差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法
【課題】スキュー及び差動・同相変換量、伝送損失を共に低減し、EMI性能が良好であり、伝送特性を決定する特性インピーダンスが逐次変動せず安定的な生産が可能であり、かつ、基板やコネクタ等への実装も容易で実装部分での電気特性の劣化も小さく、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】並行に設けられた1対の信号用導体2と、1対の信号用導体2の周囲を一括して被覆する絶縁体3と、絶縁体3の外周に設けられたシールド用導体4とを備えた差動信号用ケーブルにおいて、1対の信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔とした。
【解決手段】並行に設けられた1対の信号用導体2と、1対の信号用導体2の周囲を一括して被覆する絶縁体3と、絶縁体3の外周に設けられたシールド用導体4とを備えた差動信号用ケーブルにおいて、1対の信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数Gbps以上の高速デジタル信号を伝送させるために用いる差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法に係り、特に、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数Gbps以上の高速デジタル信号を扱うサーバ、ルータ、ストレージ製品などにおいて、電子機器間あるいは電子機器内の基板間の信号伝送には、差動信号による信号伝送が用いられている。電子機器間あるいは電子機器内の基板間は、差動信号用ケーブルにより電気的に接続される。
【0003】
差動信号による信号伝送では、位相を反転させた2つの信号を用い、受信側で2つの信号の差分を合成出力する。差動信号用ケーブルは、位相を反転させた2つの信号を伝送するための2本の信号用導体(導線、芯線)を備えている。
【0004】
差動信号用ケーブルでは、2本の信号用導体に流れる電流が互いに逆方向を向いて流れることとなるため、外部に放射される電磁波が小さくなる。また、差動信号用ケーブルでは、外部から受けたノイズが2本の信号用導体に等しく重畳されるため、受信側で2つの信号の差分を合成出力することで、ノイズによる影響を打ち消すことができる。これらの理由から、高速デジタル信号の伝送には、差動信号による信号伝送が好適である。
【0005】
従来の差動信号用ケーブルとして、信号用導体を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせて対にしたツイストペアケーブルがある。ツイストペアケーブルは、安価で平衡性に優れており、曲げも容易であるため、中距離の信号伝送に広く用いられている。
【0006】
しかし、このツイストペアケーブルは、グランドに相当する導体が無いので、ケーブル近傍に置かれた金属の影響を受けやすく、特性インピーダンスが安定しない。そのため、ツイストペアケーブルでは、数GHzの高周波領域では信号波形が崩れやすいという問題がある。このような理由から、ツイストペアケーブルは、数Gbps以上の伝送線路にはあまり用いられることがない。
【0007】
一方、他の差動信号用ケーブルとして、2本の絶縁電線を撚らずに並行して配置し、これをシールド用導体で覆ったツイナックスケーブルがある。ツイナックスケーブルは、ツイストペアケーブルに比べて2本の導体間の物理長の差が少なく、また、シールド用導体が2本の絶縁電線を覆うように設けられるので、ケーブル近傍に金属を置いても、特性インピーダンスが不安定になることもなく、また、ノイズ耐性も高い。そのため、ツイナックスケーブルは、比較的高速で短距離(数mから数十m)の信号伝送に用いられている。
【0008】
ツイナックスケーブルのシールド用導体には、導体付きテープ(金属箔テープ)を用いたもの、編組状の素線を用いたもの、また接地用のドレイン線等を付け合わせたものなどがある。
【0009】
一例として、特許文献1で開示されているツイナックスケーブルの横断面図を図8に示す。
【0010】
図8に示すツイナックスケーブル81は、信号用導体82を絶縁体83で絶縁した2本の絶縁電線84の周囲に、ポリエチレンのテープにアルミニウム等の金属箔を貼り付けた金属箔テープからなるシールド用導体85を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体85の周囲に、ケーブル内部を保護するためのジャケット86を被覆したものである。
【0011】
シールド用導体85と絶縁電線84との間には、ドレイン線87がシールド用導体85の導電面(金属箔)と接触するように縦添えされ、このドレイン線87がグランド接続されるようになっている。
【0012】
ところで、数Gbps以上の高速信号を伝送するためには、2本の信号用導体における2つの信号の伝搬時間の差、すなわちスキューを低減する必要がある。これは、スキューが増加すると、受信側で2つの信号の差分を合成出力したデジタル信号の波形を崩してしまうためである。例えば、10Gbps相当の高速信号伝送においては、数psのスキューでも信号品質を劣化させてしまう。また、最近は、EMI(Electromagnetic Interference;電磁波妨害)を低減する必要から、差動・同相変換量を低く抑えることも要求されている。
【0013】
図9に示すツイナックスケーブル91は、2本の信号用導体92を、絶縁体93で一度に被覆し、この絶縁体93の周囲に金属箔テープからなるシールド用導体94を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体94の周囲に、ケーブル内部を保護するためのジャケット95を被覆したものである(特許文献2)。
【0014】
このツイナックスケーブル91では、2本の信号用導体92をひとつの絶縁体93で一括被覆することで、絶縁体93の誘電率差を抑えて、スキューを低減している。
【0015】
図10に示すツイナックスケーブル101は、信号用導体102を絶縁体103により被覆した2本の絶縁電線104の周囲を発泡剤テープ105で覆い、その発泡剤テープ105の周囲に金属箔テープからなるシールド用導体106を被覆し、さらにその周囲にジャケット107を被覆したものである。発泡剤テープ105とシールド用導体106との間には、ドレイン線108が、シールド用導体106の導体面(金属箔)と接触するように縦添えされている(特許文献3)。
【0016】
このツイナックスケーブル101では、2本の絶縁電線104をシールド用導体106で覆う前に、絶縁体である発泡剤テープ105を巻き付け、信号用導体102とシールド用導体106との距離を相対的に離すことで、両信号用導体102の電磁結合(電磁気的結合)を強くし、スキューを低減している。
【0017】
図11に示すツイナックスケーブル111は、信号用導体112を発泡体からなる絶縁体113で被覆した2本の絶縁電線114の周囲に、金属箔テープからなるシールド用導体115を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体115の周囲にジャケット116を被覆したものである(特許文献4)。
【0018】
このツイナックスケーブル111では、絶縁体113を発泡体で形成し、2本の絶縁電線114をテープ状のシールド用導体115で被覆する際、絶縁体113が少し潰れるくらいにきつく巻いて、信号用導体112同士の距離を小さくしている。これによって、両信号用導体112の電磁結合が強くなり、スキューが小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2002−289047号公報
【特許文献2】特開2001−35270号公報
【特許文献3】特開2007−26909号公報
【特許文献4】米国特許第5283390号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、図9のツイナックスケーブル91では、2本の信号用導体92をひとつの絶縁体93で一括被覆することでスキューを低減しているが、単に絶縁体93で一括被覆するだけでは、絶縁体93内部の誘電率分布や、シールド形状の左右の対称性のズレが僅かに残るため、10Gbps相当の高速信号の伝送においては、スキュー、差動・同相変換量ともに十分な低減効果が得られない。
【0021】
また、図10のツイナックスケーブル101では、発泡剤テープ105を巻く工程が増えるので、コストの増加が避けられない。さらに、発泡剤テープ105の厚さが0.2mmと、ある程度厚い発泡剤テープ105を使用しないとスキュー低減の効果が得られないため、発泡剤テープ105の重なり具合によって、左右の対称性が崩れ、スキューや差動・同相変換量が増大したり、特性インピーダンスが変動してしまうという問題が発生する。したがって、発泡剤テープ105の重なり具合を精密に制御する必要があるが、実際の工程では非常に困難である。
【0022】
さらに、図11のツイナックスケーブル111では、テープ状のシールド用導体115を巻き付けることで絶縁体113を潰しているが、信号用導体112同士の距離の制御が難しく、左右の対称性が崩れたりすることで、スキューや差動・同相変換量の増大、特性インピーダンスの変動などの問題が発生する。
【0023】
また、電気特性の面において、両信号用導体の電磁結合を強くするには、ケーブル外径を大きくするか、信号用導体を細くしないと、所望の特性インピーダンス(差動インピーダンス)にすることができないという問題もある。つまり、ケーブル外径を変更しない場合には、信号用導体を細くしなければならないので、ケーブルの伝送損失の増大が避けられない。さらに、電磁結合が強過ぎる場合には、同相の特性インピーダンスが大きくなるので、同相入力成分に対して特性インピーダンスが不整合となる。その結果、同相成分の反射を引き起こし、EMI等の問題が発生する。
【0024】
また、実装面において、両信号用導体の電磁結合を強くするには、信号用導体の間隔をケーブル外径に対して相対的に狭くする必要があるが、ツイナックスケーブルを基板やコネクタにハンダ付け等で実装する際に、接続ピッチが小さくなり、接続作業が困難となる問題がある。
【0025】
通常、ドレイン線は左右の対称性と位置の安定性を考慮して2本の絶縁電線の間に配置される(図8、図10参照)が、接続ピッチが小さい場合(つまり信号用導体の間隔が狭い場合)には、そのままの配置での接続が困難になり、シールド用導体をある程度引き剥がして信号用導体の脇までドレイン線を引き出した状態で、両信号用導体とドレイン線をハンダ付けするといった方法をとらなければならない。ドレイン線を長く引き出すことにより、グランドが不安定になり、電気特性を損なってしまう。
【0026】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、数Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、スキュー及び差動・同相変換量、伝送損失を共に低減し、EMI性能が良好であり、伝送特性を決定する特性インピーダンスが逐次変動せず安定的な生産が可能であり、かつ、基板やコネクタ等への実装も容易で実装部分での電気特性の劣化も小さく、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、前記1対の信号用導体の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔とした差動信号用ケーブルである。
【0028】
前記絶縁体は、前記1対の信号用導体を並べた方向である幅方向の長さが、幅方向と垂直な厚さ方向の長さよりも大きく形成され、前記1対の信号用導体は、前記絶縁体の厚さ方向の中心に配置されてもよい。
【0029】
前記絶縁体の幅方向の長さと厚さ方向の長さの比が2:1であるとよい。
【0030】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部にドレイン線を縦添えに配置し、前記絶縁体と前記ドレイン線の周囲に前記シールド用導体を設けると共に、前記ドレイン線と前記シールド用導体とを電気的に接続してもよい。
【0031】
前記ドレイン線と前記信号用導体は、前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置されてもよい。
【0032】
前記絶縁体の幅方向の両側の端部に前記ドレイン線をそれぞれ配置すると共に、両前記ドレイン線を前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置し、かつ、両前記ドレイン線を、前記絶縁体の厚さ方向の中心からずれた位置に配置してもよい。
【0033】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部に、前記ドレイン線を嵌め込むための嵌め込み溝を形成し、該嵌め込み溝に前記ドレイン線を嵌め込み固定してもよい。
【0034】
また、本発明は、前記差動信号用ケーブルを少なくとも2本以上束ね、その周囲に一括シールド用導体を設けると共に、その一括シールド用導体の外周に絶縁体からなるジャケットを被覆した伝送ケーブルである。
【0035】
また、本発明は、並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルの製造方法において、前記1対の信号用導体を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔に配置し、該1対の信号用導体の周囲に押出成形により前記絶縁体を一括被覆する差動信号用ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、スキュー及び差動・同相変換量、伝送損失を共に低減し、EMI性能が良好であり、伝送特性を決定する特性インピーダンスが逐次変動せず安定的な生産が可能であり、かつ、基板やコネクタ等への実装も容易で実装部分での電気特性の劣化も小さく、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図2】図1の差動信号用ケーブルをプリント基板に実装するときの斜視図である。
【図3】図1の差動信号用ケーブルにおける、信号用導体の電磁結合の度合い(Zeven/Zodd)に対する、スキュー及び伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る伝送ケーブルの横断面図である。
【図8】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図9】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図10】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図11】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0039】
図1は、本実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【0040】
図1に示すように、差動信号用ケーブル1は、並行に設けられた1対の信号用導体2と、両信号用導体2の周囲を一括して被覆する所定の誘電率を有する絶縁体3と、絶縁体3の外周に設けられたシールド用導体4と、絶縁体3とシールド用導体4の間に縦添えされたグランド接続用のドレイン線5と、シールド用導体4の外周を設けられたケーブル保護用のジャケット6とを備えている。
【0041】
信号用導体2としては、銅等の電気良導体、または、電気良導体にメッキ等を施した単線または撚線を用いる。
【0042】
本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の間隔は、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とされる。この理由については後述する。
【0043】
絶縁体3は、押出機により供給される絶縁樹脂で両信号用導体2を一括被覆することで形成される。
【0044】
絶縁体3は、断面視で扁平状に形成される。1対の信号用導体2を並べた方向(図1では左右方向)を幅方向、幅方向と垂直な方向(図1では上下方向)を厚さ方向とすると、絶縁体3は、幅方向の長さ(以下、単に幅という)が、厚さ方向の長さ(以下、単に厚さという)よりも大きく形成される。
【0045】
本実施の形態では、絶縁体3を、断面視で、略直線状の2つの辺と、この2つの辺を結ぶ曲線状の2辺とからなる形状に形成している。なお、絶縁体3を断面視で楕円形に形成してもよい。両信号用導体2は、絶縁体3の厚さ方向の中心に配置される。
【0046】
差動信号用ケーブル1は、実際には、送信用と受信用の2本を1組で使用することが多いので、2本合わせたときの断面を円形に近くするために、絶縁体3の幅と厚さの比は、2:1とすることが好ましい。
【0047】
絶縁体3に用いる絶縁樹脂としては、誘電率、誘電正接の小さいものが望ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリエチレン等を用いるとよい。
【0048】
また、誘電率、誘電正接を小さくするため、絶縁体3に発泡絶縁樹脂を用いてもよい。絶縁体3に発泡絶縁樹脂を用いる場合、成形前に発泡剤を練り込み、成形時の温度によって発泡度を制御する方法、あるいは窒素等のガスを成形圧力で注入しておき、圧力解放時に発泡させる方法等で絶縁体3を形成するとよい。
【0049】
絶縁体3の幅方向の片側の端部(図1では左側の端部)には、両信号用導体2と並行してドレイン線5が縦添え配置される。つまり、ドレイン線5と両信号用導体2は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。ドレイン線5としては、信号用導体2と同様に、銅等の電気良導体、または、電気良導体にメッキ等を施した単線または撚線を用いる。
【0050】
シールド用導体4としては、ポリエチレンテープにアルミニウム等の金属箔を貼り合わせた金属箔テープを用いる。シールド用導体4はこれに限らず、編組状の素線からなるものを用いてもよい。
【0051】
シールド用導体4は、絶縁体3とドレイン線5の周囲に巻き付けられ、これにより、ドレイン線5は絶縁体3に固定される。このとき、シールド用導体4の導体面(金属箔)がドレイン線5に接触するように、シールド用導体4を巻き付ける。シールド用導体4の外周には、ケーブル保護のために、絶縁体からなるジャケット6が被覆される。
【0052】
図2に示すように、差動信号用ケーブル1をプリント基板21に実装する際には、ジャケット6、シールド用導体4、絶縁体3を順次段剥きして、信号用導体2とドレイン線5を露出させ、この状態で、信号用導体2をプリント基板21の信号用電極22(P電極22a、N電極22b)に、ドレイン線5をグランド用電極23に合わせて、ハンダ付けで固定する。
【0053】
このように、差動信号用ケーブル1では、信号用導体2とドレイン線5を露出させた状態でそのままハンダ付けすることが可能であり、信号用導体2の間隔が狭い場合であっても、ドレイン線5が邪魔することなく実装可能である。また、シールド用導体4の剥き長も小さいので、電気特性を損なわない。
【0054】
ここで、信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とする理由を説明する。
【0055】
差動信号用ケーブル1では、両信号用導体2の周囲に絶縁体3を押出成形により一括被覆するので、信号用導体2の間隔を自由に設定し、両信号用導体2の電磁結合を所望の量にすることが可能であるが、この信号用導体2の間隔は、スキュー及び差動・同相変換量の低減と、伝送損失の低減の両者を考慮して決定する必要がある。
【0056】
例えば、電磁結合が全くない差動信号用ケーブルでは、ケーブル内部を伝搬する電磁波は、一方の信号用導体とシールド用導体の間と、他方の信号用導体とシールド用導体との間で別々に伝搬するため、各線路の伝搬定数の僅かな違いが、スキュー、差動・同相変換量の増大に影響することになる。つまり、両信号用導体の電磁結合が小さいほど、スキュー及び差動・同相変換量は増大する。
【0057】
他方、両信号用導体の電磁結合が強い場合、ケーブル内部を伝搬する電磁波のうち信号用導体間を伝搬する成分が増大するので、スキューを低減でき、また差動・同相変換量も小さくできる。ただし、電磁界が信号用導体間に集中するため、ケーブルの伝送損失が増大する。さらに、両信号用導体の電磁結合が強い場合、ケーブルの同相インピーダンスが大きくなるため、同相入力成分に対して特性インピーダンスが不整合となり、その結果、同相成分の反射を引き起こしてEMIの原因となる。つまり、両信号用導体の電磁結合が強いほど、伝送損失が増大し、EMI性能も悪化する。
【0058】
両信号用導体の電磁結合の度合いは、信号用導体の偶モードインピーダンスZevenと奇モードインピーダンスZoddの比(Zeven/Zodd)で規定することができる。偶モードインピーダンスZevenとは、両信号用導体を位相差無しで励振した場合のグランドに対するインピーダンスであり、奇モードインピーダンスZoddとは、両信号用導体を逆位相で励振した場合のグランドに対するインピーダンスである。
【0059】
Zeven/Zoddは、信号用導体の間隔で調整可能であり、信号用導体の間隔を狭くするとZeven/Zoddの値は高くなり、両信号用導体の電磁結合が強くなる。また、Zeven/Zoddは、信号用導体の外径でも調整可能である。なお、信号用導体の外径によるZeven/Zoddの調整は、差動インピーダンスを100Ωにする為に必要となる。
【0060】
両信号用導体の電磁結合の度合い(Zeven/Zodd)に対する、スキュー及び伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の関係を解析した結果を図3に示す。
【0061】
図3に示すように、Zeven/Zoddが1.5未満では、スキューの低減効果が小さく、また、Zeven/Zoddが1.9を超えると、伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の劣化が顕著である。したがって、スキューを低減し、かつ伝送特性の劣化を抑制するためには、信号用導体2の間隔を、Zeven/Zoddが1.5〜1.9となる間隔、すなわち、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とすればよい。
【0062】
一般的には、差動インピーダンスは100Ωとするので、Zodd=50Ωとなり、Zeven=75〜95Ωの範囲となる。
【0063】
例えば、信号用導体2の実効外径を0.18mmとし、絶縁体3としてPFA(誘電率εr=2.1)を用い、絶縁体3を幅1.48mm、厚さ0.74mmとした場合、信号用導体2の間隔を0.375mmとすると、信号用導体2の差動インピーダンス100Ωで、同相インピーダンスが約42Ωとなり、Zeven/Zodd=1.67となる。
【0064】
同様にして、サイズの異なる複数の差動信号用ケーブルについて、Zeven/Zodd、スキュー、差動モード挿入損失Sdd21、同相モード反射損失(リターンロス)Scc11を解析した結果を表1に示す。なお、表1において、導体構成7/0.08は、外径0.08mmの素線を7本撚って信号用導体を構成していることを表している。また、減衰量は、差動モード挿入損失Sdd21の絶対値と等しく、1mあたりの信号の減衰量を表す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、Zeven/Zoddが1.5未満である32AWGの差動信号用ケーブルでは、スキューが18ps/mと大きくなっており、Zeven/Zoddが1.9を超える36AWG,37AWGの差動信号用ケーブルでは、差動モード挿入損失Sdd21の絶対値である減衰量が4.8dB/m、5.4dB/mと大きくなり、伝送特性が劣化している。さらに、Zeven/Zoddが1.9を超える36AWG、37AWGの差動信号用ケーブルでは、同相モード反射損失Scc11が−10dB/m以上となっており、EMI性能が悪化している。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔としている。
【0068】
これにより、スキュー及び差動・同相変換量を低減し、かつ、伝送損失を実用上十分小さい領域に抑えることができ、かつ、EMI性能を良好にでき、信号波形劣化を小さくできる。その結果、電子機器間あるいは電子機器内で数Gbps以上の高速信号の伝送を行うことが可能となり、電子機器の性能向上に寄与する。
【0069】
また、差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の周囲に押出成形により絶縁体3を一括被覆しているため、ケーブル長手方向の寸法変動を小さくでき、特性インピーダンスの変動を抑制できる。さらに、差動信号用ケーブル1では、押出成形時に信号用導体2の間隔を変更することで容易にZeven/Zoddを調整できるので、従来のように厚手の発泡剤テープを巻いたり、テープ状のシールド用導体をきつく巻いて絶縁体を潰したりといった製法上困難な方法をとる必要がなくなり、安定的な生産が可能となる。
【0070】
また、差動信号用ケーブル1では、ドレイン線5を信号用導体2の横に配置しているため、信号用導体2の間隔が狭くても、基板やコネクタ等への実装が容易となり、さらには、シールド用導体4の剥き長が小さくて済むため、実装部分での電気特性劣化も小さい。
【0071】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。
【0072】
図4に示す差動信号用ケーブル41は、図1の差動信号用ケーブル1と基本的に同じ構造であり、絶縁体3の左右にドレイン線5を配置した点が異なる。両ドレイン線5と両信号用導体2は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。
【0073】
差動信号用ケーブル41では、ドレイン線5を左右対称に配置しているため、信号用導体2を伝搬する電磁波の左右の対称性が良好となり、スキュー及び差動・同相変換量をより低減できる。
【0074】
図5に示す差動信号用ケーブル51は、図4の差動信号用ケーブル41において、絶縁体3の幅方向の両側の端部にドレイン線5を嵌め込むための嵌め込み溝3aを長手方向に沿って形成し、嵌め込み溝3aにドレイン線5を嵌め込み固定したものである。
【0075】
嵌め込み溝3aは、例えば、絶縁体3を押出成形する際に、押出機の排出部の一部(嵌め込み溝3aを形成する部分)に突起をつけておくことで容易に形成できる。嵌め込み溝3aの深さは、ドレイン線5がシールド用導体4によって押さえつけられる程度に、また、シールド用導体4の導体面(金属箔)が十分ドレイン線5と接触するように、あまり深くならないようにする。
【0076】
差動信号用ケーブル51では、ドレイン線5が、絶縁体3に形成された嵌め込み溝3aに嵌め込み固定されるので、ドレイン線5の位置が安定する。よって、ケーブル断面構造の左右の対称性が保たれ、信号用導体2を伝搬する電磁波の左右の対称性が良好となり、スキュー及び差動・同相変換量をより低減できる。また、ドレイン線5のズレによる製品不良を大幅に低減でき、差動信号用ケーブル51の生産速度を上げることが可能になる。
【0077】
図6に示す差動信号用ケーブル61は、図5の差動信号用ケーブル51において、ドレイン線5を嵌め込むための嵌め込み溝3aを、絶縁体3の厚さ方向の中心ではなく、絶縁体3の厚さ方向の中心からずれた位置(図6では下にずれた位置)に形成したものである。
【0078】
すなわち、差動信号用ケーブル61では、両ドレイン線5が、絶縁体3の厚さ方向の中心からずれた位置に配置される。両ドレイン線5は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。
【0079】
従来の2本の絶縁電線を備えた差動信号用ケーブル(例えば図8参照)では、絶縁電線を色違いにすることで信号用導体の極性を識別することが可能であるが、2本の信号用導体を1つの絶縁体で一括被覆した場合、信号用導体の極性を識別することが困難となり、差動信号用ケーブルをプリント基板等に実装する際の作業効率が悪化する。
【0080】
差動信号用ケーブル61では、ドレイン線5がケーブル断面の厚さ方向の中心になく、一方にずれているので、実装時にジャケット6、シールド用導体4を剥いた後、ドレイン線5の位置を確認することで、信号用導体2の極性を識別することが可能となる。つまり、差動信号用ケーブル61によれば、信号用導体2の極性を容易に識別することが可能となり、ケーブル実装時における作業性が向上する。
【0081】
図7に示す伝送ケーブル71は、図6の差動信号用ケーブル61(ジャケット6を省いたもの)を2本束ね、その周囲に一括シールド用導体72を設けると共に、その一括シールド用導体72の外周に絶縁体からなるジャケット73を被覆したものである。
【0082】
差動信号用ケーブル61は、その2本のドレイン線5を配置した側を向き合わせて束ねられる。ここでは、一括シールド用導体72として、編組状の素線72aからなるものを用いたが、金属箔テープを用いるようにしてもよい。
【0083】
伝送ケーブル71では、信号伝送用として、送信用に差動信号用ケーブル61を1本、受信用に差動信号用ケーブル61を1本備えており、さらに、EMI及びEMC(Electromagnetic Compatibility)対策のために、両差動信号用ケーブル61を一括シールド用導体72で覆っており、伝送特性とEMI及びEMC性能の両立をコンパクトに実現している。
【0084】
このように、伝送ケーブル71によれば、伝送特性とEMI及びEMC性能を両立できるので、伝送ケーブル71の両端にSFP+トランシーバ(光モジュール形状のコネクタ)を設けることで、10GbE用のダイレクトアタッチケーブルとして用いることも可能である。
【0085】
ここでは、伝送ケーブル71として、2本の差動信号用ケーブル61を用いる場合を説明したが、差動信号用ケーブル61を3本以上用いるようにしてもよいし、差動信号用ケーブル61に替えて、図1の差動信号用ケーブル1、図4の差動信号用ケーブル41,あるいは図5の差動信号用ケーブル51を用いてもよい。
【0086】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0087】
1 差動信号用ケーブル
2 信号用導体
3 絶縁体
4 シールド用導体
5 ドレイン線
6 ジャケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、数Gbps以上の高速デジタル信号を伝送させるために用いる差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法に係り、特に、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数Gbps以上の高速デジタル信号を扱うサーバ、ルータ、ストレージ製品などにおいて、電子機器間あるいは電子機器内の基板間の信号伝送には、差動信号による信号伝送が用いられている。電子機器間あるいは電子機器内の基板間は、差動信号用ケーブルにより電気的に接続される。
【0003】
差動信号による信号伝送では、位相を反転させた2つの信号を用い、受信側で2つの信号の差分を合成出力する。差動信号用ケーブルは、位相を反転させた2つの信号を伝送するための2本の信号用導体(導線、芯線)を備えている。
【0004】
差動信号用ケーブルでは、2本の信号用導体に流れる電流が互いに逆方向を向いて流れることとなるため、外部に放射される電磁波が小さくなる。また、差動信号用ケーブルでは、外部から受けたノイズが2本の信号用導体に等しく重畳されるため、受信側で2つの信号の差分を合成出力することで、ノイズによる影響を打ち消すことができる。これらの理由から、高速デジタル信号の伝送には、差動信号による信号伝送が好適である。
【0005】
従来の差動信号用ケーブルとして、信号用導体を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせて対にしたツイストペアケーブルがある。ツイストペアケーブルは、安価で平衡性に優れており、曲げも容易であるため、中距離の信号伝送に広く用いられている。
【0006】
しかし、このツイストペアケーブルは、グランドに相当する導体が無いので、ケーブル近傍に置かれた金属の影響を受けやすく、特性インピーダンスが安定しない。そのため、ツイストペアケーブルでは、数GHzの高周波領域では信号波形が崩れやすいという問題がある。このような理由から、ツイストペアケーブルは、数Gbps以上の伝送線路にはあまり用いられることがない。
【0007】
一方、他の差動信号用ケーブルとして、2本の絶縁電線を撚らずに並行して配置し、これをシールド用導体で覆ったツイナックスケーブルがある。ツイナックスケーブルは、ツイストペアケーブルに比べて2本の導体間の物理長の差が少なく、また、シールド用導体が2本の絶縁電線を覆うように設けられるので、ケーブル近傍に金属を置いても、特性インピーダンスが不安定になることもなく、また、ノイズ耐性も高い。そのため、ツイナックスケーブルは、比較的高速で短距離(数mから数十m)の信号伝送に用いられている。
【0008】
ツイナックスケーブルのシールド用導体には、導体付きテープ(金属箔テープ)を用いたもの、編組状の素線を用いたもの、また接地用のドレイン線等を付け合わせたものなどがある。
【0009】
一例として、特許文献1で開示されているツイナックスケーブルの横断面図を図8に示す。
【0010】
図8に示すツイナックスケーブル81は、信号用導体82を絶縁体83で絶縁した2本の絶縁電線84の周囲に、ポリエチレンのテープにアルミニウム等の金属箔を貼り付けた金属箔テープからなるシールド用導体85を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体85の周囲に、ケーブル内部を保護するためのジャケット86を被覆したものである。
【0011】
シールド用導体85と絶縁電線84との間には、ドレイン線87がシールド用導体85の導電面(金属箔)と接触するように縦添えされ、このドレイン線87がグランド接続されるようになっている。
【0012】
ところで、数Gbps以上の高速信号を伝送するためには、2本の信号用導体における2つの信号の伝搬時間の差、すなわちスキューを低減する必要がある。これは、スキューが増加すると、受信側で2つの信号の差分を合成出力したデジタル信号の波形を崩してしまうためである。例えば、10Gbps相当の高速信号伝送においては、数psのスキューでも信号品質を劣化させてしまう。また、最近は、EMI(Electromagnetic Interference;電磁波妨害)を低減する必要から、差動・同相変換量を低く抑えることも要求されている。
【0013】
図9に示すツイナックスケーブル91は、2本の信号用導体92を、絶縁体93で一度に被覆し、この絶縁体93の周囲に金属箔テープからなるシールド用導体94を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体94の周囲に、ケーブル内部を保護するためのジャケット95を被覆したものである(特許文献2)。
【0014】
このツイナックスケーブル91では、2本の信号用導体92をひとつの絶縁体93で一括被覆することで、絶縁体93の誘電率差を抑えて、スキューを低減している。
【0015】
図10に示すツイナックスケーブル101は、信号用導体102を絶縁体103により被覆した2本の絶縁電線104の周囲を発泡剤テープ105で覆い、その発泡剤テープ105の周囲に金属箔テープからなるシールド用導体106を被覆し、さらにその周囲にジャケット107を被覆したものである。発泡剤テープ105とシールド用導体106との間には、ドレイン線108が、シールド用導体106の導体面(金属箔)と接触するように縦添えされている(特許文献3)。
【0016】
このツイナックスケーブル101では、2本の絶縁電線104をシールド用導体106で覆う前に、絶縁体である発泡剤テープ105を巻き付け、信号用導体102とシールド用導体106との距離を相対的に離すことで、両信号用導体102の電磁結合(電磁気的結合)を強くし、スキューを低減している。
【0017】
図11に示すツイナックスケーブル111は、信号用導体112を発泡体からなる絶縁体113で被覆した2本の絶縁電線114の周囲に、金属箔テープからなるシールド用導体115を巻き付け、あるいは縦添えし、さらにそのシールド用導体115の周囲にジャケット116を被覆したものである(特許文献4)。
【0018】
このツイナックスケーブル111では、絶縁体113を発泡体で形成し、2本の絶縁電線114をテープ状のシールド用導体115で被覆する際、絶縁体113が少し潰れるくらいにきつく巻いて、信号用導体112同士の距離を小さくしている。これによって、両信号用導体112の電磁結合が強くなり、スキューが小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2002−289047号公報
【特許文献2】特開2001−35270号公報
【特許文献3】特開2007−26909号公報
【特許文献4】米国特許第5283390号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、図9のツイナックスケーブル91では、2本の信号用導体92をひとつの絶縁体93で一括被覆することでスキューを低減しているが、単に絶縁体93で一括被覆するだけでは、絶縁体93内部の誘電率分布や、シールド形状の左右の対称性のズレが僅かに残るため、10Gbps相当の高速信号の伝送においては、スキュー、差動・同相変換量ともに十分な低減効果が得られない。
【0021】
また、図10のツイナックスケーブル101では、発泡剤テープ105を巻く工程が増えるので、コストの増加が避けられない。さらに、発泡剤テープ105の厚さが0.2mmと、ある程度厚い発泡剤テープ105を使用しないとスキュー低減の効果が得られないため、発泡剤テープ105の重なり具合によって、左右の対称性が崩れ、スキューや差動・同相変換量が増大したり、特性インピーダンスが変動してしまうという問題が発生する。したがって、発泡剤テープ105の重なり具合を精密に制御する必要があるが、実際の工程では非常に困難である。
【0022】
さらに、図11のツイナックスケーブル111では、テープ状のシールド用導体115を巻き付けることで絶縁体113を潰しているが、信号用導体112同士の距離の制御が難しく、左右の対称性が崩れたりすることで、スキューや差動・同相変換量の増大、特性インピーダンスの変動などの問題が発生する。
【0023】
また、電気特性の面において、両信号用導体の電磁結合を強くするには、ケーブル外径を大きくするか、信号用導体を細くしないと、所望の特性インピーダンス(差動インピーダンス)にすることができないという問題もある。つまり、ケーブル外径を変更しない場合には、信号用導体を細くしなければならないので、ケーブルの伝送損失の増大が避けられない。さらに、電磁結合が強過ぎる場合には、同相の特性インピーダンスが大きくなるので、同相入力成分に対して特性インピーダンスが不整合となる。その結果、同相成分の反射を引き起こし、EMI等の問題が発生する。
【0024】
また、実装面において、両信号用導体の電磁結合を強くするには、信号用導体の間隔をケーブル外径に対して相対的に狭くする必要があるが、ツイナックスケーブルを基板やコネクタにハンダ付け等で実装する際に、接続ピッチが小さくなり、接続作業が困難となる問題がある。
【0025】
通常、ドレイン線は左右の対称性と位置の安定性を考慮して2本の絶縁電線の間に配置される(図8、図10参照)が、接続ピッチが小さい場合(つまり信号用導体の間隔が狭い場合)には、そのままの配置での接続が困難になり、シールド用導体をある程度引き剥がして信号用導体の脇までドレイン線を引き出した状態で、両信号用導体とドレイン線をハンダ付けするといった方法をとらなければならない。ドレイン線を長く引き出すことにより、グランドが不安定になり、電気特性を損なってしまう。
【0026】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、数Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、スキュー及び差動・同相変換量、伝送損失を共に低減し、EMI性能が良好であり、伝送特性を決定する特性インピーダンスが逐次変動せず安定的な生産が可能であり、かつ、基板やコネクタ等への実装も容易で実装部分での電気特性の劣化も小さく、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、前記1対の信号用導体の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔とした差動信号用ケーブルである。
【0028】
前記絶縁体は、前記1対の信号用導体を並べた方向である幅方向の長さが、幅方向と垂直な厚さ方向の長さよりも大きく形成され、前記1対の信号用導体は、前記絶縁体の厚さ方向の中心に配置されてもよい。
【0029】
前記絶縁体の幅方向の長さと厚さ方向の長さの比が2:1であるとよい。
【0030】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部にドレイン線を縦添えに配置し、前記絶縁体と前記ドレイン線の周囲に前記シールド用導体を設けると共に、前記ドレイン線と前記シールド用導体とを電気的に接続してもよい。
【0031】
前記ドレイン線と前記信号用導体は、前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置されてもよい。
【0032】
前記絶縁体の幅方向の両側の端部に前記ドレイン線をそれぞれ配置すると共に、両前記ドレイン線を前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置し、かつ、両前記ドレイン線を、前記絶縁体の厚さ方向の中心からずれた位置に配置してもよい。
【0033】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部に、前記ドレイン線を嵌め込むための嵌め込み溝を形成し、該嵌め込み溝に前記ドレイン線を嵌め込み固定してもよい。
【0034】
また、本発明は、前記差動信号用ケーブルを少なくとも2本以上束ね、その周囲に一括シールド用導体を設けると共に、その一括シールド用導体の外周に絶縁体からなるジャケットを被覆した伝送ケーブルである。
【0035】
また、本発明は、並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルの製造方法において、前記1対の信号用導体を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔に配置し、該1対の信号用導体の周囲に押出成形により前記絶縁体を一括被覆する差動信号用ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、スキュー及び差動・同相変換量、伝送損失を共に低減し、EMI性能が良好であり、伝送特性を決定する特性インピーダンスが逐次変動せず安定的な生産が可能であり、かつ、基板やコネクタ等への実装も容易で実装部分での電気特性の劣化も小さく、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いた伝送ケーブル、並びに差動信号用ケーブルの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図2】図1の差動信号用ケーブルをプリント基板に実装するときの斜視図である。
【図3】図1の差動信号用ケーブルにおける、信号用導体の電磁結合の度合い(Zeven/Zodd)に対する、スキュー及び伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る伝送ケーブルの横断面図である。
【図8】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図9】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図10】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【図11】従来の差動信号用ケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0039】
図1は、本実施の形態に係る差動信号用ケーブルの横断面図である。
【0040】
図1に示すように、差動信号用ケーブル1は、並行に設けられた1対の信号用導体2と、両信号用導体2の周囲を一括して被覆する所定の誘電率を有する絶縁体3と、絶縁体3の外周に設けられたシールド用導体4と、絶縁体3とシールド用導体4の間に縦添えされたグランド接続用のドレイン線5と、シールド用導体4の外周を設けられたケーブル保護用のジャケット6とを備えている。
【0041】
信号用導体2としては、銅等の電気良導体、または、電気良導体にメッキ等を施した単線または撚線を用いる。
【0042】
本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の間隔は、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とされる。この理由については後述する。
【0043】
絶縁体3は、押出機により供給される絶縁樹脂で両信号用導体2を一括被覆することで形成される。
【0044】
絶縁体3は、断面視で扁平状に形成される。1対の信号用導体2を並べた方向(図1では左右方向)を幅方向、幅方向と垂直な方向(図1では上下方向)を厚さ方向とすると、絶縁体3は、幅方向の長さ(以下、単に幅という)が、厚さ方向の長さ(以下、単に厚さという)よりも大きく形成される。
【0045】
本実施の形態では、絶縁体3を、断面視で、略直線状の2つの辺と、この2つの辺を結ぶ曲線状の2辺とからなる形状に形成している。なお、絶縁体3を断面視で楕円形に形成してもよい。両信号用導体2は、絶縁体3の厚さ方向の中心に配置される。
【0046】
差動信号用ケーブル1は、実際には、送信用と受信用の2本を1組で使用することが多いので、2本合わせたときの断面を円形に近くするために、絶縁体3の幅と厚さの比は、2:1とすることが好ましい。
【0047】
絶縁体3に用いる絶縁樹脂としては、誘電率、誘電正接の小さいものが望ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリエチレン等を用いるとよい。
【0048】
また、誘電率、誘電正接を小さくするため、絶縁体3に発泡絶縁樹脂を用いてもよい。絶縁体3に発泡絶縁樹脂を用いる場合、成形前に発泡剤を練り込み、成形時の温度によって発泡度を制御する方法、あるいは窒素等のガスを成形圧力で注入しておき、圧力解放時に発泡させる方法等で絶縁体3を形成するとよい。
【0049】
絶縁体3の幅方向の片側の端部(図1では左側の端部)には、両信号用導体2と並行してドレイン線5が縦添え配置される。つまり、ドレイン線5と両信号用導体2は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。ドレイン線5としては、信号用導体2と同様に、銅等の電気良導体、または、電気良導体にメッキ等を施した単線または撚線を用いる。
【0050】
シールド用導体4としては、ポリエチレンテープにアルミニウム等の金属箔を貼り合わせた金属箔テープを用いる。シールド用導体4はこれに限らず、編組状の素線からなるものを用いてもよい。
【0051】
シールド用導体4は、絶縁体3とドレイン線5の周囲に巻き付けられ、これにより、ドレイン線5は絶縁体3に固定される。このとき、シールド用導体4の導体面(金属箔)がドレイン線5に接触するように、シールド用導体4を巻き付ける。シールド用導体4の外周には、ケーブル保護のために、絶縁体からなるジャケット6が被覆される。
【0052】
図2に示すように、差動信号用ケーブル1をプリント基板21に実装する際には、ジャケット6、シールド用導体4、絶縁体3を順次段剥きして、信号用導体2とドレイン線5を露出させ、この状態で、信号用導体2をプリント基板21の信号用電極22(P電極22a、N電極22b)に、ドレイン線5をグランド用電極23に合わせて、ハンダ付けで固定する。
【0053】
このように、差動信号用ケーブル1では、信号用導体2とドレイン線5を露出させた状態でそのままハンダ付けすることが可能であり、信号用導体2の間隔が狭い場合であっても、ドレイン線5が邪魔することなく実装可能である。また、シールド用導体4の剥き長も小さいので、電気特性を損なわない。
【0054】
ここで、信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とする理由を説明する。
【0055】
差動信号用ケーブル1では、両信号用導体2の周囲に絶縁体3を押出成形により一括被覆するので、信号用導体2の間隔を自由に設定し、両信号用導体2の電磁結合を所望の量にすることが可能であるが、この信号用導体2の間隔は、スキュー及び差動・同相変換量の低減と、伝送損失の低減の両者を考慮して決定する必要がある。
【0056】
例えば、電磁結合が全くない差動信号用ケーブルでは、ケーブル内部を伝搬する電磁波は、一方の信号用導体とシールド用導体の間と、他方の信号用導体とシールド用導体との間で別々に伝搬するため、各線路の伝搬定数の僅かな違いが、スキュー、差動・同相変換量の増大に影響することになる。つまり、両信号用導体の電磁結合が小さいほど、スキュー及び差動・同相変換量は増大する。
【0057】
他方、両信号用導体の電磁結合が強い場合、ケーブル内部を伝搬する電磁波のうち信号用導体間を伝搬する成分が増大するので、スキューを低減でき、また差動・同相変換量も小さくできる。ただし、電磁界が信号用導体間に集中するため、ケーブルの伝送損失が増大する。さらに、両信号用導体の電磁結合が強い場合、ケーブルの同相インピーダンスが大きくなるため、同相入力成分に対して特性インピーダンスが不整合となり、その結果、同相成分の反射を引き起こしてEMIの原因となる。つまり、両信号用導体の電磁結合が強いほど、伝送損失が増大し、EMI性能も悪化する。
【0058】
両信号用導体の電磁結合の度合いは、信号用導体の偶モードインピーダンスZevenと奇モードインピーダンスZoddの比(Zeven/Zodd)で規定することができる。偶モードインピーダンスZevenとは、両信号用導体を位相差無しで励振した場合のグランドに対するインピーダンスであり、奇モードインピーダンスZoddとは、両信号用導体を逆位相で励振した場合のグランドに対するインピーダンスである。
【0059】
Zeven/Zoddは、信号用導体の間隔で調整可能であり、信号用導体の間隔を狭くするとZeven/Zoddの値は高くなり、両信号用導体の電磁結合が強くなる。また、Zeven/Zoddは、信号用導体の外径でも調整可能である。なお、信号用導体の外径によるZeven/Zoddの調整は、差動インピーダンスを100Ωにする為に必要となる。
【0060】
両信号用導体の電磁結合の度合い(Zeven/Zodd)に対する、スキュー及び伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の関係を解析した結果を図3に示す。
【0061】
図3に示すように、Zeven/Zoddが1.5未満では、スキューの低減効果が小さく、また、Zeven/Zoddが1.9を超えると、伝送特性(差動モード挿入損失Sdd21)の劣化が顕著である。したがって、スキューを低減し、かつ伝送特性の劣化を抑制するためには、信号用導体2の間隔を、Zeven/Zoddが1.5〜1.9となる間隔、すなわち、偶モードインピーダンスZevenが奇モードインピーダンスZoddの1.5から1.9倍となる間隔とすればよい。
【0062】
一般的には、差動インピーダンスは100Ωとするので、Zodd=50Ωとなり、Zeven=75〜95Ωの範囲となる。
【0063】
例えば、信号用導体2の実効外径を0.18mmとし、絶縁体3としてPFA(誘電率εr=2.1)を用い、絶縁体3を幅1.48mm、厚さ0.74mmとした場合、信号用導体2の間隔を0.375mmとすると、信号用導体2の差動インピーダンス100Ωで、同相インピーダンスが約42Ωとなり、Zeven/Zodd=1.67となる。
【0064】
同様にして、サイズの異なる複数の差動信号用ケーブルについて、Zeven/Zodd、スキュー、差動モード挿入損失Sdd21、同相モード反射損失(リターンロス)Scc11を解析した結果を表1に示す。なお、表1において、導体構成7/0.08は、外径0.08mmの素線を7本撚って信号用導体を構成していることを表している。また、減衰量は、差動モード挿入損失Sdd21の絶対値と等しく、1mあたりの信号の減衰量を表す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、Zeven/Zoddが1.5未満である32AWGの差動信号用ケーブルでは、スキューが18ps/mと大きくなっており、Zeven/Zoddが1.9を超える36AWG,37AWGの差動信号用ケーブルでは、差動モード挿入損失Sdd21の絶対値である減衰量が4.8dB/m、5.4dB/mと大きくなり、伝送特性が劣化している。さらに、Zeven/Zoddが1.9を超える36AWG、37AWGの差動信号用ケーブルでは、同相モード反射損失Scc11が−10dB/m以上となっており、EMI性能が悪化している。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔としている。
【0068】
これにより、スキュー及び差動・同相変換量を低減し、かつ、伝送損失を実用上十分小さい領域に抑えることができ、かつ、EMI性能を良好にでき、信号波形劣化を小さくできる。その結果、電子機器間あるいは電子機器内で数Gbps以上の高速信号の伝送を行うことが可能となり、電子機器の性能向上に寄与する。
【0069】
また、差動信号用ケーブル1では、信号用導体2の周囲に押出成形により絶縁体3を一括被覆しているため、ケーブル長手方向の寸法変動を小さくでき、特性インピーダンスの変動を抑制できる。さらに、差動信号用ケーブル1では、押出成形時に信号用導体2の間隔を変更することで容易にZeven/Zoddを調整できるので、従来のように厚手の発泡剤テープを巻いたり、テープ状のシールド用導体をきつく巻いて絶縁体を潰したりといった製法上困難な方法をとる必要がなくなり、安定的な生産が可能となる。
【0070】
また、差動信号用ケーブル1では、ドレイン線5を信号用導体2の横に配置しているため、信号用導体2の間隔が狭くても、基板やコネクタ等への実装が容易となり、さらには、シールド用導体4の剥き長が小さくて済むため、実装部分での電気特性劣化も小さい。
【0071】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。
【0072】
図4に示す差動信号用ケーブル41は、図1の差動信号用ケーブル1と基本的に同じ構造であり、絶縁体3の左右にドレイン線5を配置した点が異なる。両ドレイン線5と両信号用導体2は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。
【0073】
差動信号用ケーブル41では、ドレイン線5を左右対称に配置しているため、信号用導体2を伝搬する電磁波の左右の対称性が良好となり、スキュー及び差動・同相変換量をより低減できる。
【0074】
図5に示す差動信号用ケーブル51は、図4の差動信号用ケーブル41において、絶縁体3の幅方向の両側の端部にドレイン線5を嵌め込むための嵌め込み溝3aを長手方向に沿って形成し、嵌め込み溝3aにドレイン線5を嵌め込み固定したものである。
【0075】
嵌め込み溝3aは、例えば、絶縁体3を押出成形する際に、押出機の排出部の一部(嵌め込み溝3aを形成する部分)に突起をつけておくことで容易に形成できる。嵌め込み溝3aの深さは、ドレイン線5がシールド用導体4によって押さえつけられる程度に、また、シールド用導体4の導体面(金属箔)が十分ドレイン線5と接触するように、あまり深くならないようにする。
【0076】
差動信号用ケーブル51では、ドレイン線5が、絶縁体3に形成された嵌め込み溝3aに嵌め込み固定されるので、ドレイン線5の位置が安定する。よって、ケーブル断面構造の左右の対称性が保たれ、信号用導体2を伝搬する電磁波の左右の対称性が良好となり、スキュー及び差動・同相変換量をより低減できる。また、ドレイン線5のズレによる製品不良を大幅に低減でき、差動信号用ケーブル51の生産速度を上げることが可能になる。
【0077】
図6に示す差動信号用ケーブル61は、図5の差動信号用ケーブル51において、ドレイン線5を嵌め込むための嵌め込み溝3aを、絶縁体3の厚さ方向の中心ではなく、絶縁体3の厚さ方向の中心からずれた位置(図6では下にずれた位置)に形成したものである。
【0078】
すなわち、差動信号用ケーブル61では、両ドレイン線5が、絶縁体3の厚さ方向の中心からずれた位置に配置される。両ドレイン線5は、絶縁体3の幅方向に沿って一直線状に配置される。
【0079】
従来の2本の絶縁電線を備えた差動信号用ケーブル(例えば図8参照)では、絶縁電線を色違いにすることで信号用導体の極性を識別することが可能であるが、2本の信号用導体を1つの絶縁体で一括被覆した場合、信号用導体の極性を識別することが困難となり、差動信号用ケーブルをプリント基板等に実装する際の作業効率が悪化する。
【0080】
差動信号用ケーブル61では、ドレイン線5がケーブル断面の厚さ方向の中心になく、一方にずれているので、実装時にジャケット6、シールド用導体4を剥いた後、ドレイン線5の位置を確認することで、信号用導体2の極性を識別することが可能となる。つまり、差動信号用ケーブル61によれば、信号用導体2の極性を容易に識別することが可能となり、ケーブル実装時における作業性が向上する。
【0081】
図7に示す伝送ケーブル71は、図6の差動信号用ケーブル61(ジャケット6を省いたもの)を2本束ね、その周囲に一括シールド用導体72を設けると共に、その一括シールド用導体72の外周に絶縁体からなるジャケット73を被覆したものである。
【0082】
差動信号用ケーブル61は、その2本のドレイン線5を配置した側を向き合わせて束ねられる。ここでは、一括シールド用導体72として、編組状の素線72aからなるものを用いたが、金属箔テープを用いるようにしてもよい。
【0083】
伝送ケーブル71では、信号伝送用として、送信用に差動信号用ケーブル61を1本、受信用に差動信号用ケーブル61を1本備えており、さらに、EMI及びEMC(Electromagnetic Compatibility)対策のために、両差動信号用ケーブル61を一括シールド用導体72で覆っており、伝送特性とEMI及びEMC性能の両立をコンパクトに実現している。
【0084】
このように、伝送ケーブル71によれば、伝送特性とEMI及びEMC性能を両立できるので、伝送ケーブル71の両端にSFP+トランシーバ(光モジュール形状のコネクタ)を設けることで、10GbE用のダイレクトアタッチケーブルとして用いることも可能である。
【0085】
ここでは、伝送ケーブル71として、2本の差動信号用ケーブル61を用いる場合を説明したが、差動信号用ケーブル61を3本以上用いるようにしてもよいし、差動信号用ケーブル61に替えて、図1の差動信号用ケーブル1、図4の差動信号用ケーブル41,あるいは図5の差動信号用ケーブル51を用いてもよい。
【0086】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0087】
1 差動信号用ケーブル
2 信号用導体
3 絶縁体
4 シールド用導体
5 ドレイン線
6 ジャケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、
前記1対の信号用導体の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔としたことを特徴とする差動信号用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体は、前記1対の信号用導体を並べた方向である幅方向の長さが、幅方向と垂直な厚さ方向の長さよりも大きく形成され、
前記1対の信号用導体は、前記絶縁体の厚さ方向の中心に配置される請求項1記載の差動信号用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体の幅方向の長さと厚さ方向の長さの比が2:1である請求項2記載の差動信号用ケーブル。
【請求項4】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部にドレイン線を縦添えに配置し、前記絶縁体と前記ドレイン線の周囲に前記シールド用導体を設けると共に、前記ドレイン線と前記シールド用導体とを電気的に接続した請求項2または3記載の差動信号用ケーブル。
【請求項5】
前記ドレイン線と前記信号用導体は、前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置される請求項4記載の差動信号用ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁体の幅方向の両側の端部に前記ドレイン線をそれぞれ配置すると共に、両前記ドレイン線を前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置し、かつ、両前記ドレイン線を、前記絶縁体の厚さ方向の中心からずれた位置に配置した請求項4記載の差動信号用ケーブル。
【請求項7】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部に、前記ドレイン線を嵌め込むための嵌め込み溝を形成し、該嵌め込み溝に前記ドレイン線を嵌め込み固定した請求項4〜6いずれかに記載の差動信号用ケーブル。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の差動信号用ケーブルを少なくとも2本以上束ね、その周囲に一括シールド用導体を設けると共に、その一括シールド用導体の外周に絶縁体からなるジャケットを被覆したことを特徴とする伝送ケーブル。
【請求項9】
並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルの製造方法において、
前記1対の信号用導体を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔に配置し、該1対の信号用導体の周囲に押出成形により前記絶縁体を一括被覆することを特徴とする差動信号用ケーブルの製造方法。
【請求項1】
並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、
前記1対の信号用導体の間隔を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔としたことを特徴とする差動信号用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体は、前記1対の信号用導体を並べた方向である幅方向の長さが、幅方向と垂直な厚さ方向の長さよりも大きく形成され、
前記1対の信号用導体は、前記絶縁体の厚さ方向の中心に配置される請求項1記載の差動信号用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体の幅方向の長さと厚さ方向の長さの比が2:1である請求項2記載の差動信号用ケーブル。
【請求項4】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部にドレイン線を縦添えに配置し、前記絶縁体と前記ドレイン線の周囲に前記シールド用導体を設けると共に、前記ドレイン線と前記シールド用導体とを電気的に接続した請求項2または3記載の差動信号用ケーブル。
【請求項5】
前記ドレイン線と前記信号用導体は、前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置される請求項4記載の差動信号用ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁体の幅方向の両側の端部に前記ドレイン線をそれぞれ配置すると共に、両前記ドレイン線を前記絶縁体の幅方向に沿って一直線状に配置し、かつ、両前記ドレイン線を、前記絶縁体の厚さ方向の中心からずれた位置に配置した請求項4記載の差動信号用ケーブル。
【請求項7】
前記絶縁体の幅方向の片側あるいは両側の端部に、前記ドレイン線を嵌め込むための嵌め込み溝を形成し、該嵌め込み溝に前記ドレイン線を嵌め込み固定した請求項4〜6いずれかに記載の差動信号用ケーブル。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の差動信号用ケーブルを少なくとも2本以上束ね、その周囲に一括シールド用導体を設けると共に、その一括シールド用導体の外周に絶縁体からなるジャケットを被覆したことを特徴とする伝送ケーブル。
【請求項9】
並行に設けられた1対の信号用導体と、該1対の信号用導体の周囲を一括して被覆する絶縁体と、該絶縁体の外周に設けられたシールド用導体とを備え、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルの製造方法において、
前記1対の信号用導体を、偶モードインピーダンスが奇モードインピーダンスの1.5から1.9倍となる間隔に配置し、該1対の信号用導体の周囲に押出成形により前記絶縁体を一括被覆することを特徴とする差動信号用ケーブルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−38082(P2013−38082A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−215504(P2012−215504)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2009−237430(P2009−237430)の分割
【原出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2009−237430(P2009−237430)の分割
【原出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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