説明

延伸フィルムの製造方法及び円偏光板の製造方法

【課題】幅方向の厚みムラや配向方向のバラツキが無く、光学特性に優れ、巻取方向に対し所定の角度の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムをその進行方向と直角な方向に延伸して、配向角θ1が幅方向に対して0°≦θ1≦1°であり、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある第一延伸フィルムを得る工程と、第一延伸フィルムを巻取方向に対して角度θが10°<θ<60°の方向で繰り出しながら、1.0≦R2/R1≦2.0…(1)、0°≦θo≦θi≦6°…(2)、4°≦θo(max)+θi(max)≦7°…(3)の各条件を満たすようにテンター内で再延伸することにより、配向角θ2が前記巻取方向に対して40°<θ2<50°の範囲の第二延伸フィルムを得る工程とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法及び円偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、性能向上のために様々な位相差フィルムが使用されている。この位相差フィルムは、その機能を十分に発揮するように、偏光子の偏光透過軸や、液晶セルの偏光透過軸などと、特定の種々の角度に遅相軸が傾くように、液晶表示装置に据え付けられる。その遅相軸の傾き角度は、表示装置の側辺に平行でも、垂直でもない角度となっている。ところで、上記のような、側辺に平行でも、垂直でもない角度に配向した位相差フィルムを得る方法としては、透明な樹脂フィルムを、縦延伸又は横延伸により配向させて長尺の延伸フィルムを得た後、その延伸フィルムの側辺に対して所定の角度で、方形状に裁断する方法が広く知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、延伸フィルムの利用効率が低いという問題があった。一方、所定の角度で斜めに配向された長尺の延伸フィルムでは、側辺に対して平行に切り取ることができ、延伸フィルムの利用効率が高くなる。このような斜めに配向軸が配向したフィルムを延伸によって得る方法が、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、連続的に供給されるポリマーフィルムの両端を保持手段により保持し、該保持手段をフィルムの長手方向に進行させつつ張力を付与して延伸する光学用ポリマーフィルムの延伸方法が開示されている。この方法は、ポリマーフィルムの一方端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L1及びポリマーフィルムのもう一端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L2と、二つの実質的な保持解除点の距離Wが、|L2−L1|>0.4Wの関係を満たし、かつポリマーフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5%以上の状態を存在させて延伸したのち、収縮させながら揮発分率を低下させるようにしたものである。
【0004】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂からなる長尺状フィルムを延伸することにより得られ、光軸(配向軸)が長尺状フィルムの巻取方向に平行でも垂直でもない方向とされている長尺状光学フィルムの製造方法が開示されている。この方法、前記フィルムが実質的に延伸される領域内において、対向しているフィルムの幅方向両端の移動速度の大きさが等しくかつ移動距離が異なり、フィルムの幅方向両端を保持する一対の治具の内、少なくとも一方がフィルム面に対して波打った形状のレール上を移動されるように延伸を行うものである。さらに特許文献2ではこの延伸工程を数回繰り返したり、予め縦方向又は横方向に延伸した後、この延伸工程を行ってもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−86554号公報
【特許文献2】特開2003−232928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの斜め延伸方法では斜めに皺や撚りが生じ、厚みムラが発生しやすい。そのために幅方向の厚みが均一で、巻取方向に特に40°以上傾いた配向角でバラツキ無く均一に配向した、例えば、貼り合わせる偏光子の最低幅である1300mm以上の広幅なフィルムを得ることが実質的に不可能であった。そのために配向軸が斜め(フィルムの幅方向や長手方向から大きく外れた方向)になった、長尺で広幅の光学フィルムを工業的に大量生産することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、前記の事情に鑑み、幅方向の厚みムラや配向方向のバラつきが無く、光学特性に優れ、巻取方向に対し所定の角度の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために検討した結果、熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムを幅方向(フィルムの進行方向と直角な方向)に延伸して、配向角θ1が幅方向に対し、小さい角度範囲にあり、かつ複屈折Δnが特定の範囲にある第一延伸フィルムを得、この第一延伸フィルムを巻取方向に対して特定の角度で繰り出すとともに、フィルムの延伸倍率及びフィルム両端縁の軌道を所定の範囲内に設定することにより、幅方向の厚みムラや配向角のバラつきが非常に小さく、光学特性に優れ、巻取方向に対して比較的大きな角度で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムが得られることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の第1の観点によると、熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムを該未延伸フィルムの進行方向と直角な方向に延伸して、配向角θ1が幅方向に対し−1°≦θ1≦1°であり、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある第一延伸フィルムを得る工程と、前記第一延伸フィルムを巻取方向に対して角度θが10°<θ<60°の方向で繰り出しながら、下記式(1)、(2)、(3)の条件を満たすようにテンター内で再延伸することにより、配向角θ2が前記巻取方向に対して40°<θ2<50°の範囲の第二延伸フィルムを得る工程とを含み、前記第二延伸フィルムを得る工程で用いる前記テンターは、フィルムの進行方向が繰出方向に対して略平行である前半ゾーンと、フィルムの進行方向が巻取方向に対して略平行となる後半ゾーンと、該前半ゾーンと該後半ゾーンの間に配置される中盤ゾーンとを備え、該後半ゾーンにおける内側レール及び外側レールの軌道の開きが一様である長尺の延伸フィルムの製造方法が提供される。
【0010】
1.0≦R2/R1≦2.0 …(1)
0°≦θo≦θi≦6° …(2)
4°≦θo(max)+θi(max)≦7° …(3)
上記式(1)、(2)、(3)において、R1は前記第一延伸フィルムの延伸倍率、R2は前記第二延伸フィルムの延伸倍率である。また、θoは前記第二延伸フィルムの進行方向が前記巻取方向に対して略平行となる後半ゾーンにおける前記第二延伸フィルムの外側端縁の軌道と前記巻取方向とのなす角度、θiは前記後半ゾーンにおける前記第二延伸フィルムの内側端縁の軌道と前記巻取方向とのなす角度、θo(max)は前記θoの最大値、θi(max)は前記θiの最大値である。ここで、θo、θi、θo(max)、θi(max)は前記外側端縁の軌道及び前記内側端縁の軌道が互いに離間する方向を正、近接する方向を負としている。また、「フィルムの進行方向が巻取方向に対して略平行となる後半ゾーン」とは、フィルムの進行方向が巻取方向に対して約3.5°以内となるゾーンをいう。
【0011】
本発明の第1の観点に係る長尺の延伸フィルムの製造方法において、前記熱可塑性樹脂として、ノルボルネン樹脂を用いることができる。
【0012】
本発明の第2の観点によると、上述した本発明の第1の観点に係る延伸フィルムの製造方法により長尺の延伸フィルムを得る工程と、該長尺の延伸フィルムと長尺の偏光子とを積層する工程とを有する長尺の円偏光板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、幅方向の厚みが均一で光学特性に優れ、巻取方向に対して40°〜50°の方向に配向軸が均一に配向した、広幅な長尺の延伸フィルムを容易に得ることができる。本発明の製造方法により製造される長尺の延伸フィルムは、長手方向又は幅方向に平行にトリミングできるので、フィルムの廃棄部分が少なく、生産性に優れている。
【0014】
また、本発明の製造方法により製造される、斜めに配向軸が配向した長尺の延伸フィルムは、液晶表示装置などの位相差板として、好適である。具体的には、偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ある特定の角度で配向軸を傾けて重ねる際に、長手方向に対して斜めに配向軸を有する延伸フィルムを用いれば、他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる重ね合わせができる。また、本発明の円偏光板は、液晶表示装置、特に反射型の液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、表示画面のコントラストの低下や着色を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の第二延伸工程で用いた斜め延伸用のテンターのレール配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る長尺の延伸フィルムの製造方法について詳細に説明する。この製法方法は、熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムを、幅方向(該未延伸フィルムの進行方向と直角な方向)に延伸して、配向角θ1が幅方向に対して−1°≦θ1≦1°以内であり、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある第一延伸フィルムを得る第一延伸工程と、前記第一延伸フィルムを巻取方向に対して角度θが10°<θ<60°の方向で繰り出しながら、所定の条件を満たすようにテンター内で再延伸することにより、配向角θ2が前記巻取方向に対して40°<θ2<50°の範囲の第二延伸フィルムを得る第二延伸工程とを備えて構成される。
【0017】
なお、本願明細書において、長尺とは、フィルム又は積層体の幅方向に対して、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0018】
本実施形態では、延伸フィルムの素材として、熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂としては、透明樹脂であれば特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、脂環式オレフィンポリマーなどが挙げられる。これらの中でも固有複屈折値が正である樹脂が好ましく、脂環式オレフィンポリマーがより好ましい。
【0019】
脂環式オレフィンポリマーとしては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等を挙げることができる。
【0020】
脂環式オレフィンポリマーをより具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマーは、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0021】
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィンポリマー中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の延伸フィルムにより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性及び耐熱性が向上するので好ましい。
【0022】
脂環式オレフィンポリマーとしては、ノルボルネン樹脂、単環の環状オレフィン樹脂、環状共役ジエン樹脂、ビニル脂環式炭化水素樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0023】
ノルボルネン樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、及び軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0024】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、及び極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、及びスルホン基などが挙げられる。
【0026】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、及びシクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類やその誘導体;並びにシクロヘキサジエン、及びシクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンやその誘導体;などが挙げられる。
【0027】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、及び1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンやこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、及びシクロヘキセンなどのシクロオレフィンやこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、及び5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0029】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0030】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及びノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0031】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料を、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0032】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(熱可塑性樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料の機械的強度及び成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0033】
熱可塑性樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0034】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料を、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
【0035】
また、熱可塑性樹脂の光弾性係数の絶対値は、好ましくは10×10−12Pa−1以下、より好ましくは7×10−12Pa−1以下、特に好ましくは4×10−12Pa−1以下である。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。光弾性係数がこのような範囲にある透明樹脂を用いると、延伸フィルムの面内リターデーションReのバラツキを小さくすることができる。さらにこのような延伸フィルムを液晶表示装置に適用した場合に、液晶表示装置の表示画面の端部の色相が変化する現象を抑えることができる。
【0036】
熱可塑性樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。前記配合剤の配合量は、特に制限されず、熱可塑性樹脂中0〜5重量%である。
【0037】
本実施形態における第1延伸工程は、上述したような熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムを、幅方向(該未延伸フィルムの進行方向と直角な方向)に延伸して、配向角θ1が幅方向に対して0°≦θ1≦1°以内であり、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある第一延伸フィルムを得る工程である。
【0038】
長尺の未延伸フィルムは、公知の方法、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち押出成形法が残留揮発性成分量が少なく、寸法安定性にも優れるので好ましい。この未延伸フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、フィルムラミネーション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法が好ましい。延伸後の光学特性を均一にするため未延伸フィルムの厚みムラは極力小さくする必要があり、最大値−最小値の値で3μm以下、好ましくは2μm以下が好ましい。この実施形態では、未延伸フィルムとして、ロール状に巻回されたフィルムロールを用いる。
【0039】
第一延伸工程は、横延伸用のテンター(フィルム延伸装置)を用いて行われる。横延伸用のテンターは、フィルムロールから繰り出されるフィルムを、オーブンによる加熱環境下で、その進行方向(フィルム幅方向の中点の移動方向)に対して直交する横方向に拡幅する装置であり、フィルムの繰出方向と巻取方向は実質的に一致している。テンターは、オーブンと、フィルムを搬送するための把持クリップが走行する左右で一対のレールと該レール上を一定間隔で走行する多数の把持クリップとを備えている。把持クリップは、フィルムロールから繰り出され、テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を把持し、オーブン内にフィルムを導き、テンターの出口部でフィルムを開放する。把持クリップから開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持クリップは、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0040】
フィルムは、オーブン内を通過している間に、把持クリップからの横方向への張力によって延伸される。オーブン内の温度は、通常、一定に保たれている。オーブン内の温度は、適宜選択できるが、通常、135〜155℃である。把持クリップは、配置の変形が可能なレール上を走行する。レールは、フィルムが所望の延伸倍率で延伸されるように、配置される。ここでは、テンターは横延伸用であるので、左右のレールは、相対する部分が徐々に拡幅されるようになっている。
【0041】
第一延伸工程における延伸倍率R1は、好ましくは1.1〜2.0、より好ましくは1.2〜1.8である。延伸倍率がこの範囲にあると、第一延伸フィルムの幅方向の厚みムラ、配向角のバラツキを抑えることができる。なお、第一延伸工程における延伸倍率は、幅方向の長さ変化量から求めることができる。具体的には、未延伸フィルムの幅をW0、第一延伸工程後の第一延伸フィルムの幅をW1とすると、延伸倍率R1はW1/W0により求めることができる。
【0042】
第一延伸工程における延伸温度は、未延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対し、Tg(℃)以上Tg+30(℃)以下の範囲から適宜選択される。前記延伸温度がTg(℃)未満では成形性が不足しクレーズ等の欠陥を生じることがあり、逆にTg+30(℃)を超えるとフロー延伸となり有効な大きさの複屈折Δnを得ることができないことがある。
【0043】
第一延伸工程によって得られる第一延伸フィルムは、配向角θ1が幅方向に対して−1°≦θ1≦1°、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある。配向角θ1は、フィルムの巻取方向と配向軸とで形成される角度のうち、小さい方の角度をいうものとする。複屈折Δnは遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をnyとすると、Δn=nx−nyで求めることができる。前記nx、nyは公知の位相差計で測定できる
【0044】
第一延伸フィルムの配向角θ1及び複屈折Δnを上記範囲にするためには、走行方向にはたらくオーブン出口での引っぱり張力を調整したり、延伸後からテンター出口までの温度をフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下となるような温度分布を設けたりすることにより達成可能である。
【0045】
なお、第一延伸フィルムは、ここでは、巻芯に巻き取り、巻回体にしてから次の第二延伸工程に供給するものとするが、巻芯に巻き取らずに次の第二延伸工程に順次供給するようにしてもよい。
【0046】
上述した第一延伸工程を経て得られた第一延伸フィルムは、次の第二延伸工程に供給される。第二延伸工程は、第一延伸フィルムを巻取方向に対して角度θが10°<θ<60°の方向で繰り出しながら、所定の条件式を満たすように、斜め延伸用のテンター内で再延伸することにより、配向角θ2が前記巻取方向に対して40°<θ2<50°の範囲の第二延伸フィルムを得る工程である。
【0047】
この第二延伸工程は、斜め延伸用のテンター(フィルム延伸装置)を用いて行われる。斜め延伸用のテンターは、フィルムロールから繰り出されるフィルムを、オーブンによる加熱環境下で、その進行方向(フィルム幅方向の中点の移動方向)に対して斜め方向に拡幅する装置である。この斜め延伸用のテンターは、上述した第一延伸工程で用いられる横延伸用のテンターと同様に、オーブンと、フィルムを搬送するための把持クリップが走行する左右で一対のレールと、該レール上を一定間隔で走行する多数の把持クリップとを備えている。把持クリップは、フィルムロールから繰り出され、テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を把持し、オーブン内にフィルムを導き、テンターの出口部でフィルムを開放する。把持クリップから開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持クリップは、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0048】
第二延伸工程で用いられる斜め延伸用のテンターは、一対のレールが例えば図1に示されるように順次曲げられており、フィルムの繰出方向D1と巻取方向D2は角度θをもって斜交している点が、第一延伸工程で用いられる横延伸用のテンターと相違する。この角度θは、製造される延伸フィルムが用いられる液晶パネル等の表示装置の設計に合わせて、10〜60度の範囲から適宜選択される。なお、レールの形状は、任意に変更できるようになっている。
【0049】
この第二延伸工程における延伸倍率、すなわち第二延伸工程を経て得られる第二延伸フィルムの延伸倍率R2は、第一延伸工程における延伸倍率、すなわち上述した第一延伸工程を経て得られる第一延伸フィルムの延伸倍率をR1として、下記の式(1)を満たすように設定される。延伸倍率を式(1)のような関係に設定することにより、配向性が良好で、光学特性等の物性が安定した延伸フィルムを得ることができる。
【0050】
1.0≦R2/R1≦2.0 …(1)
また、斜め延伸用のテンターの一対のレールの軌道は、下記の式(2)及び式(3)を
満たすように設定される。
【0051】
0°≦θo≦θi≦6° …(2)
4°≦θo(max)+θi(max)≦7° …(3)
式(2)において、θoは第二延伸フィルムの進行方向が巻取方向D2に対して略平行となる後半ゾーンにおける第二延伸フィルムの外側端縁(すなわち、外側レール)の軌道と巻取方向D2とのなす角度であり、θiは該後半ゾーンにおける第二延伸フィルムの内側端縁(すなわち、内側レール)の軌道と巻取方向D2とのなす角度である。なお、図1において、Roは一対のレールの内の一方である外側レールの軌道を、Riは一対のレールの内の他方である内側レールの軌道を示している。ここで、外側とは、軌道を概略円弧として考えた場合に、軌道の曲率が小さい側(半径が大きい側)をいい、内側とは軌道の曲率が大きい側(半径が小さい側)をいう。後半ゾーンとは、フィルムの進行方向が巻取方向D2に対して略平行となるゾーンであり、具体的には巻取方向D2に対して3.5°以内にあるゾーンをいう。図1において、符号LZで示される部分が後半ゾーンである。なお、図1において、FZは前半ゾーン、MZは中盤ゾーンである。
【0052】
式(3)において、θo(max)はθoの最大値、θi(max)はθiの最大値である。式(2)及び式(3)において、θo、θi、θo(max)、θi(max)は、図1に示されるように、外側レールRoの軌道及び内側レールRiの軌道が互いに離間する方向を正、近接する方向を負としている。このように、外側レールRo及び内側レールRiを式(2)及び式(3)を満たす関係に設定することにより、フィルムの膜厚、配向角、Nz係数等の均一性を向上することができる。
【0053】
第二延伸工程における延伸倍率R2は、上述したように、第一延伸工程における延伸倍率R1との関係で、式(1)を満たすように設定されるが、好ましくは1.3〜2.0、より好ましくは1.5〜1.8である。延伸倍率R2がこの範囲にあると幅方向の厚みムラを小さくすることができる。なお、第二延伸工程における延伸倍率R2は、幅方向の長さ変化量から求めることができる。具体的には、第二延伸工程前の第一延伸フィルムの幅をW1、第二延伸工程後の第二延伸フィルムの幅をW2とすると、延伸倍率R2はW2/W1により求めることができる。
【0054】
第二延伸工程に用いる斜め延伸用のテンターが備えるオーブンは、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンを有しており、これらの内部を順次フィルムが通過している間に、把持クリップからの張力によって斜め延伸される。予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンは、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。各ゾーンの温度は適宜選択できるが、フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、予熱ゾーンはTg〜Tg+30(℃)、延伸ゾーンはTg〜Tg+20(℃)、固定ゾーンはTg〜Tg+15(℃)である。
【0055】
フィルム幅方向の厚みムラの制御のために、延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。特に把持クリップ付近の温度をフィルム中央部よりも高めにすることが好ましい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風をオーブン内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100〜150%、固定ゾーンの長さが通常50〜100%である。
【0056】
予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目および延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目には、フィルムが通過できるスリットを有する仕切板が設置されている。予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目および延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目、すなわち、仕切板は、固定ゾーンのフィルムの進行方向に対して直角になっていることが好ましい。
【0057】
予熱ゾーンは、予熱ゾーンのフィルムの進行方向に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを温めながらフィルムを搬送するゾーンである。予熱ゾーンのフィルム進行方向は、フィルムの繰出方向に平行な方向であり、通常、繰出ロールの回転軸と直交している。
【0058】
延伸ゾーンは、延伸ゾーンのフィルム進行方向に直角な方向のフィルム長さを大きくしながらフィルムを搬送するゾーンである。 固定ゾーンは、固定ゾーンのフィルム進行方向に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを冷ましながら搬送するゾーンである。固定ゾーンのフィルム進行方向は、フィルムの巻取方向に平行な方向であり、通常、巻取ロールの回転軸と直交している。
【0059】
把持クリップの走行速度は適宜選択できるが、通常、10〜100m/分である。左右一対の把持クリップの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。
【0060】
延伸ゾーンは、フィルム進行方向が変化せずに直線状になっていてもよいし、段階的又は連続的にフィルム進行方向が変化していてもよい。レールの開き角度は、上述の式(2)及び式(3)を満たすように、延伸倍率に応じて適宜設定される。
【0061】
固定ゾーンの進行方向(フィルム巻取方向D2)は、図1に示すようにθの角度で予熱ゾーンの進行方向(フィルム繰出方向D1)から傾いている。このために、図中の外側把持クリップは内側把持クリップよりも遠回りすることになる。従って、テンターの出口部において、フィルム幅方向から見たときに、内側把持クリップは、これに対応する外側把持クリップよりも先の位置に進んでいることになり、これにより斜め延伸が行われる。
【0062】
以上のようにして、オーブン内を通過した延伸フィルムは、巻取ロールの手前で把持クリップから開放され、巻取ロールに巻き取られる。また、必要に応じて、巻取ロールに巻き取る前に、テンターの把持クリップで把持されていたフィルムの両端をトリミングしてもよい。また、巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどがあげられる。
【0063】
上述した第一及び第二延伸工程を経ることにより、配向角θ2が巻取方向D2に対し40°<θ2<50°の範囲にあり、幅方向の少なくとも1300mmにおいて配向角θ2のバラツキが1.0°以下であり、Nz係数が1.0〜2.0の範囲にあり、幅方向の少なくとも1300mmにおいてNz係数のバラツキが0.10以下である長尺の延伸フィルムを製造することができる。
【0064】
本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムの面内方向のリターデーションReは、100〜300nm程度であるが、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内で最適値が選択される。なお、前記面内方向のリターデーションReは、面内の遅相軸方向の屈折率nと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Re=(n−n)×d)である。
【0065】
延伸フィルムの面内方向のリターデーションReのバラツキは、好ましくは10nm以内、より好ましくは5nm以内、特に好ましくは2nm以内である。前記面内方向のリターデーションReのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。なお、前記面内方向リターデーションReは、市販の位相差測定装置を用いて、光入射角0°(入射光線と延伸フィルム表面が直交する状態)で、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値を面内方向リターデーションReとする。また、面内方向のリターデーションReのバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値である。
【0066】
本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムは、その配向角θ2がフィルムの巻取方向を0°としたときに、40°〜50°の範囲内にあり、上記面内方向のリターデーション値と同様、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択される。この延伸フィルムは、配向角θ2のバラツキが、幅方向の少なくとも1300mmにおいて1.0°以下であり、好ましくは0.8°以下である。配向角θ2のバラツキが1.0°を超える延伸フィルムを、偏光板と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させてしまうことがある。なお、配向角θ2は、市販の偏光顕微鏡を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値とする。また、配向角θ2のバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0067】
本実施形態の製造方法により製造される延伸フィルムは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をn、フィルム面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率をn、フィルムの厚み方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表されるNz係数が1.0〜2.0の範囲、好ましくは1.3〜2.0、より好ましくは1.4〜2.0の範囲にある。用いられる液晶表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択される。この延伸フィルムは、Nz係数のバラツキが、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、0.1以下、好ましくは0.08以下である。Nz係数のバラツキが0.1を超えると、これを液晶表示装置に組み込むと、色ムラなどの表示品位低下の原因となる。なお、Nz係数は、市販の位相差測定装置を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値をNz係数とする。また、Nz係数のバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0068】
本実施形態により製造される延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜80μm、さらに好ましくは30〜60μm、特に好ましくは30〜50μmである。また、延伸フィルムの幅方向の厚みムラは巻き取りの可否に影響を与えるため、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。平均厚みは、市販の厚み測定装置を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値を平均厚みとする。また、厚みムラは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0069】
本実施形態の長尺の延伸フィルムは、幅が少なくとも1300mm、好ましくは1500mm以上である。この長尺の延伸フィルムは、その製造工程において、任意に、延伸後にその幅方向の両端を切り落として作成されるが、この場合、上記でいうフィルムの幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0070】
本実施形態の延伸フィルムは、残留揮発性成分の含有量が、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が多いと経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、面内方向リターデーションReや厚み方向リターデーションRth(=((n+n)/2−n)×d;nは面内遅相軸方向の屈折率;nは面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率;nは厚さ方向の屈折率;dはフィルムの平均厚み)の経時変化を小さくすることができ、さらにこの延伸フィルムを備える円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。なお、揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0071】
本実施形態の延伸フィルムは、飽和吸水率が、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、前記面内方向リターデーションReや厚み方向リターデーションRthの経時変化を小さくすることができ、さらには円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。飽和吸水率は、JIS K7209に準拠して、フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、試験片の質量変化、すなわち、浸漬前と浸漬後の質量の差を測定して求め、浸漬前の百分率として表される値である。
【0072】
上述した本実施形態の製造方法を用いて製造された延伸フィルムは、屈折率の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。
【0073】
また、上述した実施形態の製造方法を用いて製造された長尺の延伸フィルムと、別途製造された長尺の偏光子(偏光フィルム)を積層することにより、長尺の円偏光板(円偏光フィルム)を製造することができる。偏光子は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光子や異方性多層フィルムなどの反射性偏光子が挙げられる。偏光子の厚さは、通常5〜80μmである。
【0074】
この場合において、延伸フィルムを偏光子の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層する数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。偏光子の片面のみに、延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光子の保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。
【0075】
保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル重合体等が挙げられる。
【0076】
このような積層フィルムからなる円偏光板は、延伸フィルムの巻回体及び偏光子の巻回体からそれぞれ同時にフィルムを引き出しながら、該延伸フィルムと該偏光子とを密着させることにより製造することができる。斜め延伸フィルムと偏光子との密着面には接着剤を介在させてもよい。延伸フィルムと偏光子とを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光子を一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0077】
長尺の延伸フィルム又は長尺の円偏光板は、その使用形態に応じて所望の大きさに切り出して、位相差板又は偏光板として用いられる。この場合、長尺のフィルムの巻取方向に対して、垂直又は平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【0078】
本実施形態の製造方法を用いて製造された長尺の延伸フィルムを裁断してなる延伸フィルム又は長尺の円偏光板を裁断してなる円偏光板を用いて、液晶表示装置を製造することができる。液晶表示装置の一例としては、偏光透過軸を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される前述の円偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、前述の延伸フィルムは位相差板として、光学補償、偏光変換などのために液晶表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。なお、バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。特に、本実施形態の製造方法を用いて製造された延伸フィルムが適用される液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。
【0079】
液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、バーティカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーティカルアラインメント(MVA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モードなどを挙げることができる。液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、導光板、拡散シート、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【実施例】
【0080】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0081】
(1)配向角θ1、θ2及びθ2のバラツキ
偏光顕微鏡(オリンパス社製、BX51)を用いて、フィルムの幅方向50mm間隔で測定し、面内の遅相軸を測定し、θ1は遅相軸の方向と幅方向とのなす角度(配向角)の平均値を求め、これをθ1とし、θ2は遅相軸の方向と巻取方向とのなす角度(配向角)の平均値を求め、これを配向角θ2とした。配向角θ2のバラツキは、配向角の最大値と最小値の差とした。
【0082】
(2)複屈折Δn、平均Re、Nz係数及びそのバラツキ
位相差計(王子計測社製、KOBRA-21ADH)を用いて、フィルムの幅方向50mm間隔で、Δn、Re及びNz係数を測定し、それぞれについて平均値を求めた。Nz係数のバラツキは、Nz係数の最大値と最小値の差とした。
【0083】
実施例1
脂環式オレフィンポリマーの一種である熱可塑性ノルボルネン樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420、ガラス転移点137℃)を100℃で5時間乾燥した。前記ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み130μm、幅1200mmの未延伸フィルムを得た。
【0084】
この未延伸フィルムを、そのまま連続して横延伸用のテンターに供給し、延伸温度140℃、延伸倍率1.42倍で第一延伸工程を行い、配向角θ1が幅方向に対し0.2°に配向した第一延伸フィルムを得、巻き芯に巻き取った。
【0085】
次に、第一延伸フィルムを巻き芯から引き出し、フィルムの配向角θ2が巻取方向に対して45°となるように、巻取方向に対しての繰出角度θ=40°で、斜め延伸用のテンターに供給し、延伸温度145℃、延伸倍率R2=1.82倍で、第二延伸工程を行い、フィルム両端180mmをトリミングして、幅1340mmの長尺延伸フィルムを得た。得られた長尺延伸フィルムは上記幅方向に対し均一なものであった。延伸条件、第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0086】
透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2−5618S、厚さ180μm、幅1340mm)と、第二延伸フィルムとを、ロール・トゥ・ロールで貼り合わせて幅1340mmの円偏光板の巻回体を得た。この巻回体から切り出した円偏光板を、市販のVA(バーティカルアライメント)モードの反射型液晶表示装置のバックライト側の偏光板と置き換え、上記延伸フィルムを貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように組み込んで反射型液晶表示装置を作成した。作成した液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0087】
実施例2〜3
表1に示す、延伸条件に変えた他は、実施例1と同様にして第一延伸フィルム、第二延伸フィルム、円偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。第二延伸フィルムを用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示をすることができた。
【0088】
比較例1〜4
表1に示す、延伸条件に変えた他は、実施例1と同様にして第一延伸フィルム、第二延伸フィルム、円偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。比較例1〜4で得られたフィルムは、配向角のバラツキやNz係数のバラツキが大きなものであった。さらに、得られたこの第二延伸フィルムを用いた他は、実施例1と同様にして円偏光板及び反射型液晶表示装置を作成した。この第二延伸フィルムを用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、画面内に色ムラやコントラストの低下が観察された。
【0089】
【表1】

【符号の説明】
【0090】
D1…繰出方向
D2…巻取方向
θ…繰出方向と巻取方向のなす角度
Ro…外側レール(軌道)
Ri…内側レール(軌道)
LZ…後半ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる長尺の未延伸フィルムを該未延伸フィルムの進行方向と直角な方向に延伸して、配向角θ1が幅方向に対して−1°≦θ1≦1°であり、かつ複屈折Δnが0.001〜0.003の範囲にある第一延伸フィルムを得る工程と、
前記第一延伸フィルムを巻取方向に対して角度θが10°<θ<60°の方向で繰り出しながら、下記式(1)、(2)、(3)の条件を満たすようにテンター内で再延伸することにより、配向角θ2が前記巻取方向に対して40°<θ2<50°の範囲の第二延伸フィルムを得る工程とを含み、
前記第二延伸フィルムを得る工程で用いる前記テンターは、フィルムの進行方向が繰出方向に対して略平行である前半ゾーンと、フィルムの進行方向が巻取方向に対して略平行となる後半ゾーンと、該前半ゾーンと該後半ゾーンの間に配置される中盤ゾーンとを備え、該後半ゾーンにおける内側レール及び外側レールの軌道の開きが一様である長尺の延伸フィルムの製造方法。
1.0≦R2/R1≦2.0 …(1)
0°≦θo≦θi≦6° …(2)
4°≦θo(max)+θi(max)≦7° …(3)
但し、
R1は前記第一延伸フィルムの延伸倍率、
R2は前記第二延伸フィルムの延伸倍率、
θoは前記第二延伸フィルムの進行方向が前記巻取方向に対して略平行となる後半ゾーンにおける前記第二延伸フィルムの外側端縁の軌道と前記巻取方向とのなす角度、
θiは前記後半ゾーンにおける前記第二延伸フィルムの内側端縁の軌道と前記巻取方向とのなす角度、
θo(max)は前記θoの最大値、
θi(max)は前記θiの最大値、
θo、θi、θo(max)、θi(max)は前記外側端縁の軌道及び前記内側端縁の軌道が互いに離間する方向を正、近接する方向を負とする。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ノルボルネン樹脂である請求項1記載の長尺の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により長尺の延伸フィルムを得る工程と、該長尺の延伸フィルムと長尺の偏光子とを積層する工程とを有する長尺の円偏光板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56322(P2012−56322A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269545(P2011−269545)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【分割の表示】特願2006−263993(P2006−263993)の分割
【原出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】