説明

建設機械の作動流体供給システム

【課題】 建設機械の作動流体供給システムにおいて、コストダウン及び省スペース化を可能にするとともに、作動流体の流通時における動力損失をを低減することができるようにする。
【解決手段】 作動流体を流通させるポンプ10と、該作動流体の所定機器への供給を制御するコントロールバルブ11と、ポンプ10から吐出された該作動流体をコントロールバルブ11に供給するためのメインラインLMと、クーリングユニット12に冷却風を流通させる冷却ファン17の駆動用の流体圧アクチュエータ16と、メインラインLMにおけるコントロールバルブ11の上流側とコントロールバルブ11の下流側とを接続するようにして設けられポンプ10から吐出された該作動流体を流体圧アクチュエータ16に供給するためのサブラインLSと、該作動流体の該サブラインLSへの流量を調整する流量調整手段#1,#2とがそなえられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の所定機器に作動流体を供給する、建設機械の作動流体供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、油圧ショベル,ホイールローダ等の走行式の建設機械やクレーン等の定置式の建設機械等、種々の建設機械が建設現場,港湾,工場内等の様々な分野において用いられている。
建設機械は、ダム,トンネル,河川,道路等における岩石の掘削やビル,建築物の取り壊し等、一般に厳しい環境下で使用されるが、このような環境下ではエンジンや油圧ポンプ等の機器類に加わる負荷が高く、エンジン温度の上昇や作動油の油温の上昇を招きやすい。
【0003】
このため、これらの建設機械には、ラジエータやオイルクーラなどの熱交換器及び冷却ファンなどからなる冷却装置がそなえられており、冷却ファンの作動により取り込まれた外気(冷却風)によって、ラジエータを流れるエンジン冷却水やオイルクーラを流れる作動油が冷却される。
冷却ファンは、例えば油圧モータ(ファンモータ)により駆動されるが、このようなファンモータには、作業装置の油圧シリンダなどへ作動油を送給する油圧ポンプ(メインポンプ)とは別の専用の油圧ポンプ(クーリングポンプ)から油圧が供給される(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図3は、建設機械の油圧供給システムを示す模式的な系統図である。この油圧供給システムでは、メインポンプ10から吐出された作動油は、コントロールバルブ11を介して、作業装置の油圧シリンダなどの所定機器50へ適宜供給される。そして、所定機器50の作動に使用され昇温した作動油は、オイルクーラ12へと送られ、このオイルクーラ12により冷却された後、オイルタンク13に一旦回収され、メインポンプ10又はクーリングポンプ15により吸引され、上記所定機器50や冷却ファン17の駆動に再び使用される。
【0005】
一方、クーリングポンプ15から吐出された作動油は、ファンモータ16へと供給され、これによりファンモータ16を介して冷却ファン17が駆動される結果、冷却風によりオイルクーラ12ひいては作動油が冷却される。ファンモータ16を通過した作動油は、オイルクーラ12を通過後の作動油に合流する。
なお、メインポンプ10は図示しないエンジンにより駆動され、クーリングポンプ15は、図示しないギアボックスを介して、メインポンプ10と並列又は直列に連結され、メインポンプ10と同じく上記エンジンにより駆動される。
【0006】
また、オイルクーラ12を保護するために、チェックバルブ14がオイルクーラ12と並列に設けられており、油圧が所定圧力以上になるとこのチェックバルブ14が開いて作動油が逃がされることとなる。
【特許文献1】特開平10−68142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術のように、クーリングポンプをメインポンプとは別に設置すると、以下のような課題がある。
つまり、クーリングポンプやクーリングポンプを駆動するための機構(ここではギアボックス)を設置する分、コストが増大してしまう。
また、クーリングポンプはギアボックスを介して駆動されるため、エンジン出力が、クーリングポンプの作動に必要な動力に加えポンプ損失やギア損失として消費されてしまう。
【0008】
さらに、クーリングポンプを設置するためのスペースを建設機械の上部旋回体に確保する必要があり、上部旋回体にそなえられる各種機器のレイアウト上の制約を生じさせることになる。
本発明はこのような課題に鑑み創案されたもので、コストダウン及び省スペース化を可能にするとともに、作動流体の流通時における動力損失を低減することができるようにした、建設機械の作動流体供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明の建設機械の作動流体供給システムは、作動流体を流通させるポンプと、該ポンプから吐出された該作動流体の所定機器への供給を制御するコントロールバルブと、該ポンプから吐出された該作動流体を該コントロールバルブに供給するためのメインラインと、クーリングユニットに冷却風を流通させる冷却ファンの駆動用の流体圧アクチュエータと、該メインラインにおける該コントロールバルブの上流側と該コントロールバルブの下流側とを接続するようにして設けられ、該ポンプから吐出された該作動流体を該流体圧アクチュエータに供給するためのサブラインと、該ポンプから吐出された該作動流体の該作動流体の該サブラインへの流量を調整する流量調整手段とがそなえられたことを特徴としている。
【0010】
また、請求項2記載の本発明の建設機械の作動流体供給システムは、請求項1記載の発明において、該クーリングユニットとして該メインラインに該コントロールバルブよりも下流側にそなえられて該作動流体を冷却する作動流体冷却手段と、該作動流体冷却手段により冷却された該作動流体の温度を検出する作動流体温度検出手段と、該流量調整手段の作動を制御する制御手段とをそなえ、該制御手段が、該作動流体温度検出手段の検出結果に基づき、該作動流体温度が高いほど該サブラインへの該作動流体の流量が増加するように、該流量調整手段の作動を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建設機械の作動流体供給システムによれば、ポンプから吐出された作動流体を冷却ファン駆動用の流体圧アクチュエータに供給するサブラインが、メインラインにおけるコントロールバルブ上流側とコントロールバルブ下流側とを接続するようにして設けられるとともに、ポンプから吐出された作動流体のメインライン及びサブラインへの流量を調整するに流量調整手段とがそなえられているので、上記のポンプにより単独で、メインライン及びサブラインに作動油流体を供給でき、冷却ファンの駆動専用のポンプ(クーリングポンプ)が不要となる。
【0012】
したがって、クーリングポンプ及びクーリングポンプを駆動するギアボックスなどの機構が不要となる分、コストダウン及び省スペース化を図ることが可能となるとともに、ポンプ損失やギア損失がなくなる分、作動流体の流通時における動力損失を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、従来技術の説明として既に説明した部品については同一の符号を付しその説明を省略する。
また、以下の実施形態では、本発明を建設機械として油圧ショベルに適用した例を説明するが、本発明は、油圧ショベルに限定されず、ホイールローダ,クレーンなどの種々の建設機械に適用しうるものである。
【0014】
本発明の一実施形態にかかる建設機械は、図2に示すように、下部走行体1と、下部走行体1の上側に旋回可能に配設された上部旋回体2と、上部旋回体2に設けられ種々の作業を行なう作業装置3との3つの部分で構成されている。このうち上部旋回体2には、その前部にキャビン2Aが配置されるとともに、キャビン2Aの後方にある建屋カバー内に、エンジン,作動油(作動流体)を圧送するの油圧ポンプ,エンジン冷却水を冷却するためのラジエータ(クーリングユニット),上記作動油を冷却するためのオイルクーラ(クーリングユニット),及びこれらのラジエータとオイルクーラとに冷却風を流通させるための冷却ファンが設置されている。また、その後部にはカウンタウェイト2Cが配置されている。
【0015】
さて、本実施形態の作動油供給システム(建設機械の作動流体供給システム)について、図1を参照して説明する。この作動油供給システムには、メインラインLMと、サブラインLSとがそなえられている。
メインラインLMには、上記油圧ポンプ(ポンプ)10、フローコントローラ#1、上記オイルクーラ(作動流体冷却手段)12、タンク13及びチェックバルブ14がそなえられており、メインポンプ10から吐出された作動油は、フローコントローラ#1を介して、コントロールバルブ11へと送られ、このコントロールバルブ11の制御により上部旋回体2に備えられた所定機器50(例えば、作業装置3を作動させるためのブームシリンダ,アームシリンダ及びバケットシリンダなど)へと適宜送給されるようになっている。
【0016】
この所定機器50へと供給された作動油は、コントロールバルブ11に戻った後、オイルクーラ12へと流れ、上述したように、このオイルクーラ12を通過する際に冷却ファン17の作動により流通する冷却風により冷却されるようになっている。そして、オイルクーラ12によって冷却された作動油は、一旦、タンク13に回収された後、メインポンプ10に吸引される。
【0017】
サブラインLSは、油圧ポンプ10の吐出側(作動油の流れ方向下流側)であってフローコントローラ#1やコントロールバルブ11よりも作動油の流れ方向上流側の位置PINと、コントロールバルブ11やオイルクーラ12よりも作動油の流れ方向下流側であって油圧ポンプ10の吸引側(作動油の流れ方向上流側)の位置POUTとの間を接続するようにして設けられており、冷却ファン17を駆動するファンモータ(流体圧アクチュエータ)16が介装されている。
【0018】
また、メインラインLMには、上記のサブラインLSとの接続位置PINよりも作動油流れ下流側であってコントロールバルブ11よりも上流側に、上記フローコントローラ#1が介装され、サブラインLSには、ファンモータ16よりも作動油流れ上流側にフローコントローラ#2が介装されている。そして、本作動油供給システムには、フローコントローラ#1,#2の開度を制御する制御装置(制御手段)20がそなえられている。
【0019】
また、タンク13の作動油(オイルクーラ12により冷却された作動油)の油温を検出する油温センサ(作動流体温度検出手段)21が、タンク13の内部に設置されている。この油温センサ21からの検出信号は、上記制御装置20に入力されるようになっており、制御装置20は、油温センサ21からの検出信号に基づきフローコントローラ#1,#2の各開度を制御するようになっている。つまり、油温が高いほど、フローコントローラ#2の開度を上げ、且つ/或いは、フローコントローラ#1の開度を下げて、サブラインLSを流れる油量即ちファンモータ16へ流れる油量を増量するようになっている。これにより、ファンモータ16ひいては冷却ファン17の出力が増大し、冷却風量が増加して、オイルクーラ12による作動油の冷却が強化されるようになっている。つまり、本実施形態では、フローコントローラ#1,#2が、油圧ポンプ10から吐出された作動油のサブラインLSへの流量を調整する流量調整手段として機能していることになる。
【0020】
また、サブラインLSの油量を増加するということは、コントロールバルブ11をバイパスする油量を増加することであるから、コントロールバルブ11を介して各種油圧アクチュエータ(所定機器50)へ供給される発熱量の大きな作動油の流量が減少し、作動油の昇温が抑制される。
なお、サブラインLSへ供給される作動油の量は、コントロールバルブ11を介して各種油圧アクチュエータ(所定機器50)へ供給される作動油量を十分な量に確保できる範囲に限定され、また、コントロールバルブ11よりも上流側からサブラインLSへ作動油が供給されることから、サブラインLSの油圧は比較的高い圧力となる。したがって、サブラインLSに設置されるファンモータ16は、高圧低流量タイプの(供給される作動油が高圧且つ低流量である場合に適した)油圧モータを選定するのがこのましい。
【0021】
本発明の一実施形態としての建設機械の作動流体供給システムは、上述したように構成されているので、図3に示す従来技術では必要であった冷却ファン17を駆動するためのファンポンプ(クーリングポンプ)15が不要となる。
このため、クーリングポンプやクーリングポンプを駆動する例えばギアボックスなどの設備(以下、『クーリングポンプなど』という)を削減でき、これらの設備にかかるコストを削減できる利点がある。また、エンジンの出力が、クーリングポンプなどによってポンプ損失やギア損失として消費されることがなくなり、システム全体のエネルギー効率を向上させることができる。また、クーリングポンプなどのスペースが不要となる分、建設機械の上部旋回体2上に備えられる各種機器のレイアウトの自由度を向上させることが可能となる。
【0022】
また、上述したように、油温が高くなるほど、コントロールバルブ11を介して所定機器50へと送られる作動油量が減少する。作動油は、作業装置3の油圧シリンダなどで大きな動力を発生させるとき大きな昇温を伴うが、このように油圧シリンダなどの所定機器へと送られる作動油量が減少することから、作動油全体としての昇温量を従来よりも減少させることができ、従来よりも低い冷却能力でシステムを構成できる(例えば、オイルクーラ12やファンモータ16や冷却ファン17などの仕様を下げることができる)。
【0023】
さらに、例えばエンジンの冷態始動時のように油温が特に低い時には、フローコントローラ#2を全閉して冷却ファン17を非作動とする暖機回路を構成することができ、エンジン始動後に油温を所定温度まで早期に上昇させることが可能となる。
本発明の建設機械の作動流体供給システムは、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0024】
例えば、上記実施形態では、メインラインLMとサブラインLSとの流量を調整する流量調整手段を、2つのフローコントローラ#1,#2により構成したが、図1に示す構成に対し、フローコントローラ#1,#2の内の何れか一方のみを設置した構成も可能である(流量調整手段を、フローコントローラ#1,#2の何れか一方により構成することも可能である)。
【0025】
また、上記実施形態では、フローコントローラ#1,#2の開度を制御する制御装置20がそなえられているが、例えば、オペレータの操作によってフローコントローラ#1,#2の開度が制御されるような構成も考えられる。この場合、本作動油供給システムは、制御手段としての制御装置20をそなえることなく上記効果を奏するものとなる。
また、フローコントローラ#1,#2が予め設定された所定開度でメインラインLM,サブラインLSを開放して作動油の流量を制御するように構成することも考えられる。この場合、本作動油供給システムはより簡素な構成で上記効果を奏するものとなる。
【0026】
なお、上記の実施形態は、作動油を油圧アクチュエータへ供給する作動油供給システムにおける本発明の適用例について詳述したものであるが、本発明は作動油以外の各種流体を供給するシステム(一般的な作動流体システム)に適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかる建設機械の作動油供給システムの構造を示す模式的な油圧系統図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる建設機械の全体構成を示す模式的な側面図である。
【図3】従来の建設機械の作動油供給システムの構造を示す模式的な油圧系統図である。
【符号の説明】
【0028】
10 油圧ポンプ(ポンプ)
11 コントロールバルブ
12 オイルクーラ(作動流体冷却手段)
16 ファンモータ(流体圧アクチュエータ)
17 冷却ファン
20 制御装置(制御手段)
21 油温センサ(作動流体温度検出手段)
#1,#2 フローコントローラ(流量調整手段)
M メインライン
S サブライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を流通させるポンプと、
該ポンプから吐出された該作動流体の所定機器への供給を制御するコントロールバルブと、
該ポンプから吐出された該作動流体を該コントロールバルブに供給するためのメインラインと、
クーリングユニットに冷却風を流通させる冷却ファンの駆動用の流体圧アクチュエータと、
該メインラインにおける該コントロールバルブの上流側と該コントロールバルブの下流側とを接続するようにして設けられ、該ポンプから吐出された該作動流体を該流体圧アクチュエータに供給するためのサブラインと、
該ポンプから吐出された該作動流体の該サブラインへの流量を調整する流量調整手段とがそなえられた
ことを特徴とする、建設機械の作動流体供給システム。
【請求項2】
該クーリングユニットとして該メインラインに該コントロールバルブよりも下流側にそなえられて該作動流体を冷却する作動流体冷却手段と、
該作動流体冷却手段により冷却された該作動流体の温度を検出する作動流体温度検出手段と、
該流量調整手段の作動を制御する制御手段とをそなえ、
該制御手段が、該作動流体温度検出手段の検出結果に基づき、該作動流体温度が高いほど該サブラインへの該作動流体の流量が増加するように、該流量調整手段の作動を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載の建設機械の作動流体供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−9832(P2006−9832A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184103(P2004−184103)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】