上に外側基層を付着するステップとをさらに含み、前記センサを埋設するステップは、前記外側基層の付着前に前記内側基層に前記センサを取り付けるステップである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記センサは圧電式センサである、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記センサの前記開口は、その外周が閉じた内部開口である、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−312808(P2006−312808A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128333(P2006−128333)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(506152933)ストウ・ウッドワード,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (3)
【Fターム(参考)】