説明

希釈アミン水溶液によるポリエステル類のケミカルリサイクル法

【課題】ポリカーボネート樹脂などのポリエステル類を、従来のアンモニア含有熱水を利用するケミカルリサイクル法よりも、より穏やかな条件で行うことのできるケミカルリサイクル法を提供する。
【解決手段】アミン類を含有する希釈アミン水溶液を用いて、ポリエステル類の解重合を行う工程を有することを特徴とするケミカルリサイクル法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希釈アミン水溶液によるポリエステル類のケミカルリサイクル法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル類の中でもポリカーボネートは、透明性、難燃性、耐衝撃性などの優れた物性をもつ汎用エンジニアリングプラスチックで、電子・情報機器、医療器具、建築資材、自動車分野などの産業分野や、生活用品など、広範囲な分野で使用されている。その生産量は年々増加しているが、それに伴って廃棄される量も膨大で、廃棄ポリカーボネートから高効率で原料に変換するケミカルリサイクル技術が、エネルギー的にも、また資源循環の観点からも望まれている。
【0003】
これまで、ポリカーボネートのケミカルリサイクル法は(1)超臨界水、(2)亜臨界熱水による加水分解、(3)超臨界エタノールによるエタノリシス、(4)超臨界アンモニアによるアンモリシス、(5)アルカリや触媒添加のグリコール中でのグリコリシス、(6)アンモニア含有熱水(例えば、非特許文献1参照)等、による方法が提案されている。
【0004】
また、ポリエステル類の中で最も多く生産されているポリエチレンテレフタレート(PET)は、耐熱性、強度に優れ、また染色性にも優れた物性を持ち、経済性に優れた樹脂で、繊維、フィルム、容器など広範囲な分野で使用されており、なかでも飲料容器としてペットボトルが広く利用されており、それに伴って廃棄される量も膨大で、廃棄ポリエチレンテレフタレートから高効率で原料に変換するケミカルリサイクル技術が、エネルギー的にも、また資源循環の観点からも望まれている。
【0005】
これまで、ポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法は(7)触媒添加のグリコール中でのグリコリシス、(8)亜臨界、超臨界メタノールによるメタノリシス、(9)超臨界水、(10)熱水による加水分解(例えば、非特許文献2参照)、(11)アンモニア含有熱水(例えば、非特許文献2、3参照)等、による方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.Arai,et al.,Chem.Eng.Sci.,65,36(2010)
【非特許文献2】O.Sato,et al.,"Chemical Recycling Process of Poly(ethylene terephthalate) in high temperature liquid water,"J.Chemical Engineering of Japan,43,313−317(2010)
【非特許文献3】K.Zenda,T.Funazukuri,"Depolymerization of poly(ethylene terephthalate) in dilute aqueous ammonia solution under hydrothermal conditions,"J.Chemical Technology & Biotechnology,83,1381−1386(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記(1)〜(3)のポリカーボネートのケミカルリサイクル法では、超臨界ないしは亜臨界状態という非常に高温高圧の環境下で実施する必要があり、こうした超臨界ないしは亜臨界状態に対応可能な耐熱耐圧容器を膨大な量の廃棄ポリカーボネートを処理可能な工業的な規模にまでスケールアップすることは非常に難しく、設備コスト、ランニングコストが非常に高く、ケミカルリサイクル技術として採算する困難であるという問題があった。
【0008】
上記(4)、(5)のポリカーボネートのケミカルリサイクル法では、腐食性のある強アルカリを使用するため装置の腐食劣化、さらには装置腐食により溶出した金属イオンの製品内への混入による品質劣化などの問題があった。また、そうした腐食を防止するには、装置内面にグラスライニング等の耐食処理を施す必要があり、非常に高コストとなるほか、装置への振動や衝撃、更には洗浄時の擦り傷等によりグラスライニング等の耐食処理部が損傷を受け、当該損傷部からのアルカリの侵食により簡単に剥離などを生じさせるため、その取り扱いが非常に難しいなどの問題もあった。さらに、使用したアルカリを中和する必要があり、生成した塩を産業廃棄物として処理するコストも要するなど、高コストとなる問題があった。
【0009】
上記(5)のポリカーボネートのケミカルリサイクル法では、触媒を使用する必要があり、コスト高になるほか、生成物から触媒を分離する処理操作が必要であるほか、当該触媒を回収し、再利用する設備も必要となる。また触媒が劣化した場合には、交換作業、さらには劣化触媒を産業廃棄物として処理するコストも要するなど、高コストとなる問題があった。
【0010】
上記(6)の非特許文献1に記載のポリカーボネートのケミカルリサイクル法では、アンモニア含有熱水を利用することで、加水分解反応を利用した分解ではなく、求核置換反応(求核置換法)による分解であるため、上記(1)〜(5)の方法よりも効率よく分解することができるが、比較的高温(最低でも180℃以上、高収率で比較的速い反応速度を得るには180℃以上)のアンモニア含有熱水を利用する必要があり(後述する比較例1及び図2参照)、コストアップ要因となっており、より穏やかな条件でケミカルリサイクル可能な技術が強く求められていた。
【0011】
上記(7)のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法では、グリコリシス(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)を溶媒として、(a)触媒に、酢酸鉛などの有害有機金属を用いるもの、(b)触媒に、NaOHなどアルカリを用いるものがある。(a)は有害であり、(b)はアルカリの中和、脱塩処理が必要であり、どちらも溶媒と生成モノマーの分離蒸留などの操作が必要で、分離エネルギーがかかり高コストとなるなどの問題があった。また、ポリカーボネートのケミカルリサイクル法と同様に、触媒を使用する必要があり、コスト高になるほか、生成物から触媒を分離する処理操作が必要であるほか、当該触媒を回収し、再利用する設備も必要となる。また触媒が劣化した場合には、交換作業、さらには劣化触媒を産業廃棄物として処理するコストも要するなど、高コストとなる問題があった。また、上記(b)では、ポリカーボネートのケミカルリサイクル法と同様に、腐食性のある強アルカリを使用するため装置の腐食劣化、さらには装置腐食により溶出した金属イオンの製品内への混入による品質劣化などの問題があった。また、そうした腐食を防止するには、装置内面にグラスライニング等の耐食処理を施す必要があり、非常に高コストとなるほか、装置への振動や衝撃、更には洗浄時の擦り傷等によりグラスライニング等の耐食処理部が損傷を受け、当該損傷部からのアルカリの侵食により簡単に剥離などを生じさせるため、その取り扱いが非常に難しいなどの問題もあった。さらに、使用したアルカリを中和する必要があり、生成した塩を産業廃棄物として処理するコストも要するなど、高コストとなる問題があった。
【0012】
上記(8)のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法では、亜臨界、超臨界メタノールによるメタノリシスを用いる必要があり、反応温度が高く、生成物がエチレングリコールと、テレフタル酸ではなく、ジメチルテレフタレートであり、テレフタル酸に戻すには、更なる反応が必要となるなど、ケミカルリサイクルに多くの工程数と煩雑な操作が必要であり、高コストとなるなどの問題があった。また、ポリカーボネートのケミカルリサイクル法と同様に、亜臨界ないし超臨界状態という非常に高温高圧の環境下で実施する必要があり、こうした亜臨界ないし超臨界状態に対応可能な耐熱耐圧容器を膨大な量の廃棄ポリエチレンテレフタレートを処理可能な工業的な規模にまでスケールアップすることは非常に難しく、設備コスト、ランニングコストが非常に高く、ケミカルリサイクル技術として採算する困難であるという問題があった。
【0013】
上記(9)のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法では、超臨界水を用いる必要があり、超臨界状態というもっとも過酷な条件(高温、高圧)下で実施する必要があり、ポリカーボネートのケミカルリサイクル法と同様に、こうした超臨界状態に対応可能な耐熱耐圧容器を膨大な量の廃棄ポリエチレンテレフタレートを処理可能な工業的な規模にまでスケールアップすることは非常に難しく、設備コスト、ランニングコストが非常に高く、ケミカルリサイクル技術として採算する困難であるという問題があった。
【0014】
また、ポリエチレンテレフタレートモノマーはテレフタル酸とエチレングリコールであるが、テレフタル酸は比較的、高温や酸存在下では安定であるが、エチレングリコールは副生成物に変化しやすく、上記したポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法のように、高温あるいは酸存在下では収率が低いという問題もあった。
【0015】
上記(10)のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法では、573K、10分が最適条件としている。反応時間を長くすると副生成物がより多く生成するおそれがある。また、上記(10)の実験では、内容積18mLの小型反応器を用いているが、実用化段階では大型反応器なので、溶液の滞留時間(流体混合のため、溶媒が反応器に入ってから出るまでの反応器中に滞在する時間)に差がでるため、短い反応時間では、制御が難しく、副生成物の収率増加につながるという問題もあった。
【0016】
上記(11)のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法では、アンモニア含有熱水を利用することで、加水分解反応を利用した分解ではなく、求核置換反応(求核置換法)による分解であるため、上記(7)〜(10)の方法よりも効率よく分解することができるが、比較的高温(高収率で比較的速い反応速度を得るには220℃以上)のアンモニア含有熱水を利用する必要があり(後述する比較例4及び図17を参照)、コストアップ要因となっており、より穏やかな条件でケミカルリサイクル可能な技術が強く求められていた。
【0017】
そこで本発明は、ポリカーボネート樹脂やポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類を、従来のアンモニア含有熱水を利用するケミカルリサイクル法よりも、より穏やかな条件で行うことのできるケミカルリサイクル法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明の目的は、(1) 一般式(1);
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R1、R2、R3は、相互に独立して、水素原子;または置換された若しくは非置換の炭化水素基を表す。但し、R1、R2、R3の少なくとも1つは置換された若しくは非置換の炭化水素基である。)で示されるアミン類を含有する希釈アミン水溶液を用いて、ポリエステル類の解重合を行う工程を有することを特徴とするケミカルリサイクル法により達成されるものである。
【0021】
本発明の目的は、(2) 前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.003〜26Mの範囲である上記(1)に記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0022】
本発明の目的は、(3) 前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.03〜16Mの範囲である上記(1)または(2)に記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0023】
本発明の目的は、(4) 前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.06〜3.5Mの範囲である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0024】
本発明の目的は、(5) 前記ポリエステル類の含有量が、希釈アミン水溶液とポリエステルの総量に対して、0.1〜50wt%の範囲である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0025】
本発明の目的は、(6) 前記解重合の反応温度が、ポリエステル類の融点以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0026】
本発明の目的は、(7) 前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0027】
本発明の目的は、(8) 前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数6〜10のアリール基である上記(1)〜(7)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0028】
本発明の目的は、(9) 前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜5の直鎖状の低級アルキル基である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0029】
本発明の目的は、(10) 前記置換された炭化水素基の置換基が、水酸基、チオール基、ハロゲン原子である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0030】
本発明の目的は、(11) 前記アミン類が、一般式(1)中のR1が非置換の炭素数1〜5の直鎖状の低級アルキル基であり、R2、R3が共に水素原子である第1級アミン類である上記(1)〜(10)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0031】
本発明の目的は、(12) 前記ポリエステル類が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸である上記(1)〜(11)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【0032】
本発明の目的は、(13) 前記ポリエステル類が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートである上記(1)〜(12)のいずれかに記載のケミカルリサイクル法によっても達成されるものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のケミカルリサイクル法によれば、ポリカーボネート樹脂やポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルやポリ乳酸等のポリエステル類を、従来のアンモニア含有熱水を利用するケミカルリサイクル法よりも、より穏やかな条件で行うことができる。詳しくは、触媒や有機溶媒等を全く添加せず、希釈アミン水溶液中の極わずかのアミン類と解重合反応(求核置換反応ないし水熱反応)を利用し、比較的低温で、ほぼ完全にポリエステルを原料モノマーまで分解(例えば、ビスフェノールAとホスゲンからのポリカーボネートを原料モノマーであるビスフェノールAまで分解)することができ、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的なリサイクル技術である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の120℃における0.6Mメチルアミン水溶液の場合のビスフェノールA、フェノールおよび残渣の各収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図2】実施例1と比較例1〜2の120℃における各種の0.6M塩基性水溶液(メチルアミン水溶液、エチルアミン水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液)での目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図3A】実施例2の0.6Mメチルアミン水溶液の場合の反応温度(100〜140℃)の違いによる目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図3B】実施例2の実験結果に基づき、数式(1)より求めた、みかけ反応速度定数kについてのアーレニウスプロットを示すグラフ図面である。
【図4A】実施例3の120℃におけるメチルアミン水溶液中のメチルアミンの濃度(0.3〜1.2M)の違いによる目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図4B】実施例3の120℃におけるメチルアミン水溶液中のメチルアミンの濃度(0.3〜1.2M)ごとのポリカーボネートの分解速度の経時変化を表すグラフ図面である。なお、図4Bの縦軸中のYは、Y=(BPA収率)/100で表されるものであり、縦軸の(1−Y)1/3−1[−]は単位時間(分)当りの無次元化された反応割合を表す。
【図5】実施例3の120℃におけるみかけ反応速度定数に及ぼすメチルアミン水溶液の濃度依存性を表すグラフ図面である。なお、図5の縦軸のk[min-1]はみかけ反応速度定数を表す。
【図6】実施例4の120℃における0.6Mブチルアミン水溶液中のブチルアミンの構造、具体的には異なるブチルアミン異性体であるn−ブチルアミン(BuNH2)、sec−ブチルアミン(sec−BuNH2)ないしtert−ブチルアミン(tert−BuNH2)の違いによる目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図7】実施例5の120℃における0.6M希釈アミン水溶液中の第1級のメチルアミン(CH3NH2)、第2級のジメチルアミン((CH32NH)、第3級のトリメチルアミン((CH33N)の違いによる目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図8】実施例5の120℃における0.6M希釈アミン水溶液中の第1級のメチルアミン(CH3NH2)、第2級のジメチルアミン((CH32NH)、第3級のトリメチルアミン((CH33N)の違いによるポリカーボネートの質量減少の経時変化を表すグラフ図面である。
【図9】実施例7の120℃におけるNaOH無添加の希釈アミン水溶液として0.6Mメチルアミン水溶液を用いた場合と、NaOH添加の希釈アミン水溶液として0.6Mメチルアミン+0.6M NaOH水溶液を混合した溶液を用いた場合とのビスフェノールA(BPA)の収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図10】水の飽和蒸気圧曲線を示す図面である。
【図11】実施例8の130℃におけるモノエタノールアミン水溶液中のモノエタノールアミンの濃度(0.5〜3.0M)の違いによる目的物であるビスフェノールA(BPA)収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図12】実施例8の130℃におけるみかけ反応速度定数に及ぼすモノエタノールアミン濃度依存性を示すグラフ図面である。
【図13】実施例9〜12で用いた半回分式の反応装置の概略図である。
【図14】実施例9で半回分式の反応装置を用い、反応温度200℃、トリメチルアミン濃度0.6Mの場合の解重合反応生成物モノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)の収率、これらを合計したTPA+EGの積算収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図15】実施例10で半回分式の反応装置を用い、反応温度200℃とし、種々のアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン)水溶液のアミン濃度0.6M一定とした場合の解重合反応生成物モノマーであるTPA+EGの積算収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図16A】実施例11で半回分式の反応装置を用い、各反応温度(170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃)でのトリメチルアミン水溶液のトリメチルアミン濃度0.6Mの場合に、図16Aは解重合反応生成物モノマーであるTPA+EGの積算収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【図16B】実施例11で半回分式の反応装置を用い、各反応温度(170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃)でのトリメチルアミン水溶液のトリメチルアミン濃度0.6Mの場合に、図16Bは(1−Y)1/3−1の経時変化を表すグラフ図面である。
【図17】実施例11及び比較例4のアーレニウスプロットによる濃度0.6Mでのトリメチルアミン水溶液とアンモニア水溶液についての反応速度定数kの比較を表すグラフ図面である。
【図18】実施例12で半回分式の反応装置を用い、反応温度200℃とし、各濃度のトリメチルアミン水溶液(トリメチルアミン濃度0.3M、0.6M、0.9M、1.2M)の場合における解重合反応生成物モノマーであるTPA+EGの積算収率の経時変化を表すグラフ図面である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0036】
本発明のケミカルリサイクル法は、アミン類を含有する希釈アミン水溶液を用いて、ポリエステル類の解重合を行う工程を有することを特徴とするものである。本発明のケミカルリサイクル法は、極わずかな量のアミン類の他には触媒や添加物を必要とせず、また、有機溶媒を用いないので、ポリエステル類の解重合により生成したモノマーの分離精製も容易であり、エネルギー消費も少ない高効率なケミカルリサイクル法である。すなわち、本発明のケミカルリサイクル法は、触媒や添加物を必要とせず、また、有機溶媒を用いず、極わずかのアミン類と解重合反応を利用し、比較的低温で、ほぼ完全にポリエステル類を原料モノマーまで分解することができるため副反応や原料モノマーの更なる分解反応(2次分解反応)もなく原料モノマーの回収率が非常に高く、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的なケミカルリサイクル技術である。
【0037】
より詳しくは、本発明のケミカルリサイクル法は、アミン類の濃度が、希薄濃度(特に6.5M以下)でも効果があることである。即ち、本手法(本発明のケミカルリサイクル法)の反応機構は、ポリエステル類としてポリカーボネートを例にとれば、以下の様に考えられる。よって反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので、原理的には消費されない。よって、求める反応速度にもよるが、ポリエステル類の含有量は、上記範囲に示すようにアミン類の数倍あっても何ら差し支えないといえるものである。
【0038】
PC+アミン類→BPA(生成モノマー)+イソシアネート(中間生成物) (1)
イソシアネート+水→アミン類+CO2 (2)
既存のケミカルリサイクル法のように、アミン類の濃度100%で水がないと、上記反応(2)が起きず、下記反応(3)が起きてしまうため、アミン類が消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ下記反応(3)のように副生成物が大量に生成するという問題が解消し得ないといえる。
【0039】
イソシアネート+アミン類→副生成物 (3)
上記したように、反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので、原理的には消費されない(言い換えれば、仕込んだアミンが消失されず、反応速度が減速しない)が、後述するようにアミン類の濃度100%(=高濃度過ぎる場合)では、中間生成物のイソシアネートとアミン類が反応して、アミン類が再生することなく消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ上記反応(3)のように副生成物が大量に生成するという問題が解消し得ないといえる。そのため、大量の副生成物を除去した上で、溶媒とビスフェノールAまたは有機溶媒を蒸発または蒸留する必要があったが、本発明の反応機構では、反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので(上記反応(2)参照)、原理的には消費されないため、アミン類の濃度は希薄濃度でも有効且つ十分に効果を発現できることから、6.5M以下にするのが望ましいといえる。水溶液の効果は、ポリカーボネート(PC)の場合、中間生成物にイソシアネートができるが、水により加水分解され、CO2とアミン類に分解することである(上記反応(2)参照)。更に再生したアミン類は、再びポリカーボネート(PC)を攻撃(解重合反応により分解)するので、反応速度が減速しないという利点がある。また、生成物モノマーであるビスフェノールAは水にほとんど不溶なので、ビスフェノールAは沈殿物として回収できるという利点もある。一方、既存のケミカルリサイクル法のように、アミン類の濃度100%あるいはアミン類+有機溶媒では、ポリカーボネート(PC)の場合、中間生成物のイソシアネートとアミン類が反応して、アミン類が再生することなく消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ上記反応(3)のように副生成物が大量に生成する問題がある。さらに溶媒とビスフェノールAまたは有機溶媒を蒸発または蒸留する必要があるほか、大量に生成した副生成物を除去する為にも蒸留を行う必要がある。
【0040】
一方、本発明のケミカルリサイクル法は、上記したアミン類100%あるいはアミン類+有機溶媒を用いる既存のケミカルリサイクル法に比して、アミン類の濃度が、希薄濃度でも効果があることから、アミン類の使用量が少なくてよい利点もある。さらに言えば、本発明のケミカルリサイクル法では、ポリマー(ポリエステル類)中の有機性の添加剤などは水溶液には不要なので、残渣として回収できる可能性もある。
【0041】
また、本発明のケミカルリサイクル法では、反応温度はポリマー(ポリエステル類)の融点以下であり、反応温度が低いために、ポリマー(ポリエステル類)試料(実際には廃材を適当なサイズに粉砕・分級したポリマー粉末)が溶融せず、試料の形をたもったまま反応が進行する点でも優れている。一方、上記した既存のケミカルリサイクル法のように、反応温度が高く、アミン濃度が高いとメイラード反応(アミノカルボニル反応)が起きてしまい、モノマー収率が低下する可能性がある。
【0042】
以下、本発明のケミカルリサイクル法につき、構成要件ごとに説明する。
(1)希釈アミン水溶液について
本発明のケミカルリサイクル法に用いることのできる希釈アミン水溶液は、上記一般式(1)で示されるアミン類を含有するものである。
【0043】
(a)アミン類について
本発明のケミカルリサイクル法に用いることのできる希釈アミン水溶液に含有されるアミン類としては、特に制限されるものではないが、下記一般式(1);
【0044】
【化2】

【0045】
(式中、R1、R2、R3は、相互に独立して、水素原子;または置換された若しくは非置換の炭化水素基を表す。但し、R1、R2、R3の少なくとも1つは置換された若しくは非置換の炭化水素基である。)で示されるアミン類を用いるのが好ましい。
【0046】
上記一般式(1)中、R1、R2、R3は、相互に独立して、水素原子;または置換された若しくは非置換の炭化水素基を表す。但し、R1、R2、R3の少なくとも1つは炭化水素基である。
【0047】
前記非置換の炭化水素基としては、特に制限されるものではなく、炭素数1〜20、好ましくは1〜10の炭化水素基であればよい。詳しくは炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の直鎖状、分岐状ないし環状の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基などが挙げられる。具体的には、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の直鎖状、分岐状ないし環状のアルキル基、炭素数6〜10などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。なお、炭素数1〜20のアルカノール基も適用可能であるが、当該アルカノール基は、水酸基で置換された炭素数1〜20のアルキル基に含まれるものとする。非置換の炭化水素基として好ましくは、反応速度の観点から炭素数1〜10の直鎖状の脂肪族炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状のアルキル基である。これは、アミノ基(窒素原子)に結合しているアルキル基が嵩高い立体構造であるほど(ブチルアミン(BuNH2)を例にとれば、反応速度はn−BuNH2>sec−BuNH2>tert−BuNH2の順番となる)、反応速度が低下する傾向にあるためである(図6参照)。また、同じ級数のアミン類であれば炭素数が少ない方が効果が大きいためである(図2参照。但し、炭素数1と2の例であるため効果の差は小さいが、より炭素数の大きくなるにつれ効果の差異が明確になる=炭素数が少ない方が効果が大きいことが明確になるといえる)。
【0048】
上記アルキル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基又はn−オクチル基などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0049】
上記アリール基としては、具体的に、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、2−トリル基、3−トリル基、4−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、2,3,4,6−テトラメチルフェニル基、2,3,5,6−テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、エチルフェニル基、n−プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、sec−ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、n−ペンチルフェニル基、ネオペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、n−オクチルフェニル基又はジフェニルフェニル基などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0050】
前記置換された炭化水素基の置換基としては、本発明の作用効果に影響することなく所期の目的を達成することができるものであればよく、例えば、ヒドロキシル基(水酸基)、チオール基、ハロゲン原子などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない(詳しくは後述するアミン類の具体例を参照のこと)。
【0051】
上記希釈アミン水溶液に含有されるアミン類は、モノアミン類であってもよく、ポリアミン類(ジアミン類、トリアミン類など)であってもよい。また、アミン類は、鎖状(または鎖式)アミン類または環状(または環式)アミン類であってもよく、脂肪族アミン類または芳香族アミン類であってもよい。さらに、アミン類は、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子など)を分子内に有するアミン類(例えば、ヘテロ環式アミン類)であってもよい。なお、アミン類は、置換基(例えば、ヒドロキシル基(水酸基)、チオール基、ハロゲン原子などの官能基)を有していてもよい。アミン類は、第1級アミン類、第2級アミン類、および第3級アミン類のいずれであってもよい。
【0052】
希釈アミン水溶液に含有される代表的なアミン類としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の第1級〜第3級アルキルアミン類、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5のシクロアルキルアミン類、炭素数6〜10のアリールアミン類、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の第1級〜第3級アルカノールアミン類、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5のヘテロ環式アミン類などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。アミン類は単独で又は2種以上組みあわせてもよい。好ましくは、高い反応速度、副生成物の抑制の観点から第1級または第3級アミン類であり、より好ましくは、高収率で反応速度に最も優れる第1級アミン類である(図7、8参照)。これは、例えば、ポリエステルの1種であるポリカーボネートから原料モノマーであるビスフェノールAの生成について、反応速度は、第1級>第3級>第2級アミンの順であるが、ポリカーボネートの質量減少速度は、第1級≒第2級>第3級アミンである。したがって、原料モノマーであるビスフェノールAの収率について、第2級アミンの場合、ビスフェノールAが20%程度で頭打ちになっていることが、これはポリカーボネートの質量減少率から見ると、ビスフェノールA以外の生成物(副生成物)となっているためである(図7、図8参照)。
【0053】
上記希釈アミン水溶液に含有されるアミン類のうち、脂肪族第1級アミン類の具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、2−メチルプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルブチルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンラウレルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、メトキシプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、エトキシプロピルアミン、エチルへキシルオキシプロピルアミン、ビスプロピルアミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。炭素数が少ない方が効果が大きいことから、好ましくは、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、2−メチルプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルブチルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミンなどが挙げられ、より好ましくは、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、アミルアミンなどが挙げられる。
【0054】
脂肪族第2級アミン類の具体例としては、例えば、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、メチルブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−tert−ペンチルアミン、エチルへキシルアミン、ジ(2−プロペニル)アミン、ジ(2−メチル−2−プロペニル)アミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミンアクリレート)等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。炭素数が少ない方が効果が大きいことから、好ましくは、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、メチルブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−tert−ペンチルアミンなどが挙げられ、より好ましくは、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンなどが挙げられる。
【0055】
脂肪族第3級アミン類の具体例としては、例えば、トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、トリ−tert−ブチルアミン、トリアミルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリイソオクチルアミン、N,N−ジメチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジメチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジエチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジエチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジメチル−3−プロペロイロキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−プロペロイロキシプロピルアミンN,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。炭素数が少ない方が効果が大きいことから、好ましくは、トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミンなどが挙げられ、より好ましくは、トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0056】
芳香族第1級アミン類の具体例としては、例えば、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、エチルベンジルアミン、アニリン、o,m,p−トルイジン、o,m,p−エチルアニリン、キシリジン、メシジン、o,m,p−クロロアニリン、クロロトルイジン、ジクロロアニリン、トリクロロアニリン、o,m,p−フルオロアニリン、o,m,p−ブロモアニリン、フルオロクロロアニリン、o,m,p−アミノフェノール、o,m,p−アミノチオフェノール、アニシジン、フェネチジン、o,m,p−アミノ安息香酸、アミノクロロフェノール、アミノベンゾニトリル、クレシジン、トルイジンスルホン酸、スルファニル酸、クロロトルイジンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸、アミノベンゾトリフルオライド、アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノアセトアニリド、ナフチルアミン、ナフチルアミンスルホン酸、アミノナフトールスルホン酸等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0057】
芳香族第2級アミン類の具体例としては、例えば、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−エチルトルイジン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジ−p−トリルアミン、ピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、2,5−ジメチル−3−ピロリン、ピロール、2,5−ジメチルピロール、ピペリジン、2−メチルピペリジン、2,6−ジメチルピペリジン、3,5−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、モルホリン、ヘキサメチレンイミン、ヒドロキシフェニルグリシン、N−メチルアミノフェノールサルフェート等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0058】
芳香族第3級アミン類の具体例としては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N−エチル−N−ヒドロキシエチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジン、N−ベンジル−N−エチルアニリン、N,N−ジグリシジルアニリン、トリアリルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、トリ−p−トリルアミン、トロパン、キナクリジン、1−メチルピロール、1−フェニルピロール、1,2,5−トリメチルピロール、1−メチルピペリジン、N−メチルピペリジン、イミダゾール、ピリジン、p−クロロピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン、1,7−ジアザビシクロ−[5,4,0]−ウンデク−7−エン、9−メチルカルバゾール、9−フェニルカルバゾール等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0059】
芳香族ジアミン類の具体例としては、例えば、o,m,p−フェニレンジアミン、クロロ−p−フェニレンジアミン、クロロ−m−フェニレンジアミン、フルオロフェニレンジアミン、ジクロロフェニレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、ジメチルフェニレンジアミン、クロロメチルフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルイレンジアミン等のフェニレンジアミン類、ベンジジン、o−トリジン、ダイアニシジン、ジクロロベンジジン等のベンジジン類、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジクロロジフェニルメタン、ジアミノジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン等のジフェニルメタン類、ナフタレンジアミン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノスチルベンジスルホン酸、ジアミノフェノールジハイドロクロライド、ロイコジアミノアントラキノン、アミノ−N,N−ジエチルアミノトルイジンハイドロクロライド、アミノ−N−エチル−N−(β−メタンスルホンアミドエチル)−トルイジンサルフェートハイドレート又はN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0060】
アルカノール第1級アミン類の具体例としては、例えば、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノニオールアミン、モノデシオールアミン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。炭素数が少ない方が効果が大きいことから、好ましくは、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミンなどが挙げられる。
【0061】
アルカノール第2級アミン類の具体例としては、例えば、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、N−メチルアミノエタノール、N−エチルアミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、ジ(ジエチレングリコール)アミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、N−メチルアミノエタノール、N−エチルアミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられ、炭素数が少ない方が効果が大きいことから、より好ましくは、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルアミノエタノール、N−エチルアミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−2,2−ジメチル−1−プロパノールなどが挙げられる。
【0062】
アルカノール第3級アミン類の具体例としては、例えば、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリペンタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジブタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。炭素数が少ない方が効果が大きいことから、好ましくは、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジブタノールアミン、ブチルジエタノールアミンなどが挙げられ、より好ましくは、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0063】
上記希釈アミン水溶液に含有されるアミン類の具体例として好ましくは、水に溶けやすいアミン類であって、安価に調達できる(例えば、界面活性剤や乳化剤として使われたアミン排液やCO2を吸収させる際に使われるアミン類の化学吸着剤排液を再利用したもの)などの観点から、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、2−メチルプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルブチルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン等が挙げられる。より好ましくは、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、2−メチルプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、アミルアミン、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン等が挙げられる。
【0064】
(b)希釈アミン水溶液中のアミン類の濃度
本発明のアミン類の濃度は、希釈アミン水溶液全体に対して0.003〜26M、好ましくは0.03〜16M、より好ましくは0.06〜6.5M、特に好ましくは0.06〜3.5Mの範囲である。アミン類の濃度が希釈アミン水溶液全体に対して0.003M以上であれば、上述した本手法の反応機構で述べたように、こうした希釈濃度のアミン類であっても十分かつ有効にその効果を発揮することができるなど好ましい。一方、アミン類の濃度が希釈アミン水溶液全体に対して26M以下であれば、上述した本手法の反応機構で述べたように、反応機構の反応(3)の式に示すような副反応が生じることなく、反応(2)の式によりアミン類を再生させることができ、仕込んだアミンが消失されず、反応速度が減速しないなどの点で好ましい。なお、アミン類の濃度が希釈アミン水溶液全体に対して26Mを超えて、更にアミン類の濃度があまり濃すぎると(濃度100%に近くなると)、反応機構の反応(3)の式に示す副反応が生じ得る可能性が高まるため望ましくないといえるが、本手法ではアミン類の濃度が濃すぎても、水溶液の形態とする効果として、溶液中で水が良く分散していれば反応(2)の式が起きるので問題はないといえる(アミン類を再生させることができ、仕込んだアミンが消失されず、反応速度が減速しないといえる)。また、上述した本手法の反応機構で述べたように、反応機構の反応(2)を促進させるならば水の濃度が高い方がよいので、アミン類と水がモル比で50%、50%程度(モル比1:1)までがよいといえる。質量%ではアミン類の分子量が水より大きいので、アミン類80wt%と水20wt%程度までで、これ以上、水が少ないと反応(3)が生じる可能性が高まると予想されるため好ましくないといえる。
【0065】
特に本発明では、上記したように触媒等を全く添加せず、極わずかのアミン類と解重合反応を利用し、比較的低温で、ほぼ完全にポリカーボネートを原料のビスフェノールAと二酸化炭素まで分解するもので、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的な方法であることから、アミン類の濃度は、より好ましい0.06〜3.5Mの低濃度の範囲で行うのが望ましいといえる。また、本発明では、上記したように触媒等を全く添加せず、極わずかのアミン類と解重合反応を利用し、比較的低温で、ポリエチレンテレフタレート(PET)を原料のエチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)まで分解するもので、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的な方法であり、アミン類の濃度は、より好ましい0.06〜3.5Mの低濃度の範囲で行うのが望ましいといえる(表7、表15参照)。以上のことから、本発明では、上記したように触媒等を全く添加せず、極わずかのアミン類と解重合反応を利用し、比較的低温で、ポリエステル類を原料モノマーにまで分解するもので、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的な方法であり、アミン類の濃度は、より好ましい0.06〜3.5Mの低濃度の範囲で行うのが望ましいといえる。
【0066】
(c)希釈アミン水溶液の水について
希釈アミン水溶液に用いられる水としては、工業水、水道水(上水)、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等、特に制限されない。目的物を高い収率で得ることができるとの観点、また、副生物の生成を有意に抑えられるという観点からは、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水であることが好ましい。但し、本発明では、電子・情報機器、医療器具、建築資材、自動車分野などの産業分野や、生活用品など、広範囲な分野で使用後に廃棄された膨大な量のPC等のポリエステル廃棄物を取り扱う為、これら膨大な量のPC等のポリエステル廃棄物を回収した後、本発明のケミカルリサイクル法に供する前に洗浄等の前処理によって、ポリエステル廃棄物に付着した汚れなどを完全に除去するのは困難である。よって、純水や超純水のような高価な水を用いなくとも、ポリエステル廃棄物からの不純物の混入などを考慮した上で本発明のケミカルリサイクル法による解重合を行い、その後、適当な精製技術を利用して高純度なモノマーを回収すればよく、実施例で用いた蒸留水やイオン交換水など比較的安価な水を用いて生産コストを低減するのがより好ましい。
【0067】
なお、水は、反応原料である少量のアミン類を均一に分散させる役割を有するものである。さらに、環境にやさしく、目的物のモノマー(ビスフェノールAなど)を溶解するものではなく分離回収が容易(沈殿・ろ過で分離可能)となるものである。本手法(本発明のケミカルリサイクル法)の反応機構は、ポリエステル類としてポリカーボネートを例にとれば、以下の様に考えられる。
【0068】
PC+アミン類→BPA(生成モノマー)+イソシアネート(中間生成物) (1)
イソシアネート+水→アミン類+CO2 (2)
既存のケミカルリサイクル法のように、アミン類の濃度100%で水がないと、上記反応(2)が起きず、下記反応(3)が起きてしまうため、アミン類が消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ下記反応(3)のように副生成物が大量に生成するという問題が解消し得ないといえる。
【0069】
イソシアネート+アミン類→副生成物 (3)
上記したように、反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので、原理的には消費されない(言い換えれば、仕込んだアミンが消失されず、反応速度が減速しない)が、アミン類の濃度100%(=高濃度過ぎる場合)では、中間生成物のイソシアネートとアミン類が反応して、アミン類が再生することなく消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ上記反応(3)のように副生成物が大量に生成するという問題が解消し得ないといえる。そのため大量の副生成物を除去した上で溶媒とビスフェノールAまたは有機溶媒を蒸発または蒸留する必要があったが、本発明の反応機構では、反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので(上記反応(2)参照)、原理的には消費されないとから、本手法では水がアミンの再生による反応速度の減速抑制効果や副生成物の抑制効果等に大きく関与(寄与)しているものといえる。
【0070】
(d)希釈アミン水溶液を構成する水及びアミン類以外の成分について
希釈アミン水溶液は、水に上記した濃度のアミン類を含有していればよく、本発明の作用効果を損なわない範囲で、他の溶媒や添加剤を含んでいてもよい。即ち、有機溶媒が不要で水だけでよいのが、本手法の特長であるが、分子量の大きなアミン類を使う場合、アミン類の水への溶解度が低下し反応速度が低下することが予想され得る。その場合、両親媒性溶媒(水もアミンも溶かす)であるアセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、メタノール、エタノールのようなアルコール類、テトラヒドロフラン(THF)の添加が効果的といえる。そのほかのDMF(ジメチルフォルムアミド)やアセトニトリルも両親媒性溶媒であるため、条件によっては、それ自体分解してしまう可能性があるが、それ自体分解しない穏やかな条件下(本発明の作用効果を損なわない範囲)では十分に利用可能である。
(2)ポリエステル類について
本発明で使用することのできるポリエステル類としては、電子・情報機器、医療器具、建築資材、自動車分野などの産業分野や、生活用品など、広範囲な分野で使用後に、あるいは広範囲な分野の製造過程で排出されるポリエステル類の成形品の端材やポリエステル製品の打ち抜き(型取り)後のシート廃材など、廃棄物として回収し得るものであればよく、特に制限されるものではない。即ち、ポリエステルとは多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体である。ポリアルコール(アルコール性の官能基;−OH基を複数有する化合物)と、多価カルボン酸(カルボン酸官能基;−COOH基を複数有する化合物)を反応(脱水縮合)させて作ることを基本とする。中でも最も多く生産されているものはテレフタル酸とエチレングリコールから製造されるポリエチレンテレフタレート(PET)である。多価カルボン酸は、無水物を使用すれば、脱水は起こらず、また多価カルボン酸のエステル(たとえばメチルエステル)を使用して、エステル交換反応も利用される。樹脂の用途によって、分類名が変化してきた。主なものは、(1)繊維やペットボトルなどに使われる、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするもの(PET)。繊維ではダクロン、テトロンなどの商品名のままで呼ばれることも多い。(2)ボタンなどの成形品、ガラス繊維などで強化して、船舶・ボートなどに使われるもの。ポリエステルに不飽和基を含ませ、スチレンなどのビニル基をもったモノマーと成形時に共重合させる。不飽和ポリエステルという。(3)アルキド樹脂;油脂や他の樹脂(たとえばエポキシ樹脂)をも反応に加えて、変性(性質を調整)したポリエステル樹脂などである。ポリエステル類のモノマー成分であるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDC)などが挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール(EG)、1,3−プロパンジオール(PDO)、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)などが挙げられる。ポリエステル類の具体的な例示は後述する。本発明で使用することのできるポリエステル類として好ましくは、生産量が多く、廃棄物の回収(リサイクル)が義務付けられているもの(例えば、自動車リサイクル法、家電リサイクル法、パソコンリサイクル法、容器包装リサイクル法、建設リサイクル法等の各種リサイクル法や資源有効利用促進法等の対象商品など)や製造過程で直接回収可能な廃材が望ましい。
【0071】
本発明で使用することのできるポリエステル類として、具体的には、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリペンタメチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ビスフェノールA(テレフタレート/イソフタレート)、ポリペンタメチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレ−ト)、ポリプロピレンナフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)テレフタレート、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールA、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールAなどの芳香族ポリエステル;ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリプロピレン(テレフタレート/セバテート)、ポリエチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリ−ε−カプロラクトンなどポリエーテルあるいは脂肪族ポリエステルを芳香族ポリエステルに共重合した共重合体;ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリネオペンチルグリコールオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレン(サクシネート/アジペート)、ポリプロピレン(サクシネート/アジペート)、ポリエチレン(サクシネート/アジペート)、ポリブチレンサクシネート・カーボネートなどの脂肪族ポリエステルカーボネート、p−オキシ安息香酸/ポリエチレンテレフタレート、p−オキシ安息香酸/6−オキシ−2−ナフトエ酸などの共重合ポリエステルなどの液晶性ポリエステル;ポリカーボネート樹脂;ポリ乳酸;フマル酸エステル系共重合体などが挙げられる。上記したように、本発明で使用することのできるポリエステル類は、構成分子の主鎖にエステル結合(−CO−O−)を含んだ高分子化合物の総称であると定義されるものであり、ポリカーボネート樹脂やポリ乳酸等を含む広義の意味に解釈されるものをいう。
【0072】
上記ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。上記ポリカーボネート樹脂には、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの従来公知の各種反応方法を利用して製造された各種ポリカーボネート樹脂が利用可能である。
【0073】
上記二価フェノールの代表的な例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4'−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4'−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4'−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましい。すなわち、本発明の特に好適なA成分は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂である。
【0074】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0075】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって製造されたポリカーボネート樹脂には、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などが含有されていてもよい。また本発明に用いることのできるポリカーボネート樹脂には、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0076】
上記ポリ乳酸としては、L体のみを重合させたポリ−L−乳酸(PLLA)、D体のみを重合させたポリ−D−乳酸(PDLA)、PLLAとPDLAを混合したステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SC−PLA)が挙げられる。さらにポリ−D−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体であってもよい。当該ポリ−D−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体が含んでいてもよい他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。ポリ−L−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体であってもよい。当該ポリ−L−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体が含んでいてもよい他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。これらポリ−L−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体およびポリ−D−乳酸と他の共重合成分単位の共重合体が含んでいてもよい乳酸以外の他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。
【0077】
本発明で使用することのできるポリエステル類として好ましくは、透明性、難燃性、耐衝撃性などの優れた物性をもつ汎用エンジニアリングプラスチックで、電子・情報機器、医療器具、建築資材、自動車分野などの産業分野や生活用品など広範囲な分野で使用されているポリカーボネート(PC)(ビスフェノールAとホスゲンからのビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂);生分解性、カーボンニュートラルという優れた特性を持つ農産物由来の持続可能な素材のプラスチックで、農業用にマルチシートやハウス用のフィルムとして、ホビー分野では屋外用BB弾(通称バイオ弾)として実用化されているほか、繊維製品、光ディスク、包装用フィルム、レジ袋など、広範囲な分野で使用されているポリ−DまたはL−乳酸(PDLAまたはPLLA);耐熱性、強度に優れ、また染色性にも優れた物性を持ち、経済性に優れた樹脂で、繊維、フィルム、容器など広範囲な分野で使用されており、なかでも飲料容器としてペットボトルが広く利用されているポリエチレンテレフタレート(PET)(ポリエチレングリコール(PE)とテレフタル酸(TPA)からの芳香族ポリエステル樹脂);PETに比べガス紫外線バリア性・機械強度が高く、ガス(酸素、CO2・水蒸気)透過性が低い等の優れた物性をもつプラスチックで、APS写真フィルム、電子部品用素材などの産業分野で使用されているポリエチレンナフタレート(PEN);ユニットバスなどの材料として使用されているフマル酸エステル系共重合体などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0078】
なお、上記したポリエステル類の重合度(ないし重量平均分子量)に関しては、本発明では、ポリエステル類の解重合が表面反応であるため(図4Bや図16Bの表面反応モデルで近似する=直線状になる点を参照のこと)、重合度の影響を受けない為、何ら制限されるものではない。よって、ポリエステル類の種類(例えば、PET、PEN、PC、PLAなど)を揃えることで、異なる重合度(ないし重量平均分子量)が混ざっていても、対象となる廃棄物(好ましくは廃棄物を一定粒度に粉砕した粒状物)からサンプリングし、今回の実験室レベルの実施例で行った程度の予備実験により最適な解重合の反応条件を特定した後に、工業的に実施するのが望ましいといえる。また、複数の種類のポリエステル類(重合度も異なるもの)が混ざり合っていても、上記と同様に、これらの廃棄物を一定粒度に粉砕した粒状物から適当数をサンプリングし、今回の実験室レベルの実施例で行った程度の予備実験により最適な解重合の反応条件を特定することで、工業的に実施することができるものである。
(3)本発明のポリエステル類の解重合に用いられる、その他の成分について
また、本発明のケミカルリサイクル法においては、触媒等を全く添加せず、極わずかなアミン類と解重合反応を利用し、比較的低温で、ほぼ完全に重合体のポリエステル類を原料モノマーにまで分解することができることから、さらに従来公知の触媒やアルコール溶媒やNaOH等のアルカリなどの余分な成分を用いることは、本発明の所期の作用効果を損なうことから望ましくないものである。従って、本発明で用いることができる他の成分としては、上記した本発明の作用効果を損なわないものを適量添加し得るものであり、例えば、NaOH等のアルカリ物質などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは、単独で用いても、2種類以上で用いてもよい。ここで、NaOHなどアルカリ添加は効果を高めることができる。詳しくは、例えば、ポリカーボネートの場合、解重合反応により二酸化炭素(CO2)も生成し、反応の進行に伴い反応器内のpHが低下する。pHが低下するとアミンの電離が進み、反応性が低下する。これを防ぐにはNaOHなどのアルカリを添加し、溶液を塩基性に保てば、反応が進行するためである(実施例7の図9参照)。
(4)希釈アミン水溶液を用いてポリエステル類を解重合する工程について
本発明のケミカルリサイクル法では、上記したアミン類を含有する希釈アミン水溶液を用いて、ポリエステル類の解重合を行う工程を有するものである。本発明のケミカルリサイクル法は、極わずかな量のアミン類の他には触媒(アルカリ金属の炭酸塩やアルカリ土類金属の炭酸塩や酸化物等)や添加物を必要とせず、また、有機溶媒(アルコール類やフェノール類など)を用いないので、ポリエステル類の解重合により生成したポリマーの分離精製も容易であり、エネルギー消費も少ない高効率なケミカルリサイクル法である。
【0079】
(a)解重合について
ここで、解重合とは、重合の逆反応をいい、重合体(ポリマー)を熱、紫外線などによって単量体(モノマー)に分解することをいう。本発明では、重合体であるポリエステル類を、極わずかなアミン類と解重合反応を利用して、比較的低温で、モノマーに分解することをいう。重合体が高分子量の物質の場合には、解重合には、重合体の重合度が低下することや部分的分解なども含まれるものとする。
【0080】
(b)解重合の方法について
本発明のケミカルリサイクル法における解重合の方法としては、回分式(バッチ式)、、半回分式、連続式のいずれでもよい。つまりは、回分式(バッチ式)のように、投入、反応、回収の工程を順番にひとつずつ行ってもよいし、工業化を考慮するのであれば、半回分式のように、固体ポリマー(ポリエステル類)は反応器内に固定、溶媒のアミン類を含む希釈アミン水溶液を連続的に反応器に供給し、生成モノマーは直ちに溶媒に溶解し、反応域から除去するようにして、投入、反応、回収を全て同時に行い、反応器に投入したポリエステル類全量が反応、回収されるまで連続的に行ってもよいし(図13参照)、連続式のように、投入、反応、回収を全て同時に行い、途切れなく行ってもよい。また、反応器にも特に制限はない。回分式(バッチ式)であっても、半回分式であっても、連続式であっても、従来公知の反応器を適宜選択し、あるいは組みあわせ、必要に応じて改良して使用すればよい。
【0081】
(c)ポリエステル類と、希釈アミン水溶液(特にアミン類)との接触形態
本発明においては、重合体であるポリエステル類と、希釈アミン水溶液(特に水溶液中の極わずかなアミン類)との解重合反応は、如何なる接触形態で行うものであってもよい。例えば、固液接触でもよいし、液液接触でもよい。固液接触であれば、ポリエステル類の固体形態が比較的大きなサイズの場合には当該固体表面に、液体形態の希釈アミン水溶液(特に水溶液中の極わずかなアミン類)を流しながら接触してもよい。あるいは、希釈アミン水溶液(特に水溶液中の極わずかなアミン類)中にポリエステル類の固体形態を添加して撹拌・混合して流動させながら接触してもよいなど、特に制限されるものではない。これら固液接触の際には、固体表面に接触させる希釈アミン水溶液(特に水溶液中の極わずかなアミン類)を流動化させるのが望ましい形態である。液液接触であれば、希釈アミン水溶液の液体形態と、ポリエステル類を適当な溶媒に溶解させた液体形態とを、必要に応じて撹拌・混合して、接触すればよい。つまり、かように接触させて解重合によるポリマーの分解(モノマー化)を進行させることができる方法であれば特に制限されない。環境負荷を軽減する観点からは、重合体であるポリエステル類を溶解させるための溶媒を必要とする液液接触よりも、そうした溶媒を必要としない固液接触が望ましい。これは、本発明の手法(解重合によるケミカルリサイクル法)が、ポリマー(ポリエステル類)の融点以下の反応温度で行うことに特長があるためである。また、固液接触による反応の様子を観察すべく、耐圧セル(窓が付いた反応器)内で反応を行い、ポリマー(ポリエステル類)固体の形状の経時変化を観察すると、形を保ったまま、サイズが小さくなっていくのが観察される。これは固体表面での反応であることが分る。後述する数式(1)は反応が表面反応で進行する反応速度式から導かれる。よって、溶媒(希釈アミン水溶液中のアミン類)にポリマー(ポリエステル類)を溶解させる必要がない(=液液接触による解重合反応形態とする必要がない)といえる。溶媒(希釈アミン水溶液中のアミン類)の役割は、生成モノマー(ポリカーボネートを例にとれば、ビスフェノールA)を固体表面から取り除くことである。よって、固体試料(ポリマー固体)がいくら大きくても、ポリマー固体に対して溶媒量(希釈アミン水溶液中のアミン類の量)が少なくても、急激に反応速度が減少することはなく、接触面積が重要となる。また、固液接触による反応では、ポリマー(ポリエステル類)の融点以下の反応温度で行うことができることから、環境負荷の低減が図れ、また反応系を加熱するのに要するエネルギー消費を抑えることができ、経済的であると共に、当該エネルギーの生成に伴い発生するCO2の発生量の低減も図れ、地球温暖化防止の観点からも望ましく、さらに反応装置の簡素化が大幅に図れる観点からも画期的な方法であるといえる。
【0082】
(d)固体のポリエステル類のサイズ(平均粒子径)
また、本発明の解重合は、固体のポリエステル類を用いる場合には、当該固体のポリエステル類の表面での表面反応になっている(図4Bや図16B参照)。即ち、固体表面の反応界面でポリエステル類に希釈アミン水溶液中のアミン類が攻撃して解重合反応によるポリマー分解(モノマー化)が進行している。そのため、できるだけ、固体のポリエステル類の表面積を増大させることが、アミン類との接触面積=反応面積の増大につながり、ひいては反応速度の向上に寄与することから、当該ポリエステル類は廃棄物の形態のままではなく、適当なサイズに粉砕処理したものを用いるのが望ましいといえる。上記観点から、固体、好ましくは所定の粒度範囲に粉砕された(より好ましくはさらに分級された)粒状物のポリエステル類のサイズ(平均粒子径)は、1〜50mm、好ましくは1〜20mm、より好ましくは1〜10mmの範囲である。即ち、ポリエステル類の粒径は、小さい方がそれだけ表面積が増大するので有利であることから、ポリエステル類のサイズ(平均粒子径)は50mm以下、より好ましくは20mm以下、より望ましくは10mm以下が望ましいといえる。一方、一般には粉砕に多大なエネルギーを要し、環境負荷の増大を招くことから、微粒子にすることは現実的ではなく、一般的には、ポリマーの成形加工原料のレジン程度の大きさまでの簡易な粉砕で得られるものが望ましいことから、ポリエステル類のサイズ(平均粒子径)は1mm以上が望ましいといえる。ただし、上記固体のポリエステル類のサイズ(平均粒子径)の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を有効に発揮し得る範囲であれば、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。上記固体のポリエステル類のサイズ(平均粒子径)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定やレーザー回折/動的光散乱式粒度分布測定などにより測定・算出することができる。上記測定に用いる計測装置の解析ソフトにより自動測定・算出されるため、極めて簡便である。但し、上記装置を持ち得ない場合には、例えば、上記固体のポリエステル類のサイズ(平均粒子径)は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を用いてもよい(この場合でもSEMやTEMの画像解析ソフトなどを用いて算出するのが望ましい)。
【0083】
(e)ポリエステル類の含有量(ポリエステル類と希釈アミン水溶液との混合割合)
ポリエステル類と希釈アミン水溶液との混合割合は、解重合によるポリマーの分解(モノマー化)により、(好ましくは高収率で)モノマーを生成(回収)することができる割合であれば特に制限はない。大体の目安としては、ポリエステル類の含有量(割合)は、希釈アミン水溶液とポリエステル類の総量に対して、下限側は0.05wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、より好ましくは0.5wt%以上、さらに好ましくは1wt%以上であり、上限側は特に制限されるものではなく90wt%以上でも可能である。これは下記に示す本手法の反応機構に示すように反応が進行してもアミン類が消費されない為である(反応機構の反応(1)(2)の式を参照)。上限側として好ましくは90wt%以下、好ましくは70wt%以下、より好ましくは50wt%以下、さらに好ましくは30wt%以下、特に好ましくは20wt%以下、中でも好ましくは10wt%以下の範囲である。ここで、本手法(本発明のケミカルリサイクル法)の反応機構は、ポリエステル類としてポリカーボネートを例にとれば、以下の様に考えられる。よって反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので、原理的には消費されない。よって、求める反応速度にもよるが、ポリエステル類の含有量は、上記範囲に示すようにアミン類の数倍あっても何ら差し支えないといえるものである。
【0084】
PC+アミン類→BPA(生成モノマー)+イソシアネート(中間生成物) (1)
イソシアネート+水→アミン類+CO2 (2)
既存のケミカルリサイクル法のように、アミン類100%で水がないと、上記反応(2)が起きず、下記反応(3)が起きてしまうため、アミン類が消費されてすぐに反応が終了し、尚かつ下記反応(3)のように副生成物が大量に生成するという問題が解消し得ないといえる。
【0085】
イソシアネート+アミン類→副生成物 (3)
上記したように、ポリエステル類の含有量(割合)が上記範囲であると、目的物(分解により生成するモノマー)の収率、反応選択性、反応速度、反応温度の低温化などが向上する。ただし、反応を回分式(バッチ式)で行うか、連続式で行うかなど、以下に説明する各種反応条件によっても異なることから、上記ポリエステル類の含有量の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を有効に発揮し得る範囲であれば、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。例えば、ポリマーアロイ状態で使われる場合は、ポリエステル類の含有量に、反応速度は依存すると思われる。但し、上記ポリエステル類の含有量の範囲はあくまで大方の目安であり、工業的には層状成形品(例えば、シャンプーの詰め替え袋、ナイロンとポリエステル(類)樹脂の層状に張り合わせたもの)も多く、そのような製品には、あまり反応しないナイロンやポリエチレン、ポロプロピレンなども含まれており、解重合によるポリエステル類の分解によりポリエステル類から原料モノマーを生成することができる割合であれば特に制限はない。むしろ、工業的に多く生産されている層状成形品(製品)の場合、あまり反応しないナイロンやポリエチレン、ポロプロピレンなどとポリエステル類を分離回収するのにも有効な手法であり、この際のポリエステル類の含有量は何ら制限されるべきものではないといえる。
【0086】
(f)反応温度及び反応装置
ポリエステル類を解重合する際の反応温度は、ポリエステル類の融点以下であれば特に制限されるものではない。繰り返しになるが、ポリエステル類を解重合する際の反応温度は、ポリエステルの融点以下なので、ポリエステル類(ポリマー固体)は、溶液(希釈アミン水溶液)に溶解せず、固液接触となる。よって、反応器の性状や処理条件に応じて、ポリマー(ポリエステル類)とアミン溶液量(希釈アミン水溶液中のアミン類の量)とは適宜変えることができる。耐圧セル(窓が付いた反応器)内の観察によれば、ポリエステル類の分解で生じる生成モノマーはすべて反応器内の溶液に溶解しているのではなく、反応器下部に粘性が高く流動性のある液体成分として蓄積していくのが観察された。よって、アミン溶液量が少なくても、問題なく、また中間生成物(イソシアネート)と水との反応によって生成するCO2やアミン類のため、攪拌していなくても反応器内の溶液は絶えず対流循環していることも観察された(特に、反応剤のアミン類は再びアミン類に戻るので、原理的には消費されず、仕込んだアミン類が消失されず、反応速度が減速しない。この点については、上述した本手法の反応機構の反応(2)の式を参照)。
【0087】
ポリエステル類を解重合する際の反応温度として好ましくは、解重合によるポリマー(ポリエステル類)の分解(モノマー化)により、高収率でモノマーを生成(回収)することができる温度範囲が望ましい。反応性や生産性を考慮すると、例えば、好ましくは−50〜400℃、より好ましくは0〜300℃であるが、例えば、ポリエステル類としてポリカーボネート(PC)を用いる場合には、さらに好ましくは50〜200℃、特に好ましくは80〜160℃、なかでも好ましくは100〜140℃の範囲である。また、ポリエステル類としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合には、好ましくは−50〜400℃、より好ましくは0〜350℃、さらに好ましくは50〜350℃、特に好ましくは150〜300℃、なかでも好ましくは170〜250℃の範囲である。反応温度が−50℃以上であれば、凝固点の低いアミン類を適宜選択することで、希釈アミン水溶液全体を凝固することなく液体状態で使用することができるなどの点で好ましい。反応温度が400℃以下であれば、融点の高いポリエステル類を適宜選択することで、ポリエステル類の融点以下で固液接触による解重合反応を行うことができ、また沸点の高いアミン類を適宜選択することで、希釈アミン水溶液が気体状態に相変化することなく液体状態で使用することができ、希釈アミン水溶液中のアミン類の熱分解も抑制されるなどの点で好ましい。特に本発明では、ポリエステル類としてポリカーボネート(PC)を用いる場合には、既存のアンモニア熱水を利用したポリカーボネートのケミカルリサイクル法では、解重合反応が全く生じない180℃以下、特に実施例1〜8で確認された100〜140℃という比較的低温であっても、触媒等を全く添加せず、ほぼ完全にポリエステル類の1種であるポリカーボネートを原料のビスフェノールAと二酸化炭素まで分解することができ、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる点で極めて優れている(実施例2の図3、実施例1の図1、図2参照)。ポリエステル類としてポリエチレンテレフタレートを用いる場合には、アンモニア熱水を利用したポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル法に比して、同じ温反応度でも高収率で比較的速い反応速度を得ることができる、250℃以下、特に実施例9〜12で確認された170〜240℃という比較的低温であっても、触媒等を全く添加せず、ほぼ完全にポリエステル類の1種であるポリエチレンテレフタレートを原料のテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)まで分解することができ、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる点で極めて優れている(実施例9〜12、特に実施例11と比較例4のアーレニウスプロットによる濃度0.6Mでの希釈アミン水溶液とアンモニア水溶液(アンモニア熱水)での反応速度定数を比較した図11参照)。ただし、上記反応温度の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を有効に発揮し得る範囲であれば、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。即ち、適切な反応温度はポリマー(ポリエステル類)の種類、エステルについている官能基によって全く違い、一概に規定することは困難なためである。例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)は耐熱性に優れているので、反応温度もPET(ポリエチレンテレフタレート)より高く200℃以上が必要である。反応温度は、PEN>PET>PC>PLAの順で、PLA(ポリ乳酸)は100℃以下でも十分である。よって、すべてのポリエステル類を包括して反応温度を一義的に規定するのは困難であり、上記に規定した反応温度の範囲は、あくまで、大まかな目安(=予備実験の際の指標程度)として捉えるのがよい。即ち、本発明では、工業化に先駆けて、ラボレベル、小規模プラントという段階を踏んだ予備実験を行った上で、最終的に工業な大規模プラントを設計するのが望ましいといえるものであり、その際のラボレベルでの予備実験を行う際の反応温度の設定の際に上記温度範囲を1つの目安として利用すればよいものといえる。その際のポイントは、あまり反応速度を低下させず、できるだけ低い反応温度が理想的である。理由は副反応(メイラード反応、ポリ乳酸については異性化(光学活性D体、L体からラセミ体になる))の抑制効果が得られるためである。
【0088】
なお、上記反応温度までの昇温速度や反応後の降温速度は特に制限されるものではない。特に工業的に解重合反応を行う場合には、後述する反応時間を特定するために行ったような急速加熱や急冷は実際上、困難であり、使用する反応器に備えられた加熱、冷却手段を用いて利用可能な範囲の昇温速度や降温速度にて実施すればよい。
【0089】
本発明のケミカルリサイクル法に用いる反応装置としては、工業的には、回分式(バッチ式)反応装置として上記したような耐圧セル(温度及び圧力制御可能な耐圧性の反応器)を大型化してもよいが、半回分式(ポリマーは固定、溶液が流通)の反応装置として、図13に示すような装置構成として耐圧セル(温度及び圧力制御可能な耐圧性の反応器)を大型化してもよいし、更に流通式(連続式)反応装置としてより安価で入手が容易な、温度及び圧力制御可能な押し出し機を用いることも可能である。押し出し機は、多量の固体ポリマー(ポリエステル類)と少量の溶液(希釈アミン水溶液)を用いて利用されることが多いので(多量の固体ポリマーと少量の溶液を用いた利用が押し出し機の一般的な実施形態なので)、本手法が適切であるといえる。押し出し機から押し出された解重合反応による分解生成物は、上記したように溶液(希釈アミン水溶液)と簡単に分離できるため、連続的に解重合反応による分解(ケミカルリサイクル)を実施することができる点で優れている。
【0090】
(g)反応圧力
ポリエステル類を解重合する際の反応圧力は、解重合によるポリマーの分解(モノマー化)により、(好ましくは高収率で)モノマーを生成(回収)することができる圧力範囲であれば特に制限はないが、反応性や生産性を考慮すると、例えば、0.01〜300atm、好ましくは0.1〜100atm、さらに好ましくは1〜50atmの範囲である、ただし、上記反応圧力の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を有効に発揮し得る範囲であれば、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。すなわち、後述する実施例1〜5、9〜12の実験観察及び実験結果からの考察に示すように、反応圧力は解重合反応にほとんど影響しないことから、特に反応圧力に関しては何ら調整することなく実施するのが経済性、操作性、装置の簡素化(圧力制御装置等が不要)などの観点から望ましいといえる。より詳しくは、回分式(バッチ式)反応器で、不活性ガス等の加圧がない場合、圧力は溶液の飽和蒸気圧なので、希薄アミン水溶液の場合、液量に関係なく反応温度が決まれば一定である。即ち、希薄アミン水溶液を用いる場合、水の蒸気圧と大きく違わないと考えられる。
【0091】
また、回分式(バッチ式)反応器で、ガスを加圧する場合、加圧ガス量によっていくらでも高圧にできるが、高圧にすると低沸点のアミン類は、低圧のときより気相に多く分配するので、仕込みアミン類の量が一定では、ガス加圧による高圧は不利に働く。よって、回分式(バッチ式)反応器での反応圧力に関しては、特段の加圧操作を行うことなく実施するのが、経済性、操作性、装置の簡素化(圧力制御装置等が不要)などの観点から望ましいといえる。
【0092】
また、半回分式の反応装置(図13参照)の場合にも、実施例9〜12での反応圧力は10MPa(≒100atm)であるが、160〜240℃でのアミン水溶液の飽和蒸気圧以上に圧力を保っておけばよい。反応溶媒(希薄アミン水溶液)は液相なので、圧力による密度変化は小さく、モノマー収率や反応速度に及ぼす反応圧力の影響は非常に小さいと考えられる。
【0093】
一方、流通式(連続式)の反応装置の場合、ポンプによりいくらでも加圧できる。しかしながら、反応温度が臨界点以下(ポリエステル類の融点以下)のため、希薄アミン水溶液は液相であり、極端な高圧ではない限り、溶液密度変化は少なく、アミン濃度が一定下では、加圧による効果は低いと考えられる。よって、流通式(連続式)の反応装置での反応圧力に関しても、特段の加圧操作を行うことなく実施するのが、経済性、操作性、装置の簡素化(圧力制御装置等が不要)などの観点から望ましいといえる。
【0094】
なお、上記回分式、半回分式、流通式(連続式)のいずれの場合においても、反応溶媒(希薄アミン水溶液)を蒸気相としても反応は進行すると考えられる。ただし、生成物(モノマーなど)がポリマー表面に付着しているので、それを取り除く方法あるいは媒体があれば反応は進行する。但し、こうした生成物(モノマーなど)をポリマー表面から取り除く方法の開発や圧力制御などの観点から、反応溶媒(希薄アミン水溶液)は、液相の方が好ましいと考えられる。
【0095】
(h)反応時間
ポリエステル類を解重合する際の反応時間は、反応温度、アミン類の構造、濃度、希釈アミン水溶液が流動しているか否か(固体のポリエステル類と液体の希釈アミン水溶液との固液接触状態)などにより異なる為、一義的に規定はできないが、概ねアミン濃度から類推できる(図4B参照)。即ち、上記反応時間は、解重合によるポリマーの分解(モノマー化)により、(好ましくは高収率で)モノマーを生成(回収)することができれば特に制限はない。現実的には、反応性(副反応抑制効果)や生産性や反応制御性などを考慮すると、数分(5分程度)〜120分であり、好ましくは10〜30分で反応が終了すれば好ましい。場合によっては、1、2分での速い反応速度が求められることがあり得るが、反応速度が速すぎると、反応制御がしにくいのと、副反応の可能性が高まるので、上記範囲が適切であると言える。
【0096】
(i)反応温度と反応時間の好適な組み合わせについて
ポリエステル類を解重合する際の反応温度と反応時間の好適な組み合わせとしては、解重合によるポリマーの分解(モノマー化)により、高収率でモノマーを生成(回収)することができるように、適宜選択すればよい。ただし、アミン類の種類や濃度、ポリエステル類の種類やエステルに結合した官能基の種類や含有量など使用する系によって反応温度と反応時間の好適な組み合わせは異なることから、具体的な数値を規定するのは困難である。すなわち、回分式では、反応速度に影響を与えるのは、ポリマーの種類、温度、時間、アミンの種類、濃度、半回分(ポリマーは固定、溶液が流通)式反応器の場合は、さらに溶液の流速、流通式反応器(ポリマーも溶液も流通)の場合は、接触時間が主な要因である。よって、上記した反応速度に影響を与える要因に留意しつつ、ラボ(実験室)レベルの予備実験を行って、反応温度と反応時間の好適な組み合わせに関しても適宜確認・決定した上で、小規模レベルの実験段階を通じて、最終的に大規模な工業実施を行うのが、目的のモノマー(分解生成物)を、効率よく製造する上で望ましいといえる。
【0097】
(j)副生ガスの処理について
解重合反応によりポリエステル類が分解されて生成する目的物のモノマーのほかに、二酸化炭素のような副生ガスが発生する場合がある。こうした場合に、反応器として密閉式の容器を用いている場合、発生した副生ガスが反応系外に排気されずに希釈アミン水溶液中に溶解し、溶液が酸性化するなどして反応速度やモノマー収率に影響するおそれがある。そのため、こうした副生ガスを定期的に排気できる耐圧排気弁等を設けた反応装置を用いるのが望ましいといえる。あるいは、予め反応系内に中和剤としてアルカリを適量添加
しておいてもよい。なお、二酸化炭素のような副生ガスは、大気中に放出すると地球温暖化の原因となる為、好ましくは当該二酸化炭素のような副生ガスを回収し、こうした二酸化炭素のような副生ガスも再利用(リサイクル)に供するのがより望ましいといえる。
【0098】
例えば、ポリカーボネート(PC)の場合、中間生成物(イソシアネート)が生成し、この中間生成物(イソシアネート)が水と反応し、副生物として二酸化炭素(CO2)ガスとアミン類が生成(再生)する(上述した本手法の反応機構の反応(1)(2)の式を参照)。このように反応剤のアミンは再びアミンに戻るので、原理的には消費されず、再生したアミン類は、再びポリカーボネート(PC)を攻撃するので、仕込んだアミン類が消失されず、反応速度が減速しないという利点を奏するものである。一方CO2は溶液(希釈アミン水溶液)のpHを低下させるので好ましくなく、反応の進行とともに増加するので、系内の圧の上昇を招く。そのため上記したようにCO2ガスは系外に排出し、好ましくは系外で回収し、こうしたCO2ガスも再利用(リサイクル)に供するのがより望ましいといえる。ただし、耐圧セル内の直接観察より、CO2の発生は反応器内の溶液の攪拌を促進する効果があった。このことから、溶液のpHや系内の圧力の変化をモニタしながら、反応系に悪影響するレベル近くになった時点で定期的にCO2ガスを系外に排出するようにして、それまでは、CO2による反応器内の溶液の攪拌促進効果を享受し得るようなシステム(制御機構)を構築するのが望ましいといえる。
(5)モノマーの回収工程について
本発明では、上記(4)の工程後に、ポリエステル類の解重合により分解して得られたモノマーを回収する工程を有するものである。
【0099】
(a)モノマーの回収方法について
上記(4)の工程にて、ポリエステル類の解重合反応終了後に目的物(分解生成物であるポリエステル類の原料モノマー)を回収する方法には、特に制限はなく、当業者であれば、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせることによって、目的物を単離、精製することにより行うことができる。例えば、目的物が、ポリエステル類の1種のポリカーカーボネート(PC)を分解して得られるビスフェノールAである場合、ビスフェノールAは、希釈アミン水溶液に難溶で比重が大きいため簡単に沈殿させることができる。そのため、沈殿・ろ過処理や遠心分離処理などを利用して簡単に分離(単離)させることができる。また、ビスフェノールAは、比較的沸点が高く、一方で、例えば、希釈アミン水溶液(水および炭素数の低い第1級アルキルアミン類など)は比較的沸点が低いため、これらの沸点の差を利用して蒸留操作をすることによって、目的物を単離すればよい。あるいは、事後的に分析が必要な状況であれば、その際に利用される溶媒などを用いて適宜抽出作業をすればよい。
【0100】
(b)分解生成物である回収モノマーについて
分解生成物である回収モノマーは、本発明ケミカルリサイクル法における目的物である。本発明のケミカルリサイクル法においては、原料のポリエステル類と、希釈アミン水溶液(特に、極わずかなアミン類)とが使用される。つまり、本発明の分解生成物である回収モノマーは、原料のポリエステル類におけるエステル結合が分解して製造されてなるものであれば特に制限されない。
【0101】
例えば、原料のポリエステル類がポリカーボネートの場合には、目的物(分解生成物である回収モノマー)のビスフェノールAと、副生物として二酸化炭素(ガス化するので簡単に除去ないしは回収することができる)が得られる。副生成物の二酸化炭素に関しても、近年の地球温暖化防止の観点からは、再利用(ドライアイスや天然物の超臨界抽出溶媒など)ないしは液化後に地中貯溜または海底貯溜などの固定化を行うのが望ましい。
【0102】
原料のポリエステル類がポリエチレンテレフタレート(PET)の場合には、目的物(分解生成物である回収モノマー)のエチレングリコールとテレフタル酸とが得られる。目的物のエチレングリコールとテレフタル酸は、アミン水溶液から精製分離するなどして回収して、共に再利用(再生ポリエチレンテレフタレートの原料など)に供するのが望ましい。この際、エチレングリコールとテレフタル酸を分離しなくても、再生ポリエチレンテレフタレートの原料として、エチレングリコールとテレフタル酸の混合溶液をそのまま利用してもよい。
【0103】
原料のポリエステル類がポリ乳酸(PLA)の場合には、目的物(分解生成物である回収モノマー)の乳酸が得られる。
【0104】
回収したモノマーは、重合体であるポリエステル類の製造原料として再利用(リサイクル)することで、各種製品に幅広く利用することができる点で有用である。
【0105】
本発明のケミカルリサイクル法によれば、所望のモノマーを非常に容易に、高収率で、また、高い反応選択性と反応速度で、製造することができる。
【0106】
すなわち、既存のケミカルリサイクル法では、硫酸等の強い酸や水酸化ナトリウムなどの強アルカリを利用したり、超臨界水、亜臨界熱水、超臨界アンモニア、超臨界エタノールという反応条件下で行う場合には、目的物のモノマーであるビスフェノールAやエチレングリコールや乳酸などが強い酸や高温のため二次分解してしまい、目的物のモノマーの回収率が非常に低くなったり、強アルカリにより装置の腐食が酷くなるといった問題があった。本発明のケミカルリサイクル法では、触媒や添加物を必要とせず、また、有機溶媒を用いず、極わずかのアミン類と解重合反応(求核置換反応ないし水熱反応)を利用し、比較的低温で、ほぼ完全にポリエステル類を原料モノマーまで分解することができるため副反応や原料モノマーの更なる分解反応(2次分解反応)もなく原料モノマーの回収率が非常に高く、ほぼ完全な反応選択性と比較的速い反応速度が得られる画期的なケミカルリサイクル技術である。そのため、目的物のモノマーであるビスフェノールAやエチレングリコールや乳酸などの2次分解が生じることもなく、また装置の腐食も抑えられ、所望のモノマーを非常に容易に、高収率で、また、高い反応選択性と反応速度で、製造することができるものである。また、本発明では、極わずかなアミン類と解重合反応(アミノリシス)を利用するものであるが、この反応形態は表面反応である。そのため、ポリエステル類が均一に溶けていなくとも、固体ポリエステル類の表面から除去に分解反応が進行していって固体ポリエステル類をほぼ完全に分解して、目的物のモノマーを高収率で得ることができる。従って、事前に固体ポリエステル類を均一に溶解させる処理操作も不要であり、粒状のポリエステル類と、所定量の水(好ましくは熱水)とアミン類とを添加するだけで速やかに反応を開始することができる。また、上述したように撹拌しなくとも自然対流が生じ、固液接触が進められることから、回分式(バッチ式)でも、半回分式でも、流通式(連続式)でも、比較的簡単に反応器を用いて行うことができる。
【0107】
(c)分解生成物である回収モノマーの収率などの算出法について
なお、本明細書中、原料のポリエステル類にポリカーボネート(PC)を用いた場合における、目的物(分解生成物であるモノマー)のビスフェノールA(BPA)の収率と、当該ビスフェノールAが更に分解された場合に生成されるフェノールの収率と、原料ポリカーボネートの解重合反応後の残渣(未反応原料として残るポリカーボネート)収率と、原料ポリカーボネートの解重合による質量減少率とは、以下の数式で算出される。また、原料のポリエステル類にポリエチレンテレフタレートを用いた場合における、目的物(分解生成物であるモノマー)のエチレングリコールの収率とテレフタル酸の収率、残渣収率、質量減少率は、回分式では実施例6で用いた収率の定義に記載の数式で算出され、半回分式では、エチレングリコールの収率とテレフタル酸の収率は、実施例9〜12で用いた収率の定義に記載の数式で算出される。
【0108】
【数1】

【0109】
(d)目的物の収率
本発明のケミカルリサイクル法における目的物(分解生成物である回収モノマー)の収率は、反応時間などにより任意に調整可能であり、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上であることが好ましい。ここで、目的物の収率は、例えば、ポリカーボネート(PC)を用いた場合、目的物(分解生成物であるモノマー)であるビスフェノールA(BPA)の収率であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた場合、目的物(分解生成物であるモノマー)であるエチレングリコール(EG)の収率とテレフタル酸(TPA)の収率を合計したTPA+EGの収率(積算収率)となる。
【0110】
(e)反応選択率
本発明のケミカルリサイクル法では、ほぼ完全な反応選択性を有することから(図1参照)、反応選択率は、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは特に99%以上、特に好ましくは100%であることが好ましい。ここで、本明細書中、原料のポリエステル類にポリカーボネートを用いた場合を例に説明すると、反応選択率は、以下のように定義されるものである。ここでフェノールは、目的物(分解生成物である回収モノマー)のBPAが更に分解された場合に発生する生成物(重合体の原料モノマーとしてリサイクル利用し得ない不純物)である。
【0111】
反応選択率(%)=100−フェノールの収率
【実施例】
【0112】
以下、実施例および比較例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0113】
<実施例1:目的物、フェノール及び残渣の各収率の経時変化>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器(以下、単に反応器ないし反応管とも称する)を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート(ビスフェノールAとホスゲンを用いて得られたポリカーボネート樹脂;PCとも称する。以下同様。)試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6M(1.86wt%)(ここで、Mは、mol/Lのことである。以下同様とする。)メチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分ないし60分)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液(水とアセトニトリルの混合比率は体積比で1:1とした。以下、同様。)で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は上記した定義に従って算出した。結果を表1、表2、図1及び図2に示す。
【0114】
なお、以下の実施例1〜8および比較例1〜3で上記した小型回分式反応器を用いたのは、一定の設定温度に保たれているオイルバスに反応器を浸した時点で、反応器内(=反応系内)の温度を設定温度まで急速に加熱でき、反応温度(=オイルバスの設定温度)及び反応開始時間(=反応器を浸した時点)を正確に特定でき、同様に、所定時間経過後、反応器を取り出し、水浴に浸した時点で、反応器内の温度を水浴(常温)まで急冷でき、反応停止時間(=水浴に浸した時点)を正確に特定できるためである。なお、本手法では、反応温度が低いためにオイルバスで効果は溶融塩浴と同じで、電気炉より速い加熱速度と安定した温度が得られることから、オイルバスを用いている。
【0115】
【表1】

【0116】
上記表1および図1に示すように、0.6Mメチルアミン水溶液を用いた場合、120℃、40分で、モノマーであるビスフェノールA(BPA)の収率がほぼ100%に近い値に達している。
【0117】
上述した既存のポリカーボネートのケミカルリサイクル法のように250℃以上の種々の高温処理では2次分解物としてフェノールが生成するが、本実施例1の反応条件では反応温度が低温のため2次分解物のフェノールが全く生成していないことがわかる。ポリカーボネートの残渣量は時間とともに減少し、ビスフェノールAの生成に対応して減少していることが確認できた。
【0118】
<実施例1a:アミン類の種類を変えた際の目的物収率の経時変化>
実施例1の希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6M(1.86wt%)メチルアミン水溶液2.0gを用いたのに変えて、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とエチルアミン(C25NH2)とで調製した0.6M(2.70wt%)エチルアミン水溶液2.0gを用いた以外は、実施例1の同様の方法を行って、目的物の収率を上記した定義に従って算出した。結果を表2及び図2に示す。
【0119】
<比較例1:アミン類に変えてNH3を用いた際の目的物収率の経時変化>
実施例1の所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6Mメチルアミン水溶液2.0gを用いたのに変えて、所定量の蒸留水とアンモニア(NH3)とで調製した0.6Mアンモニア水溶液2.0gを用いた以外は、実施例1と同様の方法を行って、目的物の収率を上記した定義に従って算出した。結果を表2及び図2に示す。
【0120】
<比較例2:アミン類に変えてNaOHを用いた際の目的物収率の経時変化>
実施例1の所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6Mメチルアミン水溶液2.0gを用いたのに変えて、所定量の蒸留水と水酸化ナトリウム(NaOH)とで調製した0.6M水酸化ナトリウム水溶液2.0gを用いた以外は、実施例1と同様の方法を行って、目的物の収率を上記した定義に従って算出した。結果を表2及び図2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表中の「−」は、その時間で測定していないことを表す(以下、同様)。
【0123】
上記表2および図2に示すように、0.6Mメチルアミン水溶液(CH3NH2aq)を用いた場合と、0.6Mエチルアミン水溶液(C25NH2aq)を用いた場合には、ほとんど同じ反応速度及びBPA収率が得られることが確認できた。また、アンモニア水溶液(NH3aq)や水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)の場合、120℃ではビスフェノールA(BPA)の収率0%であることから、全く反応しなかったことが確認できた。
【0124】
<実施例2:0.6Mメチルアミン水溶液の場合の反応温度の影響>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6Mメチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(100℃、110℃、120℃ないし140℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分及び90分で実施した。但し、目的物の収率がほぼ理論収率に達した時点で、それより長い反応持間での測定はしなかった。)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。目的物であるビスフェノールA(BPA)の収率は上記した定義に従って算出した。結果を表3、図3Aおよび図3Bに示す。
【0125】
【表3】

【0126】
表3中の100℃、110℃、120℃、140℃は、いずれも反応温度を示す。
【0127】
上記表3及び図3Aには、0.6Mメチルアミン水溶液の場合の、反応温度100℃、110℃、120℃及び140℃の場合における目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を示すものである。いずれの反応温度においても、ほぼ100%のビスフェノールAの理論収率が得られ、反応温度が高いほど反応速度が速いことが確認できた。この反応は、表面反応モデルで近似できることが確認できた(実施例3の結果に基づく図4B参照。図4Bは、実施例3の120℃におけるメチルアミン水溶液中のメチルアミンの濃度(0.3〜1.2M)ごとのポリカーボネートの分解速度の経時変化を表すグラフ図面である)。これは、ポリカーボネートの分解速度がポリカーボネートの未反応量についての2/3乗に比例するためである。上記表3及び図3Aより、希薄なメチルアミン水溶液で、140℃程度の低温でもポリカーボネートは20分以内でほぼ完全にモノマーであるビスフェノールA(BPA)に変換できることが確認できた。同様に、解重合反応が、粒状のポリカーボネート(固体)の表面上で起こると仮定し、下記数式(1)で示す表面反応モデルを適用した。
【0128】
【数2】

【0129】
上記数式(1)中、Yは、下記数式(2)
【0130】
【数3】

【0131】
で表されるものであり、kはみかけ反応速度定数、tは反応時間を示す。
【0132】
図3Bは、実施例2の実験結果に基づき、上記数式(1)より求めたみかけ反応速度定数kについてのアーレニウスプロットを示す図面である。図3Bより、アーレニウスプロットは直線状で近似でき、活性エネルギーは64.8kJ/molであった。当該図3B、さらに後述する実施例4の実験結果に基づき図4Bより、いずれも表面反応モデルで近似できた(直線状で近似できた)ことから、上記した「解重合反応が粒状のポリカーボネート(固体)の表面上で起こる」との仮定(仮説)が、2つの実験を通じて実証できたものと考えられる。
【0133】
<実施例3:120℃におけるメチルアミン濃度の影響>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した所定濃度(0.3M(0.93wt%)、0.6M(1.86wt%)、0.9M(2.80wt%)、1.2M(3.73wt%))のメチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(5分、10分、15分、20分、25分、30分、40分、50分及び60分で実施した。但し、目的物の収率がほぼ理論収率に達した時点で、それより長い反応持間での測定はしなかった。)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は上記した定義に従って算出した。結果を表4、図4A、図4Bおよび図5に示す。
【0134】
【表4】

【0135】
表4中の0.3M、0.6M、0.9M、1.2Mは、いずれもメチルアミン水溶液中のメチルアミンの濃度を示す。
【0136】
上記表4および図4Aには、反応温度120℃におけるメチルアミン水溶液中のメチルアミンの濃度(0.3〜1.2M)の違いによる目的物であるビスフェノールAの収率の経時変化を示すものである。反応温度120℃では、0.3M〜1.2Mのいずれのメチルアミン濃度においてもほぼ完全にポリカーボネートはビスフェノールAに変換され、メチルアミン濃度の増加に伴い、反応速度は増加することが確認できた。
【0137】
図5には、120℃におけるみかけ反応速度定数(表面反応モデル)はメチルアミン濃度に比例した。本実施例3では反応温度は120℃であるが、他の反応温度においても、同様に見かけ反応速度定数はアミン濃度に比例することが確認できた。
【0138】
<実施例4:120℃における種々のアミン類の比較>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水と種々のブチルアミン(n−ブチルアミン(BuNH2)、sec−ブチルアミン(sec−BuNH2)ないしtert−ブチルアミン(tert−BuNH2))とで調製した各種の0.6M(4.39wt%)ブチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(5分、10分、15分、20分、30分、40分及び60)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は上記した定義に従って算出した。結果を表5および図6に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
表5中のBuNH2、sec−BuNH2、tert−BuNH2は、いずれもブチルアミン水溶液中のブチルアミンの構造(異なるブチルアミン異性体)を示す。
【0141】
上記表4および図6にはビスフェノールAの収率の経時変化に及ぼすブチルアミン異性体の影響を示すものである。いずれの構造(異性体)のブチルアミンであっても、ほぼ完全にポリカーボネートはビスフェノールAに変換されるが、その反応速度はブチルアミンの構造に大きく依存する。その反応速度は、BuNH2>sec−BuNH2>tert−BuNH2の順番で、アミノ基が結合しているアルキル基が嵩高いほど反応速度は低下することが確認できた。
【0142】
<実施例5:120℃における第1級、第2級、第3級アミンの比較>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水と種々のメチルアミン(第1級のメチルアミン(CH3NH2)、第2級のジメチルアミン((CH32NH)ないし第3級のトリメチルアミン((CH33N))とで調製した0.6M(1.86wt%)の第1級アミン、0.6M(2.70wt%)の第2級アミンないし0.6M(3.55wt%)の第3級メチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分及び60)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は上記した定義に従って算出した。結果を表6、図7および図8に示す。
【0143】
【表6】

【0144】
表6中の1級アミン、2級アミン、3級アミンは、希釈アミン水溶液中の第1級のメチルアミン、第2級のジメチルアミン、第3級のトリメチルアミンをそれぞれ示す。
【0145】
上記表6および図7は、120℃におけるBPA収率の経時変化について、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンの比較を示す。図8は、120℃におけるポリカーボネートの質量減少の経時変化について、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンの比較を示す。表6及び図7より、目的物であるビスフェノールA(BPA)生成についての反応速度は、第1級アミン>第3級アミン>第2級アミンの順であるが、表6及び図8より、ポリカーボネートの質量減少速度は第1級アミン≒第2級アミン>第3級アミンの順である。従って、ビスフェノールA(BPA)の収率について第2級アミンの場合、ビスフェノールAが20%程度で頭打ちになっているが、これは、ポリカーボネートの質量減少率から見ると、ビスフェノールA以外の生成物となっていることが示唆される。
【0146】
以上、反応速度に差があるが、少量のアミン類の存在下で、比較的低温の熱水とポリカーボネートを接触させると、ポリカーボネートは効率よく解重合され、ほぼ完全にモノマーであるビスフェノールAと二酸化炭素に分解されることがわかった。本発明のケミカルリサイクル法は、極わずかな量のアミン類の他には触媒や添加物を必要とせず、また、有機溶媒を用いないので、ビスフェノールAの分離精製も容易であり、エネルギー消費も少ない高効率なケミカルリサイクル法である。
【0147】
<実施例6:PCに変えてPETを用いた場合の目的物(TPA、EG)の収率、質量減少率>
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器(以下、単に反応器ないし反応管とも称する)を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.3mm×高さ2.4mmの円柱状の粒子のポリエチレンテレフタレート(エチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)を用いて得られた芳香族ポリエステル樹脂;PETとも称する。以下同様。)試料42mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.9M(2.80wt%)メチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(140℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(60分)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は下記した定義に従って算出した。結果を表7に示す。
【0148】
<比較例3:アミン類に変えてNaOHを用いた際の目的物収率の経時変化>
実施例6の所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.9Mメチルアミン水溶液2.0gを用いたのに変えて、所定量の蒸留水と水酸化ナトリウム(NaOH)とで調製した0.9M水酸化ナトリウム水溶液2.0gを用いた以外は、実施例6と同様の方法を行って、TPA収率、EG収率、残渣収率及び質量減少率を下記した定義に従って算出した。結果を表7に示す。
【0149】
【数4】

【0150】
【表7】

【0151】
上記表7より、0.9Mメチルアミン水溶液(CH3NH2aq)を用いた場合には、目的物であるポリエチレンテレフタレート(PET)の原料モノマーであるテレフタル酸(TPA)及びエチレングリコール(EG)が、ほとんど同じ反応速度で、ほぼ同程度の収率(同程度のモル比;PETは分解するとテレフタル酸とエチレングリコールが等モル生成するため)で回収できた。一方、水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)の場合、140℃ではポリエチレンテレフタレート(PET)の原料モノマーであるテレフタル酸(TFA)及びエチレングリコール(EG)の収率が0%ないしほぼ0%であることから、殆ど反応しなかったことが確認できた。
【0152】
<実施例7:NaOH添加と無添加希釈アミン水溶液によるBPAの収率の経時変化>
(1)NaOH無添加希釈アミン水溶液について
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器(以下、単に反応器ないし反応管とも称する)を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート(ビスフェノールAとホスゲンを用いて得られたポリカーボネート樹脂;PCとも称する。以下同様。)試料160mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6M(1.86wt%)メチルアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(10分、20分、30分、40分、50分、60分分及び90分)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。ビスフェノールA(BPA)の収率は上記した定義に従って算出した。結果を図9に示す。
【0153】
(2)NaOH添加希釈アミン水溶液について
次に、内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器(以下、単に反応器ないし反応管とも称する)を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート(ビスフェノールAとホスゲンを用いて得られたポリカーボネート樹脂;PCとも称する。以下同様。)試料160mgと、希釈アミン水溶液として、所定量の蒸留水とメチルアミン(CH3NH2)とで調製した0.6M(1.86wt%)メチルアミン水溶液1.0gと、所定量の蒸留水と水酸化ナトリウム(NaOH)とで調製した0.6M水酸化ナトリウム水溶液1.0gとを混合した溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(120℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分及び90分)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。BPAの収率は上記した定義に従って算出した。結果を下記表8および図9に示す。
【0154】
【表8】

【0155】
上記表8および図9の結果より、NaOH添加の希釈アミン水溶液を用いた場合、CO2があまり生成していない反応初期(短い反応時間)では添加の効果がなく、NaOHの添加、無添加とも同じBPA収率であった。即ち、反応初期はまだCO2が反応器内に蓄積していないのでNaOH添加の希釈アミン水溶液を用いた場合とNaOH無添加の希釈アミン水溶液を用いた場合とでは同じBPA収率であった。しかし、反応時間が経過し反応器内にCO2が蓄積してくると、NaOH無添加の希釈アミン水溶液を用いた場合ではBPA収率が頭打ちであるが、NaOH添加の希釈アミン水溶液を用いた場合は増加している。即ち、反応時間の経過に伴い、NaOH無添加の希釈アミン水溶液を用いた場合は、BPA収率が頭打ちであるが、NaOH添加の希釈アミン水溶液を用いた場合はBPA収率がそのまま増加していることがわかった。これはNaOH添加によりpHの低下を抑制したためと考えられる。
【0156】
<反応圧力についての考察>
上記実施例1〜5の実験観察及び実験結果からの考察によれば、反応圧力については、解重合反応は、液相中(固体のポリエステル類を用いる場合であっても、当該固体表面の反応界面(固液接触界面)の液相中)で起こっていると考えられるが、高圧ほど沸点の低いアミン類は、液相中に多く分配し、結果として反応速度が増すと考えられる。しかし、アミン類の濃度は、希薄なので、高圧にするには他の気体で加圧(この場合、液相中のアミン類の濃度は高まらない)が考えられるが、効果はないと言える。結論として、希釈アミン水溶液の場合、圧力はほとんど影響しないことになると考えられる。図10は、水の飽和蒸気圧曲線を示す参考図面である。図10に示すように、各温度における圧力は、その温度における水溶液の飽和蒸気圧であるが、少量のアミン類の存在下で、比較的低温の熱水とポリカーボネートを接触させる際の当該アミン類の濃度が低いので、希釈アミン水溶液を純粋な水と仮定してもそれほど違いがないと考えられるため、その温度における水の飽和蒸気圧と仮定できるためである。
【0157】
<実施例8:モノエタノールアミンの濃度依存性>
エタノールアミンはガス洗浄など、多くの工業的な用途があり、その再生品など、ポリエステルの解重合の反応溶媒として再利用の可能性があることから、本実施例では、アミン類を含有する希釈アミン水溶液の当該アミン類として、水酸基を有するアミンであるモノエタノールアミンを選び試験した。
【0158】
内容積3.5mLの攪拌器なしのステンレス製の小型回分式反応器を用いた。室温の当該反応管に、ポリエステル類として直径3.0mm×高さ1.9mmの円柱状の粒子のポリカーボネート(PC)試料40mgと、希釈アミン水溶液として所定量の蒸留水とモノエタノールアミン(H2NCH2CH2OH)とで調製した所定濃度(0.3M(1.8wt%)、0.5M(3.0wt%)、0.8M(4.7wt%)、1.0M(5.8wt%)、1.5M(8.4wt%)、2.0M(11wt%)、3.0M(15wt%))のモノエタノールアミン水溶液2.0gを入れ、当該反応器を閉じた。時間ゼロであらかじめ設定温度(130℃)に保たれているオイルバスに反応器を浸し、所定時間(10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分及び100分で実施した。但し、目的物の収率がほぼ理論収率に達した時点で、それより長い反応持間での測定はしなかった。)経過後、反応器を取り出し、水浴に浸し反応器を急冷した。反応器を開け、内容物を取り出し、水とアセトニトリルの混合溶液で反応器内を洗浄した。反応液とこの洗浄液を合わせ、ガラスフィルターでろ過後、生成物を高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した。残渣固体は乾燥後、重量を測定した。各種収率は上記した定義に従って算出した。結果を表9及び図11に示す。
【0159】
【表9】

【0160】
表9中の0.3M、0.5M、0.8M、1.0M、1.5M、2.0M、3.0Mは、いずれもモノエタノールアミン水溶液中のモノエタノールアミンの濃度を示す。
【0161】
図11は、反応温度130℃におけるモノエタノールアミン水溶液中のモノエタノールアミンの濃度(0.5〜3.0M)の違いによる目的物であるビスフェノールA(BPA)の収率の経時変化を示すものである。表9および図11に示すように、水酸基を有するアミンもPCのモノマー化に有効であることが確認できた。また、モノエタノールアミンの濃度の増加とともに、反応速度およびモノマーの溶出開始時間も短くなっていることが確認できた。更に、モノエタノールアミン濃度0.5Mでは100分でまだ反応が終了していないが、モノエタノールアミン濃度0.8M以上では90%以上のBPA収率が得られることが確認できた。
【0162】
図12に130℃における表面反応速度定数に及ぼすモノエタノールアミン濃度依存性を示す。ここで、示す速度定数とは、表9及び図11に示すデータについて、上記数式(1)で表される表面反応に基づく速度式を適用し、図4Bと同様なプロットから求めたものである。図5に示すように、水酸基を有さないアミン類と同様に、図12でも、速度定数はアミン濃度に比例するが、1M以上では速度定数は頭打ちとなることが確認できた。
【0163】
<半回分式の反応装置によるPETについての実験>
ポリエチレンテレフタレート(PET)について、半回分式の小型反応装置(ポリマー(PET試料)は、反応器内に固定、溶媒を連続的に反応器に供給し、生成モノマーは直ちに溶媒に溶解し、反応域から除去される装置構成)を用いて、種々の条件におけるアミンの有効性を示す実施例を以下に記す。
【0164】
実施例1〜8は小型回分式反応器によって得られた結果である。回分式反応器は、反応器に試料(ポリエステル類)と溶媒(アミン類を含有する希釈アミン水溶液)を仕込んで反応させ、反応終了後反応物を取り出すため、装置が簡便で物質収支が比較的正確に測定できる長所を有する。しかし、反応の進行とともに生成物が反応器内に蓄積するため、溶解などの物質移動を伴う場合には、得られた反応速度の精度は半回分式よりも低い。
【0165】
一方、半回分式の反応装置では、試料の固体ポリマー(ポリエステル類)は反応器内に固定され、反応溶媒(アミン類を含有する希釈アミン水溶液)を連続的に反応器に供給するので、固体ポリマーと反応溶媒との接触は良好で、生成物は瞬時に反応域から取り除かれるため、正確な反応速度が得られる特長がある。以下に示す実施例9〜12では、アミンの反応溶媒としての有効性は反応器の異差によるものではないことを実証するために、PETについて、半回分式の反応装置を用いて、その有効性を示す。(実施例6は回分式反応器を用いたPETについての結果である。)。
【0166】
<実施例9〜12の半回分式の反応装置を用いた実験について>
以下の実施例9〜12で用いた半回分式の反応装置構成を図13に示す。半回分式の反応装置11は、実施例1〜8で使用した回分式反応器と同じ大きさで同じ形状の小型反応器(反応管;内容積3.5mL)12の両端に1/8インチステンレス管(配管)13を接続したものである。
【0167】
実施例9〜12の半回分式の反応装置を用いた実験では、室温の小型反応器12に所定量のペレット状のPET試料を仕込み、当該反応器12全体を蒸留水で満たす。反応器13出口はPET試料が流出しないように、2μmの孔径の焼結金属板(図示せず)で固定されている。予熱カラム14はあらかじめ設定温度に保たれている溶融塩浴15に浸されている。時間ゼロで反応器12を溶融塩浴15に浸し、それと同時にポンプ(例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)用送液ポンプ)16により溶媒槽17より反応溶媒を所定流量(主として流速3mL/min)で予熱カラム14を経由して配管13内を通じて反応器12に供給する。
【0168】
以下の実施例9〜12では連続的に反応溶媒を反応器12に供給しているが、これは反応速度を正確に測定するためであり、モノマー化反応を進行させるためには、反応器12への反応溶媒の供給は一定流速の必要はなく、断続的でも、途中遮断してもなんら差し支えなく、遮断すれば、回分式反応器と同条件となる。また、溶媒供給方法はポンプ16を用いた供給法だけでなく、還流のように、反応溶媒を蒸発・凝縮を繰り返し反応容器内外に亘って循環してもよく、反応器12への溶媒供給方法について、なんら制限を受けるものではない。
【0169】
また、供給量についても、生成モノマーは固体ポリマー(PET試料)の表面から取り除かれればよいので、反応器12内全体で均一に溶媒に溶解している必要はない。本方法は、アミンが反応中間体を経て、再び加水分解されてアミンに戻るので、ポリマー量に対し仕込みアミン量が少なければ、反応速度が低下するだけで、反応が停止することはない。よって、溶媒供給速度あるいは供給量、濃度についての制限はない。
【0170】
生成物であるモノマーを含む反応溶媒は反応器12出口から冷却管18(例えば、二重冷却管とし、内管18aとして配管13内に生成物であるモノマーを含む反応溶媒を通し、外管18bに水等の冷媒18'を通じる構造)を通過し、冷却により反応が停止され、背圧弁19から流出され、反応液槽20に配管13を通じて採取される。一定時間(主に2分間隔)で溶液(反応液)を反応液槽20に採取し、内容物を液体クロマトグラフィーを用いて分析した。また、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、生成物のオリゴマーの有無とその分子量を測定した。
【0171】
なお、溶融塩浴15内を所定の設定温度に保つためには、例えば、図13に示すように、撹拌翼21で溶融塩浴15内を均一に撹拌しながら、熱電対22で溶融塩浴15内の温度を測定する。制御部(図示せず)に入力される当該測定温度データと設定温度との温度差に基づく当該制御部での演算により出力される信号により、溶融塩浴15に設置された加熱部(例えば加熱ヒーター)への通電量(加熱量)を制御することにより、溶融塩浴15内の温度(=予熱カラム14での予熱温度)が所定の設定温度になるように調節し得る制御装置構成が設けられている。但し、溶融塩浴15内を所定の設定温度に保つための制御装置構成としては、上記したものに何ら制限されるものではなく、従来公知の温度制御装置を適宜利用することができる。
【0172】
<以下の実施例9〜12でのPET試料を用いた場合の収率の定義>
収率は炭素量基準とした。下記収率の定義中のTPA収率モル基準及びEG収率モル基準は、上記した実施例6及び比較例3のPETの試料の場合のTPA収率、EG収率を算出するのに用いた定義を適用するものとする。
【0173】
【数5】

【0174】
【数6】

【0175】
【数7】

【0176】
<実施例9:トリメチルアミン水溶液の場合のモノマー積算収率の経時変化>
上記した図13の半回分式の反応装置11を用い、反応温度(設定温度)200℃、トリメチルアミン水溶液中のトリメチルアミン濃度0.6M、反応器12に供給する反応溶媒の流速3mL/min、ポリエステル類として平均値で3.3mm×3.2mm×2.4mm(長径×短径×高さ)の軸直角断面が楕円形をした柱状の粒子のポリエチレンテレフタレート(PETとも称する。以下同様。)試料90mgを用いて、上記した実験を行い、採取した反応液から生成物の分析・測定を一定間隔で行った。得られた分析・測定結果から上記収率の定義に従って、反応温度(設定温度)200℃、トリメチルアミン濃度0.6Mの場合のモノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)の積算収率、更にこれらを合計したTPA+EGの積算収率の経時変化を求めた。結果を表10及び図14に示す。
【0177】
【表10】

【0178】
表10および図14に示すように、反応温度(設定温度)200℃で、反応溶媒であるトリメチルアミン水溶液(トリメチルアミン濃度0.6M)を供給してから約10分でモノマーが溶出し始め、約50分でそれぞれの収率は、TPAの積算収率=78%、EGの積算収率=18%、合計TPA+EGの積算収率=96%に達し、原料PETがほぼ100%近くモノマーに変換されたことがわかった。また、本実施例で用いた反応装置11内の流体の滞留時間は、トレーサー応答測定より、反応器12入口から背圧弁19出口まで30秒以下であった。
【0179】
<実施例10:半回分式反応器によるTPA+EG積算収率の経時変化に及ぼすアミンの種類の違いによる影響>
上記した図13の半回分式の反応装置11を用い、反応温度(設定温度)200℃、種々のアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン)水溶液のアミン濃度0.6M一定とし、反応器に供給する反応溶媒の流速3mL/min、ポリエステル類として平均値で3.3mm×3.2mm×2.4mm(長径×短径×高さ)の軸直角断面が楕円形をした柱状の粒子のPET試料90mgを用いて、上記した実験を上記した種々のアミン水溶液を用いてそれぞれ行い、採取した反応液から生成物の分析・測定を一定間隔で行った。得られた分析・測定結果から上記収率の定義に従って、反応温度(設定温度)200℃、種々のアミン水溶液のアミン濃度0.6Mの場合のモノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を合計したTPA+EGの積算収率の経時変化を求めた。結果を表11及び図15に示す。
【0180】
【表11】

【0181】
図15は、半回分式の反応装置によるTPA+EG積算収率の経時変化に及ぼすアミンの種類の影響を示すものである。図15より、いずれのアミンについてもほぼ溶媒供給後10分でモノマー溶出が始まり、およそ50分で反応が終了していることが確認できた。また、メチルアミンの場合がTPA+EG積算収率=80%で最も低収率で、ジメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミンの順で収率が増加し、トリメチルアミンが最もモノマー収率が高く、ほぼ100%のモノマー回収率であることが確認できた。
【0182】
<実施例11:トリメチルアミン0.6Mにおける反応温度の影響>
上記した図13の半回分式の反応装置11を用い、各反応温度(設定温度)(170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃)で、トリメチルアミン水溶液のトリメチルアミン濃度0.6Mとし、反応器に供給する反応溶媒の流速3mL/min、ポリエステル類として平均値で3.3mm×3.2mm×2.4mm(長径×短径×高さ)の軸直角断面が楕円形をした柱状の粒子のPET試料90mgを用いて、上記した実験を上記した各反応温度(設定温度)でそれぞれ行い、採取した反応液から生成物の分析・測定を一定間隔で行った。得られた分析・測定結果から上記収率の定義に従って、各反応温度(170〜240℃)での、(a)トリメチルアミン水溶液のトリメチルアミン濃度0.6Mの場合のモノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を合計したTPA+EGの積算収率の経時変化と、(b)上記数式(1)の(1−Y)1/3−1(ここで、Yは、上記数式(2)において、「BPA収率」に代えて「TPA+EGの積算収率」を代入することにより求めることができる。)の経時変化をそれぞれ求めた。結果を表12、表13及び図16A、図16Bに示す。
【0183】
【表12】

【0184】
【表13】

【0185】
図16は、トリメチルアミン濃度0.6Mにおいて、各温度における(A)TPA+EGの積算収率の経時変化と、(B)(1−Y)1/3−1の経時変化を示すものである。図16Bについては、上記数式(1)のとおり、直線関係が得られれば、反応速度が表面反応として記述できる。
【0186】
図16Aに示すとおり、温度の上昇に伴い反応速度が上昇していることが確認できた。190℃以下ではTPA+EGの積算収率=90%程度であるが、200℃以上では95〜97%に達している。溶出の始まり時間も温度の上昇に伴い短くなっている。図16Bに示すように、各プロットは反応率全域で直線関係を示し、表面反応として記述できることが確認できた。ここで、YはTPA+EG収率基準の反応率で(1−Y)1/3−1=−0.536でY=0.90である。
【0187】
<比較例4:濃度0.6Mのトリメチルアミン水溶液に代えて、濃度0.6Mのアンモニア水溶液を用いた際の反応速度定数のアーレニウスプロット>
濃度0.6Mのトリメチルアミン水溶液に代えて、濃度0.6Mのアンモニア水溶液を用いた以外は、実施例11と同様にして、実験を行い、採取した反応液から生成物の分析・測定を一定間隔で行った。得られた分析・測定結果から上記収率の定義に従って、各反応温度(170〜240℃)での、(a)アンモニア水溶液のアンモニア濃度0.6Mの場合のモノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を合計したTPA+EGの積算収率の経時変化と、(b)上記数式(1)の(1−Y)1/3−1(ここで、Yは、上記数式(2)において、「BPA収率」に代えて「TPA+EGの積算収率」を代入することにより求めることができる。)の経時変化をそれぞれ求めた。結果を表14、表15に示す。
【0188】
【表14】

【0189】
【表15】

【0190】
実施例11及び比較例4につき、それぞれで得られた分析・測定結果から、濃度0.6Mでのトリメチルアミン水溶液とアンモニア水溶液についての反応速度定数を求め表16に示すと共に、図17に反応速度定数のアーレニウスプロットを行った。
【0191】
【表16】

【0192】
図17は、濃度0.6Mでのトリメチルアミン水溶液とアンモニア水溶液についての反応速度定数のアーレニウスプロットを示すものである。図17より、トリメチルアミンとアンモニアとも反応温度210℃以下と220℃以上では温度依存性が異なり、220℃以上での速度定数について、アンモニアはトリメチルアミンの場合よりわずかに小さいが、210℃以下では2〜2.5倍トリメチルアミンの方が速度定数が大きい。なお、傾きはほぼ等しく、活性化エネルギーの値は両者とも50kJ/mol程度である。
【0193】
以上のことから、ポリエステル類としてPET(芳香族ポリエステル)を用いた場合でも、ポリカーボネートなど他のポリエステル類と同様に、アンモニア含有熱水を利用するケミカルリサイクル法よりも、本発明のアミン類を含有する希釈アミン水溶液を利用するケミカルリサイクル法の方が、より穏やかな条件、即ち2〜2.5倍トリメチルアミンの方が速度定数が大きい210℃以下のより穏やかな反応温度条件下で効率よく解重合反応を進めることができることが確認できた。
【0194】
上記したように、アンモニアの場合、より穏やかな反応温度条件下である170〜210℃(1000/T=2.257〜2.070)ではトリメチルアミンより反応速度が大幅に低く、より過酷な条件(高温)である220℃(1000/T=2.028)以上ではトリエチルアミンの場合の反応速度に近づく。よって、アンモニアの場合、トリメチルアミン程度の反応速度を得るには、より過酷な条件(高温の220℃以上)が必要である。
【0195】
また、アンモニアの場合、過酷な条件(高温)とならないように反応温度を上昇させる代わりに、アンモニア濃度を高めても反応速度を増加させることができるが、生成物のテレフタル酸とアンモニアとによる副生成物のアミドが生成しやすくなり、好ましくない。一方、トリメチルアミンの場合、本実施例からいずれもテレフタル酸の収率が理論収率に近いので、アミドの生成割合は非常に低いことから、アミドは生成されにくいといえる。
【0196】
<実施例12:TPA+EGの積算収率の経時変化に及ぼすトリメチルアミン濃度の影響>
上記した図13の半回分式の反応装置11を用い、反応温度(設定温度)200℃で、各濃度におけるトリメチルアミン水溶液(トリメチルアミン濃度0.3M、0.6M、0.9M、1.2M)とし、反応器に供給する反応溶媒の流速3mL/min、ポリエステル類として平均値で3.3mm×3.2mm×2.4mm(長径×短径×高さ)の軸直角断面が楕円形をした柱状の粒子のPET試料90mgを用いて、上記した実験を上記した各濃度のトリメチルアミン水溶液でそれぞれ行い、採取した反応液から生成物の分析・測定を一定間隔で行った。得られた分析・測定結果から上記収率の定義に従って、反応温度200℃での、各濃度でのトリメチルアミン水溶液(トリメチルアミン濃度0.3M〜1.2M)の場合のモノマーであるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を合計したTPA+EGの積算収率の経時変化を求めた。結果を表17及び図18に示す。
【0197】
【表17】

【0198】
図18は、トリメチルアミン濃度を変化させた場合の、TPA+EGの積算収率の経時変化を示すものである。図18より、いずれの濃度においても積算収率は90%以上に達し、低濃度ではトリメチルアミン濃度の増加とともに反応速度が増加している。しかし、濃度が高くなり、0.9Mと1.2Mではほとんど速度は同じとなる。溶出開始時間はこの濃度範囲ではほとんど濃度に影響されないことが確認できた。
【0199】
<考察>
上記した各実施例の実験結果を通じて以下のことが考察できる。
【0200】
(1)圧力について
実施例9〜12での反応圧力は10MPaであるが、170〜240℃でのアミン水溶液の飽和蒸気圧以上に圧力を保っておけばよい。反応溶媒は液相なので、圧力による密度変化は小さく、モノマー収率や反応速度に及ぼす反応圧力の影響は非常に小さいと考えられる。さらに、効率は低下するが、蒸気相でも反応は進行すると考えられる。ただし、生成物(モノマーなど)がポリマー表面に付着しているので、それを取り除く方法あるいは媒体があれば反応は進行する。以上の知見に基づき、反応溶媒は、液相の方が好ましいと考えられる。
【0201】
(2)PCとPETの違い
本発明のケミカルリサイクル法では、PCとPETの解重合反応についてのアミンの作用は同じであるが、生成モノマーの違いにより、その効果が異なる。PCのモノマーはビスフェノールAとCO2で、回分反応器ならば反応の進行とともに溶液中にCO2が蓄積され、溶液のpH低下をもたらし、反応速度の低下を招く。PETではモノマーのテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のうち、TPAは酸なので、CO2よりも更に溶液のpHが低下し、反応速度が低下する。よって、溶液中にpHが低下しないように初め、あるいは途中からアルカリを添加すれば、実施例7で、PCについてアルカリ添加効果が確認できていることからも、反応速度が低下しないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、相互に独立して、水素原子;または置換された若しくは非置換の炭化水素基を表す。但し、R1、R2、R3の少なくとも1つは置換された若しくは非置換の炭化水素基である。)で示されるアミン類を含有する希釈アミン水溶液を用いて、ポリエステル類の解重合を行う工程を有することを特徴とするケミカルリサイクル法。
【請求項2】
前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.003〜26Mの範囲である請求項1に記載のケミカルリサイクル法。
【請求項3】
前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.03〜16Mの範囲である請求項1または2に記載のケミカルリサイクル法。
【請求項4】
前記アミン類の濃度が、希釈アミン水溶液全体に対して0.06〜3.5Mの範囲である請求項1〜3のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項5】
前記ポリエステル類の含有量が、希釈アミン水溶液とポリエステルの総量に対して、0.1〜50wt%の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項6】
前記解重合の反応温度が、ポリエステル類の融点以下である請求項1〜5のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項7】
前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基である請求項1〜6のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項8】
前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数6〜10のアリール基である請求項1〜7のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項9】
前記非置換の炭化水素基が、炭素数1〜5の直鎖状の低級アルキル基である請求項1〜8のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項10】
前記置換された炭化水素基の置換基が、水酸基、チオール基、ハロゲン原子である請求項1〜9のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項11】
前記アミン類が、一般式(1)中のR1が非置換の炭素数1〜5の直鎖状の低級アルキル基であり、R2、R3が共に水素原子である第1級アミン類である請求項1〜10のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項12】
前記ポリエステル類が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸である請求項1〜11のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。
【請求項13】
前記ポリエステル類が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートである請求項1〜12のいずれかに記載のケミカルリサイクル法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−72400(P2012−72400A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193313(P2011−193313)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 化学工学会第42回秋季大会研究発表講演要旨集のCD−ROM
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】