幹細胞由来血小板産生増加法
【課題】本発明の課題は、造血未分化細胞を培養し、巨核球系細胞、特に血小板を効率よく生産させた細胞製剤を製造する方法の開発にある。こうした細胞処理には、国内外の企業により病院外で行われることが期待されている。
【解決手段】本発明は、血小板を生産する方法であって:該方法は:A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;およびB)該血小板前駆細胞を分化させる工程、を包含する、方法を提供する。本発明はまた、このような方法によって生産される血小板およびその応用技術を提供する。
【解決手段】本発明は、血小板を生産する方法であって:該方法は:A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;およびB)該血小板前駆細胞を分化させる工程、を包含する、方法を提供する。本発明はまた、このような方法によって生産される血小板およびその応用技術を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板を効率よく生産する方法およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体を構成する体細胞に不可欠な血液中には、赤血球、リンパ球、血小板等の血液細胞が存在する。血液細胞は、それぞれ固有の機能を分担して、生体を恒常的に保つ役割を担っている。近年、各種の血液細胞は、骨髄中の造血未分化細胞より分化、成熟すること、および、その分化、成熟の過程において各種の生体内液性因子が関与していること等の事実が明らかとなってきている。
【0003】
血小板は、血液中に存在する直径2〜3μmの細胞であり、生体における止血や血栓の形成に重要な役割を有する血液中の有形成分の一種である。骨髄中の造血未分化細胞から巨核球系前駆細胞を経て巨核球となり、巨核球の細胞質が断片化して生成された当該血小板が、血液中に放出されることが明らかとなっている。
【0004】
最近になって、巨核球および血小板系についての研究成果も種々報告されており、例えば、巨核球増殖因子が、血小板を産生する巨核球の増幅を促進する作用を有することが報告されている(非特許文献1)。高投与量の化学療法や高線量の放射線照射の様な癌治療は、骨髄中の造血細胞を破壊し、該患者を血小板の激しく減少した状態に置く。このような治療の後は、血小板減少症を起こし血小板輸血を必要とする凝固作用の減少や出血性障害をもたらす。血小板の不足は、これらの癌治療の後の疾病と死亡の主な原因であり、癌治療のコストを上昇させる要因となっている。巨核球と血小板の回復には、一般的には15日よりも長い時間が要求され、該患者の血液凝固能力がその間不足する。
【0005】
近年、臍帯血バンクなどが設立され、採取された臍帯血が、採取された個人とは異なる患者に移植する同種造血幹細胞移植が普及し始めている。移植した患者の多くの場合において、血小板回復の遅れが問題となっている。
【0006】
従って、血小板を簡便に製造することができる技術についての需要が存在する。
【非特許文献1】加藤俊一「臍帯血幹細胞移植」日常診療と血液Vol.7,P.479特集別刷、医薬ジャーナル社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、造血未分化細胞を培養し、巨核球系細胞、特に血小板を効率よく生産させた細胞製剤を製造する方法の開発にある。こうした細胞処理には、国内外の企業により病院外で行われることが期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、造血未分化細胞に作用し、巨核球前駆細胞の分化を促進する培養方法の開発を目的として、鋭意研究を積み重ねた結果、その培養方法を明らかにすることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、Lnkの調節により、造血未分化細胞から巨核球前駆細胞、ひいては血小板への分化を促進させることにより、血小板への分化を促進する方法を提供する。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)血小板を生産する方法であって:上記方法は:
A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および
B)上記血小板前駆細胞を分化させる工程、
を包含する、方法。
(2)上記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む、項1に記載の方法。
(3)上記阻害は、上記Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を含む、項1に記載の方法。
(4)上記阻害は、レトロウイルスによって、Lnk活性を抑制することのできる変異型Lnkを導入することにより達成される、項3に記載の方法。
(5)上記Lnkは配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片である、項1に記載の方法。
(6)上記B工程において、幹細胞因子(SCF)に上記血小板前駆細胞を接触させる工程を包含する、項1に記載の方法。
(7)上記阻害は、Lnkの核酸レベルによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(8)上記阻害は、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(9)上記阻害は、Lnkの産物レベルによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(10)上記阻害は、Lnkの抗体による阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(11)上記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含む、項1に記載の方法。
(12)上記誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成される、項11に記載の方法。
(13)上記巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択される、少なくとも1つの特徴を有する、項11に記載の方法。
(14)項1に記載の方法によって生産された、血小板。
(15)血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法であって、
A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;および
B)上記選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する上記物質を選択する工程
を包含する、方法。
(16)Lnkまたはその機能が損傷した血小板を含む組成物。
(17)上記組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用される、項16に記載の組成物。
(18)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子。
(19)上記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、項18に記載の因子。
(20)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物。
(21)上記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、項20に記載の組成物。
(22)上記因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である、項20に記載の組成物。
(23)上記因子は、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸である、項20に記載の組成物。
(24)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用。
(25)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用。
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【0011】
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、必要に応じて添付の図面等を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、血小板を産業レベルの量で提供する技術を提供する。その他の効果として
造血幹細胞や前駆細胞の増殖能や造血能を亢進させ、移植ドナー細胞としての機能を高める技術を提供すること、各種の幹細胞や前駆細胞より成熟血液細胞や免疫担当細胞を産業レベルの量で提供する技術を提供すること、などがあげられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を記載する。
【0016】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。
【0017】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄球系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄球系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0018】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0019】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0020】
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的および/または機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別のタイプの細胞に分化することは例外的にしか起こらない。
【0021】
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に用いられ、細胞の性質をいい、1以上、好ましくは2以上の種々の組織または臓器に分化し得る能力をいう。従って、「多能性」および「多分化能」は、本明細書においては特に言及しない限り「未分化」と互換可能に用いられる。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官の構成細胞が別のものの細胞に変化することは少ない。従って多能性は通常失われている。とくに上皮性の細胞は他の上皮性細胞に変化しにくい。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。胚性幹細胞は、多能性を有する。組織幹細胞は、多能性を有する。本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は全能性といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ある細胞が多能性を有するかどうかは、たとえば、体外培養系における、胚様体(Embryoid Body)の形成、分化誘導条件下での培養等が挙げられるがそれらに限定されない。また、生体を用いた多能性の有無についてのアッセイ法としては、免疫不全マウスへの移植による奇形腫(テラトーマ)の形成、胚盤胞への注入によるキメラ胚の形成、生体組織への移植、腹水への注入による増殖等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0022】
従って、本明細書において「胚性幹細胞」または「ES細胞」とは、交換可能に用いられ、初期胚に由来する任意の多能性幹細胞をいう。通常胚性幹細胞は、全能性またはほぼ全能性を有するとされる。この胚性幹細胞を正常な宿主胚盤胞へ導入し仮親子宮へ戻すことによってキメラ作製を行ったところ、高いキメラ形成能を持つ、生殖系列キメラ(胚性幹細胞由来の機能的生殖細胞を持つキメラマウス)が得られた(A.Bradley et al.:Nature,309,255,1984)。胚性幹細胞株は、培養下で、種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、レトロウイルスベクター法、リポゾーム法、エレクトロポレーション法等)の適用が可能である。また、遺伝子が組込まれた細胞を選別する方法を工夫し、相同遺伝子組換え(homologous recombination)を利用し、特定の遺伝子を狙って改変(置換、欠失、挿入)させた細胞のクローンを得ることもできる。インビトロでこのような処理をした胚性幹細胞株は生殖系列への分化能を保持することから、ある特定の遺伝子の機能を個体レベルで調べる研究が現在盛んに行われている(M.R.Capecchi:Science,244,1288,1989)。胚性幹細胞を利用したトランスジェニックマウス作出法は、ある特定の遺伝子のみを任意に改変させた個体を得ることを可能にした点でマイクロインジェクション法によるトランスジェニック動物作出法にはない多くの利点が考えられる。特に、特定の遺伝子を不活化させたノックアウト動物を作出できるようになり、遺伝子の機能を解明したり、外来性の遺伝子のみを発現させることができる。従って、胚性幹細胞の樹立が容易になれば、その効果は図り知れない。このような胚性幹細胞は、受精3.5日目のマウス胚盤胞の内部細胞塊の細胞をインビトロ培養に移し,細胞塊の解離と継代を繰り返すことにより,多分化能を保持し,正常核型を維持したまま無制限に増殖しつづける幹細胞を樹立することに作製することができる。通常、胚性幹細胞の多分化能を維持するには、STO細胞株および/またはマウス胎仔から調製した初代培養繊維芽細胞などのフィーダー細胞層上で胚性幹細胞を培養することが好ましいとされる。
【0023】
本発明に用いられる「造血幹細胞」とは、造血組織および腸上皮組織などの細胞新生系において細胞生産のもとになる細胞をいう。この造血幹細胞は、自己を保存するとともに、すべての血液系細胞に分化することができる。そのような血液細胞としては、例えば、単球系幹細胞、Bリンパ球系幹細胞、Tリンパ球系幹細胞、骨髄球系幹細胞、Tリンパ系細胞、Bリンパ系細胞、血小板系細胞、赤血球系細胞、単球系細胞などを挙げることができる。造血幹細胞は、あらゆる種類の血球に分化する能力を有するとともに造血再構築能を有する細胞であり、主に骨髄、臍帯血、脾臓あるいは肝臓中に存在し、微量ながら末梢血にも存在する。これら造血幹細胞は、通常CD34強陽性細胞であり、本発明においては高増殖能コロニー形成細胞(High−Proliferative Potential Colony−Forming Cells(HPP−CFC))もこれに包含される。
【0024】
本明細書において「前駆細胞」とは、多能性造血幹細胞から各系統の血液細胞が分化形態学的には同定できないがすでに血小板系など一方向の血液細胞にしか分化し得ない細胞を意味する。具体的には血小板コロニー形成細胞(CFC−MEG)、好酸球コロニー形成細胞(EO−CFC)、顆粒球単球コロニー形成細胞(CFU−GM)、赤血球形成細胞(BFU−E、CFU−E)、T前駆細胞、B前駆細胞などである。これらはいずれもCD34陽性細胞である。
【0025】
本明細書において、「血小板前駆細胞」とは、血小板へと分化し得る任意の未分化細胞を総称する用語として使用される。血小板前駆細胞としては、例えば、巨核球およびその前駆細胞(造血幹細胞、胚性幹細胞を含む)、造血幹細胞、胚性幹細胞から誘導された巨核球(例えば、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得る)などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0026】
本明細書において胚性幹細胞から巨核球への誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得るが、ここでは、特に、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択されることが重要であり得る。
【0027】
本明細書において「巨核球」とは、「巨核細胞」とも呼ばれ、巨核芽球(megakaryoblast)から生じる際、核分裂はおこるが核は分離せずに巨大な分葉核を形成する。核は、高倍数性である。細胞質に形成された分画膜(demarcation membrane)により細胞質が崩壊して放出され、それらの多数の断片は血小板となる.骨髄のほか脾臓の赤髄や胚期の肝臓などにもある。
【0028】
巨核球の前駆細胞は、骨髄、臍帯血または末梢血のいずれからでも得ることができる。骨髄液および末梢血は正常な供与者から得ることができる。
【0029】
本明細書において、造血幹細胞は、骨髄液、臍帯血、末梢血などから得た多分化能を有する造血多能性幹細胞、造血コロニーを形成し得る未分化細胞を総称していることから、CD34陽性細胞表面抗原を有する造血細胞を含む。末梢血においては、CD34陽性細胞の数は全白血球の約0.1%しか構成しない。臍帯血においては、CD34陽性細胞は全白血球の約0.1〜1%を構成する。典型的には正常な骨髄は1〜2%のCD34陽性細胞を含むのみである。白血球は勾配による遠心分離のような標準的な方法によって骨髄または臍帯血または末梢血から分離される。〔Geigy Scientific Tables,Vol 3,C.Lentner,ed.Ciba−Geigy,Basel,Switzerland,(1984)〕。ライト−ギムザ染色法の解析では、骨髄内の 成熟した巨核球は該白血球集団の約0.05%しか構成していない一方、巨核球系細胞に特異的な免疫染色は、約0.2%まで標識した。健康な個体内では、巨 核球の前駆細胞は該骨髄内で完全に分化するので、前駆細胞は正常な血液中には極く稀にしか発見されない。分離後、白血球は無血清培地において直ちに培養してもよい。好ましくは、造血未分化細胞を、該白血球集団から単離する。造血未分化細胞の単離は、CD34陽性に特異的な抗体へのそれらの結合、それに続く磁気ビーズを用いた抗体結合幹細胞の分離に基づくものであってもよい〔Hardwick,R.A.,et al.,J.Hematother.1,379−386(1992)〕。単離された造血未分化細胞は、5,000〜500,000細胞/mlの密度範囲、好ましくは10,000細胞/mlで培養中におかれる。いかなる組織培養フラスコまたはバッグまたは中空糸モジュールまたはフィルターモジュールが、静的または灌流培養システムのいずれにおいても使用し得る〔Koller,M.R.,et al.,BIO/TECHNOLOGY,11,358−363,Emerson,S.G,et al.,PCT WO92/11355〕。静的な培養システムが使用された場合、該細胞は栄養物を補給し、老廃物を除去するために5日〜7日の間隔で培地を供給される。細胞は7〜14日、より好ましくは9〜12日間培養される。この時間において、該細胞懸濁液は血小板減少症の治療において使用されるに適した巨核球前駆細胞の集団を含む。
【0030】
フローサイトメーター分析が細胞表面抗原による標識に基づいて細胞表現型を決定するために行われた。CD34陽性細胞は、造血未分化細胞を示し、CD61(インテグリンβ3)陽性細胞は、巨核球系細胞を示す〔CD分類ハンドブック、癌と化学療法社〕。フローサイトメーターによる分析によれば、成熟した巨核球は、細胞質の増大、多核化を呈することから容易に成熟度を解析することが可能である。造血未分化細胞の主たる形質は、CD34陽性CD61陰性である。造血未分化細胞は、本発明により処理することにより効率的にCD34陽性CD61陽性の巨核球前駆細胞への分化を促進し、さらにCD34陰性CD61陽性の未成熟巨核球系細胞が増幅し得る。FLT3リガンドおよび巨核球増殖因子により巨核球前駆細胞への分化を促進し、幹細胞因子と巨核球増殖因子により該巨核球前駆細胞の増殖を促進して、未成熟な巨核球が増幅される。
【0031】
本発明により生産される細胞懸濁液は、多種の血液細胞の前駆細胞を含むと共に、巨核球前駆細胞、未熟な巨核球を含むが、さらに多種の造血因子を含めて培養することで、必要とされる巨核球系の細胞への分化が促進される。
【0032】
本発明の巨核球前駆細胞の濃縮された細胞懸濁液は、癌治療によって生じたものに加え、さまざまなタイプの血小板減少症に効果的な治療を可能にする。このた め、ここに与えられる細胞懸濁液は、血小板減少症の治療において血小板注入に置き換わる可能性も示唆するものである。該上記の細胞集団は、化学療法等の後 の患者に投与された場合、該投与された細胞は、最終的に血小板を生成する巨核球を生成するためにin vivoでさらに分化することが期待される。さらにフィブリン凝塊アッセイの中においた時、該巨核球前駆細胞は成熟した巨核球を形成しそして血小板を放出 することが観察される。これらのアッセイからの結果は、該無血清培養からの細胞はそれらがin vivoの条件に帰された後でもさらなる成熟をすることができることを示唆する。
【0033】
本明細書において、「CD抗原」とは、哺乳動物の細胞表面上、好ましくはヒト血球細胞上に存在する分化抗原の表現型を意味する。通常、この種の抗原はCDの番号をもっ て分類される。CDはcluster of differentiationの略で、モノクローナル抗体によって認識される抗原の一かたまり(cluster)を意味する。具体的にはCD34、CD4、CD8、CD10、CD13、CD19、CD33、CD38などを挙げることができる。他にもThy−1、HLA−DRなどを挙げることができる。
【0034】
本明細書において「サイトカイン」とは、細胞から放出され、細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子で、免疫応答の制御作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖・分化の調節作用などを示す物質であって、具体的にはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−16(IL−16)、インターフェロンα(IFN−α)、インターフェロンβ(IFN−β)、インターフェロンγ(IFN−γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、単球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、好酸球コロニー刺激因子、血小板コロニー刺激因子、幹細胞因子(SCF)、幹細胞増殖因子、flk2/flt3−リガンド、白血病阻害(阻止)因子、エリスロポエチン(EPO)、マクロファージ由来炎症性タンパク1α(MIP−1α)などが挙げられ、好ましくはインターロイキン−3、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、flk2/flt3−リガンド、MIP−1αまたはエリスロポエチンなどが挙げられる。
【0035】
本明細書において使用される造血因子として使用され得るサイトカインとしては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF),インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、巨核球増殖因子、エリスロポエチン(EPO)、FLT3リガンド、幹細胞因子(SCF)、GM−CSF/IL−3結合タンパク質などが示される。巨核球増殖因子は、トロンボポエチン(TPO)として知られ、生体内において巨核球を増殖する因子として報告されている〔Wendling,F.,et.al.,Nature,369、571(1994)、寺村正尚,Annual Review 血液,(1996)〕。また、該巨核球増殖因子は、Pepro Tech社(USA)などから市販されている。FLT3リガンドは、FLK2リガンドと同一分子であり、遺伝子がクローニングされ、造血未分化細胞への作 用が報告される〔Lyman,S.D.,Blood,83,2795(1994)、岩間厚志,Annual Review 血液,12−32(1995))。幹細胞因子は、Stem Cell Factor(SCF)としてZseboらにより報告(Cell,63,195−201(1990))された。この分子は、チロシンキナーゼc−kitのリガンドであるKL(Huan,E.、Cell63、225−233)、肥満細胞増殖因子MGF(Mast cell Growth Factor)(Williams,D.E.、Cell、63、167−174(1990)〕と同一の分子であり、造血未分化細胞への作用が報告される〔下坂、実験医学増刊「サイトカインと情報伝達」,185,(1992)〕。またこれらの因子は、通常1ng/ml〜1μg/mlで使用し得るが、好ましくは、10から100ng/mlで使用し得る。
特に、造血幹細胞の培養において、分化を最大限に抑制して、自己増殖を促進するためには、SCF、FL、TPO、IL−6を添加して用いることが好ましい。そのときの添加量は、SCF、FL、TPOについては、1〜20 ng/mlであることが好ましく、IL−6については、50〜200 ng/mlであることが好ましい。
【0036】
本発明においては、その他の成分をさらに含むことができる。このような成分としては、特に制限は無いが、例えば、可溶性サイトカイン受容体タンパク質が挙げられる。可溶性サイトカイン受容体タンパク質は、培養する造血幹細胞に対し、未分化維持を増強するといった作用をする。
【0037】
このような可溶性サイトカイン受容体タンパク質としては、具体的には、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)を用いることが好ましい。そのとき、培地への添加量が、100〜1000ng/mlであることが好ましい。このような可溶性IL−6受容体(sIL−6R)は、前述のサイトカインであるSCF、FL、TPO、IL−6とともに用いることが好ましい。IL−6とsIL−6Rが複合体を形成し、これらがSCF、FL、TPOによる造血幹細胞の未分化維持作用を増強するからである。
【0038】
本明細書において「細胞株」とは、初代培養以後の培養細胞をすべて指し、初代培養に存在した細胞または細胞群からの一連の系統を意味する。この培養細胞は初代細胞と共存していてもよいし、互いに触れ合っている状態で存在してもよいし、あるいは水、電解質などの液体、培地、培養液等の媒介物を介した状態で存在してもよい。
【0039】
造血幹細胞は、分化して造血前駆細胞となり、さらに分化して前述の分化細胞となる。造血幹細胞も造血前駆細胞もいずれも多能性を有するものであるが、分化細胞は多能性を有しない。本来、造血幹細胞と造血前駆細胞は区別されるべきものであるが、概念上の定義であることもあり、しばしば区別せずに用いられる。本発明においても、造血幹細胞と造血前駆細胞の両方を併せて「造血幹細胞」という用語で標記している。用語の定義については、例えば「血液幹細胞の運命(羊土社)須田年生著」に詳しい記載がある。
【0040】
本明細書において「CD34陽性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を発現している細胞を意味し、具体的には多能性造血幹細胞、HPP−CFC等の造血幹細胞、リンパ球系幹細胞、骨髄系幹細胞等の幹細胞、T前駆細胞、B前駆細胞、BFU−E、CFU−E、CFU−MEG、EO−CFC、CFU−GM等の前駆細胞が これに該当する。
【0041】
本明細書において「CD34強陽性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を特に強く発現している細胞を意味し、具体的には高増 殖能コロニー形成細胞(High−Proliferative Potential Colony−Forming Cells (HPP−CFC))または多能性造血幹細胞それ自体、またはこれら細胞をより多く含んでいるCD34陽性細胞群を意味する。
【0042】
本明細書において「CD34陰性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を発現していない機能細胞を意味し、具体的にはT細胞を含むT前駆細胞以後のT細胞系列の細胞、B細胞を含むB前駆細胞以後のB細胞系列の細胞、赤血球を含むCFU−E以後の赤血球系列の細胞、血小板を含むCFC−MEG以後の血小板系列の細胞、好酸球を含むEO−CFC以後の好酸球系列の細胞または単球、好中球もしくは好塩基球を含むCFU−GM以後の単球、好中球もしくは好塩基球系列の細胞である。本願において使用される、上述のような「陽性」、「強陽性」、「弱陽性」、および「陰性」なる用語は、場合によっては、各々単に「+」(プラス)、「high+」、「low」および「−」(マイナス)と表記される。例えば、「CD34high+CD38low/−」とは、CD34を強く発現しており(強陽性)、かつCD38を弱く発現しているか若しくは発現していない(弱陽性または陰性)ことを意味する。
【0043】
本明細書において「ストローマ細胞」とは、骨髄、脾臓などに由来する基質細胞または間質細胞を指し、本願発明においては、ヒトのCD34陽性細胞を増殖する能力を有するストローマ細胞であれば、どのようなストローマ細胞も用いることができる。例えば、HESS−1、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)、SSXL CL.1、SSXL CL3、SSXL CL.7、SSXL CL.9およびSSXL CL.17と各々命名されたマウス由来のストローマ細胞が例示される。好ましくは、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)、またはSSXL CL3であり、特に好ましくは、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)である。
【0044】
造血幹細胞は、主として骨髄中に多く存在することが知られており、骨髄移植は、急性白血病をはじめとする腫瘍性血液疾患や、重症免疫不全、アデノシンデアミナーゼ欠損症、再生不良性貧血等の疾患に対する治療法として、中心的位置を占めている。近年、造血幹細胞が少量ながら末梢血にも存在することが明らかになった。そのため、造血幹細胞を含む末梢血に顆粒球コロニー刺激因子製剤(G−CSF)を投与したものを用いた移植も普及しつつある(新しい造血幹細胞移植、南江堂、1998)。この方法は、骨髄移植が大量の骨髄細胞を必要とするためドナーの心身への負担が大きいのに対して、ドナーに対して心身への負担が軽減され、また白血球や血小板の回復が早いという利点がある。しかし、比較的高用量のG−CSFによる副作用もしばしば見られるため、骨髄採取よりは簡便であるが、決してドナーの安全性が高いとは言い切れない(Cytokines Cell.Mol.Ther.,3,101−104,1997)。
【0045】
また近年、臍帯血が骨髄と同程度の造血幹細胞を含むことが明らかにされ、移植治療に有用であることが明らかにされた(N.Engl.J.Med.,321,1174−1178,1989)。臍帯血は、骨髄や末梢血と比べて重症の急性移植片対宿主病(GVHD)の発生率が低く、その有用性が期待されている。しかしながら臍帯血の場合、採取量の少なさが問題とされ、1個体に由来する臍帯血の量では、体重40kg程度までのレシピエントにのみ移植可能であることが問題である。(Blood,87,3082,1996)。
【0046】
本明細書において造血幹細胞は、CD34陽性の細胞集団として濃縮することができる。しかも不要な細胞、具体的には、骨髄球系細胞には分化しないリンパ球系細胞等を除去できる可能性があることから(Hematol.Oncol.Ann.,2,78,1994)、今日では、CD34陽性細胞移植が行われるようになった(Blood,77,1717,1991;J.Clin.Oncol.,12,28,1994)。このため、前記のとおり造血幹細胞を多く含む臍帯血の採取量が少ないという問題を解決すべく、造血幹細胞を生体外で効率的に増幅する試みは近年盛んに行われている(Blood,87,3082−3088,1996)。ここで、造血幹細胞の増幅とは、造血幹細胞が分化により、多能性を有しない分化細胞に分化し、増殖していくことと、造血幹細胞の自己増殖との両方を含む意味で用いられる。
【0047】
本明細書において、これまでに報告されたCD34陽性細胞の増幅においては、増殖を促進する物質として、サイトカインが用いられてきた。サイトカインの候補としては幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン(EPO)、flk2/flt3リガンド(FL)、インターロイキン1(IL−1β)、IL−3、IL−6、IL−11、顆粒球・マクロファージコロニー形成因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー形成因子(G−CSF)、マクロファージコロニー形成因子(M−CSF)、IL−3/GM−CSF融合タンパク質(PIXY321)などの種々のサイトカインを組み合わせた増幅法が研究されている。しかし、サイトカインの組み合わせによるCD34陽性細胞の増幅では、培養後の全血球細胞数は増加するものの、培養中に造血幹細胞の分化が誘導され、結果的には最終分化したCD34陰性の血球細胞が増加する一方で、CD34陽性細胞自体はほとんど枯渇されてしまうと考えられている(Blood,87,3082−3088,1996)。現時点では造血幹細胞を未分化の状態に維持したまま自己増殖を促進することが可能なサイトカインは単離されていない。
【0048】
本発明において使用され得る、CD34陽性細胞の他の増幅方法として、ヒト骨髄由来のストローマ細胞を株化し、この上で造血幹細胞・前駆細胞を維持・増殖させる方法が試みられている(Exp.Hematol.,22,482−487(1994))。また、特開平10−295369号公報には、哺乳動物由来のストローマ細胞とCD34陽性細胞を、共培養することによりCD34陽性造血幹細胞を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、CD34陽性細胞が分化していくために造血幹細胞自体はほとんど増幅しないか、むしろ最初の時点より減少してしまう。そのため、移植してもやがては血球細胞が枯渇するおそれがあり、移植のための技術としては不適当である。
【0049】
本発明において使用され得る、さらに別の方法として、培養するCD34陽性細胞とストローマ細胞との接触がなくても、ストローマ細胞から産生される液性因子のみでCD34陽性細胞を培養することにより、CD34陽性細胞を増幅することができるとの報告もある(国際特許出願公開第93/20184号公報)。しかし、この方法においても造血幹細胞は分化するのみで自己増殖しないために、上記方法と同様の理由で移植のための技術としては不適合である。
【0050】
さらに別の局面においては、本発明は、細胞培養キットであって、前述の細胞培養器材のいずれかと、栄養培地と、サイトカインとを含み、ヒト由来のCD34陽性細胞を哺乳動物由来の死滅したストローマ細胞と共に培養するために使用されるものである。
サイトカインとしては、SCF、FL、TPO、IL−6を用いることが好ましく、これに加え、可溶性サイトカイン受容体タンパク質である可溶性IL−6受容体(sIL−6R)を加えることがさらに好ましい。栄養培地は、通常、細胞を培養するのに必要な栄養培地を用いることができる。
【0051】
本明細書において使用され得る「培地」または「栄養培地」とは、天然培地、半合成培地、合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられるが、前述に定義されるCD34陽性細胞を、自己を 含めた増殖、分化、成熟または保存させるために用いられるものであり、通常、細胞培養に用いられるようなものであれば如何なる培地であってもよい。例を挙げると、たとえばα−MEM培地、RPMI−1640培地またはMEM基本培地などが挙げることができる。基本成分としてナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、抗生物質、脂肪酸、糖または目的に応じてその他の化学成分もしくは血清のような生体成分を含有することもできる。
【0052】
本発明において使用され得る培養容器は、所望の細胞が維持・生存でき、刺激に応じて分化・成熟・自己複製するのに何ら阻害するものでなければ如何なる素材、形状のものを用いてもよい。具体的には培養容器の素材としてはガラス、合成樹脂、天然樹脂、金属、プラスチックなどが挙げられ、形状としては具体的には三角柱、立方体、直方体などの多角柱、三角錐、四角錐などの多角錘、ひょうたんのような任意の形状、球形、半球形、円柱(底面が円形、楕円形または半円形等を含む)などを挙げることができ、また例えば半球形から球形のように培養中に必要に応じて形状を変化させてもよい。培養は開放条件下であってもよいし、閉鎖(密閉)条件下であってもよい。
【0053】
このような栄養培地としては、細胞培養に用いられるようなものであれば如何なる栄養培地を用いてもよく、栄養培地の種類としては、天然培地、半合成培地、合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられる。具体的には、α−MEM培地、RPMI−1640培地またはMEM基本培地などを挙げることができる。
【0054】
培養するにあたり、温度、浸透圧、光などの物理的環境条件、酸素、炭酸ガス、pH、酸化還元電位などの化学的環境条件としては死滅処理前のストローマ細胞が維持・生存でき、CD34陽性細胞が維持・生存・分化・成熟・自己複製するのに何ら阻害するものでなければ如何なる環境条件であってもよい。好ましい条件を以下に示す。
【0055】
温度については具体的には、30℃〜40℃であり、好ましくは37℃である。浸透圧については具体的には生理条件における浸透圧であり、好ましくは生理食塩水と等しい浸透圧である。
【0056】
光は暗室ほどの暗い条件であってもよいし、晴天時の外の明るさほどに明るくてもよい。
【0057】
酸素濃度としては具体的には培養系が気相中の酸素濃度が10%の気相と接触している状態での溶存酸素濃度〜気相中の酸素濃度が30%の気相と接触している状態での酸素濃度であってもよく、好ましくは気相中の酸素濃度が20%の気相と接触している状態での溶存酸素濃度の気相と接触している状態での酸素濃度である。
【0058】
培養系において一般的にpHをコントロールするためのpHとして具体的にはpH6.0〜pH8.0であり、好ましくは生理条件と同等のpHである。pHをコントロールする為には二酸化炭素を用いてもよいし、他のいかなる緩衝液を用いてもよい。炭酸ガスの濃度としては具体的には培養系が5%の気相と接触している状態での溶存炭酸ガス濃度である。
【0059】
(Lnk)
本明細書において、Lnkとは、SCFの受容体c−Kitのキナーゼドメインに結合するタンパク質をいう。Lnk 欠損により生じるB細胞過剰産生の分子機構を明らかにし,さらに Lnk が造血幹細胞の増殖およびその機能制御に深く関与していることは明らかになっているが、血小板産生に関わるかどうかは明らかではなかった。
【0060】
そのようなLnk遺伝子としては、例えば、
(A)(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、
核酸分子;あるいは
(B)(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、
ポリペプチドをコードする核酸分子、あるいはそれがコードするポリペプチドが挙げられるがそれらに限定されない。
【0061】
マウスLnk
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号1)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号2)。
【0062】
リンパ系組織に発現するアダプター蛋白質でもある Lnk およびそのファミリー蛋白質群に着目して解析している(医科研Now,vol.17,P4−5,1991)。Lnkは主にリンパ組織で発現されるSH2ドメインを持つアダプター蛋白質である。Lnk欠損マウスではT細胞分化に異常はないものの、脾臓での幼若B細胞の蓄積、SCF反応性亢進による骨髄B前駆細胞の過剰産生が観察され、Lnk がB 細胞の産生を制御していることがわかった。またLnk はPH ドメインも持つ68 kDa の蛋白質であることを明らかにしている(Immunity 13:599,2000)。Lnkはシグナル伝達の抑制分子として働くアダプター蛋白質ファミリーの一員と考えられる。
【0063】
Lnkはc−Kitシグナル伝達系を制御しB細胞産生の恒常性維持に重要な働きを持つこと、Lnk 欠損マウスではc−kit を介する増殖シグナルが増強されていることが示された。Lnk 遺伝子の過剰発現は前駆B細胞のみならずB細胞系列の増殖や分化の抑制、T細胞の分化の抑制も惹起する(J.Immunol.162:2850,2003)。Lnk は造血前駆細胞にも発現しており、その欠損により造血前駆細胞の増殖および造血能が著しく亢進する(J Exp Med.195:151,2002)。Lnkはc−Kit活性化によるGab2 のリン酸化、MAPKの活性化を抑制する。これらの知見は造血前駆細胞の増殖・分化機構の理解および制御法開発に大きく貢献すると期待している。最近、Lnk欠損マウスで造血幹細胞の比率が著明に増加していることが分かったので、造血幹細胞の増殖を負に調節するLnkの研究インパクトは大きく拡がると考えている。Lnkの作用を阻害する変異体の作製にも成功しており、Lnk機能の遮断により造血幹細胞の機能制御に応用できる可能性が示されている(図12)。
【0064】
Lnkファミリーアダプター蛋白質に属するAPSの遺伝子欠損マウスはリンパ球や顆粒球にLnkとは異なる異常が観察されている(未発表)。SH2−B欠損マウスはリンパ球の分化には異常が認められないものの、生殖細胞の分化に異常が観察されている(Mol Cell Biol.22:3066,2002)。このように、Lnkファミリーアダプター蛋白質の研究は幹細胞や前駆B細胞の発生・増殖制御の研究に新しい機構解明に役立つ。
【0065】
本明細書において「Lnkの産物レベルによる阻害」とは、Lnkの遺伝子産物であるタンパク質またはその翻訳後修飾物(例えば、糖タンパク質)の活性または量が減少することによってその発揮される機能が減少または無くなることをいう。そのような阻害には、機能しない改変体が天然物に置き換わって発現することも包含される。あるいは、Lnkの抗体による阻害により、そのような阻害が実現され得る。
【0066】
本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)であってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0067】
本明細書において「Lnkファミリーメンバーの阻害因子(インヒビター)」とは、Lnkファミリーの任意のメンバーを阻害することができる任意の因子をいう。そのような因子としては、例えば、Lnkファミリーの任意のメンバーの本来の機能を失った改変体のうち天然物と複合体を形成し天然物の働きを阻害する改変体、Lnkに対する抗体、Lnkに結合するタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子、これらの複合分子が挙げられる。また、Lnkファミリーの任意のメンバーの遺伝子発現を阻害するタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子、これらの複合分子を挙げることができる。
【0068】
Lnkインヒビターであるかどうかは、以下の試験手法により確認することができる。SCF依存性に増殖する細胞株に遺伝子導入によりLnkを過剰発現させる。このLnk過剰発現によりSCF依存性増殖ができなくなった遺伝子導入細胞株に発現あるいは作用させて、SCF依存性増殖の回復を指標としてLnkインヒビターとしての作用を確認する。SCF依存性に増殖する細胞株の代わりにTPO依存性に増殖する細胞株およびEPO依存性に増殖する細胞株を用いることもできる。
【0069】
また、Lnkの発現を低下させるものかどうかについては、内因性にLnkを発現しているES細胞に作用させ、Lnkの発現低下が生じるかどうかをウェスタンブロット法により検討する。
【0070】
細胞内局在に影響を与えるかどうかについては、蛍光蛋白質とLnkのキメラ蛋白質を遺伝子導入により発現させた線維芽細胞株に作用させ、Lnkの細胞内局在を蛍光顕微鏡により観察して検討する。
【0071】
本明細書において「幹細胞因子(SCF)」(stem cell factorまたはsteel factor;SCFともいう)は、造血幹細胞では注目されている因子である。SCFの代表例は、配列番号5(核酸配列)および配列番号6(アミノ酸配列)によって示される配列を有する。
【0072】
SCFは、骨髄ストローマ細胞により生成され、多能性幹細胞、CFU−GMのCFU−M、CFU−Megなどの骨髄系細胞、リンパ系幹細胞に作用し、これらの分化を支持する。すなわち造血幹細胞から分化細胞へのほぼすべての系統の分化段階の細胞に作用して、他のサイトカインによる最終分化段階への分化誘導する作用を助けるとされる(北村聖(S.Kitamura)、サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174頁〜187頁、2000)。しかし、SCF単独の作用は弱く、他の因子と協働でなければ充分に機能しないようである。例えば、SCFは、インターロイキン(IL)−3、IL−6、IL−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などの他のサイトカインの存在下で、造血幹細胞の分化・増殖を強く誘導する。また、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球マクロファージ系前駆細胞、巨核球系前駆細胞などの分化・増殖も誘導する。
【0073】
従って、SCFは分化そのものを制御するというよりは、多くの種類の造血系細胞の生存を支持しながら、種々のサイトカインに対する反応性を高めると位置づけることができる。
【0074】
(遺伝子工学)
本発明において用いられるLnkなどならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産および導入することができる。
【0075】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0076】
本明細書において「ウイルスベクター」とは、ベクターのうち、ウイルス由来のものをいう。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において「レトロウイルス」とは、RNAの形で遺伝情報を有し、逆転写酵素によってRNAの情報からDNAを合成するウイルスをいう。
【0077】
本明細書において「レトロウイルスベクター」とは、レトロウイルスを遺伝子の担い手(ベクター)として使用した形態をいう。本発明において使用される「レトロウイルスベクター」としては、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus(MMLV)、Murine Stem Cell Virus(MSCV)にもとづいたレトロウイルス型発現ベクターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、レトロウイルスベクターとしては、pGen−、pMSCVなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0078】
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
【0079】
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0080】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0081】
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0082】
このようなスクリーニングまたは同定の方法は、当該分野において周知であり、例えば、そのようなスクリーニングまたは同定は、マイクロタイタープレート、DNAまたはプロテインなどの生体分子アレイまたはチップを用いて行うことができる。スクリーニングの試験因子を含む対象としては、例えば、遺伝子のライブラリー、コンビナトリアルライブラリーで合成した化合物ライブラリーなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0083】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、疾患または障害の調節因子を同定する方法を提供する。このような調節因子は、それぞれの疾患の医薬またはそのリード化合物として用いることができる。そのような調節因子ならびにその調節因子を含む医薬およびそれを利用する治療法もまた、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0084】
したがって、本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0085】
本発明は、他の実施形態において、本発明の化合物に対する調節活性についての有効性のスクリーニングの道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物を包含する。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0086】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物(例えば、所望の校正機能を付与する化合物など)を設計することができる。
【0087】
本発明のスクリーニング方法によって使用される因子は、血小板分化の調節、同定、濃縮または増殖に使用され得る。
【0088】
(遺伝子発現抑制)
本明細書においてドミナントネガティブ法とは、発現すると変異型の表現型(特に、もとの遺伝子の抑制型)になることになることをいう。例えば、転写因子の代わりに、抑制因子に機能変換した転写因子を用いると、機能重複する転写因子に優先して標的遺伝子の発現を抑制し、ドミナントネガティブ型の表現型をもたらす。ドミナントネガティブ技術においてリプレッションドメイン(例えば、アミノ酸配列LDLELRLGFA)を用いることによって、目的とする核酸分子の転写を抑制することができる。ドミナントネガティブ法は、実施例に記載されているような手法を用いることができる。
【0089】
本明細書において「RNAi(RNA interference)」とは、二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)によって配列特異的にmRNAが分解されることによって、タンパク質への翻訳が阻害され、遺伝子発現が抑制される現象をいう。RNAiの利点の一つとして、弱いものから強いものまで様々なレベルの発現抑制が個々の遺伝子によって取得され得ること挙げられる。現在、RNAiは、簡便かつ有効な遺伝子発現抑制法として利用されている。好ましい実施形態において、「RNAi」は、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
【0090】
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0091】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0092】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0093】
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患(例えば、血小板減少に伴う出血性疾患全般(例;抗ガン剤治療時の血小板減少症、本態性血小板減少症、など))の治療、予防、予後などに使用することができる。
【0094】
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0095】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0096】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0097】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0098】
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
【0099】
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列を有する分子を本明細書において「アンチセンス分子」、「アンチセンス核酸分子」または「アンチセンス核酸」と称し、これらは互換的に使用される。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。本明細書中で開示される核酸配列(例えば、配列番号1または3)が与えられれば、本発明のアンチセンス核酸は、WatsonおよびCrick塩基対形成の法則またはHoogsteen塩基対形成の法則に従い設計され得る。アンチセンス核酸分子は、シグナル伝達因子のmRNAの全コード領域に相補的であり得るが、より好ましくは、mRNAのコード領域または非コード領域の一部のみに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳開始部位の周辺の領域に相補的であり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50ヌクレオチド長であり得る。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順を用いて、化学合成または酵素的連結反応を用いて構築され得る。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド、またはその分子の生物学的安定性を増加させるかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成された二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された種々の改変ヌクレオチドを用いて(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用され得る)化学合成され得る。アンチセンス核酸を生成するために使用され得る改変ヌクレオチドの例として、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン(queosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0100】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0101】
プロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよい。プロモーターとしては、例えば、哺乳動物細胞、大腸菌、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。
【0102】
(投与・注入・医薬)
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、幹細胞、それから分化した細胞(例えば、血小板))または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
【0103】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
【0104】
1つの実施形態において、本発明の因子(例えば、Lnkインヒビターなど)は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0105】
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0106】
核酸分子を含む本発明の組成物を投与する場合、核酸分子は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
【0107】
特定の実施形態において、本発明の正常な遺伝子の核酸配列、抗体またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
【0108】
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
【0109】
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
【0110】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene 108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
【0111】
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
【0112】
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、Lnk改変体をコードする核酸またはLnk改変体をコードする核酸を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0113】
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,Takeshita S,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
【0114】
本発明において調製された細胞を含む組成物において含まれる細胞の量は、例えば、約1×103細胞〜約1×1011細胞、好ましくは約1×104細胞〜約1×1010細胞、より好ましくは約1×105細胞〜約1×109細胞などであり得る。これらの細胞は、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.5ml、1mlの生理食塩水のような溶液として存在し得る。細胞の量の範囲の上限としては、例えば、約1×1011細胞、約5×1010細胞、約2×1010細胞、約1×1010細胞、約5×109細胞、約2×109細胞、約1×109細胞、約5×108細胞、約2×108細胞、約1×108細胞、約5×107細胞、約2×107細胞、約1×107細胞などが挙げられる。細胞の量の下限としては、例えば、約1×103細胞、約2×103細胞、約5×103細胞、約1×104細胞、約2×104細胞、約5×104細胞、約1×105細胞、約2×105細胞、約5×105細胞、約1×106細胞などが挙げられる。
【0115】
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の血小板などの医薬を投与する方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0116】
(疾患)
本発明が対象とする「疾患」は、一定量の血小板を必要とするものであれば、どのようなものでもよい。本発明により処置され得る疾患または障害は、本発明の血小板の障害に関連する疾患または障害であり得る。 本明細書において、「粘性の高い血液」とは、粘性が高い血液一般をいい、このような血液は、通常、血栓を起こしやすい。例えば、動脈硬化などの原因になりやすいといわれる。そのような粘性の測定方法としては、例えば、血液流動性測定装置(たとえば、千代田パラメディカルケアーセンター株式会社;Microchannel Flow Analyzer (MC−FAN))を用いることによって、チップ内の流路(幅7μm)を通過する全血の速度を測定し、血液の流動性(粘性)を測定することができる。
【0117】
本明細書において「粘性の高い血液に由来する疾患」には、例えば、高脂(質)血症、全身の動脈硬化、閉塞性動脈硬化症、糖尿病、脳梗塞、急性冠症候群(心筋梗塞、狭心症)などを挙げることができる。
【0118】
本発明はまた、血小板の異常に関連する任意の疾患を処置することができ、例えば血小板減少に伴う出血性疾患全般(例;抗ガン剤治療時の血小板減少症、本態性血小板減少症、など)などを挙げることができる。
【0119】
1つの実施形態において、上記疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血、外傷後出血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など。
【0120】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0121】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0122】
(発明を実施するための好ましい形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0123】
1つの局面において、本発明は、血小板を生産する方法を提供する。この方法は:A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物(例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片)の機能を阻害する工程;およびB)該血小板前駆細胞を分化させる工程、を包含する。Lnkまたはその等価物の機能阻害は、例えば、核酸レベル(複製または転写レベル;これは、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成され得る)、タンパク質レベル(翻訳レベル、翻訳後修飾レベル;これは、糖鎖切断、抗体などによる阻害)でおこなうことができ、直接または間接的に行うことが可能である。代表的には、好ましくは、Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を用いること、レトロウイルスによって、Lnk活性を失った変異型Lnkを導入すること、などにより達成され得ることが理解される。血小板前駆細胞は、生体からとったものを直接使用(初代培養)してもよく、あるいは、幹細胞をある程度分化させたり、増幅したりした細胞を使用できることができることが理解される。
【0124】
1つの実施形態では、本発明において使用される血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む。このような胚性幹細胞は、当該分野において公知の任意の技術を用いて調製することができることが理解され得る。
【0125】
1つの実施形態において、血小板前駆細胞分化工程(上記B工程)において、幹細胞因子(SCF)に血小板前駆細胞を接触させることを包含してもよい。
【0126】
1つの実施形態では、血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含み得る。巨核球の誘導は例えば、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得るがそれに限定されない。巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることに留意すべきである。
【0127】
別の局面において、本発明はまた、本発明の上記方法(血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および該血小板前駆細胞を分化させる工程を含む)によって生産される血小板を提供する。
【0128】
別の局面において、本発明はまた、血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;およびB)該選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する該物質を選択する工程を包含する。分化調節作用を有するかどうかは、コントロールとして分化因子に接触させるポジティブコントロールに対して、その分化速度が調節されていることを確認することによって、判定することができいる。
【0129】
別の局面において、本発明は、Lnkもしくはその等価物が損傷しているか、またはその機能が損傷した血小板を含む組成物を提供する。このような血小板は、粘性が低く、粘性の高い血液に起因する疾患を処置するのに適していると予期される。
【0130】
従って、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用され得る。このような患者は、例えば、糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、高脂血症、脳梗塞などの症状または疾患に罹患している者であり得る。
【0131】
別の局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を提供する。この因子は、血小板の産生または産生促進のために用いることができる。このような因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子などであり得る。
【0132】
従って、本発明は、好ましい実施形態では、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物を提供する。このような因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子などであり得る。あるいは、別の実施形態では、この因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である。このような因子は、特定の実施形態では、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸であり得る。
【0133】
1つの局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用を提供する。ここで使用される因子は、本明細書において使用される任意の因子の実施形態が使用され得ることが理解され得る。
【0134】
別の局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用を提供する。ここで使用される因子は、本明細書において使用される任意の因子の実施形態が使用され得ることが理解され得る。
【0135】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0136】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0137】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA、和光純薬(大阪、日本)などから市販されるものを用いた。以下において使用した動物は、日本の大学において規定される飼育規準を遵守して飼育および実験した。
【0138】
(実施例1:Lnk DN変異体遺伝子のスクリーニング)
(細胞、試薬およびマウス)
MC9細胞をRPMI 1640培地(8%の仔ウシ血清(FBS)、抗生物質および10ユニット/mlのIL−3を補充)中で培養した。Plat−E細胞は、以前に記載したとおりに維持した((Morita,S.,Kojima,T.,and Kitamura,T.2000.Plat−E: an efficient and stable system for transient packaging of retroviruses.Gene.Ther.7:1063−1066.)。COS7細胞を、RPMI1640培地(8%FBSおよび抗生物質を補充)中で維持した。精製マウスIL−3、SCFおよびTPOは、Peprotech(NJ,USA)から購入した。C57BL/6マウス(Ly5.2+)およびC.B−17 scidマウスは、日本クレア(神奈川、日本)から購入した。Ly5遺伝子座(Ly5,1+)についてコンジェニックであるマウスとlnk−/−マウス(Takaki,S.,Sauer,K.,Iritani,B.M.,Chien,S.,Ebihara,Y.,Tsuji,K.,Takatsu,K.,and Perlmutter,R.M.2000.Control of B cell production by the adaptor protein lnk.Definition of a conserved family of signal−modulating proteins.Immunity.13:599−609.; Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)を、東京大学医科学研究所動物実験施設にて病原体フリーの特殊条件で交配させ維持した。
【0139】
(Lnk変異体および発現構築物)
使用したR364E、ΔPH、ΔNおよびY536F Lnk変異体の配列は、以下の通りである。
【0140】
R364E
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtggagcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号7)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVEQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号8)。
【0141】
ΔPH
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号9)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号10)。
【0142】
ΔN
ヌクレオチド配列
atgaacgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号11)
アミノ酸配列
MNACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号12)。
【0143】
Y536F
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagttcacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号13)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQFTPLSQLCREADV(配列番号14)。
【0144】
上記変異体をコードするDNAフラグメントは、以下のプライマーを用いたPCRベースの部位特異的変異誘発によって生成され、そしてDNA配列決定によって確認した。
[R364Eの作製に用いたプライマー]
5’tggtggagcagagtgagtcccgga3’(配列番号15)
5’tctgctccaccaggaacacgccgt3’(配列番号16)
[ΔPHの作製に用いたプライマー]
5’tggctggcagagctcagggca3’(配列番号17)
5’ctgccagccatacgacctccttgagcgcct3’(配列番号18)
[ΔNの作製に用いたプライマー]
5’gcctgtgccctgcagcacctg3’(配列番号19)
5’gggcacaggcgttcatggtggagagcgagg3’(配列番号20)
[Y536Fの作製に用いたプライマー]
5’caaccagttcacccctctctca3’(配列番号21)
5’aggggtgaactggttgtcaatgg3’(配列番号22)。
【0145】
dCをコードする変異cDNAを、lnk cDNAをBglIIで消化し、Klenowフラグメントによって平滑化し次いで自己連結することによって構築した。種々の組み合わせで変異を含む他のlnk cDNAは、適切なcDNAフラグメントを、制限酵素消化およびライゲーションを用いて変異フラグメントに置き換えることによって構築した。得られたcDNAフラグメントをpcDNA3哺乳動物発現ベクター(Invitrogen)またはMSCVレトロウイルスベクター(内部リボソーム侵入部位(IRES)をマルチクローニング部位とeGFPコードcDNA(Clontechから入手可能)との間に含む)中にサブクローニングした。
【0146】
(レトロウイルス形質導入および骨髄移植)
pMYベクターを、FuGene(Roche)を用いたリポフェクションによりPlat−E細胞中にトランスフェクトした。パッケージングしたレトロウイルス粒子を含む上清を採集し、そして微小遠心分離管中で4℃にて16時間にわたり遠心分離した。形質導入のために、MC9細胞を、ポリブレーン(Sigma)8mg/mlおよびレトロウイルス上清濃縮物を含む新鮮な培地中で3時間インキュベートした。細胞を洗浄し、そしてさらに、10ng/mlのSCFを含む新鮮な培地中で培養した。HSC/HPCの形質導入のために、Lineageマーカー(B220,CD3,Mac−1,Gr−1 およびTER−119)について陰性の骨髄(BM)細胞を、MACSシステム(Miltenyi Biotec)を用いて精製した。Lin−細胞(4×105)を、3時間にわたりレトロウイルス上清とともにインキュベートし、そしてRetronectinをコーティングしたディッシュ(TaKaRa)上にRMPI1640培地(8%FBS、50mM 2−メルカプトエタノール、1×非必須アミノ酸(Gibco)、10ng/ml SCF、100ng/ml TPOおよび5ng/ml IL−3を含む)とともにプレートした。翌日、形質導入を、新鮮なレトロウイルス上清を用いて繰り返し、そして細胞をさらに24時間にわたり培養した。形質転換したLin−細胞(2.0×105)を洗浄し、そして致死量の照射を受けた(9.5Gy)レシピエントマウスに静脈注射した。
【0147】
(フローサイトメトリー)
レトロウイルス形質導入の後にeGFPを発現するMC9細胞を、FACS CaliburTM装置(BD Biosciences)を用いて分析した。抹消血脱核細胞をレシピエントマウスから得、これを所定の最適濃度のそれぞれの抗体を用いて染色し、ついでこれをFACS CalbiurTMにより分析した。モノクローナル抗体としては以下を用いた。FITC−結合体化の、抗B220(抗CD−45R、RA3−6B2)、抗Mac−1(抗CD11b、M1/70)、および抗Sca−1(E13−161.7);PE結合体化の、抗CD3e(145−2C11)、抗Gr−1(RB6−8C5)、抗TER119、抗Sca−1および抗c−Kit(抗CD117、2B8);ビオチン結合体化の、抗Ky5.1(抗CD45.1,A20)および抗Ly5.2(抗CD45.2、104);APC結合体化の、抗B220および抗c−Kit(すべて、BD BiosciencesまたはeBiosciencesから購入した)。ビオチン結合体化された抗体の結合は、APC結合体化またはPerCP結合体化されたストレプトアビジン(BD Biosciences)を用いて可視化した。死んだ細胞を、7アミノ酸アクチノマイシンD(Sigma)染色によってゲートアウトした。
【0148】
(化学架橋、免疫沈降およびイムノブロッティング)
COS7細胞を、野性型または変異型のLnkタンパク質をコードするpcDNA3を、Superfect(Qiagen)を用いてトランスフェクトし、そしてトランスフェクト後48時間で採集した。細胞を溶解緩衝液(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)中に溶解し、そしてBS3(Pierce)を種々の濃度で用いて化学架橋させた。ついで、これを、抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットした。刺激実験のために、トランスフェクト体を12時間血清枯渇させ、そして100ng/mlのSCFで5分間刺激した。ついで、以前に記載されているように、細胞を溶解し、溶解液を免疫沈降させ、そして免疫ブロットした(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)。
【0149】
(ES細胞からの血小板の生成に対するLnk遺伝子のドミナントネガティブ変異の効果)
(ES細胞の増殖および分化)
マウスE14tg2a細胞株を、1000U/mlマウス白血病阻害因子(LIF)(Chemicon,Temecula,CA)を補充した完全GMEM培地(GIBCO/Invitrogen,Carlsbad,CA)中で照射したマウスフィーダー細胞上で10継代まで維持した。巨核芽球への分化のために、間質細胞株OP9 cells(Nakano T,Kodama H,Honjo T.Science,265;1098−1101,1994)を有する共培養システムを記載される(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)ように用いた。手短にいうと、ES細胞を、0.25% トリプシン/EDTAで剥離させ、そして75分間静置して、接着性フィーダー細胞を枯渇させた。ついで、1.5×104個の細胞を、コンフルエントなOP9間質細胞を含む6ウェルプレートの各ウェルに播種した。OP9細胞は、新生児M−SCF欠損B6C3F1−op/opマウスの頭蓋冠に由来する。そして、各ウェル中の細胞を、10−12%仔ウシ胎児血清および50mM 2−ME(Sigma)を補充したαMEM培地(GIBCO/Invitrogen)中で培養した。レトロウイルスで形質導入したタンパク質を発現する巨核球を得るために、分化プロトコールの5日目においてFlk−1およびPECAM−1の両方を発現する二機能性血管芽細胞を20ng/mlを含むαMEM中に8×105/mlに懸濁した。等量のウイルスストックおよび4mg/mlの硫酸プロタミン(Sigma)を加えた後、この細胞を37℃で17時間培養し、洗浄し、そして4×105細胞で新鮮なOP9層上にまき、そして上記に記載されるように(Eto K.et al.,PNAS,2002)15日目まで培養した。
【0150】
(巨核芽球のレトロウイルス感染)
Lnk cDNAおよびドミナントネガティブ変異体のcDNAをIRES−GFPカセットを含むレトロウイルスベクターより制限酵素消化して分離・精製し、MSCVレトロウイルスベクター(MIGベクター:BD bio/clontech社より購入)のマルチクローニング部位にサブクローニングし、PGK−neo遺伝子をires−EGFPに置き換えた。関連する配列を、自動化されたDNA配列決定によって確認した。ウイルスを、293T細胞(Promegaから入手可能)へのリン酸カルシウムトランスフェクションによって生産した。この実験では、15μgのMIG発現ベクター、12 μgのエンベローププラスミドpcDNA−VSVG、を用いた。ウイルスの力価は、感染させたNIH 3T3細胞中でのGFP発現を測定することによって48〜60時間後に決定し、それは、0.4〜1.0×106 IU/mlの範囲にあった。
【0151】
ドミナントネガティブ変異体の配列は以下の通りである。
【0152】
ドミナントネガティブマウスLnk
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtggagcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatc(配列番号3)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVEQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQI(配列番号4)。
【0153】
(IIb、GPIbの発現に関する巨核芽球の特徴づけ、および前血小板の生成)
ES細胞分化の9日および12日後、非接着性細胞を、60分間37℃にて重力沈降させた。巨核芽球の収率を最適化するために、OP9層になおも接着する造血細胞を、再度懸濁し、そしてメッシュを通して細胞塊を除去した。αIIbβ3またはGPIbαの発現を、FITCを結合体化させたラット抗マウスαIIB(CD41)を用いて測定した。
GFPを発現する前血小板の形成を位相蛍光顕微鏡(phase−contrast epi−fluoresent microscopy)(Leica DM IRBE microscope system)によりモニターし、そして計数した。手短に述べると、前血小板についての細胞の実数は、培養9日目および12日目において、1培養ディッシュあたり100個のGFP陽性巨核球中で計数した。培養12日目から14日目にかけて、ES細胞に由来する血小板の粒子数をフローサイトメトリーにより計数した。その結果は、1枚の6-ウエル培養皿から回収した3日間全体の合計GFP陽性GPIbα陽性数:コントロール(GFPのみ)発現682±418,R364E1アミノ酸置換遺伝子発現 896±51 Lnkドミナント陰性遺伝子発現3028±446であった。GFPおよびGPIbαの陽性粒子を、コントロールビーズ(BD/Invitrogen)を用いることによって最終的に計数した。
【0154】
(実施例2:Lnkノックアウト血小板実験)
(材料)
すべての試薬は、特に言及する場合を除き、Sigma−Aldrichから購入した。すべての動物および組み換えDNA実験は、東京大学医科学研究所、東海大学および北海道大学の動物実験施設協議会によって承認を得たものである。
【0155】
セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体化された二次抗体は、Bio−Rad研究所から購入した。アルガトロバン(argatroban)は三菱化学(東京、日本)から購入した。ローダミン−ファロイジン、alexa488結合体化フィブリノゲンおよびalexa488結合体化抗マウスIgG抗体は、Molecular Probesから購入した。
【0156】
精製したヒトフィブリノーゲンをAmerican Diagnostica Inc.(CT,USA)から入手した。FITC結合体化抗マウスインテグリンαIIb(CD41)およびPE結合体化抗マウスGPIbαをAmfret(Germany)から得た。ヒトトロンボポイエチン、IL−6およびIL−11をPeprotechから入手した。
【0157】
(出血時間)
尾部出血アッセイを、8週齢のLnk欠損マウス(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160)またはコントロールマウスを用いて行った。マウスを50μg/mlのペントバルビタールを用いて麻酔した。尾部の2mmの遠位先端を切除し、そして尾部をすぐに37℃のPBSに浴した。尾部の出血時間を、出血が停止するまでに必要な時間と定義した。
【0158】
(血液サンプルの調製)
1実験当たりの血液サンプルを、それぞれ8匹を超えるLnkヌルマウスおよびそのコントロールから、心臓窃孔により得た。収集した血液検体をすぐに、その容積の1/6の酸性クエン酸デキストロース(ACD)を含むプラスチックチューブに移し、インテグリンαIIβb3に対する特異的なフィブリノーゲン結合または血小板拡散の実験に用いた。別のサンプルを、その容積の1/6の3.8%クエン酸を含むチューブに移して最終濃度を0.38%として血小板凝集の実験に用いた。血小板濃縮血漿(PRP)を、全血を150×gで15分間遠心分離することによって得た。洗浄した血小板を得るために、10mMのプラスタグランジンE1(PGE1)および5U/mLのアピラーゼを加え、そして750×gで10分間遠心分離し、一回1mMPGE1および1U/mLのアピラーゼを含むクエン酸緩衝液で洗浄した。血小板ペレットを、適切な容量の、Ca2+なしの改変したタイロード−Hepes緩衝液pH7.4(10 mM HEPES,12 mM NaHCO3,138 mM NaCl,5.5 mM グルコース,2.9mM KClおよび1 mM MgCl2)中に再懸濁した。
【0159】
(エキソビボフローチャンバー実験)
エキソビボ灌流実験のために、収集した血液検体を、すぐに、その容量の1/10の特異的トロンビンインヒビターアルガトロバンを最終濃度100μMで含むプラスチックチューブに移し、実験の間の血液サンプルの流動性を維持した(アルガトロバンは、クエン酸またはヘパリンよりも抗凝固剤としてより一般的に使用されており、これをカチオン濃度の減少または改変されたフォンビルブラント因子Iβaの相互作用を通じて、多面的な効果を回避した。)。
【0160】
ついで、全血検体中の血小板を、最終濃度10μmol/Lのメパクリン(Sigma,Co.Ltd.,St.Louis,USA)を加え、以前に記載されている手順(Eto K,Goto S,Shimazaki T,Sakakibara M,Yoshida M,Isshiki T,Handa S (2001) Two distinct mechanisms are involved in stent thrombosis under flow conditions.Platelets 12:228−235.)を用いることによって蛍光を発光させた。いくつかの実験において、全血検体を、遠心分離によってPRPおよび残りの検体に分割して、コントロールPRPまたはLnkヌルPRPと、コントロール赤血球および血漿を含む、コントロール血液由来の残りの検体とからなる再構成した全血を作製した。血小板数をさらに調整するために、コントロールPRPまたはLnk−PRPをHEPES−タイロード緩衝液中に希釈し、そしてコントロール赤血球および血漿を含むコントロール血液と混合した。
【0161】
I型コラーゲン(Sigma,USA)を固定した長方形のフローチャンバーを以前に記載されるように調製した(Eto K,Goto S,Shimazaki T,Sakakibara M,Yoshida M,Isshiki T,Handa S (2001) Two distinct mechanisms are involved in stent thrombosis under flow conditions.Platelets 12:228−235.)。血液サンプルを、シリンジポンプを備えるチャンバーを通じて、116.1ml/時間の速度で吸引して1,500s−1の最大の壁剪断速度を達成した(Holliston,MA 01746,Harvard Apparatus,Co.Ltd.,USA) 。表面上でコラーゲンと相互作用し、血栓を形成する血小板を、480nm励起光源(DMIRB,1RB−FLUO,Leica,Germany)を備える倒立ステージepi蛍光ビデオ顕微鏡システムを用いて可視化した。顕微鏡像を、感光性カラーCCDカメラ(L−600,Leica,Germany)を用いてオンラインでデジタル化した。二次元での血小板血栓成長を定量するために、血小板による表面積カバー率を以前に報告されているように算出した(Goto S, Tamura N, Ishida H (2004)Ability of anti−glycoprotein IIb/IIIa agents to dissolve platelet thrombi formed on a collagen surface under blood flow conditions. Journal of the American College of Cardiology 44:316−23.)。血小板血栓の溶解を、ビデオ画像で示した。このビデオ画像では、時間感覚を3分の1にまで減らした(すなわち、実時間3分はビデオでは1秒で表される。)。血小板血栓の三次元構造を、超高速レーザ共焦点顕微鏡で分析し、対物レンズの位置を上げ、そして誘電モーター制御ユニットによって制御して定速を20μm/50秒にまで減速し、血栓の走査画像を得ることができるようにした(図8)。マイクロレンズによって覆われた20,000ピンホールを有する迅速に回転するディスクの共焦点ユニット(CSU10,Yokogawa Medical,Co.,Japan)を用いることによって、1片の共焦点画像を、10ミリ秒内に得ることができた。共焦点画像を画像拡大器(SRUB GEN III+,Solamer,Intermedical Co.,Japan)を用いて拡大し、拡大画像をデジタルビデオレコーダー(Handycam,Sony Co.,Japan)に記録した。記録した画像をパーソナルコンピュータ(PowerMachintosh G4,Apple Inc.,USA)に移し、シェアウェアNIH images/Image J 1.32を用いて三次元投影画像を得、そして上面から、60℃斜め上および側方からのQuickTime動画および投影図として記録した。
【0162】
(血小板凝集研究)
1mM MgCl2を含む改変したタイロード−Hepes緩衝液中に洗浄血小板を2×105/mlの濃度で入れた。最終濃度1mMでCaCl2を加え、37℃で1分間インキュベートした後、種々の濃度のマウストロンビンおよびコラーゲンIを加えて攪拌を行った。凝集プロファイルをChrono−Log血小板凝集計中で37℃で攪拌しながら生成した。
【0163】
(種々のアゴニストによるフィブリノーゲン結合(インテグリンαIIβb3の活性化)およびFACS分析)
洗浄し、静止させた血小板を、室温で300mg/mlのAlexa488結合体化したフィブリノーゲンと、ADP、PAR4アゴニストペプチド、マウストロンビンまたはPMA(各々50mLの最終溶液の0.2mM CaCl2を有する改変したタイロード−Hepes緩衝液に溶解した)とともに30分間インキュベートした。
【0164】
共焦点顕微鏡:1mM MgCl2および0.2mMCaCl2を含む改変したタイロード−Hepes緩衝液中の洗浄血小板(107/500μl)を、37℃で45分にわたり12ウェルプレートのフィブリノーゲンコーティングカバースリップに播いた。接着性の細胞を4%ホルムアミド中に固定し、0.1%のTriton X−100で透過させ、そして一次抗体およびAlexa 488結合体化させた二次抗体を用いて染色した。
【0165】
(結果および考察)
図1は、Lnkの機能的ドメインは、細胞増殖調節のために重要であることを示す図である。(A)Lnk変異体、および内部リポソーム侵入部位(IRES)を有する単一のmRNAからのeGFPを共発現するために使用されるMSCVベクターの代表的な模式図である。そのプロリンリッチ部分(stretch;黒いバーを有する白いボックスで示す。)、SH2ドメイン(白いボックス)、およびC末端にチロシンリン酸化部位(Y)を有するN末端ドメインを示す。N末端ドメイン(DN)、PHドメイン(DPH)およびC末端テイル(DC)の欠失、ならびにY536のフェニルアラニン置換(Y546F)およびR364のグルタミン酸置換(R364E;SH2ドメイン中のXとして示す)を示す。(B)コントロールベクターで形質導入したMC9細胞(左欄、ベクター)またはLnk発現ベクターで形質導入したMC9細胞(右欄、WT)をSCFの存在下で培養し、そして所定の時点で生きているeGFP+細胞の割合を、フローサイトメトリーにより決定した。(C)SCFにより誘導される、指示されたLnk変異体を発現するMC9細胞の増殖速度を、各々の所定の時点におけるeGFP+細胞の割合を培養開始(0日目)で除することによって形質導入していない細胞と比較した。示されているのは、複数の独立実験の代表的結果である。
【0166】
図2は、Lnk SH2変異体が、細胞増殖においてLnkの負の調節機能をドミナントネガティブ的に阻害することを示す図である。(A)Lnkは、SH2ドメインを介してc−Kitと会合する。示されたLnk変異体およびc−Kitを共発現するCOS7トランスフェクト体を、SCFで刺激し、そして溶解した。抗Lnk抗体で免疫沈降したタンパク質を分離し、そして抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットして、c−Kitを検出し(上パネル)、そして抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットしたLnkを検出した(下パネル)。c−KitとLnkとの会合は、R364E SH2変異によって消えていた。(B)N末端領域を介したLnkのマルチマー形成。指示されたLnk変異体を発現するCOS7形質転換細胞の細胞溶解物全体を、種々の濃度の化学架橋剤BS3で処理し、ついで抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットに供した。Lnkは、マルチマー複合体を形成した。これは、より遅い移動度を示した(矢頭)。マルチマー化した複合体は、dNLnk変異体では検出できなかった。(CおよびD)Lnk SH2変異体は、レトロウイルスで野性型Lnkを発現するMC9−Lnk細胞中に形質導入した。形質導入した細胞をSCFの存在下で培養し、そしてその増殖を、形質導入していないMC9−Lnk細胞のものと比較した。比較は、所定の時点でのeGFP+細胞を、培養時(0日目)のもので徐することによって求めた。示されるのは3つの独立した実験の代表的なデータである。最後に、R364E SH2変異に加えてDPHおよびDCの変異(ΔPH/R364E/ΔC)を、wt Lnkに対する阻害作用を有する最も強力なドミナントネガティブ変異体として決定した。
【0167】
図3は、SH2 R364E単独ではなく、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体の異所性発現は、ES細胞由来の造巨核球能(megakaryocytepoiesis)の成熟を容易にすることを示す図である。
【0168】
(A)Lnk wt、SH2 R364E単独と、cDNAのΔPH/R364E/ΔC変異体との間の相違。プロリンリッチ領域を伴うN末端ドメイン(黒バーを伴う白ボックス)、PHドメイン(斜線ボックス)、SH2ドメイン(白ボックス)およびC末端のチロシンリン酸化部位(Y)を示す。2つの変異遺伝子のこうかをES細胞に由来する巨核球において実験した。(B)分化プロトコールの5日目に、造血前駆細胞を18時間にわたって、GFP単独をコードするウイルス、R364E変異体およびGFP(R364E−GFP)またはΔPH/R364E/ΔC変異体をコードするウイルスおよびGFP (ΔPH/R364E/ΔC−GFP)をコードするウイルスに感染させた。さらなる分化を、20ng/ml TPOの存在下でOP9とともに共培養することによって維持した。7日目に、細胞を、形質導入した(GFP陽性)細胞および非形質導入細胞(GFP陰性)におけるCD41(インテグリンαIIb)の発現によって分析した。GFP陰性細胞におけるCD41陽性細胞の平均数を1.0と定義した。成熟を研究するために、GPIβa発現もまた試験した。示されているのは、3つの独立した実験の平均±SDである。(結果)GFP単独、SH2 R364EおよびΔPH/R364E/ΔC−GFPの間ではCD41発現細胞の数には変化はなかった。他方、造巨核球における成熟プロセスの特徴であるGPIβaの発現は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC形質導入した巨核球において増加したが、SH2 R364E単独を形質導入した細胞では見られなかった。このことは、DPHおよびDCが、SH2変異体に加えて、内因性Lnkに対して阻害し得、そしてこの培養系においての成熟を促すことを示す。
【0169】
図4は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は成熟巨核球の数および前血小板の生成を増加させることを示す図である。
【0170】
(A)ES細胞から誘導された巨核球においてレトロウイルスによって媒介されたGFP発現。5日目の造血前駆細胞に、GFP単独をコードするかまたはΔPH/R364E/ΔC−GFPをコードするレトロウイルスを感染させた。9日目および12日目において、多数の延長を示すGFP陽性細胞の蛍光画像を、倒立蛍光顕微鏡/コンピュータシステムを用いて所定の暴露時間で得た。そして、100細胞中の前血小板の数を算出した。(A)のバーの寸法は、100mmである。(B左)9日目のCD41+GFP+細胞数を、フローサイトメトリーで算出した。フローサイトメトリーにおけるドットプロットの側方散乱および前方散乱にしたがって、2つの任意の分析のゲートを以前に記載されるように適用した(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)。示されているでーたは、3つの独立した実験の平均±SDである。(B)に示されるように、ΔPH/R364E/ΔC−GFP形質導入された細胞は、成熟した巨核球を示し、そしてレトロウイルス感染の3日後前血小板の数が増えていた。さらに3日後、OP9細胞との共培養によって、(B右)に示されるように、前血小板の生成の増強を維持した。
【0171】
図5は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞に由来する巨核球からの血小板フラグメンテーションを増加させることを示す図である。12日目から14日目の成熟した巨核球から誘導されるフラグメント化した粒子を、本明細書における方法の欄に記載されるようにフローサイトメトリーによって計数した。示されているのは、GPIβa+GFP+の粒子の3日間の合計である。グラフの挿入箇所は、ドットプロットの例を示す。(結果)Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞由来のGPIβa+血小板粒子の数を増加させたが、SH2変異体単独では増加させなかった。
【0172】
図6は、マウス血小板におけるLnk発現およびLnkヌルマウスにおける尾部における出血時間の延長を示す図である。(A)マウスlnkのcDNAをトランスフェクトしたCOS7細胞におけるタンパク質発現のウェスタンブロットおよび示された遺伝子型の血小板の分析。2%SDS含有RIPA緩衝液によって調製された25mgの各々の溶解物を、マウスLnkに対するポリクローナル抗体で評価した(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160)。(B)出血時間を、本明細書において方法の欄に記載されているように決定した。プロットされたデータは、正常なマウス(n=5)およびLnkヌルマウス(n=7)であった。
図7は、トロンビンおよびコラーゲンによる血小板凝集を示す図である。
【0173】
洗浄し、静止させた血小板を、血小板凝集計に適用し、そしてトロンビン(0.1U/ml)またはコラーゲンI(0.5μg/ml)で活性化した。矢印は、アゴニストの添加を示す。示されるのは、3つの独立の実験の代表的な結果である。
【0174】
図8は、表面に結合したコラーゲンのエキソビボの血栓形成を示す図である。血液を、抗凝固剤としてアルガトロバンを用いてコントロールマウスまたはLnk欠損マウスから収集した。硝子製カバースリップを、不溶性の繊維型I型コラーゲンでコーティングし、そして平行のプレートフローチャンバー中に配置した。(A)コントロール(10匹のマウス)またはLnk欠損マウス(10匹のマウス)からの血小板数を調整なしで全血を、比較的高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバー中に適用した。連続記録からのコントロール(Lnk+/+)またはLnk欠損(Lnk−/−)における左の3つのフレームは、血液灌流の2分後、4分後および7分後における、コラーゲンコーティングされた表面(2次元;XY軸)を示す。コントロールおよびLnk欠損から形成された血栓が示されている。他方、Lnk欠損血液の三次元の画像(右フレーム:Z軸)は、コントロールのものの高さよりも比較的低い血栓を示した。(B)コントロールの血液に由来する赤血球および血漿とともにコントロールPRPまたはLnkヌルPRPからなる再構成した血液を、高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバーに適用した。Lnk欠損血小板を含有するサンプルにおける三次元画像(Z軸)は、血小板数をコントロールに5×105/mlに調整した場合でも、コントロールのものよりも低い血栓高さを示した。
【0175】
図9は、Lnk欠損血液における灌流後の血栓表面積、血栓高さおよび血栓容量を示す図である。(A)表面積率を、連続的なz軸切片から決定した。データは、1−2μmの高さの血栓における3つの独立した実験の平均を示す。(B)データは、最大高さ(μm)における3つの独立した実験の平均を示す。
【0176】
図10は、Lnk欠損血小板における種々のアゴニストによるインテグリンαIIβb3の活性化を示す図である。種々のアゴニストの添加後に活性化されたαIIβb3を、フローサイトメトリーにおいて、インテグリンαIIβb3に結合したAlexa488結合体化フィブリノーゲン結合によって分析した。非特異的な結合を、10mM EDTAの存在下で決定した。データは、5〜8回の独立した実験からの平均蛍光強度(FL−1チャネル)を示す。
【0177】
図11は葉状仮足形成の欠損が、Lnk欠損血小板においてフィブリノーゲンに対して見られたことを示す図である。血小板をLnk−/−およびコントロールマウスから得、そしてアゴニストなし;ADP(50μM);PAR4レセプター活性化ペプチド(1mM)とともに45分間にわたりフィブリノーゲン上に播いた。ついで、細胞を固定させ、透過させ、そしてFアクチン(赤)およびホスホチロシン(緑)について染色した。これを共焦点顕微鏡により分析した。矢頭は、糸状仮足を示す。バーは、10μMを示す。
【0178】
このように、Lnkのドミナントネガティブによって、血小板の生成が活性化するとともに、生成された血小板は、粘性が高い血液の補充のために適していると予期されることが明らかになった。
【0179】
(実施例3:ヒトでの実証)
臍帯血より調製したCD34+多能性幹細胞分画をStem cell factor (SCF) (50 ng/ml), FLT−3L (50 ng/ml), IL−6 (50 ng/ml)の存在下に1〜2日間培養する。この間に、LnkインヒビターとGFPを共発現するレトロウイルスベクター、GFPのみを発現するコントロールベクターより調製したウイルス粒子を加えて感染導入する。実験群及びコントロールのGFP+感染細胞をフローサイトメーターにてソーティング精製し、各種サイトカイン存在下で培養しコロニー形成能を検討する。巨核球系細胞コロニーについてはコロニー数とともに1コロニーあたりのサイズにも注目する。臍帯血幹細胞の生存あるいは増殖をサポートするストローマ細胞株と共培養を行い、遺伝子導入細胞にて生存あるいは増幅促進効果がみられるかどうかを検討する。これらの培養系において、Lnkインヒビターの発現により、巨核球系細胞および血小板、各種造血前駆細胞の増殖能が亢進することが予想される。
【0180】
同じ細胞数の実験群及びコントロールのGFP+感染臍帯血前駆細胞を一定量(感染細胞と同数または半数程度)の非感染細胞(または非処理臍帯血)と混じ、非致死量の放射線照射(3.5 Gy程度)したNOD/SCIDマウスへ移入する。2〜3ヶ月後にレシピエントマウスの抹消血を採取し、CD19+B細胞分画、CD3+T細胞分画、CD11b+骨髄球分画のGFP陽性率をフローサイトメトリーにより検討し、感染細胞と非感染細胞の競合条件下での造血能を比較する。Lnkインヒビターを発現させることにより、移植したドナー臍帯血前駆細胞の生着率、それより産生される巨核球系細胞および血小板、各種造血系細胞、リンパ球の産生量が高まることを確認することができる。
【0181】
(実施例4:インヒビタースクリーニング)
次に、Lnkインヒビタースクリーニングにより血小板生成促進因子のスクリーニングを行う。以下にそのプロトコールを示す。
【0182】
TPO依存性に増殖する細胞株に遺伝子導入によりLnkを過剰発現させる。このLnk過剰発現によりTPO依存性増殖ができなくなった遺伝子導入細胞株に発現あるいは作用させて、Lnkインヒビターとしての作用をTPO依存性増殖の回復を指標としてスクリーニングする。Lnkインヒビターとして作用する可能性が考えられる因子については、ES細胞株から巨核球及び血小板を分化誘導する分化系での効果を検討し、血小板生成促進因子としての効果を確認する。
【0183】
(実施例5:自動化)
実施例4などで実施するスクリーニングは、ロボットを用いて自動化することができる。この場合、例えば、ベックマンコールターのBiomekシリーズを用いて、マイクロプレートを用いたシステムを構築するか、またはZymarkのStaccato Mini−Systemシリーズを用いてシステムを構築することができる。
【0184】
このようにして得られたリード化合物は、動物実験に用いることができる。あるいは、このようなリード化合物をもとに、他の化合物を設計することができる。
【0185】
(実施例6:動物実験)
実施例4または5などで、Lnkインヒビターであることが判明した化合物について、マウス、ラットまたはサルなどの動物に投与して血小板生成を調節する化合物をスクリーニングする。
【0186】
このようなスクリーニングにより、血小板生成を実際に調節する物質をスクリーニングすることができる。
【0187】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、血小板の生成を調節する方法、組成物およびシステムを提供する。このような調節により、血小板の生成をコントロールすることが容易になり、その維持・増殖を容易にかつ計画的にすることができるようになった。これらの有用性は、バイオ関連の産業において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】図1は、Lnkの機能的ドメインは、細胞増殖調節のために重要であることを示す図である。 (A)Lnk変異体、および内部リポソーム侵入部位(IRES)を有する単一のmRNAからのeGFPを共発現するために使用されるpMYベクターの代表的な模式図である。そのプロリンリッチ部分(stretch;黒いバーを有する白いボックスで示す。)、SH2ドメイン(白いボックス)、およびC末端にチロシンリン酸化部位(Y)を有するN末端ドメインを示す。N末端ドメイン(DN)、PHドメイン(DPH)およびC末端テイル(DC)の欠失、ならびにY536のフェニルアラニン置換(Y546F)およびR364のグルタミン酸置換(R364E;SH2ドメイン中のXとして示す)を示す。 (B)コントロールベクターで形質導入したMC9細胞(左欄、ベクター)またはLnk発現ベクターで形質導入したMC9細胞(右欄、WT)をSCFの存在下で培養し、そして所定の時点で生きているeGFP+細胞の割合を、フローサイトメトリーにより決定した。 (C)SCFにより誘導される、指示されたLnk変異体を発現するMC9細胞の増殖速度を、各々の所定の時点におけるeGFP+細胞の割合を培養開始(0日目)で除することによって形質導入していない細胞と比較した。示されているのは、複数の独立実験の代表的結果である。
【図2】図2は、Lnk SH2変異体が、細胞増殖においてLnkの負の調節機能をドミナントネガティブ的に阻害することを示す図である。(A)Lnkは、SH2ドメインを介してc−Kitと会合する。示されたLnk変異体およびc−Kitを共発現するCOS7トランスフェクト体を、SCFで刺激し、そして溶解した。抗Lnk抗体で免疫沈降したタンパク質を分離し、そして抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットして、c−Kitを検出し(上パネル)、そして抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットしたLnkを検出した(下パネル)。c−KitとLnkとの会合は、R364E SH2変異によって消えていた。(B)N末端領域を介したLnkのマルチマー形成。指示されたLnk変異体を発現するCOS7形質転換細胞の細胞溶解物全体を、種々の濃度の化学架橋剤BS3で処理し、ついで抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットに供した。Lnkは、マルチマー複合体を形成した。これは、より遅い移動度を示した(矢頭)。マルチマー化した複合体は、dNLnk変異体では検出できなかった。(CおよびD)Lnk SH2変異体は、レトロウイルスで野性型Lnkを発現するMC9−Lnk細胞中に形質導入した。形質導入した細胞をSCFの存在下で培養し、そしてその増殖を、形質導入していないMC9−Lnk細胞のものと比較した。比較は、所定の時点でのeGFP+細胞を、培養時(0日目)のもので徐することによって求めた。示されるのは3つの独立した実験の代表的なデータである。最後に、R364E SH2変異に加えてDPHおよびDCの変異(ΔPH/R364E/ΔC)を、wt Lnkに対する阻害作用を有する最も強力なドミナントネガティブ変異体として決定した。
【図3】図3は、SH2 R364E単独ではなく、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体の異所性発現は、ES細胞由来の造巨核球能(megakaryocytepoiesis)の成熟を容易にすることを示す図である。 (A)Lnk wt、SH2 R364E単独と、cDNAのΔPH/R364E/ΔC変異体との間の相違。プロリンリッチ領域を伴うN末端ドメイン(黒バーを伴う白ボックス)、PHドメイン(斜線ボックス)、SH2ドメイン(白ボックス)およびC末端のチロシンリン酸化部位(Y)を示す。2つの変異遺伝子のこうかをES細胞に由来する巨核球において実験した。(B)分化プロトコールの5日目に、ES細胞由来の造血前駆細胞を18時間にわたって、GFP単独をコードするウイルス、R364E変異体およびGFP(R364E−GFP)またはΔPH/R364E/ΔC変異体をコードするウイルスおよびGFP (ΔPH/R364E/ΔC−GFP)をコードするウイルスに感染させた。さらなる分化を、20ng/ml TPOの存在下でOP9とともに共培養することによって維持した。7日目に、細胞を、形質導入した(GFP陽性)細胞および非形質導入細胞(GFP陰性)におけるCD41(インテグリンαIIb)の発現によって分析した。GFP陰性細胞におけるCD41陽性細胞の平均数を1.0と定義した。成熟を研究するために、GPIbα発現もまた試験した。示されているのは、3つの独立した実験の平均±SDである。(結果)GFP単独、SH2 R364EおよびΔPH/R364E/ΔC−GFPの間ではCD41発現細胞の数には変化はなかった。他方、造巨核球における成熟プロセスの特徴であるGPIbα発現は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC形質導入した巨核球において増加したが、SH2 R364E単独を形質導入した細胞では見られなかった。このことは、ΔPHおよびΔCが、SH2変異体に加えて、内因性Lnkに対して阻害し得、そしてこの培養系においての成熟を促すことを示す。
【図4】図4は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は成熟巨核球の数および前血小板の生成を増加させることを示す図である。 (A)ES細胞から誘導された巨核球においてレトロウイルスによって媒介されたGFP発現。5日目の造血前駆細胞に、GFP単独をコードするかまたはΔPH/R364E/ΔC−GFPをコードするレトロウイルスを感染させた。9日目および12日目において、多数の延長を示すGFP陽性細胞の蛍光画像を、倒立蛍光顕微鏡/コンピュータシステムを用いて所定の暴露時間で得た。そして、100細胞中の前血小板の数を算出した。(A)のバーの寸法は、100μmである。(B左)9日目のCD41+GFP+細胞数を、フローサイトメトリーで算出した。フローサイトメトリーにおけるドットプロットの側方散乱および前方散乱にしたがって、2つの任意の分析のゲートを以前に記載されるように適用した(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)。示されている結果は、3つの独立した実験の平均±SDである。(B)に示されるように、ΔPH/R364E/ΔC−GFP形質導入された細胞は、成熟した巨核球を示し、そしてレトロウイルス感染の3日後前血小板の数が増えていた。さらに3日後、OP9細胞との共培養によって、(B右)に示されるように、前血小板の生成の増強を維持した。
【図5】図5は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞に由来する巨核球からの血小板フラグメンテーションを増加させることを示す図である。 12日目から14日目の成熟した巨核球から誘導されるフラグメント化した粒子を、本明細書における方法の欄に記載されるようにフローサイトメトリーによって計数した。示されているのは、GPIbα+GFP+の粒子の3日間の合計である。グラフの挿入箇所は、ドットプロットの例を示す。(結果)Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞由来のGPIbα+血小板粒子の数を増加させたが、SH2変異体単独では増加させなかった。
【図6】図6は、マウス血小板におけるLnk発現およびLnk欠損マウスにおける尾部における出血時間の延長を示す図である。 (A)マウスlnkのcDNAをトランスフェクトしたCOS7細胞におけるタンパク質発現のウェスタンブロットおよび示された遺伝子型の血小板の分析。2%SDS含有RIPA緩衝液によって調製された25μgの各々の溶解物を、マウスLnkに対するポリクローナル抗体で評価した(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)。(B)出血時間を、本明細書において方法の欄に記載されているように決定した。プロットされたデータは、正常なマウス(n=5)およびLnk欠損マウス(n=7)であった。
【図7】図7は、トロンビンおよびコラーゲンによる血小板凝集を示す図である。 洗浄し、静止させた血小板を、血小板凝集計に適用し、そしてトロンビン(0.1U/ml)またはコラーゲンI(0.5μg/ml)で活性化した。矢印は、アゴニストの添加を示す。示されるのは、3つの独立の実験の代表的な結果である。
【図8】図8は、表面に結合したコラーゲンのエキソビボの血栓形成を示す図である。 血液を、抗凝固剤としてアルガトロバンを用いてコントロールマウスまたはLnkヌルマウスから収集した。硝子製カバースリップを、不溶性の繊維型I型コラーゲンでコーティングし、そして平行のプレートフローチャンバー中に配置した。(A)コントロール(10匹のマウス)またはLnk欠損マウス(10匹のマウス)からの血小板数を調整なしで全血を、比較的高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバー中に適用した。連続記録からのコントロール(Lnk+/+)またはLnk欠損(Lnk−/−)における左の3つのフレームは、血液灌流の2分後、4分後および7分後における、コラーゲンコーティングされた表面(2次元;XY軸)を示す。コントロールおよびLnkヌルから形成された血栓が示されている。他方、Lnk欠損血液の三次元の画像(右フレーム:Z軸)は、コントロールのものの高さよりも比較的低い血栓を示した。(B)コントロールの血液に由来する赤血球および血漿とともにコントロールPRPまたはLnkヌルPRPからなる再構成した血液を、高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバーに適用した。Lnk欠損血小板を含有するサンプルにおける三次元画像(Z軸)は、血小板数をコントロールに5×105/μlに調整した場合でも、コントロールのものよりも低い血栓高さを示した。
【図9】図9は、Lnk欠損血液における灌流後の血栓表面積率、血栓高さを示す図である。 (A)表面積を、連続的なz軸切片から決定した。データは、1−2μmの高さの血栓における3つの独立した実験の平均を示す。 (B)データは、最大高さ(μm)における3つの独立した実験の平均を示す。
【図10】図10は、Lnkヌル血小板における種々のアゴニストによるインテグリンαIIβb3の活性化を示す図である。種々のアゴニストの添加後に活性化されたαIIβb3を、フローサイトメトリーにおいて、インテグリンαIIβb3に結合したAlexa488結合体化フィブリノーゲン結合によって分析した。非特異的な結合を、10mM EDTAの存在下で決定した。データは、5〜8回の独立した実験からの平均蛍光強度(FL−1チャネル)を示す。
【図11】図11は葉状仮足形成の欠損が、Lnkヌル血小板においてフィブリノーゲンに対して見られたことを示す図である。 血小板をLnk−/−およびコントロールマウスから得、そしてアゴニストなし;ADP(50μM)あるいはPAR4レセプター活性化ペプチド(1mM)とともに45分間にわたりフィブリノーゲン上に播いた。ついで、細胞を固定させ、透過させ、そしてFアクチン(赤)およびホスホチロシン(チロシンリン酸化;緑)について染色した。これを共焦点顕微鏡により分析した。矢頭は、糸状仮足を示す。バーは、10μmを示す。
【図12】図12は、Lnk機能の遮断により可能な造血幹細胞の機能制御の説明図。
【配列表フリーテキスト】
【0190】
(配列表の説明)
配列番号1は、Lnkの核酸配列である。
配列番号2は、Lnkのアミノ酸配列である。
配列番号3は、Lnkのドミナントネガティブ変異体の核酸配列である。
配列番号4は、Lnkのドミナントネガティブ変異体のアミノ酸配列である。
配列番号5は、SCFの核酸配列である。
配列番号6は、SCFのアミノ酸配列である。
配列番号7は、Lnk変異体R364Eの核酸配列である。
配列番号8は、Lnk変異体R364Eのアミノ酸配列である。
配列番号9は、Lnk変異体ΔPHの核酸配列である。
配列番号10は、Lnk変異体ΔPHのアミノ酸配列である。
配列番号11は、Lnk変異体ΔNの核酸配列である。
配列番号12は、Lnk変異体ΔNのアミノ酸配列である。
配列番号13は、Lnk変異体Y536Fの核酸配列である。
配列番号14は、Lnk変異体Y536Fのアミノ酸配列である。
配列番号15は、R364Eの作製に用いたプライマーである。
配列番号16は、R364Eの作製に用いたプライマーである。
配列番号17は、ΔPHの作製に用いたプライマーである。
配列番号18は、ΔPHの作製に用いたプライマーである。
配列番号19は、ΔNの作製に用いたプライマーである。
配列番号20は、ΔNの作製に用いたプライマーである。
配列番号21は、Y536Fの作製に用いたプライマーである。
配列番号22は、Y536Fの作製に用いたプライマーである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板を効率よく生産する方法およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体を構成する体細胞に不可欠な血液中には、赤血球、リンパ球、血小板等の血液細胞が存在する。血液細胞は、それぞれ固有の機能を分担して、生体を恒常的に保つ役割を担っている。近年、各種の血液細胞は、骨髄中の造血未分化細胞より分化、成熟すること、および、その分化、成熟の過程において各種の生体内液性因子が関与していること等の事実が明らかとなってきている。
【0003】
血小板は、血液中に存在する直径2〜3μmの細胞であり、生体における止血や血栓の形成に重要な役割を有する血液中の有形成分の一種である。骨髄中の造血未分化細胞から巨核球系前駆細胞を経て巨核球となり、巨核球の細胞質が断片化して生成された当該血小板が、血液中に放出されることが明らかとなっている。
【0004】
最近になって、巨核球および血小板系についての研究成果も種々報告されており、例えば、巨核球増殖因子が、血小板を産生する巨核球の増幅を促進する作用を有することが報告されている(非特許文献1)。高投与量の化学療法や高線量の放射線照射の様な癌治療は、骨髄中の造血細胞を破壊し、該患者を血小板の激しく減少した状態に置く。このような治療の後は、血小板減少症を起こし血小板輸血を必要とする凝固作用の減少や出血性障害をもたらす。血小板の不足は、これらの癌治療の後の疾病と死亡の主な原因であり、癌治療のコストを上昇させる要因となっている。巨核球と血小板の回復には、一般的には15日よりも長い時間が要求され、該患者の血液凝固能力がその間不足する。
【0005】
近年、臍帯血バンクなどが設立され、採取された臍帯血が、採取された個人とは異なる患者に移植する同種造血幹細胞移植が普及し始めている。移植した患者の多くの場合において、血小板回復の遅れが問題となっている。
【0006】
従って、血小板を簡便に製造することができる技術についての需要が存在する。
【非特許文献1】加藤俊一「臍帯血幹細胞移植」日常診療と血液Vol.7,P.479特集別刷、医薬ジャーナル社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、造血未分化細胞を培養し、巨核球系細胞、特に血小板を効率よく生産させた細胞製剤を製造する方法の開発にある。こうした細胞処理には、国内外の企業により病院外で行われることが期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、造血未分化細胞に作用し、巨核球前駆細胞の分化を促進する培養方法の開発を目的として、鋭意研究を積み重ねた結果、その培養方法を明らかにすることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、Lnkの調節により、造血未分化細胞から巨核球前駆細胞、ひいては血小板への分化を促進させることにより、血小板への分化を促進する方法を提供する。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)血小板を生産する方法であって:上記方法は:
A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および
B)上記血小板前駆細胞を分化させる工程、
を包含する、方法。
(2)上記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む、項1に記載の方法。
(3)上記阻害は、上記Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を含む、項1に記載の方法。
(4)上記阻害は、レトロウイルスによって、Lnk活性を抑制することのできる変異型Lnkを導入することにより達成される、項3に記載の方法。
(5)上記Lnkは配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片である、項1に記載の方法。
(6)上記B工程において、幹細胞因子(SCF)に上記血小板前駆細胞を接触させる工程を包含する、項1に記載の方法。
(7)上記阻害は、Lnkの核酸レベルによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(8)上記阻害は、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(9)上記阻害は、Lnkの産物レベルによる阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(10)上記阻害は、Lnkの抗体による阻害によって達成される、項1に記載の方法。
(11)上記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含む、項1に記載の方法。
(12)上記誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成される、項11に記載の方法。
(13)上記巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択される、少なくとも1つの特徴を有する、項11に記載の方法。
(14)項1に記載の方法によって生産された、血小板。
(15)血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法であって、
A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;および
B)上記選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する上記物質を選択する工程
を包含する、方法。
(16)Lnkまたはその機能が損傷した血小板を含む組成物。
(17)上記組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用される、項16に記載の組成物。
(18)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子。
(19)上記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、項18に記載の因子。
(20)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物。
(21)上記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、項20に記載の組成物。
(22)上記因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である、項20に記載の組成物。
(23)上記因子は、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸である、項20に記載の組成物。
(24)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用。
(25)Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用。
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【0011】
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、必要に応じて添付の図面等を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、血小板を産業レベルの量で提供する技術を提供する。その他の効果として
造血幹細胞や前駆細胞の増殖能や造血能を亢進させ、移植ドナー細胞としての機能を高める技術を提供すること、各種の幹細胞や前駆細胞より成熟血液細胞や免疫担当細胞を産業レベルの量で提供する技術を提供すること、などがあげられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を記載する。
【0016】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。
【0017】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄球系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄球系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0018】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0019】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0020】
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的および/または機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別のタイプの細胞に分化することは例外的にしか起こらない。
【0021】
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に用いられ、細胞の性質をいい、1以上、好ましくは2以上の種々の組織または臓器に分化し得る能力をいう。従って、「多能性」および「多分化能」は、本明細書においては特に言及しない限り「未分化」と互換可能に用いられる。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官の構成細胞が別のものの細胞に変化することは少ない。従って多能性は通常失われている。とくに上皮性の細胞は他の上皮性細胞に変化しにくい。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。胚性幹細胞は、多能性を有する。組織幹細胞は、多能性を有する。本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は全能性といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ある細胞が多能性を有するかどうかは、たとえば、体外培養系における、胚様体(Embryoid Body)の形成、分化誘導条件下での培養等が挙げられるがそれらに限定されない。また、生体を用いた多能性の有無についてのアッセイ法としては、免疫不全マウスへの移植による奇形腫(テラトーマ)の形成、胚盤胞への注入によるキメラ胚の形成、生体組織への移植、腹水への注入による増殖等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0022】
従って、本明細書において「胚性幹細胞」または「ES細胞」とは、交換可能に用いられ、初期胚に由来する任意の多能性幹細胞をいう。通常胚性幹細胞は、全能性またはほぼ全能性を有するとされる。この胚性幹細胞を正常な宿主胚盤胞へ導入し仮親子宮へ戻すことによってキメラ作製を行ったところ、高いキメラ形成能を持つ、生殖系列キメラ(胚性幹細胞由来の機能的生殖細胞を持つキメラマウス)が得られた(A.Bradley et al.:Nature,309,255,1984)。胚性幹細胞株は、培養下で、種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、レトロウイルスベクター法、リポゾーム法、エレクトロポレーション法等)の適用が可能である。また、遺伝子が組込まれた細胞を選別する方法を工夫し、相同遺伝子組換え(homologous recombination)を利用し、特定の遺伝子を狙って改変(置換、欠失、挿入)させた細胞のクローンを得ることもできる。インビトロでこのような処理をした胚性幹細胞株は生殖系列への分化能を保持することから、ある特定の遺伝子の機能を個体レベルで調べる研究が現在盛んに行われている(M.R.Capecchi:Science,244,1288,1989)。胚性幹細胞を利用したトランスジェニックマウス作出法は、ある特定の遺伝子のみを任意に改変させた個体を得ることを可能にした点でマイクロインジェクション法によるトランスジェニック動物作出法にはない多くの利点が考えられる。特に、特定の遺伝子を不活化させたノックアウト動物を作出できるようになり、遺伝子の機能を解明したり、外来性の遺伝子のみを発現させることができる。従って、胚性幹細胞の樹立が容易になれば、その効果は図り知れない。このような胚性幹細胞は、受精3.5日目のマウス胚盤胞の内部細胞塊の細胞をインビトロ培養に移し,細胞塊の解離と継代を繰り返すことにより,多分化能を保持し,正常核型を維持したまま無制限に増殖しつづける幹細胞を樹立することに作製することができる。通常、胚性幹細胞の多分化能を維持するには、STO細胞株および/またはマウス胎仔から調製した初代培養繊維芽細胞などのフィーダー細胞層上で胚性幹細胞を培養することが好ましいとされる。
【0023】
本発明に用いられる「造血幹細胞」とは、造血組織および腸上皮組織などの細胞新生系において細胞生産のもとになる細胞をいう。この造血幹細胞は、自己を保存するとともに、すべての血液系細胞に分化することができる。そのような血液細胞としては、例えば、単球系幹細胞、Bリンパ球系幹細胞、Tリンパ球系幹細胞、骨髄球系幹細胞、Tリンパ系細胞、Bリンパ系細胞、血小板系細胞、赤血球系細胞、単球系細胞などを挙げることができる。造血幹細胞は、あらゆる種類の血球に分化する能力を有するとともに造血再構築能を有する細胞であり、主に骨髄、臍帯血、脾臓あるいは肝臓中に存在し、微量ながら末梢血にも存在する。これら造血幹細胞は、通常CD34強陽性細胞であり、本発明においては高増殖能コロニー形成細胞(High−Proliferative Potential Colony−Forming Cells(HPP−CFC))もこれに包含される。
【0024】
本明細書において「前駆細胞」とは、多能性造血幹細胞から各系統の血液細胞が分化形態学的には同定できないがすでに血小板系など一方向の血液細胞にしか分化し得ない細胞を意味する。具体的には血小板コロニー形成細胞(CFC−MEG)、好酸球コロニー形成細胞(EO−CFC)、顆粒球単球コロニー形成細胞(CFU−GM)、赤血球形成細胞(BFU−E、CFU−E)、T前駆細胞、B前駆細胞などである。これらはいずれもCD34陽性細胞である。
【0025】
本明細書において、「血小板前駆細胞」とは、血小板へと分化し得る任意の未分化細胞を総称する用語として使用される。血小板前駆細胞としては、例えば、巨核球およびその前駆細胞(造血幹細胞、胚性幹細胞を含む)、造血幹細胞、胚性幹細胞から誘導された巨核球(例えば、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得る)などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0026】
本明細書において胚性幹細胞から巨核球への誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得るが、ここでは、特に、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択されることが重要であり得る。
【0027】
本明細書において「巨核球」とは、「巨核細胞」とも呼ばれ、巨核芽球(megakaryoblast)から生じる際、核分裂はおこるが核は分離せずに巨大な分葉核を形成する。核は、高倍数性である。細胞質に形成された分画膜(demarcation membrane)により細胞質が崩壊して放出され、それらの多数の断片は血小板となる.骨髄のほか脾臓の赤髄や胚期の肝臓などにもある。
【0028】
巨核球の前駆細胞は、骨髄、臍帯血または末梢血のいずれからでも得ることができる。骨髄液および末梢血は正常な供与者から得ることができる。
【0029】
本明細書において、造血幹細胞は、骨髄液、臍帯血、末梢血などから得た多分化能を有する造血多能性幹細胞、造血コロニーを形成し得る未分化細胞を総称していることから、CD34陽性細胞表面抗原を有する造血細胞を含む。末梢血においては、CD34陽性細胞の数は全白血球の約0.1%しか構成しない。臍帯血においては、CD34陽性細胞は全白血球の約0.1〜1%を構成する。典型的には正常な骨髄は1〜2%のCD34陽性細胞を含むのみである。白血球は勾配による遠心分離のような標準的な方法によって骨髄または臍帯血または末梢血から分離される。〔Geigy Scientific Tables,Vol 3,C.Lentner,ed.Ciba−Geigy,Basel,Switzerland,(1984)〕。ライト−ギムザ染色法の解析では、骨髄内の 成熟した巨核球は該白血球集団の約0.05%しか構成していない一方、巨核球系細胞に特異的な免疫染色は、約0.2%まで標識した。健康な個体内では、巨 核球の前駆細胞は該骨髄内で完全に分化するので、前駆細胞は正常な血液中には極く稀にしか発見されない。分離後、白血球は無血清培地において直ちに培養してもよい。好ましくは、造血未分化細胞を、該白血球集団から単離する。造血未分化細胞の単離は、CD34陽性に特異的な抗体へのそれらの結合、それに続く磁気ビーズを用いた抗体結合幹細胞の分離に基づくものであってもよい〔Hardwick,R.A.,et al.,J.Hematother.1,379−386(1992)〕。単離された造血未分化細胞は、5,000〜500,000細胞/mlの密度範囲、好ましくは10,000細胞/mlで培養中におかれる。いかなる組織培養フラスコまたはバッグまたは中空糸モジュールまたはフィルターモジュールが、静的または灌流培養システムのいずれにおいても使用し得る〔Koller,M.R.,et al.,BIO/TECHNOLOGY,11,358−363,Emerson,S.G,et al.,PCT WO92/11355〕。静的な培養システムが使用された場合、該細胞は栄養物を補給し、老廃物を除去するために5日〜7日の間隔で培地を供給される。細胞は7〜14日、より好ましくは9〜12日間培養される。この時間において、該細胞懸濁液は血小板減少症の治療において使用されるに適した巨核球前駆細胞の集団を含む。
【0030】
フローサイトメーター分析が細胞表面抗原による標識に基づいて細胞表現型を決定するために行われた。CD34陽性細胞は、造血未分化細胞を示し、CD61(インテグリンβ3)陽性細胞は、巨核球系細胞を示す〔CD分類ハンドブック、癌と化学療法社〕。フローサイトメーターによる分析によれば、成熟した巨核球は、細胞質の増大、多核化を呈することから容易に成熟度を解析することが可能である。造血未分化細胞の主たる形質は、CD34陽性CD61陰性である。造血未分化細胞は、本発明により処理することにより効率的にCD34陽性CD61陽性の巨核球前駆細胞への分化を促進し、さらにCD34陰性CD61陽性の未成熟巨核球系細胞が増幅し得る。FLT3リガンドおよび巨核球増殖因子により巨核球前駆細胞への分化を促進し、幹細胞因子と巨核球増殖因子により該巨核球前駆細胞の増殖を促進して、未成熟な巨核球が増幅される。
【0031】
本発明により生産される細胞懸濁液は、多種の血液細胞の前駆細胞を含むと共に、巨核球前駆細胞、未熟な巨核球を含むが、さらに多種の造血因子を含めて培養することで、必要とされる巨核球系の細胞への分化が促進される。
【0032】
本発明の巨核球前駆細胞の濃縮された細胞懸濁液は、癌治療によって生じたものに加え、さまざまなタイプの血小板減少症に効果的な治療を可能にする。このた め、ここに与えられる細胞懸濁液は、血小板減少症の治療において血小板注入に置き換わる可能性も示唆するものである。該上記の細胞集団は、化学療法等の後 の患者に投与された場合、該投与された細胞は、最終的に血小板を生成する巨核球を生成するためにin vivoでさらに分化することが期待される。さらにフィブリン凝塊アッセイの中においた時、該巨核球前駆細胞は成熟した巨核球を形成しそして血小板を放出 することが観察される。これらのアッセイからの結果は、該無血清培養からの細胞はそれらがin vivoの条件に帰された後でもさらなる成熟をすることができることを示唆する。
【0033】
本明細書において、「CD抗原」とは、哺乳動物の細胞表面上、好ましくはヒト血球細胞上に存在する分化抗原の表現型を意味する。通常、この種の抗原はCDの番号をもっ て分類される。CDはcluster of differentiationの略で、モノクローナル抗体によって認識される抗原の一かたまり(cluster)を意味する。具体的にはCD34、CD4、CD8、CD10、CD13、CD19、CD33、CD38などを挙げることができる。他にもThy−1、HLA−DRなどを挙げることができる。
【0034】
本明細書において「サイトカイン」とは、細胞から放出され、細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子で、免疫応答の制御作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖・分化の調節作用などを示す物質であって、具体的にはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−16(IL−16)、インターフェロンα(IFN−α)、インターフェロンβ(IFN−β)、インターフェロンγ(IFN−γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、単球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、好酸球コロニー刺激因子、血小板コロニー刺激因子、幹細胞因子(SCF)、幹細胞増殖因子、flk2/flt3−リガンド、白血病阻害(阻止)因子、エリスロポエチン(EPO)、マクロファージ由来炎症性タンパク1α(MIP−1α)などが挙げられ、好ましくはインターロイキン−3、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、flk2/flt3−リガンド、MIP−1αまたはエリスロポエチンなどが挙げられる。
【0035】
本明細書において使用される造血因子として使用され得るサイトカインとしては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF),インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、巨核球増殖因子、エリスロポエチン(EPO)、FLT3リガンド、幹細胞因子(SCF)、GM−CSF/IL−3結合タンパク質などが示される。巨核球増殖因子は、トロンボポエチン(TPO)として知られ、生体内において巨核球を増殖する因子として報告されている〔Wendling,F.,et.al.,Nature,369、571(1994)、寺村正尚,Annual Review 血液,(1996)〕。また、該巨核球増殖因子は、Pepro Tech社(USA)などから市販されている。FLT3リガンドは、FLK2リガンドと同一分子であり、遺伝子がクローニングされ、造血未分化細胞への作 用が報告される〔Lyman,S.D.,Blood,83,2795(1994)、岩間厚志,Annual Review 血液,12−32(1995))。幹細胞因子は、Stem Cell Factor(SCF)としてZseboらにより報告(Cell,63,195−201(1990))された。この分子は、チロシンキナーゼc−kitのリガンドであるKL(Huan,E.、Cell63、225−233)、肥満細胞増殖因子MGF(Mast cell Growth Factor)(Williams,D.E.、Cell、63、167−174(1990)〕と同一の分子であり、造血未分化細胞への作用が報告される〔下坂、実験医学増刊「サイトカインと情報伝達」,185,(1992)〕。またこれらの因子は、通常1ng/ml〜1μg/mlで使用し得るが、好ましくは、10から100ng/mlで使用し得る。
特に、造血幹細胞の培養において、分化を最大限に抑制して、自己増殖を促進するためには、SCF、FL、TPO、IL−6を添加して用いることが好ましい。そのときの添加量は、SCF、FL、TPOについては、1〜20 ng/mlであることが好ましく、IL−6については、50〜200 ng/mlであることが好ましい。
【0036】
本発明においては、その他の成分をさらに含むことができる。このような成分としては、特に制限は無いが、例えば、可溶性サイトカイン受容体タンパク質が挙げられる。可溶性サイトカイン受容体タンパク質は、培養する造血幹細胞に対し、未分化維持を増強するといった作用をする。
【0037】
このような可溶性サイトカイン受容体タンパク質としては、具体的には、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)を用いることが好ましい。そのとき、培地への添加量が、100〜1000ng/mlであることが好ましい。このような可溶性IL−6受容体(sIL−6R)は、前述のサイトカインであるSCF、FL、TPO、IL−6とともに用いることが好ましい。IL−6とsIL−6Rが複合体を形成し、これらがSCF、FL、TPOによる造血幹細胞の未分化維持作用を増強するからである。
【0038】
本明細書において「細胞株」とは、初代培養以後の培養細胞をすべて指し、初代培養に存在した細胞または細胞群からの一連の系統を意味する。この培養細胞は初代細胞と共存していてもよいし、互いに触れ合っている状態で存在してもよいし、あるいは水、電解質などの液体、培地、培養液等の媒介物を介した状態で存在してもよい。
【0039】
造血幹細胞は、分化して造血前駆細胞となり、さらに分化して前述の分化細胞となる。造血幹細胞も造血前駆細胞もいずれも多能性を有するものであるが、分化細胞は多能性を有しない。本来、造血幹細胞と造血前駆細胞は区別されるべきものであるが、概念上の定義であることもあり、しばしば区別せずに用いられる。本発明においても、造血幹細胞と造血前駆細胞の両方を併せて「造血幹細胞」という用語で標記している。用語の定義については、例えば「血液幹細胞の運命(羊土社)須田年生著」に詳しい記載がある。
【0040】
本明細書において「CD34陽性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を発現している細胞を意味し、具体的には多能性造血幹細胞、HPP−CFC等の造血幹細胞、リンパ球系幹細胞、骨髄系幹細胞等の幹細胞、T前駆細胞、B前駆細胞、BFU−E、CFU−E、CFU−MEG、EO−CFC、CFU−GM等の前駆細胞が これに該当する。
【0041】
本明細書において「CD34強陽性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を特に強く発現している細胞を意味し、具体的には高増 殖能コロニー形成細胞(High−Proliferative Potential Colony−Forming Cells (HPP−CFC))または多能性造血幹細胞それ自体、またはこれら細胞をより多く含んでいるCD34陽性細胞群を意味する。
【0042】
本明細書において「CD34陰性細胞」とは、抗原表現型の一つであるCD34を発現していない機能細胞を意味し、具体的にはT細胞を含むT前駆細胞以後のT細胞系列の細胞、B細胞を含むB前駆細胞以後のB細胞系列の細胞、赤血球を含むCFU−E以後の赤血球系列の細胞、血小板を含むCFC−MEG以後の血小板系列の細胞、好酸球を含むEO−CFC以後の好酸球系列の細胞または単球、好中球もしくは好塩基球を含むCFU−GM以後の単球、好中球もしくは好塩基球系列の細胞である。本願において使用される、上述のような「陽性」、「強陽性」、「弱陽性」、および「陰性」なる用語は、場合によっては、各々単に「+」(プラス)、「high+」、「low」および「−」(マイナス)と表記される。例えば、「CD34high+CD38low/−」とは、CD34を強く発現しており(強陽性)、かつCD38を弱く発現しているか若しくは発現していない(弱陽性または陰性)ことを意味する。
【0043】
本明細書において「ストローマ細胞」とは、骨髄、脾臓などに由来する基質細胞または間質細胞を指し、本願発明においては、ヒトのCD34陽性細胞を増殖する能力を有するストローマ細胞であれば、どのようなストローマ細胞も用いることができる。例えば、HESS−1、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)、SSXL CL.1、SSXL CL3、SSXL CL.7、SSXL CL.9およびSSXL CL.17と各々命名されたマウス由来のストローマ細胞が例示される。好ましくは、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)、またはSSXL CL3であり、特に好ましくは、HESS−5(国際寄託番号:FERM BP−5768)、HESS−18(国際寄託番号:FERM BP−6187)、HESS−M28(国際寄託番号:FERM BP−6186)である。
【0044】
造血幹細胞は、主として骨髄中に多く存在することが知られており、骨髄移植は、急性白血病をはじめとする腫瘍性血液疾患や、重症免疫不全、アデノシンデアミナーゼ欠損症、再生不良性貧血等の疾患に対する治療法として、中心的位置を占めている。近年、造血幹細胞が少量ながら末梢血にも存在することが明らかになった。そのため、造血幹細胞を含む末梢血に顆粒球コロニー刺激因子製剤(G−CSF)を投与したものを用いた移植も普及しつつある(新しい造血幹細胞移植、南江堂、1998)。この方法は、骨髄移植が大量の骨髄細胞を必要とするためドナーの心身への負担が大きいのに対して、ドナーに対して心身への負担が軽減され、また白血球や血小板の回復が早いという利点がある。しかし、比較的高用量のG−CSFによる副作用もしばしば見られるため、骨髄採取よりは簡便であるが、決してドナーの安全性が高いとは言い切れない(Cytokines Cell.Mol.Ther.,3,101−104,1997)。
【0045】
また近年、臍帯血が骨髄と同程度の造血幹細胞を含むことが明らかにされ、移植治療に有用であることが明らかにされた(N.Engl.J.Med.,321,1174−1178,1989)。臍帯血は、骨髄や末梢血と比べて重症の急性移植片対宿主病(GVHD)の発生率が低く、その有用性が期待されている。しかしながら臍帯血の場合、採取量の少なさが問題とされ、1個体に由来する臍帯血の量では、体重40kg程度までのレシピエントにのみ移植可能であることが問題である。(Blood,87,3082,1996)。
【0046】
本明細書において造血幹細胞は、CD34陽性の細胞集団として濃縮することができる。しかも不要な細胞、具体的には、骨髄球系細胞には分化しないリンパ球系細胞等を除去できる可能性があることから(Hematol.Oncol.Ann.,2,78,1994)、今日では、CD34陽性細胞移植が行われるようになった(Blood,77,1717,1991;J.Clin.Oncol.,12,28,1994)。このため、前記のとおり造血幹細胞を多く含む臍帯血の採取量が少ないという問題を解決すべく、造血幹細胞を生体外で効率的に増幅する試みは近年盛んに行われている(Blood,87,3082−3088,1996)。ここで、造血幹細胞の増幅とは、造血幹細胞が分化により、多能性を有しない分化細胞に分化し、増殖していくことと、造血幹細胞の自己増殖との両方を含む意味で用いられる。
【0047】
本明細書において、これまでに報告されたCD34陽性細胞の増幅においては、増殖を促進する物質として、サイトカインが用いられてきた。サイトカインの候補としては幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン(EPO)、flk2/flt3リガンド(FL)、インターロイキン1(IL−1β)、IL−3、IL−6、IL−11、顆粒球・マクロファージコロニー形成因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー形成因子(G−CSF)、マクロファージコロニー形成因子(M−CSF)、IL−3/GM−CSF融合タンパク質(PIXY321)などの種々のサイトカインを組み合わせた増幅法が研究されている。しかし、サイトカインの組み合わせによるCD34陽性細胞の増幅では、培養後の全血球細胞数は増加するものの、培養中に造血幹細胞の分化が誘導され、結果的には最終分化したCD34陰性の血球細胞が増加する一方で、CD34陽性細胞自体はほとんど枯渇されてしまうと考えられている(Blood,87,3082−3088,1996)。現時点では造血幹細胞を未分化の状態に維持したまま自己増殖を促進することが可能なサイトカインは単離されていない。
【0048】
本発明において使用され得る、CD34陽性細胞の他の増幅方法として、ヒト骨髄由来のストローマ細胞を株化し、この上で造血幹細胞・前駆細胞を維持・増殖させる方法が試みられている(Exp.Hematol.,22,482−487(1994))。また、特開平10−295369号公報には、哺乳動物由来のストローマ細胞とCD34陽性細胞を、共培養することによりCD34陽性造血幹細胞を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、CD34陽性細胞が分化していくために造血幹細胞自体はほとんど増幅しないか、むしろ最初の時点より減少してしまう。そのため、移植してもやがては血球細胞が枯渇するおそれがあり、移植のための技術としては不適当である。
【0049】
本発明において使用され得る、さらに別の方法として、培養するCD34陽性細胞とストローマ細胞との接触がなくても、ストローマ細胞から産生される液性因子のみでCD34陽性細胞を培養することにより、CD34陽性細胞を増幅することができるとの報告もある(国際特許出願公開第93/20184号公報)。しかし、この方法においても造血幹細胞は分化するのみで自己増殖しないために、上記方法と同様の理由で移植のための技術としては不適合である。
【0050】
さらに別の局面においては、本発明は、細胞培養キットであって、前述の細胞培養器材のいずれかと、栄養培地と、サイトカインとを含み、ヒト由来のCD34陽性細胞を哺乳動物由来の死滅したストローマ細胞と共に培養するために使用されるものである。
サイトカインとしては、SCF、FL、TPO、IL−6を用いることが好ましく、これに加え、可溶性サイトカイン受容体タンパク質である可溶性IL−6受容体(sIL−6R)を加えることがさらに好ましい。栄養培地は、通常、細胞を培養するのに必要な栄養培地を用いることができる。
【0051】
本明細書において使用され得る「培地」または「栄養培地」とは、天然培地、半合成培地、合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられるが、前述に定義されるCD34陽性細胞を、自己を 含めた増殖、分化、成熟または保存させるために用いられるものであり、通常、細胞培養に用いられるようなものであれば如何なる培地であってもよい。例を挙げると、たとえばα−MEM培地、RPMI−1640培地またはMEM基本培地などが挙げることができる。基本成分としてナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、抗生物質、脂肪酸、糖または目的に応じてその他の化学成分もしくは血清のような生体成分を含有することもできる。
【0052】
本発明において使用され得る培養容器は、所望の細胞が維持・生存でき、刺激に応じて分化・成熟・自己複製するのに何ら阻害するものでなければ如何なる素材、形状のものを用いてもよい。具体的には培養容器の素材としてはガラス、合成樹脂、天然樹脂、金属、プラスチックなどが挙げられ、形状としては具体的には三角柱、立方体、直方体などの多角柱、三角錐、四角錐などの多角錘、ひょうたんのような任意の形状、球形、半球形、円柱(底面が円形、楕円形または半円形等を含む)などを挙げることができ、また例えば半球形から球形のように培養中に必要に応じて形状を変化させてもよい。培養は開放条件下であってもよいし、閉鎖(密閉)条件下であってもよい。
【0053】
このような栄養培地としては、細胞培養に用いられるようなものであれば如何なる栄養培地を用いてもよく、栄養培地の種類としては、天然培地、半合成培地、合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられる。具体的には、α−MEM培地、RPMI−1640培地またはMEM基本培地などを挙げることができる。
【0054】
培養するにあたり、温度、浸透圧、光などの物理的環境条件、酸素、炭酸ガス、pH、酸化還元電位などの化学的環境条件としては死滅処理前のストローマ細胞が維持・生存でき、CD34陽性細胞が維持・生存・分化・成熟・自己複製するのに何ら阻害するものでなければ如何なる環境条件であってもよい。好ましい条件を以下に示す。
【0055】
温度については具体的には、30℃〜40℃であり、好ましくは37℃である。浸透圧については具体的には生理条件における浸透圧であり、好ましくは生理食塩水と等しい浸透圧である。
【0056】
光は暗室ほどの暗い条件であってもよいし、晴天時の外の明るさほどに明るくてもよい。
【0057】
酸素濃度としては具体的には培養系が気相中の酸素濃度が10%の気相と接触している状態での溶存酸素濃度〜気相中の酸素濃度が30%の気相と接触している状態での酸素濃度であってもよく、好ましくは気相中の酸素濃度が20%の気相と接触している状態での溶存酸素濃度の気相と接触している状態での酸素濃度である。
【0058】
培養系において一般的にpHをコントロールするためのpHとして具体的にはpH6.0〜pH8.0であり、好ましくは生理条件と同等のpHである。pHをコントロールする為には二酸化炭素を用いてもよいし、他のいかなる緩衝液を用いてもよい。炭酸ガスの濃度としては具体的には培養系が5%の気相と接触している状態での溶存炭酸ガス濃度である。
【0059】
(Lnk)
本明細書において、Lnkとは、SCFの受容体c−Kitのキナーゼドメインに結合するタンパク質をいう。Lnk 欠損により生じるB細胞過剰産生の分子機構を明らかにし,さらに Lnk が造血幹細胞の増殖およびその機能制御に深く関与していることは明らかになっているが、血小板産生に関わるかどうかは明らかではなかった。
【0060】
そのようなLnk遺伝子としては、例えば、
(A)(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、
核酸分子;あるいは
(B)(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、
ポリペプチドをコードする核酸分子、あるいはそれがコードするポリペプチドが挙げられるがそれらに限定されない。
【0061】
マウスLnk
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号1)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号2)。
【0062】
リンパ系組織に発現するアダプター蛋白質でもある Lnk およびそのファミリー蛋白質群に着目して解析している(医科研Now,vol.17,P4−5,1991)。Lnkは主にリンパ組織で発現されるSH2ドメインを持つアダプター蛋白質である。Lnk欠損マウスではT細胞分化に異常はないものの、脾臓での幼若B細胞の蓄積、SCF反応性亢進による骨髄B前駆細胞の過剰産生が観察され、Lnk がB 細胞の産生を制御していることがわかった。またLnk はPH ドメインも持つ68 kDa の蛋白質であることを明らかにしている(Immunity 13:599,2000)。Lnkはシグナル伝達の抑制分子として働くアダプター蛋白質ファミリーの一員と考えられる。
【0063】
Lnkはc−Kitシグナル伝達系を制御しB細胞産生の恒常性維持に重要な働きを持つこと、Lnk 欠損マウスではc−kit を介する増殖シグナルが増強されていることが示された。Lnk 遺伝子の過剰発現は前駆B細胞のみならずB細胞系列の増殖や分化の抑制、T細胞の分化の抑制も惹起する(J.Immunol.162:2850,2003)。Lnk は造血前駆細胞にも発現しており、その欠損により造血前駆細胞の増殖および造血能が著しく亢進する(J Exp Med.195:151,2002)。Lnkはc−Kit活性化によるGab2 のリン酸化、MAPKの活性化を抑制する。これらの知見は造血前駆細胞の増殖・分化機構の理解および制御法開発に大きく貢献すると期待している。最近、Lnk欠損マウスで造血幹細胞の比率が著明に増加していることが分かったので、造血幹細胞の増殖を負に調節するLnkの研究インパクトは大きく拡がると考えている。Lnkの作用を阻害する変異体の作製にも成功しており、Lnk機能の遮断により造血幹細胞の機能制御に応用できる可能性が示されている(図12)。
【0064】
Lnkファミリーアダプター蛋白質に属するAPSの遺伝子欠損マウスはリンパ球や顆粒球にLnkとは異なる異常が観察されている(未発表)。SH2−B欠損マウスはリンパ球の分化には異常が認められないものの、生殖細胞の分化に異常が観察されている(Mol Cell Biol.22:3066,2002)。このように、Lnkファミリーアダプター蛋白質の研究は幹細胞や前駆B細胞の発生・増殖制御の研究に新しい機構解明に役立つ。
【0065】
本明細書において「Lnkの産物レベルによる阻害」とは、Lnkの遺伝子産物であるタンパク質またはその翻訳後修飾物(例えば、糖タンパク質)の活性または量が減少することによってその発揮される機能が減少または無くなることをいう。そのような阻害には、機能しない改変体が天然物に置き換わって発現することも包含される。あるいは、Lnkの抗体による阻害により、そのような阻害が実現され得る。
【0066】
本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)であってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0067】
本明細書において「Lnkファミリーメンバーの阻害因子(インヒビター)」とは、Lnkファミリーの任意のメンバーを阻害することができる任意の因子をいう。そのような因子としては、例えば、Lnkファミリーの任意のメンバーの本来の機能を失った改変体のうち天然物と複合体を形成し天然物の働きを阻害する改変体、Lnkに対する抗体、Lnkに結合するタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子、これらの複合分子が挙げられる。また、Lnkファミリーの任意のメンバーの遺伝子発現を阻害するタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子、これらの複合分子を挙げることができる。
【0068】
Lnkインヒビターであるかどうかは、以下の試験手法により確認することができる。SCF依存性に増殖する細胞株に遺伝子導入によりLnkを過剰発現させる。このLnk過剰発現によりSCF依存性増殖ができなくなった遺伝子導入細胞株に発現あるいは作用させて、SCF依存性増殖の回復を指標としてLnkインヒビターとしての作用を確認する。SCF依存性に増殖する細胞株の代わりにTPO依存性に増殖する細胞株およびEPO依存性に増殖する細胞株を用いることもできる。
【0069】
また、Lnkの発現を低下させるものかどうかについては、内因性にLnkを発現しているES細胞に作用させ、Lnkの発現低下が生じるかどうかをウェスタンブロット法により検討する。
【0070】
細胞内局在に影響を与えるかどうかについては、蛍光蛋白質とLnkのキメラ蛋白質を遺伝子導入により発現させた線維芽細胞株に作用させ、Lnkの細胞内局在を蛍光顕微鏡により観察して検討する。
【0071】
本明細書において「幹細胞因子(SCF)」(stem cell factorまたはsteel factor;SCFともいう)は、造血幹細胞では注目されている因子である。SCFの代表例は、配列番号5(核酸配列)および配列番号6(アミノ酸配列)によって示される配列を有する。
【0072】
SCFは、骨髄ストローマ細胞により生成され、多能性幹細胞、CFU−GMのCFU−M、CFU−Megなどの骨髄系細胞、リンパ系幹細胞に作用し、これらの分化を支持する。すなわち造血幹細胞から分化細胞へのほぼすべての系統の分化段階の細胞に作用して、他のサイトカインによる最終分化段階への分化誘導する作用を助けるとされる(北村聖(S.Kitamura)、サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174頁〜187頁、2000)。しかし、SCF単独の作用は弱く、他の因子と協働でなければ充分に機能しないようである。例えば、SCFは、インターロイキン(IL)−3、IL−6、IL−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などの他のサイトカインの存在下で、造血幹細胞の分化・増殖を強く誘導する。また、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球マクロファージ系前駆細胞、巨核球系前駆細胞などの分化・増殖も誘導する。
【0073】
従って、SCFは分化そのものを制御するというよりは、多くの種類の造血系細胞の生存を支持しながら、種々のサイトカインに対する反応性を高めると位置づけることができる。
【0074】
(遺伝子工学)
本発明において用いられるLnkなどならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産および導入することができる。
【0075】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0076】
本明細書において「ウイルスベクター」とは、ベクターのうち、ウイルス由来のものをいう。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において「レトロウイルス」とは、RNAの形で遺伝情報を有し、逆転写酵素によってRNAの情報からDNAを合成するウイルスをいう。
【0077】
本明細書において「レトロウイルスベクター」とは、レトロウイルスを遺伝子の担い手(ベクター)として使用した形態をいう。本発明において使用される「レトロウイルスベクター」としては、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus(MMLV)、Murine Stem Cell Virus(MSCV)にもとづいたレトロウイルス型発現ベクターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、レトロウイルスベクターとしては、pGen−、pMSCVなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0078】
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
【0079】
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0080】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0081】
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0082】
このようなスクリーニングまたは同定の方法は、当該分野において周知であり、例えば、そのようなスクリーニングまたは同定は、マイクロタイタープレート、DNAまたはプロテインなどの生体分子アレイまたはチップを用いて行うことができる。スクリーニングの試験因子を含む対象としては、例えば、遺伝子のライブラリー、コンビナトリアルライブラリーで合成した化合物ライブラリーなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0083】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、疾患または障害の調節因子を同定する方法を提供する。このような調節因子は、それぞれの疾患の医薬またはそのリード化合物として用いることができる。そのような調節因子ならびにその調節因子を含む医薬およびそれを利用する治療法もまた、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0084】
したがって、本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0085】
本発明は、他の実施形態において、本発明の化合物に対する調節活性についての有効性のスクリーニングの道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物を包含する。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0086】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物(例えば、所望の校正機能を付与する化合物など)を設計することができる。
【0087】
本発明のスクリーニング方法によって使用される因子は、血小板分化の調節、同定、濃縮または増殖に使用され得る。
【0088】
(遺伝子発現抑制)
本明細書においてドミナントネガティブ法とは、発現すると変異型の表現型(特に、もとの遺伝子の抑制型)になることになることをいう。例えば、転写因子の代わりに、抑制因子に機能変換した転写因子を用いると、機能重複する転写因子に優先して標的遺伝子の発現を抑制し、ドミナントネガティブ型の表現型をもたらす。ドミナントネガティブ技術においてリプレッションドメイン(例えば、アミノ酸配列LDLELRLGFA)を用いることによって、目的とする核酸分子の転写を抑制することができる。ドミナントネガティブ法は、実施例に記載されているような手法を用いることができる。
【0089】
本明細書において「RNAi(RNA interference)」とは、二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)によって配列特異的にmRNAが分解されることによって、タンパク質への翻訳が阻害され、遺伝子発現が抑制される現象をいう。RNAiの利点の一つとして、弱いものから強いものまで様々なレベルの発現抑制が個々の遺伝子によって取得され得ること挙げられる。現在、RNAiは、簡便かつ有効な遺伝子発現抑制法として利用されている。好ましい実施形態において、「RNAi」は、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
【0090】
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0091】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0092】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0093】
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患(例えば、血小板減少に伴う出血性疾患全般(例;抗ガン剤治療時の血小板減少症、本態性血小板減少症、など))の治療、予防、予後などに使用することができる。
【0094】
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0095】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0096】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0097】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0098】
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
【0099】
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列を有する分子を本明細書において「アンチセンス分子」、「アンチセンス核酸分子」または「アンチセンス核酸」と称し、これらは互換的に使用される。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。本明細書中で開示される核酸配列(例えば、配列番号1または3)が与えられれば、本発明のアンチセンス核酸は、WatsonおよびCrick塩基対形成の法則またはHoogsteen塩基対形成の法則に従い設計され得る。アンチセンス核酸分子は、シグナル伝達因子のmRNAの全コード領域に相補的であり得るが、より好ましくは、mRNAのコード領域または非コード領域の一部のみに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳開始部位の周辺の領域に相補的であり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50ヌクレオチド長であり得る。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順を用いて、化学合成または酵素的連結反応を用いて構築され得る。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド、またはその分子の生物学的安定性を増加させるかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成された二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された種々の改変ヌクレオチドを用いて(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用され得る)化学合成され得る。アンチセンス核酸を生成するために使用され得る改変ヌクレオチドの例として、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン(queosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0100】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0101】
プロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよい。プロモーターとしては、例えば、哺乳動物細胞、大腸菌、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。
【0102】
(投与・注入・医薬)
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、幹細胞、それから分化した細胞(例えば、血小板))または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
【0103】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
【0104】
1つの実施形態において、本発明の因子(例えば、Lnkインヒビターなど)は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0105】
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0106】
核酸分子を含む本発明の組成物を投与する場合、核酸分子は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
【0107】
特定の実施形態において、本発明の正常な遺伝子の核酸配列、抗体またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
【0108】
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
【0109】
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
【0110】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene 108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
【0111】
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
【0112】
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、Lnk改変体をコードする核酸またはLnk改変体をコードする核酸を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0113】
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,Takeshita S,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
【0114】
本発明において調製された細胞を含む組成物において含まれる細胞の量は、例えば、約1×103細胞〜約1×1011細胞、好ましくは約1×104細胞〜約1×1010細胞、より好ましくは約1×105細胞〜約1×109細胞などであり得る。これらの細胞は、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.5ml、1mlの生理食塩水のような溶液として存在し得る。細胞の量の範囲の上限としては、例えば、約1×1011細胞、約5×1010細胞、約2×1010細胞、約1×1010細胞、約5×109細胞、約2×109細胞、約1×109細胞、約5×108細胞、約2×108細胞、約1×108細胞、約5×107細胞、約2×107細胞、約1×107細胞などが挙げられる。細胞の量の下限としては、例えば、約1×103細胞、約2×103細胞、約5×103細胞、約1×104細胞、約2×104細胞、約5×104細胞、約1×105細胞、約2×105細胞、約5×105細胞、約1×106細胞などが挙げられる。
【0115】
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の血小板などの医薬を投与する方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0116】
(疾患)
本発明が対象とする「疾患」は、一定量の血小板を必要とするものであれば、どのようなものでもよい。本発明により処置され得る疾患または障害は、本発明の血小板の障害に関連する疾患または障害であり得る。 本明細書において、「粘性の高い血液」とは、粘性が高い血液一般をいい、このような血液は、通常、血栓を起こしやすい。例えば、動脈硬化などの原因になりやすいといわれる。そのような粘性の測定方法としては、例えば、血液流動性測定装置(たとえば、千代田パラメディカルケアーセンター株式会社;Microchannel Flow Analyzer (MC−FAN))を用いることによって、チップ内の流路(幅7μm)を通過する全血の速度を測定し、血液の流動性(粘性)を測定することができる。
【0117】
本明細書において「粘性の高い血液に由来する疾患」には、例えば、高脂(質)血症、全身の動脈硬化、閉塞性動脈硬化症、糖尿病、脳梗塞、急性冠症候群(心筋梗塞、狭心症)などを挙げることができる。
【0118】
本発明はまた、血小板の異常に関連する任意の疾患を処置することができ、例えば血小板減少に伴う出血性疾患全般(例;抗ガン剤治療時の血小板減少症、本態性血小板減少症、など)などを挙げることができる。
【0119】
1つの実施形態において、上記疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血、外傷後出血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など。
【0120】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0121】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0122】
(発明を実施するための好ましい形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0123】
1つの局面において、本発明は、血小板を生産する方法を提供する。この方法は:A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物(例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片)の機能を阻害する工程;およびB)該血小板前駆細胞を分化させる工程、を包含する。Lnkまたはその等価物の機能阻害は、例えば、核酸レベル(複製または転写レベル;これは、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成され得る)、タンパク質レベル(翻訳レベル、翻訳後修飾レベル;これは、糖鎖切断、抗体などによる阻害)でおこなうことができ、直接または間接的に行うことが可能である。代表的には、好ましくは、Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を用いること、レトロウイルスによって、Lnk活性を失った変異型Lnkを導入すること、などにより達成され得ることが理解される。血小板前駆細胞は、生体からとったものを直接使用(初代培養)してもよく、あるいは、幹細胞をある程度分化させたり、増幅したりした細胞を使用できることができることが理解される。
【0124】
1つの実施形態では、本発明において使用される血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む。このような胚性幹細胞は、当該分野において公知の任意の技術を用いて調製することができることが理解され得る。
【0125】
1つの実施形態において、血小板前駆細胞分化工程(上記B工程)において、幹細胞因子(SCF)に血小板前駆細胞を接触させることを包含してもよい。
【0126】
1つの実施形態では、血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含み得る。巨核球の誘導は例えば、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成され得るがそれに限定されない。巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることに留意すべきである。
【0127】
別の局面において、本発明はまた、本発明の上記方法(血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および該血小板前駆細胞を分化させる工程を含む)によって生産される血小板を提供する。
【0128】
別の局面において、本発明はまた、血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;およびB)該選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する該物質を選択する工程を包含する。分化調節作用を有するかどうかは、コントロールとして分化因子に接触させるポジティブコントロールに対して、その分化速度が調節されていることを確認することによって、判定することができいる。
【0129】
別の局面において、本発明は、Lnkもしくはその等価物が損傷しているか、またはその機能が損傷した血小板を含む組成物を提供する。このような血小板は、粘性が低く、粘性の高い血液に起因する疾患を処置するのに適していると予期される。
【0130】
従って、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用され得る。このような患者は、例えば、糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、高脂血症、脳梗塞などの症状または疾患に罹患している者であり得る。
【0131】
別の局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を提供する。この因子は、血小板の産生または産生促進のために用いることができる。このような因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子などであり得る。
【0132】
従って、本発明は、好ましい実施形態では、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物を提供する。このような因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子などであり得る。あるいは、別の実施形態では、この因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である。このような因子は、特定の実施形態では、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸であり得る。
【0133】
1つの局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用を提供する。ここで使用される因子は、本明細書において使用される任意の因子の実施形態が使用され得ることが理解され得る。
【0134】
別の局面において、本発明は、Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用を提供する。ここで使用される因子は、本明細書において使用される任意の因子の実施形態が使用され得ることが理解され得る。
【0135】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0136】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0137】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA、和光純薬(大阪、日本)などから市販されるものを用いた。以下において使用した動物は、日本の大学において規定される飼育規準を遵守して飼育および実験した。
【0138】
(実施例1:Lnk DN変異体遺伝子のスクリーニング)
(細胞、試薬およびマウス)
MC9細胞をRPMI 1640培地(8%の仔ウシ血清(FBS)、抗生物質および10ユニット/mlのIL−3を補充)中で培養した。Plat−E細胞は、以前に記載したとおりに維持した((Morita,S.,Kojima,T.,and Kitamura,T.2000.Plat−E: an efficient and stable system for transient packaging of retroviruses.Gene.Ther.7:1063−1066.)。COS7細胞を、RPMI1640培地(8%FBSおよび抗生物質を補充)中で維持した。精製マウスIL−3、SCFおよびTPOは、Peprotech(NJ,USA)から購入した。C57BL/6マウス(Ly5.2+)およびC.B−17 scidマウスは、日本クレア(神奈川、日本)から購入した。Ly5遺伝子座(Ly5,1+)についてコンジェニックであるマウスとlnk−/−マウス(Takaki,S.,Sauer,K.,Iritani,B.M.,Chien,S.,Ebihara,Y.,Tsuji,K.,Takatsu,K.,and Perlmutter,R.M.2000.Control of B cell production by the adaptor protein lnk.Definition of a conserved family of signal−modulating proteins.Immunity.13:599−609.; Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)を、東京大学医科学研究所動物実験施設にて病原体フリーの特殊条件で交配させ維持した。
【0139】
(Lnk変異体および発現構築物)
使用したR364E、ΔPH、ΔNおよびY536F Lnk変異体の配列は、以下の通りである。
【0140】
R364E
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtggagcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号7)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVEQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号8)。
【0141】
ΔPH
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号9)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号10)。
【0142】
ΔN
ヌクレオチド配列
atgaacgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagtacacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号11)
アミノ酸配列
MNACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQYTPLSQLCREADV(配列番号12)。
【0143】
Y536F
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtattgcgctatagcctggcggacgaggcagcaatggacagcggcgcacgctggcagcggggtcgcctggtgcttcggtctccaggtccgggccacagccactttctgcagctcttcgatccgcccaagagctcaaagcccaagctccaagaggcctgttccagcatccgggaggtccgaccatgtacacgcctggagatgcctgacaacctctacacctttgtgttgaaggtgcaggaccagacagacatcatctttgaggtgggagatgaacagcagctgaactcatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtgcggcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatcttccacctggtgccttctcctgaggaactggccaacagtctgcggcagctggagctcgagtctgtgagcagtgcccgggactcggactatgacatggactcctcttcacggggccaccttcgggccattgacaaccagttcacccctctctcacagctgtgcagagaggcagacgtg(配列番号13)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVLRYSLADEAAMDSGARWQRGRLVLRSPGPGHSHFLQLFDPPKSSKPKLQEACSSIREVRPCTRLEMPDNLYTFVLKVQDQTDIIFEVGDEQQLNSWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVRQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQIFHLVPSPEELANSLRQLELESVSSARDSDYDMDSSSRGHLRAIDNQFTPLSQLCREADV(配列番号14)。
【0144】
上記変異体をコードするDNAフラグメントは、以下のプライマーを用いたPCRベースの部位特異的変異誘発によって生成され、そしてDNA配列決定によって確認した。
[R364Eの作製に用いたプライマー]
5’tggtggagcagagtgagtcccgga3’(配列番号15)
5’tctgctccaccaggaacacgccgt3’(配列番号16)
[ΔPHの作製に用いたプライマー]
5’tggctggcagagctcagggca3’(配列番号17)
5’ctgccagccatacgacctccttgagcgcct3’(配列番号18)
[ΔNの作製に用いたプライマー]
5’gcctgtgccctgcagcacctg3’(配列番号19)
5’gggcacaggcgttcatggtggagagcgagg3’(配列番号20)
[Y536Fの作製に用いたプライマー]
5’caaccagttcacccctctctca3’(配列番号21)
5’aggggtgaactggttgtcaatgg3’(配列番号22)。
【0145】
dCをコードする変異cDNAを、lnk cDNAをBglIIで消化し、Klenowフラグメントによって平滑化し次いで自己連結することによって構築した。種々の組み合わせで変異を含む他のlnk cDNAは、適切なcDNAフラグメントを、制限酵素消化およびライゲーションを用いて変異フラグメントに置き換えることによって構築した。得られたcDNAフラグメントをpcDNA3哺乳動物発現ベクター(Invitrogen)またはMSCVレトロウイルスベクター(内部リボソーム侵入部位(IRES)をマルチクローニング部位とeGFPコードcDNA(Clontechから入手可能)との間に含む)中にサブクローニングした。
【0146】
(レトロウイルス形質導入および骨髄移植)
pMYベクターを、FuGene(Roche)を用いたリポフェクションによりPlat−E細胞中にトランスフェクトした。パッケージングしたレトロウイルス粒子を含む上清を採集し、そして微小遠心分離管中で4℃にて16時間にわたり遠心分離した。形質導入のために、MC9細胞を、ポリブレーン(Sigma)8mg/mlおよびレトロウイルス上清濃縮物を含む新鮮な培地中で3時間インキュベートした。細胞を洗浄し、そしてさらに、10ng/mlのSCFを含む新鮮な培地中で培養した。HSC/HPCの形質導入のために、Lineageマーカー(B220,CD3,Mac−1,Gr−1 およびTER−119)について陰性の骨髄(BM)細胞を、MACSシステム(Miltenyi Biotec)を用いて精製した。Lin−細胞(4×105)を、3時間にわたりレトロウイルス上清とともにインキュベートし、そしてRetronectinをコーティングしたディッシュ(TaKaRa)上にRMPI1640培地(8%FBS、50mM 2−メルカプトエタノール、1×非必須アミノ酸(Gibco)、10ng/ml SCF、100ng/ml TPOおよび5ng/ml IL−3を含む)とともにプレートした。翌日、形質導入を、新鮮なレトロウイルス上清を用いて繰り返し、そして細胞をさらに24時間にわたり培養した。形質転換したLin−細胞(2.0×105)を洗浄し、そして致死量の照射を受けた(9.5Gy)レシピエントマウスに静脈注射した。
【0147】
(フローサイトメトリー)
レトロウイルス形質導入の後にeGFPを発現するMC9細胞を、FACS CaliburTM装置(BD Biosciences)を用いて分析した。抹消血脱核細胞をレシピエントマウスから得、これを所定の最適濃度のそれぞれの抗体を用いて染色し、ついでこれをFACS CalbiurTMにより分析した。モノクローナル抗体としては以下を用いた。FITC−結合体化の、抗B220(抗CD−45R、RA3−6B2)、抗Mac−1(抗CD11b、M1/70)、および抗Sca−1(E13−161.7);PE結合体化の、抗CD3e(145−2C11)、抗Gr−1(RB6−8C5)、抗TER119、抗Sca−1および抗c−Kit(抗CD117、2B8);ビオチン結合体化の、抗Ky5.1(抗CD45.1,A20)および抗Ly5.2(抗CD45.2、104);APC結合体化の、抗B220および抗c−Kit(すべて、BD BiosciencesまたはeBiosciencesから購入した)。ビオチン結合体化された抗体の結合は、APC結合体化またはPerCP結合体化されたストレプトアビジン(BD Biosciences)を用いて可視化した。死んだ細胞を、7アミノ酸アクチノマイシンD(Sigma)染色によってゲートアウトした。
【0148】
(化学架橋、免疫沈降およびイムノブロッティング)
COS7細胞を、野性型または変異型のLnkタンパク質をコードするpcDNA3を、Superfect(Qiagen)を用いてトランスフェクトし、そしてトランスフェクト後48時間で採集した。細胞を溶解緩衝液(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)中に溶解し、そしてBS3(Pierce)を種々の濃度で用いて化学架橋させた。ついで、これを、抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットした。刺激実験のために、トランスフェクト体を12時間血清枯渇させ、そして100ng/mlのSCFで5分間刺激した。ついで、以前に記載されているように、細胞を溶解し、溶解液を免疫沈降させ、そして免疫ブロットした(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)。
【0149】
(ES細胞からの血小板の生成に対するLnk遺伝子のドミナントネガティブ変異の効果)
(ES細胞の増殖および分化)
マウスE14tg2a細胞株を、1000U/mlマウス白血病阻害因子(LIF)(Chemicon,Temecula,CA)を補充した完全GMEM培地(GIBCO/Invitrogen,Carlsbad,CA)中で照射したマウスフィーダー細胞上で10継代まで維持した。巨核芽球への分化のために、間質細胞株OP9 cells(Nakano T,Kodama H,Honjo T.Science,265;1098−1101,1994)を有する共培養システムを記載される(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)ように用いた。手短にいうと、ES細胞を、0.25% トリプシン/EDTAで剥離させ、そして75分間静置して、接着性フィーダー細胞を枯渇させた。ついで、1.5×104個の細胞を、コンフルエントなOP9間質細胞を含む6ウェルプレートの各ウェルに播種した。OP9細胞は、新生児M−SCF欠損B6C3F1−op/opマウスの頭蓋冠に由来する。そして、各ウェル中の細胞を、10−12%仔ウシ胎児血清および50mM 2−ME(Sigma)を補充したαMEM培地(GIBCO/Invitrogen)中で培養した。レトロウイルスで形質導入したタンパク質を発現する巨核球を得るために、分化プロトコールの5日目においてFlk−1およびPECAM−1の両方を発現する二機能性血管芽細胞を20ng/mlを含むαMEM中に8×105/mlに懸濁した。等量のウイルスストックおよび4mg/mlの硫酸プロタミン(Sigma)を加えた後、この細胞を37℃で17時間培養し、洗浄し、そして4×105細胞で新鮮なOP9層上にまき、そして上記に記載されるように(Eto K.et al.,PNAS,2002)15日目まで培養した。
【0150】
(巨核芽球のレトロウイルス感染)
Lnk cDNAおよびドミナントネガティブ変異体のcDNAをIRES−GFPカセットを含むレトロウイルスベクターより制限酵素消化して分離・精製し、MSCVレトロウイルスベクター(MIGベクター:BD bio/clontech社より購入)のマルチクローニング部位にサブクローニングし、PGK−neo遺伝子をires−EGFPに置き換えた。関連する配列を、自動化されたDNA配列決定によって確認した。ウイルスを、293T細胞(Promegaから入手可能)へのリン酸カルシウムトランスフェクションによって生産した。この実験では、15μgのMIG発現ベクター、12 μgのエンベローププラスミドpcDNA−VSVG、を用いた。ウイルスの力価は、感染させたNIH 3T3細胞中でのGFP発現を測定することによって48〜60時間後に決定し、それは、0.4〜1.0×106 IU/mlの範囲にあった。
【0151】
ドミナントネガティブ変異体の配列は以下の通りである。
【0152】
ドミナントネガティブマウスLnk
ヌクレオチド配列
atgaacgagcccaccgtgcagccgtcccgcacatcctccgcacccgcctcgccggcatccccacgcggctggagcgacttctgcgagcagcacgcagcagcggcggcccgggagctggcccgccagtactggttgtttgcgcgcgcgcacccacagccgccgcgcgcggacctggtgtcgctgcagttcgcggagctcttccagcgccacttctgccgggaggtgcgcgagagcctcgcaggaccgccgggtcacgactaccgcgccactgctccgccccgccccgcgctgcccaaggcacgcagctccgaggacctgggcccgcggcccgcctgtgccctgcagcacctgcgccgcggcctgcgccagctcttccgccgccgctcggcaggggagctgcccggggctaccagtgacaccaatgacatcgacaccaccgcagccagcaggccgggcccggcccgcaagttgctaccctggggcctgcgagagccgcccactgaggcgctcaaggaggtcgtatggctggcagagctcagggcaagcacaggccttgggctggagcacccggacaccgagttacctctttccttagcggcagagcctggcccagctagatccccaaggggaagcactgactccctggaccaaggtgcttcacctggggtgttgctggacccagcctgccagaaaacagatcacttcctatcctgctacccctggttccacggccccatctccagggtgagggctgcacagctggtccagctccagggccctgatgcccacggcgtgttcctggtggagcagagtgagtcccggagaggagagtatgtactcacattcaacttacagggcagagccaagcacttacgcctggtgctcacagagcgtggacagtgccgggtgcaacacctgcacttcccctcggtggtagatatgctccgccacttccagcgttctcctatcccactggaatgtggagcagcttgtgacgtccgactctctggctatgtggtagtcctctctcaggcaccaggttcctccaacaccgtcctcttccctttttcccttcctcactgggattcggagctgggtcatccccacctcagctctgttggctgtccccccagccatggtgcagaggctctccctggccaagtgacaccacctgagcagatc(配列番号3)
アミノ酸配列
MNEPTVQPSRTSSAPASPASPRGWSDFCEQHAAAAARELARQYWLFARAHPQPPRADLVSLQFAELFQRHFCREVRESLAGPPGHDYRATAPPRPALPKARSSEDLGPRPACALQHLRRGLRQLFRRRSAGELPGATSDTNDIDTTAASRPGPARKLLPWGLREPPTEALKEVVWLAELRASTGLGLEHPDTELPLSLAAEPGPARSPRGSTDSLDQGASPGVLLDPACQKTDHFLSCYPWFHGPISRVRAAQLVQLQGPDAHGVFLVEQSESRRGEYVLTFNLQGRAKHLRLVLTERGQCRVQHLHFPSVVDMLRHFQRSPIPLECGAACDVRLSGYVVVLSQAPGSSNTVLFPFSLPHWDSELGHPHLSSVGCPPSHGAEALPGQVTPPEQI(配列番号4)。
【0153】
(IIb、GPIbの発現に関する巨核芽球の特徴づけ、および前血小板の生成)
ES細胞分化の9日および12日後、非接着性細胞を、60分間37℃にて重力沈降させた。巨核芽球の収率を最適化するために、OP9層になおも接着する造血細胞を、再度懸濁し、そしてメッシュを通して細胞塊を除去した。αIIbβ3またはGPIbαの発現を、FITCを結合体化させたラット抗マウスαIIB(CD41)を用いて測定した。
GFPを発現する前血小板の形成を位相蛍光顕微鏡(phase−contrast epi−fluoresent microscopy)(Leica DM IRBE microscope system)によりモニターし、そして計数した。手短に述べると、前血小板についての細胞の実数は、培養9日目および12日目において、1培養ディッシュあたり100個のGFP陽性巨核球中で計数した。培養12日目から14日目にかけて、ES細胞に由来する血小板の粒子数をフローサイトメトリーにより計数した。その結果は、1枚の6-ウエル培養皿から回収した3日間全体の合計GFP陽性GPIbα陽性数:コントロール(GFPのみ)発現682±418,R364E1アミノ酸置換遺伝子発現 896±51 Lnkドミナント陰性遺伝子発現3028±446であった。GFPおよびGPIbαの陽性粒子を、コントロールビーズ(BD/Invitrogen)を用いることによって最終的に計数した。
【0154】
(実施例2:Lnkノックアウト血小板実験)
(材料)
すべての試薬は、特に言及する場合を除き、Sigma−Aldrichから購入した。すべての動物および組み換えDNA実験は、東京大学医科学研究所、東海大学および北海道大学の動物実験施設協議会によって承認を得たものである。
【0155】
セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体化された二次抗体は、Bio−Rad研究所から購入した。アルガトロバン(argatroban)は三菱化学(東京、日本)から購入した。ローダミン−ファロイジン、alexa488結合体化フィブリノゲンおよびalexa488結合体化抗マウスIgG抗体は、Molecular Probesから購入した。
【0156】
精製したヒトフィブリノーゲンをAmerican Diagnostica Inc.(CT,USA)から入手した。FITC結合体化抗マウスインテグリンαIIb(CD41)およびPE結合体化抗マウスGPIbαをAmfret(Germany)から得た。ヒトトロンボポイエチン、IL−6およびIL−11をPeprotechから入手した。
【0157】
(出血時間)
尾部出血アッセイを、8週齢のLnk欠損マウス(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160)またはコントロールマウスを用いて行った。マウスを50μg/mlのペントバルビタールを用いて麻酔した。尾部の2mmの遠位先端を切除し、そして尾部をすぐに37℃のPBSに浴した。尾部の出血時間を、出血が停止するまでに必要な時間と定義した。
【0158】
(血液サンプルの調製)
1実験当たりの血液サンプルを、それぞれ8匹を超えるLnkヌルマウスおよびそのコントロールから、心臓窃孔により得た。収集した血液検体をすぐに、その容積の1/6の酸性クエン酸デキストロース(ACD)を含むプラスチックチューブに移し、インテグリンαIIβb3に対する特異的なフィブリノーゲン結合または血小板拡散の実験に用いた。別のサンプルを、その容積の1/6の3.8%クエン酸を含むチューブに移して最終濃度を0.38%として血小板凝集の実験に用いた。血小板濃縮血漿(PRP)を、全血を150×gで15分間遠心分離することによって得た。洗浄した血小板を得るために、10mMのプラスタグランジンE1(PGE1)および5U/mLのアピラーゼを加え、そして750×gで10分間遠心分離し、一回1mMPGE1および1U/mLのアピラーゼを含むクエン酸緩衝液で洗浄した。血小板ペレットを、適切な容量の、Ca2+なしの改変したタイロード−Hepes緩衝液pH7.4(10 mM HEPES,12 mM NaHCO3,138 mM NaCl,5.5 mM グルコース,2.9mM KClおよび1 mM MgCl2)中に再懸濁した。
【0159】
(エキソビボフローチャンバー実験)
エキソビボ灌流実験のために、収集した血液検体を、すぐに、その容量の1/10の特異的トロンビンインヒビターアルガトロバンを最終濃度100μMで含むプラスチックチューブに移し、実験の間の血液サンプルの流動性を維持した(アルガトロバンは、クエン酸またはヘパリンよりも抗凝固剤としてより一般的に使用されており、これをカチオン濃度の減少または改変されたフォンビルブラント因子Iβaの相互作用を通じて、多面的な効果を回避した。)。
【0160】
ついで、全血検体中の血小板を、最終濃度10μmol/Lのメパクリン(Sigma,Co.Ltd.,St.Louis,USA)を加え、以前に記載されている手順(Eto K,Goto S,Shimazaki T,Sakakibara M,Yoshida M,Isshiki T,Handa S (2001) Two distinct mechanisms are involved in stent thrombosis under flow conditions.Platelets 12:228−235.)を用いることによって蛍光を発光させた。いくつかの実験において、全血検体を、遠心分離によってPRPおよび残りの検体に分割して、コントロールPRPまたはLnkヌルPRPと、コントロール赤血球および血漿を含む、コントロール血液由来の残りの検体とからなる再構成した全血を作製した。血小板数をさらに調整するために、コントロールPRPまたはLnk−PRPをHEPES−タイロード緩衝液中に希釈し、そしてコントロール赤血球および血漿を含むコントロール血液と混合した。
【0161】
I型コラーゲン(Sigma,USA)を固定した長方形のフローチャンバーを以前に記載されるように調製した(Eto K,Goto S,Shimazaki T,Sakakibara M,Yoshida M,Isshiki T,Handa S (2001) Two distinct mechanisms are involved in stent thrombosis under flow conditions.Platelets 12:228−235.)。血液サンプルを、シリンジポンプを備えるチャンバーを通じて、116.1ml/時間の速度で吸引して1,500s−1の最大の壁剪断速度を達成した(Holliston,MA 01746,Harvard Apparatus,Co.Ltd.,USA) 。表面上でコラーゲンと相互作用し、血栓を形成する血小板を、480nm励起光源(DMIRB,1RB−FLUO,Leica,Germany)を備える倒立ステージepi蛍光ビデオ顕微鏡システムを用いて可視化した。顕微鏡像を、感光性カラーCCDカメラ(L−600,Leica,Germany)を用いてオンラインでデジタル化した。二次元での血小板血栓成長を定量するために、血小板による表面積カバー率を以前に報告されているように算出した(Goto S, Tamura N, Ishida H (2004)Ability of anti−glycoprotein IIb/IIIa agents to dissolve platelet thrombi formed on a collagen surface under blood flow conditions. Journal of the American College of Cardiology 44:316−23.)。血小板血栓の溶解を、ビデオ画像で示した。このビデオ画像では、時間感覚を3分の1にまで減らした(すなわち、実時間3分はビデオでは1秒で表される。)。血小板血栓の三次元構造を、超高速レーザ共焦点顕微鏡で分析し、対物レンズの位置を上げ、そして誘電モーター制御ユニットによって制御して定速を20μm/50秒にまで減速し、血栓の走査画像を得ることができるようにした(図8)。マイクロレンズによって覆われた20,000ピンホールを有する迅速に回転するディスクの共焦点ユニット(CSU10,Yokogawa Medical,Co.,Japan)を用いることによって、1片の共焦点画像を、10ミリ秒内に得ることができた。共焦点画像を画像拡大器(SRUB GEN III+,Solamer,Intermedical Co.,Japan)を用いて拡大し、拡大画像をデジタルビデオレコーダー(Handycam,Sony Co.,Japan)に記録した。記録した画像をパーソナルコンピュータ(PowerMachintosh G4,Apple Inc.,USA)に移し、シェアウェアNIH images/Image J 1.32を用いて三次元投影画像を得、そして上面から、60℃斜め上および側方からのQuickTime動画および投影図として記録した。
【0162】
(血小板凝集研究)
1mM MgCl2を含む改変したタイロード−Hepes緩衝液中に洗浄血小板を2×105/mlの濃度で入れた。最終濃度1mMでCaCl2を加え、37℃で1分間インキュベートした後、種々の濃度のマウストロンビンおよびコラーゲンIを加えて攪拌を行った。凝集プロファイルをChrono−Log血小板凝集計中で37℃で攪拌しながら生成した。
【0163】
(種々のアゴニストによるフィブリノーゲン結合(インテグリンαIIβb3の活性化)およびFACS分析)
洗浄し、静止させた血小板を、室温で300mg/mlのAlexa488結合体化したフィブリノーゲンと、ADP、PAR4アゴニストペプチド、マウストロンビンまたはPMA(各々50mLの最終溶液の0.2mM CaCl2を有する改変したタイロード−Hepes緩衝液に溶解した)とともに30分間インキュベートした。
【0164】
共焦点顕微鏡:1mM MgCl2および0.2mMCaCl2を含む改変したタイロード−Hepes緩衝液中の洗浄血小板(107/500μl)を、37℃で45分にわたり12ウェルプレートのフィブリノーゲンコーティングカバースリップに播いた。接着性の細胞を4%ホルムアミド中に固定し、0.1%のTriton X−100で透過させ、そして一次抗体およびAlexa 488結合体化させた二次抗体を用いて染色した。
【0165】
(結果および考察)
図1は、Lnkの機能的ドメインは、細胞増殖調節のために重要であることを示す図である。(A)Lnk変異体、および内部リポソーム侵入部位(IRES)を有する単一のmRNAからのeGFPを共発現するために使用されるMSCVベクターの代表的な模式図である。そのプロリンリッチ部分(stretch;黒いバーを有する白いボックスで示す。)、SH2ドメイン(白いボックス)、およびC末端にチロシンリン酸化部位(Y)を有するN末端ドメインを示す。N末端ドメイン(DN)、PHドメイン(DPH)およびC末端テイル(DC)の欠失、ならびにY536のフェニルアラニン置換(Y546F)およびR364のグルタミン酸置換(R364E;SH2ドメイン中のXとして示す)を示す。(B)コントロールベクターで形質導入したMC9細胞(左欄、ベクター)またはLnk発現ベクターで形質導入したMC9細胞(右欄、WT)をSCFの存在下で培養し、そして所定の時点で生きているeGFP+細胞の割合を、フローサイトメトリーにより決定した。(C)SCFにより誘導される、指示されたLnk変異体を発現するMC9細胞の増殖速度を、各々の所定の時点におけるeGFP+細胞の割合を培養開始(0日目)で除することによって形質導入していない細胞と比較した。示されているのは、複数の独立実験の代表的結果である。
【0166】
図2は、Lnk SH2変異体が、細胞増殖においてLnkの負の調節機能をドミナントネガティブ的に阻害することを示す図である。(A)Lnkは、SH2ドメインを介してc−Kitと会合する。示されたLnk変異体およびc−Kitを共発現するCOS7トランスフェクト体を、SCFで刺激し、そして溶解した。抗Lnk抗体で免疫沈降したタンパク質を分離し、そして抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットして、c−Kitを検出し(上パネル)、そして抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットしたLnkを検出した(下パネル)。c−KitとLnkとの会合は、R364E SH2変異によって消えていた。(B)N末端領域を介したLnkのマルチマー形成。指示されたLnk変異体を発現するCOS7形質転換細胞の細胞溶解物全体を、種々の濃度の化学架橋剤BS3で処理し、ついで抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットに供した。Lnkは、マルチマー複合体を形成した。これは、より遅い移動度を示した(矢頭)。マルチマー化した複合体は、dNLnk変異体では検出できなかった。(CおよびD)Lnk SH2変異体は、レトロウイルスで野性型Lnkを発現するMC9−Lnk細胞中に形質導入した。形質導入した細胞をSCFの存在下で培養し、そしてその増殖を、形質導入していないMC9−Lnk細胞のものと比較した。比較は、所定の時点でのeGFP+細胞を、培養時(0日目)のもので徐することによって求めた。示されるのは3つの独立した実験の代表的なデータである。最後に、R364E SH2変異に加えてDPHおよびDCの変異(ΔPH/R364E/ΔC)を、wt Lnkに対する阻害作用を有する最も強力なドミナントネガティブ変異体として決定した。
【0167】
図3は、SH2 R364E単独ではなく、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体の異所性発現は、ES細胞由来の造巨核球能(megakaryocytepoiesis)の成熟を容易にすることを示す図である。
【0168】
(A)Lnk wt、SH2 R364E単独と、cDNAのΔPH/R364E/ΔC変異体との間の相違。プロリンリッチ領域を伴うN末端ドメイン(黒バーを伴う白ボックス)、PHドメイン(斜線ボックス)、SH2ドメイン(白ボックス)およびC末端のチロシンリン酸化部位(Y)を示す。2つの変異遺伝子のこうかをES細胞に由来する巨核球において実験した。(B)分化プロトコールの5日目に、造血前駆細胞を18時間にわたって、GFP単独をコードするウイルス、R364E変異体およびGFP(R364E−GFP)またはΔPH/R364E/ΔC変異体をコードするウイルスおよびGFP (ΔPH/R364E/ΔC−GFP)をコードするウイルスに感染させた。さらなる分化を、20ng/ml TPOの存在下でOP9とともに共培養することによって維持した。7日目に、細胞を、形質導入した(GFP陽性)細胞および非形質導入細胞(GFP陰性)におけるCD41(インテグリンαIIb)の発現によって分析した。GFP陰性細胞におけるCD41陽性細胞の平均数を1.0と定義した。成熟を研究するために、GPIβa発現もまた試験した。示されているのは、3つの独立した実験の平均±SDである。(結果)GFP単独、SH2 R364EおよびΔPH/R364E/ΔC−GFPの間ではCD41発現細胞の数には変化はなかった。他方、造巨核球における成熟プロセスの特徴であるGPIβaの発現は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC形質導入した巨核球において増加したが、SH2 R364E単独を形質導入した細胞では見られなかった。このことは、DPHおよびDCが、SH2変異体に加えて、内因性Lnkに対して阻害し得、そしてこの培養系においての成熟を促すことを示す。
【0169】
図4は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は成熟巨核球の数および前血小板の生成を増加させることを示す図である。
【0170】
(A)ES細胞から誘導された巨核球においてレトロウイルスによって媒介されたGFP発現。5日目の造血前駆細胞に、GFP単独をコードするかまたはΔPH/R364E/ΔC−GFPをコードするレトロウイルスを感染させた。9日目および12日目において、多数の延長を示すGFP陽性細胞の蛍光画像を、倒立蛍光顕微鏡/コンピュータシステムを用いて所定の暴露時間で得た。そして、100細胞中の前血小板の数を算出した。(A)のバーの寸法は、100mmである。(B左)9日目のCD41+GFP+細胞数を、フローサイトメトリーで算出した。フローサイトメトリーにおけるドットプロットの側方散乱および前方散乱にしたがって、2つの任意の分析のゲートを以前に記載されるように適用した(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)。示されているでーたは、3つの独立した実験の平均±SDである。(B)に示されるように、ΔPH/R364E/ΔC−GFP形質導入された細胞は、成熟した巨核球を示し、そしてレトロウイルス感染の3日後前血小板の数が増えていた。さらに3日後、OP9細胞との共培養によって、(B右)に示されるように、前血小板の生成の増強を維持した。
【0171】
図5は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞に由来する巨核球からの血小板フラグメンテーションを増加させることを示す図である。12日目から14日目の成熟した巨核球から誘導されるフラグメント化した粒子を、本明細書における方法の欄に記載されるようにフローサイトメトリーによって計数した。示されているのは、GPIβa+GFP+の粒子の3日間の合計である。グラフの挿入箇所は、ドットプロットの例を示す。(結果)Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞由来のGPIβa+血小板粒子の数を増加させたが、SH2変異体単独では増加させなかった。
【0172】
図6は、マウス血小板におけるLnk発現およびLnkヌルマウスにおける尾部における出血時間の延長を示す図である。(A)マウスlnkのcDNAをトランスフェクトしたCOS7細胞におけるタンパク質発現のウェスタンブロットおよび示された遺伝子型の血小板の分析。2%SDS含有RIPA緩衝液によって調製された25mgの各々の溶解物を、マウスLnkに対するポリクローナル抗体で評価した(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160)。(B)出血時間を、本明細書において方法の欄に記載されているように決定した。プロットされたデータは、正常なマウス(n=5)およびLnkヌルマウス(n=7)であった。
図7は、トロンビンおよびコラーゲンによる血小板凝集を示す図である。
【0173】
洗浄し、静止させた血小板を、血小板凝集計に適用し、そしてトロンビン(0.1U/ml)またはコラーゲンI(0.5μg/ml)で活性化した。矢印は、アゴニストの添加を示す。示されるのは、3つの独立の実験の代表的な結果である。
【0174】
図8は、表面に結合したコラーゲンのエキソビボの血栓形成を示す図である。血液を、抗凝固剤としてアルガトロバンを用いてコントロールマウスまたはLnk欠損マウスから収集した。硝子製カバースリップを、不溶性の繊維型I型コラーゲンでコーティングし、そして平行のプレートフローチャンバー中に配置した。(A)コントロール(10匹のマウス)またはLnk欠損マウス(10匹のマウス)からの血小板数を調整なしで全血を、比較的高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバー中に適用した。連続記録からのコントロール(Lnk+/+)またはLnk欠損(Lnk−/−)における左の3つのフレームは、血液灌流の2分後、4分後および7分後における、コラーゲンコーティングされた表面(2次元;XY軸)を示す。コントロールおよびLnk欠損から形成された血栓が示されている。他方、Lnk欠損血液の三次元の画像(右フレーム:Z軸)は、コントロールのものの高さよりも比較的低い血栓を示した。(B)コントロールの血液に由来する赤血球および血漿とともにコントロールPRPまたはLnkヌルPRPからなる再構成した血液を、高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバーに適用した。Lnk欠損血小板を含有するサンプルにおける三次元画像(Z軸)は、血小板数をコントロールに5×105/mlに調整した場合でも、コントロールのものよりも低い血栓高さを示した。
【0175】
図9は、Lnk欠損血液における灌流後の血栓表面積、血栓高さおよび血栓容量を示す図である。(A)表面積率を、連続的なz軸切片から決定した。データは、1−2μmの高さの血栓における3つの独立した実験の平均を示す。(B)データは、最大高さ(μm)における3つの独立した実験の平均を示す。
【0176】
図10は、Lnk欠損血小板における種々のアゴニストによるインテグリンαIIβb3の活性化を示す図である。種々のアゴニストの添加後に活性化されたαIIβb3を、フローサイトメトリーにおいて、インテグリンαIIβb3に結合したAlexa488結合体化フィブリノーゲン結合によって分析した。非特異的な結合を、10mM EDTAの存在下で決定した。データは、5〜8回の独立した実験からの平均蛍光強度(FL−1チャネル)を示す。
【0177】
図11は葉状仮足形成の欠損が、Lnk欠損血小板においてフィブリノーゲンに対して見られたことを示す図である。血小板をLnk−/−およびコントロールマウスから得、そしてアゴニストなし;ADP(50μM);PAR4レセプター活性化ペプチド(1mM)とともに45分間にわたりフィブリノーゲン上に播いた。ついで、細胞を固定させ、透過させ、そしてFアクチン(赤)およびホスホチロシン(緑)について染色した。これを共焦点顕微鏡により分析した。矢頭は、糸状仮足を示す。バーは、10μMを示す。
【0178】
このように、Lnkのドミナントネガティブによって、血小板の生成が活性化するとともに、生成された血小板は、粘性が高い血液の補充のために適していると予期されることが明らかになった。
【0179】
(実施例3:ヒトでの実証)
臍帯血より調製したCD34+多能性幹細胞分画をStem cell factor (SCF) (50 ng/ml), FLT−3L (50 ng/ml), IL−6 (50 ng/ml)の存在下に1〜2日間培養する。この間に、LnkインヒビターとGFPを共発現するレトロウイルスベクター、GFPのみを発現するコントロールベクターより調製したウイルス粒子を加えて感染導入する。実験群及びコントロールのGFP+感染細胞をフローサイトメーターにてソーティング精製し、各種サイトカイン存在下で培養しコロニー形成能を検討する。巨核球系細胞コロニーについてはコロニー数とともに1コロニーあたりのサイズにも注目する。臍帯血幹細胞の生存あるいは増殖をサポートするストローマ細胞株と共培養を行い、遺伝子導入細胞にて生存あるいは増幅促進効果がみられるかどうかを検討する。これらの培養系において、Lnkインヒビターの発現により、巨核球系細胞および血小板、各種造血前駆細胞の増殖能が亢進することが予想される。
【0180】
同じ細胞数の実験群及びコントロールのGFP+感染臍帯血前駆細胞を一定量(感染細胞と同数または半数程度)の非感染細胞(または非処理臍帯血)と混じ、非致死量の放射線照射(3.5 Gy程度)したNOD/SCIDマウスへ移入する。2〜3ヶ月後にレシピエントマウスの抹消血を採取し、CD19+B細胞分画、CD3+T細胞分画、CD11b+骨髄球分画のGFP陽性率をフローサイトメトリーにより検討し、感染細胞と非感染細胞の競合条件下での造血能を比較する。Lnkインヒビターを発現させることにより、移植したドナー臍帯血前駆細胞の生着率、それより産生される巨核球系細胞および血小板、各種造血系細胞、リンパ球の産生量が高まることを確認することができる。
【0181】
(実施例4:インヒビタースクリーニング)
次に、Lnkインヒビタースクリーニングにより血小板生成促進因子のスクリーニングを行う。以下にそのプロトコールを示す。
【0182】
TPO依存性に増殖する細胞株に遺伝子導入によりLnkを過剰発現させる。このLnk過剰発現によりTPO依存性増殖ができなくなった遺伝子導入細胞株に発現あるいは作用させて、Lnkインヒビターとしての作用をTPO依存性増殖の回復を指標としてスクリーニングする。Lnkインヒビターとして作用する可能性が考えられる因子については、ES細胞株から巨核球及び血小板を分化誘導する分化系での効果を検討し、血小板生成促進因子としての効果を確認する。
【0183】
(実施例5:自動化)
実施例4などで実施するスクリーニングは、ロボットを用いて自動化することができる。この場合、例えば、ベックマンコールターのBiomekシリーズを用いて、マイクロプレートを用いたシステムを構築するか、またはZymarkのStaccato Mini−Systemシリーズを用いてシステムを構築することができる。
【0184】
このようにして得られたリード化合物は、動物実験に用いることができる。あるいは、このようなリード化合物をもとに、他の化合物を設計することができる。
【0185】
(実施例6:動物実験)
実施例4または5などで、Lnkインヒビターであることが判明した化合物について、マウス、ラットまたはサルなどの動物に投与して血小板生成を調節する化合物をスクリーニングする。
【0186】
このようなスクリーニングにより、血小板生成を実際に調節する物質をスクリーニングすることができる。
【0187】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、血小板の生成を調節する方法、組成物およびシステムを提供する。このような調節により、血小板の生成をコントロールすることが容易になり、その維持・増殖を容易にかつ計画的にすることができるようになった。これらの有用性は、バイオ関連の産業において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】図1は、Lnkの機能的ドメインは、細胞増殖調節のために重要であることを示す図である。 (A)Lnk変異体、および内部リポソーム侵入部位(IRES)を有する単一のmRNAからのeGFPを共発現するために使用されるpMYベクターの代表的な模式図である。そのプロリンリッチ部分(stretch;黒いバーを有する白いボックスで示す。)、SH2ドメイン(白いボックス)、およびC末端にチロシンリン酸化部位(Y)を有するN末端ドメインを示す。N末端ドメイン(DN)、PHドメイン(DPH)およびC末端テイル(DC)の欠失、ならびにY536のフェニルアラニン置換(Y546F)およびR364のグルタミン酸置換(R364E;SH2ドメイン中のXとして示す)を示す。 (B)コントロールベクターで形質導入したMC9細胞(左欄、ベクター)またはLnk発現ベクターで形質導入したMC9細胞(右欄、WT)をSCFの存在下で培養し、そして所定の時点で生きているeGFP+細胞の割合を、フローサイトメトリーにより決定した。 (C)SCFにより誘導される、指示されたLnk変異体を発現するMC9細胞の増殖速度を、各々の所定の時点におけるeGFP+細胞の割合を培養開始(0日目)で除することによって形質導入していない細胞と比較した。示されているのは、複数の独立実験の代表的結果である。
【図2】図2は、Lnk SH2変異体が、細胞増殖においてLnkの負の調節機能をドミナントネガティブ的に阻害することを示す図である。(A)Lnkは、SH2ドメインを介してc−Kitと会合する。示されたLnk変異体およびc−Kitを共発現するCOS7トランスフェクト体を、SCFで刺激し、そして溶解した。抗Lnk抗体で免疫沈降したタンパク質を分離し、そして抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットして、c−Kitを検出し(上パネル)、そして抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットしたLnkを検出した(下パネル)。c−KitとLnkとの会合は、R364E SH2変異によって消えていた。(B)N末端領域を介したLnkのマルチマー形成。指示されたLnk変異体を発現するCOS7形質転換細胞の細胞溶解物全体を、種々の濃度の化学架橋剤BS3で処理し、ついで抗Lnk抗体を用いて免疫ブロットに供した。Lnkは、マルチマー複合体を形成した。これは、より遅い移動度を示した(矢頭)。マルチマー化した複合体は、dNLnk変異体では検出できなかった。(CおよびD)Lnk SH2変異体は、レトロウイルスで野性型Lnkを発現するMC9−Lnk細胞中に形質導入した。形質導入した細胞をSCFの存在下で培養し、そしてその増殖を、形質導入していないMC9−Lnk細胞のものと比較した。比較は、所定の時点でのeGFP+細胞を、培養時(0日目)のもので徐することによって求めた。示されるのは3つの独立した実験の代表的なデータである。最後に、R364E SH2変異に加えてDPHおよびDCの変異(ΔPH/R364E/ΔC)を、wt Lnkに対する阻害作用を有する最も強力なドミナントネガティブ変異体として決定した。
【図3】図3は、SH2 R364E単独ではなく、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体の異所性発現は、ES細胞由来の造巨核球能(megakaryocytepoiesis)の成熟を容易にすることを示す図である。 (A)Lnk wt、SH2 R364E単独と、cDNAのΔPH/R364E/ΔC変異体との間の相違。プロリンリッチ領域を伴うN末端ドメイン(黒バーを伴う白ボックス)、PHドメイン(斜線ボックス)、SH2ドメイン(白ボックス)およびC末端のチロシンリン酸化部位(Y)を示す。2つの変異遺伝子のこうかをES細胞に由来する巨核球において実験した。(B)分化プロトコールの5日目に、ES細胞由来の造血前駆細胞を18時間にわたって、GFP単独をコードするウイルス、R364E変異体およびGFP(R364E−GFP)またはΔPH/R364E/ΔC変異体をコードするウイルスおよびGFP (ΔPH/R364E/ΔC−GFP)をコードするウイルスに感染させた。さらなる分化を、20ng/ml TPOの存在下でOP9とともに共培養することによって維持した。7日目に、細胞を、形質導入した(GFP陽性)細胞および非形質導入細胞(GFP陰性)におけるCD41(インテグリンαIIb)の発現によって分析した。GFP陰性細胞におけるCD41陽性細胞の平均数を1.0と定義した。成熟を研究するために、GPIbα発現もまた試験した。示されているのは、3つの独立した実験の平均±SDである。(結果)GFP単独、SH2 R364EおよびΔPH/R364E/ΔC−GFPの間ではCD41発現細胞の数には変化はなかった。他方、造巨核球における成熟プロセスの特徴であるGPIbα発現は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC形質導入した巨核球において増加したが、SH2 R364E単独を形質導入した細胞では見られなかった。このことは、ΔPHおよびΔCが、SH2変異体に加えて、内因性Lnkに対して阻害し得、そしてこの培養系においての成熟を促すことを示す。
【図4】図4は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は成熟巨核球の数および前血小板の生成を増加させることを示す図である。 (A)ES細胞から誘導された巨核球においてレトロウイルスによって媒介されたGFP発現。5日目の造血前駆細胞に、GFP単独をコードするかまたはΔPH/R364E/ΔC−GFPをコードするレトロウイルスを感染させた。9日目および12日目において、多数の延長を示すGFP陽性細胞の蛍光画像を、倒立蛍光顕微鏡/コンピュータシステムを用いて所定の暴露時間で得た。そして、100細胞中の前血小板の数を算出した。(A)のバーの寸法は、100μmである。(B左)9日目のCD41+GFP+細胞数を、フローサイトメトリーで算出した。フローサイトメトリーにおけるドットプロットの側方散乱および前方散乱にしたがって、2つの任意の分析のゲートを以前に記載されるように適用した(Eto K,Murphy R,Kerrigan SW,Bertoni A,Stuhlmann H,Nakano T,Leavitt AD,Shattil SJ (2002) Megakaryocytes derived from embryonic stem cells implicate CalDAG−GEFI in integrin signaling.Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.99:12819−12824.)。示されている結果は、3つの独立した実験の平均±SDである。(B)に示されるように、ΔPH/R364E/ΔC−GFP形質導入された細胞は、成熟した巨核球を示し、そしてレトロウイルス感染の3日後前血小板の数が増えていた。さらに3日後、OP9細胞との共培養によって、(B右)に示されるように、前血小板の生成の増強を維持した。
【図5】図5は、Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞に由来する巨核球からの血小板フラグメンテーションを増加させることを示す図である。 12日目から14日目の成熟した巨核球から誘導されるフラグメント化した粒子を、本明細書における方法の欄に記載されるようにフローサイトメトリーによって計数した。示されているのは、GPIbα+GFP+の粒子の3日間の合計である。グラフの挿入箇所は、ドットプロットの例を示す。(結果)Lnk ΔPH/R364E/ΔC変異体は、ES細胞由来のGPIbα+血小板粒子の数を増加させたが、SH2変異体単独では増加させなかった。
【図6】図6は、マウス血小板におけるLnk発現およびLnk欠損マウスにおける尾部における出血時間の延長を示す図である。 (A)マウスlnkのcDNAをトランスフェクトしたCOS7細胞におけるタンパク質発現のウェスタンブロットおよび示された遺伝子型の血小板の分析。2%SDS含有RIPA緩衝液によって調製された25μgの各々の溶解物を、マウスLnkに対するポリクローナル抗体で評価した(Takaki,S.,Morita,H.,Tezuka,Y.,and Takatsu,K.2002.Enhanced hematopoiesis by hematopoietic progenitor cells lacking intracellular adaptor protein,Lnk.J.Exp.Med.195:151−160.)。(B)出血時間を、本明細書において方法の欄に記載されているように決定した。プロットされたデータは、正常なマウス(n=5)およびLnk欠損マウス(n=7)であった。
【図7】図7は、トロンビンおよびコラーゲンによる血小板凝集を示す図である。 洗浄し、静止させた血小板を、血小板凝集計に適用し、そしてトロンビン(0.1U/ml)またはコラーゲンI(0.5μg/ml)で活性化した。矢印は、アゴニストの添加を示す。示されるのは、3つの独立の実験の代表的な結果である。
【図8】図8は、表面に結合したコラーゲンのエキソビボの血栓形成を示す図である。 血液を、抗凝固剤としてアルガトロバンを用いてコントロールマウスまたはLnkヌルマウスから収集した。硝子製カバースリップを、不溶性の繊維型I型コラーゲンでコーティングし、そして平行のプレートフローチャンバー中に配置した。(A)コントロール(10匹のマウス)またはLnk欠損マウス(10匹のマウス)からの血小板数を調整なしで全血を、比較的高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバー中に適用した。連続記録からのコントロール(Lnk+/+)またはLnk欠損(Lnk−/−)における左の3つのフレームは、血液灌流の2分後、4分後および7分後における、コラーゲンコーティングされた表面(2次元;XY軸)を示す。コントロールおよびLnkヌルから形成された血栓が示されている。他方、Lnk欠損血液の三次元の画像(右フレーム:Z軸)は、コントロールのものの高さよりも比較的低い血栓を示した。(B)コントロールの血液に由来する赤血球および血漿とともにコントロールPRPまたはLnkヌルPRPからなる再構成した血液を、高い剪断速度(1500s−1)でフローチャンバーに適用した。Lnk欠損血小板を含有するサンプルにおける三次元画像(Z軸)は、血小板数をコントロールに5×105/μlに調整した場合でも、コントロールのものよりも低い血栓高さを示した。
【図9】図9は、Lnk欠損血液における灌流後の血栓表面積率、血栓高さを示す図である。 (A)表面積を、連続的なz軸切片から決定した。データは、1−2μmの高さの血栓における3つの独立した実験の平均を示す。 (B)データは、最大高さ(μm)における3つの独立した実験の平均を示す。
【図10】図10は、Lnkヌル血小板における種々のアゴニストによるインテグリンαIIβb3の活性化を示す図である。種々のアゴニストの添加後に活性化されたαIIβb3を、フローサイトメトリーにおいて、インテグリンαIIβb3に結合したAlexa488結合体化フィブリノーゲン結合によって分析した。非特異的な結合を、10mM EDTAの存在下で決定した。データは、5〜8回の独立した実験からの平均蛍光強度(FL−1チャネル)を示す。
【図11】図11は葉状仮足形成の欠損が、Lnkヌル血小板においてフィブリノーゲンに対して見られたことを示す図である。 血小板をLnk−/−およびコントロールマウスから得、そしてアゴニストなし;ADP(50μM)あるいはPAR4レセプター活性化ペプチド(1mM)とともに45分間にわたりフィブリノーゲン上に播いた。ついで、細胞を固定させ、透過させ、そしてFアクチン(赤)およびホスホチロシン(チロシンリン酸化;緑)について染色した。これを共焦点顕微鏡により分析した。矢頭は、糸状仮足を示す。バーは、10μmを示す。
【図12】図12は、Lnk機能の遮断により可能な造血幹細胞の機能制御の説明図。
【配列表フリーテキスト】
【0190】
(配列表の説明)
配列番号1は、Lnkの核酸配列である。
配列番号2は、Lnkのアミノ酸配列である。
配列番号3は、Lnkのドミナントネガティブ変異体の核酸配列である。
配列番号4は、Lnkのドミナントネガティブ変異体のアミノ酸配列である。
配列番号5は、SCFの核酸配列である。
配列番号6は、SCFのアミノ酸配列である。
配列番号7は、Lnk変異体R364Eの核酸配列である。
配列番号8は、Lnk変異体R364Eのアミノ酸配列である。
配列番号9は、Lnk変異体ΔPHの核酸配列である。
配列番号10は、Lnk変異体ΔPHのアミノ酸配列である。
配列番号11は、Lnk変異体ΔNの核酸配列である。
配列番号12は、Lnk変異体ΔNのアミノ酸配列である。
配列番号13は、Lnk変異体Y536Fの核酸配列である。
配列番号14は、Lnk変異体Y536Fのアミノ酸配列である。
配列番号15は、R364Eの作製に用いたプライマーである。
配列番号16は、R364Eの作製に用いたプライマーである。
配列番号17は、ΔPHの作製に用いたプライマーである。
配列番号18は、ΔPHの作製に用いたプライマーである。
配列番号19は、ΔNの作製に用いたプライマーである。
配列番号20は、ΔNの作製に用いたプライマーである。
配列番号21は、Y536Fの作製に用いたプライマーである。
配列番号22は、Y536Fの作製に用いたプライマーである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板を生産する方法であって:該方法は:
A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および
B)該血小板前駆細胞を分化させる工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害は、前記Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害は、レトロウイルスによって、Lnk活性を抑制することのできる変異型Lnkを導入することにより達成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記Lnkは配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記B工程において、幹細胞因子(SCF)に前記血小板前駆細胞を接触させる工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害は、Lnkの核酸レベルによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害は、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記阻害は、Lnkの産物レベルによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害は、Lnkの抗体による阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択される、少なくとも1つの特徴を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法によって生産された、血小板。
【請求項15】
血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法であって、
A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;および
B)該選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する該物質を選択する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
Lnkまたはその機能が損傷した血小板を含む組成物。
【請求項17】
前記組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子。
【請求項19】
前記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、請求項18に記載の因子。
【請求項20】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物。
【請求項21】
前記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記因子は、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸である、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用。
【請求項25】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用。
【請求項1】
血小板を生産する方法であって:該方法は:
A)血小板前駆細胞におけるLnkまたはその等価物の機能を阻害する工程;および
B)該血小板前駆細胞を分化させる工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞および巨核球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害は、前記Lnkまたはその等価物のドミナントネガティブ法による阻害を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害は、レトロウイルスによって、Lnk活性を抑制することのできる変異型Lnkを導入することにより達成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記Lnkは配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはそれらの改変体または断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記B工程において、幹細胞因子(SCF)に前記血小板前駆細胞を接触させる工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害は、Lnkの核酸レベルによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害は、LnkのアンチセンスまたはRNAiによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記阻害は、Lnkの産物レベルによる阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害は、Lnkの抗体による阻害によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記血小板前駆細胞は、胚性幹細胞から誘導された巨核球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記誘導は、OP9間質細胞上での培養および二極性血管芽細胞との共培養によって達成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記巨核球への分化において、A)血管芽細胞(VEGFタイプ2受容体;Flk−1,KDR)かつc−kit陽性細胞から分化成熟すること;B)OP9ストローマ細胞との物理的な接触が、巨核球への分化成熟に必須であること;およびC)血小板産生はOP9ストローマ細胞上においても可能であるが、OP9との接触を除いた条件にすることで促進されることからなる群より選択される、少なくとも1つの特徴を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法によって生産された、血小板。
【請求項15】
血小板の生成の速度を調節する物質をスクリーニングする方法であって、
A)LnkまたはLnkプロモータと相互作用する物質を選ぶ工程;および
B)該選ばれた物質を血小板前駆細胞に接触させて分化するかどうかを決定し、分化調節作用を有する該物質を選択する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
Lnkまたはその機能が損傷した血小板を含む組成物。
【請求項17】
前記組成物は、粘性の高い血液を有する患者の処置に使用される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子。
【請求項19】
前記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、請求項18に記載の因子。
【請求項20】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子を含む、血小板の生成の速度を調節するための組成物。
【請求項21】
前記因子は、ドミナントネガティブ因子、プロモーターの結合因子、RNAi、抗体および低分子からなる群より選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記因子は、Lnkまたはその遺伝子産物の機能的変異体である、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記因子は、配列番号3に記載されたヌクレオチド配列を有する改変体核酸である、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための使用。
【請求項25】
Lnkまたはその遺伝子産物を阻害する因子の、血小板生成の速度の調節のための組成物の製造のための、使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−89432(P2007−89432A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280990(P2005−280990)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【Fターム(参考)】
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