説明

常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜

【課題】優れた耐擦傷性、チッピング性を有するとともに、クラック等が発生しにくい塗膜を形成しうる常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜を提供すること。
【解決手段】環状分子と直鎖状分子と封鎖基を有し、直鎖状分子や環状分子が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成る常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料である。環状分子の包接量は0.06〜0.61である。直鎖状分子の分子量は1000〜70000である。
常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料を用いた常温乾燥型溶剤系上塗り塗料である。
常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を固化して成る溶剤系上塗り塗膜である。
被塗物に、溶剤系上塗り塗料を用いたベースコート塗膜、クリア塗膜を順次形成した積層塗膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜に係り、更に詳細には、特に耐擦傷性が要求される分野で用いられる製品、主として、自動車のボディ;屋内・屋外における樹脂成型品;階段、床、家具等の木工製品;メッキ、蒸着、スパッタリング等の処理が施されたアルミホイール、ドアミラー等に適用できる常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリカーボネート、アクリル板等の樹脂成型品は、硬度、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性等の諸物性に欠けるため、これらの物性を補うために通常は表面処理が施される。
かかる表面処理としては、例えば、常乾型塗料や2液ウレタン塗料等の硬化型塗料が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、該塗料を用いた処理膜には傷が付きやすく、付いた傷は目立ちやすい。
【特許文献1】特開2004−131601号公報
【0003】
また、意匠性のために、メッキ、蒸着、スパッタリングのごとき金属鏡面処理が採用されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、該金属鏡面処理を行った場合、該処理膜には傷が付きやすく、付いた傷は目立ちやすい。また、通常、蒸着、スパッタリングのような鏡面処理後には、上述したような表面処理が行われているが、得られる処理膜には傷が付きやすく、付いた傷は目立ちやすい。
【特許文献2】特開2003−293146号公報
【0004】
更に、自動車用トップコートについては、近年では新車時の塗装外観を長期間保持するよう高耐久化指向が強まってきている。このため、洗車機や砂塵や石はね等によっても傷の付かない耐擦傷性が求められている。
耐擦傷性を有する塗料としては、従来より、紫外線(UV)硬化型塗料、電子線エネルギー(EB)硬化型塗料、シリカ系ハードコート剤や、2液型アクリルウレタン系軟質塗料等が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献3】特公平6−29362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記UV硬化型塗料、EB硬化型塗料、シリカ系ハードコート剤では、高硬度にするための硬質モノマーの使用や、架橋密度を高めることによる硬化収縮時の歪みの増大により、素材への密着性が低下したり、クラックが発生するという問題が生じやすい。
【0006】
一方、上記2液型アクリルウレタン系軟質塗料は、チッピング、クラックの問題はないが、タック感が残る場合が多く、耐候性、耐汚染性に劣るという欠点を有する。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた耐擦傷性、耐チッピング性を有するとともに、クラック等が発生しにくい塗膜を形成しうる硬化型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討を繰り返した結果、直鎖状分子や環状分子が疎水性である親油性ポリロタキサンを用いることによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料は、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料は、本発明の塗料用材料、即ち上記親油性ポリロタキサンを、望ましくは質量比で、塗膜形成成分に対して1〜30%含有することを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の上塗り塗膜は、本発明の上記常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を固化して成ることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明の積層塗膜は、被塗物に、常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を用いたベースコート塗膜、クリア塗膜を順次形成したり、被塗物に、常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を用いたエナメル塗膜を形成して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直鎖状分子や環状分子が疎水性である親油性ポリロタキサンを用いることとしたため、優れた耐擦傷性、耐チッピング性を有すると共に、密着性等、塗料として具備すべき他の性能についても、従来の常温乾燥型ラッカーと同程度の性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0015】
上記したように、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料は、溶剤に溶解する常温乾燥型に変性された親油性ポリロタキサンから成るものである。
また、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料は、上記材料、即ち親油性ポリロタキサンを含有するものである。
【0016】
図1は、疎水性修飾ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
同図において、この疎水性修飾ポリロタキサン1は、直鎖状分子2と、環状分子であるシクロデキストリン3と、直鎖状分子2の両末端に配置された封鎖基4を有し、直鎖状分子2は環状分子3の開口部を貫通して環状分子3を包接している。
そして、シクロデキストリン3は、疎水性修飾基3aを有している。
【0017】
本発明においては、上記環状分子2及び直鎖状分子3の一方又は両方が疎水性を有し、全体として親油性を示す親油性ポリロタキサン、代表的には環状分子2が水酸基を有し、これら環状分子の水酸基の全部又は一部が疎水性の修飾基で修飾された親油性ポリロタキサンを使用するようにしており、当該ポリロタキサンは、後述する溶剤に可溶なものとなり、溶剤系塗料の成分として配合することができるようになる。
なお、このような親油性ポリロタキサンから成る本発明の上塗り塗料用材料と他のポリマーを混合すると、ファンデルワールス力などによる擬似架橋を生じ、両者が組成物ないしは化合物として挙動しているものと考えられる。この場合、少なくとも上記ポリロタキサンは、上述の滑車効果を発揮しているものと思われる。
【0018】
本発明において、疎水性を示す修飾基は、疎水基又は疎水基と親水基を有し、全体として疎水性であればよい。
かかる疎水基としては、例えば、アルキル基、ベンジル基(ベンゼン環)及びベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基などがある。
かかる親水基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、アミノ基(一級〜三級)、四級アンモニウム塩基、ヒドロキシアルキル基などがある。
【0019】
上記親油性ポリロタキサンにおける環状分子としては、上述の如き直鎖状分子に包接されて滑車効果を奏するものである限り、特に限定されるものではなく、種々の環状物質を挙げることができる。なお、環状分子としては、水酸基を有するものが多い。
また、環状分子は実質的に環状であれば十分であって、「C」字状のように、必ずしも完全な閉環である必要はない。
【0020】
更に、環状分子としては、反応基を有するものが好ましく、これによって上記した疎水性修飾基などとの結合が行い易くなる。
このような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、反応基としては、後述する封鎖基を形成する(ブロック化反応)際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。
【0021】
また、本発明に用いる上記親油性ポリロタキサンにおける上記環状分子の疎水性修飾基による修飾度については、環状分子の有する水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることが更に好ましい。
即ち、上記修飾度が0.02未満であると、溶剤への溶解性が十分なものとならず、不溶性ブツが生成することがある。
【0022】
なお、環状分子の水酸基が修飾され得る最大数とは、修飾する前に環状分子が有していた全水酸基数を意味する。また、修飾度とは、換言すれば、修飾された水酸基数の全水酸基数に対する比のことである。
【0023】
更に、上記ポリロタキサンが多数の環状分子を有する場合、これら環状分子それぞれの水酸基の全部又は一部が疎水性修飾基によって修飾されている必要はない。言い換えると、ポリロタキサン全体として親油性を示す限り、疎水性修飾基によって修飾されていない水酸基を有する環状分子が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。
【0024】
上記疎水性修飾基の導入方法としては、以下の方法を採用できる。
例えば、ポリロタキサンの環状分子としてシクロデキストリンを用い、当該シクロデキストリンの水酸基に、ヘキサメチレンジイソシアネート、PEG‐monostearateよりなるイソシアネート化PEG‐monostearateを反応させる。このときのイソシアネート化PEG‐monostearateの添加量を変更することで修飾率を任意に制御できる。
【0025】
上記親油性ポリロタキサンにおいて、直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)については、直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、0.06〜0.61が好ましく、0.11〜0.48が更に好ましく、0.24〜0.41がいっそう好ましい。
即ち、この比が0.06未満では滑車効果が不十分となって塗膜の伸び率が低下することがある。0.61を超えると、環状分子が密に配置され過ぎて環状分子の可動性が低下し、同様に塗膜の伸び率が不十分となって耐擦傷性が劣化する傾向がある。
【0026】
また、環状分子の包接量は、以下のようにして制御することができる。
例えば、DMF(ジメチルホルムアミド)に、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)、HOBt、アダマンタンアミン、ジイソプロピルエチルアミンを、この順番で添加し溶液とする。一方、DMF/DMSO(ジメチルスルホキシド)混合溶媒に、直鎖状分子に環状分子が串刺された包接錯体を分散させた溶液を得る。これら両者を混合し、このときのDMF/DMSOの混合比率を変更することで、環状分子の包接量を任意に制御できる。なお、DMF/DMSO比が高いほど環状分子の包接量は大きくなる。
【0027】
上記環状分子の具体例としては、種々のシクロデキストリン類、例えばα−シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース数:8個)、ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン及びこれらの誘導体又は変性体、並びにクラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0028】
上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、上記した種々の環状分子の中では、特にα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが良好であり、とりわけ、被包接性の観点からはα−シクロデキストリンを使用することが好ましい。
【0029】
一方、直鎖状分子は、実質的に直鎖であればよく、回転子である環状分子が回動可能で滑車効果を発揮できるように包接できる限り、分岐鎖を有していてもよい。
また、環状分子の大きさにも影響を受けるが、その長さについても、環状分子が滑車効果を発揮できる限り特に限定されない。
【0030】
なお、直鎖状分子としては、その両末端に反応基を有するものが好ましく、これにより、上記封鎖基と容易に反応させることができるようになる。
かかる反応基としては、採用する封鎖基の種類などに応じて適宜変更することができるが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基などを例示することができる。
【0031】
このような直鎖状分子としては、特に限定されるものではなく、ポリアルキレン類、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類及びベンゼン環を有する直鎖状分子を挙げることができる。
これら直鎖状分子のうち、特にポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンが良好であり、水や溶剤への溶解性の観点からはポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0032】
また、上記直鎖状分子の分子量としては、1,000〜70,000とすることが望ましく、10,000〜50,000が好ましく、更には35,000〜50,000の範囲であることが好ましい。
即ち、直鎖状分子の分子量が1,000未満では、環状分子による滑車効果が十分に得られなくなって塗膜の伸び率が低下し、耐擦傷性が劣化するがある。分子量が70,000を超えると、塗料としたときの塗装性が低下し、上塗り塗膜としての平滑性や艶などの外観が劣化する傾向がある。
【0033】
他方、上記封鎖基は、上記のような直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に貫通された状態を保持できる基でさえあれば、どのような基であっても差し支えない。
このような基としては、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。なお、ここで「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。
【0034】
「嵩高さ」を有する基としては、球形をなすものや、側壁状の基を例示することができる。
また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発し合うことにより、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0035】
このような封鎖基の具体例としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0036】
ここで、本発明に用いる親油性ポリロタキサンの製造方法について説明する。
上述の如き、親油性ポリロタキサンは、
(1)環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に貫通して直鎖状分子に環状分子を包接させる工程と、
(2)得られた擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)を封鎖基で封鎖して、環状分子が串刺し状態から脱離しないように調製する工程と、
(3)得られたポリロタキサンの環状分子の水酸基を疎水性修飾基で修飾する工程、
によって処理することにより得られる。
【0037】
なお、上記(1)工程において、環状分子が有する水酸基をあらかじめ疎水性修飾基で修飾したものを用いることによっても、親油性ポリロタキサンを得ることができ、その場合には、上記(3)工程を省略することができる。
【0038】
以上のような製造方法によって、各種溶剤への溶解性に優れた親油性ポリロタキサンが得られる。
かかる溶剤としては、特に限定されるものではないが、イソプロピルアルコールやブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンなどのエーテル類、トルエンやキシレンなどの炭化水素溶剤などを挙げることができ、該親油性ポリロタキサンは、これらの2種以上を混合した溶媒についても良好な溶解性を示す。
【0039】
なお、本発明においては、有機系溶剤に可溶である限りにおいて親油性ポリロタキサンが擬似架橋又は架橋しているものであってもよく、かかる親油性架橋ポリロタキサンを、非架橋の親油性ポリロタキサンの代わりに又はこれに混合して用いることができる。
このような親油性架橋ポリロタキサンとしては、比較的低分子量のポリマー、代表的には分子量が数千程度のポリマーと架橋した親油性ポリロタキサンを挙げることができる。
【0040】
本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料は、上記常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、即ち上述した親油性ポリロタキサンを含有するものであって、このときの含有量としては、塗膜形成成分(樹脂固形分など)に対して質量換算で1〜40%含まれることが好ましい。より好ましくは10〜40%であり、特に好ましくは20〜30%であることがよい。
即ち、親油性ポリロタキサンの塗膜形成成分に対する含有量が1%に満たない場合には、ポリロタキサンの滑車効果が十分に得られず、塗膜の伸び率が低下して所望の耐擦傷性が得られなくなることがある。40%を超えると、塗膜に粘着感が生じる可能性がある。
【0041】
本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料は、上述の親油性ポリロタキサンを既存の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料、例えば、アクリル系ラッカーやセルロース系ラッカー、ウレタン樹脂塗料などに、望ましくは上記含有量となるように配合することによって得られる。
言い換えれば、本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料、即ち親油性ポリロタキサンに、樹脂成分、添加剤、顔料、光輝剤又は溶媒、及びこれらを任意に組合わせたものを、常法に基づいて配合し、混合することができる。
【0042】
上記樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有するものが好ましい。
なお、光架橋基としては、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩及びスチリルキノリン塩などを例示できる。
【0043】
また、2種以上の樹脂成分を混合使用してもよいが、この場合、少なくとも1種の樹脂成分が環状分子を介してポリロタキサンと結合していることがよい。
更に、かかる樹脂成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又はグラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0044】
具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉及びこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン及び他のオレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂などのポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン(登録商標)などのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
誘導体としては、上述した水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基及びこれらの組合せに係る基を有するものが好ましい。
【0045】
上記添加剤の具体例としては、分散剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、表面調整剤、ワキ防止剤などを用いることができる。
【0046】
上記顔料の具体例としては、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料等の有機系着色顔料や、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラ等の無機系着色顔料を用いることができる。
【0047】
上記光輝剤の具体例としては、アルミ顔料、マイカ顔料などを用いることができる。
【0048】
上記溶媒の具体例としては、酢酸エチルや酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのようなエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのようなケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンなどのようなエーテル類、トルエンやキシレン、ソルベッソなどのような炭化水素溶剤、または疎水性の高い長鎖アルコール類などを用いることができる。 これらは2種以上を適宜混合しても良い。また、水やブチルセロソルブアセテートなどの水系溶剤が若干含まれていても、全体として有機溶剤とみなすことができればよい。
【0049】
更にまた、上記上塗り塗料は、一般的なベースコート用塗料やエナメル塗料として、ベースコート塗膜又はエナメル塗膜を形成することができる。
具体的には、アクリル系塗料、メラミン系塗料、ウレタン系塗料、ポリエステル系塗料などに調製すればよい。
また、これらは、一液型であってもよいし、二液型(例えばウレタン樹脂塗料)などでもよい。
【0050】
上記エナメル塗膜の膜厚としては、特に限定されるものではないが、20〜40μm程度が好ましい。
また、上記ベースコートの膜厚としては、特に限定されるものではないが、10〜15μm程度が好ましい。
【0051】
本発明の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料は、スプレーガンを始めとする各種の塗装装置によって、従来の塗料と同等の作業性の下に、鉄や鋼、アルミニウムなどの金属材料、樹脂材料、木質材料、石材やレンガ、ブロックなどの石質材料、皮革材料などから成る各種の被塗装物に塗装することができ、常温で乾燥・固化することによって、上塗り塗膜を形成することができる。このときの塗膜厚さとしては、特に限定されるものではないが、20〜40μm程度となるように塗装することが望ましい。
【0052】
次に、本発明の積層塗膜について詳細に説明する。
本発明の積層塗膜は、被塗物に、上述の溶剤系上塗り塗料を用いたベースコート塗膜、クリア塗膜を順次形成して成る。
【0053】
これにより、積層塗膜の耐傷付き性、耐チッピング性が向上する。また、ベースコート塗膜の平滑性が良好となるので、クリア塗膜が均等に形成できる。
【0054】
上記クリア塗膜は、一般的なクリア塗料原料から形成することができ、代表的には、親油性液体である、アクリル系塗料、メラミン系塗料、ウレタン系塗料など、親水性液体である、親水系アクリル系塗料、ウレタン系塗料、メラミン系塗料など、粉体である、ポリエステル系塗料、アクリル系塗料などのクリア塗料を単独又は混合して使用できる。
また、上記親油性液体は、一液型であっても良いし、二液型(例えばウレタン樹脂塗料)などを用いても良いし、更にはラッカー系、光硬化型樹脂を用いても良い。
【0055】
上記被塗物としては、代表的には鉄、アルミ、銅などの各種金属材、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの各種有機材、石英、セラミックス(炭化カルシウム他)などの各種無機材が挙げられる。
また、これらに溶剤系上塗り塗料をを被覆する方法としては、公知慣用の方法が採用できる。例えば、はけ塗り法、吹付け法、静電塗装法、電着塗装法、粉体塗装、更にはスパッタ法などが挙げられる。
更に、上記溶剤系上塗り塗料は、常温乾燥処理により塗膜とすることができが、加熱乾燥処理により塗膜を形成してもよい。
なお、上記溶剤系上塗り塗料は、被塗物の全体又は一部に被覆できる。また、一般に、上記ベースコート塗膜はクリア層を含み、エナメル塗膜はクリア層を含まない。
【0056】
また、本発明の積層塗膜においては、被塗物とベースコート塗膜との間に、下塗り塗膜を更に形成することが好ましい。このときは、積層塗膜の耐傷付き性、耐チッピング性が更に向上しうる。また、ベースコート塗膜の平滑性が更に良好となりうるので、クリア塗膜が均等に形成できる。更に、界面の付着性がより向上しうる。
【0057】
一方、本発明の他の積層塗膜は、被塗物に、上述の溶剤系上塗り塗料を用いたエナメル塗膜を形成して成る。
【0058】
これにより、積層塗膜の耐傷付き性、耐チッピング性が向上する。また、積層塗膜の表面の平滑性が良好となる。
【0059】
また、被塗物とエナメル塗膜との間に、下塗り塗膜を更に形成することが好ましい。このときは、積層塗膜の耐傷付き性、耐チッピング性が更に向上しうる。また、ベースコート塗膜の平滑性が更に良好となりうるので、クリア塗膜が均等に形成できる。更に、界面の付着性がより向上しうる。
【0060】
上述した本発明の積層塗膜の一例(概略断面)を図2に示す。
この積層塗膜は、下塗り塗膜層10とエナメル塗膜11が順次設けられている。
なお、「積層塗膜」には、説明の都合上、被塗物に溶剤系上塗り塗料のみを被覆して成る塗膜を含むが、この塗膜は単独層に限定されず、複数層から形成されていてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0062】
(実施例1)
1.修飾ポリロタキサンの合成
トルエン中で20gのPEG−monostearate(TCI社製)に、6gのヘキサメチレンジイソシアネートを結合させた後、エーテルによる再結晶で精製した。
得られたイソシアネート化PEG−monostearate15gを、DMSO中に溶かしたポリロタキサン(約500mg)と室温下で一晩反応させた後、エーテルによる再析出で精製し乾燥させた。
【0063】
2.上塗り塗料の調製
得られたポリロタキサンをトルエンで10%になるように溶解した。
一方、300gのブチセロスルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)に200gのCMCAB(EASTMAN CHEMICAL製 CMCAB−641−0.5)を撹拌しながら添加し、水/アミン混合液(水498.09g/ジメチルアミノエタノール1.91g)をCMCAB溶液に注ぎ込み、20%になるように樹脂溶液を調製した。また、この樹脂溶液に顔料を分散させ、上塗り塗料を得た。
【0064】
3.積層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント社製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。
その後、日本油脂社製のグレーの下塗り(商品名:ハイエピコNo.500)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
次に、修飾ポリロタキサンを添加した上塗り塗料を30μm塗装した。
【0065】
(実施例2〜11、比較例1〜3)
表1に示す仕様とした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、積層塗膜を形成した。
【0066】
得られた積層塗膜について、以下の(1)〜(6)の評価を行った。
【0067】
(1)溶解性
工程2で得た上塗り塗料を、ガラス板に塗布したときの白濁度を目視評価した。
〇:変化なし
△:若干の白濁
×:白濁および分離
【0068】
(2)平滑性
工程3で得た積層塗膜中の上塗り塗膜の平滑度合いを目視評価した。
〇:かなり平滑
△:若干、凹凸
×:凹凸
【0069】
(3)耐擦傷性
磨耗試験機の摺動子にダストネル(摩擦布)を両面テープで貼り付け、0.22g/cmの荷重下、工程3で得た積層塗膜中の上塗り塗膜上を50回往復させ、傷の有無を評価した。
○:殆ど傷がない。
△:少し傷がある。
×:目立つほど多くの傷がある。
【0070】
(4)耐擦傷性
磨耗試験機の摺動子にダストネル(摩擦布)を両面テープで貼り付け、0.22g/cmの荷重下、工程3で得た積層塗膜中の上塗り塗膜上を50回往復させ、傷の有無を評価した。
○:殆ど傷がない
△:少し傷がある
×:目立つほど多くの傷がある
【0071】
(5)顔料沈降性
工程2で得た上塗り塗料を40℃の恒温槽に1ヶ月放置し、沈降物がハードケーキ(固形になり、撹拌しても回復しない状態)に成っているか否かを判定した。
〇:回復する
△:時間は要するが回復する
×:回復しない
【0072】
(6)耐候性
工程3で得た積層塗膜中の上塗り塗膜について、キセノンウエザーメーター(XWM)で、1440時間試験を行い、色差(△E)を測定した。
〇:△E≦3
△:3<△E≦5
×:△E>5
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果から明らかなように、本発明の好適形態である実施例1〜8の積層塗膜中の上塗り塗膜は、親油性ポリロタキサンの添加により滑車効果が発揮され、耐擦傷性の向上が認められる他、溶解性、平滑性、顔料沈降性、耐候性も良好であることがわかる。
また、実施例9のように、直鎖状分子の分子量が1000未満では、耐擦傷性が低下することがわかる。更に、実施例10のように、70000超では、平滑性、顔料沈降性、耐候性が低下することがわかる。
更に、実施例11のように、親油性ポリロタキサンの塗料への添加量が40%超では、溶解性、平滑性、顔料沈降性、耐候性が低下することがわかる。
【0075】
一方、比較例1〜3のように、親油性ポリロタキサンを添加しないときは、耐擦傷性の効果が得られないことがわかる。
【0076】
以上のように、本発明に従えば、特に規定された狭い塗装条件に限定されることなく、通常の塗装と同様の作業性で目的の外観が得られ、上塗り塗膜の耐傷付き性や耐チッピング性等の耐擦傷性の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】疎水性修飾ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
【図2】本発明の積層塗膜の構造例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 疎水性修飾ポリロタキサン
2 直鎖状分子
3 環状分子(シクロデキストリン)
3a疎水性修飾基
4 封鎖基
10 下塗り塗膜
11 エナメル塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成ることを特徴とする常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項2】
上記環状分子が水酸基を有し、該水酸基の全部又は一部を親油性の修飾基で修飾したことを特徴とする請求項1に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項3】
上記当該環状分子の水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、環状分子の親油性修飾基による修飾度が0.02以上であること特徴とする請求項2に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項4】
上記直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、上記環状分子の包接量が0.06〜0.61であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項5】
上記直鎖状分子の分子量が1,000〜70,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項6】
上記環状分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから成る群より選ばれた少なくとも1種のシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料を含有することを特徴とする常温乾燥型溶剤系上塗り塗料。
【請求項8】
塗膜形成成分に対する上記常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料の含有量が質量比で1〜40%であることを特徴とする請求項7に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料。
【請求項9】
上記常温乾燥型溶剤系上塗り塗料用材料に、樹脂成分、添加剤、顔料、光輝剤及び溶媒から成る群から選ばれた少なくとも1種を混合して成ることを特徴とする請求項7又は8に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料。
【請求項10】
ベースコート用塗料又はエナメル塗料であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を固化して成ることを特徴とする上塗り塗膜。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を用いた積層塗膜であって、
被塗物に、該塗料を用いたベースコート塗膜、クリア塗膜を順次形成して成ることを特徴とする積層塗膜。
【請求項13】
被塗物とベースコート塗膜との間に、下塗り塗膜を更に形成したことを特徴とする請求項12に記載の積層塗膜。
【請求項14】
請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系上塗り塗料を用いた積層塗膜であって、
被塗物に、該塗料を用いたエナメル塗膜を形成して成ることを特徴とする積層塗膜。
【請求項15】
被塗物とエナメル塗膜との間に、下塗り塗膜を更に形成したことを特徴とする請求項14に記載の積層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−99992(P2007−99992A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293834(P2005−293834)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】