説明

差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置

【課題】細長の加工対象物の加工時における変位を低減して高精度加工を可能にする差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置を提供する。
【解決手段】加工対象物に当接する当接部5は差動ねじ機構部100により微動するように形成される。これにより加工対象物の加工時における変位を吸収し高精度加工を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸長が長く撓み易い加工対象物の加工時において前記加工対象物を安定して高精度に保持すべく形成される差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、長尺で比較的直径の小さい加工対象物を高精度に研磨加工等する場合において、加工対象物の加工時における変位を極力なくすことが必要である。そのためには加工対象物に当接してこれを支持する当接部が、加工対象物の変位に対応して微小移動させることが必要である。そのためには差動ねじ機構を利用することが極めて望ましい。また、前記当接部の形状も、加工対象物の形状や加工内容等に対応して可変のものが望ましい。また、加工対象物の非加工時やその段取り時には、当接部が加工対象物から離れた位置に保持されることが望ましい。また、離れた位置にある当接部を加工時には素速く加工対象物に当接して微少送り可能な状態にすることが望ましい。
このような目的に対応する公知技術は発明者の調査では見当らないが、差動ねじ機構部を用いている従来技術としては特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−58320号(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の特開平10−58320号公報の研削装置および研磨装置は、回転テーブルや定盤に対するスピンドルの傾きを高精度に調整することを目的とするものであり、微細調整に差動ねじ機構を採用しているものである。この発明は以上の目的に対して効果のあるものであるが、この差動ねじ機構部のみを加工位置から離脱する構造のものではなく、装置全体を移動させることが必要であり面倒である。また、本発明のように当接部を用いるものではなく、当接部を比較的自由に交換できるものでもない。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みて発明されたものであり、当接部を微細に移動させて加工対象物を安定、かつ高精度に保持できると共に、差動ねじ機構部の全体を加工対象物に対する離着が容易にでき、かつ当接部の交換も容易にできる差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、非加工時には加工対象物から離れ、前記加工対象物の加工時には前記加工対象物に当接して微少移動する加工対象物支持装置であって、該加工対象物支持装置は、加工時において前記加工対象物に直接当接する当接部と、該当接部を微少送りするための差動ねじ機構部と、前記当接部と前記差動ねじ機構部の全体を保持し前記全体を加工対象物から離脱又は近接すべく固定側に摺動自在に保持される保持機構部とを有することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、前記当接部が、前記加工対象物の加工方向に沿って又は傾斜して前記加工対象物に当接すべく形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置によれば、加工対象物に当接する当接部が直接差動ねじ機構部により移動されるため高精度で微細な移動調整が可能となる。また、当接部の交換も容易にできる。また、差動ねじ機構部は保持機構部により保持され、非加工時には保持機構部の作動によって全体を容易に加工対象物から離すことができると共に元の位置への復帰も容易にできる効果を上げることができる。
【0009】
また、請求項2の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置によれば、当接部を加工対象物に対応した形状のものに容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置の全体構造を当接部が前進していない状態で示す断面図。
【図2】同じく全体構造を当接部が前進した状態で示す断面図。
【図3】本発明における当接部がレバー状である例を示す説明図。
【図4】本発明における保持機構部のロック機構の一例を示すもので、(ア)はロック機構を断面で示す説明図、(イ)は操作部を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置の実施の形態を図面を参照して詳述する。
まず、図1により差動ねじ機構部100の構造や保持機構部200の構造を説明する。
装置の不動側には保持機構部200としての本体1が設けられ、本体1には筒状の摺動スリーブ2が摺動自在に支持される。摺動スリーブ2の内径側にはハンドル用ブッシュ3とナットスリーブ4が不動状態で固定保持されると共に、その先端側には当接部5を挿脱可能に支持する当接部支持スリーブ6が軸線方向に移動可能に保持されている。
【0012】
ハンドル用ブッシュ3にはハンドル7を支持させていて、そのハンドル7にはねじ軸8が連結される。このねじ軸8はハンドル用ブッシュ3に枢支されると共に、その第1の雄ねじ部9はナットスリーブ4の内面に形成されているナット部10に螺合して軸線方向に移動可能に形成されている。従って、ハンドル7を作動するときには、第1の雄ねじ部9はナットスリーブ4と螺合しながら軸線方向に移動すべく形成される。
一方、中心軸上には第2の雄ねじ部11が配設され、この第2の雄ねじ部11は、第1の雄ねじ部9の内面に形成されているナット部12に螺合すべく外面側に雄ねじ部13を形成するものからなり、更にこの第2の雄ねじ部11の先端は当接部支持スリーブ6の端面に圧接されて配置されている。
以上の構造により、ハンドル7を回すことにより第1の雄ねじ部9と第2の雄ねじ部11が軸線方向に微動し当接部支持スリーブ6をその分だけ微動させることになる。即ち、差動ねじとしての機能が働き、当接部支持スリーブ6を微動させて当接部5を軸線方向に微動させることになる。
【実施例1】
【0013】
次に、当接部支持スリーブ6に挿着されている当接部5の構造を説明する。当接部5は当接部支持スリーブ6に挿入されて固定されるものからなり、この実施例では軸線上に沿って配設された軸体状当接部5aからなる。この軸体状当接部5aはその先端が直接加工対象物14の外周に当接する構造からなる。即ち、軸体状当接部5aの微少動きが直接加工対象物14に作用し、加工対象物14の変位を吸収すべく作用することになる。
【実施例2】
【0014】
実施例2の当接部5は図3に示すようにレバー状のものからなり、2本のアーム5b,5cの内のアーム5bはその一端部を当接部支持スリーブ6にピン結合されると共に、アーム5bの他端はアーム5cにピン結合している。また、アーム5cの先端には当接部材15が設けられ、この当接部材15が加工対象物14の外周に当接し、加工対象物14の変位を抑制する作用をすることになる。なお、ピン結合部分は、当接部支持スリーブ6とアーム5bとの角度、アーム5bとアーム5cとの角度を必要に応じて固定できるものとなっている。
【0015】
次に、保持機構部200の構造を説明する。保持機構部200は本体1に摺動自在に支持される摺動スリーブ2とこれを所定位置において固定するロック機構部300等とからなる。
摺動スリーブ2は前記のように本体1に摺動自在に支持されると共にこの内部には差動ねじ機構部100の全体が収納されている。従って、加工対象物14の支持を必要としない非加工時にはこの摺動スリーブ2を本体1に対して移動することによって当接部5や当接部材15を加工対象物14から離すことができる。また、使用時の復帰も極めて容易にできる。
【0016】
摺動スリーブ2の軸線方向の移動は前記のように自由に、かつ容易にできるが、加工時等において摺動スリーブ2を所定位置に固定する必要がある。
図4はそのためのロック機構部300を示す。このロック機構部300は図示のように摺動スリーブ2の外周に圧接される左右一対の固持駒17,17からなり、この固持駒17,17に螺合しているねじ軸18を回転することにより摺動スリーブ2を所定位置に固持することができる。なお、左右の固持駒17,17は互いに逆方向のねじが螺刻されてねじ軸18に螺合している構造からなる。
【0017】
以上のように、本発明の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置によれば、ハンドル7の微細な作動によって加工対象物14に微細な圧力を付加してその変位を吸収することができ、更に当接部5の形状や当接位置を工夫することにより、高精度の変位吸収の効果を上げることができる。また、対象物14の大きさが相異しても単一の装置によって対応することができ、使用範囲が広く、かつ比較的安価に実施することができる。
【0018】
本発明は、以上の構造のものからなるが、本発明は以上の説明に限定するものではなく、同一技術的範疇のものが適用されることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、細長で小径の対象物の振れ止めとして使用されるものであり、かつ加工対象物の材質や加工手段の相違に対しても適用されるためその利用範囲は極めて広い。
【符号の説明】
【0020】
1 本体
2 摺動スリーブ
3 ハンドル用ブッシュ
4 ナットスリーブ
5 当接部
5a 軸体状当接部
5b アーム
5c アーム
6 当接部支持スリーブ
7 ハンドル
8 ねじ軸
9 第1の雄ねじ部
10 ナット部
11 第2の雄ねじ部
12 ナット部
13 雄ねじ部
14 加工対象物
15 当接部材
17 固持駒
18 ねじ軸
100 差動ねじ機構部
200 保持機構部
300 ロック機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非加工時には加工対象物から離れ、前記加工対象物の加工時には前記加工対象物に当接して微少送りする加工対象物支持装置であって、該加工対象物支持装置は、加工時において前記加工対象物に直接当接する当接部と、該当接部を微少移動するための差動ねじ機構部と、前記当接部と前記差動ねじ機構部の全体を保持し前記全体を加工対象物から離脱又は近接すべく固定側に摺動自在に保持される保持機構部とを有することを特徴とする差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置。
【請求項2】
前記当接部が、前記加工対象物の加工方向に沿って又は傾斜して前記加工対象物に当接すべく形成されることを特徴とする請求項1に記載の差動ねじ機構部を有する加工対象物支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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