説明

延伸成形体

【課題】 表面平滑性に優れた延伸成形体を提供する。
【解決手段】 脂環式構造含有重合体(A)100重量部、及び、当該脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)10〜40重量部を含有し、かつ、前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍である樹脂組成物を延伸成形して、最大高さRyが100nm以下の延伸成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸成形体に関し、さらに詳しくは表面が平滑な、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式構造含有重合体を延伸成形して得られるフィルムなどの成形体は、透明性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、及び低透湿性などに優れている。そのため、フィルム状の該成形体をラベル、及び包装材等の分野で用いることが提案されている。しかし、脂環式構造含有重合体のみを延伸成形して得られるフィルムでは、求められる特性を十分に満足できないことがあった。そこで、脂環式構造含有重合体と他の重合体とを混合した組成物が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位(a)を有し、かつ該脂環式構造がノルボルナン構造以外の脂環式構造である繰り返し単位(b)を、該脂環式構造を含有してなる繰り返し単位(a)中に10重量%以上有する脂環式構造含有重合体樹脂(A)と、メタロセン重合触媒を用いて製造された0.88〜0.92g/cmの範囲の密度を有し、かつ1〜25の範囲のムーニー粘度ML1+4(121℃)を有するオレフィン系エラストマー(B)とを含有し、且つ前記脂環式構造含有重合体樹脂(A)とオレフィン系エラストマー(B)との比率(重量比)が、A/Bで96/4〜40/60である樹脂組成物が開示され、その樹脂組成物からなる一軸又は二軸延伸してなる層を少なくとも一層有する熱収縮性フィルムが開示されている。そして、このフィルムは、指紋付着による白化がなく、かつ透明性、光沢性及び熱収縮特性に優れていると特許文献1は開示している。
【0004】
また、特許文献2には(A)分子内に脂環構造を有する樹脂90重量%を超えて98重量%以下と、(B)密度0.92g/cm以下、MFR(190℃、2.16kg荷重)が2g/10分以上であるポリエチレン系樹脂2重量%以上10重量%未満とからなる樹脂組成物を成形し、延伸させてなる熱収縮性フィルムが開示されている。そして、このフィルムは、保管時の自然収縮が小さく、加熱時の収縮率が大きく、低密度で衛生性に優れ、さらに皮脂白化性に優れていると特許文献2は開示している。
【0005】
【特許文献1】特開2004−331678号公報
【特許文献2】特開2004−238467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者らの検討によれば、これらに開示されている樹脂組成物は、均一な膜厚の(即ち、表面が平滑な)ものを得るための成形条件及び延伸条件の範囲(マージン)が非常に狭く、最適な成形条件及び延伸条件を見つけたとしても、それからわずかでもずれると、膜厚の均一性が乱れ、均一な膜厚を有するフィルムが得られないことがわかった。そして、成形温度にバラツキのあった未延伸フィルムを延伸すると、平滑性に劣った延伸フィルムしか得られなかった。このため、例えば、押出成形後、延伸して均一膜厚の延伸フィルムを得るためには、押出成形温度や延伸温度を、±1℃等の厳しい範囲に制御して行わなければならなかった。
【0007】
本発明の目的は、厚みが均一なフィルムなど、表面が平滑な成形体を提供することにある。
本発明の別の目的は、表面が平滑なフィルムなどの延伸成形体を得ることができる延伸温度条件が広い樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、脂環式構造含有重合体(A)の引張応力Mが、同じ引張温度及び同じひずみにおける、脂環式構造含有重合体に対して非相溶の重合体(B)の引張応力Mの0.4〜2.0倍の値となる関係を有する脂環式構造含有重合体(A)と重合体(B)とを特定量含有する樹脂組成物を延伸成形すると、未延伸フィルムを延伸する際の温度が変化しても、また、延伸前のフィルムを得る際の成形温度が10℃違っても、均一膜厚の延伸フィルムが容易に得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、(1)脂環式構造含有重合体(A)100重量部、及び当該脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)10〜40重量部を含有する樹脂組成物を用いてなる延伸成形体であって、その表面の最大高さRy(JIS B O601−1994)が100nm以下である延伸成形体が提供され、
好適な態様として、(2) 前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍である請求項1記載の延伸成形体が提供される。
【0010】
また本発明によれば、(3)脂環式構造含有重合体(A)100重量部、及び、当該脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)10〜40重量部を含有し、かつ、前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍である樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の延伸成形体は表面の平滑性に優れるので、寸法精度が求められる、光学部材、自動車部材、電気・電子部材、医療部材、医療用容器、包装材等の多くの分野に好適である。本発明の樹脂組成物は、成形条件のマージンが広く、季節変動などで環境に温度差が生じても表面平滑性に優れたフィルムや容器などの延伸成形体を、延伸成形によって与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の延伸成形体は、脂環式構造含有重合体(A)及び脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)(以下、単に「重合体(B)」ということがある)を含有する樹脂組成物を用いて得られる。
【0013】
本発明で用いる脂環式構造含有重合体(A)は、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を有する重合体である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良いが、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされる。
【0014】
本発明に使用される脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合がこの範囲にあるとフィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0015】
この脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体及びその水素化物が好ましい。
【0016】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0017】
開環重合によって得られるものとして、ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしてノルボルネン系モノマーの付加重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましい。
【0018】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
【0019】
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系モノマーは、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0020】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体は、モノマー成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0021】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0022】
ノルボルネン系モノマーの付加重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体は、これらのモノマーを、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。
【0023】
ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0024】
これらの、ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能なその他のモノマーとを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と付加共重合可能なその他のモノマー由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0025】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
【0026】
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
【0027】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素化物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0028】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、5,000〜500,000、好ましくは8,000〜250,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲である。分子量がこの範囲であると、樹脂の機械的強度及び成形加工性とが高度にバランスされ好ましい。本発明において重量平均分子量は、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定した単分散ポリイソプレン(シクロヘキサン溶液)または単分散ポリスチレン(トルエン溶液)換算の値である。
【0029】
本発明に用いる重合体(B)は、脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体である。ここで非相溶とは、樹脂組成物をオスミウムや四酸化ルテニウムなどで染色し透過電子顕微鏡で観察したときに、染色された部分と染色されていない部分との間に境界が観測される状態をいう。例えば、脂環式構造含有重合体(A)のマトリックスに重合体(B)が細かく分散したような海島構造などのドメイン構造が観測される状態をいう。
【0030】
本発明に用いる重合体(B)としては、例えば、非晶性または結晶性のオレフィン系、スチレン系、ナイロン系、エステル系、ウレタン系、フェノール系、塩化ビニル系の樹脂又はエラストマーなどが挙げられる。これらのうち、結晶性のオレフィン系樹脂(結晶性ポリオレフィン)が好ましい。
【0031】
結晶性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、特にポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンに分類されるが、特に低密度ポリエチレンが好ましい。
ポリエチレンは、エチレンの単独重合体又はエチレンと少量の炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体であり、炭素数3〜10のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどが挙げられる。これらの中でも、1−ヘキセンが好ましい。これらのα−オレフィンは1種を単独で使用しても良く、また、2種以上を併用しても良い。
【0032】
結晶性ポリオレフィンは、その密度が、好ましくは0.8〜0.935g/cm、より好ましくは0.90〜0.93g/cm、特に好ましくは0.910〜0.930g/cmである。本発明において密度は、ASTM D−792に基づいて測定した値である。
【0033】
結晶性ポリオレフィンは、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトインデックス値が、0.5〜10g/10分の範囲であると好ましく、0.7〜5g/10分の範囲であると特に好ましい。メルトインデックス値がこの範囲であるとフィルムの機械的特性や加工性が良好である。本発明においてメルトインデックス値は、ASTMD−1238に基づいて測定した値である。
【0034】
結晶性ポリオレフィンは、その融点が、75〜120℃の範囲であると好ましく、80〜110℃の範囲であると特に好ましい。融点がこの範囲であると、フィルムの透明性や熱収縮性が良好となる。
【0035】
本発明に用いる樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体(A)100重量部と、重合体(B)10〜40重量部とを含有するものであるが、Ryが100nm以下の延伸成形体を容易に得ることができる上に、成形温度のマージンを広く確保できることから、前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍であるものが好ましい。また、300%ひずみ及び500%ひずみにおいても、MとMとの関係がこの倍率範囲にはいるものがより好ましい。
【0036】
脂環式構造含有重合体(A)の引張破断伸びは、好ましくは500%以上、より好ましくは500%以上1000%以下である。ここで、引張破断伸び、ひずみ、及び引張応力は、脂環式構造含有重合体(A)及び重合体(B)を、ぞれぞれ縦42mm、横52mm、厚み100μmの試験片に成形し、脂環式構造含有重合体(A)のTgより16℃高い温度で、且つ引張速度500mm/分で測定された値である。尚、この試験片の成形方法については、実施例にて詳述する。
【0037】
特定ひずみにおける引張応力が上記範囲の関係を持つ脂環式構造含有重合体(A)及び重合体(B)が含有されていることによって、延伸成形時の温度マージンが広くなり、Ryが100nm以下の、表面が平滑な延伸成形体が得やすくなる。なお、引張応力Mnとは、Mn=Fn/A(Fn:特定のひずみ時における荷重(N)、Aは試験片の元の断面積)で表され、単位はMPaで表す。
【0038】
特定ひずみにおける引張応力は、例えば(1)脂環式構造含有重合体(A)として、異なるガラス転移温度を有する2種の重合体を併用することによって、(2)脂環式構造含有重合体(A)の分子量やメルトインデックスを調整することによって、(3)重合体(B)として、結晶性ポリオレフィンと石油樹脂とを組み合わせて用いることによって調整できる。
【0039】
異なるガラス転移温度を有する2種の重合体を併用して、脂環式構造含有重合体(A)の引張応力を調整する場合、ガラス転移温度が60℃以上、より好ましくは60℃〜200℃、特に好ましくは60〜140℃の脂環式構造含有重合体(a)と、該重合体(a)のガラス転移温度よりも20〜80℃、好ましくは20〜40℃高いガラス転移温度を有する脂環式構造含有重合体(b)とを組み合わせるのが好ましい。
【0040】
なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に基づいて示差走査熱量分析法(DSC)で測定した値である。また、脂環式構造含有重合体(a)と(b)とを、このTg差の範囲で組み合わせて、本発明に係る脂環式構造含有重合体(A)とした場合、脂環式構造含有重合体(A)のTgは、脂環式構造含有重合体(a)と(b)との混合比に関わらずDSC測定では1ピークしか観測されない。そしてTgは、脂環式構造含有重合体(a)と(b)との混合比に応じてその値が変化する。
【0041】
脂環式構造含有重合体(A)のガラス転移温度は、重合させる単量体の種類等を選択することで容易に調整することができる。例えば、ノルボルネン系開環重合体の場合、高いガラス転移温度にするには、環の数が多い単量体を多く用いて重合する。逆に低いガラス転移温度にするには、環の数が少ない単量体、特に2環体の単量体を多く用いて重合する。
【0042】
脂環式構造含有重合体(a)と脂環式構造含有重合体(b)とは、脂環式構造含有重合体(a)100重量部に対して、脂環式構造含有重合体(b)が好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部、特に好ましくは10〜15重量部の割合で含有していることが好ましい。
【0043】
脂環式構造含有重合体(A)のメルトインデックス(MI)値を調整して、脂環式構造含有重合体(A)の引張応力を調整する方法を採用する場合は、脂環式構造含有重合体(A)のメルトインデックス値(280℃、荷重2.16kgf)は、好ましくは2〜30g/10分、より好ましくは5〜15g/10分である。所望のメルトインデックス値を有する脂環式構造含有重合体(A)を得るには、重合反応液の粘度から反応液中の重合体のMI値を換算する特開2003−270116号公報記載の重合方法などによって製造すればよい。
【0044】
石油樹脂などの添加剤を配合することによって、重合体(B)の引張応力を調整する場合に用いる、重合体(B)の1成分として用いる石油樹脂としては、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、ロジン系樹脂やこれらの水素化誘導体などがある。透明性の観点からジシクロペンタジエン系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂の水素化誘導体が好ましい。
【0045】
本発明に係る樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体(A)100重量部に対して、重合体(B)を10〜40重量部、好ましくは15〜35重量部含有している。
【0046】
本発明に用いる樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機物充填材、無機物充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤などの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で添加されていてもよい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、有機ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤が挙げられる。紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0047】
帯電防止剤としては、ノニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤などが挙げられる。分散剤としてはビスアミド系分散剤、ワックス系分散剤、有機金属塩系分散剤が挙げられる。
難燃剤としては、リン酸系難燃剤、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マグネシウムの炭酸塩、赤リン等が挙げられる。ブロッキング防止剤としては、シリカ、天然ゼオライト、合成ゼオライト、カオリン、タルク、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、溶融シリカ、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ハドロタルサイト等が挙げられる。スリップ剤としては、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドが好適である。
【0048】
本発明に係る樹脂組成物の調製法に格別な制限はない。例えば、(1)脂環式構造含有重合体(A)及び重合体(B)並びに他の添加剤をヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダーなどの混合器を用いて混合することによって、(2)更に(1)の混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどにより溶融混練することによって、(3)脂環式構造含有重合体(A)及び重合体(B)並びに他の添加剤を溶媒に溶かして、それを貧溶媒に添加して凝固させ、次いで乾燥することによって、得ることができる。樹脂組成物は成形しやすいように、造粒あるいは粉砕、又はペレット化することが好ましい。
【0049】
本発明の延伸成形体は、延伸して形成されたものである。延伸方法に格別な制限はなく、一軸延伸、二軸延伸などにより形成されたフィルム状のものであっても良いし、ブロー成形などにより形成された容器状のものであっても良い。また、本発明の延伸成形体表面の最大高さRyは100nm以下、好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下のものである。本発明において最大高さRyは実施例に記載した方法により測定されるものである。
【0050】
フィルム状の延伸成形体を得るには、通常、前記脂環式構造含有重合体(A)と重合体(B)とを含有する未延伸フィルムを延伸することにより得ることができる。未延伸フィルムは、前記脂環式構造含有重合体(A)と重合体(B)とを含有する樹脂組成物を溶融成形することによって得られる。溶融成形法としては、Tダイ法、インフレーション法、プレス成形法、射出成形法など公知の方法が挙げられる。未延伸フィルムの厚さは、通常50〜500μmの範囲であり、好ましくは50〜300μmの範囲である。
【0051】
未延伸フィルムを延伸する方法に格別な制限はなく、例えばロール方式、テンター方式、及びチューブ方式のいずれの方式で行うこともできる。延伸温度は、未延伸フィルムを構成している脂環式構造含有重合体(A)のガラス転移温度よりも0〜60℃、好ましくは10〜40℃高い温度であることが好ましい。本発明においては、一軸又は二軸延伸のどちらでも良いが、一軸延伸(横方向;TD方向)に延伸するのが好ましい。延伸倍率は特に限定されないが、TD方向に1〜10倍の範囲であると好ましく、1〜6倍の範囲であると特に好ましい。一軸延伸においても必要に応じて、例えば長さ方向(縦方向;MD方向)にも、低い延伸倍率(例えば1.5倍以下)で延伸処理を施すことができる。本発明においては、このように、一方向のみ延伸された一軸延伸フィルム、及び主に一方向に延伸され、且つ該方向と直交する方向に若干延伸された二軸延伸フィルムが含まれる。
【0052】
フィルム状の延伸成形体の厚さは、5〜400μmの範囲であると好ましく、8〜150μmの範囲であると特に好ましい。厚さがこの範囲にあると、耐裂性、透明性、防湿性が良好である。
【0053】
フィルム状の延伸成形体は、それを構成する脂環式構造重合体樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)よりも20℃低い温度から80℃高い温度の範囲内、例えば60〜120℃の範囲の温度雰囲気下に保持した場合に熱収縮が起こり、その際の延伸方向の熱収縮率は通常30〜90%の範囲、好ましくは50〜80%の範囲にあることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にあると、該フィルムの被包装体への密着性およびフィルムの諸物性が高度にバランスされる。
本発明のフィルム状の延伸成形体によって被包装体を収縮包装する場合には、当該延伸成形体によって被包装体を大まかに包み、次に熱風トンネルに通して加熱する。そうすると延伸成形体が収縮し、延伸成形体が被包装体に密着して被包装体が包装される。
【0054】
フィルム状の延伸成形体は、耐偏肉性、防湿性、機械強度に優れている。このような特性から本発明の延伸成形体は、医療用包装、食品包装、及び器具、電子部品、文具、ノートなど雑貨類の保存・運搬用の包装材料、キャップ、栓等の開封防止用シール包装材料等に用いられる。
これらの用途のため、必要に応じてフィルム状の延伸成形体に、凸版印刷、凹版印刷、平板印刷、インクジェット印刷等の印刷加工を施すこともできる。
【0055】
フィルム状の延伸成形体は、前記樹脂組成物の層(I)だけからなる単層フィルムであってもよいし、必要に応じてポリエチレン系結晶性樹脂およびポリプロピレン系結晶性樹脂などの他の樹脂からなる層(II)を積層した多層フィルムでもよい。多層フィルムの層構成は特に限定されないが、例えば層(I)/層(II)、層(I)/層(II)/層(I)、層(II)/層(I)/層(II)のように積層することもできる。中でも、皮脂と接触する面に層(I)を積層することが好ましい。更に、前記多層フィルムは層(I)と層(II)の間に、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂接着剤、ポリビニルエーテル、アクリル樹脂、酢酸ビニルーエチレン共重合体などの熱可塑性樹脂接着剤、ポリアミド樹脂系ホットメルト接着剤、ニトリルゴムなどのゴム系接着剤などからなる接着層を含んでも良い。
【0056】
積層構造のフィルムは、その製法によって特に限定されない。例えば、(I)前記樹脂組成物の単層未延伸フィルムに、他の樹脂からなるフィルムを貼合した後延伸することによって、(II)前記樹脂組成物の単層フィルムを延伸し、それに他の樹脂からなる延伸又は未延伸のフィルムを貼合することによって、(III)前記樹脂組成物の単層未延伸フィルムに他の樹脂の溶液を塗布して、乾燥し、延伸することによって、(IV)前記樹脂組成物を延伸フィルムにコーティングすることによって、又は、(V)前記樹脂組成物と他の樹脂とを共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出し、次いで延伸することによって得ることができる。
【0057】
容器状の延伸成形体を得るには、ブロー成形を採用することができる。具体的には、脂環式構造含有重合体(A)と重合体(B)との樹脂組成物を射出成形して、開口部を有する中空体であるプリフォームを成形する工程、得られたプリフォームを200〜700℃の加熱ポットにより加熱する工程、加熱したプリフォームをブロー金型内に挿入しエアーを吹き込み、延伸ロッド等を用いて延伸ブロー成形する工程を経る方法が好ましい。樹脂組成物には、上述したフィルム状の成形体を形成するのに配合可能な添加剤を配合することができる。
【0058】
ブロー成形の延伸倍率は特に限定されないが、縦方向の延伸倍率yが、好ましくは0.9以上、最も好ましくは1以上1.35以下であり、縦方向の延伸倍率(y)に対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が、好ましくは1.25以上1.9以下、最も好ましくは1.3以上1.8以下である。縦方向の延伸倍率y及び、縦横延伸倍率比(x/y)が上記範囲にあると、耐ソルベントクラック性の点で好ましい。縦方向の延伸倍率(y)とは、プリフォーム首下(延伸される部分)の長さに対する容器の首下(延伸された部分)の長さの比率であり、横方向の延伸倍率(x)とは、プリフォームの横方向の最大径に対する、容器の横方向の最大径の比率である。
【0059】
ブロー成形容器の厚みは、通常0.5〜3mm、好ましくは0.7〜2mmである。又、容器の形状としては、円柱状、角柱状、球状等が挙げられる。更に、開口部から底部にかけての裾広がり形状であっても、高さ方向の中央部が膨らんだ形状などであっても良い。ブロー成形容器の底部形状は特に限定されないが、底部の外周に環状接地部が形成され、底部中央が容器内方向に突出する状態で形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、部および%は、特に記載のない限り重量基準である。
【0061】
使用した樹脂材料の評価は以下の(1)〜(3)の方法で行った。
(1)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に基づき、示差走査熱量分析法(DSC法)により測定した。
(2)メルトインデックス(MI)
JIS K 7210のA法に準拠して、荷重測定温度280℃、測定荷重2.16kgfの条件で測定した。
(3)引張応力及び引張破断伸び(引張試験)
平均厚さ100μmの未延伸フィルムを溶融押出によって形成し、MD方向に平行に長さ42mm、TD方向に平行に長さ52mmの試験片を切り出した。この試験片を、脂環式構造含有重合体(A)のTgより16℃高い温度で、且つ引張速度500mm/分で、JIS K 7113に準じて、TD方向に引っ張り、その際のひずみ及び引張応力の関係と引張破断伸びを測定した。そして、100%ひずみにおける引張応力、300%ひずみにおける引張応力及び500%ひずみにおける引張応力(単位:MPa)を求めた。
【0062】
延伸成形体の評価は以下の(1)〜(2)の方法で行った。
(1)最大高さRy
延伸成形体をエポキシ樹脂に埋没させ、延伸成形体の断面が観察できるようにミクロトームで薄膜を切り出した。該薄膜を透過型電子顕微鏡で観察して、断面の凹凸形状(粗さ曲線)の平均線の方向に基準長さ14μm抜き出し、その抜き出し範囲で、最大高さRyを、JIS B O601−1994に従って求めた。
(2)ソルベントクラック
延伸成形体の表面に、植物油を薄く塗布した。塗布から2時間経過後に植物油をふき取り、表面を目視観察してクラック又は白化の有無を確認した。
【0063】
(実施例1)
脂環式構造含有重合体a(トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(以下、DCPという)とビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下、NBという)との開環重合体水素化物;共重合比DCP/NB(重量比)=80/20、Mw45,000、Tg=70℃、MI=27g/10分)100部、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:AO−50、旭電化工業社製)0.1部を含有するペレットa 100部と、脂環式構造含有重合体c(DCPと8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、EdTCDという)との開環重合体水素化物;共重合比DCP/EdTCD(重量比)=85/15、Mw=41,300、Tg=105℃、MI=20g/10分)100部、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:AO−50、旭電化工業社製)0.1部を含有するペレットc 6部と、をブレンダーで混合し、次いで、二軸混練機で混練し、ガラス転移温度70.4℃の脂環式構造含有重合体(A)を得た。
【0064】
脂環式構造含有重合体(A)を、リップサイズ0.5mm×300mm及び温度225℃のTダイから、溶融樹脂温度200℃で押出し、温度60℃のキャストロール及び温度50℃の冷却ロールで引き取り、厚さ100μmの未延伸フィルムを得た。なお、押出成形時に脂環式構造含有重合体(A)が貯蔵されているホッパーの下部よりホッパー内へ窒素を導入した。未延伸フィルムをキャストロールに密着させる際には、エアーナイフを用いた。こうして得られた脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの、86.4℃における引張破断伸びと引張応力を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
脂環式構造含有重合体(A)100部と、重合体(B)として直鎖状低密度ポリエチレン(製品名「KF380」:日本ポリエチレン社製;86.4℃における100%ひずみにおける引張応力3.72MPa、300%ひずみにおける引張応力4.23MPa、500%ひずみにおける引張応力5.59MPa、樹脂密度=0.918、MI=4.0g/min(190℃)、融点=106℃;表中LLDPEと表記する。)30部とをブレンダーで混合し、次いで55℃で4時間乾燥して、樹脂組成物を得た。
【0066】
前記樹脂組成物を、リップサイズ0.5mm×300mm及び温度225℃のTダイから、溶融樹脂温度200℃で押出し、温度60℃のキャストロール及び温度50℃の冷却ロールで引き取り、厚さ100μmの未延伸フィルムを得た。脂環式構造含有重合体(A)のTg+16℃と、脂環式構造含有重合体(A)のTg+20℃との、二つの延伸温度条件で、前記未延伸フィルムを、TD方向に2倍延伸して、フィルム状の延伸成形体をそれぞれ得た。延伸成形体の評価結果を表3に示す。
【0067】
(実施例2〜7、比較例1〜2)
脂環式構造含有重合体(A)及び重合体(B)の処方を表1及び表3に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。各重合体(A)と(B)の引張試験の結果を表2に示す。
この樹脂組成物を実施例1と同様にして成形及び延伸して、フィルム状の延伸成形体を得た。評価結果を表3に示す。
尚、ペレットbは、DCPとNBとの開環重合体水素化物(共重合比:DCP/NB(重量比)=80/20、Mw58,000、Tg=71℃、MI=12g/10分)100部とヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:AO−50、旭電化工業社製)0.1部とを含有するものである。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表中、100%Mb、300%Mb、及び500%Mbは、それぞれ、100%、200%、500%のひずみにおける重合体(B)の引張応力(単位MPa);100%Ma、300%Ma、500%Maは、それぞれ、100%、200%、500%のひずみにおける重合体(A)の引張応力(単位MPa)である。
【0071】
(実施例8〜9)
Tダイの温度を、220℃又は230℃に変更したこと以外は実施例2と同様にしてフィルム状の延伸成形体を得た、評価結果を表3に示す。
この結果から、Tダイの温度が10℃違っても、Ryの変動がほとんど無いことが判る。
【0072】
(比較例3〜4)
Tダイの温度を、220℃又は230℃に変更し、脂環式構造含有重合体(A)と重合体(B)との配合割合を表3に記載した処方に変更したこと以外は実施例2と同様に、脂環式構造含有重合体(A)のTg+16℃延伸して、フィルム状の延伸成形体を得た。評価結果を表3に示す。この結果から、重合体(B)の割合が多いと、Tダイの温度の変動によって、Ryが大きく変動することが判る。
【0073】
【表3】

【0074】
(実施例10)
実施例2において、延伸温度87.2℃で延伸して得られた延伸成形体の、ソルベントクラックを評価したが、クラックは確認されなかった。
【0075】
(比較例5)
脂環式構造含有重合体(A)/重合体(B)(直鎖状低密度ポリエチレン)の重量比を100/5に変更したこと以外は実施例2と同様にしてフィルム状の延伸成形体を得た。得られた延伸成形体のソルベントクラックを評価した結果、クラックの発生が認められた。
【0076】
以上の結果から、本発明の樹脂組成物は、成形条件及び延伸条件のマージンが広いので、成形温度、延伸温度などの条件を高精度に制御することなく、膜厚が均一なフィルムを得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体(A)100重量部、及び、脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)10〜40重量部を含有する樹脂組成物を用いてなる延伸成形体であって、その表面の最大高さRy(JIS B O601−1994)が100nm以下である延伸成形体。
【請求項2】
前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における、前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍である請求項1記載の延伸成形体。
【請求項3】
脂環式構造含有重合体(A)100重量部、及び、当該脂環式構造含有重合体(A)に対して非相溶の重合体(B)10〜40重量部を含有し、かつ、前記脂環式構造含有重合体(A)からなるフィルムの100%ひずみにおける引張応力Mが、該M測定条件と同じ条件における、前記重合体(B)からなるフィルムの引張応力Mの0.4〜2.0倍である樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−31640(P2007−31640A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220289(P2005−220289)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】