説明

建設機械の軸受固定装置

【課題】規定の引きずりトルクに到達してナット部材の締め付けを停止させた後、ナット部材の増し締めを要することなくナット部材の回り止めを実現させることができる建設機械の軸受固定装置の提供。
【解決手段】2つのねじ穴21Cを有し、軸受19,20をハウジング15に押付けるナット部材21と、旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cと係合するスプライン部31A、及び9つの貫通孔31Bを有し、ナット部材21に固定されるロックプレート31と、これら貫通孔31Bに挿入されてねじ穴21Cに螺合し、ロックプレート31をナット部材21に固定する2つのボルト27とを備えた油圧ショベル1の旋回装置6に備えられる軸受固定装置において、ロックプレート31は、スプライン部10CのピッチP(θ)に関連させて予め設定されるピッチβ(θ)で、9つの貫通孔31Bを旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル、クレーン等の建設機械に備えられる旋回装置等に含まれ、回転軸を支持する軸受を、この軸受が収容されるハウジングに固定する建設機械の軸受固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は軸受固定装置が含まれる旋回装置を備えた建設機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。
【0003】
この図9に示す油圧ショベル1は、走行体2と、この走行体2上に旋回輪3を介して配置される旋回体4と、この旋回体4に上下方向の回動可能に設けられるフロント作業機5とを備えている。フロント作業機5は、旋回体4に取り付けられるブーム5aと、このブーム5aの先端に取り付けられるアーム5bと、このアーム5bの先端に取り付けられるバケット5cとを含んでいる。また、走行体2と旋回体4との間に介在され、旋回体4を旋回させる図示しない旋回装置が備えられている。例えば、この旋回装置に本発明が対象としている軸受固定装置が含まれている。
【0004】
図10は従来の軸受固定装置が含まれる旋回装置を示す一部を断面した正面図、図11は図10のB部を拡大して示した正面図、図12は図10のC−C線に沿って拡大して示した横断面図である。
【0005】
図10に示すように、旋回装置6は、旋回モータ7と、この旋回モータ7のモータ出力軸8の回転を減速し、増トルクして回転軸、すなわち旋回出力軸10に伝える遊星減速機構9と、旋回出力軸10が収容されるハウジング15とを備えている。旋回モータ7と遊星減速機構9のリングギヤ11の上面とはボルトによって固定されている。ハウジング15のフランジ部15Aは旋回体4にボルトによって固定されている。
【0006】
遊星減速機構9は2段で構成されており、旋回モータ7の回転力はモータ出力軸8により1段目の太陽歯車12に伝えられ、遊星歯車13はリングギヤ11と太陽歯車12の間で自転しつつ公転を行う。遊星歯車13の公転は、遊星歯車13を支持するキャリア14を介し、2段目の太陽歯車16へ伝えられ、遊星歯車17はリングギヤ11と太陽歯車16の間で自転しつつ公転を行う。遊星歯車17の公転は遊星歯車17を支持するキャリア18を介し、旋回出力軸10へと伝えられる。
【0007】
旋回出力軸10の下端に設けられた歯車部10Aは、走行体2に固定される旋回輪3の内輪3Aと噛み合っており、旋回出力軸10の回転力は、この旋回輪3の内輪3Aに伝えられる。旋回輪3の外輪は旋回体4に固定されている。旋回出力軸10の歯車部10Aと旋回輪3の内輪3Aとの噛み合い部には、この噛み合い部を潤滑するグリスが収容されるグリス室25が設けられている。このグリス室25は走行体2に備えられている。
【0008】
旋回出力軸10は軸受19と軸受20とによって回転自在に支持されている。軸受19と軸受20はハウジング15に固定されている。これらの軸受19,20は円錐ころ軸受から成っている。
【0009】
上側に配置された軸受19の上には、この軸受け19をハウジング15に押付けるナット部材21を設けてある。また、ナット部材21上には、図11、図12にも示すように、旋回出力軸10に対するナット部材21の回り止め部材であるロックプレート26を設けてある。また、ロックプレート26をナット部材21に固定するボルト27を設けてある。これらのナット部材21と、ロックプレート26と、ボルト27とによって、軸受19,20に押付け力、すなわち予圧を付与しつつ、これらの軸受19,20をハウジング15に固定する従来の軸受固定装置が構成されている。
【0010】
旋回出力軸10の上方部分の外周には、図1に示すように、ねじ部10Bが形成されており、ナット部材21の内周には、ねじ部10Bに螺合するねじ部21Aが形成されている。したがって、ナット部材21を旋回出力軸10にねじ込むことにより、軸受19,20に予圧がかけられる。ナット部材21には、ねじ穴21Cが設けられ、ロックプレート26には、スプライン部26Aと貫通孔26Bとが設けられている。旋回出力軸10に形成されたスプライン部10Cとロックプレート26のスプライン部26Aとが噛み合った状態で、ボルト27によってロックプレート26はナット部材21に固定される。これにより、ナット部材21は旋回出力軸10に対する回り止めがなされた状態で固定される。
【0011】
旋回装置6内の潤滑はギヤオイル潤滑となっており、ギヤオイルは旋回装置6の下部のオイルシール22、及び旋回出力軸10に嵌合された摺動部材24によりシールされている。オイルシール22はハウジング15に保持固定され、摺動部材24の外周と摺接することにより、シール機能を果たしている。この種の公知技術として、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−351267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来、ナット部材21による軸受19,20の予圧管理は、旋回出力軸10に対して相対的にハウジング15を回転させながらナット部材21を旋回出力軸10に対してねじ込んで軸受に予圧を与えるようにしたときの、引きずりトルクによって管理している。規定の引きずりトルクに到達するとナット部材21の締め付けが停止する。このようにナット部材21が停止した位置においては、旋回出力軸10のスプライン部10Cとロックプレート26のスプライン部26Aとの噛み合いの関係、及び各種の製作誤差等に起因してナット部材21のねじ穴21Cとロックプレート26の貫通孔26Bとが正しく一致することはほとんどない。したがってボルト27の挿入前に、これらのねじ穴21と貫通孔26Bとを正しく一致させるためのナット部材21の増し締めが実施される。このときの増し締めの回転角度は、最大でスプライン1ピッチ分になる。このような増し締めに際しての予圧による軸受19,20の寿命への影響は無視できないものとなっている。
【0014】
このようなことから従来では軸受19,20を、増し締めを行った場合に予測される最大の予圧分の余裕を持たせた負荷容量、すなわち耐荷重を有する比較的形状の大きな、また、強度の強い軸受を設けざるを得ない。このために、軸受固定装置を構成するハウジング15の大型化を招き、また、軸受固定装置の製作費が高くなっていた。
【0015】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、規定の引きずりトルクに到達してナット部材の締め付けを停止させた後、ナット部材の増し締めを要することなくナット部材の回り止めを実現させることができる建設機械の軸受固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の建設機械の軸受固定装置は、回転軸を支持する軸受をハウジングに固定する建設機械の軸受固定装置であって、ねじ穴を有し、前記軸受を前記ハウジングに押付けるナット部材と、前記回転軸に形成したスプライン部と係合するスプライン部、及び貫通孔を有し、前記ナット部材に固定されるロックプレートと、このロックプレートの前記貫通孔に挿入されて前記ナット部材のねじ穴に螺合し、前記ロックプレートを前記ナット部材に固定するボルトとを備えた建設機械の軸受固定装置において、前記ロックプレートは、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチに関連させて予め設定されるピッチで、前記ボルトの数よりも多い複数の前記貫通孔を前記回転軸の軸心を中心とする円周方向に備えたことを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、回転軸に対して相対的にハウジングを回転させながらナット部材を回転軸に対してねじ込んで軸受に予圧を与え、引きずりトルクが規定の引きずりトルクに到達してナット部材の締め付けが停止した場合でも、ロックプレートを回転軸の軸心を中心とする円周方向に回動させることによって、ナット部材のねじ穴をロックプレートの複数の貫通孔のいずれかと正しく一致させることができる。そのため、ボルトを貫通孔に挿入する前に、これらのねじ穴と貫通孔とを正しく一致させるためのナット部材の増し締めを要することなくナット部材の回り止めを実現させることができる。
【0018】
また、本発明に係る建設機械の軸受固定装置は、θを前記回転軸の軸心を基準とする位相、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチをP(θ)、このピッチP(θ)に関連させて予め設定される前記ピッチをβ(θ)、前記回転軸に形成した前記スプライン部の歯厚と前記ロックプレートの前記スプライン部の歯厚との差をα(θ)、前記貫通孔の直径と前記ボルトの直径との差をγ(θ)としたとき、P(θ)−β(θ)<α(θ)+γ(θ)の関係を有することを特徴としている。
【0019】
このように構成した本発明は、回転軸に形成したスプライン部の歯厚とロックプレートのスプライン部の歯厚との差によって生じる間隙及び貫通孔の直径とボルトの直径との差によって生じる間隙を利用することができるので、ロックプレートに備えられた複数の貫通孔に製作誤差等が生じた場合でも確実にナット部材のねじ穴をロックプレートの複数の貫通孔のいずれかと正しく一致させることができる。
【0020】
また、本発明に係る建設機械の軸受固定装置は、前記ロックプレートの表面を使用する場合及び裏面を使用する場合のいずれの場合にも、前記ロックプレートは、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチに関連させて予め設定されるピッチで、前記ボルトの数よりも多い複数の前記貫通孔を前記回転軸の軸心を中心とする円周方向に備えたことを特徴としている。
【0021】
このように構成した本発明は、ロックプレートの両面を使用することができるので、貫通孔を少なくすることができ、ロックプレートを小型化することができる。そのため、ロックプレートをナット部材及び回転軸に容易に設置することができると共に、ロックプレートの製作費を抑えることができる。
【0022】
また、本発明に係る建設機械の軸受固定装置は、前記ナット部材は、遊星減速機構に含まれるキャリアに当接する円環状の凸部を有し、この凸部に前記ロックプレートに干渉しない切欠き部を設けたことを特徴としている。このように構成すると、ナット部材のねじ穴をロックプレートの貫通孔に合わせるためにロックプレートを回転軸の軸心を中心とする円周方向に回させても、ロックプレートがナット部材の凸部の切欠き部形成端部に干渉することがないので、ロックプレートの回動範囲を最大限に活用することができる。
【0023】
また、本発明に係る建設機械の軸受固定装置は、前記建設機械は、走行体と、この走行体上に配置される旋回体と、前記走行体と前記旋回体との間に設けられる旋回装置とを備えた油圧ショベルから成り、前記旋回装置の一部を構成することを特徴としている。このように構成すると、土砂の掘削作業等に頻繁に使用される油圧ショベルにおいて有効に活用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の建設機械の軸受固定装置は、軸受をハウジングに押付けるナット部材に固定されるロックプレートが、回転軸に形成したスプライン部のピッチに関連させて予め設定されるピッチで、ボルトの数よりも多い複数の貫通孔を回転軸の軸心を中心とする円周方向に備えていることから、引きずりトルクが規定の引きずりトルクに到達してナット部材の締め付けが停止した場合でもロックプレートを回転軸の軸心を中心とする円周方向に回動させることによって、ナット部材のねじ穴をロックプレートの複数の貫通孔のいずれかと正しく一致させることができる。そのため、ボルトを貫通孔に挿入前に、これらのねじ穴と貫通孔とを正しく一致させるためのナット部材の増し締めを要することなくナット部材の回り止めを実現させることができる。これにより、ナット部材の増し締めのために強度の強い軸受を設ける必要もないので、ハウジングを小型化でき、軸受固定装置の製作費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の取付状態を示す横断面図である。
【図2】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の構成を示す図で、(a)図は旋回出力軸部分の横断面図、(b)図は旋回出力軸のスプライン部に係合するロックプレートを示す平面図である。
【図3】図2のA部を拡大して示した平面図である。
【図4】図2に示すロックプレートの貫通孔にボルトを挿通した状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の使用状態を説明する図である。
【図6】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の取付状態を示す横断面図である。
【図7】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の構成を示す図である。
【図8】本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の使用状態を説明する図である。
【図9】軸受固定装置が含まれる旋回装置を備えた建設機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。
【図10】従来の軸受固定装置が含まれる旋回装置を示す一部を断面した正面図である。
【図11】図10のB部を拡大して示した正面図である。
【図12】図10のC−C線に沿って拡大して示した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る建設機械の軸受固定装置を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0027】
[第1実施形態]
本発明に係る建設機械の軸受固定装置は、例えば前述した図10〜図12に示す旋回装置6に備えられるものであり、図10〜図12に示す旋回装置6は前述したように図9に示す油圧ショベル1に備えられている。すなわち、本発明に係る建設機械の軸受固定装置が備えられる旋回装置6の基本構成は、図10〜図12に示すロックプレート26部分を除いた構成と同じである。従って、図9〜図12に示す油圧ショベル1及び旋回装置6と重複する部分には同一符号を付す。
【0028】
図1は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の取付状態を示す横断面図、図2は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の構成を示す図で、(a)図は旋回出力軸部分の横断面図、(b)図は旋回出力軸のスプライン部に係合するロックプレートを示す平面図、図3は図2のA部を拡大して示した平面図、図4は図2に示すロックプレートの貫通孔にボルトを挿通した状態を示す断面図、図5は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態の使用状態を説明する図である。
【0029】
前述と一部説明が重複するが、図1、図2に示すように、本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態は、複数のねじ穴21C、例えば2つのねじ穴21Cを有し、軸受19,20をハウジング15に押付けるナット部材21と、回転軸としての旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cと係合するスプライン部31A、及び複数の貫通孔31B、例えば9つの貫通孔31Bを有し、ナット部材21に固定されるロックプレート31と、このロックプレート31の貫通孔31Bのいずれかに挿入されてナット部材21の2つのねじ穴21Cに螺合し、ロックプレート31をナット部材21に固定する2つのボルト27とを備えている。すなわちロックプレート31に設ける貫通孔31Bの数をボルト27の数よりも多く設定してある。ナット部材21には、キャリア18の下端に当接する凸部21Bを設け、この凸部21Bにロックプレート31の回動に干渉しない切欠き部28を設けている。
【0030】
また、ロックプレート31は、図2に示すように、旋回出力軸10に形成したスプライン部10CのピッチPに関連させて予め設定されるピッチβで、9つの貫通孔31Bを旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に配置している。例えば、θを旋回出力軸10の軸心を基準とする位相とし、旋回出力軸10に形成したスプライン部10CのピッチPは位相θの関数としてP(θ)と表し、このピッチP(θ)に関連させて予め設定されるピッチβも位相θの関数としてβ(θ)と表す。また、図3、図4に示すように、旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cの歯厚とロックプレート31のスプライン部31Aの歯厚との差をα、貫通孔31Bの直径とボルト27の直径との差をγとし、同様にこれらα、γを位相θの関数としてそれぞれα(θ)、γ(θ)と表す。そして、これら4つのP(θ)、β(θ)、α(θ)、γ(θ)は以下(1)〜(4)の関係式を満たすものとする。
【0031】
H=V+C ・・・・・・・(1)
W=C+1 ・・・・・・・(2)
β(θ)={(W−1)/W}P(θ) ・・・・・・・(3)
P(θ)−β(θ)<α(θ)+γ(θ) ・・・・・・・(4)
ここで、C:ボルト27が挿入されていない貫通孔31Bの数
H:貫通孔31Bの全数
V:ボルト27の数
W:ナット部材21のねじ穴21Cに対してロックプレート31の取り得る配置状態の数
本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態では、H=9、V=2より、式(1)からC=7となり、式(2)からW=8となる。また、式(3)はβ(θ)=(7/8)P(θ)となり、式(4)は(1/8)P(θ)<α(θ)+γ(θ)となる。
【0032】
本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第1実施形態を使用する場合、旋回出力軸10に対して相対的にハウジング15を回転させながらナット部材21を旋回出力軸10に対してねじ込んで軸受19,20に予圧を与え、引きずりトルクが規定の引きずりトルクに到達してナット部材21の締め付けが停止した後に、図5に示すように、旋回出力軸10に形成されたスプライン部10Cにロックプレート31のスプライン部31Aを噛み合わせ、ロックプレート31に設けられた貫通孔31Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cをそれぞれ一致させる。すなわち、ロックプレート31をナット部材21の2つのねじ穴21Cに対して図5に示す(a)〜(h)のピッチ1/8P(θ)ずつ変位させた8つの配置状態(W=8)のうちいずれか1つの状態に設置し、これら貫通孔31Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cとをそれぞれ一致させる。
【0033】
そして、これら貫通孔31Bとねじ穴21Cを一致させた状態で2つのボルト27を貫通孔31Bにそれぞれ挿通してねじ穴21Cに締結し、ロックプレート31をナット部材21に固定する。このとき、2つのボルト27を上手くねじ穴21Cに締結できないときには、図5に示す(a)〜(h)の8つの各状態において、旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cの歯厚とロックプレート31のスプライン部31Aの歯厚との差α(θ)から生じる間隙及び貫通孔31Bの直径とボルト27の直径との差γ(θ)から生じる間隙を利用して微調整する。このようにして、ナット部材21は旋回出力軸10に対する回り止めがなされた状態で固定される。
【0034】
このように構成した本発明の第1実施形態によれば、前述のように、引きずりトルクが規定の引きずりトルクに到達してナット部材21の締め付けが停止した場合でも、ロックプレート31を旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に回動させることによって、ロックプレート31の9つの貫通孔31Bのいずれかとナット部材21のねじ穴21Cとを正しく一致させることができる。そのため、2つのボルト27を9つの貫通孔31Bに挿入する前に、これらの貫通孔31Bとねじ穴21Cとを正しく一致させるためのナット部材21の増し締めを要することなくナット部材21の回り止めを実現させることができる。これにより、ナット部材21の増し締めのために強度の強い軸受を設ける必要もないので、ハウジング15を小型化でき、軸受固定装置の製作費を抑えることができる。
【0035】
また、本発明の第1実施形態は、式(4)、すなわち(1/8)P(θ)<α(θ)+γ(θ)の関係を有することによって、旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cの歯厚とロックプレート31のスプライン部31Aの歯厚との差によって生じる間隙及び貫通孔31Bの直径とボルト27の直径との差によって生じる間隙を利用することができる。そのため、例えばロックプレート31に備えられた9つの貫通孔31Bに製作誤差等が生じ、ロックプレート31を旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に回動させてもこれらの貫通孔31Bとナット部材21のねじ穴21Cとを一致させることができない場合でも、これらの間隙だけロックプレート31を回動させて微調整することによって、確実にナット部材21のねじ穴21Cをこれらの貫通孔31Bのいずれかと正しく一致させることができる。
【0036】
また、本発明の第1実施形態は、ナット部材21に設けられた凸部21Bにロックプレート31の回動に干渉しない切欠き部28を設けたことによって、ロックプレート31の9つの貫通孔31Bをナット部材21のねじ穴21Cに合わせるためにロックプレート31を旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に回動させても、ロックプレート31がナット部材21の凸部21Bの切欠き部28形成端部に干渉することがないので、ロックプレート31の回動範囲を最大限に活用することができ、ロックプレート31の両端に形成された貫通孔31Bの利用が妨げられることはない。
【0037】
また、本発明の第1実施形態は、走行体2と、この走行体2上に配置される旋回体4と、走行体2と旋回体4との間に設けられる旋回装置6とを有する油圧ショベル1に備えられることから、このような旋回装置6を備えた土砂の掘削作業等に頻繁に使用される建設機械において有効に活用することができる。もちろん、油圧ショベル1とは異なる各種の建設機械にも本発明は適用することができる。
【0038】
なお、本発明の第1実施形態は、ロックプレート31に形成された貫通孔31Bが9つの場合について説明したが、貫通孔31Bが9つでなくてもボルト27の数よりも多ければよい。この場合、式(1)、式(2)より、貫通孔31Bの数Hが多いほどナット部材21のねじ穴21Cに対してロックプレート31の取り得る配置状態の数Wが増すので、より確実かつ容易に貫通孔31Bのいずれかとナット部材21のねじ穴21Cとを一致させることができる。
【0039】
また、本発明の第1実施形態は、ナット部材21のねじ穴21C及びボルト27の数Vが2つの場合について説明したが、2つでなくても3つ以上あってもよい。これにより、ロックプレート31をナット部材21に締付ける力が増すので、ロックプレート31の十分な強度を確保することができ、安定した信頼性の高いナット部材21の回り止めを実現させることができる。
【0040】
[第2実施形態]
図6は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の取付状態を示す横断面図、図7は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の構成を示す図、図8は本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の使用状態を説明する図である。
【0041】
図6、図7に示すように、本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態が本発明の第1実施形態と異なるのは、ロックプレート35の表面を使用する場合及び裏面を使用する場合のいずれの場合にも、ロックプレート35は、旋回出力軸10に形成したスプライン部10CのピッチP(θ)に関連させて予め設定されるピッチβ(θ)で、ボルト27の数Vよりも多い複数の貫通孔31B、例えばボルト27の数Vを2つとし、このボルト27の数(V=2)よりも多い5つの貫通孔35B(H=5)を旋回出力軸10の軸心を中心とする円周方向に備えたことであり、その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0042】
また、本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態の場合、上述した4つの関係式(1)〜(4)は式(2)を以下の式(2a)に代えて満たすものとする。
【0043】
W=2(C+1) ・・・・・・・(2a)
この場合、H=5、V=2より、式(1)からC=3となり、式(2a)からW=8となる。また、式(3)はβ(θ)=(7/8)P(θ)となり、式(4)は(1/8)P(θ)<α(θ)+γ(θ)となる。
【0044】
本発明に係る建設機械の軸受固定装置の第2実施形態を使用する場合、旋回出力軸10に対して相対的にハウジング15を回転させながらナット部材21を旋回出力軸10に対してねじ込んで軸受19,20に予圧を与え、引きずりトルクが規定の引きずりトルクに到達してナット部材21の締め付けが停止した後に、図8に示すように、例えばロックプレート35の表面部35aを上にして旋回出力軸10に形成されたスプライン部10Cにロックプレート35のスプライン部35Aを噛み合わせ、ロックプレート35に設けられた5つの貫通孔35Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cとをそれぞれ一致させる。このとき、これら貫通孔35Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cとがそれぞれ一致しない場合は、ロックプレート35を裏返して裏面部35bを上にして旋回出力軸10に形成されたスプライン部10Cにロックプレート35のスプライン部35Aを噛み合わせ、ロックプレート35に設けられた5つの貫通孔35Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cとをそれぞれ一致させる。すなわち、ロックプレート35をナット部材21の2つのねじ穴21Cに対して図8に示す(a)〜(h)の8つの配置状態(W=8)のうちいずれか1つの状態に設置し、これら貫通孔35Bのいずれか2つとナット部材21の2つのねじ穴21Cとをそれぞれ一致させる。
【0045】
そして、これら貫通孔35Bとねじ穴21Cとを一致させた状態で2つのボルト27を貫通孔35Bにそれぞれ挿通してねじ穴21Cに締結し、ロックプレート35をナット部材21に固定する。このとき、2つのボルト27を上手くねじ穴21Cに締結できないときには、図8に示す(a)〜(h)の8つの各状態において、旋回出力軸10に形成したスプライン部10Cの歯厚とロックプレート35のスプライン部35Aの歯厚との差α(θ)から生じる間隙及び貫通孔35Bの直径とボルト27の直径との差γ(θ)から生じる間隙を利用して微調整する。このようにして、ナット部材21は旋回出力軸10に対する回り止めがなされた状態で固定される。
【0046】
このように構成した本発明の第2実施形態によれば、前述した本発明の第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、ロックプレート35の表面部35a及び裏面部35bの両面を使用することができるので、貫通孔35Bの数Hを少なくすることができ、ロックプレート35を小型化することができる。そのため、ロックプレート35をナット部材21及び旋回出力軸10に容易に設置することができると共に、ロックプレート35の製作費を抑えることができる。また、これらのことにより、ナット部材21に備えられた凸部21Bに設けた切欠き部28を小さくすることができるので、旋回出力軸10を支持する軸受19,20及びこれら軸受19,20が押付られるハウジング15の構造上の安定性を高めることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 走行体
4 旋回体
5 フロント作業機
6 旋回装置
9 遊星減速機構
10 旋回出力軸(回転軸)
10C スプライン部
15 ハウジング
19 軸受
20 軸受
21 ナット部材
21B 凸部
21C ねじ穴
26 ロックプレート
26A スプライン部
26B 貫通孔
27 ボルト
28 切欠き部
31 ロックプレート
31A スプライン部
31B 貫通孔
35 ロックプレート
35A スプライン部
35B 貫通孔
35a 表面部
35b 裏面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を支持する軸受をハウジングに固定する建設機械の軸受固定装置であって、
ねじ穴を有し、前記軸受を前記ハウジングに押付けるナット部材と、前記回転軸に形成したスプライン部と係合するスプライン部、及び貫通孔を有し、前記ナット部材に固定されるロックプレートと、このロックプレートの前記貫通孔に挿入されて前記ナット部材のねじ穴に螺合し、前記ロックプレートを前記ナット部材に固定するボルトとを備えた建設機械の軸受固定装置において、
前記ロックプレートは、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチに関連させて予め設定されるピッチで、前記ボルトの数よりも多い複数の前記貫通孔を前記回転軸の軸心を中心とする円周方向に備えたことを特徴とする建設機械の軸受固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の軸受固定装置において、θを前記回転軸の軸心を基準とする位相、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチをP(θ)、このピッチP(θ)に関連させて予め設定される前記ピッチをβ(θ)、前記回転軸に形成した前記スプライン部の歯厚と前記ロックプレートの前記スプライン部の歯厚との差をα(θ)、前記貫通孔の直径と前記ボルトの直径との差をγ(θ)としたとき、P(θ)−β(θ)<α(θ)+γ(θ)の関係を有することを特徴とする建設機械の軸受固定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建設機械の軸受固定装置において、前記ロックプレートの表面を使用する場合及び裏面を使用する場合のいずれの場合にも、前記ロックプレートは、前記回転軸に形成した前記スプライン部のピッチに関連させて予め設定されるピッチで、前記ボルトの数よりも多い複数の前記貫通孔を前記回転軸の軸心を中心とする円周方向に備えたことを特徴とする建設機械の軸受固定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の建設機械の軸受固定装置において、前記ナット部材は、遊星減速機構に含まれるキャリアに当接する円環状の凸部を有し、この凸部に前記ロックプレートに干渉しない切欠き部を設けたことを特徴とする建設機械の軸受固定装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の建設機械の軸受固定装置において、前記建設機械は、走行体と、この走行体上に配置される旋回体と、前記走行体と前記旋回体との間に設けられる旋回装置とを備えた油圧ショベルから成り、前記旋回装置の一部を構成することを特徴とする建設機械の軸受固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−242411(P2010−242411A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93332(P2009−93332)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】