説明

平角導体及びリード線

【課題】 導電性が良好で、はんだ接続時の熱応力が小さい平角導体及びリード線を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係る平角導体10は、コア用薄板材11の両面に導体用薄板材12a,12bを設けたクラッド材で構成されるものであり、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下の導体用薄板材12a,12bと、その導体用薄板材12a,12bよりも0.2%耐力が小さく、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下のコア用薄板材11で構成され、クラッド材全体の0.2%耐力が120MPa以下のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角導体及びリード線に係り、特に、太陽電池のリード線に用いられる平角導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、基板上にシリコン結晶を成長させた半導体チップが使用されている。この半導体チップを切断、分割してなるシリコン結晶ウェハの所定の領域(接点領域)に、はんだ付けなどにより接続用リード線が接合され、この接続用リード線を通じて電力が伝送(出力)される。
【0003】
通常、接続用リード線として、導体の表面に、シリコン結晶ウェハとの接続のためのはんだめっき膜が形成される。例えば、導体としてタフピッチ銅や無酸素銅などの純銅の平角導体を用い、はんだめっき膜の構成材としてSn-Pb共晶はんだを用いた接続用リード線がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年、環境への配慮から、はんだめっき膜の構成材として、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ)への切り替えが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
太陽電池を構成する部材の内、シリコン結晶ウェハが材料コストの大半を占めている。このため、製造コストの低減を図るべく、シリコン結晶ウェハの薄板化が検討されている。例えば、従来は350μm以上であったシリコン結晶ウェハの厚さが、現在では250μm以下となっている。
【0006】
シリコン結晶ウェハを薄板化すると、接続用リード線のはんだ接合時における加熱プロセスや、太陽電池使用時における温度変化により、シリコン結晶ウェハに変形(反りなど)が生じたり、破損が生じたりするという不具合が起こり易くなる。よって、これらの不具合に対処するために、はんだ接続時の熱応力が小さい(熱膨張が小さい)接続用リード線のニーズが高まっている。熱膨張が小さいリード線の例として、銅材と熱膨張が小さいインバー(登録商標)材をクラッドしてなる条(銅−インバー(登録商標)−銅)をリードフレームとして用いたものがある(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−21660号公報
【特許文献2】特開2002−263880号公報
【特許文献3】特開2002−164560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献3記載のリードフレームは、回路形成時に打抜き加工を行うものであるため、無駄になる材料が大量に生じてしまい、製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0009】
また、特許文献3記載のリードフレームなどのように、銅−インバー(登録商標)−銅をクラッドしてなるクラッド材で平角導体を構成し、その平角導体を用いてリード線を作製した場合、インバー(登録商標)の両側に配置された銅材における結晶の配向性又は結晶粒の不均一に起因して、反りなどの変形が生じるおそれがあった。このリード線をシリコン結晶ウェハの接点領域に対してはんだ付けし易くするために、リード線に引っ張り応力を負荷して直線状に矯正することがあるが、この際にリード線に反りが生じる場合があった。反りが生じたリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができないという問題があった。
【0010】
これらは、太陽電池モジュールの生産性低下を招いたり、また、太陽電池モジュールを長期間にわたって使用した際に発電効率の低下を招き、信頼性を低下させる要因となってしまう。
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、導電性が良好で、はんだ接続時の熱応力が小さい平角導体及びリード線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく本発明に係る平角導体は、コア用薄板材の両面に導体用薄板材を設けたクラッド材で構成される平角導体において、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下の上記導体用薄板材と、その導体用薄板材よりも0.2%耐力が小さく、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下の上記コア用薄板材で構成され、上記クラッド材全体の0.2%耐力が120MPa以下のものである。
【0013】
また、本発明に係る平角導体は、コア用薄板材の両面に導体用薄板材を設けたクラッド材で構成される平角導体において、0.2%耐力が75MPa以下で、かつ、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下の上記導体用薄板材と、0.2%耐力が65MPa以下で、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下の上記コア用薄板材で構成したものである。
【0014】
ここで、導体用薄板材のビッカース硬度が100Hv以下であることが好ましい。
【0015】
導体用薄板材が、以下に示す(1)式を満足する結晶配向性を有していることが好ましい。
【0016】
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
コア用薄板材をAl、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成し、導体用薄板材をコア用薄板材よりも体積抵抗率が低く、かつ、Cu、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成することが好ましい。
【0017】
一方、本発明に係るリード線は、前述した平角導体の外周全体又は外周の一部を、Sn-Pbはんだ膜又はPbフリーはんだ膜で被覆したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導電性が良好で、シリコンセルとの接続時にセル反りが小さい平角導体を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
平角導体は、はんだ接続によりシリコン結晶ウェハのセル面(以下、シリコンセルという)に固定されるが、両者に熱膨張差があると、接続後、シリコンセルに反りが生じてしまう。この反り発生の原因となる収縮応力は、熱膨張差の大きさと共に、平角導体の耐力(降伏応力)に依存している。熱膨張差が小さいほど、また、平角導体の耐力が低いほど、シリコンセルの反りは小さくなる。ところが、平角導体には、導体としての導電性(低体積抵抗率)も必要とされる。
【0021】
Cu、Al、Ag、及びAuの、体積抵抗率(×10-3μΩ・m)及び0.2%耐力(MPa)を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、Cuよりも0.2%耐力が低い導体用材料としてAl、Ag、Auなどが挙げられるが、Al及びAuは、Cuよりも体積抵抗率が大きい(導電性が悪い)。ここで、0.2%耐力は材料によって固有の値ではなく、軟化温度を上回る温度で熱処理を施すことによって変化するものであり、表1に示したCu、Al、Ag、及びAuの各0.2%耐力値は一例でしかない。
【0024】
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、低耐力のコア用薄板材と、低体積抵抗率の導体用薄板材のクラッド材で平角導体を構成することで、導電性が良好で、シリコンセルのセル反りが小さい平角導体が得られるということを見出した。
【0025】
本発明の好適一実施の形態に係る平角導体の横断面図を図1に示す。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態に係る平角導体10は、コア用薄板材11の両面に導体用薄板材12a,12bを設けたクラッド材で構成される。クラッド材全体の0.2%耐力は120MPa以下、好ましくは80MPa以下、より好ましくは70MPa以下とされる。
【0027】
導体用薄板材12a,12bは体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下、好ましくは15〜25(×10-3μΩ・m)、より好ましくは15〜20(×10-3μΩ・m)の材料で構成される。導体用薄板材12a,12bは、例えば、Cu、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成され、コストパフォーマンスを重視する場合はCu又はCu合金が好ましく、低体積抵抗率(高導電性)を重視する場合はAg又はAg合金が好ましい。
【0028】
コア用薄板材11は、導体用薄板材12a,12bよりも0.2%耐力が小さく、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下、好ましくは15〜30(×10-3μΩ・m)、より好ましくは20〜30(×10-3μΩ・m)である。例えば、コア用薄板材11は、Al、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成され、低耐力(セル反りが小さい)を重視する場合はAl又はAl合金が好ましく、低体積抵抗率(高導電性)を重視する場合はAg又はAg合金が好ましい。
【0029】
導体用薄板材12a,12bは、ビッカース硬度が100Hv以下であることが好ましい。ここで、導体用薄板材12a,12bのビッカース硬度を100Hv以下と規定したのは、ビッカース硬度が100Hvを超えると、導体用薄板材12a,12bの剛性が高くなりすぎてしまうためである。導体用薄板材12a,12bの剛性が高すぎると、柔軟性が不足し、平角導体10、延いては後述するリード線20の取扱性が悪化する。
【0030】
導体用薄板材12aの層厚と導体用薄板材12bの層厚とを等しくした場合に、導体用薄板材12aと導体用薄板材12bのいずれか一方の層厚とコア用薄板材11との比が、1:3〜1:1、好ましくは1:2〜1:1とされる。
【0031】
最良の形態の平角導体10は、Al又はAl合金で構成されるコア用薄板材11と、Cu又はCu合金で構成される導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成したもの(Cu/Al/Cu)である。その他のコア用薄板材11と導体用薄板材12a,12bの組み合わせとして、Cu/Ag/Cu、Ag/Al/Ag、Au/Al/Au、Cu/Au/Cuが挙げられる。
【0032】
この図1に示した平角導体10の外周全体を、図2に示すようにはんだ膜21でメッキ被覆したものが本実施の形態に係るリード線20である。ここで、はんだ膜21による平角導体10のメッキ被覆は、平角導体10の外周の一部(例えば、平角導体10の上面及び下面)だけであってもよい。このリード線20を、シリコン結晶ウェハ(太陽電池モジュール(図示せず))におけるセル面の所定の接点領域(例えば、Agメッキ領域)及びフレーム部材(例えば、リードフレーム)の所定の接点領域に接続することで、太陽電池アセンブリが得られる。セル面及びリードフレームの所定の接点領域にも、接合用のはんだ膜を設けていてもよい。
【0033】
はんだ膜21は、Sn-Pb共晶はんだや、Pbフリーはんだで構成され、好ましくはSn-Ag-Cu系のPbフリーはんだが挙げられる。また、Sn-Ag-Cu系のPbフリーはんだは、更にIn及び/又はPを含んでいてもよい。Inの含有量は1〜10重量%、Pの含有量は0.005〜0.015重量%が好ましい。例えば、Sn-Ag-Cu系のPbフリーはんだとしては、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-0.01P、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-3In、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-3In-0.01P、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-5In、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-5In-0.01P、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-8In、
Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-8In-0.01P、
等が挙げられる(単位はいずれも重量%)。
【0034】
一般に、Pbフリーはんだは、Sn-Pb共晶はんだに比べて溶融温度が高いため、はんだ接合により、接続部材(セル面及びリードフレームの接点領域)へのダメージが懸念される。しかし、Pbフリーはんだの中で、Sn-3Ag-0.5Cu系はんだ及びSn-4Ag-0.5Cu系はんだ(単位はいずれも重量%)は、溶融温度が低いという特長を有している。また、これらのはんだに更にIn及び/又はPを含ませることによって、はんだの溶融温度を更に低くすることができる。
【0035】
このため、これらのSn-Ag-Cu系のPbフリーはんだを用いることで、はんだ接合時におけるシリコンセルの変形や破損のおそれを低減させることができる。ここで、Inの含有量を1〜10重量%としたのは、10重量%を超えて含有させると、溶融はんだの粘性が高くなり、はんだ付け作業性が低下するためである。また、Pの含有量を0.005〜0.015重量%とすることで、はんだ付け作業時におけるはんだの酸化変色を防止することができるため、接続(はんだ付け)の信頼性を向上させることができる。
【0036】
はんだ膜21の膜厚は、平角導体10の厚さ(図1中では上下方向の厚さ)の1/30〜1/3、好ましくは1/10〜1/3、特に好ましくは1/5とされる。
【0037】
最良の形態のリード線20は、Al又はAl合金で構成されるコア用薄板材11と、Cu又はCu合金で構成される導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成した平角導体10の外周に、平角導体10の厚さの1/5の膜厚でSn-Ag-Cu系のはんだ膜21をメッキ被覆したものである。
【0038】
次に、本実施の形態に係る平角導体の製造方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0039】
本実施の形態に係る平角導体10は、コア用薄板材11の両面を導体用薄板材12a,12bで挟んだ積層体で構成されるクラッド材を、切断、裁断することで、例えば、金属材料の裁断(切断)法として従来一般的に使われているスリット法を用いて切断、裁断することで得られる。
【0040】
具体的には、先ず、コア用薄板材11の両面を導体用薄板材12a,12bで挟み、積層体が形成される。この時、導体用薄板材12a,12bとしてはビッカース硬度が100Hv以下のものを用いる。また、導体用薄板材12a,12bとしては体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下のものを、コア用薄板材11としては導体用薄板材12a,12bよりも0.2%耐力が小さく、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下のものを用いる。
【0041】
次に、積層体に冷間での圧延加工及び熱処理を適宜繰り返し、所望の厚さで、導体用薄板材12a,12bがランダムで等方的な結晶配向性を有するクラッド材が得られる。この時、導体用薄板材12a,12bの結晶配向性が以下に示す(1)式を満足するように、クラッド材形成ステップの冷間加工条件及び熱処理条件が調整される。(1)式に示すIRの値は0.15以上、好ましくは0.20〜0.70、特に好ましくは0.35〜0.70に調整される。
【0042】
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
また、熱処理は、軟化温度を上回る温度でなされ、クラッド材体全体の0.2%耐力が120MPa以下、好ましくは80MPa以下、より好ましくは70MPa以下となるように熱処理条件が調整される。熱処理条件は、例えば、220〜280℃×1〜2hとされる。
【0043】
次に、導体用薄板材12a,12bの結晶配向性を調整したクラッド材から、幅数mmの細い条材を切り出すことで、図1に示した平角導体10が得られる。この平角導体10の外周にはんだ膜21をメッキ被覆することで、本実施の形態に係るリード線20が得られる。クラッド材の切断、裁断手段としては、例えば、上下一対の回転刃を2組用いる。
【0044】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0045】
本実施の形態に係る平角導体10は、中心部が0.2%耐力の小さいコア用薄板材11で、外側部が体積抵抗率の低い(導電率が良好な)導体用薄板材12a,12bで構成されている。つまり、コア用薄板材11により、平角導体10全体の耐力を低下させてセル反りを防ぐと共に、導体用薄板材12a,12bにより、平角導体10全体の高導電性を保っている。このため、太陽電池アセンブリを構成するシリコン結晶ウェハを薄板化したとしても、シリコンセルと平角導体10を用いたリード線20とのはんだ接合時に、シリコンセルにセル反りや破損が生じるおそれはない。また、平角導体10は、低体積抵抗率の導体用薄板材12a,12bを用いたクラッド材で構成されることから、導電性は良好であり、太陽電池アセンブリで得られた電力を殆ど損失させることなく出力することができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る平角導体10は、導体用薄板材12a,12bのIR値を0.15以上に規定している。導体用薄板材12a,12bのIR値を0.15以上に規定している理由を以下に述べる。導体用薄板材12a,12bの結晶粒の面内配向(クラッド材表面の法線方向配向)は、主として面(111)及び面(200)が支配的となっている。クラッド材は、コア用薄板材11を導体用薄板材12a,12bで挟んだ積層体に、冷間での圧延加工及び熱処理を適宜繰り返すことで得られるものである。
【0047】
このクラッド材の製造時、導体用薄板材12a,12bにおける再結晶粒の集合組織の面内配向で、面(200)が支配的になると、言い換えるとIRが0.15未満になると、再結晶粒が粗大化してしまう。その結果、このクラッド材を用いた平角導体をシリコン結晶ウェハの接点領域に対してはんだ付けし易くするために、平角導体に引っ張り応力を負荷して直線状に矯正しようとすると、平角導体に反りが生じ易くなってしまう。ところが、本実施の形態に係る平角導体10では、導体用薄板材12a,12bのIR値を0.15以上に規定しているため、平角導体10に引っ張り応力を負荷して直線状に矯正する際に、平角導体10に反りが生じることはない。よって、本実施の形態に係る平角導体10を用いたリード線20は、製造性、はんだ付け性、及び長期信頼性が良好となる。
【0048】
さらに、本実施の形態に係る平角導体10においては、その最外表面に、コア用薄板材11と導体用薄板材12a,12bとの異種材料接触部が存在することから、平角導体10が水分に接触すると、局部電池化による腐食が生じるおそれがある。このため、本実施の形態に係る平角導体10を用いたリード線20においては、局部電池化による腐食が特に問題とならない場合を除き、平角導体10の外周全体を、はんだ膜21によりメッキ被覆することが好ましい。これによって、リード線20においては、局部電池化による腐食が生じるおそれはなくなる。
【0049】
また、本実施の形態に係る平角導体10を用いたリード線20は、シリコン結晶ウェハとのはんだ付け性が良好であることから、太陽電池アセンブリの生産性向上を図ることができる。
【0050】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0051】
(第2の実施の形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係る平角導体を、図1を参照しながら説明する。
【0052】
前実施の形態に係る平角導体10は、平角導体10全体の0.2%耐力を規定したものであった。
【0053】
本実施の形態に係る平角導体の基本的な構成は前実施の形態に係る平角導体10と同じである。本実施の形態に係る平角導体は、コア用薄板材11及び導体用薄板材12a,12bの0.2%耐力をそれぞれ規定した点で、前実施の形態に係る平角導体10と異なっている。
【0054】
導体用薄板材12a,12bは、0.2%耐力が75MPa以下、好ましくは50〜75MPa、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下、好ましくは15〜25(×10-3μΩ・m)、より好ましくは15〜20(×10-3μΩ・m)である。コア用薄板材11は、0.2%耐力が65MPa以下、好ましくは58MPa以下、より好ましくは50MPa以下、特に好ましくは40MPa以下で、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下、好ましくは15〜30(×10-3μΩ・m)、より好ましくは20〜30(×10-3μΩ・m)である。
【0055】
また、導体用薄板材12aの層厚と導体用薄板材12bの層厚とを等しくした場合に、導体用薄板材12aと導体用薄板材12bのいずれか一方の層厚とコア用薄板材11との比が、1:3〜1:1、好ましくは1:2〜1:1とされる。
【0056】
次に、本実施の形態に係る平角導体の製造方法を、図1,図2を参照しながら説明する。
【0057】
先ず、コア用薄板材11、導体用薄板材12a,12bがそれぞれ準備される。コア用薄板材11としては、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下のものを用いる。導体用薄板材12a,12bとしては、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下のものを用いる。
【0058】
次に、コア用薄板材11の0.2%耐力が65MPa以下となるように、コア用薄板材11に軟化温度を上回る温度で第1熱処理が施される。また、導体用薄板材12a,12bの0.2%耐力が75MPa以下、ビッカース硬度が100Hv以下となるように、導体用薄板材12a,12bに軟化温度を上回る温度で第2熱処理が施される。第1熱処理の熱処理条件は、例えば、170〜300℃×0.5〜1.0h、また、第2熱処理の熱処理条件は、例えば、200〜350℃×0.5〜1.0hとされる。
【0059】
次に、各熱処理後のコア用薄板材11及び導体用薄板材12a,12bを用い、コア用薄板材11の両面を導体用薄板材12a,12bで挟み、積層体が形成される。この積層体に、冷間での圧延加工及び熱処理を適宜繰り返し、所望の厚さのクラッド材が得られる。この時、導体用薄板材12a,12bの結晶配向性が以下に示す(1)式を満足するように、クラッド材形成ステップの冷間加工条件及び熱処理条件が調整される。(1)式に示すIRの値は0.15以上、好ましくは0.20〜0.70、特に好ましくは0.35〜0.70に調整される。
【0060】
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
最後に、導体用薄板材12a,12bの結晶配向性を調整したクラッド材から、幅数mmの細い条材を切り出すことで、本実施の形態に係る平角導体が得られる。この平角導体の外周にはんだ膜21(図2参照)をメッキ被覆することで、本実施の形態に係るリード線が得られる。
【0061】
本実施の形態に係る平角導体及びそれを用いたリード線においても、前実施の形態に係る平角導体10及びそれを用いたリード線20と同様の作用効果が得られる。
【0062】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0063】
また、本発明の平角導体は、太陽電池アセンブリのリード線として適用することができる他に、1GHz以上の高周波信号を伝送するための導体として使用することも可能である。特に、本発明の平角導体は、熱膨張により伝送特性が著しく劣化するような無線LAN等への適用が期待できる。
【0064】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
(実施例11)
板厚が0.2mm、層構造がCu/Al/Cu、層厚比が2:1:2のクラッド材を作製し、このクラッド材から幅が2.5mmの条材を切り出して図1に示した構造の平角導体を作製した。
【0066】
(従来例11)
板厚が0.2mmで、Cu単体で構成されるクラッド材を作製し、このクラッド材から幅が2.5mmの条材を切り出して平角導体を作製した。
【0067】
実施例11及び従来例11の各平角導体を、厚さ200μmのシリコンセルの接点領域にはんだ付けを行った。その結果、実施例11の平角導体は、92%IACSという高い導電率を有しつつ、セル反りを従来例11の平角導体の89%(〔実施例11の平角導体のセル反り/従来例11の平角導体のセル反り〕=0.89)程度に低減することができた。
【実施例2】
【0068】
(実施例21)
Al製で、幅が2.5mm、板厚が0.04mmのコア用薄板材と、Cu製で、幅が2.5mm、板厚が0.08mm、IRが0.60の導体用薄板材とを用い、幅が2.5mm、板厚が0.2mmで、図1に示した構造の平角導体を作製した。
【0069】
この平角導体の周りに膜厚0.03mmのはんだ膜を形成し、図2に示した構造のリード線を作製した。
【0070】
(実施例22)
導体用薄板材のIRが0.40である以外は、実施例21と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0071】
(比較例21)
導体用薄板材のIRが0.12である以外は、実施例21と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0072】
(比較例22)
導体用薄板材のIRが0.03である以外は、実施例21と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0073】
実施例21,22及び比較例21,22の各リード線を、シリコンセルにはんだ付けするために、各リード線に1%の引張伸を付与した。応力負荷時の結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、実施例21,22のリード線は、導体用薄板材のIRが0.15以上(0.60,0.40)であるため、応力負荷によってリード線は直線状に矯正され、反りは生じなかった(平坦となった)。その結果、実施例21,22のリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができた。
【0076】
これに対して、比較例21,22のリード線は、導体用薄板材のIRが0.15未満(0.12,0.03)であるため、応力負荷によってリード線を直線状に矯正しようとしても、大きな反りが生じてしまった。その結果、比較例21,22のリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係る平角導体の横断面図である。
【図2】図1の平角導体を用いた本発明の好適一実施の形態に係るリード線の横断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10 平角導体
11 コア用薄板材
12a,12b 導体用薄板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア用薄板材の両面に導体用薄板材を設けたクラッド材で構成される平角導体において、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下の上記導体用薄板材と、その導体用薄板材よりも0.2%耐力が小さく、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下の上記コア用薄板材で構成され、上記クラッド材全体の0.2%耐力が120MPa以下であることを特徴とする平角導体。
【請求項2】
コア用薄板材の両面に導体用薄板材を設けたクラッド材で構成される平角導体において、0.2%耐力が75MPa以下で、かつ、体積抵抗率が25(×10-3μΩ・m)以下の上記導体用薄板材と、0.2%耐力が65MPa以下で、かつ、体積抵抗率が30(×10-3μΩ・m)以下の上記コア用薄板材で構成したことを特徴とする平角導体。
【請求項3】
上記導体用薄板材のビッカース硬度が100Hv以下である請求項1又は2記載の平角導体。
【請求項4】
上記導体用薄板材が、以下に示す(1)式を満足する結晶配向性を有する請求項1から3いずれかに記載の平角導体。
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
【請求項5】
上記コア用薄板材をAl、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成し、上記導体用薄板材をコア用薄板材よりも体積抵抗率が低く、かつ、Cu、Ag、Au、又はそれらの金属を少なくとも1種含む合金材で構成した請求項1から4いずれかに記載の平角導体。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載の平角導体の外周全体又は外周の一部を、Sn-Pbはんだ膜で被覆したことを特徴とするリード線。
【請求項7】
請求項1から5いずれかに記載の平角導体の外周全体又は外周の一部を、Pbフリーはんだ膜で被覆したことを特徴とするリード線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−190574(P2006−190574A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1730(P2005−1730)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】