説明

延伸光学フィルムの製造方法

【課題】歩留まりが高く、配向角、フィルムの厚さ、及びその他の特性が均質な二軸延伸光学フィルムの製造を、高効率で行なうことができる、延伸光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】延伸前フィルムを、複数の把持子を備える延伸機で縦及び横方向に同時二軸延伸する延伸光学フィルムの製造方法であって、把持子のそれぞれは上子及び下子を有し、上子と下子との間の間隙を閉じることにより延伸前フィルムを把持するよう構成され、上子及び下子を、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の上子と下子との接触面Sの面積Saと、延伸前フィルムを把持した際の延伸前フィルムの一面における把持面S’の面積S’aとが、S’a<Saの関係を有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸光学フィルムの製造方法に関し、特に、同時二軸延伸による延伸光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の材料からなる日用品等の雑貨用のフィルムを製造するために、前記材料のフィルムを二軸延伸し、延伸フィルムとする手法が広く用いられている。当該二軸延伸の方式としては、逐次二軸延伸及び同時二軸延伸が知られている。同時二軸延伸は、逐次二軸延伸より生産性が高い方式として採用されている。
【0003】
同時二軸延伸機としては、リニアモーター方式、パンタグラフ方式及びモーター・チェーン駆動方式等の方式のものが知られている。この中でも、パンタグラフ方式の延伸機は、構造が簡易で且つ延伸機を含む製造ライン全体の立ち上げが迅速に行える等の利点がある。
【0004】
パンタグラフ方式の同時二軸延伸機は、例えば、特許文献1(特公平4−62530号公報)に開示されるように、複数のリンクプレートをジグザグに連結したエンドレスのリンク装置、リンクプレートの一端に設けられた把持子、及びリンク装置をガイドするガイドレールを備える。当該延伸機において、ダイス等から連続的に供給される、延伸前の樹脂フィルムは、把持子によりその両端を把持される。延伸前の樹脂フィルムを把持子により把持したリンク装置は、ガイドレールにより、収縮していたジグザグが伸展し且つ樹脂フィルムを横方向(樹脂フィルムの面上における、樹脂フィルムが進行する方向と直角の方向)に延伸するようにガイドされる。即ち、把持子は、樹脂フィルムの進行方向に対して斜めに進行し、それにより、延伸前樹脂フィルムは縦方向(樹脂フィルムが進行する方向)及びそれに直角な横方向の両方に同時に延伸され、樹脂フィルムの同時二軸延伸が達成される。
【0005】
その他の方式の同時二軸延伸機においても、複数の把持子を移動させることにより、連続的に供給される延伸前フィルムを横方向及び縦方向の両方に同時に延伸する点においては共通する。
【0006】
前述の雑貨等として用いる延伸フィルムを製造する際には、例えば、縦横それぞれ7倍以上の高い延伸倍率でフィルムの延伸が行われている。近年需要が増している、光学的な用途に用いる二軸延伸フィルムの製造においても、このような同時二軸延伸を適用すれば、高性能な延伸光学フィルムを効率的に生産できることが期待される。
【0007】
また、従来の逐次二軸延伸により延伸光学フィルムを製造した場合、一方向に延伸してから他方向に延伸するまでの間に樹脂が一旦冷却され、熱緩和が起き、得られる二軸延伸フィルムの均一性が阻害されることがあったが、同時二軸延伸によれば、そのような樹脂が一旦冷却される不都合を回避できることが期待される。
【0008】
しかしながら、同時二軸延伸においては、延伸後のフィルムが破断する障害が発生しやすく、そのため製品の歩留まりが低下する場合があるという問題点がある。
【0009】
さらに、同時二軸延伸による延伸は、逐次二軸延伸に比べて、延伸のムラが発生しやすい。特に、延伸光学フィルムを製造する場合、精度の高い均一な延伸を、縦横それぞれ2倍程度以下の低い延伸倍率で行うことが求められるが、同時二軸延伸において、このような低い延伸倍率で延伸を行うと、配向角及び延伸倍率のムラが特に大きくなりやすい。そのため、同時二軸延伸で得られたフィルムを延伸光学フィルムとして用いるには、配向角、フィルムの厚さ、面内方向のリターデーション(Re)及び厚さ方向のリターデーション(Rth)等の特性の均一さが不十分であった。
【0010】
【特許文献1】特公平4−62530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、歩留まりが高く、配向角、フィルムの厚さ、及びその他の特性が均質な二軸延伸光学フィルムの製造を、高効率で行なうことができる、延伸光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題を解決するため検討した結果、同時二軸延伸においてフィルムに張力を加えるためにフィルムを把持する把持子に着目した。そして本願発明者は、把持子がフィルムを延伸する際に、把持子の外側(即ち把持子に把持されている位置より、フィルム幅方向の端部に近い側)のフィルムが変形し、それが、把持子がフィルムをリリースする際の障害となり、フィルムの破断や、フィルムの特性の不均質をもたらすことを見出した。さらに本願発明者は、把持子の形状及び把持子と把持するフィルムとの位置関係を特定のものとすることにより、かかる障害を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明によれば、下記〔1〕〜〔5〕が提供される:
【0013】
〔1〕 複数の把持子を備える延伸機に延伸前フィルムを連続的に供給する工程(A)と、
前記延伸前フィルムの幅方向の両端部を前記把持子で把持する工程(B)と、
前記把持子を移動させることにより前記延伸前フィルムを縦及び横方向に同時二軸延伸する工程(C)とを含む、延伸光学フィルムの製造方法であって、
各把持子は、互いに近接離間可能に構成された上子及び下子を有し、前記上子と前記下子との間の間隙を閉じることにより前記延伸前フィルムを把持するよう構成され、
前記上子及び前記下子を、前記延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の前記上子と前記下子との接触面Sの面積Saと、前記工程(B)において前記延伸前フィルムを把持した際の前記延伸前フィルムの一面における把持面S’の面積S’aとが、S’a<Saの関係を有する、延伸光学フィルムの製造方法。
〔2〕 各把持子における前記面積Saが、75mm以上1000mm以下である、前記延伸光学フィルムの製造方法。
〔3〕 前記上子および前記下子における各当接面の形状は、円形状、円の一部及び直線で形成された形状、又は楕円形状である前記延伸光学フィルムの製造方法。
〔4〕 前記上子及び下子の少なくとも一方が、フィルムの主面に垂直な面内で揺動しうる前記延伸光学フィルムの製造方法。
〔5〕 前記上子及び下子の少なくとも一方は、揺動した際に、前記上子と前記下子の当接面同士が互いに平行な状態に維持される前記延伸光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の延伸光学フィルムの製造方法によれば、歩留まりが高く、配向角、フィルムの厚さ、及びその他の特性が均質な二軸延伸光学フィルムの製造を、高効率で行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の延伸光学フィルムの製造方法は、延伸前フィルムを、複数の把持子を備える延伸機に連続的に供給する工程(A)、前記延伸前フィルムの両端部を把持子で把持する工程(B)、前記把持子を移動させることにより前記延伸前フィルムを縦及び横方向に同時二軸延伸する工程(C)を含む。
本発明の製造方法に供する延伸前フィルムは、通常は未延伸の原反フィルムであるが、これに限られず、既に延伸されたフィルムを延伸前フィルムとして本発明の製造方法に供し、さらに延伸することもできる。
【0016】
本発明の製造方法において、同時二軸延伸とは、縦方向の延伸(即ちフィルムの搬送方向に沿った、フィルムの長さの拡張)と、横方向の延伸(即ちフィルムの搬送方向と直角な方向に沿った、フィルムの幅の拡張)とが、少なくともその一部において同時に行われる延伸の態様をいい、好ましくは縦方向と横方向の延伸が、同時に開始され同時に終了する。
【0017】
このような同時二軸延伸を行う延伸機は、複数の把持子を備える延伸機であり、その方式は、リニアモーター方式、パンタグラフ方式及びモーター・チェーン駆動方式等の方式とすることができる。特にパンタグラフ方式の延伸機であることが、構造が簡易で且つ延伸機を含む製造ライン全体の立ち上げが迅速に行える等の利点のため好ましい。
【0018】
以下において、このような同時二軸延伸を行う延伸機の具体例を、図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の製造方法を実施するための延伸機の一例を概略的に示す上面図である。図2は、図1に示すリンク装置101の一部のより具体的な構造を示す上面図であり、図3は、図1に示すリンク装置101の一単位107を説明する縦断面図である。
【0019】
図1〜図3において、リンク装置101は、図2に示すように、ジグザグ状に連結された複数のリンクプレート102a〜102dから主に構成される。リンク装置101は、通常複数のリンクプレートを輪状に連結させ無端リンク装置とするが、図1においてはその一部を省略して図示している。また、リンク装置101は通常、フィルムの流れ方向の左右両脇に一対設けられるが、図1においてはその一端側を省略して図示している。リンク装置101は、軸受けローラー103a及び103bがガイドレール104a〜104cにより形成される溝内を通り、スプロケット106a及び106bにより駆動されることにより、矢印A1に示される方向に回転する。ガイドレールの位置は、駆動軸120を操作して保持部130a及び130bを移動させることにより調整することができる。
【0020】
図2に示す通り、リンク装置の一単位は、(a)外側(フィルム105から遠い側)の軸受けローラー103a及び内側(フィルム105に近い側)の軸受けローラー103bの両方の上に支点を持ち、さらに内側に延長し、その内側端に把持子108を有するリンクプレート102a、(b)リンクプレート102aと軸受けローラー103b上において共通する支点を有し、別の軸受けローラー103a上のもう一点の支点に延長するリンクプレート102b、(c)リンクプレート102bの支点間の部分に支点を有し、そこから内側に延長し、内側端に把持子108を有するリンクプレート102c、及び(d)リンクプレート102cの内側端及び外側端との間に支点を有し、そこから外側に延長し、隣接する単位のリンクプレート102a上に支点を有するリンクプレート102d、から主に構成される。
【0021】
ガイドローラの溝の間隔W1がW2に縮まることにより、リンクピッチを収縮状態から伸展状態へと変化させることができる。収縮時リンクピッチP1及び伸展時リンクピッチP2は、それぞれ軸受けローラーの軸間距離2xP1及び2xP2の半分となるため、軸受けローラーの通常の大きさに比べて短い、短い収縮時リンクピッチを得ることができ、精密な延伸を行なう上で特に好ましい。
【0022】
図3を参照し、把持子についてより詳細に説明する。リンクプレート102aの端部には把持子108が設けられる。把持子108は、リンクプレート102aから上側に延長する腕部191に固定された支点部材192により揺動可能に支持される梃部108Rと、梃部108Rの上部に取り付けられた頂部111と、梃部108Rの下部に固定された支点部材110Aと、支点部材110Aにより揺動可能に支持される上子支持部材110SUと、上子支持部材110SUにより支持される上子110Uと、下子支持部110SLにより支持される下子110Lとを有する。
【0023】
図3に示した状態では、把持子108はバネ109により、バネ109が収縮する方向に付勢され上子110Uが下子110Lに近接して、上子110U及び下子110Lの間は閉じられているが、延伸前フィルムの把持に先立ち、バネ109の付勢に抗して頂部111を矢印A3方向に押すことにより、上子110U及び下子110Lの間に間隙を生じせしめることができる。即ち、頂部111を矢印A3方向に押すことにより、図4に示すように、支点部材192を軸にして梃部108Rが揺動して傾く。さらに、梃部108Rが揺動すると同時に、重力により又は適切な任意の機構により上子支持部材110SUを支点部材110Aを軸に揺動させ、それにより上子110Uをフィルムの主面に垂直な面内で揺動させ、上子110Uの下面(当接面)が下子110Lの上面(当接面)との平行を維持したまま上昇(離間)するよう構成することができ、これにより、延伸前フィルムを挿入しやすい間隙を形成することができる。
【0024】
かかる間隙に延伸前フィルムを挿入した後、矢印A3方向への力を解除し、バネ109の付勢により上子と下子との間の間隙を閉じることにより、フィルムを把持することができる。
【0025】
本発明においては、かかる上子及び下子の構造が、以下の所定の要件を満たすよう構成される。即ち、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の上子と下子との接触面Sの面積Saと、延伸前フィルムを把持した際の延伸前フィルムの一面における把持面S’の面積S’aとが、S’a<Saの関係を有することが要件となる。
【0026】
かかる要件について、図5及び図6を参照してより詳細に説明する。図5及び図6はそれぞれ、本発明における把持子の上子110U及び下子110Lと、把持される延伸前フィルム105との関係の例を概略的に示す縦断面図及び上面図である。上子110U及び下子110Lは、上述した上子支持部材110SU及び下子支持部110SLへの固定などのために、さらに任意の構造を有することができるが、図5及び図6においてはそれらの構造は省略している。
【0027】
図5及び図6において、下子110Lは円柱形の形状であり、その底面の直径は図6の矢印W110で示される長さとなる。一方、上子110Uは円柱形をその底面に垂直な2つの面で切断した形状であり、その底面の長さ即ち位置110Uiから110Uoまでの距離は、矢印W110の長さに等しい。
【0028】
位置110Ui及び110Uoはそれぞれ、上子110Uの底面110Uaの最も内側(即ちフィルムの幅方向の中心の線に最も近い)の位置及び最も外側(即ちフィルムの幅方向の中心の線から最も遠い)の位置に対応する。一方、下子110Lの上面110La上の位置110Li及び110Loはそれぞれ、下子の上面110Laの最も内側及び最も外側の位置に対応する。図5及び図6に示す例において、把持子は、上子110U及び下子110Lを閉じた際に、位置110Ui及び110Uoが、それぞれ下子の位置110Li及び110Loに合致するよう構成される。従って、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の上子と下子との接触面Sは、上子110Uの底面110Uaと同じ形状となり、図5の矢印Sで示される幅を持つことになる。
【0029】
本発明において、延伸前フィルム105の幅方向の端部105Eが、把持面より内側に位置するよう、上子110U及び下子110Lが延伸前フィルム105を把持することにより、上で述べたS’a<Saの関係を充足することができる。このとき延伸前フィルムの一面と把持子との把持面S’は、矢印S’で示される幅を持つことになる。本発明において把持面とは、延伸前フィルムと上子又は下子が接触している面のうち、上子と下子とで把持されている部分の面をいう。図6に示される通り、この例においては下子の上面積は上子の底面積より大きいため、下子の上面と延伸前フィルムとが接触している面のうちには上子との把持に関与しない部分があるが、この把持に関与しない部分は、把持面には含まれない。
【0030】
このようなS’a<Saとなる把持は、領域D1における把持子の軌道及び延伸前フィルムの供給の軌道を、かかる把持が行なわれるよう調整することにより容易に達成することができる。
【0031】
面積Saの具体的な範囲は、特に限定されないが、各把持子において75mm以上1000mm以下とすることが好ましい。また、面積S’aの具体的な範囲は70mm≦Sa≦995mmとすることができる。かかる範囲の面積とすることにより、均質な延伸を実現でき、且つフィルムの破断などを防ぐことができる。また、0.1 ≦ S’a/Sa ≦ 0.99であることが好ましい。
【0032】
このような把持を行うことによる本発明の効果を、従来技術との対比において説明する。図7は、従来技術における上子710Uを有する把持子と延伸前フィルム105との関係の例を概略的に示す上面図である。図7に示す通り、従来技術においては、延伸前フィルムの幅方向の端部105Eは、上子710の底面の外側の端部710Uoより外側に位置するよう把持が行なわれていた。かかる把持において延伸を行なう場合、図8に示すとおり、横延伸の応力が矢印A800方向にかかることにより、フィルム端部105Eが変形し、図8及び図9に示す耳105Fのような形状となりうる。端部がこのような形状となることにより、フィルムのリリースの円滑性を損ねることとなり、フィルムの破断や、又はフィルムの破断が起きなくても配向角、厚さ、リターデーション等の特性のムラをもたらしうる。これに対して、本発明においては、S’a<Saの関係を充足し、その結果常に、接触面S内の最も外側の点よりも内側にフィルム端部105Eが位置することになる。これにより、フィルムのリリースの円滑性が保証され、その結果、フィルムの破断を防止し且つフィルムの特性の均一化を図ることが可能となる。
【0033】
続いて、上に説明した装置を用いた、本発明の製造方法のより具体的な例を、再び図1を参照して説明する。幅B1の延伸前のフィルム105は、矢印A5方向に沿って上流から供給される。(工程(A))。一方、リンク装置101が矢印A1で示される方向に周回し、領域D1においてフィルムの幅方向の両端を把持子により把持する(工程(B))。かかる把持は、把持子頂部111が領域D1に入る前に矢印A3方向に押され、領域D1に入った後に戻されるように延伸機を構成する(図示せず)ことにより達成しうる。
【0034】
ガイドレール104の幅の増減により、リンク装置101は領域D1で完全に収縮した状態となり、収縮時のリンクピッチ、即ち延伸前フィルムを把持する際のピッチは図1においてP1で示す長さとなる。
【0035】
リンク装置101はその後、矢印A1方向に周回して延伸開始部655に到達した後、伸展しながらオーブン内のフィルムの進行方向A5に対し末広がりに進行し、延伸終了部652に到達した時点で伸展した状態となり、リンクピッチはP2で示す長さとなる。この末広がりの進行により、熱可塑性樹脂フィルムは横方向に、(B2/B1)倍の延伸倍率で延伸され、且つ縦方向には(P2/P1)倍の延伸倍率で延伸される。(B2/B1)の値及び(P2/P1)の値はいずれも好ましくは1.1倍〜2倍に調整され、この倍率は固定又は可変とすることができる。リンクプレート102が領域D2を出る前に把持子頂部111が再び矢印A3方向に押されるよう構成することにより、上子110U及び下子110Lが離れ、把持子108は延伸光学フィルム105をリリースし、その後リンクプレート102は領域D1に向かって戻される。
【0036】
(把持子の変形例)
本発明の製造方法において、把持子を構成する上子及び下子の形状は、図5及び図6に示したものの他に、様々な変形例が考えられる。
【0037】
図5に示す例においては、上子底面110Ua及び下子上面110Laの最も内側の位置110Ui及び110Liが合致し、上子底面110Ua及び下子上面110Laの最も外側の位置110Uo及び110Loも合致し、従って110Ui〜110Uoまでの距離が110Li〜110Loまでの距離と一致するよう把持子を構成したが、必ずしもこのように構成する必要はなく、例えば、図10に示すように、位置110Liが位置110Uiより内側に、位置110Loが位置110Uoより内側に来るよう把持子を構成することもでき、逆に図11に示すように、位置110Uiが位置110Liより内側に、位置110Uoが位置110Loより内側に来るよう把持子を構成することもできる。これらの場合において、110Ui〜110Uoの距離と110Li〜110Loの距離は、同一であってもよく、どちらか一方が他方より長くてもよい。いずれの場合も、110Uo及び110Loのうち内側のものよりさらに内側にフィルム端部105Eが位置することにより、本発明の要件であるS’a<Saの要件を満たすことができる。
【0038】
また、図12〜図14に示すように、上子底面1210Uaの幅(最も内側の点1210Ui〜最も外側の点1210Uoの距離)が下子底面1210Laの幅(最も内側の点1210Li〜最も外側の点1210Loの距離)より短いよう構成し、図12に示すように、位置1210Liが位置1210Uiより内側に来て位置1210Loは位置1210Uoと合致するよう把持子を構成することもでき、逆に図14に示すように、位置1210Uiは位置1210Liと合致し位置1210Uoは位置1210Loより内側に来るよう把持子を構成することもできる。さらには図13に示すように、位置1210Uiが位置1210Liより外側に、位置1210Uoが位置1210Loより内側に来るよう把持子を構成することもできる。いずれの場合も、1210Uo及び1210Loのうち内側のものよりさらに内側にフィルム端部105Eが位置することにより、本発明の要件であるS’a<Saの要件を満たすことができる。
【0039】
また、図12〜図14の例とは逆に、上子底面1210Uaの幅が下子底面1210Laの幅より長いよう構成し、位置1210Uiが位置1210Liより内側に来て位置1210Uoは位置1210Loと合致するよう把持子を構成することもでき、逆に位置1210Liは位置1210Uiと合致し位置1210Loは位置1210Uoより内側に来るよう把持子を構成することもできる。さらには、位置1210Liが位置1210Uiより外側に、位置1210Loが位置1210Uoより内側に来るよう把持子を構成することもできる。いずれの場合も、1210Uo及び1210Loのうち内側のものよりさらに内側にフィルム端部105Eが位置することにより、本発明の要件であるS’a<Saの要件を満たすことができる。
【0040】
また、図15に示す通り、上子1510Uの底面の内側に面取り1511を設けることができる。この場合、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の上子と下子との接触面S及び延伸前フィルムを把持した際の延伸前フィルムの一面における把持面S’が、面取りの部分だけ小さくなり、それぞれ図15の矢印S及びS’で示される領域となる。あるいは、図16に示す通り、下子1610Lの上面に面取り1612を設けることもできる。これらの面取り1511又は1612を設けることにより、フィルムに対する損傷を低減することが可能となる。
【0041】
また、上子及び下子は、把持子において支持部材等に固着されていてもよいが、フィルムに平行な面内で回動しうるよう、把持子を構成することができる。図17は、そのような上子及び下子の例を概略的に図示する上面図であり、図18は、図17に示す部材を矢印A172を通る垂直面で切断した縦断面図である。図17及び図18において、上子1710Uは支持部材1710SU(図18のみに図示)に、芯1710CUを中心として矢印A171方向に回動可能に支持され、一方下子1710Lは支持部1710SLに、芯1710CLを中心として矢印A171方向に回動可能に支持されている。かかる回動可能な支持は、好ましくは上子及び下子が滑らかに揺動しうるためのベアリング等の機構(不図示)を備えることができる。かかる回動可能な支持により、フィルムを把持した状態で、延伸に際して上子及び下子が回動し、パンタグラフの伸縮や延伸のための把持子の進行方向の変化により、把持子とフィルムの、フィルム面方向における角度関係が変化しても、均一な延伸を行なうことが可能となる。ここで、上子及び下子の回動可能な支持は、自由に回転するような支持としてもよく、適切な動力原により駆動しフィルム幅方向と上子及び下子の幅方向が常に平行になるよう制御することもできる。
【0042】
また、上子及び下子を弾性体により付勢し、フィルムを支持していない状態においては把持子に対して一定の方向を向くよう支持し、フィルムによりフィルムに平行な面内で揺動するよう力を受けた際に方向が変化し、フィルムをリリースした後には元の向きに戻るような支持としてもよい。このような構成を有することにより、簡潔な機構で、図6に示す上子110Uのように非円形な上子または下子を用いた場合でも、フィルムと上子及び下子の角度関係を一定に保つことができる。
【0043】
上子及び下子がフィルムに接する面、即ち上子の底面及び下子の上面の形状は、上に述べた例では(図6の下子110Lのような)円形状または(図6の上子110Uのような)円の一部及び直線で形成された形状とすることができるが、これに限られず、楕円状などの他の形状であってもよい。
【0044】
上記の開示は、説明のため、本発明を、好ましい実施例を参照して記載したものであるが、本発明は、本願請求の範囲及びその均等の全範囲のみにより限定されるものであるため、上記実施の形態において、さらにさまざまな修正及び変更を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
(1−1:延伸機)
二軸延伸を実施するための延伸機として、図1〜3に概略的に示すパンタグラフ方式の延伸機を用意した。当該延伸機は、作業環境温度を一定に保つオーブン内に設置され、一対の対称なループ状のリンク装置を備えていた。
【0047】
延伸機中のガイドレールを調整することにより、リンク収縮時(即ち延伸前フィルムを把持する際)のピッチP1を35mmとし、リンク伸展時のピッチP2を43mmとした。また、延伸前時の両端の把持子同士の距離は1462mm、延伸終了時の両端の把持子同士の距離は2164mmとした。縦延伸と横延伸の開始点及び終了点は同時とした。
【0048】
延伸機中の把持子の上子及び下子は、図5〜6に示す形状とした。下子110Lの上面110Laの直径は20mmとし、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際に上子の底面110Uaの内側の端部110Uiと下子の上面110Laの内側の端部110Liとが合致し、上子の底面の外側の端部110Uoと下子の上面の内側の端部110Loとが合致するよう把持子を調整した。さらに、フィルムが領域D1において把持される際、フィルム端部105Eが、端部110Uo及び110Loより1mm内側に位置するよう、ガイドレールの軌道を調整した。具体的には、0.5≦S’a/Sa≦0.99となるように把持子を調整した。
【0049】
(1−2:延伸前フィルムの製造及び供給)
ノルボルネン系樹脂(商品名「ZEONOR1420」、ガラス転移点=136℃、日本ゼオン株式会社製)のペレットを100℃で5時間乾燥させた。該ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、Tダイから表面温度120℃のキャスティングドラム上にドラフト比(ダイ開度とフィルム厚みの比)5:1でシート状に押出して冷却し、厚み110μm、幅1500mmの延伸前フィルムを連続的に製造した。
【0050】
(1−3:延伸機の駆動)
供給される延伸前フィルムを、これを延伸機に供給し、延伸機による同時二軸延伸を開始した。延伸前フィルム供給の入口速度は延伸開始時には低速とし、その後入口速度を15m/分まで徐々に上昇させた。フィルムの延伸に際して、フィルムの破断は生じなかった。延伸後のフィルム幅は1490mmであった。
【0051】
<比較例1>
上子及び下子として、図7及び図9に示す形状のものを用いた。下子110Lの寸法は実施例1と同様とした。上子710Uは、その底面710Uaを直径を10mmの円形状とし、延伸前フィルムを把持せずに閉じた際に上子底面の円と下子上面の円の中心同士が合致するよう把持子を調整した。さらに、フィルムが領域D1において把持される際、フィルム端部105Eが、下子端部110Loより1mm内側で上子端部110Uoより4mm外側に位置するよう、ガイドレールの軌道を調整した。
【0052】
上記の点以外は、実施例1と同様に、延伸機を構成し、駆動させ、延伸光学フィルムの製造を行った。フィルムの延伸に際して、フィルムの破断が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の製造方法を実施するための延伸機の一例を概略的に示す上面図である。
【図2】図1に示すリンク装置101の一部のより具体的な構造を示す上面図である。
【図3】図1に示すリンク装置101の一単位107を説明する縦断面図である。
【図4】図3に示す把持子108の動作を説明する縦断面図である。
【図5】本発明における把持子の上子110U及び下子110Lと、把持される延伸前フィルム105との関係の例を概略的に示す縦断面図である。
【図6】本発明における把持子の上子110U及び下子110Lと、把持される延伸前フィルム105との関係の例を概略的に示す上面図である。
【図7】従来技術における上子710Uを有する把持子と延伸前フィルム105との関係の例を概略的に示す上面図である。
【図8】図7に示す把持子による延伸の態様の例を示す上面図である。
【図9】図7に示す把持子による延伸の態様の例を示す縦断面図である。
【図10】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子の別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図11】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図12】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図13】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図14】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図15】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図16】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図17】本発明の製造方法を実施するための延伸機における把持子のさらに別の一例を概略的に示す上面図である。
【図18】図17に示す把持子を、線A172に沿って切断した縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
101 リンク装置
102a〜102d リンクプレート
103a、103b 軸受けローラー
104a〜104c ガイドレール
105 フィルム(延伸前フィルム又は延伸フィルム)
105E フィルム端部
106a、106b スプロケット
108 把持子
108R 梃部
110U 上子
110SU 上子支持部材
110L 下子
110SL 下子支持部
111 頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の把持子を備える延伸機に延伸前フィルムを連続的に供給する工程(A)と、
前記延伸前フィルムの幅方向の両端部を前記把持子で把持する工程(B)と、
前記把持子を移動させることにより前記延伸前フィルムを縦及び横方向に同時二軸延伸する工程(C)とを含む、延伸光学フィルムの製造方法であって、
各把持子は、互いに近接離間可能に構成された上子及び下子を有し、前記上子と前記下子との間の間隙を閉じることにより前記延伸前フィルムを把持するよう構成され、
前記上子及び前記下子を、前記延伸前フィルムを把持せずに閉じた際の前記上子と前記下子との接触面Sの面積Saと、前記工程(B)において前記延伸前フィルムを把持した際の前記延伸前フィルムの一面における把持面S’の面積S’aとが、S’a<Saの関係を有する、延伸光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
各把持子における前記面積Saが、75mm以上1000mm以下である、請求項1に記載の延伸光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記上子および前記下子における各当接面の形状は、円形状、円の一部及び直線で形成された形状、又は楕円形状である請求項1又は2に記載の延伸光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記上子及び下子の少なくとも一方が、フィルムの主面に垂直な面内で揺動しうる請求項1〜3のいずれか1項に記載の延伸光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記上子及び下子の少なくとも一方は、揺動した際に、前記上子と前記下子の当接面同士が互いに平行な状態に維持される請求項4に記載の延伸光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−46879(P2010−46879A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212423(P2008−212423)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】