説明

幹細胞の移動および増殖を促進するための修飾されたピリミジン化合物の使用

【課題】動物において多能性細胞の数を増加させ、それにより、組織中の多能性幹細胞によって付与される治療能力の貯蔵器を増加させるための改良された方法、増殖し、移動させ、または増殖させかつ移動させるように刺激された細胞、ならびに刺激された細胞を含む、神経学的欠損または体の欠損を治療するための医薬組成物、増殖し、移動し、または増殖しおよび移動するように刺激されたそのような細胞の投与方法、その医薬組成物、および神経学的または体の欠損を有する動物を治療する方法の提供。
【解決手段】本発明は、イン・ビボおよびイン・ビトロで内因性および外因性哺乳動物幹細胞の増殖および移動を刺激するための細胞および方法を提供する。本発明は、それを必要とする動物において哺乳動物幹細胞を効果的に増殖させ、それを必要とする動物に再度導入して、神経学的障害および体の障害を軽減することができる幹細胞を生産するための試薬および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その各々の開示をここに引用して明示的に援用する、2002年1月14日に出願された米国仮特許出願セリアル番号60/348,473号、および2002年2月19日に出願されたセリアル番号60/357,783号、および2002年4月29日に出願されたセリアル番号60/376,257号、および2002年5月8日に出願されたセリアル番号60/381,138号、および2002年8月19日に出願されたセリアル番号60/404,361号、および2002年12月2日に出願されたセリアル番号60/430,381号に関連する。
【0002】
本発明は、National Institutes of Healthからの援助(補助金番号R03−AG19874)によってなされた。政府は、本発明においてある種の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、イン・ビボおよびイン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖および移動を刺激する方法、ならびにそれらの方法によって生産された細胞に関する。特に、本発明は、それを必要とする動物において幹細胞を効果的に増殖させ、それを必要とする動物に再度導入して神経学的障害および体の障害を軽減することができる試薬および方法を提供する。
【0004】
2.関連技術の背景
幹細胞は、しばしば、多様なタイプの分化した細胞を生じさせる能力を持つ、自己−更新性および多能性で定義される。それ自体、それらは、(神経学的および体の「欠損」とも言われる)神経学的障害および体の障害、あるいは年齢、病気、外傷または他の因子による組織機能のいずれかの喪失または減少の治療において有望であることを示す。しかしながら、そのような治療は、未だ実質的に克服されていない大きなハードルに直面している。
【0005】
NSCおよび神経学的欠損
幹細胞置換療法の重要な焦点は神経学的障害であったので、神経幹細胞、および特に胎児神経幹細胞が主な研究の標的であった。中枢神経系(CNS)の発生の間に、多能性前駆体細胞(MPC)としても知られている多能性神経幹細胞(MNSC)、または組織−特異的神経幹細胞(NSC)は増殖し、一時的に分割される先祖細胞を生起し、これは、最後には、ニューロン、神経膠星状細胞を含めた成人の脳を構成する細胞型に分化する。NSCは、マウス、ラット、ブタおよびヒト含めたいくつかの哺乳動物種から単離されている。例えば、国際特許出願番号WO 93/01275、WO 94/09119、WO 94/10292、WO 94/16718およびCattaneoら, 1996, Mol. Brain Res. 42:161-66参照。胚および成体齧歯類中枢神経系(CNS)からのNSCが単離されており、さらに、種々の増殖系においてイン・ビトロで増殖されている。例えば、Frolichsthal-Schoellerら, 1999, Neuroreport 10: 345-351;Doetschら, 1999, Cell 97:703-716参照。ヒト胎児脳からのNSCは、表皮細胞成長因子(EGF)および/または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補足した無血清培地を用いて培養されている。例えば、Svendsenら, 1998, J.Neurosci.Meth.85: 141-152; Carpenterら, 1999, Exp.Neurol.158:265-278参照。これらの無血清のマイトジェン−補足方法を利用して培養されたNSCは、一般に、実質的に未分化のクラスターを形成した凝集体を形成する。マイトジェンの除去および基質の提供に際して、これらの神経幹細胞はニューロン、神経膠星状細胞および稀突起神経膠芽細胞に分化する。
【0006】
神経回路に関与するシナプス結合は、シナプス可塑性および細胞死滅のため、個体の生涯を通じて連続的に変化するが、神経形成(新しいニューロンの生成)は誕生後期間の初期に完了すると考えられていた。成人脳におけるMNSCの発見(例えば、Alvarez-Buyllaら, 1997, J.Neurobiol.33:585-601; Gouldら, 1999, Science 286: 548-552参照)は、成人脳におけるMNSCの存在はニューロンの再生が生涯を通じて起こり得ることを示唆するので、ニューロン形成に対する理論をかなり変化させた。それにも関わらず、本明細書中においては「神経学的欠損」という脳機能の年齢、物理的および生物学的外傷または神経変性病−関連喪失は、内因性神経形成のため潜在的に回復効果をかなり重んじ得る。その結果、内因性MNSCの上昇−調節されるか、または刺激された増殖ならびにMNSCの移植は、年齢、物理的および生物学的外傷または神経変性病による適当な脳機能の喪失を被る者に対して潜在的に価値ある治療である(すなわち、神経学的欠損)。そのような治療は当該分野で知られていない。
【0007】
人口の上昇する平均年齢、および年齢が上がることに伴う神経学的欠損の同時に増大する発生のため、神経変性病の治療は主な関心事となった。アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病およびパーキンソン病を含めたそのような病気は、脳の特定の位置におけるニューロンの変性と関連付けられており、脳領域が、ニューロンシグナリングに必須の神経伝達物質を合成しそれを放出することをできなくする。
【0008】
神経変性は、ニューロンの喪失をもたらす年齢に関連したまたは関連しない多くの疾患および病気を含む。これらの疾患は虚血症(発作)および癲癇のごときCNS外傷、ならびに筋萎縮性軸索硬化症および脳麻痺を含めたニューロン喪失をもたらす病気を含む。
【0009】
多くのそのような神経学的欠損は脳の特定の領域に突き止められている。脳幹神経節として知られている脳領域における変性は、病巣の正確な位置に応じて、種々の異なる認識および運動兆候を持つ病気に導き得る。脳幹域神経節は、(尾状核および被殻よりなる)線条、淡蒼球、黒質、無名質、腹側淡蒼球、Meynertの基底核、腹側被蓋野および視床下部核を含めた多くの別々の領域よりなる。
【0010】
脳幹神経節における変形は運動欠損に導き得る。例えば、ハンチントン舞踏病は線条におけるニューロンの変性に関連し、これは、不随意反射運動に導く。視床下部核と呼ばれる小さな領域の変性は、バリスムと呼ばれる疾患における四肢の激しい振り動かし運動に関連し、他方、被殻および淡蒼球における変性は、ゆっくりとした悶え運動または無定性運動症の疾患に関連付けられる。パーキンソン病では、変性が、脳幹神経節、黒質緻密質のもう1つの領域でみられる。この領域は、通常はドーパミン作動性結合を背側線条に送り、これは運動調節で重要である。パーキンソン病に対する療法では、この回路に対するドーパミン作動性活性の回復に焦点を当ててきた。
【0011】
アルツハイマー病の患者は、前脳および大脳皮質のかなりの細胞変性を呈する。さらに、脳幹神経節の局所化領域であるMeynertの基底核は選択的に変性されるようである。この核は、通常はコリン作動性投影を、記憶を含めた認識機能に関与すると考えられる大脳皮質に送る。
【0012】
ほとんどのCNS療法の目的は、細胞変性により失われた特定の化学的機能または酵素活性を回復させることにある。医薬組成物の投与は、CNS機能不全に対する主な治療であったが、このタイプの治療は、脳血液関門を横切って薬物を輸送する限定された能力およびこれらの薬物が長期間投与される患者によって獲得された薬物−許容性を含めた複雑性を有する。
【0013】
多能性幹細胞の移植は、一定の薬物投与のみならず、脳−血管関門によって必要とされる複雑な薬物送達系に対する必要性を転じ得る。しかしながら、現実には、かなりの制限がこの技術で同様に見出されている。まず、ドナーからの分化した細胞の細胞表面分子を担う移植で用いられる細胞は、受容者において免疫反応を誘導しかねず、これは、脳の患部領域への細胞の直接的注入によって引き起こされる物理的損傷によって悪化する問題である。加えて、神経幹細胞は、それが隣接する細胞と正常な神経結合を形成することができる活性段階になければならない。
【0014】
これらの理由で、神経移植に関する初期の研究は、胎児の細胞の使用に焦点を当ててきた。哺乳動物胎児の脳組織は、直ちに移植すると合理的な生存特徴を有することが証明されている。胎児ニューロンの増大した生存能力は、成人ニューロンと比較した酸素欠乏症に対する胎児ニューロンの減少した罹患性によるものと考えられている。胎児細胞の製造に有利なさらなる因子は、細胞表面マーカーのその欠如であり、その存在は成人からの移植組織の拒絶に導き得る。しかしながら、脳は免疫学的に免責された部位であると考えられているが、胎児組織さえもいくらかの拒絶が起こり得る。従って、異種胎児組織を用いる能力は、組織の拒絶、および免疫抑制薬物投与に対する結果としての必要性によって制限される。
【0015】
大量の流産胎児組織の使用は、同様に他の困難性を呈する。胎児CNS組織は1を超える細胞型から構成され、かくして、よく規定された組織源ではない。加えて、胎児組織の適切かつ定常的な供給は、移植で利用できないようである。たとえば、MPTP−誘導パーキンソン病の治療では、6ないし8と多くの胎児からの組織が、単一患者の脳への首尾よい移植で必要である。また、胎児組織調製の間に汚染の可能性というさらなる問題がある。この組織は、細菌またはウイルスに既に感染しているので、用いる各胎児では高価な診断テストが必要とされる。包括的な診断テストでさえ、全ての感染した組織を明らかにしないであろう。例えば、試料がHIV−フリーである保証はない。なぜならば、該ウイルスに対する抗体は感染後数週間までは一般に存在しないからである。
【0016】
胎児組織に加え、細胞系および遺伝子工学作成細胞型を含めた、神経移植用の組織の潜在的源があるが、双方の源は深刻な制限を有する。細胞系は、とりわけ、オンコジーンでの正常細胞のトランスフォーメーションによって、または改変された増殖特徴をもつイン・ビトロでの細胞の培養によって得られる不滅化細胞である。さらに、有害な免疫応答の可能性、細胞を不滅化するためのレトロウイルスの使用、無糸分裂状態へのこれらの細胞の復帰の可能性、およびこれらの細胞による正常な増殖阻害シグナルに対する応答の欠如は、そのような細胞系を広い用途に際して最適下とする。
【0017】
神経移植に対するもう1つのアプローチは遺伝子工学によって作成された細胞型または遺伝子治療を含む。しかしながら、これらの細胞との免疫反応を誘導する危険性が依然として存在する。加えて。レトロウイルス媒介導入は他の細胞の異状をもたらしかねない。また、レトロウイルス媒介遺伝子導入によって生じた細胞系は、移植後にその移動された遺伝子を徐々に不活化することが知られており、さらに、宿主組織との正常なニューロン結合を達成しないであろう。
【0018】
現在利用できる移植アプローチはかなりの欠点を有する。宿主組織へ十分に一体化する移植が先行技術ではできず、また、移植用の信頼できる源からの限定された量における適切な利用性が欠如しており、これは、神経移植のかなりの制限となる。解離し、部分的に分化したNSCの組織内注入を利用する研究は、ほとんど有望性を示していない。(たとえば、Benningerら, 2000, Brain Pathol. 10: 330-341; Blakemoreら, 2000, Cell Transplant 9: 289-294; Rosserら, 2000, Eur. J.Neurosci. 12: 2405-2413; Rubioら, 2000, Mol.Cell Neurosci. 16 : 1-13参照)。その結果は、一般には貧弱なものであった。なぜならば、多くの考慮のうち、NSCのクラスターの解離は、NSCの直後の老化を引き起こし、培養中のNSCの傷付き易さを増加させることが知られているからである。例えば、Svendsenら,1998, J. Neurosci Meth, 85: 141-152参照。さらに、脳に導入される外来性組織によって誘導される有害な免疫応答にかかわらず、損傷した領域への細胞の直接的物理的導入によって引き起こされた外傷は、移植された細胞を排除しえる宿主による免疫細胞の動員を誘導しかねない。かくして、神神経学的欠損を軽減するためのNSCの使用に伴うかなりの問題が存在する。本明細書中に記載するごとく、神経学的欠損は、たとえば、目および脊髄のごとき非脳組織を含む。
【0019】
「体の欠損」とは、外傷、機能不全、変性、または例えば、心筋梗塞による心筋のごとき筋肉の喪失をもたらす、広く種々の病気および負傷によって引き起こされた障害である。他の例は、例えば、内部器官のごとき前記神経学的欠損のセクションで議論したものとは別の、他の細胞および組織の機能不全、変性または喪失を含む。例えば、肝臓機能は、とりわけ、病気(例えば、肝硬変または肝炎)、外傷または年齢によって悪影響され得る。脳の神経学的欠損を治療するためにNSCを用いるにおいて前記した問題は、目のごとき他の組織における神経学的欠損、および体の欠損にも適用される。
【0020】
動物において多能性細胞の数を増加させ、それにより、組織中の多能性幹細胞によって付与される治療能力の貯蔵器を増加させるための改良された方法に対して当該分野で要望が存在する。インビボにて内因性の、および外因的に導入された哺乳動物多能性幹細胞の、ならびにインビトロにて哺乳動物多能性幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激する必要性が存在する。増殖し、移動させ、または増殖させかつ移動させるように刺激された細胞、ならびに刺激された細胞を含む、神経学的欠損または体の欠損を治療するための医薬組成物に対する要望が存在する。さらに、当該分野においては、増殖し、移動し、または増殖しおよび移動するように刺激されたそのような細胞の投与方法、およびその医薬組成物に対する要望が存在する。なおさらに、神経学的または体の欠損を有する動物を治療する方法に対する要望が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、イン・ビボおよびイン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激するための方法、およびそれらの方法によって生産された細胞を提供する。特に、本発明は、それを必要とする動物において幹細胞を効果的に増殖させるために、およびそれを必要とする動物に再度導入して神経学的障害を軽減することができる幹細胞を生産するための試薬および方法を提供する。
【0022】
第一の態様において、本発明は、イン・ビボにて内因性および外因性哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖しおよび移動双方を刺激する方法を提供する。1つの態様において、該方法は、有効量の式(I)または式(II):
【0023】
【化1】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、低級アルキル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体、またはその医薬上許容される塩を哺乳動物に導入する工程を含む。
【0024】
もう1つの態様において、本発明は、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞が投与された哺乳動物に対し、イン・ビボにて外因性哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激する方法を提供する。1つの具体例において、該方法は、有効量の式(I)または(II)の前記ピリミジン誘導体、またはその医薬上許容される塩を哺乳動物に導入する工程を含む。
【0025】
もう1つの態様において、本発明は、イン・ビトロにて内因性哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激する方法を提供する。1つの具体例において、該方法は、有効量の前記式(I)または(II)のピリミジン誘導体、またはその医薬上許容される塩と哺乳動物幹細胞とを接触させる工程を含む。
【0026】
もう1つの態様において、本発明は、神経学的欠損または体の欠損を持つ動物を治療する方法を提供する。1つの具体例において、該方法は、有効量の前記式(I)または(II)のピリミジン誘導体、またはその医薬上許容される塩を投与する工程を含み、ここに、該内因性幹細胞集団は、増殖し、組織損傷の領域に移動し、組織特異的に分化し、かつ該神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激される。ある具体例においては、本発明は、さらに、より発生的に能力のある細胞を投与する工程を含み、ここに、該より発生的に能力のある細胞は、増殖し、組織損傷の領域に移動し、組織特異的に分化し、かつ該神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激される。関連する具体例においては、本発明の方法は、自己または非−自己幹細胞を投与することを含み、ここに、該自己または非−自己幹細胞は、増殖し、組織損傷の領域に移動し、組織特異的に分化し、かつ該神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激される。さらに関連する具体例においては、ピリミジン誘導体を投与したより発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞は、2以上の細胞のクラスターを形成する。さらに関連する具体例において、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞は、組織または組織特異的幹細胞に由来する。他の具体例においては、幹細胞は、天然に生じるかまたは作成されたかを問わず、造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、または間葉幹細胞であり、そのいずれも、限定されるものではないが、接合体、未分化胚芽細胞、胚、胎児、幼年少児または成人を含めた、いずれの幹細胞含有組織、および所望により、これまでの具体例のいずれかのヒト種から得ることができる。ある具体例においては、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上クラスターが、約50パーセント未満の再分化細胞、より好ましくは約25パーセント未満の再分化細胞、なおより好ましくは約10パーセント未満の再分化細胞、なおより好ましくは約5パーセント未満の再分化細胞、またはなおより好ましくは約1パーセント未満の再分化細胞を含む。関連する具体例においては、他の関連具体例における2以上の細胞のクラスターの形態である、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞は、より発生的に能力のある細胞をシリンジで注入し、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞をカテーテルで挿入し、または該細胞を外科的に移植することによって投与される。他のさらに関連する具体例においては、より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞は、神経学的または体の欠損の領域に流体的に結合した体腔に、または神経学的または体の欠損の領域にシリンジで注入され、カテーテルで挿入され、または外科的に移植される。神経学的または体の欠損に関連する具体例においては、神経学的欠損は、所望により、神経変性病、外傷負傷、神経傷害性負傷、虚血症、発生的障害、視力に影響する障害、脊髄の負傷または病気、脱髄病、自己免疫疾患、感染、または炎症性病気によって引き起こされ、体の欠損は、所望により、体の病気、障害、負傷、外傷、機能不全、変性または喪失によって引き起こされたものである。
【0027】
ある具体例においては、式(I)のピリミジン誘導体は、ここに引用して援用する米国特許第4,959,368号に開示されているごとく、MS−818、または2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエート(Cマレエート塩)である。あるイン・ビボ具体例においては、式(I)および(II)のピリミジン誘導体は約0.01mg/kg/日ないし50mg/kg/日の間、より好ましくは約0.1mg/kg/日ないし10mg/kg/日の間、なおより好ましくは約1mg/kg/日ないし5mg/kg/日の間、なおより好ましくは約3mg/kg/日の濃度で投与される。これらの具体例においては、式(I)および(II)のピリミジン誘導体は約1および60日の間、より好ましくは約1および30日の間、より好ましくは約1および15日の間、なおより好ましくは約1および10日の間、より好ましくは約2および7日の間、なおより好ましくは約5日の間投与される。これらの具体例のある他のものにおいては、該方法は、さらに、成長因子を投与する工程を含む。ある具体例においては、成長因子は線維芽細胞成長因子、表皮細胞成長因子またはその組合せを含む。
【0028】
あるイン・ビトロ具体例においては、幹細胞培養を、有効量の、または約50nMないし1mMの間、より好ましくは約500nMないし500μMの間、なおより好ましくは約1μMないし100μMの間、より好ましくは約5μMないし75μMの間、なおより好ましくは約50μMの濃度にて、式(I)または(II)のピリミジン誘導体と接触させる。これらの具体例においては、幹細胞培養を、効果的な期間、または約1および60日の間、より好ましくは約1および30日の間、より好ましくは約1および15日の間、なおより好ましくは約1および10日の間、より好ましくは約2および7日の間、なおより好ましくは約5日の間式(I)および(II)のピリミジン誘導体と接触させる。これらの具体例のある他のものにおいては、該方法は、さらに、細胞培養を成長因子と接触させる工程を含む。ある具体例においては、成長因子は線維芽細胞成長因子、表皮細胞成長因子またはその組合せを含む。これらの具体例のある他のものにおいては、該方法は、さらに、幹細胞培養をヘパリンと接触させることを含む。
【0029】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の方法に従って生産された、増殖、移動または増殖および移動双方につき刺激された細胞を提供する。もう1つの態様において、本発明は、本発明の方法により製造された、増殖、移動または増殖および移動双方につき刺激された細胞を含む神経学的欠損または体の欠損を治療するための医薬組成物を提供する。ある具体例においては、医薬組成物はさらに、医薬上許容される担体を含む。
【0030】
かくして、本発明は、有利には、イン・ビボおよびイン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖および移動を刺激する方法、それらの方法によって生産された細胞、神経学的欠損および体の欠損を治療するための医薬組成物、および本発明の細胞および医薬組成物を投与する方法を提供する。
【0031】
本発明のより具体的具体例は、ある好ましい具体例の以下のさらに詳しい記載および請求の範囲から明らかになるであろう。
【0032】
好ましい具体例の詳細な記載
本発明は、イン・ビボにて内因性および外因性哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動を刺激する方法を提供する。
【0033】
また、本発明は、イン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動を刺激する方法を提供する。
【0034】
該方法は、さらに、前記した方法によって生産された細胞を提供する。
より一般的には、本発明は、それを必要とする動物において哺乳動物幹細胞を効果的に増殖させ、およびそれを必要とする動物に再度導入して、神経学的および体の障害を軽減することができる幹細胞を生産するための試薬および方法を提供する。
【0035】
本明細書中で用いるごとく「多能性神経幹細胞(MNSC)」、「神経幹細胞(NSC)」、「多能性前駆体細胞(MPC)」とは、CNSの未分化の多能性細胞を言う。そのような用語は科学文献で通常使用されている。MNSCは、組織特異的細胞型、例えば、神経膠星状細胞、稀突起神経膠細胞およびに脳に移植した場合はニューロンに分化することができる。本発明の多能性細胞は、本発明の方法による処置により、増殖、移動または増殖および移動双方についてのその刺激によって天然NSCから区別される。
【0036】
本明細書中で用いるごとく、「発生的により能力のない細胞」とは、限定的な多−直系分化が可能な、または単一直系の組織特異的分化が可能な細胞であり、例えば、未処理間葉幹細胞は、とりわけ、骨細胞および軟骨細胞に分化することができるが、他の直系(例えば、神経直系)の細胞に分化する限定された能力を有するに過ぎない。
【0037】
本明細書中で用いるごとく、「より発生的に能力のある細胞」とは、その対応するより発生的に能力のない細胞よりも種々の細胞型に容易に分化することができる細胞である。例えば、間葉幹細胞は、骨細胞および軟骨細胞に容易に分化することができるが、神経または網膜直系の細胞に分化する限定された能力を有するに過ぎない。(すなわち、それは、この文脈においてはより発生的に能力のない細胞である。)前記参照の共有された同時係属米国特許出願の方法に従って処理した間葉幹細胞は、より発生的に能力のあるものとなる。なぜならば、それらは容易に例えば間葉−直系および神経−直系の細胞型に分化できるからである;本発明の方法に従って処理すると、細胞の可塑性は増大する。
【0038】
本明細書中で用いる「より発生的に能力のある細胞」および「発生的により能力のない細胞」は、2003年1月14日に出願された「Novel Mammalian Multipotent Stem Cells and Compositions, Methods of Preparation and Methods of Administration Thereof」なる発明の名称の共有の同時係属米国特許出願に十分に開示され、特許請求されている。
【0039】
本明細書中で用いるごとく、「多能性幹細胞」または「NSC」とは、2003年1月14日に出願された「Novel Mammalian Multipotent Stem Cells and Compositions, Methods of Preparation and Methods of Administration Thereof」なる発明の名称の共有された同時係属米国特許出願セリアル番号 、および2003年1月14日に出願された「Novel Mammalian Multipotent Stem Cells and Compositions, Methods of Preparation and Methods of Administration Thereof」なる発明の名称の共有された同時係属米国特許出願セリアル番号 に開示されている方法に従って調製された細胞を言う。各出願をここに引用してその全体を援用する。
【0040】
本明細書中で用いるごとく、「クラスター」とは、2以上の最終的ではなく分化した細胞の群を言う。クラスターは単一の多能性幹細胞または初代細胞の小さなクラスターを含むことができる。本明細書中で用いるごとく、用語「有効量」および「治療上有効量」とは、各々、所望の活性を裏付けるのに、またはそれを生じさせるために用いる試薬の量を言う。本発明に従って調製され、かつ送達された増殖、移動または増殖および移動につき刺激された細胞の場合には、有効量は、本明細書中で記載するNSCの1以上の生物学的活性の観察可能なレベルを裏付けるのに、またはそれを生じさせるのに必要な量である。ピリミジン誘導体に関しては、有効量は約0.01md/kg/日ないし50mg/kg/日の間、より好ましくは約0.1mg/kg/日ないし10mg/kg/日の間である。尚より好ましくは約1mg/kg/日ないし50mg/kg/日の間、なおより好ましくは約3mg/kg/日であり得る。
【0041】
本明細書中で用いられる「有効期間」とは、それらの特定の活性を達成するために本発明の試薬および細胞で必要な時間を言う。例えば、本発明の細胞は、それをより発生的に能力のあるものとするのに効果的な期間ピリミジン誘導体と接触させることができる。ピリミジン誘導体との接触のための有効期間は、例えば、約1ないし60日の間、より好ましくは約1ないし30日の間、より好ましくは約1および15日の間、なおより好ましくは約1および10日の間、より好ましくは約2および7日の間、なおより好ましくは約5日であり得る。
【0042】
本明細書中で用いられる用語「医薬上許容される担体」または「生理学上許容される担体」とは、本発明に従って調製され、送達された刺激された幹細胞の医薬組成物の成功した送達を達成するのに、またはそれを増強するのに適当な1以上の処方物質を言う。ここにさらに詳細に開示するごとく、本発明の方法は、式(I)または(II):
【0043】
【化2】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、低級アルキル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体、またはその医薬上許容される塩を、イン・ビボにて内因性多能性幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激するのに効果的な量にて、哺乳動物に導入することを提供する。内因性多能性幹細胞は種々の起源のもの、とりわけ、造血細胞、神経、間葉、上皮、表皮、脂肪組織および網膜起源の幹細胞であり、ピリミジン誘導体の投与は特定の組織に局所化することができる。
【0044】
また、本発明は、イン・ビボにてピリミジン誘導体の前、後またはそれと同時に哺乳動物に導入された外因性多能性幹細胞の増殖、移動、または増殖および移動双方を刺激するのに有効な量にて、ピリミジン誘導体またはその医薬上適当な塩を哺乳動物に導入する方法を提供する。さらに、必要に応じ、ピリミジン誘導体および多能性幹細胞の導入の間の残りの期間を実行して、その投与によって引き起こされたいずれの外傷も最小化することができる。外因的に導入された多能性幹細胞は、App.1またはApp.2に記載され、または後記する方法に従って調製することができる。
【0045】
ピリミジン誘導体および外因性多能性幹細胞は、共に、シリンジでの注入、カテーテルでの挿入または外科的移植によって投与することができる。ピリミジン誘導体は神経学的欠損または体の欠損の部位に、全身に(例えば、静脈内)、または脳、脊髄または脳脊髄液(CSF)によって接近可能ないずれかの組織の場合には、脳室に投与することができる。外因性多能性幹細胞は、神経学的欠損または体の欠損の部位に、全身に(例えば、静脈内)、あるいは脳、脊髄または脳脊髄液(CSF)によって接近可能ないずれかの組織の場合には、脳室に投与することができる。
【0046】
もう1つのイン・ビボ具体例においては、本発明は、神経学的欠損または体の欠損を持つ動物を治療する方法を提供する。1つの具体例において、該方法は、有効量のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩を、内因性幹細胞集団が、増殖し、組織損傷の領域に移動し、組織特異的に増殖し、かつ神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激されるように投与することができる。他の具体例においては、本発明は、さらに、App.1またはApp.2の多能性幹細胞を投与する工程を含み、ここに、該外因性多能性幹細胞は、増殖し、組織損傷の領域へ移動し、組織特異的に分化し、かつ神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激される。同様に、関連する具体例においては、本発明は、App.1またはApp.2の多能性幹細胞を投与する代わりに自己または非−自己幹細胞を投与することを含み、ここに、該自己または非−自己幹細胞は、増殖し、組織損傷の領域へ移動し、組織特異的に分化し、かつ神経学的欠損または体の欠損を低下させるように機能するように刺激される。その例として、組織特異的幹細胞は最終の受容者またはもう1つの源から単離することができ、ピリミジン誘導体と共に投与することができる。単離された細胞はイン・ビトロにてピリミジン誘導体にて処理することができるか、あるいはピリミジン誘導体で未処理のままとすることができる。自己または非−自己幹細胞を神経学的欠損または体の欠損を持つヒトまたは動物に投与する場合、細胞はその天然の能力に応じて組織特異的に分化する。例えば、造血幹細胞は、ある種の皮膚細胞に分化するいくらかの天然の制限された能力を有する。この具体例によると、造血幹細胞はもう1つの源の受容者から単離することができ、受容者への投与の前、と同時、またはその後にピリミジン誘導体で処理することができる。そのような細胞は、それらが(1)現実に遭遇する、および(2)天然に応答することができる環境のシグナルに従って増殖、移動または増殖および移動双方につき刺激される。かくして、ピリミジン誘導体と共に皮膚創傷に投与された造血幹細胞は、ピリミジン誘導体への暴露により増殖し、移動し、かつそれらが創傷において遭遇し、それに応答することができる環境シグナルに従って分化する。免疫抑制剤を用いて、非−自己細胞のいずれの免疫拒絶も抑制することができる。同様に、間葉幹細胞は、さらなる間葉幹細胞が必要な動物から単離することができる。限定された数の細胞を単離し、本発明の方法に従ってピリミジン誘導体で処理することができる。そのような細胞は、ピリミジン誘導体への暴露により、増殖し、移動し、または双方を行うように刺激することができる。多数の数の細胞をイン・ビトロで増殖させ、ドナーまたは他の非−自己受容者に再度導入することができる。
【0047】
多能性幹細胞は、天然に生じるまたは作成されたかを問わず、2以上の細胞のクラスターの形態で投与することができる。多能性幹細胞は組織または組織特異的幹細胞、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、脂肪組織幹細胞および間葉幹細胞に由来することができ、そのいずれも、限定されるものではないが、接合体、未分化胚芽細胞、胚、胎児、幼年少児または成人および、所望により、これまでの具体例のいずれかのヒト種を含めた幹細胞を含むいずれの組織から得ることもできる。
【0048】
「より発生的に能力のある」多能性幹細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞を2以上の細胞のクラスターにて利用する場合、多能性幹細胞のクラスターは約50パーセント未満の再分化細胞、より好ましくは約25パーセント未満の再分化細胞、なおより好ましくは約10パーセント未満の再分化細胞、なおより好ましくは約5パーセント未満の再分化細胞、なおより好ましくは約1パーセント未満の再分化細胞を含むことができる。本明細書中で用いる「再分化細胞」とは、移動、分化および宿主組織への取込みに先立ち、本明細書中に開示する方法の実行の間に最後には分化した細胞をいう。
【0049】
前記した他の具体例と同様に、所望によりクラスター形態の多能性幹細胞はシリンジでの注入、カテーテルでの挿入または外科的移植によって投与される。多能性幹細胞は外科的欠損または体の欠損の部位にて、全身に(例えば、静脈内)、あるいは脳、脊髄または脳脊髄液(CSF)によって接近可能ないずれかの組織の場合には、脳室に投与することができる。換言すれば、細胞は、神経学的欠損または体の欠損の領域に流体結合する体液に、あるいは神経学的欠損または体の欠損の領域に直接的に移植することができる。神経学的欠損は、所望により、神経変性病、外傷負傷、神経傷害性負傷、虚血症、発生障害、視力に影響する障害、脊髄の負傷または病気、脱髄病、自己免疫疾患、感染、または炎症性病によって引き起こされたものでよく、該体の欠損は、所望により、体の病気、障害、負傷、外傷、機能不全、変性または喪失によって引き起こされたものでよい。
【0050】
内因性および外因性哺乳動物幹細胞の増殖および移動のイン・ビボ刺激に関連する方法においては、有効量のピリミジン誘導体を投与する。有効量は、例えば、前記した効果を達成するのに有効な濃度であり得る。非限定的な例示的濃度は約0.01mg/kg/日ないし50mg/kg/日の間、より好ましくは約0.1mg/kg/日ないし10mg/kg/日の間、なおより好ましくは約1mg/kg/日ないし5mg/kg/日の間、なおより好ましくは約3mg/kg/日の間であり得る。ピリミジン誘導体は、刺激効果を誘導するのに必要に応じて投与することができ、あり得る有効期間は、例えば、約1および60日の間、より好ましくは約1および30日の間、より好ましくは約1および15日の間、なおより好ましくは約1および10日の間、より好ましくは約2および7日の間、なおより好ましくは約5日であり得る。
【0051】
本発明のイン・ビボ方法は、さらに、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、表皮細胞成長因子(EGF)またはその組合せを含めた成長因子を投与することを含むことができる。
【0052】
また、本発明は、イン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激する方法を提供する。1つの具体例において、該方法は、有効量の式(I)または(II)の前記ピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩と哺乳動物幹細胞またはイン・ビトロでのその培養とを接触させる工程を含む。幹細胞培養は、刺激効果を生じさせるのに有効な濃度でピリミジン誘導体と接触させることができる。例えば、約50nMないし1mMの間の濃度を用いることができ、より好ましくは約500nMないし500μMの間、なおより好ましくは約1μMないし100μMの間、より好ましくは約5μMないし75μMの間、なおより好ましくは約50μMを用いることができる。イン・ビボ具体例に関しては、幹細胞培養を、例えば、約1および60日の間、より好ましくは約1および30日の間、より好ましくは約1および15日の間、なおより好ましくは約1および10日の間、より好ましくは約2および7日の間、なおより好ましくは約5日であり得る有効期間の間ピリミジン誘導体と接触させることができる。また、イン・ビボ具体例と同様に、細胞培養は、増殖因子、例えば、FGF、EGFまたはその組合せと接触させることができる。本明細書中でいう増殖因子とは、(本明細書中で定義する「より発生的に能力のある」または「より発生的に能力のない」を問わず)細胞またはその子孫に対して成長、増殖または栄養効果を有する蛋白質、ペプチドまたは他の分子をいう。増殖を誘導するのに用いられる増殖因子は、細胞の表面の受容体に結合して、該細胞に対して栄養または増殖−誘導効果を発揮するいずれの分子も含めた、より発生的に能力のあるまたはより発生的に能力のない細胞が増殖するのを可能とするいずれの栄養因子も含む。増殖−誘導成長因子の例は表皮細胞成長因子(EGF)、アンフィレグリン、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGFまたはFGF-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFまたはFGF−2)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGFα)、およびその組合せを含む。好ましい増殖−誘導成長因子はEGFおよびFGFまたはその組合せを含む。成長因子は、通常、約1fg/mLないし1mg/mLの間の濃度にて培養基に添加される。約1ないし100ng/mLの間の濃度が通常は十分である。当該分野における単純な適当な実験ルーチンを用いて、特定の細胞培養についての特定の成長因子の最適濃度を決定することができる(例えば、Cutroneoら, 2000, Wound Repair Regen, 8:494-502参照)。該方法は、ある具体例にいては、さらに、多能性幹細胞培養をヘパリンと接触させること含む。
【0053】
また、本発明は、本発明の方法に従って処理され、それにより、イン・ビボまたはイン・ビトロにて増殖し、移動し、または増殖しかつ移動するように刺激された細胞を提供する。これらの細胞は、神経学的欠損または体の欠損を治療するための医薬組成物において有効成分として用いることができる。ある具体例においては、医薬組成物は、さらに、興起する医薬上許容される担体を含む。
【0054】
医薬組成物は、最適には、投与の態様での適当性につき選択された医薬上または生理学上許容される処方剤と混合した治療上有効量の本発明の刺激細胞を含む。許容される処方物質は、好ましくは、使用する投与量および濃度において、刺激された細胞および受容者に対して非毒性である。
【0055】
本発明の医薬組成物は、例えば、組成物のpH、オスモル濃度、粘度、透明性、色、等張性、臭い、滅菌性、安定性、溶解または放出の速度、吸着、または浸透、ならびに本発明の刺激細胞の増殖、移動および分化能力を修飾し、維持しまたは保存するための物質を含むことができる。適当な処方物質は、限定されるものではないが、(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンのごとき)アミノ酸、抗微生物化合物、(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムのごとき)抗酸化剤、(硼酸塩、炭酸水素塩、トリス−HCl、クエン酸塩、リン酸塩、または他の有機酸のごとき)緩衝液、(マンニトールまたはグリシンのごとき)増量剤、(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のごとき)キレート化剤、(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ−シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンのごとき)錯化剤、充填剤、単糖、二糖、および(グルコース、マンノースまたはデキストリンのごとき)炭水化物、(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンのごとき)蛋白質、着色剤、フレーバー剤および希釈剤、乳化剤、(ポリビニルピロリドンのごとき)親水性ポリマー、低分子量ポリペプチド、(ナトリウムのごとき)塩形成性対イオン、(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サルチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、または過酸化水素のごとき)防腐剤、(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのごとき)溶媒、(マンニトールおよびソルビトールのごとき)糖アルコール、懸濁化剤、(プルロニック;PEG;ソルビタンエステル;ポリソルベート20またはポリソルベート80のごときポリソルベート;トリトン;トリメタンミン;レシチン;コレステロールまたはチロキサパルのような)界面活性剤または湿潤剤、(スクロースまたはソルビトールのごとき)安定性増強剤、(ハロゲン化アルカリ金属−好ましくは塩化ナトリウムもしくはカリウム−またはマンニトールソルビトールのような)等張剤増強剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または医薬アジュバントを含む。Remington's Pharmaceutical Sciences (第18版, A.R. Gennaro編, Mack Publishing Company 1990)。
【0056】
医薬組成物における重要なビヒクルまたは担体は、性質が水性または非水性であり得る。例えば、注射用の適当なビヒクルまたは担体は、水、生理食塩水または人工脳脊髄液であり得る。最適な医薬組成物は、例えば、意図した投与経路、送達方法、所望の投与量および受容者の組織に依存して当業者により決定されるであろう。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、前掲参照。
そのような組成物は組成物の物理的状態、安定性、有効性に影響し得る。式(I)または(II)の化合物の医薬上許容される塩の例は、医薬上アニオン−含有非毒性酸付加塩、その水和物および第4級アンモニウム(またはアミン)塩またはその水和物を形成することができる酸から形成された塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、グルカン酸塩、メタンスルホン酸塩、t−トルエンスルホン酸塩およびナフタレン−スルホン酸塩を含む。好ましい具体例においては式(I)のピリミジン誘導体は、MS−818としても知られた2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレイン酸塩(Cマレイン酸塩)である。(例えば、Sanyoら, 1998, J.Neurosci Res. 54: 604-612)参照。
【0057】
かくして、本発明は、有利には、イン・ビボおよびイン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖および移動を刺激する方法、それらの方法によって生産された細胞、神経学的欠損および体の欠損を治療する医薬組成物および該細胞および本発明の医薬組成物を投与する方法を提供する。
【0058】
細胞は、当該分野で知られたいずれかの方法により、いずれかの組織から、例えば、組織の結合細胞外マトリックスからの個体の解離によりドナー組織から、またはMSCの商業的源から知ることができる。(例えば、BioWhittaker,Wallcersville, MD, CC-2599参照)。脳からの組織は、滅菌手法を用いて摘出することができ、細胞は、トリプシン、コラゲナーゼなどのごとき酵素での処理を含めた当該分野で知られたいずれかの方法を用いて、または平滑器具でのミンチングまたは処理の解離の物理的方法によって解離させることができる。神経細胞の解離は、組織培養培地で行うことができ;好ましい具体例においては、若者および成人の解離用の培地は、MgClが3.2mM濃度で存在し、CaClが0.1mMの濃度で存在する以外は、aCSF(124mM NaCl、5mM KCl、1.3mM MgCl、2mM CaCl、26mM NaHCOおよび10mM D−グルコース)と同様な手法を有する低カルシウム人工脳脊髄液(aCSF)である。解離した細胞は、200および2000rpmの間、通常は400および800rpmの間の低速で遠心し、懸濁液培地を吸引し、次いで、細胞を培地に再懸濁させる。もし多数の未分化神経幹細胞子孫が望まれれば、懸濁液が好ましい。細胞懸濁液は、被覆されていないフラスコまたは細胞、好ましくは細胞を排斥するように処理されたフラスコを含めた、接触−依存性幹細胞分化を阻害する培養プレートまたはローラー瓶を維持することができるいずれかの容器中に接種する。
【0059】
脳組織からの単離は、一般に、本発明の方法に従ってピリミジン誘導体を投与すべき外因性多能性細胞の調製で可能であるが、骨髄からの幹細胞(例えば、間葉幹細胞)は、App.1の多能性幹細胞を生じさせるための細胞の特に良好な源である。なぜならば、免疫障害骨髄移植体で数十年間用いられてきた単離技術がよく確立されているからである。さらに、本発明の方法を自己細胞で行って、かくして、免疫学的拒絶に対するいずれの心配事も緩和する。かくして、患者自身の間葉幹細胞を単離し、App.1の方法に従って処理し、必要であれば再度投与することができる。対照的に、神経細胞源を用いる自己移植体は、不可能ではないが、例えば、間葉細胞ほどは可能ではない。
【0060】
前記した培養条件下での多能性幹細胞の増殖は、これらの細胞を誘導して未分化の細胞クラスターを形成させる。これらのクラスターは、最適には、抗生物質−抗真菌剤混合物(1:100,ペニシリンG.ストレプトマイシン硫酸塩、アンフォペリシンB; Gibco)、B27(1:50,GIBCO)ヒト組換えFGF−2およびEGF(各々、20ng/ml,R&D Systems, Minneapolis,MN)およびヘパリン(5mg/mL Sigma,St.Louis,MO)を補足した、例えば、(約3:1;Gibco,BRL,Burlington,ON)におけるDMEM/HAMSF12よりなる20mLの増殖培地中、T75フラスコ当たりほぼ50クラスターの密度で増殖させる。培養は、37℃にてCOインキュベーター(約50%CO)に維持する。最適な増殖条件を容易とするためには、2以上の細胞クラスターをほぼ14日ごとに1/4に分け、ほぼ4ないし5日ごとに培地の50%を置き換えることによって供給する。これらの条件は、それらの多能性特徴を保持しつつ、無制限に拡大することができるMSCの迅速かつ継続的いずれかの増殖を可能とする。ほとんどの真核生物細胞に関しては、培養の条件は生理学的条件とできるだけ近いべきである。培養基のpHは生理学的pHに近く、好ましくはpH6ないし8の間、より好ましくは約pH7から7.8の間とすべきである。7.4が最も好ましい。生理学的温度は約30℃から40℃の範囲内である。細胞は、好ましくは、約32℃から38℃の間、より好ましくは約35℃ないし約37℃の間の温度で培養する。本明細書中で開示したごとく、調製し、維持した多能性神経幹細胞(MNSC)は、無血清増殖の3年後に多能性特性を呈する。次いで、本発明の方法によるピリミジン誘導体での処理は、これらの細胞を本発明の細胞、特に、増殖、移動または双方につき刺激された細胞に変換する。もしイン・ビトロ分化が望まれるのであれば、該細胞は、例えば、Earleの塩およびL−グルタミンを含有する無血清基礎培地イーグル(BME)中の培養皿で再度平板培養することができる。該細胞はFGF−2、EGFまたは他の外来の分化因子の不存在下で約5日間培養することができる。このように分化を誘導すると、これらの培養されたMNSCは、b−IIIチューブリン(ニューロン細胞マーカー)または神経膠フィブリル酸性蛋白質(GFAP、神経膠星状細胞マーカー)で免疫組織化学的に染色すると、ニューロンまたは神経膠星状細胞の特徴的な形態を呈する。
【0061】
App.1または2の方法に従い調製し、無血清培地中で増殖する本発明で利用されるMSCは、置換されたデオキシウリジンの存在下で増殖する。その例は、ブロモデオキシウリジン(BrdU)またはヨードデオキシウリジン(IrdU)のごときハロ−デオキシウリジン、または宿主細胞の移植に先立ってのメチルデオキシウリジンのごときアルキル−置換デオキシウリジンを含む。本発明で用いられるApp.1および2に従ってMSCを生じさせるのに用いられる増殖培地は、長期増殖培地の成分を含むが、有効量の置換されたデオキシウリジンも含む。例えば、約10ナノモルおよび100マイクロモル、より好ましくは約2および50マイクロモルの間、より好ましくは約10マイクロモルのブロモデオキシウリジン。プレ−移植増殖は有効な期間、例えば、1および10日の間、より好ましくは約1および5日の間、より好ましくは約2および3日の間延長することができる。
【0062】
App.1および2の方法に従って調製したMSCは、本発明に従って、年齢、物理的または生物学的外傷、または神経変性病の結果として得られたものを含めたいずれかの方法で得られた異常なまたは変性兆候を持つ動物に、またはトランスジェニックおよび「遺伝子ノックアウト」動物のごとき、組換え遺伝子技術を用いてヒトによって作り出された動物モデルに投与することができる。
【0063】
本発明の方法に従ったMSCおよびピリミジン誘導体の受容者は、サイクロスポリンのごとき免疫抑制薬物の使用を介して、または局所適用される免疫抑制剤を使用する局所的免疫抑制戦略を介して免疫抑制することができるが、そのような免疫抑制は、例えば脳および目の組織のごとき免疫免責組織においては、あるいは自己移植の場合には必ずしも要件ではない。ある具体例においては、本発明の送達方法は、現存の送達方法よりも細胞損傷または機能不全の部位に対するより局所化されていない組織損傷を引き起こし得る。
【0064】
本明細書中で用いるApp.1および2のMSCは、受容者自身の組織から調製することができる。そのような場合、より発生的に能力のある細胞の子孫は、解離されたまたは単離された組織から生じさせることができ、App.1、App.2および本明細書中で記載した方法を用いてイン・ビトロで増殖させることができる。間葉幹細胞(MeSC)の場合には、子孫は、例えば骨髄から単離されたMeSCから生じさせることができる。細胞数の適切な増大に際し、App.1または2の幹細胞は、本発明に従って受容者の患部組織を治療し、そこに投与することができる。
【0065】
CNSへの組織の移植は、神経変性障害、および負傷によるCNS損傷の治療に対して可能性を提供することは当該分野でよく認識されている。損傷したCNSへの新しい細胞の移植は損傷した回路を修復する能力を有し、神経伝達物質を供し、それにより、神経学的機能を回復する。また、目組織のごとき他の組織での移植は、変性障害および負傷による組織損傷の治療に対して可能性を提供することは当該分野でやはり知られている。App.1および2は、より発生的に能力のないNSCからより発生的に能力のあるNSCを生じさせる方法を提供する。神経学的障害およびCNS損傷の治療における、App.1または2の細胞、または増殖、移動または双方につき特に刺激された本発明の細胞の使用、ならびに他の組織損傷または変性の治療におけるこれらのNSCの使用は、当該分野で知られた確立された動物モデルを用いることによって証明することができる。
【0066】
App.1,2および本発明に従って調製された細胞の脳および脊髄への送達方法、ならびに本明細書中に記載するピリミジン誘導体には先行技術と比較してかなりの差がある。1つの例示的差は、App.1、2および本発明に従って調製された細胞は脳室内移植されることである。さらに、App.1、2または本発明の1以上の別々のより多くの細胞の移植は効果的であるが、そのような細胞は、好ましくは、外科的手法、実質的に無傷なニューロスフィア−様クラスターを残すのに十分な大きさのシリンジを用いる注入、またはカテーテルによる挿入を介して、2以上の細胞のクラスターの形態で移植される。後記する実施例に開示した結果は、クラスター形態のApp.1または2の細胞または本発明の細胞の脳室内送達の結果、脳における損傷領域への移動、および適切なニューロン分化がもたらされ得る。後にさらに例示するのは、増殖および移動の刺激に対するピリミジン誘導体の効果である。脳室内注入のもう1つの利点はより少ない組織の破壊であり、その結果、宿主による免疫細胞の局所的導入は少なくなる。これは、脳室変形、腫瘍形成、および免疫抑制なくしての宿主神経膠星状細胞染色の増大の欠如によって証明される。
【0067】
App.1、2または本発明の細胞の脳への送達の方法は、例えば、目のごとき他の免疫免責組織に対するものを実質的に再現することができる。クラスターを実質的に無傷で残すのに十分な大きさのシリンジを用いる注入を介する2以上の細胞の無傷句他スターの送達の結果、目における損傷の領域への移動、および適切な組織特異的分化を得ることができる。さらに、本発明の方法によるピリミジン誘導体の投与は、内因性および外因性NSCの増殖を実質的に増加させることができる。
【0068】
解離され部分的に分化したNSCの組織内注入(脳)の例は当該分野にある(例えば、Benningerら., 2000, Brain Pathol. 10 : 330-341; Blakemoreら., 2000, Cell Transplant. 9: 289-294; Rosser ら, 2000, Eur.J.Neurosci. 12 : 2405-2413; Rubio ら, 2000,Mol. Cell. Neurosci. 16: 1-13)参照。
【0069】
対照的に、「ニューロスフィアー」として知られた細胞の神経−直系クラスターの場合には、クラスターの解離は、直ちに老化を引き起こし、かつ培養中のMSCの傷付き易さを増加させ得るので、本発明の方法は一般的に無傷のクラスターの注入を使用する。例えば、Svendsenら, 1998, J. Neurosci. Methods 85: 141-152参照。本発明によって提供されるごとく、移植は、当該分野で開示されている部位特異的注入に対する別の経路を提供する。脳室内移植を用い、移植された細胞は、脳脊髄液(CSF)の流動により種々の構造に対するアクセスを獲得することができ、App1または2従って調製され、本発明に従って投与されたMSCの移植は、脳および中枢神経系において適切な解剖学的部位において未成熟分化を妨げるように作用することができる。目に関しては、App.1および2または本発明に従って調製されたMSCのクラスターの、例えば、ガラス体液への眼内投与は、これらの多能性細胞が変性または負傷の領域へ移動し、適切に分化することを可能とする。特に、MSCが受容者に対して自己である場合は、App.1および2ならびに本発明のMSCの他の非−免疫特権組織への送達も行うことができる。
【0070】
移植片の宿主の神経組織への機能的一体化は、限定されるものではないが、内分泌、運動、認識および感覚機能についてのテストを含めた、種々の機能回復に対する移植片の効果を調べることによって評価することができる。有用な運動テストは、脳の変性した側からの回転運動を定量するテスト、および運動の遅延、バランス、協調、運動不能または運動の欠如、硬直および振せんを定量するテストを含む。認識テストは、毎日の仕事を行う能力のテスト、ならびなMorris水迷路実行のごとき迷路実行を含めた種々の記憶テストを含む。例えば、App.1および2の細胞および方法を用い、イン・ビトロ増殖後の24月齢ラットの脳室に注入されたMSCは、移植から4週間後にMorris迷路によって評価して、認識スコアの改良(図1)を持つ老齢宿主の脳への拡張された位置で取込みを示した。本明細書中に開示した実験の結果は、老齢の脳が、その多能性状態を保持し、年齢完全神経変性病において神経置換療法に対する能力を示すように、App.1および2および本発明のMSCに対する必要な環境を供することができることを示す。
【0071】
移植片の宿主の他の組織への機能的取込みは、負傷したまたは変性した組織に特異的な種々の機能を回復することに対する移植片の効果、例えば、本発明の幹細胞の眼への移植についての視力の改良を調べることによって評価することができる。本発明の方法を用い、内因性幹細胞の増殖の実質的刺激は、本明細書中に開示するピリミジン誘導体の投与により、眼で観察することができる。
【0072】
Morris水迷路によって評価されるごとく、(その細胞はApp.1または2に従って調製され、本発明の細胞に適用される)MSC−移植動物の空間的記憶の改良は、空間的記憶に関連することが知られている脳領域へのMSCの取込みに伴った。ラット脳組織の移植後形態は、宿主への移植された細胞の機能的会合が起こることを示す。免疫組織化学分析は、大脳皮質で見出されるbIII−チューブリン陽性ドナー−由来細胞は、皮質のエッジを示すデンドライトを有することによって特徴づけられ、他方、海馬においては、ドナー−由来ニューロンは多数の突起および分岐を持つ形態を呈したことを明らかとした。異なる脳領域における移植MSCのこれらの異なる形態は、各脳領域に存在する種々の因子に従い、MSCの部位特異的分化が起こることを示す。
【0073】
強力な神経膠星状細胞染色がApp.1および2のMSCを移植したラット脳中の海馬の前方皮質層3およびCA2領域、すなわち、神経膠星状細胞が通常は動物に存在しない領域にも見出された。より発生的に能力のある細胞のCA2の移動は特に興味深い。なぜならば、CA2錐体ニューロンはbFGFを高度に発現し、bFGFの発現はエントルヒナル皮質病巣によって上昇−調節されるからである。(例えば、Eckenstein ら., 1994, Biocllem. Pharmacol. 47: 103-110; Gonzalez ら., 1995, Res. 701: 201-226 ; Williams ら., 1996,J.Comp. Neurol. 370: 147-158参照)。 宿主脳におけるCA2錐体ニューロンは、シナプス伝達の低下に対する応答として、bFGFを発現することができ、これは老化の間に起こりえる事象である。引き続いて、この発現されたbFGFは、App.1および2または本発明の移植されたMSCについてのシグナルとして作用して、移植後は宿主脳で生産されたbFGFの影響下で応答し、移動し、または増殖することができる。
【0074】
移植されたラット脳における神経膠星状細胞染色が豊富な領域は、かなり染色されたニューロン繊維が同定されるのと同一領域である(図2a、2b、2e)。発生の間に神経膠細胞はニューロンおよび軸索のガイドおよび栄養因子の生産のごとき多くの複雑な機能を有する(たとえば、Pundtら, 1995, Brain Res. 695: 25-36)。神経膠およびニューロン繊維のこの重複した分布は、この相互作用が移植されたMSCの生存、移動および分化において中枢的な役割を演じることを強く示唆する。
【0075】
移植されたラット脳の免疫組織化学は、宿主脳の両側のニューロンおよび神経膠星状細胞の対称的な分布を明らかとし、これは、App.1、2のより発生的に能力のある細胞の子孫(および本発明のもの)が移動することができることを示す。神経膠星状細胞は、移植後に長距離に渡って移動することが示されているが(例えばBlakemoreら, 1991,Trends Neurosci. 14: 323-327; Hattonら, 1992, Glia 5: 251-258; Lundbergら, 1996, Exp.Neurol. 139: 39-53参照)、ニューロンは例えば、神経膠細胞ほどは広くは移動しないことを示す実験的証拠がある(例えばFricker ら., 1999, J.Neurosci. 19: 5990-6005参照)。本明細書中に開示するごとく、App.1および2のMSCに由来する細胞は、神経膠星状細胞前駆体に対する同様の移動能力を保有する。
App.1および2および本発明のNSCは多くの点で神経幹細胞を模倣できるので、神経幹細胞に関する関連情報を提示することができ、続いて、間葉および網膜幹細胞に関する情報を提示する。当業者であれば、本発明の方法は、これらの3つのタイプの幹細胞には限定されず、その代わり、未だ最後まで分化していない全ての細胞型をカバーするように拡張することができるのは容易に認識し得るであろう。
【0076】
神経−関連
哺乳動物NSCの一般的に低い増殖速度のため、特別の神経変性病または物理的または生物学的脳外傷の不存在下においてさえ、進行する年齢および損なわれた脳機能の間には関連がある。App.1および2および本発明は、脳に導入された場合に哺乳動物脳で増殖、移動および分化することができる(App.1および2および本発明の)MSCの添加を介して、進行する年齢による損なわれた脳機能に逆作用する方法を提供する。
【0077】
物理的外傷および生物学的外傷は、損なわれたおよび不適切な脳機能のさらなる原因である。用語「物理的外傷」は、平滑頭部負傷、ひどい振とうのごとき外部源による脳細胞の損傷を示す。そのような物理的外傷は、外傷の源および重症度に応じて局所化し得る。用語「生物学的外傷」は、生物学的プロセスにその起源を有するいずれの急性脳腫瘍、例えば、発作、動脈瘤、てんかん、脳腫瘍、低酸素症も示す。
【0078】
損なわれたまたは不適切な脳機能のもう1つの源は神経変性病である。近年、神経変性病は、これらの障害につき最大のリスクである増大する老齢集団のため重要な関心事となった。神経変性病は、限定されるものではないが、アルツハイマー病、筋萎縮性軸索硬化症(ALS)、パーキンソン病、ピック病、ハンチントン病、進行性核上麻痺、皮質基変性、パーキンソン−ALS−痴呆症合併症、ゲルツマン−シトラウスラー−シェインカー症候群、ホーラーフォーゲン−シュパッツ病、クフ病、ウイルソン病、多発性硬化症(NS)、晩年開始異染性白質萎縮および副腎脳白質ジストロフィーを含む。これらの病気の効果は、App.1および2および本発明のNSCの投与によって逆作用される。
【0079】
運動または認識機能を損なう種々の有機的脳の病気がある。脳幹神経節における変性は、変性の正確な位置に応じて、認識および運動兆候を持つ病気に至り得る。運動欠損は脳幹神経節における変性の通常の結果である。ハンチントン舞踏病は線条におけるニューロンの変性に関連し、これは、宿主における付随意反射運動に導く。視床下部核と呼ばれる小さな領域の変性には、バリスムと呼ばれる疾患における四肢の激しい振せん運動が伴い、他方、被殻および淡蒼球における変性には、ゆっくりとした悶え運動または無定位運動症の状態が伴う。パーキンソン病では、変性は、脳幹神経節、黒質緻密質のもう1つの領域で変性が見られる。この領域は通常は背側線条にドーパミン作動性結合を送り、これは、運動の調節で重要である。パーキンソン病に対する療法は、神経幹細胞の本発明による脳のこの領域への移植によって達成することができる、この回路に対するドーパミン作動性活性を回復させることに焦点を当ててきた。
【0080】
アルツハイマー病(もう1つの神経変性病)においては、前脳および大脳皮質の実質的細胞変性がある。さらに、脳幹神経節の局所化された領域である、Meynertの基底核は選択的に変性されるようである。この核は通常はコリン作動性投影を大脳皮質に送り、これは、記憶を含めた認識機能に関与すると考えられる。
【0081】
間葉関連
成人の幹細胞はいくらか多能性を継続して保有するが、成人幹細胞から生じた細胞型はその組織特異的性質によって制限される。例えば、ヒトNSCは、自然に、基礎培地条件下で脳細胞に分化するが、MeSCはある因子の付加なしには神経細胞に分化できない。この結果は、各幹細胞が、それを特別なタイプの細胞とすることができる特殊な情報を含み、すなわち、それらは組織特異的に特別のタイプの細胞となるよう拘束されていることを示す。幹細胞直系のこのバリアーを克服するために、細胞に対する改変およびその環境が必要である。しかしながら、組織特異的幹細胞の運命を決定付ける調節メカニズムは依然として明らかでない。MeSCはむしろ骨髄から単離するのが容易であって、培養で増殖するが、それが自然にはNSCまたは他の非−間葉−直系細胞に分化できないので、この知識の欠如は重要な問題を生じる。中枢神経系におけるMeSCの潜在的治療用途が議論されてきたが、MeSCにおける神経直系を誘導する技術はApp.1および2に先立っては十分には確立されていない。本発明は、例えば、App.1または2の細胞のごとき、内因性幹細胞集団または外因的に導入された細胞の集団の増殖、移動または増殖および移動双方を刺激する方法を提供する。
【0082】
App.1の方法に従って調製されたMeSCは、App.1および本発明の方法を利用する潜在的治療用途に対するNSCへの別法として働くことができ、これは、MeSCを起点とし、すなわち、神経幹細胞−様(または他の直系、すなわち、それをより発生的に能力のあるものとする)分化経路に対するその制限された間葉分化経路からそれを除去する、BrdU、およびそれを刺激して、前記野生型速度をはるかに越えて増殖し、移動させるピリミジン誘導体のような、置換されたデオキシウリジン種の能力を開発する。MeSCは、App.1の置換されたデオキシウリジン予備処理を用い、イン・ビトロおよびイン・ビボにてニューロンおよび神経膠に首尾よく分化した。かくして、App.1のMeSCは、App.1および本発明の方法を利用する神経置換における潜在的治療用途に対するNSCの代替法として働くことができる。
【0083】
本発明の方法は、それがイン・ビボにて内因性幹細胞の数の増大を可能とするので、本発明の方法は神経置換分野において重要である。さらに、本発明の方法は、それがApp.1または2のもののごとき、外因的に導入された発生的に能力のある幹細胞集団において増殖および移動の刺激を可能とするので、神経置換分野で重要である。本発明で用いるピリミジン誘導体は種々の幹細胞集団で用いることができるので、本発明は神経置換で有用であるのみならず、同様に他の種類の組織再生または置換で有用である。
【0084】
網膜関連
黄斑変性を含めた網膜変性病は盲目の主な原因である。遺伝子治療、増殖/生存因子注入およびビタミン療法に対する調査にかかわらず、効果的な視力回復処置は現在利用できない。光受容体または神経細胞の変性によって引き起こされた視力損傷は、ニューロンが成人時期の間に再生しない、という長い間維持された「自明の理」のため治療不可能であると考えられてきた。しかしながら、この宣言は挑戦され、これらの細胞が、事実、成熟した後再生する能力を有するという新しい証拠があり、かくして、幹細胞移植を用いる網膜再生によって視力損傷を治療するための新規な療法の開発に対して門戸を開いた。
【0085】
冷血脊椎動物における網膜再生の能力は長い間認識されてきた。魚類および両生類は、網膜の周辺、いわゆる「毛様体縁領域」に存在する網膜幹細胞の集団を介して新しい網膜ニューロンを作成し続ける。最近の研究は、鳥類および成体哺乳動物もまた冷血脊椎動物の毛様体縁領域と同様な網膜縁に細胞の領域を保有するという証拠を提供した。これらの網膜幹細胞は、イン・ビトロにて光受容体および他の網膜細胞を再生するのみならず、網膜領域への移植後に網膜細胞に分化すると報告されている。これらの結果は網膜再生療法の可能性を示すが、幹細胞の別の源、または外因性網膜幹細胞の数を増大させる手段が臨床的適用で必要とされる。なぜならば、網膜幹細胞の数は制限されているからである。
【0086】
神経幹細胞は胚および成体哺乳動物脳から単離されており、種々培養系においてイン・ビトロにて増殖されてきた。無血清未補足培地条件を用い、NSCは自然にbIII−チューブリン−、神経膠フィブリル酸性蛋白質(GFAP)−、およびO4−免疫陽性細胞、ニューロン、神経膠星状細胞、および稀突起神経膠細胞に対するマーカーに分化した。App.1および2の方法により処理したMSCは24月齢ラットの脳への移植後にニューロンおよび神経膠に分化し、これらの動物の認識機能を大いに改良した。この結果は、App.1およびによって生産されたMSCが、網膜幹細胞の代替物を生産するための移植可能な材料を提供し得ることを示唆する。
【0087】
網膜細胞の増殖および分化を調節する網膜組織の開発に関連する種々の因子がある。トランスフォーミング成長因子ベータ3(TGF−b3)は、発生の間に細胞増殖を調節し、網膜運命に対する神経先祖細胞の委託または分化または双方に影響すると考えられている。TGFベータ−様蛋白質であるアクチビンAでの胚18日齢ラット網膜培養の処理はこれらの培養における先祖細胞を細胞周期から脱出させ、杆体受容体に分化させ、これは、TGFファミリーが発生する網膜において光受容体の分化の重要なレギュレーターであることを示す。App.1および2に従って調製したNSCの処理は、前記因子への暴露を通じて網膜分化経路を採用するよう誘導できる。本発明の方法および試薬を利用し、App.1および2に従って調製されたもののような外因性NSC、および目の内因性幹細胞は野生型レベルを超えて増殖し、移動するように刺激することができる。
【0088】
rdマウス(色素性網膜炎のモデル)、機械的病巣、一過性虚血症および正常網膜を持つ網膜組織へのNSCの以前の移植研究は、ドナー細胞移植研究は、ドナー細胞は網膜領域に移動しニューロンおよび神経膠に分化したが、いずれも網膜細胞マーカーも示さなかったことを明らかにしている。この結果はMSCが既に神経組織となることを委託し、この委託が網膜への移植によってのみ変化しやすいのではないことを示す。かくして、NSC(またはMeSCのごとき別の源の細胞)を網膜細胞に分化させるには、網膜移植前のその後成情報の変化は、App.1および2の方法によって達成される何かが必要なように見えた。App.1および2の方法を用い、NSCまたは容易に得ることができるMeSCはMSCに形質転換でき、引き続いて、眼の組織損傷を修復し、または組織再生を促進するための網膜幹細胞に対する代替物として用いることができる。イン・ビボでの内因性多能性幹細胞または本発明の方法によるイン・ビトロでのApp.1および2の多能性幹細胞の処理は、その数および/または移動を増長させ、よって眼における損傷した組織を修復するにおけるその効果を増加させることができる。
【0089】
App.1および2の本発明の方法は、BrdUおよび他の置換されたデオキシウリジンを用いて、幹細胞の細胞運命の決定を変化させる。網膜移植体の場合には、これらのMSCをTGF−b3で処理して眼組織で見出される種々の細胞型、とりわけ脈絡膜、Buchsおよび網膜色素上皮細胞桿状および円錐状光受容体細胞、水平細胞、二極ニューロン、無軸索、神経節および光学神経細胞への委託変化を刺激する。眼組織で見出される非限定的な例示的細胞型は集合的に網膜細胞と言う。これらの結果は、適切に移動し、分化するNSC成分の数が刺激された増殖により増加される本発明の方法によって増強される。
App.1および2および本発明を用いて扱うことができる種々の神経学的欠損および体の欠損がある。
【0090】
治療が可能な「神経学的欠損」
本発明は部分的には多能性前駆体細胞が脳および他の組織を通じて増殖し、移動するように刺激でき、そのようなNSCを用いて、広く種々の病気および負傷によって引き起こされた神経学的欠損を治療できるという発見に関する。これらは、限定されるものではないが、以下のものを含む。
【0091】
変性病
本発明の方法により治療し得る変性症は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、ピック病、進行性上核麻痺(PSP)、線条体黒質変性症、大脳皮質基底核変性症、小児期崩壊性障害、オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA;遺伝性形態を含む。)、リー脳症、乳児期壊死性脳脊髄症、ハンター病、ムコ多糖症、(種々のロイコジストロフィー(クラッベ病、ペリツェウス・メルツバッハ病など)、黒内障性(家族性)白痴、クフ病、スピルマイヤー・フォークト病、タイ・ザックス病、バッテン病、ジャンスキー・ビールショフスキー病、レイ病、脳性運動失調症、慢性アルコール中毒、脚気、ハレルフォルデン・スパッツ症候群および小脳変性症を含む。
【0092】
中枢神経に対する外傷性および神経毒性傷害
本発明の方法により治療し得る外傷性および神経毒性傷害は、銃創、鈍器損傷、貫通性傷害による傷害(例えば、刺創)、(例えば、CNS外傷から腫瘍もしくは膿瘍を摘出するため、またはてんかん治療のための)外科手順の間に生じた傷害、(例えば、MPTPまたは一酸化炭素による)中毒、揺さぶられっ子症候群、医薬に対する副作用(特異的反応を含む。)、(例えば、アンフェタミン類からの)薬物過剰用量および外傷後脳障害を含む。
【0093】
虚血
中枢神経系への血流または酸素送達のいかなる崩壊も、その中でニューロンおよびグリア細胞を含む細胞を傷つけるかまたは殺してしまう。これらの傷害は本発明の方法より治療し得、((心停止、不整脈、または心筋梗塞に起因するような)全般発作または(血栓、塞栓その他の動脈閉塞に起因するような)焦点発作を含む)発作、無酸素症、低酸素症、部分的溺水、ミオクローヌス、重度煙吸入、ジストニー(遺伝性ジストニーを含む。)、および後天的水頭症による生じた傷害を含む。
【0094】
本発明の方法により治療し得る発育障害は、統合失調症、特定形態の重度精神遅滞、脳性麻痺(感染、無酸素症、早産、血液型不適合などによるかどうか;盲、聾、遅滞、運動能力欠損などとして発症するかどうか)、先天性水頭症、CNSに影響する代謝障害、重度自閉症、ダウン症、LHRH/視床下部障害および二分脊椎症を含む。
【0095】
視覚に影響する障害
視覚に影響する障害、特に、網膜細胞の喪失または機能停止により生じた障害は、本発明の方法および本発明の細胞を用いて治療し得る。これらの障害は、例えば、糖尿病性網膜症、緑内障に関連する網膜損傷、網膜への外傷性傷害、網膜血管閉塞症、(滲出型または萎縮型)黄斑変性症、手術後治癒、腫瘍、遺伝性網膜ジストロフィー、視神経萎縮症、およびその他の網膜変性症を含む。本発明の細胞および方法を用いて修復する標的となる細胞は、例えば、脈絡膜、ブルーフ膜、網膜組織上皮細胞(RPE)、桿体、錐体、水平細胞、双極ニューロン、アマクリン細胞、神経節細胞および視神経を含む。
【0096】
脊髄の傷害および疾患
脊髄への傷害またはそれに影響する疾患も本発明の方法により治療し得る。そのような傷害または疾患は、ポリオ後症候群、筋萎縮性側索硬化症、非特異的脊髄変性症、破砕し、部分的に分断し、完全に分断するか、さもなければ脊髄内の細胞機能に悪影響を与える(自動車またはスポーツ事故により引き起こされたもののごとき)外傷性傷害、(例えば、腫瘍摘出のための)脊髄への外科手術によって生じた傷害、前角細胞疾患、および麻痺性疾患を含む。
【0097】
脱髄性または自己免疫性疾患
脱髄または自己免疫反応によって生じた神経学的欠損は、本発明の方法によって治療し得る。そのような欠損は多発性硬化症または狼瘡によって生じる。
【0098】
感染症または炎症
感染症または炎症によって生じた神経学的欠損は本発明の方法によって治療し得る。治療可能な欠損を生じ得る感染症または炎症は、クロイツフェルト・ヤコブ病その他のスローウイルス感染症、AIDS脳症、脳炎後パーキンソン症候群、ウイルス性脳炎、細菌性髄膜炎およびその他の生物により引き起こされる髄膜炎、頭蓋内静脈洞の静脈炎および血栓静脈炎、梅毒性パーキンソン症候群、およびCNSの結核を含む。
【0099】
上に明記した欠損、疾患および障害に加えて、当業者は、その起源にかかわらず、神経学的欠損を十分に理解し、そのような欠損を有する患者を治療するために本発明の方法を適用することができる。ここに記載する方法での治療に向いている列記した病気に加えて、神経学的欠損は、レッシュ・ナイハン症候群、重症筋無力症、様々な痴呆、多数の麻痺性疾患およびてんかんによって生じ得る。さらに、加齢性記憶喪失の軽減が本発明の目的である。本発明の方法はこれらのおよびその他の疾患、障害または傷害によって生じた神経学的欠損を軽減するために容易に適用し得る。
【0100】
治療に向いた「身体的欠損」
本発明は、分割し、損傷した組織に移動し、組織特異的な様式で分化することを刺激する多分化能前駆対細胞を用いた身体的欠損の改善にも関する。本発明による細胞を用いて、その結果が外傷、不全、例えば、心筋梗塞による心筋のごとき筋肉の変性または喪失である広範囲にわたる疾患、障害および傷害によって生じた身体的欠損を治療し得る。その他の例は、上記の神経学的欠損のセクションで議論されたものとは違う、例えば、内臓のごとき他の細胞および組織の不全、変性または喪失を含む。例えば、肝機能は、とりわけ、疾患(例えば、肝硬変または肝炎)、外傷または加齢によって悪影響を及ぼされる。本発明の具体例を用いる治療に向いている他の代表的な内臓は、心臓、膵臓、腎臓、胃および肺を含む。身体的欠損は例えば椎骨のごとき骨格アセット(skeletal assets)の不全、変性または喪失を含む。
【0101】
本発明の細胞の利点は、当該分野で知られている規定手順(例えば、Sambrookら, 2001, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL. 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press: N.Y.を参照せよ。)で遺伝子組換えし得ることである。上記したように、好ましい具体例において、(リボチーム、アンチセンス分子その他のAPP発現を阻害する手段のごとき)APPの発現を阻害する構築物が提供され得る。さらなる具体例において、薬物抵抗性遺伝子およびマーカー、またはGFPのごとき検出可能なマーカーが提供され得る。好ましくは、マーカーおよび他の遺伝子は有効であって、本発明のMSCから誘導された最終分化細胞または本発明の未分化MSCまたは双方において有効な(限定されないが、プロモーターおよびエンハンサーを含む)遺伝子発現調節領域に遺伝子学的に連結している。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、Morris水迷路テストにおける記憶スコアに対する「Novel Mammalian Multipotent Stem Cells and Compositions, Methods of Preparation and Methods of Administrations Thereof」なる発明の名称の共有され、同時係属する米国特許出願(2003年1月14日に出願されたセリアル番号 )の方法に従ったMNSCの移植の効果を示す。(a)移植前および後における個々の記憶スコアは動物の大部分において改良を示す。青色:老齢の記憶が損なわれた動物、緑色:老齢の記憶が損なわれていない動物、赤色:成熟した動物:(b)MNSC移植の前(狭い縞模様の棒線)および後(黒色棒線)の各動物群における記憶スコアの平均は、老齢の記憶が損なわれた、および若い動物における有意な改良を示す。ビヒクル注入を受けた動物は、注入前(広い縞模様の棒線)および後(ハッチング付)の間の記憶スコアの有意な差は示さない。本発明の方法は、イン・ビボにてそのような外因的に移植された細胞の数を増加させ、ならびに該共有された同時係属出願の方法に従って処理されている間にそれらの数を増やすように作用することができる。さらに、本発明の方法は、内因性MSC集団の豊富さを増加させることができる。
【図2】図2は、前記引用の共有された同時係属米国特許出願のNMSCの移植から30日後における老齢ラットの脳の典型的な蛍光免疫組織化学写真を示す。bIII−チューブリンおよびGFAP免疫反応性を、各々、ニューロンおよび神経膠についてのマーカーとして用いた。(a)共有された同時係属米国特許出願のNMSCは、皮質まで移動し、壁皮質の層IVおよびVにおける錐体細胞に典型的な形態を有するbIIIチューブリン陽性細胞(緑色)によって示されるごとく、ニューロンに分化した。樹状突起は皮質のエッジに向かっていた。NSCはBradUで予め処理したので、移植された細胞はBrdU陽性核を有する(赤色)。対照的に、宿主細胞の核は、DAPIで逆染色される(青色)。BrdU陽性核を有する多くの細胞は、層IIにてbIII−チューブリン免疫反応性と共に、および層IIIにおいてbIII−チューブリン免疫反応性なくして観察される。(b,c)皮質層IUにおける壁皮質のより高倍率:全てのbIII−チューブリン免疫反応性(緑色)陽性細胞は、BrdU(赤色)陽性核を示し、他方、多くの他の宿主細胞の核はDAPIのみで染色される(青色)。(d)該共有された同時係属米国特許出願に従ったMNSCは海馬に移動し、CA1錐体細胞層において、bIII−チューブリン陽性細胞に分化した(緑色)。これらのbIII−チューブリン陽性細胞はBrdU陽性核を有し(赤色)、これは、これらの細胞が移植された細胞に由来することを示す。対照的に、DAPIで逆染色された宿主細胞の核(青色)はbIII−チューブリン陽性ではない。(e)歯状回においては、bIII−チューブリン陽性細胞(緑色)およびGFAP陽性細胞(赤色)に加えて、多くの繊維はbIII−チューブリン陽性であった。(f)bIII−チューブリン陽性細胞(緑色)およびGFAP陽性細胞(赤色)は、各々、層IVおよび層IIIで見出された。そのような神経膠星状細胞の層はNSC移植無しの正常なラットでは観察されなかった。再度、本発明の方法は、イン・ビボにてそのような外因的に移植されたBrdU−処理細胞の数を増加させ、ならびに該共有された同時係属出願の方法に従って処理されている間にその数を増加させるように働くことができる。本発明の方法は、内因性NSC集団の豊富さを増加させることもできる。
【図3】図3は、脳における内因性神経幹細胞集団に対するMS−818の効果を示す。(a)MS−818処理無しの対照老齢ラット大脳皮質におけるBrdU(茶色、増殖する細胞についてのマーカー)を用いる典型的な免疫組織化学(×200)。(b)MS−818処理(3mg/kg/日、5日間の腹腔内投与)を施した老齢ラット大脳皮質におけるBrdUを用いる典型的な免疫組織化学(×200)。BrdU陽性細胞の数はMS−818処理の後に有意に増加する。(c)MS−818処理無しの対照老齢ラットSVZにおけるBrdU(茶色、増殖している細胞についてのマーカー)を用いる典型的な免疫組織化学(×200)。(d)MS−818処理(3mg/kg/日、5日間の腹腔内投与)を施した老齢ラットSVZにおけるBrdUを用いる典型的な免疫組織化学(×200)。BrdU陽性細胞の数はMS−818処理の後に増加する。(e)皮質におけるBrdU−陽性細胞の数に対するMS−818の効果の定量的分析(a,b)。MS−818処理の後に幹細胞集団において7倍の増加があった。
【図4】図4は、内因性網膜幹細胞集団に対するMS−818の効果を示す。(a)MS−818処理のない対照ラット網膜におけるBrdU(赤色、増殖する細胞についてのマーカー)を用いる典型的な免疫組織化学(×400)。(b)MS−818の眼内投与(10μg/20μl)を施したラット網膜におけるBrdUを用いる典型的な免疫組織化学(×400)。BrdU−陽性細胞の数は処理の後に明瞭に増加する。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下の実施例は、本発明の好ましい具体例をより十分に説明するために掲げる。しかしながら、それらは、添付の請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0104】
実施例1
本発明のNSCの移植による老齢ラットにおける認識機能の改良
ヒトNSCは、分化のためにいずれの外因性因子も必要とせず、その生存を支持するためにいずれの因子も添加することなく、基礎培地中で3週間を超えて生存した。(QuらQuら, 2001,Neuroreport12 : 1127-32)。かくして、ヒトNSCがそれ自体を分化し、支持する因子を生産するようであり、これは、それらの細胞がApp.1、2および本発明の方法による処理後に老齢動物に移植することができることを示唆した。
【0105】
補足した無血清培地中の細胞分裂因子の影響下で分化することなぐ増殖させ、かつ核DNAへのブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込みによって予防処理したヒトNSCを、成熟(6月齢)老齢(24月齢)ラットの側脳室に注入した。本発明の方法に従って調製したヒトNSCは、多能性および移動能力双方を維持しつつ、老齢ラットの脳への異種移植から30日生存し、また、24月齢ラットにおいて認識機能を改良した。動物の認識機能は、本発明のヒトNSCの移植前、および移植から4週間後にMorris水迷路によって評価した。ヒトNSC移植前に、いくつかの老齢動物(老齢の記憶が損なわれた動物)は成熟動物の範囲で機能し、他方、他の者(老齢の記憶が損なわれた動物)は、成熟動物の認識範囲から全く外れて機能した。BrdU−処理ヒトNSC移植の後、ほとんどの老齢動物は成熟範囲の動物の認識機能を有した。驚くべきことに、老齢の記憶が損なわれた動物の1つは、その挙動において劇的な改良を示し、成熟動物よりも良好に機能した(図1a)。統計学的解析は、認識機能が、BrdU処理ヒトNSC移植後に成熟および老齢の記憶が損なわれた動物においてかなり改良されたが、老齢の記憶が損なわれていない生物については改良されなかったことを示し、これは老齢の動物の物理的制限によるものであろう(図1b)。老齢動物の3つの性能は、処理されたヒトNSC移植の後に水迷路において劣化した。これらの動物の物理的強さは、実験期間に劣化した可能性がある。
【0106】
これらの挙動の結果は、BrdU処理ヒトNSCの宿主脳への移植の有益な効果を示す。第2の水迷路試験の後に、免疫組織化学によって、各々、ヒトbIII−チューブリンおよびヒトGFEP、ニューロンおよび神経膠星状細胞のマーカーについて死後脳をさらに分析した。脳室変形の兆候がなく、腫瘍形成の根拠はなく、また、弱い宿主神経膠星状細胞染色によって明らかにされるごとく強い宿主−移植片免疫反応性は観察されなかった。bIII−チューブリンで強くかつ広く染色され、BradU-陽性核を持つニューロンが両側の奇妙な壁皮質(図2a−c)および海馬(図2d、e)で見出された。大脳皮質で見出されたbIII陽性ニューロンは、皮質のエッジを示す樹状突起によって特徴づけられた。海馬においては、ドナー由来のニューロンは複数の形態を呈し、細胞サイズおよび形状、ならびに1以上の突起および分岐が変化した。
【0107】
一般に、DFAP−陽性神経膠星状細胞は、ニューロン細胞が見い出される領域近くに局在した。さらなる分析(その分布の重複イメージ)に際して、ドナー由来の神経膠星状細胞は皮質においてニューロン繊維と共に局在することが見出された(図2)。これらの神経膠星状細胞は宿主神経膠細胞よりも大きく、細胞体は直径が8−10ミクロンである厚い突起が伴った。これらの神経膠星状細胞のいくらかは、片側形態(非対称)を有し、免疫染色は核の周りに薄いリングを形成し、他方、突起の大部分は他の側に形成された。多くの細胞が全ての側から形成される突起に関しては対称に見えた。処理したヒトNSCの移植なくしての正常動物におけるこのタイプの細胞の不存在は、ラット神経膠星状細胞についての免疫組織化学を網膜値いて確認した。宿主神経膠星状細胞は、複数のデリケートな突起を持つ誘導体を有し、主として白色物質中にて脳を通じて、および脳のエッジの周りに分布した。
【0108】
これらの結果は、App.1および2の移植された細胞がラット脳で移動し、適当な細胞型に分化したことを示す。認識機能における同時改良は、App.1および2の移植されたMSCが受容者の脳に機能的に取り込まれたことを示す。
【0109】
Morris水迷路:
該Morris水迷路は水(27℃)が満たされ、かつ粉末化ミルク(0.9kg)の添加によって不透明とされた大きな円状タンク(直径183cm;壁の高さ58cm)よりなる。該迷路の4つの1/4体のうちの1つの中央近くの水面(1cm)の直下には、透明な逃避プラットフォーム(高さ34.5cm)が位置する。ラットは、60秒のトライアル間間隔を用い、7連続日の間1日につき3回の訓練トライアルを受ける。訓練トライアルは、動物を90秒間、または泳ぐラットが成功してプラットフォームを突き止めるまで動物を水に入れることよりなる。もしラットが90秒以内にプラットフォームを見つけるのに失敗すれば、該動物を穏やかにプラットフォームまで導く。空間的な学習評価には、プラットフォームの位置を迷路の1つの1/4体中に一定にとどめるが、各トライアルについての出発位置は変化させる。各6番目のトライアルはプローブトライアルであり、その間にプラットフォームは30秒間プールの底まで縮め、次いで、上昇させ、逃避に利用できるようにする。訓練トライアルは、空間的仕事の獲得および一日毎の滞留を評価し、他方、プローブテストを用いて探索戦略を評価する。空間的学習の完了の評価に際し、手掛り訓練の6つのトライアルでの1つのセッションを行い、ラットを訓練して、水面から2センチ上昇させる目に見える黒色プラットフォームまで逃避させる。プラットフォームの位置はトライアル間で変化させて、空間的学習能力とは独立して感覚運動および動機付け機能を評価する。各ラットにはプラットフォームに到達するのに30秒間与え、30秒のトライアル間の間隔前にそこにとどまらせる。性能の正確性は、プローブトライアルから計算した学習指標スコアを用いて評価する。学習指標は、第2、第3および第4の挿入されたプローブトライアルについての平均近似値から得られた尺度である(累積探索エラーをプローブトライアルの長さで割ったもの)。これらのトライアルからのスコアを重み付けし、合計して、空間的学習能力の全尺度を供する。指標についてより低いスコアは、標的位置近くのより正確な探索を示し;より高いスコアはよりランダムな探索および貧弱な学習を示す。
【0110】
細胞の移動および分化
脳におけるApp.1または2の細胞の分化および/または移動を調べるために、それらの適用のMSCを齧歯類脳に移植した。該動物を50mg/kgペントバルビタールで麻酔し(腹腔内投与)、定位装置に設置した(David Kopf)。5μlのリン酸緩衝生理食塩水中のほぼ1×10ないし1×10細胞を、定位装置に付着させたマイクロシリンジを用いて脳室に注入した。電気カミソリを用いて外科的部位から毛髪を除去した後、ヨウ素綿棒を当該領域に適用し、0.5cmの外科的切開端部になして、頭蓋の表面の皮膚において回復させた。以下の例示的座標:ブレグマからAP=−0.58mm、ML=+1mm、および硬膜下2.4mm(マウスについて):ブレグマからAP=−1.4mm、ML=+3.3mm、および硬膜下4.5mm(ラットについて)を用いて脳室を定位的に位置決定した。注意深いドリル加工によって、0.4mmの穴を頭蓋に開けた。App.1または2の細胞をマイクロシリンジを用いて脳室に注入した。該注入は5分間にわたって送達され、針を注入からさらに2分間所定の場所に残した。注入の後、外科的に切開した皮膚をMichel縫合クリップ(2.5×1.75mm)によって閉じた。外科的処置から10日後には、切開部位の適切な治癒が観察され、Michel縫合を除去した。
【0111】
ラット脳における投与の後に、App.1または2の細胞の存在および位置を以下のごとく分析した。移植から30日後に、過剰用量のペントバルビタールナトリウム(70mg/kg,腹腔内)によってラットを犠牲とし、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、続いて、4%パラホルムアルデヒドを灌流した。脳を摘出し、20%スクロースを含有する4%パラホルムアルデヒド固定剤中で一晩インキュベートした。低温ミクロトームを用い、脳を20ミクロンの冠状断面にスライスした。該断面をPBS中で軽く洗浄し、室温にて、1M HClで30分間予備処理し、30分間ホウ酸ナトリウム(0.1M,pH8.0)で中和して、細胞核に取り込まれたBruU-に対する抗−BrdU抗体の接近性を増加させた。PBSですすいだ後、切片を、PBS中の0.25%トリトンX−100を含有する溶液に30分間で移した。次いで、3%正常血清を含有するPBST中での1時間のインキュベーションによって切片をブロックし、続いて、PBST中に希釈したヒツジ抗−BrdU(1:3;Jackson IR Laboratories, Inc. West Grove, PA)またはマウス抗−BrdU(1:200;DSHB, Iowa City, IA)と共に切片を48℃にて一晩インキュベートした。PBS中で切片をすすいだ後、ローダミンにコンジュゲートしたロバ抗−マウスまたはロバ抗−ヒツジIgG(Jackson IR Laboratories, Inc.)を、PBST中1:200希釈にて添加し、切片を、さらに、暗所で室温にて2時間インキュベートした。
【0112】
BrdU免疫陽性核を持つApp.1または2の移植された細胞をヒトbIII−チューブリンおよびヒト神経膠フィラメント蛋白質(GFAP)につき染色した。次いで、切片をPBSで洗浄し、暗所にて、各々、マウスIgG2bモノクローナル抗−ヒトbIII−チューブリン、クローンSDL3D10(1:500,Sigma)、ヤギ抗ヒトGFAP、N−末端ヒトアフィニティー精製(1:200,Research Diagnostics Inc., Flander, NJ)またはマウスIgG1モノクローナル抗−GFAP、クローンG−A−5(1:500,Sigma)と共に48℃にて一晩インキュベートした。PBSで軽く洗浄して過剰な一次抗体を除去した後、暗所にて室温で2時間切片をインキュベートすることによって、FITC−コンジュゲーテッド(Jackson IR Laboratories, Inc.)二次抗体(ロバ抗−マウス(1:200)またはロバ抗−ヤギIgG(H+H;1:200))を用いて一次抗体結合の位置を測定した。
【0113】
次いで、切片をPBSで徹底的に洗浄し、しかる後、スライドグラスに設置した。設置した切片を、蛍光顕微鏡観察のために、4’,6−ジアミン−2−フェニルインドール・2HCl(DAPI, Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)を用いて、Vectashieldで被覆した。顕微鏡イメージは、Axiovisiomソフトウェアを備えたAxioscope2(Zeiss)に設置したAxiocanデジタルカメラを用いて採取した。
【0114】
NSC培養:
NSCは購入し(BioWhittaker, Walkersville, MD)、あるいは、ヒト組織から単離し、HAMS−F12(Gibco, BRL, Burlington, ON);抗生物質−抗真菌剤混合物(1:100,Gibco);B27(1:50,Gibco);ヒト組換えFGF−2およびEGF(各々20ng/ml,R and D Systems, Minneapolis, MN)およびヘパリン(5μg/ml,Sigma, St. Louis, MO)を含む補足していない無血清基礎培地中で培養した。細胞を5%CO湿潤化インキュベーションチャンバー(Fisher, Pittsburgh, PA)中で約37℃にてインキュベートした。最適な増殖条件を促進するために、NSCクラスターを2週間毎に4つに分け、4ないし5日毎に培地の50%を交換することによって供給した。分化を阻害するために、未被覆フラスコ、または細胞を排斥するように処理されているフラスコで細胞を増殖させることができる。分化を誘導するには、Earleの塩およびL−グルタミンを含む無血清イーグル基礎培地(BME)にて培養皿(約1×10/皿)中でこれらの細胞を再度平板培養し、FGF−2およびEGFの不存在下で、かつ他の外因的分化因子の添加なくして約5日間培養することができる。この無血清培地中で培養したNSCは、自然に、ニューロン細胞型への分化を受けることができる。
【0115】
実施例2
ピリミジン誘導体による内因性幹細胞増殖の増加
MS−818、ピリミジン誘導体のイン・ビボでの幹細胞集団に対する効果を調べるために、MS−818(3mg/kg/日,腹腔内)を老齢の(27月齢)雄Fisher344ラットに5日間注入した。同一容量の生理食塩水を対照動物に注入した。次いで、ブロモデオキシウリジン(BrdU)(100mg/kg/日,腹腔内)を3日間注入した。最後の注入から24時間後に、脳を摘出し、BrdUにつき免疫染色することによって、増殖する細胞の免疫組織化学的検出用に固定した。BrdU陽性細胞の数は、対照のそれと比較してMS−818処理動物の大脳皮質において7倍を超えて増加し(図3a,b,e)、これは、脳における増大した神経幹細胞集団を示す。脳室下ゾーンの領域において、幹細胞の増殖のみならず移動における有意な増加が見出された(図3c,d)。この化合物をガラス体腔に直接注入すると(10μgの1回の注入)BrdU−陽性細胞の数の劇的な増加が、3日後に、網膜毛様体縁領域で見出された(図4)。
【0116】
これまでの開示は本発明のある特別な具体例を強調するものであり、それと同等な全ての修飾または変形が添付の請求の範囲に記載した本発明の精神および範囲内のものであることは理解されるべきである。
【0117】
特許または出願のファイルは、色彩を施した少なくとも1つの図面を含む。色彩を施した図面を含むこの特許または特許出願の公開のコピーは、37C.F.R.§1.84に従い、請求し、必要な費用を支払うと、特許庁によって提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の式(1)または(2):
【化1】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、メチル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩を含む、内因性哺乳動物神経幹細胞の増殖および/または移動を刺激することによって認識機能を改良するための医薬組成物。
【請求項2】
該ピリミジン誘導体が2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエートである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
イン・ビボにて内因性哺乳動物神経幹細胞の増殖を刺激する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
イン・ビボにて内因性哺乳動物神経幹細胞の移動を刺激する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
イン・ビボにて内因性哺乳動物神経幹細胞の増殖および移動を刺激する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
有効量の式(1)または(2):
【化2】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、メチル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩と哺乳動物幹細胞とを有効な期間接触させることを特徴とするイン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖、移動、または増殖および移動の双方を刺激する方法。
【請求項7】
該ピリミジン誘導体が2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエートである請求項6記載の方法。
【請求項8】
該方法が、イン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖を刺激する請求項6記載の方法。
【請求項9】
該方法が、イン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の移動を刺激する請求項6記載の方法。
【請求項10】
該方法が、イン・ビトロにて哺乳動物幹細胞の増殖および移動を刺激する請求項6記載の方法。
【請求項11】
有効量の式(1)または(2):
【化3】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、メチル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩とより発生的に能力のある細胞とを含む認識機能を改良するための医薬組成物。
【請求項12】
該ピリミジン誘導体が2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエートである請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
有効量の式(1)または(2):
【化4】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、メチル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩と自己幹細胞とを含む認識機能を改良するための医薬組成物。
【請求項14】
該ピリミジン誘導体が2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエートである請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
有効量の式(1)または(2):
【化5】

[式中、RないしRは、独立して、水素原子、メチル基、CHOCHCH−、CHCONH、−COCH、−COCまたは−CHOCOCを表し、Xは=NH、=N−CH、=N−C、=N−ph、=N−COOC、=N−SOCH、=CH、=CHCH、=CHC、−O−または−S−を表し、ここに、phはフェニル基を表す]
のピリミジン誘導体またはその医薬上許容される塩と非自己幹細胞とを含む認識機能を改良するための医薬組成物。
【請求項16】
該ピリミジン誘導体が2−ピペラジノ−6−メチル−5−オキソ−5,6−ジヒドロ(7H)ピロロ[2,3−d]ピリミジンマレエートである請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
該より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞が2以上の細胞のクラスターを形成する請求項11、13または15記載の医薬組成物。
【請求項18】
該より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞が組織または組織−特異的幹細胞に由来する請求項11、13または15記載の医薬組成物。
【請求項19】
該幹細胞が造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞または間葉幹細胞である請求項13、15または18記載の医薬組成物。
【請求項20】
該幹細胞が間葉幹細胞である請求項13、15または18記載の医薬組成物。
【請求項21】
該幹細胞が接合体、未分化胚芽細胞、胚、胎児、幼年少児または成人から得られたものである請求項13、15または18記載の医薬組成物。
【請求項22】
該幹細胞がヒトから得られた請求項13、15または18記載の医薬組成物。
【請求項23】
より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上のクラスターが、50パーセント未満の再分化細胞を含む請求項17記載の医薬組成物。
【請求項24】
より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上のクラスターが、25パーセント未満の再分化細胞を含む請求項17記載の医薬組成物。
【請求項25】
より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上のクラスターが、10パーセント未満の再分化細胞を含む請求項17記載の医薬組成物。
【請求項26】
より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上のクラスターが、5パーセント未満の再分化細胞を含む請求項17記載の医薬組成物。
【請求項27】
より発生的に能力のある細胞または自己幹細胞または非−自己幹細胞の2以上のクラスターが、1パーセント未満の再分化細胞を含む請求項17記載の医薬組成物。
【請求項28】
さらに成長因子を含む請求項1、2、3、4または5記載の医薬組成物。
【請求項29】
該成長因子が線維芽細胞成長因子、表皮細胞成長因子またはその組合せである請求項28記載の医薬組成物。
【請求項30】
該成長因子が線維芽細胞成長因子および表皮細胞成長因子の組合せである請求項28記載の医薬組成物。
【請求項31】
該成長因子が線維芽細胞成長因子である請求項28記載の医薬組成物。
【請求項32】
該成長因子が表皮細胞成長因子である請求項28記載の医薬組成物。
【請求項33】
さらに成長因子を投与する工程を含む請求項6記載の方法。
【請求項34】
該成長因子が線維芽細胞成長因子、表皮細胞成長因子またはその組合せである請求項33記載の方法。
【請求項35】
該成長因子が線維芽細胞成長因子および表皮細胞成長因子の組合せである請求項33記載の方法。
【請求項36】
該成長因子が線維芽細胞成長因子である請求項33記載の方法。
【請求項37】
該成長因子が表皮細胞成長因子である請求項33記載の方法。
【請求項38】
さらに哺乳動物幹細胞をヘパリンと接触させる工程を含む請求項6記載の方法。
【請求項39】
請求項6または33記載の方法により増殖、移動または増殖および移動双方につき刺激された細胞。
【請求項40】
有効成分として、請求項39記載の細胞を含む神経変性病、外傷負傷、神経傷害性負傷、虚血症、発生障害、視力に影響する障害、脊髄の負傷または病気、脱髄病、自己免疫疾患、感染または炎症病によって引き起こされる神経学的欠損または体の欠損を治療するための医薬組成物。
【請求項41】
さらに医薬上許容される担体を含む請求項40記載の医薬組成物。
【請求項42】
該幹細胞が造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞または間葉幹細胞である請求項6記載の方法。
【請求項43】
該幹細胞が間葉幹細胞である請求項6記載の方法。
【請求項44】
該幹細胞が接合体、未分化胚芽細胞、胚、胎児、幼年少児または成人から得られたものである請求項6記載の方法。
【請求項45】
該幹細胞がヒトから得られた請求項6記載の方法。
【請求項46】
該幹細胞が神経幹細胞である請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184943(P2010−184943A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127105(P2010−127105)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2003−560169(P2003−560169)の分割
【原出願日】平成15年1月14日(2003.1.14)
【出願人】(500033634)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・イリノイ (21)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
【住所又は居所原語表記】506 South Wright Street, Urbana, IL 61801
【Fターム(参考)】