説明

延伸フィルムの製造方法、延伸フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】光学特性のバラツキが少ない遅相軸が傾斜した延伸フィルムを製造する方法の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムを延伸後のフィルムの巻取り方向D2と異なる方向から繰出し、該フィルムの両端部を把持具CR,CLによって把持して搬送しながら、予熱ゾーン、延伸ゾーン、及び冷却ゾーンを有するオーブンを通過させて、該巻取り方向に対して配向角θが40〜80°の範囲内となる長尺の延伸フィルムを製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムの、流れ方向の厚みムラσm及び幅方向の厚みムラσtが、σm<0.30μm、σt<0.20μmであり、延伸後のフィルムの引取張力Tが、100N/m<T<300N/mであり、さらに上記Tの変動が±5%未満であることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法、延伸フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、性能向上のために様々な位相差フィルムが使用されている。この位相差フィルムは、その機能を十分に発揮するように、偏光子の偏光透過軸と、特定の種々の角度に遅相軸が傾くように積層され、液晶表示装置に据え付けられる。その遅相軸の傾斜角度は、偏光子の透過軸に対し、平行でも垂直でもない角度となっていることが多い。従来の位相差フィルムは、縦延伸、又は横延伸で製造されているため、原理的に遅相軸がフィルムの長尺方向に対し0°または90°にしかならないため、上記の様な積層は長尺のロールから特定の角度で切り出したフィルム片同士を1枚づつ貼り合せるバッチ式で行われていた。これに対し、所望の角度で斜め方向に延伸し、遅相軸がフィルムの長尺方向に対し、0°でも90°でもない方向に自在に制御可能な長尺の位相差フィルムの製造方法が種々提案されている。このような遅相軸が傾斜した延伸フィルムを使用することにより、従来のバッチ式の貼り合せではなくロール・トウ・ロールの貼合が可能になることから生産性は飛躍的に向上する。
【0003】
しかし、長尺方向に対して0°でも90°でもない方向への延伸は、一般に特許文献1や特許文献2に見られるような左右非対称な延伸では、フィルムの幅方向の各位置における熱履歴や応力が異なるため、面内の厚みや光学特性が不均一になりやすい。特に40°以上の大きな配向角を得る場合においては、この幅方向の不均一性の問題はより顕著であり、これを解決することによって幅方向の取り効率を改善し、生産性を向上させることは大きな課題であった。
【特許文献1】特開2002−86554号公報
【特許文献2】特開2003−232928号公報
【0004】
このような問題を解決するための手段として、特許文献3や特許文献4では、斜め延伸時の繰出し方向と延伸後の製品の巻取り方向が特定の関係を満たすようなテンターレールパターンを提案している。さらに、特許文献5や特許文献6では、延伸後のフィルムの配向方向とオーブンの延伸、熱固定、冷却ゾーンの境界の成す角度を可能な限り一致させようという試みがなされているが、上記の問題を解決するに至っていない。
【特許文献3】特開2007−90532号公報
【特許文献4】特開2007−153926号公報
【特許文献5】特開2003−311823号公報
【特許文献6】特開2007−175974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、前記の事情に鑑み、光学特性のバラツキが少ない遅相軸が傾斜した延伸フィルムを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために検討した結果、テンターを用いた遅相軸が傾斜した延伸フィルムの製造方法において、延伸前の熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向の厚みムラ及び幅方向の厚みムラを特定の範囲とし、延伸後のフィルムの引取張力を一定の範囲に制御することにより、達成することを見出し、さらに検討を進め、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムを延伸後のフィルムの巻取り方向と異なる方向から繰出し、該フィルムの両端部を把持具によって把持して搬送しながら、予熱ゾーン、延伸ゾーン、及び冷却ゾーンを有するオーブンを通過させて、配向角θが該巻取り方向に対して40〜80°の範囲内となる長尺の延伸フィルムを製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムの、流れ方向の厚みムラσm及び幅方向の厚みムラσtが、
σm<0.30μm
σt<0.20μm
であり、
延伸後のフィルムの引取張力Tが、
100N/m<T<300N/mであり、
さらに上記Tの変動が±5%未満であることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
(2)前記製造方法により得られた延伸フィルム。
(3)偏光子の少なくとも片面に、前記延伸フィルムを積層してなる偏光板。
(4)前記偏光板を備える液晶表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る製造方法によれば、光学特性の均一性に優れた遅相軸が傾斜した延伸フィルムを容易に得ることができる。本発明に係る製造方法により得られた延伸フィルムは、液晶表示装置などの位相差板として、好適である。従来の如く長尺のフィルムの幅方向(TD方向)または長手方向(MD方向)に平行に配向軸を有するフィルムでは、貼合が1枚毎のバッチ式になり生産性が悪く、また廃棄部分も多かったが、長尺の遅相軸が傾斜した延伸フィルムを用いると偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ある特定の角度で配向軸を傾けて重ねる際に、他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる効率の良い重ね合わせが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムを延伸後のフィルムの巻取り方向と異なる方向から繰出し、該フィルムの両端部をテンター(延伸装置)の把持具によって把持して搬送しながら、予熱ゾーン、延伸ゾーン、及び冷却ゾーンを有するオーブンを通過させて、該巻取り方向に対して配向角θが40〜80°の範囲内となる長尺の延伸フィルムを製造する方法である。
【0010】
なお、ここで、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0011】
本発明に使用する熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、脂環式ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらのうち脂環式ポリオレフィン樹脂が好ましい。
脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び/または側鎖に脂環構造を有する非晶性の樹脂である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式ポリオレフィン樹脂を構成する脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0012】
脂環式ポリオレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0013】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0014】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。飽和吸水率の小さいフィルムを得るためには。極性基の量が少ない方が好ましく、極性基を持たない方がより好ましい。
【0016】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0017】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0018】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素化物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素化物は、これら開環(共)重合体又は付加(共)重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、水素を接触させて、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素化することによって得ることができる。
【0019】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学フィルムを得ることができる。
【0020】
本発明に好適に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常15,000〜50,000、好ましくは18,000〜45,000、より好ましくは20,000〜40,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成形性とが高度にバランスされ好適である。
【0021】
本発明に好適に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0022】
本発明に用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にある熱可塑性樹脂からなるフィルムは、高温下で変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0023】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折Δnを応力σで除算したものである。すなわち、C=Δn/σで表される値である。熱可塑性樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、延伸フィルムの面内方向リタデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0024】
長尺の熱可塑性樹脂フィルムとして、実質的に未配向の未延伸フィルム、または未延伸フィルムを流れ方向若しくは幅方向に延伸して配向させた延伸フィルムを用いることができる。
【0025】
前記未延伸フィルムは、公知の方法、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち押出成形法が残留揮発性成分量が少なく、寸法安定性にも優れるので好ましい。この未延伸フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法が好ましい。
【0026】
本発明の延伸に供される長尺の熱可塑性樹脂フィルムに配向を付与するためには、公知の延伸方法、例えばロール方式、フロート方式の縦延伸法、テンターを用いた横延伸法を用いることができるが、膜厚、光学特性の均一性を保つためにはフロート方式の縦延伸法が好適である。
【0027】
本発明では、延伸に供される長尺の熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向の厚みムラσmは、後述する延伸後のフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリタデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満である必要がある。σmが0.30μm以上となると延伸フィルムのリターデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
長尺の熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向の厚みムラσmを上記範囲とするためには、特開2004−233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により達成可能である。具体的には、1)溶融押出法で熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部又は最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;4)溶融押出法で熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
【0028】
本発明では、延伸に供される長尺の熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の厚みムラσtは、後述する延伸後のフィルムの引取張力を一定に保ち、光学特性を安定させる、または幅方向の光学特性のバラツキに強く影響を与えるという観点から、0.20μm未満、好ましくは0.15μm未満、さらに好ましくは0.10μm未満である必要がある。σtが0.20μm以上であると延伸フィルムのリターデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
【0029】
長尺の熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の厚みムラσtを上記範囲とするためには、特開2005−173072号公報に記載されているような、寸法精度の高いダイを用いることにより達成可能である。具体的には、ダイスリップのエッジ部及び樹脂ランド面に、深さ又は高さ0.3μm以上、かつ最大径40μm以上の凹部又は凸部が、リップ長1mあたり200個以下であるダイスリップを用いる方法が挙げられる。
【0030】
本発明の延伸フィルムの製造は、テンターを用いて行う。このテンターは、フィルムロール(繰出しロール)から繰り出されるフィルムを、オーブンによる加熱環境下で、その進行方向(フィルム幅方向の中点の移動方向)に対して斜め方向に拡幅する装置である。このテンターは、オーブンと、フィルムを搬送するための把持具が走行する左右で一対のレールと、該レール上を走行する多数の把持具とを備えている。フィルムロールから繰り出され、テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を、把持具で把持し、オーブン内にフィルムを導き、テンターの出口部で把持具からフィルムを開放する。把持具から開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具は、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0031】
なお、テンターのレール形状は、製造すべき延伸フィルムに与える配向角、延伸倍率等に応じて、左右で非対称な形状となっており、手動で又は自動で微調整できるようになっている。本発明においては、長尺の熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、配向角θが延伸後の巻取り方向に対して、40°〜80°の範囲内で、任意の角度に設定できるようになっている。本発明において、テンターの把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。
【0032】
図1は、本発明の製造方法に用いるテンターのレールの軌道(レールパターン)を示している。熱可塑性樹脂フィルムの繰出し方向D1は、延伸後のフィルムの巻取り方向(MD方向)D2と異なっており、これにより、比較的大きな配向角をもつ延伸フィルムにおいても広幅で均一な光学特性を得ることが可能となっている。繰出し角度θiは、延伸前のフィルムの繰出し方向D1と延伸後のフィルムの巻取り方向D2とのなす角度である。本発明においては、上述のように40°〜80°の配向角を持つフィルムを製造するため、繰出し角度θiは、10°<θi<60°、好ましくは15°<θi<50°で設定される。繰出し角度θiを前記範囲とすることにより、得られるフィルムの幅方向の光学特性のバラツキが良好となる(小さくなる)。
【0033】
フィルムロール(繰出しロール)から繰出された熱可塑性樹脂フィルムは、テンター入口(符号aの位置)において、その両端(両側)を左右の把持具によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。テンター入口(符号aの位置)で、フィルム進行方向(繰り出し方向D1)に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具CL,CRは、左右非対称なレール上を走行し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンを有するオーブンを通過する。ここで、略垂直とは、前述の向かい合う把持具CL,CR同士を結んだ直線とフィルム繰出し方向D1とがなす角度が、90±1°以内にあることを示す。
【0034】
予熱ゾーンとは、オーブン入口部において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、再び一定となるまでの区間をさす。また、冷却ゾーンとは、延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間をさす。
【0035】
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg+5〜Tg+20℃、延伸ゾーンの温度はTg〜Tg+20℃、冷却ゾーンの温度はTg−30〜Tg℃に設定することが好ましい。
【0036】
本発明の延伸工程における延伸倍率R(W/W0)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると幅方向厚みムラが小さくなるので好ましい。テンター延伸機の延伸ゾーンにおいて、幅方向で延伸温度に差を付けると幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、W0は延伸前のフィルムの幅、Wは延伸後のフィルムの幅をあらわす。
【0037】
本発明において、延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整する必要がある。前記引取張力が100N/m以下ではフィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向軸の幅方向のプロファイルも悪化する。逆に引取張力が300N/m以上となると幅方向の配向角のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。
また、本発明においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御する必要がある。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向及び流れ方向の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、テンター出口部の最初のロールにかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値を一定とするように、一般的なPID制御方式により引取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。前記荷重を測定する方法としては、ロールの軸受部にロードセルを取り付け、ロールに加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
【0038】
延伸後のフィルムは、把持具による把持が開放され、テンター出口から排出され、フィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取りロール)に巻き取られて、延伸フィルムの巻回体にすることができる。
【0039】
本発明の製造方法により得られた延伸フィルム(以下、「本発明の延伸フィルム」ということがある。)は、配向角θが巻取り方向に対して40°〜80°の範囲に傾斜しており、少なくとが1300mmの幅において、幅方向の、面内リタデーションReのバラツキが4nm以下、配向角θのバラツキが1.0°以下である。
【0040】
本発明の延伸フィルムの面内リタデーションReのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、4nm以下、好ましくは3nm以下である。面内リタデーションReのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0041】
本発明の延伸フィルムの配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、1.0°以下、好ましくは0.80°以下である。配向角θのバラツキが1.0°を超える延伸フィルムを偏光板と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させることがある。
【0042】
本発明の延伸フィルムの面内方向リタデーション(Re)は、100〜300nm程度であるが、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内で最適値が選択される。なお、前記Reは、面内遅相軸方向の屈折率nと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Re=(n−n)×d)である。
【0043】
本発明の延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜60μm、特に好ましくは30〜40μmである。
また、幅方向の厚みムラは、巻取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明の延伸フィルムの残留揮発性成分の含有量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が多いと経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、面内方向リタデーションReや厚さ方向リタデーションRth(=((n+n)/2−n)×d;nは面内遅相軸方向の屈折率;nは面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率;nは厚さ方向の屈折率;dはフィルムの平均厚さ)の経時変化を小さくすることができ、さらに本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
なお、揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0045】
本発明の延伸フィルムの飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、ReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
飽和吸水率は、フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、増加した質量の、浸漬前フィルム試験片の質量に対する百分率で表される値である。
【0046】
本発明の延伸フィルムは、上記の製造方法によって容易に得ることが可能であり、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。
【0047】
本発明の偏光板は、本発明の延伸フィルムと偏光子とを積層してなる。
偏光子には、ポリピニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光子の厚さは、5〜80μmが一般的であるがこれに限定されない。
【0048】
積層形態としては、本発明の延伸フィルムを偏光子の両面に積層させても、片面に積層させてもよく、また積層数に特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。また、積層手法としては、必須手法ではないが、接着剤を用いて積層させることができる。従来、偏光子は、その片面又は両面に保護フィルムが積層されていたが、本発明の延伸フィルムを積層することによって、本発明の延伸フィルムが偏光子の保護フィルムの役目も兼ねることになる。このように延伸フィルムを直接偏光子に積層すると、従来使用していた保護フィルム1枚を省くことができ、液晶表示装置の薄型化に寄与する。
【0049】
本発明の延伸フィルムと、偏光子又は他の部材とを積層させる際、延伸フィルムの片面又は両面に表面改質処理を施してもよい。表面改質処理を行うことにより、他の層(例えば、偏光子や接着層)の密着性を向上させることができる。表面改質処理としては、エネルギー線照射処理や薬品処理等が挙げられる。
【0050】
エネルギー線照射処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。薬品処理としては、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に、浸漬し、その後充分に水で洗浄すればよい。浸漬した状態で振盪すると効果的であるが、長期間処理すると表面が溶解したり、透明性が低下したりするといった問題があり、用いる薬品の反応性、濃度等に応じて、処理時間等を調整する必要がある。
【0051】
本発明の偏光板では、延伸フィルムと偏光子との間に本発明の特性を損なわない範囲で他の部材を介在させることもできる。介在させる他の部材として、例えば、偏光子を保護するための保護フィルムが挙げられる。保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂からなるフィルムが好ましい。保護フィルムを形成する樹脂としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート樹脂;脂環式ポリオレフィン樹脂;鎖状ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等があげられる。
【0052】
本発明の液晶表示装置は、前記偏光板を備えてなる。
液晶表示装置に備わっている液晶セルの表示モードは特に制限されず、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。
【0053】
本発明の液晶表示装置には他の部材を備えていてもよい。例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトや輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。バックライトとしては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【実施例】
【0054】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)延伸前の熱可塑性樹脂フィルムの厚みムラ
延伸前の熱可塑性樹脂フィルムの製造ラインにおいて、赤外線式厚み計(クラボウ社製、RX−100)を用いて、幅方向5mmピッチのトラバース測定を行い、各々の位置については流れ方向に5m間隔で100点のデータを得た。得られたデータについて各位置の流れ方向100点の平均値A、標準偏差σを算出し、それらの値を用いて以下に従って流れ方向の厚みムラσm、幅方向の厚みムラσtを算出した。
σm:各位置の流れ方向の標準偏差σの平均値
σt:各位置の厚み平均値Aの標準偏差σ
なお、評価幅は製品幅(本実施例では1340mm)から逆算して、延伸後に製品となる部分のみについて算出した。
(2)引取張力Tとその変動
テンター出口の最初のロールの軸受部に圧縮型ロードセルを設置し、測定間隔100mmで流れ方向500mについてロールに加わる荷重を検出した。検出した荷重(N)をフィルム幅(m)で除して引取張力(N/m)を算出し、全データを平均値を引取張力T(N/m)とした。また、全データと引取張力Tの差の最大値Δ(N/m)を求め、100×Δ/T(%)を引取張力Tの変動とした。
(3)配向角θ
偏光顕微鏡(オリンパス社製、偏光顕微鏡BX51)を用いて、フィルム流れ方向5m毎に10箇所について幅方向にフィルムの50mmの間隔で測定を行い、全データの平均値を配向角θとした。また、幅方向の全測定値の最大値−最小値の値をバラツキとした。
(4)面内方向リタデーションRe
位相差測定装置(王子計測社製、KOBRA−21ADH)を用いて、フィルム流れ方向5m毎にが幅方向にフィルムの50mmの間隔でReの測定を行い、全データの平均値を面内方向リタデーションReとした。また、幅方向の全測定値の最大値−最小値の値をバラツキとして評価した。
【0055】
(実施例1)
ノルボルネン系樹脂(ZEONOR1420:ガラス転移点=137℃、日本ゼオン社製)のペレットを100℃で5時間乾燥した。該ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイから冷却ドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み100μm、幅1100mmの未延伸フィルム1を得た。なお、その際、Tダイとして、ダイスリップエッジ部及び樹脂ランド面における深さ又は高さ0.3μm以上,かつ最大径40μm以上の凹部又は凸部の個数の合計5個、ダイスリップエッジのRが0.001mm、ダイスリップの表面粗さRaで0.01±0.005μm、剥離強度が15Nのダイスを用いた。また、溶融状態のノルボルネン系樹脂の冷却ドラムへのキャストは、Tダイから冷却ドラムまでを圧力容器に入れ、30kPa以下の圧力下で行った。得られた未延伸フィルム1の流れ方向の厚みムラσmは0.15μm、幅方向の厚みムラσtは0.15μmであった。
【0056】
この未延伸フィルムを、繰出角度θi=47°となるようにレールパターンが設定されたテンターに供給し、延伸温度145℃、延伸倍率2.0倍で、テンター出口における引取張力200N/m、配向角θが45°となるように斜め方向に延伸を行った。延伸後のフィルムは、第一ロールで測定した張力の変動を引取モーター回転数に反映させるフィードバック制御を行って、引取張力の変動が3%未満となるように制御した。その後、フィルム両端250mmをトリミングして、1340mm幅の長尺延伸フィルム1の巻回体を得た。得られた長尺延伸フィルム1は上記幅方向に対し均一なものであった。得られた延伸フィルム1の光学特性(配向角(θ)、配向角のバラツキ、面内リタデーション(Re)、面内リタデーションのバラツキを表1に示す。得られた延伸フィルム1の光学特性は、表1に示すとおり、良好であった。
【0057】
次に、透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2−5618S、厚さ180μm)と、前記長尺延伸フィルム1の巻回体を、ロール・トゥ・ロール方式で貼り合わせて、幅1340mmの偏光板の巻回体を得た。この巻回体から切り出した偏光板を、市販のVA(バーティカルアライメント)モードの半透過型液晶表示装置の上下偏光板と置き換え、前記偏光板の延伸フィルムを貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように、かつ上下に配置された延伸フィルムの遅相軸が互いに直交するように組み込んだ。得られた液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅に渡り色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1において、未延伸フィルムの製造条件として、Tダイの開口部から押し出されたシート状のノルボルネン系樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでをアルミ製の囲い部材で覆い、かつ前記囲い部材からシート状の溶融樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでの距離を50mmとした他は、実施例1と同様にして未延伸フィルム2を製造した。得られた未延伸フィルム2の流れ方向の厚みムラσmは0.15μm、幅方向の厚みムラσtは0.10μmであった。
実施例1において、未延伸フィルム1のかわりに、未延伸フィルム2を用いた他は、実施例1と同様にして延伸フィルム2を得た。得られた延伸フィルム2の光学特性は、表1に示すとおり、良好であった。また、この延伸フィルム2を用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、実施例1と同様、良好な表示であった。
【0059】
(実施例3)
実施例1において、未延伸フィルムの製造条件として、Tダイの開口部から押し出されたシート状のノルボルネン系樹脂の近傍を加温するためにTダイの開口部にカートリッジヒーターを設け、押し出されたシート状のノルボルネン系樹脂から10mm以内の雰囲気温度が200℃となるように加温した他は、実施例1と同様にして未延伸フィルム3を製造した。得られた未延伸フィルム3の流れ方向の厚みムラσmは0.25μm、幅方向の厚みムラσtは0.10μmであった。
実施例1において、未延伸フィルム1のかわりに、未延伸フィルム3を用いた他は、実施例1と同様にして延伸フィルム3を得た。得られた延伸フィルム3の光学特性は、配向角のバラツキが実施例1や実施例2と比べると大きくなったが、それ以外は表1に示すとおり、良好であった。また、この延伸フィルム3を用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、実施例1と同様、良好な表示であった。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、未延伸フィルムの製造条件として、実施例1における圧力容器内の圧力を大気圧とした他は実施例1と同様にして未延伸フィルム4を得た。得られた未延伸フィルム4の流れ方向の厚みムラσmは0.32μm、幅方向の厚みムラσtは0.15μmであった。
実施例1において、未延伸フィルム1のかわりに、未延伸フィルム4を用い、引取張力の変動を4%未満となるように制御した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム4を得た。得られた延伸フィルム4の光学特性は、表1に示すとおり、Reのバラツキや配向角のバラツキが大きくなった。また、この延伸フィルム4を用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、色むらが観察された。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、未延伸フィルムを得る際の条件として、ダイスリップ部表面粗さをRa=0.10±0.01μmとした他は実施例1と同様にして未延伸フィルム5を得た。得られた未延伸フィルム5の流れ方向の厚みムラσmは0.15μm、幅方向の厚みムラσtは0.22μmであった。
実施例1において、未延伸フィルム1のかわりに、未延伸フィルム5を用い、引取張力の変動を4%未満となるように制御した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム5を得た。得られた延伸フィルム5の光学特性は、表1に示すとおり、Reのバラツキや配向角のバラツキが大きくなった。また、この延伸フィルム5を用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、色むらが観察された。
【0062】
(比較例3)
実施例1において、引取張力を350N/m、その変動を4%未満となるように制御した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム6を得た。得られた延伸フィルム6の光学特性は、表1に示すとおり、配向角のバラツキが大きくなった。また、この延伸フィルム6を用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、色むらが観察された。
【0063】
(比較例4)
実施例1において、引取張力を80N/m、その変動を4%未満となるように制御した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム7を得た。得られた延伸フィルム7の光学特性は、表1に示すとおり、配向角のバラツキが大きくなった。また、この延伸フィルムを用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、色むらが観察された。
【0064】
(比較例5)
実施例1において、引取張力の変動を6%未満となるように制御した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム8を得た。得られた延伸フィルム8の光学特性は、表1に示すとおり、配向角のバラツキが大きくなった。また、この延伸フィルムを用いて、実施例1と同様にして偏光板及び半透過液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置の表示特性は、色むらが観察された。
【0065】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の製造方法に用いる延伸用のテンターのレール配置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
D1・・・繰出し方向
D2・・・巻取り方向
θi・・・繰出し角度(繰出し方向と巻取り方向のなす角度)
CR,CL・・・把持具
W0・・・延伸前のフィルムの幅
W・・・延伸後のフィルムの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムを、延伸後のフィルムの巻取り方向と異なる方向から繰出し、該フィルムの両端部を把持具によって把持して搬送しながら、予熱ゾーン、延伸ゾーン、及び冷却ゾーンを有するオーブンを通過させて、配向角θが該巻取り方向に対して40〜80°の範囲内となる長尺の延伸フィルムを製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムの、流れ方向の厚みムラσm及び幅方向の厚みムラσtが、
σm<0.30μm
σt<0.20μm
であり、
延伸後のフィルムの引取張力Tが、
100N/m<T<300N/mであり、
さらに上記Tの変動が5%未満であることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られた延伸フィルム。
【請求項3】
偏光子の少なくとも片面に、請求項2に記載の延伸フィルムを積層してなる偏光板。
【請求項4】
請求項3記載の偏光板を備える液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−214441(P2009−214441A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61034(P2008−61034)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】