説明

平版印刷版材料

【課題】本発明の目的は、印刷性能への悪影響なく、平版印刷版材料の生産時に所定のサイズに断裁する際の粉落ちによる工程汚染を著しく軽減した平版印刷版材料を提供することにある。
【解決手段】支持体の上に親水性層および画像形成層を支持体の側からこの順に有する平版印刷版材料において、親水性層または画像形成層に、熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有することを特徴とする平版印刷版材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版材料に関し、特にコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な感熱の画像形成層を有する平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、印刷の分野においては、印刷画像データのデジタル化に伴い、CTP方式による印刷が行われるようになってきているが、この印刷においては、安価で取り扱いが容易で従来の所謂PS版と同等の印刷適性を有したCTP方式用平版印刷版材料が求められている。
【0003】
特に近年、特別な薬剤(例えばアルカリ、酸、溶媒など)を含む処理液による現像処理を必要とせず、従来の印刷機に適用可能である平版印刷版材料が求められており、例えば、全く現像処理を必要としない相変化タイプの平版印刷版材料、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする平版印刷版材料、印刷機上で印刷の初期段階で現像処理を行い特に現像工程を必要としない平版印刷版材料などの、ケミカルフリータイプ平版印刷版材料やプロセスレスタイプ平版印刷版材料と呼ばれる平版印刷版材料が知られている。
【0004】
プロセスレスCTPとしては、印刷機上で湿し水やインクを用いて画像形成層の非画像部を除去する、機上現像タイプが多く知られており、この例として例えば、特許2938397号や特許2938398号に開示されているような、親水性層もしくはアルミ砂目上に熱可塑性微粒子、水溶性の結合剤、光熱変換素材を含有する画像形成層を設けた平版印刷版材料が挙げられる。
【0005】
この構成においては、赤外線レーザ露光により画像形成層中の光熱変換素材が発熱し、熱可塑性微粒子を熱融着させることで耐水性を有する画像部とするが、アルミ砂目は熱伝導性が比較的良好であるため、画像形成層の露光部で生成した熱は、急速にアルミ砂目へと伝導する。
【0006】
このため、特に画像部画像形成層とアルミ砂目との界面近傍の温度を上昇させることが困難となり、画像形成層素材のアルミ砂目への融着が進行しにくくなって、画像形成に要するエネルギーが高く(低感度)、また、画像部の接着性も不十分(低耐刷)となりやすい。
【0007】
上記の問題を解決する平版印刷版材料構成のひとつとして、光熱変換素材として光熱変換剤粒子を含有する親水性層を有する赤外線レーザ記録用の平版印刷版材料が種々検討されている。
【0008】
例えば、このような光熱変換剤粒子を含有し、光熱変換剤を含有する親水性層上に、上述の熱可塑性微粒子と水溶性素材とを含有するような感熱画像形成層を設けた構成の平版印刷版材料や、光熱変換剤を含有する親水性層上に疎水性の薄層を設けた構成の平版印刷版材料が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0009】
これらの平版印刷版材料は、親水性層用の塗布液を塗布し、乾燥してその上に感熱画像形成層を設層している。
【0010】
しかしながら、これらの平版印刷版材料においては親水性層の無機粒子成分が脱落しやすく印刷時、特に刷りだし時において、非画像部に汚れがでる場合がある、あるいは色濁りが発生する場合があるなど、印刷適性において充分なものではなかったため、これらを改善すべく親水性層塗布後に表面の脱落しやすい粒子を磁力等を用いてクリーニングする技術が知られている。(特許文献3参照)
しかしながら、この場合、印刷版表面からの脱落は防止できる反面、平版印刷版材料を所定のサイズに断裁する際の粉落ちへの対応が不十分であった。
【0011】
これらの粉落ちを抑制する方法として、親水性層中に、熱可塑性樹脂を含有させることで、強度を上げる手段が挙げられるが、通常の一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合、親水性層の親水性を損ねることにより、印刷汚れの発生する原因となっていた。
【0012】
また、その他の技術として、支持体上に、疎水性化前駆体および有機無機複合体を含有する、熱により疎水性となる親水性の画像形成層を有する平版印刷版材料であり、該有機無機複合体が、金属錯体化合物および有機親水性樹脂を共存させた条件で、加水分解し、重縮合することによって平版印刷版が得られるという技術が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、この場合には、熱で疎水化する親水性層中に、有機無機複合体を有しているため、印刷時に汚れが生じやすいという問題があった。
【特許文献1】特開2000−225780号公報
【特許文献2】特開2000−355178号公報
【特許文献3】特開2004−189439号公報
【特許文献4】特開2002−25484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、これら上記の粉落ちを抑制する方法として、上述の親水性層に本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有させることにより、複合エマルジョンの疎水性の大きなポリマー粒子の周りを親水性の小さなコロイダルシリカ粒子が強固に化学的結合をしながら包み込み好適に親水性化していることで、親水性の低下による現像性を劣化させることなく裁断時の粉落ちを改善させることができることを見出した。
【0014】
さらには、画像形成層に、本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有させることで、平版印刷版としての耐久性(印刷時の耐刷性)の向上と、印刷時のブランケット汚れの軽減を両立できることをも見出した。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、印刷性能への悪影響なく、平版印刷版材料の生産時に所定のサイズに断裁する際の粉落ちによる工程汚染を著しく軽減した平版印刷版材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0017】
1.支持体上に親水性層および画像形成層を支持体の側からこの順に有する平版印刷版材料において、親水性層または画像形成層が、熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有することを特徴とする平版印刷版材料。
【0018】
2.支持体表面がアルミニウムの陽極酸化皮膜であることを特徴とする1に記載の平版印刷版材料。
【0019】
3.前記親水性層が、少なくともコロイダルシリカを含有することを特徴とする1または2に記載の平版印刷版材料。
【0020】
4.前記熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンが、少なくとも、スチレン/アクリル共重合樹脂、またはアクリル共重合樹脂、とコロイダルシリカからなることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版材料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、印刷性能への悪影響なく、平版印刷版材料の生産時に所定のサイズに断裁する際の粉落ちによる工程汚染を著しく軽減した平版印刷版材料を提供することができる。
【0022】
更には、印刷時の耐刷性の向上と、印刷後のブランケット汚れの軽減を両立できる平版印刷版材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
本発明の平版印刷版材料は、支持体上に、親水性層と画像形成層を有する平版印刷版材料において、親水性層または画像形成層に熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有することを特徴とする。
【0025】
〔親水性層〕
本発明に係る親水性層および親水性層を構成する素材について説明する。
【0026】
<光熱変換剤粒子>
本発明に係る親水性層は光熱変換剤粒子を含有することが好ましい。
【0027】
光熱変換剤粒子は、画像露光により発熱して感熱画像形成層に画像を形成しうる機能を有する粒子であり、金属酸化物粒子もしくは金属酸化物で表面を被覆された粒子である。
【0028】
光熱変換剤粒子の粒子径としては、平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0029】
平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。
【0030】
金属酸化物剤粒子としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材からなる粒子を使用することができる。
【0031】
前者としては、例えば黒色酸化鉄(Fe)や、二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0032】
後者としては、例えばSbをドープしたSnO(ATO)、Snを添加したIn(ITO)、TiO、TiOを還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。
【0033】
又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO、TiO、9Al・2BO、KO・nTiO等)を被覆したものも使用することができる。
【0034】
これらの光熱変換剤粒子のうち、黒色酸化鉄および二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。
【0035】
黒色酸化鉄粒子としては、針状比(長軸径/短軸径)が1〜1.5の範囲の粒子であることが好ましく、実質的に球状(針状比1)であるか、もしくは、八面体形状(針状比約1.4)を有していることが好ましい。
【0036】
このような黒色酸化鉄粒子としては、例えば、チタン工業社製のTAROXシリーズが挙げられる。
【0037】
球状粒子としては、BL−100(粒子径0.2〜0.6μm)、BL−500(粒子径0.3〜1.0μm)等を好ましく用いることができる。
【0038】
また、八面体形状粒子としては、ABL−203(粒子径0.4〜0.5μm)、ABL−204(粒子径0.3〜0.4μm)、ABL−205(粒子径0.2〜0.3μm)、ABL−207(粒子径0.2μm)等を好ましく用いることができる。
【0039】
さらに、これらの粒子表面をSiO等の無機物でコーティングした粒子も好ましく用いることができ、そのような粒子としては、SiOでコーティングされた球状粒子:BL−200(粒子径0.2〜0.3μm)、八面体形状粒子:ABL−207A(粒子径0.2μm)が挙げられる。
【0040】
二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物粒子としては、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物粒子が挙げられる。
【0041】
これらは、特開平8−27393号公報、特開平9−25126号公報、特開平9−237570号公報、特開平9−241529号公報、特開平10−231441号公報等に開示されている方法により製造することができる。
【0042】
本発明に用いることができる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物が好ましい。
【0043】
Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号公報に開示されている処理を施すことが好ましい。
【0044】
金属酸化物で表面を被覆された粒子としては、例えば後述する金属粒子やカーボンブラック粒子、グラファイト粒子などが挙げられる。
【0045】
金属粒子の表面は薄い酸化物皮膜が形成されているため、金属酸化物で被覆された粒子であると言える。
【0046】
金属としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0047】
また、特開2000−3551788号に記載されている、磁性を有する鉄合金粒子も用いることができる。
【0048】
カーボンブラック粒子としては特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0049】
グラファイト粒子としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0050】
これらのカーボンブラック粒子やグラファイト粒子は、例えば、特開2000−3551788号に記載されているような方法を用いて表面を金属酸化物で被覆することで、本発明に用いることができる。
【0051】
また、金属酸化物粒子や金属粒子をさらにSiO等の金属酸化物で被覆したものも好ましく用いることができる。
【0052】
これらの光熱変換剤粒子の添加量としては、親水性層に対して0.1〜90質量%であることが好ましいが、15質量%以上であることが好ましく、本発明においては高感度化と耐刷性との両立のために、15〜70質量%であることがより好ましく、15〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明に係る光熱変換剤粒子としては、下記の親水性素材としての機能を合わせ持つものも好ましく使用できる。
【0054】
<親水性層のその他の含有可能な素材>
本発明に係る親水性層は、親水性素材を含有する。親水性素材としては、金属酸化物が好ましく用いられる。
【0055】
金属酸化物としては、金属酸化物微粒子の状態で用いるのが好ましい。
【0056】
例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。
【0057】
この金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良い。平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0058】
上記金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0059】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、炭素原子を含まない素材が91質量%以上というような層においても良好な強度を得ることができる。
【0060】
また、コロイダルシリカは粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。
【0061】
又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0062】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0063】
本発明に係る親水性層は親水性素材としての金属酸化物として多孔質金属酸化物粒子を含むことが好ましい。
【0064】
多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0065】
多孔質シリカ多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子多孔質シリカ粒子は一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。
【0066】
粒子の多孔性としては、分散前の状態で細孔容積で1.0ml/g以上であることが好ましく、1.2ml/g以上であることがより好ましく、1.8〜2.5ml/g以下であることが更に好ましい。
【0067】
親水性層中には親水性有機樹脂を含有させてもよい。
【0068】
親水性有機樹脂としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂、糖類が挙げられる。
【0069】
又、カチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0070】
上記の糖類としては、オリゴ糖を用いることもできるが、特に多糖類を用いることが好ましい。
【0071】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0072】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0073】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜50μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0074】
このような凹凸構造は、親水性層に適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷性能を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0075】
また、親水性層の膜厚としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、更に好ましくは0.5〜3μmである。
【0076】
親水性層用塗布液は、上記の親水性層に用いられ素材と塗布溶媒からなる。
【0077】
塗布溶媒としては、水が好ましく用いられるが、アルコール類等の水と相溶する溶媒を含有することもできる。
【0078】
また、親水性層用塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。
【0079】
Si系やF系やアセチレングリコール系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。
【0080】
該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0081】
また、本発明に係る親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0082】
本発明に係る親水性層は、画像露光による画像様加熱により画像を形成するために光熱変換剤粒子を含有するが、このようなタイプの平版印刷版材料においては、親水性層中の光熱変換剤粒子の含有比率が感度に影響し、高感度化のためには、光熱変換剤粒子の含有比率を増加させる必要がある。
【0083】
しかしながら、単に光熱変換剤粒子の含有比率を増加させると、親水性層の塗膜としての結合強度が低下する場合があるなどの問題があった。
【0084】
これは、親水性層中の光熱変換剤粒子の含有比率が増加すると、光熱変換剤粒子を層中に保持固定する親水性バインダの比率が減少することになり、光熱変換剤粒子の保持能力が低下するためと推定された。
【0085】
光熱変換剤粒子の脱落を抑制する方法としては、親水性バインダの架橋を制御して強度を向上させたり、光熱変換剤粒子を表面処理してバインダとの結合力を向上させたりするなどして親水性層自体の塗膜強度を向上させることで光熱変換剤粒子の保持能力を向上させることが考えられるが、この方法は親水性層の親水性の低下が大きい。
【0086】
<本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョン>
本発明の態様の一つは、親水性層に、本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有する。
【0087】
本発明に係る「熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョン」とは、例えば、ポリマー粒子の周囲に小粒系のコロイダルシリカ粒子が化学結合した状態のエマルジョンが挙げられる。具体的には、ニチゴー・モビニール株式会社製、モビニール8000シリーズ等である。
【0088】
熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンが、少なくとも、スチレン/アクリル共重合樹脂、またはアクリル共重合樹脂、とコロイダルシリカからなる複合エマルジョンであることが好ましい。
【0089】
これら本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを親水性層に用いることにより、樹脂ポリマー同士の熱融着と親水性の高いコロイダルシリカ粒子の造膜抑制のバランスにより、微細な細孔を形成することが出来、塗膜の強度を確保をすると同時に、親水性を高く維持することが出来るものと推測される。
【0090】
親水性層中の本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンの含有量は、通常1から50質量%である。
【0091】
<塗布・乾燥方法>
上記の親水性層用塗布液を後述の支持体上に塗布する塗布方法としては、公知の塗布方法、例えばバー塗布、ロール塗布、押し出し塗布等、どのような塗布方法であっても用いることができる。
【0092】
乾燥温度としては、70℃以上であることが好ましい。支持体が樹脂である場合には、80〜150℃の範囲であることがより好ましい。また、支持体が金属である場合には、80℃〜300℃の範囲であることがより好ましい。
【0093】
乾燥時間としては1秒間〜5分間の範囲が好ましく、5〜2分間の範囲がより好ましい。また、乾燥温度と乾燥時間との組み合わせによっては、支持体に熱ダメージを与える可能性があるため、支持体が熱ダメージを受けない条件とすることが好ましい。
【0094】
〔支持体〕
支持体としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。
【0095】
例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合支持体等が挙げられる。支持体の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0096】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。
【0097】
例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。
【0098】
本発明において、支持体の表面がアルミニウムの陽極酸化皮膜であることが好ましい。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組み合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム支持体を使用することもできる。
【0099】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。
【0100】
本発明に係る支持体としては、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0101】
これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。下塗り層に、有機または無機の公知の導電性素材を含有させることもできる。
【0102】
また、裏面のすべり性を制御するために粗面を有する裏面コート層を設けた支持体や公知の導電性素材を含有する裏面コート層を設けた支持体も好ましく使用することができる。
【0103】
〔画像形成層〕
親水性層塗布工程を経た後、後述するような画像形成層を形成することで、平版印刷版材料とすることができる。
【0104】
画像形成は、露光部の画像形成層が熱によって親水性表面を有する基材上から除去されやすくなる方向へと変化する、いわゆるポジ版であってもよいし、あるいは、露光部の画像形成層が熱によって除去されにくくなる方向へと変化する、いわゆるネガ版であってもよい。
【0105】
本発明の平版印刷版材料の好ましい態様としては、露光部の画像形成層が熱によって親水性表面を有する基材上から除去されにくくなる方向へと変化する、ネガ版タイプの平版印刷版材料である。
【0106】
このような、露光部が熱によって親水性層上から除去されにくくなる方向へと変化する画像形成層としては、例えば、親水性層を熱により親水性層から疎水性への変化させ得る疎水化前駆体と水溶性もしくは水分散性素材とを含有する画像形成層を挙げることができる。
【0107】
疎水化前駆体としては、例えば熱によって親水性(水溶性または水膨潤性)から疎水性へと変化するポリマー、具体的には、例えば、特開2000−56449号に開示されている、アリールジアゾスルホネート単位を含有するポリマーを挙げることができる。
【0108】
本発明に係る画像形成層には、疎水化前駆体として、熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子等の熱可塑性疎水性微粒子などを好ましく用いることができる。
【0109】
熱可塑性疎水性微粒子としては、後述する熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子を挙げることができる。
【0110】
熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0111】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0112】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、平版印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0113】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒子径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒子径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒子径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0114】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0115】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0116】
層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0117】
熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、高分子重合体微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000、000の範囲であることが好ましい。
【0118】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0119】
又、熱融着性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒子径は機上現像性、感度などの面から0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。
【0120】
又、熱融着性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0121】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0122】
マイクロカプセルとしては、例えば特開2002−2135号や特開2002−19317号に記載されている疎水性素材を内包するマイクロカプセルを挙げることができる。
【0123】
マイクロカプセルは平均径で0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがさらに好ましい。
【0124】
画像形成層は水溶性素材を含んでもよく水溶性素材としては下記のような素材を挙げることができる。
【0125】
<水溶性高分子化合物>
画像形成層に含有される水溶性素材としては、pH4からpH10の水溶液に溶解する公知の水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0126】
具体的には、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0127】
これらのなかでは、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0128】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルラン、キトサン、またはこれらの誘導体などが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0129】
ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミドとしては、分子量3000〜100万であることが好ましく、5000〜50万であることがより好ましい。
【0130】
これらの中では、ポリアクリル酸Naといったポリアクリル酸塩が最も好ましい。ポリアクリル酸塩は親水性層の親水化処理剤としての効果が高く、画像形成層が機上現像されて現れる親水性層の表面の親水性を向上させることができる。
【0131】
<オリゴ糖>
水溶性素材としては、上述の水溶性高分子化合物以外にオリゴ糖を含有させることができる。
【0132】
オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。
【0133】
<画像形成層に含有可能なその他の素材>
また、画像形成層には光熱変換素材として、赤外線吸収色素を含有させることができる。赤外線吸収色素の含有量としては、色素の可視光での着色の程度によって、機上現像時の印刷機汚染との兼ね合いを考慮する必要があるが、一般的に平版印刷版材料の単位面積あたりとして、0.001g/m以上、0.2g/m未満であることが好ましく、0.05g/m未満であることがより好ましい。また、可視光での着色が少ない色素を用いることが好ましいことは言うまでもない。
【0134】
赤外線吸収色素の具体例としては公知のものが挙げられる。
【0135】
また、画像形成層には、界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0136】
さらに、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していても良い。
【0137】
<本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョン>
本発明の態様のもう一つは、本発明に係る画像形成層に、本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有する。
【0138】
本発明の態様の更にもう一つは、本発明に係る画像形成層および親水性層に、本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有する。
【0139】
本発明における熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンとは、親水性層で述べたものと同様なものを好ましく用いることが出来る。これらは、画像形成層の有機成分と親水性層の無機成分との結合性を高めるために、印刷版の耐久性を高めることが出来るものと推測される。
【0140】
画像形成層中の本発明に係る熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンの含有量は、通常1から50質量%である。
【0141】
〔像様加熱〕
本発明の平版印刷版材料は、像様加熱され、その後に後述の機上現像方法により機上現像されることで印刷可能な状態になる。
【0142】
像様加熱する方法としては、前記のようにサーマルヘッドなどの媒体による加熱あるいはレーザー光の照射による方法があるが、レーザー光を用いる方法が本発明においては好ましい。レーザー光を用いる方法の中でも、特にサーマルレーザーによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。
【0143】
例えば赤外及び/または近赤外領域で発光する、即ち700〜1500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。
【0144】
レーザーとしてはガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用することが特に好ましい。
【0145】
走査露光に好適な装置としては、この半導体レーザーを用いてコンピュータからの画像信号に応じて平版印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0146】
一般的には、(1)平板状保持機構に保持された平版印刷版材料に一本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って平版印刷版材料全面を露光する方式、(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された平版印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて平版印刷版材料全面を露光する方式、(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された平版印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて平版印刷版材料全面を露光する方式が挙げられる。又特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)の露光方式が用いられる。
【0147】
〔機上現像方法〕
平版印刷の方法としては、平版印刷材料の画像露光による未露光部は、印刷時に印刷機上で除去されて非画像部となり印刷が行われる。
【0148】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。
【0149】
また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断りない限り、実施例中の「部」は「質量部」を示す。
【0151】
実施例1
(支持体の作製)
厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050、調質H16)を、50℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、溶解量が2g/mになるように溶解処理を行い水洗した後、25℃の0.1質量%塩酸水溶液中に30秒間浸漬し、中和処理した後水洗した。
【0152】
次いでこのアルミニウム板を、塩酸10g/L、アルミを0.5g/L含有する電解液により、正弦波の交流を用いて、ピーク電流密度が50A/dmの条件で電解粗面化処理を行った。この際の電極と試料表面との距離は10mmとした。電解粗面化処理は12回に分割して行い、一回の処理電気量(陽極時)を40C/dmとし、合計で480C/dmの処理電気量(陽極時)とした。また、各回の粗面化処理の間に5秒間の休止時間を設けた。
【0153】
電解粗面化後は、50℃に保たれた1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して、粗面化された面のスマット含めた溶解量が1.2g/mになるようにエッチングし、水洗し、次いで25℃に保たれた10%硫酸水溶液中に10秒間浸漬し、中和処理した後水洗した。次いで、20%硫酸水溶液中で、20Vの定電圧条件で電気量が150C/dmとなるように陽極酸化処理して陽極酸化被膜の形成を行い、さらに水洗した。
【0154】
次いで、水洗後の表面水をスクイーズした後、70℃に保たれた1質量%のリン酸二水素ナトリウム水溶液に30秒間浸漬し、水洗を行った後に80℃で5分間乾燥し、支持体1を得た。支持体1のRaは460nmであった(WYKO社製RST Plusを使用し、40倍で測定した)。
【0155】
(親水性層基準塗布液の調製)
下記表1に示す組成の素材を、ホモジナイザを用いて、回転数10000回転で10分間混合分散した。
【0156】
次いで、これをろ過して固形分20質量%の親水性層基準塗布液を得た。
【0157】
親水性層基準塗布液の組成
【0158】
【表1】

【0159】
上記の親水性層基準塗布液の100質量部に、固形分20質量%に調整した表2記載の「本発明に係る複合エマルジョン又は比較のエマルジョン」を表2記載の質量部添加して、表2記載の親水性層塗布液1〜4を調製した。
【0160】
(親水性層塗布液の塗布乾燥)
コーター/乾燥部を二基有する塗布ラインで、ラインスピード30m/minの搬送速度で上述の支持体1上に親水性層塗布液1〜4を表2記載のように、乾燥時膜厚が1.0μmとなるように、塗布、乾燥し、親水性層を塗布形成して、親水性層を内側としてロール状に巻き取った。
【0161】
(エイジング処理)
親水性層を塗布形成し、巻き取ったサンプルのロールを60℃の恒温炉に入れ、48時間のエイジング処理を行った。
【0162】
《平版印刷版材料101〜104の作製》
(画像形成層塗布液の調製)
下記組成の素材を十分に混合攪拌し、濾過して固形分10質量%の画像形成層塗布液1を作製した。
【0163】
上記の親水性層塗布液を塗布、乾燥し、エイジング処理した試料の親水性層上に、下記画像形成層塗布液1を、ワイヤーバーを用いて乾燥付量が0.7g/mとなるように塗布し、55℃で1分間乾燥した。次いで、40℃24時間のエイジング処理を行って、平版印刷版材料101〜104を得た。
【0164】
(画像形成層塗布液1の組成)
カルナバワックスエマルジョン:A118(岐阜セラック社製、平均粒子径0.3μm、軟化点65℃、融点80℃、140℃での溶融粘度8cps、固形分40質量%)
17部
二糖類トレハロース(林原商事社製商品名トレハ、融点97℃)の水溶液、固形分20質量% 12部
ポリアクリル酸ナトリウム:アクアリックDL522(日本触媒社製)の水溶液、固形分10質量% 6部
光熱変換色素:ADS830WS(American Dye Source社製)の1質量%水溶液 55部
純水 10部
《平版印刷版材料201〜204の作製》
上記の親水性層塗布液1を塗布、乾燥し、エイジング処理した試料の親水性層上に、上記の画像形成層塗布液1の100質量部に、固形分20質量%に調整した表3記載の「本発明に係る複合エマルジョン又は比較のエマルジョン」を表3記載の質量部添加した画像形成層塗布液1〜4を、表3記載のように塗布した他は、平版印刷版材料101〜104の作製の場合と同様にして、塗布、乾燥、エイジング処理して、表3記載のように平版印刷版材料201〜204を作製した。
【0165】
《平版印刷版材料301〜304の作製》
上記の親水性層塗布液1〜4を表4記載のように塗布、乾燥し、エイジング処理した試料の親水性層上に、上記の画像形成層塗布液1の100質量部に、固形分20質量%に調整した表4記載の「本発明に係る複合エマルジョン又は比較のエマルジョン」を表4記載の質量部添加した画像形成層塗布液1〜4を、表4記載のように塗布した他は、平版印刷版材料101〜104、201〜204の作製の場合と同様にして、塗布、乾燥、エイジング処理して、表4記載のように平版印刷版材料301〜304を作製した。
【0166】
(平版印刷版材料の断裁)
エイジング処理後の平版印刷版材料を、カッティングマット上でエヌティー株式会社製カッターL−300RPを用いて670mm×560mmのサイズとなるように断裁を行った。
【0167】
《評価方法》
〔断裁時の粉落ち〕の評価
平版印刷版材料を断裁後のカッティングマット上の断裁部分の断裁時の粉落ちをルーペ(倍率:10倍)で観察し、下記基準に則り「断裁時の粉落ち」を評価した。
【0168】
◎:ルーペで粉落ち視認できず
○:ルーペで微小な粉が観察された
△:目視で微小な粉が観察された
×:目視で容易に粉落ちが多量に観察された
〔耐刷性〕および[ブランケット汚れ]の評価
(赤外線レーザによる露光)
上記平版印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザビームを用い、2400dpi(dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。)、175線で画像を形成した。露光した画像はベタ画像と1〜99%の網点画像と2400dpiのラインアンドスペース細線画像および印刷版の四隅に位置確認用のトンボとを含むものである。
【0169】
(印刷)
K(黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各平版印刷版材料に画像露光を行い、次いで小森コーポレーション(株)製リスロン426印刷機にて、用紙:OKトップコート(王子製紙(株)製)、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク:TKハイユニティネオ墨、藍、紅、黄(東洋インキ社製)を用いて9000枚/時の印刷速度で印刷を行った。印刷の順序はK→C→M→Yの刷り順で行った。
【0170】
露光後の平版印刷版材料をそのまま印刷機の版胴に取り付け、PS版と同様の印刷条件および刷り出しシークエンスを用いて30000枚まで印刷を行った。
【0171】
〔耐刷性〕
印刷開始後500枚目の印刷物の2%の網点部を基準とし、印刷開始から印刷枚数2000枚ごとにサンプリングを行い、網点の欠け具合をルーペ(倍率:30倍)で観察し、下記基準に則り「耐刷性」を評価した。
【0172】
◎:30000枚以後も2%の網点欠けなし
○:30000枚以後も2%の網点欠けなし
△:20000枚から30000枚未満で2%の網点一部欠けが発生
×:20000枚未満で2%の網点一部欠けが発生
[ブランケット汚れ]
刷り出しから5000枚印刷終了後のK(黒)ブランケットの反射濃度(D2)を、X−Rite社製、X−Rite520を用いて、Status−Tのvisual濃度を測定し、印刷前のブランケットの反射濃度(D1)からの濃度差分(D2−D1)を求め、下記基準に則り「ブランケット汚れ」を評価した。
【0173】
◎:0.05未満
○:0.08未満
△:0.08以上0.20未満
×:0.20以上
結果を、表2、表3、表4に示す。
【0174】
【表2】

【0175】
モビニール8010:スチレン−アクリル酸エステル共重合体・コロイダルシリカの複合エマルジョン、平均粒子径80nm(光子相関法)、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
モビニール8020:アクリル酸エステル共重合体・コロイダルシリカの複合エマルジョン、平均粒子径100nm(光子相関法)、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
モビニール880:スチレン−アクリル酸エステル共重合体のエマルジョン、平均粒子径75nm(光子相関法)、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
表2から明らかなように、本発明の場合には、断裁時の粉落ちに優れ、しかも、耐刷性、ブランケット汚れ、に優れていることがわかる。
【0176】
【表3】

【0177】
モビニール8030:アクリル酸エステル共重合体・コロイダルシリカの複合エマルジョン、平均粒子径80nm(光子相関法)、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
モビニール8055A:スチレン−アクリル酸エステル共重合体・コロイダルシリカの複合エマルジョン、平均粒子径80nm(光子相関法)、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
モビニール749E:スチレン−アクリル酸エステル共重合体のエマルジョン、(ニチゴー・モビニール株式会社製)
表3から明らかなように、本発明の場合には、断裁時の粉落ちに優れ、しかも、耐刷性、ブランケット汚れ、に優れていることがわかる。
【0178】
【表4】

【0179】
表4から明らかなように、本発明の場合には、断裁時の粉落ちに優れ、しかも、耐刷性、ブランケット汚れ、に優れていることがわかる。
【0180】
表2〜表4から明らかなように、本発明により、印刷性能への悪影響なく、平版印刷版材料の生産時に所定のサイズに断裁する際の粉落ちによる工程汚染を著しく軽減した平版印刷版材料を提供できることがわかる。
【0181】
更には、本発明により、平版印刷版材料の生産時に所定のサイズに断裁する際の粉落ちによる工程汚染、平版印刷版材料を印刷機に取り付ける際の印刷機汚染、および作業者の平版印刷版材料取り扱い時の汚れを著しく軽減する平版印刷版材料を提供することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に親水性層および画像形成層を支持体の側からこの順に有する平版印刷版材料において、親水性層または画像形成層が、熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンを含有することを特徴とする平版印刷版材料。
【請求項2】
支持体表面がアルミニウムの陽極酸化皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版材料。
【請求項3】
前記親水性層が、少なくともコロイダルシリカを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の平版印刷版材料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂と無機粒子からなる複合エマルジョンが、少なくとも、スチレン/アクリル共重合樹脂、またはアクリル共重合樹脂、とコロイダルシリカからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版材料。

【公開番号】特開2009−248562(P2009−248562A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103450(P2008−103450)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】