説明

建築板

【課題】製造工程が複雑になることなく、ブロッキングやエフロレッセンスの発生を防止しながら、インクジェット塗装により印刷することができる建築板の製造方法を提供する。
【解決手段】水硬性材料を含む無機質基板1の表面に受理層形成用塗料を塗布した後、オートクレーブ養生することにより無機質基板1の表面に受理層形成用塗料の塗膜を形成する。この塗膜を受理層2としてその表面にインクジェット塗装する。受理層形成用塗料の塗膜と受理層2とを別々に形成する必要が無くて層構成を簡略化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁材や屋根材などとして用いられる建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット方式の塗装方法を採用することにより高意匠性の建築板を製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、インクの発色性を高めるなどの目的で無機質基板の表面に受理層を形成することが考えられている。
【0003】
しかし、受理層を不透明なものにすると、無機質基板の地色や素材感を利用することができず、例えば、画一的な表現になって、意匠性を高くすることができないことがあった。
【特許文献1】特開2003−127121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、インクジェット塗装するものであっても無機質基板の表面の地色や素材感を利用して意匠性を高くすることができる建築板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の建築板は、水硬性材料を含む無機質基板1の表面にシーラー層2を設けると共にシーラー層2の表面にインクジェット塗装される受理層3を設けた建築板において、無機質基板1の表層4を着色し、表層4の着色が透視可能にシーラー層2及び受理層3を透明に形成して成ることを特徴とするものである。
【0006】
本発明にあっては、表層4を着色するために表層4に着色顔料を0.2〜10質量%配合することができる。
【0007】
また、本発明にあっては、着色顔料が無機系であることが好ましい。
【0008】
また、本発明にあっては、無機系の着色顔料が180℃で色差の変化が5以内であることが好ましい。
【0009】
また、本発明にあっては、表層4に撥水剤を0.05〜2質量%で配合することが好ましい。
【0010】
また、本発明にあっては、撥水剤がシリコーン系撥水剤であることが好ましい。
【0011】
また、本発明にあっては、撥水剤がアルコキシル基を有する構造であることが好ましい。
【0012】
また、本発明にあっては、撥水剤がオイル状又はエマルション化したものであることが好ましい。
【0013】
また、本発明にあっては、水溶性アクリル樹脂とアクリルエマルション又はアクリルシリコーンエマルションとを含むシーラー剤を塗布してシーラー層2を形成するのが好ましい。
【0014】
また、本発明にあっては、受理層3に吸湿性樹脂を配合するのが好ましい。
【0015】
また、本発明にあっては、無機質基板1から受理層3までの耐透水性が8000g/mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、透明な受理層3及びシーラー層2を透して無機質基板1の表層4の色や素材感を視認することができ、受理層3の表面にインクジェット塗装により印刷した模様や絵柄と表層4の色とを混在させることによって、無機質基板の表面の地色や素材感を利用して意匠性を高くすることができるものである。
【0017】
また、表層4に着色顔料を0.2〜10質量%配合するによって、確実に発色させることができるものである。
【0018】
また、着色顔料が無機系であるので、耐候性を高くすることができ、長期間の使用による表層4の色あせを少なくすることができるものである。
【0019】
また、無機系の着色顔料が180℃で色差の変化が5以内であるので、オートクレーブ養生や塗料焼き付けの際の熱で着色顔料の変色を抑えることができ、表層4の色変化や色あせを少なくすることができるものである。
【0020】
また、表層4に撥水剤を0.02〜2質量%で配合することにより、表層4の透水性を小さくすることができ、防水性能を高めることができるものである。
【0021】
また、撥水剤がシリコーン系であると、撥水性が高く、抄造で作られる基材用としてはアルコキシル基を有し、所定の分子量・粘度で高い分散性を高い撥水性が発現する。また、それをベースにしたエマルションはそれのみでも同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、水溶性アクリル樹脂とアクリルエマルション又はアクリルシリコーンエマルションとを含むシーラー剤を塗布してシーラー層2を形成するので、撥水剤を配合した表層4であっても、表層4へのシーラー剤の含浸性を確保することができ、表層4に対するシーラー層2の密着性を高くすることができて剥離が発生しないようにすることができるものである。
【0023】
また、受理層3に吸湿性樹脂を配合するので、受理層3の表面にインクジェット塗装されたインクを吸湿性樹脂で吸収することができ、インクの滲みを防止して定着性及び発色性を高めることができるものである。
【0024】
また、受理層3までの耐透水性が8000g/m以下であるので、最終商品である建築板の塗膜構成で充分な耐透水性を発現することができ、防水性能を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0026】
本発明で用いる無機質基板1は、抄造湿潤シート(SDM基材層)10と表層(SDM表層)4とからなる二層基板として形成することができる。抄造湿潤シート10はセメントと補強繊維を主成分とするものであり、セメント系の水性スラリーを原料組成物として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造されたものである。原料組成物としては、水硬性材料のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水50〜2000質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。尚、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、再生古紙(古紙パルプ)あるいはその混合物等を用いることができる。
【0027】
抄造湿潤シート10の上の表層11は、セメントと補強繊維を主成分とする乾式または半乾式の表面材を散布することにより形成することができる。この表面材には、前記の抄造湿潤シート10の場合と同様の材料を用いることができ、例えば、セメント成分30〜95質量%、充填材2〜60質量%、補強繊維3〜10質量%からなる固形分に水が配合され、ミキサー混合されたものを用いることができる。充填材としては、パーライト等の軽量骨材を用いてもよい。さらに、表面材の固形成分としては、セメント系外壁材を作製した際に製品外となったシート等を砕いて用いてもよい。表面材にこのような再使用品を用いると、資源の有効利用が図れる。また、半乾式の表面材を散布する場合には、抄造湿潤シート10は含水率が50〜200質量%で、半乾式の表面材は含水率が5〜50質量%の範囲のものとして用いることが好適である。また、上記表面材の散布には、各種の手段を採用することができ、その散布量は、無機質板の厚みや比重、物理的特性と用途等を考慮して決めることができる。
【0028】
本発明では表層4を着色するための着色顔料を表面材に配合することができる。着色顔料としては耐候性の高い無機系の顔料を用いることが好ましく、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄系顔料、無機複合焼成顔料などを例示することができる。また、着色顔料の色は赤、黒、黄、茶、白などを用いることができる。ここで、本発明で用いる無機系の着色顔料は180℃における色差の変化が5以内であることが好ましく、これにより、オートクレーブ養生や塗料焼き付けの際の熱で着色顔料の変色を抑えることができ、表層4の色あせを少なくすることができる。このような180℃における色差の変化が5以内である無機系顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄系顔料、無機複合焼成顔料などを例示することができる。
【0029】
表層4(表面材の固形成分)に対する着色顔料の配合量は、0.2〜10質量%であることが好ましい。着色顔料の配合量が0.2質量%未満であれば表層4を鮮明に着色することができなくなる恐れがあり、着色顔料の配合量が10質量%を超えても大きな変化がないために経済的に不利になる恐れがある。
【0030】
本発明においては、表層4の耐透水性を高めるための撥水剤を上記の表面材に配合することができる。撥水剤としてはシリコーン系撥水剤を用いることができ、その中でも、アルコキシル基を有するアルコキシシラン系撥水剤を用いるのが好ましい。この場合のアルコキシシラン系撥水剤は、中鎖もしくは長鎖のアルキル基を官能基として有しているものであり、例えば、一般式(1)として、
Si(OR1)4−n …(1)
(nは1〜3の整数で、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を示し、R1はアルキル基を示す)で表されるアルキル・トリアルコキシシラン、あるいは一般式(2)として、
Si(OR1)4−n−m …(2)
(nは1〜3の整数、mは0〜2の整数で、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を示し、R1はアルキル基を示し、Xは、加水分解性基を示す)等として表わされるものである。ここで、中鎖もしくは長鎖のアルキル基(R)としては、炭素数4〜12の直鎖または分枝鎖アルキル基が好適なものとして例示される。アルコキシル基(OR1)を構成するアルキル基(R1)については通常は、炭素数1〜3程度の低級アルキル基が好ましい。また、加水分解性基については、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子等であってよい。
【0031】
このような中鎖もしくは長鎖アルキル基を官能基とするアルコキシシラン系撥水剤は、これらの分子が水の存在によって相互に、もしくは散布される表面材中のセメント成分や骨材成分との反応によって、無機質基板1の表面に所要の低吸水性を与えると考えられる。この場合の反応については、使用する撥水剤の種類や添加量、表面材の組成等に依存するが、目安としては、20〜100%の範囲、好ましくは50〜90%程度の範囲の反応率とすることができる。このような反応率をも考慮すると、アルコキシシラン系撥水剤は、加水分解によるオリゴマーとして用いられてもよい。
【0032】
本発明において撥水剤は、表層4(表面材の固形成分の合計量)に対して0.05〜2質量%の範囲で配合するのが好ましい。0.05質量%未満では、表層4の低吸水化の効果は充分でなく、一方、2質量%を超えて配合する場合には、過度の低吸水化によって、促進前養生におけるエフロの発生を抑えることが難しくなる。また、アルコキシシラン系撥水剤の官能基アルキル基は、炭素数4〜12の中鎖または長鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3の低級アルキル基の場合には、良好な低吸水化効果を得ることは難しくなる。炭素数が12を超える場合にも同様である。
【0033】
本発明において、撥水剤はオイル状態(モノマーやオリゴマー)あるいは予め水に分散されてエマルジョン状態で表面材に添加されることが好ましい。表面材への均一な分散が可能になるためと考えられる。表面材への前記の撥水剤の添加については、湿潤シートの材料組成、その含水率等を考慮しての撥水剤の種類、添加量、そして水分との混合割合等が選択される。この選択によって、製品としての無機質板の表面吸水性をコントロールすることができるが、好適には、養生硬化後の建築板の耐透水性(表面透水値)が8000g/m以下となるようにこれらの条件が選択される。8000g/mを超えての大きな表面透水値を有する建築板は、過大な塗装が必要になる。
【0034】
本発明の建築板は、上記無機質基板1をオートクレーブ(高圧蒸気)養生により硬化させるが、この前に無機質基板1の表面にシーラー剤を塗布する。シーラー剤は、多数枚の無機質基板1を積載しても付着(ブロッキング)するのを防止したり、オートクレーブ養生によりエフロレッセンスが発生するのを防止したりするものであり、例えば、水溶性アクリル樹脂を含有し、且つアクリルエマルション(アクリル樹脂エマルション)とアクリルシリコーンエマルション(アクリルシリコーン樹脂エマルション)との少なくとも一方を含有するものを用いることができる。具体的には、水溶性アクリル樹脂を3〜70質量部と、アクリルエマルションとアクリルシリコーンエマルションとの少なくとも一方を30〜97質量部と、水60〜1000質量部とを混合してシーラー剤を調製することができる。このようなシーラー剤を用いることによって、撥水剤を配合した表層4であっても、表層4へのシーラー剤の含浸性を確保することができる。また、シーラー剤の塗布量は乾燥状態で5〜50g/mであることが好ましく、この範囲を逸脱すると、ブロッキングやエフロレッセンスの発生を防止しにくくなる恐れがある。上記配合のシーラー剤を用いることによって、撥水剤を配合した表層4であっても、表層4へのシーラー剤のさらに高い含浸性を確保することができ、表層4に対するシーラー層2の密着性を高くすることができて剥離が発生しないようにすることができるものである。
【0035】
本発明では、上記のようにして無機質基板1の表層4の表面にシーラー剤を塗装した後、オートクレーブ養生を行う。オートクレーブ養生の条件は、例えば、温度が140〜190℃、時間が5〜20時間とすることができるが、これに限定されるものではない。そして、このオートクレーブ養生により、未硬化の無機質基板1を硬化すると共にシーラー剤も乾燥硬化し、硬化した無機質基板1の表面にシーラー剤の硬化した塗膜であるシーラー層2が形成されるものである。ここで、シーラー層2は表層4の色が透けて見える程度に透明(クリアー)に形成されるものである。
【0036】
本発明では、上記のようにして、無機質基板1の表層4の表面にシーラー層2を形成した後、シーラー層2の表面に受理層2を形成する。受理層2は、インクの発色性や定着性を高めるなどの目的で形成されるものである。受理層2は受理層形成用の塗料を塗布して形成することができる。受理層形成用塗料は水性エマルションタイプにすることができ、この塗料のバインダーとして用いるアクリルやアクリルシリコーンなどの疎水性樹脂を水性化するために、これらの樹脂をエマルション形にして配合した塗料を用いることができる。本発明では、アクリルやアクリルシリコーンなどの疎水性樹脂の配合量は、受理層形成用塗料の固形分(溶剤を除く成分であって、乾燥後に受理層2として残存する成分)の全量に対して10〜50質量%とするのが好ましい。
【0037】
また、本発明では受理層形成用塗料にインク定着用吸湿性樹脂を配合するのが好ましく、これにより、硬化後の受理層形成用塗料の塗膜である受理層2にインクが吸収しやすくなる。このインク定着用吸湿性樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)などを挙げることができる。本発明では、インク定着用吸湿性樹脂の配合量は、受理層の固形分の全量に対して5〜50質量%とするのが好ましい。
【0038】
本発明では、無機質基板1の表面に受理層形成用塗料を塗装するにあたって、ロール塗装を採用することができる。また、無機質基板1の表面の凹凸差が大きくて、ロール塗装だけでは無機質基板1の表面に受理層形成用塗料を均一に塗装することができない場合は、ロール塗装の後にスプレー塗装を施すのが好ましい。無機質基板1の表面に対する受理層形成用塗料の塗布量は、受理層形成用塗料を乾燥状態に換算した場合に20〜150g/mとなるようにするのが好ましい。
【0039】
上記のようにして塗布された受理層形成用塗料が乾燥硬化することにより受理層3を形成することができる。ここで、受理層3はシーラー層2を介して表層4の色が透けて見える程度に透明(クリアー)に形成されるものである。
【0040】
本発明の建築板は、上記のようにして、無機質基板1の表面に受理層2を形成した後、受理層2の表面にインクジェット塗装により模様や絵柄を印刷により形成する。。図2に示すように、このインクジェット装置は、噴射ノズル7を設けた塗装ノズルヘッド8、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル7にインクを供給する塗料供給タンク9、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル7からのインクの噴射を制御する塗装制御システム10などを設けたインクジェット式塗装機11と、無機質基板1を搬送する搬送コンベア12とを備えて形成されるものである。
【0041】
塗装ノズルヘッド8は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のインクを噴出する4種類の塗装ノズルヘッド8y、8c、8m、8kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行うことができるようにしてある。塗料供給タンク9も同様に4種類のものからなるものであり、イエローのインクを供給する塗料供給タンク9yは塗装ノズルヘッド8yに、シアンのインクを供給する塗料供給タンク9cは塗装ノズルヘッド8cに、マゼンタのインクを供給する塗料供給タンク9mは塗装ノズルヘッド8mに、ブラックのインクを供給する塗料供給タンク9kは塗装ノズルヘッド8kに、それぞれ接続してある。また、各塗装ノズルヘッド8y、8c、8m、8kは無機質基板1の搬送方向に沿って配列してある。
【0042】
塗装制御システム10は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行う無機質基板1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄のパターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また、噴射ノズル制御部は、塗装ノズルヘッド8y、8c、8m、8kの各噴射ノズル7に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル7を制御するものである。各噴射ノズル7は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザー光を照射して制御する方式により噴射を行ったり噴射を停止したりするようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル7を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各インクの噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行うことができるものである。
【0043】
搬送コンベア12は、インクジェット式塗装機11の下側に配置されるものであり、ベルトコンベアで形成することができる。
【0044】
そして、上記のように形成されるインクジェット装置でインクジェット印刷するにあたっては、まず、受理層2を形成した無機質基板1を搬送コンベア12上に導入する。導入された無機質基板1はそのまま送られてインクジェット式塗装機11の塗装ノズルヘッド8y、8c、8m、8kの下を順に通過する。このように、無機質基板1を搬送コンベア12で送りながら、塗装ノズルヘッド8y、8c、8m、8kからインクを噴射させて塗着させることによって、受理層2の表面にインクジェット層42を形成し、このインクジェット層42により模様や絵柄等を形成することができるものである。このように塗装された無機質基板1はさらに送られ、次工程に搬出されるものである。
【0045】
上記のようにしてインクジェット層42を形成した後、インクジェット層42の表面に無機質塗料層43を形成する。無機質塗料層43は耐候性のために形成されるものである。この無機質塗料層43はSiO骨格で構成された塗膜で、紫外線吸収剤及び場合によっては、艶消し剤が配合された塗料を用い、これをスプレー塗装などでインクジェット層42の表面に塗布した後、100〜200℃で1〜5分間乾燥することにより形成することができる。また、無機質塗料層43の単位面積当たりの付着量は、特に制限はないが、4〜40g/m・dryの範囲とするのが好ましい。
【0046】
上記のようにして無機質塗料層43を形成した後、無機質塗料層43の表面に光触媒層(光セラ層)44を形成する。光触媒層44は防汚性のために形成されるものであって、光が照射されることより光触媒層44の表面に付着した汚れを触媒作用により分解するものである。この光触媒層44はSiO骨格で構成された塗膜で、光触媒及び場合によっては、艶消し剤が配合された塗料を用い、これをスプレー塗装などで無機質塗料層43の表面に塗布した後、100〜200℃で1〜5分間乾燥することにより形成することができる。また、光触媒層43の単位面積当たりの付着量は、特に制限はないが、0.5〜5g/m・dryの範囲とするのが好ましい。
【0047】
このようにして、無機質基板1の表面にシーラー層2、受理層3、インクジェット層42、無機質塗料層43、光触媒層44が積層された建築板を形成することができる。ここで、建築板の受理層3までの耐透水性が8000g/m以下であることが好ましく、これにより、建築板の防水性能を高めることができる。また、本発明において、受理層3までの耐透水性は小さくほど好ましいので、その下限は特に設定されない。尚、本発明において耐透水性は、枠置き式の透水性試験(20cm角の囲いを取り付け、水を2cmの高さまで入れた状態で24時間放置し、水を除いたときの重量増加分を評価)で示されるものである。
【実施例】
【0048】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0049】
(実施例1)
まず、抄造湿潤シート10を形成した。抄造湿潤シート10は、セメント40質量部と、充填材である珪石粉45質量部と、補強繊維であるパルプ5質量部とを混合して固形分を調製し、この固形分100質量部に対して水を900質量部配合してスラリーを調製し、このスラリーを抄造することによって、厚み20mmで含水率が100質量%に形成した。
【0050】
次に、抄造湿潤シート10の表面に表層4を形成して無機質基板1とした。表層4は、セメント40質量部と、充填材である珪石粉45質量部と、補強繊維であるパルプを5質量部とを混合して固形分を調製し、この固形分100質量部に対して、着色顔料として赤茶色の無機顔料(大日精化社製の品番MSブラウン、酸化鉄)を5質量部と、撥水剤としてシリコーン系撥水剤(東レダウコーニング社製の品番ドライシールS、シリコーン系のものでエマルション)を0.2質量部と、水を25質量部配合して表層材を調製し、この表層材を抄造湿潤シート10の表面に散布し、10MPaで脱水プレスすることによって厚み15mmの無機質基板1を形成した。
【0051】
次に、表層4の表面にシーラー剤を塗布した。このシーラー剤は水溶性アクリル樹脂(Ac)とアクリルエマルション(AcEm)を主成分とするクリアーの塗料である。また、シーラー剤の組成は、水溶性アクリル樹脂を50質量部、アクリルエマルションを50質量部含有するものである。また、シーラー剤はロール塗装した後にスプレー塗装するものであり、その塗布量は乾燥状態換算(固形分換算)で30g/m・dryとした。
【0052】
次に、シーラー剤を塗装した無機質基板1をオートクレーブ養生した。オートクレーブ養生の条件は、温度が170℃、時間が12時間とした。このオートクレーブ養生により無機質基板1及びシーラー剤を硬化させることによって、硬化した無機質基板1の表面にクリアーなシーラー層2を形成した。
【0053】
次に、シーラー層2の表面に受理層形成用塗料を塗布し、乾燥硬化させてクリアーな受理層3を形成した。この受理層形成用塗料はアクリルエマルション(AcEm)を主成分とするクリアーの塗料である。また、受理層形成用塗料の組成は、アクリルエマルション100質量部、インク定着用吸湿性樹脂として酢酸ビニルを20質量部含有するものである。また、シーラー剤はロール塗装した後にスプレー塗装するものであり、その塗布量は乾燥状態換算(固形分換算)で50g/m・dryとした。
【0054】
次に、受理層2の表面にインクジェット装置(株式会社マスターマインド製の「MMP13000」)によるインクジェット塗装を行ってインクジェット層42を形成した。この時、インクとしてはセイコーエプソン株式会社製の水性顔料系のものを用い、イエローのインクとしては品番「ICY25」を、シアンのインクとしては品番「ICC25」を、マゼンタのインクとしては品番「ICM25」を、ブラックのインクとしては品番「ICMB25」をそれぞれ用いた。
【0055】
次に、インクジェット層42の表面に無機質塗料層43を形成した。無機質塗料層43を形成する塗料としては特許第3242442号公報に記載された実施例1のコーチング組成物を用いた。すなわち、以下のようにして、A成分、B成分を調製し、A成分とB成分とC成分(N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)とを重量比でA:B:C=70:30:1の割合で配合することにより、無機質塗料層43を形成する塗料とした。
【0056】
(A成分の調製)
攪拌機、加温ジャケット、コンデンサーおよび温度計を取付けたフラスコ中にメタノール分散コロイダルシリカゾルMA−ST(粒子径10〜20mμ、固形分30%、日産化学工業社製)100部、メチルトリメトキシシラン68部、水10.8部を投入して攪拌しながら65℃の温度で約5時間かけて部分加水分解反応を行い冷却して(A)成分を得た。このものは、室温で48時間放置したときの固形分が36%であった。ここで得た(A)成分の調製条件は次のとおりであった。
・加水分解性基1モルに対する水のモル数:4×10-1
・(A)成分のシリカ分含有量:47.3%
・n=1の加水分解性オルガノシランのモル%:100モル%
(B成分の調製)
攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロートおよび温度計を取付けたフラスコにメチルトリイソプロポキシシラン209部(0.95モル)とフェニルトリクロロシラン10.575部(0.05モル)とトルエン150部との混合液を計り取り、水150部を上記混合液に20分で滴下してメチルトリイソプロポキシシランを加水分解した。滴下40分後に攪拌を止め、二層に分離した少量の塩酸を含んだ下層の水・イソプロピルアルコールの混合液を分液し、次に残ったトルエンの樹脂溶液の塩酸を水洗で除去し、さらにトルエンを減圧除去した後、トルエンで希釈し平均分子量約2000のシラノール基含有オルガノポリシロキサンのトルエン40%溶液を得た。これをB成分とした。
【0057】
次に、無機質塗料層43の表面に光触媒層44を形成した。光触媒層44を形成する塗料としては松下電工株式会社製の品番「PS1000」を用い、これを塗布した後、150℃で1分間乾燥することにより、0.7g/mの光触媒層44を形成した。
【0058】
このようにして実施例1の建築板を形成した。
【0059】
(実施例2)
表層4における着色顔料の配合量を0.8質量部とし、撥水剤の配合量を0.1質量部とした以外は、実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0060】
(実施例3)
表層4における着色顔料の配合量を0.8質量部とし、撥水剤の配合量を0.1質量部とし、シーラー剤にアクリルエマルションの代わりにアクリルシリコーンエマルションを配合した以外は、実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0061】
(実施例4)
受理層形成用塗料のアクリルエマルションの代わりに、アクリルシリコーンエマルション(AcSiEm系)を配合した以外は、実施例2と同様にして建築板を形成した。
【0062】
(実施例5)
無機顔料の代わりに有機顔料を配合した以外は実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0063】
(実施例6)
水溶性アクリルを配合しなかった以外は実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0064】
(実施例7)
吸湿性樹脂を配合しなかった以外は実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0065】
(比較例)
着色顔料を配合しなかった以外は実施例1と同様にして建築板を形成した。
【0066】
上記の実施例及び比較例について、以下の試験を行った。
【0067】
(1)意匠性
意匠性評価の試験方法は、凸型部を有する金型(高さ5mm、凸部角角度120°)でプレス成形した際の建築板への型転写性を目視で確認した。そして、多数のクラックがある場合は×を、僅かなクラックがある場合は△を、クラックはないがエッジが鈍角のものに○を、クラックが無くエッジがシャープなものに◎をそれぞれ付した。
【0068】
(2)エフロレッセンスの発生の有無
オートクレーブ後の無機質基板1の外観を評価した。そして、エフロレッセンスの発生部分の占める割合が無機質基板1の表面積の0%であれば◎を、5%以下であれば○を、5%より大きく10%未満であれば△を、10%以上であれば×をそれぞれ付した。
【0069】
(3)ブロッキングの発生の有無
オートクレーブ後の無機質基板1の外観を評価した。そして、ブロッキングの発生箇所が1個以下であれば○を、2〜4個であれば△を、5個以上であれば×をそれぞれ付した。
【0070】
(4)吸水による変色
後述の(7)に記載の透水性試験後の建築板の表面の変色面積率で評価した。そして、変化無しの場合は◎を、変色面積率が5%以下の場合は○を、変色面積率が10%以下の場合は△を、変色面積率が10%より大きい場合は×をそれぞれ付した。
【0071】
(5)インク定着性の評価
建築板の表面を目視観察(顕微鏡による20倍観察を含む)を行って評価した。そして、特に良好なものに◎を、良好のものに○を、不良のものに×をそれぞれ付した。
【0072】
(6)インク発色性の評価
建築板の表面を目視観察(顕微鏡による20倍観察を含む)を行って評価した。そして、特に良好なものに◎を、良好のものに○を、不良のものに×をそれぞれ付した。
【0073】
(7)透水性の評価
枠置き式の透水性試験(20cm角の囲いを取り付け、水を2cmの高さまで入れた状態で24時間放置し、水を除いたときの重量増加分を評価)を行った。そして、重量増加分が1000g/m以上を×、1000g/m未満500g/mより大きい場合を△、500g/m以下100g/mより大きい場合を○、100g/m以下を◎とした。
【0074】
結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明で製造される建築板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明で使用するインクジェットプリンタの一例を示す概略の側面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 無機質基板
2 シーラー層
3 受理層
4 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料を含む無機質基板の表面にシーラー層を設けると共にシーラー層の表面にインクジェット塗装される受理層を設けた建築板において、無機質基板の表層を着色し、表層の着色が透視可能にシーラー層及び受理層を透明に形成して成ることを特徴とする建築板。
【請求項2】
表層を着色するために表層に着色顔料を0.2〜10質量%配合して成ることを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項3】
着色顔料が無機系であることを特徴とする請求項2に記載の建築板。
【請求項4】
無機系の着色顔料が180℃で色差の変化が5以内であることを特徴とする請求項3に記載の建築板。
【請求項5】
表層に撥水剤を0.05〜2質量%で配合して成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の建築板。
【請求項6】
撥水剤がシリコーン系撥水剤であることを特徴とする請求項5に記載の建築板。
【請求項7】
撥水剤がアルコキシル基を有する構造であることを特徴とする請求項5又は6に記載の建築板。
【請求項8】
撥水剤がオイル状又はエマルション化したものであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の建築板。
【請求項9】
水溶性アクリル樹脂とアクリルエマルション又はアクリルシリコーンエマルションとを含むシーラー剤を塗布してシーラー層を形成して成ることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の建築板。
【請求項10】
受理層に吸湿性樹脂を配合して成ることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の建築板。
【請求項11】
無機質基板から受理層までの耐透水性が8000g/m以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の建築板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177572(P2007−177572A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379724(P2005−379724)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】