説明

帯電装置、画像形成装置用カートリッジ、及び画像形成装置

【課題】放電時に感光体に与える負荷を低減することができる帯電装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】帯電装置52は、対向する像保持体44に遠い側から導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76及び、導電層78が順に配置された構成となっている。導電層78には開口部80が設けられており、絶縁層76には開口部80の周囲を囲む領域制限部82が設けられている。すなわち、領域制限部82は、像保持体44方向が開放されるように構成されている。領域制限部82で放電により生成された荷電粒子の一部は、導電層78(第二電極)と像保持体44間の電位差により、導電層78(第二電極)を通過して像保持体44方向に移動することで、像保持体44を帯電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電装置、画像形成装置用カートリッジ、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯電装置の1つとして、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電方式が広く用いられている。この方式は、被帯電体に対して非接触で帯電を行うものである。また、画像形成装置の像保持体の帯電方式として、半導電性の帯電ロールを像担持体に接触回転させるときに両者間に生じる微小空隙で放電を発生させ帯電処理を行う帯電ロール方式が広く用いられている。さらに、特許文献1は、絶縁性基体上に、給電電極とその表面の半導電性部材とからなる電荷付与部材が形成され、この電荷付与部材と重ならない位置に絶縁性のスペーサーを介して電界制御部材が積層された帯電装置、現像装置および画像形成装置を開示する。
【0003】
特許文献2は、内部に空隙を持つ誘電体を2つの電極で挟み、この2つの電極の間に交流電圧を印加して空隙に放電を生じさせる帯電方法及び帯電装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−187371号公報
【特許文献2】特開2001−75336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電体を電極とする必要のない、帯電装置、画像形成装置用カートリッジ、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた絶縁体と、を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極のいずれか一方は、前記第1電極、前記絶縁体、および前記第2電極が並ぶ第1の方向に対して開口する開口部を有し、前記絶縁体は、前記開口部と連続し、当該開口部と連続する方向には開放され、前記第1の方向と垂直な第2の方向には制限された空間である領域制限部、を有する帯電装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、前記第1の電極及び前記第2の電極と接している請求項1記載の帯電装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記第1の電極及び前記第2の電極のうち少なくともいずれかの体積抵抗率は、1×10Ωcm以上1×1010Ωcm以下である請求項1又は2記載の帯電装置である。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記領域制限部の長さは、4μm以上200μm以下である請求項1乃至3いずれか記載の帯電装置である。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記第2の方向における、前記領域制限部の長さは、4μm以上200μm以下である請求項1乃至4いずれか記載の帯電装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、円筒形状である請求項1乃至5いずれか記載の帯電装置である。
【0012】
請求項7に係る発明は、前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、前記絶縁体に複数設けられている請求項1乃至6いずれか記載の帯電装置である。
【0013】
請求項8に係る発明は、像保持体と、前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項1乃至7いずれか1項に記載の帯電装置と、前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、を有する、画像形成装置用カートリッジである。
【0014】
請求項9に係る発明は、像保持体と、前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項1乃至7いずれか1項に記載の帯電装置と、前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、前記現像装置により現像された像を記録媒体に転写する転写手段と、前記転写手段により前記記録媒体上に転写された像を当該記録媒体に定着させる定着手段と、を有する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しない場合と比較して、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電体を電極とする必要のない帯電装置を提供することができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る本発明の効果に加えて、本構成を有しない場合と比較して、直流電圧のみを印加した場合であっても一定の放電電流を持続することができる帯電装置を提供することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、請求項2に係る本発明の効果に加えて、前記第1の電極及び前記第2の電極のうち少なくともいずれかの体積抵抗率が1×10Ωcm以上1×1010Ωcm以下の範囲にない場合に比較して、領域制限部においてより均一なグロー放電を得ることができる帯電装置を提供することができる
【0018】
請求項4に係る発明によれば、請求項3に係る本発明の効果に加えて、前記領域制限部の第1の方向に対する長さが4μm以上200μm以下でない場合と比較して、大気中においてグロー放電を持続し易い帯電装置を提供することができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、請求項4に係る本発明の効果に加えて、前記領域制限部の第2の方向に対する長さが4μm以上200μm以下の範囲でない場合と比較して、1つの領域制限部あたりに得られる荷電粒子を確保しつつ、領域制限部内の第1の方向の電界分布を、第2の方向においてより均一に保つことができる帯電装置を提供することができる。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、請求項5に係る本発明の効果に加えて、本構成を有しない場合と比較して、領域制限部内の電界分布をより均一にするすることができる帯電装置を提供することができる。
【0021】
請求項7に係る発明によれば、請求項6に係る本発明の効果に加えて、本構成を有しない場合と比較して、所定の面積を有する被帯電体をより均一に帯電することができる帯電装置を提供することができる。
【0022】
請求項8に係る発明によれば、請求項1乃至7に係る帯電装置を使用しない場合に比較して、オゾン発生量を抑制しつつ、像保持体を電極とする必要のない画像形成用カートリッジを提供することができる。
【0023】
請求項9に係る発明によれば、請求項1乃至7に係る帯電装置を使用しない場合に比較して、オゾン発生量を抑制しつつ、像保持体を電極とする必要のない画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態が適用される画像形成装置を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態が適用される帯電装置及びその周辺構造を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態が適用される帯電装置の下面を示す図である。
【図4】実施例による抵抗層の体積低効率の測定結果を示す。
【図5】実施例による帯電電位の測定結果を示す。
【図6】実施例による放電電流の測定結果を示す。
【図7】実施例によるオゾン量の相対比較結果を示す。
【図8】実施例による表面電位の測定結果を示す。
【図9】像保持体位置に流れる電流の計測結果を示す。
【図10】実施例による帯電ストレステストの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態としての画像形成装置10の全体構成を示す。画像形成装置10は画像形成装置本体12を有し、この画像形成装置本体12内部に像形成手段14が搭載され、この画像形成装置本体12の上部に排出部16が設けられている。
【0026】
この画像形成装置本体12の下部に、例えば二段の給紙装置20、20が配置されている。画像形成装置本体12の下方には、さらに複数の給紙装置を追加して配置できるように構成されている。
【0027】
それぞれの給紙装置20は、給紙装置本体22と、記録媒体が収納される給紙カセット24とを有する。給紙カセット24の奥端近傍上部にはピックアップロ−ル26が設けられ、このピックアップロ−ル26の後方にリタ−ドロ−ル28が配置されていると共に、このリタ−ドロ−ル28に対向する位置にフィ−ドロ−ル30が配置されている。
【0028】
搬送路32は、フィ−ドロ−ル30から排出口34までの記録媒体通路であり、この搬送路32は、画像形成装置本体12の裏側(図1の左側面)近傍にあって、最下端の給紙装置20から定着器36まで略鉛直に形成されている部分を有する。この定着器36には加熱ロ−ル38と加圧ロ−ル40が設けられている。搬送路32の定着器36の上流側に、転写ロ−ル42と感光体としての像保持体44が配置され、転写ロ−ル42と像保持体44の上流側にレジストロ−ル46が配置されている。さらに、搬送路32の排出口34の近傍には排出ロ−ル48が配置されている。
【0029】
したがって、給紙装置20の給紙カセット24からピックアップロ−ル26により送り出された記録媒体は、リタ−ドロ−ル28及びフィ−ドロ−ル30の協働により捌かれて最上位にある記録媒体が搬送路32に搬送され、レジストロ−ル46により一時停止されタイミングを合わせ、転写ロ−ル42と像保持体44との間を通って現像剤像が転写される。この転写された現像剤像が定着器36により記録媒体に定着され、排出ロ−ル48により排出口34から排出部16へ排出される。
【0030】
像形成手段14は、例えば電子写真方式のもので、像保持体44と、この像保持体44を一様帯電する帯電装置52と、帯電装置52により帯電された像保持体44に光により潜像を書き込む光書込み装置54と、この光書込み装置54により形成された像保持体44の潜像を現像剤により可視化する現像装置56と、この現像装置56による現像剤像を記録媒体に転写する転写ロ−ル42と、像保持体44に残存する現像剤をクリ−ニングする例えばブレ−ドからなるクリ−ニング装置58と、転写ロ−ル42により転写された記録媒体上の現像剤像を記録媒体に定着させる定着器36とから構成されている。
【0031】
プロセスカ−トリッジ60は、像保持体44、帯電装置52、現像装置56及びクリ−ニング装置58を一体化したものであり、これらを一体として交換できるようになっている。このプロセスカ−トリッジ60は、排出部16を開くことにより、画像形成装置本体12から取り出すことができる。
【0032】
次に、帯電装置52について、詳細に説明する。
図2は、帯電装置52及びその周辺構造の断面図を示し、図3は、帯電装置52の下面(像保持体44側の面)を示す。帯電装置52は、対向する像保持体44に遠い側から導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76及び導電層78が順に配置された構成となっている。
導電層78には開口部80が設けられており、絶縁層76には開口部80と連続する空間である領域制限部82が設けられている。領域制限部82は、像保持体44方向が開放した、例えば円筒形状に構成されている。
また、抵抗層74を高抵抗層84及び抵抗調整層86による2層構造として構成するようにしてもよい。
【0033】
導電性基材72及び導電層78には、電源90がそれぞれ接続されている。導電性基材72と導電層78との間に一定以上の直流電圧を印加すると、抵抗層74を第一電極、導電層78を第二電極として、抵抗層74、絶縁層76及び導電層78で囲まれ、空間的に制限された領域制限部82において放電が発生する。
【0034】
本実施形態の帯電装置52(詳細なパラメータ等は後述する)の領域制限部82で発生する放電は、グロー放電と呼ばれる放電である。
グロー放電は大気圧の100分の1程度の低気圧中で発生する持続的で均一な放電現象である。
【0035】
領域制限部82は、像保持体44方向に開放されているので、放電により生成された荷電粒子の一部は、導電層78(第二電極)と像保持体44間の電位差により、導電層78(第二電極)を通過して像保持体44方向に移動、つまり荷電粒子が電界ドリフトすることで、像保持体44を帯電させる構成となっている。
導電層78(第二電極)はその印加電圧により、荷電粒子が像保持体44へ移動するための電界強度を調整し、帯電電位を調整する機能を同時に担う。
【0036】
導電性基材72としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、銅合金やこれらの合金やクロムやニッケルなどの表面処理を施した鉄などの金属が用いられる。
【0037】
抵抗層74を形成する材料としては、体積抵抗率が1×10Ωcm以上1×1010Ωcm以下の範囲にあるものが用いられる。
抵抗層74の体積抵抗率が1×1010Ωcmより大きいと、電極間での放電が不十分になりやすく、放電空間である領域制限部82で散発的な放電が発生し安定したグロー放電に至らない場合がある。
抵抗層74の体積抵抗率が1×10Ωcmより小さいと、抵抗により放電電流を制限する機能(以下、放電電流の制限効果という。)が十分に得られずに、領域制限部82に対向する抵抗層74面内で局所的に放電が集中し、放電電流が不安定になったり過大になったりして材料の急速な劣化や抵抗層74の短絡を引き起こす場合がある。
【0038】
抵抗層74の体積抵抗率が1×107Ωcm以上1×109Ωcm以下の範囲にある場合は、体積抵抗率が1×107Ωcm以上1×109Ωcm以下の範囲外にある場合と比較して、領域制限部82でより安定したグロー放電が持続する。
【0039】
また、抵抗層74は、膜厚10μm以上の範囲で形成される。
抵抗層74の抵抗により放電電流の制限効果を得るという観点のみからは、膜厚を薄くして抵抗率が高い材料を選定することで(体積低効率×抵抗層厚/単位面積)により算出される抵抗層74の抵抗値を調整してもよいが、膜厚が10μmより小さいと、電圧印加に対する耐圧が低くなり、放電時に抵抗層74が短絡する頻度が多くなる。膜厚が100μm以上の範囲で形成される場合、絶縁耐圧が十分に得られ、高電圧印加に対する経時安定性が確保される。
【0040】
さらに抵抗層74は、前述の体積抵抗率の最適範囲1×107Ωcm以上1×109Ωcm以下と、膜厚の最適範囲100μm以上とを満たしつつ、膜厚方向の抵抗値(体積抵抗率×抵抗層厚/面積により求められる値であり、面積は直径100μmの円の面積とする)が1×10Ω以上1×1011Ω以下の範囲になるように調整すると、抵抗成分による放電電流の制限効果と膜厚が確保されたことによる経時安定性が両立される。
【0041】
さらに抵抗層74を2層構造として、放電制限効果を調整するようにしてもよい。例えば、上層(高抵抗層84)を体積抵抗率1×109Ωcm、膜厚30μmとして十分な放電電流の制限効果を得て、下層(抵抗調整層86)を体積抵抗率1×107Ωcm、膜厚100μmとする。このようにして、上層(高抵抗層84)で抵抗による放電制限効果を確保し、かつ導電性基材72からの厚みを十分に持たせることで耐圧性を向上させ、放電電流の制限効果と経時安定性が両立される。
【0042】
抵抗層74としては、樹脂材料やゴム材料に、導電粒子あるいは半導電性粒子を分散したものが用いられる。例えば、樹脂材料としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、エチレン樹脂と、これらの合成樹脂などが使われる。ゴム材料としては、エチレン−プロピレンゴム、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソブチレン、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、フロロシリコ−ンゴム、エチレンオキシドゴム、あるいは、これらを発砲させた発泡材や、これらを混合させた混合基材が用いられる。
【0043】
導電粒子あるいは半導電性粒子としては、カ−ボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、ZnO−Al、SnO−Sb、In−SnO、ZnO−TiO、MgO−Al、FeO−TiO、TiO、SnO、Sb、In、ZnO、MgO等の金属酸化物や、第4級アンモニウム塩等のイオン性化合物等、これらの材料を単独あるいは2種以上混合したものが用いられる。
【0044】
その他、抵抗層74としては、樹脂やゴムなどの有機材料に限らず、ガラス中に導電粒子を分散させた半導電性ガラスや、アルミ多孔質陽極酸化膜で構成してもよい。
【0045】
放電空間を制限する領域制限部82の構成は、絶縁層76及び導電層78(第二電極)を貫く穴径と、絶縁層76の膜厚により決定される。
放電を像保持体44と平行方向に二次元的に制限する領域制限部82は、穴径4μm以上200μm以下の範囲内で形成される。ここで穴径は、導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76及び導電層78が並ぶ方向に対して垂直な方向の領域制限部82の長さである。
【0046】
穴径が200μmより大きいと、導電層78(第二電極)の開口部80の縁(へり)やその周辺部の電界強度が穴の中心部の電界強度よりも数倍以上大きくなることが、一般的な静電場解析計算により求められる。領域制限部82内の電界分布が不均一になり穴の周辺部に放電が集中する結果、放電が不安定になりオゾン発生量が増加したり、抵抗層74が短絡したりする場合がある。
穴径が200μm以下だと、等電位面がほぼ絶縁体に平行と近似できる程度で形成され、領域制限部82内の電界分布が均一になり、領域制限部82全域にわたって安定してグロー放電が発生しやくすくなる。
【0047】
穴径が4μmより小さいと、1つの領域制限部82あたりの放電発生量が小さくなる。このため、より効率的に像保持体44を目標の電位に帯電するには、穴径を4μm以上とするのがよい。
【0048】
領域制限部82の穴径が50μm以上150μm以下の範囲にある場合は、穴径が50μm以上150μm以下の範囲外である場合と比較して、領域制限部82全域にわたって効率よく均一な放電が発生する。
【0049】
絶縁層76を形成する材料としては有機材料・無機材料に限らず、体積抵抗率が1×1012Ωcm以上の固体材料である場合、抵抗率が1×1012Ωcmより小さい場合と比較して、高電圧印加時の両電極間(抵抗層74−導電層78)の絶縁性に優れ、領域制限部82の形状を経時により変形させることなく安定に保持する。
【0050】
絶縁層76は、膜厚4μm以上200μm以下の範囲内で形成される。本実施形態においては、領域制限部82が絶縁層76を貫通するように設けられているので、絶縁層76の膜厚は、2つの電極間(抵抗層74−導電層78)の距離、つまり放電距離を制限する。すなわち、絶縁層76の膜厚は、導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76及び導電層78が並ぶ方向の領域制限部82の長さである。
【0051】
絶縁層76の膜厚を200μm以下として放電距離を短くすると、放電の局所的な集中と急激な放電電流の増加が抑制され、グロー放電を持続しやすくなる。
絶縁層76の膜厚を4μm以上として、空気中の電子の平均自由工程(0.1μm程度)よりも十分大きな放電距離にすると、領域制限部82内での電離回数が確保され放電が持続しやすくなる。
【0052】
また、空気中・大気圧下における平行平板間の放電開始電圧を定義するパッシェンの法則によれば、空隙が4μm程度のときに放電開始電圧が最小値となり、空隙がそれより狭くなると放電開始電圧が上昇する。このことから、絶縁層76の膜厚が4μmより小さくなると放電が発生しにくくなることが示唆される。
【0053】
絶縁層76の膜厚が50μm以上150μm以下の範囲にある場合は、膜厚が50μm以上150μm以下の範囲外にある場合と比較して、高電圧印加に対する電極間の絶縁性や均一な放電がより安定に維持される。
【0054】
導電層78(第二電極)を形成する材料としては、体積抵抗率が1×10−1Ωcm以下のものが用いられる。
【0055】
また、導電層78(第二電極)は、膜厚1μm以上50μm以下の範囲内で形成される。
膜厚が50μmより大きいと、開口部80から像保持体44への荷電粒子の取り出し効率が十分に上がらない。
膜厚が1μmより小さいと、電極が放電時の通電により破断しやすい。
【0056】
導電層78(第二電極)の材料としては、放電ガスで汚れにくい金属が用いられる。例えば、タングステン、モリブデン、カ−ボン、白金、銅、アルミニウムなどの金属材料や、これらの金属に金メッキなどの表面処理を施した材料が用いられる。
【0057】
2つの電極(抵抗層74(第一電極)及び導電層78(第二電極))に印加する電圧は、基本的には直流電圧である。像保持体44に近い側の導電層78(第二電極)は像保持体44の目標帯電電位と同じ程度とする。また、抵抗層74(第一電極)への印加電圧は、導電層78(第二電極)の電圧を基準にして、両電極で放電が発生する1.0〜1.5kV程度増加させた電圧を印加する。
【0058】
帯電装置52は、電界による荷電粒子の移動(ドリフト)により像保持体44を帯電させるため、像保持体44と近い側に配置されている導電層78(第二電極)と像保持体44間で放電が発生しない距離が維持される位置に配置される。
導電層78(第二電極)と像保持体44は、相互の距離が300μm以上2mm以下の範囲となるように配置される。
【0059】
導電層78(第二電極)と像保持体44間の距離が300μmより小さいと、導電層78(第二電極)と像保持体44間で放電が発生しやすくなり、像保持体44に負荷が生じる。例えば、目標帯電電位−700Vに対し、抵抗層74(第一電極)=−2kV、導電層78(第二電極)=−750Vを印加した場合、相互の距離が300μmより小さいと、パッシェンの法則による放電開始電圧の推計から、抵抗層74(第一電極)から導電層78(第二電極)を通り越して像保持体44への放電が発生する可能性がある。
導電層78(第二電極)と像保持体44間の距離が2mmより大きいと、帯電効率が悪くなる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
導電性基材72としてステンレス(SUS)を用い、抵抗層74にはポリイミド樹脂にカーボンを分散させた体積抵抗率3×108Ωcm、膜厚150μmの材料を用いる。図4は、抵抗層74に用いた材料の体積抵抗率を高抵抗率計ハイレスターIP(MCP−HT260)とHRSプローブを用いて250V印加、1分間の条件で測定した結果である。最大10%程度の誤差はあるが、概ね体積抵抗率3×108Ωcm程度で推移している。これらの材料を導電性基材72上に形成する。
【0061】
絶縁層76には、膜厚100μmのガラスエポキシ材を用い、この絶縁層76上に膜厚18μmの銅箔を金メッキして導電層78(第二電極)を積層する。絶縁層76及び導電層78には、両者を貫通する穴径100μmの円筒形状の領域制御部82が形成されている。
【0062】
絶縁層76及び導電層78を抵抗層74上に密着させて固定することで、電極が構成される。放電空間である領域制限部82は、像保持体44の軸方向に対して平行に400μm間隔で列状に、帯電に必要な幅だけ形成されている。帯電能力を向上させるため、像保持体44回転方向に同様の列が5列、750μm間隔で配置された構成となっている(図3参照)。
【0063】
像保持体44と導電層78(第二電極)の距離は、400μmに設定されている。領域制限部82間の像保持体44軸方向の距離は、領域制限部82から像保持体44上へ電界により移動した荷電粒子で電位に筋状のむらが発生せず均一になるように、少なくとも像保持体44と導電層78(第二電極)間の距離と同程度か、それ以下とする。回転方向の列数は、プロセス速度に応じて必要とされる帯電能力が確保できる列数に調整する。
【0064】
上記のような構成の実施例において、目標電圧を−720Vとして、導電性基材72に−2.2kV、導電層78(第二電極)に−800Vの直流電圧を印加して、Φ30mmの像保持体44をプロセス速度120mm/secで回転させた場合の像保持体44の帯電電位(図5)と、導電性基材72と導電層78(第二電極)間に流れる放電電流(図6)をグラフに示す。
【0065】
像保持体44の回転周期780msの期間で、帯電電位のむらはΔ10V以下程度で安定しており、像保持体44は目標値(−720V)に帯電されている。放電電流は、像保持体44軸方向の帯電幅5cmあたり60μA程度になっている。幅5cmの穴(領域制限部82)の数は630個であるので、領域制限部82の1つあたりの放電電流は0.1μA程度と微小になる。このとき、導電性基材72と導電層78(第二電極)間に印加する電圧差を小さくし、帯電能力を維持できる範囲で放電電流を可能なかぎり小さくするように設定する。放電電流の増加に伴ってオゾン発生量は増加するため、放電電流を小さくすると、オゾン発生量が低減される。
【0066】
図7は、上記帯電条件において、本実施例構成及びスコロトロンの各方式を用いた場合に発生するオゾン量を相対比較した結果を示す。これらはともに、非接触型の帯電方式である。
連続帯電10分後のオゾン検出量がほぼ飽和した時点で比較すると、本実施例のオゾン発生量は、スコロトロンの少なくとも1/10以下程度となった。なお、スコロトロンを用いた帯電方式では、通常、オゾンフィルターなどの手段を用いてオゾン量を制御している。
参考までに、同図には、像保持体44と接触する接触型の帯電手段である帯電ロールを用いた場合のオゾン量も示している。
【0067】
図8は、上記構成で抵抗層74(第一電極)と導電層78(第二電極)の電位を変化させた場合の、像保持体44の1周平均の表面電位(帯電電位)の変動を示す。
抵抗層74(第一電極)と導電層78(第二電極)の印加電圧の差を1.4kVに保持した条件(例1:第一電極=−2.2kV・第二電極=−0.8kV、例2:第一電極=−1.9kV・第二電極=−0.5kV)、つまり両電極間で放電が十分に発生している場合には、導電層78(第二電極)への印加電圧と像保持体44の帯電電位は対応している。このため、電極間で生成された荷電粒子が、導電層78(第二電極)と像保持体44間の電界により移動して、像保持体44が帯電していることが示される。
【0068】
これに対して、抵抗層74(第一電極)と導電層78(第二電極)の印加電圧の差を0.9kVに保持した条件(例1:第一電極=−1.7kV・第二電極=−0.8kV、例2:第一電極=−1.4kV・第二電極=−0.5kV)、つまり両電極間で放電がほとんど発生していない場合には、像保持体44を帯電するのに必要な荷電粒子が生成されず、像保持体44が帯電されていない。
【0069】
このように、抵抗層74(第一電極)と導電層78(第二電極)の両電極間の放電で像保持体44を帯電するのに十分な荷電粒子が生成される場合には、導電層78(第二電極)への印加電圧の制御によって、像保持体44の電位が制御される。
【0070】
図9は、像保持体44の位置にΦ1mmの計測電極を配置して、帯電装置52と計測電極に電位差を与えた場合に、計測電極に流れる電流を計測した結果を示す。
図9に示すように、帯電装置52と計測電極との距離(電極間距離)と電位差に比例した電流が検出されている。このように、帯電装置52で発生した荷電粒子が、電位差によりドリフトして、計測電極で観測されている。
したがって、像保持体44と帯電装置52との間では、放電が発生していない、すなわち像保持体44が電極となって放電が発生しているのではないといえる。
【0071】
参考までに、 本実施例構成と帯電ロール方式を用いてそれぞれ像担持体の帯電と除電のみを繰り返す帯電ストレステストを行い、帯電ストレステストをした各像担持体を使用して画像形成装置で温度28℃、湿度80%の条件下でプリントしたサンプルの像流れ発生度を示す。本実施例構成で帯電テストを行った像担持体の像流れ発生度は、図10に示すように、帯電ロール方式と比較して大幅に低減されるという結果が得られた。尚、帯電ストレステストの条件は以下のとおりである。
・ 帯電電位−700V、
・ プロセス速度120mm/sec、
・ 電圧印加期間500回転
また、帯電ロールには以下に示す交流成分に直流成分を重畳した電圧を印加した。
・ 周波数950Hz、
・ 直流電圧=−720V、
・ 交流電圧(ピーク間電圧)=1850V:帯電電位が飽和する交流電圧値の1.25倍
【0072】
帯電ストレステストで使用した像担持体は、接地された円筒のアルミニウム上に下引き層、感光層、電荷輸送層の順に積層された有機感光体である。下引き層は厚さ15μmで帯電特性維持機能を、感光層は厚さ1μm以下で800nm程度波長の光に対し電荷発生機能を、電荷輸送層は厚さ29μmで感光層において発生した電荷(ホール)を感光体表面方向に輸送する機能を、それぞれ担っている。
【0073】
また、今回の帯電ストレステストの実験装置は、像担持体を回転する機能、帯電機能(本実施例または帯電ロール)、及び、除電機能(除電ランプ)のみで構成され、クリーニングブレードを備えていない構成になっている。帯電ストレステストを実施した像担持体を使用し、画像形成装置で像流れ度を確認することで帯電器が像担持体に与える帯電ストレスの影響を加速して確認している。
【0074】
以上、画像形成装置に本発明の帯電装置を適用した例を説明したが、本発明の帯電装置の適用はこれにかぎられるものではなく、以下に例示する用途にも適用可能である。
・ 電子デバイスの製造工程等で、デバイスの帯電による静電気破壊が起きないように帯電した電荷と逆極性電荷を与えて中和するための、除電処理
・ 固体材料の表面改質処理(例えば親水化処理や疎水化処理など)
・ 食品加工や医療分野での殺菌・滅菌処理
【符号の説明】
【0075】
10 画像形成装置
12 画像形成装置本体
14 像形成手段
20 給紙装置
32 搬送路
36 定着器
44 像保持体
52 帯電装置
56 現像装置
72 導電性基材
74 抵抗層
76 絶縁層
78 導電層
80 開口部
82 領域制御部
84 高抵抗層
86 抵抗調整層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた絶縁体と、
を有し、
前記第1の電極及び前記第2の電極のいずれか一方は、前記第1電極、前記絶縁体、および前記第2電極が並ぶ第1の方向に対して開口する開口部を有し、
前記絶縁体は、前記開口部と連続し、当該開口部と連続する方向には開放され、前記第1の方向と垂直な第2の方向には制限された空間である領域制限部、を有する
帯電装置。
【請求項2】
前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、前記第1の電極及び前記第2の電極と接している請求項1記載の帯電装置。
【請求項3】
前記第1の電極及び前記第2の電極のうち少なくともいずれかの体積抵抗率は、1×10Ωcm以上1×1010Ωcm以下である請求項1又は2記載の帯電装置。
【請求項4】
前記領域制限部の長さは、4μm以上200μm以下である請求項1乃至3いずれか記載の帯電装置。
【請求項5】
前記第2の方向における、前記領域制限部の長さは、4μm以上200μm以下である請求項1乃至4いずれか記載の帯電装置。
【請求項6】
前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、円筒形状である請求項1乃至5いずれか記載の帯電装置。
【請求項7】
前記開口部および前記領域制限部からなる空間は、前記絶縁体に複数設けられている請求項1乃至6いずれか記載の帯電装置。
【請求項8】
像保持体と、
前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項1乃至7いずれか1項に記載の帯電装置と、
前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、
を有する画像形成装置用カートリッジ。
【請求項9】
像保持体と、
前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項1乃至7いずれか1項に記載の帯電装置と、
前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、
前記現像装置により現像された像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記転写手段により前記記録媒体上に転写された像を当該記録媒体に定着させる定着手段と、
を有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−69879(P2011−69879A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218863(P2009−218863)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】