説明

平版印刷版材料及び印刷方法

【課題】現像不良や白抜け等の印刷故障の改善、印刷版の印刷時における異物による版面の傷、印刷物の汚れを防止し、従来と同等の作業性を有する印刷版材料及び印刷方法の提供。
【解決手段】親水性層に含有する顔料の平均粒径が0.1μm〜1.0μmであり、顔料以外の無機粒子又は無機素材で被覆された粒子の平均粒径が0.5μm〜10μmであることを特徴とする平版印刷版材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版材料(以下、単に印刷版材料ともいう)及び印刷方法に関し、詳しくは画像層側にチタン系黒色顔料を含有し、コンピューター・トゥ・プレート(CTP)方式であり、機上現像性を有する平版印刷版材料及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷データのデジタル化に伴い、安価で取扱いが容易でPS版と同等の印刷適性を有したCTPが求められている。特に近年、特別な薬剤による現像処理が不要であって、ダイレクトイメージング(DI)機能を備えた印刷機に適用可能であり、又、PS版と同等の使い勝手を有する汎用タイプのサーマルプロセスレス印刷版への期待が高まっている。
【0003】
近年、印刷版材料は、現像処理が必要ない所謂プロセスレス印刷版が実用化され始めている。
【0004】
例えば、特開平7−1849号、同7−164773号、同9−123387号、同10−193823号にプロセスレス印刷版が開示されている。
【0005】
これらプロセスレス印刷版は自動現像処理機を必要とせず、プレートセッターで露光した後、直接、印刷機に設置して印刷することが可能である。
【0006】
しかしながら、この様な印刷版材料は、画像形成層を硬化させるのに十分なエネルギーを与えることが難しく、そのため画像形成層の硬度が弱くなってしまい、衝撃や異物に対して版面が傷付き易くなり、従来使用されて来たPS版やサーマルプレート等に比べて、取り扱い時における傷に対して弱いことが指摘されていた。
【0007】
この点を改善するために、支持体上に、レーザー光を熱に変換する化合物を含有する光熱変換層、及び、金属キレート化合物により架橋された親水性ポリマーを含有する親水性層を順次、積層する技術(例えば、特許文献1を参照)、親水性画像形成層の上に水溶性のセルロース類を含有するオーバーコート層を有する技術(例えば、特許文献2を参照)、疎水性化前駆体を含有する親水性感熱層及び疎水性オーバーコート層を有する技術(例えば、特許文献3を参照)などが開示されるが、これらの傷改良方法では未だ十分ではなく、従来の印刷版同等の作業性、耐傷性には及ばないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−92115号公報
【特許文献2】特開2002−19318号公報
【特許文献3】特開2004−237605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、現像不良や白抜け等の印刷故障の改善、印刷版の印刷時における異物による版面の傷、印刷物の汚れを防止し、従来と同等の作業性を有する印刷版材料及び印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の目的は、以下の構成により達成された。
【0010】
1.親水性層に含有する顔料の平均粒径が0.1μm〜1.0μmであり、顔料以外の無機粒子又は無機素材で被覆された粒子の平均粒径が0.5μm〜10μmであることを特徴とする平版印刷版材料。
【0011】
2.画像形成層に含有する熱溶融粒子の融点が60℃〜100℃であり、画像形成層中の固形分中の含有率が70質量%〜95質量%であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版材料。
【0012】
3.機上現像性を有する前記1又は2に記載の印刷版材料を用いて印刷することを特徴とする印刷方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CTP方式であり、更に機上現像性を有する印刷版材料を使用することにより、従来より生産性が向上し、また従来のPS版等の印刷版と何ら変わることなく取り扱いができ、現像不良や白抜け等の印刷故障の改善、印刷版の印刷時における異物による版面の傷、印刷物の汚れを防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明の印刷版材料は、片面に粗面化処理を施したアルミニウム基材又はポリエステル樹脂上に画像形成層を塗設し、刷機上で現像できる印刷版材料である。
【0016】
本発明における印刷機上現像とは、通常のオフセット印刷機に露光済みの印刷版材料を取り付けて印刷を行った際、版面に与えられた湿し水と印刷インキの作用により印刷版材料の未露光領域の画像形成層が印刷の初期に選択的に除去されることを意味している。
【0017】
[支持体]
(アルミニウム基材)
本発明の基材としては、印刷版の基板として使用される公知のアルミニウム材料を使用することができる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0018】
アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。
【0019】
アルミニウム板は表面を粗面化したものを用いるのが普通である。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。
【0020】
また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。
【0021】
また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
【0022】
この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0023】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1〜10g/m2が好ましい。1.0g/m2より少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。
【0024】
このような粗面化処理を行うことにより、アルミニウム基材と親水性層の接着性が向上し、耐刷性を上げることが出来る。
【0025】
また、裏面のすべり性を制御する(例えば版胴表面との摩擦係数を低減させる)目的で、裏面コート層を設けた基材も好ましく使用することができる。
【0026】
(ポリエステル基材)
本発明の好ましい熱現像感光材料用支持体を構成する二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)等である。中でもより好ましいポリエステルはPETならびにPENであり、特に好ましくはPETである。ここでいう構成されているものとは、共重合体およびポリマーブレンド物であっても良く、全体に占める構成要素の質量比率が50質量%以上のものを指す。
【0027】
PETはテレフタル酸とエチレングリコール、PENはナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールから構成されるが、これらを触媒の存在下で適当な反応条件下で結合させることによって重合できる。このとき、適当な1種、または2種以上の第3成分を混合しても良い。適当な第3成分としては、2価のエステル形成官能記を有する化合物であればよく、例えば、ジカルボン酸の例として次のようなものが挙げられる。
イソフタル酸、フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、2、7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。
【0028】
また、グリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
【0029】
本発明のPET樹脂及びフィルムの固有粘度は0.5〜0.8であることが好ましい。また固有粘度の異なるものを混合して使用しても良い。
【0030】
本発明のPETの合成方法は、特に限定があるわけではなく、従来公知のPETの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、あるいは耐熱安定剤を添加することができる。熱安定剤としては、例えば、リン酸、亜リン酸、及びそれらのエステル化合物が挙げられる。
【0031】
また、合成時の各過程で着色防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料などを添加させてもよい。
【0032】
本発明の熱現像感光材料用支持体の厚みは特に限定がある訳ではないが、扱い易さの点から、100〜250μm、特に150〜200μmであることが好ましい。
【0033】
[画像形成層面の構成]
本発明の画像を形成する側の構成は複数の層からなっており、基本的に基材側から下層、親水性層、画像形成層で構成される。以下に各層の構成を説明する。
【0034】
(光熱変換剤)
本発明は光熱変換剤として、親水性層に黒色顔料を含有することを特徴とする。顔料として、具体的にはチタン系としてはTiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)、酸化鉄系顔料としては、FeOやFe34が挙げられる。更に、チタンと鉄を混合した粒子の顔料も好ましい。本発明におけるこれらの粒径は、0.1μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする。
【0035】
これらの顔料は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。
【0036】
したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておいてもよい。
【0037】
分散には必要に応じて分散剤を使用することができる。分散剤としては公知のものを使用することが出来る。分散剤の添加量は顔料粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0038】
これらの顔料の添加量としては、親水性層全固形分に対して20%以上、50%未満であり25%以上、45%未満がより好ましく、さらに好ましくは25%以上40%未満の範囲である。添加量が20%未満であると、十分な感度がでず、また50%以上であると、顔料の脱落が発生する。
【0039】
また、親水性層、画像形成層には下記赤外吸収染料を光熱変換素材として添加することができる。
【0040】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、特開昭64−33547号、特開平1−160683号、特開平1−280750号、特開平1−293342号、特開平2−2074号、特開平3−26593号、特開平3−30991号、特開平3−34891号、特開平3−36093号、特開平3−36094号、特開平3−36095号、特開平3−42281号、特開平3−97589号、特開平3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
これらの赤外吸収染料の添加量としては、画像形成層全固形分に対して0.1%以上10%未満であり0.3%以上7%未満がより好ましく、さらに好ましくは0.5%以上6%未満の範囲である。添加量がこれを逸脱すると、上記同様に添加量が0.1%未満であると、十分な感度がでず、また10%以上であると、アブレートによるアブレーションカスが発生する。
【0042】
(親水性層)
本発明において、親水性層に用いられる素材は下記のような物が挙げられる。
【0043】
親水性マトリックスを形成する素材としては金属酸化物が好ましく、更に好ましくは金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。
【0044】
例えばコロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられ、金属酸化物の形態としては、球状、羽毛状その他のいずれの形態でもよく、平均粒径としては3〜100nmであることがこのましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。また、粒子表面に表面処理がなされていてもよい。
上記金属酸化物粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0045】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点が有り、良好な強度を得ることが出来る。
【0046】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含む事が好ましく、さらに、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0047】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径がnmのオーダーである球形シリカの水分散径の総称である。
【0048】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径が10〜50nmの球形コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。
【0049】
パールネックレス状(すなわち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスのような形状をしていることを意味する。
【0050】
ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。
【0051】
ネックレス状のコロイダルシリカとしては具体的には日産化学工業(株)性の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。
【0052】
製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子系は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」および「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0053】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、親水性層マトリックスの多孔質化材として好ましく使用できる。このなかでもアルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックス−PS−M」及び「スノーテックス−PS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0054】
また、コロイダルシリカは粒子系が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性の物が地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0055】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカ日産化学性の「スノーテックス20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子系10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0056】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0057】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0058】
また、本発明の印刷版材料の親水性層マトリックスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0059】
また、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。
【0060】
また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり,増粘性が不充分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0061】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作成した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0062】
本発明の親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0063】
また,水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。が、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0064】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0065】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0066】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0067】
また、さらにカチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0068】
また、本発明の親水性層の塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0069】
また、本発明の親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0070】
本発明では粒径が0.5μm以上、10μm以下の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子を含有することを特徴とする。これらの粒子はマット材として用いられ、この条件のマット材を用いることにより、親水性層の表面形状の制御、親水性層マトリックスの充填度合いを制御することができる。
【0071】
無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子は、多孔質、無孔質を問わず用いても良く、無機フィラーとしてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、カーボンブラック、グラファイト、TiO2、BaSO4、ZnS、MgCO3、CaCO3、ZnO、CaO、WS2、MoS2、MgO、SnO2、Al23、α−Fe23、α−FeOOH、SiC、CeO2、BN、SiN、MoC、BC、WC、チタンカーバイド、コランダム、人造ダイアモンド、ザクロ石、ガーネット、ケイ石、トリボリ、ケイソウ土、ドロマイト等、また無機被服フィラーとしてはたとえばPMMAやポリスチレン、メラミンといった有機粒子の芯剤を芯剤粒子よりも中継の小さな無機粒子で被覆した粒子が挙げられる。無機粒子の粒径としては芯材粒子の1/10〜1/100程度であることが好ましい。
【0072】
また,無機粒子としては、同様にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど公知の金属酸化物粒子を用いることができる。被覆方法としては、種々の公知の方法を用いることができるが、ハイブリダイザのような空気中で芯材粒子と被覆材粒子とを高速に衝突させて芯材粒子表面に被覆材粒子を食い込ませて固定、被覆する乾式の被覆方法を好ましく用いることができる。
【0073】
本発明においては、本発明の範囲を満たすフィラーであれば特に制限無く効果が発揮できるが、特に塗布液中での沈降を抑制するためには多孔質シリカ粒子、多孔質アルミノシリケート粒子等の多孔質無機フィラー、多孔質無機被服フィラーを用いるのがよい。
粒径が0.5μm未満では親水性層の表面形状の制御、親水性層マトリックスの充填度合いを制御することが困難となり、ブランケット汚れの劣化が生じる。また粒径が10μmを超えると、画像形成の解像度が低下する。
【0074】
無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子の平均粒径は0.7μm以上、5μm以下がより好ましい。添加量としては、親水性層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0075】
(下層)
本発明の形態として、下層を設けてもよい。
下層を設ける場合には、下層に用いる素材としては、親水性層と同様の素材を用いることができる。
【0076】
ただし、下層は多孔質であることの利点が少なく、また、より無孔質である方が塗膜強度が向上するといった理由から、親水性マトリクスの多孔質化材の含有量は親水性層よりも少ないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0077】
粒径が1μm以上の粒子を含有する場合、粒子の添加量としては、下層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0078】
下層全体としても親水性層と同様に、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
【0079】
(画像形成層)
本発明の画像形成層には熱溶融性およびまたは熱融着性微粒子として、融点が60℃以上、100℃以下であり、固形分中の含有率が70質量%以上、95質量%以下であることを特徴とする。
【0080】
本発明に用いられる熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。融点が50℃未満では保存性が問題であり、融点が100℃よりも高い場合は親水性層への接着性が低下する。
【0081】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。
【0082】
また、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0083】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0084】
また、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.1μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0085】
また、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0086】
本発明の熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、該熱可塑性疎水性高分子重合体粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の重量平均分子量(Mw)は10、000〜1、000、000の範囲であることが好ましい。
【0087】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0088】
高分子重合体微粒子は乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0089】
また、熱可塑性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0090】
また、熱可塑性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0091】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0092】
本発明の熱溶融性およびまたは熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層にはさらに水溶性素材を含有することができる。水溶性素材を含有することにより、印刷機上で湿し水やインクを用いて未露光部の画像形成機能層を除去する際に、その除去性を向上させることができる。
【0093】
水溶性素材としては、親水性層に含有可能な素材として挙げた水溶性樹脂を用いることもできるが、本発明の画像形成機能層としては、糖類を用いることが好ましく、特にオリゴ糖を用いることが好ましい。
【0094】
オリゴ糖は水に速やかに溶解するため、印刷装置上での未露光部の画像形成機能層の除去も非常に速やかとなり、特別な除去操作を意識することなく、通常のPS版の刷出し操作と同様の操作で刷出すことで除去可能であり、刷出しの損紙が増加することもない。
また、オリゴ糖は親水性層の親水性を低下させる懸念もなく、親水性層の良好な印刷適性を維持することができる。
【0095】
オリゴ糖は水に可溶の一般に甘みを有する結晶性物質で、数個の単糖がグリコシド結合によって脱水縮合したものである。オリゴ糖は糖をアグリコンとする一種のo−グリコシドであるから、酸で容易に加水分解されて単糖を生じ、生成する単糖の分子数によって二糖、三糖、四糖、五糖などに分類される。本発明におけるオリゴ糖とは、二糖〜十糖までのものをいう。
【0096】
これらのオリゴ糖は還元基の有無によって、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖とに大別され、又単一の単糖から構成されているホモオリゴ糖と、2種類以上の単糖から構成されているヘテロオリゴ糖にも分類される。
【0097】
オリゴ糖は遊離状又は配糖類として天然に存在し、又多糖の酸又は酵素による部分加水分解によっても得られる。この他酵素によるグリコシル転移によっても種々のオリゴ糖が生成する。
【0098】
オリゴ糖は通常雰囲気中では水和物として存在することが多い。又、水和物と無水物とでは融点が異なる。
【0099】
本発明では糖類を含有する層を水溶液で塗布形成することが好ましいため、水溶液から形成された場合は、層中に存在するオリゴ糖が水和物を形成するオリゴ糖である場合は、その融点は水和物の融点であると考えられる。このように、比較的低融点を有しているため、熱溶融微粒子が溶融する温度範囲や熱融着微粒子が融着する温度範囲でオリゴ糖も溶融し、熱溶融微粒子の多孔質親水性層への溶融浸透や熱融着微粒子の融着といった画像形成を妨げることがない。
【0100】
オリゴ糖の中でもトレハロースは、比較的純度の高い状態のものが工業的に安価に入手可能であり、水への溶解度が高いにもかかわらず、吸湿性は非常に低く、機上現像性及び保存性共に非常に良好である。
【0101】
又、オリゴ糖水和物を熱溶融させて水和水を除去した後に凝固させると(凝固後短時間のうちは)無水物の結晶となるが、トレハロースは水和物よりも無水物の融点が100℃以上も高いことが特徴的である。これは赤外線露光で熱溶融し、再凝固した直後は露光済部は高融点で溶融しにくい状態となることを意味し、バンディング等の露光時の画像欠陥を起こしにくくする効果がある。
【0102】
本発明の目的を達成するには、オリゴ糖の中でも特にトレハロースが好ましい。
層中のオリゴ糖の含有量としては、層全体の0.5〜20質量%が好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。
【0103】
(画像形成方法)
本発明のひとつの態様の印刷版材料の画像形成は熱により行うことができるが、特に赤外線レーザーによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。
本発明に関する露光に関し、より具体的には、赤外および/または近赤外領域で発光する、すなわち700〜1500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。レーザーとしてはガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用することが特に好ましい。
【0104】
本発明の走査露光に好適な装置としては、該半導体レーザーを用いてコンピュータからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0105】
一般的には、
(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に一本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、
(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、
(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式があげられる。
【0106】
本発明に関しては特に(3)の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)の露光方式が用いられる。
【0107】
(機上現像方法および印刷方法)
本発明の印刷版材料の好ましい態様である、赤外線レーザーによる印刷版材料の画像形成層は、赤外線レーザー露光部が親油性の画像部となり、未露光部が除去されて親水性の非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水およびまたはインキを用いて除去する、いわゆる機上現像することが好ましい。
【0108】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインキローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。
【0109】
また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0110】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、インキローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0111】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インキローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0112】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインキローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
【実施例】
【0113】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例中「部」は特に断りのないかぎり「質量部」を表す。
【0114】
実施例1
《ポリエステル支持体の作製》
(支持体1の作製)
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0115】
これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し熱固定後の平均膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。
【0116】
これを、延伸温度は前段延伸が102℃で1.3倍に、後段延伸は110℃で2.6倍に縦延伸した。次いで、テンターで120℃で4.5倍に横延伸した。この後、240℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。
【0117】
この後、テンターのチャック部をスリットした後、両端にナーリング加工を行い、40℃に冷却後47.1N/mで巻き取った。このようにして厚さ190μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体1)を得た。
【0118】
この二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのガラス転移温度(Tg)は79℃であった。得られたポリエチレンテレフタレートフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。
【0119】
《下引き済み支持体の作製》
上記で得られた支持体のフィルムの両面に、8W/m2/minのコロナ放電処理を施し、次いで、一方の面に下記の下引き塗布液aをWet膜厚10μmになるように塗設後に180℃、4分間乾燥させた。ついでその上にコロナ放電処理(8W/m2/min)を行いながら下記の下引き塗布液bをWet膜厚11μmになるように塗布し、180℃、4分間乾燥させた。下引きサンプル001〜008を得た(下引き面A)。また反対側の面に下記の下引き塗布液cをWet膜厚8μmになるように塗設後180℃、4分間乾燥させ、ついでその上にコロナ放電処理(8W/m2/min)を行いながら下記の下引き塗布液dをWet膜厚5μmになるように塗布し、180℃、4分間乾燥させた。(下引き面B)。
【0120】
(下引き塗布液a)
スチレン/グリシジルメタクリレート/ブチルアクリレート=60/39/1の3元系共重合ラテックス 固形分30質量%、Tg=75℃ 21.00質量部
スチレン/グリシジルメタクリレート/ブチルアクリレート=20/40/40の3元系共重合ラテックス 固形分30質量%、Tg=75℃ 5.60質量部
アニオン系界面活性剤S−1 0.6質量部
純水 73.00質量部
(下引き塗布液b)
ポリビニルアルコール固形分5質量%、平均分子量1700 5.76質量部
水溶性コポリエステル/アクリル成分=64/36のアクリル変性ポリエステル固形分21.7質量% 3.10質量部
アニオン系界面活性剤S−1 0.011質量部
マット剤(シリカ平均粒径0.5μm) 0.004質量部
硬膜剤H−2 0.058質量部
純水 91.06質量部
(下引き塗布液c)
酸化スズゾル 固形分8.3質量% 10.95質量部
n−ブチルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=40/20/40の3元系共重合ラテックス 固形分30質量% 1.51質量部
n−ブチルアクリレート/t−ブチルアクリレート、スチレン、ヒドロキシメチルメタアクリレート=10/35/27/28の4元系共重合ラテックス 固形分30質量%
0.38質量部
アニオン系界面活性剤S−1 0.05質量部
純水 87.11質量部
(下引き塗布液d)
水溶性コポリエステル/アクリル成分=80/20のアクリル変性ポリエステル 固形分17.8質量% 14.34質量部
アニオン系界面活性剤S−1 0.11質量部
マット剤(シリカ平均粒径0.5μm) 0.20質量部
純水 85.35質量部
【0121】
【化1】

【0122】
(バックコーティング層の調液)
コロイダルシリカ:スノーテックス−XS(日産化学社製、固形分20質量%)
33.60質量部
アクリルエマルション:DK−05(岐阜セラック社製、固形分48質量%)
14.00質量部
マット剤(PMMA平均粒径5.5μm) 0.56質量部
純水 51.84質量部
固形分濃度 14質量%
これらの組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、濾過してバックコーティング層塗布液を作製した。
【0123】
バックコーティング層の塗布
バックコーティング層の塗布液を上記支持体下引き面B側に、8W/m2/minのコロナ放電処理を施しにワイヤーバー#6を用いて下引き済みサンプルに塗布し15mの長さの100℃に設定押された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。バックコーティング層の付量は2.0g/m2であった。
【0124】
[下層塗布液の調液]
スノーテックス−XS(日産化学社製、固形分20質量%) 48.10質量部
スノーテックス−ZL(日産化学社製、固形分40質量%) 1.50質量部
シルトンJC−40(水澤化学社製) 2.22質量部
オプトビーズSTM−6500S(日産化学社製) 3.00質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学社製試薬) 0.12質量部
ミネラルコロイドMO(Southern Clay Products社製) 0.22質量部
Black#3550(大日精化(株)社製、Cu−Fe−Mn系)4.00質量部
リン酸三ナトリウム・12水(関東化学社製試薬) 0.06質量部
FZ−2161(日本ユニカー社製、界面活性剤) 0.16質量部
純水 40.62質量部
固形分濃度 20質量%
これらの組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、濾過して下層塗布液を作製した。
【0125】
[親水性層塗布液の調液]
スノーッテックス−S(日産化学社製、固形分30質量%) 5.2質量部
スノーッテックス−PSM(日産化学社製、固形分20質量%) 11.7質量部
MP−4540M(日産化学社製、固形分30質量%) 4.5質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学社製試薬) 0.12質量部
リン酸三ナトリウム・12水和物(関東化学社製) 0.06質量部
シルトンJC−20(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子)1.2質量部
シルトンAMT08(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子)3.6質量部
ミネラルコロイドMO(Southern Clay Products社製) 0.24質量部
Black#3550(大日精化(株)社製、Cu−Fe−Mn系)4.08質量部
純水 12.3質量部
固形分濃度 30質量%
これらの組成をホモジナイザーを用いて十分に攪拌混合した後、濾過して親水性層塗布液を作製した。
【0126】
下層、親水性層の塗布
それぞれの下層親水性層塗布液を上記バックコート層を塗布済みの支持体の裏面(下引き塗布面A)にワイヤーバー#5を用いて塗布し15mの長さの100℃に設定押された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。引き続き上層親水層の塗布液をワイヤーバー#4を用いて塗布し30mの長さの100℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。下層、親水性層それぞれの付量は2.5g/m2、1.6g/m2であった。塗布後のサンプルは60℃で1日間のエイジングを行なった。
【0127】
[画像形成層塗布液の調液]
下記の組成の画像層を上記で作製した上層親水性層の上にワイヤーバー#4を用いて塗布し、30mの長さの70℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させ、画像形成層を形成した。画像形成層の付量は0.55g/m2であった。塗布後のサンプルは50℃で2日間のエイジングを行なった。
【0128】
カルナバワックスエマルジョン:A118(岐阜セラック社製、平均粒子径0.4μm、融点80℃、固形分40質量%) 22.63質量部
二糖類トレハロース
(林原商事社製商品名トレハ、融点97℃)の20質量%水溶液 2.00質量部
ポリアクリル酸ナトリウム:アクアリックDL522
(日本触媒社製)の水溶液、固形分10質量% 25.00質量部
イソプロピルアルコール 1.50質量部
純水 48.88質量部
固形分濃度 10質量%
上記平版印刷版材料を660mm幅に断裁し、外径76mmの紙コアに30m巻回し、ロール状平版印刷版材料を得た。
【0129】
実施例2
実施例1の親水性層含有の顔料(Black#3550)を、ETB−300(チタン工業(株)社製、平均粒径:0.2μm)にした以外は実施例1と同一とした。
【0130】
実施例3
実施例1の親水性層含有の顔料(Black#3550)を、RB−BL(チタン工業(株)社製、平均粒径:1.1μm)にした以外は実施例1と同一とした。
【0131】
実施例4
実施例2の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子(シルトンJC−20、シルトンAMT−08L)を、(神島化学工業社製、カルシーズX−25、平均粒径:0.25μm)にした以外は実施例2と同一とした。
【0132】
実施例5
実施例2の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子(シルトンJC−20、シルトンAMT−08L)を、(堺化学工業社製、LPZINK−11、平均粒径:11μm)にした以外は実施例2と同一とした。
【0133】
実施例6
実施例2の構成で、画像形成層のワックス(A−118)を、(日本精鑞社製、EMUSTAR−0443、融点:55℃)にした以外は実施例2と同一とした。
【0134】
実施例7
実施例2の構成で、画像形成層のワックス(A−118)を、(中京油脂社製、ハイミクロンZJ−557、融点:120℃)にした以外は実施例2と同一とした。
【0135】
実施例8
実施例2の構成で、画像形成層のワックス(A−118)を16.25質量部、トレハロース(トレハ)を27.5質量部にした以外は実施例2と同一とした。
【0136】
実施例9
実施例2の構成で、画像形成層のワックス(A−118)を24.25質量部、ポリアクリル酸ナトリウム(DL522)を6.67質量部、トレハロース(トレハ)を1.00質量部にした以外は実施例2と同一とした。
【0137】
(画像形成)
印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径が約20μmのレーザービームものを用い、露光エネルギーを250mJ/cm2として、2400dpi(dpiとは2.54cm当たりのドットの数をいう)、175線で画像を形成した。露光した画像は印刷版材料全面を50%の網点画像としたものである。
【0138】
(印刷方法)
次に示す条件で印刷を行なった。印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、PS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷した。
【0139】
印刷機:三菱重工工業(株)製DAIYA F−1
印刷用紙:OKトップコート+
印刷速度:6、000枚/時
湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%
インキ:(東洋インキ社製TKハイユニティ紅)
(各評価方法)
異物耐性
作製した印刷版を前述の画像形成方法で印刷版全面を50%網点で露光する。次に前述の印刷方法の条件で印刷を開始し、50枚ほど印刷した時点で一旦停止する。印刷機のブランケットにインキが付いた状態で、ゴミや異物の代用として5mmほどに切ったナイロン製の釣り糸(148μm)をブランケットに貼り付けていく。その後印刷を開始し、100枚印刷する毎に少しずつ釣り糸を拭き取っていき、1000枚まで印刷する。その後、ブランケットを洗浄して再度印刷を行い、100枚目をサンプリングして印刷物へのダメージの度合いを評価する。500枚目まで釣り糸の傷跡の出なかったものを合格とした。
【0140】
耐刷性
50%網点画像がかすれ始めた時点の印刷枚数を耐刷性の指標とした。10,000枚以上耐刷性のあるものを合格とした。
【0141】
非画線部汚れ
印刷物のレーザーで露光していない部分(非画線部)の濃度を測定し、Macbeth RD918を用いてMのモードで測定した値が0.10未満であるものを合格とした。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
表1、表2より、本発明の印刷版材料及び印刷方法は、印刷版の現像前の取り扱いにおいて、異物からの衝撃、耐刷性、印刷物の非画像部の汚れが良好であり、従来と同等の作業性を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性層に含有する顔料の平均粒径が0.1μm〜1.0μmであり、顔料以外の無機粒子又は無機素材で被覆された粒子の平均粒径が0.5μm〜10μmであることを特徴とする平版印刷版材料。
【請求項2】
画像形成層に含有する熱溶融粒子の融点が60℃〜100℃であり、画像形成層中の固形分中の含有率が70質量%〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版材料。
【請求項3】
機上現像性を有する請求項1又は2に記載の印刷版材料を用いて印刷することを特徴とする印刷方法。

【公開番号】特開2007−276195(P2007−276195A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102865(P2006−102865)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】