説明

建築物の構成部材

【課題】室温、開放感及び意匠性の観点から多面的に室内の快適性を向上する建築物の構成部材を提供すること。
【解決手段】透明な部材により構成され、互いに離間した第1及び第2の透明層部と、前記第1の透明層部と前記第2の透明層部との間の空間に、区画して配設された複数の潜熱蓄熱材と、を備え、前記複数の潜熱蓄熱材は、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を含むことを特徴とする建築物の構成部材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁体等の建築物の構成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の快適性を左右する要素としては、室温、開放感、室内の意匠性等が挙げられる。これらの要素のうち、室温については、建築物内の温度調整を行なうべく、外壁等に潜熱蓄熱材を配設した構造が提案されている(特許文献1及び2)。このような建築物では外気温の変化に応じて潜熱蓄熱材が液体と固体との間で物理変化を生じることにより、潜熱蓄熱材による吸熱、放熱が行なわれ、建築物内の温度調整を行なうことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−3468号公報
【特許文献2】特開2003−34993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の潜熱蓄熱材を用いた構造では室温の点では室内の快適性の向上を図ることができるが、開放感や室内の意匠性といった点には着目されていない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、室温、開放感及び意匠性の観点から多面的に室内の快適性を向上する建築物の構成部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、透明な部材により構成され、互いに離間した第1及び第2の透明層部と、前記第1の透明層部と前記第2の透明層部との間の空間に、区画して配設された複数の潜熱蓄熱材と、を備え、前記複数の潜熱蓄熱材は、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を含むことを特徴とする建築物の構成部材が提供される。
【0007】
本発明では前記潜熱蓄熱材の吸熱・放熱作用により、室温の制御が可能となる。また、前記複数の潜熱蓄熱材は、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を含むことにより、より広範な温度範囲で室温の制御が可能となる。
【0008】
前記潜熱蓄熱材は、固化した状態、液体の状態、いずれにおいても透明性を有する一方、前記第1及び第2の透明層部が透明な部材材から構成されることにより、前記建築物の構成部材は透明性を有する。従って、室内の開放感を向上することができる。
【0009】
また、前記潜熱蓄熱材は、固化した状態と液体の状態とで透明度が異なり、固化した状態においては白濁する。前記複数の潜熱蓄熱材が、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を含むことにより、気温の変化に応じて部分的に透明度が異なり、美感が変化する。従って、意匠性も向上できる。
【0010】
こうして本発明の建築物の構成部材は、室温、開放感及び意匠性の観点から多面的に室内の快適性を向上することができる。なお、前記透明な部材には無色透明の部材、有色透明の部材の双方が含まれる。
【0011】
本発明においては、前記透明な部材がプラスチック材である構成を採用することができる。この構成によれば、前記建築物の構成部材の製造を容易化することができる。前記プラスチック材としては、透明度、耐候性、加工の容易性等考慮するとアクリル材が好適であるが、この他にはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなども挙げられる。
【0012】
また、本発明においては、前記建築物の構成部材が壁体である構成を採用することができる。本発明の建築物の構成部材は、室内の快適性を向上する点で壁として用いられることが効果的である。
【発明の効果】
【0013】
以上述べた通り、本発明によれば、室温、開放感及び意匠性の観点から多面的に室内の快適性を向上する建築物の構成部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の建築物の構成部材を壁体に適用した例について説明する。図1(a)は本発明の一実施形態に係る壁体10の正面図である。図1(b)は図1(a)の線X−Xに沿う壁体10の断面図である。壁体10は複数の壁ユニット100を平面的に配設して形成されている。まず、壁ユニット100について説明する。図2(a)は壁ユニット100の斜視図、図2(b)は壁ユニット100の分解斜視図である。
【0015】
壁ユニット100は壁体10の外壁、内壁を構成するアクリル板101及び102と、壁体10内を区画するアクリル板103及び104と、を接合して構成される中空直方体の内部に潜熱蓄熱材110を配設して構成される。
【0016】
アクリル板101乃至104はいずれも透明なアクリル材により構成されている。アクリル板101及び102は互いに同形状でかつ所定の間隔を置いて平行に配置され、互いに対峙して配設されている。アクリル板101及び102は壁体10が支持する荷重を負担するよう、その厚さ等が設定される。想定する荷重に対してアクリル板101及び102の厚さや強度を設定することにより、壁体10は耐震壁として用いることもできる。
【0017】
潜熱蓄熱材110は本実施形態の場合、アクリル板101乃至104により構成される中空直方体の内部に密に充填されている。潜熱蓄熱材110は例えばn−パラフィン(n:炭素数)であり、例えば、マイクロカプセル化して水に分散したものを採用できる。なお、潜熱蓄熱材110は透明な容器に封入し、当該容器をアクリル板101乃至104により構成される中空直方体の内部に配設する構成も採用可能である。
【0018】
図1に戻り、壁体10は複数の壁ユニット100を平面的に配置し、接合することで構成され、各壁ユニット100のアクリル板101及び102はそれぞれ1枚のパネルを構成して、透明層部11、12を構成する。各壁ユニット100の潜熱蓄熱材110は透明層部11、12間の空間にアクリル板103及び104に区画されて配設された構成となる。
【0019】
各壁ユニット100には上記の通り潜熱蓄熱材110が配設されるが、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材が用いられる。例えば、n−パラフィンの場合、C1430であれば融点温度は摂氏5.9度、C1532であれば摂氏9.9度、C1634であれば摂氏18.2度、C1736であれば摂氏22度、C1838であれば摂氏28.2度である。
【0020】
潜熱蓄熱材は液体と固体との間で物理変化(相変化)を生じることにより、吸熱、放熱するので、壁体10により区画される室内の室温制御が可能となる。そして、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を用いることで、より広範な温度範囲で室温の制御が可能となる。
【0021】
潜熱蓄熱材110は、固化した状態、液体の状態、いずれにおいても透明性を有する一方、各透明層部11及び12が透明なアクリル材から構成されることにより、壁体10は透明性を有する。従って、壁体10により区画される室内の開放感を向上することができる。
【0022】
また、潜熱蓄熱材110は、固化した状態と液体の状態とで透明度が異なり、液体の状態では透明である一方、固化した状態においては白濁する。本実施形態では融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材110を用いることにより、気温の変化に応じて部分的に透明度が異なり、美感が変化する。従って、意匠性も向上できる。図3(a)及び(b)は壁体10の透明度の変化を示す図である。図3(a)は相対的に気温が高い場合(例えば昼間或いは夏季)、図3(b)は相対的に気温が低い場合(例えば夜間或いは冬季)を示しており、網掛け部分が白濁した潜熱蓄熱材110を示している。
【0023】
相対的に気温が高い場合は、気温が融点温度を超える潜熱蓄熱材110が相対的に多くなり、これらは液体となって透明度が高くなる。一方、相対的に気温が低い場合は、気温が融点温度を下回る潜熱蓄熱材110が相対的に多くなり、これらは固体となって透明度が低くなる。従って、気温の変化に応じて部分的に透明度が異なり、美感が変化する。
【0024】
潜熱蓄熱材110として用いる複数種類の潜熱蓄熱材の融点温度の範囲は、壁体10が施工される建築物の地域の気温の範囲に応じて定めることができ、例えば、摂氏0度〜35度の範囲で、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を用いることが望ましい。
【0025】
このように本実施形態の壁体10は、室温、開放感及び意匠性の観点から多面的に室内の快適性を向上することができる。また、アクリル材はガラス材に比べて安価であり、加工性もよいという利点もある。
【0026】
<他の実施形態>
上記実施形態では、壁ブロック100として同じものを用いて壁体10を構成したが、壁ブロック100は、形状或いは大きさが異なる複数種類の壁ブロックを用い、これらを組み合わせて壁体10を構成するようにしてもよい。図4は本発明の他の実施形態に係る壁体10'の正面図である。壁体10'は壁ブロック100に加えて、これとは形状が異なる壁ブロック100a、100b、100c、や相似形で大きさの異なる壁ブロック100dを組み合わせて構成されている。形状或いは大きさが異なる複数種類の壁ブロックを用いることにより壁体10'の意匠性を更に向上することができる。なお、図4の例では壁ブロック100、100a乃至100dの正面形状をいずれも方形としたが、これに限られず、三角形や5角形以上の多角形等、様々な形状を取ることができる。アクリル材は加工性がよいため、様々な形状を取ることができる。
【0027】
次に、上記実施形態では壁ブロック100を平面的に配設して壁体10を構成したが、透明層部11及び12をそれぞれ1枚のアクリルパネルにより構成することもできる。図5は本発明の他の実施形態に係る壁体20の分解斜視図である。
【0028】
壁体20はアクリルパネル21、22とこれらの間に介挿される区画枠23とを積層して構成される。アクリルパネル21、22は透明層部を形成し、区画枠23は潜熱蓄熱材24をアクリルパネル21、22間の空間に区画して配設するための枠体である。潜熱蓄熱材24は透明のビニルパック等の収容体に封入されたものであり、区画枠23により区画される各空間にそれぞれ密に配設されることになる。
【0029】
次に、上記実施形態では、透明層部(11、12、21、22)をアクリル材で構成したが、他の種類のプラスチック材或いは他の種類の透明部材を採用してもよい。尤も、アクリル材のようなプラスチック材は加工が容易であり、現場での施工性も高いという利点があり、本発明の建築物の構成部材の製造を容易化できるという利点がある。
【0030】
次に、上記実施形態では、透明層部(11、12、21、22)を平板状に構成し、全体として平面的な壁体10を例示したが、透明層部(11、12、21、22)を平板状ではなく、湾曲した形状とし、全体として湾曲した壁体を構成してもよく、また、壁体以外にも空間の仕切り部材としてもよい。透明層部(11、12、21、22)を本実施形態のようなアクリル材のようなプラスチック材で構成した場合、様々形状に加工することが可能であり、意匠性を向上できる。
【0031】
図6は本発明の他の実施形態に係る空間仕切り部材30の断面図である。空間仕切り部材30は茶室空間を形成するシェル状の部材として構成されており、3次元的に湾曲して形成されたアクリル材31、32と、これらの間に区画して介挿された潜熱蓄熱材33とから構成される。アクリル材31、32は透明層部を形成し、各潜熱蓄熱材33はアクリル材31、32の間の空間に蜜に配設されており、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材が用いられている。
【0032】
空間仕切り部材30が3次元的な形状を有することにより、茶室空間を形成する部材としてだけでなく、一つのオブジェとして意匠性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る壁体10の正面図、(b)は図1(a)の線X−Xに沿う壁体10の断面図である。
【図2】(a)は壁ユニット100の斜視図、(b)は壁ユニット100の分解斜視図である。
【図3】(a)及び(b)は壁体10の透明度の変化を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る壁体10'の正面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る壁体20の分解斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る空間仕切り部材30の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10、10'、20 壁体
11、12 透明層部
24、110 潜熱蓄熱材
30 空間仕切り部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な部材により構成され、互いに離間した第1及び第2の透明層部と、
前記第1の透明層部と前記第2の透明層部との間の空間に、区画して配設された複数の潜熱蓄熱材と、
を備え、
前記複数の潜熱蓄熱材は、融点温度が異なる複数種類の潜熱蓄熱材を含むことを特徴とする建築物の構成部材。
【請求項2】
前記透明な部材がプラスチック材であることを特徴とする請求項1に記載の建築物の構成部材。
【請求項3】
前記建築物の構成部材が壁体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物の構成部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−19555(P2008−19555A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189764(P2006−189764)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】