説明

建築接続金具及び建築物

【課題】施工後の経時変化による金具の緩みや接合部の損壊を回避できるとともに、製造コストの上昇も抑制できる建築接続金具を提供する。
【解決手段】本発明の建築接続金具10は、それぞれ平坦な板状に構成され、相互に平行に配置された一対の金属板部品11,12と、該一対の金属板部品を連結する連結部品13とを具備し、金属板部品は、複数のピン挿通孔11a,11a′12a,12a′をそれぞれ備えてなる左右一対の側板部11A、11A′、12A、12A′と、一対の側板部の間に配置されてなる中間部11B、12Bとを具備し、連結部品は、一対の金属板部品の中間部にそれぞれ固着され、その左右いずれか少なくとも一方の表面が一対の金属板部品の中間部間において金属板部品と直交し、上下方向に延長された面となっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築接続金具及び建築物に係り、特に、木造軸組工法に用いられる建築接続金具、並びに、当該建築接続金具を用いた建築構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、木造軸組工法用の建築接続金具としては、一対の側板部が連結部と一体に構成され、水平断面がコ字状に形成され、一対の側板部にそれぞれピン挿通孔を設けるとともに、各側板部の側端縁の側にピン係合溝を形成した第1の建築接続金具が知られている(例えば、以下の特許文献1乃至3参照)。これらの第1の建築接続金具は、たとえば、木造軸組工法において柱材と梁材の接合部に用いられる場合、以下のように用いられる。
【0003】
まず、連結部に設けられた複数のボルト挿通孔を通して柱材にボルトを挿通し、ナット等で固定することにより、柱材の側面部に連結部を当接させた姿勢で建築接続金具を固定し、次に、梁材の端部に一対の摺り割り状の収容溝と、当該収容溝を横断する方向に貫通する複数の横断孔とを予め形成し、この梁材を、一つの横断孔に挿通ピンを挿通させた状態で上記建築接続金具に対して斜め上方から係合させる。このとき、上記挿通ピンが建築接続金具の上記ピン係合溝に係合することで、梁材の端部が柱材に保持される。その後、梁材に設けられた上記横断孔及び建築接続金具に設けられた上記ピン挿通孔を通過するように他の挿通ピンを打ち込むことで、柱材と梁材が強固に接続される。
【0004】
一方、梁材の端部同士を接続するための建築接続金具の一種として、両側端縁の側にそれぞれピン係合溝を設けるとともにピン挿通孔を設けた一対の側板部を備えた、全体として平坦な板状に構成された一対の金属板部が平行に配置され、該一対の金属板部の中間部同士が連結されて一体に構成されてなる第2の建築接続金具も知られている(例えば、以下の特許文献4及び5参照)。このような第2の建築接続金具によれば、梁材同士を強固に接続することが可能になる。
【特許文献1】特開昭59−217850号公報
【特許文献2】特開2003−232087号公報
【特許文献3】特開平8−239911号公報
【特許文献4】特開2000−54488号公報
【特許文献5】意匠登録第1128517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の第1の建築接続金具では、建築接続金具を柱材に固定するために柱材を貫通するボルト及びナットを用いているので、当該ボルト及びナットで締め付けた柱材の幅が施工後に収縮すると、建築接続金具の取り付け状態が緩むことにより、柱材と梁材の接合部の位置ずれが生じたり、或いは、当該接合部の密着性が失われることによる強度低下、さらには、ボルトの折損やナットの脱落等による上記接合部の損壊などを招く虞があるという問題点がある。
【0006】
また、近年の木造軸組工法では、柱材として従来より格段に大きな幅を有する集成材を用いる場合が多くなってきているので、施工後の柱材の幅の変化も大きくなる可能性があり、また、このような集成材よりなる大断面を備えた柱材は高剛性を要求される建築物に用いられる場合が多いために柱材と梁材の接合部に加わる応力も大きくなるため、上記接合部の位置ずれ、強度低下、損壊などを招く重大な危険性をはらんでいる。
【0007】
一方、前述の第2の建築接続金具には、梁材の端部同士を確実に接合することができるものの、金具の形状や構造が特殊であって汎用性に乏しいことから、製造コストが高くなるという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、施工後の経時変化による金具の緩みや接合部の損壊を回避できるとともに、製造コストの上昇も抑制できる建築接続金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる実情に鑑み、本発明の建築接続金具は、それぞれ平坦な板状に構成され、相互に平行に配置された一対の金属板部品と、該一対の金属板部品を連結する連結部品とを具備する木材接続用の建築接続金具であって、前記金属板部品は、複数のピン挿通孔をそれぞれ備えてなる左右一対の側板部と、該一対の側板部の間に配置されてなる中間部とを具備し、前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着され、その左右いずれか少なくとも一方の表面が前記一対の金属板部品の前記中間部間において前記金属板部品と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面となっていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、一対の金属板部品が一対の側板部の間の中間部において連結部品により固着されることで、柱材と梁材を接合する際に、一方の側板部を柱材に設けた柱側溝に収容し、他方の側板部を梁材に設けた梁側溝に収容した状態で、それぞれ柱材、梁材に打ち込んだ挿通ピンで固定することができる。したがって、上記従来の第1の建築接続金具のように連結部に設けたボルト挿通孔を用いてボルトで柱材に固定する場合とは異なり、柱材の幅が多少変化しても取付状態に不具合が生ずる虞が低減される。なお、上記の説明はあくまでも第1の建築接続金具との対比であって、在来のホゾ等による接合部に比べると断面欠損がほとんど生じない上に金物の有無により強度では問題にならず、また、従来一般のホールダウン金物などに比べても格段に接合部の剛性を高めることができることは当然である。
【0011】
また、従来の第1の建築接続金具の柱材に対するボルト固定ではボルトに対する荷重負担が大きくなるとともに柱材のボルトに対する当接部分に荷重が集中するが、本発明の建築接続金具では挿通ピンを柱材と側板部のピン挿通孔に挿通させて固定するので、挿通ピンへの荷重負担の軽減並びに柱材への荷重の分散を図ることができる。
【0012】
さらに、一対の金属板部品の間に固着された連結部品によって例えば柱材と梁材の間に連結部品が介在する態様で接合を行うことができるので、接合部に対する位置決めを容易に行うことができる。特に、連結部品の左右いずれか少なくとも一方の表面が金属板部品と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面となっていることにより、当該面を例えば柱材の側面部に当接させることで、予め既定の深さ及び姿勢で確実に取付けることができる。この効果は、本発明の建築接続部品を梁材同士の接合に用いる場合など、他の接続部に用いる場合でも得られる。
【0013】
しかも、本発明の建築接続金具を構成する上記金属板部品がピン挿通孔を備えた一対の側板部と、該一対の側板部の間に配置され、上下方向に配列された複数のボルト挿通孔を備えてなる中間部とを有することにより、金属板部品を連結部品にて連結する前にそのまま水平断面コ字状に折り曲げることにより、一対の側板部が中間部(上記連結部に相当するものとなる。)に対してそれぞれ直角に折り曲げられて互いに平行に配置されてなる従来の第1の建築接続金具を作成することも可能になる。したがって、金属板部品を他の建築接続金具の原型としても共通に用いることができるため、建築接続金具の製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明の一の態様においては、前記中間部に上下方向に配列された複数のボルト挿通孔が設けられている。このボルト挿通孔は、各金属板部品をコ字状に折り曲げて従来と類似した建築接続金具を形成する場合の連結部に設けられたボルト挿通孔となる点で有利である。また、この場合、前記連結部品と前記中間部とが前記ボルト挿通孔を通して溶接固定されることが好ましい。これによれば、連結部品が中間部に設けられたボルト挿通孔を通して溶接固定されることで、溶接強度を高めることができ、また、製造時の溶接作業も容易になる。ここで、上記中間部のボルト挿通孔と重なる連結部品の部分にも孔(連結孔)が形成されていることが望ましく、この場合には、当該連結孔とボルト挿通孔の開口縁同士を溶接することで金属板部品と連結部品の接合作業を更に容易化でき、しかも接合強度を高めることができる。
【0015】
本発明の他の態様においては、前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着された一対の固定片部と、該一対の固定片部を連結する連結片部とを一体に有する水平断面コ字状で上下方向に延長された形状に構成されている。これによれば、一対の金属板部品の間に連結片部のみが存在する態様で建築接続部品を構成することが可能になるので、接合部の間に介在する連結部品の厚みを低減することができ、したがって接合部に面した材料の仕口構造を簡易化でき、また、その加工作業も容易化できる。
【0016】
本発明の別の態様においては、前記一対の前記側板部の少なくとも一方の前記側板部の側端縁の側には上方に開口したピン係合溝が形成されている。これによれば、ピン係合溝を設けることで、柱材に梁材の端部を接合する場合に、予め梁材の端部に挿通ピンを挿通させておき、梁材の端部を柱材の接合箇所へ向けて上方から降下させることで、当該挿通ピンが上記ピン係合溝に係合して接合部が仮止めされるように構成できるから、接合作業をさらに容易に行うことが可能になる。
【0017】
次に、本発明の建築物は、柱材と、該柱材の側面部に接続された梁材とを備えた木造軸組を具備する建築物において、前記柱材の前記側面部には平行に配置された一対の柱側溝が穿設され、前記側面部に対向する前記梁材の端面部には前記柱側溝と等間隔で平行に配置された一対の梁側溝が穿設され、前記一対の柱側溝の開口部と前記一対の梁側溝の開口部とが対向配置され、前記柱側溝及び前記梁側溝には、全体として平坦な板状に構成され、相互に平行に配置された一対の金属板部品と、該一対の金属板部品を連結する連結部品とを具備する建築接続金具が収容され、前記一対の金属板部品は、前記一対の柱側溝と前記一対の梁側溝にそれぞれ収容され、複数のピン挿通孔がそれぞれ形成されてなる左右一対の側板部と、該一対の側板部の間に配置される中間部とをそれぞれ有し、前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着され、その左右いずれか少なくとも一方の表面が前記一対の金属板部品の前記中間部間において前記金属板部品と直交し、上下方向に延長された面とされて、前記柱材における前記一対の柱側溝間の端面部と前記梁材における前記一対の梁側溝間の端面部との間に配置され、前記柱側溝に収容された前記側板部に設けられた前記ピン挿通孔を通過する態様で前記柱材に挿通された挿通ピンと、前記梁側溝に収容された前記側板部に設けられた前記ピン挿通孔を通過する態様で前記梁材に挿通された挿通ピンと、をさらに具備することを特徴とする。
【0018】
本発明の一の態様においては、前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着された一対の固定片部と、該一対の固定片部を連結する連結片部とを一体に有する水平断面コ字状で上下方向に延長された形状に構成され、前記連結片部が前記柱材の前記端面部と、前記梁材の前記端面部との間に配置されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本実施形態の建築接続金具の側面図、図2は同建築接続金具の平面図である。本実施形態の建築接続金具10は、それぞれ平坦な板状に構成された一対の金属板部品11、12と、この金属板部品11と12を連結する連結部品13とを有する。
【0020】
金属板部品11,12は、各種の金属、特に高い剛性を備えたステンレス鋼などの各種鋼材で構成される。金属板部品11,12は、一対の側板部11A、11A′及び12A、12A′と、一対の側板部の間に形成された中間部11B、12Bとを有している。側板部11A、11A′、12A、12A′には、円形の開口形状を備えた複数のピン挿通孔11a、11a′、12a、12a′が平面的に分散した状態でそれぞれ形成されている。また、側板部11A、11A′、12A、12A′の側端縁11e、11e′、12e、12e′の側には、上方に開放された半円形の開口形状を備えたピン係合溝11b、11b′、12b、12b′がそれぞれ形成されている。これらのピン係合溝は図示例のように各側板部に一つずつ設けられる場合に限られるものではなく、複数のピン係合溝が設けられていてもよい。
【0021】
上記金属板部品11,12において、一対の側板部の間に設けられた中間部11B、12Bには、上下方向に配列された複数のボルト挿通孔11c、12cが形成されている。本実施形態の中間部11B、12Bは、連結部品13が固着された部分、或いは、上記ボルト挿通孔11c、12cが形成された部分である。
【0022】
上記の金属板部品11,12は相互に平行に配置され、しかも、上記ピン挿通孔11aと12a、及び、11a′と12a′とが共通の軸線上に位置するように構成されている。また、ピン係合溝11bと12b、及び、11b′と12b′も共通の軸線上に位置するように構成されている。
【0023】
ピン挿通孔11a,12aは、それぞれ側板部11A、11A′、12A、12A′において左右方向の異なる複数(図示例では三つ)の位置にそれぞれ形成されている。このように左右方向に見て複数列の、すなわち接合面からの距離が相互に異なる位置に、ピン挿通孔11a,12aを有することで、接合部に加わる応力(上下方向のせん断力や曲げモーメント)に対する剛性を高めることができる。特に、三列以上のピン挿通孔11a,12aを設けることで、さらに剛性を向上できる。
【0024】
また、各側板部11A、11A′、12A、12A′内において複数のピン挿通孔11a、11a′12a、12a′は図中二点鎖線で示すように水平方向又は垂直方向(好ましくは水平方向及び垂直方向)に直線状に配列されている。これは、後述する柱材や梁材などといった接合材の木目が水平方向又は垂直方向に伸びているからであり、これらの接合材の強度の低下を極力小さくしつつ、ピン挿通孔及びこれに挿通される挿通ピンの数を増やして接合部の剛性を高めるためである。例えば、ピン挿通孔が水平方向又は垂直方向に見て千鳥状に配列されている場合には、当該ピン挿通孔を横断する横断孔をも接合材において千鳥状に穿孔する必要があるため、これにより接合材の構成繊維束の多くを切断してしまうこととなり、当該接合材の強度を大幅に低下させる。特に、複数のピン挿通孔が等間隔に形成されていることにより、さらに接合材の強度の低下を抑制できる。このような作用効果は、柱材や梁材等の接合材として集成材(通常の材木より強度が高い。)を用いる場合に特に大きくなる。
【0025】
本実施形態の場合には、ピン係合溝11b、11b′、12b、12b′も各側板部内においてピン挿通孔に対して水平方向又は垂直方向に直線状にずれた位置に形成されている。そして、当該ピン係合溝についても上記と同様に接合材の対応する位置に横断孔を穿孔することから、上記と同様の作用効果を奏する。特に、ピン係合溝とピン挿通孔が全て等間隔に形成されることで、接合材の強度の低下を更に抑制できる。なお、図示例においてピン係合溝の側端縁11e、11e′、12e、12e′側の縁部は側板部の上縁位置と同じ高さに設定されている。これは、後述する梁材に挿通させたピンの引っ掛かりを容易にするためである。
【0026】
連結部品13は、上記金属板部品11,12の中間部11B、12Bに固着されている。具体的には、連結部品13は水平断面コ字状に形成され、上下方向に延長された形状を有する枠状部品であり、上記中間部11B、12Bにそれぞれ固着された一対の固定片部13A、13Bと、これらの固定片部13Aと13Bを連結する連結片部13Cとを有している。固定片部13A,13Bは平坦な板状に構成され、金属板部品11,12と平行な外面を有して中間部11B、12B上に重なった状態で固着され、連結片部13Cは固定片部13A,13Bと相互に水平面上で直交する平板状に構成されている。
【0027】
ここで、連結部品13は、金属板部品11と12の間に配置されているが、特に、左右両側の表面(図示例では連結片部13Cの表裏面)が金属板部品11,12と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面とされている。これによって、後述するように柱材や梁材に対する深さ方向の位置決め及び姿勢の保持が容易になり、柱材や梁材に設けられた横断孔とピン挿通孔との整合性を確保できる。この場合、連結部品13の少なくとも一方の表面が金属板部品11,12と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面であれば、上記の位置決めや姿勢の保持に関する効果を得ることができる。
【0028】
固定片部13A,13Bは、好ましくは中間部11B、12Bに設けられたボルト挿通孔11c、12cを通して溶接によって固着される。すなわち、ボルト挿通孔11c、12cの開口縁部を、好ましくは全周に亘り、固定片部13A、13Bに溶接する。このようにすると溶接作業が容易になるとともに、溶接部の強度を高めることができる。固定片部13A,13Bには図2に点線で示すように連結用の孔(以下、連結孔という。)13a,13bが形成されることがより好ましい。当該連結孔13a,13bとボルト挿通孔11c、12cとは相互に開口縁同士が一致するように重なり形成される。そして、この場合には、両孔の開口縁同士を溶接することで、金属板部品11,12と連結部品13とをさらに容易かつ強固に固定できる。
【0029】
上述の金属板部品11は、上記連結部品13と固着する前において、一対の側板部11A,11A′、を中間部11Bに対してそれぞれ直角に折り曲げることにより、図3に示すように、水平断面がコ字状で、一対の側板部11と12が相互に平行に配置されてなる建築接続金具10′とすることができる。なお、金属板部品12を用いて上記と同様の建築接続金具10′を形成可能であることは明らかであるので、図3及び図4には金属板部品11を用いて製造した建築接続金具10′のみを示し、以下においても金属板部品11を用いて製造した建築接続金具10′について説明する。
【0030】
金属板部品11を用いた図3に示す建築接続金具10′は、用途や材木の寸法などによって異なる寸法形状とされる。特に、図1に示す中間部11Bと側板部11Aに設けられた最も中間部11B側のピン挿通孔11aの軸芯との距離T、並びに、中間部11cの端部とボルト挿通孔11cの軸芯との距離Uは、所要の剛性を得ることができるだけの寸法がそれぞれ確保されていればよい(通常は各孔の開口径の1.5倍、好ましくは2.0倍、さらに望ましくは2.5倍以上の距離が存在すればよい。)ので、当該寸法を確保できる範囲で変更できる。したがって、金属板部品11から異なる距離T、Uを有する金具(すなわち、一対の側板部の長さ及びこれらの間隔が異なる金具)を製造することができる。なお、上記では側板部11Aと中間部11Bとの関係に言及したが、側板部11A′と中間部11Bとの関係も上記と同様である。
【0031】
なお、各側板部に設けられたピン挿通孔やピン係合溝の軸芯は、側板部の端縁に対して孔や溝の開口径の1.5倍、好ましくは2.0倍、さらに望ましくは2.5倍以上の距離Vだけ離間していることが好ましい。これによって充分な剛性を確保できる。
【0032】
この建築接続金具10′は、図4に示すように、柱材Pと梁材Bとを接合する場合に用いることができる。この場合、この建築接続金具10′を用いた柱材Pと梁材Bの接合方法は従来方法と同様である。すなわち、中間部11Bを連結部として用いて柱材Pの側面部に当てた状態で、ボルトVがボルト挿通孔11cを通して柱材Pを貫通し、その後、ボルトVにナットNを螺合させて固定する態様で、建築接続金具10′を柱材Pに固定する。そして、梁材Bの端部にスリット状の一対の梁側溝Ba,Baを形成するとともに、当該一対の梁側溝Baを横断する複数の横断孔Bbを形成し、さらに一対の梁側溝Ba間の端面を僅かに凹状に加工して凹状端面部Bcを形成し、挿通ピン(ドリフトピン)S1を上記横断孔Bbの一つに挿入して一対の梁側溝Ba,Baを横断するように挿通してから、梁材Bの端部を上方より上記建築接続金具10′へ向けて降下させる。これにより、図示のように一対の梁側溝Ba,Baに建築接続金具10′の一対の側板部11A、11A′が収容され、上記挿通ピンS1が上記ピン係合溝11b、11b′に係合することで、梁材Bは建築接続金具10′を介して柱材Pに支持固定される。このとき、上記の凹状端面部Bcは上記中間部11Bの厚みを収容する。その後、複数の挿通ピン(ドリフトピン)S2を上記一対の側板部11A,11A′のピン挿通孔11a,11a′を通過する態様で梁材Bの横断孔Bbに挿入することで、柱材Pと梁材Bの接合強度を高めることができる。
【0033】
上記のように、本実施形態の建築接続金具10においては、その金属板部品11,12が建築接続部品10′の部品としても用いることができるため、部品を共通化できることで全体として製造コストを低減することが可能になる。
【0034】
図5は、本実施形態の建築接続金具10を柱材Pと梁材Bの接合に用いた様子を示す概略斜視図である。建築接続金具10を用いて柱材Pと梁材Bの接合を行う場合は、予め、柱材Pの側面部に一対の柱側溝Pa、Paを平行に穿設し、当該柱側溝Pa,Paを横断する複数の横断孔Pbを形成しておく。そして、上記柱側溝Pa,Paに上記一対の金属板部品11,12のそれぞれ一方の側板部11A、12Aを収容し、複数の挿通ピン(ドリフトピン)Saを柱側溝Pa,Pa及びここに収容された側板部11A,12Aの複数のピン挿通孔11a,12aを通過する態様で上記横断孔Pbに挿入することで、建築接続金具10を柱材Pに固定する。このとき、柱材Pの一対の柱側溝Pa,Pa間の端面部(接合状態で梁材Bの上記凹状端面部Bcと連結部品13を挟んで対向する端面部)を上記連結片部13Cに当接させることにより建築接続部品10の柱側溝Paに対する深さ方向の位置決め及び姿勢の保持(上記端面部に連結片部13Cの表面を当接させれば垂直姿勢が得られる。)を行うことで、柱材Pの上記横断孔Pbと建築接続金具10の上記ピン挿通孔11a,12aとの位置の整合性を容易に得ることができる。
【0035】
次に、前述の建築接続金具10′を用いる場合と同様に、梁材Bの端部に一対の梁側溝Ba,Ba、複数の横断孔Bb、及び、凹状端面部Bcを形成し、挿通ピン(ドリフトピン)Sbを予め横断孔Bbの一つを通して挿通させておき、上述と同様に柱材Pに固定された建築接続金具10に対して上方より梁材Bの端部を降下させることで、建築接続金具10の一対の側板部11A′、12A′が梁側溝Ba,Baに収容され、これらに形成されたピン係合溝11b′、12b′に上記挿通ピンSbが係合して梁材Bが柱材Pに支持されるようにする。その後、他の複数の横断孔Bbに挿通ピン(ドリフトピン)Scを挿入し、これらの挿通ピンScが梁側溝Ba及びピン挿通孔11a′、12a′を通過した状態とする。
【0036】
なお、上記柱側溝Paと梁側溝Baの少なくとも一方は金属板部品11,12と、この中間部11B、12Bに固定された連結部品13の固定片部13A,13Bを収容可能な幅を有するものとされる。図示例の場合には、少なくとも柱側溝Paの幅が金属板部品11,12の厚みと固定片部13A、13Bの厚みとの合計以上になるようにして、連結片部13Cが柱側溝Pa間にある端面部に当接可能な構造とされる。
【0037】
上記のように構成された建築接続金具10を介した柱材Pと梁材Bの接合構造では、図4に示す構造とは異なり、柱材Pの幅Wが縮小しても建築接続金具10の取り付けが緩んだりボルト及びその支持部に大きな応力が集中したりすることが抑制されるので、梁材Bの位置ずれや接合構造の破壊などを招くことがなくなる。また、この建築接続金具10は接合面からの距離か異なる複数の挿通ピンを介して柱材Pと梁材Bのいずれに対してもせん断力と曲げモーメントの双方を伝達できるため、地震等の複雑な外部応力に対して極めて大きな耐力を有している。
【0038】
本願発明者らは、実際に上記建築接続金具を集成材を用いた柱材と梁材の接合部に適用した構造の耐力試験を行った。図6は、上記の建築接続金具10を用いた接合構造で構成したラーメン構造体20を示す。このラーメン構造体20は、基礎構造21上に底部接続金具21、21を介して柱材PA、PBを立設し、この柱材PAとPBの間にそれぞれ上記建築接続金具10、10を介して梁材BAを架設したものである。ここで、梁材BAに上方から荷重を加えた状態で柱材PAに横方向の応力を周期的に加え、耐力を確認した。その結果、接合部周囲の柱材PA、PB及び梁材BA自体の破壊に至るまで梁材Bの位置ずれや接合構造の破壊は生じなかった。具体的には柱材PA,PBと梁材BAの接合部は全く破壊されず、柱材PA、PBにおける接合部の外側に縦の亀裂が生じた。
【0039】
なお、上記のラーメン構造体20としては、図示二点鎖線で示すように、建築物に応じて複数の柱材や複数段の梁材を適宜に組み合わせて形成できる。このようなラーメン構造は、筋交いなどを用いる必要がないので、開口部分を居住空間や通路として全て用いることができるという利点がある。例えば梁材を三段に構成して三階建ての建築物を構成しても、充分な耐震強度を確保できる。
【0040】
図7は他の軸組構造を示す概略側面図である。この軸組構造は、柱P1上に階上梁材(二階台材)B1を支持固定し、この階上梁材B1に片持ち梁材B2を接合している。片持ち梁材B2は、階下に車庫やバルコニー等を形成する際の屋根又は階上床部の支持梁となる。このような片持ち梁構造を形成する際には、階上梁材B1と片持ち梁材B2とを上記建築接続金具10′(図示例の場合)或いは、上記建築接続金具10で接合する。このとき、階上梁材B1の反対側に保持梁材B3を上記と同様に接合し、この保持梁材B3をさらに別の階上梁材B4に上記と同様に接合する。なお、当該別の階上梁材B4は別の柱材P2上に支持固定されている。
【0041】
このような片持ち梁構造では、建築接続金具10、10′を用いることで片持ち梁材B2を強固に階上梁材B1に接合できるが、これだけでは、階上梁材B1に荷重が加わって捩れるために耐力を確保することができないので、当該階上梁材B1の背後に、片持ち梁材B1の反対側に接合する保持梁材B3を設けるとともに、当該保持梁材B3を他の階上梁材B4に接合している。このように構成することで、階上梁材B1に加わる荷重FAの一部FBを保持梁材B3及び階上梁材B4が負担し、階上梁材B1を中心に均衡することで建築物全体の耐力を向上させることができる。
【0042】
なお、上記の片持ち梁構造において、片持ち梁材B2を階上梁材B1ではなく柱材P1の上部に接合し、当該柱材P1の上部を保持梁材B3に接合してもよい。これらの接合方法は上述と同様で建築接続金具10、10′を用いることができる。この場合でも、建築物の耐力向上の作用効果は上記と同様である。
【0043】
図8は、図6に示す底部接続金具22の具体的な構造を示す側面図(a)及び縦断面図(b)である。この底部接続金具22は、底板22Aと、この底板22A上に立設固定された一対の支持板22Bとを有し、底板22Aに適宜に形成された固定孔(図示せず)などを用いて基礎構造に固定するとともに、底板22A上に配置された柱材や土台材を挿通ピンを用いて支持板22Bに固定することで、柱材や土台材を基礎構造上に接続固定するものである。
【0044】
底板22Aの表面には図8(b)に示すように凹溝22aが形成され、この凹溝22a内に上記支持板22Bの下端を導入した状態で溶接部22cを形成すること等によって底板22Aと支持板22Bとが固定される。このように構成することで、底板22Aと支持板22Bとの接続剛性を高めることができるので、構造物の耐力をさらに向上できる。
【0045】
支持板22Bには図8(a)に示すように複数のピン挿通孔22bが形成され、これらのピン挿通孔22bは、一対の支持板22Bについてそれぞれ共通の軸線に沿って配置されている。したがって、柱材や土台材の底部に一対の支持板22Bに対応する収容溝を形成するとともに、これらの収容溝を横断する複数の横断孔を上記ピン挿通孔22bに対応させて形成しておくことにより、柱材や土台材の底部を底板22A上に配置し、一対の支持板22Bが上記収容溝に収容されるように嵌合させてから、上記横断孔及びピン挿通孔22bを通過するように複数の挿通ピンを挿入することで、柱材や土台材を基礎構造上に強固に固定できる。
【0046】
尚、本発明の建築接続金具及び建築物は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。たとえば、建築接続金具においてピン挿通孔の数や形成位置は任意であり、また、ピン係合溝の有無もまた任意である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施形態の建築接続金具の側面図。
【図2】同建築接続金具の平面図。
【図3】同建築接続金具の部品である金属板部品より製作した建築接続金具の斜視図。
【図4】図3に示す建築接続金具の使用状態を示す概略斜視図。
【図5】実施形態の建築接続金具の使用状態を示す概略斜視図。
【図6】ラーメン構造体の試験方法を示す概略説明図。
【図7】片持ち梁構造の例を示す概略説明図。
【図8】底部接続金具の例を示す側面図(a)及び縦断面図(b)。
【符号の説明】
【0048】
10…建築接続金具、11、12…金属板部品、11A、11A′…側板部、11a,11a′…ピン挿通孔、11b、11b′…ピン係合溝、11B…中間部、11c…ボルト挿通孔、13…連結部品、13A,13B…固定片部、13C…連結片部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ平坦な板状に構成され、相互に平行に配置された一対の金属板部品と、該一対の金属板部品を連結する連結部品とを具備する木材接合用の建築接続金具であって、
前記金属板部品は、複数のピン挿通孔をそれぞれ備えてなる左右一対の側板部と、該一対の側板部の間に配置されてなる中間部とを具備し、
前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着され、その左右いずれか少なくとも一方の表面が前記一対の金属板部品の前記中間部間において前記金属板部品と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面となっていることを特徴とする建築接続金具。
【請求項2】
前記中間部に上下方向に配列された複数のボルト挿通孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建築接続金具。
【請求項3】
前記連結部品と前記中間部とが前記ボルト挿通孔を通して溶接固定されていることを特徴とする請求項2に記載の建築接続金具。
【請求項4】
前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着された一対の固定片部と、該一対の固定片部を連結する連結片部とを一体に有する水平断面コ字状で上下方向に延長された形状に構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建築接続金具。
【請求項5】
柱材と、該柱材の側面部に接続された梁材とを備えた木造軸組を具備する建築物において、
前記柱材の前記側面部には平行に配置された一対の柱側溝が穿設され、前記側面部に対向する前記梁材の端面部には前記柱側溝と等間隔で平行に配置された一対の梁側溝が穿設され、前記一対の柱側溝の開口部と前記一対の梁側溝の開口部とが対向配置され、
前記柱側溝及び前記梁側溝には、全体として平坦な板状に構成され、相互に平行に配置された一対の金属板部品と、該一対の金属板部品を連結する連結部品とを具備する建築接続金具が収容され、
前記一対の金属板部品は、前記一対の柱側溝と前記一対の梁側溝にそれぞれ収容され、複数のピン挿通孔がそれぞれ形成されてなる左右一対の側板部と、該一対の側板部の間に配置される中間部とをそれぞれ有し、
前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着され、その左右いずれか少なくとも一方の表面が前記一対の金属板部品の前記中間部間において前記金属板部品と直交し、上下方向に延長された形状を備えた面とされて、前記柱材における前記一対の柱側溝間の端面部と前記梁材における前記一対の梁側溝間の端面部との間に配置され、
前記柱側溝に収容された前記側板部に設けられた前記ピン挿通孔を通過する態様で前記柱材に挿通された挿通ピンと、前記梁側溝に収容された前記側板部に設けられた前記ピン挿通孔を通過する態様で前記梁材に挿通された挿通ピンと、をさらに具備することを特徴とする建築物。
【請求項6】
前記連結部品は、前記一対の金属板部品の前記中間部にそれぞれ固着された一対の固定片部と、該一対の固定片部を連結する連結片部とを一体に有する水平断面コ字状で上下方向に延長された形状に構成され、前記連結片部が前記柱材の前記端面部と、前記梁材の前記端面部との間に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−179947(P2009−179947A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17342(P2008−17342)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(502360123)
【Fターム(参考)】