説明

広帯域波長板および光ヘッド装置

【課題】複数の異なる波長の光が入射してそれらの光に対する偏光状態を制御して透過させる広帯域波長板および光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】平行に第1の波長板11、第2の波長板12、第3の波長板13を備え、3枚の波長板のリタデーション値Rd、Rd、Rd、入射する直線偏光の振動方向と3枚の各波長板とがなす角度θ、θ、θ、を調整することによって、異なる3つの波長λ、λ、λの直線偏光(λ<λ<λ)に対して、波長λの光、波長λの光を円偏光、波長λの光を直線偏光として出射させる帯域波長板10が実現でき、光ヘッド装置の小型化、および記録・再生の高品質化を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射する光に対して透過する偏光状態を制御するための広帯域波長板に関するものであり、とくに、光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および、「Blu−ray」(登録商標:以下BD)のような高密度光記録媒体に情報の記録および再生を行う光ヘッド装置に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体だけでなく、BDなどのような高密度光記録媒体(以下、「光ディスク」という)に情報の記録および再生(以下、「記録・再生」という)を行う光ヘッド装置の開発が進んでおり、使用されるレーザ光の波長としては、短いほど記録密度を向上できるため、短波長(405nm波長帯)化が進められている。一方、これまでに普及している多くの光ディスクのうち、DVDは赤色域(660nm波長帯)のレーザ光、CDは近赤外域(785nm波長帯)のレーザ光の波長の長いレーザ光(不要)により記録・再生されている。光ヘッド装置としては、これら異なった波長帯のレーザ光で記録・再生する、異なった規格の光ディスクに対しても、記録・再生のできる互換性のある光ヘッド装置が望まれ、その互換性を確保するための様々な方式が提案されている。
【0003】
このように、高密度光記録媒体だけでなく、従来の光ディスクに対してこの互換性を確保するための方法の一つとして、短波長を発する光源に加えて、赤色域、近赤外域の光源を併せて設置する方式がある。このため、3つの異なる波長を含む広帯域の波長に対して一定の特性を有する光学部品のニーズも高まっており、BD、DVD、CDなどを記録・再生できる光ヘッド装置を少ない光学部品で構成できるように小型化が要求されている。
【0004】
図6は、一例として3つの異なる波長のレーザ光を使用した従来の光ヘッド装置100の構成を示す模式図である。半導体レーザ等の光源101から出射される405nm波長帯の光は、偏光ビームスプリッタ107で反射され、コリメータレンズ110で平行光となって1/4波長板112によって円偏光となる。円偏光となった光は、ミラー114で反射し、対物レンズ116によってBD等の光ディスク118の情報記録面に集光される。そして、情報記録面に形成されたピットの情報を含んだ反射光は上記の経路を逆方向に進行する。ここで、光源から光ディスクに到達するまでの光路を「往路」、光ディスクから光検出器に到達するまでの光路と「復路」として説明する。光ディスクでの反射によって、復路の光は往路の円偏光とは逆方向に電場が回転する円偏光となって1/4波長板112を透過する復路の光は、電場の振動方向が、往路の直線偏光に対して直交する直線偏光となり、偏光ビームスプリッタ107を直進透過して光検出器119に到達する。光検出器119では、光ディスクで反射された光からピット情報を検出することで光ディスク118に記録された情報の読み出しを行っている。
【0005】
同様に、半導体レーザ等の光源102から出射される660nm波長帯の光はダイクロイックプリズム108を直進透過し、光源103から出射される785nm波長帯の光は、ダイクロイックプリズム108で反射され、それぞれの光は、電場の振動方向が同じ直線偏光であって、偏光ビームスプリッタ109に入射して直進透過する。そして、コリメータレンズ111で平行光となって、1/4波長板113で円偏光となって、ミラー115で反射され対物レンズ117によって光ディスク118に集光される。復路の光は、それぞれ往路の直線偏光と直交する直線偏光となって、偏光ビームスプリッタ109で反射され、光検出器120に到達する。また、素子104、105、106は回折素子であって、光源からの光をメインビームと、例えばトラッキングサーボ信号となる2つのサブビームとの3つのビームを発現させるための光学素子であって、それぞれの往路の光源と偏光ビームスプリッタまたはダイクロイックプリズムとの間の光路中に配置することができる。
【0006】
このように、図6に示した光ヘッド装置100は、偏光ビームスプリッタや光検出器などの光学素子をそれぞれ2セット配置しており、部品点数が多く、装置の小型化や組立調整に時間がかかるといった問題がある。これに対し、例えば、図7に3つの異なる波長のレーザ光を使用した他の構成例となる光ヘッド装置200が報告されている(特許文献1)。
【0007】
図7に示す光ヘッド装置200は、光ヘッド装置100に対して、3つの異なる波長のレーザ光に対して共通して使用できるコリメータレンズ210および1/4波長板211が配置されるものである。405nm波長帯の光源201、660nm波長帯の光源202、785nm波長帯の光源203から出射する光の光路中にダイクロイックプリズム208を配置し、光源202および光源203の光路中にダイクロイックプリズム207を配置して各波長の光を透過または反射させる。なお、ダイクロイックプリズム207は、660nm波長帯の光を透過するとともに785nm波長帯の光を反射する機能を有し、ダイクロイックプリズム208は、660nm波長帯および785nm波長帯の光を透過するとともに405nm波長帯の光を反射する機能を有する。さらに、3つの波長の光はコリメータレンズ210と1/4波長板211を透過してダイクロイックプリズム212に入射する。ダイクロイックプリズム212は、405nm波長帯の光を反射し、660nm波長帯および785nm波長帯の光を直進透過させる機能を有し、405nm波長帯の光は、対物レンズ214により、BD等の光ディスク216の情報記録面に集光する。
【0008】
一方、660nm波長帯、785nm波長帯の光は、ダイクロイックプリズム212を直進透過し、ミラー213で反射し、対物レンズ215により、DVD、CD等の光ディスク216の情報記録面に集光する。それぞれの光ディスクで反射された405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の復路の光は、1/4波長板211にて往路の直線偏光に対して直交する直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ209で反射し光検出器217に到達する。特許文献1では、1/4波長板211は、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯いずれもπ/2の奇数倍の位相差を発生させる1/4波長板として機能する広帯域波長板であることを特徴とする光ヘッド装置として報告されている。
【0009】
このように、3つの異なる波長の光が入射して、BD、DVD、CD等の異なる規格の光ディスクの情報の記録・再生が可能な、互換性を有する光ヘッド装置を実現する上で、特許文献1のように3つの異なる波長の光を円偏光として集光させるとき、とくにCDの記録・再生が良好にできないという問題がある。その理由として、CDには、BD、DVDに比べて情報記録面を保護する樹脂材料に、大きな複屈折材料を有するものがある。例えば、CDを反射する光が、この樹脂材料の複屈折の影響で反射する光が入射する光路(往路)と同じ円偏光になる場合、偏光ビームスプリッタで反射されて光検出器に到達する光の光量が大きく低減し、情報の再生が良好にできなくなる。このため、このような光ディスクに対しても良好に記録・再生を行うためには、この複屈折の影響を低減するためにCD用の波長(785nm波長帯)の光を直線偏光の状態でCDの情報記録面に集光させる手段がとられている。
【0010】
具体的に、BD用およびDVD用の波長帯に対して円偏光、CD用の波長帯に対して直線偏光で集光させる例として、図8に示すように、3つの異なる波長のレーザ光を使用した別の構成を有する光ヘッド装置300が報告されている(特許文献2)。光ヘッド装置300は、405nm波長帯の光源301、660nm波長帯の光源302、785nm波長帯の光源303から出射する光の光路中にダイクロイックプリズム308、309、無偏光回折格子307を配置し、コリメータレンズ310と対物レンズ313の間の光路中に偏光回折格子311と(広帯域)波長板312を有するものである。また、それぞれの波長帯の光に対して、光検出器304、305、306が配置され、光ディスク315で反射された光が検出される。
【0011】
ここで、いずれの波長帯の光も直線偏光の状態で波長板312に入射するが、波長板312は、405nm波長帯、660nm波長帯の光は、円偏光で出射し、785nm波長帯の光は直線偏光のまま透過する機能を有し、波長板312を出射した光は、光ディスク315の情報記録面に集光する。このように、405nm波長帯および660nm波長帯の光に対して円偏光としてBDおよびDVDの情報記録面に集光させ、785nm波長帯の光に対して直線偏光としてCDの情報記録面に集光させることによって、CDの大きな複屈折性材料により記録・再生品質を劣化させない光ヘッド装置が実現できる。
【0012】
【特許文献1】特開2006−114080号公報
【特許文献2】特開2006−236549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2の光ヘッド装置の波長板は、405nmの波長の光、660nmの波長の光、785nmの波長の光に対しては、それぞれ所望の位相差を得ることができるが、入射する光の波長をλとするとき、405nmの光に対して(9/4)λの位相差を与える9λ/4板、660nmの光に対して(5/4)λの位相差を与える5λ/4板、785nmの光に対してλの位相差を与える1波長板となるように設計しており、使用温度および半導体レーザの個別素子のばらつきなどで、発振する光の波長が変動すると波長板を透過する光の位相差が、所望の位相差に対して大きく変動するため、透過する光の偏光状態が安定せず、光検出器304、305、306に到達する光量が安定せず、光ヘッド装置の記録・再生の品質が劣化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、以上の点を鑑みてなされたものであって、所定の異なる帯域を有する3種の波長λ、λ、λ(λ<λ<λ)で入射する直線偏光の偏光状態を変える広帯域波長板において、前記広帯域波長板は、前記直線偏光が入射する側から順に第1の波長板、第2の波長板、第3の波長板が備えられ、前記第1の波長板に入射する前記直線偏光の電場の振動する方向を基準とし、前記第1の波長板の進相軸、前記第2の波長板の進相軸、前記第3の波長板の進相軸との角度の組み合わせまたは、前記第1の波長板の遅相軸、前記第2の波長板の遅相軸、前記第3の波長板の遅相軸との角度の組み合わせをそれぞれθ[°]、θ[°]、θ[°]とするとき、前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過した前記波長λの光の楕円率κおよび前記波長λの光の楕円率κが0.65以上、前記広帯域波長板を透過する前記波長λの光の楕円率κが0.4以下となるように前記第1の波長板のリタデーション値Rd、前記第2の波長板のリタデーション値Rd、前記第3の波長板のリタデーション値Rdおよび、前記θ、前記θ、前記θが設定されている広帯域波長板を提供する。
【0015】
また、前記波長λで入射する直線偏光の電場の振動する方向と、前記波長λで透過した光の電場の振幅が最も大きくなる方向と、の角度である方位角が−10°〜+10°の範囲となる上記の広帯域波長板を提供する。
【0016】
また、前記波長λは390〜420nmの波長範囲である405nm波長帯、前記波長λは640〜680nmの波長範囲である660nm波長帯、前記波長λは765〜805nmの波長範囲である785nm波長帯であり、波長λに対する、前記第1の波長板のリタデーション値、前記第2の波長板のリタデーション値、前記第3の波長板のリタデーション値、をそれぞれ、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、とするとき、
156≦Rd(λ)≦248
および
802≦Rd(λ)≦872
および
172≦Rd(λ)≦231
を満たし、さらに、前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過する側からみて、前記直線偏光の電場の振動する方向を基準に反時計回り方向0°〜180°の範囲をプラス(+)、時計回り方向0°〜−180°の範囲をマイナス(−)とし、絶対値が最も小さい前記θの値がゼロより大きいとき、前記θは、
2×θ−14.2≦θ≦2×θ+12.1
を満たすとともに、前記θは、
(2×θ+45)−14.5≦θ≦(2×θ+45)+12.1
を満たす上記の広帯域波長板を提供する。
【0017】
また、前記波長λは390〜420nmの波長範囲である405nm波長帯、前記波長λは640〜680nmの波長範囲である660nm波長帯、前記波長λは765〜805nmの波長範囲である785nm波長帯であり、波長λに対する、前記第1の波長板のリタデーション値、前記第2の波長板のリタデーション値、前記第3の波長板のリタデーション値、をそれぞれ、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、とするとき、
156≦Rd(λ)≦248
および
802≦Rd(λ)≦872
および
172≦Rd(λ)≦231
を満たし、さらに、前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過する側からみて、前記直線偏光の電場の振動する方向を基準に反時計回り方向0°〜180°の範囲をプラス(+)、時計回り方向0°〜−180°の範囲をマイナス(−)とし、絶対値が最も小さい前記θの値がゼロより小さいとき、前記θは、
2×θ−12.1≦θ≦2×θ+14.2
を満たすとともに、前記θは、
(2×θ−45)−12.1≦θ≦(2×θ−45)+14.5
を満たす上記の広帯域波長板を提供する。
【0018】
さらに、異なる3種の波長の光を出射する少なくとも一つの光源と、前記光源から出射する光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、前記光記録媒体から反射される光を検出する光検出器と、を備えた光ヘッド装置であって、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中、または前記対物レンズと前記光検出器との間の光路中に、上記に記載の広帯域波長板が配置される光ヘッド装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、異なる複数の波長の光が入射してそれぞれの光の偏光状態を変えることができかつ、一定の範囲の波長帯域において所望の光学特性を安定して得ることができる広帯域波長板を提供するとともに、3つの異なる波長の光を使用する光ヘッド装置において光学素子の部品点数の削減による小型化および、記録・再生の高品質化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る広帯域波長板10を示す模式図である。このうち、図1(a)は、広帯域波長板10の断面模式図であり、複屈折性を示す3枚の波長板11、12および13が、透明基板14a、14bとともに一体化されてなるものである。また、透明基板14a、14b、波長板11、12および13の間には、それぞれ、図示しない別の透明基板や光学的に等方的な図示しない接着剤などの透明媒質が配されていてもよい。また、広帯域波長板10は、一体化された構造であるものに限らず、透明基板14a、14bを有さないで、波長板11、12および13のみで構成されていたり、波長板11、12および13が互いに離れて配置されていたりしてもよい。
【0021】
また、透明基板14a、14bは、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的に等方性を有する材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。このように透明基板14a、14bのうち少なくとも1つの透明基板と波長板11、12および13とが一体化されると、表面の平滑化処理や接着の保持ができ、歪み等によって発生する透過光の波面収差量の増加を抑制できる。また、他の光学素子と積層一体化せずに広帯域波長板を単独で用いる場合には、少なくとも2枚の透明基板14a、14bにより挟み込む構成が波面収差低減、強度確保の点から好ましい。
【0022】
また、複屈折性を有する材料からなる波長板11、12および13は、例えば、液晶を高分子化した高分子液晶、あるいは延伸して複屈折性を誘起したポリカーボネート、ポリオレフィン、PVA等の有機材料を使用してもよく、また水晶、LiNbO、LiTaO、KDP等の光学異方性を有する単結晶を使用してもよい。また、高分子液晶からなる場合、図示しない配向膜が施されていてもよい。なお、これらの波長板の光学軸はすべてX−Y平面に平行し厚さ方向(Z方向)に揃うように構成される。
【0023】
また、3つの波長板11、12および13の接着には、図示しない粘着フィルム、UV硬化型や熱硬化型の接着剤を使用できる。ここで、広帯域波長板10の波面収差の低減、温度特性や信頼性の向上のためには、できるだけ薄い接着層として貼り合わせることが望ましく、図示しない接着層の厚さを10μm以下にすることがとくに望ましい。
【0024】
このように構成される広帯域波長板10は、405nm波長帯の光、660nm波長帯の光、785nm波長帯の光が同じ方向に電場が振動する直線偏光で入射するとき、405nm波長帯、660nm波長帯の光に対して1/4波長板の機能を有し、785nm波長帯の光に対して偏光状態を変えない1波長板としての機能を実現する。ここで、具体的に405nm波長帯は、390〜420nmの範囲、660nm波長帯は、640〜680nmの範囲、785nm波長帯は、765〜805nmの範囲を示すものとする。
【0025】
1/4波長板は、波長λの光に対してλ/4の整数倍の位相差を発生する機能を有し、直線偏光で入射する光を円偏光に、または円偏光で入射する光を直線偏光に変換する機能を有する。そして、直線偏光で入射する場合、透過する光の偏光状態を楕円率によってその性能を評価することができ、この楕円率が1に近いほど円偏光に近い偏光状態となるので、1/4波長板の性能が高いといえる。本発明の広帯域波長板10は、直線偏光で入射する405nm波長帯の光に対して透過する光の楕円率(楕円の長径に対する楕円の短径の比)κおよび直線偏光で入射する660nm波長帯の光に対して透過する光の楕円率κがそれぞれ0.65以上であれば好ましく、0.75以上であればより好ましく、0.8以上であればさらに好ましい。
【0026】
例えば、直線偏光の電場の振動方向に平行する方向をA方向とし、その強度成分が100%、光強度1となる405nm波長帯の光または660nm波長帯の光が広帯域波長板10に入射すると、透過する光は円偏光に近い偏光状態となる。また、このとき、広帯域波長板10を透過する405nm波長帯の光の楕円率をκ、広帯域波長板10を透過する660nm波長帯の光の楕円率をκとする。そして、光ディスクで反射して、再び広帯域波長板10を透過すると方向がA方向と直交するB方向に振動する電場の強度成分が主となる略直線偏光に変換される。楕円率κ、κが0.65以上である場合、この光のB方向に振動する電場の強度成分が0.8以上となる。ここで、光ヘッド装置において、光源よりA方向に電場が振動する直線偏光を出射して光ディスクで反射された光のうち、B方向に振動する電場の強度成分の割合が多いほど、光路中に配置する偏光ビームスプリッタで偏向させて光検出器に到達させる光量が多くすることができる。そのため、楕円率κ、κが1に近づくほどこの利用効率が高くなり好ましい。
【0027】
一方、1波長板は、波長λの光に対してλの整数倍の位相差を発生する機能を有するので、理想としては入射する光と透過する光の偏光状態とが同じとなる機能を有するとよい。本発明の広帯域波長板10において、例えば、A方向に振動する電場の強度成分が100%、光強度1となる785nm波長帯の直線偏光が広帯域波長板10に入射する場合、透過する光はA方向に振動する電場の強度成分が主となる光であるとよい。このとき785nm波長帯の光に対する楕円率κは、0.4以下であれば好ましく、0.3以下であればより好ましい。また、A方向に対して、楕円偏光の楕円形の長軸の方向は方位角ψと定義し、透過した光が直線偏光(κ=0)の場合、電場の振動する方向が方位角ψに相当する。なお、楕円偏光の場合、A方向と、電場の振幅が最も大きくなる方向と、がなす角度が方位角ψとすることができる。本発明の広帯域波長板10において785nm波長帯で入射するA方向に電場が振動する直線偏光に対して、透過する光の方位角はA方向を基準として−10°〜+10°の範囲内であれば好ましく、−5°〜+5°の範囲内であればより好ましい。
【0028】
次に、異なる3つの波長帯の光が入射して、1/4波長板の機能または1波長板の機能を得るための広帯域波長板10の構成について説明する。このとき、図1の広帯域波長板10には、これらの波長帯の光はX方向に電場が振動する直線偏光であって、透明基板14a側からZ方向に進行しながら入射するものとして説明する。また、以下、波長板11、12および13をそれぞれの波長の直線偏光が入射する順に基づき、第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13とする。なお、直線偏光の電場の振動する方向は、以下、「電場の振動する」を略して単に「直線偏光の方向」または、「A方向の直線偏光」などとして説明する。
【0029】
図1(b)は、広帯域波長板10の平面模式図であり、広帯域波長板10に入射する直線偏光15の方向(=X方向)と、第1の波長板11の光学軸21とがなす角度をθとする。さらに、広帯域波長板10に入射する直線偏光15の方向(=X方向)と、第2の波長板12の光学軸22とがなす角度をθ、広帯域波長板10に入射する直線偏光15の方向(=X方向)と、第3の波長板13の光学軸23とがなす角度をθとする。なお、ここでいう光学軸の組み合わせは、3つの波長板の進相軸どうしまたは、遅相軸どうしの組み合わせにおいて考えるものとし、以下、それぞれの波長板のパラメータの設定条件について、とくに最適となる条件について説明する。
【0030】
1.波長板の光学軸の角度設定
図1(b)を用いて、まずは、具体的な角度θ、θおよびθの角度(それぞれ単位は[°])の関係について説明する。ここで、θ、θおよびθの符号は、広帯域波長板10の、光の透過側の面(X−Y平面)において、X方向を基準に反時計回り方向をプラス(+)、時計回り方向をマイナス(−)と定義し、プラス(+)の取り得る範囲は0°〜+180°、マイナス(−)の取り得る範囲は0°〜−180°とする。なお、X−Y平面の座標の原点は光軸(光の中心)と交わる点に相当する。そして、θとθとの関係は、θは絶対値が最も小さくなる進相軸または遅相軸に対する値であるものとし、そのときの進相軸どうしまたは遅相軸どうしの組み合わせにおいて、
θ=2×θ ・・・ (1)
となるようにする。さらに、θとθとの関係は、
θ=θ+45 ・・・ (2a)
または、
θ=θ−45 ・・・ (2b)
のうちいずれか一方が成立するように設定する。したがって、θが決まれば、式(1)と、式(2a)または式(2b)のいずれか一方によってθおよびθが決まる。
【0031】
2.波長板のリタデーション値
例えば、第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13を構成する複屈折性の材料が同じものであって、該複屈折性材料の常光屈折率をn、異常光屈折率をnとしたときの屈折率異方性Δn(=|n−n|)と第1の波長板の厚さdとの積で表される第1のリタデーション値をRd(=Δn・d)とする。また、屈折率異方性Δnについては波長分散性、つまり同じ複屈折性材料であっても入射する光の波長によって異なるΔnについて考慮して設計する。
【0032】
そして、第2の波長板12の厚さをdとし、このときのリタデーション値をRd(=Δn・d)、第3の波長板13の厚さをdとし、このときのリタデーション値をRd(=Δn・d)とする。なお、第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13を構成する複屈折性材料は同じものとして説明しているが、異なる材料の組合せであってもよい。また、3つの波長板のうち2つの材料が同じであると好ましく、3つ全て同じ材料であると、使用温度変化に対する熱膨張係数がすべて同じであるため、広帯域波長板10の歪みをより少なくできるなどの理由でより好ましい。
【0033】
次に、これら3つの波長板のリタデーション値の条件について説明する。広帯域波長板10に異なる3つの波長λ、λおよびλ(λ<λ<λ)の光が入射するとき、第1の波長板11において、波長λに対するリタデーション値Rd(λ)は、
Rd(λ)=λ/2 ・・・ (3)
を満たすように、複屈折性材料および厚さdを調整する。さらに、第3の波長板13において、波長λに対するリタデーション値Rd(λ)は、
Rd(λ)=λ/4 ・・・ (4)
を満たすように、複屈折性材料および厚さdを調整する。
【0034】
ここで、上記の式(1)〜式(4)の条件を満たす(式(2a)と式(2b)は、このうちいずれか一方)ように広帯域波長板10を構成するとき、この広帯域波長板10に入射する光の偏光状態の変化について図1(b)を用いて説明する。図1(b)の平面模式図に示すように、波長λのX方向の直線偏光15が入射すると、まず、第1の波長板11のリタデーション値Rd(λ)は、λ/2であって、πの位相差が生じるため、波長板11を透過する光は2×θの方向の直線偏光、つまり、式(1)より、直線偏光15の方向に対してθの角度をなす方向の直線偏光となる。そして、第2の波長板12に入射する波長λの直線偏光の方向は、第2の波長板12の光学軸22と一致するので、偏光状態を変えずに透過し、第3の波長板13に入射する。これより、波長λの光に対し、第2の波長板のリタデーション値Rd(λ)は任意に決めることができる。このRd(λ)の値は、波長λの光に対するΔn、波長λの光に対するΔn、つまり波長分散特性を考慮するとよく、波長λおよび波長λの光が入射して所望の偏光状態となるような値に設定するとよい。
【0035】
そして、第2の波長板12の光学軸22に一致して第3の波長板13に入射する波長λの直線偏光の方向と、第3の波長板13の光学軸とがなす角度(=θ−θ)は、45[°]であり、さらに第3の波長板13のリタデーション値Rd(λ)は、λ/4であってπ/2の位相差を発生するので、直線偏光から円偏光となって広帯域波長板10を透過する。このように直線偏光で入射する波長λの光に対して楕円率κが1となる円偏光で透過させるには、式(1)〜式(4)の条件を満たせばよく(式(2a)と式(2b)は、このうちいずれか一方)、これらの条件を満たすとともに、波長λおよび波長λの光に対して透過する光がそれぞれ所望の偏光状態となる条件を設定する。
【0036】
ここで、波長λおよび波長λの光でX方向の直線偏光がZ方向に進行して広帯域波長板10に入射し、波長λの光が円偏光となって透過するとともに、波長λの光がX方向の直線偏光のまま透過するための、各波長板のリタデーション値Rd(λ)、Rd(λ)およびRd(λ)の条件および、θ、θおよびθの条件を求めるとよく、以下にその設計手法について説明する。なお、波長λに対するリタデーション値Rd(λ)、Rd(λ)およびRd(λ)は、以降、単にRd、RdおよびRdとして表現することもある。
【0037】
ここで具体的に、波長λの光に対して楕円率κを1に近づけるとともに、波長λの光に対して楕円率κを0に近づけるための条件を設定する。このとき、広帯域波長板10を構成する第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13を透過する光の偏光状態をストークスパラメータSで表し、後述するミュラー行列を解くことによって、Rd、RdおよびRdの条件および、θ、θおよびθの条件を求めるものである。なお、ストークスパラメータSは、通常(S、S、S、S)の4次元ベクトルで表すことができ、Sは光の強度、Sは0°方向(X軸方向)に振動する電場の強度、Sは45°方向に振動する電場の強度、そしてSは円偏光の強さを意味するものである。以降、ストークスパラメータSは光の強度Sを省略して(S,S,S)の3次元ベクトルとして説明をする。
【0038】
まず、kを波長の種類として(k=1、2、3)波長λを与えるとき、この3つの波長λの光はいずれも同じ方向(X軸方向)の直線偏光で広帯域波長板10に入射するので、入射する光のストークスパラメータSINkは、
(S1INk,S2INk,S3INk)=(1,0,0) ・・・ (5)
で与えることができる。
【0039】
そして、広帯域波長板10を透過する各波長の光のストークスパラメータを(S1OUTk,S2OUTk,S3OUTk)とする。まず、透過する波長λの光は前述のように3つの波長板の光学軸の組み合わせである式(1)と、式(2a)または式(2b)いずれか一方の条件より、円偏光が理想であるので、
(S1OUT1,S2OUT1,S3OUT1)=(0,0,1) ・・・ (6a)
または、
(S1OUT1,S2OUT1,S3OUT1)=(0,0,−1) ・・・ (6b)
のいずれかが成立するようにする。
【0040】
次に、広帯域波長板10を透過する波長λの光は、円偏光が理想であるので、
(S1OUT2,S2OUT2,S3OUT2)=(0,0,1) ・・・ (7a)
または、
(S1OUT2,S2OUT2,S3OUT2)=(0,0,−1) ・・・ (7b)
のいずれかが成立するようにする。
【0041】
そして、広帯域波長板10を透過する波長λの光は、直線偏光が理想であるので、
(S1OUT3,S2OUT3,S3OUT3=(1,0,0) ・・・ (8)
が成立するようにする。
【0042】
次に、第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13の光学特性について、それぞれミュラー行列WP1k(θ,δ1k)、WP2k(θ,δ2k)およびWP3k(θ,δ3k)を与える。ここで、δ1k、δ2kおよびδ3kは、それぞれの波長板で生じる位相差であり、入射する光の波長λに依存して決定される(k=1、2、3)。つまり、
δ1k=360・Rd(λ)/λ[°] ・・・ (9a)
δ2k=360・Rd(λ)/λ[°] ・・・ (9b)
δ3k=360・Rd(λ)/λ[°] ・・・ (9c)
で与えられる。そして、各ミュラー行列については、θ、θ、θ、δ1k、δ2kおよびδ3kを用いて、下記の式(10a)〜式(10c)で与えることができる。なお、3×3の行列の一般式の中で、例えば式(10a)の成分のうちA23kの“23k”は、左から「行の番号」、「列の番号」、「(波長の短いほうから)k番目の波長」で規則的に並ぶように表記するものである。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、図1(b)において、X方向の直線偏光が広帯域波長板10の、第1の波長板11、第2の波長板12および第3の波長板13を透過したとき、波長λの光において式(6a)または式(6b)、波長λの光において式(7a)または式(7b)、波長λの光において式(8)を満たすため、式(10a)〜式(10c)を用いた行列式を利用して、それぞれ下記の式(11a)〜式(11c)で与えることができる。
【0045】
【数2】

【0046】
このとき、式(1)と、式(2a)または式(2b)のいずれかを満たし、かつ、波長λの光が入射するときの第1の波長板11で1/2波長板の機能を有するように、式(3)を変形させて、
δ11=180[°] ・・・ (12a)
を満たすとともに、波長λの光が入射するときの第3の波長板13で1/4波長板の機能を有するように、式(4)を変形させて、
δ31=90[°] ・・・ (12b)
を満たすようにし、最適計算によって他のパラメータθ、θ、θ、δ1k、δ2kおよびδ3kを決定することができる。
【0047】
次に、上記条件は、透過する3つの異なる波長の光において完全な円偏光(楕円率κ、κ=1)および完全な直線偏光(楕円率κ=0)を満たすものであるが、本願発明では、透過する光の偏光状態が各波長帯の光に対して、一定の楕円率の条件を満たすものであればよい。具体的に、波長λを405nm波長帯(390〜420nm)、波長λを660nm波長帯(640〜680nm)、そして波長λを785nm波長帯(765〜805nm)としたとき、波長λの光に対する楕円率κおよび波長λの光に対する楕円率κが0.65以上、また、波長λの光に対する楕円率κが0.4以下の条件を満たすものであればよい。
【0048】
広帯域波長板10の楕円率κが0.65以上となる条件として、θ、θおよびθは式(1)と、式(2a)または式(2b)のいずれか一方の条件、Rd(λ)は式(4)の条件で固定し、Rd(λ)の取り得る範囲について考える。このとき、Rd(λ)の最小値は、波長λの取り得る波長のうち、波長390nmの光に対するリタデーション値Rd(390)=390/2−39=156[nm]となるので、Rd(λ)が156[nm]以上であればよい。さらにRd(λ)の最大値は、波長λの取り得る波長のうち、波長420nmの光に対するリタデーション値Rd(420)=420/2+38=248[nm]となるので、Rd(λ)が248[nm]以下であればよい。これより、第1の波長板11の波長λにおけるリタデーション値Rd(λ)[nm]は、
156≦Rd(λ)≦248 ・・・ (13)
の範囲において設定するとよい。
【0049】
次いで、波長λを405nm波長帯(390〜420nm)としたとき、広帯域波長板10の楕円率κが0.65以上となる条件として、θ、θおよびθは式(1)と、式(2a)または式(2b)いずれか一方の条件、Rd(λ)は式(3)の条件で固定し、Rd(λ)の取り得る範囲について考える。このとき、Rd(λ)の最小値は、波長λの取り得る波長のうち、波長390nmの光に対するリタデーション値Rd(390)=390/2−23=172[nm]となるので、Rd(λ)が172[nm]以上であればよい。さらにRd(λ)の最大値は、波長λの取り得る波長のうち、波長420nmの光に対するリタデーション値Rd(420)=420/2+21=231[nm]となるので、Rd(λ)が231[nm]以下であればよい。これより、第3の波長板13の波長λにおけるリタデーション値Rd(λ)[nm]は、
172≦Rd(λ)≦231 ・・・ (14)
の範囲において設定するとよい。
【0050】
次いで、波長λを405nm波長帯(390〜420nm)としたとき、広帯域波長板10の楕円率κが0.65以上となる条件として、Rd(λ)およびRd(λ)は式(3)および式(4)の条件で固定し、θの取り得る範囲について考える。ここで、θ>0であるとき、波長λ=390[nm]で式(1)と式(2a)と、が成立するθの最適条件に対して、−14.2[°]の条件で楕円率κが0.65となる。また、波長λ=405[nm]で式(1)と式(2a)とが成立するθの最適条件に対して、+12.1[°]の条件で楕円率κが0.65となる。これより、θ>0であるとき、式(1)および式(2a)はそれぞれ、
2×θ−14.2≦θ≦2×θ+12.1 ・・・ (15)
(θ−45)−14.2≦θ≦(θ−45)+12.1 ・・・ (16)
の不等式が成立する条件で与えることができる。なお、θ>0であるとき、式(1)および式(2b)の条件ではθの解は得られない。
【0051】
一方、θ<0であるとき、波長λ=390[nm]で式(1)と式(2b)と、が成立するθの最適条件に対して、+14.2[°]の条件で楕円率κが0.65となる。また、波長λ=405[nm]で式(1)と式(2b)とが成立するθの最適条件に対して、−12.1[°]の条件で楕円率κが0.65となる。これより、θ<0であるとき、式(1)および式(2b)はそれぞれ、
2×θ−12.1≦θ≦2×θ+14.2 ・・・ (17)
(θ−45)−12.1≦θ≦(θ−45)+14.2 ・・・ (18)
の不等式が成立する条件で与えることができる。なお、θ<0であるとき、式(1)および式(2a)の条件ではθの解は得られない。
【0052】
次いで、波長λを405nm波長帯(390〜420nm)としたとき、広帯域波長板10の楕円率κが0.65以上となる条件として、Rd(λ)およびRd(λ)は式(3)および式(4)の条件で固定し、θの取り得る範囲について考える。ここでθ>0であるとき、波長λ=390[nm]で式(2a)が成立するθの最適条件に対して、−14.5[°]の条件で楕円率κが0.65となる。また、波長λ=405[nm]で式(2a)が成立するθの最適条件に対して、+12.1[°]の条件で楕円率κが0.65となる。これより、式(2a)は、
(θ+45)−14.5≦θ≦(θ+45)+12.1 ・・・ (19)
の不等式が成立する条件で与えることができ、さらに式(1)を組み合わせると、
(2×θ+45)−14.5≦θ≦(2×θ+45)+12.1・・・ (20)
の不等式が成立する条件で与えることができる。なお、θ>0であるとき、式(1)および式(2b)の条件ではθの解は得られない。
【0053】
一方、θ<0であるとき、波長λ=390[nm]で式(1)と式(2b)と、が成立するθの最適条件に対して、+14.5[°]の条件で楕円率κが0.65となる。また、波長λ=405[nm]で式(1)と式(2a)とが成立するθの最適条件に対して、−12.1[°]の条件で楕円率κが0.65となる。これより、θ<0であるとき、式(2b)は、
(θ−45)−12.1≦θ≦(θ−45)+14.5 ・・・ (21)
の不等式が成立する条件で与えることができ、さらに式(1)を組み合わせると、
(2×θ−45)−12.1≦θ≦(2×θ−45)+14.5 ・・・ (22)
の不等式が成立する条件で与えることができる。なお、θ<0であるとき、式(1)および式(2a)の条件ではθの解は得られない。
【0054】
この他のパラメータとして、θの値および第2の波長板12のリタデーション値Rd(λ)は、波長λとなる660nm波長帯(640〜680nm)の光が入射して広帯域波長板10を透過する光の楕円率κが同様に0.65以上であり、波長λとなる785nm波長帯(765〜805nm)の光が入射して広帯域波長板10を透過する光の楕円率κが0.4以下となるように、設定するとよい。この場合、第2の波長板12のリタデーション値Rd(λ)は、
802≦Rd(λ)≦872 ・・・ (23)
の範囲において設定するとよい。
【0055】
(第2の実施形態)
第2の実施形態として、第1の実施形態に係る広帯域波長板10を用いた光ヘッド装置20について説明する。図2は、第2の実施形態に係る光ヘッド装置20の模式図であって、半導体レーザ等の光源21から出射される405nm波長帯の光は、回折素子24、ダイクロイックプリズム27、偏光ビームスプリッタ28、ダイクロイックプリズム29を透過し、コリメータレンズ30で平行光となって、本願発明の広帯域波長板10によって円偏光となる。円偏光となった光は、ダイクロイックプリズム31を透過し、ミラー32で反射され、対物レンズ34によってBD等の光ディスク35の情報記録面に集光される。復路の光は往路の円偏光とは逆方向に電場が回転する円偏光となって広帯域波長板10を出射する復路の直線偏光の方向は往路の直線偏光の方向に対して直交し、偏光ビームスプリッタ28で反射して光検出器36に到達する。光検出器36では、光ディスク35で反射された光からピット情報を検出することで光ディスク35に記録された情報の読み出しを行う。
【0056】
同様に、半導体レーザ等の光源22から出射される660nm波長帯の光は、回折素子25を透過し、ダイクロイックプリズム27で反射され、偏光ビームスプリッタ28、ダイクロイックプリズム29を透過し、コリメータレンズ30で平行光となって、本願発明の広帯域波長板10によって円偏光となる。円偏光となった光は、ダイクロイックプリズム31で反射され、対物レンズ33によってDVD等の光ディスク35の情報記録面に集光される。復路の光は往路の円偏光とは逆方向に電場が回転する円偏光となって、広帯域波長板10に入射する。広帯域波長板10を出射する復路の直線偏光の方向は往路の直線偏光の方向に対して直交し、偏光ビームスプリッタ28で反射して光検出器36に到達する。
【0057】
そして、半導体レーザ等の光源22から出射される785nm波長帯の光は、回折素子26を透過し、入射光の一部を透過、一部を反射するハーフミラー等の透過反射素子27を透過し、ダイクロイックプリズム29で反射され、コリメータレンズ30で平行光となって、本願発明の広帯域波長板10を直線偏光の偏光状態をほぼ変えないまま透過する。直線偏光の光は、ダイクロイックプリズム31で反射され、対物レンズ23によってDVD等の光ディスク35の情報記録面に直線偏光の状態で集光される。復路の光は広帯域波長板10に入射する往路の直線偏光と同じ方向の直線偏光となり、ダイクロイックプリズム29で反射され、透過反射光学素子37で反射され光検出器38に到達する。
【0058】
このように、広帯域波長板10を用いることで、405nm波長帯、660nm波長帯の光に対して良好な円偏光を得ることができ、さらに785nm波長帯の光に対して直線偏光とすることができる光ヘッド装置を実現できるので、光ディスクに対する記録・再生の品質が高く、かつ小型化された光ヘッド装置を実現することができる。
【0059】
(実施例)
実施例として、本発明に係る広帯域波長板40の作製方法について図3(a)を用いて説明する。なお、実施例の広帯域波長板40は、第1の実施形態に係る広帯域波長板10に対し、3つの波長板の間に透明基板が形成され一体化された構造であって各波長板の機能は第1の実施形態と同じである。まず、透明基板44aとして石英ガラス基板を用い、一方の面に真空蒸着法を用いて図示しない反射防止膜を形成した。透明基板44aの反射防止膜とは反対の面にポリイミドを塗布し、ラビングにより水平配向処理をして図示しない配向膜を形成した。次に、透明基板44aの外周部に図示しない熱硬化型のエポキシ系シール剤を塗布してから、配向膜上に図示しない直径5.0μmのSiOビーズを10個/mmの密度でスペーサとして散布した。その後、同様に図示しないポリイミド配向膜付き石英ガラス基板を用意し、図示しないポリイミド配向膜付き石英ガラス基板のポリイミド配向膜上を撥水処理した。
【0060】
そして、ポリイミド配向膜付きの透明基板44aと、図示しないポリイミド配向膜付き石英ガラス基板の配向膜の配向方向が互いに一致するように対向させ、前述のエポキシ系シール剤で固定し、2枚の石英ガラス基板間のギャップが5.0μmの液晶セルを形成した。このように対向させた2枚の石英ガラス基板の5.0μmのスペースに複屈折性を有するネマチック液晶モノマーを図示しない注入口から注入し、充填させた。
【0061】
この液晶モノマーとしては、重合・硬化後のポリマー(高分子液晶状態)における屈折率異方性Δnが、波長405nmの光に対し0.040、波長660nmの光に対し0.035、波長785nmの光に対し0.034となるものを用いた。
【0062】
その後、波長365nmのUV光を液晶モノマー材料全体に照射し、液晶モノマー組成物全体を重合・固化し、その後、30分間140℃の熱処理をして、厚さ5.0μmの水平配向した高分子液晶層を形成した。そして、撥水処理されたポリイミド配向膜付き石英ガラス基板を除去し、ポリイミド配向膜付きの透明基板44a上に水平配向した5.0μmの厚さの高分子液晶からなる第1の波長板41を形成した。
【0063】
上記と同様のプロセスにより、ポリイミド配向膜付きの透明基板44b上の図示しない配向膜上に7.6μmの厚さの高分子液晶からなる第2の波長板42を形成した。第2の波長板42の液晶モノマーとしては、重合・硬化後のポリマーにおける屈折率異方性が、波長405nmの光に対し0.109、波長660nmの光に対し0.095、波長785nmの光に対し0.092となるものを用いた。
【0064】
また、同様のプロセスにより、ポリイミド配向膜付きの透明基板44c上の図示しない配向膜上に2.5μmの厚さの高分子液晶からなる第3の波長板43を形成した。また、第3の波長板43を構成する高分子液晶材料は第1の波長板41の高分子液晶材料と同一のものであり、第2の波長板42を構成する高分子液晶材料とは異なるものとした。このとき、波長λ=405nmの光に対する第1の波長板41のリタデーション値Rd(λ)は約203nm、第2の波長板42のリタデーション値Rd(λ)は約829nm、第3の波長板43のリタデーション値Rd(λ)は約102nmとなった。
【0065】
次に図3(b)に示すように、光の透過側から見たとき、第1の波長板41の進相軸46と第2の波長板42の進相軸47とがなす角度を18[°]となるようにして対向させ、図示しない光学的に等方性を示す透明な接着剤で接着した。次いで、第2の波長板42の進相軸47と第3の波長板43の進相軸48が45[°]となるようにポリイミド配向膜付きの透明基板44bと第3の波長板43とを対向させ、図示しない光学的に等方性を示す透明な接着剤で接着し、広帯域波長板40を作製した。
【0066】
作製した広帯域波長板40のポリイミド配向膜付きの透明基板44a面(反射防止膜形成面)に向かって垂直な進行方向で直線偏光を入射した。このとき、入射する直線偏光の方向45と第1の波長板の進相軸46とがなす角度(=θ)が18[°]となるように設定した。ここで、広帯域波長板40に405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の直線偏光を入射し、それぞれの波長の光に対する光学特性を調べた。図4は、それぞれの波長帯の直線偏光に対して得られた光学特性を示すグラフである。これより、広帯域波長板40を透過する光の偏光状態は、図4(a)に示すように、405nm波長帯の光に対して楕円率が0.9以上となり、図4(b)に示すように660nm波長帯の光は楕円率が0.8以上となることがわかった。
【0067】
一方、図4(c)に示すように785nm波長帯の光に対して楕円率が0.35以下となることがわかった。そして入射する直線偏光の方向を基準としたとき、透過する側から見たとき、透過する785nm波長帯の光の方位角は、図4(d)に示すように6[°]以下と安定した値となった。また、楕円率0.35以下かつ方位角が+6°以下の偏光状態は楕円偏光であって完全な直線偏光ではないものの、入射した直線偏光の方向に平行な成分の強度(偏光子強度)は88%以上となり、入射偏光に対して、ほとんど偏光状態を変えていないとみなすことができる。
【0068】
このように、本発明の広帯域波長板は、405nm波長帯と660nm波長帯の光に対して、1/4波長板として機能し、波長785nm波長帯の光に対しては、ほぼ偏光状態を変えない(直線偏光状態を維持する)波長板として機能する。そして、この広帯域波長板をこれらの3つの異なる波長の光に共通する光路中に配置することで、小型化が実現できるとともに高品質機能を有する光ヘッド装置を実現することができる。
【0069】
(比較例)
比較例として、405nm波長帯に対して9λ/4板、660nm波長帯に対して5λ/4板、785nm波長帯に対して1波長板の機能を有する2枚の波長板を用いた特許文献2に記載の広帯域波長板の特性を示す。具体的に、2枚の波長板の構成を光が入射する側から第1の波長板、第2の波長板とするとき、第1の波長板の厚さを75.0[μm]、θに相当する角度を12[°]とし、第2の波長板の厚さを66.0[μm]、θに相当する角度を65[°]とする。また、液晶モノマーとして、重合・硬化後のポリマー(高分子液晶状態)における屈折率異方性Δnが、波長405nmの光に対し0.0140、波長660nmの光に対し0.0118、波長785nmの光に対し0.0114となるものを用いるものとして計算を行った。
【0070】
このとき、比較例の条件において、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の直線偏光を入射したときの楕円率、および785nm波長帯における方位角の結果を図5に示す。図5(a)は、405nm波長帯の楕円率、図5(b)は、660nm波長帯の楕円率、図5(c)は、785nm波長帯の楕円率を示すグラフである。また、図5(d)は、785nm波長帯の方位角を示すグラフである。
【0071】
この結果より、比較例では、とくに405nm波長帯において楕円率0.65以上の特性を得ることができない。このため、この広帯域波長板を光ヘッド装置に配置したとき、CDの記録再生においてディスクの複屈折の影響を低減することはできても、BDのような高密度光記録媒体の記録再生の際、405nm波長帯の偏光状態が良好な円偏光とならないため、BDなどで反射した復路の光利用効率が低下し、安定したな記録再生ができなくなる。なお、比較例のような2枚の波長板から構成される広帯域波長板のパラメータを変化させても、405nm波長帯および660nm波長帯の光に対する楕円率が0.65以上、785nm波長帯の光に対する楕円率が0.4以下でかつ、方位角が−10°〜+10°の範囲と満たす条件が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、3枚の波長板を配して構成される広帯域波長板として各波長板のリタデーション値、それぞれの光学軸の交差角をそれぞれ調整することにより、異なる波長帯域を有する波長λ、λおよびλ(λ<λ<λ)で入射する直線偏光に対し、λ、λの光は楕円率を高く円偏光に近い偏光状態にすることができ、λの光は楕円率が低い直線偏光に近い偏光状態で出射させることができる。さらに、この広帯域波長板を規格が異なる光ディスクの記録・再生をする光ヘッド装置に配置することで記録・再生の品質を高めた光ヘッド装置を実現することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る広帯域波長板の断面模式図および各波長板の各光学軸の角度などの関係を示す平面模式図。
【図2】本発明に係る広帯域波長板を用いた光ヘッド装置の一例を示す模式図。
【図3】本発明の実施例における広帯域波長板の断面模式図および各波長板の各光学軸の角度などの関係を示す平面模式図。
【図4】本発明の実施例における広帯域波長板の各波長帯における楕円率、方位角の光学特性結果。
【図5】比較例の各波長帯における楕円率、方位角光学特性の計算結果。
【図6】従来の3波長の光を扱う光ヘッド装置の構成を示す模式図。
【図7】3波長の光を扱う光ヘッド装置の構成を示す模式図(特許文献1)。
【図8】3波長の光を扱う光ヘッド装置の構成を示す模式図(特許文献2)。
【符号の説明】
【0074】
10、40 広帯域波長板(本発明)
11、41 第1の波長板
12、42 第2の波長板
13、43 第3の波長板
14a、14b、44a、44b、44c (ポリイミド配向膜付きの)透明基板
15、45 入射する直線偏光の電場が振動する方向
21、46 第1の波長板の光学軸
22、47 第2の波長板の光学軸
23、48 第3の波長板の光学軸
20、100、200、300 光ヘッド装置
21、101、201、301 光源(405nm波長帯)
22、102、202、302 光源(660nm波長帯)
23、103、203、303 光源(785nm波長帯)
24、25、26、104、105、106、204、205、206 回折素子
27、29、31、108、207、208、212、308、309 ダイクロイックプリズム
38、107、109、209 (偏光)ビームスプリッタ
30、110、111、210、310 コリメータレンズ
31、114、115、213 ミラー
33、34、116、117、214、215、313 対物レンズ
35、118、216、315 光ディスク
36、38、119、120、217、304、305、306 光検出器
37 透過反射光学素子
112、113、211 1/4波長板
307 無偏光回折格子
311 偏光回折格子
312 (広帯域)波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の異なる帯域を有する3種の波長λ、λ、λ(λ<λ<λ)で入射する直線偏光の偏光状態を変える広帯域波長板において、
前記広帯域波長板は、前記直線偏光が入射する側から順に第1の波長板、第2の波長板、第3の波長板が備えられ、
前記第1の波長板に入射する前記直線偏光の電場の振動する方向を基準とし、前記第1の波長板の進相軸、前記第2の波長板の進相軸、前記第3の波長板の進相軸との角度の組み合わせまたは、前記第1の波長板の遅相軸、前記第2の波長板の遅相軸、前記第3の波長板の遅相軸との角度の組み合わせをそれぞれθ[°]、θ[°]、θ[°]とするとき、
前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過した前記波長λの光の楕円率κおよび前記波長λの光の楕円率κが0.65以上、前記広帯域波長板を透過する前記波長λの光の楕円率κが0.4以下となるように前記第1の波長板のリタデーション値Rd、前記第2の波長板のリタデーション値Rd、前記第3の波長板のリタデーション値Rdおよび、前記θ、前記θ、前記θが設定されている広帯域波長板。
【請求項2】
前記波長λで入射する直線偏光の電場の振動する方向と、前記波長λで透過した光の電場の振幅が最も大きくなる方向と、の角度である方位角が−10°〜+10°の範囲となる請求項1に記載の広帯域波長板。
【請求項3】
前記波長λは390〜420nmの波長範囲である405nm波長帯、前記波長λは640〜680nmの波長範囲である660nm波長帯、前記波長λは765〜805nmの波長範囲である785nm波長帯であり、
波長λに対する、前記第1の波長板のリタデーション値、前記第2の波長板のリタデーション値、前記第3の波長板のリタデーション値、をそれぞれ、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、とするとき、
156≦Rd(λ)≦248
および
802≦Rd(λ)≦872
および
172≦Rd(λ)≦231
を満たし、さらに、
前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過する側からみて、前記直線偏光の電場の振動する方向を基準に反時計回り方向0°〜180°の範囲をプラス(+)、時計回り方向0°〜−180°の範囲をマイナス(−)とし、絶対値が最も小さい前記θの値がゼロより大きいとき、前記θは、
2×θ−14.2≦θ≦2×θ+12.1
を満たすとともに、
前記θは、
(2×θ+45)−14.5≦θ≦(2×θ+45)+12.1
を満たす請求項1または請求項2に記載の広帯域波長板。
【請求項4】
前記波長λは390〜420nmの波長範囲である405nm波長帯、前記波長λは640〜680nmの波長範囲である660nm波長帯、前記波長λは765〜805nmの波長範囲である785nm波長帯であり、
波長λに対する、前記第1の波長板のリタデーション値、前記第2の波長板のリタデーション値、前記第3の波長板のリタデーション値、をそれぞれ、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、Rd(λ)[nm]、とするとき、
156≦Rd(λ)≦248
および
802≦Rd(λ)≦872
および
172≦Rd(λ)≦231
を満たし、さらに、
前記入射する直線偏光が前記広帯域波長板を透過する側からみて、前記直線偏光の電場の振動する方向を基準に反時計回り方向0°〜180°の範囲をプラス(+)、時計回り方向0°〜−180°の範囲をマイナス(−)とし、絶対値が最も小さい前記θの値がゼロより小さいとき、前記θは、
2×θ−12.1≦θ≦2×θ+14.2
を満たすとともに、
前記θは、
(2×θ−45)−12.1≦θ≦(2×θ−45)+14.5
を満たす請求項1または請求項2に記載の広帯域波長板。
【請求項5】
異なる3種の波長の光を出射する少なくとも一つの光源と、
前記光源から出射する光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光記録媒体から反射される光を検出する光検出器と、を備えた光ヘッド装置であって、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中、または前記対物レンズと前記光検出器との間の光路中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の広帯域波長板が配置される光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−146605(P2010−146605A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319825(P2008−319825)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】