説明

希土類添加硫化物蛍光体の製造方法

【課題】 Eu添加BaAlを二硫化炭素を含む不活性ガス中で熱処理して還元硫化することにより、高蛍光輝度のEu添加バリウムチオアルミネート硫化物(BaAl)蛍光体を、有毒な硫化水素を用いずに製造する無機EL用蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式[AAl:RE]で表され、Aがアルカリ土類金属元素、希土類元素がREである希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、希土類元素REが、均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を合成する第1の工程と、第1の工程で得られた一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を、二硫化炭素を含む不活性ガス流通下で熱処理し、900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が第1の工程で得られる酸化物の酸素分モル数の7倍以上、30倍以下の条件で還元硫化する第2の工程とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種情報や画像を表示するディスプレイ等に用いられる薄膜エレクトロルミネッセンス(EL)の発光材料である無機EL用蛍光体や近紫外から青色の光で高輝度の蛍光を発する蛍光体に好適な希土類添加硫化物蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
青色や緑色の高輝度の蛍光体として、MS−Al系硫化物蛍光体(M:アルカリ土類金属元素)が知られている(非特許文献1、2を参照)。
近年、各種情報や画像を表示するディスプレイ等に用いられる薄膜エレクトロルミネッセンス(EL)の発光材料である無機EL素子として希土類添加アルカリ土類チオアルミネート蛍光体を含有する蛍光体が着目され、フルカラー表示を行なう方法(特許文献1参照)などの応用開発が盛んに進められている。
【0003】
このフルカラー表示を行なう方法には、例えば、Aをアルカリ土類元素、BをIII族金属元素、Cを硫黄とする、一般式(A)からなる化合物に希土類元素REを添加した蛍光体において、純金属ターゲットやAB或いはABREからなる合金ターゲット、又は硫化物ターゲットを用いて、硫化物を含むスパッタガス中でスパッタを行う反応性スパッタ法(特許文献2参照)、或いはA、B、C、REを構成する各元素を一種類以上有する複数の蒸気ガスを独立に制御して基板表面に供給して薄膜を形成する製膜手法により製膜される蛍光体薄膜を数種類用いて多色表示薄膜ELパネルを製造する方法(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
また、希土類添加アルカリ土類チオアルミネート蛍光体には、例えば高輝度で色純度の優れた青色発光を有するEL材料、およびそのEL材料を発光層とする薄膜EL素子が知られている(特許文献4参照)。このEL材料は、アルカリ土類チオアルミネートを母材料とし、セリウム等のランタノイド系元素を賦活材にしているものである。
【0005】
このような薄膜EL材料の中で、特にEu添加バリウムチオアルミネート硫化物(BaAl)蛍光体は、輝度が高く、色純度が良いため最も期待されている材料である。
この蛍光体は、硫化アルミニウム、硫化バリウム、硫化ユーロピウム等の硫化物粉末を混合、焼成することにより得られるが、その際には原料粉末が微細であるほど均質な蛍光体が得られる。特に高輝度の蛍光体を作製するには発光元素であるEuが均一に分散し、Baの元素位置を置換していることが重要であると言われている。
【0006】
また、BaAl、BaAlは300nmから400nmの紫外線により励起可能であり、青色の蛍光を発し、CaAl、SrAlは300nmから400nmの紫外線により励起可能であり、青緑色の蛍光を発する。BaAlは300nmから500nmの光により励起され緑色の蛍光を発する蛍光体材料である。
これらの蛍光体材料は近紫外線LED(発光波長380〜410nm)で励起して高輝度の可視光の蛍光を得ることや、青色LED(発光波長440〜470nm)で励起して緑色の蛍光を得ることが可能であり、単色のLEDランプや白色LED用蛍光体として有用である。
【0007】
最近、複合無機化学的手法でBaAl前駆体やEuが均一に分散したBaCOを作成し、その前駆体を硫化して高輝度の硫化物を作成する方法が開発されている(特許文献5、6、7、8参照)。
【0008】
しかしながら、従来のEu添加バリウムチオアルミネート硫化物(BaAl)蛍光体などの希土類添加MS−Al系蛍光体の原料となる、硫化アルミニウム、硫化バリウム、硫化ストロンチウム、硫化カルシウムおよび硫化ユーロピウムなどの硫化物を使用するため、その硫化物の製造が必要であり、そのためには有毒な硫化水素ガスを使用しなければならず、安全性の面から大きな問題を抱えている。
【0009】
特に、Alは、分解しやすいため製造が難しく、金属Alや酸化アルミニウムが残留するため組成調整が難しいという問題もある。更に、この硫化水素は有毒なだけではなく、悪臭物質であり、不安定な物質でもあるために、微量であっても、厳しい管理が要求され、製造コストや生産効率などの低下を招いてしまうなどの問題も生じている。
これらの問題点を解決するため硫化法として二硫化炭素で酸化物や炭酸塩の還元硫化法が提案されている(特許文献9、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−122364号公報
【特許文献2】WO2005/085493
【特許文献3】特開2001−294852号公報
【特許文献4】特開平8−134440号公報
【特許文献5】特開2008−69252号公報
【特許文献6】特開2008−266499号公報
【特許文献7】特開2009−221263号公報
【特許文献8】特開2005−344094号公報
【特許文献9】特開2009−221264号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】B.Eisenmann、M.Jakowski、H.Schafer、Materials Research Bulletin,1982、17、9、p.1169−1175
【非特許文献2】K.T.Le Thi、A.Garcia、F.Guillen、C.Foussaier、Material Science EngineeringB、1992、14、2、p.393
【非特許文献3】Valery Petrykin and Masato Kakihanaw、Journal of American Ceramic Society、2009、vol.92[S1]、S27−S31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献9や非特許文献3で提案された二硫化炭素を用いた還元硫化法でも、高温で二硫化炭素が分解し、分解した炭素が硫化物表面に付着し、そのために
硫化が進行しない問題を生じ、その解決策として複数回の粉砕と硫化処理を加える必要を生じ、製造コストや生産効率の点から更なる改善が望まれている。
【0013】
そこで、本発明者らは、係る技術的課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類元素が均一に分散したアルカリ土類金属−Al系酸化物を、二硫化炭素を20%から60%含む不活性ガス中、熱処理温度900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が第1の工程で得られる酸化物の酸素分モル数の7倍以上30倍以下の条件で還元硫化することにより、炭素の析出を抑えて高蛍光輝度の希土類添加アルカリ土類金属−Al系硫化物蛍光体を製造することが可能となるという知見を得ることができ、薄膜エレクトロルミネッセンス(EL)の発光材料である無機EL用蛍光体や近紫外から青色の光で高輝度の蛍光を発する蛍光体に好適な希土類添加硫化物蛍光体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る希土類添加硫化物蛍光体の製造方法は、一般式[AAl:RE]で表され、Aがアルカリ土類金属元素、希土類元素がREである希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を合成する第1の工程と、第1の工程で得られた一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を、二硫化炭素を含む不活性ガス流通下で熱処理し、900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が第1の工程で得られる酸化物の酸素分モル数の7倍以上、30倍以下の条件で還元硫化する第2の工程とからなることを特徴とする。
【0015】
この製造方法における第1の工程では、希土類元素REの硝酸塩を水に溶解した水溶液に、オキシカルボン酸、グリコール又は水、アルカリ土類金属の炭酸塩、硝酸アルミニウムを順次加え、更に120〜250℃に加熱して得たゲルを、400〜500℃で熱処理して炭酸塩前駆体を作製し、700〜1100℃で熱処理して、希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物とすることを特徴とする。
また、第2の工程では、第1の工程で得た、希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を、二硫化炭素を20%から60%含んだ不活性ガス流通下で、900〜1150℃の熱処理を、900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が前駆体の酸素分のモル数の7倍以上、30倍以下の条件で行なうことにより還元硫化して焼成物の希土類添加硫化物を得ることを特徴とする。
【0016】
更に、希土類元素REはEu、アルカリ土類金属元素AはBaであり、且つEuの組成比がBa+Euの含有量に対して1〜6at%で、さらにはxが0.9<x<1.1、yが1.9<y<2.1、zが3.7<z<4.3であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、希土類元素が均一に分散した希土類添加アルカリ土類金属−Al23系酸化物を合成する第1の工程と、前記の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−Al23系酸化物を、二硫化炭素を20から60%含んだ不活性ガス流通下で、900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が前駆体の酸素分モル数の7倍以上30倍以下の条件で熱処理し、還元硫化する第2の工程からなることを特徴とする蛍光体の製造方法であり、原料として空気中の水分と反応しやすい硫化アルミニウム、硫化バリウム、硫化ストロンチウム、硫化カルシウム、硫化ユーロピウムなどの硫化物を使用しないため高品質の結晶を得ることができ、更に有毒な硫化水素を用いることなく高輝度の希土類添加アルカリ土類金属−Al23系硫化物蛍光体を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】Arガスに二硫化炭素(CS)を含ませる方法の一例を示す説明図である。
【図2】実施例で求めたCS濃度の温度依存性とCSの蒸気圧を比較した図である。
【図3】実施例1におけるEu添加BaAl粉末のXRD回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1におけるEu添加BaAl粉末の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の工程]
第1の工程は、希土類元素が均一に分散した希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物を合成する工程である。
先ず、添加する希土類元素源は、原料の希土類酸化物を濃度40〜60質量%の硝酸に溶解するのが好ましく、さらに完全に溶解させるためには1時間程度の攪拌をしながら溶解すると良い。完全に溶解した後、この希土類元素溶解液を乾燥して、希土類元素の硝酸塩を得る。なお、過剰な硝酸を蒸発させたい場合は液温を硝酸−水の共沸点(123℃)より高い温度の125℃以上にして硝酸を揮発させることができる。
【0020】
次に、この希土類元素の硝酸塩を水で再溶解し、その溶解液にグリコールとオキシカルボン酸を加える。なお、ここでグリコールの代わりに水を使用することもできる。水を使用する場合はオキシカルボン酸を1.5倍以上多く加える。加えたオキシカルボン酸が完全に溶解したら、液温を65〜85℃まで上昇させ、アルカリ土類金属炭酸塩を加えて完全に溶解するまで攪拌する、加えた炭酸塩が溶解した後、その溶液に硝酸アルミニウムをさらに加える。
【0021】
ここで加える金属(アルカリ土類金属、アルミニウム及び希土類元素)、オキシカルボン酸、グリコールの量は、そのモル比で1:4:10程度に調整しておくと良い。
この時に加えるグリコールとしては、エチレングリコール又はプロピレングリコールが特に好適であるが、ポリエチレングリコールも使用することができる。
また、オキシカルボン酸には、クエン酸が特に好適であるが、りんご酸や酒石酸などを用いてもよい。
【0022】
次いで、重合させるため液温を80〜250℃、より好ましくは120〜220℃にして、粘性を有するゲル状になるまで攪拌する。その攪拌時間は4時間から16時間が好ましい。これにより、希土類元素を均一に含んだポリマー化したゲル体が得られる。
続いて、得られたゲル体を、400〜500℃、より好ましくは440〜460℃に加熱し、ゲル体を熱分解して希土類元素が均一に分散した希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物前駆体粉末を作製する。
【0023】
得られた酸化物前駆体粉末を、乳鉢で軽く粉砕し、次に熱処理を行ない、希土類元素が均一に分散した希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末を作製する。
この熱処理は、700〜1100℃の熱処理温度で行なうのが好ましい。
なお、TG−DTAの分析からは、600℃以上で残留有機物の焼成が起こり、890℃以上で希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物となるが、完全に酸化物になった希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物より、結晶性の低い酸化物の方が還元硫化されやすいので、この熱処理の温度は残留有機物が無くなる750〜890℃がより好ましく、その熱処理時間は3〜12時間、より好ましくは4〜8時間が良い。
【0024】
[第2の工程]
第2の工程は、第1の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物を、還元硫化するために二硫化炭素を含む不活性ガス中で熱処理して希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系硫化物蛍光体を製造する工程である。
この第2の工程では、第1の工程で得られた希土類元素が均一に分散した希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末を、二硫化炭素(CS)を含む不活性ガス中で加熱して900〜1150℃の温度で1〜6時間保持する熱処理を施し、希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系硫化物蛍光体粉末を得るものである。
【0025】
その時の熱処理温度は、特に好ましくは900〜1100℃が良く、900℃未満では還元硫化が不充分となり、1100℃を超えると融けることがあるので好ましくない。
さらに、より好ましい条件について、以下に示す。
一般に熱力学的な計算では「Al」と「CS」では、自由エネルギー:ΔGが負にならないため還元硫化の進行は、CSと反応生成ガスCOの割合が平衡圧との大小関係で決まる。すなわち、CO/CSが平衡より小さい場合、硫化反応が進行する。
【0026】
また、固体炭素が存在するとΔGが小さくなり、より硫化しやすいといえる。
CSは高温で、CとSガスに分解する。特に900℃を超えると15%以上が分解する。そのため高温での反応にはCの関与も考慮する必要がある。
【0027】
本発明のようにアルカリ土類金属(下記反応式1、2中の元素A)との複合酸化物を形成する場合は、Alだけの場合よりもΔGが負になるため下記反応式1が起きやすくなる。また、Cが存在する反応式2は更に低温で反応すると思われる。ただし、アルカリ土類金属酸化物のみが硫化するとAlだけが残って硫化が難しくなるため、同時に硫化できるように反応を制御する必要がある。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
ところで、AAlがアルカリ土類金属炭酸塩とAlの混合物の場合は、低温ではΔGが大きく反応しないといえる。ここでも炭素が存在するとΔGは小さくなるが、900℃未満では硫化が困難である。また、アルカリ土類金属硫化物(AS)とAlを混合して焼成した場合、例えばBaSとAlを混合しAr中で焼成しても、900℃未満ではその複合化合物は生成しにくい。
【0031】
以上の理由から、第1の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末を900℃以上で還元硫化することが必要であり、さらに結晶性を考慮すると1000℃から1100℃がより好ましい。
硫化アルミニウムの融点である1150℃を超えると、部分的な融解が発生する可能性があり、それによって焼成物が不均一になるため好ましくない。また硫黄蒸気圧が高くなり、一度還元硫化した希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系硫化物蛍光体粉末の表面から再び硫黄が分解し揮発するため好ましくない。
【0032】
ここで用いる不活性ガスとしてはArガスが好ましく、Arガス中に二硫化炭素を含ませる方法としては、図1に示すようなArガスを液体の二硫化炭素中に通す方法が利用できる。
【0033】
この二硫化炭素やArガスの温度は、5℃以上46℃未満、特に10℃〜30℃が良く、5℃以下ではArガスに含まれる二硫化炭素の濃度が低く(約20%)なり還元硫化が進みにくくなるため好ましくなく、46℃以上では二硫化炭素の沸点以上となって蒸発量の制御が難しく、均一な還元硫化が難しくなるため好ましくない。また室温より高い温度にすると、不活性ガスとして窒素を用いることは、異相である窒化アルミニウムが形成されやすくなるため好ましくない。
【0034】
具体的には、二硫化炭素濃度は図2に示すように二硫化炭素の蒸気圧曲線と実際に二硫化炭素を入れた容器を温度制御したウォーターバスに漬けて一定のArガスを流して蒸発した量から算出したArガス中の二硫化炭素濃度が、ほぼ一致することからウォーターバスの温度で制御することができることが分かる。
【0035】
還元硫化反応に必要な900℃以上で流す二硫化炭素のモル数は、第1の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末の酸素分モル数の7倍以上30倍以下が好ましく、特には7倍から20倍が好ましい。
第1の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末の酸素分モル数の7倍未満では硫化が十分でない。一方、30倍を超えると二硫化炭素が分解により発生した炭素が硫化物表面に付着して、かえって還元硫化反応が不十分になるため好ましくない。また硫化物表面に付着する炭素により輝度が低下するため好ましくない。
【0036】
この時の第1の工程で得られた希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系酸化物粉末を入れる容器は、二硫化炭素と反応しない黒鉛が好適に使用できる。アルミナや酸化物を用いると容器が二硫化炭素で還元硫化反応し、得られる硫化物蛍光体の組成変動や二硫化炭素が足りなくなる恐れがある。また、容器の還元によりCO濃度が高くなると硫化が進行しない恐れもある。特にアルミナを使用する場合は酸化物粉末がアルミナボートから生成する硫化アルミニウムの影響をうけるので避けるべきである。
【0037】
また、管状炉で焼成を行う場合には、石英管中のガスが追い出せるように加熱開始直後から二硫化炭素を含むガスを流す。特に加熱開始から10分〜20分程度は石英管全体の体積の2〜10倍のガスを流すことが好ましい。還元硫化が開始される温度では二硫化炭素が充分になるようにガス流量を調節することが望ましい。なお、熱処理中は、二硫化炭素を含むガスが必要であり、冷却が完了し室温になるまで二硫化炭素を含むガスを流し続けておくことが好ましい。
【0038】
上記に説明したように高温で二硫化炭素が分解するため粉末の焼成物の表面には、炭素が付着していることがある、その場合は、そのままでは輝度が低く、そこで、これを粉砕し、その表面を新生面とすることで、輝度の向上処理を行うと良い。
【0039】
更に、粉砕した粉末の焼成物を、再度二硫化炭素を含んだ不活性ガス流通下で800〜1150℃の温度で熱処理し、還元硫化を繰り返すことで結晶性を向上させ、高輝度の希土類添加アルカリ土類金属−アルミニウム系硫化物蛍光体を得ることができる。
【0040】
希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物に関しては、希土類元素REがEu、アルカリ土類金属元素AがBa(バリウム)であり、且つEuの組成比がBa(バリウム)の含有量に対して1〜6at%で、さらにxが0.9<x<1.1、yが1.9<y<2.1、zが3.7<z<4.3であることが好ましい。
【0041】
EuがBaの1at%以下では濃度が低く蛍光強度が十分でない、また6at%を超えるとEu原子間で励起電子が移動して濃度消光がおきるため好ましくない。
Ba組成は、xが0.9以下、または1.1以上では硫化後の結晶性が悪くなる。Alの組成も1.9以下では硫化後の結晶性が悪くなり、2.1以上になると硫化後の結晶性が悪くなると同時にAlが生成して硫化水素臭が発生するため好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
還元硫化を行う前に、図1に示すようにウォーターバス(アズワン製MC−12−7902−01)に二硫化炭素を入れた容器を浸けて、その水温を7℃、10℃、15℃、20℃、25℃と変え、その各温度でArガスを10cc/minで4時間、50cc/minで2時間流した。ガス流量はデジタル流量計(Kofloc社製、Model8300)を用いて測定した。なお、実験は、同一温度で2回行った。
【0043】
Arガスを流す前後の重量変化から二硫化炭素の蒸発量を算出し分子量からモル数Aを計算した。得たモル数に22.4L/モルをかけて体積に換算して、全Arガス流量Bを用いて下記(1)式で二硫化炭素濃度Cを算出した。
【0044】
【数1】

【0045】
測定結果と熱力学的計算から求めた二硫化炭素蒸気圧を比較した結果を図2に示す。
図2から明らかなように、実験と計算結果はよく一致している。なお、室温がよりもウォーターバスの温度が高い場合はウォーターバスの外にある二硫化炭素の容器や配管に二硫化炭素が結露する。結露すると二硫化炭素濃度が変わるため、結露が発生しないようにする必要があった。
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0046】
(Ba0.95Eu0.05)Alを、2g(0.006244モル)作製する。
[第1工程:酸化物作製]
酸化ユーロピウム(フルウチ化学株式会社製 3N:Eu)0.000156モル(0.0597g)を、濃度15%の硝酸(関東化学株式会社製 60%)10mlに、完全に溶解させた後、その溶解液を乾燥して硝酸Euを得た。この硝酸Euを100mlの水に再溶解し、炭酸バリウム(BaCO)を0.005932モル(1.171g)加え、その後クエン酸14.40g(0.0749モル金属のモル数の4倍)を加え、液温を80℃に保って2時間攪拌してクエン酸と炭酸バリウムを完全に溶解させた。
【0047】
この溶解液に硝酸アルミニウムを0.01249モル(4.685g)加えて錯体化するため12時間攪拌した。ついでプロピレングリコール14.25g(0.1873モル、金属モル数の10倍)を加えた。この溶液の金属元素とクエン酸とプロピレングリコールのモル比は1:4:10である。
【0048】
次に、この溶液を130℃まで加熱撹拌するとクエン酸とプロピレングリコールのポリエステル化反応が開始し、5時間保持した。更に200℃で撹拌しながら3時間保持してゲル状の物質を得た。得られたゲル状の物質を、マントルヒーターに入れ、450℃に加熱して、そのゲルを熱分解して酸化物前躯体を作製した。さらに、これを乳鉢で粉砕して酸化物前駆体粉末を作製した。
【0049】
得られた酸化物前駆体粉末を、800℃、2時間の焼成を行って残留有機物を焼失させて、Eu添加BaO−Al系酸化物粉末を作製した。
この酸化物粉末のX線回折のパターン(XRDパターン)は、ブロードで結晶性が悪いことが分かった。また、この酸化物粉末を分析したところ、一般式[AAl:RE]の組成は、(Ba0.95Eu0.05)Alであり、x=1.0、y=2.0、z=4.0、Euは、Ba+Euの含有量に対して5at%であった。
【0050】
[第2工程:還元硫化]
第1工程で得た酸化物粉末0.4gを、グラファイト容器に入れて図1に示す方法で液体の二硫化炭素中を通したAr流通下で、石英管を用いた管状炉に入れて1050℃、2時間の熱処理し、還元硫化を行ない、Eu添加BaAl硫化物を作製した。
Ar流量は、熱処理開始から10分間は50ml/min、その後温度が900℃に達するまで10ml/min、900℃から1050℃に達するまで17分と1050℃になった時から2時間の熱処理を終えて炉の温度が900℃になるまで、計2時間20分の間流量を20ml/minとし、900℃で流量を10ml/minにし、炉が室温になるまでガスを流した。
【0051】
900℃以上で流した二硫化炭素量は、第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の16.6倍であった。
この硫化物粉末のXRD回折パターンを図3に示す。図3から、BaAl硫化物単相であることがわかる。
また、この硫化物粉末を分析したところ、一般式[AAl:RE]の組成は、(Ba0.95Eu0.05)Alであり、x=1.0、y=2.0、z=4.0、Euは、Ba+Euの含有量に対して5at%であった。
【実施例2】
【0052】
900℃以上のAr流量を10cc/minにし、1050℃の保持時間を3時間にした以外は、実施例1と同じ第1の工程、第2の工程と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作成した。900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の11.8倍であった。
【実施例3】
【0053】
900℃以上のAr流量を50cc/minで30分流し、その後は10cc/minにして1050℃の保持時間を3時間にした以外は実施例1と同じ第1の工程、第2の工程と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作製した。900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の19.2倍であった。
【実施例4】
【0054】
ウォーターバスの設定温度を10℃にした以外は実施例1と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作成した。900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の11.1倍であった。
【実施例5】
【0055】
ウォーターバスの設定温度を10℃にして900℃以上のAr流量を50cc/minにした以外は実施例1と同じ第1の工程、第2の工程と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作成した。900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の27.8倍であった。
【0056】
(比較例1)
900℃以上のAr流量を50cc/minにした以外は実施例1と同じ第1の工程、第2の工程と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作成した。
900℃以上で流した二硫化炭素量は、第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の44.6倍であった。還元硫化されて焼成したEu添加BaAl硫化物は炭素が付着していたため、メノウ製乳鉢で、ヘキサンを溶媒にして5分間粉砕した。
【0057】
(比較例2)
ウォーターバスの設定温度を10℃にして1050℃での保持時間を60分にした以外は、実施例1と同じ方法でEu添加BaAl硫化物を作製した。
900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の6.3倍であった。
【0058】
(比較例3)
1050℃での保持時間を4時間にした以外は実施例1と同じ第1の工程、第2の工程と同様の方法でEu添加BaAl硫化物を作製した。
900℃以上で流した二硫化炭素量は第1の工程で得た酸化物粉末の酸素分モル数の30.9倍であった。
【0059】
(従来例)
市販の硫化バリウム(BaS、Alfa AeSar製)10.7gと硫化ユーロピウム(EuS、フルウチ化学株式会社製)0.5gと硫化アルミニウム(Al)9.9gを秤量し、湿度0.02%以下の窒素で置換したグローブボックス中でメノウ乳鉢を用いて20分間の混合を行った以外は、実施例1と同じ方法でEu添加BaAl硫化物を作製した。
【0060】
[輝度の評価]
輝度の評価は、PDP用の青色蛍光体として良く知られているBaMgAl1017:Eu(BAM蛍光体:化成オプト製)を基準物として用い、実施例1から実施例5、及び比較例1と従来例で作製したEu添加BaAl蛍光体とを比較して行った。
【0061】
輝度の評価法は、BAM蛍光体を波長305nmの励起光で励起して得られた蛍光スペクトルの輝度を400nmから600nmまで積分して蛍光の積分強度を求めた。同様にEu添加BaAl蛍光体も355nm波長の励起光で励起して蛍光スペクトルの輝度を400nmから600nmまで積分して蛍光の積分強度を求め、その求めた積分強度をBAM蛍光体の積分強度で除した値を強度比として求めて比較した。その結果を表1に示す。
なお、励起光305nmは、BAM蛍光体が最もよく蛍光する励起波長であり、355nmの波長は、Eu添加BaAl蛍光体が最もよく蛍光する励起波長である。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から判るように、実施例1から実施例5で作製したEu添加BaAl蛍光体は、従来の製造方法による従来例のEu添加BaAl蛍光体と比べて、2倍を超える積分強度を有し、実施例では、基準としたBAM蛍光体の積分強度の51%(実施例3)の積分強度を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法によれば、硫化水素を用いることなく高輝度のMS-Al:Eu2+蛍光体、特にバリウムチオアルミネート硫化物(BaAl)蛍光体を作製でき、波長305nmの励起光において、BAMの積分強度の35%の強度を有し、特に繰り返し還元硫化した蛍光体では、従来の製造方法による蛍光体と比較して、2倍以上のはるかに大きな強度が得られる。更に、励起光が400nm程度の波長まで、実用的な輝度を持ち、したがって、波長400nm近傍の近紫外LEDで青色発光する蛍光体として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[AAl:RE]で表され、Aがアルカリ土類金属元素、希土類元素がREである希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、
前記希土類元素REが、均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を合成する第1の工程、
前記第1の工程で得られた一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を、二硫化炭素を含む不活性ガス流通下で熱処理し、900℃以上で流す二硫化炭素のモル数が第1の工程で得られる酸化物の酸素分モル数の7倍以上、30倍以下の条件で還元硫化する第2の工程、
からなることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程が、前記希土類元素REの硝酸塩の水溶液に、オキシカルボン酸、グリコール又は水、アルカリ土類金属の炭酸塩、硝酸アルミニウムを順次加え、更に120〜250℃に加熱してゲルを得た後に、前記ゲルを400〜500℃で熱処理して炭酸塩前駆体を作製し、前記炭酸塩前駆体を700〜1100℃の熱処理により前記希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物とすることを特徴とする請求項1に記載の希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程が、前記第1の工程で得られる希土類元素REが均一に分散した一般式[AAl:RE]の希土類添加酸化物を、二硫化炭素を20%から60%含んだ不活性ガス流通下で、900〜1150℃の熱処理を行なうことにより還元硫化された焼成物の希土類添加硫化物とすることを特徴とする請求項1に記載の希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記希土類元素REがEu、前記アルカリ土類金属元素Aがバリウムであり、且つ前記Euの組成比が前記Ba+Euの含有量に対して1〜6at%で、さらに前記xが0.9<x<1.1、前記yが1.9<y<2.1、前記zが3.7<z<4.3であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188619(P2012−188619A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55425(P2011−55425)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】