説明

幼児用調製乳

オステオポンチンを含む幼児用調製乳、および、幼児用調製乳またはベビーフードのためのサプリメントとしてのオステオポンチンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オステオポンチン(osteopontin)で補充した幼児用調製乳またはベビーフード、および、幼児用調製乳またはベビーフードにおけるオステオポンチンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
幼児用調製乳が、母乳と同様の免疫刺激効果を有していないことは良く知られている。それゆえ、母乳で育てられた赤ん坊は、ミルクで育てられた赤ん坊に比べて、アレルギーおよびアトピー性皮膚炎の発症が少ないのと同時に、感染症にもあまりかからない。この理由のため、幼児用調製乳は、可能な限りヒトの母乳に近づけるような試みが行なわれてきた。これは、「ヒト化」幼児用調製乳と呼ばれる。
【0003】
オステオポンチン(OPN)は、乳を産生する哺乳類、例えばヒトおよびウシの乳に存在するタンパク質である。
【0004】
今までのところ、ヒトの母乳およびウシの乳は、ほとんど同じ濃度でOPNを含むと考えられてきた。それゆえ、幼児用調製乳をヒト化するために、幼児用調製乳に余分なOPNを加えることは提案されてこなかった。
【0005】
ヒトの母乳におけるOPNの含量は、約3-10mg/リットルと見積もられていた。驚くべきことに、最近、ヒトの母乳は、平均で、約25-300mg/リットル、すなわち約5-10倍もウシの乳よりもOPNが多いことが見出された。個人による差異は生じる。
【0006】
また、OPNは、Th-1応答の獲得において重要な機能を有していることが見出された。幼児は、生まれたときから、母親から受け取った抗体に基づいて、主にTh-2応答を有しており、幼児における免疫応答の成熟は、Th-1応答の誘導/獲得によってもたらされる。それゆえ、OPNは、幼児用調製乳のために、ヒトの母乳における必須成分であると考えられている。
【0007】
OPNは、バイオミネラル化、炎症、白血球動員および細胞生存を含む複数の臓器および組織の生理学的工程および病理学的工程の両方に関与している、多機能タンパク質である(Mazzali M, Kipari T, Ophascharoensuk V, Wesson JA, Johnson R, Hughes J. 2002. Osteopontin - a molecule for all reasons. Q.J. 95:3-13; Denhart DT, Giachelli CM, Rittling SR. 2001. Role of osteopontin in cellular signaling and toxicant infury. 41:4723-49を参照せよ)。OPNは、多くの細胞のタイプおよび上皮細胞で発現している。したがって、OPNは、その存在が分析された大部分の組織および器官に存在している。OPNは、ヒトの体液(例えば血液、血漿、胆汁、尿および乳)に比較的高濃度で含まれている。OPNは、特に細胞の機能に対応した組織特異的アイソフォーム、例えばタンパク質切断型、リン酸化-およびグリコシル化バリアント等で存在している。
【0008】
最も良く特徴付けられた形態のタンパク質である、ウシの乳のOPNは、27個のホスホセリン、1個のホスホスレオニンおよび3個のO-グリコシル化スレオニンを含む(Sorensen ES, Hojrup P, Petersen T. 2995. Posttranslational modifications of bovine osteopontin: Identification of twenty-eight phosphorylation and three O-glycosylations sites. Protein Sci. 4:2040-2049)。全てのリン酸化は、乳腺カゼインキナーゼおよびカゼインキナーゼ2の酸性認識配列に位置づけられる(Sorensen ES, Petersen TE. 1994. Identification of two phosphorylation motifs in bovine osteopontin. Biochem. Biophys. Res. Comm. 198:200-205)。
【0009】
ウシおよびヒトのOPNは、種間で保持されている機能エレメントについて非常に相同性が高い。この2つのタンパク質のアライメントを図1に示す。Arg-Gly-Aspインテグリン結合配列は、細胞受容体へ結合する役割を有しており、ポリアスパラギン酸リッチな領域は、ヒドロキシアスパラギン酸、カルシウム塩およびイオンへの結合に関与しており、そして、最も興味深いことに、ウシOPNをリン酸化することが示されている乳腺カゼインキナーゼの認識配列に位置するほとんど全てのセリン残基が、ヒト配列にも存在する。同様に、ウシタンパク質内でグリコシル化されていることが示されたスレオニン残基は、ヒトの対応する部分にも存在する。この転写後修飾の部位およびモチーフの保存は、ヒトOPNの消化によって形成されることができる生物活性ペプチドが、ウシの消化によっても恐らくは形成されていることを示している。それゆえ、ウシタンパク質は、例えば幼児用調製乳およびベビーフードの栄養価を高めるのに非常に適していると考えられている。
【0010】
WO 02/28413には、陰イオン交換による乳タンパク質の酸性タンパク質画分の精製、および、骨健康組成物におけるこの画分の使用が開示されている。開示された画分は、たくさんのマイナーなホエイタンパク質が含まれている。これらは、プロテオースペプトンコンポーネント3、プロテオースペプトンコンポーネント5(PP5)(ベータ-カゼイン-5P(f1-105)またはベータ-カゼイン-5P(f1-107)としても知られている)、プロテオースペプトン8-slow(PP8-slow)(ベータ-カゼイン-1P(f29-105)またはベータ-カゼイン-1P(f29-207)としても知られている)、シアル化およびリン酸化タンパク質アルファ-s1-カゼインホスホペプチドならびにオステオポンチン、ならびにこれらのタンパク質に由来するペプチドの混合物、そして少量のベータ-ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミンおよびイムノグロブリンを含む。記載されているタンパク質画分は、骨欠損の治療および/または防止のための機能食品の製造のための使用である。明細書では、タンパク質画分の活性な成分としてオステオポンチンを同定しておらず、オステオポンチンまたは記載されたタンパク質画分の、免疫刺激目的のための使用、または、幼児用調製乳のヒト化のための使用は開示されていない。
【0011】
Senger DR, Perruzzi CA, Papadopoulos A, Tenen DG. 1989. Biochem. Biophys. Acta. 996: 43-48. Purification of a human milk protein closely similar to tumor secreted phosphoproteins and osteopontinには、ヒトの母乳におけるオステオポンチンの存在および精製が開示されている。著者らは、ヒト母乳のオステオポンチンの濃度が3-10mg/リットルの範囲であると見積もっている。この見積もりは、本発明で測定する値よりも10倍以上低い。
【0012】
Dhanireddy R, Senger R, Mukherjee BB, Mukherjee AB. 1993. Acta Paediatr. 82: 821-2. Osteopontin in human milk from mothers of premature infantsには、早産児を産んだ場合の母乳におけるオステオポンチンの存在が開示されている。母乳サンプルは、ウェスタンブロッティングで特徴づけされている。サンプル中のOPNの濃度は求めていない。母乳のOPNの存在は、カルシウム運搬に関連してのみ論じられている。
【0013】
Sorensen S, Justesen SJ, Johnsen, AH. 2003. Protein Expression and Purification 30: 238-245. Purification and characterization of osteopontin from human milkには、ヒト母乳のオステオポンチンの精製のための新規のプロトコールが開示されている。論文には、オステオポンチンに由来する幾つかの断片およびペプチドの精製だけでなく、幼児の全長のオステオポンチンが開示されている。ヒトの母乳におけるオステオポンチンの濃度の見積もりは、前記方法によって精製された量に基づいて行っており、Senger et al. 1989の知見と大まかには一致している。これは、本発明のサンドイッチELISAによって我々が測定したオステオポンチンの値よりも10倍以上低いものである。論文では、また、オステオポンチンに対するポリクローナル抗体の産生が開示されているが、これらは乳中のオステオポンチンの正確な量を求めるのには使用していない。論文では、単に、標準的な方法によるオステオポンチンおよびオステオポンチンバリアントの調製方法、抗体産生ならびに機能の研究しか開示していない。論文では、乳、幼児用調製乳または他の食品に関連したオステオポンチンの潜在的な使用、または機能については、論じられておらず、開示もされていない。
【0014】
従来技術におけるOPN濃度を求めるアッセイによると、3-10mg/リットルの範囲の含有量であると見積もられている。しかしながら、乳中のOPN濃度を求めるアッセイは、例えばタンパク質が形成する凝集による妨害が原因で、実施することが困難である。それゆえ、乳中のOPN含量は、正確には求まっていない。このため、アレルギー発症に対抗する有益な保護効果を有する母乳と類似する製品を得るためには、OPNは、幼児用調製乳には加えられてこなかった。それゆえ、幼児用調製乳には、現在のところ、Th1応答の獲得を増すことができる免疫刺激因子は付与されていない。
【特許文献1】WO 02/28413
【特許文献2】WO 01/49741
【非特許文献1】Mazzali M, Kipari T, Ophascharoensuk V, Wesson JA, Johnson R, Hughes J. 2002. Osteopontin - a molecule for all reasons. Q.J. 95:3-13
【非特許文献2】Denhart DT, Giachelli CM, Rittling SR. 2001. Role of osteopontin in cellular signaling and toxicant infury. 41:4723-49
【非特許文献3】Sorensen ES, Hojrup P, Petersen T. 2995. Posttranslational modifications of bovine osteopontin: Identification of twenty-eight phosphorylation and three O-glycosylations sites. Protein Sci. 4:2040-2049
【非特許文献4】Sorensen ES, Petersen TE. 1994. Identification of two phosphorylation motifs in bovine osteopontin. Biochem. Biophys. Res. Comm. 198:200-205
【非特許文献5】Senger DR, Perruzzi CA, Papadopoulos A, Tenen DG. 1989. Biochem. Biophys. Acta. 996: 43-48. Purification of a human milk protein closely similar to tumor secreted phosphoproteins and osteopontinには
【非特許文献6】Dhanireddy R, Senger R, Mukherjee BB, Mukherjee AB. 1993. Acta Paediatr. 82: 821-2. Osteopontin in human milk from mothers of premature infants
【非特許文献7】Sorensen ES, Petersen TE, 1993, Purification and characterization of three proteins isolated from the proteose peptone fraction of bovine milk, J. Dairy Res. 60: 189-197
【非特許文献8】Senger DR, Perruzzi CA, Papadopoulos A, Tenen DG, 1989, Purification of a milk closely similar to tumor-secreted phosphoproteins and osteopontin. Biochem. Biophys. Acta 996: 43-48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、OPNが、ウシの乳に比べてヒトの母乳で高いレベルで存在するという驚くべき発見に基づく。乳中のOPN含量についての以前になされていた見積もりは、ウェスタンブロッティング分析およびタンパク質精製に基づき、3-10mg/リットルであった。乳OPNに対する定量ELISAの開発によって、乳中のOPN濃度に関する新たな見解が得られた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明によって、哺乳類、ヒトおよび非ヒトの乳オステオポンチンで補充した幼児用調製乳が供給される。全ての既知の幼児用調製乳に、サプリメントとしてOPNを含むことができ、または、Th1応答の獲得を促進し幼児の免疫機能の異常性を減少させる調製乳とは別に、幼児にOPNを付与することができる。
【0017】
幼児用調製乳において、または、幼児用調製乳とは別である場合において、幼児に与えるオステオポンチンの量は、ヒトの母乳に見られる量と同程度とすることができる。オステオポンチンは、ウシ乳および大豆に基づく幼児用調製乳などのヒトの幼児用調製乳、ならびに、Nestleが販売しているNAN(登録商標)などのベビーフードへ導入することができる。
【0018】
スターター調製乳(starter formula)、フォローオン調製乳(follow-on formula)およびLBW調製乳として製造された幼児用調製乳は、全て、乳OPNを含むことができる。幼児用調製乳は、好ましくは、ヒト母乳の乳OPNの量に対応する、総タンパク質含量の少なくとも1%の量で乳OPNを含むべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
母親による授乳ではなく、幼児用調製乳によって育てられた新生児の大部分が、Th1免疫応答の獲得が遅れ、それによってアレルギー応答の危険が増している。非授乳の新生児に、ヒトの乳と同程度の量の乳OPNで補充した幼児用調製乳を与えたところ、Th1免疫応答の誘導が生じるようである。
【0020】
それゆえ、本発明は、オステオポンチンで補充した幼児用調製乳またはベビーフードを提案する。
【0021】
幼児用調製乳は、好ましくは、ヒトまたはウシの乳から得られたオステオポンチンを含む。しかしながら、幼児用調製乳は、また、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、ヒトコブラクダまたはラマなどの他の動物の乳に由来するオステオポンチンで補充することもできる。
【0022】
好ましくは、幼児用調製乳は、総タンパク質含量の1%に相当する量でオステオポンチンを含む。3%でも使用することができ、好ましくは、1.5%、2%または2.5%を超える量で使用することができる。このような量によって、レディトゥフィード(ready to feed)調製乳において、少なくとも25-300mg/リットルの乳オステオポンチンがもたらされる。50-250mg/リットルが好ましく、特に、100-200mg/リットルが好ましい。130-150mg/リットルが最も好ましい。多くの場合において、130mg/リットルが、最良の幼児用調製乳を与えると考えられる。
【0023】
本発明の他の側面は、幼児用調製乳またはベビーフードにおけるサプリメントとしての乳オステオポンチンの使用である。
【0024】
また、特定の免疫不全は、過剰な乳オステオポンチンを補充した調製乳を付与することによって、治療できると考えられている。
【0025】
記載するように、乳オステオポンチンは、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、ラマおよびヒトコブラクダなどの全ての哺乳類から得ることができる。オステオポンチンは、好ましくは、ヒトまたはウシ乳を精製することによって得られる。
【0026】
オステオポンチンは、全ての既知の幼児用調製乳、すなわち、スターター調製乳、フォローオン調製乳およびLBW-調製乳および早産児用調製乳(premature formula)に適用することができる。
【0027】
乳オステオポンチンの濃度は、地理、民族、ライフスタイル、食料等に依存するであろう。
【0028】
また、乳オステオポンチンは、食用家畜、家畜(ブタ、ウシ、ウマなど)、ペットおよび動物園の動物などのヒト以外の他の哺乳類に与える幼児用調製乳に適用することもできる。
【0029】
分娩後異なる日数のヒト母乳は、分娩後の異なる日における母乳のオステオポンチン濃度の測定として使用することができる。この測定は、例えば、スターター調製乳、フォローオン調製乳およびLBW-調製乳において異なるOPNを有するために、使用することができる。
【0030】
母乳中のOPN含量を測定し、必要であるならば余分な乳OPNで補充し、自分自身の子供または他の子供に与えることもできる。
【0031】
母乳中のOPNの測定は、ELISAまたはウェスタンブロッティング分析などの他の免疫学的手法を用いて実施することができる。
【0032】
ELISAは、多くの異なる実施態様で実施することができ、それらの多くは、本発明に適用することができる。特に本発明での使用に適した、一つのELISAの実施態様は、ネイティブな乳OPNに特異的な抗体を使用することである。
【0033】
本発明の幼児用調製乳は、乳から単離された乳OPNで補充されているが、乳OPNは、「乳-OPN」で見られるリン酸化パターンを産生する適切な細胞でのリコンビナント手法によって調製することができることは明らかであろう。発現のための好ましい細胞は、乳腺の細胞である。なぜならば、これらの細胞は同じまたは実質的に同じリン酸化パターンを産生することが予期されるからである。
【0034】
幼児用調製乳は、母乳と同等の免疫刺激効果を有しておらず、母乳で育てられた赤ん坊は、ミルクで育てられた赤ん坊に比べて、アレルギーおよびアトピー性皮膚炎の発症が少ないのと同時に、感染症にもあまりかからないことが良く知られている。一つの理由は、母乳が多量のOPNを含むことであろう。
【0035】
(定義)
本願明細書において使用される用語「オステオポンチン」または「OPN」は、乳に由来するオステオポンチンのために使用し、乳中でタンパク質分解された天然に存在するOPNに由来の断片またはペプチド、または、WO 01/49741に提案されている方法によって得られる、スプライシングされた、リン酸化された、もしくはグリコシル化されたバリアントを含む。
【0036】
乳OPNは、哺乳類の乳サンプルから精製および得られたOPNである。
【0037】
哺乳類の乳は、ヒト、ならびに、ウシ、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、ヒトコブラクダおよびラマなどの任意の乳産生動物に由来する乳である。
【0038】
母乳:(健康な)ヒトの母親から集めた乳。
【0039】
幼児用調製乳は、幼児に必要な栄養素をカバーする調製乳である。
【0040】
スターター調製乳:最初の4-6ヶ月内に必要な栄養素をカバーする赤ん坊のための調製乳。
【0041】
フォローオン調製乳:最初の4ヶ月経過後に必要な栄養素をカバーする赤ん坊のための調製乳。
【0042】
LBW(低出生体重:low birth weight)調製乳:出生時の体重が軽い幼児に必要な栄養素をカバーする調製乳。
【0043】
早産児用調製乳:早産児に必要な栄養素をカバーする調製乳。
【0044】
本発明は、更に、以下の非制限の実施例を参照して例示する。
【実施例】
【0045】
(乳サンブルの回収および処理)
ヒトの母乳サンプルを、分娩後10-58日の健康な10人の母親から回収した。乳を搾乳機によって回収し、各搾乳から2mlをサンプリングし、全ての日の乳を得るためにプールした。高速遠心することによって、全乳からクリームを抽出し、脱脂乳と分離した。脱脂乳を0.2ml画分に分注し、直接分析するか、必要なときまで-20℃で凍結した。
【0046】
プールした新鮮なウシの乳を、地方の搾乳場で得た。乳を4ヶ月の期間で四回入手し、それぞれ加工した。クリームを遠心によって取り除き、乳サンプルを必要なときまで-20℃で凍結した。
【0047】
(乳中の総タンパク質の濃度の測定)
全ての乳サンプルにおけるタンパク質濃度を、スタンダードとしてウシ血清アルブミンを用いたブラッドフォード法によって求めた。製造者によって供給される説明書にしたがって、分析を行った。
【0048】
(乳中のOPNのためのELISA)
個々の乳および市販の幼児用調製乳におけるOPNの濃度を、サンドイッチELISAによって測定した。このアッセイのために、ウシおよびヒトOPNに対する、ウシおよびヒトの乳から精製したネイティブなOPNに対する抗血清を、それぞれ、Dako(Glostrup, Denmark)においてウサギで調製した。ウシOPNは、原則的に、記載されているように(Sorensen ES, Petersen TE, 1993, Purification and characterization of three proteins isolated from the proteose peptone fraction of bovine milk, J. Dairy Res. 60: 189-197)、精製した。ヒト乳OPNは、原則的に、記載されているように(Senger DR, Perruzzi CA, Papadopoulos A, Tenen DG, 1989, Purification of a milk closely similar to tumor-secreted phosphoproteins and osteopontin. Biochem. Biophys. Acta 996: 43-48)、精製した。更に高純度とするために、ウサギへの免疫前に、両方のタンパク質を逆相クロマトグラフィーに供した。抗血清のIgG画分を、コンカバリンAアフィニティによって精製し、直接ELISAに用い、または、高い特異性の抗体を得るためにOPNアフィニティカラム上で精製した。抗体の特異性を、乳サンプルおよび精製OPNのウェスタンブロッティング分析によってチェックし、確認した。開発したELISAは、検出限界が<5ng/ml乳であり、10-300ng/mlの範囲で直線性を有するというように、非常に高感度であり、したがって、乳サンプルを分析前に、2000-23000倍希釈した。全てのサンプルを、測定ごとに6-12倍希釈して三サンプルずつ測定した。ELIAの信頼性を、既知の量のOPNをスパイクした乳サンプルによって確認したところ、これらの測定で使用される範囲においてはスパイクしたOPNの量が完全に検出でき、本アッセイは定量的であることが示された。同様に、ヒト乳サンプルからのOPNの精製によって、ELISAによって測定した濃度と一致するOPN収率が示された。
【0049】
(ウシ乳中のOPNの濃度)
プールしたウシ乳のOPNのレベルを、4ヶ月間で四回測定した(表1)。OPN濃度の平均は、18.28mg/リットルであった。文献に従うと、総タンパク質は35,000mg/リットルであった。ウシ乳中のOPN含量は、総タンパク質の0.05%(w/w)である。
【0050】
【表1】

【0051】
(ヒト乳中のOPN濃度)
25-35歳(平均29歳)の10人の母親からの乳を、分娩後10-58日後にサンプリングし(分娩後平均21.6日)、OPNおよび総タンパク質を分析した。データを表2にまとめる。母乳のOPNは、22.44mg/リットルから257.35mg/リットルの範囲であり、平均は138.5mg/リットルであった。乳中の総タンパク質の濃度は、8327mg/リットルから13268mg/リットルの範囲であり、平均は10821mg/リットルであった。OPNは、平均して、ヒト乳中の総タンパク質の1.3%(w/w)を占め、一人の母親においては、乳タンパク質の3%を越えてOPNが存在した。
【0052】
【表2】

【0053】
個々の母親において、総タンパク質に関連したOPN濃度は極めて様々であった。全ての母親において、OPN/総タンパク質の比率は、ウシ乳の対応する値よりも顕著に高かった。これらの測定により、ヒト乳中の総タンパク質に関連した平均OPN濃度(1.3%)が、ウシ乳と比較して(0.05%)、約26倍高いことが示された。ヒトの平均値は、個人差において、ウシの値の4から62倍の範囲をカバーしている。
【0054】
(市販の幼児用調製乳におけるOPN濃度)
125g/リットルに基づき、mg OPN/リットル レディトゥフィード調製乳としてデータを計算した。
【0055】
【表3】

【0056】
(ウシオステオポンチンによるヒト腸細胞におけるIL-12発現の誘導)
ヒトの腸細胞は、原則的に、記載されているように(Agnholt J, Kaltoft K, 2001. Infliximab downregulates interferon production in activated gut T-lymfocytes form patients with Crohn’s diseas. Cytokine. 15: 212-222)、入手し、IL-2およびIL-4存在下で培養した。IL-2およびIL-4の存在下での培養によって、受容体;TCRαβ+、CD4+CD45RO+の発現などの保存された細胞特性を有するT細胞の増殖が促進された。
【0057】
細胞培養ウェルを、1ml(1mg/ml)のオステオポンチンPBS溶液およびPBSで、それぞれ、一晩4℃でコーティングした。ウェルを空にし、T細胞をウェル内で(106細胞/ml)24時間培養し、その後、細胞上清溶液を分析のためにサンプリングした。
【0058】
IL-12の測定のためのサイトカインを合わせた抗体ペアを、R&D Systemsから購入した。検出抗体は、全てビオチン化した。ユーロピウム(Eu3+)をラベルしたストレプトアビジンおよびDelphia 1234フルオロメーター(Wallac, Turku, Finland)を適用した時間分解蛍光アッセイを使用して、IL-12含量を求めた。得られた値は、3サンプルを用いた実験により3つのELISA測定値の平均値とした。
【0059】
【表4】

【0060】
表3および図2に示すように、IL-12の顕著な増加が、ネイティブなウシオステオポンチンで刺激したヒト免疫細胞において観察することができた。
【0061】
ここで、我々は、ネイティブなウシOPNが、活性化されていない腸の免疫細胞においてTh-1サイトカインIL-12の発現を誘導できることを示し、このことは、腸の免疫を調整する役割を有することを強く示している。
【0062】
(OPNを含む幼児用調製乳の混合物)
100-300mg/リットルレベルのOPNは、以下の実施例における、幼児用調製乳のための適した量であると考えられる。しかしながら、本発明の範囲は、この量に制限するものではない。なぜならば、食料、ライフスタイル、地理、民族などが原因で、ヒト母乳組成物には変動が存在するからである。
【0063】
幼児用調製乳のためのEUの法規および勧告に基づいて調製された幼児用調製組成物は、本発明の実施例に挿入される。
【0064】
このことと関連して、製品の他の部分は変化しないと予想されるので、我々は、計算された量のタンパク質のみを考慮する。我々は、全ての製品に100mg OPN/1000mlを適用するように選択したが、タンパク質レベルそのものにしたがってOPNを適用することは、本発明の範囲内であり、可能である。
【0065】
ウシ乳は、15-20mg/リットルの範囲のOPNを含み、これは、本発明の実施例において測定されたヒト乳中のOPN含量(平均138.4mg/リットル)よりも5倍低い。15-20mg/リットルの範囲のOPNは、ウシ乳の総タンパク質含量の0.05%に対応する。この数値は、本発明の実施例におけるヒト乳の測定値である1.3%(OPN/総タンパク質)よりも、約26倍低い。
【0066】
我々は、我々の計算から、OPNは乳のホエイ部分に含まれており、それゆえ、そのレベルは、約18mg/100g乳粉末、および、約360mg/100gWPC80粉末であると想定した。
【0067】
以下の実施例の幾つかにおいて、我々は、追加のOPN量によってホエイタンパク質の部分を減少させた。これは、糖タンパク質が、約pH6.2でのレンネットカゼインの沈殿下、および、pH4.6での酸性カゼインの沈殿下で、ホエイに従うからである。
【0068】
幼児用調製乳のためのタンパク質レベルは、以下のように計算することができる:
<スターター調製乳>
スターター調製乳は、最初の4-6ヶ月内に必要な栄養素をカバーする赤ん坊のための食物を意味する。
【0069】
<EU内におけるタンパク質含有量のための規制要件>
情報源:新生児および赤ん坊のための幼児用調製乳およびサプリメントに関するAnnouncement no.202:
【0070】
<タンパク質>
タンパク質含量=窒素含量×6.38(ウシ乳タンパク質である場合)
タンパク質含量=窒素含量×6.25(豆乳タンパク質単離物および部分的に加水分解したタンパク質である場合)
【0071】
化学指標とは、対象とするタンパク質中の必須アミノ酸の量およびリファレンスタンパク質中の対応するアミノ酸の量の間の最も低い比率を意味する。
【0072】
【表5】

【0073】
同じエネルギー含量において、製品は、リファレンスタンパク質(添付書類6において定義されている母乳)として、使用可能な量の必須アミノ酸およびセミ必須アミノ酸を含有すべきである;計算においては、メチオニンおよびシステインを加えることができる。
【0074】
【表6】

【0075】
同じエネルギー含量において、製品は、リファレンスタンパク質(添付書類6において定義されている母乳)として、使用可能な量の必須アミノ酸およびセミ必須アミノ酸を含有すべきである;計算においては、メチオニンおよびシステインを加えることができる。
【0076】
タンパク質効率(PER)および正味タンパク質利用率(NPU)は、少なくともカゼインに相関させるべきである。タウリン含量は、少なくとも10μmol/100kJ(42μmol/100kcal)であり、L-カルニチン含量は、少なくとも1.8μmol/100kJ(7.5μmol/100kcal)であるべきである。
【0077】
【表7】

【0078】
大豆タンパク質単離物のみが、これらの幼児用調製乳に使用することができる。タンパク質の化学指標は、リファレンスタンパク質(Announcementにおける添付書類7において定義されている母乳)の少なくとも80パーセントであるべきである。
【0079】
同じエネルギー含量で、製品は、ファレンスタンパク質(母乳)と同程度の使用可能な量のメチオニンを含有すべきである。L-カルニチンの含量は、少なくとも1.8μmol/100kJ(7.5μmol/100kcal)にすべきである。
【0080】
アミノ酸は、栄養価を増すために、目的を達成するのに必要な比率のみで製品に適用することができる。
【0081】
例:スターター調製乳の混合物
エネルギー:2200kJ/100g(525kcal/100g)
再構成:リットル当り125g
【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
<フォローオン調製乳>
<EU内におけるタンパク質含有量のための規制要件>
情報源:新生児および赤ん坊のための幼児用調製乳およびサプリメントに関するAnnouncement no.202:
【0085】
<タンパク質>
タンパク質含量=窒素含量×6.38(ウシ乳タンパク質である場合)
タンパク質含量=窒素含量×6.25(豆乳タンパク質単離物)
【0086】
化学指標とは、対象とするタンパク質中の必須アミノ酸の量およびリファレンスタンパク質中の対応するアミノ酸の量の間の最も低い比率を意味する。
【0087】
【表10】

【0088】
タンパク質の化学指標は、リファレンスタンパク質(Announcementにおける添付書類7において定義されている母乳)の少なくとも80パーセントであるべきである。大豆タンパク質単離物のみが、これらの幼児用調製乳に使用することができる。アミノ酸は、栄養価を増すために、目的を達成するのに必要な比率のみで製品に適用することができる。
【0089】
同じエネルギー含量において、製品は、リファレンスタンパク質(添付書類6において定義されている母乳)として、使用可能な量の必須アミノ酸およびセミ必須アミノ酸を含有すべきである;計算においては、メチオニンおよびシステインを加えることができる。
【0090】
例:
エネルギー:2170kJ/100g(520kcal/100g)
再構成:リットル当り150g
【0091】
【表11】

【0092】
【表12】

【0093】
<低出生体重(LBW)赤ん坊のための幼児用調製乳>
現在、この領域の規制はないが、現在進行中である。LBW赤ん坊のための幼児用調製乳の製造者は、現在、小児科医および「欧州連合におけるマーケティングのための、低出生体重調製乳の組成物に対するガイドラインについてのIDACE提案」から勧告を受けている。これらのガイドラインは、EUにおける来るべき法律のベースとなると予想されている。
【0094】
<タンパク質>
タンパク質含量=窒素含量×6.38(ウシ乳タンパク質および加水分解ウシ乳タンパク質である場合)
【0095】
【表13】

【0096】
調製乳は、少なくともリファレンスタンパク質(母乳)と同程度の使用可能な量の必須アミノ酸およびセミ必須アミノ酸を含有しなければならない。標準的な幼児用調製乳と対照的に、メチオニンおよびシステインの量は、計算目的で加えることができない。
【0097】
タウリン含量は、少なくとも1.3mg/100kJ(5.3mg/100kcal)とすべきである。
【0098】

エネルギー:315kJ/100ml(75kcal/100ml)
再構成:リットル当り150g
【0099】
【表14】

【0100】
【表15】

【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】ヒトおよびウシOPNのアライメントを示す。一致は2つの点で表し、相同的なアミノ酸は1つの点で表す。ウシOPN中のリン酸化残基は、太字で示す。ウシ配列中のRGD(Arg-Gly-Asp)インテグリン結合トリプレットおよびグリコシル化を含む領域は下線をひく。
【図2】ウシOPNを用いて刺激した後の、ヒトの腸のT細胞におけるIL-12発現を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳オステオポンチンで補充した幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項2】
前記乳オステオポンチンが、ヒトまたはウシの乳から得られる、請求項1に記載の幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項3】
前記乳オステオポンチンが、総タンパク質含量の少なくとも1%である、請求項1または2に記載の幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項4】
前記乳オステオポンチンが、レディトゥフィード調製乳中で少なくとも25-300mg/リットルとなる量で含まれている、請求項1から3のいずれか一項に記載の幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項5】
前記幼児用調製乳が、スターター調製乳である、請求項1から4のいずれか一項に記載の幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項6】
前記幼児用調製乳が、フォローオン調製乳である、請求項1から5のいずれか一項に記載の幼児用調製乳またはベビーフード。
【請求項7】
幼児用調製乳またはベビーフードにおけるサプリメントとしての、乳オステオポンチンの使用。
【請求項8】
前記乳オステオポンチンが、ヒトまたはウシの乳から得られる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記乳オステオポンチンが、総計で総タンパク質含量の少なくとも1%である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記乳オステオポンチンが、レディトゥフィード調製乳中で少なくとも25-300mg/リットルとなる量である、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記幼児用調製乳が、スターター調製乳である、請求項7から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記幼児用調製乳が、フォローオン調製乳である、請求項7から10のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−505610(P2007−505610A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526518(P2006−526518)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000622
【国際公開番号】WO2005/025333
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(501295969)アルラ・フーズ・エイ・エム・ビィ・エイ (11)
【Fターム(参考)】