説明

建築物外壁の改装方法

【課題】断熱性壁の屋外側表面に形成された有機系塗料の旧塗膜に適した改装方法を提供する。
【解決手段】熱貫流率5.0W/(m・K)以下の断熱性壁の屋外側に形成された有機系旧塗膜面に対し、ガラス転移温度−20〜80℃、pH4.0以上10.0以下の合成樹脂エマルション(A)、及び粒子径1〜200nm、pH5.0以上8.5未満の中性シリカゾル(B)を必須成分とし、前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記中性シリカゾル(B)を固形分換算にて0.1〜50重量部含み、赤外線反射率20%以上、水蒸気透過度40g/m・24h以上の塗膜を形成する水性塗料を塗付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物外壁の改装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビル、集合住宅、戸建住宅等の建築物においては、高断熱化・高気密化によって、冷暖房費の節約を図り、省エネルギーを実現しようとする動きが盛んである。一般に、断熱設計を施していない建築物では、冬期の暖房時には屋根、床、窓、壁等の部位から室内の熱が逃げ、夏期の冷房時にはこれら部位から屋外の熱が侵入してしまうが、このような熱損失の約3分の1は壁面に起因すると言われている。このため、建築物の省エネルギー化を実現するには、室内と屋外を隔てる外壁の高断熱化が不可欠であり、壁面を構成する基材に断熱材を複合化して断熱性を高める手法が多く提案されている。
【0003】
一方、ビル、集合住宅、戸建住宅等の建築物外壁においては、その美観性向上等を目的として、様々な塗料によって塗膜が形成されている。このうち、有機質樹脂を結合剤とする有機系塗料は、配合設計の自由度が高く様々な色相・意匠性が付与でき、またその塗膜が適度な可とう性を有し、さらにはコスト面においても有利であることから汎用的に使用されている。上述のような断熱性を高めた外壁においても有機系塗料が賞用されている。但し、一般的な有機系塗料の塗膜は、屋外において長期にわたり曝露されると、太陽光、降雨、粉塵等の影響により劣化や汚染が進行してしまうため、概ね10年程度で塗り替えの必要が生じてくる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、断熱性壁の外面に形成された有機系塗料の塗膜を塗り替える際には、いくつかの問題点がある。
第一には、塗膜に対する熱負荷の問題である。上述のように建築物外壁の断熱性を高めれば、その屋外側表面では太陽光直射による熱の逃げ場がなくなる。このため、外壁の屋外側表面に形成された塗膜は、その影響を直接的に受け、温度が非常に上昇しやすい状態となる。このような温度上昇は、塗膜膨れや剥れ等の異常を誘発する場合がある。
第二には、水分の問題である。通常、有機系塗料ではその塗膜表面が外気に直接曝されていると、劣化の進行とともに降雨等による水分が塗膜表面から吸収されやすくなり、その水分が塗膜内ないし基材内に滞留しやすくなる。基材の裏面等から水分が取り込まれる場合もある。このような状態の塗膜面に対し、通常の塗料で改装を行うと、塗膜の内側に水分が閉じ込められてしまい、その水分の蒸発に伴って、高い確率で塗膜膨れ等の異常が発生する。外壁が断熱性を有する場合は、特に、塗膜の温度上昇が大きくなるため、水分の蒸発による膨れ等が発生しやすくなる。
【0005】
以上のように、断熱性壁上に形成された有機系塗料の旧塗膜を改装しようとすると、施工後、経時的に膨れ、剥れ等が発生するおそれがある。このため、通常は、塗膜を物理的にケレンしたり、塗膜剥離剤を使用したりする方法等によって旧塗膜を除去した後に、改装用塗料を塗付する手法が採用されている。しかし、旧塗膜の除去作業は、多大な労力と時間を必要とするものであり、工事のコストの点においても不利である。また、完全に旧塗膜を除去することが困難な場合には、下地調整処理を入念に行う必要があり、塗装工程が煩雑となってしまうという問題も生じる。
【0006】
特許文献1には、旧塗膜の改装方法として、シーラーを塗装した後に、水性弾性塗料を塗装する方法が記載されている。しかしながら、断熱性壁の屋外側表面に形成された有機系塗料の旧塗膜に対してこの方法を適用しても、経時的な膨れ発生や、剥れ発生等を防ぐことは困難である。また、特許文献1の塗装方法で得られた塗膜には、自動車等からの排出ガスに由来する油性の汚染物質が付着しやすく、せっかく改装を行ってもその美観性を維持することは難しい。さらに、これら汚染物質が蓄熱源となって塗膜膨れを誘発するおそれもある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−306305号公報
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、断熱性壁の屋外側表面に形成された有機系塗料の旧塗膜に適した改装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の合成樹脂エマルションと中性シリカゾルを必須成分とし、特定の赤外反射性と水蒸気透過性を有する水性塗料を使用すれば、塗膜の温度上昇が抑制され、さらには塗膜内ないし基材内の水分が塗膜外に放散されることによって、塗膜の膨れ、剥れ等の発生を十分に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.建築物外壁の屋外側に形成された旧塗膜面に対し、少なくとも1種の着色塗料を塗付する建築物外壁の改装方法であって、
(1)外壁が、熱貫流率5.0W/(m・K)以下の断熱性壁であり、
(2)旧塗膜面が、有機質樹脂を結合剤とする塗料によって形成された塗膜を有するものであり、
(3)着色塗料が、ガラス転移温度−20〜80℃、pH4.0以上10.0以下の合成樹脂エマルション(A)、及び粒子径1〜200nm、pH5.0以上8.5未満の中性シリカゾル(B)を必須成分とし、前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記中性シリカゾル(B)を固形分換算にて0.1〜50重量部含み、赤外線反射率20%以上、水蒸気透過度40g/m・24h以上の塗膜を形成する水性塗料であることを特徴とする建築物外壁の改装方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、断熱性壁の屋外側表面に形成された有機系塗料の旧塗膜に適したものであり、改装後の塗膜における塗膜の膨れ発生や剥れ発生等を長期にわたり十分に抑制することができる。さらに、改装後の塗膜の美観性を長期にわたり維持することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、建築物外壁の屋外側に形成された旧塗膜面にする改装方法に関するものである。
【0013】
まず、本発明の対象となる外壁は、熱貫流率5.0W/(m・K)以下の断熱性壁である。このような断熱性壁は、建築物の高断熱化・高気密化には欠くことができないものであるが、太陽光が直射する部位においては、その屋外側表面に形成された塗膜に大きな熱負荷を与えてしまうものである。特に、本発明は、高い断熱性能を有する外壁、すなわち熱貫流率が1.0W/(m・K)以下、さらには0.50W/(m・K)以下である断熱性壁に適用した場合において顕著な効果を発揮することができる。
【0014】
このような断熱性壁は、1種または2種以上の部材からなるものである。断熱性壁を構成する部材としては、基材のみの場合と、基材と断熱材を組合せた場合があり、例えば、軽量モルタル、軽量コンクリート、けい酸カルシウム板、ALC板、サイディングボード、石膏ボード、スレート板、コンクリート、モルタル等の基材;グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー等の繊維系断熱材や、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等の発泡プラスチック系断熱材等に例示される断熱材等が挙げられる。このうち、本発明における断熱性壁には、通常、熱伝導率が0.5W/(m・K)以下の部材が少なくとも1種含まれる。
本発明は、断熱性壁が熱貫流率の低い基材の場合や、少なくとも上述のような基材と断熱材との複合体によって構成される場合において特に効果的である。
【0015】
なお、本発明における熱貫流率は、住宅金融公庫監修「木造住宅工事共通仕様書(解説付)」の付録4「熱貫流率の計算方法」に基づく計算値であり、以下の手順によって求められる値である。
(1)式1により、外壁を構成する各部材の熱伝導率と厚さから熱抵抗を算出する。
熱抵抗=厚さ/熱伝導率・・・(式1)
(2)式2により、各部材の熱抵抗と空気の熱抵抗(熱伝達抵抗)から熱貫流抵抗を算出する。
熱貫流抵抗=屋内側空気の熱抵抗+各部材の熱抵抗の合計+屋外側空気の熱抵抗・・・(式2)
(但し、屋内側空気の熱抵抗は0.11m・K/W、屋外側空気の熱抵抗は0.04m・K/Wとする)
(3)式3により、熱貫流抵抗から熱貫流率を算出する。
熱貫流率=1/熱貫流抵抗・・・(式3)
【0016】
本発明における旧塗膜面は、有機質樹脂を結合剤とする塗料(以下、「有機系塗料」ともいう)によって形成された塗膜を有するものである。
有機系塗料としては、有機質樹脂を含む各種の塗料が挙げられる。具体的には、例えば、JIS K5654「アクリル樹脂エナメル」、JASS18 M−207「非水分散形アクリル樹脂エナメル」、JIS K5656「建築用ポリウレタン樹脂塗料」、JASS18 M−404「アクリルシリコン樹脂塗料」、JIS K5658「建築用ふっ素樹脂塗料」、JIS K5660「つや有合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5667「多彩模様塗料」、JIS K5668「合成樹脂エマルション模様塗料」、JIS A6909「建築用仕上塗材」の外装薄塗材E、可とう形外装薄塗材E、防水形外装薄塗材E、外装厚塗材E、複層塗材E、防水形複層塗材E、複層塗材RE、防水形複層塗材RE、複層塗材RS、防水形複層塗材RE等が挙げられる。
【0017】
有機系塗料における有機質樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ふっ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。本発明は、特に有機質樹脂が熱可塑性樹脂である場合において有利な効果を奏することができる。
有機系塗料における有機質樹脂の含有量は特に限定されないが、有機系塗料の固形分中に通常5重量%以上、好ましくは20重量%以上である。
【0018】
有機系塗料によって形成される塗膜の厚みは、塗料の形態にもよるが、通常0.02〜10mm程度である。本発明では、特に塗膜が1mm以上の厚みを有する場合においても、改装後の塗膜膨れや剥れを防止することができる。このような厚膜の塗膜を形成する塗料としては、例えばJIS A6909「建築用仕上塗材」の外装厚塗材E等が挙げられる。
【0019】
本発明における旧塗膜面は、このような有機系塗料の塗膜を有するものであれば単層塗膜であっても複層塗膜であってもよいが、本発明では、特に有機系塗料の塗膜が旧塗膜の屋外側最表面に存在する場合に、大きな効果を得ることができる。
【0020】
本発明では、上述の旧塗膜面に対して着色塗料を塗付する。この着色塗料は、ガラス転移温度(以下「Tg」ともいう)−20〜80℃、pH4.0以上10.0以下の合成樹脂エマルション(A)、及び粒子径1〜200nm、pH5.0以上8.5未満の中性シリカゾル(B)を含み、赤外線反射率が20%以上、水蒸気透過度が40g/m・24h以上の塗膜を形成するものである。このような特徴を有する着色塗料は、塗膜の温度上昇を抑制するとともに、塗膜内ないし基材内の水分を塗膜外に放散させることにより、塗膜の膨れ発生や剥れ発生等を長期にわたり十分に抑制する機能を発揮することができる。さらに、塗膜表面への汚染物質の付着を抑制することにより、初期の美観性を長期にわたり維持することができる。
【0021】
着色塗料による形成塗膜の赤外線反射率は20%以上であり、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。赤外線反射率が20%より低い場合は、改装後に膨れや剥れが発生しやすくなる。なお、本発明における赤外線反射率は、波長800〜2100nmの光に対する分光反射率を測定し、その平均値を算出することにより得られる値である。
【0022】
着色塗料による形成塗膜の水蒸気透過度は40g/m・24h以上、好ましくは50g/m・24h以上である。着色塗料の形成塗膜がこのような水蒸気透過性能を有することより、塗膜内ないし基材内の水分が塗膜外に放散され、塗膜膨れ等の原因となる局所的な圧力上昇が抑制される。水蒸気透過度が40g/m・24h未満である場合は、改装後の塗膜に膨れや剥れが発生しやすくなる。
水蒸気透過度の上限は特に制限されないが、水蒸気透過度が大きすぎる場合は、遮水性が不十分となりやすく、旧塗膜に水が浸入するおそれがある。水蒸気透過度の上限は通常500g/m・24h以下である。
なお、本発明における水蒸気透過度は、JIS K5400−1990「塗料一般試験方法」8.17「水蒸気透過度」の方法によって測定される値である。
【0023】
着色塗料を構成する(A)成分は、Tg−20〜80℃、pH4.0以上10.0以下の合成樹脂エマルション(以下「(A)成分」という)である。この(A)成分は結合剤として作用するものである。
【0024】
(A)成分のTgは−20〜80℃であり、好ましくは−5〜50℃である。(A)成分のTgが−20℃より低い場合は、塗膜の膨れが発生しやすくなる傾向となる。また、耐汚染性が不十分となるおそれもある。Tgが80℃より高い場合は、旧塗膜の変位に追従できず、塗膜に割れが発生するおそれがある。なお、本発明におけるTgは、合成樹脂エマルションを構成するモノマーの種類とその構成比率から、Foxの計算式によって求められる値である。
【0025】
(A)成分のpHは通常4.0以上10.0以下、好ましくは5.0以上9.5以下、より好ましくは6.0以上9.0以下、さらに好ましくは7.0以上8.5以下である。このようなpHの(A)成分を使用することにより、後述の(B)成分を混合した際に良好な安定性を確保することができる。pHが上記範囲外である場合は、(A)成分と(B)成分とを混合した際に、凝集物が発生したり、短時間で塗料粘度が上昇したりする。極端な場合には、塗料がゲル化してしまうおそれもある。
【0026】
(A)成分としては、Tg及びpHが上記範囲内であれば、各種合成樹脂エマルションを使用することができる。具体的には、例えば、アクリル樹脂系エマルション、アクリルシリコン樹脂系エマルション、フッ素樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルション等が挙げられる。
【0027】
〔アクリル樹脂系エマルション〕
アクリル樹脂系エマルションとしては、アクリル系単量体、およびアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0028】
アクリル系単量体は、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレートまたはメチルメタアクリレートのいずれかであることを示す。以下において同じ。)、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリルなどのニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を例示できる。
【0029】
アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などのスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレンなどの塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどの水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテルなどのアルキレングリコールモノアリルエーテル;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテルなどのアリルエーテル等を例示できる。
【0030】
合成樹脂エマルションとして、アクリル樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、コスト面、樹脂設計の自由度の高さなどが優れている点で有利である。
【0031】
〔アクリルシリコン樹脂系エマルション〕
アクリルシリコン樹脂系エマルションとしては、珪素含有アクリル系単量体、および珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0032】
珪素含有アクリル系単量体としては、特に限定されないが、たとえば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等を例示できる。
【0033】
珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、たとえば、前述のアクリル樹脂系エマルションで使用される単量体等を、特に限定されず使用できる。
【0034】
合成樹脂エマルションとして、アクリルシリコン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性などが優れている点で有利である。
【0035】
〔フッ素樹脂系エマルション〕
フッ素樹脂系エマルションとしては、フッ素含有単量体、およびフッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0036】
フッ素含有単量体としては、たとえば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフルオロオレフィン;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有(メタ)アクリレート等が例示される。
【0037】
フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、たとえば、前述のアクリル樹脂系エマルションで使用される単量体等を、特に限定されず使用できる。
【0038】
合成樹脂エマルションとして、フッ素樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性などが優れている点で有利である。
【0039】
〔ウレタン樹脂系エマルション〕
ウレタン樹脂系エマルションとは、塗膜形成後の塗膜中にウレタン結合を持つようになるエマルションを総称する。即ち、塗膜形成前からウレタン結合を有するものでもよいし、塗膜形成後の反応によりウレタン架橋を形成するものでもよい。エマルションの形態としては、1液型でもよいし、2液型であってもよい。
1液型としては、ウレタン結合を有する重合性単量体を他の共重合可能な単量体と共重合する方法、ウレタン結合を有する水性樹脂の存在下に重合性不飽和単量体を重合する方法、反応基を有する水性ウレタン樹脂と、該反応基と反応することのできる基を含むエマルションとを混合する方法等が挙げられる。
2液型としては、水分散性イソシアネートと水酸基含有エマルションとの組み合わせ等が挙げられる。
【0040】
合成樹脂エマルションとして、ウレタン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性などが優れている点で有利である。
【0041】
〔その他の架橋反応型エマルション〕
合成樹脂エマルションの中で、前記の水酸基とイソシアネート化合物による架橋反応以外に、カルボニル基とヒドラジド基、カルボン酸と金属イオン、エポキシ基とアミン、エポキシ基とカルボキシル基、カルボン酸とアジリジン、カルボン酸とカルボジイミド、カルボン酸とオキサゾリン、アセトアセテートとケチミンなどを利用した架橋反応を形成するエマルションを使用することも可能である。架橋反応型エマルションは、1液タイプであっても、2成分以上の多成分タイプであってもよい。
【0042】
合成樹脂エマルションとして、架橋反応型エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性などが優れており、有利である。
【0043】
(A)成分は、上述の条件を満たす限り、公知の方法で製造することができる。例えば、水性媒体中での乳化重合、懸濁重合、分散重合、溶液重合、酸化還元重合等で製造することができ、必要に応じ、多段階重合で製造することもできる。この際に、必要に応じ、乳化剤、開始剤、分散剤、連鎖移動剤、緩衝剤等またはその他の添加剤等を適宜使用することができる。
【0044】
着色塗料における(B)成分は、粒子径が1〜200nmであり、pHが5.0以上8.5未満である中性シリカゾル(以下「(B)成分」という)である。
【0045】
(B)成分を構成する粒子は、シリケートの加水分解縮合によって形成されるものであり、シリカを主成分とするため硬度が高く、かつその粒子表面にシラノール基(Si−OH)を有する化合物である。本発明では、このような(B)成分粒子の硬度と表面官能基の相乗的作用によって、優れた耐汚染性が発揮され、蓄熱源となる汚染物質の付着を抑制することができる。その具体的な作用機構は明らかではないが、塗膜形成時に(B)成分が塗膜表面に配向し、塗膜表面の硬度と親水性を高めているものと推測される。
【0046】
(B)成分の粒子径は、1次粒子径として通常1〜200nm、好ましくは5〜100nm、より好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは20〜40nmである。粒子径が大きすぎる場合は、塗膜の鮮映性が損われる等、形成塗膜の外観に悪影響を及ぼすおそれがある。粒子径が小さすぎる場合は、耐汚染性において十分な効果が得られないおそれがある。(B)成分の平均1次粒子径は、5〜100nm、より好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは20〜40nmである。本発明では、平均1次粒子径が異なる2種以上の中性シリカゾル(B)を使用することによって、耐汚染効果を高めることもできる。なお、(B)成分の粒子径は、光散乱法によって測定される値である。
【0047】
(B)成分のpHは5.0以上8.5未満であることが必要であり、6.0以上8.5未満であることが好ましく、6.5以上8.0以下であることがより好ましく、7.0以上8.0以下であることがさらに好ましい。(B)成分がこのようなpHに調製されたものであれば、その粒子表面のシラノール基によって、優れた耐汚染効果が発揮される。pHが上記範囲外である場合は、耐汚染性が不十分となり、また耐水性、耐候性等の点においても不利となる。
【0048】
着色塗料における(B)成分と類似するものとしてコロイダルシリカが挙げられる。通常のコロイダルシリカは、pHが2〜4の酸性タイプ、pHが9〜11のアルカリ性タイプに大別される。これらコロイダルシリカの粒子表面では、いずれもSi−OHが解離した状態となっている。具体的に、酸性タイプのコロイダルシリカの粒子表面はSi−O・Hとなっている。アルカリ性タイプのコロイダルシリカは、粒子表面がSi−O・NaであるNa型と、Si−O・NHであるNH型に分類される。
【0049】
これに対し、本発明における(B)成分は、粒子表面においてSi−OHの大半が解離せずに残存した状態となっているものであり、上記コロイダルシリカとは別異の化合物である。本発明では、この(B)成分の粒子表面特性によって、優れた耐汚染性能が発揮されるものと推測される。
【0050】
(B)成分としては、電気伝導度が3mS/cm以下(好ましくは2mS/cm以下、さらに好ましくは1mS/cm以下)のものが好適である。なお、ここに言う電気伝導度は、「Model SC82パーソナルSCメータ SC8221−J」(横河電機社製)を用いて測定される値である(測定温度25℃)。
【0051】
このような(B)成分を使用することによって、形成塗膜の耐水性、耐汚染性等をより高めることができる。
【0052】
(B)成分は、シリケート化合物を原料として製造することができる。シリケート化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等、あるいはこれらの縮合物等が挙げられる。この他、ジメトキシジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物を併せて使用することもできる。製造時には触媒等を使用することもできる。また、製造過程あるいは製造後に、触媒等に含まれる金属をイオン交換処理等によって除去することもできる。
【0053】
(B)成分の媒体としては、水及び/または水溶性溶剤が使用できる。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。本発明では、特に媒体が水のみからなることが望ましい。このような(B)成分を使用することにより、塗料の低揮発性有機溶剤(低VOC)化を図ることができる。また、(A)成分と混合した際の凝集物発生を抑制することもできる。
【0054】
(B)成分の固形分は、通常5〜50重量%であり、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは15〜30重量%である。(B)成分の固形分がこのような範囲内であれば、(B)成分自体の安定性、さらには(A)成分と(B)成分を混合したときの安定性を確保することができる。固形分が大きすぎる場合は、(B)成分自体が不安定化したり、(A)成分との混合時に塗料が不安定化したりするおそれがある。固形分が小さすぎる場合は、十分な耐汚染効果を得るために、多量の(B)成分を混合しなければならず、塗料設計上、実用的ではない。
【0055】
着色塗料における(B)成分としては、疎水化処理を施した中性シリカゾル(以下「(B−1)成分」という)が好適である。このような(B−1)成分を使用することにより、耐汚染性をいっそう高めることができる。
【0056】
疎水化処理は、アルコキシル基、水酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物(以下「(p)成分」という)と、前記中性シリカゾルとの複合化によって行うことが望ましい。
【0057】
(p)成分としては、中性シリカゾルの疎水化効果を有する化合物であれば限定なく使用可能であるが、例えば下記の化合物が例示される。
【0058】
1)アルコキシシラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメチルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリプロポキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等。
【0059】
2)アルコール類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプチルアルコール、n−オクタノール、2−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデシルアルコール、n−ドデシルアルコール、1−3ブタンジオール、1−5ペンタンジオール、ジアセトンアルコール等。
【0060】
3)グリコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等。
【0061】
4)グルコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等。
【0062】
5)フッ素アルコール類;トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール 、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、ノナフルオロ−t−ブチルアルコール、1,1,3,3−テトラフルオロイソプロパノール、1,1−ビス(トリフルオロメチル)エタノール、1,1,1,3,3,4,4,4−オクタフルオロ−2−ブタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1,1−ビス(トリフルオロメチル)プロパノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)−1−トリルエタノール等。
【0063】
上記に例示された化合物の中でも、(p)成分としては、特にフッ素アルコールが好適である。
【0064】
(p)成分は、中性シリカゾルの固形分100重量部に対し、0.01〜50重量部(好ましくは0.02〜30重量部、さらに好ましくは0.05〜10重量部)の比率で混合することが望ましい。このような比率であれば、十分に耐汚染性を高めることができる。
【0065】
(p)成分を中性シリカゾルに混合する際には、必要に応じ(p)成分を水や水溶性溶剤等で希釈しておいてもよい。(p)成分と中性シリカゾル(B)とを混合して疎水化処理する際には、必要に応じて触媒を使用することもできる。
【0066】
(p)成分によって中性シリカゾルを疎水化処理する場合、(p)成分にシランカップリング剤を混合して得られたものと、中性シリカゾルとの複合化によって疎水化処理を行うこともできる。また、中性シリカゾルをシランカップリング剤で処理した後に(p)成分を混合することによって疎水化処理することもできる。このような場合、シランカップリング剤としては、(p)成分と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤が使用できる。例えば(p)成分がフッ素アルコールである場合には、アミノ基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤等が使用できる。
【0067】
中性シリカゾル(B)と(p)成分との混合・処理時の温度は、下限が10℃以上であり、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上に設定することが望ましく、上限は200℃以下程度、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下に設定することが望ましい。このような温度設定によって、(p)成分と中性シリカゾルとの反応性が高まり、耐汚染効果発現の点においても好ましいものとなる。加温時間は特に限定されないが、通常1〜24時間程度である。
【0068】
本発明では、ポリオキシアルキレン基含有化合物を複合化した中性シリカゾルを使用することによって、耐汚染性を高めることもできる。ポリオキシアルキレン基含有化合物(以下「(q)成分」という)としては、アルコキシル基、水酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基と、ポリオキシアルキレン基とを有する化合物が好適である。
【0069】
このような(q)成分としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−プロピレングリコール、ポリオキシエチレン−テトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンジグリコール酸、ポリオキシエチレングリコールビニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。(q)成分の平均分子量は、通常150〜2000程度であればよい。
【0070】
中性シリカゾルに(q)成分を複合化するには、中性シリカゾルと(q)成分を混合し、必要に応じ加温すればよい。(q)成分の混合比率は、中性シリカゾルの固形分100重量部に対し、0.01〜50重量部(好ましくは0.02〜30重量部、さらに好ましくは0.05〜10重量部)の比率とすることが望ましい。加温時の温度は、下限を10℃以上(好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上)、上限を200℃以下(好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下)に設定すればよい。加温時間は特に限定されないが、通常1〜24時間程度である。
【0071】
本発明着色塗料における(B)成分としては、疎水化処理を施すとともに上記ポリオキシアルキレン基含有化合物(q)を複合化した中性シリカゾルが特に好適である。このような中性シリカゾルを使用すれば、形成塗膜の耐汚染性をいっそう高めることができる。
【0072】
(B)成分として、平均1次粒子径が異なる2種以上の中性シリカゾルを使用する場合は、少なくとも1種が疎水化処理を施したものであることが望ましい。さらには、少なくとも1種が、疎水化処理を施すとともに上記(q)成分を複合化したものであることがより望ましい。
【0073】
着色塗料における(B)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部である。このような混合比率であれば、耐汚染性、水蒸気透過性等において優れた性能を得ることができる。(B)成分が少なすぎる場合は、十分な耐汚染性を得ることができず、汚染物質が塗膜表面に付着しやすくなる。また、水蒸気透過性が不十分となり、塗膜膨れを引き起こすおそれがある。(B)成分が多すぎる場合は、塗膜にひび割れが生じやすくなる。また、艶有り塗料においては塗膜光沢が低下しやすくなる。
【0074】
本発明における着色塗料では、上述の(A)成分、(B)成分に加え、赤外線反射性を有する顔料を含有することが望ましい。このような顔料としては、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、シリカ、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。この中でも、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、及びアルミナから選ばれる1種以上が好適である。
この他、赤外線透過性を有する顔料を併用することもできる。このような顔料を併用することにより、塗膜の赤外線反射性能を阻害せずに様々な色彩を表出することが可能となる。赤外線透過性を有する顔料としては、ペリレン顔料、アゾ顔料、黄鉛、弁柄、朱、チタニウムレッド、カドミウムレッド、キナクリドンレッド、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、コバルトブルー、インダスレンブルー、群青、及び紺青から選ばれる1種以上が好適である。本発明では、赤外線透過性を有する顔料を適宜選択することにより、白色以外の色相においても顕著な効果を発揮することができる。
【0075】
上述の顔料(赤外線反射性を有する顔料、及び赤外線透過性を有する顔料)は、着色塗料における顔料容積濃度が2〜60%となる範囲内で混合することが望ましい。このような顔料容積濃度であれば、膨れ防止性や剥れ防止性等が高まるとともに、旧塗膜の変位に対する追従性を発揮することもできる。
【0076】
本発明における着色塗料においては、上記成分のほかに、通常塗料に使用可能な成分を含むことができる。このような成分としては、例えば、骨材、繊維、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、触媒、架橋剤等が挙げられる。
【0077】
着色塗料の塗装においては、スプレーガン、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
着色塗料の塗膜厚みについては、赤外線反射性能及び水蒸気透過性能が本発明の範囲内となるように留意して適宜設定すればよいが、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜200μmである。このような塗膜厚みであれば、旧塗膜の表面形状を十分に生かすこともできる。
【0078】
本発明では、上述のような着色塗料を塗り重ねることもできる。
また、着色塗料を塗装する前に、必要に応じ下塗塗料、下地調整塗材等を塗付しておいてもよい。ただし、この場合は本発明の効果を損なわないように、水蒸気透過性能を有する材料を使用する必要がある。
着色塗料を塗装した後には、透明塗料や半透明塗料等を塗付することも可能である。さらには、別の着色塗料を塗付することも可能である。このような場合においては、本発明の効果を損なわないように、赤外線透過性能及び水蒸気透過性能を併有する材料を使用する必要がある。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0080】
(実施例1)
スレート板(厚さ6mm)の片面に、アクリル系熱可塑性樹脂(Tg−40℃)、酸化チタン、炭酸カルシウム、寒水石、及びゴム粉を主成分とする外装厚塗材E(樹脂含有量22重量%)を玉状に吹付けた後、ミネラルスピリットを付けたプラスチックローラーで玉の凸部を押え、断面が台形状の凹凸を有する4〜8mmの塗膜を形成させ、これを促進耐候性試験機「アイスーパーUVテスター」(岩崎電気株式会社製)にて400時間曝露させたものを旧塗膜とした。
次いで、この旧塗膜に対し、着色塗料を乾燥膜厚が60μmとなるようにスプレー塗装した後、スレート板の裏面(塗装面と反対側の面)に住宅用グラスウール(厚さ100mm)及びスレート板(厚さ6mm)を順に積層することにより、試験体を作製した。なお、スレート板(厚さ6mm)・住宅用グラスウール(厚さ100mm)・スレート板(厚さ6mm)からなる積層体は断熱性壁に相当するものであり、その熱貫流率は0.39W/(m・K)である。
【0081】
なお、実施例1における着色塗料としては、樹脂A(アクリル樹脂エマルション、Tg30℃、pH7.6、固形分50重量%)200重量部に対し、中性シリカゾルA(pH7.6、固形分20重量%、平均1次粒子径27nm、電気伝導度0.6mS/cm)を50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する、顔料容積濃度4%のグレー色の着色塗料Aを使用した。
この着色塗料Aの赤外線反射率を分光光度計(島津製作所製「UV−3100」)にて測定したところ64%であった。赤外線反射率測定に供した試験板は、アルミ板に黒色塗料(アクリル樹脂の固形分100重量部にカーボンブラックを10重量部含むもの)を乾燥膜厚が60μmとなるように塗付した後、着色塗料Aを乾燥膜厚が60μmとなるように塗付することによって作製したものである。
一方、着色塗料Aの水蒸気透過度をJIS K5400−1990「塗料一般試験方法」8.17「水蒸気透過度」の方法によって測定したところ、その値は92g/m・24hであった。
【0082】
以上の方法で得られた試験体について以下の試験を行った。試験結果を表1に示す。
・耐汚染性試験
試験体の塗膜表面に、汚染物質(15重量%カーボンブラック水分散ペースト液)を直径20mm、高さ5mmとなるように滴下し、50℃の恒温室中に2時間放置した。その後流水中にて洗浄し、塗膜表面における汚染物質の残存程度を目視により確認した。評価は、汚染物質が残存しなかったものを◎とする4段階(◎>○>△>×)で行った。
【0083】
・耐膨れ性試験
試験体に対し、塗膜面より40cmの距離から赤外線ランプ(出力250W)を8時間連続して照射した後、その外観変化を目視にて観察した。評価は、異常が認められなかったものを○、膨れが認められたものを×とした。
【0084】
(実施例2)
実施例2では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルBを50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料B(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度94g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。なお、中性シリカゾルBとしては、以下の方法にて得られたものを使用した。
・中性シリカゾルBの合成
還流冷却器と攪拌羽根を備えた反応容器に、中性シリカゾルAを500重量部仕込み、攪拌しながらトリフルオロエタノール0.3重量部を徐々に滴下した。次いで、80℃まで昇温して24時間攪拌を継続した後、室温まで放冷し、中性シリカゾルBを得た。
【0085】
(実施例3)
実施例3では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルCを50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料C(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度94g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。なお、中性シリカゾルCとしては、以下の方法にて得られたものを使用した。
・中性シリカゾルCの合成
還流冷却器と攪拌羽根を備えた反応容器に、中性シリカゾルAを500重量部仕込み、攪拌しながらテトラメトキシシラン1.0重量部を徐々に滴下した。次いで、80℃まで昇温して24時間攪拌を継続した後、室温まで放冷し、中性シリカゾルCを得た。
【0086】
(実施例4)
実施例4では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルDを50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料D(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度93g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。なお、中性シリカゾルDとしては、以下の方法にて得られたものを使用した。
・中性シリカゾルDの合成
還流冷却器と攪拌羽根を備えた反応容器に、中性シリカゾルAを500重量部仕込み、攪拌しながらメチルトリメトキシシラン1.0重量部を徐々に滴下した。次いで、80℃まで昇温して24時間攪拌を継続した後、室温まで放冷し、中性シリカゾルDを得た。
【0087】
(実施例5)
実施例5では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルEを50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料E(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度95g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。なお、中性シリカゾルEとしては、以下の方法にて得られたものを使用した。
・中性シリカゾルEの合成
還流冷却器と攪拌羽根を備えた反応容器に、中性シリカゾルAを500重量部仕込み、攪拌しながらトリフルオロエタノール0.3重量部を徐々に滴下した後、メトキシポリエチレングリコール0.15重量部を徐々に滴下した。次いで、80℃まで昇温して24時間攪拌を継続した後、室温まで放冷し、中性シリカゾルEを得た。
【0088】
(実施例6)
実施例6では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルFを50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料F(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度94g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。なお、中性シリカゾルFとしては、以下の方法にて得られたものを使用した。
・中性シリカゾルFの合成
還流冷却器と攪拌羽根を備えた反応容器に、中性シリカゾルAを500重量部仕込み、攪拌しながら、トリフルオロエタノール0.3重量部とγ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.3重量部との混合溶液を徐々に滴下した。次いで、80℃まで昇温して24時間攪拌を継続した後、室温まで放冷し、中性シリカゾルFを得た。
【0089】
(実施例7)
実施例7では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、中性シリカゾルBを30重量部、中性シリカゾルG(pH7.8、固形分12重量%、平均1次粒子径12nm、電気伝導度0.3mS/cm)を33重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料G(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度93g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
比較例1では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料H(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度46g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
比較例2では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、塩基性コロイダルシリカ(pH9.5、固形分20重量%、平均1次粒子径20nm、電気伝導度1.7mS/cm)を50重量部、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.6重量部、弁柄を2.6重量部、フタロシアニンブルーを0.8重量部含有する着色塗料I(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率64%、水蒸気透過度86g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。
【0092】
(比較例3)
比較例3では着色塗料として、樹脂A200重量部に対し、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.4重量部、弁柄を0.6重量部、カーボンブラックを1.1重量部含有する着色塗料J(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率5%、水蒸気透過度46g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。
【0093】
(比較例4)
比較例4では着色塗料として、樹脂B(溶剤可溶形アクリル樹脂、Tg30℃、固形分50重量%)200重量部に対し、酸化チタンを12重量部、黄色酸化鉄を1.4重量部、弁柄を0.6重量部、カーボンブラックを1.1重量部含有する着色塗料K(顔料容積濃度4%、グレー色、赤外線反射率5%、水蒸気透過度25g/m・24h)を使用した。試験結果を表1に示す。
【0094】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物外壁の屋外側に形成された旧塗膜面に対し、少なくとも1種の着色塗料を塗付する建築物外壁の改装方法であって、
(1)外壁が、熱貫流率5.0W/(m・K)以下の断熱性壁であり、
(2)旧塗膜面が、有機質樹脂を結合剤とする塗料によって形成された塗膜を有するものであり、
(3)着色塗料が、ガラス転移温度−20〜80℃、pH4.0以上10.0以下の合成樹脂エマルション(A)、及び粒子径1〜200nm、pH5.0以上8.5未満の中性シリカゾル(B)を必須成分とし、前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記中性シリカゾル(B)を固形分換算にて0.1〜50重量部含み、赤外線反射率20%以上、水蒸気透過度40g/m・24h以上の塗膜を形成する水性塗料であることを特徴とする建築物外壁の改装方法。

【公開番号】特開2006−21116(P2006−21116A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201145(P2004−201145)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】