説明

広帯域レーダ装置

【課題】本発明は、広帯域レーダ装置に関し、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することにある。
【解決手段】広帯域信号を送信する送信機と、送信機から送信された広帯域信号の反射波を受信する受信機と、を備え、受信機に受信された反射波における周波数帯域が互いに異なる複数のサブバンド信号をハンド幅合成した結果に基づいて、物標を認識する広帯域レーダ装置において、受信機に受信される干渉波を検出すると共に、干渉波が検出された場合に、その干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号を、物標を認識するうえでバンド幅合成すべき周波数帯域のサブバンド信号から除外する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域レーダ装置に係り、特に、複数の互いに異なる周波数帯域のサブバンド信号を送信する送信機と、その送信機から送信されたサブバンド信号の反射波を受信する受信機と、を備え、受信機に反射波として受信された各周波数帯域のサブバンド信号をハンド幅合成した結果に基づいて物標を認識する広帯域レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物などの物標を認識するレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーダ装置においては、電波が送信されると共に、その反射波が受信される。そして、送信信号と受信信号との関係に基づいて物標が認識される。例えば、送信信号の送信から受信信号の受信までの時間に基づいて物標との距離及び物標の速度が検出される。また、このレーダ装置においては、他のシステムで使用されている電波とのレーダ干渉を防止すべく、送信機からの電波の送信が物標を認識するのに必要な時間だけ行われる。
【特許文献1】特開平6−138217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したレーダ装置では、レーダ干渉が実際に生ずると、送信信号と受信信号との関係が正規の物標を表したものから乖離してしまうので、その物標との距離や速度が誤検出されるおそれがある。
【0004】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能な広帯域レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、広帯域信号を送信する送信機と、前記送信機から送信された広帯域信号の反射波を受信する受信機と、を備え、前記受信機に受信された反射波における周波数帯域が互いに異なる複数のサブバンド信号をハンド幅合成した結果に基づいて、物標を認識する広帯域レーダ装置であって、前記受信機に受信される干渉波を検出する干渉波検出手段と、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、物標を認識するうえでの干渉波による影響を抑制する干渉抑制手段と、を備える広帯域レーダ装置により達成される。
【0006】
この態様の発明においては、送信機から広帯域信号が送信され、その広帯域信号の反射波が受信機で受信される。そして、受信される反射波における周波数帯域が互いに異なる複数の周波数帯域のサブバンド信号がバンド幅合成されることにより、物標が認識される。また、本発明において、受信機に受信される干渉波が検出される。そして、干渉波が検出された場合に、物標を認識するうえでの干渉波による影響が抑制される。このため、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0007】
尚、上記した広帯域レーダ装置において、前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号を、物標を認識するうえでバンド幅合成すべき周波数帯域のサブバンド信号から除外することとすれば、物標を認識する際に干渉波が存在する周波数帯域のサブバンドを用いないので、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0008】
また、上記した広帯域レーダ装置において、前記送信機は、広帯域信号として周波数帯域が互いに異なる複数のサブバンド信号を送信する機器であり、前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、前記送信機からの該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号の送信を停止することとすれば、干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号自体が送信機から送信されずかつ受信機に受信されなくなるので、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0009】
また、上記した広帯域レーダ装置において、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号を分割した周波数帯域が互いに異なる複数の分割バンド信号のうち、該干渉波が存在する周波数帯域の分割バンド信号を抽出する分割干渉帯域抽出手段を備え、前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、前記分割干渉帯域抽出手段により抽出された該干渉波が存在する周波数帯域の分割バンド信号を、物標を認識するうえでバンド幅合成すべき周波数帯域のサブバンド信号から除外することとすれば、物標を認識する際に干渉波が存在する周波数帯域のサブバンドのうちで更に分割されたその干渉波が存在する小さな周波数帯域の分割バンド信号を用いないので、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0010】
また、上記した広帯域レーダ装置において、各サブバンド信号の中心周波数が最小冗長配列に従って配置されていることとすれば、アンテナのサイドローブを低く抑えることができるので、干渉波が存在するときにも物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0011】
更に、上記した広帯域レーダ装置において、前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波による影響が抑制されるように、該干渉波に対応する周波数のテンプレート波形を前記受信機に受信された反射波に合成することとすれば、干渉波が除去されたうえで各周波数帯域のサブバンド信号のバンド幅合成が行われるので、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となる。
【0012】
尚、上記した広帯域レーダ装置において、前記干渉波検出手段は、前記受信機に受信された反射波における各周波数帯域のサブバンド信号の相関関係に基づいて、前記干渉波を検出することとすればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1実施例である広帯域レーダ装置10の構成図を示す。また、図2(A)は本実施例において用いられる広帯域信号を、また、図2(B)は本実施例において用いられる広帯域信号を分割したサブバンド信号を、それぞれ表した図を示す。本実施例の広帯域レーダ装置10は、車両などの移動体又は移動体が周辺を移動する固定物に搭載されており、その移動体又は固定物の周辺に存在する対象物(物標)を認識するレーダ装置である。
【0016】
図1に示す如く、広帯域レーダ装置10は、信号発生器12を備えている。信号発生器12は、例えば0〜2GHzの帯域幅を有する図2(A)に示す如き広帯域信号を生成する。信号発生器12の生成する広帯域信号は、出力される信号の周波数が時間軸において順次変化するチャープ信号又は時間軸上におけるパルス幅が広帯域信号に対して十分に狭いインパルス状のパルス信号である。尚、このパルス信号は、周波数軸上においては、占有帯域0〜2GHzの帯域幅2GHzの広帯域信号となる。
【0017】
信号発生器12には、レーダパルス生成回路14が接続されている。信号発生器12の生成した広帯域信号は、レーダパルス生成回路14に供給される。レーダパルス生成回路14は、信号発生器12から供給される広帯域信号を複数の互いに周波数が異なる狭帯域のサブバンド信号(図2(B)に実線で示す)に分割する回路である。レーダパルス生成回路14は、電力分配機16と複数(例えば8つ)のバンドパスフィルタ18とからなっている。電力分配機16は、信号発生器12から供給される広帯域信号を所定の数(予め定められた、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数)に電力分配し、複数のバンドパスフィルタ18に供給する機器である。
【0018】
また、各バンドパスフィルタ18は、数十〜数百MHzの帯域幅fbでサブバンド信号を通過させるフィルタであり、また、各バンドパスフィルタ18が通過させるサブバンド信号の中心周波数f(k=1〜8)は、0〜2GHzの帯域の中で互いに離隔して帯域がオーバーラップしないように配置されている。例えば、各サブバンド信号の帯域幅fbは85MHzに設定され、かつ、サブバンド信号の中心周波数fはそれぞれ、42MHz、125MHz、375MHz、875MHz、1375MHz、1542MHz、1792MHz、及び1959MHzに設定される。バンドパスフィルタ18はそれぞれ、広帯域信号を分割して互いに隙間なく或いは隙間を空けて狭帯域のサブバンド信号を帯域通過させる。
【0019】
レーダパルス生成回路14には、送信回路20が接続されている。レーダパルス生成回路14で生成されたサブバンド信号は、送信回路20に供給される。送信回路20は、レーダパルス生成回路14から供給されるサブバンド信号に搬送波を混合して高周波信号にアップコンバートする回路である。送信回路20は、それぞれ複数の、ミキサ22、局部発振器24、パワーアンプ26、及びバンドパスフィルタ28からなっている。これら送信回路20の各要素22〜28はそれぞれ、バンドパスフィルタ18と同数(すなわち、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数)だけ設けられている。
【0020】
レーダパルス生成回路14の各バンドパスフィルタ18で生成されたサブバンド信号は、それぞれ対応するミキサ22に入力される。各ミキサ22には、それぞれ対応する局部発振器24から搬送波信号(周波数fc;例えば24GHz)が供給される。各ミキサ22はそれぞれ、対応のバンドパスフィルタ18から供給されるサブバンド信号をRF帯の信号(fc〜fc+2GHz帯)に周波数変換(アップコンバート)する。
【0021】
各ミキサ22の出力は、それぞれ対応するパワーアンプ26に供給される。各パワーアンプ26は、対応のミキサ22から供給されるサブバンド信号を送信信号として適した振幅に増幅する。各パワーアンプ26の出力は、それぞれ対応するバンドパスフィルタ28に供給される。各バンドパスフィルタ28は、対応のパワーアンプ26から供給されるアップコンバートされたサブバンド信号を含む必要な帯域の信号を帯域通過させる。
【0022】
送信回路20には、送信アンテナ30が接続されている。送信アンテナ30は、分割されるサブバンド信号と同数だけ設けられている。送信回路20の各バンドパスフィルタ28の出力は、対応の送信アンテナ30に供給される。この場合には、送信アンテナ30からRF帯の複数のサブバンド信号が、物標を認識すべき周辺に向けて放射される。例えば、車載レーダのときは、車両前方や車両後方に向けて放射される。
【0023】
尚、送信回路20は各サブバンド信号に対して独立した構成を有するので、各局部発振器24がミキサ22に供給する搬送波は、互いに同一の周波数である必要はなく、互いに異なる周波数であってもよく、この場合には、各サブバンド信号を任意の帯域を用いて送信することができる。
【0024】
また、広帯域レーダ装置10は、受信アンテナ32を備えている。受信アンテナ32は、分割されるサブバンド信号と同数だけ設けられている。受信アンテナ32には、送信側から送信された複数の送信側サブバンド信号が対象物で反射されて反射波として受信される。受信アンテナ32には、受信回路34が接続されている。受信アンテナ32に受信された受信信号は、受信回路34に供給される。受信回路34は、上記した送信回路20に対応して設けられたものであって、受信アンテナ32から供給される受信信号から搬送波を取り除いて低周波信号にダウンコンバートする回路である。
【0025】
受信回路34は、それぞれ複数の、バンドパスフィルタ36、低雑音アンプ38、ミキサ40、局部発振器42、及びバンドパスフィルタ44からなっている。これら受信回路34の各要素36〜44はそれぞれ、分割されるサブバンド信号と同数だけ設けられている。受信アンテナ32に受信された受信信号は、バンドパスフィルタ36に入力される。各バンドパスフィルタ36は、それぞれに対応した周波数帯域の信号を通過させるフィルタであり、それぞれ物標で反射した反射波の帯域の受信信号を取り出す。
【0026】
各バンドパスフィルタ36で生成された受信信号は、それぞれ対応する低雑音アンプ38で増幅されて、ミキサ40に入力される。各ミキサ40には、それぞれ対応する局部発振器42から搬送波信号が供給される。この搬送波信号の発振周波数は、送信側の局部発振器24の搬送波信号の周波数fcに対応して設定されたものである。各ミキサ40はそれぞれ、対応のバンドパスフィルタ36から供給される受信信号に搬送波を混合して0〜2GHz帯域の受信側サブバンド信号に周波数変換(ダウンコンバート)する。各ミキサ40の出力は、それぞれ対応するバンドパスフィルタ44に供給される。各バンドパスフィルタ44は、対応のミキサ40から供給されるダウンコンバートされた受信側サブバンド信号を含む必要な帯域の信号を帯域通過させる。
【0027】
受信回路34には、レーダパルス合成回路46が接続されている。受信回路34の各バンドパスフィルタ44の出力は、レーダパルス合成回路46に供給される。レーダパルス合成回路46は、それぞれ複数の、AD変換回路48、相関器50、及び干渉判定回路52、並びに、単一のバンド幅合成回路54からなっている。レーダパルス合成回路46の各要素48〜52はそれぞれ、バンドパスフィルタ44と同数(すなわち、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数)だけ設けられている。
【0028】
AD変換回路48には、バンドパスフィルタ44の出力(受信側サブバンド信号)が入力されると共に、更に、レーダパルス生成回路14のバンドパスフィルタ18の出力(送信側サブバンド信号)が入力される。各AD変換回路48は、それぞれ対応するバンドパスフィルタ44から供給される受信側サブバンド信号をディジタルデータに変換すると共に、それぞれ対応するバンドパスフィルタ18から供給される送信側サブバンド信号をディジタルデータに変換する。
【0029】
各AD変換回路48でそれぞれディジタルデータに変換された受信側サブバンド信号及び送信側サブバンド信号は、それぞれ対応する相関器50に供給される。各相関器50は、対応のAD変換回路48から供給される受信側サブバンド信号と対応のバンドパスフィルタ18から供給される送信側サブバンド信号との相関演算を行う。この相関器50による相関演算は、後に詳述する如く、粗サーチと精サーチとの2種類行われる。
【0030】
相関器50による相関演算の結果は、後に詳述する干渉判定回路52を経由して、バンド幅合成回路54に供給される。バンド幅合成回路54は、相関器50からの複数のサブバンド信号についてバンド幅合成を実施する。具体的には、一つのサブバンド信号の中の異なる周波数ごとのスペクトルの位相の相違に基づいて送信信号に対する受信信号の遅延時間の補正を行うと共に、複数のサブバンド信号を統合した全体(全チャネル)の相関を求め、補正後の遅延時間Δτ´を求める。バンド幅合成回路54の求めた遅延時間Δτ´の結果は、物標測定部(図示せず)に供給される。物標測定部は、バンド幅合成回路54から供給される遅延時間Δτ´に基づいて、物標との相対距離R(=c・Δτ´/2;但し、cは光速である。)を算出する。尚、物標測定部は、物標との相対距離Rと共に或いはその代わりに、物標との相対速度や相対加速度を算出するものであってもよい。
【0031】
尚、送信側のバンドパスフィルタ18から受信側のAD変換回路48へ供給される各出力(送信側サブバンド信号)は、ベースバンド帯域に周波数変換されることとしてもよい。具体的には、各バンドパスフィルタ18からの送信側サブバンド信号は、それぞれ対応するミキサに供給されて、発振周波数がそのサブバンド信号の中心周波数f(K=1〜8)に設定された局部発振器からの信号と混合される。従って、これらの各ミキサの出力(すなわちAD変換回路48に入力される送信側サブバンド信号)はすべて、中心周波数がfb(サブバンド信号の帯域幅)/2のベースバンド帯域の信号に周波数変換される。
【0032】
ここで、送信側サブバンド信号をx(t)、受信側サブバンド信号をy(t)とすると、ベースバンド帯域のサブバンド信号x(t),y(t)には、次式(1),(2)の関係が成立する。尚、fは、k番目のサブバンド信号の中心周波数である。
【0033】
(t)=x(t)・ei2π(fk−0.5fb)t ・・・(1)
(t)=y(t)・ei2π(fk−0.5fb)t ・・・(2)
各AD変換回路48は、対応のバンドパスフィルタ18側から供給されるベースバンド帯域のサブバンド信号x(t),y(t)をディジタルデータに変換する。尚、AD変換回路48は、ベースバンド帯域のサブバンド信号をディジタル変換するので、そのAD変換回路48に必要なサンプリング周波数は、2・fb(Hz)以上であり、例えば170MHzである。このように、ベースバンド帯域のサブバンド信号をディジタル変換することとすれば、AD変換回路48のサンプリング周波数を小さく抑制できることとなる。
【0034】
ところで、本実施例において、レーダパルス合成回路46は、送信信号に対する受信信号の遅延時間を求める相関演算として、各々のサブバンド信号に対応する送信信号の相関を求める粗サーチと、複数のサブバンド信号を統合した全体の相関を求める精サーチと、の双方を行う。以下、これらの内容について説明する。尚、以下の説明では、ベースバンド帯域のサブバンド信号x(t),y(t)を用いる。
【0035】
<粗サーチ>
まず、粗サーチについて説明する。レーダパルス合成回路46において、各相関器50は、対応のAD変換回路48から供給される受信側サブバンド信号と対応のバンドパスフィルタ18から供給される送信側サブバンド信号との相関演算を行うことで、送信信号に対する受信信号の遅延時間を求める。ここで、受信側サブバンド信号をy(t)とし、その受信側サブバンド信号に対応する送信側サブバンド信号をx(t)とし、これらのベースバンド帯域の信号をx(t),y(t)とすると、各相関器50は、x(t)とy(t)との相関を求めることとなり、具体的には、x(t)をフーリエ変換したスペクトルであるX(f)と、y(t)をフーリエ変換したスペクトルであるY(f)との相互スペクトルS(f)を求めることとなる。尚、*は複素共役を表す。
【0036】
(f)=X(f)・Yv*(f) ・・・(3)
各サブバンド信号のチャネルに対応する相互スペクトルS(f)の情報は、後述の場合を除き、バンド幅合成回路54に供給される。バンド幅合成回路54は、まず、各チャネルの相互スペクトルS(f)について次式(4)により相関関数F(Δτ)を求める。尚、j=1〜Jである。また、Jはサブバンド信号の数、fjvはベースバンド帯域の指標jに対する周波数である。
【0037】
(Δτ)=(1/(J−1))Σ{S(f)・e−i2πfjvΔτ}・・・(4)
そして、バンド幅合成回路54は、次式(5)により各チャネルの相関関数を合計した粗決定サーチ関数F(Δτ)を求め、次に、そのF(Δτ)を最大にするΔτを求める。尚、得られるΔτの値をΔτとする。
【0038】
F(Δτ)=Σ{F(Δτ)}(k=1〜n) ・・・(5)
ここで、受信信号は対象物や対向車などの物標に反射して戻ってきたものであるので、その遅延時間だけ送信信号を遅延させれば、送信信号と受信信号との相関が最も大きくなる。以下、送信信号に所定の遅延時間τを与えながら送信信号と受信信号との相互スペクトルX(f)・Y(f)を求める場合を考える。τを変化させることとすれば、送信信号と受信信号との全体としての相関が最も大きくなる遅延時間τを求めることができる。
【0039】
尚、送信信号x(t)のフーリエ変換をX(f)とすると、x(t)についてΔτだけ時間をずらしたx(t+Δτ)のフーリエ変換は、X´(f)=X(f)・e−iφと表される。但し、φ=2πfΔτであり、fは周波数である。
【0040】
時間軸におけるΔτの遅延は、フーリエ変換後において周波数に比例した位相ずれとして現れる。すなわち、時間軸上で送信信号をΔτだけ遅延させると、フーリエ変換後においては周波数軸上において高い周波数ほどその成分の位相が大きく回転されることとなる。従って、x(t)とy(t)との相互スペクトルX(f)・Y(f)に対して、Δτだけ位相を補正したものはX(f)・Y(f)・e−i2πfΔτと表すことができる。
【0041】
この点、Δτを変化させることはY(f)の位相を回転させることに対応し、相関が最大となる遅延時間を探すことによって、尤もらしい遅延時間Δτを求めることが可能となる。サブバンド信号ごとに別個独立した相関演算を行うことで、遅延時間Δτを求めることができる。そして、すべてのサブバンド信号についての相関の和F(Δτ)が最大になるようなΔτを求めることで、粗サーチの検索結果Δτを得ることが可能となる。
【0042】
<精サーチ>
次に、バンド幅合成回路54は、次式(6)により全チャネルを合成した相関関数である精決定サーチ関数D(Δτ´)を求め、その関数D(Δτ´)を用いて相関が最大となる遅延時間Δτ´を求める。尚、k=1〜Nである。また、f0kはk番目のサブバンドチャネルのRF周波数帯の中心周波数であり、Δφkはk番目のサブバンド信号の送受信回路内での位相シフトの値であり、また、Nはサブバンド信号の数である。
【0043】
D(Δτ´)=(1/N)Σ{F(Δτ)・e−i(2πf0kΔτ´+Δφk}・・・(6)
そして、D(Δτ´)を最大にするΔτ´を求める。得られたΔτ´がレーダパルスの遅延時間となり、これに基づいて物標との相対距離Rが求められる。
【0044】
ここで、粗サーチは、各々のサブバンド信号についてその位相を補償して遅延時間を求める相関演算である。このため、広帯域信号の帯域全体を見れば、一つのサブバンド信号の相互スペクトルについて位相が回転していないときにも他のサブバンド信号の相互スペクトルについては位相が回転している可能性がある。そこで、遅延時間を微小に変更して、全チャネルのサブバンド信号を統合した相関について最大値を求めれば、サブバンド信号ごとの周波数の相違に基づく位相を補償することができる。これが、前述のD(Δτ´)が最大となるΔτ´を求めることである。
【0045】
本実施例において、各サブバンド信号は互いに離隔した中心周波数を有する信号である。このため、360°を超える位相ずれを判定することはできない。すなわち、0.1回転の位相ずれを、1.1回転や2.1回転の位相ずれと区別することはできない。これに対して、本実施例においては、精サーチが行われる前に粗サーチが行われる。粗サーチにより求まるΔτは360°を超える誤差の位相ずれを起こすことはないので、従って、精サーチによれば、粗サーチで求めたΔτにより、正確性の高いΔτ´を選択することができる。
【0046】
尚、本実施例の如く送信側のバンドパスフィルタ18から送信側サブバンド信号x(t)又はx(t)をレーダパルス合成回路46に入力する代わりに、レーダパルス合成回路46に、相関演算に用いる送信側サブバンド信号の情報を記憶するメモリを設けることとしてもよい。
【0047】
このメモリには、送信側サブバンド信号x(t)をベースバンドに周波数変換し、更にフーリエ変換した周波数スペクトルX(f)を予め計算して記憶させておく。これにより、レーダパルス合成回路46が、レーダパルスである広帯域信号から、サブバンド信号x(t)を得て、ベースバンド帯域のサブバンド信号x(t)に変換し、更にフーリエ変換したX(f)を得る処理を行うことは不要である。
【0048】
尚、この構成では、到達遅延時間を検出するためには、信号発生器12から広帯域信号が発生されるタイミング(送信タイミング)をレーダパルス合成回路46側が把握している必要がある。また、送信側サブバンド信号の遅延は、メモリから読み出すタイミングを広帯域信号の発生タイミングからずらすことにより実現できる。
【0049】
このように、本実施例の広帯域レーダ装置10によれば、複数のサブバンド信号についてバンド幅合成を行うことにより送信信号に対する受信信号の遅延時間を求め、その遅延時間に基づいて物標との相対距離Rを算出することができ、これにより、周辺に存在する物標を認識することができる。
【0050】
ところで、本実施例の広帯域レーダ装置10は、物標を認識するうえで広帯域信号を用いるが、既存の無線システム(例えば携帯電話に利用される無線通信システム)などの電波と干渉を起こすことがある。かかるレーダ干渉が生じた場合には、広帯域信号の全帯域のうちの一部に電力レベルがアップした帯域が現れるが、その帯域のサブバンド信号が通常どおり送信信号に対する受信信号の遅延時間の算出に利用されるものとすると、送信信号に対する受信信号の遅延時間が正規の物標を表したものから乖離し、その結果として、物標との相対距離Rが誤検出されるおそれがある。
【0051】
そこで、本実施例の広帯域レーダ装置10は、広帯域信号の一部に干渉波が存在するときにもその干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を防止させる点に特徴を有している。以下、図3乃至図5を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0052】
図3は、広帯域信号の全帯域のうちの一部に干渉波が存在する様子を表した図を示す。尚、図3(A)は広帯域信号を構成するサブバンド信号が周波数上で隙間なく配置されている場合を、また、図3(B)は広帯域信号を構成するサブバンド信号が周波数上で隙間をあけて配置されている場合を、それぞれ示す。図4は、本実施例の広帯域レーダ装置10において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図5は、本実施例の広帯域レーダ装置10において各サブバンド信号の帯域における干渉の有無(干渉波の存在有無)を判定する手法を説明するための図を示す。
【0053】
本実施例の広帯域レーダ装置10において、レーダパルス合成回路46の各相関器50は、各々のサブバンド信号について粗サーチを行うことにより送信側サブバンド信号と受信側サブバンド信号との相関(例えば、それらのスペクトルX(f),Y(f)や相互スペクトルS(f))を求める(ステップ100)。各チャネルのサブバンド信号に対応するスペクトル情報は、バンド幅合成回路54に供給される前に、まず、対応の干渉判定回路52に供給される。
【0054】
各干渉判定回路52は、対応の相関器50から供給されるスペクトル情報に基づいて、自己の帯域のサブバンド信号について粗決定サーチ(相関演算)を行い、そのサーチ結果に基づいて干渉波の存在有無を判定する(ステップ102)。例えば、対応のサブバンド信号についての送信側スペクトルX(f)と受信側スペクトルY(f)とを用いてSN比を求め、サイドローブレベルを測定し、そのSN比に基づいてその帯域における干渉波の存在有無を判定することとしてもよい。この構成において、そのSN比が所定の閾値以上である場合は干渉波が存在しないと判定し、一方、そのSN比が所定の閾値未満である場合は干渉波が存在すると判定する。
【0055】
また、送信側スペクトルX(f)と受信側スペクトルY(f)との相互スペクトルS(f)を用いてその帯域における電力レベルの平均値を求め、その平均値に基づいてその帯域における干渉波の存在有無を判定することとしてもよい。この構成において、その平均値が所定の閾値以下である場合は干渉波が存在しないと判定し、一方、その平均値が所定の閾値を超える場合は干渉波が存在すると判定する。
【0056】
更に、その相互スペクトルS(f)を用いてその帯域における形状(相関形状;例えば周期的なピーク等)を認定し、その相関形状が所望の形状となっているか否かに基づいてその帯域における干渉波の存在有無を判定することとしてもよい。かかる構成においては、その相関形状が所望の形状となっている場合は干渉波が存在しないと判定し、一方、その相関形状が所望の形状となっていない場合は干渉波が存在すると判定する。
【0057】
干渉判定回路52には、単一のバンド幅合成回路54が接続されている。各干渉判定回路52の出力は、バンド幅合成回路54に供給される。具体的には、各干渉判定回路52は、自己の帯域におけるサブバンド信号について干渉波が存在しないと判定したときは、相関器50から供給された相互スペクトルS(f)の情報を通常どおりバンド幅合成回路54へ供給する(ステップ104)。一方、その干渉波が存在すると判定したときは、相関器50から供給された相互スペクトルS(f)の情報をバンド幅合成回路54へ供給せず、或いは、その情報をバンド幅合成回路54へ供給してもそのサブバンド信号に干渉波が重畳している旨を表す情報を付加する(ステップ106)。
【0058】
バンド幅合成回路54は、すべての干渉判定回路52から相関器50による相互スペクトルS(f)の情報を通常どおり受信した場合(ステップ108における否定判定)は、各チャネルの相関関数のすべてを合計した粗決定サーチ関数F(Δτ)を求め、そのF(Δτ)を最大にするΔτを求めると共に、全チャネルを合成した相関関数である精決定サーチ関数D(Δτ´)を求め、その関数D(Δτ´)を用いて相関が最大となる遅延時間Δτ´を求める(ステップ110)。この場合には、広帯域信号の全帯域にわたるすべてのチャネルのサブバンド信号の相関が求められることになり、物標との相対距離Rが算出されることとなる。
【0059】
一方、バンド幅合成回路54は、複数の干渉判定回路52から相関器50による相互スペクトルS(f)の情報を通常どおり受信したが、ある一部の帯域をカバーする干渉判定回路52から相関器50による相互スペクトルS(f)の情報を受信しない、或いは、その情報を受信したが干渉波が重畳している旨の情報を受信した場合(ステップ108における肯定判定)は、その干渉波が重畳する帯域(干渉帯域)を把握したうえで、その干渉帯域のチャネルを除外してバンド幅合成を実施する。広帯域信号を分割したサブバンド信号が周波数上で隙間なく配置されている場合は、干渉波が存在する干渉帯域(図3(A)において斜線で囲まれる領域)を除外した全帯域をバンド幅合成し、また、サブバンド信号が周波数上で隙間をあけて配置されている場合は、干渉波が存在する干渉帯域(図3(B)において斜線で囲まれる領域)を除外した一部の帯域をバンド幅合成する(ステップ112)。
【0060】
具体的には、その干渉帯域を除外した帯域についての各チャネルのサブバンド信号の相関関数を合計した粗決定サーチ関数F(Δτ)を求め、そのF(Δτ)を最大にするΔτを求めると共に、その干渉帯域のチャネルを除外したチャネルのサブバンド信号を合成した相関関数である精決定サーチ関数D(Δτ´)を求め、その関数D(Δτ´)を用いて相関が最大となる遅延時間Δτ´を求める。この場合には、広帯域信号の全帯域にわたるすべてのチャネルのうち干渉帯域を除いたチャネルについてサブバンド信号の相関が求められることになり、物標との相対距離Rが算出されることとなる。
【0061】
本実施例において、広帯域信号を分割した狭帯域のサブバンド信号は、複数(例えば8つ)存在する。このため、仮にある帯域のサブバンド信号に干渉波が重畳していたとしても、その干渉帯域以外の少なくとも2つの帯域(望ましくは全帯域のうち両端の帯域)のサブバンド信号についてバンド幅合成を行うことができれば、その干渉波が重畳している干渉帯域のサブバンド信号を含めてバンド幅合成を行う構成に比べて、物標との相対距離Rをある程度精度よく算出することが可能となる。
【0062】
従って、本実施例の広帯域レーダ装置10によれば、干渉波が重畳する干渉帯域が存在してその干渉波が検出された場合にも、複数のサブバンド信号をバンド幅合成して物標との相対距離Rを算出するうえでその干渉帯域のサブバンド信号を除外することができ、物標を認識するうえでの干渉波による影響を抑制することができる。このため、本実施例の広帯域レーダ装置10においては、物標との相対距離Rを高い精度を維持しつつ算出することが可能となり、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となり、ひいては、物標を認識することが可能な最大の距離を延ばすことが可能となる。
【0063】
尚、本実施例において、送信機側の各バンドパスフィルタ18が通過させるサブバンド信号の中心周波数f(k=1〜n)は、0〜2GHzの帯域の中で互いに離隔して帯域がオーバーラップしないように配置されており、例えば上記の如く、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数が8個であるとき(n=8)は、それぞれ42MHz、125MHz、375MHz、875MHz、1375MHz、1542MHz、1792MHz、及び1959MHzに設定される。このとき、隣り合うサブバンド信号の中心周波数fの間隔は、順に1:3:6:6:2:3:2の比となっており、各サブバンド信号の中心周波数fは、最小冗長配列に従って配置されている。
【0064】
一般に、最小冗長配列とは、各要素をその間の冗長度が最も少なくなるように配置した配列のことであり、図6に示す如き要素の数と隣り合う要素同士の間隔との関係により規定することができ、経験則に基づいて予め求められている。例えば、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数が4個であるとき(n=4)は、図7に示す如く、それら4個のサブバンド信号の中心周波数fをそれぞれ隣り合うものとの間隔が順に1:3:2の比となるように配置することとすれば、各サブバンド信号間の冗長度を最も少なくすることが可能となる。
【0065】
従って、本実施例の如く各サブバンド信号の中心周波数fが最小冗長配列に従って配置されていれば、何れかの帯域のサブバンド信号に干渉波が重畳した際、その干渉帯域のサブバンド信号を物標との相対距離Rを算出するうえで除外することとしても、各サブバンド信号の中心周波数fが隣り合うものと等間隔で配置されている構成に比べて、サイドローブを低く抑えることができる。このため、本実施例の広帯域レーダ装置10においては、干渉が生じたときにも、物標の認識精度の低下を抑止して、その測距精度を維持することが可能となっている。
【0066】
尚、上記の第1実施例においては、信号発生器12、レーダパルス生成回路14、送信回路20、及び送信アンテナ30が特許請求の範囲に記載した「送信機」に、受信アンテナ32、受信回路34、レーダパルス合成回路46が特許請求の範囲に記載した「受信機」に、各干渉判定回路52が特許請求の範囲に記載した「干渉波検出手段」に、それぞれ相当している。また、バンド幅合成回路54が、ある一部の帯域をカバーする干渉判定回路52から相関器50による相互スペクトルS(f)の情報を受信しない、或いは、その情報を受信したが干渉波が重畳している旨の情報を受信した場合に、その干渉波が重畳する干渉帯域を除外してバンド幅合成を実施することにより特許請求の範囲に記載した「干渉抑制手段」が実現されている。
【0067】
ところで、上記の第1実施例においては、相関器50から供給されるスペクトル情報に基づいて自己の帯域のサブバンド信号について干渉波が存在することが検出された場合、その干渉帯域のサブバンド信号を、受信機側のバンド幅合成回路54において物標との相対距離を算出するうえでバンド幅合成すべき帯域のサブバンド信号から除外することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、送信機側からのその干渉帯域のサブバンド信号の送信を停止することとしてもよい。かかる変形例の構成においては、その干渉波が重畳するサブバンド信号自体が受信機側に受信されなくなるので、物標との相対距離を算出するうえで干渉波による影響を抑制することができ、上記した第1実施例の構成と同様の効果を得ることが可能となる。
【0068】
また、かかる変形例の構成において、干渉帯域のサブバンド信号の送信を停止する手法としては、例えば、そのサブバンド信号に対応する干渉判定回路52から対応のパワーアンプ26又は局部発振器24へ送信停止指令を供給することにより、そのサブバンド信号に対応するパワーアンプ26への電源供給を停止させ、或いは、そのサブバンド信号に対応する局部発振器24の駆動を停止させることとすればよい。この場合、パワーアンプ26や局部発振器24が、干渉判定回路52からの送信停止指令に従って電源供給されなくなり或いは駆動停止されることにより、特許請求の範囲に記載した「干渉抑制手段」が実現されることとなる。
【実施例2】
【0069】
上記した第1実施例では、サブバンド信号に干渉波が重畳する場合にそのサブバンド信号が賄う帯域すべてを、物標との相対距離Rを算出するうえでバンド幅合成すべき帯域から除外することとしている。これに対して、本発明の第2実施例においては、干渉波が重畳する干渉帯域のサブバンド信号を更に複数の互いに周波数が異なる狭帯域のサブバンド信号(この信号を分割サブバンド信号と称す)に分割したうえで、干渉波が重畳する分割サブバンド信号の帯域のみを、物標との相対距離Rを算出するうえでバンド幅合成すべき帯域から除外することとする。
【0070】
図8は、本実施例の広帯域レーダ装置100の構成図を示す。尚、図8において、上記図1に示す構成部分と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。図9は、本実施例の広帯域レーダ装置100の要部の具体的構成図を示す。図10は、本実施例の広帯域レーダ装置100において干渉波が重畳する分割サブバンド信号の帯域のみをバンド幅合成すべき帯域から除外する手法を説明するための図を示す。また、図11は、本実施例の広帯域レーダ装置100において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。尚、図11において、上記図4に示すルーチンと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0071】
すなわち、本実施例の広帯域レーダ装置100において、受信回路34には、図8に示す如く、レーダパルス合成回路102が接続されている。レーダパルス合成回路102は、それぞれ複数の、AD変換回路48、相関器50、干渉判定回路52、及び分割除去回路104、並びに、単一のバンド幅合成回路54を有している。レーダパルス合成回路102の各要素48〜52及び104はそれぞれ、バンドパスフィルタ44と同数(すなわち、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数)だけ設けられている。
【0072】
干渉判定回路52には、単一のバンド幅合成回路54が接続されていると共に、それぞれ対応の分割除去回路104が接続されている。各干渉判定回路52は、自己の帯域におけるサブバンド信号について干渉波が存在しないと判定したときは、相関器50から供給されたサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報を通常どおりバンド幅合成回路54へ供給する(ステップ104)。一方、その干渉波が存在すると判定したときは、相関器50から供給されたサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報を分割除去回路104へ供給する。
【0073】
各分割除去回路104は、図9に示す如く、それぞれ複数の、バンドパスフィルタ106、ミキサ108、局部発振器110、及びバンドパスフィルタ112、並びに、単一のバンド幅合成回路114からなっている。分割除去回路104の各要素106から112はそれぞれ、一つのサブバンド信号を分割して得るべき分割サブバンド信号の数だけ設けられている。
【0074】
相関器50から分割除去回路104へ供給されたサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報は、各バンドパスフィルタ106に入力される。各バンドパスフィルタ106は、サブバンド信号の帯域幅fbよりも小さい帯域幅(より具体的には、サブバンド信号の帯域幅fbを分割サブバンド信号の数で割ったもの以下の帯域幅)で分割サブバンド信号を通過させるフィルタであり、各バンドパスフィルタ106が通過させる分割サブバンド信号の中心周波数は、対応のサブバンド信号の帯域の中で互いに離隔して帯域がオーバーラップしないように配置されている。バンドパスフィルタ106はそれぞれ、対応のサブバンド信号を分割して互いに隙間なく或いは隙間を空けて狭帯域の分割サブバンド信号を帯域通過させる(ステップ200)。
【0075】
各バンドパスフィルタ106で生成された分割サブバンド信号は、それぞれ対応するミキサ108に入力される。各ミキサ108には、それぞれ対応する局部発振器110から高周波信号が供給される。各ミキサ108はそれぞれ、対応のバンドパスフィルタ106から供給される分割サブバンド信号に高周波を混合して高周波分割サブバンド信号に周波数変換(アップコンバート)する。各ミキサ108の出力は、それぞれ対応するバンドパスフィルタ112に供給される。各バンドパスフィルタ112は、対応のミキサ108から供給された、アップコンバートされた自己の帯域の分割サブバンド信号を含む必要な帯域の信号を帯域通過させる。
【0076】
各バンドパスフィルタ112の出力は、バンド幅合成回路114に供給される。バンド幅合成回路114は、バンドパスフィルタ112からの複数の分割サブバンド信号についてバンド幅合成を実施する。具体的には、すべての分割サブバンド信号のうち干渉波が重畳する干渉帯域の分割サブバンド信号を抽出したうえで、その干渉帯域の分割サブバンド信号を除外して自己に対応するサブバンド信号の特性を求める(ステップ200)。バンド幅合成回路114の求めたバンド幅合成の結果は、バンド幅合成回路54に供給される(ステップ202)。
【0077】
バンド幅合成回路54は、すべての干渉判定回路52から相関器50によるサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報を通常どおり受信した場合は、各チャネルの相関関数のすべてを合計した粗決定サーチ関数F(Δτ)を求め、そのF(Δτ)を最大にするΔτを求めると共に、全チャネルを合成した相関関数である精決定サーチ関数D(Δτ´)を求め、その関数D(Δτ´)を用いて相関が最大となる遅延時間Δτ´を求める(ステップ204)。この場合は、広帯域信号の全帯域にわたるすべてのチャネルのサブバンド信号の相関が求められることになり、物標との相対距離Rが算出されることとなる。
【0078】
一方、バンド幅合成回路54は、ある一部の帯域をカバーする干渉判定回路52から直接に相関器50によるサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報を受信せず、かつ、その干渉判定回路52に接続する分割除去回路104からその干渉帯域のサブバンド信号の特性情報を受信した場合は、その干渉帯域のサブバンド信号を含むすべてのチャネルのサブバンド信号の相関関数を合計した粗決定サーチ関数F(Δτ)を求め、そのF(Δτ)を最大にするΔτを求めると共に、その干渉帯域のサブバンド信号を含むすべてのチャネルのサブバンド信号を合成した相関関数である精決定サーチ関数D(Δτ´)を求め、その関数D(Δτ´)を用いて相関が最大となる遅延時間Δτ´を求める(ステップ204)。この場合は、干渉帯域の分割サブバンド信号が除去された干渉帯域のサブバンド信号のチャネルを含む、広帯域信号の全帯域にわたるすべてのチャネルについてサブバンド信号の相関が求められることになり、物標との相対距離Rが算出されることとなる。
【0079】
本実施例において、サブバンド信号を分割した狭帯域の分割サブバンド信号は、複数存在する。このため、サブバンド信号に干渉波が重畳したときに、上記第1実施例の如くそのサブバンド信号の干渉帯域のすべてを、物標との相対距離Rを算出するうえでバンド幅合成すべきサブバンド信号の帯域から除外する構成(以下、対比構成と称す)と異なり、干渉帯域のサブバンド信号のうち干渉波が重畳する干渉帯域の分割サブバンド信号の帯域のみを、物標との相対距離Rを算出するうえでバンド幅合成すべきサブバンド信号の帯域から除外することとすれば、その対比構成に比べて、物標との相対距離Rを算出するうえで干渉波が検出された際に除外する帯域を小さくすることができ、物標との相対距離Rをある程度精度よく算出することが可能となる。
【0080】
従って、本実施例の広帯域レーダ装置100によれば、干渉波が重畳する干渉帯域が存在してその干渉波が検出された場合にも、複数のサブバンド信号をバンド幅合成して物標との相対距離Rを算出するうえで、その干渉帯域のサブバンド信号のうち実際に干渉が生じている分割サブバンド信号の干渉帯域のみを除外しつつその他の分割サブバンド信号の帯域を利用することができ、物標を認識するうえでの干渉波による影響を除去することができる。このため、本実施例の広帯域レーダ装置100においては、上記第1実施例の広帯域レーダ装置10に比べても、物標との相対距離Rを高い精度を維持しつつ算出することが可能となり、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となり、ひいては、物標を認識することが可能な最大の距離を延ばすことが可能となる。
【0081】
尚、この広帯域レーダ装置100の構成は、特に、広帯域信号を分割すべきサブバンド信号の数が少ないものであればあるほど、干渉波による影響を抑制して物標の認識精度の低下を抑止するうえで有効である。
【0082】
尚、上記の第2実施例においては、受信アンテナ32、受信回路34、レーダパルス合成回路102が特許請求の範囲に記載した「受信機」に相当している。また、各分割除去回路104のバンド幅合成回路114がバンドパスフィルタ112からのすべての分割サブバンド信号のうち干渉波が重畳する干渉帯域の分割サブバンド信号を抽出することにより特許請求の範囲に記載した「分割干渉帯域抽出手段」が、バンド幅合成回路54が、分割除去回路104から干渉帯域のサブバンド信号の特性情報を受信した場合に、そのサブバンド信号の干渉帯域のうち干渉波が重畳する干渉帯域の分割サブバンド信号の帯域のみを除外したチャネルを含むすべてのチャネルのサブバンド信号のバンド幅合成を実施することにより特許請求の範囲に記載した「干渉抑制手段」が、それぞれ実現されている。
【実施例3】
【0083】
上記した第1及び第2実施例では、サブバンド信号に重畳する干渉波を検出した場合に、物標を認識するうえでその干渉波による影響を抑制すべく、バンド幅合成すべきサブバンド信号の帯域からその干渉帯域のサブバンド信号などを除外することとしている。これに対して、本発明の第3実施例においては、既存システムに用いられている既知の周波数のテンプレート波形を受信機側に受信された受信信号に合成することにより、干渉波自体を除去して、物標を認識するうえでその干渉波による影響を抑制することとしている。
【0084】
図12は、本実施例の広帯域レーダ装置200の構成図を示す。尚、図12において、上記図1に示す構成部分と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。また、図13は、本実施例の広帯域レーダ装置200において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。尚、尚、図13において、上記図4に示すルーチンと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0085】
すなわち、本実施例の広帯域レーダ装置200において、受信回路34には、図12に示す如く、レーダパルス合成回路202が接続されている。レーダパルス合成回路202は、それぞれ複数の、AD変換回路48、相関器50、干渉判定回路52、及び干渉キャンセル回路204、並びに、単一のバンド幅合成回路54を有している。レーダパルス合成回路202の各要素48〜52及び204はそれぞれ、バンドパスフィルタ44と同数(すなわち、広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数)だけ設けられている。
【0086】
干渉判定回路52には、単一のバンド幅合成回路54が接続されていると共に、それぞれ対応の干渉キャンセル回路204が接続されている。各干渉判定回路52は、自己の帯域におけるサブバンド信号について干渉波が存在しないと判定したとき及び干渉波が存在すると判定したとき何れにおいても、相関器50から供給されたサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報を通常どおりバンド幅合成回路54へ供給する(ステップ104及びステップ300)。また、その干渉波が存在すると判定したときは更に、その帯域のサブバンド信号に重畳する干渉波が存在する旨を知らせると共にその干渉波を除去することを指令する干渉キャンセル指令を干渉キャンセル回路204へ供給する(ステップ302)。
【0087】
各干渉キャンセル回路204には、予め対応するサブバンド信号の帯域の中で、広帯域レーダ装置200とレーダ干渉が生ずる可能性の高い既存システムに用いられている既知の周波数のテンプレート波形が、その帯域のサブバンド信号に重畳し得る干渉波の情報として格納されている。尚、このテンプレート波形は、伝搬路の影響による歪み(伝搬路の周波数特性)を考慮して作成しておくのが好適である。
【0088】
各干渉キャンセル回路204は、対応する干渉判定回路52から干渉キャンセル指令を受信した場合に、対応のサブバンド信号の帯域の中における既知の周波数の信号を表したテンプレート波形を、干渉判定回路52からバンド幅合成回路54へ供給されるサブバンド信号に合成させる(ステップ304)。尚、この合成は、干渉判定回路52からバンド幅合成回路54へ供給されるサブバンド信号に重畳する干渉波がキャンセルされるように行われる。
【0089】
かかる構成によれば、バンド幅合成回路54には、干渉が発生していないときは、すべての干渉判定回路52から相関器50によるサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報が通常どおり受信される一方、干渉が発生しているときは、その干渉帯域以外の帯域をカバーする干渉判定回路52からは相関器50によるサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報が通常どおり受信されると共に、その干渉帯域をカバーする干渉判定回路52からはその干渉波がキャンセルされたサブバンド信号の相互スペクトルS(f)の情報が受信される。
【0090】
この点、本実施例においては、ある帯域のサブバンド信号に干渉波が重畳した場合、その干渉帯域のサブバンド信号から尤もらしい干渉波が除去されると共に、そのうえで、そのサブバンド信号を含む各帯域のサブバンド信号がバンド幅合成されることとなるので、物標との相対距離Rをある程度精度よく算出することが可能となる。
【0091】
従って、本実施例の広帯域レーダ装置200によれば、干渉波が重畳する干渉帯域が存在してその干渉波が検出された場合にも、複数のサブバンド信号をバンド幅合成して物標との相対距離Rを算出するうえで用いるべきその干渉帯域のサブバンド信号から、その干渉波として尤もらしいものをキャンセルすることができ、物標を認識するうえでの干渉波による影響を抑制することができる。このため、本実施例の広帯域レーダ装置200においても、物標との相対距離Rを高い精度を維持しつつ算出することが可能となり、干渉波の存在に起因した物標の認識精度の低下を抑止することが可能となり、ひいては、物標を認識することが可能な最大の距離を延ばすことが可能となる。
【0092】
尚、上記の第3実施例においては、受信アンテナ32、受信回路34、レーダパルス合成回路202が特許請求の範囲に記載した「受信機」に相当していると共に、干渉キャンセル回路204が、対応する干渉判定回路52から干渉キャンセル指令を受信した場合に、対応のサブバンド信号の帯域の中における既知の周波数の信号を表したテンプレート波形を、干渉判定回路52からバンド幅合成回路54へ供給されるサブバンド信号に合成させることにより特許請求の範囲に記載した「干渉抑制手段」が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1実施例である広帯域レーダ装置の構成図である。
【図2】本実施例において用いられる広帯域信号とその広帯域信号を分割したサブバンド信号とをそれぞれ表した図である。
【図3】広帯域信号の全帯域のうちの一部に干渉波が存在する様子を表した図である。
【図4】本実施例の広帯域レーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図5】本実施例の広帯域レーダ装置において各サブバンド信号の帯域における干渉波の存在有無を判定する手法を説明するための図である。
【図6】最小冗長配列として要素の数と隣り合う要素同士の間隔との関係を規定した表である。
【図7】広帯域信号を分割して得るべきサブバンド信号の数が4個であるときにおける各サブバンド信号の中心周波数fの配置を表した図である。
【図8】本発明の第2実施例である広帯域レーダ装置の構成図である。
【図9】本実施例の広帯域レーダ装置の要部の具体的構成図である。
【図10】本実施例の広帯域レーダ装置において干渉波が重畳する分割サブバンド信号の帯域のみをバンド幅合成すべき帯域から除外する手法を説明するための図である。
【図11】本実施例の広帯域レーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図12】本発明の第3実施例である広帯域レーダ装置の構成図である。
【図13】本実施例の広帯域レーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【符号の説明】
【0094】
10,100,200 広帯域レーダ装置
12 信号発生器
14 レーダパルス生成回路
20 送信回路
34 受信回路
46,102,202 レーダパルス合成回路
50 相関器
52 干渉判定回路
54 バンド幅合成回路
104 分割除去回路
204 干渉キャンセル回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域信号を送信する送信機と、前記送信機から送信された広帯域信号の反射波を受信する受信機と、を備え、前記受信機に受信された反射波における周波数帯域が互いに異なる複数のサブバンド信号をハンド幅合成した結果に基づいて、物標を認識する広帯域レーダ装置であって、
前記受信機に受信される干渉波を検出する干渉波検出手段と、
前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、物標を認識するうえでの干渉波による影響を抑制する干渉抑制手段と、
を備えることを特徴とする広帯域レーダ装置。
【請求項2】
前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号を、物標を認識するうえでバンド幅合成すべき周波数帯域のサブバンド信号から除外することを特徴とする請求項1記載の広帯域レーダ装置。
【請求項3】
前記送信機は、広帯域信号として周波数帯域が互いに異なる複数のサブバンド信号を送信する機器であり、
前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、前記送信機からの該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号の送信を停止することを特徴とする請求項1記載の広帯域レーダ装置。
【請求項4】
前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波が存在する周波数帯域のサブバンド信号を分割した周波数帯域が互いに異なる複数の分割バンド信号のうち、該干渉波が存在する周波数帯域の分割バンド信号を抽出する分割干渉帯域抽出手段を備え、
前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、前記分割干渉帯域抽出手段により抽出された該干渉波が存在する周波数帯域の分割バンド信号を、物標を認識するうえでバンド幅合成すべき周波数帯域のサブバンド信号から除外することを特徴とする請求項1記載の広帯域レーダ装置。
【請求項5】
各サブバンド信号の中心周波数が最小冗長配列に従って配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の広帯域レーダ装置。
【請求項6】
前記干渉抑制手段は、前記干渉波検出手段により前記干渉波が検出された場合に、該干渉波による影響が抑制されるように、該干渉波に対応する周波数のテンプレート波形を前記受信機に受信された反射波に合成することを特徴とする請求項1記載の広帯域レーダ装置。
【請求項7】
前記干渉波検出手段は、前記受信機に受信された反射波における各周波数帯域のサブバンド信号の相関関係に基づいて、前記干渉波を検出することを特徴とする請求項1記載の広帯域レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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