説明

工程剥離紙

【課題】異物検出能に優れる工程剥離紙を提供する。
【解決手段】表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間に印刷層が形成されることを特徴とする。いずれかの層が着色層であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程剥離紙にボンディングシートを積層した場合に、ボンディングシートに含まれる粉塵と工程剥離紙に含まれる粉塵との差異が容易に識別できる工程剥離紙に関し、より詳細には、工程剥離紙のいずれかの層と層との間に着色した印刷層を形成したものであり、粉塵の識別が容易であると共に、工程剥離紙の表裏も一目で判断できる、工程剥離紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型化が急速に進んでおり、電子機器に用いられる電子部品の小型化、軽量化の要請が高まっている。これに伴い、電子部品の素材についても、耐熱性、機械的強度、電気的特性等の諸物性が求められ、半導体素子パッケージ方法やそれらを実装する配線板にも、より高密度、高機能、かつ高性能なものが求められるようになっている。このため、例えば、半導体パッケージやCOL(チップオンリード)及びLOC(リードオンチップ)パッッケージやMCM(マルチチップモジュール)等の高密度実装材料、多層FPC(フレキシブルプリント回路)等のプリント配線板材料、さらには航空宇宙材料として、ボンディングシートが多用されている。
【0003】
このような電子部品の製造に使用されるボンディングシートの上に金属箔を積層し、金属箔にフォトレジスト層を形成し、露光、現像、エッチング、剥離などを行い、必要に応じて、これを繰り返して多層構造とし、表面にカバーレイフィルムを積層して製造される。
【0004】
このように使用されるボンディングシートは、薄層のフレキシブル樹脂であり、一般に工程剥離紙上にフレキシブル樹脂を積層して提供される。電子部品を製造する際に、ボンディングシートの工程剥離紙が除去され、フレキシブル樹脂部分が露出され、電子部品の製造に使用される。
【0005】
一般的な工程剥離紙は、紙基材層の少なくとも片面に、接着層を介して剥離層が形成されて構成されるものであり、紙基材を必須に使用するため、その伸縮による工程剥離紙の寸法安定性を確保する必要があり、各種の工夫がなされている。例えば、特許文献1には、木材パルプを主体とした紙基材に、耐水化剤によって耐水化処理されたポリビニルアルコールが塗工または含浸されてなり、110℃で2時間加熱後、23℃で相対湿度50%の条件下に60分放置後の幅方向の伸び率が1.0%以下である、工程剥離紙が開示されている。
【0006】
また、ボンディングシートを用いてフレキシブルプリント回路を製造する方法も公知である。例えば、特許文献2には、多層ボンディングシートを設計する方法であって、より寸法変化率の少ない多層ボンディングシートを設計するために、多層ボンディングシートの各層のそれぞれの線膨張係数と弾性率と厚みから寸法変化率を算出し、多層ボンディングシートと貼り合わせるべき金属箔の算出寸法変化率が一定の範囲に収まるように多層ボンディングシートを設計する方法が開示されている。
【0007】
なお、上記特許文献2に示すように、ボンディングシートに金属箔などを積層してフレキシブル金属積層板が調製されるが、ボンディングシートと同様に使用されるものにカバーレイフィルムがある。カバーレイフィルムは、半田耐熱性、高接着性を有し、フレキシブルプリント回路の表面保護フィルムとして使用されるものであり、例えばポリイミドフィルムの片面に接着剤層を塗布し、この接着剤層の保護のためにセパレータとして工程剥離紙を積層したものである。ボンディングシートと同様に、工程剥離紙を除去した後に接着剤層を露出して使用し、フレキシブルプリント回路のカバー層として、または多層回路の中間絶縁層として使用される。
【特許文献1】特開2007−9348号公報
【特許文献2】特開2006−339661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、ボンディングシートは、工程剥離紙の上にフレキシブル樹脂を積層して調製される。工程剥離紙は使用後に廃棄されるため、安価な紙基材が使用され、通常は、製品として支障がない程度の異物が含まれている。このため、紙基材に剥離層を積層した場合でも、紙基材に含まれる異物が剥離層の表面から目視される場合がある。工程剥離紙は、紙基材をロール状で供給し、これに剥離層を積層して連続的に製造するため、たとえ一部に異物が存在してもその部分を切り取ることは困難である。しかし、紙基材に含まれる異物が、ボンディングシートの品質に与える影響はないため、異物を除去する必要性はない。このため、工程剥離紙は、剥離層の表面から紙基材に含まれる異物が目視できる場合であっても一般にボンディングシートとして使用されている。
【0009】
しかしながら、電子部品を製造する場合には、フレキシブル樹脂層に異物が含まれるか否かの検査が行われる。電子部品などは僅かの異物の混入によって品質が劣化するため、ボンディングシートを構成するフレキシブル樹脂に異物が含まれるのを防止するためである。工程剥離紙に積層したフレキシブル樹脂が透明な場合、外観から異物を目視してもフレキシブル樹脂に含まれる異物か工程剥離紙の紙基材層にある異物かの判断が容易でない。このため、フレキシブル樹脂層に異物がない場合でも、ボンディングシート全体が廃棄の対象と評価される場合があり、有用な資源が無駄に消費される結果となる。また、このような廃棄を回避しようとすれば、品質検査に長時間を要し、効率的な生産の妨げとなる。この問題は、ボンディングシートのみならずカバーレイフィルムでも同様である。しかしながら、従来の工程剥離紙は、寸法安定性や剥離性に関する開発が多く、異物検出に関する開発は全くなされていなかった。
【0010】
また、ボンディングシートは、その両面に金属箔を積層して使用される場合もあり、この際、表面と裏面とで異なる剥離層が積層される場合もある。また、片面のみに金属箔を積層する場合でも、いずれに剥離層が形成されているかの判断が容易であることが好ましく、いずれを使用するかが簡便に判断できれば、生産効率が向上する。
【0011】
このような状況の下、本発明は、ボンディングシートを調製する際に使用する工程剥離紙であって、ボンディングシートに含まれる異物か工程剥離紙にある異物かの判断が容易な、工程剥離紙を提供することを目的とする。
【0012】
また、両面に剥離層が形成される工程剥離紙において、表裏の判断が容易な工程剥離紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、工程剥離紙を詳細に検討した結果、工程剥離紙を構成する紙基材の少なくとも一方に着色層又は印刷層を形成すると、紙基材に含まれる異物を着色層又は印刷層によって被覆することができ、かつボンディングシート用のフレキシブル樹脂に含まれる異物の検出を容易にできること、工程剥離紙の表裏の判断が容易となることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層、または表面および/または裏面の接着層が着色されていることを特徴とする、工程剥離紙を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間、または表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が更に剥離層を積層する工程剥離紙であって、表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層または前記剥離層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間、または表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の工程剥離紙は、使用する紙基材を着色することなく、いずれかの層の間に印刷層を形成することによって物性上問題の無い紙基材層に由来する異物を隠蔽することができ、かつボンディングシートに含まれる異物の検出の判断を容易にすることができるため、高価な着色紙基材原反を使用する必要がなく、安価に工程剥離紙を製造することができる。
【0018】
本発明の工程剥離紙は、いずれかの層を着色することによっても、物性上問題の無い紙基材層に由来する異物を隠蔽し、ボンディングシートに含まれる異物の検出の判断を容易に行うことができ、かつ工程剥離紙の外観が向上する。
【0019】
本発明によれば、印刷層や着色層の形成によって、工程剥離紙の表裏の判断を容易に行うことができ、かつこの工程剥離紙を使用して製造されたボンディングシートの種類も容易に判別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の第一は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層、または表面および/または裏面の接着層が着色されていることを特徴とする、工程剥離紙である。着色によって工程剥離紙の表裏を一目で判断することができ、着色によって紙基材層に含まれる異物の検出を困難とし、工程剥離紙に積層する他の樹脂などに含まれる異物の検出をより明確にすることができる。
【0021】
また、本発明の第二は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間に、または、表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙である。印刷層の色彩によって工程剥離紙の表裏を一目で判断することができ、印刷層の色彩によって紙基材層に含まれる異物の検出を困難とし、工程剥離紙に積層する他の樹脂などに含まれる異物の検出をより明確にすることができる。
【0022】
また、本発明の第三は、表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が更に剥離層を積層する工程剥離紙であって、表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層または前記剥離層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間、または表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙である。熱可塑性樹脂が剥離性を有しない場合でも、剥離層を積層することで、工程剥離紙として使用することができる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
(1)工程剥離紙の構成
本発明の工程剥離紙は、図1に示すように、紙基材層(10)の表面および裏面に接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)とがそれぞれ積層されたものである。熱可塑性樹脂層(30)は、剥離層として機能することができ、少なくとも工程剥離紙の表裏いずれかの熱可塑性樹脂層(30)は、剥離層となる。本発明の工程剥離紙は、その表裏のいずれかに印刷層または着色層を有し、これによって表裏の区別を容易にすることができるものである。図1は、熱可塑性樹脂層(30)が、染料または顔料によって着色された態様を示す。
【0024】
また、図2は、接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)との間に印刷層(40)が形成された態様であり、図3は、紙基材層(10)と接着層(20)との間に印刷層(40)が形成された態様である。いずれも、印刷層(40)は工程剥離紙の表裏で異なる色彩となるように形成されている。なお、熱可塑性樹脂層(30)は、少なくとも工程剥離紙の表裏いずれかが、剥離層となっている。
【0025】
また、熱可塑性樹脂層(30)が剥離性を有しない場合には、更に剥離層(50)を積層してもよい。この態様を図4に示す。図4では、熱可塑性樹脂層(30)に、熱可塑性樹脂からなる剥離層(50)が積層され、接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)との間に印刷層(40)が形成された態様である。
【0026】
本発明では、工程剥離紙の表裏の識別に、表面または裏面のいずれかに着色層を形成し、またはいずれかの層と層との間に印刷層を形成するが、表面と裏面の双方に着色層や印刷層を形成してもよい。いずれの場合であっても、異なる色彩を使用することで表裏の区別を行うことができ、かついずれの面を使用した場合でも、異物を容易に検出することができる。
【0027】
図5に、紙基材層に接着層(20)が積層され、かつ接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)との間に印刷層(40)が形成された本発明の工程剥離紙を示し、剥離層として機能する熱可塑性樹脂層(30)の上にボンディングシート用樹脂(80)が積層された態様を示す。紙基材層(10)に異物(70)が混入される場合でも、その上層に形成された印刷層(40)によって異物(70)を被覆し、ボンディングシート用樹脂(80)からの検出を遮蔽することができる。また、紙基材層(10)の表裏に印刷層(40)を形成した場合でも、印刷層(40)の色彩を変えることで熱可塑性樹脂層(30)を特定することができる。このため、熱可塑性樹脂層(30)の剥離性が異なる場合でも、容易にいずれの面にボンディングシートを形成すればよいかの判別が容易となる。
【0028】
(2)紙基材層
本発明の紙基材は、熱可塑性樹脂層(30)、接着層(20)を積層する工程に耐える強度を有し、かつボンディングシートなどの樹脂の積層に耐える耐熱性、耐薬品性などの性質を有するものを広く使用することができる。
【0029】
例えば、上質紙、クラフト紙、純白ロール、コート紙、アート紙、片艶クラフト紙、グラシン紙などの非塗工紙の他、天然パルプを用いない合成紙なども用いることができる。耐久性、耐熱性に優れる点で天然パルプからなる上質紙、クラフト紙などを使用することが好ましい。
【0030】
本発明において、紙基材層は、秤量30〜100g/m2、好ましくは40〜60g/m2である。また、紙は、中性紙であることが好ましい。硫酸バンドなどを含む酸性紙は熱劣化が発生する場合がある。中性紙であれば、このような熱劣化を防止することができる。
【0031】
また、本発明で使用する紙基材層には、サイズ剤として、中性ロジンやアルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸を使用してもよく、定着剤としてカチオン性のポリアクリルアミドやカチオン性デンプン等を使用してもよい。また、上記理由により硫酸バンドを使用しないことが最も好ましいが、硫酸バンドを使用してpH6〜9の中性領域で抄紙することも可能である。その他、必要に応じて上記のサイズ剤のほか、定着剤の他、製紙用各種填料、歩留向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、結合剤、分散剤、凝集剤、可塑剤、接着剤を適宜含有していてもよい。
【0032】
(3)接着層
本発明の工程剥離紙に使用される接着層としては、ラミネート用接着剤法を好適に使用することができる。ラミネート接着剤としては、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルヘキシルエステル等のホモポリマー、あるいは、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、二トリルゴム、スチレン−ブタジェンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤、その他等の接着剤を用いる。
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよい。
【0033】
また、接着層は、溶融押出し樹脂で構成されてもよい。紙基材層(10)に熱可塑性樹脂層(30)を積層する際に、溶融押出し樹脂によって接着層(20)を形成することができる。このような溶融押し出し樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、メタロセン系触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸、その他等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、その他を用いる事ができる。その際のアンカーコート剤としては、例えば、イソシアネート系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、有機チタン系、その他等のアンカーコーティング剤を用いる事ができる。
【0034】
なお、接着層が溶融押出し樹脂である場合には、接着させる紙基材等の表面に、例えばコロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等、アンカーコート層の形成などの前処理をおこなってもよい。
【0035】
(4)熱可塑性樹脂層
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、工程剥離紙の表面と裏面との双方に形成される。表面と裏面との双方に熱可塑性樹脂を積層することで、工程剥離紙の表面および裏面の積層状態を略同じく、これによって工程剥離紙の湾曲やカールなどの変形を防止することができる。
【0036】
使用する熱可塑性樹脂は、表面と裏面とで同一であってもよいが、異なるものであってもよい。また、少なくともいずれか一方が剥離層として機能することが好ましいが、熱可塑性樹脂層の表裏双方が剥離層として機能してもよい。この場合、剥離の程度などを表裏で異ならせることで、異なるボンディングシートやカバーレイフィルムを製造することができる。なお、熱可塑性樹脂が剥離性を有しない場合には、別個に剥離層を積層すればよい。
【0037】
本発明で使用する熱可塑性樹脂層としては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリメチルペンテン、低密度ポリエチレン、合成紙その他などがある。これらは延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよい。
【0038】
上記樹脂は、表面にマット処理を行うことで剥離性を付与することができる場合がある。たとえば、ポリプロピレンフィルムの表面をマット加工すると、ボンディングシートなどとして使用する樹脂の種類にも依存するが、剥離層として機能する場合がある。
【0039】
また、上記熱可塑性樹脂層が剥離性を有しない場合には、更に最外層に剥離性樹脂をキャスティングまたはコーティングして剥離層を積層してもよい。このような剥離層を構成する樹脂としては、シリコーン系樹脂、アルキッド系樹脂、オレフィン系樹脂、長鎖アルキル基を有するアクリル系樹脂、フッ素樹脂、ゴムその他、従来公知の離形性樹脂を使用することができる。このような樹脂には、添加剤として、触媒、レベリング剤、界面活性剤、染料、分散剤その他等を添加してもよい。また、溶剤としては、トルエン、MEK、酢酸エチル、IPA、ケトン、ヘキサン、ヘプタンを配合してもよい。
【0040】
上記したように、熱可塑性樹脂層は、それ自体によって剥離性を奏する場合と、他の剥離層をキャスティングまたはコーティングによって積層して剥離性を確保する場合とがある。このようなキャスティングやコーティングの方法としては、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、ナイフコーター、リバースコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、バーコート、スプレーコート、スピンコートその他公知の方法が用いられる。
【0041】
本発明では、熱可塑性樹脂層および剥離層の厚さは、9〜50μm、より好ましくは12〜38μmである。
(5)着色層および印刷層
本発明の工程剥離紙では、上記接着層、熱可塑性樹脂層に染料または顔料を配合することで、接着層および/または熱可塑性樹脂層を着色することができ、得られた層を着色層として使用することができる。染料または顔料は、接着層や熱可塑性樹脂層を構成する樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。紙基材層の上層に着色層が形成されることで、紙基材に含まれる異物の検出を困難とし、かつ工程剥離紙に積層されるボンディングシート用樹脂やカバーレイフィルム用樹脂に含まれる異物の検出を容易にすることができる。
【0042】
一方、工程剥離紙の熱可塑性樹脂層と接着層との間、または紙基材層と接着層との間には、印刷層を形成してもよい。紙基材の上層に印刷層が形成されることで、上記着色層の形成と同様に、紙基材に含まれる異物の検出を困難とし、これによって工程剥離紙に積層されるボンディングシート用樹脂やカバーレイフィルム用樹脂に含まれる異物の検出を容易にすることができる。
【0043】
本発明において、印刷層は単色からなることが好ましい。印刷層が2色以上で構成される場合には、柄模様によってボンディングシートを構成する樹脂に含まれる異物を検出することが困難となる場合がある。印刷層の形成によって、紙基材層に含まれる異物が、表面から目視しうることを防止することができるよう、印刷層は不透明であることが好ましい。
【0044】
また、印刷層や着色層の色は、ボンディングシートを構成する樹脂に含まれる異物を識別できるように、色相及び彩度は特定しないが、XYZ表示系(JIS Z 8701)にて明度が50〜100の範囲が望ましい。明度が50を下回ると、ボンディングシートやカバーレイフィルムを構成する樹脂に含まれる異物の検出が困難となる場合がある。より好ましくは、赤、青、黄色の三原色に白色を混ぜた単色であって、クリーム色、水色、ピンク色などを例示することできる。印刷層や着色層の形成によって、ボンディングシートやカバーレイフィルムを構成する樹脂に含まれる異物を容易に検出できると共に、紙基材層に含まれる異物が印刷層によって被覆されるため、工程剥離紙の外観も向上する。
【0045】
印刷層としては、樹脂と溶媒から通常のインキビヒクルの1種ないし2種以上を調製し、これに、必要ならば、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、硬化剤、架橋剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤、その他等の助剤の1種ないし2種以上を任意に添加し、更に、染料・顔料等の着色剤を添加し、溶媒、希釈剤等で充分に混練してインキ組成物を調整して得たインキ組成物を使用することができる。
【0046】
このようなインキビヒクルとしては、公知のもの、例えば、あまに油、きり油、大豆油、炭化水素油、ロジン、ロジンエステル、ロジン変性樹脂、シェラック、アルキッド樹脂、フェノール系樹脂、マレイン酸樹脂、天然樹脂、炭化水素樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリルまたはメタクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ゴム、環化ゴム、その他などの1種または2種以上を併用することができる。インクビヒクルは、版から被印刷物に着色剤を運び、被膜として固着させる働きをする。
【0047】
また、溶剤によってインキの乾燥性が異なる。印刷インキに使用される主な溶剤は、トルエン、MEK、酢酸エチル、IPAであり、速く乾燥させるために沸点の低い溶剤を用いるが、乾燥が速すぎると印刷物がかすれたり、うまく印刷できない場合があり、沸点の高い溶剤を適宜混合することができる。これによって、細かい文字もきれいに印刷できるようになる。着色剤には、溶剤に溶ける染料と、溶剤には溶けない顔料とがあり、グラビアインキでは顔料を使用する。顔料は無機顔料と有機顔料に分けられ、無機顔料としては酸化チタン(白色)、カーボンブラック(黒色)、アルミ粉末(金銀色)などがあり、有機顔料としてはアゾ系のものを好適に使用することができる。
【0048】
上記は、グラビア印刷のほか、凸版印刷、スクリーン印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他等の印刷方式であってもよい。
本発明の工程剥離紙としては、熱可塑性樹脂として延伸ポリプロピレンフィルムを使用し、マット加工した延伸ポリプロピレンフィルムを剥離層として使用して、下記の層構成を例示することができる。
【0049】
(i)マットOPP/印刷層/接着層/紙基材層/接着層/印刷層/OPP
(ii)マットOPP/接着層/印刷層/紙基材層/印刷層/接着層/OPP
(iii)マットOPP/印刷層/接着層/紙基材層/接着層/OPP
(iv)マットOPP/接着層/印刷層/紙基材層/接着層/OPP
(v)マットOPP/接着層/紙基材層/接着層/印刷層/OPP
(vi)マットOPP/接着層/紙基材層/印刷層/接着層/OPP
更に、延伸ポリプロピレンフィルムに剥離剤を塗工して剥離層とすることで、更に下記の層構成を例示することができる。なお、延伸ポリプロピレンフィルムに代えてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用しても、同様の構成とすることができる。
【0050】
(vii)剥離剤/OPP/印刷層/接着層/紙基材層/接着層/印刷層/OPP
(viii)剥離剤/OPP/接着層/印刷層/紙基材層/印刷層/接着層/OPP
(ix)剥離剤/OPP/印刷層/接着層/紙基材層/接着層/OPP
(x)剥離剤/OPP/接着層/印刷層/紙基材層/接着層/OPP
なお、上記(i)〜(ix)において、紙基材層の表面および裏面の双方に印刷層が形成されている場合には、その色彩は表裏の区別が容易な程度に色彩または明度が異なっている。
【0051】
(6)工程剥離紙の製造方法
本発明の工程剥離紙は、接着層や熱可塑性樹脂層に着色する場合には、接着層や熱可塑性樹脂層を構成する樹脂を予め着色して使用することで、定法に従って製造することができる。
【0052】
一方、印刷層を形成する場合には、熱可塑性樹脂層と接着層との間に印刷層を形成する場合には、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂フィルムに印刷層を形成した後に、ラミネート接着剤により、または溶融押出しにより紙基材層を接着し、本発明の工程剥離紙を製造することができる。
【0053】
また、予め紙基材層に印刷層を形成し、ラミネート接着剤により、または溶融押出しにより熱可塑性樹脂層を構成するフィルムを積層して本発明の工程剥離紙を製造することもできる。この際、紙基材層に印刷層を形成する場合に、表裏異なる色彩の印刷層を有する工程剥離紙を製造する場合には、予め、紙基材の両面に異なる色彩の印刷層を形成すればよい。その後、ドライラミネート法または溶融押し出しラミネート法にて熱可塑性樹脂層を積層する。
【0054】
(7)ボンディングシート用工程剥離紙
本発明の工程剥離紙は、上記したように、ボンディングシートやカバーレイフィルム製造用の工程剥離紙として有用に使用することができる。
【0055】
ボンディングシートやカバーレイフィルムを使用して携帯電話の本体とディスプレイとのヒンジ部に配置されるケーブルを製造する場合は、ボンディングシートにケーブル用の金属箔を積層し、金属箔を従来法によって蝕刻して所定形状に成形し、必要に応じて多層に構成し、最終的に金属箔の上面にカバーレイフィルムを被覆する。このように使用されるボンディングシートやカバーレイフィルムの製造において、前記図5に示したように、例えば、接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)との間に印刷層(40)が形成された本発明の工程剥離紙を使用すれば、熱可塑性樹脂層(30)の上にボンディングシート用樹脂(80)が積層された場合に、紙基材層(10)に含まれる異物(70)を被覆することができるため、異物がボンディングシート用樹脂(80)に由来するものか紙基材層(10)に由来するものかの判断を容易に行うことができる。また、表面および裏面の印刷層(40)の色彩を変えることで熱可塑性樹脂層(30)を特定することができ、異なる離型性を有する熱可塑性樹脂層(30)の判断を容易に行うことができる。上記効果は、カバーレイフィルムであっても同様である。
【実施例】
【0056】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(実施例1)
厚さ25μmの延伸ポリプロピレンフィルム(OP U−1:東セロ製)のコロナ処理面に、ウレタン系の水色インキをグラビア印刷し、厚さ25μmの延伸マットポリプロピレンフィルム(YM17S:東レ製)のコロナ処理面に、ウレタン系のクリームインキ(CLIOS/ALFA硬化剤=主剤/硬化剤:ザ・インクテック製)をグラビア印刷した。
【0057】
紙基材層として上質紙(坪量52g/m2)を用い、その両面にラミネート接着剤(RU077/H7=主剤/硬化剤:ロックペイント製)を用いて、前記延伸ポリプロピレンフィルムおよび延伸マットポリプロピレンフィルムのコロナ処理面側を積層した。得られた工程剥離紙の明度を日本平版機材株式会社製、商品名「X−Rite938」にて、光源D65、視野角2で測定したところ、延伸ポリプロピレンフィルム側が明度90.29の水色であり、延伸マットポリプロピレンフィルム側が明度93.51のクリーム色であった。
【0058】
次いで、500mを1巻として巻き取り、巻き始めおよび巻き終わりから長さ2m×幅520mmをサンプリングし、目視にて異物の検査を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
延伸ポリプロピレンフィルム(OP U−1:東セロ製)と延伸マットポリプロピレンフィルム(YM17S:東レ製)のコロナ処理面に水色またはクリーム色でのグラビア印刷を行わない以外は、実施例1と同様に操作して工程剥離紙を製造した。
【0059】
得られた工程剥離紙は、両面が白色であった。
この工程剥離紙に実施例1と同様に、目視にて異物の検査を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1で得た工程剥離紙の延伸ポリプロピレンフィルム側に、フレキシブル樹脂として、エポキシ樹脂とNBRの混合樹脂を厚さ200〜250μmに積層して、工程剥離紙付きボンディングシートを調製した。使用したフレキシブル樹脂の明度は95であった。
【0061】
この工程剥離紙付きボンディングシートの500mを1巻として巻き取り、巻き始めおよび巻き終わりから長さ2m×幅520mmをサンプリングし、目視にてフレキシブル樹脂側を観察して異物の検査を行った。結果を表2に示す。
【0062】
本発明の工程剥離紙の表面には肉眼で検出できる異物が存在せず、したがって工程剥離紙付きボンディングシートを目視して検出できる異物は、ボンディングシートに含まれるものであることが容易に判断できた。
【0063】
(比較例2)
比較例1で得た工程剥離紙の延伸ポリプロピレンフィルム側に、フレキシブル樹脂として、エポキシ樹脂とNBRの混合樹脂を厚さ200〜250μmに積層して、工程剥離紙付きボンディングシートを調製した。使用したフレキシブル樹脂の明度は95であった。
【0064】
この工程剥離紙付きボンディングシートの500mを1巻として巻き取り、巻き始めおよび巻き終わりから長さ2m×幅520mmをサンプリングし、目視にてフレキシブル樹脂側を観察して異物の検査を行った。結果を表2に示す。
【0065】
この工程剥離紙の表面には肉眼で検出できる異物が存在するため、工程剥離紙付きボンディングシートを目視して異物を検出した場合、それがボンディングシートに含まれるものか工程剥離紙に含まれるものであるかの判断が困難であった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の工程剥離紙の積層構成を説明する図であり、表裏いずれかの熱可塑性樹脂層が着色されている態様を示す断面図である。
【図2】本発明の工程剥離紙の積層構成を説明する図であり、接着層と熱可塑性樹脂層との間に印刷層が形成されている態様を示す断面図である。
【図3】本発明の工程剥離紙の積層構成を説明する図であり、紙基材層と接着層との間に印刷層が形成されている態様を示す断面図である。
【図4】図2の工程剥離紙において、熱可塑性樹脂層の表面に剥離層が形成された態様を示す断面図である。
【図5】紙基材層に接着層(20)が積層され、かつ接着層(20)と熱可塑性樹脂層(30)との間に印刷層(40)が形成された本発明の工程剥離紙の断面図を示す。
【符号の説明】
【0069】
10・・・紙基材層、
20・・・接着層、
30・・・熱可塑性樹脂層、
40・・・印刷層、
50・・・剥離層、
70・・・異物、
80・・・ボンディングシート用樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、
前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層、または表面および/または裏面の接着層が着色されていることを特徴とする、工程剥離紙。
【請求項2】
前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層の着色が異なる色彩であり、または前記表面および/または裏面の接着剤の着色が異なる色彩であることを特徴とする、請求項1記載の工程剥離紙。
【請求項3】
前記着色の明度が50〜100である、請求項1または2記載の工程剥離紙。
【請求項4】
表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が剥離層を構成する工程剥離紙であって、
表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間、または
表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙。
【請求項5】
表面から裏面に向かって、熱可塑性樹脂層、接着層、紙基材層、接着層、熱可塑性樹脂層の順に積層され、前記表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層が更に剥離層を積層する工程剥離紙であって、
表面および/または裏面の熱可塑性樹脂層または前記剥離層と、前記熱可塑性樹脂層に隣接する接着層との間、または
表面および/または裏面の接着層と、前記接着層に隣接する紙基材層との間に印刷層が形成されることを特徴とする、工程剥離紙。
【請求項6】
前記表面および裏面の印刷層が異なる色彩であることを特徴とする、請求項4または5記載の工程剥離紙。
【請求項7】
前記印刷層の明度が50〜100である、請求項4〜6のいずれかに記載の工程剥離紙。
【請求項8】
ボンディングシート用、またはカバーレイフィルム用の工程剥離紙として使用されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の工程剥離紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−84264(P2010−84264A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253701(P2008−253701)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】