説明

布地用水性エマルジョン型樹脂組成物、それを用いてなる布地用水性インキ組成物及び用途

【課題】布地に自己転着・自己被覆コート性を発揮させ且つ優れる耐洗濯性を有する撥油性機能等を賦与させる水性エマルジョン型樹脂組成物及びその樹脂成分に更に着色性を持たせてなる布地用水性インキ組成物及びこれらを用いてなる機能性布地及び印刷布地を提供することである。
【解決手段】水性媒体中に分散する樹脂成分が、全重合性モノマー成分の100質量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70質量%で得られる低Tgのアクリル系共重合体粒子で、しかも、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子のナノマテリアル樹脂成分が、布地に自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させる布地用水性エマルジョン型樹脂組成物及びその組成物を用いて、その樹脂成分を着色樹脂成分とする布地用水性インキ組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョン型樹脂組成物に関し、より詳細には、布地に対して自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させ且つその樹脂成分に優れる耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物及びその水性エマルジョン型樹脂組成物で被覆コートされている機能性布地に関する。
【0002】
また、本発明は、このように布地に耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる水性エマルジョン型樹脂組成物に、更に着色性を持たせて自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させる布地用の水性インキ組成物及びその水性インキ組成物を用いて各種の印刷又は転写法で所望する図柄及び/又は文字が印刷又は転写されている印刷布地に関する。
【背景技術】
【0003】
天然繊維及び/又は合成繊維からなる布地に、各種の機能性樹脂又は各種の機能剤を被覆及び/又は含浸させて防水性、撥水性、速乾性、防汚性、帯電防止性等の機能や、また、近年、その機能も益々多様化され、例えば、しわ防止性、形態安定性、防花粉付着性、抗菌防臭性、たばこ防臭性等の機能や、更には、その機能も益々高度化・多機能化されて賦与されている機能性布地が種々検討・実用化されている。また、従来から、このように布地に賦与させた機能効果について、その耐洗濯性や、耐久・堅牢性を一層向上させる技術対処法も種々検討又は著しく待望されていることも事実である。
【0004】
また、このような機能性樹脂等を布地に転着及び/又は含浸させるに際して、これらの機能性樹脂に、例えば、着色性機能を持たせた機能性着色樹脂成分として熱圧着下に布地に転着及び/又は含浸させることができる。従来から、このような機能性着色樹脂成分を布地に転着及び/又は含浸させて、所望する図柄及び/又は文字付き布地として実用化されている。すなわち、図柄及び/又は文字を印刷又転写させた印刷布地が広く利用されている。
【0005】
そこで、例えば[特許文献1]には、布地に防汚性及び撥水性等の機能を発現させるために、乳化剤としてのアニオン、カチオン及びノニオン界面活性剤を用いて得られるフッ素系ポリマーエマルジョンを主剤に、アクリル樹脂等を含有するエマルジョン型樹脂組成物を機能性表面処理剤として織布又は不織布に塗布させた機能性布地が提案されている。
【0006】
また、[特許文献2]には、湿式成膜法で、セルロース、ポリエステル、ナイロン等の織布又は不織布に塗工させて布地に透湿防水性機能を賦与させる樹脂組成物として、ポリウレタン樹脂溶液に、分子中に尿素結合及びオルガノポリシロキサン基を有するオリゴマー乃至はその粒子径サイズが5μm以下であるその微細粒ポリマー微粒子が分散する透湿防水布地用ポリウレタン樹脂組成物が提案されている。
【0007】
また、被転着体又は被被覆コート体又は被印刷体である布地に、このような機能を賦与させるに、従来から公知の噴霧塗布、スピンコート等の各種コート法や、スクリン印刷等の各種の印刷法の他に、近年においては、インクジェット塗工法(IJ塗工法)で、このような機能性樹脂及び/又は機能性着色樹脂成分を転着又は被覆コート、または、印刷又は転写させる。そのために、転着媒体、被覆コート媒体、印刷媒体及び転写媒体とする布地用水性インキ組成物及び水性コーティング剤等が広く検討・実用化されている。
【0008】
例えば[特許文献3]には、印刷用インク、インクジェット(IJ)記録用インク等に用いられる特定単量体を含有する単量体組成物と油溶性染料と有機珪素単量体とを、重合開始剤、反応性乳化剤(又は重合性乳化剤)及び非反応性乳化剤との併用下に乳化重合させた、例えば、平均粒子径が92nmの着色微細粒子を含有する着色樹脂エマルジョンが提案されている。
【0009】
また、[特許文献4]には、水性媒体中に、インクジェット記録紙用の水性印刷インキとして、油溶性染料を含有する体積平均粒子径が70nm以下で、親水性ポリマー部位が10〜40質量%で、且つTg≦0℃で、特にTg≦−15℃の疎水性ポリマー部位が60〜90質量%を併せ持つ着色微粒子を分散させたIJ記録紙用の水性印刷インキが提案されている。
【0010】
更に、[特許文献5]には、Tg≦0℃で、ニトリル基、カルボキシル基及びビニル基等の官能基を有するモノマーを共重合させて得られる樹脂粒子及び顔料粒子を分散する水性エマルジョン型の布地用インキ組成物が提案され、天然繊維及び合成繊維からなる布地に固着力を発揮させ、耐洗濯性を有する布地用インキ組成物であると記載させている。
【0011】
【特許文献1】特開2000−110069号公報
【特許文献2】特開平11−124497号公報
【特許文献3】特開2000−297126号公報
【特許文献4】特開2004−323723号公報
【特許文献5】特開平8−209052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような状況下にあって、布地に機能性樹脂又は各種の機能剤を含浸、転着又は被覆コートさせて、「防水性、撥水性、速乾性、防汚性、帯電防止性、しわ防止性、形態安定性、防花粉付着性、抗菌防臭性、たばこ防臭性」等の機能を布地に賦与させる技術分野と、併せてこの機能性樹脂成分に着色機能を持たせて機能性着色樹脂成分として布地に転着又は被覆コートさせて、布地に所望する「図柄及び/又は文字」等を転着形成させて図柄付き布地にする技術分野とは、両者とも機能性樹脂成分又は機能性着色樹脂成分を布地に転着又は被覆コートさせて、様々な機能を賦与させる布地の表面処理加工であるとも言える。
【0013】
以上のような観点から、機能性着色樹脂を用いて、布地に図柄及び/又は文字を転着形成させる後者の処理技術は、布地に所望する図柄及び/又は文字等を印刷又は転写させる表面加工である。従って、布地に「機能性樹脂成分」を「転着又は被覆コート」させる前者の処理技術と、布地に「機能性着色樹脂成分」を「印刷又は転写」させる後者の処理技術とは、何れも布地表面を表面処理加工させる観点において、その技術的範囲を同じくすると理解される。
【0014】
また、既に説明する如く、布地に様々な機能を賦与させる表面処理加工は、益々高機能化、多機能化又は多様化の傾向にあって、その技術的課題も、益々微細・薄膜・高性能化の方向にある。また、その技術的課題を達成させるために、近年、「ナノマテリアル」なる素材を用いて対処させて成す「ナノテク」技術開発が不可欠である。すなわち、上記する媒体組成物中に含有させる機能性樹脂成分及び/又は着色機能成分は、例えば、その樹脂粒子径サイズ又は転着・被覆コート膜厚サイズが、数100nm以下であって、特に10nm〜数10nmの超微細粒子又は極薄膜をターゲットにしなければならない。そのために適材としての「ナノマテリアル」なる機能性樹脂素材又は機能性着色樹脂素材を探索しなければならない。
【0015】
そこで、既に上記した[特許文献3]又は[特許文献4]公報には、サブミクロン以下で数10nm程度の超微細粒の着色樹脂微粒子が、また、[特許文献5]公報には、特に布地に固着力を発揮させて耐洗濯性に優れる水性エマルジョン型インキ組成物などが、従来技術として提案されている。
【0016】
しかしながら、その着色樹脂微細粒子が、布地に優れた転着及び被覆コート性を発揮させ、しかも、優れた耐洗濯性を有する樹脂成分として充分満足させる機能を布地に賦与させるか否か、また、その機能効果が充分な耐久性を発揮させる技術又は素材であるのか、必ずしも明確に言及又は開示されていないのが実状である。
【0017】
そこで、本発明の目的は、各種の天然繊維及び/又は合成繊維からなる織布又は不織布に、従来技術とは著しく相違して、格別の樹脂バインダーを用いずに、しかも、熱圧着を要せずに自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させる「ナノマテリアル」樹脂成分を提供させることである。更には、その転着又は被覆コートさせた樹脂成分が、優れる耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を布地に賦与できて、しかも、その機能効果が著しく耐久・堅牢性である布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物を提供させることである。
【0018】
また、本発明の他の目的は、このような特徴を発揮させて、優れた耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を布地に賦与できる布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物を、熱圧着を要せずに布地に自己転着又は自己被覆コートされている機能性布地を提供させることである。
【0019】
また、本発明の更なる目的は、このように布地に耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物を用いて、更に追加機能として着色性を併せ持たせることで、熱圧着を要せずに自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させる布地用の水性インキ組成物を提供させることである。
【0020】
また、本発明の更なる他の目的は、このような特徴及び機能を発揮させる水性インキ組成物を用いて、各種の印刷又は転写法で、様々な織布又は不織布に、熱圧着を要せずに所望する図柄及び/又は文字を印刷又は転写させた印刷布地を提供させることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで、本発明者らは、上記する課題を鋭意検討した結果、布地に転着させて様々な機能を賦与させる機能性樹脂成分に、特定の官能基を持たせて布地とのインタラクションを高めさせることに着目させて、従来の機能性樹脂成分に著しく相違して、特にバインダー樹脂成分を用いることなく、しかも、熱圧着させることなく効果的に布地に自発転着する機能性樹脂成分又は機能性着色樹脂成分を見出して、本発明を完成させるに至った。
【0022】
本発明によれば、水性媒体中に分散する樹脂成分が、布地に対して自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させ、しかも、その布地に転着又は被覆コートさせた樹脂成分が、優れた耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を発揮させ、しかも、その機能効果が著しく耐久・堅牢性であることを特徴とする布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物を提供する。
【0023】
すなわち、本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物中に含有し上記するような特徴及び機能を発揮させる樹脂成分は、
(1)全重合性モノマー成分の100質量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70質量%の範囲で重合させて得られ、
(2)ガラス転移点Tg≧−50で、且つTg≦10℃の範囲にあるアクリル系共重合体粒子である。
しかも、このグリシジル基を有するアクリル系共重合体粒子は、
(3)体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル」樹脂成分である。
更には、このような粒子径サイズにある本発明によるアクリル系共重合体粒子の表面には、
(4)このグリシジル基が頭出しするように形成されている「ナノマテリアル」樹脂成分として、水性媒体中に分散する布地用水性エマルジョン型樹脂組成物である。
【0024】
また、本発明によれば、このような特徴及び機能を発揮させる本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物は、塗布後、特に熱圧着させることなく布地に自己被覆コート性を発揮させる。これによって、本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物を、被被覆コート体である天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のそれぞれ単独及びこれらの少なくとも2種の複合繊維の群から選ばれる何れかの繊維からなる織布又は不織布に、塗布させて熱圧着させることなく、自己被覆コート性を発揮させ、且つその被覆コートされた樹脂成分に、優れる耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能が賦与されていることを特徴とする機能性布地を提供する。
【0025】
また、本発明によれば、布地にこのような自己転着性なる特徴及び撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる布地用水性エマルジョン型樹脂組成物を用いて、更に、この樹脂成分に予め着色性機能を持たせた着色樹脂成分として布地に転着させると、自己転着性としての印刷性又は転写性が発揮される。しかも、その樹脂成分の耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性が活かされて、その印刷又は転写着色樹脂成分にも優れた耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性の機能を賦与させることを特徴とする布地用水性インキ組成物を提供する。
【0026】
すなわち、本発明による布地用の水性インキ組成物においては、自己転着性なる特徴を発揮させて、しかも、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる樹脂成分が、
(1)全重合性モノマー成分の100質量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70重量%の範囲で共重合させて得られ、
(2)ガラス転移点Tg≧−50℃で、且つTg≦10℃の範囲にあるアクリル系共重合体粒子であって、
更には、
(3)予め油性染料の0.1〜50質量%を内包着色する着色樹脂成分である。
しかも、
(4)このグリシジル基を含有するアクリル系共重合体粒子は、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子である。
従って、本発明による水性インキ組成物中に含有する樹脂成分は、
(5)平均粒子径≦100nmサイズの「着色ナノマテリアル」樹脂成分として含有し、しかも、その超微細ポリマー粒子表面には、グリシジル基が存在している。
【0027】
更には、本発明によれば、各種の布地に、様々な図柄及び/又は文字を印刷又は転写させる本発明による布地用水性インキ組成物を用いて、印刷又は転写着色樹脂成分が、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性や、防印刷滲み性の機能を賦与される所望する図柄及び/又は文字が印刷又は転写されていることを特徴とする印刷布地を提供する。
【0028】
すなわち、布地に対して自己転着性を発揮させる超微細粒子の「着色ナノマテリアル」なる樹脂成分を含有する本発明による布地用水性インキ組成物を、布地に転着させることで、含有する「ナノマテリアル」なる着色樹脂成分の自己転着性が活かされて、特に熱圧着させることなく布地に自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させる。
【0029】
これによって、通常の各種の印刷法又はインクジェット法で、被印刷体である天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のそれぞれ単独及びこれらの少なくとも2種の複合繊維の群から選ばれる何れかの繊維からなる織布又は不織布に、熱圧着させることなく自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させ、この着色樹脂成分による所望する図柄及び/又は文字が、布地に印刷又は転写される。
【0030】
更には、熱圧着せずに布地に印刷又は転写された図柄及び/又は文字の着色樹脂成分には、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性や、防印刷滲み性の機能が賦与されている印刷布地である。
【発明の効果】
【0031】
以上から、本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物を、布地に塗布させると、含有する平均粒子径が100nm以下の超微細ポリマー粒子である「ナノマテリアル」樹脂成分が、布地の微細な繊維間隙にも効果的に浸透して布地繊維に効果的に馴染ませることができる。また、その「ナノマテリアル」樹脂成分のアクリル系共重合体粒子表面には、グリシジル基が、頭出し状になるように形成されている。このようなグリシジル基を介して、布地繊維に効果的にインタラクトさせる。
【0032】
しかも、この超微細ポリマー粒子のナノマテリアル樹脂成分のガラス転移点Tg≧−50℃で、且つTg≦10℃の範囲にあることから、布地に塗布又は転着後、自然乾燥程度の温度雰囲気下においても、そのTgにより、この超微細ポリマー粒子は、布地に馴染み・浸透して転着又は被覆コートさせる。
【0033】
このような超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル」樹脂成分が、発揮させるインタラクションから、本発明による布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物中に含有する樹脂成分は、従来の転着樹脂成分とは著しく相違して、熱圧着を要せずに、布地に優れた自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させる。しかも、このようなインタラクションによって、布地に転着又は被覆コートされる機能性樹脂成分には、優れる耐洗濯性が発揮される。
【0034】
また、本発明による樹脂成分が、このように自己転着性又は自己被覆コート性又は耐洗濯性なる特徴を発揮させることから、この樹脂成分に着色性、撥油性、防汚性等を含めた各種の機能を持たせることで、布地に転着又は被覆コート、または、印刷又は転写させて様々な機能性布地や、印刷布地にすることができる。
【0035】
また、このように布地に印刷又は転写される着色樹脂成分中のインキ成分は、本発明においては、着色超微粒子内に内包されているインキ成分(又は油溶性染料)である。従って、布地に印刷後、本発明による自己印刷性又は自己転写性を有するインキ成分は、[印刷又は転写樹脂成分]→[布地の繊維間隙間]方向への移行(又は拡散流失)を著しく困難にさせる。印刷又は転写させた図柄及び/又は文字部位からのインキ成分の滲み出を困難にさて、所謂、防印刷滲み性、耐マーカー性を効果的に発揮させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明による布地に自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させる水性エマルジョン型樹脂組成物及び自己印刷性又は自己転写性の布地用水性インキ組成物について、その実施に係わる最良の形態について更に説明する。
【0037】
既に説明する如く、布地に対して自己転着性又は自己被覆コート性及び自己印刷性又は自己転写性を発揮させる本発明による布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物中に含有する樹脂成分は、
(イ)全重合性モノマー成分の100重量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70重量%の範囲で得られ、しかも、そのガラス転移点Tg≧−50℃で、Tg≦10℃の範囲にある低Tgのアクリル系共重合体粒子である。
(ロ)そのアクリル系共重合体粒子の体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル」樹脂成分であることを特徴としている。
【0038】
また、布地に対して自己印刷性又は自己転写性を発揮させる本発明による布地用水性インキ組成物中に含有する樹脂成分は、
(ハ)上記(イ)及び(ロ)に記載する特徴に加え、更なる特徴として、油性染料が0.1〜50質量%の範囲で内包着色されている「着色ナノマテリアル」樹脂成分であることを特徴としている。
【0039】
本発明において、樹脂成分として用いられるアクリル系共重合体粒子は、全重合性モノマー成分当たり、好ましくは、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70質量%の範囲で得られる共重合体ポリマー粒子であって、この共重合性モノマー成分量が、下限値の10質量%未満では、グリシジル基の含有量が充分でなく自己転着性又は自己被覆コート性が低下することから好ましくなく、一方、上限値の70質量%を超えると、繊維微細間隙や内部に浸透し難くなることから好ましくない。
【0040】
また、本発明において、このような共重合下に得られる共重合体ポリマー粒子は、好ましくは、そのガラス転移点Tg≧−50℃で、且つTg≦10℃の範囲にある低Tgのアクリル系共重合体粒子である。このTgの下限値が−50℃未満であると、粘着性が強すぎてべとつき感を呈することから好ましくなく、一方、このTgの上限値10℃を超えると、自然温度雰囲気下に粘着性を著しく低下させることから好ましくない。Tgは、FOXの式に基づき計算する。
【0041】
また、本発明において、このような共重合下に得られる共重合体ポリマー粒子の平均粒子径は、体積基準で表して5〜100nmの超微細粒子で、好ましくは、10〜60nmの範囲にあるナノマテリアル樹脂成分として適宜好適に用いられる。この平均粒子径が、下限値の5nm未満であると、粒子が布地の繊維間隙及び布地面に定着し難くなる等から好ましくなく、一方、この上限値100nmを超えると、布地の繊維微細間隙に浸透し難くなり好ましくない。
【0042】
そこで、本発明において、以上のような特徴を有する樹脂成分としてのアクリル系共重合体粒子を調製させるに際して、既に説明する理由から、「グリシジル基を有するモノマー」を適宜使用する。その具体的なグリシジル基を有するモノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチルアクリル酸グリシジル、クロトニルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジルなどのグリシジル基含有ビニル化合物;β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート;エポキシ基を有するグリシジルビニルエーテル、グリシジルビニルエステル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。中でも、本発明において、共重合性や重合反応率の高さから、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。
【0043】
また、本発明におけるアクリル系共重合体粒子を調製させるに用いられる「官能基を有さないアクリル系モノマー」として、例えば、(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸ラウリル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル等のアクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の芳香族(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等のアクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。
【0044】
また、必要に応じて、本発明による超微細アクリル系共重合体粒子に、その自己転着性又は自己被覆コート性等の特性を阻害させない限りにおいて、例えば、撥水性等の機能を賦与させるために、その他の撥水性樹脂成分を適宜添加させることができる。例えば、従来から周知のフッ素系化合物として、パーフロオロエチレン,パーフロオロプロピレン,フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマーや、例えば、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル,(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル−2−パ−フルオロブチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル,(メタ)アクリル酸パ−フルオロメチル,(メタ)アクリル酸ジパ−フルオロメチルメチル等のフッ素置換(メタ)アクリル酸系モノマーを挙げられる。
【0045】
また、本発明において、後述する乳化重合法で、上記した超微細ポリマー粒子を樹脂成分として含有する水性エマルジョン型樹脂組成物又は油溶性染料を内包着色する超微細ポリマー粒子を着色樹脂成分として含有する水性インキ組成物を調製させるに際して、これらの超微細アクリル系共重合体粒子が発揮させる自己転着性又は自己被覆コート性等の特性を阻害させない限りにおいて、必要に応じて、この超微細アクリル系共重合体粒子に、架橋構造を適宜導入・形成させることができる。その架橋剤として、2官能性以上の多官能性モノマーを適宜好適に用いることができる。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート等を挙げることができる。本発明において、このような多官能性モノマーは、既に上述した超微細ポリマー粒子の100質量%当たり、好ましくは、0.1〜10質量%範囲で適宜好適に使用することができる。
【0046】
また、本発明による布地用水性インキ組成物中に分散する「着色ナノマテリアル」樹脂成分は、本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物に含有する超微細ポリマー粒子に、予め油性染料を内包着色させた着色超微細ポリマー粒子である。
【0047】
そこで、乳化重合法によって、この超微細ポリマー粒子に内包着色させる油溶性染料は、上記するアクリル系モノマーに溶解又は均一に分散する限りにおいて、好ましくは、モノマーより水に溶解し難い油溶性染料であれば特に限定することなく適宜選んで用いられる。その油溶性染料として、例えば、黒色のOlesolol Fast Black,BONJET BLACK CW−1,Solvent Black 27Cr(3価)5%含有,Pigment Black7/水、赤色のVALIFAST RED3306,Olesolol Fast RED BL,Solvent RED8Cr(3価)5.8%含有、青色のカヤセットブルー,Solvent Blue 35、黄色のALIFAST YELLOW4120,Oil Yellow129,Solvent Yellow16,Solvent Yellow33,Disperse Yellow 54、レモン色のPiast Yellow 8005、緑色のOil Green 502,Opias Green502,マゼンダのVALIFAST PINK2310N,Plast RED D−54,Plast RED 8355,Plast RED 8360,Plast Vioiet8850,Disperse Violet 28,Solvent RED149,Solvent RED49,Solvent RED 52,シアンのVALIFAST BLUE2610,VALIFAST BLUE 2606,Oil BLUE650,Plast BLUE8580,Plast BLUE8540,Oil BLUE 5511,オレンジのOil Orange201,VALIFAST ORANGE 3210,Solvent Orange 70,カヤセットオレンジG、ブラウンのVALIFAST BROWN 2402,Solvent Yellow116,Kayaset Flavine FG等を挙げることができる。
【0048】
また、例えば、ソルベントブルー,ソルベントレッド,ソルベントオレンジ,ソルベントグリーン,ルモゲンFオレンジー等が挙げられる。また、例えば、クラリン系、ペリレン系、ジシアノピニル系、アゾ系、キノフタロン系、アミノピラゾール系、メチン系、ジシアノイミダゾール系、インドアニリン系、フタロシアニン系等の筆記記録液に通常使用されている染料や、感熱記録紙や感温色材として用いられるロイコ染料や、また、例えば、ローダミンBステアレート(赤色215号),テトラクロルテトラブロムフルオレセン(赤色218号),テトラブロムフルオレセン(赤色223号),スダンIII(赤色225号),ジブロムフルオレセイン(橙色201号),ジヨードフルオレセイン(橙色206号),フルオレセイン(黄色201号),キノリンエローSS(黄色204号),キニザリングリーンSS(緑色202号),アズリンパープルSS(紫色201号),薬用スカーレット(赤色501号),オイルレッドXO(赤色505号),オレンジSS(橙色403号),エローAB(黄色404号),エローOB(黄色405号),スダンブルーB(青色403号)等の化粧品に使用されているタール系染料をも挙げることができる。
【0049】
また、本発明において、これらの染料の単独又は2種以上を混合させて使用することができる。また、必要に応じて各種の直接染料、酸性染料、塩基性染料、アゾイック染料、反応性染料、蛍光染料及び蛍光増白剤等を所望する色調等に応じて適宜選んで使用することができる。本発明において、質量基準で表わして、この超微細ポリマー粒子のナノマテリアル樹脂成分の100質量%当たり、0.1〜50質量%の範囲で、好ましくは、0.5〜20質量%の範囲で適宜好適に内包着色させることができる。
【0050】
そこで、本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物又は布地用水性インキ組成物を転着又は被覆コート、または、印刷又は転写させる被転着体又は被被覆コート体、または、被印刷体又は被転写体である布地として、本発明においては、例えば、綿・コットン、麻、ウール、シルク、カシミヤ等の天然繊維;レーヨン、キュプラ、テンセル等の再生繊維;アセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ビニロン、ビニリデン、ポリウレタン、ポリアミド等合成繊維のそれぞれ単独繊維及びこれらの少なくとも2種の複合繊維の群から選ばれる何れかの繊維からなる織布又は不織布等を挙げることができる。中でも、従来の技術では、被覆コート又は印刷させるに種々障害を発生させる綿・コットン、ポリエステル等の布地に対しても、バインダーレスで、しかも、熱圧着させることなく、転着又は被覆コート、または、印刷又は転写させることができる。
【0051】
また、上記する布地に本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物又は水性インキ組成物を転着又は被覆コート、または、印刷又は転写させるには、従来から公知であるブレードコータ、エアーナイフコート、ロールコート、バーコータ、グラビヤコータ、ロッドブレードコータ、ダイコータ、インクジェット塗工、または、凸版印刷、グラビヤ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等を挙げることができる。
【0052】
<その他の添加剤及び機能剤>
また、本発明による超微細ポリマー粒子又は着色超微細ポリマー粒子のナノマテリアル樹脂成分中には、このような超微細粒子径を有する粒子形成を阻害させたり、又は上記する如くのナノマテリアル樹脂成分が発揮する特徴及び機能発現を阻害させたりしない限りにおいて、必要に応じて、それ自体公知のその他の添加剤及び機能剤を添加又は配合させて、これらの添加・配合剤に基づく機能及び作用を反映させることができる。例えば、分散剤、分散安定剤、キレート化剤、防カビ剤、防腐剤、タレ止め防止剤、表面張力調整剤、PH調整剤、消泡剤、防錆剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、抗菌・防カビ剤、蛍光剤、有機EL発光剤、香料、各種薬効成分等を適宜用いることができる。
【0053】
<本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物の調製>
そこで、自然乾燥下に布地に自己転着又は自己被覆コート性を発揮させ、しかも、優れる耐洗濯性を有して、布地に撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物の調製法について以下に説明する。
【0054】
そこで、既に説明する如く、本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物は、通常の乳化重合法を用いて調製される平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子で、しかも、ガラス転移点Tg≧−50℃で、Tg≦10℃の低Tgなる「ナノマテリアル樹脂成分」を含有する水性エマルジョン型樹脂組成物である。
本発明によれば、
(1)このナノマテリアル樹脂成分は、800〜950質量部の水相中に、例えば、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩10〜16質量部と、例えば、メタノール10〜12質量部とを添加させて、撹拌下に75〜90℃に昇温させた後、所定量の過硫酸アンモニウムを添加させる。
(2)次いで、撹拌下の70〜80℃加温下に、官能基を持たない所定の重合性アクリル系モノマーの所定量と、グリシジル基を有する所定の重合性アクリル系モノマー(又は含グリシジル基モノマー)の所定量との全重合性モノマー成分100質量%に対して、この含グリシジル基モノマー成分の10〜70質量%範囲の所定量と、追加所定量の乳化剤と共に、1.5〜3時間を要して注下乳化重合及び熟成させる。
(3)その結果、略100%重合率下に超微細ポリマー粒子としての樹脂成分が、固形分濃度10〜16%である水性エマルジョン反応物として調製される。また、このように調製される本発明による超微細ポリマー粒子は、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの範囲にあるナノマテリアル樹脂素材として適宜好適に調製される。また、本発明においては、略100%の重合率で得られることから、適宜容易にTg≧−50℃で、且つTg≦10℃である所定の低Tgを有する超微細ポリマー粒子を調製することができる。
【0055】
以上のような乳化重合法によって調製される本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物は、布地に塗布させ自然乾燥温度雰囲気下である非熱圧着下に、自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させて、その転着又は被覆コート樹脂成分によって、布地に各種の機能を賦与させる布地用水性エマルジョン型樹脂組成物として適宜好適に布地に転着又は被覆コートされる。
【0056】
以上のような乳化重合法によって調製される「ナノマテリアル樹脂成分」を含有する本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物は、既に説明する如く、布地に塗布させた後、自然温度乾燥下に、良好な自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させる。また、その転着又は被覆コート樹脂成分によって、布地に各種の機能を賦与させることができる。
【0057】
そこで、本発明において、上記する乳化重合に用いる乳化剤は、従来から、通常に、乳化剤として使用されているアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤又は必要に応じてノニオン系界面活性剤等から適宜選んで、その単独又は組合わせて使用することができる。例えば、アニオン系界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート等が挙げられ、カチオン系界面活性剤;セチルトリメチルアンモニウムプロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、また、ノニオン系界面活性剤;リピリジニウム等が挙げられる。さらに、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基を有する反応性乳化剤を使用することができる。これらの乳化剤は、特に限定することなく使用される。本発明において、これらの乳化剤は、上記するアクリル系モノマー等の重合性モノマー100質量部に対して、0.1〜50質量部で、好ましくは0.5〜20質量部の範囲で適宜添加させることができる。
【0058】
また、この添加量に係わって従来の知見からすると、下限値方向の添加量では、得られる樹脂微粒子の粒子径が大き目の傾向に形成され、一方、上限値方向の添加量では、その粒子径が小さ目の傾向に形成される。本発明においても、所定の撹拌速度下に油溶性染料が内包着色固定する樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準で表して5〜100nm範囲に適宜調製することができる。
【0059】
また、本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物中に含有する水性媒体としては、主水性成分の水相中に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフラン等から適宜に選ばれる何れかの水溶性有機溶媒を含有させることができる。
【0060】
<本発明による布地用水性インキ組成物の調製>
本発明によれば、布地に塗布させた後、熱圧着させることなく、自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させる本発明による布地用水性インキ組成物は、既に上記した本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物中に、含有する「ナノマテリアル樹脂成分」の超微細ポリマー粒子に、油溶性染料を内包着色させてなる「着色ナノマテリアル樹脂成分」の着色超微細ポリマー粒子の樹脂成分がインキ成分となるものである。
【0061】
以上から、通常の乳化重合法で、非熱圧着下に、自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させ、しかも、その印刷又は転写着色樹脂成分には、優れる耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性機能や、防印刷滲み性等を発揮させる本発明による水性インキ組成物の調製法について以下に説明をする。
【0062】
本発明によれば、
(1)「着色ナノマテリアル樹脂成分」は、800〜950質量部の水相中に、例えば、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩10〜16質量部と、例えば、水溶性有機溶剤としてメタノール10〜12質量部とを添加させて、撹拌下に75〜90℃に昇温させた後、所定量の過硫酸アンモニウムを添加させる。
(2)次いで、撹拌下の70〜80℃加温下に、官能基を持たない所定の重合性アクリル系モノマーの所定量と、グリシジル基を有する所定の重合性アクリル系モノマー(又は含グリシジル基モノマー)の所定量との全重合性モノマー成分100質量%に対して、この含グリシジル基モノマー成分の10〜70質量%範囲の所定量と、追加所定量の乳化剤と、更に、所定の油溶性染料を、共重合させて得られる共重合体ポリマー粒子の100質量%当たり0.1〜50質量%の範囲で内包着色させる所定の油溶性染料と共に、1.5〜3時間を要して注下乳化重合させた後、70〜80℃で25〜45分保持後、85℃に昇温させて1〜2時間保持・熟成させる。
(3)その結果、着色超微細ポリマー粒子としての固形分濃度10〜15%である水性エマルジョン反応物が調製される。また、このように調製される着色超微細ポリマー粒子は、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの範囲にある「着色ナノマテリアル」樹脂成分であって、この着色樹脂成分が、所謂インキ成分である。
【0063】
また、本発明による水性エマルジョン型樹脂組成物中に含有する水性媒体としては、主水性成分の水相中に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフラン等から選ばれる何れかの水溶性有機溶媒を含有させることができる。また、本発明においては、このような水性有機媒体は、内包着色させる油溶性染料を乳化重合下に効果的に内包固定させて染料着色樹脂粒子を形成させるに際して、所謂、染料親水化助剤として作用させる水性有機媒体でもある。
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例にいささかも限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
本実施例において、水性媒体中に、その粒子表面にグリシジル基が頭出し状に形成され、しかも、ガラス転移点(Tg);−50℃≦Tg≦10℃である体積基準で表す平均粒子径が100nm以下の超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」を分散する本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物を調製する。次いで、この用水性エマルジョン型樹脂組成物を、布地に被覆コートさせた後、ホットプレスすることなく、自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させて、その転着又は被覆樹脂成分によって、布地に耐洗濯性を有する撥油性、防汚性の機能が賦与されている機能性布地について以下に説明する。
【0065】
<<本発明による自己転着又は自己被覆コート性の布地用水性エマルジョン型樹脂組成物の調製>>
本発明によれば、
(1)温度計と窒素導入管とを装着した容量1リットルの四つ口フラスコに、イオン交換水900質量部と乳化剤のドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩の14質量部と、メタノール11.2質量部を添加し、85℃まで昇温し、過硫酸アンモニウムを0.5質量部添加した。
(2)次いで、温度を76〜78℃に保ちながら、
・アクリル酸ブチル(BA)の90質量部と、
・メタクリル酸グリシジル(GMA)の10質量部と、
を乳化剤のドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩1重量部と共に、2時間かけて注下させて共重合させた後、更に、76〜78℃で30分保持させた後、85℃まで昇温させて1.5時間保持・熟成を行った。
(3)その結果、重合率は約100%で、Tg=−48℃である平均粒子径が23.6nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として14.5%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0066】
<<機能性布地の調製>>
次いで、10cm角の木綿製布地に噴霧器で上記する水性エマルジョン反応物を均一に塗布させ、室温温度雰囲気下に充分乾燥させた後、この布地を「洗濯用洗剤で手洗い」⇔「室温乾燥」の洗濯サイクルを10回行った布地上の四箇所に、市販の油性インキ滴をスポットさせた。次いで、3時間放置後、薄い洗剤液中で軽く手洗いした布地には、全く油質の痕跡や、インキ滴による汚染の痕跡が見られなかった。以上から、本発明による超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」を含有する布地用水性エマルジョン型樹脂組成物を、布地に被覆コートさせた後、ホットプレスさせることなく、自己転着又は自己被覆コートされて、布地に耐洗濯性を有する撥油性、防汚性の機能を賦与させることができた。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)の10質量部とを、BAの70質量部と、GMAの30質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、水性エマルジョン反応物を調製した。その結果、重合率は約100%で、Tg=−32℃である平均粒子径が24nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として14%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)の10質量部とを、BAの50質量部と、GMAの50質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、水性エマルジョン反応物を調製した。その結果、重合率は約100%で、Tg=−14℃である平均粒子径が25nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として14%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)の10質量部とを、BAの35質量部と、GMAの65質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、水性エマルジョン反応物を調製した。その結果、重合率は約100%で、Tg=2℃である平均粒子径が25nmの超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として13%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)10質量部を、BAの100質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして水性エマルジョン反応物を調製した。その結果、重合率は約100%で、Tg=−55℃、平均粒子径が24nm、固形分濃度14%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0071】
(比較例2)
実施例1において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)10質量部を、BAの23質量部及びGMAの77質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして水性エマルジョン反応物を調製した。その結果、重合率は約100%で、Tg=15℃、平均粒子径が24nm、固形分濃度12%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0072】
(実施例5)
本実施例において、その粒子表面にグリシジル基が存在し、ガラス転移点(Tg)が−50℃≦Tg≦10℃である体積基準で表す平均粒子径が100nm以下の超微細ポリマー粒子の「着色ナノマテリアル樹脂成分」を、水性媒体中に分散している本発明による布地用水性インキ組成物を調製する。
【0073】
<<本発明による自己印刷又は自己転写性の布地用水性インキ組成物の調製>>
本発明によれば、
(1)温度計と窒素導入管とを装着した容量1リットルの四つ口フラスコに、イオン交換水900質量部と乳化剤のドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩の14質量部と、メタノール11.2質量部を添加し、85℃まで昇温し、過硫酸アンモニウムを0.5質量部添加した。
(2)次いで、温度を76〜78℃に保ちながら、
・アクリル酸ブチル(BA)90質量部と、
・メタクリル酸グリシジル(GMA)10質量部と、
・油溶性染料Solvent RED 49の5質量部と、
乳化剤のドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩の1重量部とを2時間かけて注下させて重合を行った。更に、76〜78℃で30分保持した後、85℃まで昇温しその温度で1.5時間保持・熟成を行った。
(3)その結果、重合率は約100%であり、平均粒子径が24nmの超微細ポリマー粒子の「着色ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として15%の水性エマルジョン反応物が得られた。なお、この「着色ナノマテリアル樹脂成分」のガラス点移転Tg=−48℃である。
【0074】
<<綜研化学(株)のロゴ・マーク「S字図形」の印刷>>
次いで、この水性インキ組成物を、10cm角のポリエステル製布地上に、綜研化学(株)のロゴ・マークである「S字図形」をくり抜いた1mm厚のPETマスク・フイルムを重ねた上から、この水性インキ組成物を筆で転着させた。次いで、ホットプレスすることなく、室温雰囲気下に3時間放置乾燥させた。
この布地を「洗濯用洗剤で手洗い」⇔「室温乾燥」の洗濯サイクルを10回行った布地上のS字図形の色調変化評価法によって、印刷「S字図形」の印刷性又は転写性及びその耐洗濯性を評価してその結果を表1に示した。
また、サイクル洗濯する前の印刷「S字図形」上に、市販の青色の油性インキを2箇所スポットさせた後、室温下3時間放置させた後、薄い洗剤液中で手洗いした印刷「S字図形」上には、全く青色の油質痕跡や、青色インキの汚染痕跡が見られなかった。以上から布地の印刷「S字図形」には、耐撥油性及び防汚性が賦与されていることが理解される。
【0075】
(比較例3)
実施例5において、アクリル酸ブチル(BA)の90質量部を、メタクリル酸ブチル(BMA)の90質量部に変えて、得られる樹脂成分のとした以外は、実施例1と同様にして「着色ナノマテリアル樹脂成分」調製した。その結果、重合率は約100%であり、Tg=22℃、平均粒子径が20nmの超微細ポリマー粒子の「着色ナノマテリアル樹脂成分」が固形分濃度として12%の水性エマルジョン反応物が得られた。
【0076】
<<色調変化評価法による耐洗濯性等の評価法>>
実施例5及び比較例3で得られた水性インキ組成物の固形分をそれぞれ6%に調整しポリエステルの布地にそれぞれ転着させて乾燥させた。
・そのまま室温下に充分乾燥したものをブランクとし、
・洗濯用洗剤で手洗いしたもの、必要に応じて、アイロンで加熱したのち洗濯用洗剤で手洗いしたもの、
・「洗濯用洗剤で手洗い」⇔「室温乾燥」洗濯サイクルを10回サイクルさせたもの、
の色調変化を測定機[カラーエースMODEL TC-PIII(東京電色(株))により測定し、L*a*b*表色系の値(L*値、a*値、b*値)を求め、ブランクとの色差ΔE*=(ΔL*2+Δa*2+Δb*2)1/2により色落ちから、「印刷性又は転写性」及びその「耐洗濯性」を評価した。
なお、L*値は明度(黒、白)を表し、数値の増加方向は黒方向である。また、a*値及びb*値は色相及び彩度を表すものであり、a*値は赤、緑の指標あって、数値の増加方法は赤方向を示し、b*値は黄、青の指標であり数値の増加方向は黄色を示す。
【0077】
【表1】


表1に示す結果ら、本発明による布地用水性インキ組成物は、ホットプレスすることなく、布地に自己転着性としての優れた印刷又は転写性を呈し、また、その印刷樹脂成分が極めて耐洗濯性を有していることがよく理解される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上から、本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物、または、布地用水性インキ組成物は、それぞれ、超微細ポリマー粒子の「ナノマテリアル樹脂成分」及び着色超微細ポリマー粒子の「着色ナノマテリアル樹脂成分」の単独樹脂成分からなる水性エマルジョンであって、布地にホットプレスすることなく、しかも、特にバインダー樹脂成分を用いることなく、自己転着又は自己被覆コート、または、自己印刷又は自己転写させることができることを特徴としている。
【0079】
以上から、本発明による布地用水性エマルジョン型樹脂組成物及び布地用水性インキ組成物を用いることで、従来の機能性被覆材や、水性インキには不可能であったホットプレスすることなく、各種の天然繊維及び/又は合成繊維からなる織布又は不織布に、様々な機能を賦与させた機能性布地や、様々な図柄及び文字を印刷させた印刷布地を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然乾燥下に布地に自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させ且つ転着又は被覆コートされた樹脂成分に、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物であって、
水性媒体中に分散する樹脂成分が、全重合性モノマー成分100質量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分が10〜70質量%の範囲で共重合させて得られるガラス転移点Tg≧−50℃で、且つTg≦10℃の範囲にあるアクリル系共重合体粒子であり、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子であるナノマテリアル樹脂成分として、熱圧着を要せずに布地に自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させることを特徴とする布地用水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載する布地用水性エマルジョン型樹脂組成物を、被覆コート体である天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のそれぞれ単独及びこれらの少なくとも2種の複合繊維の群から選ばれる何れかの繊維からなる織布又は不織布に塗布させ、熱圧着を要せずに自己被覆コート性を発揮させて、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性機能が賦与されていることを特徴とする機能性布地。
【請求項3】
自然乾燥下に布地に自己転着性又は自己被覆コート性を発揮させ且つ転着又は被覆コートされた樹脂成分に、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性等の機能を賦与させる布地用の水性エマルジョン型樹脂組成物であって、
水性媒体中に分散する樹脂成分が、全重合性モノマー成分100質量%当たり、グリシジル基を有する共重合性モノマー成分の10〜70質量%の範囲で共重合させて得られるガラス転移点Tg≧−50℃で、且つTg≦10℃の範囲にあるアクリル系共重合体粒子であり、体積基準で表す平均粒子径が5〜100nmの超微細ポリマー粒子であって、更に、油溶性染料0.1〜50質量%を内包着色する着色ナノマテリアル樹脂成分として、熱圧着を要せずに布地に自己転着性としての印刷性又は転写性を発揮させる前記着色ナノマテリアル樹脂成分に、耐洗濯性を有する撥油性や、防汚性機能を賦与させることを特徴とする布地用水性インキ組成物。
【請求項4】
請求項3に記載する布地用水性インキ組成物を用いて、被印刷体又は被転写体である天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のそれぞれ単独及びこれらの少なくとも2種の複合繊維の群から選ばれる何れかの繊維からなる織布又は不織布上に、所望する図柄及び/又は文字が印刷又は転写されていることを特徴とする印刷布地。

【公開番号】特開2007−9350(P2007−9350A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189084(P2005−189084)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】