説明

差込溶接式管継手の溶接法

【課題】 溶接入熱の多少のバラツキがあっても、十分な溶込みが得られる差込溶接式管継手の溶接法を提供する。
【解決手段】 差込溶接式管継手のすみ肉溶接予定部位150に、母材(ソケット110または配管120)、または溶接材料と略同材質からなる断面形状が二等辺三角形の小リング130を介挿し、小リングの縦辺131とソケットの差込口111の端面112とを当接させ、第1パス(初層)において小リング130と配管の管外面121部とを溶融・溶接を行なうと共に、ソケットの端面112部とを同時に溶融・溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すみ肉溶接予定部位に、母材(ソケットまたは配管)または溶接材料と略同材質からなる小リングを設け、溶着不良の発生を防止する差込溶接式管継手の溶接法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の配管の突合せ溶接では裏波を出す必要があり、高度な技術・技量が要求されるが、ソケット溶接継手等の差込溶接式管継手は、そこまでの技術・技量は要求されず、また作業段取りが容易なことから、従来から多くの継手で採用されている。
【0003】
図3は、従来のソケット溶接継手の例を示す図であり、下記特許文献1に開示されている図と同じである。
【0004】
図3を参照すると、ソケット510の差込口511に配管520の端部が嵌入され、ソケット510の端面512と、管外面521とで形成される角部に、第1パスP1から第5パスP5までの5パスによる3層(3溶融列)のすみ肉溶接がなされている。
【0005】
より詳しくは、第1パスP1で第1層(溶融列、以下同じ)、第2パスP2と第3パスP3とで第2層、第4パスと第5パスとで第3層が形成されている。すみ肉溶接が、5パスによる3層で形成されていることは、従来から行われているすみ肉溶接と何ら変わりはないが、特許文献1に開示されている溶接肉盛方法では、最後の第5パスを配管520の管肉部521側とすることに特徴があり、間隙部522における引張り溶接残留応力の発生を抑制しようとするものである。
【特許文献1】特開平11−118074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ソケット溶接継手は小径配管に使用されることが多く、また配管の設置場所が狭隘部であったり、部屋の壁や床に近接した場所に設置されることが多いため、溶接姿勢が悪い場所での溶接作業となる場合が多く、溶接入熱のバラツキが発生しやすい。溶接入熱のバラツキにより、溶接入熱が不足する(低くなりすぎる)と、溶込み不良が発生する可能性が高くなるので、少しの溶接入熱のバラツキに対しても、十分な溶込みが得られる継手設計が必要となる。
【0007】
また、上記特許文献1に開示されている溶接肉盛方法は、最終のパスを管外面521として、間隙部522における引張り溶接残留応力の発生を抑制してはいるが、5パスによる3層構造で形成されることは、従来から行われているすみ肉溶接と何ら変わりはなく、溶接入熱のバラツキにより、溶込み不良を生じ配管内の液体または気体が漏洩する可能性がある。
【0008】
本発明は、係る問題点に鑑み、溶接入熱にバラツキが生じた場合でも、充分な溶込みを得ることが可能となり、溶接品質及び作業効率が高い差込溶接式管継手の溶接法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための第1の発明は、ソケットの差込口に配管が嵌入され、すみ肉溶接される差込溶接式管継手のすみ肉溶接予定部位に、母材(ソケットまたは配管)または溶接材料と略同材質からなる小リングを介挿する溶接方法であって、該小リングの内径部に前記配管を嵌挿し、該小リングの1の面と前記すみ肉溶接予定部位に位置する前記差込口の端面とを当接させ位置決めする工程が、設けられていることを特徴とする差込溶接式管継手の溶接法である。
【0010】
小リングの材質は、母材及びその継手に使用される溶接材料(溶加材、溶加棒など)と略同材質の材料を使用すれば、同等の機械的強度を確保することが出来る。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記小リングの大きさは、前記すみ肉溶接時の第1パス(初層)時の溶接入熱で溶融し、併せて母材(ソケット及び配管)を溶融・溶接することを特徴とする差込溶接式管継手の溶接法である。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記小リングの断面形状は、略直角三角形、略四角形、略円形またはL字状であることを特徴する差込溶接式管継手の溶接法である。
【0013】
小リングの断面形状は、略直角三角形、略四角形、略円形またはL字状に限定されるものではなく、第1パス(初層)において溶融し、小リングと、小リングに当接する母材(ソケット及び配管)とが略同時に溶融・溶接する形状であればよい。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明は、ソケットの差込口に配管が嵌入され、すみ肉溶接される差込溶接式管継手のすみ肉溶接予定部位に、母材(ソケットまたは配管)または溶接材料と略同材質からなる小リングを介挿する溶接方法であって、該小リングの内径部に前記配管を嵌挿し、該小リングの1の面と前記すみ肉溶接予定部位に位置する前記差込口の端面とを当接させ位置決めする工程が、設けられていることを特徴とする差込溶接式管継手の溶接法であり、第2の発明は、第1の発明において、前記小リングの大きさが、前記すみ肉溶接時の第1パス(初層)時の溶接入熱で溶融し、併せて母材(ソケット及び配管)を溶融・溶接することを特徴とする差込溶接式管継手の溶接法であり、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記小リングの断面形状が、略直角三角形、略四角形、略円形またはL字状であることを特徴する差込溶接式管継手の溶接法であるから、第1乃至第3の発明によれば、溶接入熱のバラツキによる溶込み不良がなく、配管内部の液体または気体の漏洩を防止することができる。
【0015】
また、この小リングの材質を溶接材料と略同材質にしたことにより、第1パス(初層)溶接時に溶接材料の追加が不要になり、作業性が更に向上し、溶接品質の向上と、溶接作業の効率化を図ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態である差込溶接式管継手の溶接法について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、ソケット溶接継手を例にあげて説明するが、一般的な差込溶接継手等にも適用可能である。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態に係る差込溶接式管継手の溶接法の説明図であり、小リングの断面が直角二等辺三角形の場合を示している。
【0018】
図1において、110はソケット、111はその差込口、112はソケットの端面である。120は配管、121は管外面である。130は、母材となるソケット110または配管120、または溶接材料と略同材質材を用いてプレス成形された直角二等辺三角形の小リングである。ソケットの端面112と管外面121で形成されるすみ肉溶接予定部150に設けられている。
【0019】
151は、第1パス(初層)による融合体(融合塊)である。小リングの形状、大きさ、材質と電圧、電流、通電時間等の溶接条件を適切にして、小リング及び母材(ソケット部端面及び配管外面部)を適切に溶融する。これらの溶接条件が適切でないと、溶込み不良やアンダーカット等の溶接不良が生じ易い。なお、152、153はそれぞれ第2、第3パスによる融合体(融合塊)を示している。
【0020】
次に、本発明の第1実施形態に係るソケット溶接法の手順について説明する。
【0021】
先ず、小リング130の内径部に配管120の端末を、所定の位置まで嵌挿する。この場合小リング130の内径が、配管120の外径に対して小さ過ぎると、嵌挿に大きな圧力を必要として作業性が損なわれ、大き過ぎると、小リング130の内径部と管外面121との間に大きな隙間ができて溶接品質が損なわれるため、軽い止まり嵌め程度にするのが好ましい。
【0022】
次に、ソケット110の差込口111に配管120の端部を嵌入し、ソケットの端面112と、既に配管120が嵌挿された小リング130の断面直角二等辺三角形の縦辺131と当接させる。この場合、ソケット110の端面112と小リングの断面直角二等辺三角形の縦辺131との間に隙間のないように位置合せ行うことが溶接品質を確保する上で重要である。
【0023】
続けて、ティグ溶接等により、第1パス(初層)の溶接作業を行う。第1パス(初層)において、小リング130の断面二等辺三角形の全てを溶融させながら管外面121部との溶融・溶接を行うと共に、ソケット110の端面112とを同時に溶融・溶接させる。続けて、第2パス、第3パスの溶接作業を行う。
【0024】
小リングの断面積が大き過ぎる場合は、母材特にソケット側の溶着面積が不足し溶込み不良による液体または気体の漏洩が生じる可能性が高くなり、小リングの断面積が小さ過ぎる場合は、小リングを設けたことによる効果は得られない。
【0025】
図2は、本発明の第2実施形態に係る差込溶接式管継手の溶接法の説明図であり、小リングの断面が四角形の場合を示しており、図1に示した第1実施形態に対して小リングの形状が異なるのみである。
【0026】
図2において、110はソケット、111はその差込口、112はソケットの端面である。120は配管であり、121は管外面である。140は、母材となるソケット110または配管120、または溶接材料と略同材質材を用いてプレス成形された断面形状が四角形の小リングであり、ソケットの端面112と配管120で形成されるすみ肉溶接予定部 150’に設けられている。151’は第1パス(初層)による融合体(塊)であり、152’ 153’はそれぞれ第2パス、第3パスによる融合体(塊)を示している。
【0027】
第1実施形態の場合と同様、小リングの形状、大きさ、材質と電圧、電流、通電時間等の溶接条件が適切でないと、溶込み不良やアンダーカット等の溶接不良が生じ易い。
【0028】
次に、第2実施形態に係るソケット溶接法の手順について説明する。ソケット溶接は第1実施形態と同様の手順で行われる。
【0029】
先ず、小リング140の内径部に配管120の端末を、所定の位置まで嵌挿する。この場合、第1実施形態の場合と同様に、小リング140の内径が、配管120の外径に対して、小さ過ぎると嵌挿に大きな圧力を必要として作業性が損なわれ、大き過ぎると、小リング140の内径部と配管120の管外面121との間に大きな隙間ができて溶接品質が損なわれるため、軽い止まり嵌め程度にするのが好ましい。
【0030】
次に、ソケット110の差込口111に配管120の端部を嵌入し、ソケットの端面112と、既に配管120が嵌挿された小リング140の断面四角形の縦辺141及び横辺142とを当接させる。この場合、第1実施形態の場合と同様に、ソケット110の端面112と小リング140の縦辺141との間に隙間のないように位置合せ行うことが溶接品質を確保する上で重要である。
【0031】
続けて、ティグ溶接等により、第1パス(初層)の溶接作業を行う。第1パス(初層)において、小リング140の断面四角形の全てを溶融させながら、横辺142部と管外面121部との溶融・溶接を行うと共に、ソケット110の端面112部とを同時に溶融・溶接させる。続けて、第2パス、第3パスの溶接作業を行う。
【0032】
小リングの断面積が大き過ぎる場合は、母材特にソケット側の溶着面積が不足し溶込み不良による液体・気体の漏洩が生じる可能性が高くなり、小リングの断面積が小さ過ぎる場合は、小リングを設けたことによる効果が得られない。
【0033】
第1実施形態、第2実施形態とも、上述の通りすみ肉溶接予定部位に母材(ソケットまたは配管)、または溶接材料と略同材質からなる小リングを介挿させることによって、溶接入熱のバラツキによる溶込み不良がなく、配管内部の液体または気体の漏洩を防止することができる。
【0034】
また、この小リングの材質を溶接材料と略同材質にすることにより、第1パス(初層)溶接時に溶接材料の追加が不要になり、作業性が更に向上し、溶接品質の向上と溶接作業の効率化を図ることができる。
小リンクの断面形状は、第1実施形態では直角二等辺三角形、第2実施形態では四角形としたが、これに限定されるものではなく、円形、L字状等の他の形状であっても、第1パス作業時に全てが溶融し、管外面部と溶融・溶接ができ、同時にソケットの端面部と溶融・溶接できるものであればよい。
【0035】
表1は、本実施形態に係る小リングの含有成分を母材と対比した一覧表である。表1に示すように、母材(ソケット、配管)が炭素鋼の場合は、小リングの材質は母材よりC(炭素)を少なくし、Si(シリコン)、Mn(マンガン)を少し増し、ステンレス鋼(SUS304)の場合は、母材よりCr(クロム)やNi(ニッケル)を少し増やすことによって、良好な溶接品質と溶接作業性を得ることができている。

【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る差込溶接式管継手の溶接法の説明図であり、小リングの断面が、直角二等辺三角形の場合を示している。
【図2】本発明の第2実施形態に係る差込溶接式管継手の溶接法の説明図であり、小リングの断面が、四角形の場合を示している。
【図3】従来のソケット溶接継手の例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
100:差込溶接式管継手
110:ソケット
111:差込口
112:端面
120:配管
121:管外面
130:小リング(直角二等辺三角形)
131:直角二等辺三角形の縦辺
132:直角二等辺三角形の横辺
140:小リング(四角形)
141:縦辺
142:横辺
150、150’:すみ肉溶接予定部位
151、151’:第1パスによる融合体(融合塊)
152、152’:第2パスによる融合体(融合塊)
153、153’:第3パスによる融合体(融合塊)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケットの差込口に配管が嵌入され、すみ肉溶接される差込溶接式管継手のすみ肉溶接予定部位に、母材または溶接材料と略同材質からなる小リングを介挿する溶接方法であって、
該小リングの内径部に前記配管を嵌挿し、
該小リングの1の面と前記すみ肉溶接予定部位に位置する前記差込口の端面とを当接させ位置決めする工程が、設けられていることを特徴とする差込溶接式管継手の溶接法。
【請求項2】
前記小リングの大きさは、前記すみ肉溶接における第1パス(初層)時の溶接入熱で溶融し、併せてソケット部及び配管母材を溶融、溶接することを特徴とする請求項1に記載の差込溶接式管継手の溶接法。
【請求項3】
前記小リングの断面形状は、略直角三角形、略四角形、略円形またはL字状であることを特徴する請求項1または2に記載の差込溶接式管継手の溶接法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64126(P2010−64126A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234646(P2008−234646)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【Fターム(参考)】