説明

帯域可変フィルタ

【課題】簡易な構成で信号の遮断帯域を変化可能な帯域可変フィルタを得る。
【解決手段】並行して配置された第1伝送線路1aおよび第2伝送線路1bからなる結合回路2を備え、結合回路2の入力端子P1に入力された信号が結合回路2の通過端子P2から出力される帯域可変フィルタであって、一端が接地され、他端が結合回路2の結合端子P3に接続された可変容量素子3をさらに備え、結合回路2のアイソレーション端子P4が接地されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば通信装置やレーダ装置に使用され、信号の遮断帯域を変化させることができる帯域可変フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の帯域遮断フィルタは、並行して配置され、互いに電磁結合する第1伝送線路および第2伝送線路からなる結合回路により構成されている。第1伝送線路の入力端子(結合回路の入力端子)から入力された信号は、出力端子(結合回路の通過端子)から出力される。第2伝送線路の一端(結合回路の結合端子)は接地されており、他端側(結合回路のアイソレーション端子側)は開放されている。
【0003】
このような帯域遮断フィルタにおいて、第2伝送線路の電気長を、所望の遮断帯域の信号についてπ/2の奇数倍とすることにより、第1伝送線路と第2伝送線路とが共振し、結合回路の入力端子と通過端子との間を伝送する所望の遮断帯域の信号が遮断される(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Noyan Kinayman, M.I.Aksun, “Modern Microwave Circuits” Artech House Publishers, February 28, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来の帯域可変フィルタは、第2伝送線路の電気長が固定長なので、遮断帯域を変化させることができず、所望の遮断帯域が変化した場合に、信号を遮断することができなくなるという問題がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成で信号の遮断帯域を変化させることができる帯域可変フィルタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る帯域可変フィルタは、並行して配置された第1伝送線路および第2伝送線路からなる結合回路を備え、結合回路の入力端子に入力された信号が結合回路の通過端子から出力される帯域可変フィルタであって、一端が接地され、他端が結合回路の結合端子に接続された第1可変容量素子をさらに備え、結合回路のアイソレーション端子が接地されたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る帯域可変フィルタによれば、結合回路の結合端子には、第1可変容量素子の一端が接続され、第1可変容量素子の他端が接地されているとともに、結合回路のアイソレーション端子が接地されている。
そのため、簡易な構成で信号の遮断帯域を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図2】図1に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図5】図4に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態4に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図7】図6に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態5に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図9】この発明の実施の形態6に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
【図10】図9に示した帯域可変フィルタの通過特性を、帯域通過フィルタのみの通過特性とともに示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の帯域可変フィルタの好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図1において、この帯域可変フィルタは、並行して配置され、互いに電磁結合する第1伝送線路1aおよび第2伝送線路1bからなる結合回路2を備えている。結合回路2の端部には、それぞれ入力端子P1、通過端子P2、結合端子P3およびアイソレーション端子P4が設けられている。
【0012】
ここで、結合回路2は、任意の中心周波数の信号(高周波信号)に対して、電気長がπ/2(λ/4)の奇数倍となるように構成されている。また、結合端子P3には、可変容量素子3(第1可変容量素子)の一端が接続され、可変容量素子3の他端は、グランド4aに接地されている。また、アイソレーション端子P4は、グランド4bに接地されている。
【0013】
続いて、上記構成の帯域可変フィルタの動作について説明する。
この帯域可変フィルタにおいて、入力端子P1に入力された信号は、通過端子P2から出力される。このとき、第2伝送線路1bの電気長が、所望の遮断帯域の信号についてπ/2の奇数倍となれば、第1伝送線路1aと第2伝送線路1bとが共振し、入力端子P1と通過端子P2との間を伝送する所望の遮断帯域の信号が遮断される。
【0014】
ここで、可変容量素子3の容量値を変化させることにより、第2伝送線路1bの見かけ上の電気長が変化するので、共振周波数が変化する結果、信号の遮断帯域を変化させることができる。具体的には、可変容量素子3の容量値を小さくすることにより、遮断帯域を高周波側にシフトすることができ、可変容量素子3の容量値を大きくすることにより、遮断帯域を低周波側にシフトすることができる。
【0015】
図2は、図1に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
図2より、可変容量素子3の容量値を変化させることによって、信号の遮断帯域を変化させることができることが分かる。
【0016】
以上のように、実施の形態1によれば、結合回路の結合端子には、第1可変容量素子の一端が接続され、第1可変容量素子の他端が接地されているとともに、結合回路のアイソレーション端子が接地されている。
そのため、簡易な構成で信号の遮断帯域を変化させることができる。
【0017】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図3において、アイソレーション端子P4には、先端開放スタブ5が接続されている。その他の構成は、上述した図1と同様なので、説明を省略する。
【0018】
この帯域可変フィルタにおいて、所望の遮断帯域における先端開放スタブ5の電気長をπ/2とすると、アイソレーション端子P4は等価的に短絡される。そのため、所望の遮断帯域において、上記実施の形態1と同様に、アイソレーション端子P4が接地されているとみなすことができ、この実施の形態2の帯域可変フィルタは、上記実施の形態1の帯域可変フィルタと同等の動作をする。
【0019】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図4において、結合端子P3は、開放されている。また、アイソレーション端子P4には、第3伝送線路6の一端が接続され、第3伝送線路6の他端には、可変容量素子3の一端が接続され、可変容量素子3の他端は、グランド4bに接地されている。その他の構成は、上述した図1と同様なので、説明を省略する。
【0020】
続いて、上記構成の帯域可変フィルタの動作について説明する。
この帯域可変フィルタにおいて、所望の遮断帯域における第3伝送線路6の電気長をπ/2とすると、可変容量素子3の容量値を変化させることにより、第3伝送線路6(アイソレーション端子P4からグランド4bまで)の見かけ上の電気長が変化する。そのため、共振周波数が変化する結果、信号の遮断帯域を変化させることができる。
【0021】
図5は、図4に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
図5より、可変容量素子3の容量値を変化させることによって、信号の遮断帯域を変化させることができることが分かる。
【0022】
なお、この実施の形態3において、図1に示した結合端子P3と可変容量素子3との間に第3伝送線路を接続し、アイソレーション端子P4を開放してもよい。
この場合も、上記実施の形態3と同様の効果を得ることができる。
【0023】
実施の形態4.
図6は、この発明の実施の形態4に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図6において、結合端子P3には、可変容量素子3a(第1可変容量素子)の一端が接続され、可変容量素子3aの他端は、グランド4aに接地されている。
【0024】
また、アイソレーション端子P4には、第3伝送線路6の一端が接続され、第3伝送線路6の他端には、可変容量素子3b(第2可変容量素子)の一端が接続され、可変容量素子3bの他端は、グランド4bに接地されている。その他の構成は、上述した図1と同様なので、説明を省略する。
【0025】
続いて、上記構成の帯域可変フィルタの動作について説明する。
この帯域可変フィルタにおいて、所望の遮断帯域における第3伝送線路6の電気長をπ/2とすると、可変容量素子3bの容量値を変化させることにより、第3伝送線路6(アイソレーション端子P4からグランド4bまで)の見かけ上の電気長が変化する。そのため、共振周波数が変化する結果、信号の遮断帯域を変化させることができる。
【0026】
さらに、上記実施の形態1で説明したように、可変容量素子3aの容量値を変化させることにより、第2伝送線路1bの見かけ上の電気長が変化するので、共振周波数が変化する結果、信号の遮断帯域を変化させることができる。
ここで、可変容量素子3aの容量値の変化と可変容量素子3bの容量値の変化とを組み合わせることにより、遮断帯域の変化幅を拡大することができる。
【0027】
図7は、図6に示した帯域可変フィルタの通過特性の計算例を示す説明図である。
図6より、可変容量素子3aの容量値の変化と可変容量素子3bの容量値の変化とを組み合わせることによって、遮断帯域の変化幅を拡大することができることが分かる。
なお、図7の計算例では、可変容量素子3aと可変容量素子3bとが互いに同じ容量値である場合の例を示したが、異なる容量値であっても同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、この実施の形態4において、アイソレーション端子P4と可変容量素子3bとの間に第3伝送線路を接続することに代えて、結合端子P3と可変容量素子3aとの間に第3伝送線路を接続してもよい。
この場合も、上記実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
【0029】
実施の形態5.
図8は、この発明の実施の形態5に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図8において、結合端子P3には、バラクタダイオード7(第1可変容量素子)の一端が接続され、バラクタダイオード7の他端には、DCカットコンデンサ8の一端が接続され、DCカットコンデンサ8の他端は、グランド4aに接地されている。また、バラクタダイオード7とDCカットコンデンサ8との接続点には、抵抗9を介して制御端子P5が設けられている。その他の構成は、上述した図1と同様なので、説明を省略する。
【0030】
すなわち、この実施の形態5の帯域可変フィルタは、上記実施の形態1の帯域可変フィルタにおいて、可変容量素子3をバラクタダイオード7とするとともに、所望の遮断帯域に応じてバラクタダイオード7の容量値を制御するための、制御端子P5、DCカットコンデンサ8および抵抗9からなるバイアス回路を付加したものである。
【0031】
この帯域可変フィルタにおいて、バラクタダイオード7は、制御端子P5に印加される制御電圧に応じて、容量値が変化される。このとき、入力端子P1に入力された信号に対して、DCカットコンデンサ8は短絡、抵抗9は開放となるように素子値が設定される。これにより、この実施の形態5の帯域可変フィルタは、上記実施の形態1の帯域可変フィルタと同等の動作をする。
【0032】
なお、この実施の形態5では、可変容量素子としてバラクタダイオード7を用いた場合の例を示したが、これに限定されず、電界効果トランジスタやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子を用いた場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、上記実施の形態4の帯域可変フィルタにおいて、可変容量素子3aおよび可変容量素子3bをそれぞれバラクタダイオードとするとともに、各バラクタダイオードを制御するためのバイアス回路をそれぞれ付加してもよい。
この場合も、上記実施の形態5と同様の効果を得ることができる。
【0034】
実施の形態6.
図9は、この発明の実施の形態6に係る帯域可変フィルタを示す回路図である。
図9において、この帯域可変フィルタは、互いに反転して配置された上記実施の形態1に係る2つの帯域可変フィルタの通過端子P2間に、帯域通過フィルタ10が接続された構成を有している。
【0035】
すなわち、この実施の形態6の帯域可変フィルタは、上記実施の形態1に係る2つの帯域可変フィルタと、帯域通過フィルタ10とを縦続接続したものであり、全体として、所望の通過帯域の信号を通過させる帯域通過フィルタとして機能する。なお、帯域通過フィルタ10は、通過帯域が固定のものであってもよいし、通過帯域を変化させることができる帯域可変通過フィルタであってもよい。
【0036】
所望の通過帯域の信号を通過させる帯域可変フィルタとしては、例えば特開2005−94453号公報(以下、「従来文献1」と称する)に開示された帯域可変フィルタが知られている。従来文献1に開示された帯域可変フィルタは、互いに電磁結合する2本の伝送線路からなる結合回路と、結合回路の通過端子およびアイソレーション端子にそれぞれ一端が接続され、他端が接地された2つの可変容量素子とを備えている。
【0037】
この帯域可変フィルタは、可変容量素子に印加するバイアス電圧を制御して容量を変化させることにより、結合回路の入力端子と結合端子との間を通過する信号の通過帯域を変化させている。
しかしながら、従来文献1に開示された帯域可変フィルタでは、一般的に、通過帯域近傍の周波数における減衰量が十分でなく、不要な信号が通過されるという問題がある。
【0038】
これに対して、この実施の形態6の帯域可変フィルタは、上記実施の形態1に係る2つの帯域可変フィルタにおける所望の遮断帯域を、それぞれ帯域通過フィルタ10における所望の通過帯域の低周波側および高周波側の近傍に設定することにより、通過帯域近傍の周波数において、信号を十分に減衰させることができる。
【0039】
図10は、図9に示した帯域可変フィルタの通過特性(実線)を、帯域通過フィルタ10のみの通過特性(破線)とともに示す説明図である。
図10より、この発明の実施の形態6に係る帯域可変フィルタによれば、帯域通過フィルタ10のみでは十分な減衰量が得られない通過帯域近傍の周波数においても、十分な減衰量を得ることができる。
【0040】
また、帯域通過フィルタ10の両側に接続された各帯域可変フィルタの可変容量素子3の容量値を調整することにより、各帯域可変フィルタの入力端子P1と帯域通過フィルタ10との結合度を調整することができる。その結果、帯域可変フィルタの通過帯域幅を調整することもできる。
【0041】
なお、この実施の形態6では、帯域可変フィルタの遮断帯域を、それぞれ帯域通過フィルタ10における所望の通過帯域の低周波側および高周波側の両方に設定した場合の例を示した。しかしながら、これに限定されず、帯域通過フィルタ10に接続される帯域可変フィルタを1つのみとし、帯域可変フィルタの遮断帯域を、帯域通過フィルタ10における所望の通過帯域の低周波側および高周波側の何れか一方のみに設定してもよい。
この場合も、従来文献1に開示された帯域可変フィルタと比較して、通過帯域近傍の周波数における信号を十分に減衰させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1a 第1伝送線路、1b 第2伝送線路、2 結合回路、3、3a 可変容量素子(第1可変容量素子)、3b 可変容量素子(第2可変容量素子)、4a、4b グランド、5 先端開放スタブ、6 第3伝送線路、7 バラクタダイオード(第1可変容量素子)、8 カットコンデンサ、9 抵抗、10 帯域通過フィルタ、P1 入力端子、P2 通過端子、P3 結合端子、P4 アイソレーション端子、P5 制御端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行して配置された第1伝送線路および第2伝送線路からなる結合回路を備え、前記結合回路の入力端子に入力された信号が前記結合回路の通過端子から出力される帯域可変フィルタであって、
一端が接地され、他端が前記結合回路の結合端子に接続された第1可変容量素子をさらに備え、
前記結合回路のアイソレーション端子が接地された
ことを特徴とする帯域可変フィルタ。
【請求項2】
前記アイソレーション端子を接地することに代えて、前記アイソレーション端子に先端開放スタブを接続したことを特徴とする請求項1に記載の帯域可変フィルタ。
【請求項3】
前記結合端子と前記第1可変容量素子との間に接続された第3伝送線路をさらに備え、
前記アイソレーション端子を接地することに代えて、前記アイソレーション端子を開放した
ことを特徴とする請求項1に記載の帯域可変フィルタ。
【請求項4】
前記結合端子と前記第1可変容量素子との間に接続された第3伝送線路をさらに備え、
前記アイソレーション端子が、第2可変容量素子を介して接地された
ことを特徴とする請求項1に記載の帯域可変フィルタ。
【請求項5】
前記第1可変容量素子は、バラクタダイオードであり、
所望の遮断帯域に応じて前記バラクタダイオードの容量値を制御する制御手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の帯域可変フィルタ。
【請求項6】
前記第1可変容量素子は、半導体素子であることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の帯域可変フィルタ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか1項に記載された少なくとも1つの帯域可変フィルタと、帯域通過フィルタとを組み合わせたことを特徴とする帯域可変フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−244187(P2011−244187A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114220(P2010−114220)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】