説明

底吹転炉のガス流量制御方法

【課題】底吹吹錬時の流量制御にあたって、緊急ガス変更という安全処理によるダウンタイムの発生、あるいは羽口の背圧が保てなくなり、転炉の底が抜けてしまうという重大トラブルを確実に避けることができる、底吹転炉のガス流量制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】羽口背圧とガス流量との計測値から羽口背圧とガス流量との特性曲線をリアルタイムに求め、求めた特性曲線に基づいて、次回変更予定のガス流量に対する羽口背圧を推定し、推定した羽口背圧に基づいて、次回のガス流量を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼転炉設備における底吹吹錬時の流量制御を行う底吹転炉のガス流量制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉設備では吹錬を行うために、ガスを炉口からランスを降ろして吹くいわゆる「上吹」と、炉の底にある羽口から吹く「底吹」の2種類を行う。
【0003】
後者の底吹吹錬では、底吹ガス流量が過大な場合は、羽口の損耗を加速させたり、溶鋼が炉壁に付着する地金の量を増加させるといった不具合が生じる。また逆に、流量が少ない場合は、羽口での溶鋼静圧を維持できなくなるため、羽口から溶鋼が逆流し、転炉の底が抜けてしまうというトラブルに直結する。このため、転炉の操業において底吹ガス流量の制御は溶鋼の品質のみならず、設備保護の観点からも非常に重要な役割を担っている。
【0004】
すなわち、ガス種切替時、あるいは流量設定変更時の設定値が適切でない場合には、緊急ガス変更という安全処理によるダウンタイムの発生、あるいは羽口の背圧が保てなくなり、転炉の底が抜けてしまうという重大トラブルに直結するという問題がある。特に、底吹ガスの頻繁なガス種変更および設定値変更が行われる場合には、普通鋼吹錬と比較しこの危険性が高くなる。
【0005】
これに対処するため、通常の操業では一定の流量設定下限値を設けての操業を行ってる。また、特許文献1には、ガス流量をステップ的に大幅に変更、若しくは、ガス種類を変更する際に、定流量制御から定圧制御に切替え、羽口背圧が予め定めた圧力設定値に達したときに、定圧制御から定流量制御に戻す技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭61−291910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記一定の流量設定下限値を設ける操業では、実際には同じ流量であっても羽口の損耗度合い、羽口本数によって背圧は変化してしまうため、安全率を高くした設定値、すなわち種々の操業状態に対処すべく流量設定下限値を高めにせざるを得ないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1は、ガス流量などの大幅なステップ変化に対する過渡応答特性の改善、すなわち立上げまたは立下げを早くする技術であり、緊急ガス変更という安全処理によるダウンタイムの発生、あるいは羽口の背圧が保てなくなり、転炉の底が抜けてしまうという重大トラブルを避ける技術ではない。
【0008】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、底吹吹錬時の流量制御にあたって、緊急ガス変更という安全処理によるダウンタイムの発生、あるいは羽口の背圧が保てなくなり、転炉の底が抜けてしまうという重大トラブルを確実に避けることができる、底吹転炉のガス流量制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、底吹転炉のガス流量制御方法であって、羽口背圧とガス流量との計測値から羽口背圧とガス流量との特性曲線をリアルタイムに求め、求めた特性曲線に基づいて、次回変更予定のガス流量に対する羽口背圧を推定し、推定した羽口背圧に基づいて、次回のガス流量を設定することを特徴とする底吹転炉のガス流量制御方法である。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の底吹転炉のガス流量制御方法において、前記推定した羽口背圧が溶鋼静圧維持を可能とする背圧下限値以上の場合には、前記次回変更予定のガス流量を次回のガス流量として設定し、前記推定した羽口背圧が前記背圧下限値未満の場合には、前記求めた特性曲線に基づいて、前記背圧下限値以上になるガス流量を求め、求めたガス流量を次回のガス流量として設定することを特徴とする底吹転炉のガス流量制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、羽口背圧とガス流量との計測値から羽口背圧とガス流量との特性曲線をリアルタイムに求め、求めた特性曲線に基づいて、次回変更予定のガス流量に対する羽口背圧を推定し、推定した羽口背圧に基づいて、次回のガス流量を設定するようにしたので、緊急ガス変更という安全処理によるダウンタイムの発生、あるいは羽口の背圧が保てなくなり、転炉の底が抜けてしまうという重大トラブルを確実に避けることができる。また、次回のガス流量を自動で設定するようにしたので、設定値入力ミスによるトラブル抑止も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態について、図と数式を参照して以下に説明を行う。
転炉内への配管を流れるガス流量Qは、以下に示す(1)式の関係があることが知られている。
【0013】
Q=a0*SQRT(ΔP)・・・・・(1)
ここで、a0は配管の太さ、長さ羽口の数で決まる定数である。また、ΔPは圧損であり、転炉内圧をPo、羽口背圧をPとすれば、(P−Po)で求められる。
【0014】
通常、転炉内圧Poは一定であるので、(1)式は(2)式のように書き換えることができる。
【0015】
Q=a*SQRT(P)・・・・・(2)
ここで、aは配管の太さ、長さ羽口の数などで決まる定数であり、通常の設備であればaは一定であるが、転炉吹錬の場合羽口は損耗により短くなる事もあれば、本数が変化することもある。このためaの値が変化してしまうので、同じ流量設定であっても羽口での背圧が変化してしまう。
【0016】
図2は、羽口背圧とガス流量との特性曲線を説明する図である。縦軸に羽口背圧P、横軸にガス流量Qをとった背圧流量特性を表す曲線であり、羽口の状況変化により、例えば特性A、特性B、特性Cのように特性曲線が変化する。特性Aから特性B、そして特性Cにいくに従って、前述の(2)式中の定数aの値が大きくなる。
【0017】
また、羽口背圧Pには、溶鋼静圧維持のための最低背圧を表す、背圧下限値Pminを示している。この背圧下限値Pmin以下の羽口背圧では、前述したように羽口での溶鋼静圧を維持できなくなり、羽口から溶鋼が逆流し、転炉の底が抜けてしまうというトラブルに至ってしまう。
【0018】
図2で、例えばガス流量Q0と同じ流量をとったとしても、特性により羽口背圧が、特性Aでは羽口背圧Pa、特性Bでは羽口背圧Pmin、特性Cでは羽口背圧Pcと特性によりそれぞれ羽口背圧が異なってくることが分る。
【0019】
図3は、本発明を適用するための装置概要を説明する図である。図中、1は転炉、2は上吹ランス、3は溶鋼、4は羽口、5は配管、6は圧力計、7は流量調節弁、8は流量計、および9は流量制御装置をそれぞれ表す。
【0020】
転炉1中の溶鋼3に、上吹ランス2および羽口4からガスを吹いて吹錬を行っている様子を模式的に表している。羽口4には、配管5を介してガスを供給し、配管5には羽口背圧を測定する圧力計6、ガス流量を計測する流量計8の計測器と、ガス流量を調節する流量調節弁7が配されている。
【0021】
流量制御装置9は、圧力計6および流量計8からの計測データを受信して、流量調節弁7に羽口4へ吹き込むべきガス流量を設定する。この流量制御装置9には、通常DCSが用いられるが、以下で説明を行う処理演算を行えるものであればどのような演算装置を用いても構わない。なお、図中のhは、転炉1中にある溶鋼3の高さを表しており、この溶鋼高さhに基づく溶鋼静圧に打ち勝つだけの羽口背圧がなければ羽口から溶鋼が逆流してしまう。
【0022】
図1は、本発明に係る底吹転炉のガス流量制御方法の処理手順例を示す図である。図1に沿って以下に処理を順に説明していくものとする。
【0023】
まず、Step01にて、圧力計および流量計にて背圧とガス流量のそれぞれの瞬時値を計測する。次にStep02にて、計測した背圧とガス流量のそれぞれの瞬時値からリアルタイムに背圧と流量の特性曲線を求める。具体的には、背圧とガス流量から前述の(2)式に基づいて定数aを計算する。なお、ここからの処理・判断は、流量制御装置にて行われる。
【0024】
そして、Step03にて、計算した定数aに基づく特性曲線を用いて、次回変更予定のガス流量Qchに対する羽口背圧Pchを推定する。次に、Step04にて、溶鋼静圧維持のための最低背圧を表す、背圧下限値Pminが推定したPch以下かどうかを判断する。
【0025】
背圧下限値Pminが推定したPch以下である場合には、Step05にて次回変更予定のガス流量Qchをそのまま次回のガス流量Qnextとして設定する。
【0026】
背圧下限値Pminが推定したPch未満である場合には、Step06にて前記計算した定数aに基づく特性曲線を用いて、背圧下限値Pminから求められるガス流量Qminを次回のガス流量Qnextとして設定する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る底吹転炉のガス流量制御方法の処理手順例を示す図である。。
【図2】羽口背圧とガス流量との特性曲線を説明する図である。
【図3】本発明を適用するための装置概要を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1 転炉
2 上吹ランス
3 溶鋼
4 羽口
5 配管
6 圧力計
7 流量調節弁
8 流量計
9 流量制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底吹転炉のガス流量制御方法であって、
羽口背圧とガス流量との計測値から羽口背圧とガス流量との特性曲線をリアルタイムに求め、
求めた特性曲線に基づいて、次回変更予定のガス流量に対する羽口背圧を推定し、
推定した羽口背圧に基づいて、次回のガス流量を設定することを特徴とする底吹転炉のガス流量制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の底吹転炉のガス流量制御方法において、
前記推定した羽口背圧が溶鋼静圧維持を可能とする背圧下限値以上の場合には、前記次回変更予定のガス流量を次回のガス流量として設定し、
前記推定した羽口背圧が前記背圧下限値未満の場合には、前記求めた特性曲線に基づいて、前記背圧下限値以上になるガス流量を求め、求めたガス流量を次回のガス流量として設定することを特徴とする底吹転炉のガス流量制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228039(P2009−228039A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72987(P2008−72987)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】