説明

座標系整合方法

【課題】製品の設計形状を表現するための設計座標系と、当該製品又はその模型の形状の測定結果を表現するための測定座標系との整合精度の向上を図りうる方法を提供する。
【解決手段】設計座標系における設計にしたがって目標形状を有するように基体が作成される。また、当該基体に対して固定されている模型が作成される。第k種測定平面要素(k=1〜3)のそれぞれを表現する測定点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、設計座標系における第k種測定平面要素の姿勢が決定される。当該姿勢に応じた方向に当該測定点群を並進させた結果として、設計座標系における第k姿勢基準点群の座標値が決定される。さらに、第k姿勢基準点群に基づき、最小二乗法にしたがって決定された第k姿勢基準平面に基づいて回転演算子及び並進演算子が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、別個の3次元座標系を整合させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冶具に取り付けられたブロックにさらに3つの球体が設けられ、当該3つの球体の中心点の位置が測定されることによって、当該冶具に取り付けられているワークの測定基準となる3次元座標系を設定するための技術的手法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−030865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ブロックそのものの形状に誤差が包含されている可能性がある。そのほか、そもそもブロックを設置する際に測定機が必要とされるので、事後的にブロックが設置される場合にはその測定誤差のために当初意図されている位置関係が担保されない可能性がある。また、ブロックが冶具に固定される際、物体の形状測定の基準となる3次元座標系の位置及び姿勢のうち一方又は両方に誤差が生じる可能性がある。さらに、測定システムの性能のために形状測定誤差が生じる可能性がある。
【0005】
このため、製品の設計形状を表現するために用いられる設計座標系と、当該製品又はその模型の形状の測定結果を表現するために用いられる測定座標系との相対位置及び相対姿勢に無視できないほどの誤差が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、当該2つの座標系の整合精度の向上を図りうる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、設計支援システムを通じて設計される仮想空間における物品の形状を設計点群の3次元座標値により表現するための設計座標系と、測定システムにより測定される実空間における物品の形状を測定点群の3次元座標値により表現するための測定座標系とを整合させる方法に関する。
【0008】
本発明の座標系整合方法は、前記設計支援システムを用いて、製品の基体を構成する一又は複数の指標要素により、前記設計座標系において相互に垂直な第1、第2及び第3設計基準方向のそれぞれを法線方向として有する、複数の第1種設計平面要素、複数の第2種設計平面要素及び複数の第3種設計平面要素のそれぞれの目標位置及び目標姿勢が定義されるように前記基体の目標形状を設計する過程と、前記設計にしたがって前記目標形状を有する前記基体を作成する過程と、前記基体が前記目標形状を維持した状態で前記基体に対して固定されている模型を作成する過程と、前記測定システムを用いて前記模型及び前記指標要素のそれぞれの形状を測定し、前記測定座標系に前記模型及び前記指標要素のそれぞれの測定形状を表現する前記測定点群を、その座標値を維持したまま、前記設計座標系における測定点群として前記設計支援システムに入力する過程と、前記設計座標系において第k種設計平面要素(k=1,2,3)のそれぞれに対応する第k種測定平面要素のそれぞれを表現する測定点群を、前記第k種設計平面要素の前記目標姿勢に応じた方向について、前記目標位置に応じた量だけ並進させた結果として、前記設計座標系における第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程と、前記設計座標系における前記第k姿勢基準点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、第k姿勢基準平面の姿勢を決定し、前記第k姿勢基準平面の姿勢に基づき、前記測定座標系の姿勢を前記設計座標系の姿勢に一致させるような前記測定座標系の回転を数学的に表現する回転演算子を算定する過程と、前記回転演算子にしたがって前記第k種測定平面要素のそれぞれを表現する前記測定点群を変位させることにより、前記設計座標系における第k位置基準点群の位置を決定する過程と、前記第k種設計平面要素と、前記第k位置基準点群との乖離度に基づき、前記測定座標系の位置を前記設計座標系の位置に一致させるような前記測定座標系の並進を数学的に表現する並進演算子を算定する過程と、前記回転演算子及び前記並進演算子にしたがって、前記設計座標系において前記模型の形状を表現する前記測定点群を変位させる過程とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の座標系整合方法によれば、設計座標系における設計にしたがって目標形状を有するように基体が作成され、当該基体に対して固定されている模型が作成される。これにより、仮想空間(設計座標系)における模型及び指標要素の相対的な配置関係と、実空間(測定座標系)における模型及び指標要素の相対的な配置関係との誤差が著しく低減されうる。たとえばNC加工機で基体及び模型が一体的に加工されることにより、前記従来技術のようなブロック設置用の測定機が不要となる。
【0010】
また、模型が固定される基体の一部である指標要素の形状測定結果から得られる第k種測定平面要素(k=1〜3)を表現する全ての測定点に基づき、最小二乗法にしたがって第k姿勢基準平面が決定される。これにより、各指標要素の形状測定結果に対する大域的及び局所的な測定誤差の影響が軽減されうる。
【0011】
よって、第k姿勢基準平面に基づいて決定された回転演算子及び並進演算子にしたがって、模型の形状を表わす測定点の設計座標系における座標値が決定されることにより、実空間で作成された模型の形状が設計座標系において高精度で再現されうる。すなわち、設計座標系及び測定座標系のそれぞれの位置及び姿勢が高精度で整合されうる。
【0012】
前記第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程は、前記第k種測定平面要素のそれぞれを表現する前記測定点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、前記設計座標系における第k種測定平面要素の姿勢を決定し、前記第k種測定平面要素の姿勢に応じた方向に当該測定点群を並進させた結果として、前記設計座標系における前記第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程であることが好ましい。
【0013】
当該座標系整合方法によれば、各指標要素の形状測定結果に対する、当該指標要素の設計形状に対する実際の形状の誤差の影響が軽減されうる。よって、前記のように第k姿勢基準平面に基づいて決定された回転演算子及び並進演算子を用いて、実空間で作成された模型の形状が設計座標系において高精度で再現されうる。
【0014】
前記回転演算子を決定する過程は、前記第k姿勢基準平面のそれぞれと、その基礎である前記第k姿勢基準点群との乖離度をノイズとして評価し、前記第k姿勢基準平面のそれぞれを、前記ノイズが最大である第1元平面、前記ノイズが2番目に大きい第2元平面及び前記ノイズが最小である第3元平面のそれぞれとして定義し、前記第1元平面の単位法線ベクトルが、前記第2元平面の単位法線ベクトルと前記第3元平面の単位法線ベクトルとの外積に一致するように前記第1元平面の姿勢を補正し、前記第2元平面の単位法線ベクトルが、前記第3元平面の単位法線ベクトルと姿勢補正後の前記第1元平面の単位法線ベクトルとの外積に一致するように前記第2元平面の姿勢を補正し、前記第k姿勢基準平面の補正後の姿勢に基づき、前記回転演算子を算定する過程であることが好ましい。
【0015】
当該座標系整合方法によれば、設計座標系における測定座標系の姿勢を表わす第1、第2および第3姿勢基準平面のそれぞれの法線の軸の直交性が保証されうる。このため、前記のように第k姿勢基準平面に基づいて決定された回転演算子及び並進演算子を用いて、実空間で作成された模型の形状が設計座標系において高精度で再現されうる。
【0016】
前記基体の目標形状を設計する過程は、前記設計座標系において、第k設計基準方向について前記製品の設計精度が高いほど、前記複数の第k種設計平面要素の、前記第k設計基準方向に対して垂直な方向についての間隔が大きくなるように、前記基体の目標形状を設計する過程であることが好ましい。
【0017】
当該座標系整合方法によれば、第k設計基準方向に対して垂直な方向について、複数の第k種設計平面要素の間隔が広いほど、当該複数の第k種設計平面要素の形状測定結果、ひいては当該測定結果に基づいて決定される第k姿勢基準平面に対する、大域的及び局所的な測定誤差の影響が軽減される。したがって、指標要素の配置態様が調節されることにより、第k設計基準方向について要求される製品の設計精度が保証されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態としての座標系整合方法の手順説明図。
【図2】基準構造体、模型、指標要素及び平面要素の配置に関する説明図。
【図3】3次元測定データに基づく座標系の整合方法に関する概念説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態としての3次元座標系の整合方法について説明する。
【0020】
設計支援システム(CADシステム)を通じて製品の基体の目標形状が設計される(図1/STEP02)。設計支援システムはコンピュータにより構成され、CADにおいて描画等の作業をするためのマウスポインティング装置等の入力装置と、設計された製品等の3次元画像を表示するディスプレイ装置により構成されている出力装置とを備えている。基体の目標形状に加えて製品の基本的な形状が設計されてもよい。設計支援システムにおいて、基体等の物品の形状は設計座標系における設計点の3次元座標値により表現されている。
【0021】
たとえば図2(a)に示されているように複数の角柱が直方体の各辺を構成するように連結されている形状が、基体Qの目標形状として設計される。また、この例では図2(b)に示されているように、基体Qの上部の4つの隅角部分のそれぞれが、指標要素q1〜q4を構成する。さらに、この例では図2(c)に示されているように、各指標要素(図示されているのは第2指標要素q2のみ)は斜線で示されているような相互に垂直な法線ベクトルを有する第1種、第2種及び第3種設計平面要素を有している。
【0022】
設計平面要素の目標位置は、当該設計平面要素上にある設計点の設計座標系における目標座標値により記述されている。設計平面要素の目標姿勢は、当該設計平面要素の設計座標系における単位法線ベクトルにより記述されている。
【0023】
各設計平面要素の目標姿勢は第1種、第2種及び第3種設計平面要素の区分により記述される。たとえば、第1〜第3種設計平面要素により定義される設計平面要素座標系の姿勢が設計座標系の姿勢に一致している場合、「第1種設計平面要素」は、第1種設計基準平面X=0に対して平行な平面であり、その単位法線ベクトルはt(1,0,0)(「t」は転置を表わす。以下同じ。))である。「第2種設計平面要素」は、第2種設計基準平面Y=0に対して平行な平面であり、その単位法線ベクトルはt(0,1,0)である。「第3種設計平面要素」は、第3種設計基準平面Z=0に対して平行な平面であり、その単位法線ベクトルはt(0,0,1)である。
【0024】
この場合、第1種設計平面要素の目標位置が目標座標値のX成分により記述され、第2種設計平面要素の目標位置が目標座標値のY成分により記述され、第3種設計平面要素の目標位置が目標座標値のZ成分により記述される。
【0025】
設計平面要素座標系の姿勢を設計座標系の姿勢に一致させるための、当該設計平面要素座標系の回転を数学的に表わす「第2回転演算子」が記憶装置又はデータベースに保存されている。後述するように模型の形状を表わす測定点群が設計座標系において変位される際、測定座標系の姿勢を設計座標系の姿勢に一致させるための、当該設計座標系の回転を数学的に表わす「第1回転演算子」に加えて、第2回転演算子が考慮される。ただし、設計平面要素座標系の姿勢が、設計座標系の姿勢に一致している場合、第2回転演算子は考慮されなくてもよい。
【0026】
複数の指標要素が全体として、複数の第1種設計平面要素、複数の第2種設計平面要素及び複数の第3種設計平面要素を定義することを要件として、各指標要素の形状及び指標要素の数は任意に変更されうる。後述するように模型作成後、当該複数の第1種設計平面要素、当該複数の第2種設計平面要素及び当該複数の第3種設計平面要素のそれぞれの位置及び姿勢が測定可能であることを要件として、各指標要素は任意の場所に配置されてもよい。
【0027】
設計座標系において、第k種設計基準平面の法線方向である第k設計基準方向について前記製品の設計精度が高いほど、複数の第k種設計平面要素の、当該第k設計基準方向に対して垂直な方向についての間隔が大きくなるように、基体の目標形状が設計されることが好ましい。これにより、第k設計基準方向に対して垂直な方向について、複数の第k種設計平面要素の間隔が広いほど、当該複数の第k種設計平面要素の形状測定結果、ひいては当該測定結果に基づいて決定される第k姿勢基準平面に対する、大域的及び局所的な測定誤差の影響が軽減される。したがって、指標要素の配置態様が調節されることにより、第k設計基準方向について要求される製品の設計精度が保証されうる。
【0028】
続いて、設計にしたがって目標形状を有する基体(図2(a)参照)が作成される(図1/STEP04)。基体は、金属等の剛性の高い原材料又は成形体が工作機械により加工されることにより作成される。工作機械としては、たとえば加工精度が0.01mmのオーダーで保証されているNC加工機が用いられる。
【0029】
続いて、基体に固定されている模型が作成される(図1/STEP06)。具体的には、前記のように作成された基体に対するインダストリアルクレイ、樹脂又は石膏等の模型構成材料の盛り付け作業及び模型構成材料の研削作業が行われる。すなわち、製品のスタイリングデザインがデザイナーの意図に応じて実施される。これにより、図2(b)に示されているような形状の模型Mが作成される。
【0030】
続いて、測定システムを用いてスタイリングデザインされた模型及び指標要素の形状が測定される(図1/STEP08)。測定システムは接触式及び非接触式の別を問わない。たとえば誤差が0.2mm以下であり、かつ、平面精度0.02mm以下の測定性能を有する測定システムが用いられる。測定システムにおいて、模型等の物品の形状は測定座標系における測定点の3次元座標値により表現されている。模型等の形状を表わす測定座標系における測定点は、その座標値が維持されたままで設計座標系における測定点として、測定システムから設計支援システムに対して入力される。
【0031】
続いて、設計支援システムにおいて、複数の設計平面要素の形状測定結果としての複数の測定平面要素のそれぞれと、当該複数の設計平面要素のそれぞれとが対応付けられる(図1/STEP10)。当該対応付けは、模型及び各指標要素のそれぞれの形状の測定結果が出力装置に表示されるとともに、各測定平面要素が識別可能な形態で出力装置に表示されている状態で、入力装置を通じたマニュアル操作により行われる。なお、複数の設計平面要素が回転対称性、反転対称性又は並進対称性などの対称性がない等の理由により、当該複数の設計平面要素のそれぞれの配置が一意に定まる状況では、設計支援システムにより自動的に当該対応付けが実行されてもよい。
【0032】
たとえば、図2(c)に斜線で示されている3つの測定平面要素のそれぞれが設計座標系において第1種〜第3種設計平面要素のうちいずれかに該当することに加え、設計座標系における目標座標値のX成分、Y成分又はZ成分が指定されることにより、当該対応付けが実行される。これにより、各測定平面要素が、本来あるべき位置を基準としてどれだけずれているかの対応が付けられる。
【0033】
当該対応付けの結果、図3(a)に概念的に示されているように、測定点群P1,P2,‥PNのそれぞれにより表現される測定平面要素が第k種設計平面要素(k=1,2又は3)に該当し、当該第k種設計平面要素の目標座標値の第k成分(k=1の場合はX成分を意味する。k=2の場合はY成分を意味する。k=3の場合はZ成分を意味する。)がθk1、θk2、‥θkNであることが指定される。
【0034】
さらに、測定平面要素のそれぞれを表現している測定点群の設計座標系における座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、設計座標系における測定平面要素のそれぞれの姿勢、すなわち法線方向が決定される(図1/STEP12)。たとえば、図3(b)に概念的に示されているように、各測定点群Pj(j=1,2,‥N)に属する各測定点の3次元座標値に基づき、第k種測定平面要素Skjを表わす方程式が算出される。
【0035】
また、第1姿勢基準点群、第2姿勢基準点群及び第3姿勢基準点群のそれぞれが決定される(図1/STEP14)。「第1姿勢基準点群」は、測定座標系における平面x=0の、設計座標系における位置および姿勢を表わす「第1測定基準平面」の決定基礎となる点群である。「第2姿勢基準点群」は、測定座標系における平面y=0の、設計座標系における位置および姿勢を表わす「第2測定基準平面」の決定基礎となる点群である。「第3姿勢基準点群」は、測定座標系における平面z=0の、設計座標系における位置および姿勢を表わす「第3測定基準平面」の決定基礎となる点群である。
【0036】
具体的には、第k種測定平面要素の法線方向に、当該第k種測定平面要素の算定基礎となった測定点群が、当該第k種測定平面要素について指定された目標座標値に応じた量だけ並進移動されることによって第k基準点群が決定される。
【0037】
たとえば、図3(c)に示されているように、各測定点群Pjが、その座標値の第k成分が目標座標値の第k成分θkjだけ0に近づくように、第k種測定平面要素Skjの法線方向に対して移動されることにより得られる点群Pj’の集合が第k基準点群Gkとして決定される。なお、当該移動量が目標座標値の第k成分θkjの絶対値に一致するように各測定点群Pjが並進移動されることにより、第k基準点群Gkが決定されてもよい。
【0038】
測定平面要素のそれぞれを表現している測定点群の変位方向を定める第k種測定平面要素の姿勢の決定処理が省略され、当該測定平面要素に対応する第k種設計平面要素の法線方向が、当該測定点群の変位方向として定められてもよい。
【0039】
そして、測定座標系の姿勢を設計座標系の姿勢に一致させるための、当該設計座標系の回転を数学的に表わす「回転演算子(第1回転演算子)」が決定される(図1/STEP16)。回転のみを表わすアフィン変換行列のほか、回転を表わす3次元行列又はクォータニオンなどが回転演算子として決定される。
【0040】
具体的には、第k姿勢基準点群に属する全ての点の設計座標系における座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、第k姿勢基準平面の方程式、すなわちその位置及び姿勢が決定される。たとえば、図3(d)に示されているように、第k姿勢基準点群Gkに属する全ての点の3次元座標値に基づき、第k姿勢基準平面Skが算定される。そして、第1〜第3姿勢基準平面により定義される姿勢基準座標系の姿勢を、設計座標系の姿勢に一致させるような、当該姿勢基準座標系の回転を数学的に表現する演算子が回転演算子として決定される。
【0041】
続いて、回転演算子(第1回転演算子)が補正される(図1/STEP18)。
【0042】
具体的には、まず、第k姿勢基準平面のノイズが評価される。たとえば、第k姿勢基準点群に属する各点の第k姿勢基準平面の間隔の平均値または合計値など、第k姿勢基準点群に属する各点の第k姿勢基準平面からの乖離度が当該ノイズとして算定される。
【0043】
続いて、ノイズが最大の姿勢基準平面が「第1元平面」として定義され、ノイズが2番目に大きい姿勢基準平面が「第2元平面」として定義され、ノイズが最小の姿勢基準平面が「第3元平面」として定義される。
【0044】
その上で、第1元平面の単位法線ベクトルが、第2元平面の単位法線ベクトル及び第3元平面の単位法線ベクトルの外積に一致するように、第1元平面の姿勢が補正される。また、第2元平面の法線ベクトルが、姿勢補正後の第1元平面の単位法線ベクトルと、第元平面の法線ベクトルとの外積に一致するように、第2元平面の姿勢が補正される。第3元平面は補正されない。姿勢補正後の各姿勢基準平面の単位法線ベクトルにより、補正後の回転演算子が決定される。
【0045】
なお、第1〜第3姿勢基準平面のうちいずれか1つのノイズ又はこれらのうち任意の組み合わせの合計ノイズが閾値を超えていることを要件として、前記のようにアフィン変換の回転成分が補正されてもよい。また、回転演算子の補正処理が任意に省略されてもよい。
【0046】
次に、前記のように決定された回転演算子にしたがって、各測定平面要素の測定点群が変位された結果としての位置基準点群が決定される(図1/STEP20)。たとえば、当該測定点群に対して回転のみを表わすアフィン変換処理が実行されることにより、位置基準点群が決定される。
【0047】
さらに、測定座標系の位置を設計座標系の位置に一致させるための、当該設計座標系の並進を数学的に表わす「並進演算子」が決定される(図1/STEP22)。第k種設計平面要素と、これに対応する第k位置基準点群との乖離度が当該並進量とされる。並進のみを表わすアフィン変換行列のほか、並進を表わす3次元行列又はクォータニオンなどが回転演算子として決定される。
【0048】
そして、回転演算子及び並進演算子にしたがって、模型の形状を表わす測定点群が設計座標系において変位される(図1/STEP24)。たとえば、当該測定点群に対して回転に加えて並進を表わすアフィン変換処理が実行されることにより、当該測定点群が変位される。回転演算子及び並進演算子の組み合わせ演算子により、第1、第2及び第3測定基準平面のそれぞれを第1、第2および第3設計基準平面のそれぞれに一致させるような、座標変換が数学的に表現されている。
【0049】
設計平面要素座標系の姿勢が設計座標系の姿勢と異なる場合、第1回転演算子による回転に加えて第2回転演算子による回転が付加されるように、模型の形状を表わす測定点群が設計座標系において変位される必要がある。
【0050】
(発明の効果)
本発明の座標系整合方法によれば、設計座標系における設計にしたがって目標形状を有するように基体が作成され、当該基体に対して固定されている模型が作成される(図1/STEP02〜06、図2(a)(b)参照)。これにより、仮想空間(設計座標系)における模型及び指標要素の相対的な配置関係と、実空間(測定座標系)における模型及び指標要素の相対的な配置関係との誤差が著しく低減されうる。
【0051】
また、第k種測定平面要素のそれぞれを表現する測定点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、設計座標系における第k種測定平面要素の姿勢が決定され、当該姿勢に応じた方向に当該測定点群を並進させた結果として、設計座標系における第k姿勢基準点群の座標値が決定される(図1/STEP12〜14、図3(a)〜(c)参照)。これにより、各指標要素の形状測定結果に対する、当該指標要素の設計形状に対する実際の形状の誤差の影響が軽減されうる。
【0052】
さらに、模型が固定される基体の一部である指標要素の形状測定結果から得られる第k種測定平面要素を表現する全ての測定点、すなわち第k姿勢基準点群に基づき、最小二乗法にしたがって第k姿勢基準平面が決定され、この第k姿勢基準平面に基づいて回転演算子及び並進演算子が決定される(図1/STEP16,22、図3(d)参照)。さらに、回転演算子が補正されることにより、設計座標系における測定座標系の姿勢を表わす第1、第2および第3姿勢基準平面のそれぞれの法線の軸の直交性及び正規性が保証されうる(図1/STEP18参照)。これにより、各指標要素の形状測定結果に対する大域的及び局所的な測定誤差の影響が軽減されうる。
【0053】
よって、第k姿勢基準平面に基づいて決定された回転演算子及び並進演算子にしたがって、模型の形状を表わす測定点の設計座標系における座標値が決定されることにより、実空間で作成された模型の形状が設計座標系において高精度で表現されうる。すなわち、設計座標系及び測定座標系のそれぞれの位置及び姿勢が高精度で整合されうる。そして、設計座標系において表現されている模型の形状が高精度で再現された形状の製品が製造されうる。
【符号の説明】
【0054】
Q‥基体、M‥模型、qi‥指標要素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計支援システムを通じて設計される仮想空間における物品の形状を設計点群の3次元座標値により表現するための設計座標系と、測定システムにより測定される実空間における物品の形状を測定点群の3次元座標値により表現するための測定座標系とを整合させる方法であって、
前記設計支援システムを用いて、製品の基体を構成する一又は複数の指標要素により、前記設計座標系において相互に垂直な第1、第2及び第3設計基準方向のそれぞれを法線方向として有する、複数の第1種設計平面要素、複数の第2種設計平面要素及び複数の第3種設計平面要素のそれぞれの目標位置及び目標姿勢が定義されるように前記基体の目標形状を設計する過程と、
前記設計にしたがって前記目標形状を有する前記基体を作成する過程と、
前記基体が前記目標形状を維持した状態で前記基体に対して固定されている模型を作成する過程と、
前記測定システムを用いて前記模型及び前記指標要素のそれぞれの形状を測定し、前記測定座標系に前記模型及び前記指標要素のそれぞれの測定形状を表現する前記測定点群を、その座標値を維持したまま、前記設計座標系における測定点群として前記設計支援システムに入力する過程と、
前記設計座標系において第k種設計平面要素(k=1,2,3)のそれぞれに対応する第k種測定平面要素のそれぞれを表現する測定点群を、前記第k種設計平面要素の前記目標姿勢に応じた方向について、前記目標位置に応じた量だけ並進させた結果として、前記設計座標系における第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程と、
前記設計座標系における前記第k姿勢基準点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、第k姿勢基準平面の姿勢を決定し、前記第k姿勢基準平面の姿勢に基づき、前記測定座標系の姿勢を前記設計座標系の姿勢に一致させるような前記測定座標系の回転を数学的に表現する回転演算子を算定する過程と、
前記回転演算子にしたがって前記第k種測定平面要素のそれぞれを表現する前記測定点群を変位させることにより、前記設計座標系における第k位置基準点群の位置を決定する過程と、
前記第k種設計平面要素と、前記第k位置基準点群との乖離度に基づき、前記測定座標系の位置を前記設計座標系の位置に一致させるような前記測定座標系の並進を数学的に表現する並進演算子を算定する過程と、
前記回転演算子及び前記並進演算子にしたがって、前記設計座標系において前記模型の形状を表現する前記測定点群を変位させる過程とを備えていることを特徴とする座標系整合方法。
【請求項2】
請求項1記載の座標系整合方法において、
前記第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程は、
前記第k種測定平面要素のそれぞれを表現する前記測定点群の座標値に基づき、最小二乗法にしたがって、前記設計座標系における第k種測定平面要素の姿勢を決定し、
前記第k種測定平面要素の姿勢に応じた方向に当該測定点群を並進させた結果として、前記設計座標系における前記第k姿勢基準点群の座標値を決定する過程であることを特徴とする座標系整合方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の座標系整合方法において、
前記回転演算子を決定する過程は、
前記第k姿勢基準平面のそれぞれと、その基礎である前記第k姿勢基準点群との乖離度をノイズとして評価し、
前記第k姿勢基準平面のそれぞれを、前記ノイズが最大である第1元平面、前記ノイズが2番目に大きい第2元平面及び前記ノイズが最小である第3元平面のそれぞれとして定義し、
前記第1元平面の単位法線ベクトルが、前記第2元平面の単位法線ベクトルと前記第3元平面の単位法線ベクトルとの外積に一致するように前記第1元平面の姿勢を補正し、
前記第2元平面の単位法線ベクトルが、前記第3元平面の単位法線ベクトルと姿勢補正後の前記第1元平面の単位法線ベクトルとの外積に一致するように前記第2元平面の姿勢を補正し、
前記第k姿勢基準平面の補正後の姿勢に基づき、前記回転演算子を算定する過程であることを特徴とする座標系整合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の方法において、
前記基体の目標形状を設計する過程は、
前記設計座標系において、第k設計基準方向について前記製品の設計精度が高いほど、前記複数の第k種設計平面要素の、前記第k設計基準方向に対して垂直な方向についての間隔が大きくなるように、前記基体の目標形状を設計する過程であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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