説明

平面積層コイルの製造方法および平面積層コイル

【課題】 各層間の位置ずれが少なく、設計自由度の高い平面積層コイルの製造方法等を提供する。
【解決手段】 布線ヘッド5の先端から導線7を繰り出しながら、布線開始点13から布線を行う。次に、導線7を繰り出しながら布線ヘッド5を移動させてコイルパターン11を第1の表層基材9a上に形成する。コイルパターン11は、中心側から、外方に向かって形成される。1層目のコイルパターン11の形成が完了すると、布線ヘッド5はコイルパターン11の形成を終了して水平方向の動作を止める。次に、布線ヘッド5を第1の表層基材9aから離れる方向に鉛直方向に20〜30mm程度上昇させる。次に第1層目のコイルパターン11の上に中間基材である中間基材9bを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数層にコイルが形成される平面積層コイルの製造方法およびこれにより製造された平面積層コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小型RFID(Radio Frequency IDentification(電波方式認識))アンテナ、電磁超音波センサ、ワイヤレス給電、薄型トランス等において、薄くインダクタンス値の大きいコイルが求められており、布線コイルが注目されている。布線コイルとは、平面基材の上に導体をスパイラル状に布線した非常に高さの薄いコイルを指す。このような布線コイルは、単層では通常インダクタンス値が小さいため、積層してインダクタンス値を大きくする方法が用いられている。このような積層した布線コイルを本願では平面積層コイルと呼ぶ。
【0003】
平面積層コイルの製作には、例えば一層毎に独立した布線コイルを積み上げていく方法がある。また、基材の上に一筆書きで形成された複数の布線コイルを折り畳んで積層し、平面積層コイルを形成する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−347542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のいずれの方法でも、各層間を貼り合わせる工数を要するため、製造性が悪いという問題がある。また、各層の貼り合わせの際に、各層のコイルの位置ずれの恐れがある。
【0006】
また、折り畳んで積層し形成する方法では、各層を貼り合わせる際に、導線同士が重なる層間で基材の接着剤による接着力が得られないため、接着力が低下するという問題がある。さらに、一度複数の層を形成してから、各層を重ねるため、各層のコイルを形成する際に、この基材の切り取り代や折りたたみ代分だけ余計な布線(余線部)ができてしまう問題がある。
【0007】
また、特に特許文献1のように基材を折り畳む場合には、コイル間に基材が設けられる層と、コイル同士が接触する層とが形成され、各層のコイルの距離を一定にすることができない。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、各層間の位置ずれが少なく、生産性に富み、設計自由度の高い平面積層コイルの製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために第1の発明は、平面積層コイルの製造方法であって、任意の方向に移動可能なヘッドを具備し、前記ヘッドに導線を供給し、前記ヘッドの先端から前記導線を繰り出すことが可能な布線装置を用い、第1の表層基材を配置する工程aと、前記ヘッドにより前記第1の表層基材上に前記導線を布線してコイルパターンを形成した後、前記ヘッドを当該コイルパターンから退避させる工程bと、当該コイルパターン上に、中間基材を配置する工程cと、前記ヘッドにより前記中間基材上に前記導線を布線して下層と同一のコイルパターンを形成した後、前記ヘッドを当該コイルパターンから退避させる工程dと、前記工程cおよび工程dを少なくとも1回行い、最上層に位置するコイルパターン上に第2の表層基材を配置する工程eと、を具備することを特徴とする平面積層コイルの製造方法である。
ここで、本発明における「下層」とは、第1の表層基材側から順次コイルパターンを積層させていく場合において、先に形成される側の層を指す。また、「最上層」とは、順次コイルパターンを積層させていく場合において、最後に形成される層を指す。
【0010】
前記工程bおよび前記工程dは、基材端部から中心方向に向けて前記導線を布線して余線部を形成し、前記余線部の上に重なるように、中心側から外周側に向けて前記コイルパターンを形成し、積層状態におけるコイルパターンの平面視で少なくとも2箇所の異なる位置に前記余線部が積層されてもよい。
【0011】
前記中間基材は、前記第1の表層基材および/または前記第2の表層基材と異なるシート素材からなってもよい。この場合、前記中間基材の厚みは、前記第1の表層基材および前記第2の表層基材の厚みと異なってもよく、前記第1の表層基材、前記第2の表層基材および前記中間基材の内の少なくとも一枚が、他の基材よりも誘電率が異なるシート素材からなってもよく、前記中間基材の内の少なくとも一枚は、前記第1の表層基材および前記第2の表層基材よりも耐熱性および難燃性に優れるシート素材からなってもよい。
【0012】
前記中間基材は、両面に接着層が設けられてもよい。前記ヘッドを退避させる際、前記ヘッドを各基材から離す方向に移動させ、前記ヘッドの移動に伴い、前記ヘッドの先端から前記導線が繰り出され、前記ヘッドにより布線を再開する際、前記ヘッドの先端から基材の間に繰り出された前記導線を、前記ヘッドに繰り戻しながら前記ヘッドを各基材に近づく方向に移動させることが望ましい。
【0013】
第1の発明によれば、各層のコイルパターンの間に基材を挟み込み、同一の布線装置上で各層のコイルパターンを形成するため、各層のコイルパターンの位置がずれることがない。また、コイルパターンの各層間の渡り部が最低限の長さでよいため、無駄な布線を削減することができる。
【0014】
また、各層間の基材の設置の際には、ヘッドを退避させ、基材設置後に再び基材上にコイルパターンを布線するため、基材の設置時にヘッドと干渉することがない。特に、ヘッドを各基材から離すように退避させる際に、ヘッドの先端から導線を繰り出し、布線を再開しヘッドを基材に近づける際には、ヘッドの先端から基材の間に繰り出された導線を、ヘッドに繰り戻しながら移動させることで、導線のたるみなどが生じることがない。
【0015】
また、コイルパターンの形成の際、端部側から中心方向に余線部を形成し、余線部に重なるようにコイルパターンを形成することで、それぞれの層のコイルパターン終点を最外周に位置することができ、また、この余線部の位置を複数個所に分散させることで、平面積層コイルの一部のみが厚くなることがない。
【0016】
また、各層間に配置される基材は、同一のものである必要はない。このため、厚さや、誘電率、耐熱性などの異なる基材を用いることができる。したがって、必要な部位に必要な特性の基材を配置することができる。
【0017】
例えば、中間基材の厚みのみを厚くすれば、コイル間同士の距離を確保できるとともに、表層基材を薄くすることで、全厚を薄くすることができる。また、逆にコイル間の中間基材を薄くし、表層基材のみを厚くすることで、全厚を薄くするとともに、外部に対する絶縁性を高めることができる。
【0018】
また、例えば中間基材として誘電率の低い材料を用いれば、浮遊容量を削減し、高周波用に適したコイルとして用いることができる。また、複数の誘電率の異なる基材を組み合わせることで、既存のシート素材にない誘電率を得たい場合にも任意の誘電率のコイルを得ることができ、例えば、帯域フィルタとして用いることができる。
【0019】
また、例えば中間基材の一部に耐熱性および難燃性に優れるシート素材を用いることで、特に放熱の悪い内層の耐熱性のみを向上させて、全体として効率良く最大使用温度を向上させることができる。
【0020】
また、中間基材のみ、両面に接着剤を設けることで、より各層間の接着強度を高めることができる。
【0021】
第2の発明は、第1の発明によって製造され、第1の表層基材と第2の表層基材の間に1本の連続した導線で構成されるコイルパターンが積層された平面積層コイルであって、前記コイルパターン同士の間には中間基材が配置されて積層され、前記中間基材を挟んで、下層における前記コイルパターンの終点から、上層における前記コイルパターンの始点に向けて、前記導線が略直線状に布線されることで、同一層上に形成される余線部の長さと層間上に形成される渡り部の長さが、略最短の距離となることを特徴とする平面積層コイルである。前記中間基材は、前記第1の表層基材および/または前記第2の表層基材と異なるシート素材よりなってもよい。
【0022】
ここで、同一層上に形成される余線部の長さと層間上に形成される渡り部の長さが略最短の距離となるとは、下層の終点から上層の始点までの間にたるみが生じることがないことをいう。すなわち、渡り部が基材に対して略垂直(厚み方向)に形成されるとともに、余線部がコイルパターンの外部にはみ出すことなく略直線上に形成されることをいう。
【0023】
第2の発明によれば、第1の発明によりコイルパターンのずれがなく、無駄な布線を削減しているため、設計誤差の少ない平面積層コイルを得ることができる。また、各層の接着強度にも優れる平面積層コイルを得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各層間の位置ずれが少なく、生産性に富み、設計自由度の高い平面積層コイルの製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】コイル布線装置1を示す概略斜視図。
【図2】布線工程を示す平面図。
【図3】第1層のコイルパターンを形成した状態を示す平面図。
【図4】第1層のコイルパターンを形成した状態を示す図で、図3のC−C線断面図。
【図5】2層目の中間基材9bを設置した状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F線断面図。
【図6】第2層のコイルパターンの布線を開始する状態を示す図で、図5(a)のF−F線断面図。
【図7】第2層のコイルパターンを形成した状態を示す平面図。
【図8】第3層のコイルパターンの布線を開始する状態を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図。
【図9】コイルパターンの布線を終了した状態を示す平面図。
【図10】最上層に第2の表層基材9dを配置した状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のO−O線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1はコイル布線装置1を示す概略斜視図である。コイル布線装置1は、テーブル3上に設置された基材9上に、布線ヘッド5によって導線7を繰り出し、コイルパターン11を形成するものである。基材9の上面にはあらかじめ接着剤が塗布されている。
【0027】
導線7は、図示を省略したボビン等から供給される。布線ヘッド5には、図示を省略したテンショナやガイド等を介して導線7が送り出される。布線ヘッド5は、図示を省略した移動ステージに固定される。したがって、布線ヘッド5は、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向の任意の方向に移動することができる。
【0028】
すなわち、布線ヘッド5の先端から導線7を繰り出しながら、布線ヘッド5を基材9上に移動させてコイルパターン11が形成される。なお、コイルパターン11の形成の際には、布線ヘッド5を水平方向に(Z方向を固定して)移動させて導線7を基材9上繰り出してもよく、または、所定ピッチで布線ヘッド5を鉛直方向(Z方向)に往復動作させて、間欠的に導線7を基材9に押し付けて貼付してもよい。
【0029】
導線7としては、例えば線径0.02〜0.3mmのエナメル線を用いることができる。導線7は、各層の余線部によるショートを防止するため、絶縁被覆を有するもの(上記エナメル線やリッツ線、焼付絶縁塗装電線、マグネットワイヤなど)が好ましい。また、基材9としては、例えばポリエステルやポリイミドなどの樹脂製で、厚さ50μm程度のシート素材を使用することができる。接着剤付のシート素材としては、例えば市販のポリエステルフィルムテープや、東レ・デュポン社製のカプトン(登録商標)などの絶縁テープを用いることができる。
【0030】
なお、本発明におけるコイルパターンは、図示した例に限られず、一筆書きで形成可能な形状であればいずれの形状でも良い。例えば、導線同士が密着してもよく、所定間隔で形成されてもよく、また、形状としても、円形、矩形、星型その他いずれの形状であってもよい。また、コイルパターンについては、今後右巻きで形成する例を示すが、当然、左巻きで形成しても良い。
【0031】
次に、平面積層コイルの製造方法について説明する。図2は布線状態を示す平面図であり、布線ヘッド5の位置を点線で示す。まず、図2(a)に示すように、第1の表層基材である第1の表層基材9aを配置する。第1の表層基材9aの上面には接着剤が塗布されている。
【0032】
布線ヘッド5の先端から導線7を繰り出しながら、布線開始点13から布線を行う。すなわち、第1の表層基材9aの端部側から中心方向に向かって真っすぐに導線7を布線する(図中矢印A方向)。ここで、この第1の表層基材9a上に最初に形成されるまっすぐな部位を余線部15とする。すなわち、余線部15は第1の表層基材9aの端部側から後述するコイルパターンの開始点までの移動部となる。
【0033】
次に、図2(b)に示すように、導線7を繰り出しながら布線ヘッド5を移動させてコイルパターン11を第1の表層基材9a上に形成する(図中矢印B方向)。コイルパターン11は、中心側(余線部15の端部)から、外方に向かって形成される。したがって、コイルパターン11は、余線部15の上に重なるように形成される。なお、以下の説明において、平面図でのコイルパターンとしては、簡単のため、導線7を線で示し、導線7同士の間に隙間を形成した円形のものを図示する。
【0034】
尚、外側から中心方向に向かってコイルパターン11を形成することもできるが、コイルの成形性が悪い・線間ピッチが広がるなどの不具合が起こる可能性がある。これは、導線7が布線ヘッド5に引きずられることが原因で起こる。中心側から外側へ向かってコイルパターン11を形成する場合は、最も内側に布線された導線7がガードの役目を果たすため、導線7が布線ヘッド5に引きずられるのを防止することができる。したがって、コイルパターン11は、中心側から外方に向かって形成されるのが好ましい。
【0035】
図3は、第1の表層基材9a上のコイルパターン11が形成された状態を示す平面図である。第1の表層基材9a上の第1層目のコイルパターン11は、前述の余線部15とは異なる位置まで形成される。図の例では、第1層目の余線部15とは逆側までコイルパターン11が形成される。
【0036】
図4は、図3のC−C線断面図である。なお、以下の説明において、断面図でのコイルパターンとしては、簡単のため、導線7を太く示し、導線同士が密着しているものを図示する。まず、図4(a)に示すように、1層目のコイルパターン11の形成が完了すると、布線ヘッド5はコイルパターン11の形成を終了して水平方向の動作を止める。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、布線ヘッド5を退避させる。具体的には、布線ヘッド5を第1の表層基材9aから離れる方向に(鉛直方向に)20〜30mm程度上昇させる(図中矢印D方向)。この際、布線ヘッド5が第1の表層基材9aから離れることで、布線ヘッド5の先端と第1の表層基材9aの距離の増加に応じた導線7が、布線ヘッド5の先端から繰り出される(図中矢印E方向)。
【0038】
図5は中間基材9bを配置した状態を示す図で、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のF−F線断面図である。図5(a)、図5(b)に示すように、第1層目のコイルパターン11(第1の表層基材9a)の上に中間基材である中間基材9bが配置される。この際、第1層目のコイルパターン11の最終点が中間基材9bの端部からはみ出すように、中間基材9bが配置される。中間基材9bの上面には接着剤があらかじめ塗布される。
【0039】
なお、第1の表層基材9aと中間基材9bとは、第1の表層基材9a上の導線7以外の部位で接着される。すなわち、第1の表層基材9a上の接着剤は、導線7(コイルパターン11)以外の部位で表面に露出するため、中間基材9bの裏面側と貼り合わせられる。ここで、中間基材9bの両面に接着剤を塗布しておいてもよい。このようにすると、コイルパターン11上面と中間基材9bの裏面も接着することができる。このため、接着面積が大きくとることができ、例えば、密巻のコイルであって、第1の表層基材9aの接着剤の露出面積が小さい場合でも、確実に第1の表層基材9a、中間基材9bを接着することができる。
【0040】
また、図5(b)に示すように、中間基材9bは、退避状態の布線ヘッド5から繰り出されている導線7が露出するように配置される。したがって、第1層目のコイルパターン終了点近傍において、中間基材9bの端部から第1層目の導線7がわずかに露出する。
【0041】
図6は、図5(a)のF−F線断面図である。図6(a)に示すように、退避していた布線ヘッド5を元に戻す。すなわち、布線ヘッド5が中間基材9bに近づく方向に(鉛直方向に)、布線ヘッド5を移動させる(図中矢印G方向)。この際、退避状態において布線ヘッド5の先端から第1の表層基材9aまでの間に繰り出されていた導線7は、布線ヘッド5の内部に繰り戻される(図中矢印H方向)。
【0042】
すなわち、一度繰り出された導線7を、布線ヘッド5の内部に繰り戻しながら布線ヘッド5を下降させる。このようにすることで、布線ヘッド5の移動に伴い、導線7にたるみが生じることがない。したがって、コイルパターンにずれが生じたり、導線7が不要な部位に貼着したりすることがない。
【0043】
次に、図6(b)に示すように、布線ヘッド5を水平方向に移動させ(図中矢印I方向)、中間基材9b上に布線を開始する。ここで、第1層目(第1の表層基材9a上)から第2層目(中間基材9b上)のように、各層間に渡って導線7が布線される部位を渡り部17とする。したがって、図示した例では、第1層目の余線部15とは逆側に第1層目から第2層目の渡り部17が形成される。
【0044】
次に、図7(a)に示すように、中間基材9b上に第1の表層基材9aに形成したものと同様のコイルパターン11が形成される。すなわち、まず、渡り部17(中間基材9bの端部)から、中間基材9bの中心方向に向かって真っすぐに導線7が布線される(図中矢印J方向)。すなわち、渡り部17から余線部15が形成される。
【0045】
次に、導線7を繰り出しながら布線ヘッド5を移動させてコイルパターン11を中間基材9b上に形成する(図中矢印K方向)。なお、中間基材9b上の第2層目のコイルパターン11は、第2層目の余線部15とは異なる位置まで形成される。図の例では、第1層目の余線部15と同一の位置までコイルパターン11が形成される。
【0046】
次に、前述のように布線ヘッド5を退避させる。退避させた後、図7(b)に示すように、中間基材9b(第2層目のコイルパターン11)上に中間基材である中間基材9cが配置される。この際、第2層目のコイルパターン11の最終点が中間基材9cの端部からはみ出すように、中間基材9cが配置される。なお、中間基材9cの上面には接着剤があらかじめ塗布され、中間基材9bと中間基材9cとは、中間基材9b上の導線7以外の部位で接着される。なお、中間基材9cの両面に接着剤を塗布しておいてもよい。
【0047】
次いで、図8(a)に示すように、布線ヘッド5を退避状態から元の状態に戻し、第2層目から第3層目の渡り部17を形成して、中間基材9c上への布線を開始する。
【0048】
さらに、図8(b)に示すように、中間基材9c上に余線部15を形成し(図中矢印L方向)、下層と同様のコイルパターン11の布線を行う(図中矢印M方向)。
【0049】
図9は、第3層目のコイルパターン11を中間基材9c上に形成した状態を示す平面図である。最上層である第3層目のコイルパターン11を形成後、第1の表層基材9aよりも外方に布線ヘッド5を移動する。すなわち、第1の表層基材9aの外方である布線終了点19まで布線を行う(図中矢印N方向)。
【0050】
布線が終了後、図10(a)に示すように、中間基材9c(最上層のコイルパターン11)上に第2の表層基材である第2の表層基材9dを配置する。第2の表層基材9dは、中間基材9cの接着剤露出部で中間基材9cと貼り合わされてもよく、第2の表層基材9dの裏面側に接着剤をあらかじめ塗布しておいてもよい。
【0051】
図10(b)は図10(a)のO−O線断面図である。図10(b)に示すように、各層のコイルパターン11の間には必ず1枚の基材が配置されて区分される。また、第1の表層基材9aと第2の表層基材9dが最外面に位置する。以上により平面積層コイルが製造される。
【0052】
以上、本発明によれば、各層のコイルパターン11の間に1枚の基材が挟み込まれ、同一の布線装置上で各層のコイルパターンが形成される。よって、各層を個別に形成して積層したり、折り畳んで積層したりする必要がないため、各層のコイルパターンの位置が設計値からずれることがない。
【0053】
また、コイルパターン11の各層間の渡り部17を布線装置で設けることができ、渡り部17の長さが各層間にまたがる厚み分だけの最低限の長さでよいため、無駄な布線が不要である。また、各層間に基材を設置する際には、布線ヘッド5を退避させるため、基材の設置作業時に布線ヘッド5と干渉することがない。
【0054】
また、布線ヘッド5を退避させる際には布線ヘッド5の先端から導線7を繰り出し、布線ヘッド5を基材に近づける際には、導線を布線ヘッド5に繰り戻しながら移動させることで、導線7のたるみなどが生じることがない。
【0055】
また、各層の余線部15の位置を複数個所に分散させることで、平面積層コイルの一部のみが厚くなることがない。
【0056】
また、中間基材である中間基材9b、9cにのみ、両面に接着剤を設けることで、各層間の接着強度をより高めることができる。
【0057】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと解される。
【0058】
例えば、本発明で製造される平面積層コイルは、前述の実施例で示したような3層構造以外であってもよい。本発明では、複数層の平面積層コイルであれば、いずれの層数であっても適用が可能である。
【0059】
また、前述の例では、平面視において、余線部15(渡り部17)の位置を、コイルパターンの2箇所に形成したが、各層ごとに全て異なる位置としてもよい。
【0060】
また、使用される第1の表層基材9a、中間基材9b、9c、第2の表層基材9dは、同一のものである必要はない。例えば、表層基材である第1の表層基材9a、第2の表層基材9dと中間基材である中間基材9b、9cを異なるシート素材から構成してもよい。
【0061】
このような実施形態としては、第1の表層基材9a、第2の表層基材9dの厚みを中間基材9b、9cよりも厚くしてもよい。このようにすることで、中間基材として薄い中間基材9b、9cを用いるため、全厚を薄くすることができるとともに、表層基材の厚みが厚いため、外部に対する絶縁性を高めることができる。
【0062】
また、逆に、第1の表層基材9a、第2の表層基材9dの厚みを中間基材9b、9cよりも薄くしてもよい。このようにすることで、中間基材9b、9cの厚みによって、各層のコイル間同士の距離を所定の距離に保持することができるとともに、表層基材のみを薄くすることで全厚を薄くすることができる。
【0063】
また、例えば、第1の表層基材9a、第2の表層基材9dに対して、より誘電率の低い中間基材9b、9cを用いてもよい。このようにすることで、浮遊容量を削減して、高周波特性に優れるコイルを得ることができる。この際、第1の表層基材9a、第2の表層基材9dには、誘電率ではなく、耐外傷性や強度に優れる部材を用いることもできる。
【0064】
また、中間基材の少なくとも一部(例えば一番中心に配置される基材)のみを、耐熱性および難燃性に優れるシート素材により構成してもよい。コイルの中心部は、放熱性が悪いため、温度が上昇するが、この温度が上昇する部位にのみ、耐熱性および難燃性に優れる基材を配置することで、全体として最大使用温度を向上させることができる。
【0065】
また、各基材に対して、誘電率の異なる基材を組み合わせることもできる。このようにすることで、既存のシート素材にはない誘電率を得たい場合にも、任意の誘電率のコイルを得ることができる。このため、例えば、帯域フィルタとして用いることができる。
【0066】
また、着色された基材を用いてもよい。例えば、表層基材である第1の表層基材9a、第2の表層基材9dを黒色とすることで、内部のコイル形状を見えないようにすることができる。また、各基材の色を変えることで、製造中に、現在の積層数を容易に視認することができる。さらに、所望の色彩に調整して意匠性を出すこともできる。
【0067】
また、本発明では、必ずしも各基材に接着層をあらかじめ形成する必要はなく、接着層を有さない基材を用いてもよい。この場合には、基材とは別に接着シートを用いてもよく、布線時に接着部材を塗布してもよい。いずれにせよ、導線7が基材上に所定のパターンで固定されれば良い。
【符号の説明】
【0068】
1………コイル布線装置
3………テーブル
5………布線ヘッド
7………導線
9………基材
9a………第1の表層基材
9b、9c………中間基材
9d………第2の表層基材
11………コイルパターン
13………布線開始点
15………余線部
17………渡り部
19………布線終了点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面積層コイルの製造方法であって、
任意の方向に移動可能なヘッドを具備し、前記ヘッドに導線を供給し、前記ヘッドの先端から前記導線を繰り出すことが可能な布線装置を用い、
第1の表層基材を配置する工程aと、
前記ヘッドにより前記第1の表層基材上に前記導線を布線してコイルパターンを形成した後、前記ヘッドを当該コイルパターンから退避させる工程bと、
当該コイルパターン上に、中間基材を配置する工程cと、
前記ヘッドにより前記中間基材上に前記導線を布線して下層と同一のコイルパターンを形成した後、前記ヘッドを当該コイルパターンから退避させる工程dと、
前記工程cおよび工程dを少なくとも1回行い、最上層に位置するコイルパターン上に第2の表層基材を配置する工程eと、
を具備することを特徴とする平面積層コイルの製造方法。
【請求項2】
前記工程bおよび前記工程dは、基材端部から中心方向に向けて前記導線を布線して余線部を形成し、前記余線部の上に重なるように、中心側から外周側に向けて前記コイルパターンを形成し、
積層状態におけるコイルパターンの平面視で少なくとも2箇所の異なる位置に前記余線部が積層されることを特徴とする請求項1記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項3】
前記中間基材は、前記第1の表層基材および/または前記第2の表層基材と異なるシート素材からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項4】
前記中間基材の厚みは、前記第1の表層基材および前記第2の表層基材の厚みと異なることを特徴とする請求項3記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項5】
前記第1の表層基材、前記第2の表層基材および前記中間基材の内の少なくとも一枚が、他の基材よりも誘電率が異なるシート素材からなることを特徴とする請求項3または請求項4記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項6】
前記中間基材の内の少なくとも一枚は、前記第1の表層基材および前記第2の表層基材よりも耐熱性および難燃性に優れるシート素材からなることを特徴とする請求項3または請求項4記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項7】
前記中間基材は、両面に接着層が設けられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項8】
前記ヘッドを退避させる際、前記ヘッドを各基材から離す方向に移動させ、前記ヘッドの移動に伴い、前記ヘッドの先端から前記導線が繰り出され、
前記ヘッドにより布線を再開する際、前記ヘッドの先端から基材の間に繰り出された前記導線を、前記ヘッドに繰り戻しながら前記ヘッドを各基材に近づく方向に移動させることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の平面積層コイルの製造方法。
【請求項9】
第1の表層基材と第2の表層基材の間に1本の連続した導線で構成されるコイルパターンが積層された平面積層コイルであって、
前記コイルパターン同士の間には中間基材が配置されて積層され、
前記中間基材を挟んで、下層における前記コイルパターンの終点から、上層における前記コイルパターンの始点に向けて、前記導線が略直線状に布線されることで、同一層上に形成される余線部の長さと層間上に形成される渡り部の長さが、略最短の距離となることを特徴とする平面積層コイル。
【請求項10】
前記中間基材は、前記第1の表層基材および/または前記第2の表層基材と異なるシート素材よりなることを特徴とする請求項9記載の平面積層コイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−253300(P2012−253300A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127029(P2011−127029)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(591019656)理研電線株式会社 (12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】