説明

廃魚網の利用方法

【課題】廃魚網の効果的な利用方法を提供する。
【解決手段】廃魚網の溶融物を熱分解槽でガス化した後、アルミノシリケート系触媒を充填した接触分解槽を通してガソリン・灯軽油を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃魚網の利用方法に関し、特に、廃魚網からガソリン・灯軽油を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚網のほとんどはナイロン繊維又はポリエステル繊維からつくられているが、適切な再利用方法が存在しないことから、そのほとんどは、粉砕して埋め立てに用いる等、産業廃棄物として処理されてきた。我国の全漁場では年間50万トン近くの魚網が廃棄処分されており、しかも近年は我国の廃魚網のかなりの量が日本海北側の近隣諸国中の沿岸に漂着しており、逆に我国の日本海沿岸にも諸外国の廃魚網がかなり漂着しており、その量は年間50万トン程度に達しているとの調査結果も出ている。このように廃魚網は世界的規模の環境問題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、廃魚網の効果的な再利用方法を提供することにあり、特に大量に廃棄されている廃魚網を用いて、環境にやさしいガソリン・灯軽油を極めて効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は廃魚網を加熱溶融し、溶融物を熱分解槽中で加熱してガス化させ、該ガスを接触分解槽中でアルミノシリケート系触媒と接触させることを特徴とする廃魚網から燃料油を製造する方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、大量に廃棄されている廃魚網を原料として化石燃料系のガソリン・灯軽油相当の燃料油を高収率で得ることができ、環境問題上からも社会的意義が極めて高いものである。
特に我国では廃魚網の総量が年間約50万トン以上に達しているといわれており、それを本発明により油化してガソリン・灯軽油として再利用することにより、化石燃料の消費量を低減できるだけでなく、本発明を実施するための設備を漁港近傍に設置して、得られた燃料油を漁船の燃料として利用すれば、漁船の燃料費を大幅に低下させることもでき、環境面及び経済面の両面の効果は極めて顕著なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で利用する廃魚網は加熱によって溶融するタイプの材料を用いてつくった魚網の廃棄物であれば特に制限されない。近年、魚場で用いられている魚網のほとんどはナイロンやポリエステルの繊維を編んでつくられていることから、事実上すべての廃魚網を本発明で利用することが可能といえる。
【0007】
廃魚網は直接又は予め溶融槽で加熱溶融した後に、熱分解槽に入れる。熱分解槽には通常攪拌機を設け、廃魚網又はその溶融物を加熱・攪拌しながら熱分解を伴ってガス化させる。加熱温度は200〜400℃、特に250〜350℃が好ましい。
魚網のなかには海中での貝類や海藻類等が付着しまた生息することを防ぐために塩酸が塗布されているものがある。これらは加熱していくと通常200〜250℃で塩酸ガスとして分離する。そこで塩酸ガス発生が終了するまで溶融物がガス化、更なる高温への昇温は抑制し、塩酸ガス発生が終了した後に更に昇温して廃魚網からできた溶融物のガス化を行うことが望ましい。発生した塩酸ガスは苛性ソーダ、アミン等の塩基性水溶液を入れた中和槽に通すことで簡単に無害の塩化ナトリウム等に変換することができる。尚、熱分解槽には、必要に応じ、シリカ、アルミナ、天然ゼオライト等の熱分解助剤を入れることも可能である。
【0008】
かくしてガス化して熱分解槽を出たガス成分は次いで接触分解層に移しアルミノシリケート系触媒と接触させる。接触分解槽にはアルミノシリケート系触媒が充填されており、通常接触分解槽の下部から、熱分解槽から出た高温に維持されたガス分を順次導入して触媒と接触させ、上部から接触分解して生成したガス状生成物を系外に出し、熱交換機を経て冷却し液化して燃料油を取得する。
【0009】
アルミノシリケート系触媒としては、シリカとアルミナとを構成成分とするゼオライトが好ましく用いられる。特に好ましいゼオライトはβゼオライト及びZSM型ゼオライトである。ZSM型ゼオライトとしては、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−38、ZSM−48等を用いることができるが、特にZSM−5が好ましい。これらのアルミノシリケート系触媒は通常、少なくとも一部を水素型(酸型)にして用いることが好ましく、また必要に応じ、白金族金属等を付加して用いることが好ましい。
【0010】
かくしてガソリン・灯軽油から主としてなる燃料油を高収率で得ることができるが、本発明では用いる触媒の選択により得られる燃料油の特性を調整することも可能である。即ちアルミノシリケート系触媒には、活性主体(酸型主体)のものから活性を低くし(酸型又は酸点の割合を少なくし)選択性(形状選択性)を高めたものまでが存在し、それらの選択や組合せにより、たとえば生成物中のガソリン分を多くしたり灯軽油分やA重油分を多くしたりすることができる。これは燃料油の需要動向や使用者側の要求に応じた製品調整が可能であることを意味し実用上の大きな利点である。特に触媒層を2段以上とし、最初に分解活性型アルミノシリケート系触媒を後段に形状選択型触媒を配することにより、生成物の炭素数や蒸溜分布や比重等の性状が化石燃料である一般的なガソリン・灯軽油に極めて近い生成物を得ることができる。
【0011】
分解活性型アルミノシリケート系触媒は前記したように酸活性点の多い(好ましくは50%以上が酸型である)ものであり、一例として分解活性型のベータ型ゼオライト等が例示される。形状選択型アルミノシリケート系触媒は分解活性点の少ないものであり、特に白金族金属を含むZSM−5が好ましく用いられる。
被処理原料である廃魚網の溶融物に廃エンジンオイルを少量(たとえば1〜10重量%)混入しておくことも好ましい。
【0012】
次に実施例によって本発明を例証する。
【実施例1】
【0013】
主としてナイロン製魚網からなる廃魚網を破断処理して得た破断片700gを攪拌翼を備えた内容積約5lの円筒状熱分解槽に入れ、まず常温から約220℃まで昇温した。その段階で廃魚網破断片は溶融物で存在し塩酸ガスの発生が確認された。この塩酸ガスを苛性ソーダを入れた中和槽に導いて中和処理した。徐々に250℃まで昇温し、塩酸ガスの発生がなくなったことを確認してから、さらに20℃ずつ昇温していき約330℃まで昇温しその温度に維持した。その間廃魚網溶融物の熱分解に伴うガス化が進行し、熱分解槽の頂部から出たガスを接触分解槽に導いた。接触分解槽は内容積約1.5lの円筒体からなり、そのなかに約500gのZSM−5ゼオライトを充填したものである。
【0014】
接触分解槽の頂部からのガスを熱交換器を通して冷却し液化して生成物を取得した。全体の液収率は約80%であった。ガスクロマトグラフ分析により生成物はガソリン分70%、灯軽油分30%からなるものであることを確認した。
【実施例2】
【0015】
実施例1において廃魚網として主としてポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)製の魚網からなる廃魚網を用いて同様の実験を行った。但し接触分解槽の触媒層を2層とし、下層に50%以上の活性点をもつ分解活性型のベータ型ゼオライトを入れ、上層に活性を抑制したZSM−5ゼオライトを入れて実験を行った。
その結果、実施例1に比し相対的にガソリン分の量が半減し、かわりに軽油分の量の多い生成油を得た。実施例1及び2のいずれの生成油も−15℃でも凍結しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃魚網を加熱溶融し、溶融物を熱分解槽中で加熱してガス化させ、該ガスを接触分解槽中でアルミノシリケート系触媒と接触させることを特徴とする廃魚網から燃料油を製造する方法。
【請求項2】
該廃魚網が使用済のナイロン製又はポリエステル製魚網である請求項1記載の方法。
【請求項3】
該ガスのアルミノシリケート系触媒との接触を、分解活性型アルミノシリケート系触媒と接触させた後形状選択型アルミノシリケート触媒と接触させることによって行う請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
該熱分解槽での加熱を、溶融物がガス化する温度よりは低い温度に保ってまず塩酸ガスを発生させ、該塩酸ガスを中和処理し、塩酸ガスの発生が終了してからさらに昇温して溶融物をガス化させて接触分解槽に導入する請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2009−51884(P2009−51884A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217821(P2007−217821)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(507262800)
【出願人】(507262811)
【出願人】(507262822)
【Fターム(参考)】