説明

帯電防止性ハードコート組成物および光学物品

【課題】帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することが可能な帯電防止性ハードコート組成物およびそれを用いて得られる光学物品を提供すること。
【解決手段】本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、成分A:リンをドープした酸化スズ微粒子、成分B:分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、および、成分C:光重合開始剤を含有し、成分Aの配合量が、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、55質量%以上、85質量%以下である。本発明の光学物品は、このような帯電防止性ハードコート組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、該帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性ハードコート組成物および光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製のフィルムやシートは、加工しやすく、軽量であることから、幅広い分野で使用されている。しかし、プラスチックは、柔軟であるので、表面に傷が付きやすく、また、表面抵抗率が1×1014Ω/□以上であり、高い電気抵抗を有するので、摩擦などにより接触面で容易に帯電するという欠点を有する。特に、プラスチックの帯電しやすさは、埃の付着による汚染や電子・電気部品の破壊を引き起こすので、大きい問題となっている。
【0003】
ところで、活性エネルギー線硬化型樹脂は、短時間で硬化塗膜を形成することができるので、生産性が高く、また、塗膜の架橋密度を高くできるので、硬度や耐擦傷性などのハードコート性能を高くできるという利点がある。このような活性エネルギー線硬化型樹脂に帯電防止性を付与する方法としては、イオン伝導性を示す界面活性剤や電子伝導性を示す金属酸化物微粒子などを添加する方法が知られている。
【0004】
しかし、イオン伝導性を示す界面活性剤は、透明性を損なわずに帯電防止性を付与できるという特徴を有するが、活性エネルギー線硬化型樹脂の架橋密度を高くすると、帯電防止性が発現しにくいという問題がある。
【0005】
また、電子伝導性を示す金属酸化物微粒子としては、例えば、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)やスズをドープした酸化インジウム(ITO)などが知られている。ATOやITOは、高い帯電防止性を発現し得るが、ハードコート層のように1μm以上の層厚で使用する場合には、硬化被膜が着色したり(青味を帯びたり)、透明性が低くなる(すなわち、ヘイズが高くなるか、あるいは、全光線透過率が低くなる)という問題がある。
【0006】
それゆえ、ハードコート層のように、1〜10μm程度の層厚で使用した際に、表面抵抗率が1×10〜1011Ω/□レベルの高い帯電防止性を有しながら、着色が少なく、かつ透明性が高い硬化被膜を得ることは困難であった。
【0007】
そこで、電子伝導性を有する金属酸化物微粒子として、ほとんど着色していないリンをドープした酸化スズ微粒子を用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、リンをドープした酸化スズを、分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物(以下「多官能モノマー」ということがある。)および光重合開始剤と組み合わせることにより、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れた硬化被膜が得られることが開示されている。
【0008】
ところで、例えば、硬化被膜を形成する基材がプラスチック製のフィルムやシートである場合、得られたコーティングフィルムやコーティングシートは、ロール状に巻き取ったり、成形したりする際に応力変形を受けるので、ある程度の靭性を確保しながら、この応力変形に追従することが要求される。つまり、応力変形を受けた際に、硬化被膜に割れ目が入ったり、硬化被膜が基材から剥離したりしないような高い耐屈曲性が要求される。
【0009】
しかし、特許文献1では、リンをドープした酸化スズ、多官能モノマーおよび光重合開始剤を含有する組成物を用いて形成した硬化被膜が高い耐屈曲性を有する条件について、全く検討されていない。
【特許文献1】特開2006−306008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することが可能な帯電防止性ハードコート組成物およびそれを用いて得られる光学物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々検討の結果、多官能モノマーおよび光重合開始剤に、リンをドープした酸化スズ微粒子を特定の割合で配合してなる組成物を使用すると共に、層厚を特定の範囲内に規定すれば、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、成分A:リンをドープした酸化スズ微粒子、成分B:分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、および、成分C:光重合開始剤を含有し、成分Aの配合量が、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、55質量%以上、85質量%以下であることを特徴とする帯電防止性ハードコート組成物を提供する。本発明の帯電防止性ハードコート組成物において、前記成分Bは、好ましくは、多官能(メタ)アクリレートである。
【0013】
また、本発明は、上記のような帯電防止性ハードコート組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、該帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下であることを特徴とする光学物品を提供する。本発明の光学物品は、前記帯電防止性ハードコート層上に反射防止層を有していてもよい。本発明の光学物品は、例えば、光学フィルムまたは光学シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、多官能モノマーおよび光重合開始剤に、リンをドープした酸化スズ微粒子を特定の割合で配合しているので、特定の層厚の範囲内で、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することを可能にする。また、本発明の光学物品は、このような帯電防止性ハードコート層を有するので、摩擦などにより接触面で容易に帯電することがなく、また、ほとんど着色がなく、極めて透明であり、しかも摩擦などにより表面に傷が付いたり、また、帯電防止性ハードコート層に割れ目が入ったり、帯電防止性ハードコート層が基材から剥離したりしにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
≪帯電防止性ハードコート組成物≫
本発明の帯電防止性ハードコート組成物(以下、単に「本発明の組成物」ということがある。)は、成分A:リンをドープした酸化スズ微粒子、成分B:分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、および、成分C:光重合開始剤を含有し、成分Aの配合量が、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、55質量%以上、85質量%以下であることを特徴とする。以下、本発明の組成物を用いて形成した「帯電防止性ハードコート層」を「硬化被膜」ということがある。
【0016】
本発明においては、成分Aの配合量を、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、55質量%以上、85質量%以下とすることが重要であり、この範囲内で成分Aを配合することにより、得られた組成物を用いて形成した硬化被膜が、特定範囲内の層厚で、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有するのである。特許文献1には、成分Aの配合量は、成分A、成分Bおよび成分Cの合計量に対して、好ましくは25質量%以上、85質量%以下、より好ましくは30質量%以上、70質量%以下であると記載されており(特許文献1の段落番号[0048]を参照)、本発明で規定する範囲に比べて広い範囲が教示されているが、本発明者らの検討によれば、成分Aの配合量が特許文献1に記載された範囲内であっても、本発明で規定する範囲を外れると、得られた硬化被膜が耐屈曲性に劣ることが判明した。
【0017】
また、本発明の組成物を用いて形成した硬化被膜が高い耐屈曲性を有するためには、その層厚が1μm以上、10μm以下であることが重要である。特許文献1には、硬化被膜の層厚は、好ましくは0.05μm以上、30μm以下であり、特に光学フィルムの帯電防止膜として用いる場合には、好ましくは0.05μm以上、10μm以下であると記載されており(特許文献1の段落番号[0075]を参照)、本発明で規定する範囲に比べて広い範囲が教示されているが、本発明者らの検討によれば、層厚が特許文献1に記載された範囲内であっても、本発明で規定する範囲を外れると、得られた帯電防止性ハードコート層が耐屈曲性に劣ることが判明した。
【0018】
このように、本発明の組成物は、特許文献1に開示された組成物と類似しているが、成分Aの配合量および硬化被膜の層厚を特定の範囲内に規定したことにより、特許文献1には記載されていない異質な効果を奏する、すなわち硬化被膜が高い屈曲性を有するというものである。
【0019】
以下、本発明の組成物に配合される各成分について詳しく説明する。
【0020】
<成分A>
成分Aであるリンをドープした酸化スズ微粒子は、本発明の組成物を用いて形成した硬化被膜が高い帯電防止性および高い透明性を有するのに必要な成分である。
【0021】
このような成分Aとしては、市販品を利用してもよいが、例えば、リン酸の存在下で水酸化スズを沈殿させ、得られた沈殿を窒素雰囲気下で乾燥させた後、窒素雰囲気下、400〜750℃で焼成し、粉砕することにより調製することができる。
【0022】
成分Aのリン含有量は、その下限が好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%、さらに好ましくは0.3質量%であり、また、その上限が好ましくは5質量%、より好ましくは4質量%、さらに好ましくは3質量%である。リン含有量が0.1質量%未満であると、成分Aの導電性が不充分であるので、硬化被膜の帯電防止性が低下することがある。逆に、リン含有量が5質量%を超えると、成分AのL値が低下するので、硬化被膜の透明性が低下することがある。
【0023】
成分Aの平均粒子径は、その下限が好ましくは5nmであり、また、その上限が好ましくは250nm、より好ましくは200nm、さらに好ましくは100nmである。成分Aの平均粒子径が5nm未満であると、成分Aが凝集しやすく、成分Aが凝集すると、光透過性が低下するので、硬化被膜の透明性が低下することがある。逆に、成分Aの平均粒子径が250nm以上であると、成分Aが組成物中で沈降したり、硬化被膜の透明性、平滑性および耐屈曲性が低下したりすることがある。なお、成分Aの平均粒子径とは、成分Aの分散液を用いて、透過型電子顕微鏡で微粒子を撮影し、得られた画像から任意の微粒子100個の一次粒子径(円相当径)を読み取り、その平均として求めた数平均粒子径を意味する。
【0024】
成分Aの配合量は、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、その下限が通常は55質量%、好ましくは60質量%、より好ましくは65質量%であり、また、その上限が通常は85質量%、好ましくは82質量%、より好ましくは80質量%である。成分Aの配合量が55質量%未満であると、硬化被膜の帯電防止性および耐屈曲性が低下することがある。逆に、成分Aの配合量が85質量%を超えると、成分Aが組成物中で沈降したり、硬化被膜の透明性、平滑性および耐屈曲性が低下したりすることがある。
【0025】
<成分B>
成分Bである分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物は、成分Aであるリンをドープした酸化スズ微粒子と組み合わせることにより、本発明の組成物を用いて形成した硬化被膜が高い硬度および高い耐擦傷性を有するのに必要な成分である。
【0026】
成分Bとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(ブタンジオール)ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリイソプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、1分子中に(メタ)アクリロイル基とビニルエーテル基とを有する単量体(例えば、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシイソプロポキシ)プロピルなど)を用いたビニルエーテル基重合体などの多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの重合性化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
重合性化合物のうち、ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを反応させて得られる化合物を挙げることができる。ここで、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレートなどが挙げられる。これらのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、ポリイソシアネートとしては、脂肪族系、芳香族系および脂環式系のいずれのポリイソシアネートでもよく、例えば、メチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネートは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのポリイソシアネートのうち、無黄変ウレタンとなるものが好適である。
【0029】
上記のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとの組合せは、特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの組合せ、2−ヒドロキシエチルアクリレートと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの組合せが好適である。
【0030】
ウレタン(メタ)アクリレートを製造する方法としては、例えば、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート中のヒドロキシ基とポリイソシアネート中のイソシアネート基との割合(ヒドロキシル基:イソシアネート基)がモル比で1:0.8〜1:1となるように、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを秤取して反応容器に入れ、ジラウリル酸ジn−ブチルスズなどの有機スズ化合物を触媒量加え、ハイドロキノンなどの重合禁止剤をさらに加え、反応温度30〜120℃、好ましくは50〜90℃で加熱して攪拌する方法などを挙げることができる。反応温度は、段階的に昇温することが好ましい。反応生成物中に、ウレタン(メタ)アクリレートがオリゴマー化したものが含まれていてもよい。
【0031】
ウレタン(メタ)アクリレートは、各種の市販品を利用することもできる。ウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、紫光シリーズ(日本合成化学工業(株)製)、ニューフロンティアR−1000シリーズ(第一工業製薬(株)製)、UA−306H、UF−8001(共栄社化学(株)製)、NKオリゴUシリーズ、NKオリゴUAシリーズ(新中村化学工業(株)製)などを挙げることができる。
【0032】
成分Bの配合量は、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、その下限が通常は15質量%、好ましくは18質量%、より好ましくは20質量%であり、また、その上限が通常は45質量%、好ましくは40質量%、より好ましくは35質量%である。成分Bの配合量が15質量%未満であると、成分Aが組成物中で沈殿したり、硬化被膜の透明性、平滑性および耐屈曲性が低下したりする。逆に、成分Bの配合量が45質量%を超えると、硬化被膜の帯電防止性および耐屈曲性が低下することがある。
【0033】
<成分C>
成分Cである光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により重合開始ラジカルを発生し、成分Bが重合反応を開始するのに必要な成分である。
【0034】
このような成分Cとしては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリル)フェニル]−1−ブタノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドなどのベンゾフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリドなどのチオキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド類;ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウムなどのチタノセン類;1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)などのオキシムエステル類;オキシフェニル酢酸,2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステル、オキシフェニル酢酸,2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルなどのオキシフェニル酢酸エステル類;などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤のうち、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類が好適であり、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンが特に好適である。
【0035】
成分Cの配合量は、成分A、成分Bおよび成分Cの合計量に対して、その下限が好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.2質量%であり、また、その上限が好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは10質量%である。成分Cの配合量が、0.05質量%未満であると、充分な硬化が得られず、硬化被膜の硬度および耐擦傷性が低下することがある。逆に、成分Cの配合量が20質量%を超えると、硬化被膜の特性がさらに向上することはなく、むしろ悪影響を及ぼすうえ、経済性を損なうことがある。
【0036】
<その他の成分>
本発明の組成物は、特に有機溶剤を含有する必要はないが、塗工性などを考慮すると、本発明の組成物は、成分A、成分Bおよび成分Cを有機溶剤(以下「成分D」ということがある。)に溶解または分散させた形態であることが好ましい。
【0037】
成分Dとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸n−ブチルなどのエステル類;イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶剤類:クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
成分Dの使用量は、成分Aおよび成分Bの合計量を100質量部として、その下限が好ましくは0質量部、より好ましくは20質量部、さらに好ましくは50質量部であり、また、その上限が好ましくは1,000質量部、より好ましくは800質量部、さらに好ましくは500質量部である。
【0039】
本発明の組成物には、さらに、目的に応じて任意の適切な単官能重合性化合物を配合することができる。単官能重合性化合物としては、例えば、アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、イソブトキシメチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、テトラクロロフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、テトラブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単官能重合性化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の組成物には、任意の適切な有機または無機微粒子を配合することができる。このような有機または無機微粒子は、得られる帯電防止性ハードコート層に目的に応じた機能(例えば、防眩性、光拡散性など)を付与するために用いられる。帯電防止性ハードコート層に防眩性もしくは光拡散性を付与するに有用な微粒子の具体例としては、シリカなどの無機粒子;シリコン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂およびこれらの共重合樹脂などの有機粒子;が挙げられる。これらの微粒子は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、これらの微粒子の粒子径は、目的に応じた機能を付与するために用いられる従来公知の微粒子の粒径と同様であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは0.5μm以上、30μm以下、より好ましくは1μm以上、15μm以下である。これらの微粒子の粒子径は、コールターカウンター法により測定した体積平均粒子径である。また、これらの微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、真球状、楕円球状、針状、板状、鱗片状、破砕粒状などであり、好ましくは真球状、楕円球状である。
【0041】
本発明の組成物には、必要に応じて、光増感剤、光重合促進剤、熱重合禁止剤、無機充填剤、非反応性樹脂(例えば、アクリルポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなど)、非導電性微粒子、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、揺変化剤、揺変助剤などの添加剤を配合することができる。これらの添加剤の存在は、本発明の効果に影響を及ぼすものではない。これらの添加剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの添加剤の配合量は、添加物の種類や使用目的などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0042】
≪帯電防止性ハードコート組成物の調製、使用および用途≫
本発明の組成物は、成分A:リンをドープした酸化スズ微粒子、成分B:分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、成分C:光重合開始剤、および、必要に応じて、有機溶剤、添加剤を、室温または加熱条件下で攪拌・混合することにより、容易に調製することができる。
【0043】
本発明の組成物は、基材に塗布し、乾燥させた後、この塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、基材上に帯電防止性ハードコート層としての硬化被膜を形成するために使用される。
【0044】
基材は、プラスチック製である限り、特に限定されるものではないが、その素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ラクトン環含有ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ABS、酢酸セルロースなどが挙げられる。基材の厚さは、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0045】
塗布方法としては、従来公知の塗布方法から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ロールコート、リバースロールコート、マイクログラビアコート、ダイレクトグラビアコート、グラビアオフセットコート、キスコート、ダイコート、フローコート、カーテンフローコート、ブレードコート、エアーナイフコート、バーコート、スプレーコート、スクリーン印刷、浸漬法などが挙げられる。
【0046】
乾燥方法としては、従来公知の乾燥方法から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、赤外線ヒーターや遠赤外線ヒーターによる乾燥などが挙げられる。乾燥条件は、組成物の粘度や塗膜の面積などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0047】
塗膜を硬化させる活性エネルギー線としては、例えば、電磁波、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、ガンマー線などが挙げられる。これらの活性エネルギー線のうち、紫外線および電子線が特に好適である。
【0048】
紫外線により硬化させる場合、波長150〜450nmの範囲内の光を含む光源を用いることが好ましい。このような光源としては、例えば、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド灯、ガリウム灯、キセノン灯、カーボンアーク灯などが挙げられる。紫外線の照射照度は、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは10mW/cm以上、4,000mW/cm以下、より好ましくは20mW/cm以上、2,000mW/cm以下である。また、紫外線の積算光量は、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは10mJ/cm以上、10,000mJ/cm以下、より好ましくは50mJ/cm以上、2,000mJ/cm以下である。
【0049】
電子線により硬化させる場合、電子線の加速電圧は、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは10kV以上、500kV以下、より好ましくは20kV以上、300kV以下、さらに好ましくは30kV以上、200kV以下である。また、電子線の照射量は、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは2kGy以上、500kGy以下、より好ましくは3kGy以上、300kGy以下、さらに好ましくは5kGy以上、200kGy以下である。
【0050】
このようにして得られた硬化被膜は、その層厚が1μm以上、10μm以下の範囲内で、表面抵抗率が1×10〜1011Ω/□レベルの高い帯電防止性を有しながら、着色が少なく、かつ透明性が高いことに加えて、硬度や耐擦傷性が高く、さらに耐屈曲性が高い。この場合、得られた硬化被膜が高い耐屈曲性を有するためには、本発明の組成物における成分Aの配合量が成分Aおよび成分Bの合計量に対して55質量%以上、85質量%以下であること、および、帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下であることが重要である。
【0051】
本発明の組成物は、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することができるので、例えば、光学フィルムや光学シートなどの光学物品に好適に使用される。
【0052】
≪光学物品≫
本発明の光学物品は、本発明の組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、その層厚が1μm以上、10μm以下であることを特徴とする。かかる帯電防止性ハードコート層が帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有するためには、その層厚がこの範囲内であることが重要である。帯電防止性ハードコート層の層厚は、その下限が好ましくは1μmであり、また、その上限が好ましくは10μm、より好ましくは5μmである。帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm未満であると、単層でのハードコート性(硬度や耐擦傷性)が得られず、別途ハードコート層を形成し、その上に帯電防止膜を形成しなければ、帯電防止性とハードコート性とを両立させられないことがある。このように帯電防止性とハードコート性とを両立させるために2層コートを行う場合には、1層コートで性能発現できる本発明の帯電防止性ハードコート層に比べて、生産性に劣る。逆に、帯電防止性ハードコート層の層厚が10μmを超えると、耐屈曲性や透明性が低下することがある。なお、帯電防止性ハードコート層の層厚は、下記の実施例に記載した方法で求めることができる。
【0053】
光学物品としては、特に限定されるものではないが、例えば、転写箔フィルム、ショーウィンドウ、自動車用ガラス、および画像表示装置などに用いられるハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、偏光板、光学フィルター、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板シート、導光板シートなどの光学シート;などが挙げられる。ここで、画像表示装置の具体例としては、例えば、液晶表示装置(LCD)、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、タッチパネルなどが挙げられる。
【0054】
本発明の光学物品は、本発明の組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、該帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下であること以外は、従来公知の光学物品と同様に構成される。例えば、光学物品を構成する基材としては、本発明の組成物を塗布する基材の材質として列挙した上記のような材質からなる基材を用いればよい。それゆえ、本発明の光学物品は、従来公知の光学物品に、本発明の組成物を塗布し、乾燥させた後、この塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化させて帯電防止性ハードコート層を形成することにより、製造することができる。
【0055】
本発明の光学物品は、本発明の組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層に加えて、該帯電防止性ハードコート層上に、例えば、低屈折率層(反射防止層)などの機能層を有していてもよい。機能層の層厚は、帯電防止性ハードコート層の機能が損なわれない限り、特に限定されるものではないが、例えば、その下限が好ましくは0.01μm、より好ましくは0.05μmであり、また、その上限が1μm、より好ましくは0.5μmである。機能層として、低屈折率層を形成した場合の光学物品としては、反射防止フィルムなどが挙げられる。反射防止フィルムにおいて、低屈折率層は、帯電防止性ハードコート層上に直接形成されていても、他の層を介して形成されていてもよい。低屈折率層は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法などにより形成したシリカ(SiO)薄膜やフッ化マグネシウム(MgF)薄膜、SiOゾルを含むゾル液から形成したSiOゲル薄膜、シリカもしくはフッ化マグネシウムからなる微粒子を含有する樹脂、フッ化ビニリデン(共)重合体などのフッ素樹脂、シリカもしくはフッ化マグネシウムからなる微粒子を含有するフッ素樹脂などで構成することができる。上記の微粒子は、内部および/または表面の一部に空隙を有していてもよい。低屈折率層の波長550nm(測定温度25℃)における屈折率は、その下限が好ましくは1.25であり、また、その上限が好ましくは1.45、より好ましくは1.40である。
【0056】
さらに、帯電防止性ハードコート層と低屈折率層との間に介在させる他の層は、1層であっても2層以上であってもよい。他の層の具体例としては、例えば、低屈折率層と異なる屈折率を有する層などが挙げられる。反射防止フィルムにおいて、他の層の屈折率は、多くの場合、低屈折率層の屈折率より高い。このような高屈折率層を設けることにより、より広い波長範囲において反射を低減することができる。
【0057】
反射防止フィルムの好ましい積層構造の具体例としては、例えば、基材/帯電防止性ハードコート層/低屈折率層、基材/帯電防止性ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層、基材/帯電防止性ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層などが挙げられる。なお、本明細書において、高屈折率層とは、低屈折率層よりも高い屈折率を有する層を意味し、中屈折率層とは、低屈折率層よりも高く、かつ高屈折率層よりも低い屈折率を有する層を意味する。中屈折率層または高屈折率層の波長550nm(測定温度25℃)における屈折率は、好ましくは1.45以上、2.00以下である。より具体的には、中屈折率層の波長550nm(測定温度25℃)における屈折率は、好ましくは1.45以上、1.70以下であり、高屈折率層の波長550nm(測定温度25℃)における屈折率は、好ましくは1.55以上、2.00以下である。ある実施形態においては、中屈折率層または高屈折率層は、多官能性重合性化合物と高屈折率微粒子とを含む組成物から形成され得る。多官能性重合性化合物の具体例としては、例えば、多官能(メタ)アクリレートおよびウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。高屈折率微粒子の具体例としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモンなどが挙げられる。高屈折率微粒子の含有量を調整することにより、中屈折率層または高屈折率層の屈折率を制御することができる。別の実施形態においては、中屈折率層または高屈折率層は、化学蒸着法(CVD)や物理蒸着法(PVD)などの蒸着法により形成した酸化チタンや酸化ジルコニウムのような屈折率の高い無機酸化物の蒸着膜とすることができる。なお、低屈折率層、中屈折率層および高屈折率層の屈折率は、下記の実施例に記載する方法で求めることができる。
【0058】
さらに別の実施形態においては、本発明の光学フィルムは、防眩性フィルムや光拡散フィルムである。防眩性フィルムおよび光拡散フィルムは、上記の有機または無機微粒子を含有する帯電防止性ハードコート組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、活性エネルギー線を照射することにより硬化させて帯電防止性ハードコート層を形成することにより作製することができる。
【0059】
本発明の光学物品は、本発明の組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、該帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下であるので、摩擦などにより接触面で容易に帯電することがなく、また、ほとんど着色がなく、極めて透明であり、しかも摩擦などにより表面に傷が付いたり、また、帯電防止性ハードコート層に割れ目が入ったり、帯電防止性ハードコート層が基材から剥離したりしにくい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
まず、帯電防止性ハードコート層を形成したコーティングフィルムの評価方法について説明する。
【0062】
<層厚および屈折率>
干渉式薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス(株)製)を用いて、温度25℃において、フィルムの反射率を400〜800nmの範囲内で測定し、nk−Cauchyの分散式を適用し、未知のパラメータを反射率スペクトルの実測値から非線形最小二乗法により算出し、帯電防止性ハードコート層の層厚および波長550nm(測定温度25℃)における屈折率を求めた。
【0063】
<表面抵抗率>
表面抵抗率は、JIS K6911に準拠して、デジタル絶縁計(DSM8104、東亜電波工業(株)製)を用いて測定した。
【0064】
<ヘイズ>
ヘイズは、JIS K7105に準拠して、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0065】
<全光線透過率>
全光線透過率は、JIS K7361−1に準拠して、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0066】
<透過色>
透過色は、JIS Z8722およびZ8729に準拠して、分光式色差計(SE2000、日本電色工業(株)製)を用いて、C/2光源で測定した。なお、透過色は、L値、a値およびb値で表され、L値は数値が大きいほど明度が高く、a値はプラス側で数値が大きいほど赤色の強さが増し、マイナス側で数値が大きいほど緑色の強さが増し、また、b値はプラス側で数値が大きいほど黄色の強さが増し、マイナス側で数値が大きいほど青色の強さが増す。
【0067】
<鉛筆硬度>
鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に準拠して、鉛筆引っ掻き試験を行い、傷付きにより評価した。
【0068】
<耐スチールウール性>
耐スチールウール性は、学振型耐摩耗試験機(スガ試験機(株)製)を用いて、#0000スチールウールを荷重200gで20回往復させた後の傷付き具合を目視で評価した。傷がない場合をA、傷が1〜5本の場合をB、傷が6〜10本の場合をC、傷が11〜20本の場合をD、傷が21本以上の場合をEとした。
【0069】
<耐屈曲性>
基材フィルムに帯電防止性ハードコート層を形成してなるコーティングフィルムを1cm×5cmに切り出し、コート面を外向きにして、厚さ0.8mmのアルミ板を挟み込むようにフィルムを二つ折りにし、その際の帯電防止性ハードコート層におけるクラックの発生具合を以下のように評価した。全くクラックが発生しない場合をA、わずかに小さいクラックが発生する場合をB、数本のクラックが発生する場合をC、多数のクラックが発生する場合をDとした。
【0070】
次に、基材フィルムに帯電防止性ハードコート層を形成してなるコーティングフィルムの製造例について説明する。
【0071】
≪実施例1≫
塩化スズ100g、リン酸1g、ケイ酸ナトリウム1gをメタノール150gに溶解して溶液を調製し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液2gを添加して沈殿物を生成させた。この沈殿物を窒素雰囲気下で乾燥させた後、窒素雰囲気下、550℃で焼成し、生成物を粉砕して、リンをドープした酸化スズの微粒子(A−1)を得た。なお、得られたリンをドープした酸化スズの微粒子(A−1)の平均粒子径は、25.3nmであった。
【0072】
リンをドープした酸化スズの微粉末(A−1)4g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE−6A、共栄社化学(株)製)1g、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製;化学名:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)0.2g、メチルエチルケトン21gを混合して、帯電防止性ハードコート組成物を調製した。
【0073】
得られた帯電防止性ハードコート組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績(株)製;厚さ188μm)に、バーコーターを用いて塗布した。この塗膜を100℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀灯を用いて、照射照度185mW/cmの条件下、積算光量250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させて、PETフィルム上に帯電防止性ハードコート層を形成した。
【0074】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
≪実施例2〜4≫
実施例1で得られた帯電防止性ハードコート組成物を表1に示した層厚となるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にしてコーティングフィルムを得た。
【0076】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
≪実施例5〜7≫
実施例1における各成分の配合量を表1に示した配合量としたこと以外は、実施例1と同様にして、帯電防止性ハードコート組成物およびコーティングフィルムを得た。
【0078】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
≪実施例8≫
実施例1におけるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに代えて、以下に製造例を示すラクトン環含有樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてコーティングフィルムを得た。
【0080】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
以下に、ラクトン環含有樹脂フィルムの製造例について説明する。
【0082】
<ラクトン環含有樹脂フィルムの調製>
まず、ラクトン環含有樹脂(以下「ラクトン環含有重合体」ということがある。)の評価方法について説明する。
【0083】
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフ(GC17A、(株)島津製作所製)を用いて測定して求めた。
【0084】
<ダイナミックTG>
重合体(または重合体溶液もしくはペレット)をいったんテトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー100mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/sec以下に制御)
【0085】
<ラクトン環構造の含有割合>
まず、得られた重合体組成物からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0086】
すなわち、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中における脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
【0087】
一例として、後述の製造例で得られたペレットにおけるラクトン環構造の含有割合を計算する。この重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(質量比)は組成上20.0重量%であるから、(32/116)×20.0≒5.52質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.34重量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.34/5.52)≒0.938となるので、脱アルコール反応率は93.8%である。そして、この脱アルコール反応率分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体の当該共重合体組成における含有率(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の含有率(質量比)に換算することにより、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合を算出することができる。後述の製造例の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が20.0質量%、算出した脱アルコール反応率が93.8%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環構造の含有割合は、27.5(20.0×0.938×170/116)質量%となる。
【0088】
<重量平均分子量、数平均分子量>
重合体の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0089】
<重合体の熱分析>
重合体の熱分析は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50mL/minの条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
【0090】
<ラクトン環含有樹脂フィルムの製造例>
まず、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量30Lの反応容器に、メタクリル酸メチル8kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2kg、メチルイソブチルケトン10kg、n−ドデシルメルカプタン5gを仕込んだ。
【0091】
この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)5gを添加すると同時に、メチルイソブチルケトン230gにt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)10gを溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜120℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0092】
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)30gを添加し、還流下、約90〜120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出機内で、さらに環化縮合反応と脱揮とを行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
【0093】
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.34質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量は144,000であり、ガラス転移温度が131℃であった。
【0094】
このラクトン環含有重合体のペレットを、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出して、厚さ約100μmのラクトン環含有樹脂フィルムを調製した。
【0095】
≪比較例1および2≫
実施例1における各成分の配合量を表1に示した配合量としたこと以外は、実施例1と同様にして、コーティング組成物およびコーティングフィルムを得た。
【0096】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
≪比較例3≫
塩化スズ100g、ケイ酸ナトリウム1gをメタノール150gに溶解して溶液を調製し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液2gを添加して沈殿物を生成させた。この沈殿物を窒素雰囲気下で乾燥させた後、窒素雰囲気下、550℃で焼成し、生成物を粉砕して、リンをドープしない酸化スズ微粒子(A−2)を得た。得られたリンをドープしない酸化スズ微粒子(A−2)の平均粒子径は、26.2nmであった。
【0098】
リンをドープしない酸化スズの微粉末(A−2)4g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE−6A、共栄社化学(株)製)1g、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製;化学名:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)0.2g、メチルエチルケトン21gを混合して、コーティング組成物を調製した。
【0099】
得られたハードコート組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績(株)製;厚さ188μm)に、バーコーターを用いて塗布した。この塗膜を100℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀灯を用いて、照射照度185mW/cmの条件下、積算光量250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させて、PETフィルム上にハードコート層を形成した。
【0100】
得られたコーティングフィルムについて、層厚、屈折率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率、透過色、鉛筆硬度、耐スチールウール性および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1から明らかなように、成分Aの配合量が特定の範囲内にある組成物を用いて、特定範囲内の層厚を有する硬化被膜を形成してなる実施例1〜8のコーティングフィルムは、いずれも、表面抵抗率が低いので、硬化被膜の帯電防止性に優れ、ヘイズが小さく、全光線透過率が高く、透過色のL値が大きいので、硬化被膜の透明性に優れ、透過色のa値およびb値の絶対値が小さいので、硬化被膜の着色が少なく、鉛筆硬度および耐スチールウール性が高いので、硬化被膜の硬度および耐擦傷性に優れ、しかも高い耐屈曲性を示した。
【0103】
これに対し、成分Aの配合量が特定の範囲外である組成物を用いて硬化被膜を形成してなる比較例1〜3のコーティングフィルムのうち、比較例1のコーティングフィルムは、ヘイズが小さく、全光線透過率が高く、透過色のL値が大きいので、硬化被膜の透明性に優れ、透過色のa値およびb値の絶対値が小さいので、硬化被膜の着色が少なく、鉛筆硬度および耐スチールウール性が高いので、硬化被膜の硬度および耐擦傷性に優れるが、表面抵抗率が高いので、硬化被膜の帯電防止性に劣り、しかも低い耐屈曲性を示した。また、比較例2のコーティングフィルムは、表面抵抗率が低いので、硬化被膜の帯電防止性に優れ、高い耐屈曲性を示したが、ヘイズが大きく、透過色のL値が小さいので、硬化被膜の透明性に劣り、透過色のb値がプラス側に大きいので、硬化被膜が黄色味を帯びており、鉛筆硬度および耐スチールウール性が低いので、硬化被膜の硬度および耐擦傷性に劣っていた。さらに、比較例3のコーティングフィルムは、ヘイズが小さく、全光線透過率が高く、透過色のL値が大きいので、硬化被膜の透明性に優れ、鉛筆硬度および耐スチールウール性が高いので、硬化被膜の硬度および耐擦傷性に優れるが、表面抵抗率が高いので、硬化被膜の帯電防止性に劣り、透過色のb値がプラス側に大きいので、硬化被膜が黄色味を帯びており、しかも低い耐屈曲性を示した。
【0104】
かくして、多官能モノマーおよび光重合開始剤に、リンをドープした酸化スズ微粒子を特定の割合で配合してなる組成物を使用すると共に、層厚を特定の範囲内に規定すれば、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する硬化被膜、すなわち帯電防止性ハードコート層を形成できることがわかる。
【0105】
次に、基材フィルムに帯電防止性ハードコート層を形成した後、さらに、その上に低屈折率層(反射防止層)を形成してなる積層コーティングフィルムの製造例について説明する。
【0106】
≪実施例9≫
<重合性ポリシロキサン(M−1)の合成>
攪拌機、温度計および冷却管を備えた容量300mLの三つ口フラスコに、テトラメトキシシラン144.5g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン23.6g、水19.0g、メタノール30.0g、陽イオン交換樹脂(アンバーリスト15、オルガノ(株)製)5.0gを入れ、65℃で2時間攪拌して反応させた。反応混合物を室温まで冷却した後、冷却管に代えて蒸留塔、これに接続した冷却管および留出口を設け、常圧下でフラスコ内温が約80℃になるまで2時間かけて昇温し、メタノールが留出しなくなるまで同温度で保持した。さらに、2.67×10kPaの圧力下、90℃の温度で、メタノールが留出しなくなるまで保持し、反応を進行させた。反応混合物を室温まで冷却した後、陽イオン交換樹脂を濾別して、数平均分子量が1,800の重合性ポリシロキサン(M−1)を得た。
【0107】
<有機ポリマー(P−1)の合成>
攪拌機、温度計、冷却管、滴下口および窒素ガス導入口を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、有機溶剤として酢酸n−ブチル260gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温が110℃になるまで加熱した。次いで、重合性ポリシロキサン(M−1)12g、t−ブチルメタクリレート19g、ブチルアクリレート94g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート67g、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート(ライトエステルFM−108、共栄社化学(株)製)48g、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2.5gを混合した溶液を滴下口から3時間かけて滴下した。滴下後も同温度で1時間攪拌を続けた後、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.1gを30分間おきに2回添加し、さらに2時間加熱して共重合を行って、数平均分子量が12,000、重量平均分子量が27,000の有機ポリマー(P−1)が酢酸n−ブチルに溶解した溶液を得た。得られた溶液の固形分は48.2%であった。
【0108】
<有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)の合成>
攪拌機、温度計および2つの滴下口(滴下口Aおよび滴下口B)を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、酢酸n−ブチル200g、メタノール50gを入れ、フラスコ内温を40℃に調整した。次いで、攪拌しながら、有機ポリマー(P−1)の酢酸n−ブチル溶液10g、テトラメトキシシラン30g、酢酸n−ブチル5gの混合液(原料液A)を滴下口Aから、25%アンモニア水5g、脱イオン水10g、メタノール15gの混合液(原料液B)を滴下口Bから、2時間かけて滴下した。滴下後、冷却管に代えて蒸留塔、これに接続した冷却管および留出口を設け、40kPaの圧力下、フラスコ内温が100℃になるまで昇温し、アンモニア、メタノール、酢酸n−ブチルを固形分が30%になるまで留去して、有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子と有機ポリマーとの比率が70/30の有機ポリマー複合無機微粒子が酢酸n−ブチルに分散した分散体(S−1)を得た。得られた有機ポリマー複合無機微粒子の平均粒子径は23.9nmであった。なお、評価は以下の方法により行った。
【0109】
<数平均分子量、重量平均分子量>
重合性ポリシロキサン(M−1)の数平均分子量、ならびに、有機ポリマー(P−1)の数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0110】
<有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子と有機ポリマーとの比率>
有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子と有機ポリマーとの比率は、有機ポリマー複合無機微粒子分散体を1.33×10kPaの圧力下、130℃で24時間乾燥させた後、元素分析を行い、灰分を有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子含有量として求めた。
【0111】
<平均粒子径>
平均粒子径は、有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)1gを酢酸n−ブチル99gで希釈した分散液を用いて、透過型電子顕微鏡で微粒子を撮影し、得られた画像から任意の微粒子100個の一次粒子径(円相当径)を読み取り、その平均として求めた数平均粒子径である。
【0112】
次に、低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤および積層コーティングフィルムの調製について説明する。
【0113】
<低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤の調製>
有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)9g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE−6A、共栄社化学(株)製)1g、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製;化学名:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)0.1g、メチルイソブチルケトン240gを混合して、低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤を調製した。
【0114】
得られた低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤を用いた低屈折率層の波長550nm(測定温度25℃)における屈折率は、1.38であった。
【0115】
なお、低屈折率層の屈折率は、上記の低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤を、PETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績(株)製;厚さ188μm)上に、バーコーターを用いて塗布し、100℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀灯を用いて、照射照度350mW/cmの条件下、積算光量1,000mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、層厚0.1μmの低屈折率層を形成して、帯電防止性ハードコート層の屈折率を測定する方法と同様の方法で求めた。ちなみに、中屈折率層および高屈折率層の屈折率も同様にして求めることができる。
【0116】
<積層コーティングフィルムの調製>
実施例6において調製したコーティングフィルムの帯電防止性ハードコート層上に、バーコーターを用いて、上記の低屈折率層(反射防止層)用コーティング剤を塗布し、100℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀灯を用いて、照射照度350mW/cmの条件下、積算光量1,000mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、層厚0.1μmの低屈折率層(反射防止層)を形成して、帯電防止性ハードコート層上に低屈折率層(反射防止層)を有する積層コーティングフィルムを調製した。得られた積層コーティングフィルムについて、反射率、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率および鉛筆硬度を測定した。結果を表2に示す。
【0117】
なお、表面抵抗率、ヘイズ、全光線透過率および鉛筆硬度については、実施例1〜8および比較例1〜3で得られたコーティングフィルムと同様にして測定した。また、反射率については、以下のようにして測定した。
【0118】
<反射率>
積層コーティングフィルムの低屈折率層(反射防止層)側と反対側の面をスチールウールで粗面化し、黒色インキを塗布した後、紫外可視分光光度計(UV−3100、(株)島津製作所製)を用いて、低屈折率層(反射防止層)側の面の入射角5°における鏡面反射スペクトルを測定し、反射率(%)の最小値を求めた。
【0119】
【表2】

【0120】
表2から明らかなように、実施例9の積層コーティングフィルムは、実施例6のコーティングフィルムの帯電防止性ハードコート層上に低屈折率層(反射防止層)を形成したにもかかわらず、表面抵抗率が低いので、帯電防止性に優れ、ヘイズが小さく、全光線透過率が高いので、透明性に優れ、鉛筆硬度が高いので、硬度に優れ、しかも反射率が低いので、高い反射防止性を有する。
【0121】
かくして、本発明の組成物を用いて形成した硬化被膜、すなわち帯電防止性ハードコート層上に低屈折率層(反射防止層)を形成しても、高い帯電防止性および高い透明性が損なわれないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物およびそれを用いて得られる光学物品は、帯電防止性、透明性、硬度および耐擦傷性に優れるだけでなく、高い耐屈曲性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することを可能にし、また、このような帯電防止性ハードコート層を有することから、帯電防止性ハードコート層を形成することが必要とされる部材を備えた光学機器や電子機器に関連する分野で多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A:リンをドープした酸化スズ微粒子、成分B:分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、および、成分C:光重合開始剤を含有し、成分Aの配合量が、成分Aおよび成分Bの合計量に対して、55質量%以上、85質量%以下であることを特徴とする帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項2】
前記成分Bが多官能(メタ)アクリレートである請求項1記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の帯電防止性ハードコート組成物を用いて形成した帯電防止性ハードコート層を有し、該帯電防止性ハードコート層の層厚が1μm以上、10μm以下であることを特徴とする光学物品。
【請求項4】
前記帯電防止性ハードコート層上に反射防止層を有する請求項3記載の光学物品。
【請求項5】
光学フィルムまたは光学シートである請求項3または4記載の光学物品。

【公開番号】特開2008−231252(P2008−231252A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72779(P2007−72779)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】