説明

希土類磁石及びこれを用いたモータ

【課題】希土類磁石の残留磁束密度及び保磁力を増加させるとともに、そのキュリー温度を高める。
【解決手段】磁粉を固めて形成した磁石において、この磁粉の表面を金属フッ化物被膜で覆い、前記磁粉は、相隣る鉄原子が結合したホモ部、及び二個の鉄原子が鉄以外の原子を介して結合したヘテロ部を含む結晶構造を形成し、前記二個の鉄原子の距離を、前記相隣る鉄原子の距離と異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石及びこれを用いたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素化合物或いは酸フッ素化合物を含む希土類焼結磁石は、特許文献1〜6に記載されている。
【0003】
特許文献1には、R−Fe−(B、C)系焼結磁石(但し、Rは希土類元素であり、Rの50%以上はNd及び/又はPrとする)であって、NdFe14B型結晶から主として構成される主相の結晶粒界又は粒界三重点に粒状の粒界相が形成され、前記粒界相が希土類元素のフッ素化合物を含み、前記希土類元素のフッ素化合物の焼結磁石全体に対する含有量が3重量%から20重量%の範囲にあることを特徴とする着磁性が改善されたR−Fe−(B、C)系焼結磁石が開示されている。
【0004】
特許文献2には、R組成(RはSc及びYを含み、Tb及びDyを除く希土類元素から選ばれる1種又は2種以上、RはTb及びDyから選ばれる1種又は2種、TはFe及びCoから選ばれる1種又は2種、AはB及びCから選ばれる1種又は2種、MはAl、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上)を有する焼結磁石体であって、その構成元素であるF及びRが磁石体中心より磁石体表面に向かって平均的に含有濃度が濃くなるように分布し、かつ該焼結磁石体中の(R、R14A正方晶からなる主相結晶粒の周りを取り囲む結晶粒界部において、結晶粒界に含まれるR/(R+R)の濃度が主相結晶粒中のR/(R+R)濃度より平均的に濃く、更に結晶粒界部の磁石体表面より少なくとも20μmの深さ領域にまで、結晶粒界部に(R、R)の酸フッ化物が存在している希土類永久磁石が開示されている。
【0005】
特許文献3には、R−Fe−B系(RはSc及びYを含む希土類元素)焼結磁石体にその表面からE成分(Eはアルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)及びフッ素原子を吸収させることによって得られ、下記式(1)又は(2)で示される組成を有する焼結磁石体であって、その構成元素であるFが磁石体中心より磁石体表面に向かって平均的に含有濃度が濃くなるように分布し、かつ該焼結磁石中の(R、E)14A正方晶からなる主相結晶粒の周りを取り囲む結晶粒界部において、結晶粒界に含まれるE/(R+E)の濃度が主相結晶粒中のE/(R+E)濃度より平均的に濃く、更に結晶粒界部の磁石体表面より少なくとも20μmの深さ領域にまで、結晶粒界部に(R、E)の酸フッ化物が存在し、該領域において円相当径が1μm以上の該酸フッ化物粒子が1平方ミリメートル当たり2000個以上の割合で分散し、かつ当該酸フッ化物が面積分率で1%以上を占め、磁石体表層部の電気抵抗が内部より高いことを特徴とする渦電流損失を低減した傾斜機能性希土類永久磁石が開示されている。
【0006】
(1)
(R・E)a+b (2)
(式中、RはSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上、Eはアルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1種又は2種以上であるが、RとEとが同一元素を含有していてもよく、RとEとが同一元素を含有していない場合は式(1)で表され、RとEとが同一元素を含有している場合は式(2)で表される。TはFe及びCoから選ばれる1種又は2種、AはB及びCから選ばれる1種又は2種、MはAl、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上。)
特許文献4には、R組成を有する焼結磁石体であって、該焼結磁石体中の(R、R14A正方晶からなる主相結晶粒の周りを取り囲む結晶粒界部において、結晶粒界に含まれるR/(R+R)の濃度が主相結晶粒中のR/(R+R)濃度より平均的に濃く、しかも、Rが磁石体中心より磁石体表面に向かって平均的にその含有濃度が濃くなるように分布し、かつ、結晶粒界部の磁石体表面より少なくとも20μmの深さ領域にまで、結晶粒界部に(R、R)の酸フッ化物が存在し、磁石体表層部の保磁力が内部より高い傾斜機能性希土類永久磁石が開示されている。
【0007】
特許文献5には、R組成を有する焼結磁石体であって、その構成元素であるF及びRが磁石体中心より磁石体表面に向かって平均的に含有濃度が濃くなるように分布し、かつ、R/(R+R)の濃度が(R、E)14A正方晶からなる主相結晶粒中のR/(R+R)濃度より平均的に濃い結晶粒界が磁石表面から少なくとも10μmの深さまで連続した三次元網目状の形態をなしていることを特徴とする希土類永久磁石が開示されている。
【0008】
特許文献6には、鉄及び希土類元素を含む磁性体で構成された磁石であり、前記磁性体の内部には複数のフッ素化合物層又は酸フッ素化合物層が形成され、前記フッ素化合物層又は酸フッ素化合物層は、前記磁性体の結晶粒の平均粒径よりも大きな長軸を有する磁石が開示されている。
【0009】
非特許文献1には、純物質であるGdFe17及び粒界化合物であるGdFe17(Z=C、N、O、F)に関して局所磁気モーメント等の計算を行い、均質な体積膨張による幾何学的な効果と、近接する鉄原子と粒界の原子との混成による化学的な効果とを切り分けて検討したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−282312号公報
【特許文献2】特開2006−303433号公報
【特許文献3】特開2006−303434号公報
【特許文献4】特開2006−303435号公報
【特許文献5】特開2006−303436号公報
【特許文献6】特開2008−270699号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】PHYSICAL REVIEW B、pp.3296〜3303(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、希土類磁石の残留磁束密度及び保磁力を増加させるとともに、そのキュリー温度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁石は、磁粉を固めて形成した磁石であって、この磁粉の表面を金属フッ化物被膜で覆った構成を有し、前記磁粉は、相隣る鉄原子が結合したホモ部、及び二個の鉄原子が鉄以外の原子を介して結合したヘテロ部を含む結晶構造を有し、前記二個の鉄原子の距離が、前記相隣る鉄原子の距離と異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、希土類磁石の残留磁束密度及び保磁力を増加させるとともに、そのキュリー温度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の磁石の結晶構造(体心立方晶構造)を示す模式図である。
【図2】本発明による実施例の磁石の結晶構造を示す模式図である。
【図3】本発明による実施例の磁石を構成する磁粉の構造を示す模式断面図である。
【図4】本発明による実施例の磁石のX線回折パターンを示すグラフである。
【図5】本発明による実施例の磁石を適用した磁石モータを示す断面図である。
【図6】本発明による実施例の磁石の磁化と磁場との関係を示すグラフである。
【図7】本発明による実施例である磁粉の界面近傍の構造を示す模式断面図である。
【図8】本発明による実施例の磁石の表面近傍における各元素の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、希土類磁石及びその製造方法に関し、特に、重希土類元素の使用量を低減し、高エネルギー積或いは高耐熱性を有する磁石を使用したモータに関する。
【0017】
上記の従来技術によるフッ化物を用いた希土類焼結磁石は、NdFeB磁粉に層状にフッ素を含んだ相を形成するために、フッ素化合物などの粉砕粉を原料にしており、NdFeB結晶粒の外周側に重希土類元素を偏在化させ、保磁力を増加させている。重希土類元素の使用量を増加させると残留磁束密度が低下するが、重希土類元素を粒界近傍に偏在化させることで使用量を削減している。
【0018】
重希土類を粒界近傍に偏在化させることにより、粒界近傍の磁化は減少するが、使用量が少ないために磁石全体の残留磁束密度の低下はほとんどみられない。希土類磁石に使用する希土類元素は、資源が希少であり、鉱石の埋蔵場所が偏在しているため、資源セキュリティが問題となる可能性がある。
【0019】
非特許文献1に記載されたフッ素化合物を成長させ、その構造を高精度で評価している例はない。
【0020】
このため、希土類元素をできるだけ使用しない磁石が必要とされている。
【0021】
本発明は、鉄原子間にフッ素を侵入させた希土類‐鉄‐フッ素化合物に着目したものである。すなわち、本発明は、フッ素を希土類鉄の格子間に侵入させると共に、鉄の格子間にもフッ素原子を侵入させることにより、磁化の増大を図るとともに、磁石の使用量を低減させるものである。
【0022】
本発明は、希土類‐鉄‐フッ素化合物と鉄との強磁性的結合を利用して希土類‐鉄‐フッ素化合物及び鉄の少なくとも2相を磁気的に結合させ、鉄の格子間にフッ素を侵入させるものである。後者の鉄は、フッ素が侵入することにより、体積が膨張するとともに、正方晶の格子に歪みが生ずる。
【0023】
本発明によれば、磁化、及び、鉄原子の磁気モーメントを増加させ、その結果として、残留磁束密度を増加させることができる。
【0024】
図1は、従来の磁石の結晶構造(体心立方晶構造)を示す模式図である。
【0025】
本図においては、鉄原子501によるbcc構造(体心立方晶構造)を表している。
【0026】
また、図2は、本発明による実施例の磁石の結晶構造を示す模式図である。
【0027】
本図においては、二個の鉄原子501がフッ素原子502を介して結合し、歪んだ結晶構造を有する状態を表している。すなわち、相隣る鉄原子501が直接結合した部位(ホモ部と呼ぶ。)、及び二個の鉄原子501が鉄以外の原子(本図においてはフッ素原子502である。)を介して結合した部位(ヘテロ部と呼ぶ。)とを含む結晶構造を有し、前記二個の鉄原子501の距離が、前記相隣る鉄原子501の距離と異なっている。
【0028】
上記目的を達成するためには、複数の手法がある。
【0029】
いずれの手法の場合も、粉砕粉を含まず、光透過性のあるフッ素化合物溶液を使用する。
【0030】
上記の手法のうち、第一の手法は、隙間(空隙又は細孔)のある低密度成形体に上記のフッ素化合物溶液を含浸させた後、焼結させるものである。
【0031】
第二の手法は、あらかじめ磁粉表面にフッ素化合物を塗布した表面処理磁粉と未処理磁粉とを混合した後、仮成形して焼結するものである。
【0032】
第三の手法は、焼結ブロック表面から局所的に拡散させるものである。
【0033】
SmFe17と正方晶(bct)の鉄(Fe)との混合相を成長させて磁石を作製する場合、SmFe17磁粉の組成をFe側に0.1〜10%ずらした組成の磁粉の粒度分布を整えた後、磁界中で仮成形する。この仮成形体には、磁粉と磁粉の間に隙間があるため、隙間にフッ素化合物溶液を含浸させることにより仮成形体の中心部までフッ素化合物溶液で塗布可能である。
【0034】
ここで、仮成形体とは、焼結前の密度が低い状態のものをいう。
【0035】
この場合に、フッ素化合物溶液は、透明性の高いもの、光透過性のあるもの、或いは粘度が低い溶液が望ましく、このような溶液を使用することで、磁粉の微小な隙間にフッ素化合物溶液をしみ込ませて塗布することができる。
【0036】
含浸処理前に水素ガスを用いて磁粉表面を還元し、酸素濃度を低減させることがフッ素を磁粉の中央まで拡散させるための条件の一つである。水素処理により希土類酸化物を還元しMreなど(ここで、Mreは希土類元素である。)の酸化物を除去しておく。酸化物除去によりフッ素化合物と酸化物の反応による酸フッ化物の成長を抑制し、鉄原子間への侵入フッ素濃度を増加させることが可能となる。上記の水素ガスによる還元処理により、最終磁石に形成される酸フッ化物を構成するフッ素量よりも母相中の侵入フッ素及びフッ化物に含有するフッ素量の方が多くなり、磁気特性が改善できる。
【0037】
上記の含浸は、フッ素化合物溶液に仮成形体の一部を接触させることでも行うことができ、仮成形体とフッ素化合物溶液とが接触した面に沿ってフッ素化合物溶液が塗布され、塗布した面に1nm〜1mmの隙間があれば、その隙間の磁粉面に沿ってフッ素化合物溶液が塗布される。含浸方向は、仮成形体の連続した隙間(連通孔ともいう。)のある方向であり、仮成形の条件や磁粉の形状に依存する。
【0038】
上記の含浸において、フッ素化合物溶液が直接接触した仮成形体の外表面と、直接は接触していない他の外表面とで塗布量に差が生じるため、焼結後のフッ素化合物を構成する元素の一部について濃度差を生じさせることが可能である。また、フッ素化合物溶液が直接接触した仮成形体の外表面と、含浸方向である、フッ素化合物溶液が直接は接触していない仮成形体の内部の面(連通孔の内壁面)とでは、平均的にフッ素化合物の濃度分布に差を生じさせることが可能である。
【0039】
フッ素化合物溶液は、アルカリ金属元素、アルカリ土類元素又は希土類元素を1種類以上含む、非晶質に類似の構造をもった炭素を含有するフッ素化合物又は酸素を一部含むフッ素酸素化合物(以下、フッ酸化合物と呼ぶ。)を含む溶液であり、含浸処理は室温で可能である。上記の溶液を含浸した仮成形体を200〜400℃で熱処理することにより溶媒を除去し、500〜800℃で熱処理することにより、フッ素化合物と磁粉との間や粒界に炭素、希土類元素及びフッ素化合物構成元素を拡散させる。
【0040】
その他の使用した希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液も上記とほぼ同様の工程で形成でき、Dy、Nd、La、Mgなどの希土類元素或いはアルカリ土類元素を含むフッ素系処理液に種々の元素を添加しても、いずれの溶液の回折パターンもMe(Meは希土類元素或いはアルカリ土類元素、n、mは正数)或いはMe(Meは希土類或いはアルカリ土類元素、Oは酸素、Cは炭素、Fはフッ素、n、m、p、qは正数)で示されるフッ素化合物や酸フッ素化合物或いは添加元素との化合物と一致しない。これらの溶液或いは溶液を乾燥させた膜の回折パターンは、半値幅が1度以上の複数ピークを主ピークとするX線回折パターンが観測された。これは添加元素とフッ素間或いは金属元素間の原子間距離がMeと異なり、結晶構造もMeと異なることを示している。半値幅が1度以上であることから、上記原子間距離が通常の金属結晶のように一定値ではなくある分布をもっている。このような分布ができるのは、上記金属元素或いはフッ素元素の原子の周囲に他の原子が上記化合物とは異なる配置をしているためであり、その原子は水素、炭素、酸素が主であり、加熱など外部エネルギーを加えることでこれら水素、炭素、酸素などの原子は容易に移動し構造が変化し流動性も変化する。ゾル状及びゲル状のX線回折パターンは半値幅が1度より大きなピークを含む回折パターンから構成されているが、熱処理により構造変化がみられ、上記Me、Me(F、C、O)(F、C、Oの比は任意)或いはMe(F、O)(F、Oの比は任意)の回折パターンの一部がみられるようになる。これらの回折ピークは上記ゾル或いはゲルの回折ピークよりも半値幅が狭い。溶液の流動性を高め塗布膜厚を均一にするためには、上記溶液の回折パターンに1度以上の半値幅をもつピークが少なくとも一つ見られることが重要である。
【0041】
磁粉には、酸素が10〜1000ppm含まれ、他の不純物元素として、H、C、P、Si、Al等の軽元素或いは遷移金属元素などが含まれる。磁粉に含まれる酸素は、希土類酸化物やSi、Alなどの軽元素の酸化物としてばかりでなく、母相中や粒界に化学量論組成からずれた組成の酸素を含む相としても存在する。
【0042】
このような酸素を含んだ相は、磁粉の磁化を減少させ、磁化曲線の形にも影響する。すなわち、残留磁束密度の値の低下、異方性磁界の減少、減磁曲線の角型性の低下、保磁力の減少、不可逆減磁率の増加、熱減磁の増加、着磁特性の変動、耐食性劣化、機械特性低下などにつながり、磁石の信頼性が低下する。酸素は、このように多くの特性に影響するため、磁粉中にできるだけ残留させないような工程が考えられてきた。
【0043】
酸素濃度が1000ppm以上のMreFe17系磁粉(ここで、Mreは希土類元素である。)を使用するとフッ化物溶液処理時のフッ素は前記酸素と結合して酸フッ化物が成長し、フッ素原子を鉄原子間位置などの侵入位置に配置させることは困難である。したがってフッ化物溶液による処理の前に酸素を除き、少なくとも100ppm以下にしておく必要がある。
【0044】
上記の溶液を含浸させて磁粉表面に成長した希土類フッ素化合物は一部溶媒を含んでいるが、MreFe17及びbct構造(体心正方晶構造)又はbcc構造(体心立方晶構造)を有する鉄(Fe)を400℃以下の熱処理で成長させ、真空度1×10−3Torr以下、400〜900℃で加熱保持する。保持時間は30分である。
【0045】
この熱処理により磁粉の鉄原子や希土類元素がフッ素化合物に拡散し、MreFe17とbcc構造或いはbct構造のFeが成長する。上記の溶液の含浸は、成形体の表面から貫通する隙間に沿って生じるため、焼結後の磁石においてフッ素を含む粒界相が表面から別の表面につながるほぼ連続した層となって形成される。ここで、成形体とは、一部焼結した材料をいう。
【0046】
上記の処理液を使用することにより、200〜1000℃の比較的低温度でフッ素が侵入位置に配置した化合物を磁性体内部に成長させ焼結することが可能であり、上記の処理液を含浸させることにより、以下のような効果が得られる。
【0047】
1)処理に必要なフッ素化合物量を低減できる。2)10mm以上の厚さの焼結磁石に適用できる。3)フッ素原子の侵入化温度が低温化できる。4)焼結後の拡散熱処理が不要となる。
【0048】
これらの特徴より、厚板磁石において、含浸部の残留磁束密度の増加、保磁力増加、減磁曲線の角型性向上、熱減磁特性向上、着磁性向上、異方性向上、耐食性向上、低損失化、機械強度向上、製造コスト低減などの効果が顕著になる。
【0049】
磁粉がSmFe系の場合、Sm、Fe、F又は添加元素、或いは不純物元素が200℃以上の加熱温度でフッ素化合物内に拡散する。上記温度でフッ素化合物層内のフッ素濃度は場所により異なり、MreF、MreF、或いはこれらの酸フッ素化合物が層状或いは板状に不連続に形成されるが、含浸する方向にはほぼ連続したフッ素化合物が層状に形成され、表面から反対側の表面までつながった層になる。
【0050】
拡散の駆動力は、温度、応力(歪)、濃度差、欠陥などであり電子顕微鏡などにより拡散した結果を確認できるが、フッ素化合物粉砕粉を使用しない溶液を含浸させて使用することにより、室温で既に仮成形体の中央にフッ素化合物を形成でき、低温度で拡散させることが可能なため、フッ素化合物の使用量を少なくでき、特に、高温にすると、焼結しにくいSmFeF系磁石粉の場合、有効である。SmFeF系磁粉には、主相にSmFe17の結晶構造とbct構造或いはbcc構造のFeの相が成長した磁粉を含んでおり、Al、Co、Cu、Tiなどの遷移金属が上記主相に含有してもよい。また、Fの一部をCとしてもよい。
【0051】
また、主相以外に酸フッ化物(フルオロキサイド(fluoroxide)ともいう。)が含まれてもよい。このようなフッ素化合物を含浸工程によって形成された焼結磁石は、フッ素が磁石表面から別の面まで連続した層を含むか、或いは磁石内部に表面につながらないフッ素を含む層状粒界が含まれる。
【0052】
このように含浸した部分では、粒界付近にフッ素化合物の偏在がみられ、保磁力及び残留磁束密度が増加する。保磁力の増加はPrF系溶液を使用した場合、含浸していない部部分の1.1〜3倍である。
【0053】
図3は、本発明による実施例の磁石を構成する磁粉の構造を示す模式断面図である。
【0054】
本図において、多数の磁粉601が圧縮成形されて成形体603(磁石)を形成している。そして、この成形体603の空隙に金属フッ化物被膜602が形成されている。この金属フッ化物被膜602は、上記のフッ素化合物溶液を成形体603の空隙に含浸させた後、高温度で焼結して形成したものである。
【0055】
保磁力が増加した部分では、残留磁束密度が1〜10%増加するため、含浸部の耐熱性のみ向上するため、モータ内の逆磁界が印加される角付近の高保磁力化及び高残留磁束密度化が可能とである。上記MreFe17系はMreFe14B系よりもFeの含有量が多く、資源セキュリティ向上に繋がる。
【0056】
また、MreFe17よりもFe濃度の高いMreFe(m/n>7)の化合物に対しても高保磁力化及び高残留磁束密度化が可能である。
【0057】
さらに、高保磁力及び高残留磁束密度が必要な部分は磁石モータにおいて、径方向の極中心からみて左右非対称であってもよい。左右非対称の高保磁力高残留磁束密度部分を形成するために、含浸及び拡散処理などの手法を用いることにより、希土類の使用量を低減することが可能である。
【0058】
本発明の磁石は、前記鉄以外の原子の一部又は全部が、フッ素、ホウ素、炭素、窒素及び酸素の群から選択される元素であることを特徴とする。
【0059】
本発明の磁石は、前記磁粉が、希土類元素を含むことを特徴とする。
【0060】
本発明の磁石は、前記磁粉の中心部を構成する母相と前記ヘテロ部を含む結晶とが直接接触した構造を有することを特徴とする。
【0061】
本発明の磁石は、前記金属フッ化物被膜が、希土類元素、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の群から選択される少なくとも一種類の元素のフッ化物を含むことを特徴とする。
【0062】
本発明の磁石は、前記母相に含まれる前記鉄以外の原子の濃度が、前記母相の中心部に比べて前記母相の外周部で高いことを特徴とする。
【0063】
本発明の回転子は、上記の磁石を用いたことを特徴とする。
【0064】
本発明の回転子は、前記磁石の外周部における前記鉄以外の原子の濃度が、前記磁石の内周部における前記鉄以外の原子の濃度よりも高いことを特徴とする。
【0065】
本発明の回転子は、前記磁石の外周部における磁束密度が、前記磁石の内周部における磁束密度よりも高いことを特徴とする。
【0066】
本発明の回転子は、前記磁石の外周部における磁束密度及び保磁力が、前記磁石の内周部における磁束密度及び保磁力よりも高いことを特徴とする。
【0067】
本発明のモータは、上記の磁石を用いたことを特徴とする。
【0068】
本発明のモータは、上記の回転子を用いたことを特徴とする。
【0069】
本発明の回転電機は、上記の磁石を用いたことを特徴とする。
【0070】
以下、本発明について実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0071】
(Pr0.9Cu0.1)F(X=1〜3)希土類フッ化物コート膜の形成処理液は、以下の手順により作製した。
【0072】
(1)硝酸プラセオジム4gを100mLの水に導入し、振とう器又は超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
【0073】
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をPrF(X=1〜3)が生成する化学反応の当量分徐々に加えた。
【0074】
(3)ゲル状沈殿のPrF(X=1〜3)が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
【0075】
(4)6000〜10000r.p.m.の回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同量のメタノールを加えた。
【0076】
(5)ゲル状のPrFクラスタを含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
【0077】
(6)上記(4)及び(5)の操作を酢酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンが検出されなくなるまで、3〜10回繰り返した。
【0078】
(7)PrF系の場合、ほぼ透明なゾル状のPrFとなった。PrFの濃度が1g/5mLのメタノール溶液となるように調製し、処理液とした。
【0079】
(8)上記の処理液に溶液構造を変えない条件で銅(Cu)の有機金属化合物(ビスアセチルアセトナト銅(II))を添加した。
【0080】
上記の処理液、又は上記の処理液を乾燥させた膜のX線回折パターンを測定した結果、X線回折パターンは、半値幅が2度以上(2〜10度)の複数ピークから構成されていた。これは、添加元素とフッ素との間或いは添加元素と金属元素との間の原子間距離がMreと異なり、結晶構造もMreやMre(F、O)と異なることを示している。ここで、Mreは希土類元素であり、Fはフッ素、Oは酸素、nやmは正の整数である。
【0081】
また、半値幅は、ベースラインと平行に最大強度のピークの1/2の強度位置で引いた線の幅である。CuKα線を使用したθ−2θ走査により測定したX線回折パターンから求める。
【0082】
半値幅が2度以上であることから、上記の原子間距離が通常の金属結晶のように一定値ではなく、ある分布を有していることがわかる。
【0083】
このような分布が生じるのは、上記金属元素或いはフッ素元素の原子の周囲に他の原子が上記化合物とは異なる配置をしているためであり、その原子は、水素、炭素又は酸素が主である。加熱など外部エネルギーを加えることにより、これらの水素、炭素又は酸素などの原子は容易に移動して構造が変化し、流動性も変化する。
【0084】
ゾル及びゲルのX線回折パターンは半値幅が1度より大きなピークから構成されているが、熱処理により構造変化が現れ、上記Mre或いはMre(F、O)の回折パターンの一部が測定されるようになる。Cuを添加しても、上記の処理液のX線回折に長周期構造は現れない。ここで、長周期構造とは、鉄の単位胞を三次元のいずれかの方向に重ねた長い周期を有する構造をいう。
【0085】
このMreの回折ピークは、上記ゾル或いはゲルの回折ピークよりも半値幅が狭い。上記の処理液の流動性を高めて塗布膜厚を均一にするためには、上記の処理液の回折パターンに2度以上の半値幅をもつピークが少なくとも一つ見られることが重要である。このような1度以上の半値幅のピーク、及びMreの回折パターン或いは酸フッ素化合物のピークが含まれても良い。
【0086】
Mre或いは酸フッ素化合物の回折パターンのみ、又は1度以下の回折パターンが上記の処理液の回折パターンに主として観測される場合、上記の処理液中にゾルやゲルではない固相が混合していると考える。これは、流動性の低下と対応している。
【0087】
つぎに、上記の処理液を用いてSmFe17.2粉に塗布する。
【0088】
(1)SmFe17.2の仮成形体(10×10×10mm)を室温で圧縮成形により作製する。
【0089】
(2)100〜800℃の水素雰囲気で1〜5時間還元した後、PrF系コート膜形成処理中に浸漬し、そのブロックを2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
【0090】
(3)上記(2)の操作を1〜5回繰り返した後、400〜1100℃の温度範囲で0.5〜5時間熱処理した。
【0091】
(4)上記(3)で表面コート膜を形成した異方性磁石の異方性方向に30kOe以上のパルス磁界を印加した。
【0092】
この着磁成形体を直流M−Hループ測定器にて磁極間に成形体を着磁方向が磁界印加方向に一致するように挟み、磁極間に磁界を印加することで減磁曲線を測定した。着磁成形体に磁界を印加させる磁極のポールピースには、FeCo合金を使用し、磁化の値は同一形状の純Ni試料及び純Fe試料を用いて校正した。
【0093】
この結果、Prフッ化物コート膜(フッ化プラセオジム被膜)を形成したSmFe17.2のブロックの保磁力は、当初の0.1kOeから10倍の1kOeに増加した。
【0094】
また、bcc構造及びbct構造のFe、及びSmFe17.2の2相が形成されていることをX線回折或いは電子線回折から確認した。高保磁力を示すSmFe17.2に隣接してbct構造或いはbcc構造で長軸の格子定数が0.28〜0.32nmのFeが成長しており、磁区構造観察及び磁化曲線の形から、両者は磁気的に結合していることを確認した。X線回折パターンの測定には広角X線回折装置を使用し、X線源にはCuを使用し、X線出力250mA、光学系はモノクロメータ付集中ビームを使用した。スリット幅は0.5度である。
【0095】
結晶構造の解析から、フッ素原子の一部が鉄原子の間の一部に侵入し、bct構造の長軸が0.28〜0.32nmとなっていることを確認した。ここで、フッ素原子が侵入した位置を侵入位置と呼ぶ。
【0096】
侵入位置へのフッ素原子の配置は、X線回折ピークの回折角度が低角側にシフトすること、回折ピークが分離してbct回折パターンと一致することのいずれかが観測される。
【0097】
また、Cuなどの添加元素の役割は、以下のいずれかである。
【0098】
1)粒界付近に偏在して界面エネルギーを低下させる。2)粒界の格子整合性を高める。3)粒界の欠陥を低減する。4)フッ素原子の侵入位置への拡散を助長する。5)フッ素原子による磁気異方性エネルギーを高める。6)フッ化物、酸フッ化物或いは炭酸フッ化物との界面を平滑化する。7)侵入位置のフッ素原子の熱安定性を高める。8)酸素を母相から除去する。9)母相((Sm、Pr)Fe17のキュリー温度を高める。10)粒界中心にCuを含む添加元素が偏析し、粒界相を非磁性化する。11)母相と鉄の界面で結合を強める。
【0099】
以上より、保磁力の増加、減磁曲線の角型性向上、残留磁束密度増加、エネルギー積増加、キュリー温度上昇、着磁磁界低減、保磁力や残留磁束密度の温度依存性低減、耐食性向上、比抵抗増加、熱減磁率低減のいずれかの効果が認められる。
【0100】
Cuなどの添加元素は、溶液を用いて処理後加熱拡散させるため、あらかじめ焼結磁石に添加された元素の組成分布とは異なり、希土類元素の偏在している粒界近傍で高濃度になる傾向がある。このようにして作製した(Sm、Pr)Fe17構造を主相とし、bcc構造或いはbct構造の鉄が成長した磁石を積層電磁鋼板、積層アモルファス或いは圧粉鉄と接着させて回転子を作製する場合、あらかじめ磁石を挿入する位置に挿入する。
【0101】
上記のようなMreFe17構造にはフッ素原子位置に欠陥があるか、或いは過剰のフッ素が侵入位置に配置し、MreFe173±2という組成範囲であれば20℃での磁気特性に大きく影響しない。また、フッ素原子位置の一部が炭素、酸素、窒素、ホウ素原子が結晶構造を変えない範囲の濃度で含有してもよい。
【0102】
図5は、本発明の磁石を適用したモータの軸方向に垂直な断面の模式図を示す。
【0103】
モータは、回転子100と固定子2とを含む構成であり、固定子2は、コアバック5とティース4とを含み、隣り合うティース4の間のコイル挿入位置7には、コイル8a、8b、8c(3相巻線のU相巻線8a、V相巻線8b、W相巻線8c)のコイル群が挿入されている。ティース先端部9の内側(シャフト中心部、又は回転中心部と呼ぶ。)には、回転子100が入る回転子挿入部10が確保され、この位置に回転子100が挿入される。回転子100の外周側(外周部)には、焼結磁石210が挿入されている。焼結磁石210は、非フッ素処理部200(フッ化物溶液で処理していない部分)とフッ素処理部201及び202(フッ化物溶液で処理した部分)とを含む構成となっている。
【0104】
焼結磁石210のフッ素処理部201の面積とフッ素処理部202の面積とは等しくなく、磁界設計により逆磁界が印加される磁界強度が大きい方を広い面積でフッ化物処理して保磁力及び残留磁束密度を高めている。
【0105】
このように焼結磁石210の外周側(外周部)を部分的にフッ化物処理することにより、希土類元素の使用量を少なくし、かつ、減磁耐力を向上させることができ、使用温度範囲を拡大し、モータ出力を増加させることができる。ここで、焼結磁石210の外周側(外周部)とは、焼結磁石210を回転子100に設置した状態で、回転子100の中心から見て回転子100の外周側に位置する焼結磁石210の部位をいう。一方、焼結磁石210の内周側(内周部)とは、焼結磁石210を回転子100に設置した状態で、回転子100の中心から見て回転子100の中心部側に位置する焼結磁石210の部位をいう。
【0106】
本図において、焼結磁石210の外周部におけるフッ素原子の濃度は、焼結磁石210の内周部におけるフッ素原子の濃度よりも高い。
【0107】
図5に示した焼結磁石210の構成は本図に限定されるものではなく、非フッ素処理部200並びにフッ素処理部201及び202の配置を適宜選定することができる。これにより、モータの回転子100に適した非フッ素処理部200並びにフッ素処理部201及び202の配置を有する焼結磁石210を容易に作製することができる。この配置は、磁石の仮成形体の作製を行った後、フッ化物処理を行う際にフッ素化合物溶液に仮成形体を含浸させる部位及び時間を設定することにより調節することができる。
【0108】
図6は、本発明による実施例の磁石の磁化と磁場との関係を示すグラフ(磁気ヒステリシス曲線の第二象限)である。
【0109】
本図において、水素による還元処理及びフッ化物処理を行った本実施例を実線で示し、水素による還元処理及びフッ化物処理を行わない比較例を一点鎖線で示し、水素による還元処理を行わず、フッ化物処理を施した比較例を点線で示した。
【0110】
本図から、本実施例の場合、比較例に比べて、保磁力、残留磁束密度ともに大きいことがわかる。
【実施例2】
【0111】
SmF(X=1〜3)希土類フッ化物コート膜の形成処理液は、以下の手順により作製した。
【0112】
(1)硝酸サマリウム4gを100mLの水に導入し、振とう器又は超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
【0113】
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をSmF(X=1〜3)が生成する化学反応の当量分徐々に加えた。
【0114】
(3)ゲル状沈殿のSmF(X=1〜3)が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
【0115】
(4)6000〜10000r.p.m.の回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同量のメタノールを加えた。
【0116】
(5)ゲル状のSmFクラスタを含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
【0117】
(6)上記(4)及び(5)の操作を酢酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンが検出されなくなるまで、3〜10回繰り返した。
【0118】
(7)SmF系の場合、ほぼ透明なゾル状のSmFとなった。SmFの濃度が1g/5mLのメタノール溶液となるように調製し、処理液とした。
【0119】
(8)上記の処理液に溶液構造を変えない条件で銅(Cu)の有機金属化合物(ビスアセチルアセトナト銅(II))を添加した。
【0120】
上記の処理液、又は上記の処理液を乾燥させた膜のX線回折パターンを測定した結果、X線回折パターンは、半値幅が1度以上(2〜10度)の複数ピークから構成されていた。これは、添加元素とフッ素との間或いは添加元素と金属元素との間の原子間距離がMeと異なり、結晶構造もMeやMe(F、O、C)と異なることを示している。ここで、Meは希土類元素、アルカリ金属又はアルカリ土類元素であり、Fはフッ素、Oは酸素、Cは炭素、nやmは正の整数である。
【0121】
フッ素、酸素及び炭素の比率は、生成物によって異なり、焼結磁石の最外表面ではフッ素及び酸素が炭素よりも多い。半値幅が1度以上であることから、上記の原子間距離が通常の金属結晶のように一定値ではなく、ある分布を有している。
【0122】
このような分布が生じるのは、上記金属元素或いはフッ素元素の原子の周囲に他の原子が上記化合物とは異なる配置をしているためであり、その原子は水素、炭素、酸素が主である。加熱など外部エネルギーを加えることにより、これらの水素、炭素又は酸素などの原子は、容易に移動して構造が変化し、流動性も変化する。
【0123】
ゾル及びゲルのX線回折パターンは、半値幅が1度より大きなピークから構成されているが、熱処理により構造変化が現れ、上記Me或いはMe(F、O、C)の回折パターンの一部が測定されるようになる。Cuを添加しても、上記の処理液のX線回折に長周期構造は現れない。
【0124】
このMeの回折ピークは、上記ゾル或いはゲルの回折ピークよりも半値幅が狭い。上記の処理液の流動性を高め塗布膜厚を均一にするためには、上記の処理液の回折パターンに1度以上の半値幅をもつピークが少なくとも一つ見られることが重要である。このような1度以上の半値幅のピークとMeの回折パターン或いは酸フッ素化合物のピークとが含まれても良い。
【0125】
Me或いは酸フッ素化合物の回折パターンのみ、又は1度以下の回折パターンが上記の処理液の回折パターンに主として観測される場合、上記の処理液中にゾルやゲルではない固相が混合していると考えるこれは、流動性の低下と対応している。
【0126】
つぎに、このような上記の処理液を用いてSmFe17.1に塗布する。
【0127】
(1)SmFe17.1の成形体(10×10×10mm)を室温で圧縮成形により作製する。
【0128】
(2)水素ガス雰囲気中(300℃)で磁粉表面の酸素濃度を低減させた後、SmF(フッ化サマリウム)系コート膜形成処理中に浸漬し、そのブロックを2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
【0129】
(3)上記(2)の操作を1〜5回繰り返し、400〜600℃の温度範囲で0.5〜5時間熱処理した。
【0130】
(4)上記(3)で表面コート膜を形成した異方性磁石の異方性方向に30kOe以上のパルス磁界を印加した。
【0131】
この着磁成形体を直流M−Hループ測定器にて磁極間に成形体を着磁方向が磁界印加方向に一致するように挟み、磁極間に磁界を印加することで減磁曲線を測定した。着磁成形体に磁界を印加させる磁極のポールピースには、FeCo合金を使用し、磁化の値は同一形状の純Ni試料及び純Fe試料を用いて校正した。
【0132】
この結果、サマリウムフッ化物コート膜(フッ化サマリウム被膜)を形成したSmFeN成形体のブロックの保磁力は、当初の0.8kOeから2倍の1.6kOeに増加した。また、残留磁束密度が10%増加した。
【0133】
高保磁力を示す磁石では、フッ素原子が鉄原子間の侵入位置に配置し、bct(体心正方晶)構造の鉄−フッ素相が成長し、その長軸の格子定数が平均で0.29〜0.31nmであることをX線回折パターンの測定により確認した。還元処理により酸素濃度を低減させているため、磁石内の酸フッ化物の成長は抑えられる。この酸フッ化物が磁粉の界面や粒界に成長するとbcc構造或いはbct構造の鉄が酸フッ化物の外側に成長し易くなり、主相と鉄の間で強磁性的な結合が弱められ残留磁束密度が低下する。ここで、フッ素原子が侵入した位置を侵入位置と呼ぶ。
【0134】
侵入位置には、フッ素原子以外に窒素も侵入しており、フッ素原子の侵入位置への配置により、磁気異方性が高まる結果、保磁力が増加したものと推定することができる。また、成形体に成長している鉄は全体の体積の約5%であり、この鉄の一部にフッ素が侵入して単位格子体積の膨張或いは正方晶の成長が確認できた。正方晶のa軸とc軸との軸比は1.01〜1.20であり、化学量論組成よりも過剰なフッ素原子である14〜18原子%の濃度であっても格子膨張が確認できた。この格子膨張により、鉄の磁気モーメントが増加し、格子膨張した鉄と母相のSmFe17.1(N、F)との界面において強磁性結合が生じ、残留磁束密度が増加したものと推定することができる。
【0135】
なお、成形体に占める鉄の体積は、0.1〜20%でこのような効果が確認できた。成形体に占める鉄の体積が0.1%未満の場合、残留磁束密度の増加は10%未満であり、成形体に占める鉄の体積が20%より大きい場合、保磁力が最大値から減少する傾向を示した。
【実施例3】
【0136】
粒径10〜500nmのSmFe17.1磁粉を攪拌しながら水素雰囲気で還元し、磁粉表面付近の酸素濃度を低減するとともに、水素を磁粉内に10〜100ppm残留させる。還元後の酸素濃度は500ppmである。この磁粉の表面にPrF(X=1〜5)のアルコール膨潤溶液を塗布する。塗布膜厚は1〜100nmである。
【0137】
塗布後、乾燥させてアルコールを除去し、フッ化物と磁粉とを反応させる。反応温度は350℃以上であり、合金組成や粒径、酸素濃度などによって最適温度は異なるが、ここでは、900℃、1時間とした。残留した水素により、磁粉のフッ化が進行し、熱処理時の急冷により、フッ素原子が鉄原子間の侵入位置に配置する。
【0138】
この磁粉を10kOeの磁界中で1t/cmの荷重で成形し、100×100×200mmの仮成形体を得た。この仮成形体に、Alを1原子%含有するPrF(フッ化プラセオジム)溶液を含浸し、乾燥した後、600℃で焼結させた。焼結後、20kOe以上の磁界で着磁し、磁気特性を直流磁化曲線の測定から求めた。
【0139】
その結果、残留磁束密度1.9T、保磁力25kOeの磁気特性を確認した。残留磁束密度は鉄の格子体積膨張が大きく、格子体積膨張した鉄の体積率が高いほど、大きくなる傾向を示した。これは、フッ素原子が鉄原子間に侵入し、鉄の格子を広げ、鉄原子の磁気モーメントを増加させていることが関連している。キュリー温度は、未処理磁粉の120℃から400℃上昇して520℃となることを確認している。この実施例は、表1のNo.7に関するものである。
【0140】
本手法と同様に、磁粉の組成を変えてフッ化した成形体の主相の組成と主相とは別の構造で成長した鉄の格子体積膨張率、格子膨張が認められた鉄の磁石全体に占める体積率、成形体の残留磁束密度、成形体の保磁力、成形体のキュリー温度を表1に示す。MreFe17系磁粉以外にもMreFe11系及びMreFe12系の磁粉にもフッ化が可能であり、キュリー温度はいずれも330℃以上であった。
【0141】
【表1】

【0142】
上記のようなフッ化物処理した成形磁石は、R−Fe−F系(Rは希土類元素)磁石であって、G成分(Gは遷移金属元素及び希土類元素からそれぞれ1種以上選択される元素、又は遷移金属元素及びアルカリ土類金属元素からそれぞれ1種以上選択される元素)及びフッ素原子を反応させることによって得られ、下記化学式(3)又は(4)で表される。
【0143】
(3)
(R・G)a+b (4)
(ここで、Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上、Mはフッ素を含有する溶液を塗布する前に磁石内に存在する希土類元素を除く原子番号3番〜116番の元素、Gは遷移金属元素及び希土類元素からそれぞれ1種以上選択される元素、又は遷移金属元素及びアルカリ土類金属元素からそれぞれ1種以上選択される元素であり、RとGとが同一であっても良く、RとGとが同一元素でない場合は上記化学式(3)で表され、RとGとが同一元素である場合は上記化学式(4)で表される。TはFe及びCoから選ばれる1種又は2種、AはH(水素)及びC(炭素)から選ばれる1種又は2種以上、a〜gは合金の原子%でa、bは上記化学式(3)の場合0.5≦a≦10、0.005≦b≦1であり、上記化学式(4)の場合は0.6≦a+b≦11であり、0.01≦d≦1、1≦e≦3、0.01≦f≦1、0.01≦g≦1、残部がcである。)
その構成元素であるフッ素が磁石を構成する結晶粒の中心から表面に向かって平均的に含有濃度が高くなるように分布し、かつ、該磁石中のFeを主とするFe−F相が希土類元素を多く含有する主相よりも体積率が少ないことが、X線回折や電子顕微鏡の透過電子線回折、電子線後方散乱パターン、メスバウア効果の測定、中性子線回折などから判明している。
【実施例4】
【0144】
粒径500〜1000nmのSmFe12(サマリウム鉄)磁粉を攪拌しながらアンモニア雰囲気で還元し、磁粉表面付近の酸素濃度を低減すると共に、水素及び窒素を磁粉内に10〜200ppm残留させる。還元後の酸素濃度は600ppmである。この磁粉の表面にSmF(フッ化サマリウム、X=1〜5)のアルコール膨潤溶液を塗布する。塗布膜厚は10nmである。塗布後、乾燥させてアルコールを除去した後、フッ化物と磁粉とを反応させる。反応温度は350℃以上であり、合金組成、粒径、酸素濃度などによって最適温度は異なるが、ここでは900℃、1時間とした。
【0145】
残留した水素及び窒素により、磁粉のフッ化が進行し、熱処理時の急冷により、フッ素原子が鉄原子間の侵入位置に配置する。一部のフッ素原子は、水素や窒素原子の占有位置を置換する。
【0146】
この磁粉を10kOeの磁界中で1t/cmの荷重で成形し、100×100×200mmの仮成形体を得た。この仮成形体に、Mg(マグネシウム)を1原子%含有するSmF溶液を含浸させ、乾燥後600℃で焼結させた。焼結後、20kOe以上の磁界で着磁し、磁気特性を直流磁化曲線の測定から求めた。その結果、残留磁束密度1.9T、保磁力25kOeの磁気特性を確認した。
【0147】
残留磁束密度は、鉄の格子体積膨張が大きく、格子体積膨張した鉄の体積率が高いほど、大きくなる傾向を示した。これは窒素原子やフッ素原子が鉄原子間に侵入し、鉄の格子を広げ、鉄原子の磁気モーメントを増加させていることが関連している。この成形体のキュリー温度は未処理磁粉の120℃から390℃上昇して510℃となることを確認している。この実施例は、表2のNo.5に関するものである。
【0148】
本手法と同様に、磁粉の組成を変えてフッ化した成形体の主相の組成と主相とは別の構造である体心正方晶が成長し、鉄の格子体積膨張率、格子膨張が認められた鉄の磁石全体に占める体積率、成形体の残留磁束密度、成形体の保磁力、成形体のキュリー温度を表2に示す。MreFe17系磁粉以外にもMreFe11系及びMreFe12系の磁粉にもフッ化が可能であり、キュリー温度はいずれも330℃以上であった。
【0149】
【表2】

【0150】
上記のようなフッ化物処理した成形磁石は、R−Fe−N−F系(Rは希土類元素)磁石であって、G成分(Gは遷移金属元素及び希土類元素からそれぞれ1種以上選択される元素、又は遷移金属元素及びアルカリ土類金属元素からそれぞれ1種以上選択される元素)及びフッ素と窒素原子とを反応させることによって得られ、下記化学式(5)又は(6)で表される組成を有する。
【0151】
(F、N) (5)
(R・G)a+b(F、N) (6)
(ここで、Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上、Mはフッ素を含有する溶液を塗布する前に磁石内に存在する希土類元素を除く原子番号3番〜116番の元素、Gは遷移金属元素及び希土類元素からそれぞれ1種以上選択される元素、又は遷移金属元素及びアルカリ土類金属元素からそれぞれ1種以上選択される元素であるが、RとGが同一元素を含有していても良く、RとGが同一元素を含有していない場合は上記化学式(5)で表され、RとGが同一元素を含有している場合は上記化学式(6)で表される。TはFe及びCoから選ばれる1種又は2種、AはH(水素)及びC(炭素)から選ばれる1種又は2種以上、a〜gは合金の原子%でa、bは上記化学式(5)の場合0.5≦a≦10、0.005≦b≦1であり、上記化学式(6)の場合は0.6≦a+b≦11であり、0.01≦d≦1、1≦e≦3、0.01≦f≦1、0.01≦g≦1、残部がcである。)
その構成元素であるフッ素及び窒素が磁石を構成する結晶粒の中心から表面に向かって平均的に含有濃度が高くなるように分布し、かつ該磁石中のFeを主とするFe−(F、N)相が希土類元素を多く含有する主相よりも体積率が少ないことが、X線回折や電子顕微鏡の透過電子線回折、電子線後方散乱パターン、メスバウア効果の測定、中性子線回折などから判明している。
【実施例5】
【0152】
粒径1000〜50000nmのSmFe172〜3磁粉を攪拌しながら100℃にて水素雰囲気で還元し、磁粉表面付近の酸素濃度を低減すると共に、水素を磁粉内に100ppm残留させる。還元後の酸素濃度は500ppmである。この磁粉の表面にSmFのアルコール膨潤溶液を塗布する。塗布膜厚は10nmである。塗布後、乾燥させてアルコールを除去した後、フッ化物と磁粉とを反応させる。反応温度は400℃であり、合金組成、粒径、酸素濃度などによって最適時間は異なるが、100時間とした。
【0153】
残留した水素により、磁粉のフッ化が進行し、熱処理時の急冷により、フッ素原子が鉄原子間の侵入位置に配置する。一部のフッ素原子は侵入している窒素原子位置を置き換えて配置する。X線回折、電子線回折、中性子線回折、メスバウア分光の評価結果から、フッ素原子の再隣接原子位置には鉄原子が占有していることが明らかになっている。一部の鉄の格子は侵入したフッ素原子により膨張し、一部の鉄の格子は体心立方晶から正方晶に結晶構造が変わる。
【0154】
図4は、本発明による実施例の磁石のX線回折パターンを示すグラフである。
【0155】
窒素やフッ素原子が侵入してできたSmFe17系の回折ピークとは別に、回折幅が広い鉄の回折ピークが熱処理温度350℃、500℃及び600℃で熱処理後の磁粉で観測される。
【0156】
この熱処理は、フッ化物との反応後(反応温度400℃)に実施している。熱処理温度が低いほど、鉄の回折ピークは低角側にシフトしており、フッ素原子がFeの基本格子である体心立方晶の隙間である四面体位置或いは八面体位置に配置する。Feの結晶格子が膨張していることを示している。この磁粉を10kOeの磁界中で1t/cmの荷重で成形し、100×100×500mmの仮成形体を得た。
【0157】
これにCuを1原子%含有するSmF溶液で含浸し、乾燥後600℃で焼結させた。焼結後、20kOe以上の磁界で着磁し、磁気特性を直流磁化曲線の測定から求めた。その結果、残留磁束密度1.9T、保磁力30kOeの磁気特性を確認した。残留磁束密度は、鉄の格子体積膨張が大きく、格子体積膨張した鉄の体積率が高いほど、大きくなる傾向を示した。これはフッ素原子が鉄原子間に侵入し、鉄の格子を広げ、鉄原子の磁気モーメントを増加させていることが関連している。
【0158】
キュリー温度は未処理磁粉の480℃から50℃上昇して530℃となることを確認している。また、磁石の比抵抗はフッ素の侵入により10〜50%増加する。
【0159】
このようにフッ素原子を鉄原子間の侵入位置に配置させ、鉄の結晶格子を膨張させる効果が得られるフッ素化合物は、DyF系のDyF以外にLiF、MgF、CaF、ScF、VF、VF、CrF、CrF、MnF、MnF、FeF、FeF、CoF、CoF、NiF、ZnF、AlF、GaF、SrF、YF、ZrF、NbF、AgF、InF、SnF、SnF、BaF、LaF、LaF、CeF、CeF、PrF、PrF、NdF、SmF、SmF、EuF、EuF、GdF、TbF、TbF、DyF、NdF、HoF、HoF、ErF、ErF、TmF、TmF、YbF、YbF、LuF、LuF、PbF、又はBiF、或いはこれらのフッ素化合物に酸素又は炭素或いは遷移金属元素を含んだ化合物の溶液が挙げられる。反応性を高めるためにこれらの溶液中の酸素濃度は1000ppm以下になるように、溶媒中の水分除去、高フッ素濃度化を施して使用することが望ましい。
【0160】
上述の製造方法で作製し、フッ素原子が侵入位置に配置したbcc構造或いはbct構造を有し、第3元素を含むFe−F3元系を主相の混合相である磁石を、積層電磁鋼板、積層アモルファス或いは圧粉鉄と接着させて回転子を作製する場合、あらかじめ磁石を挿入する位置に挿入する。
【0161】
図5は、本発明による実施例の磁石を適用した磁石モータを示す概略断面図である。
【0162】
モータは、回転子100と固定子2とを含む構成であり、固定子2には、コアバック5とティース4とを含み、隣り合うティース4の間のコイル挿入位置7には、コイル8(3相巻線のU相巻線8a、V相巻線8b、W相巻線8cを含む。)のコイル群が挿入されている。ティース先端部9の内側(シャフト中心部、又は回転中心部と呼ぶ。)には、回転子100が入る回転子挿入部10が確保され、この位置に回転子100が挿入される。回転子100の外周側には、焼結磁石210が挿入されている。焼結磁石210は、非フッ素処理部200(フッ化物溶液で処理していない部分)とフッ素処理部201及び202(フッ化物溶液で処理した部分)とを含む構成となっている。
【0163】
焼結磁石210のフッ素処理部201の面積とフッ素処理部202の面積とは等しくなく、磁界設計により逆磁界が印加される磁界強度が大きい方を広い面積でフッ化物処理して保磁力及び残留磁束密度を高めている。
【0164】
このように焼結磁石210の外周側を部分的にフッ化物処理することにより、希土類元素の使用量を少なくし、かつ、減磁耐力を向上させることができ、使用温度範囲を拡大し、モータ出力を増加させることができる。
【実施例6】
【0165】
本実施例においては、粒径0.5〜10μmのNdFe14B粉を磁場が印加可能な成形装置に設置した金型内に挿入する。
【0166】
挿入前にNdフッ化物(ネオジムフッ化物)を含む溶液を使用して磁粉表面にフッ化物を含有する膜を成長させる。平均膜厚は0.1〜2nmである。このフッ化物を含有する膜には、非晶質、菱面体晶の酸フッ化物や結晶質のフッ化物が成長しており、溶媒除去のための加熱処理により構造が変化する。大気中で加熱乾燥することにより、Ndを含有する酸フッ化物が膜内に成長する。この加熱乾燥させた酸フッ化物の結晶構造は温度上昇により菱面体晶から立方晶に構造変化することが確認でき、500〜700℃の温度範囲で上記構造の変化がX線回折パターンの測定により認められる。
【0167】
このような構造変化を伴うフッ化物が磁粉表面に形成されている磁粉を前記磁粉挿入部に挿入し、5kOe以上の磁場を印加する。磁界印加中に1〜3t/cmの荷重により仮成形体を作製する。この仮成形体を真空中で加熱し焼結させる。焼結温度は1050℃であり、仮成形体中に液相が形成され焼結する。焼結後、550℃に再加熱後急冷する。
【0168】
時効処理の前において、フッ化物の一部は磁粉に含有する酸素と反応して酸フッ化物となる。このため、時効前の酸フッ化物の結晶構造は立方晶以外の結晶構造を含んでいる。最後の熱処理となる時効温度では、菱面体の結晶よりも立方体の結晶を多く形成させるようにするために、酸フッ化物が菱面体から立方晶に変態する温度よりも高温側に加熱保持した後冷却する。この時効熱処理により、高温側で安定な立方晶が室温まで保持できるため、粒界近傍の酸フッ化物の結晶構造は主として立方晶となる。
【0169】
時効温度の温度範囲を適正にすることで、時効前よりも時効後の方が立方晶の含有率を増加させることができ、保磁力が増加する。時効温度は、菱面体結晶から立方晶に変態する温度以上の温度が望ましく、酸フッ化物の示差熱分析より得られる発熱ピークの温度よりも高温側で時効することが必要である。冷却時は、この発熱ピークの温度付近を10℃/分以上の速度で冷却することが、菱面体結晶などの立方晶とは異なる構造をもった結晶の成長を抑制させるために望ましい。このような工程によって作製した焼結磁石の磁気特性は、未処理磁石で残留磁束密度1.4T、保磁力20kOeであり、Ndフッ化物を0.1重量%溶液処理した磁石で残留磁束密度1.4T、保磁力30kOeであった。
【実施例7】
【0170】
本実施例においては、粒径0.5〜10μmの正方晶構造をもった不定形形状のNdFe14B粉を磁場が印加可能な成形装置に設置した金型内に挿入する。
【0171】
挿入前にNdフッ化物を含み、アルコールを溶媒とする溶液を使用して磁粉表面にフッ化物を含有する膜を成長させる。平均膜厚は1〜5nmである。このフッ化物を含有する膜には、非晶質、菱面体晶の酸フッ化物や結晶質のフッ化物及び酸化物が成長しており、溶媒除去のための350℃の温度における加熱処理などの熱処理により酸フッ化物や酸化物の結晶構造が容易に変化する膜である。
【0172】
Arガス雰囲気で加熱乾燥することにより、Ndを含有する酸フッ化物が膜内に部分的に成長する。この加熱乾燥させた酸フッ化物の結晶構造は、温度上昇により菱面体晶から立方晶に構造変化することが確認でき、500〜700℃の温度範囲で上記構造の変化がX線回折パターンの測定により認められる。
【0173】
このような構造変化を伴うフッ化物や酸フッ化物が磁粉表面に形成されている磁粉を金型内の磁粉挿入部に挿入し、5kOe以上の磁場を印加する。酸フッ化物の結晶粒径は加熱とともに大きくなり、500℃で1〜10nmである。ここで、酸フッ化物は、Nd(ここで、n、m、lは正の整数)で示される化合物である。
【0174】
また、酸化物はM(x、yは正の整数)で示される化合物である。このような酸フッ化物が加熱とともに成長する膜が塗布された磁粉を金型に挿入し、磁界印加中に0.5t/cmの荷重により仮成形体を作製する。この仮成形体を真空中で加熱し焼結させる。焼結温度は1030℃であり、仮成形体中にフッ化物や酸フッ化物を含む液相が形成されることにより焼結する。
【0175】
焼結後、580℃に再加熱後10℃/minの冷却速度で急冷する。時効処理の前において、フッ化物の一部は磁粉に含有する酸素或いは塗布膜中の酸素と反応して酸フッ化物となる。酸フッ化物には溶液中の炭素或いは窒素が含有している場合も最適な熱処理条件に大差はない。また、焼結時に酸フッ化物(NdOF)に他の希土類元素や鉄原子が一部含有しても、時効後の磁気特性に大きな変化はない。
【0176】
時効熱処理前の酸フッ化物の結晶構造は立方晶以外の結晶構造を含んでいる。最後の熱処理となる時効温度では、菱面体の結晶よりも立方体の結晶を多く形成させるようにするために、酸フッ化物が菱面体から立方晶に変態する温度よりも高温側に加熱保持した後冷却する。
【0177】
この時効熱処理により、高温側でエネルギー的に安定な立方晶が室温まで保持できるため、粒界近傍の酸フッ化物の結晶構造は主として立方晶となる。立方晶の格子定数は温度上昇とともに増加し、立方晶の単位胞体積は、150〜210Åである。時効温度の温度範囲を適正にすることで、時効前よりも時効後の方が立方晶の含有率を増加させ、主相であるNdFe14Bとの格子の整合性が高くなるとともに、Cu、Ga、Zrなどの種々の添加元素を粒界に偏在化することができ、さらに格子定数の値を適正値に制御することで母相との平均的な整合歪みを1〜10%にすること可能であり、立方晶の結晶構造が面心立方格子である場合に保磁力が5〜20kOe増加する。
【0178】
時効温度は、菱面体結晶から立方晶に変態する温度以上の温度が望ましく、酸フッ化物の示差熱分析より得られる発熱ピークの温度よりも約10℃高温側で時効することが必要である。冷却時はこの発熱ピークの温度付近を5℃/分以上の速度で冷却することが、菱面体結晶などの立方晶とは異なる対称性をもった結晶の成長を抑制させるために望ましい。
【0179】
このような工程によって作製した焼結磁石の磁気特性は、未処理磁石で残留磁束密度1.5T、保磁力20kOeであり、Ndフッ化物を0.1重量%溶液処理した磁石で残留磁束密度1.5T、保磁力30kOeであった。
【0180】
本実施例においては、Ndフッ化物について記載しているが、他のフッ化物においても残留磁束密度の低下を抑制して保磁力を増加させることが可能である。そのフッ化物は、希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素を含有するフッ化物である。
【実施例8】
【0181】
本実施例においては、粒径0.5〜10μmのSmFe18粉を磁場が印加可能な成形装置に設置した金型内に挿入する。
【0182】
挿入後SmFに相当するフッ素(F)とサマリウム(Sm)との比率である組成の溶液を使用して磁粉表面の酸素をフッ化物に吸収させる。平均膜厚は100nmである。この酸素を含有するフッ化物は、Sm(O、F)或いはSm(O、F、C)のような酸フッ化物となり、アルコール溶媒も含有する完全に乾燥していない皮膜である。溶媒であるアルコールを乾燥する前の皮膜は磁粉から剥離しやすいため、アルコールで洗浄すると、この一部炭素を含有した未乾燥酸フッ化物を主成分とする被膜を除去できる。
【0183】
窒素雰囲気中で、超音波洗浄により、アルコールと共に上記酸フッ化物を除去後、SmF2〜3の組成比である溶液を磁粉表面に塗布し、350℃で乾燥加熱することによりフッ素を母相であるSmFe18磁粉の中心まで拡散させることができる。
【0184】
フッ素が拡散するとSmFe18の一部はフッ素原子が鉄やSmの原子間である侵入位置或いは置換位置に配置し、キュリー点が上昇するとともに結晶磁気異方性が増加する。この場合の結晶構造はThZn17或いはThNi17構造であり、フッ素原子の一部は、鉄のフッ化物であるFeFを形成し粒界や粒界3重点の一部に鉄のフッ化物が点在する。
【0185】
この金型内で磁場印加により圧縮成形した仮成形体を真空中で加熱し焼結させる。焼結温度は700℃であり、仮成形体中に液相が形成され焼結する。焼結後、300℃に再加熱後急冷する。時効処理の前において、フッ化物の一部は、磁粉に含有する酸素と反応して酸フッ化物となる。
【0186】
図7は、本発明による実施例である磁粉の界面近傍の構造を示す模式断面図である。図7(a)は、磁粉の酸化皮膜除去処理を行わない場合であり、図7(b)は、磁粉の酸化皮膜除去処理を行った場合である。
【0187】
図中、磁粉の中心部を構成する母相301の表面には酸フッ化物302が形成され、その上に含フッ素鉄層303、すなわち、フッ素原子が結晶の一部に侵入した鉄の層が形成されている。
【0188】
図7(b)においては、母相301と含フッ素鉄層303との界面の一部に層状の酸フッ化物302が形成された構成となっている。すなわち、磁粉の中心部を構成する母相301と含フッ素鉄層303(図2の説明におけるヘテロ部を含む結晶で構成されている。)とが直接接触した部分を有する。
【0189】
時効前の酸フッ化物の結晶構造は、立方晶以外の結晶構造を含み、最後の熱処理となる時効温度では、菱面体の結晶や立方体の酸フッ化物結晶が形成され、この時効熱処理により、侵入位置に配置したフッ素原子は鉄やSmと規則的な配列をとるようになり、母相301にSmFe17の結晶が成長する。
【0190】
SmFe17の結晶との界面には体心正方晶の含フッ素鉄層303や鉄フッ化物が成長し、酸化物や酸フッ化物と母相との界面の面積は、母相と上記鉄との界面の面積より小さい。これは、上記フッ化物溶液を用いた酸素吸処理及びフッ化処理によるものであり、酸化物の成長を抑制した結果である。
【0191】
上記のように個々の磁粉の酸化皮膜除去工程を使用しない場合は、酸素の磁粉表面での偏在による酸フッ化物302の成長が含フッ素鉄層303と母相301との間に連続な膜としてみられる。
【0192】
この連続した酸フッ化物302は、図7(a)のような構成となり、含フッ素鉄層303と母相301との間の界面には酸フッ化物302が成長する。そして、含フッ素鉄層303と母相301とが接触した界面が少なくなるため、この2層間の強磁性結合が弱められ、残留磁束密度が上昇しない。
【0193】
磁粉表面の偏在した酸素を除去する工程によって作製した磁石の磁気特性は、0.1重量%溶液処理した磁石で残留磁束密度2.1T、保磁力30kOeであった。これに対して、酸素を除去する還元処理をしない場合、残留磁束密度は1.3Tであった。なお、焼結前のフッ素原子の一部が侵入或いは置換した磁粉をボンド磁石用磁粉として使用することが可能である。
【0194】
また、母相のSmFe18には、更にFe含有量が多い組成を適用でき、Coなどの強磁性元素を添加しても良い。フッ素の拡散を促進させ、置換位置よりも侵入位置への配置率を高めるために有効なB、Nなどの原子半径の小さい侵入型元素を1〜10原子%添加してよい。なお、母相301及び接触している含フッ素鉄層303は、フッ素原子のイオン注入やフッ素ガスとの反応によっても形成可能であるが、この場合でも上記のような偏在した酸素の低減が残留磁束密度1.6T以上のためには必要である。
【0195】
図8は、本発明による実施例の磁石の表面近傍における各元素の分布を示すグラフである。すなわち、図7に示した磁石の表面近傍のオージェ電子分光による深さ方向の分析結果を示したものである。図8(a)は、磁粉の酸化皮膜除去処理を行わない場合であり、図8(b)は、磁粉の酸化皮膜除去処理を行った場合である。横軸は表面からの距離の相対値であり、縦軸は各原子の濃度を示したものである。ここで、表面からの距離は、Arイオンで磁石の表面を叩いた際の経過時間を基準とした値であり、濃度は、検出される原子のカウント数を基準とした値である。
【0196】
偏在酸素の低減工程を実施しない従来工程の場合を図8(a)に示す。自然酸化などの偏在酸素量を低減させるために上記溶液を用いた酸化膜除去を実施した場合を図8(b)に示す。
【0197】
表面付近にフッ素が一部侵入した鉄、内部に母相であるSmFe17が成長しており、図8(b)では鉄と母相との界面近傍で酸素の偏在が認められない。これに対して、図8(a)では鉄と母相との界面近傍に酸素の偏在が認められる。深さ方向に対する酸素の分布において、界面近傍で高い濃度となっている。
【0198】
高濃度の酸素が検出される図8(a)の場合には、酸フッ化物が鉄と母相との界面に成長しており、酸フッ化物の鉄濃度が鉄や母相の鉄濃度よりも低いことがわかる。酸フッ化物の一部は鉄を含有し、この酸フッ化物が鉄と母相との間の強磁性結合を弱める結果、残留磁束密度の増加と保磁力増加の両立が困難となる。
【0199】
これに対して、偏在酸素の低減処理を実施した図8(b)の場合には、Smが少ない表面から7までの鉄と表面から8より深い母相との界面で高濃度酸素(酸素濃度が高くなる領域)が検出されなかった。このような組成分布を有する界面では、鉄と母相との間で強磁性結合が生じ、フッ素原子の一部が鉄及び母相の侵入位置に配置している。
【0200】
この侵入位置に配置したフッ素原子が鉄の磁気モーメントを増加させ、界面での強磁性結合により残留磁束密度が増加するとともに、格子歪や電子分布の変化による結晶磁気異方性エネルギーの上昇により保磁力が高くなる。なお、一部のフッ素原子は置換位置に配置しても、同様な効果が確認でき、フッ素原子は溶液による処理工程以外にガスフッ素による反応或いはイオン注入法で侵入位置に導入することが可能である。
【実施例9】
【0201】
本実施例においては、粒径0.1〜5μmのSmFe18粉にフッ素イオンを注入する。注入量は1×1014〜1×1018/cmである。注入中に上記SmFe18粉を回転させ、粉末表面全体からフッ素イオンを注入する。
【0202】
このイオン注入により、粉末表面から内部にかけてフッ素の濃度勾配ができ、フッ素原子の一部は格子間位置に配置し、鉄の原子間距離が広げられる。注入量が1018/cmを超えると、フッ素原子はSmやFeとの安定フッ化物であるSmF或いはFeFなどが成長し、残留磁束密度が減少する。また、1013/cm未満ではフッ素原子の導入効果である残留磁束密度の増加が10%未満であり、最適な注入量ではない。
【0203】
注入量が1×1014〜1×1018/cmでは、残留磁束密度の増加が注入前と比較して10〜20%であり、キュリー温度が130℃から390℃上昇して520℃に達する。このようなイオン注入したSmFe18粉にはbcc構造或いはbct構造の鉄以外にフッ素が侵入したSmFe17相が成長し、粉の外周側にフッ素が多く、外周側のキュリー温度や結晶磁気異方性が高くなる。このような粉と有機材料を混合し、圧縮或いは射出成形することでボンド磁石を作製でき、種々の表面磁石回転子或いは埋め込み磁石回転子を作製できる。
【実施例10】
【0204】
本実施例においては、粒径0.1〜5μmのSmFe17粉にフッ素イオン及び窒素イオンを同時に注入する。両イオンの合計注入量は1×1014〜1×1018/cmである。フッ素イオンと窒素イオンの比F/Nが1±0.2(すなわち、0.8〜1.2の範囲)になるようにイオン源の注入条件を調整した。注入中に上記粉末を回転或いは振動させ、粉末表面全体からフッ素イオンを注入する。
【0205】
このイオン注入により、粉末表面から内部にかけてフッ素の濃度勾配ができ、フッ素原子の一部は格子間位置に配置し、鉄の原子間距離が広げられる。注入量が1018/cmを超えると、フッ素原子はSmや鉄との安定フッ化物であるSmF或いはFeFなどが成長し、窒素化合物であるFeNが成長し保磁力が減少する。
【0206】
また、1013/cm未満ではフッ素原子や窒素原子の導入効果である残留磁束密度の増加が10%未満であり、最適な注入量ではない。注入量が1×1014〜1×1018/cmでは、残留磁束密度の増加が注入前と比較して10〜20%であり、キュリー温度が130℃から370℃上昇して500℃に達する。
【0207】
このようなイオン注入したSmFe18粉にはbcc構造或いはbct構造の鉄以外に窒素やフッ素が侵入したSmFe17(F、N)相が成長し、粉の外周側にフッ素や窒素が多く、外周側のキュリー温度や結晶磁気異方性が高くなる。
【0208】
このような粉と有機材料を混合し、圧縮或いは射出成形することで残留磁束密度1.1Tのボンド磁石を作製でき、磁場中成形による異方性を付与することが可能であり、表面磁石回転子或いは埋め込み磁石回転子を作製できる。なお、一部のフッ素原子或いは窒素原子が鉄(Fe)やサマリウム(Sm)の原子位置を置換しても、その濃度が1原子%以下であれば磁気特性に大きな影響はない。
【0209】
上記の実施例においては、磁粉に注入する鉄以外の原子をフッ素及び/又は窒素としたが、これらに限定されるものではなく、上記の鉄以外の原子の一部又は全部がフッ素、窒素、ホウ素、炭素及び酸素の群から選択される元素であってもよい。
【0210】
本発明の磁石は、高保磁力、高磁束密度、高比抵抗などを満足させることができ、高耐熱、低損失(高効率)の磁気回路を応用したハイブリッド自動車の駆動モータやその他のモータに使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明は、R−Fe系(Rは希土類元素)を含むFe系磁石の耐熱性を高めるために、Fe系磁石材料にフッ素を含む相(含フッ素相)を粒界或いは粒内の一部に形成し、前記含フッ素相は、磁気特性や信頼性を向上させた焼結磁石とそれを用いた回転機に関する。含フッ素相を有する磁石は、各種磁気回路に合った特性の磁石及び上記磁石を適用した磁石モータなどに利用することができる。
【0212】
このような磁石モータには、ハイブリッド自動車の駆動用、スタータ用、電動パワーステアリング用の磁石モータが含まれる。フッ素原子が侵入位置に配列したGdFe17についての計算結果は、非特許文献1に記載されている。フッ素原子を侵入位置に配置することにより、窒素原子の場合よりも磁気モーメントが大きくなることが計算結果から理解できる。
【符号の説明】
【0213】
2:固定子、4:ティース、5:コアバック、7:コイル挿入位置、8a:U相巻線、8b:V相巻線、8c:W相巻線、9:ティース先端部、10:回転子挿入部、100:回転子、200:非フッ素処理部、201、202:フッ素処理部、301:母相、302:酸フッ化物、303:含フッ素鉄層、501:鉄原子、502:フッ素原子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉を固めて形成した磁石であって、この磁粉の表面を金属フッ化物被膜で覆った構成を有し、前記磁粉は、相隣る鉄原子が結合したホモ部、及び二個の鉄原子が鉄以外の原子を介して結合したヘテロ部を含む結晶構造を有し、前記二個の鉄原子の距離が、前記相隣る鉄原子の距離と異なることを特徴とする磁石。
【請求項2】
前記鉄以外の原子の一部又は全部が、フッ素、ホウ素、炭素、窒素及び酸素の群から選択される元素であることを特徴とする請求項1記載の磁石。
【請求項3】
前記磁粉が、希土類元素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁石。
【請求項4】
前記磁粉の中心部を構成する母相と前記ヘテロ部を含む結晶とが直接接触した構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁石。
【請求項5】
前記金属フッ化物被膜が、希土類元素、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の群から選択される少なくとも一種類の元素のフッ化物を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁石。
【請求項6】
前記母相に含まれる前記鉄以外の原子の濃度が、前記母相の中心部に比べて前記母相の外周部で高いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁石。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁石を用いたことを特徴とする回転子。
【請求項8】
前記磁石の外周部における前記鉄以外の原子の濃度が、前記磁石の内周部における前記鉄以外の原子の濃度よりも高いことを特徴とする請求項7記載の回転子。
【請求項9】
前記磁石の外周部における磁束密度が、前記磁石の内周部における磁束密度よりも高いことを特徴とする請求項7記載の回転子。
【請求項10】
前記磁石の外周部における磁束密度及び保磁力が、前記磁石の内周部における磁束密度及び保磁力よりも高いことを特徴とする請求項7記載の回転子。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁石を用いたことを特徴とするモータ。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の回転子を用いたことを特徴とするモータ。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁石を用いたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−267637(P2010−267637A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115081(P2009−115081)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】