説明

平行系実体顕微鏡用対物レンズ系

【課題】歪曲収差を実用上問題の無い程度に抑え、像面の平坦性を確保するとともに、その他の諸収差も良好に補正することにより、優れた結像性能を実現することが可能な平行系実体顕微鏡用対物レンズ系を提供する。
【解決手段】物体Obから遠い側より順に並んだ、負の屈折力を持つ接合レンズB1を含み、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズと、正の屈折力を持つ接合レンズとを含む第2レンズ群G2と、少なくとも1枚の正の屈折力を持つ単レンズを含み、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群G3とから構成される平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lobであって、第1レンズ群G1を構成する負の屈折力を持つ接合レンズB1の焦点距離をfB1とし、対物レンズ系Lobの全系の焦点距離をfとしたとき、次式1.00<(−fB1)/f<20.00の条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行系実体顕微鏡用の対物レンズ系に関する。
【背景技術】
【0002】
実体顕微鏡は、凹凸のある物体を観察した場合、両目で見た場合と同じように立体感を持って観察できる。このため、顕微鏡下で作業する場合にピンセット等の工具と物体との距離関係を容易に把握することができる。したがって、精密機械工業、生物の解剖、手術等細かい処置が必要な分野で特に有効である。実体顕微鏡では、物体の立体感のための視差を得るため、左右二つの眼に入射する光束の光学系を少なくとも部分的には独立させ、その光軸が物体面上で交わるようにする。そして、異なった方向より見た物体の拡大像を作り、接眼レンズを通して観察することで微小物体の立体視を行っている。実体顕微鏡の立体視を得る代表的方法として、平行系実体顕微鏡が挙げられる。平行系実体顕微鏡は、一つの対物レンズ系と、該対物レンズ系の光軸に平行に配置された右眼用と左眼用との二つの観察光学系を有している。このような平行系実体顕微鏡用対物レンズ系として、例えば、下記の特許文献1,2に記載されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−147378号公報
【特許文献2】特開2001−221955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平行系実体顕微鏡では、対物レンズ系を通過する光束が右眼用観察光学系と左眼用観察光学系とで偏心していることが、左右の見え方に差を生じさせる要因となっている。このため、右眼用観察光学系と左眼用観察光学系とがそれぞれ有する歪曲収差の量が異なる場合、又は各光学系が有する歪曲収差の絶対量そのものが大きい場合等は、非対称に歪んだ特有な観察像が左右の観察光学系で生じる。そして、これらの像が観察者において融合、即ち融像されると、物体の奥行き知覚を狂わせるため凸面感等の歪みとなって現れる。例えば、最もその影響が顕著な例として、平坦な標本を観察した場合に、観察像が平坦ではなく凸面状に盛り上がって見えてしまい、観察者に違和感を与えるという現象が挙げられる。また、像の中心付近と、周辺との歪曲収差量の変化率が大きいと、像の歪みが強調され像の平坦性を悪化せる原因の一つとなる。
【0005】
このため、実体顕微鏡では歪曲収差の絶対量が少ない方が望ましいことに加えて、さらに左右の観察光学系での歪曲収差量の差や、像高による歪曲収差の差など絶対量のみならずその質的な収差量にまで配慮することが好ましい。また、歪曲収差だけでなく、上述の問題を踏まえた上で、その他の諸収差(球面収差、非点収差、像面湾曲など)をバランス良く補正する必要があることは言うまでもない。さらに、実体顕微鏡の場合、変倍光学系を併用するのが一般的であるので、変倍に伴う視野領域の変化、又は開口数の変化に対応した収差補正が必要となる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、変倍域を拡大しても歪曲収差を実用上問題の無い程度に抑え、像面の平坦性を確保するとともに、対物レンズの大型化を避け、その他の諸収差も良好に補正し、優れた結像性能を実現することが可能な平行系実体顕微鏡用の対物レンズ系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明は、物体から遠い側(すなわち、観察光学系側)より順に並んだ、負の屈折力を持つ接合レンズを含み、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群と、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズと、正の屈折力を持つ接合レンズとを含み、弱い屈折力を持つ第2レンズ群と、少なくとも1枚の正の屈折力を持つ単レンズを含み、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群とから構成される平行系実体顕微鏡用対物レンズ系であって、前記第1レンズ群を構成する前記負の屈折力を持つ接合レンズの焦点距離をfB1とし、前記対物レンズ系全系の焦点距離をfとしたとき、次式 1.00 < (−fB1)/f < 20.00 の条件を満足する。
【0008】
なお、本発明において、前記第1レンズ群は正の屈折力を持つ単レンズを有し、この第1レンズ群を構成する前記正の屈折力を持つ単レンズのアッベ数をνdL1としたとき、次式 νdL1 <40.0 の条件を満足することが好ましい。
【0009】
また、本発明において、前記第2レンズ群を構成する、前記物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズは、負レンズと正レンズとを貼り合わせた接合メニスカスレンズであり、前記正の屈折力を持つ接合レンズは、両凸レンズと両凹レンズと両凸レンズの3枚を貼り合わせた接合レンズであることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、前記対物レンズ系は、物体からの光を平行光束に変換し、その後に続く左眼用と右眼用の二つの観察光学系に前記光束を導くことにより、立体視を可能にするものであり、前記観察光学系が、変倍光学系を含み、前記変倍光学系のズーム最高倍での対物側軸間距離をSBHとし、前記変倍光学系のズーム最低倍での対物側軸間距離をSBLとしたとき、 1 ≦ SBH−SBL ≦ 10 の条件を満足するものである場合、前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとし、前記対物レンズ系の観察可能な最大物体高をYmaxとしたとき、次式 23 ≦ φAP ≦ 30 及び 0.160 ≦ Ymax/f の条件を満足することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、物体からの光を平行光束に変換し、その後に続く左眼用と右眼用の二つの観察光学系に前記光束を導くことにより立体視が可能である平行系実体顕微鏡用対物レンズ系であって、前記観察光学系が、変倍光学系を含み、前記変倍光学系のズーム最高倍での対物側軸間距離をSBHとし、前記変倍光学系のズーム最低倍での対物側軸間距離をSBLとしたとき、 1 ≦ SBH−SBL ≦ 10 の条件を満足するものである場合、前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとし、前記対物レンズ系の観察可能な最大物体高をYmaxとしたとき、次式 23 ≦ φAP ≦ 30 及び 0.160 ≦ Ymax/fの条件を満足する。
【0012】
本発明において、前記第2レンズ群は、異なる光学材料からなる二つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面を有する密着複層型回折光学素子を有し、前記異なる光学材料からなる二つの回折素子要素のうち、低屈折率高分散の方の前記回折光学素子の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd1,nF1,nC1とし、高屈折率低分散の方の前記回折光学素子の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd2,nF2,nC2とし、前記回折光学素子の回折光学面の有効径をφLDとし、前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとしたとき、次式 nd1 ≦ 1.54、 0.0145 ≦ nF1−nC1 、 1.55 ≦ nd2 、 nF2−nC2 ≦ 0.013 及び 2.2 ≦ φLD/φAP の条件を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歪曲収差を実用上問題の無い程度に抑え、像面の平坦性を確保するとともに、その他の諸収差も良好に補正することにより、優れた結像性能を実現することが可能な平行系実体顕微鏡用対物レンズ系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】平行系単対物レンズ型の双眼実体顕微鏡用対物レンズ系の構成概略図を示す。
【図2】第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系のレンズ構成図である。
【図3】第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系の横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【図4】第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系のレンズ構成図である。
【図5】第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系の横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【図6】第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系のレンズ構成図である。
【図7】第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系の横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【図8】本実施形態に係る対物レンズ系が偏心変倍光学系である場合の構成概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態について、図面を用いて説明する。まず、本実施形態に係る対物レンズ系を備える、平行系実体顕微鏡(平行系単対物型双眼顕微鏡)について説明する。本実施形態に係る平行系実体顕微鏡は、図1に示すように、物体Obから焦点距離fの位置に配置されている一つの対物レンズ系Lobと、対物レンズ系Lobの光軸AXobに平行に配置された右眼用観察光学系LRと左眼用観察光学系LLとを有する。右眼用観察光学系LRは、物体Ob側から順に並んだ、アフォーカルな変倍光学系(ズーム光学系)LZRと、物体の中間像を形成する結像光学系LIRと、中間像を拡大する接眼光学系LERとから構成されている。左眼用観察光学系LLも同様の構成である。そして、物体Obからの光は、対物レンズ系Lobにより平行光束に変換され、変倍光学系LZR,LZLを介して、結像光学系LIR,LILにより中間像が形成され、接眼光学系LER,LELにより中間像は拡大され、最終像を所定のアイポイント位置において図示しない肉眼で観察する構成となっている。このような構成の平行系実体顕微鏡では、右眼用観察光学系LRの光軸AXR及び左眼用観察光学系LLのAXLが、それぞれ対物レンズ系Lobの光軸AXobに対して物体面において所定角度θだけ傾いている。この視差により、物体Obを立体的に観察することができるようになっている。
【0016】
本実施形態において、上記対物レンズ系Lobは、図2に示すように、物体Obから遠い側(すなわち図1の観察光学系LR,LL側)より順に並んだ、負の屈折力を持つ接合レンズB1を含み、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズ(図2ではレンズL21,L22からなる接合レンズが該当)と、正の屈折力を持つ接合レンズ(図2ではレンズL23,L24,L25からなる3枚接合レンズが該当)とを含み、弱い屈折力を持つ第2レンズ群G2と、少なくとも1枚の正の屈折力を持つ単レンズ(図2ではレンズL31,L32がそれぞれ該当)を含み、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群G3とから構成されている。この構成により、ズーム低倍時の倍率色収差、歪曲収差及び像面収差を効率良く補正することができる。
【0017】
そして、上記構成の基、第1レンズ群G1を構成する負の屈折力を持つ接合レンズB1の焦点距離をfB1とし、対物レンズ系Lobの全系の焦点距離をfとし、以下の条件式(1)を満足する。
【0018】
1.00 < (−fB1)/f < 20.00 …(1)
【0019】
上記条件式(1)は、第1レンズ群G1を構成する、負の屈折力を持つ接合レンズB1の焦点距離の適切な範囲を規定している。この条件式(1)の上限値を上回ると、接合レンズB1の負の屈折力が弱くなり、ズーム低倍時の像面湾曲や歪曲収差の補正が困難となる。逆に、条件式(1)の下限値を下回ると、光線の高さが大きくなりすぎ、特に球面収差の補正が困難となる。
【0020】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(1)の下限値を5.00とすることが好ましい。また、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(1)の上限値を9.00とすることが好ましい。
【0021】
なお、本実施形態の対物レンズ系Lobは、第1レンズ群G1の焦点距離をf1とし、第3レンズ群G3の焦点距離をf3としたとき、以下の条件式(2)及び(3)を満足することがより好ましい。
1.50 < f1/f <5.00 …(2)
1.00 < f3/f <1.50 …(3)
【0022】
上記条件式(2)は、第1レンズ群G1の焦点距離の適切な範囲を規定している。この条件式(2)の上限値を上回ると、第1レンズ群G1の正の屈折力が弱くなり、光線の高さが大きくなりすぎて、球面収差の補正が困難となる。逆に、条件式(2)の下限値を下回ると、主点位置が物体面から遠くなり、十分な作動距離が得られなくなる。
【0023】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(2)の下限値を2.00とすることが好ましい。また、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(2)の上限値を3.50とすることが好ましい。
【0024】
上記条件式(3)は、第3レンズ群G3の焦点距離の適切な範囲を規定している。この条件式(3)の上限値を上回ると、第3レンズ群G3の正の屈折力が弱くなるため、結果として第2レンズ群G2の屈折力を強めることになり、色収差の補正が困難となる。逆に、条件式(3)の下限値を下回ると、作動距離が短くなるだけでなく、ズーム低倍時での非点収差や歪曲収差の補正が困難となる。
【0025】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(3)の下限値を1.10とすることが好ましい。また、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(3)の上限値を1.30とすることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態に係る対物レンズ系Lobは、第1レンズ群G1は正の屈折力を持つ単レンズ(図2ではレンズL11が該当)を有し、この第1レンズ群G1を構成する正の屈折力を持つ単レンズのアッベ数をνdL1としたとき、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
【0027】
νdL1 <40.0 …(4)
【0028】
上記条件式(4)は、第1レンズ群G1を構成する正の屈折力を持つ単レンズの硝材のアッベ数の適切な範囲を規定している。この条件式(4)の上限値を上回ると、第1レンズ群G1での色出し効果が薄れ、ズーム低倍時の倍率色収差、及び、ズーム高倍時の色の球面収差やコマ収差の補正が困難となる。
【0029】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(2)の上限値を30.0とすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態に係る対物レンズ系Lobは、第2レンズ群G2を構成する、前記物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズは、負レンズと正レンズとを貼り合わせた接合メニスカスレンズ(図2ではレンズL21,L22からなる接合レンズが該当)であり、前記正の屈折力を持つ接合レンズは、両凸レンズと両凹レンズと両凸レンズの3枚を貼り合わせた接合レンズ(図2ではレンズL23,L24,L25からなる3枚接合レンズが該当)であることが好ましい。この構成によれば、本光学系において径が最大のところに色消し接合レンズを配置することができるため、ズーム高倍時の球面収差と軸上色収差を効率良く補正することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る対物レンズ系Lobは、物体Obからの光を平行光束に変換し、その後に続く左眼用と右眼用の二つの観察光学系LR,LLに前記光束を導くことにより、立体視を可能にするものであり、図8に示すように、前記観察光学系LR,LLは、変倍光学系LZR,LZL、結像光学系LIR,LIL、接眼光学系LER,LELを含み、変倍光学系LZR,LZLのズーム最高倍での対物側軸間距離をSBHとし、変倍光学系LZR,LZLのズーム最低倍での対物側軸間距離をSBLとする偏心変倍光学系であり、以下の条件式(5)を満足する場合、前記対物レンズ系Lobの左右片側の最大射出瞳径をφAPとし、前記対物レンズ系Lobの観察可能な最大物体高をYmaxとしたとき、以下の条件式(6)及び(7)を満足することが好ましい。なお、図8中では、観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離をSBとしたとき、SB=SBH,SBL<SBの状態を示している。ここで、偏心変倍光学系とは、複数のレンズ群から構成され、高倍端から低倍端へ変倍する区間の少なくとも一部において、複数のレンズ群のうちの少なくとも2つのレンズ群がそれぞれ対物レンズ系の光軸と直交する方向の成分を持つように移動するものをいう。
【0032】
1 ≦ SBH−SBL ≦ 10 …(5)
23 ≦ φAP ≦ 30 …(6)
0.160 ≦ Ymax/f …(7)
【0033】
上記条件式(5)は、ズーム高倍時とズーム低倍時とにおける左右の観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離の差の適切な量を規定している。この条件式(5)の上限値を上回ると、ズーム低倍時に左右の観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離が狭くなりすぎ、十分なステレオ効果が得られなくなったり、ズーム高倍時に左右の観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離が広くなりすぎ、観察する際の接眼光学系LER,LELの眼幅に合わなくなったりする。逆に、条件式(5)の下限値を下回ると、ズーム低倍時に対物レンズ系Lobが巨大化する。
【0034】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(5)の下限値を4以上とすることが好ましい。また、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(5)の上限値を8以下とすることが好ましい。
【0035】
上記条件式(6)は、対物レンズ系Lobの左右片側の最大射出瞳径、言い換えれば左右の観察光学系LR,LLの最大入射瞳径の適切な大きさを規定している。この条件式(6)の上限値を上回ると、左右の観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離が大きくなりすぎ、観察する際の接眼光学系LER,LELの眼幅に合わなくなる。逆に、条件式(6)の下限値を下回ると、ズーム高倍時に十分な大きさのNAが得られなくなり、従来製品からの解像力の向上が困難となる。
【0036】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(6)の下限値を24以上とすることが好ましい。また、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(6)の上限値を28以下とすることが好ましい。
【0037】
上記条件式(7)は、対物レンズ系Lobで観察が可能となる適切な画角を規定している。この条件式(7)の下限値を下回ると、ズーム低倍時に観察可能となる十分な大きさの実視野の確保が困難となる。
【0038】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(7)の下限値を0.200以上とすることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態に係る対物レンズ系Lobは、図6に示すように、第2レンズ群G2が、異なる光学材料からなる二つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面Dを有する密着複層型回折光学素子LDを有し、異なる光学材料からなる二つの回折素子要素のうち、低屈折率高分散の方の前記回折光学素子(図6ではレンズL24が該当)の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd1,nF1,nC1とし、高屈折率低分散の方の前記回折光学素子(図6ではレンズL25が該当)の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd2,nF2,nC2とし、回折光学素子LDの回折光学面の有効径をφLDとし、対物レンズ系Lobの左右片側の最大射出瞳径をφAPとしたとき、以下の条件式(8)〜(12)を満足することが好ましい。
【0040】
nd1 ≦ 1.54 …(8)
0.0145 ≦ nF1−nC1 …(9)
1.55 ≦ nd2 …(10)
nF2−nC2 ≦ 0.013 …(11)
2.2 ≦ φLD/φAP …(12)
【0041】
本実施形態に係る対物レンズ系Lobにおいて、第2レンズ群G2は、特に色収差を補正するために、回折光学素子LDを設けることが好ましい。回折光学素子LDは、1mmあたり数本から数百本の細かい溝状又はスリット状の格子構造が同心円状に形成された回折光学面Dを備え、この回折光学面Dに入射した光を格子ピッチ(回折格子溝の間隔)と入射光の波長によって定まる方向へ回折する性質を有している。また、回折光学素子LD(回折光学面D)は、負の分散値(本願の実施例ではアッベ数=-3.45)を有し、分散が大きく、また異常分散性(本願の実施例では部分分散比(ng-nF)/(nF-nC)=0.296)が強いため、強力な色収差補正能力を有している。光学ガラスのアッベ数は、通常30〜80程度であるが、回折光学素子のアッベ数は負の値を持っている。言い換えると、回折光学素子GDの回折光学面Dは、分散特性が通常のガラス(屈折光学素子)とは逆で、光の波長が短くなるに伴い屈折率が小さくなり、長い波長の光ほど大きく曲がる性質を有している。そのため、通常の屈折光学素子と組み合わせることにより、大きな色消し効果が得られる。したがって、回折光学素子LDを利用することで、色収差を良好に補正することが可能になる。
【0042】
本実施形態における回折光学素子LDは、異なる光学材料からなる二つの回折素子要素(例えば、図6の場合、光学部材L24,L25)を接合し、その接合面に回折格子溝を設けて回折光学面Dを構成している、いわゆる「密着複層型回折光学素子」である。そのため、この回折光学素子は、g線からC線を含む広波長域において回折効率を高くすることができる。したがって、本実施形態に係る対物レンズ系Lobは広波長域において利用することが可能となる。なお、回折効率は、透過型の回折光学素子において1次回折光を利用する場合、入射強度I0と一次回折光の強度I1との割合η(=I1/I0×100[%])を示す。
【0043】
また、密着複層型回折光学素子LDは、回折格子溝が形成された二つの回折素子要素をこの回折格子溝同士が対向するように近接配置してなるいわゆる分離複層型回折光学素子に比べて製造工程を簡素化することができるため、量産効率がよく、また光線の入射角に対する回折効率が良いという長所を備えている。したがって、このような密着複層型回折光学素子LDを利用した本実施形態に係る顕微鏡対物レンズLobでは、製造が容易となり、また回折効率も良くなる。
【0044】
ここで、条件式(8)〜(11)は、上記の回折光学素子LDを構成する異なる二つの回折素子要素の材料の屈折率と、F線及びC線に対する屈折率差(nF−nC)をそれぞれ規定している。これら条件式(8)〜(11)を満足することで、より良い性能で異なる二つの回折素子要素を密着接合させて回折光学面Dを形成することができる。その結果、g線〜C線までの広波長域に亘って90%以上の回折効率を実現することができる。しかしながら、条件式(8)〜(11)の上限値を上回るか又は下限値を下回ると、広波長域において90%以上の回折効率を得ることが困難になり、密着複層型回折光学素子LDの利点を維持することが困難になってしまう。
【0045】
また、上記条件式(12)は、密着複層型回折光学素子LDを形成する回折光学面Dの直径の適切な大きさを規定している。この条件式(12)の下限値を下回ると、回折光学面Dによる十分な色消し効果が得られなくなり、アポクロマート級の性能を達成することが困難となる。
【0046】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(12)の下限値を2.4以上とすることが好ましい。
【0047】
本実施形態においては、回折光学素子LDを、図6に示すような第2レンズ群G2を構成する平面に設けるのではなく、曲面に設けることも可能である。
【0048】
さらに、本実施形態においては、第2レンズ群G2の焦点距離をf2とし、対物レンズ系Lobの全系の焦点距離をfとしたとき、以下の条件式(13)を満足することが好ましい。
【0049】
6.00 < |f2/f| …(13)
【0050】
上記条件式(13)は、第2レンズ群G2の焦点距離の適切な範囲を規定している。条件式(13)の下限値を下回ると、第2レンズ群G2の屈折力が強くなりすぎて、球面収差や軸上色収差の良好な補正が困難となる。
【0051】
なお、本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(13)の下限値を8.00とすることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本実施形態に係る各実施例について、図面に基づいて説明する。以下に、表1〜表3を示すが、これらは第1実施例〜第3実施例における各諸元の表である。
【0053】
なお、表中において、面番号は物体Obから遠い側から数えたレンズ面の順序を、rは各レンズ面の曲率半径を、dは各光学面から次の光学面(又は物体Ob)までの光軸上の距離である面間隔を、ndはd線(波長587.6nm)に対する屈折率を、νdはd線に対するアッベ数を示す。なお、曲率半径の「∞」は平面を示す。また、空気の屈折率1.00000は省略する。
【0054】
また、以下の実施例において、密着複層型回折光学素子LDに形成された回折光学面Dの位相差は、通常の屈折率と後述する非球面式(a)とを用いて行う超高屈折率法により計算した。超高屈折率法とは、非球面形状と回折光学面の格子ピッチとの間の一定の等価関係を利用するものであり、本実施例においては、回折光学面Dを超高屈折率法のデータとして、すなわち後述する非球面式(a)及びその係数により示している。なお、本実施例では収差特性の算出対象として、d線、C線、F線及びg線を選んでいる。本実施例において用いられたこれらd線、C線、F線及びg線の波長と、各スペクトル線に対して設定した超高屈折率法の計算に用いるための屈折率の値を次の表4に示す。
【0055】
(表4)
波長 屈折率(超高屈折率法による)
d線 587.562nm 10001.0000
C線 656.273nm 11170.4255
F線 486.133nm 8274.7311
g線 435.835nm 7418.6853
【0056】
各実施例において、非球面は、光軸に垂直な方向の高さをyとし、高さyにおける各非球面の頂点の接平面から各非球面までの光軸に沿った距離(サグ量)をS(y)とし、基準球面の曲率半径(頂点曲率半径)をrとし、円錐定数をκとし、n次の非球面係数をAnとしたとき、以下の式(a)で表される。なお、以降の実施例において、「E-n」は「×10-n」を示す。
【0057】
S(y)=(y2/r)/{1+(1−κ×y2/r21/2
+A2×y2+A4×y4+A6×y6+A8×y8 …(a)
【0058】
なお、各実施例において、回折光学面が形成されたレンズ面には、表中の面番号の右側に*印を付しており、非球面式(a)は、この回折光学面の性能の諸元を示している。
【0059】
また、表中において、fは対物レンズ系Lobの全系の焦点距離を、WDは作動距離を、fB1は第1レンズ群G1を構成する負の屈折力を持つ接合レンズの焦点距離を、f1は第1レンズ群G1の焦点距離を、f2は第2レンズ群G2の焦点距離を、f3は第3レンズ群G3の焦点距離をf3を、νdL1は第1レンズ群G1を構成する正の屈折力を持つ単レンズのアッベ数を、SBHは対物レンズ系と組み合わせて使用する左右の観察光学系LR,LLの(より詳しくは変倍光学系LZR,LZLによる)ズーム最高倍での対物側軸間距離を、SBLは対物レンズ系と組み合わせて使用する左右の観察光学系LR,LLの(変倍光学系LZR,LZLによる)ズーム最低倍での対物側軸間距離を、φAPは対物レンズ系Lobの左右片側の最大射出瞳径を、Ymaxは対物レンズ系Lobの観察可能な最大物体高をそれぞれ示す。さらに、表中には、上記条件式(1)〜(13)に対応する値も示す。
【0060】
以下、全ての諸元値において掲載される焦点距離f、曲率半径r、面間隔d、その他の長さ等は、特記の無い場合一般に「mm」が使われるが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、これに限られるものではない。また、単位は「mm」に限定されることなく、他の適当な単位を用いることが可能である。
【0061】
ここまでの表の説明は全ての実施例において共通であり、以下での説明を省略する。
【0062】
(第1実施例)
第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob(Lob1)について、図2、図3及び表1を用いて説明する。第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob1は、図2に示すように、物体Obから遠い側より順に並んだ、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、相対的に屈折力の弱い第2レンズ群G2と、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群G3とを有する。
【0063】
第1レンズ群G1は、物体Obから遠い側より順に並んだ、両凸レンズL11と、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL12と両凸レンズL13とからなり、全体として負の屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0064】
第2レンズ群G2は、物体Obから遠い側より順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL21と物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL22とを貼り合わせ、全体として物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つ接合レンズと、両凸レンズL23と両凹レンズL24と両凸レンズL25の3枚を貼り合わせ、全体として正の屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0065】
第3レンズ群G3は、物体Obから遠い側より順に並んだ、両凸レンズL31と、両凸レンズL32とを有する。
【0066】
表1に第1実施例における各諸元の値を掲げる。なお、表1の面番号1〜16は、図2に示す面1〜16に対応している。
【0067】
なお、観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離はSB=26mm(固定)、対物レンズ系Lob1の最大有効径はDmax=80mmである。また、観察光学系LR,LLの入射瞳位置は、対物レンズ系Lob1の第1面からズーム最低倍時43mm、ズーム最高倍時242mm、物体面Obから遠ざかる位置にある。
【0068】
(表1)
f = 50.2
WD = 31.0
fB1 = -288.0
f1 = 147.9
f2 = 652.7
f3 = 61.5

面番号 r d nd
νd
1 116.46700 7.500 1.84666 23.9
2 -284.85506 0.500
3 142.07687 3.000 1.83481 42.7
4 35.04100 14.481 1.43425 95.0
5 -230.00729 9.576
6 -34.05100 3.745 1.74950 35.3
7 -139.48185 15.336 1.43425 95.0
8 -40.09000 0.500
9 154.98239 14.731 1.59240 68.3
10 -125.00000 4.000 1.90265 35.7
11 126.14143 20.000 1.59240 68.3
12 -90.02700 0.500
13 179.34654 13.031 1.59240 68.3
14 -178.07559 0.500
15 56.52200 16.000 1.59240 68.3
16 1102.18933

[条件式]
条件式(1) (−fB1)/f = 5.74
条件式(2) f1/f = 2.95
条件式(3) f3/f = 1.22
条件式(4) νdL1 = 23.9
条件式(13) |f2/f| = 13.00
【0069】
なお、表1に示した条件式の値のうち、条件式(4)は第1面の値に相当する。このように表1に示す諸元の表から、本実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob1では、上記条件式(1)〜(4)及び(13)を満たすことが分かる。
【0070】
図3は、第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系における、横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。各収差図はいずれも、物体Obより遠い側(観察光学系LR,LL側)より光線を入射させて追跡したもので、観察光学系LR,LLの光軸を通る光線を基準にして表示してある。このような各収差図において、yは像高を、非点収差図においてSはサジタル面を、Mはメリジオナル面をそれぞれ示す。また、横収差図はズーム高倍時のものを、非点収差図及び歪曲収差図はズーム低倍時のものを示す。なお、以下全ての実施例の諸収差図は、本実施例の収差図と同様の符号を用いる。
【0071】
図3に示す収差図から明らかであるように、第1実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob1では、良好に収差補正されていることが分かる。
【0072】
(第2実施例)
第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob(Lob2)について、図4、図5及び表2を用いて説明する。第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob2は、図4に示すように、物体Obから遠い側より順に並んだ、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、相対的に屈折力の弱い第2レンズ群G2と、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群G3とを有する。
【0073】
第1レンズ群G1は、物体Obから遠い側より順に並んだ、両凸レンズL11と、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL12と両凸レンズL13とからなり、全体として負の屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0074】
第2レンズ群G2は、物体Obから遠い側より順に並んだ、物体側に平面を向けた平凹レンズL21と物体側に凸面を向けた平凸レンズL22とを貼り合わせ、全体として物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つ接合レンズと、両凸レンズL23と両凹レンズL24と両凸レンズL25の3枚を貼り合わせ、全体として正の屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0075】
第3レンズ群G3は、物体Obから遠い側より順に並んだ、両凸レンズL31と、物体側に平面を向けた平凸レンズL32とを有する。
【0076】
表2に第2実施例における各諸元の値を掲げる。なお、表2の面番号1〜16は、図4に示す面1〜16に対応している。
【0077】
なお、観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離はズーム最低倍時SBL=20mm、ズーム最高倍時SBH=26mm、対物レンズ系Lob2の最大有効径はDmax=71mmである。また、観察光学系LR,LLの入射瞳位置は、対物レンズ系Lob2の第1面からズーム最低倍時43mm、ズーム最高倍時242mm、物体面Obから遠ざかる位置にある。
【0078】
(表2)
f = 50.2
WD = 31.5
fB1 = -394.0
f1 = 129.6
f2 = 435.2
f3 = 63.4
SBL = 20
SBH = 26
Ymax = 11

面番号 r d nd
νd
1 102.33094 7.500 1.84666 23.9
2 -421.35943 0.500
3 114.20080 3.000 1.83481 42.7
4 32.98856 15.000 1.43425 95.0
5 -209.56031 8.600
6 -35.99216 8.000 1.74950 35.3
7 ∞ 17.000 1.49782 82.5
8 -44.47866 0.500
9 134.37622 14.000 1.59319 67.9
10 -125.00000 3.500 1.83400 37.2
11 125.00000 16.000 1.59240 68.3
12 -110.11690 0.900
13 185.36898 10.500 1.59319 67.9
14 -194.94628 0.500
15 60.31541 13.000 1.59319 67.9
16 ∞
[条件式]
条件式(1) (−fB1)/f = 7.85
条件式(2) f1/f = 2.58
条件式(3) f3/f = 1.26
条件式(4) νdL1 = 23.9
条件式(5) SBH−SBL = 6
条件式(6) φAP = 25
条件式(7) Ymax/f = 0.219
条件式(13) |f2/f| = 8.70
【0079】
なお、表2に示した条件式の値のうち、条件式(4)は第1面の値に相当する。このような表2に示す諸元の表から、本実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob2では、上記条件式(1)〜(7)及び(13)を満たすことが分かる。
【0080】
図5は、第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob2の横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。図5に示す収差図から明らかであるように、第2実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob2では、良好に収差補正されていることが分かる。
【0081】
(第3実施例)
第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob(Lob3)について、図6、図7及び表3を用いて説明する。第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob3は、図6に示すように、物体Obから遠い側より順に並んだ、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、相対的に屈折力の弱い第2レンズ群G2と、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群G3とを有する。
【0082】
第1レンズ群G1は、物体Obから遠い側より順に並んだ、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL11と、両凸レンズL12と両凹レンズL13とからなり、全体として負の屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0083】
第2レンズ群G2は、物体Obから遠い側より順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL21と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL22と回折光学面Dを含む回折光学素子LDと物体側に凹面を向けた平凹レンズL26と両凸レンズL27を貼り合わせ、全体として正屈折力を持つ接合レンズとを有する。
【0084】
なお、回折光学素子LDは、平板状の光学ガラスL23と、それぞれ異なる樹脂材料から形成された平板状の二つの光学部材L24,L25とがこの順で接合され、光学部材L24,L25の接合面に回折格子溝(回折光学面D)が形成されている。すなわち、この回折光学素子LDは、密着複層型の回折光学素子である。なお、本実施例では、二つの光学部材L24,L25の接合面が平面となっているが、回折光学面Dが曲率を持った接合面として形成されていても同等の効果が得られることは言うまでもない。
【0085】
第3レンズ群G3は、物体Obから遠い側より順に並んだ、両凸レンズL31と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL32とを有する。
【0086】
表3に第3実施例における各諸元の値を掲げる。なお、表3の面番号1〜20は、図6に示す面1〜20に対応している。
【0087】
なお、観察光学系LR,LLの対物側光軸間距離はズーム最低倍時SBL=20mm、ズーム最高倍時SBH=26mm、対物レンズ系Lob3の最大有効径はDmax=68.45mmである。また、観察光学系LR,LLの入射瞳位置は、対物レンズ系Lob3の第1面からズーム最低倍時43mm、ズーム最高倍時242mm、物体面Obから遠ざかる位置にある。
【0088】
(表3)
f = 50.2
WD = 31.0
fB1 = -420.9
f1 = 166.8
f2 = 756.1
f3 = 59.9
SBL = 20
SBH = 26
Ymax = 11
φLD = 64.23

面番号 r d nd
νd
1 116.46700 7.500 1.84666 23.9
2 -284.85506 0.500
3 142.07687 3.000 1.83481 42.7
4 35.04100 14.481 1.43425 95.0
5 -230.00729 9.576
6 -34.05100 3.745 1.74950 35.3
7 -139.48185 15.336 1.43425 95.0
8 -40.09000 0.500
9 154.98239 14.731 1.59240 68.3
10 -125.00000 4.000 1.90265 35.7
11 126.14143 20.000 1.59240 68.3
12* -90.02700 0.500
13 179.34654 13.031 1.59240 68.3
14 -178.07559 0.500
15 56.52200 16.000 1.59240 68.3
16 1102.18933

[回折光学面データ]
第12面
κ=1.0000,A2=1.10205E-08,A4=-6.68539E-12,A6=3.87380E-15,A8=-1.40808E-18

[条件式]
条件式(1) (−fB1)/f = 8.38
条件式(2) f1/f = 3.32
条件式(3) f3/f = 1.19
条件式(4) νdL1 = 23.9
条件式(5) SBH−SBL = 6
条件式(6) φAP = 25
条件式(7) Ymax/f = 0.219
条件式(8) nd1 = 1.53
条件式(9) nF1−nC1 = 0.0152
条件式(10) nd2 = 1.56
条件式(11) nF2−nC2 = 0.0111
条件式(12) φLD/φAP = 2.57
条件式(13) |f2/f| = 15.06
【0089】
なお、表3に示した条件式の値のうち、条件式(4)は第1面の値に相当し、条件式(8),(9)は第11面の値に相当し、条件式(10),(11)は第13面の値に相当する。このように表3に示す諸元の表から、本実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob3では、上記条件式(1)〜(13)を満たすことが分かる。
【0090】
図7は、第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob3の横収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。図7に示す収差図から明らかであるように、第3実施例に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系Lob3では、良好に収差補正されていることが分かる。
【0091】
以上のような構成により、本発明に係る平行系実体顕微鏡用対物レンズ系によれば、歪曲収差を実用上問題の無い程度に抑え、像面の平坦性を確保するとともに、その他の諸収差も良好に補正することにより、優れた結像性能を実現することが可能である。その結果、この対物レンズ系に変倍光学系を組み合わせて使用した場合であっても、変倍に伴う視野領域や開口数が拡大してもコンパクトな対物レンズを構成することができ、良好な観察を実施することが可能となる。
【0092】
なお、本発明を分かりやすくするために、実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0093】
ob(Lob1〜Lob3) 平行系実体顕微鏡用対物レンズ系
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
G3 第3レンズ群
L11〜L32 平行系実体顕微鏡用対物レンズ系の構成レンズ
B1 第1レンズ群を構成する負の屈折力を持つ接合レンズ
LD 密着複層型回折光学素子
D 回折光学面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体から遠い側より順に並んだ、
負の屈折力を持つ接合レンズを含み、全体として正の屈折力を持つ第1レンズ群と、
物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズと、正の屈折力を持つ接合レンズとを含み、弱い屈折力を持つ第2レンズ群と、
少なくとも1枚の正の屈折力を持つ単レンズを含み、全体として正の屈折力を持つ第3レンズ群とから構成される平行系実体顕微鏡用対物レンズ系であって、
前記第1レンズ群を構成する前記負の屈折力を持つ接合レンズの焦点距離をfB1とし、前記対物レンズ系全系の焦点距離をfとしたとき、次式
1.00 < (−fB1)/f < 20.00
の条件を満足することを特徴とする平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。
【請求項2】
前記第1レンズ群は正の屈折力を持つ単レンズを有し、
この第1レンズ群を構成する前記正の屈折力を持つ単レンズのアッベ数をνdL1としたとき、次式
νdL1 <40.0
の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。
【請求項3】
前記第2レンズ群を構成する、前記物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負の屈折力を持つレンズは、負レンズと正レンズとを貼り合わせた接合メニスカスレンズであり、
前記正の屈折力を持つ接合レンズは、両凸レンズと両凹レンズと両凸レンズの3枚を貼り合わせた接合レンズであることを特徴とする請求項1又は2に記載の平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。
【請求項4】
物体からの光を平行光束に変換し、その後に続く左眼用と右眼用の二つの観察光学系に前記光束を導くことにより立体視が可能である平行系実体顕微鏡用対物レンズ系であって、
前記観察光学系が、変倍光学系を含み、前記変倍光学系のズーム最高倍での対物側軸間距離をSBHとし、前記変倍光学系のズーム最低倍での対物側軸間距離をSBLとしたとき、 1 ≦ SBH−SBL ≦ 10 の条件を満足するものである場合、
前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとし、前記対物レンズ系の観察可能な最大物体高をYmaxとしたとき、次式
23 ≦ φAP ≦ 30
0.160 ≦ Ymax/f
の条件を満足することを特徴とする平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。
【請求項5】
前記対物レンズ系は、物体からの光を平行光束に変換し、その後に続く左眼用と右眼用の二つの観察光学系に前記光束を導くことにより、立体視を可能にするものであり、
前記観察光学系が、変倍光学系を含み、前記変倍光学系のズーム最高倍での対物側軸間距離をSBHとし、前記変倍光学系のズーム最低倍での対物側軸間距離をSBLとしたとき、 1 ≦ SBH−SBL ≦ 10 の条件を満足するものである場合、
前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとし、前記対物レンズ系の観察可能な最大物体高をYmaxとしたとき、次式
23 ≦ φAP ≦ 30
0.160 ≦ Ymax/f
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。
【請求項6】
前記第2レンズ群は、異なる光学材料からなる二つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面を有する密着複層型回折光学素子を有し、
前記異なる光学材料からなる二つの回折素子要素のうち、低屈折率高分散の方の前記回折光学素子の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd1,nF1,nC1とし、高屈折率低分散の方の前記回折光学素子の光学材料のd線,F線,C線に対する屈折率をそれぞれnd2,nF2,nC2とし、前記回折光学素子の回折光学面の有効径をφLDとし、前記対物レンズ系の左右片側の最大射出瞳径をφAPとしたとき、次式
nd1 ≦ 1.54
0.0145 ≦ nF1−nC1
1.55 ≦ nd2
nF2−nC2 ≦ 0.0130
2.2 ≦ φLD/φAP
の条件を満足することを特徴とする請求項1,2及び4のいずれか一項に記載の平行系実体顕微鏡用対物レンズ系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−221409(P2011−221409A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92553(P2010−92553)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】