説明

希土類元素の回収方法

【解決手段】(A)希土類磁石合金を含む原料を酸化性雰囲気中で加熱し、前記合金成分の酸化物とする工程、
(B)該酸化物と水を混合してスラリーとし、加熱しながら、塩酸を添加する工程、
(C)得られた溶液を加熱しながらアルカリを加える工程、
(D)未溶解及び沈殿した固体と希土類を含む溶液を分離する工程
を含むことを特徴とする希土類元素の回収方法。
【効果】本発明によって、安価な塩酸が使用でき、かつ塩酸量の低減が可能となり、水素ガス発生の危険性を減少することができ、また希土類元素の回収率の向上がはかられ、経済性、安全性に優れた希土類元素の回収方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類磁石合金を含む原料、例えば希土類系磁石の加工時に発生する研削粉、粉砕時や成形時に発生する廃棄粉から希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類磁石はHDD用やエアコン用、携帯電話等に使用される各種モーターやセンサー等に広く使用されるようになっている。
【0003】
一方、原料である希土類元素はその産出国が限られ、資源的な問題から価格が高騰している。そこで磁石の生産時に発生する磁石粉末や屑及び不良スクラップから有価物を回収リサイクルすることが強く求められている。
【0004】
希土類を回収する方法として、特開昭62−83433号公報(特許文献1)には希土類元素−鉄含有合金を加熱して空気酸化した後、強酸を用いた酸溶出法により、希土類元素塩を生成して濾液中に溶解し、濾別して分離する方法が開示されている。この方法は鉄を酸に難溶性の酸化物とし、酸の使用量を低減させる点で有利である。しかし、この方法の酸化条件では金属Feが残留し、強酸溶解時に水素が多く発生し、安全上の問題があること、品質上も鉄の含有量が多くなること、更にまた希土類元素の溶出率が低い問題がある。
【0005】
特開平01−183415号公報(特許文献2)には、希土類磁石のスクラップ等を酸(HCl)に溶解して不溶残渣を分離除去すると共に、酸化剤(HNO3)を添加し、蓚酸溶液を加え、かつ所定pHに調整して希土類元素を蓚酸塩として沈殿させることが開示されている。しかし、この方法では酸溶解時に水素ガスが発生し、危険であり、スクラップのほぼ全量を溶解するために多量の酸を使用する問題がある。
【0006】
特開平05−287405号公報(特許文献3)には、スラリーを酸化剤の存在下、pH3〜5に酸で維持して希土類元素を選択的に浸出し、得られた浸出液に炭酸アルカリあるいは炭酸水素アルカリを添加し、希土類元素を水に難溶性の塩として分離する方法が開示されている。しかし、この方法では水素ガス発生や酸使用量の増加、希土類炭酸塩への鉄の混入の問題がある。
【0007】
特開平09−217132号公報(特許文献4)には、スラリーに空気を流通させながら、硝酸希釈溶液を添加してpH5以上に保持し、希土類とコバルトとを含む金属を50℃以下で溶解させて希土類含有硝酸塩溶液とし、鉄を含む不溶解元素化合物と濾別分離する方法及びこの希土類含有硝酸塩溶液にフッ素化合物又は蓚酸を添加して希土類フッ化物又は希土類蓚酸塩を沈殿させ、コバルト含有硝酸溶液と濾別分離する方法が開示されている。しかし、この方法では高価で排水規制のある硝酸を使用することや有毒なNO2ガス発生の危険性がある。
【0008】
特開2007−231379号公報(特許文献5)には、レアアースマグネット屑を濃度1.5mol/L以上3.0mol/L以下の硫酸溶液に供給し、屑中のレアアースを溶解させ、不溶解成分を除去した後、レアアースより分子量が小さいイオン性物質を添加して晶析し、レアアース硫酸塩を析出させて回収する方法が開示されている。
【0009】
しかし、この方法では危険性の高い硫酸を使用し、酸化物を得るために硫酸塩を高温で焼成する必要があり、有害なSO2ガスの発生や酸化物中へのSの混入の問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−83433号公報
【特許文献2】特開平01−183415号公報
【特許文献3】特開平05−287405号公報
【特許文献4】特開平09−217132号公報
【特許文献5】特開2007−231379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は従来の回収方法の問題点を解決し、経済性、安全性に優れた希土類元素の回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、希土類磁石合金、特に磁石スラッジ等の希土類−鉄合金の廃棄粉末を加熱して酸化し、次いで水にこの酸化物を加えてスラリーとし、加熱、特に70℃以上に保持しながら濃塩酸を好ましくは酸化物の全量溶解に必要な理論量(当量)の0.20〜0.70倍量を10分〜5時間で添加し、所定温度に保持した後、好ましくはpHが2.0〜6.0になるようにアルカリ溶液を添加して、Feを水酸化鉄として沈殿させ、溶液と固形物を分離すること、更に必要により分離して得られた希土類元素含有溶液を溶媒抽出によって、軽希土類元素と重希土類元素又は各希土類元素に分離することで、高純度の磁石原料用希土類元素を経済的かつ安全に回収し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記希土類元素の回収方法を提供する。
請求項1:
(A)希土類磁石合金を含む原料を酸化性雰囲気中で加熱し、前記合金成分の酸化物とする工程、
(B)該酸化物と水を混合してスラリーとし、加熱しながら、塩酸を添加する工程、
(C)得られた溶液を加熱しながらアルカリを加える工程、
(D)未溶解及び沈殿した固体と希土類元素を含む溶液を分離する工程
を含むことを特徴とする希土類元素の回収方法。
請求項2:
工程(A)の加熱温度が800℃以上である請求項1記載の回収方法。
請求項3:
工程(B)及び(C)の加熱温度がそれぞれ70℃以上である請求項1又は2記載の回収方法。
請求項4:
工程(C)のアルカリ調整のpHが2.0〜6.0である請求項1乃至3のいずれか1項記載の回収方法。
請求項5:
工程(C)と工程(D)との間の工程として、酸化剤を加えて溶液中の2価の鉄イオンを3価に酸化する工程を含む請求項1乃至4のいずれか1項記載の回収方法。
請求項6:
酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項5記載の回収方法。
請求項7:
工程(A)で得られた酸化物が、空気中900℃で1時間加熱した時の質量増加が0.15%以下である請求項1乃至6のいずれか1項記載の回収方法。
請求項8:
工程(B)の酸化物と水の混合比(質量比)が、水:酸化物=0.5〜5:1である請求項1乃至7のいずれか1項記載の回収方法。
請求項9:
工程(B)の塩酸の濃度が10〜35質量%、塩酸の添加量が酸化物の全量を溶解させるのに必要な理論量(当量)の0.20〜0.70倍、添加時間が10分〜5時間である請求項1乃至8のいずれか1項記載の回収方法。
請求項10:
工程(C)のアルカリが10〜50質量%のNaOH溶液である請求項1乃至9のいずれか1項記載の回収方法。
請求項11:
工程(D)で得られた希土類元素を含む溶液から溶媒抽出法により軽希土類元素と重希土類元素又は各希土類元素に分離回収する請求項1乃至10のいずれか1項記載の回収方法。
請求項12:
溶媒抽出に用いる抽出剤が、2−エチルヘキシルリン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル又はジ−2−エチルヘキシルリン酸である請求項11記載の回収方法。
請求項13:
希土類磁石合金を含む原料が、希土類系磁石の廃棄粉である請求項1乃至12のいずれか1項記載の回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、安価な塩酸が使用でき、かつ塩酸量の低減が可能となり、水素ガス発生の危険性を減少することができ、また希土類元素の回収率の向上がはかられ、経済性、安全性に優れた希土類元素の回収方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、回収方法に用いる原料として、希土類合金からなる磁石等の製造工程で発生する鉄を含有する粉末、特に廃棄粉を主に用いる。粉末としては、粉砕工程、成形工程、加工工程などで発生する廃棄粉末スラッジがある。また、塊状の不良スクラップをスタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル、ジェットミル等の粗粉砕・微粉砕の機械粉砕により粉末化したものを用いることもできる。
【0016】
まず、工程(A)で希土類磁石合金を含む原料、特に希土類−Fe−B系磁石の廃棄粉末スラッジを酸化雰囲気中で加熱、特に800℃以上の温度に加熱し、酸化する。
【0017】
廃棄粉末スラッジとしては、磁石を加工したときに発生する研削粉、切削粉、研磨粉等があり、必要によって通常は水等の液体を用いる湿式で加工されるため、水を30〜40%(質量%)程度含むスラッジとなっている。また、磁石用合金の粉砕時に発生する規格外の廃棄粉末や成形時の不良粉末等も使用することができ、これらは通常、粒径が1mm以下、好ましくは0.5mm以下の粉末とすることによって使用できる。粒径が1mmを超えると酸化に長時間を要するため、細かいほうが望ましい。
【0018】
なお、本発明では、希土類−Fe−N系やSm−Co系等の磁石スラッジが混入していても回収できる。
【0019】
これらの粉末は、乾燥状態で容易に着火・燃焼し酸化するものの、燃焼させただけでは未だ酸化が不十分で、金属Feが数%〜20%(質量%)程度残留している。この残留金属Feを酸化させるには、800℃以上の温度で15分以上酸化雰囲気中で加熱することが有効であることが判明した。
【0020】
好ましい酸化条件は、空気中でスラッジの温度が800℃以上1200℃以下、更に好ましくは850℃以上1100℃以下であり、保持時間は温度が高いほど短時間でよいが、好ましくは30分以上、更に好ましくは1時間以上が必要である。なお、通常3時間以下の保持時間が好ましい。但し、酸化雰囲気中に不活性ガスを含んでも構わない。加熱温度が低いと金属Feの酸化が不十分となり、塩酸溶解時に水素ガスの発生や2価のFeが生じる。また温度が高すぎると加熱エネルギーの無駄や粉末が焼き固まる問題が生じる。時間が短いと未酸化のFeが多量に残留する。こうして酸化した酸化物粉末はX線回折による同定の結果、R−Fe−B磁石の場合、Fe23、RFeO3(Rは希土類元素)、CoFe24の存在が確認された。Bは同定されていないが、RBO3として存在しているものと思われる。
【0021】
酸化装置は、通常の箱型電気炉、トンネルキルンやロータリーキルン等が使用できる。また、酸化は二段階以上で行ってもよい。即ち、一度燃焼させて安定化した燃焼粉(金属Feが残留)を上述した温度、時間の酸化条件下で再度酸化することもできる。
【0022】
未酸化の金属Feの量は、粉末X線回折によるFeのピーク強度の測定や粉末を再度加熱した時の質量増加の測定により見積もることができる。本発明に使用する酸化粉としては、X線回折でFeのピークが見られないことや900℃で1時間加熱したときの質量増加量が0.15%以下、好ましくは0.10%以下であることが望ましい。酸化が不十分であると水素の発生が多くなる上に、金属Feは2価として溶出し、後工程(C)でのpH調整で水酸化鉄として沈殿しなくなる。この場合、沈殿させるには酸化剤の使用量が増加し、望ましくない。
【0023】
次いで工程(B)では、水:酸化粉=0.5〜5:1(質量比)のスラリーを撹拌しながら、70℃以上、好ましくは80℃以上100℃未満に加熱し、酸化粉当量の0.20〜0.70倍量の塩酸を10分〜5時間で添加する。その後、上記温度に好ましくは10分〜2時間保持する。この工程(B)では、酸化粉中のFe23は未溶解のまま残留し、希土類化合物が優先的に溶解する。
【0024】
塩酸の濃度は特に限定的ではないが、希土類元素の選択的溶出を妨げないようにするために10質量%以上が好ましい。更に好ましくは30質量%以上がよい。その上限は、通常35質量%以下である。
【0025】
塩酸の添加量は、酸化物の全量を溶解させるのに必要な理論量(当量)の0.20〜0.70倍までが、溶出率の低下を防止でき、中和剤の使用量も経済的である。
【0026】
塩酸の添加時間は、希土類元素の選択的溶出を進行させるためにも10分以上5時間以下が好ましい。
【0027】
保持時間は、Feの溶出を少なくするために10分〜2時間程度が好ましい。
【0028】
加熱はスチーム加熱が好ましいが、投げ込みヒーター等の他の加熱手段を用いることもできる。
【0029】
温度が低すぎると希土類元素の溶出が不十分となる上に、酸化鉄の溶出が増加し、希土類元素の選択的溶出が行えなくなる。
【0030】
次いで、工程(C)では、温度を保持したままアルカリを添加し、pHを2.0〜6.0、好ましくは2.0〜4.0に調整する。アルカリとしてはNaOH、アンモニア、KOH等が使用できるが、経済性及び廃液処理の点でNaOHが好ましい。
【0031】
これにより、溶液中に存在する一部溶出したFeは水酸化物として沈殿し、固体として溶液から除去される。
【0032】
pH調整後も溶液中に残留するFeイオンは少量の未酸化の金属Feが溶出したものであり、2価のイオンとして存在する。酸化剤を添加して、2価のFeイオンを3価のイオンに酸化することにより、容易に水酸化物が沈殿となり、最終的に99%以上のFeを析出、除去することができる。
【0033】
酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、過塩素酸等の他、空気や酸素を溶液中にバブリングすることによっても酸化できるが、次亜塩素酸ナトリウムが経済性と瞬時に酸化が行われる点で好ましい。
【0034】
酸化剤の量は2価のFeイオンを3価に酸化できる量を添加すればよく、酸化物中に残留する金属Feの量によるが、3価への酸化を確実にするために2価のFeイオンを3価に酸化する必要量より10〜20質量%過剰量が好ましい。
【0035】
NaOH溶液の濃度は限定的ではないが、濃すぎる溶液では添加量の制御をより厳密にする必要が生じ、薄すぎる溶液では液の体積が増え経済的ではない。NaOH溶液の濃度は10〜50質量%、好ましくは20〜30質量%である。
【0036】
また、本発明の回収方法によりCoは80質量%以上が溶解し、希土類元素の回収後に中和処理等によって水酸化Coとして回収することができ、Bは蒸発濃縮回収、又は排水処理設備で処理される。
【0037】
次いで、工程(D)では、酸化鉄が主体の固体と希土類元素が溶出した溶液を、フィルタープレス、遠心分離機、ヌッチェによる吸引濾過等通常の方法で分離する。
【0038】
得られた溶液には磁石成分であるNd、Pr、Dy、Tb等の希土類元素が含まれる。高特性磁石の製造では軽希土及び重希土からなる2種以上の磁石合金粉を混合し、粒界に重希土リッチの相を析出させて特性の向上を図ることが行われている。従って混合希土としてではなく、各希土類元素に分離することが望ましい。
【0039】
そこで、上記溶液から軽希土類元素(Nd、Pr)と重希土類元素(Dy、Tb)又は各希土類元素に分離するために溶媒抽出法による分離工程を追加することもできる。溶媒抽出法においてはFeが混入すると希土類元素の精製に悪影響を及ぼすため、前工程で極力除去しておくことが望ましく、本発明の方法によりFeを影響のない程度に低減することができる。また必要によっては工程(D)の前に脱Feの工程を追加することができる。
【0040】
溶媒抽出に用いる抽出剤としては、PC−88A(2−エチルヘキシルリン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル)又はD2EHPA(ジ−2−エチルヘキシルリン酸)が用いられる。
【0041】
分離した希土類元素は、沈殿剤、例えば蓚酸を添加して蓚酸塩として回収され、800〜1000℃に加熱することによって酸化物とされる。この酸化物を出発原料として、溶融塩電解法や金属熱還元法によって希土類金属が製造され、再度磁石用原料として使用される。
【0042】
以上、本発明について詳述したが、本発明の特徴とするところは、(1)工程(A)で加熱により金属Feの酸化をはかること、(2)工程(B)で加熱したスラリーにし塩酸を添加し、希土類元素を選択的に溶出させること、(3)工程(C)でpH調整により、一部溶出したFeを水酸化物として沈殿させること、(4)工程(D)で固体と分離して得られた希土類元素含有溶液から溶媒抽出法により軽希土類元素と重希土類元素又は各希土類元素に分離することにある。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によってその効果を明らかにする。なお、本発明はこの実施例によってその範囲を制約されるものではない。下記例で、特にことわらない限り、%は質量%を示す。
【0044】
[実施例1〜10]
磁石スラッジとして、合金加工工程で発生した平均粒径20μmの研削粉(含水率35%、乾燥粉中のNd 16%、Pr 0.5%、Dy 3%、Tb 0.1%、Fe 41%、Co 2%、B 1%、その他の金属元素 1%、残 酸素他の非金属元素)を使用した。
このスラッジをロータリーキルン(加熱温度600℃)により乾燥、燃焼酸化させた。加熱域へ移動の途中、水が蒸発した後、約300℃近くに昇温した時に、炎をあげて燃焼するのが観察された。炎の温度は放射温度計で測定した結果、700〜800℃であった。また炎の発生は加熱域の入口部分のみであり、燃えた後は赤熱粉となってロータリーキルン内を移動した。加熱域の滞留時間は30分であった。
得られた酸化粉の粉末X線回折の結果、Fe23、FeRO3(Rは上記希土類元素を表す。)、CoFe24の他に、Feのピークも確認された。また、この酸化粉を電気炉内で空気中900℃で1時間加熱した時の重量変化(酸化増量)を測定した結果、9.2%の質量増加を示し、酸化が不十分であることが判った。
そこで、このスラッジ0.5kgを石英製容器に入れ、箱型電気炉中で700〜1250℃の温度、15〜60分の時間を換えて再度酸化した。
温度が800℃、時間15分以上の条件で、粉末X線回折のFeのピークが消失していた。
また、この条件で酸化した酸化粉の加熱質量増加(900℃×1時間)は0.15%以下であった。
各酸化粉試料300gをビーカー中で水300gと混合してスラリーとした。これをホットプレート上で90℃に加熱し、35%の濃塩酸410g(当量の0.40倍量)を15分で添加し、このまま60分間保持した。この液のpHは≦1であった。
【0045】
次いで、25%NaOH溶液を添加し、pHを3に調整した。冷却後、これをヌッチエにより5C濾紙で濾過して固体と溶液を分離した。更に固体を水3Lで洗浄し、固体に付着する溶液を洗い出した。
溶液、洗浄液中の希土類元素及びFe、CoをICP法(SII製SPS3100)で測定し、希土類元素、Coの溶液への溶出率、Feについては溶液中の残留率を求めた。溶出率、残留率は、(回収した溶液及び洗浄液中の各元素の質量/使用した酸化粉中の各元素の質量)×100%として算出した。使用した酸化物中のNd(Dy、Co)量に対して、どれだけのNd(Dy、Co)が溶出しているか、またFeについてはFe水酸化物として沈殿させてもどれだけのFeが溶液中に残っているかの%である。
希土類元素、Coの溶出率は高いほど好ましく、Feの残留率は低いほど好ましい。
結果を表1に示す。加熱温度800℃未満では希土類元素の溶出率が若干増えるものの、Feの残留率が増えることがわかる。また温度が高くなるほど焼結による固まりが生じ、塩酸への溶出性が低下した。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例11〜16]
実施例1〜7の研削粉スラッジを箱型電気炉で900℃に加熱し、30分間保持して酸化した。X線回折の結果、Feのピークは見られず、また900℃で1時間再酸化した時の質量増加は0.05%であった。この研削粉スラッジの酸化粉を用い、スラリーの温度を変えた以外は実施例1〜7と同様にして溶出試験を行った。結果を表2に示す。
温度が80℃未満では希土類元素の溶出が少なく、Feの溶出が多くなることがわかる。
【0048】
【表2】

【0049】
[実施例17〜22]
水と酸化粉の割合を変えた以外は実施例12と同様にして溶出試験を行った。結果を表3に示す。実施例17ではスラリー粘度が高く、撹拌が十分に行なえなかった。
【0050】
【表3】

【0051】
[実施例23〜29]
塩酸の量を変えた以外は実施例12と同様にして溶出試験を行った。結果を表4に示す。塩酸量が当量の0.20倍未満では希土類元素の溶出率が低下した。塩酸量及び中和に必要なアルカリ量を少なくするためには、0.70倍以下が望ましい。
【0052】
【表4】

【0053】
[実施例30〜36]
NaOH溶液を添加した時のpHを変えた以外は実施例12と同様にして溶出試験を行った。結果を表5に示す。pHが2未満では鉄が全て析出せずに溶液内に残留し、pHが6を超えると希土類元素の水酸化物が析出し、溶出率が悪くなる。
【0054】
【表5】

【0055】
[実施例37]
実施例1において、Feの残留率を更に下げるために、25%NaOH溶液を添加した後、温度を保持したまま10%次亜塩素酸ナトリウム溶液20mlを溶液に加え、溶出している2価のFeを3価に変えた。以降、実施例1と同様にしてICP法でNd、Dy、Coの溶出率、Feの残留率を求めた。その結果、溶出率は変わらず、Feの残留率は<0.1%に低下し、Feが除去されていた。
【0056】
[実施例38]
実施例12の溶液を用いて、溶媒抽出法により希土類元素の分離を行った。溶液中の希土類元素の濃度はNd:0.1mol/L、Pr:0.02mol/L、Dy:0.1mol/L、Tb:0.003mol/Lであった。
抽出剤としてPC88Aを使用し、8段のミキサーセトラーにより軽希土類元素(Nd、Pr)と重希土類元素(Dy、Tb)に分離した。更に重希土類元素について抽出剤PC88Aを用いてDyとTbに分離した。
これらを含む各溶液から蓚酸を用いて、それぞれ(Nd、Pr)蓚酸塩、Dy蓚酸塩、Tb蓚酸塩を沈殿、濾別し、蓚酸塩を950℃で焼成してそれぞれの希土類酸化物を得た。純度はそれぞれ99.9%以上であり、Feは<0.1%であった。これらの酸化物を出発原料として溶融塩電解法により(Nd、Pr)金属を、Ca還元法によりDy金属、Tb金属を製造した。これらの金属は磁石合金の原料として十分に使用可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)希土類磁石合金を含む原料を酸化性雰囲気中で加熱し、前記合金成分の酸化物とする工程、
(B)該酸化物と水を混合してスラリーとし、加熱しながら、塩酸を添加する工程、
(C)得られた溶液を加熱しながらアルカリを加える工程、
(D)未溶解及び沈殿した固体と希土類元素を含む溶液を分離する工程
を含むことを特徴とする希土類元素の回収方法。
【請求項2】
工程(A)の加熱温度が800℃以上である請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
工程(B)及び(C)の加熱温度がそれぞれ70℃以上である請求項1又は2記載の回収方法。
【請求項4】
工程(C)のアルカリ調整のpHが2.0〜6.0である請求項1乃至3のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項5】
工程(C)と工程(D)との間の工程として、酸化剤を加えて溶液中の2価の鉄イオンを3価に酸化する工程を含む請求項1乃至4のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項6】
酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項5記載の回収方法。
【請求項7】
工程(A)で得られた酸化物が、空気中900℃で1時間加熱した時の質量増加が0.15%以下である請求項1乃至6のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項8】
工程(B)の酸化物と水の混合比(質量比)が、水:酸化物=0.5〜5:1である請求項1乃至7のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項9】
工程(B)の塩酸の濃度が10〜35質量%、塩酸の添加量が酸化物の全量を溶解させるのに必要な理論量(当量)の0.20〜0.70倍、添加時間が10分〜5時間である請求項1乃至8のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項10】
工程(C)のアルカリが10〜50質量%のNaOH溶液である請求項1乃至9のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項11】
工程(D)で得られた希土類元素を含む溶液から溶媒抽出法により軽希土類元素と重希土類元素又は各希土類元素に分離回収する請求項1乃至10のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項12】
溶媒抽出に用いる抽出剤が、2−エチルヘキシルリン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル又はジ−2−エチルヘキシルリン酸である請求項11記載の回収方法。
【請求項13】
希土類磁石合金を含む原料が、希土類系磁石の廃棄粉である請求項1乃至12のいずれか1項記載の回収方法。

【公開番号】特開2009−249674(P2009−249674A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97809(P2008−97809)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】