説明

座屈拘束ブレース

【課題】座屈拘束ブレースにおける心材と座屈拘束材との間に互いに接触しない間隔を設けて心材への腐食を防止し、交通振動等に起因する不快音を防止する。
【解決手段】本願発明に係る座屈拘束ブレースは、長尺な心材の両端部に柱又は梁に接続される一対の接続部間に心材を有するブレース心材と、前記心材の外周を包囲して該心材の座屈を防止する座屈拘束材とを備えると共に、該心材と座屈拘束材との間には全周に亘って互いに直接接触しない隙間が設けられ、該隙間には、前記心材と座屈拘束材とに対し押圧力を発生させて前記心材と座屈拘束材との間の隙間を所定間隔に保持する隙間保持部材が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建物における柱と梁との接合部を補強する補強部材に関し、より詳細には、心材と、該心材に圧縮力が作用した際の座屈を防止するための座屈防止部材とを有して構成される補強部材(以下、座屈拘束ブレースと称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、特許文献1に開示されたように、座屈拘束ブレースは、平鋼面を有する心材2と、心材2の軸方向の両端部の一部を除いて上下面及び側面を覆って管状に形成される座屈拘束材4とを有して構成される。心材2には、軸方向中央部であって軸方向と直交するように、前記平鋼面と平行に突出する凸部11(特許文献1の図3参照)が設けられており、該凸部11は座屈拘束部材4の対向する一対の内側面上で2つの凸状鋼片10aによって形成された凹部10(特許文献の図2(b)参照)に機械的な嵌合によって係止される。この係止状態によって座屈拘材4と心材2とを固定し、それぞれの軸方向のずれを防止する。
また、座屈拘束材4には、心材2と座屈拘束材4とが直に接触することにより、座屈拘束ブレースの収縮時に心材2から座屈拘束材4に荷重が伝わらないように、心材2と対向する一対の上下内面にラバーシート9(図2参照)が設けられて、座屈拘束部材4と心材2との間に介在する緩衝材として機能する。このラバーシート9は、心材2からの荷重によって容易に変形するように、その荷重によるエネルギーを吸収するために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−027293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る座屈拘束ブレースは、心材2と座屈拘束材4との間のズレを防止してそれらを固定するための係止部と、心材2の座屈に起因する座屈拘束材4への摩擦による荷重を防止するためのラバーシートとを、別個に設けている。
上記係止部は座屈拘束材4の内側に設けられており、心材2と座屈拘束材4とが前記係止部を介して常に接触状態を維持することになる。そうすると、交通等の環境振動等が起こった場合に、前記係止部に振動干渉音が発生することにより、建物内の人に不快さを与えてしまう可能性がある。
また、心材2と座屈拘束材4とは、互いに鋼材で製作されているので前記係止部を介して通電し、その結果、座屈拘束材4の内側面から錆が発生してしまった場合に、前記係止部を介して錆が心材2に侵食してしまう可能性がある。
本願発明は、前記係止部の存在によって起こりうる上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上述の目的を達成するため、本願発明に係る座屈拘束ブレースは、長尺な心材の両端部に柱又は梁に接続される一対の接続部を有するブレース心材と、前記心材の外周を包囲して該心材の座屈を防止する座屈拘束材とを備えると共に、該心材と座屈拘束材との間には全周に亘って互いに直接接触しない隙間が設けられ、該隙間には、前記心材と座屈拘束材とに対し押圧力を発生させて前記心材と座屈拘束材との間の隙間を所定間隔に保持する隙間保持部材が設けられる。
【0006】
(2)また、前記隙間保持部材は、前記所定間隔よりも大きい厚さを有するゴム状のシートにより形成されており、前記所定間隔まで圧縮され、前記心材と座屈拘束材とそれぞれに対し押圧力を発生させた状態で前記隙間に介装されることが好ましい。
【0007】
(3)また、前記心材は、一対の平面部を有する扁平状に形成されており、前記隙間保持部材は、各平面部にそれぞれ設けられることが好ましい。
【0008】
(4)さらに、前記心材は、前記柱と対向する位置に台部を備え、前記座屈拘束材には、前記隙間を介して前記台部に対向する位置に、前記台部上に着座可能な座部が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
(1)に記載の発明は、心材と座屈拘束材との間には全周に亘って互いに直接接触しない隙間が設けられており、特許文献1に係る発明のように、心材と座屈拘束材との接触部となる係止部を設ける必要ないので、係止部における磨耗、係止部の振動干渉音、及び座屈拘束材から心材への錆の侵食に係る問題は起こらない。
また、(1)に記載の発明は、心材と座屈拘束材との間の隙間には、前記心材と座屈拘束材とそれぞれに対し押圧力を発生させて該隙間を所定間隔に保持する隙間保持部材が設けられるので、地震等によって座屈拘束ブレースに作用する圧縮・伸張力方向に対して垂直方向に作用する、隙間保持部材からの押圧力によって心材と座屈拘束材との間に互いに接触しない隙間を確保することができる。その結果、座屈拘束材は拘束する心材の座屈を拘束する機能のみを有することとなるため、当該座屈拘束材には、心材に作用する圧縮・伸長力が伝達される虞はなく、これによって座屈拘束ブレースを介してなされる梁柱間の荷重伝達を良好なものとすることができる。
よって、従来技術では必要であった心材と座屈拘束材との係止部を設けなくても、従来技術と同様の座屈拘束ブレースの性能を発揮することができる。
【0010】
(2)に記載の発明は、隙間保持部材が、前記所定間隔よりも大きい厚さを有するゴム状のシートにより形成されており、前記所定間隔まで圧縮され、前記心材と座屈拘束材とに対し押圧力を発生させた状態で前記隙間に介装されるので、圧縮されたゴム状のシートの弾性復元力によって容易に心材と座屈拘束材のそれぞれに作用する押圧力を生じさせて座屈拘束材を保持し、心材と座屈拘束材とが直接接触しない隙間を確保することができる。
これによって、従来技術と同様の座屈拘束ブレースの性能を発揮することができる。
【0011】
(3)に記載の発明は、心材が一対の平面部を有する扁平状に形成されており、隙間保持部材が心材の各平面部にそれぞれ設けられるので、例えば、一対の平面部にのみ隙間保持部材を設けて当該一対の平面部に対して垂直な方向に、心材と座屈拘束材との間に互いに接触しない間隔を確保することもできる。
これによって、心材の全周に渡って隙間保持部材を設ける必要がないので、単純な作業によって従来技術と同様の拘束ブレースの性能を発揮することができる。
【0012】
(4)に記載の発明は、前記心材が前記柱と対向する位置に台部を備え、前記座屈拘束材には、前記隙間を介して前記台部に対向する位置に、前記台部上に着座可能な座部が設けられるので、例えば、座屈拘束ブレースを梁柱間に取り付ける場合や、心材と座屈拘束材とを固定する機能が発揮できなくなった場合に、不測の事情により座屈拘束材が心材に対してズレ落ちたり、滑り落ちたりしても、当該座屈拘束材の座部が前記隙間分だけ移動して心材の台部に着座することとなり、これによって、安全な取り付け作業が可能となるとともに座屈拘束材と心材との間の過大なズレを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明に係る座屈拘束ブレースの組立分解図。
【図2】図2aは、図1に示す各部材の組立後における本願発明に係る座屈拘束ブレースの側面図。図2bは、同背面図。
【図3】図3aは、組立途中でボルトを締結している途中の座屈拘束ブレースのA−A’(図2a参照)の断面図。図3bは、組立後のボルトの締結を完了した状態での座屈拘束ブレースのA−A’ (図2a参照)の断面図。
【図4】本願発明に係る座屈拘束ブレースを建築物の柱梁間に設置した状態側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態について実施例を挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図において同じ要素には同じ符号を用い、適宜その説明を省略する場合がある。
【0015】
図1は、本願発明に係る座屈拘束ブレース1の組立分解図である。当該座屈拘束ブレース1は、建物の躯体を形成する梁と柱とに架設されて、これらの間での荷重を伝達するので、低降伏点鋼からなる心材2と心材2に圧縮又は伸張力が作用した際の座屈を防止する為の座屈拘束材20とからなる。
心材2は、一対の対向平面にゴム状のシート10が貼り付けられた棒板状の本体2aと、本体2aの一端に溶接され梁フランジに接合される第1接合プレート6と、本体2aの他端に溶接され柱に接合される第2接合プレート7とからなる。第1接合プレート6は、梁フランジにボルト及びナットによって締結できるように4つの貫通孔が形成されており、第2接合プレート7は、梁フランジにボルト及びナットによって締結できるように6つの貫通孔が形成されている。
座屈拘束材20は、棒板状の本体2aの厚み部分の縁部に沿って配置される一対の長尺枠平板4及び一対の短尺枠平板3、並びに、長尺枠平板4及び短尺枠平板3と共に両端部を除いて前記棒板状の本体2aを覆う一対の側板5a及び5bの3種類からなり、それぞれ一般構造用圧延鋼材で製作される。短尺枠平板3、長尺枠平板4及び側板5a、5bは、それぞれ一点鎖線11が通る(図1では4本のみ示されているが、全ての孔部を通る)複数の孔部19を介してボルト8及びナット9で締結して一体的に組立てられる(図2及び図3参照)。
また、ゴム状のシート10は、心材2の本体2aの一対の面に、接着剤等の接着手段を用いて貼り付けてもよいし、その他、本体2aにネジ穴を設けてネジ止めをして固定したりしてもよい。また、ゴム状のシート10の代わりに、圧縮しても弾性復帰する弾性部材を、例えば、所定間隔で設けてもよい。さらに、ゴム状のシート10は、一対の長尺枠平板4の厚みの合計及び一対の短尺枠平板3の厚みの合計のそれぞれよりも十分に厚く、例えば、図3(b)に示すように、座屈拘束ブレース1の組立て時における心材2の本体2aと側板5a又は5bとの間の隙間の間隔yの2倍の厚みを有している。
【0016】
図2aは、組立後の座屈拘束ブレース1の側面図である。図2bは、図2aに示すB方向からみた組立後の座屈拘束ブレース1の背面図である。
短尺枠平板3は、長手方向に延びる2つの縁部のうち、一方の縁部が、心材2の本体2aの対応する縁部に対して所定間隔xを有して対向配置され、他方の縁部が、柱に対して対向し、側板5a及び5bの縁部と面一となるように配置される。
長尺枠平板4は、長手方向に延びる2つの縁部のうち、一方の縁部は、心材2の本体2aの対応する縁部に対して所定間隔xを有して対向配置され、他方の縁部では、側板5a及び5bの縁部と面一に配置される。なお、短尺枠平板3及び長尺枠平板4それぞれの心材2の本体2aとの所定間隔xは、異なっていてもよい。
【0017】
図3aは、ボルト締め途中における、図2aに示す座屈拘束ブレース1のA−A’方向の組立途中断面図である。心材2の本体2aに貼り付けたゴム状のシート10は無負荷の自然形状の厚みを有している。図3aに示す状態からボルト8及びナット9を締結していくと、一対の側板5a及び5bの対向間隔が徐々に縮小し、各対向面がゴム状シート10の対応する面に接触する。さらに、ボルト8及びナット9を締結していくと、一対の側板5の対向間隔がさらに縮小して、側板5a及び5bの接触面がゴム状シートを押圧して圧縮させる。
【0018】
図3bは、ボルト締め完了後における、図2aに示す座屈拘束ブレース1のA−A’方向の断面図である。短尺枠平板3と長尺枠平板4が当接することによってボルト8及びナット9の締結が完了している。座屈拘束材20によって形成された中央の空隙部分の一対の側板5a及び5bの対向間隔は、短尺枠平板3と長尺枠平板4の厚みの合計に等しく、空隙部分において一定である。また、一対のゴム状のシート10は、前記空隙内に配置された前記心材2の本体2aと一対の側板5a及び5bとが対向する間隔内に自然形状の厚みの半分程度にまで圧縮された状態で介在しており、その復元力によって側板5a及び5bと心材2の本体2aとの接触面それぞれに対して垂直方向に押圧力を発揮する。そして、その押圧力によって心材2に座屈拘束材20が保持される。
このとき、心材2の本体2aは、ゴム状のシート10を介してのみ前記空隙内に位置しており、座屈拘束材20を構成するすべての部材と直接的に接触していない。ゴム状のシート10は、ボルトの締結の完了時に長尺枠平板4及び短尺枠平板3の厚みによって決定される側板5a及び5b間の所定間隔を維持する機能と、ほぼ完全に圧縮変形した状態からの復元力によって座屈拘束材20が心材2に対してズレを起こさずに心材2に対して保持される機能とを有する。なお、ゴム状のシート10は、心材2の本体2aの一対の同一面上で接着されているが、側板5a及び5bの対向面側に接着されてもよく、ゴム状シート10の面と心材2の本体2aの面、又は側板5a及び5bの対向面との間に凹凸による機械的な嵌合形状を形成することにより、ゴム状のシート10と心材2の本体2aとの間のズレの防止機能を高めることもできる。
【0019】
図4は、本願発明に係る座屈拘束ブレース1に係る1つの実施形態であって、柱14と梁12に座屈拘束ブレース1が設置された状態を示している。当該座屈拘束ブレース1は、方杖型であり、第1接合プレート6を梁12のフランジ13に貫通孔を介してボルト接合し、第2接合プレート7を柱14の座屈拘束ブレース1との接合部15に貫通孔を介してボルト接合することによって、梁12と柱14に跨って配置されている。本実施例において座屈拘束ブレース1は、柱14と梁12に接合した状態で座屈拘束ブレース1の中心線と梁12の軸線とのなす角度が約70度となるように構成されている。
【0020】
座屈拘束材20は、短尺枠平板3、長尺枠平板4、側板5a及び5bを一体的に組立てることにより構成されているので、不測の事態によって万が一ゴム状のシート10の機能が失われた場合に、心材2からズレ落ちて落下してしまい下にいる人を負傷させてしまう事態や、座屈拘束ブレース1を取り付け組立て中に心材2からズレ落ちるといった作業性を低下させてしまう事態が考えられる。それを防止するために、本願発明に係る座屈拘束ブレース1は、短尺枠平板3の縁部が対向配置される心材2の本体2aの縁部上であって、柱14と対向する位置に、水平な台部17が備えられており、座屈拘束材20の一対の短尺枠平板3の下端部には、隙間x(図2及び図3b参照)を介して前記水平な台部17に対向する位置に、前記台部17上に着座可能な座部18が設けられている。本発明では、この所定間隔xによって座屈拘束材20と心材2との接触が防止されて上記の効果が発揮されている。また、不測の事態によって座屈拘束材20がズレ落ちても、前記座部18が前記心材2の台部17に接触することで当該ズレ落ちは停止するため、座屈拘束材20の落下による人災や設置作業の作業性を低下させることはない。
【0021】
以上のように、本願発明は、従来技術で問題となっていた、特許文献1の図2(b)に示す座屈拘束材2と心材4との接触部となる係止部を除去してこれらの間を非接触とする構成を実現した。
これにより、本願では、図4における座屈拘束ブレース1が設置された状態で、例えば、地震が発生して梁12及び柱14に荷重がかかると、座屈拘束ブレース1の心材2に収縮・伸張力が発生する。しかし、心材2は、圧縮されたゴム状のシート10を介して座屈拘束材20に接触していないので、心材2から摩擦によって座屈拘束材20に荷重が伝達することはなく、心材2から座屈拘束材20への荷重の伝達は軽減するという効果を有しつつ、短尺枠平板3、長尺枠平板4および側板5からなる座屈拘束材20によって心材2の座屈が抑制されることにより、座屈拘束ブレース1は引張力とともに圧縮力をも負担することができ、正負いずれの水平力に対しても抵抗することができる。
別の効果としては、建築物の脇を走るトラック等に起因して伝達される交通振動が起こった場合に対しても、心材2と座屈拘束材20とが直接的に接触していないので、鋼材同士が接触する干渉音に悩まされる心配もない。
さらに、別の効果としては、座屈拘束ブレース1は、通常、建築物における壁の内側に設置されており、湿気等に起因して座屈拘束材20に錆が発生した場合でも、心材2と座屈拘束材20との間は直接的に接触しないので、座屈拘束材20の錆が心材2へ侵食してしまう心配もない。
【0022】
以上、実施例を挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、例えば、本願では一対の対向面にのみゴム状のシートを設ける構成としているが、心材の全周面にゴム状のシートを設けて心材2と座屈拘束材20との間の所定間隔を維持する等、本発明の要旨の範囲で適宜、付加、変形等なしうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な心材の両端部に柱又は梁に接続される一対の接続部を有するブレース心材と、前記心材の外周を包囲して該心材の座屈を防止する座屈拘束材とを備えると共に、該心材と座屈拘束材との間には全周に亘って互いに直接接触しない隙間が設けられ、該隙間には、前記心材と座屈拘束材とに対し押圧力を発生させて前記心材と座屈拘束材との間の隙間を所定間隔に保持する隙間保持部材が設けられていることを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記隙間保持部材は、前記所定間隔よりも大きい厚さを有するゴム状のシートにより形成されており、前記所定間隔まで圧縮され、前記心材と座屈拘束材とに対し押圧力を発生させた状態で前記隙間に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記心材は、一対の平面部を有する扁平状に形成されており、前記隙間保持部材は、各平面部にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記心材は、前記柱と対向する位置に台部を備え、前記座屈拘束材には、前記隙間を介して前記台部に対向する位置に、前記台部上に着座可能な座部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の座屈拘束ブレース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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