説明

希土類オキシ硫化物蛍光体及び蛍光表示管

【課題】オキシ硫化物蛍光体の輝度特性をより向上させる。
【解決手段】本実施の形態における蛍光体105は、表面にアルカリ金属が担持された希土類オキシ硫化物蛍光体から構成されているようにしたものである。希土類オキシ硫化物蛍光体は、M22S:N(MはY,La及びGdの中から選択された少なくとも1種の元素、NはPr,Tb及びEuの中から選択された少なくとも1種の元素)で示されるものであり、例えば、Y22S:Eu,La22S:Eu,Gd22S:Eu,及びGd22S:Tbなどである。また、アルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,及びCsの中から選択されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素のオキシ硫化物よりなる希土類オキシ硫化物蛍光体及びこの希土類オキシ硫化物蛍光体を用いた蛍光表示管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、蛍光体は、蛍光表示管やCRT(Cathode Ray Tube)などの表示装置に用いられている。例えば、ZnO:Znなどの酸化物系の蛍光体は、緑色の発光が得られる蛍光体として最も発光効率が高く幅広く適用されている。また、赤色から赤橙色の発光が得られ、かつ、Cdを含まない蛍光体として、Y,La,Gdなどの希土類元素のオキシ硫化物蛍光体である、Y22S:Eu,La22S:Eu,Gd22S:Euが注目されている(特許文献1,2,3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−012165号公報
【特許文献2】特開平11−167868号公報
【特許文献3】特開2003−147354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した赤色用蛍光体は、現状では輝度及び寿命特性共に不足しており、様々な検討がなされている。例えば、特許文献1,2では、オキシ硫化物蛍光体の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気で蛍光体の焼成を行うようにしている。しかしながらこのように作製したオキシ硫化物蛍光体でも、要求されている輝度及び寿命特性が得られていない。
【0005】
また、特許文献3では、Y22S:Euなどの蛍光体にアルカリ土類金属元素を添加して再焼成し、アルカリ土類金属の酸化物で蛍光体表面を覆い、残留ガスを吸着して蛍光体の寿命を改善するようにしている。しかしながら、この技術においても、ある程度の寿命特性の改善は認められるものの、初期輝度の向上などの改善は得られず、輝度特性は不十分である。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、オキシ硫化物蛍光体の輝度特性をより向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る希土類オキシ硫化物蛍光体は、表面にアルカリ金属を含む物質が担持されたものである。なお、アルカリ金属を含む物質は、アルカリ金属及びアルカリ金属の化合物の少なくとも1つである。また、アルカリ金属を含む物質は、希土類オキシ硫化物蛍光体とアルカリ金属の化合物とを混合して焼成することで、希土類オキシ硫化物蛍光体の表面に担持されたものである。なお、蛍光表示管に本希土類オキシ硫化物蛍光体を加える場合は、導電処理剤を添加して用いるのがよい。
【0008】
また、本発明に係る蛍光表示管は、上記の希土類オキシ硫化物蛍光体を用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、希土類オキシ硫化物蛍光体の表面にアルカリ金属を含む物質を担持させるようにしたので、希土類オキシ硫化物蛍光体の輝度特性をより向上させることができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における希土類オキシ硫化物蛍光体を用いた蛍光表示管の構成例を模式的示す断面図である。この蛍光表示管は、ガラス基板101上に配線層102が形成され、配線層102上には絶縁層103が形成されている。また、絶縁層103の上には所定の位置にアノード電極104が形成され、アノード電極104は、絶縁層103に開けられたスルーホール103aを介して、配線層102の所定位置に接続している。また、アノード電極104の上には蛍光体層105が形成され、蛍光体層105の上部には、グリッド106が配置され、グリッド106の上方にフィラメント107が配置されている。
【0011】
一方、ガラス基板101の端部には、スペーサガラス108が配置され、スペーサガラス108の上にガラス基板101に対向して透明なフロントガラス109が配置されている。ガラス基板101とスペーサガラス108とは、フリットガラス110により封着され、同様に、スペーサガラス108とフロントガラス109とは、フリットガラス110により封着され、これらで外囲器を構成している。また、ガラス基板101の外囲器内部の一部(周辺部)に、配線層102に接続する電極111が形成され、電極111には、外部との接続のためのリード112が接続している。リード112は、スペーサガラス108とガラス基板101との接触部のフリットガラス110を通して外部に取り出されている。
【0012】
本実施の形態における蛍光体層105は、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物などのアルカリ金属を含む物質が表面に担持された希土類オキシ硫化物蛍光体から形成されているようにしたものである。言い換えると、蛍光体層105を形成する蛍光体は、希土類オキシ硫化物から構成し、この希土類オキシ硫化物の粒子の表面にアルカリ金属を含む物質が担持されているようにしたものである。なお、蛍光体層105には、導電処理材として、例えば、酸化インジウム(In23)が、母体に対して10wt%程度添加されている。ここで、担持とは、アルカリ金属を含む物質が化学的,物理的,又は電気的に希土類オキシ硫化物蛍光体粒子の表面と結合している状態を表現したもので、例えば、Rbもしくはこの化合物がGd22S:Eu蛍光体粒子の表面に付着しているような状態を示す。
【0013】
本実施の形態における希土類オキシ硫化物蛍光体は、M22S:N(MはY,La及びGdの中から選択された少なくとも1種の元素、NはPr,Tb及びEuの中から選択された少なくとも1種の元素)で示されるものであり、例えば、Y22S:Eu,La22S:Eu,Gd22S:Eu,及びGd22S:Tbなどである。また、アルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,及びCsの中から選択されたものである。
【0014】
このように、希土類オキシ硫化物粒子の表面にアルカリ金属を含む物質を担持して構成した蛍光体によれば、従来の希土類オキシ硫化物蛍光体に比較して、後述するように、より高い輝度が得られるようになり、また、より高い輝度が得られる時間(寿命)もより長くなる。このような蛍光体は、希土類オキシ硫化物蛍光体にアルカリ金属化合物を添加して焼成することによって得ることができる。ここで、添加されるアルカリ金属化合物の量は、希土類オキシ硫化物蛍光体に対して、重量比で0.001〜10wt%の範囲とすればよい。添加量が0.001wt%より小さいと、輝度の向上効果が得られない。同様に、添加量が10wt%を越えると、添加していない場合より輝度が低下し始めることが確認されている。
【0015】
また、導電処理材は、酸化インジウムに限らず、酸化インジウム ・スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カルコゲン化亜鉛、窒化ガリウム及び窒化インジウムからなる群より選択されたものであればよい。よく知られているように、導電処理剤を添加することで、電子衝撃による蛍光体のチャージアップを抑制することができる。
【0016】
次に、本実施の形態における蛍光体の製造方法について説明する。まず、例えばGd22S:Eu蛍光体の粉末(粉体)を用意する。Gd22S:Eu蛍光体の粉末の平均粒径は、例えば1〜2μm程度である。なお、平均粒径は、ブレーン法、又は電子顕微鏡観察による統計的な方法により求めることができる。
【0017】
次に、炭酸ルビジウム(Rb2CO3)の10%水溶液を用意する。所定量のGd22S:Eu蛍光体の粉末を純水に懸濁(分散)させ、これに、上記炭酸ルビジウム水溶液を添加する。炭酸ルビジウム水溶液の添加量は、Gd22S:Eu蛍光体に対する炭酸ルビジウムの重量比が0.2%程度となるような条件とする。例えば、Gd22S:Eu100gを純水100gに懸濁させ、これに、炭酸ルビジウム10%水溶液を2g添加する。これをよく撹拌してから、125℃に加熱して十分に乾燥させる。このようにすることで、Gd22S:Eu蛍光体の表面に、Rb2CO3の微粒子が付着した状態(Gd22S:Eu蛍光体とRb2CO3との混合粉末)が得られる。
【0018】
上述したように作製した混合粉末を、不活性な雰囲気もしくは弱還元性の雰囲気(非酸化性雰囲気)で、700〜1200℃に加熱して焼成するなど、蛍光体所定の熱処理をする。この処理により、Rb2CO3は熱分解して二酸化炭素が脱離し、Rbが担持したGd22S:Eu蛍光体粒子よりなる蛍光体粉末が得られる。この状態は、Gd22S:Eu蛍光体粒子の表面に原子状のRbが付着している、又は、蛍光体粒子の一部表面において蛍光体を構成する材料とRbとが化合物を形成している場合が考えられる。また、両者の状態がともに存在している場合も考えられる。また、蛍光体粒子を構成する材料とRbとの化合物の層が、蛍光体粒子の一部表面もしくは全面を覆っている場合が考えられる。なお、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなど、潮解性が低く比較的安定しているアルカリ金属化合物を用いる場合、粉末同士を混合して焼成しても良い。
【0019】
この後、上述したことによりRbを担持させたGd22S:Eu蛍光体の粉末に、粒径0.1〜0.2μmの所定量の酸化インジウムの粉末を上述同様に混合し、これらによく知られたビヒクルを加えて混合して蛍光体ペーストを作製する。この蛍光体ペーストを公知のスクリーン印刷法などによりパターニングしてアノード電極の上に蛍光体ペーストパターンを形成し、これを500℃程度の加熱して焼成することで、アノード電極の上に、本実施の形態対の蛍光体による蛍光体層が形成された状態が得られる。
【0020】
このように形成した本実施の形態における蛍光体粒子の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す。図2(a)は10000倍,(b)は50000倍である。図2(a)及び図2(b)において、粒径2〜4μm程度の粒子が、希土類オキシ硫化物であるGd22S:Eu蛍光体であり、これに付着している、0.1〜0.2μm程度の微粒子が酸化インジウムである。また、観察の結果、Rb2CO3の粒子は確認されない。
【0021】
以上のようにして作製することで、Rbもしくはこの化合物が担持したGd22S:Eu蛍光体によれば、アルカリ金属を含む物質を用いていない従来のGd22S:Eu蛍光体に比較し、初期輝度が1.75倍に向上する。また、2000時間後の輝度も、従来に比較して、3倍に向上している。
【0022】
なお、上述では、アルカリ金属としてRbを用いたが、これに限るものではなく、例えば、Li,Na,K,Rb,及びCsであっても、製造方法も含めて同様である。以下、アルカリ金属が含まれる物質を添加していない場合,及び、アルカリ土類金属が含まれる物質を添加した場合を比較例とし、Li,Na,K,Rb,及びCsを添加した場合の初期輝度及び2000時間後の輝度を測定した結果について表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
なお、表1において、全ての例において、希土類オキシ硫化物蛍光体としてGd22S:Eu蛍光体を用いている。また、全ての例において、10wt%のIn23が添加されている。また、全ての例において、作製した蛍光体を、図1を用いて説明したような蛍光表示管に適用させ、この蛍光表示管を駆動電圧50V・デューティー比1/60で駆動させて蛍光体を発光させたときの輝度を測定している。
【0025】
なお、比較例2は、特許文献3に記載されているように、Gd22S:Eu蛍光体の粉末に対して0.2wt%のアルカリ土類金属化合物であるCa(OH)2粉末を添加し、焼成して得られた蛍光体である。一方、実施例1〜5では、各アルカリ金属炭酸塩を添加した後、これを焼成して蛍光体を作製している。
【0026】
表1から明らかなように、アルカリ金属を含む物質を担持させることで、初期輝度が向上し、寿命特性も向上していることが分かる。また、より原子番号の大きいアルカリ金属を含む物質を担持させた場合の方が、特性の向上の効果が大きいことが分かる。
【0027】
なお、図3に示すように、本実施の形態における蛍光体の製造過程で添加するアルカリ金属の化合物(Rb2CO3)の量は、10wt%を越えると、添加しない場合より輝度特性(相対輝度)が低下する。また、添加の量が0.001wt%を越えていれば、輝度特性の向上が見られる。製造過程で添加するアルカリ金属化合物の重量%が、希土類オキシ硫化物蛍光体の粒子に担持させるアルカリ金属を含む物質の量に相当するものと考えられるので、前述したように、希土類オキシ硫化物蛍光体に添加されるアルカリ金属化合物の量は、希土類オキシ硫化物蛍光体に対して、重量比で0.001〜10wt%の範囲とすればよいことが分かる。
【0028】
ここで、上述したように、Gd22S:Eu蛍光体にRb2CO3を混合して焼成することで得られた蛍光体について、考察する。まず、この焼成により、Rb2CO3の熱分解とともに、蛍光体粒子の一部表面において「Gd22S:Eu+Rb2CO3→Gd221-x:Eu+RbOSx+CO2↑」の化学反応が起こり、オキシ硫化物を構成している一部の硫黄が蛍光体粒子より取り除かれる状態が発生するものと考えられる。この結果、蛍光体粒子表面における過剰な硫黄が取り除かれ、輝度特性の向上が得られるものと考えられる。また、上記反応により生成されるRbOSxなどのアルカリ金属と硫黄の化合物は、いわゆる残留ガスを吸着する作用があるため、寿命特性の向上も得られるものと考えられる。
【0029】
これらのことは、他のアルカリ金属及びアルカリ金属の化合物であっても同様であるものと考えられる。例えば、アルカリ金属の水酸化物や、アルカリ金属の硝酸塩であっても同様の効果が得られている。また、上述同様の効果は、赤色から赤橙色の発光が得られるオキシ硫化物蛍光体に限らず、Gd22S:Tbなどの緑色の発光が得られるオキシ硫化物蛍光体に対しても、同様の効果が得られている。
【0030】
なお、上述では、図1に示すように、アノード電極104,グリッド106,及びフィラメント107を備える3極構造の蛍光表示管を例に説明したが、本発明の蛍光体は、この3極構造の蛍光表示管に限るものではない。本発明の蛍光体は、発生させた電子を蛍光体に照射して蛍光体を発光させる他の構造の蛍光表示管に適用可能であることは、言うまでもない。特に、本発明の蛍光体は、低速電子線を照射して蛍光体を励起発光させる蛍光表示管に好適である。
【0031】
低速電子線を照射して蛍光体を励起発光させる場合、低速電子線は、蛍光体粒子の表面から中へ深くは侵入せず、表面から数十nmまでしか侵入しない。このため、低速電子線用の蛍光体では、蛍光体粒子の表面での励起発光が主となり、蛍光体粒子の表面状態が発光特性に大きく影響するようになる。このような状態に対し、本発明の蛍光体によれば、上述したように、希土類オキシ硫化物蛍光体の表面にアルカリ金属を含む物質を担持させることで蛍光体粒子表面における過剰な硫黄が取り除かれるので、照射された電子線をより高い効率で発光に寄与させることができるようになるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態における蛍光体を用いた蛍光表示管の構成例を模式的示す断面図である。
【図2】本実施の形態における蛍光体粒子の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真である。
【図3】本実施の形態における蛍光体に対するアルカリ金属の化合物の添加量と輝度特性との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0033】
101…ガラス基板、102…配線層、103…絶縁層、103a…スルーホール、104…アノード電極、105…蛍光体層、106…グリッド、107…フィラメント、108…スペーサガラス、109…フロントガラス、110…フリットガラス、111…電極、112…リード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にアルカリ金属を含む物質が担持されたことを特徴とする希土類オキシ硫化物蛍光体。
【請求項2】
請求項1記載の希土類オキシ硫化物蛍光体において、
前記アルカリ金属を含む物質は、アルカリ金属及び前記アルカリ金属の化合物の少なくとも1つである
ことを特徴とする希土類オキシ硫化物蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の希土類オキシ硫化物蛍光体において、
前記アルカリ金属を含む物質は、前記希土類オキシ硫化物蛍光体と前記アルカリ金属の化合物とを混合して焼成することで、前記希土類オキシ硫化物蛍光体の表面に担持されたものである
ことを特徴とする希土類オキシ硫化物蛍光体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類オキシ硫化物蛍光体において、
希土類オキシ硫化物蛍光体に添加された導電処理材を備える
ことを特徴とする希土類オキシ硫化物蛍光体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類オキシ硫化物蛍光体を用いたことを特徴とする蛍光表示管。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−91402(P2009−91402A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260868(P2007−260868)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】