説明

平版印刷用湿し水組成物及び平版印刷法

【課題】親水性化合物を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版する平版印刷版による平版印刷において、画像部へのインキ着肉性が良好でインキ濃度の高い印刷物を得ることができる、平版印刷用湿し水組成物を提供する。
【解決手段】一気圧において20℃で液体であって沸点150℃以上の有機溶剤、及び特定のカチオン性界面活性剤を含む湿し水組成物、その湿し水組成物から調製された湿し水を使用する平版印刷法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷用湿し水組成物に関する。特に、版面画像部に良好なインキ受容性を与える平版印刷用湿し水組成物に関する。本発明はさらに、該平版印刷用湿し水組成物から調製された湿し水を使用する平版印刷法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。平版印刷では、湿し水によって、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大させることがなされる。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。このような平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行なった後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体の表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版して、平版印刷版を得ている。
【0003】
一方、近年、画像情報をコンピューターによって電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピューター・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。
また、平版印刷版原版を露光の後、不要な画像記録層を現像液などによって溶解除去する工程が行なわれているが、このような付加的に行なわれる湿式処理を不要化し又は簡易化することも検討されてきている。このような簡易な製版方法の一つとして、平版印刷版原版の不要部分の除去を通常の印刷工程の中で行なえるような画像記録層を用い、露光後、印刷機上で非画像部を除去し、平版印刷版を得る、機上現像と呼ばれる方法が提案されている。機上現像の具体的方法としては、例えば湿し水、インキ溶剤又は湿し水とインキとの乳化物に溶解し又は分散することが可能な画像記録層を有する平版印刷版原版を用いる方法、印刷機のローラー類やブランケットとの接触により、画像記録層の力学的除去を行なう方法、湿し水、インキ溶剤などの浸透によって画像記録層の凝集力又は画像記録層と支持体との接着力を弱めた後、ローラー類やブランケット胴どの接触により画像記録層の力学的除去を行なう方法などがある。
【0004】
上述のCTP用平版印刷版原版の一例として、光重合型の平版印刷版原版が提案されている。光重合型の平版印刷版原版には、一般的に重合開始剤(光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物)が用いられるため、空気中の酸素によるラジカル失活を抑制して重合効率を向上させるため、画像記録層の上に酸素遮断性の保護層が通常設けられる。この保護層としてはポリビニルアルコールがよく知られている。また、酸素遮断性保護層に無機質の層状化合物を含有させることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
このような酸素遮断性保護層に使用されている化合物は、現像後の画像部表面に一部残存して、それ自体の親水性により、及び/又は、その無機化合物の表面に湿し水中の親水性成分が吸着することによって、印刷中に画像部表面の充分なインキ受容性が失われ、その結果、印刷物上のインキ濃度が低下してしまうインク着肉不良の問題が起こることがある。
【0005】
従来、印刷適性に優れた平版印刷用湿し水を得るために、種々の提案がなされている。
版面へ湿し水を給水する方式として連続給水方式が一般的になり、版への給水性を高めるため、湿し水に10〜30%程度のイソプロパノールを含有させることが行なわれてきた。しかしながら、イソプロパノールは労働安全衛生法の第2種有機溶剤に該当するため、イソプロパノールを代替する方法が近年提案されてきている。そのために、湿し水に特定の溶剤を含めることが提案されている。しかしながら、これらの代替技術は有機溶剤を含有するため、揮発性有機化合物(VOC)の問題が懸念される。一方、比較的に不揮発性である溶剤を湿し水に含有させることも提案されている。このような不揮発性溶剤は、印刷機停止時に版面上に残った湿し水が水滴となり、水分が蒸発し濃縮すると画像部を溶解し、画像を損なう傾向があり、この問題を解決するために特定の化合物を湿し水に配合することも提案されている(例えば特許文献2及び3参照)。さらに、揮発性有機溶剤を実質的に含めることなく、印刷適性に優れた湿し水を提供することが報告されている(例えば特許文献4及び5参照)。また、平版印刷用処理液にカチオン性化合物を含めることが提案されている(例えば特許文献6〜8参照)。
これまで湿し水に関して様々な改良が提案されている中、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版からの製版及び印刷方法において、該保護層の親水性化合物に起因するインキ着肉不良を解決する手段が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−119273号公報
【特許文献2】特開平4−363297号公報
【特許文献3】特開平6−183171号公報
【特許文献4】特開2005−271507号公報
【特許文献5】特開2005−271508号公報
【特許文献6】特開昭62−218190号公報
【特許文献7】特開昭62−292492号公報
【特許文献8】特開平7−214934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来の湿し水が持つ毒性や欠点がなく、印刷作業にあたって、専門的熟練を必要とすることなく、あらゆる機構の印刷機において、イソプロピルアルコールを完全に代替することのできる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はさらに、特にアルミニウム板を電気化学的に粗面化し陽極酸化した支持体を用いた印刷版の汚れ、ブラインディング及び水負けといった印刷時の問題点の発生を抑制し、安定した連続印刷を可能とし、安全衛生上及び消防安全上の問題がなく、高品質の印刷物を得ることができる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はまた、従来の現像処理を施した平版印刷版を使用する平版印刷法においても、機上現像を採用する製版及び印刷方法においても、好適に使用することができる、平版印刷用湿し水組成物を提供することである。
本発明の目的は特に、親水性化合物を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版する平版印刷版による平版印刷において、画像部へのインキ着肉性が良好でインキ濃度の高い印刷物を得ることができる、平版印刷用湿し水組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の有機溶剤と特定のカチオン性界面活性剤を湿し水に含ませることによって、画像部へのインキ着肉性が良好で高品質の印刷物が提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
従って本発明は、一気圧において20℃で液体であって沸点150℃以上の有機溶剤、及び下記式(III)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物である。
【化1】

(式中、R1〜R4は各々独立に炭素原子数1〜12のアルキル基、ベンジル基、又はフェニル基を示し、ZはN、PまたはBを示し、Xは対イオンを示し、ZがNまたはPのときはXはアニオンを示し、ZがBのときはXはカチオンを示す。)
【0009】
本発明の湿し水組成物の使用方法は特に限定されるものではない。本発明の湿し水組成物は、とくに親水性化合物を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版する平版印刷版による平版印刷において好適に使用することができる。さらに、本発明の湿し水組成物は、従来の現像処理を施した平版印刷版を使用する平版印刷法においても、機上現像を採用した製版及び平版印刷法においても、好適に使用することができる。
従って本発明は、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版へ、上記湿し水組成物から調製された湿し水を版面へ供給することを含む、平版印刷法に向けられている。
本発明はまた、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版を露光した後、上記平版印刷用湿し水組成物から調製された湿し水を版面へ供給し、画像記録層の未露光部分を除去することを含む、平版印刷法に向けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、印刷作業にあたって、専門的熟練を必要とすることなく、各種の連続給水式印刷機において湿し水組成物中のイソプロピルアルコールを代替し、印刷時に印刷版の汚れ、ブラインディング及び水負けといった問題を起こさず安定した連続印刷ができ、印刷適性が良好である。
本発明の湿し水組成物によれば、酸素遮断性の保護層が設けられた光重合型の平版印刷版原版から製版される平版印刷版による平版印刷において、画像部表面のインキ受容性を高め、インキ着肉不良を抑制することができ、多数枚の印刷を連続的に行なってもインキ濃度の高い高品質の印刷物を得ることができる。
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、従来の現像処理を施した平版印刷版を使用する平版印刷法においても、機上現像を採用した製版及び平版印刷法においても、好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。湿し水は通常商業ベースとするときは濃縮化し商品化するのが一般的であり、使用するときに、そのような濃縮液を適宜希釈して湿し水として使用することになる。なお、本明細書中では、濃縮化されたものを湿し水組成物と呼ぶ。以下に言及する各種成分の含有量や添加量は、特に記載しない限り使用時の湿し水の全質量に基づいたものである。
【0012】
本発明の湿し水組成物は、一気圧において20℃で液体であって沸点150℃以上の有機溶剤を含む。
この有機溶剤は湿し水の版への吸水性を高める機能を有するものであって、従来湿し水に添加されるイソプロピルアルコールを代替できるものが好ましい。
この有機溶剤の例としては、下記一般式(I)で示される化合物がある。
1O−(−CH2CH(CH3)−O−)m−H (I)
(式(I)中、R1は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)式(I)中、R1は直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよい。R1の中でもプロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などが特に挙げられる。
一般式(I)の具体的な化合物として、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどが挙げられる。中でも好ましく使用される化合物は、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルである。
【0013】
該有機溶剤の別の例として、下記式(II)で示される化合物がある。
HO−(−CH2CH(CH3)−O−)n−H (II)
(式(II)中、nは1〜5の整数を表す。)
中でもプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが適当である。
【0014】
該有機溶剤の別の例として、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリブチルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、トリメチロールプロパン、分子量200〜1000のポリプロピレングリコール及びそれらの化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、モノイソブチルエーテル及びモノターシャリブチルエーテルなどが挙げられる。
【0015】
本発明の湿し水組成物において、一気圧において20℃で液体であって沸点150℃以上の有機溶剤を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
湿し水において上記有機溶剤の含有量は、イソプロピルアルコールを併用しなくても版への十分な給水量が確保できるのが望ましく、印刷機の給水装置によって差はあるが、0.05〜10質量%が適当であって、好ましくは0.2〜4質量%である。
【0016】
本発明の湿し水には、さらに下記式(III)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させる。
【化2】

(式中、R1〜R4は各々独立に炭素原子数1〜12のアルキル基、ベンジル基、又はフェニル基を示し、ZはN、PまたはBを示し、Xは対イオンを示し、ZがNまたはPのときはXはアニオンを示し、ZがBのときはXはカチオンを示す。)
上記化合物において、R1〜R4が各々示す炭素原子数1〜12のアルキル基は直鎖、分岐鎖及び環状のものを包含する。該アルキル基は置換基を有してもよく、置換基として例えばヒドロキシル基が挙げられ、置換されたアルキル基として例えば炭素原子数1〜4のヒドロキシアルキル基が挙げられる。R1〜R4が各々示すフェニル基は置換基を有していてもよく、そのような置換基の例としてメチル基などの炭素原子数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲンなどが挙げられる。
ZはN、PまたはBを示し、ZがN又はPのときはアニオン(例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン、水酸イオン、PF6-、BF4-、酢酸イオン、グリコール酸イオン、安息香酸イオンなど)を示し、ZがBのときはカチオン(例えばLi+、Na+、K+などのアルカリ金属イオン又はNH4+など)を示す。
【0017】
式(III)で表される化合物の具体例として、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、ジブチルジメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジラウリルジメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、ベンジルトリオクチルアンモニウム塩、ベンジルオクチルジブチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルブチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルラウリルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、フェニルトリエチルアンモニウム塩、フェニルトリブチルアンモニウム塩、フェニルトリオクチルアンモニウム塩、フェニルジメチルブチルアンモニウム塩、フェニルジメチルオクチルアンモニウム塩、フェニルジメチルラウリルアンモニウム塩、ジフェニルジメチルアンモニウム塩、ジフェニルジエチルアンモニウム塩、ジフェニルジブチルアンモニウム、ジフェニルジオクチルアンモニウム塩、トリフェニルメチルアンモニウム塩、トリフェニルエチルアンモニウム塩、トリフェニルブチルアンモニウム塩、トリフェニルオクチルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、さらなる具体例としてアニオンとして、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン、水酸イオン、PF6-、BF4-、酢酸イオン、グリコール酸イオン、安息香酸イオンなど
【0018】
テトラフェニルホスホニウムヨーダイド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウム硫酸塩、テトラフェニルホスホニウム硝酸塩、テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラn−ブチルホスホニウムヨーダイド、テトラn−ブチルホスホニウムブロミド、テトラn−ブチルホスホニウムクロリド、テトラ−n−ブチルホスホニウム硫酸塩、テトラn−ブチルホスホニウム硝酸塩、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイド、テトラブチルホスホニウム燐酸塩、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ジフェニルホスホニウムクロリド、テトラトリルホスホニウムブロミド、ビス[(ベンジル)(ジフェニル)ホスホランジイル]アンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸塩、テトラブチルアンモニウム硝酸塩などが挙げられる。
【0019】
式(III)で表される化合物を1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよく、湿し水において、式(IV)で表される化合物の含有量は、インキの画像部への着肉性向上と印刷時の汚れの観点から0.005〜1質量%が適当であり、好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0020】
本発明の湿し水組成物にはさらに、水溶性高分子化合物を添加してもよい。
このような水溶性高分子化合物の具体的な例としてはアラビアゴム、澱粉誘導体(例えばデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、燐酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉など)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、それらのグリオキサール変性体など)の天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これらの高分子化合物は単独でまたは混合して使用でき、その添加量は湿し水中、0.0001〜5質量%、より好ましくは、0.003〜1質量%が適当である。
【0021】
本発明では、上記水溶性高分子化合物の中でも、ポリビニルピロリドンが特に好ましく使用できる。湿し水組成物に含有させるポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドンのホモポリマーを意味する。ポリビニルピロリドンは分子量200〜3,000,000のものが適当であり、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜100,000のものである。特に好ましくは300〜30,000のものである。
これらポリビニルピロリドンは1種単独でも、又は分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用することもできる。また、低分子量のポリビニルピロリドン、例えば重合度3〜5のビニルピロリドンオリゴマーと組み合わせることができる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、市販品を使用することができる。例えば、ISP社製のK−15、K−30、K−60、K−90、K−120などの各種グレートのものを使用することができる。
湿し水におけるポリビニルピロリドンの含有量は、0.001〜0.3質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.2質量%である。
【0022】
湿し水は一般的に酸性領域、すなわち、pH3〜6付近の範囲で使用することが望ましい。pH3未満では支持体に対するエッチング効果が強くなり、耐刷性が低下する。pH値を3〜6に調整するためには、一般的には有機酸及び/又は無機酸又はそれらの塩を添加すればよい。好ましい有機酸としては、例えばクエン酸、マレイン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、グリコール酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、蓚酸、マロン酸、レブリン酸やスルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。無機酸としては例えばリン酸、硝酸、硫酸、ポリリン酸が挙げられる。更にこれら有機酸及び/又は無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も好適に用いられ、これらの有機酸、無機酸及び/又はこれらの塩は単独で使用しても、あるいは2種以上の混合物として使用してもよい。その添加量は湿し水中0.001〜5質量%が一般的である。
本発明の湿し水組成物はまた、アルカリ金属水酸化物、燐酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、珪酸塩等を含有させ、pH7〜11付近のアルカリ領域で用いることもできる。
【0023】
以上の成分の他に、本発明の湿し水組成物にはキレート化合物も添加することができる。通常、濃縮液である湿し水組成物に水道水、井戸水等を加えて希釈し、湿し水として使用する。この際希釈する水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオン等が印刷に影響を与え、印刷物を汚れ易くする原因となることもある。このような場合、キレート化合物を添加しておくことにより、上記欠点を解消することができる。好ましいキレート化合物としては例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,3−ジアミノ−2−プロパノールテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなアミノポリカルボン酸類や2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;2−ホスホノブタントリカルボン酸−2,3,4,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ホスホノエタントリカルボン酸−1,2,2,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類あるいはホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
【0024】
本発明の湿し水組成物には防腐剤を含めてもよい。防腐剤の具体例として、安息香酸及びその誘導体、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ハロゲノニトロプロパン化合物、ブロモニトロアルコール系のブロモニトロプロパノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。好ましい添加量は細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、湿し水に対し、0.0001〜1.0質量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
【0025】
本発明の湿し水組成物には、さらに着色剤、防錆剤、消泡剤などを含ませてもよい。着色剤として食品用色素等が好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCINo. 19140、15985、赤色色素としてはCINo. 16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo. 42640、青色色素としてはCINo. 42090、73015、緑色色素としてはCINo. 42095、等が挙げられる。
防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。
消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
【0026】
本発明の湿し水組成物には更に、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸アンモニウムなどの腐食抑制剤、クロム化合物、アルミニウム化合物のような硬膜剤、環状エーテル:例えば4−ブチロラクトンなどの有機溶剤、特開昭61−193893号公報記載の水溶性界面活性有機金属化合物などを0.0001〜1質量%の範囲で添加することもできる。
【0027】
本発明の湿し水組成物には更に少量の界面活性剤を添加してもよい。例えば、アニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホこはく酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホこはく酸モノアミド2ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硬化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホこはく酸塩類、アルキル硫酸エステル類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0028】
また非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸部分エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどが挙げられる。その中でもポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類等が好ましく用いられる。
【0029】
カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。また両性界面活性剤の例としては、アルキルイミダゾリン類が挙げられる。
さらに、フッ素系界面活性剤が挙げられる、例えば、フッ素系アニオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、フッ素系ノニオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルプロピレンオキサイド付加物、フッ素系カチオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
【0030】
さらに本発明の湿し水組成物には、湿潤剤として、グリコール類及び/又はアルコール類などを含めることができる。このような湿潤剤として例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びペンタプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
これらの湿潤剤を1種単独で又は2種以上の併用で、湿し水中0.01〜1質量%程度含ませることができる。
【0031】
本発明の湿し水組成物の成分として残余は、水である。
従って、上述の各種成分の湿し水における含有量や湿し水組成物の希釈率などを考慮して、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して各種成分を適宜な濃度で溶解し、濃縮液である湿し水組成物を得ることができる。このような濃縮液を、使用時に通常水道水、井戸水等で10〜200倍程度に希釈し、使用時の湿し水とする。
【0032】
本発明の湿し水組成物は、イソプロピルアルコールを完全に代替することが可能である。
また、使用時の湿し水中15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
【0033】
本発明の湿し水組成物は、種々の平版印刷版に対して使用することができるが、特にアルミニウム板を支持体とし、その上に感光層を有する感光性平版印刷版(予め感光性を付与した印刷板で、PS版と呼ばれる。)を画像露光及び現像して得られた平版印刷版に対して好適に使用できる。かかるPS版の好ましいものは、例えば、英国特許第 1,350,521号明細書に記されているようなジアゾ樹脂(p−ジアゾジフェニルアミンとパラホルムアルデヒドとの縮合物の塩)とシエラックとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、英国特許第 1,460,978号及び同第 1,505,739号の各明細書に記されているようなジアゾ樹脂とヒドロキシエチルメタクリレート単位またはヒドロキシエチルアクリレート単位を主なる繰り返し単位として有するポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、また特開平2−236552号、特開平4−274429号に記載のジメチルマレイミド基を含有する感光性ポリマー系をアルミニウム板上に設けたもののようなネガ型PS版、および特開昭50−125806号公報に記載されているようなO−キノンジアド感光物とノボラック型フェノール樹脂との混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたポジ型PS版が含まれる。またバーニング処理されたポジ型PS版にも用いることができる。
【0034】
上記感光層を形成する組成物には、上記のアルカリ可溶性ノボラック樹脂以外の、アルカリ可溶性樹脂を必要に応じて配合することができる。例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、メチルメタアクリレート−メタクリル酸共重合体、アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂、特公昭52−28401号公報記載のアルカリ可溶性ビニル系樹脂、アルカリ可溶性ポリブチラール樹脂等を挙げることができる。更に米国特許第 4,072,528号及び同第 4,072,527号の各明細書に記されているような光重合型フォトポリマー組成物の感光層をアルミニウム板上に設けたPS版、英国特許第 1,235,281号及び同第 1,495,861号の各明細書に記されているようなアジドと水溶性ポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたPS版も好ましい。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製PN−V)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製HP−F)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製HN−N)などが挙げられる。
【0035】
本発明の湿し水組成物はとりわけ、親水性化合物を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版する平版印刷版に好適に使用することができる。
このような光重合型平版印刷版原版の例として、特開2005−119273号公報に記載されているものがある。
本発明の湿し水組成物が好適に使用できる光重合性平版印刷版原版の構造として、支持体上に、(A)活性光線吸収剤と、(B)重合開始剤と、(C)重合性化合物とを含有する画像記録層、および、無機質の層状化合物を含有する酸素遮断性保護層をこの順に有する平版印刷版原版がある。
【0036】
以下、上記の光重合性平版印刷版原版の構成、製版及び印刷工程について簡単に説明する。
[酸素遮断性保護層]
酸素遮断性保護層に含有される無機質の層状化合物とは、薄い平板状の形状を有する粒子であり、例えば、下記一般式:A(B,C)2-5410(OH,F,O)2〔ただし、AはK,Na,Caの何れか、B及びCはFe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vの何れかであり、DはSi又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、式3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、りん酸ジルコニウムなどが挙げられる。
上記雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg3 (AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si410)F2等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、Na又はLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0037】
上記の無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。即ち、この膨潤性合成雲母や、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ベントナイト等の膨潤性粘度鉱物類等は、10〜15Å程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa+ 、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に層間の陽イオンがLi+ 、Na+ の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。ベントナイト及び膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、より有用であり、特に膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
使用する無機質の層状化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0038】
使用する無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。例えば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。
このようにアスペクト比が大きい無機質の層状化合物の粒子を酸素遮断性保護層に含有させると、塗膜強度が向上し、また、酸素や水分の透過を効果的に防止しうるため、変形などによる酸素遮断性保護層の劣化を防止し、高湿条件下において長期間保存しても、湿度の変化による平版印刷版原版における画像形成性の低下もなく保存安定性に優れる。
該保護層中の無機質層状化合物の含有量は、保護層に使用されるバインダーの量に対し、質量比で5/1〜1/100であることが好ましい。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これら無機質の層状化合物の合計の量が上記の質量比であることが好ましい。
【0039】
酸素遮断性保護層には上記無機質の層状化合物とともにバインダーを用いることが好ましい。
バインダーとしては、無機質の層状化合物の分散性が良好であり、画像記録層に密着する均一な皮膜を形成し得るものであれば、特に制限はなく、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができる。具体的には例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルの部分鹸化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、水溶性セルロース誘導体、ゼラチン、デンプン誘導体、アラビアゴム等の水溶性ポリマーや、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、セロハン等のポリマー等が挙げられる。これらは、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。
これらのうち、非画像部に残存する保護層の除去の容易性および皮膜形成時のハンドリング性の観点から、水溶性ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸等の水溶性アクリル樹脂、ゼラチン、アラビアゴム等が好適であり、なかでも、水を溶媒として塗布可能であり、且つ、印刷時における湿し水により容易に除去されるという観点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム等がさらに好ましい。
【0040】
酸素遮断性保護層に用い得るポリビニルアルコールは、必要な水溶性を有する実質的量の未置換ビニルアルコール単位を含有するかぎり、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていてもよい。また、同様に一部が他の共重合成分を含有していてもよい。ポリビニルアルコールの具体例としては、71〜100モル%加水分解され、重合度が300〜2400の範囲のものが挙げられる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA-105, PVA-110, PVA-117, PVA-117H,PVA-120,PVA-124, PVA124H, PVA-CS, PVA-CST, PVA-HC, PVA-203, PVA-204, PVA-205, PVA-210, PVA-217, PVA-220, PVA-224, PVA-217EE, PVA-217E, PVA-220E, PVA-224E, PVA-405, PVA-420, PVA-613, L-8 等が挙げられる。上記の共重合体としては、88〜100モル%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテート又はプロピオネート、ポリビニルホルマール及びポリビニルアセタール及びそれらの共重合体が挙げられる。
【0041】
上記の無機質層状化合物を適宜の方法で水に分散させ、この分散液から酸素遮断性保護層塗布液を調製する。酸素遮断性保護層塗布液には上記成分のほか、塗布性を向上させための界面活性剤や皮膜の物性改良のための水溶性可塑剤などの公知の添加剤を加えることができる。調製された酸素遮断性保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して酸素遮断性保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。酸素遮断性保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、米国特許第3,458,311号明細書又は特公昭55−49729号公報に記載されている方法など公知の方法を適用することができる。具体的には、例えば、酸素遮断性保護層は、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
酸素遮断性保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【0042】
画像記録層を構成する成分
[(A)活性光線吸収剤]
活性光線吸収剤は、露光光源の放射する光を吸収し、フォトンモードおよび/またはヒートモードで、重合開始剤から効率的にラジカルを発生させ、平版印刷版原版の感度向上に寄与する化合物である。かかる活性光線吸収剤としては、平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光する場合は、赤外線吸収剤が好ましく、平版印刷版原版を紫外線レーザーで画像様に露光する場合は、波長250〜420nmの光を吸収する増感色素が好ましい。赤外線吸収剤は、好ましくは波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料又は顔料である。このような赤外線吸収剤は公知のものから適宜選択できる。
【0043】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましい。
これらの赤外線吸収剤は、画像記録層の全固形分に対し0.001〜50質量%、好ましくは0.005〜30質量%、特に好ましくは0.01〜10質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、画像記録層の均一性や膜強度に好ましくない影響を与えることなく、高感度が得られる。
【0044】
また、増感色素を使用してもよく、使用される増感色素は、波長250〜420nmに吸収を有する化合物であり、具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、9−フルオレノン、2−クロロ−9−フルオレノン、2−メチル−9−フルオレノン、9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン、2−エチル−9−アントロン、9,10−アントラキノン、2−エチル−9、10−アントラキノン、2−t−ブチル−9,10−アントラキノン、2,6−ジクロロ−9,10−アントラキノン、キサントン、2−メチルキサントン、2−メトキシキサントン、チオキサントン、ベンジル、ジベンザルアセトン、p−(ジメチルアミノ)フェニルスチリルケトン、p−(ジメチルアミノ)フェニルp−メチルスチリルケトン、ベンゾフェノン、p−(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(またはミヒラーケトン)、p−(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンズアントロンなどを挙げることができる。
これら増感色素は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは0.8〜20質量%の割合で添加することができる。
【0045】
[(B)重合開始剤]
重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物である。使用できる重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などが挙げられる。
上記のような重合開始剤としては、例えば、有機ハロゲン化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オキシムエーテル化合物、オニウム塩化合物、が挙げられる。
用いられる重合開始剤は、極大吸収波長が400nm以下であることが好ましい。より好ましくは、極大吸収波長が360nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。このように吸収波長を紫外線領域にすることにより、平版印刷版原版の白灯安全性が向上する。
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好
ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0046】
[(C)重合性化合物]
画像記録層に用いる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、これらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0047】
これらの重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、重合開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、重合性化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、支持体や酸素遮断性保護層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。
上記の重合性化合物は、画像記録層中に、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0048】
[画像記録層のその他の成分]
画像記録層には、上記(A)、(B)、(C)以外の成分、例えば、バインダーポリマー、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤(熱重合防止剤)、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、低分子親水性化合物等を含有させることができる。
例えばバインダーポリマーとしては、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有する線状有機ポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーの例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で1/9〜7/3となる量で用いるのが好ましい。
【0049】
画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。界面活性剤は、画像記録層に、0.001〜10質量%含有させることが好ましく、0.01〜5質量%含有させることがより好ましい。
【0050】
画像記録層には、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等、及び特開昭62−293247号公報に記載されている染料を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。
これらの着色剤は、画像形成後、画像部と非画像部の区別がつきやすいので、添加する方が好ましい。なお、添加量は、画像記録層中に、0.01〜10質量%の割合が好ましい。
【0051】
画像記録層には、焼き出し画像生成のため、酸又はラジカルによって変色する化合物を添加することができる。このような化合物としては、例えばジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、チアジン系、オキサジン系、キサンテン系、アンスラキノン系、イミノキノン系、アゾ系、アゾメチン系等の各種色素が有効に用いられる。
【0052】
画像記録層には、画像記録層の製造中又は保存中において(C)重合性化合物の不要な熱重合を防止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。
熱重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン
アルミニウム塩が好適に挙げられる。
熱重合防止剤は、画像記録層に、約0.01〜約5質量%含有させるのが好ましい。
【0053】
画像記録層には、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0054】
画像記録層は、上記したような構成成分を適当な溶剤に分散し、又は溶かして塗布液を調製し、塗布して形成される。
画像記録層は、同一又は異なる上記各成分を同一又は異なる溶剤に分散、又は溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
画像記録層塗布量(固形分)は、0.3〜1.5g/m2が好ましく、0.5〜1.5
g/m2がより好ましい。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗
布、ロール塗布等を挙げられる。
【0055】
平版印刷版原版に用いられる支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状物であればよい。例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされまたは蒸着された紙またはプラスチックフィルム等が挙げられる。好ましい支持体としては、ポリエステルフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。中でも、寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板が好ましい。
平版印刷版原版には、さらにバックコートや下塗層が設けられていてもよい。
【0056】
[製版、印刷]
本発明の平版印刷法においては、上述したような平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通して露光するかデジタルデータによりレーザー走査露光することにより画像様に露光される。露光光源としては、例えば、カーボンアーク、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、紫外光レーザー、可視光レーザー、赤外光レーザーが挙げられる。特にレーザーが好ましく、760〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザーおよび半導体レーザー、250〜420nmの光を放射する半導体レーザーなどが挙げられる。レーザーを用いる場合は、デジタルデータに従って、画像様に走査露光することが好ましい。また、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0057】
本発明の平版印刷法において、湿し水の使用方法は特に限定されるものではない。上述したような平版印刷版原版を露光の後、不要な画像記録層を適当な現像液によって溶解除去した後、油性インキと本発明の湿し水組成物から調製された湿し水を版面に供給して印刷することができる。
また、本発明の平版印刷法においては、上述したような平版印刷版原版をレーザー光で画像様に露光した後、なんらの現像処理工程を経ることなく油性インキと本発明の湿し水組成物から調製された湿し水とを供給して印刷することができる。すなわち、本発明の湿し水組成物は、印刷工程中で印刷機上で非画像部を除去して平版印刷版を得る、いわゆる機上現像と呼ばれる方法に使用することができる。
具体的には、平版印刷版原版をレーザー光で露光した後、現像処理工程を経ることなく印刷機に装着して印刷する方法、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上においてレーザー光で露光し、現像処理工程を経ることなく印刷する方法等が挙げられる。
【0058】
平版印刷版原版をレーザー光で画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処理工程を経ることなく湿し水と油性インキとを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された湿し水及び/又は油性インキによって、未硬化の画像記録層が溶解し又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水成分は露出した親水性の表面に付着し、油性インキは露光領域の画像記録層に着肉し、印刷が開始される。ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、油性インキでもよいが、湿し水が未露光部の画像記録層により汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給するのが好ましい。
このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0059】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、%は特に指定しない限り質量%を示す。
下記表1の組成に従って、実施例1〜4及び比較例1及び2の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mLとした。これらはいずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。
上記のように調液した実施例1〜4及び比較例1及び2の組成物を各々、硬度400ppmの疑似硬水を用いて40倍に希釈し、pHが4.8〜5.3付近となるようにKOHまたはアンモニア水にて調整して、実際に使用する湿し水とした。
また、硬度400ppmの疑似硬水にイソプロピルアルコール8%と富士写真フイルム(株)製湿し水「EU−3」1%を加え、使用液として比較例3を作成した。





























【0060】
【表1】

*プルロニックL31=ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(アデカ)
【0061】
[テスト方法]
印刷機はハイデルMOV(アルカラー給水装置)を使用して、東洋インキ(株)の環境対応型NonVOCインキ名称ハイエコーNV-100ユニティのプロセス紅インキと、使用プレートとして富士写真フイルム(株)製のサーマル無処理CT-Pプレート Eco & Free System「ET-S」を用いた。このプレートは、活性光線吸収剤、重合開始剤及び重合性化合物を含有する画像記録層及びその上に酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版である。このプレートを、サーマルレーザーセッター CREO社製 Quantumを使用しFMスクリーン TAFFTA20の画像を焼き込んだ後、印刷機に取り付け、各種湿し水及びインキを供給して機上現像を完了し、以下のように印刷テストを実施した。
【0062】
(a)連続印刷安定性:
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量(最小水上げ量)を求め、各種の湿し水を最小水上げ量で用いて印刷を行い、印刷物の汚れの発生、又は水負けにより良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
10000枚以上 A
9999〜3000枚 B
2999〜1枚 C
なし D
【0063】
(b)乳化性:
10000枚印刷したときの、インキ練りローラー上のインキの乳化状態を調べる。
良い A
やや悪い B
悪い C
(c)印刷物上のインキ濃度安定性;
印刷を10000枚まで行い、印刷物の網点濃度を測定した。
刷り出しの濃度に比較して、10000枚印刷後の網点濃度が着肉不良によって低下しないかを評価した。
網点濃度変化なし(濃度低下率5%未満) A
網点濃度変化(濃度低下率5%〜10%未満) B
網点濃度変化(濃度低下率10%以上) C
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
上記の結果から、本発明の実施例による湿し水は、連続印刷安定性、乳化性及び印刷物上のインキ濃度安定性のいずれについても優れており、比較例3のイソプロピルアルコールを使用した湿し水と同様の良好な印刷物が得られただけでなく、刷りだしから多数枚の印刷を行った後でも、印刷物の網点濃度が安定しており、品質上好ましい。さらに上記実施例1〜4の湿し水組成物は、イソプロピルアルコールとは異なり、労働安全上の問題がなく、消防安全上の問題も低下しており、作業環境上たいへん好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一気圧において20℃で液体であって沸点150℃以上の有機溶剤、及び下記式(III)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物。
【化1】

(式中、R1〜R4は各々独立に炭素原子数1〜12のアルキル基、ベンジル基、又はフェニル基を示し、ZはN、PまたはBを示し、Xは対イオンを示し、ZがNまたはPのときはXはアニオンを示し、ZがBのときはXはカチオンを示す。)
【請求項2】
酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版へ、請求項1記載の湿し水組成物から調製された湿し水を版面へ供給することを含む、平版印刷法。
【請求項3】
酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版を露光した後、請求項1記載の湿し水組成物から調製された湿し水を版面へ供給し、画像記録層の未露光部分を除去することを含む、平版印刷法。

【公開番号】特開2008−62614(P2008−62614A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245734(P2006−245734)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】