廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法
【課題】廃棄物を隔離する埋め戻し材の劣化を確実に防止して廃棄物を長期的に安定な状態で処分可能な廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑の構築方法を提供する。
【解決手段】地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑20であって、地山Gを掘削して形成した掘削坑5内に挿入設置されて坑道と繋がる空間21を画成する鋼管22と、掘削坑5の掘削面5aと鋼管22との間に充填された非セメント系充填材23とを備えて構成されている。
【解決手段】地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑20であって、地山Gを掘削して形成した掘削坑5内に挿入設置されて坑道と繋がる空間21を画成する鋼管22と、掘削坑5の掘削面5aと鋼管22との間に充填された非セメント系充填材23とを備えて構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放射性廃棄物などの廃棄物を埋設処分する廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地下300mを超える地山深部に高レベルの放射性廃棄物を埋設処分することが検討されている。この際、放射性廃棄物は、例えばガラスと混ぜて固化され、このガラス固化体を炭素鋼などからなるオーバーパックで密閉して廃棄体を形成した状態で処分される。そして、この廃棄体を処分するための廃棄物地下埋設処分施設Aは、図9に示すように、地表から地山深部の硬質岩や堆積軟岩の比較的安定した地山Gまで略垂直に構築した立坑1と、この立坑1の下端側に繋がる略環状の主要坑道2と、この主要坑道2と繋がるように形成した処分坑道(坑道)や処分孔(以下、処分坑道3という)とから構成され、廃棄体が、立坑1及び主要坑道2を通じて処分坑道3内に搬送されて処分される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、廃棄体を処分した処分坑道3をそのままにしておくと、処分坑道3の周辺地山Gの緩みの拡大や地下水の卓越した水みちの形成のおそれがあり、処分施設A全体としてのバリア性能を低下させるおそれがあるため、これを防止する目的で地山Gと同等以上の低透水性の材料(埋め戻し材4)で処分坑道2を埋め戻すことが考えられている。そして、この種の埋め戻し材4には、膨潤性や放射性廃棄物の吸着性に優れるベントナイトを主成分とするベントナイト混合材が用いられ、地山Gから処分坑道3に浸入した地下水が接触するとともに膨潤し、地山Gを押圧することでさらなる地下水の浸入を防止したり、膨潤に伴い埋め戻し材4の透水係数が低下することで地下水の浸透を防止する。これにより、放射性廃棄物を確実に外部の自然環境から隔離して処分することが可能になる。
【0004】
一方、この種の廃棄物地下埋設処分施設Aの立坑1は、例えば図9から図12に示すように、地表から地山深部に向けて掘削した掘削坑5の地表部側の掘削面5aを支持する坑口部6(図10)を備え、この坑口部6は、掘削面5aを例えば厚さ100mm程度の吹き付けコンクリート7で覆い、径方向外側に且つ周方向に所定間隔で例えば長さ4000mm程度のロックボルト8を打設し、さらにその内周側を例えば1400mm程度の覆工コンクリート9で覆って構築される。また、坑口部6よりも地山深部に位置する本坑部10(図11及び図12)は、地山Gが硬岩系岩盤の場合(図11)には、掘削面5aを覆うように例えば厚さ100mm程度の吹き付けコンクリート7を設け、軟岩系岩盤の場合(図12)には、例えば厚さ550mm程度の覆工コンクリート9を設けて構築される。
【特許文献1】特開2003−215297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の立坑1のように、掘削坑5の掘削面5a(地山G)の崩落を防止する支保として吹付けコンクリート7や覆工コンクリート9を設けた場合には、この支保に地下水が接触するとセメントからCa(カルシウム)などの高アルカリ成分が地下水に溶出し、立坑1の周辺が高アルカリ環境になる可能性がある。そして、高アルカリ成分を含む地下水が埋め戻し材4に接触した場合には、埋め戻し材4が劣化するおそれが生じる。
【0006】
すなわち、埋め戻し材4のベントナイト混合材には、その膨潤性に優れるという点でNa(ナトリウム)を担持したNa型ベントナイトが多用されるが、このNa型ベントナイトは、Caイオンと接触するとNaとCaのイオン交換がなされ、膨潤性に劣るCa型ベントナイトに変質してしまう。そして、このようにベントナイトが変質した場合には、埋め戻し材4の膨潤性が乏しくなり地下水の遮蔽能力ひいては放射性物質の遮蔽能力の低下を招くおそれが生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、廃棄物を隔離する埋め戻し材の劣化を確実に防止して廃棄物を長期的に安定な状態で処分可能な廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑は、地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑であって、前記地山を掘削して形成した掘削坑内に挿入設置されて前記坑道と繋がる空間を画成する鋼管と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管との間に充填された非セメント系充填材とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑においては、前記鋼管内から前記地山内に向けて延び、前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水して周辺地山の地下水位を低下させるための排水孔が設けられていることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑においては、前記非セメント系充填材がベントナイト混合材であることがより望ましい。
【0012】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法は、地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑を構築する方法であって、前記地山の地表部側の掘削面を支持するとともに掘削方向を規定するための坑口部を形成する坑口部形成工程と、前記地山の崩落を防止するための安定液を供給しながら前記地表から地山深部に延びる掘削坑を形成する掘削工程と、底蓋を設けて有底筒状を呈するように形成した鋼管を、前記掘削坑内の前記安定液による浮力を相殺するように前記鋼管内に水を供給しながら前記掘削坑内に挿入して設置する鋼管設置工程と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管の間に、前記安定液と置換するように非セメント系充填材を充填する裏込め工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法においては、前記鋼管内に挿入して所定深度に配した削孔機によって前記鋼管内から前記地山内に向けて延びる排水孔を形成し、該排水孔を通じて前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水することにより周辺地山の地下水位を低下させる地下水位低下工程を備えることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、前記鋼管内の前記水に浮かべた台船に前記削孔機を上載し、前記水を前記鋼管内から排出することにより前記台船とともに前記削孔機を所定深度に配置することがより望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法によれば、立坑が鋼管と非セメント系充填材とを備えて構成されるため、すなわち、立坑がセメントを全く使用することなく構築されるため、立坑周辺が高アルカリ環境になることがない。このため、廃棄物を隔離するための埋め戻し材が劣化するおそれを解消でき、確実に廃棄物を長期間安定した状態で処分することが可能になる。また、立坑の掘削面を支持する支保として鋼管を用いることにより、地下水の立坑内への漏水などを確実に防止できる。
【0016】
さらに、安定液を供給しながら掘削坑を形成することで、全断面立坑掘削工法を適用でき、すなわち掘削坑を、機械掘削で、且つ掘削面を大気圧に解放することなく形成できるため、掘削に伴う周辺地山の応力変化を小さくすることができる。これにより、廃棄物と地上を最短経路で繋ぐことになる立坑の掘削坑を形成する際に、周辺地山に透水性が大きくなる掘削影響領域(緩み領域)が発生することを抑制できる。よって、確実に廃棄物を隔離できるように立坑を構築することが可能になる。
【0017】
また、上記のように機械掘削で地山を掘削し、鋼管を建て込んで立坑を構築できることによって、早期に立坑を構築することが可能になり工期短縮を図ることが可能になる。これにより、従来、立坑の構築のために複数の掘削機械を用い、これに掛かるコストが施工費の増大を招いていたが、上記のように早期に立坑を構築できることで、一台の掘削機械を用いて複数の立坑を施工することも可能になり、経済性を大幅に向上させることが可能になる。
【0018】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び立坑構築方法においては、地山内の地下水を鋼管内に導水して周辺の地下水位を低下させるための排水孔を具備することによって、鋼管に作用する地下水圧を低減することができ、従来のように覆工コンクリートなどを用いることなく確実に安定した立坑を構築することが可能になる。
【0019】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び立坑構築方法においては、非セメント系充填材が、例えばベントナイトと水を混合したベントナイトスラリーやエタノールとベントナイトを混合したエタノールベントナイトなどのベントナイト混合材であることによって、ベントナイトの膨潤に伴い鋼管と掘削面の隙間、及び緩み領域の地山の間隙を密充填することができ、確実に廃棄物を隔離して廃棄物地下埋設処分施設の安全性及び信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1から図8、及び図9を参照し、本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法について説明する。本実施形態は、例えば図9に示した廃棄物埋設処分施設Aと同様に、地下300mを超える地山深部の地山Gに高レベルの放射性廃棄物を埋設処分するための廃棄物埋設処分施設Bの立坑及びこの立坑の構築方法に関するものである。
【0021】
本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bは、図1及び図9に示すように、地表から地山深部に向けて延設され、その下端側に廃棄物を処分するための坑道3が繋がる立坑20を備えて構築されている。
【0022】
また、本実施形態の立坑20は、図1に示すように、地表側の坑口付近に設けられた略円筒状の坑口部6と、地山Gを掘削して形成した掘削坑5内に挿入設置されて、坑道2に連通する空間21を画成する鋼管22と、掘削坑5の内面(掘削面5a)と鋼管22との間に充填した非セメント系充填材23とを備えて構成されている。また、本実施形態の立坑20には、鋼管22が画成する空間21と繋がり地山G内に向けて延設されて、地山G内の地下水GWを鋼管22内に導水し周辺の地下水位を低下させるための複数の排水孔24が設けられている。
【0023】
坑口部6は、図1及び図3に示すように、地表から垂直に打設して断面略円形に接続された複数の鋼管矢板6aからなる矢板部6bと、矢板部6bの上端と繋がり径方向外側に延出した支持板部6cとから構成されている。そして、この坑口部6は、矢板部6aによって地表部側の掘削面5a(地山G)が支持されてこの部分の地山Gが崩落することを防止している。また、坑口部6は、矢板部6bが略円形状に繋げられ垂直方向に延びて形成されることによって、掘削坑5の延設方向(掘削方向)を規定している。
【0024】
鋼管22は、図1及び図2に示すように、坑口部6の内壁面と面一に繋がる掘削面5aの崩落を防止するように、断面円形の掘削坑5と互いの軸線O1を同軸上に配するようにして設けられている。また、この鋼管22は、開口する下端を閉塞する鉄蓋またはコンクリート蓋の底蓋22aが設けられて有底円筒状を呈するように形成されている。そして、鋼管22は、その上端を地表面付近に配し、下端を掘削坑5の底部付近に配して設けられており、このとき、鋼管22の外面と坑口部6の内壁面及び掘削面5aとの間に隙間を設けた状態で設けられている。さらに、この鋼管22の内面側には、図2に示すように、周方向に繋がる環状に形成され、且つ内面から軸線O1直交方向に(鋼管22の内面から内側に向けて)突出する複数の補剛部(スティフナー)22bが、上端から下端までの範囲に並設されている。これにより、鋼管22の内面は、波状を呈するように形成され、このような補剛部22bを備えることによって、本実施形態の鋼管22は、大きな外圧に対する耐力を有する。
【0025】
非セメント系充填材23は、ベントナイトと水を混合したベントナイトスラリーまたはエタノールとベントナイトを混合したエタノールベントナイトのベントナイト混合材である。そして、この非セメント系充填材23は、ベントナイトが膨潤することによって鋼管22と、坑口部6及び掘削面5aとの隙間に密実に充填されている。また、非セメント系充填材23は、掘削坑5の形成時に生じた立坑20周辺地山Gの緩み領域の間隙にも膨潤しつつ充填されており、この緩み領域の透水性を他の部分の地山Gと同等に回復させている。
【0026】
排水孔24は、その延設方向の開口する一端が鋼管22の空間21内に配され、略水平方向の地山G内に延設されている。また、鋼管22の坑口部6の下端付近から底蓋22a付近までの軸線O1方向の範囲に所定の間隔(深度)をもって、且つ周方向に所定の間隔をあけて複数並設されている。そして、これらの排水孔24は、内部にそれぞれ図示せぬ有孔管が挿入されており、集水した地下水をこの有孔管を通じて鋼管22内に排出する。
【0027】
ついで、図1及び図3から図8を参照して、上記の構成からなる立坑20を構築する方法について説明し、本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bの立坑20及びこの立坑20の構築方法の作用及び効果について説明する。
【0028】
本実施形態の立坑20を構築する際には、はじめに、図3に示すように、地表から鋼管矢板6aを打設して矢板部6bを形成するとともに支持板部6cを形成して、坑口部6を構築する(坑口部形成工程)。
【0029】
ついで、図4に示すように、矢板部6bで囲んだ地表部側の地山Gを掘削するとともに、全断面立坑掘削機械25を坑口部6上に設置する。そして、地山Gを取り除いた状態の矢板部6bの内部を、液面が地表面付近に位置するように例えばベントナイト泥水などの安定液26で満たしておく。
【0030】
ついで、図5に示すように、全断面立坑掘削機械25で坑口部6から地山深部に向けて地山Gの掘削を開始する。このとき、矢板部6bにより掘削方向を規定した状態で地山深部の地山Gが掘削され、さらに、液面が地表面付近に常時位置するように掘削坑5内に安定液26を供給して、掘削坑5の掘削面5aの崩落を防止しながら掘削を行なう(掘削工程)。このように、全断面立坑掘削機械25を用いて掘削坑5を形成し、且つ安定液26を供給しながら掘削して掘削坑5を形成することによって、早期に掘削坑5が形成されてゆき、且つ掘削坑5の掘削面5aが大気圧に解放されることがないため、掘削に伴う周辺地山Gの応力変化を小さく抑えた状態で掘削坑5が形成されてゆく。すなわち、掘削に伴う緩み領域の発生を抑制した状態で掘削坑5が形成される。
【0031】
そして、所定深度の掘削坑5を形成して全断面立坑掘削機械25を撤去した段階で、図6に示すように、下端に底蓋22aを取り付けた鋼管22を例えばクレーン27で吊り下げ、安定液26で満たされた掘削坑5内に下端側から挿入してゆく。このとき、安定液26の浮力を相殺するために鋼管22内に順次水Wを注ぎ入れて重量を増大させ、この鋼管22内に溜まった水Wの重さを利用して、安定液26内に鋼管22を沈めてゆく。このようにして、鋼管22を掘削坑5内の所定の位置に設置する(鋼管設置工程)。なお、このとき、鋼管22の掘削坑5内への挿入に伴い地上に押し出される安定液26は、適宜手段を用いて回収される。
【0032】
ついで、鋼管22を掘削坑5内に挿入設置した段階で、図7に示すように、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの隙間に、安定液26と置換するように非セメント系充填材(ベントナイト混合材)23を供給する(裏込め工程)。このとき、安定液26と置換したベントナイト混合材23は、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの間に、ベントナイトの膨潤によって密実に充填される。また、このベントナイト混合材23は、掘削坑5の形成に伴い発生した地山Gの緩み領域の間隙にも侵入してゆく。特にエタノールベントナイトを用いた場合には、地山Gの緩み領域の間隙内に侵入した後に、地山G内の地下水GWが接触するとともにエタノールとこの地下水GWが置換し、置換した地下水GWによってベントナイトが膨潤して、高密度で緩み領域の間隙を埋める。これにより、緩み領域の透水性が他の地山Gと確実に同等以上に回復する。
【0033】
ついで、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの隙間を完全にベントナイト混合材23で充填した段階で、図8に示すように、鋼管22内に満たされた水Wに浮船(台船)28を浮かべ、この台船28上に削孔機29を上載する。そして、鋼管22内の水Wを地上に排出して水面を低下させるとともに、台船28ひいては削孔機29を鋼管22内の所定の深度まで移動させる。このようにして削孔機29が所定の深度に達した段階でその移動を停止し、すなわち鋼管22内の水Wの排出を停止し、削孔機29で、鋼管22の内側から略水平方向外側の地山G内に延びる排水孔24を形成する(排水孔形成工程)。そして、この排水孔24内に有孔管(排水パイプ)を建て込む。このように、鋼管22内の水Wを排出しながら順次下方に削孔機29を配して排水孔24の形成及び排水パイプの建て込みを行なうことで、複数の排水パイプが、深さ方向に所定の間隔をあけ且つ周方向に所定の間隔をあけて設置される。これにより、図1に示した本実施形態の立坑20が構築される。また、排水パイプ(排水孔24)によって、地山G内の地下水GWが鋼管22内に導水されて周辺地山G内の地下水位が低下することにより、鋼管22に作用する地下水圧が低減し、鋼管22が地下水圧などの外力で変形することが防止できる。なお、台船28及び削孔機29を鋼管22内から搬出して、鋼管22内の水Wを除去した段階で、鋼管22の底蓋22aを撤去してもよい。特に底蓋22aがコンクリート蓋である場合には、撤去することが望ましい。
【0034】
したがって、本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bの立坑20及びこの立坑20の構築方法によれば、立坑20が鋼管22と非セメント系充填材23とを備えて構成されるため、すなわち、立坑20がセメントを全く使用することなく構築されるため、周辺地下水が高アルカリ環境になることがない。このため、廃棄物を隔離するための埋め戻し材が劣化することがなく、確実に廃棄物を長期間安定した状態で処分することが可能になる。また、掘削坑5の掘削面5aを支持する支保として鋼管22を用いることにより、周辺地山G内の地下水GWが立坑20内に漏水することがない。
【0035】
さらに、安定液26を供給しながら掘削坑5を形成することで、全断面立坑掘削工法を適用でき、すなわち掘削坑5を機械掘削で形成でき、掘削面5aを大気圧に解放することなく掘削坑5を形成できるため、掘削に伴う周辺地山Gの応力変化を小さくすることができる。これにより、周辺地山Gに掘削影響領域(緩み領域)が発生することを抑制でき、廃棄物と地上を最短経路で繋ぐことになる立坑20を好適に構築して、確実に廃棄物を隔離することが可能になる。
【0036】
また、上記のように機械掘削で地山Gを掘削し、鋼管22を建て込んで立坑20を構築できることにより、立坑20を早期に構築することができ工期短縮を図ることが可能になる。これにより、従来、立坑の構築のために、複数の掘削機械を用い、これに掛かるコストが施工費の増大を招いていたが、上記のように早期に立坑20を構築できることで、一台の掘削機械を用いて複数の立坑を施工することも可能になって、経済性を大幅に向上させることが可能になる。
【0037】
また、排水孔24が具備されることによって、立坑20の鋼管22に作用する地下水圧を低減でき、従来のように覆工コンクリートなどを用いることなく確実に安定した立坑20を構築することが可能になる。
【0038】
さらに、非セメント系充填材としてベントナイト混合材23を用いることによって、ベントナイトの膨潤に伴い鋼管22と掘削面5aの隙間、及び緩み領域の地山Gの間隙を確実に密充填でき、確実に廃棄物を隔離して廃棄物地下埋設処分施設Bの安全性及び信頼性を向上させることができる。
【0039】
以上、本発明に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑の構築方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、坑口部6が複数の鋼管矢板6aからなる矢板部6bと支持板部6cとを備えて形成されているものとしたが、坑口部6が地表部側に設けられる関係上、特にセメントからの高アルカリ成分の溶出による埋め戻し材の劣化が生じ得ないと判断される場合には、矢板部6を例えばコンクリート製の地中連続壁としてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、図6に、クレーン27で支持した一本ものの鋼管22を安定液26中に挿入するように図示したが、分割した鋼管を用い、挿入時に鋼管の頭部が地表面付近に達するとともに他の鋼管の下端とこの頭部を溶接などで接続して、最終的に一本ものの鋼管を掘削坑5内に設置するようにしてもよい。
【0041】
さらに、本実施形態では、立坑20が排水孔24を備えるものとして説明を行なったが、例えば立坑20周辺の地下水位を他の地下水位低下工法を利用して低下させる場合には、特に排水孔24を具備する必要はない。また、本実施形態では、非セメント系充填材23としてベントナイト混合材を用いるものとしたが、セメント成分を含まず、且つ鋼管22と掘削面5aの隙間を密実に充填することが可能であれば、他の材料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑を示す側断面図である。
【図2】図1の立坑に具備する鋼管の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部を構築した状態を示す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部上に全断面立坑掘削機械を設置した状態を示す側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の掘削坑を形成している状態を示す側断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の掘削坑内に鋼管を挿入している状態を示す側断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の非セメント系充填材を充填している状態を示す側断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の排水孔を形成している状態を示す側断面図である。
【図9】廃棄物地下埋設処分施設を示す斜視図である。
【図10】従来の廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部の構成を示す断面図である。
【図11】従来の廃棄物地下埋設処分施設の硬岩系岩盤の立坑の本坑部の構成を示す断面図である。
【図12】従来の廃棄物地下埋設処分施設の軟岩系岩盤の立坑の本坑部の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 立坑
2 主要坑道(坑道)
3 処分坑道(坑道)
5 掘削坑
5a 掘削面
6 坑口部
10 本坑部
20 立坑
21 坑道に繋がる空間
22 鋼管
22a 底蓋
22b 補剛部
23 非セメント系充填材(ベントナイト混合材)
24 排水孔
25 全断面立坑掘削機
26 安定液
28 台船(浮船)
29 削孔機
A 廃棄物地下埋設処分施設
B 廃棄物地下埋設処分施設
G 地山
GW 地下水
W 水
O1 軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放射性廃棄物などの廃棄物を埋設処分する廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地下300mを超える地山深部に高レベルの放射性廃棄物を埋設処分することが検討されている。この際、放射性廃棄物は、例えばガラスと混ぜて固化され、このガラス固化体を炭素鋼などからなるオーバーパックで密閉して廃棄体を形成した状態で処分される。そして、この廃棄体を処分するための廃棄物地下埋設処分施設Aは、図9に示すように、地表から地山深部の硬質岩や堆積軟岩の比較的安定した地山Gまで略垂直に構築した立坑1と、この立坑1の下端側に繋がる略環状の主要坑道2と、この主要坑道2と繋がるように形成した処分坑道(坑道)や処分孔(以下、処分坑道3という)とから構成され、廃棄体が、立坑1及び主要坑道2を通じて処分坑道3内に搬送されて処分される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、廃棄体を処分した処分坑道3をそのままにしておくと、処分坑道3の周辺地山Gの緩みの拡大や地下水の卓越した水みちの形成のおそれがあり、処分施設A全体としてのバリア性能を低下させるおそれがあるため、これを防止する目的で地山Gと同等以上の低透水性の材料(埋め戻し材4)で処分坑道2を埋め戻すことが考えられている。そして、この種の埋め戻し材4には、膨潤性や放射性廃棄物の吸着性に優れるベントナイトを主成分とするベントナイト混合材が用いられ、地山Gから処分坑道3に浸入した地下水が接触するとともに膨潤し、地山Gを押圧することでさらなる地下水の浸入を防止したり、膨潤に伴い埋め戻し材4の透水係数が低下することで地下水の浸透を防止する。これにより、放射性廃棄物を確実に外部の自然環境から隔離して処分することが可能になる。
【0004】
一方、この種の廃棄物地下埋設処分施設Aの立坑1は、例えば図9から図12に示すように、地表から地山深部に向けて掘削した掘削坑5の地表部側の掘削面5aを支持する坑口部6(図10)を備え、この坑口部6は、掘削面5aを例えば厚さ100mm程度の吹き付けコンクリート7で覆い、径方向外側に且つ周方向に所定間隔で例えば長さ4000mm程度のロックボルト8を打設し、さらにその内周側を例えば1400mm程度の覆工コンクリート9で覆って構築される。また、坑口部6よりも地山深部に位置する本坑部10(図11及び図12)は、地山Gが硬岩系岩盤の場合(図11)には、掘削面5aを覆うように例えば厚さ100mm程度の吹き付けコンクリート7を設け、軟岩系岩盤の場合(図12)には、例えば厚さ550mm程度の覆工コンクリート9を設けて構築される。
【特許文献1】特開2003−215297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の立坑1のように、掘削坑5の掘削面5a(地山G)の崩落を防止する支保として吹付けコンクリート7や覆工コンクリート9を設けた場合には、この支保に地下水が接触するとセメントからCa(カルシウム)などの高アルカリ成分が地下水に溶出し、立坑1の周辺が高アルカリ環境になる可能性がある。そして、高アルカリ成分を含む地下水が埋め戻し材4に接触した場合には、埋め戻し材4が劣化するおそれが生じる。
【0006】
すなわち、埋め戻し材4のベントナイト混合材には、その膨潤性に優れるという点でNa(ナトリウム)を担持したNa型ベントナイトが多用されるが、このNa型ベントナイトは、Caイオンと接触するとNaとCaのイオン交換がなされ、膨潤性に劣るCa型ベントナイトに変質してしまう。そして、このようにベントナイトが変質した場合には、埋め戻し材4の膨潤性が乏しくなり地下水の遮蔽能力ひいては放射性物質の遮蔽能力の低下を招くおそれが生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、廃棄物を隔離する埋め戻し材の劣化を確実に防止して廃棄物を長期的に安定な状態で処分可能な廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑は、地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑であって、前記地山を掘削して形成した掘削坑内に挿入設置されて前記坑道と繋がる空間を画成する鋼管と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管との間に充填された非セメント系充填材とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑においては、前記鋼管内から前記地山内に向けて延び、前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水して周辺地山の地下水位を低下させるための排水孔が設けられていることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑においては、前記非セメント系充填材がベントナイト混合材であることがより望ましい。
【0012】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法は、地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑を構築する方法であって、前記地山の地表部側の掘削面を支持するとともに掘削方向を規定するための坑口部を形成する坑口部形成工程と、前記地山の崩落を防止するための安定液を供給しながら前記地表から地山深部に延びる掘削坑を形成する掘削工程と、底蓋を設けて有底筒状を呈するように形成した鋼管を、前記掘削坑内の前記安定液による浮力を相殺するように前記鋼管内に水を供給しながら前記掘削坑内に挿入して設置する鋼管設置工程と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管の間に、前記安定液と置換するように非セメント系充填材を充填する裏込め工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法においては、前記鋼管内に挿入して所定深度に配した削孔機によって前記鋼管内から前記地山内に向けて延びる排水孔を形成し、該排水孔を通じて前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水することにより周辺地山の地下水位を低下させる地下水位低下工程を備えることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、前記鋼管内の前記水に浮かべた台船に前記削孔機を上載し、前記水を前記鋼管内から排出することにより前記台船とともに前記削孔機を所定深度に配置することがより望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法によれば、立坑が鋼管と非セメント系充填材とを備えて構成されるため、すなわち、立坑がセメントを全く使用することなく構築されるため、立坑周辺が高アルカリ環境になることがない。このため、廃棄物を隔離するための埋め戻し材が劣化するおそれを解消でき、確実に廃棄物を長期間安定した状態で処分することが可能になる。また、立坑の掘削面を支持する支保として鋼管を用いることにより、地下水の立坑内への漏水などを確実に防止できる。
【0016】
さらに、安定液を供給しながら掘削坑を形成することで、全断面立坑掘削工法を適用でき、すなわち掘削坑を、機械掘削で、且つ掘削面を大気圧に解放することなく形成できるため、掘削に伴う周辺地山の応力変化を小さくすることができる。これにより、廃棄物と地上を最短経路で繋ぐことになる立坑の掘削坑を形成する際に、周辺地山に透水性が大きくなる掘削影響領域(緩み領域)が発生することを抑制できる。よって、確実に廃棄物を隔離できるように立坑を構築することが可能になる。
【0017】
また、上記のように機械掘削で地山を掘削し、鋼管を建て込んで立坑を構築できることによって、早期に立坑を構築することが可能になり工期短縮を図ることが可能になる。これにより、従来、立坑の構築のために複数の掘削機械を用い、これに掛かるコストが施工費の増大を招いていたが、上記のように早期に立坑を構築できることで、一台の掘削機械を用いて複数の立坑を施工することも可能になり、経済性を大幅に向上させることが可能になる。
【0018】
また、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び立坑構築方法においては、地山内の地下水を鋼管内に導水して周辺の地下水位を低下させるための排水孔を具備することによって、鋼管に作用する地下水圧を低減することができ、従来のように覆工コンクリートなどを用いることなく確実に安定した立坑を構築することが可能になる。
【0019】
さらに、本発明の廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び立坑構築方法においては、非セメント系充填材が、例えばベントナイトと水を混合したベントナイトスラリーやエタノールとベントナイトを混合したエタノールベントナイトなどのベントナイト混合材であることによって、ベントナイトの膨潤に伴い鋼管と掘削面の隙間、及び緩み領域の地山の間隙を密充填することができ、確実に廃棄物を隔離して廃棄物地下埋設処分施設の安全性及び信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1から図8、及び図9を参照し、本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑及び廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法について説明する。本実施形態は、例えば図9に示した廃棄物埋設処分施設Aと同様に、地下300mを超える地山深部の地山Gに高レベルの放射性廃棄物を埋設処分するための廃棄物埋設処分施設Bの立坑及びこの立坑の構築方法に関するものである。
【0021】
本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bは、図1及び図9に示すように、地表から地山深部に向けて延設され、その下端側に廃棄物を処分するための坑道3が繋がる立坑20を備えて構築されている。
【0022】
また、本実施形態の立坑20は、図1に示すように、地表側の坑口付近に設けられた略円筒状の坑口部6と、地山Gを掘削して形成した掘削坑5内に挿入設置されて、坑道2に連通する空間21を画成する鋼管22と、掘削坑5の内面(掘削面5a)と鋼管22との間に充填した非セメント系充填材23とを備えて構成されている。また、本実施形態の立坑20には、鋼管22が画成する空間21と繋がり地山G内に向けて延設されて、地山G内の地下水GWを鋼管22内に導水し周辺の地下水位を低下させるための複数の排水孔24が設けられている。
【0023】
坑口部6は、図1及び図3に示すように、地表から垂直に打設して断面略円形に接続された複数の鋼管矢板6aからなる矢板部6bと、矢板部6bの上端と繋がり径方向外側に延出した支持板部6cとから構成されている。そして、この坑口部6は、矢板部6aによって地表部側の掘削面5a(地山G)が支持されてこの部分の地山Gが崩落することを防止している。また、坑口部6は、矢板部6bが略円形状に繋げられ垂直方向に延びて形成されることによって、掘削坑5の延設方向(掘削方向)を規定している。
【0024】
鋼管22は、図1及び図2に示すように、坑口部6の内壁面と面一に繋がる掘削面5aの崩落を防止するように、断面円形の掘削坑5と互いの軸線O1を同軸上に配するようにして設けられている。また、この鋼管22は、開口する下端を閉塞する鉄蓋またはコンクリート蓋の底蓋22aが設けられて有底円筒状を呈するように形成されている。そして、鋼管22は、その上端を地表面付近に配し、下端を掘削坑5の底部付近に配して設けられており、このとき、鋼管22の外面と坑口部6の内壁面及び掘削面5aとの間に隙間を設けた状態で設けられている。さらに、この鋼管22の内面側には、図2に示すように、周方向に繋がる環状に形成され、且つ内面から軸線O1直交方向に(鋼管22の内面から内側に向けて)突出する複数の補剛部(スティフナー)22bが、上端から下端までの範囲に並設されている。これにより、鋼管22の内面は、波状を呈するように形成され、このような補剛部22bを備えることによって、本実施形態の鋼管22は、大きな外圧に対する耐力を有する。
【0025】
非セメント系充填材23は、ベントナイトと水を混合したベントナイトスラリーまたはエタノールとベントナイトを混合したエタノールベントナイトのベントナイト混合材である。そして、この非セメント系充填材23は、ベントナイトが膨潤することによって鋼管22と、坑口部6及び掘削面5aとの隙間に密実に充填されている。また、非セメント系充填材23は、掘削坑5の形成時に生じた立坑20周辺地山Gの緩み領域の間隙にも膨潤しつつ充填されており、この緩み領域の透水性を他の部分の地山Gと同等に回復させている。
【0026】
排水孔24は、その延設方向の開口する一端が鋼管22の空間21内に配され、略水平方向の地山G内に延設されている。また、鋼管22の坑口部6の下端付近から底蓋22a付近までの軸線O1方向の範囲に所定の間隔(深度)をもって、且つ周方向に所定の間隔をあけて複数並設されている。そして、これらの排水孔24は、内部にそれぞれ図示せぬ有孔管が挿入されており、集水した地下水をこの有孔管を通じて鋼管22内に排出する。
【0027】
ついで、図1及び図3から図8を参照して、上記の構成からなる立坑20を構築する方法について説明し、本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bの立坑20及びこの立坑20の構築方法の作用及び効果について説明する。
【0028】
本実施形態の立坑20を構築する際には、はじめに、図3に示すように、地表から鋼管矢板6aを打設して矢板部6bを形成するとともに支持板部6cを形成して、坑口部6を構築する(坑口部形成工程)。
【0029】
ついで、図4に示すように、矢板部6bで囲んだ地表部側の地山Gを掘削するとともに、全断面立坑掘削機械25を坑口部6上に設置する。そして、地山Gを取り除いた状態の矢板部6bの内部を、液面が地表面付近に位置するように例えばベントナイト泥水などの安定液26で満たしておく。
【0030】
ついで、図5に示すように、全断面立坑掘削機械25で坑口部6から地山深部に向けて地山Gの掘削を開始する。このとき、矢板部6bにより掘削方向を規定した状態で地山深部の地山Gが掘削され、さらに、液面が地表面付近に常時位置するように掘削坑5内に安定液26を供給して、掘削坑5の掘削面5aの崩落を防止しながら掘削を行なう(掘削工程)。このように、全断面立坑掘削機械25を用いて掘削坑5を形成し、且つ安定液26を供給しながら掘削して掘削坑5を形成することによって、早期に掘削坑5が形成されてゆき、且つ掘削坑5の掘削面5aが大気圧に解放されることがないため、掘削に伴う周辺地山Gの応力変化を小さく抑えた状態で掘削坑5が形成されてゆく。すなわち、掘削に伴う緩み領域の発生を抑制した状態で掘削坑5が形成される。
【0031】
そして、所定深度の掘削坑5を形成して全断面立坑掘削機械25を撤去した段階で、図6に示すように、下端に底蓋22aを取り付けた鋼管22を例えばクレーン27で吊り下げ、安定液26で満たされた掘削坑5内に下端側から挿入してゆく。このとき、安定液26の浮力を相殺するために鋼管22内に順次水Wを注ぎ入れて重量を増大させ、この鋼管22内に溜まった水Wの重さを利用して、安定液26内に鋼管22を沈めてゆく。このようにして、鋼管22を掘削坑5内の所定の位置に設置する(鋼管設置工程)。なお、このとき、鋼管22の掘削坑5内への挿入に伴い地上に押し出される安定液26は、適宜手段を用いて回収される。
【0032】
ついで、鋼管22を掘削坑5内に挿入設置した段階で、図7に示すように、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの隙間に、安定液26と置換するように非セメント系充填材(ベントナイト混合材)23を供給する(裏込め工程)。このとき、安定液26と置換したベントナイト混合材23は、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの間に、ベントナイトの膨潤によって密実に充填される。また、このベントナイト混合材23は、掘削坑5の形成に伴い発生した地山Gの緩み領域の間隙にも侵入してゆく。特にエタノールベントナイトを用いた場合には、地山Gの緩み領域の間隙内に侵入した後に、地山G内の地下水GWが接触するとともにエタノールとこの地下水GWが置換し、置換した地下水GWによってベントナイトが膨潤して、高密度で緩み領域の間隙を埋める。これにより、緩み領域の透水性が他の地山Gと確実に同等以上に回復する。
【0033】
ついで、鋼管22と掘削坑5の掘削面5aとの隙間を完全にベントナイト混合材23で充填した段階で、図8に示すように、鋼管22内に満たされた水Wに浮船(台船)28を浮かべ、この台船28上に削孔機29を上載する。そして、鋼管22内の水Wを地上に排出して水面を低下させるとともに、台船28ひいては削孔機29を鋼管22内の所定の深度まで移動させる。このようにして削孔機29が所定の深度に達した段階でその移動を停止し、すなわち鋼管22内の水Wの排出を停止し、削孔機29で、鋼管22の内側から略水平方向外側の地山G内に延びる排水孔24を形成する(排水孔形成工程)。そして、この排水孔24内に有孔管(排水パイプ)を建て込む。このように、鋼管22内の水Wを排出しながら順次下方に削孔機29を配して排水孔24の形成及び排水パイプの建て込みを行なうことで、複数の排水パイプが、深さ方向に所定の間隔をあけ且つ周方向に所定の間隔をあけて設置される。これにより、図1に示した本実施形態の立坑20が構築される。また、排水パイプ(排水孔24)によって、地山G内の地下水GWが鋼管22内に導水されて周辺地山G内の地下水位が低下することにより、鋼管22に作用する地下水圧が低減し、鋼管22が地下水圧などの外力で変形することが防止できる。なお、台船28及び削孔機29を鋼管22内から搬出して、鋼管22内の水Wを除去した段階で、鋼管22の底蓋22aを撤去してもよい。特に底蓋22aがコンクリート蓋である場合には、撤去することが望ましい。
【0034】
したがって、本実施形態の廃棄物地下埋設処分施設Bの立坑20及びこの立坑20の構築方法によれば、立坑20が鋼管22と非セメント系充填材23とを備えて構成されるため、すなわち、立坑20がセメントを全く使用することなく構築されるため、周辺地下水が高アルカリ環境になることがない。このため、廃棄物を隔離するための埋め戻し材が劣化することがなく、確実に廃棄物を長期間安定した状態で処分することが可能になる。また、掘削坑5の掘削面5aを支持する支保として鋼管22を用いることにより、周辺地山G内の地下水GWが立坑20内に漏水することがない。
【0035】
さらに、安定液26を供給しながら掘削坑5を形成することで、全断面立坑掘削工法を適用でき、すなわち掘削坑5を機械掘削で形成でき、掘削面5aを大気圧に解放することなく掘削坑5を形成できるため、掘削に伴う周辺地山Gの応力変化を小さくすることができる。これにより、周辺地山Gに掘削影響領域(緩み領域)が発生することを抑制でき、廃棄物と地上を最短経路で繋ぐことになる立坑20を好適に構築して、確実に廃棄物を隔離することが可能になる。
【0036】
また、上記のように機械掘削で地山Gを掘削し、鋼管22を建て込んで立坑20を構築できることにより、立坑20を早期に構築することができ工期短縮を図ることが可能になる。これにより、従来、立坑の構築のために、複数の掘削機械を用い、これに掛かるコストが施工費の増大を招いていたが、上記のように早期に立坑20を構築できることで、一台の掘削機械を用いて複数の立坑を施工することも可能になって、経済性を大幅に向上させることが可能になる。
【0037】
また、排水孔24が具備されることによって、立坑20の鋼管22に作用する地下水圧を低減でき、従来のように覆工コンクリートなどを用いることなく確実に安定した立坑20を構築することが可能になる。
【0038】
さらに、非セメント系充填材としてベントナイト混合材23を用いることによって、ベントナイトの膨潤に伴い鋼管22と掘削面5aの隙間、及び緩み領域の地山Gの間隙を確実に密充填でき、確実に廃棄物を隔離して廃棄物地下埋設処分施設Bの安全性及び信頼性を向上させることができる。
【0039】
以上、本発明に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑及びこの立坑の構築方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、坑口部6が複数の鋼管矢板6aからなる矢板部6bと支持板部6cとを備えて形成されているものとしたが、坑口部6が地表部側に設けられる関係上、特にセメントからの高アルカリ成分の溶出による埋め戻し材の劣化が生じ得ないと判断される場合には、矢板部6を例えばコンクリート製の地中連続壁としてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、図6に、クレーン27で支持した一本ものの鋼管22を安定液26中に挿入するように図示したが、分割した鋼管を用い、挿入時に鋼管の頭部が地表面付近に達するとともに他の鋼管の下端とこの頭部を溶接などで接続して、最終的に一本ものの鋼管を掘削坑5内に設置するようにしてもよい。
【0041】
さらに、本実施形態では、立坑20が排水孔24を備えるものとして説明を行なったが、例えば立坑20周辺の地下水位を他の地下水位低下工法を利用して低下させる場合には、特に排水孔24を具備する必要はない。また、本実施形態では、非セメント系充填材23としてベントナイト混合材を用いるものとしたが、セメント成分を含まず、且つ鋼管22と掘削面5aの隙間を密実に充填することが可能であれば、他の材料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑を示す側断面図である。
【図2】図1の立坑に具備する鋼管の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部を構築した状態を示す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部上に全断面立坑掘削機械を設置した状態を示す側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の掘削坑を形成している状態を示す側断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の掘削坑内に鋼管を挿入している状態を示す側断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の非セメント系充填材を充填している状態を示す側断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る廃棄物地下埋設処分施設の立坑の排水孔を形成している状態を示す側断面図である。
【図9】廃棄物地下埋設処分施設を示す斜視図である。
【図10】従来の廃棄物地下埋設処分施設の立坑の坑口部の構成を示す断面図である。
【図11】従来の廃棄物地下埋設処分施設の硬岩系岩盤の立坑の本坑部の構成を示す断面図である。
【図12】従来の廃棄物地下埋設処分施設の軟岩系岩盤の立坑の本坑部の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 立坑
2 主要坑道(坑道)
3 処分坑道(坑道)
5 掘削坑
5a 掘削面
6 坑口部
10 本坑部
20 立坑
21 坑道に繋がる空間
22 鋼管
22a 底蓋
22b 補剛部
23 非セメント系充填材(ベントナイト混合材)
24 排水孔
25 全断面立坑掘削機
26 安定液
28 台船(浮船)
29 削孔機
A 廃棄物地下埋設処分施設
B 廃棄物地下埋設処分施設
G 地山
GW 地下水
W 水
O1 軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑であって、
前記地山を掘削して形成した掘削坑内に挿入設置されて前記坑道と繋がる空間を画成する鋼管と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管との間に充填された非セメント系充填材とを備えて構成されていることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項2】
請求項1記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑において、
前記鋼管内から前記地山内に向けて延び、前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水して周辺地山の地下水位を低下させるための排水孔が設けられていることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑において、
前記非セメント系充填材がベントナイト混合材であることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項4】
地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑を構築する方法であって、
前記地山の地表部側の掘削面を支持するとともに掘削方向を規定するための坑口部を形成する坑口部形成工程と、前記地山の崩落を防止するための安定液を供給しながら前記地表から地山深部に延びる掘削坑を形成する掘削工程と、底蓋を設けて有底筒状を呈するように形成した鋼管を、前記掘削坑内の前記安定液による浮力を相殺するように前記鋼管内に水を供給しながら前記掘削坑内に挿入して設置する鋼管設置工程と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管の間に、前記安定液と置換するように非セメント系充填材を充填する裏込め工程とを備えることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【請求項5】
請求項4記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、
前記鋼管内に挿入して所定深度に配した削孔機によって前記鋼管内から前記地山内に向けて延びる排水孔を形成し、該排水孔を通じて前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水することにより周辺地山の地下水位を低下させる地下水位低下工程を備えることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【請求項6】
請求項5記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、
前記鋼管内の前記水に浮かべた台船に前記削孔機を上載し、前記水を前記鋼管内から排出することにより前記台船とともに前記削孔機を所定深度に配置することを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【請求項1】
地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑であって、
前記地山を掘削して形成した掘削坑内に挿入設置されて前記坑道と繋がる空間を画成する鋼管と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管との間に充填された非セメント系充填材とを備えて構成されていることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項2】
請求項1記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑において、
前記鋼管内から前記地山内に向けて延び、前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水して周辺地山の地下水位を低下させるための排水孔が設けられていることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑において、
前記非セメント系充填材がベントナイト混合材であることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑。
【請求項4】
地表から地山深部に向けて延設され、廃棄物を処分するための坑道が繋がる廃棄物地下埋設処分施設の立坑を構築する方法であって、
前記地山の地表部側の掘削面を支持するとともに掘削方向を規定するための坑口部を形成する坑口部形成工程と、前記地山の崩落を防止するための安定液を供給しながら前記地表から地山深部に延びる掘削坑を形成する掘削工程と、底蓋を設けて有底筒状を呈するように形成した鋼管を、前記掘削坑内の前記安定液による浮力を相殺するように前記鋼管内に水を供給しながら前記掘削坑内に挿入して設置する鋼管設置工程と、前記掘削坑の掘削面と前記鋼管の間に、前記安定液と置換するように非セメント系充填材を充填する裏込め工程とを備えることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【請求項5】
請求項4記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、
前記鋼管内に挿入して所定深度に配した削孔機によって前記鋼管内から前記地山内に向けて延びる排水孔を形成し、該排水孔を通じて前記地山内の地下水を前記鋼管内に導水することにより周辺地山の地下水位を低下させる地下水位低下工程を備えることを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【請求項6】
請求項5記載の廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法において、
前記鋼管内の前記水に浮かべた台船に前記削孔機を上載し、前記水を前記鋼管内から排出することにより前記台船とともに前記削孔機を所定深度に配置することを特徴とする廃棄物地下埋設処分施設の立坑構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−26019(P2008−26019A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195581(P2006−195581)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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