説明

座屈拘束ブレースの取付構造及びその構築方法

【課題】座屈拘束ブレースを取付ける建築構造物の骨組と座屈拘束ブレースのブレース芯材の端部とを接合する接合部の構造を簡素化し、もって、座屈拘束ブレースを用いた建築構造物のコストを低減する。
【解決手段】座屈拘束ブレース10は、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材12と、それらブレース芯材の周囲を囲繞して補剛している補剛材14とを備えており、ブレース芯材の各々は両端部が補剛材の両端部から外方へ突出している。建築構造物の骨組20には、ガセットプレート22が固設されており、複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間にそのガセットプレートを挟み込めるようにしてある。ブレース芯材の端部及びガセットプレートにはボルト孔24が形成されており、ボルト26とナット28で両者が締結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための座屈拘束ブレースの取付構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
座屈拘束ブレースは制振ダンパの一種であり、建築構造物の骨組にブレースとして組込まれ、地震等によってその骨組に大きな変形が生じたときに振動エネルギを吸収するように機能するダンパである。座屈拘束ブレースは1980年代後半から開発され、現在では数多くの製品が市販されている。座屈拘束ブレースは、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する鋼材などの細長い部材から成るブレース芯材と、長手方向の圧縮荷重を受けたブレース芯材が座屈するのを防止するべくブレース芯材を補剛する座屈拘束用の補剛材とを備えている。補剛材としては、ブレース芯材の側面ないし側縁に相対滑り可能に当接する鋼管等の鋼材で構成した補剛材や、ブレース芯材を囲繞する鋼管または鋼板製の収容体とこの収容体の中に充填するコンクリートやモルタルなどの硬化性の充填材とで構成し、硬化した充填材の表面がブレース芯材の表面にアンボンド状態で当接するようにした補剛材が用いられている。また更に、ブレース芯材を囲繞する補剛材を鉄筋コンクリートで構成し、そのコンクリートの表面がブレース芯材の表面にアンボンド状態で当接するようにすることも提案されている。座屈拘束ブレースを開示した先行技術文献としては、例えば以下に示す特許文献1、特許文献2などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−291704
【特許文献2】特開2008−002133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付ける際には、その座屈拘束ブレースのブレース芯材の両端部を骨組に接合する。その接合部には剛性及び耐力が要求されるため、その接合部の構造は複雑なものとなる傾向があり、そのことによって、座屈拘束ブレースを用いた建築構造物が高コストとなることが問題となっていた。
【0005】
本発明は上記問題を解決するべくなされたものであり、本発明の目的は、座屈拘束ブレースを取付ける建築構造物の骨組と座屈拘束ブレースのブレース芯材の端部とを接合する接合部の構造を簡素化し、それによって座屈拘束ブレースを用いた建築構造物のコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造は、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための取付構造であって、前記座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えており、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出している。前記建築構造物の前記骨組は、前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを備えており、該ガセットプレートは前記骨組に固設されている。前記複数のブレース芯材は、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成されている。更に、前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにはボルト孔が形成されており、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結されている。
【0007】
本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法は、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための取付構造の構築方法であって、座屈拘束ブレースを製作するステップを含み、該座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えていて、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出しているようにする。この構築方法は更に、前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを製作するステップを含み、該ガセットプレートは建築構造物の骨組に固設可能であるように構成する。前記座屈拘束ブレース製作ステップでは、前記複数のブレース芯材を、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成する。前記座屈拘束ブレース製作ステップ及び前記ガセットプレート製作ステップでは、前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにボルト孔を形成し、該ボルト孔は、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結可能であるように形成する。更に、建築構造物の骨組に前記ガセットプレートを固設した後に、前記複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込み前記ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとを締結して、前記座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法は、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための取付構造の構築方法であって、座屈拘束ブレースを製作するステップを含み、該座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えていて、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出しているようにする。この構築方法は更に、前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを製作するステップを含み、該ガセットプレートは建築構造物の骨組に固設可能であるように構成する。前記座屈拘束ブレース製作ステップでは、前記複数のブレース芯材を、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成する。前記座屈拘束ブレース製作ステップ及び前記ガセットプレート製作ステップでは、前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにボルト孔を形成し、該ボルト孔は、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結可能であるように形成する。更に、前記複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込み前記ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとを締結した後に、建築構造物の骨組に前記ガセットプレートを固設して、前記座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けることを特徴とする。
【0009】
前記ブレース芯材の端部のボルト孔と前記ガセットプレートのボルト孔との少なくとも一方を、前記座屈拘束ブレースの長手方向の取付位置調整を行える長孔とするのもよい。
【0010】
前記複数のブレース芯材の各々は、鋼材または超塑性材料もしくはそれらの組合せから成るものとするのもよい。
【0011】
前記ブレース芯材は、その長手方向において断面積を部分的に小さくしたものとするのもよい。
【0012】
前記補剛材は、鉄筋コンクリート製ビーム部材から成るものとし、該鉄筋コンクリート製ビーム部材は、該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に延在する複数本の主筋とそれら主筋の周囲を囲繞する帯筋とを備えているようにするのもよい。
【0013】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に圧縮荷重を導入するプレストレスト・コンクリート鋼線を備えているようにするのもよい。
【0014】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、その外周面を被覆する化粧層を備えているようにするのもよい。
【0015】
前記補剛材は、前記複数のブレース芯材を囲繞する鋼管と該鋼管の内部に充填されたグラウトとから成るものとするのもよい。
【0016】
前記補剛材は、前記ブレース芯材の側面ないし側縁に相対滑り可能に当接する鋼材で構成されているものとするのもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造によれば、座屈拘束ブレースを取付ける建築構造物の骨組と座屈拘束ブレースのブレース芯材の端部とを接合する接合部の構造が簡素化され、それによって座屈拘束ブレースを用いた建築構造物のコストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)及び(B)は夫々、本発明の実施の形態に係る座屈拘束ブレースの取付構造における座屈拘束ブレースの2つの縦断面図であり、(C)は同座屈拘束ブレースの横断面図である。
【図2】図1の座屈拘束ブレースの取付構造におけるブレース芯材の端部とガセットプレートとの接合部を示した側面図である。
【図3】図1及び図2に示した座屈拘束ブレースに替えて用いることのできる座屈拘束ブレースの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための取付構造である、本発明の実施の形態に係る座屈拘束ブレースの取付構造について説明して行く。図1の(A)、(B)、(C)に示したのは、本発明の実施の形態に係る座屈拘束ブレースの取付構造における座屈拘束ブレース10の断面図であり、(A)は(C)のA−A線に沿った縦断面図、(B)は(C)のB−B線に沿った縦断面図、(C)は(B)のC−C線に沿った横断面図である。座屈拘束ブレース10は制振ダンパの一種であり、建築構造物の骨組にブレースとして組込まれ、地震等によってその骨組に大きな変形が生じたときに振動エネルギを吸収するように機能する。
【0020】
座屈拘束ブレース10は、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数の(図示した実施の形態では2本の)ブレース芯材12を備えており、それら複数のブレース芯材12は互いに並列に配設されて互いに平行に延在している。ブレース芯材12は、例えばSS鋼、SM鋼、SN鋼、LY鋼などの鋼材で製作されることもあり、或いは、超塑性材料などで製作されることもあり、更には、それら材料を組合せて製作されることもある。
【0021】
座屈拘束ブレース10は更に、長手方向の圧縮荷重を受けたブレース芯材12が座屈するのを防止するべくブレース芯材12を補剛する座屈拘束用の補剛材14を備えている。補剛材14は、2本のブレース芯材12の周囲を囲繞してそれらブレース芯材12と平行に延在しており、2本のブレース芯材12の各々は、その両端部が補剛材14の両端部から外方へ突出している。補剛材14は、丸鋼管16と、この丸鋼管16の中に充填されて固化したグラウト18とで構成されている。ブレース芯材12とグラウト18とはアンボンド状態とされている。両者をアンボンド状態とするには、例えば、ブレース芯材12の表面にグリースなどのアンボンド剤を塗布した上で、丸鋼管16の中にグラウト18を充填して固化させるようにすればよい。尚、鋼管内にグラウトを充填する作業は、建築構造物の建築現場で行うようにすれば、重量物の運搬移動を不要化することができるなどの利点が得られる。また、丸鋼管16に替えて、角鋼管を用いることも可能であり、更には、鋼管と同様に機能する様々な鋼板製部材を用いることも可能である。
【0022】
座屈拘束ブレース10を建築構造物の骨組に取付けるには、ブレース芯材12の両端部を建築構造物の骨組に接合する。座屈拘束ブレース10を取付ける建築構造物の骨組の具体例を示したのが図2であり、図中、参照番号20を付したのは骨組の一部を成している鋼管梁である。図示した骨組は、座屈拘束ブレース10の複数のブレース芯材12の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレート22を備えており、このガセットプレート22は鋼管梁20に溶接されて骨組に固設されている。
【0023】
座屈拘束ブレース10の複数のブレース芯材12は、図1の(A)からも明らかなように、それらブレース芯材12の同一側の端部どうしの間に、ガセットプレート22を挟み込めるように構成されている。更に、ブレース芯材12の端部に複数のボルト孔24が形成されると共に、ガセットプレート22にもそれらボルト孔24に対応した複数のボルト孔(不図示)が形成されており、それら双方のボルト孔に挿通したボルト26とそれらボルト26に螺合したナット28とによって、ブレース芯材12の端部とガセットプレート22とが締結されている。
【0024】
図示した実施の形態では、図1(B)に示したように、ブレース芯材12の端部のボルト孔24を、ブレース芯材12の長手方向に延在する長孔としており、これによって座屈拘束ブレース10の長手方向の取付位置調節を行えるようにしてある。この取付位置調節は、ガセットプレート22のボルト孔を長孔とすることでも可能とすることができ、従って、ブレース芯材12の端部のボルト孔24とガセットプレート22のボルト孔との少なくとも一方を、かかる取付位置調節を行えるような長孔とすることが好ましい。
【0025】
本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造を構築するための、本発明の1つの実施の形態に係る構築方法は、座屈拘束ブレースを製作するステップを含んでいる。このステップで製作する座屈拘束ブレースは、上で説明した座屈拘束ブレース10のごとく、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、それら複数のブレース芯材の周囲を囲繞してそれら複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けたそれらブレース芯材が座屈するのを防止するべくそれらブレース芯材を補剛している補剛材とを備えたものであり、また、それら複数のブレース芯材の各々はその両端部が補剛材の両端部から外方へ突出しているようにする。
【0026】
この実施の形態に係る構築方法は更に、座屈拘束ブレースの複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを製作するステップを含んでいる。このステップで製作するガセットプレートは、上で説明したガセットプレート22のごとく、溶接またはその他の適宜の手段によって建築構造物の骨組に固設可能なガセットプレートとして構成する。
【0027】
また、前述した座屈拘束ブレースを製作するステップでは、座屈拘束ブレースの複数のブレース芯材を、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間にガセットプレートを挟み込めるように構成する。更に、前述した座屈拘束ブレースを製作するステップ及びガセットプレートを製作するステップでは、上で説明した座屈拘束ブレース10及びガセットプレート22のごとく、座屈拘束ブレースの複数のブレース芯材の端部及びガセットプレートにボルト孔を形成し、それらボルト孔は、それらボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって複数のブレース芯材の端部とガセットプレートとが締結可能であるように形成する。
【0028】
以上の座屈拘束ブレースの製作及びガセットプレートの製作は、通常、工場において行われる。続いて建築構造物の施工現場において、溶接またはその他の適宜の手段によって建築構造物の骨組にガセットプレートを固設した後に、座屈拘束ブレースの複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間にガセットプレートを挟み込み、そして、ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによってそれら複数のブレース芯材の端部とガセットプレートとを締結して、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付ける。
【0029】
また、この実施の形態に係る構築方法の変更形態に係る構築方法として、ブレース芯材の端部とガセットプレートとの少なくとも一方にはボルト孔を形成せずにおき、ガセットプレートを建築構造物の骨組に固定した後に、そのガセットプレートと、そのガセットプレートに締結するブレース芯材の端部とを施工現場で現物合わせした上で、必要なボルト孔を形成するようにしてもよい。この変更形態に係る構築方法によれば、ボルト孔を長孔とするよりも更によい精度をもって、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に適切に位置付けることができる。
【0030】
また、本発明の別の実施の形態に係る構築方法では、座屈拘束ブレース及びガセットプレートの製作を上で説明した実施の形態に係る構築方法と同様にして行い、それらを製作したならば、続いて座屈拘束ブレースの複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間にガセットプレートを挟み込み、そして、それらに形成してあるボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによってそれら複数のブレース芯材の端部とガセットプレートとを締結する。この締結までを工場で行うようにするのもよい。その後、建築構造物の施工現場において、溶接またはその他の適宜の手段によって建築構造物の骨組にガセットプレートを固設して、座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付ける。この実施の形態に係る構築方法を用いる場合には、ブレース芯材の端部のボルト孔とガセットプレートのボルト孔との少なくとも一方を長孔とすることは必ずしも必要ではないが、ただしそれらの少なくとも一方を長孔としておけば、ガセットプレートを骨組に溶接する際に、そのガセットプレートの溶接開先の調節ができるという利点が得られる。
【0031】
以上の説明から明らかなように、座屈拘束ブレースの取付構造を構築するための本発明に係る構築方法によれば、ガセットプレートを溶接等によって骨組に固定した後に、そのガセットプレートにブレース芯材の端部を締結することもでき、またこれとは逆に、ガセットプレートをブレース芯材の端部に締結した後に、そのガセットプレートを溶接等によって骨組に固定することもできる。
【0032】
以上に説明した座屈拘束ブレースの取付構造によれば、また、以上に説明した座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法によれば、骨組に固設されたガセットプレートにブレース芯材の端部をボルト及びナットによって直接的に接合することができ、その他の接合用の部材が介在しないため、建築構造物の骨組と座屈拘束ブレースのブレース芯材の端部とを接合する接合部の構造が大いに簡素化される。
【0033】
本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造ないしはその構築方法を実施する上で、座屈拘束ブレースの補剛材は、様々な形態のものとすることができる。例えば図3に示した具体例の座屈拘束ブレース10’は、鉄筋コンクリート製ビーム材から成る補剛材14’を備えており、このような補剛材14’も使用可能である。補剛材14’は、2本のブレース芯材12に対してアンボンド状態でそれらブレース芯材12の周囲を囲繞しており、それらブレース芯材12の長手方向に延在している。ブレース芯材12それ自体は、図1を参照して説明した座屈拘束ブレース10のブレース芯材12と同一構成であり、その両端部が補剛材14’の両端部から外方へ突出している。
【0034】
鉄筋コンクリート製ビーム部材として構成された補剛材14’は、図3に示すように、この補剛材14’の長手方向に延在する複数本の主筋30と、それら主筋30の周囲を囲繞する複数の帯筋32とを備えている。この補剛材14’を製作する際には、例えば、型枠内に主筋30及び帯筋32を配筋し、また、表面にグリースなどの適当なアンボンド剤を塗布したブレース芯材12を型枠内に適切に位置付けた上で、その型枠内にコンクリート34を打設して充填するようにすればよい。尚、その他の適宜の製作工程とすることも可能である。このように鉄筋コンクリート製ビーム部材として構成された補剛材14’を備えた座屈拘束ブレース10’は、製作コストが比較的低廉であるという利点を有している。
【0035】
更に、補剛材14’を構成する鉄筋コンクリート製ビーム部材にプレストレスト・コンクリート鋼線(PC鋼線)を装備するのもよい。その場合には、複数のPC鋼線を鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に延在させ、それらPC鋼線によって、鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に圧縮荷重を導入するようにし、それによって、その鉄筋コンクリート製ビーム部材から成る補剛材14’を更に細身で軽量のものとすることができる。
【0036】
鉄筋コンクリート製ビーム部材から成る補剛材14’は、その鉄筋量を適切に設定することにより、鉄筋コンクリート製ビーム部材にひび割れが発生してもその剛性が大きく低下することがなく、なお充分な機能を果たすことができるようにすることができる。また実際に、鉄筋コンクリート製ビーム部材にひび割れが発生するのを防止することよりも、鉄筋コンクリート製ビーム部材の太さ及び重量をできるだけ小さくする方が大きな利点が得られることが多い。ただし、鉄筋コンクリート製ビーム部材の外周面にひび割れが発生すると、外観上及び耐久性上の問題が生じることもあるため、補剛材14’を構成する鉄筋コンクリート製ビーム部材は、その外周面を化粧層で被覆することが好ましい。また、その化粧層は、鉄筋コンクリート製ビーム部材の外周面に塗装により形成され、鉄筋コンクリート製ビーム部材の外周面にひび割れが発生したときに弾性伸展し得る弾性塗膜から成るものとするとよい。このような弾性被膜は、鉄筋コンクリート製ビーム部材の外周面に発生したひび割れを良好に隠蔽することができ、しかもこのような化粧層は低コストで形成することができる。また、別法として、その化粧層を、鉄筋コンクリート製ビーム部材の外周面に巻付けられた、例えば薄い鉄板や繊維強化プラスチック板などの化粧薄板から成るものとするのもよい。このような化粧薄板は見映えがするため、それによってブレース型制振ダンパの外観性を一段と向上させることができる。
【0037】
座屈拘束ブレースの補剛材の更に別の形態として、その補剛材を、ブレース芯材12の側面ないし側縁に相対滑り可能に当接する鋼材だけで構成したものとすることも可能であり、その鋼材としては、鋼管を使用してもよく、また形鋼を使用してもよい。更に、このような形態の補剛材を用いた場合には、ブレース芯材12を、その長手方向において断面積が変化するものとすることができる。そこで、例えばブレース芯材12を、その長手方向において断面積を部分的に小さくすることで、その断面積の小さい部分に軸ひずみを集中させるようにするのもよい。また、ブレース芯材12を、その長手方向において断面積を段階的に変化するようなものとするのもよく、そうすれば、ブレース芯材12に長手方向の圧縮荷重及び引張荷重が作用したときに、ブレース芯材12が段階的に塑性化するようにすることができるため、ブレース型制振ダンパを取付けた建築構造物の振動エネルギを、小振幅の振動から大振幅の振動に至るまで良好に吸収することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る座屈拘束ブレースの取付構造及びその構築方法によれば、座屈拘束ブレースを取付ける建築構造物の骨組と座屈拘束ブレースのブレース芯材の端部とを接合する接合部の構造が簡素化され、それによって座屈拘束ブレースを用いた建築構造物のコストが低減される。
【符号の説明】
【0039】
10、10’ 座屈拘束ブレース
12 ブレース芯材
14、14’ 補剛材
16 丸鋼管
18 グラウト
20 建築構造物の骨組(鋼管梁)
22 ガセットプレート
24 ボルト孔
26 ボルト
28 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための座屈拘束ブレースの取付構造において、
前記座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えており、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出しており、
前記建築構造物の前記骨組は、前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを備えており、該ガセットプレートは前記骨組に固設されており、
前記複数のブレース芯材は、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成されており、
前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにはボルト孔が形成されており、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結されている、
ことを特徴とする座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項2】
前記ブレース芯材の端部のボルト孔と前記ガセットプレートのボルト孔との少なくとも一方を、前記座屈拘束ブレースの長手方向の取付位置調整を行えるような長孔としたことを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項3】
前記複数のブレース芯材の各々は鋼材または超塑性材料もしくはそれらの組合せから成ることを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項4】
前記ブレース芯材はその長手方向において断面積を部分的に小さくしてあることを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項5】
前記補剛材は鉄筋コンクリート製ビーム部材から成り、該鉄筋コンクリート製ビーム部材は該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に延在する複数本の主筋とそれら主筋の周囲を囲繞する帯筋とを備えていることを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項6】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に圧縮荷重を導入するプレストレスト・コンクリート鋼線を備えていることを特徴とする請求項5記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項7】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、その外周面を被覆する化粧層を備えていることを特徴とする請求項5記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項8】
前記補剛材は、前記複数のブレース芯材を囲繞する鋼管と該鋼管の内部に充填されたグラウトとから成ることを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項9】
前記補剛材は、前記ブレース芯材の側面ないし側縁に相対滑り可能に当接する鋼材で構成されていることを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレースの取付構造。
【請求項10】
座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法において、
座屈拘束ブレースを製作するステップを含み、該座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えていて、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出しているようにし、
前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを製作するステップを含み、該ガセットプレートは建築構造物の骨組に固設可能であるように構成し、
前記座屈拘束ブレース製作ステップでは、前記複数のブレース芯材を、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成し、
前記座屈拘束ブレース製作ステップ及び前記ガセットプレート製作ステップでは、前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにはボルト孔を形成し、該ボルト孔は、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結可能であるように形成し、
建築構造物の骨組に前記ガセットプレートを固設した後に、前記複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込み前記ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとを締結して、前記座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付ける、
ことを特徴とする座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項11】
座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付けるための座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法において、
座屈拘束ブレースを製作するステップを含み、該座屈拘束ブレースは、互いに並列に配設されて互いに平行に延在し、長手方向の圧縮荷重及び引張荷重を受けて伸縮するように塑性変形する細長い平板状の複数のブレース芯材と、前記複数のブレース芯材の周囲を囲繞して前記複数のブレース芯材と平行に延在し、長手方向の圧縮荷重を受けた前記ブレース芯材が座屈するのを防止するべく前記ブレース芯材を補剛している補剛材とを備えていて、前記複数のブレース芯材の各々はその両端部が前記補剛材の両端部から外方へ突出しているようにし、
前記座屈拘束ブレースの前記複数のブレース芯材の端部を接合するための鋼板から成るガセットプレートを製作するステップを含み、該ガセットプレートは建築構造物の骨組に固設可能であるように構成し、
前記座屈拘束ブレース製作ステップでは、前記複数のブレース芯材を、それらブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込めるように構成し、
前記座屈拘束ブレース製作ステップ及び前記ガセットプレート製作ステップでは、前記複数のブレース芯材の端部及び前記ガセットプレートにはボルト孔を形成し、該ボルト孔は、該ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとが締結可能であるように形成し、
前記複数のブレース芯材の同一側の端部どうしの間に前記ガセットプレートを挟み込み前記ボルト孔に挿通したボルトと該ボルトに螺合したナットとによって前記複数のブレース芯材の端部と前記ガセットプレートとを締結した後に、建築構造物の骨組に前記ガセットプレートを固設して、前記座屈拘束ブレースを建築構造物の骨組に取付ける、
ことを特徴とする座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項12】
前記ブレース芯材の端部のボルト孔と前記ガセットプレートのボルト孔との少なくとも一方を、前記座屈拘束ブレースの長手方向の取付位置調整を行えるような長孔とすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項13】
前記複数のブレース芯材の各々は鋼材または超塑性材料もしくはそれらの組合せから成るものとすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項14】
前記ブレース芯材はその長手方向において断面積を部分的に小さくしたものとすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項15】
前記補剛材は鉄筋コンクリート製ビーム部材から成るものとし、該鉄筋コンクリート製ビーム部材は該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に延在する複数本の主筋とそれら主筋の周囲を囲繞する帯筋とを備えたものとすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項16】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、該鉄筋コンクリート製ビーム部材の長手方向に圧縮荷重を導入するプレストレスト・コンクリート鋼線を備えたものとすることを特徴とする請求項15記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項17】
前記鉄筋コンクリート製ビーム部材は、その外周面を被覆する化粧層を備えたものとすることを特徴とする請求項15記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項18】
前記補剛材は、前記複数のブレース芯材を囲繞する鋼管と該鋼管の内部に充填されたグラウトとから成るものとすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。
【請求項19】
前記補剛材は、前記ブレース芯材の側面ないし側縁に相対滑り可能に当接する鋼材で構成されているものとすることを特徴とする請求項10又は11記載の座屈拘束ブレースの取付構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84900(P2011−84900A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237263(P2009−237263)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】