説明

建設機械の運転室

【課題】運転室への乗り降りをより容易にした建設機械の運転室を提供する。
【解決手段】運転室8が、建設機械2を操縦操作する「操縦位置」と地上に降ろした「乗降位置」との間で運転室8を昇降動させる昇降装置14を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗降が容易な建設機械の運転室に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械の運転室は、地上から比較的高い位置に装備されている。例えば、代表的な建設機械である油圧ショベルの運転室は、上部旋回体に装備され、運転室への乗降は、下部走行体に備えたステップに足をかけて行われる。したがって、建設機械を操縦するオペレータにとっては、高い位置の運転室への乗り降りは面倒であり、労力を要し、特に身体の不自由な人にとっては負担が大きい。
【0003】
この問題を改善するために、ステップを乗降が容易な位置に移動できるようにした建設機械が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−10064号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、運転室への乗降を容易にしたステップを用意しても、運転室そのものは高位置にあるので、オペレータが地上と運転室の間を昇り降りすることに変わりはない。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、運転室への乗り降りをより容易にした建設機械の運転室を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記技術的課題を解決する建設機械の運転室として、建設機械の運転室を、建設機械を操縦操作する「操縦位置」と地上に降ろした「乗降位置」との間で昇降動させる昇降装置を備えている。
【0008】
好適には、該昇降装置は、運転室を鉛直の方向に摺動を自在に取付けた基台と、この基台を建設機械の機体に水平方向に揺動を自在に取付けた取付軸と、この取付軸を中心に基台を揺動させる基台と機体の間に設けられた揺動シリンダと、基台に対して運転室を昇降動させる基台と運転室の間に設けられた昇降シリンダと、揺動シリンダおよび昇降シリンダに作動油を給排する制御弁と、運転室に配設され運転室の昇降を指令するスイッチと、このスイッチの指令に基づいて制御弁を制御するコントローラと、を備え、該コントローラは、該運転室が「乗降位置」で該指令が「昇」のときには、運転室を、昇降シリンダを駆動して上昇させ次に揺動シリンダを操作して揺動させ、「操縦位置」に位置付け、該運転室が「操縦位置」で該指令が「降」のときには、運転室を、揺動シリンダを操作して揺動させ次に昇降シリンダを操作して、「乗降位置」に位置付ける。
【0009】
また、該スイッチは、運転室の側面に設けた開閉自在な蓋の内側の室内に、室内および室外から操作を可能に設置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従って構成された建設機械の運転室は、運転室を「操縦位置」と地上に降ろした「乗降位置」との間で昇降動させる昇降装置を備えているので、運転室を「地上位置」にして運転室に乗りまた運転室から降り、さらに搭乗した運転室を「操縦位置」と「乗降位置」の間で昇降動させることができる。したがって、高位置の運転室にステップなどを用いて乗降しなくてもよく、乗り降りが容易であり、乗降が面倒で労力を要する負担の大きい問題を除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に従って構成された運転室の、代表的な建設機械である油圧ショベルにおける実施例の構成説明図。
【図2】図1の運転室と基台の取付部分の斜視図。
【図3】揺動シリンダの取付詳細図で(a)は運転室「操縦位置」の状態、(b)は運転室90°揺動位置の状態。
【図4】図1の矢印X方向に見た運転室側面の斜視図。
【図5】コントローラの制御手順を示すフローチャート。
【図6】図1に示す運転室の昇降作動の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に従って構成された建設機械の運転室について、代表的な建設機械である油圧ショベルにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0013】
図1を参照して説明する。油圧ショベル2は、左右一対の履帯式走行装置4a、4aを有した下部走行体4と、下部走行体4上に旋回自在に取付けられた上部旋回体6を備え、上部旋回体6には、運転室8、エンジン室10、作業腕装置12(一部のみ図示)などが装備されている。運転室8は、油圧ショベル2を操縦操作する「操縦位置」(実線で示す)と地上に降ろした「乗降位置」(二点鎖線で示す)との間で昇降動させる昇降装置14を備えている。
【0014】
昇降装置14は、運転室8を鉛直方向(図1の平面図の紙面に直角の方向)に摺動を自在に取付けた基台16と、この基台16を機体である旋回体フレーム18に水平方向(図1の平面図の紙面の方向)に揺動を自在に取付けた取付軸20と、この取付軸20を中心に基台16を揺動させる基台16と旋回体フレーム18の間に設けられた揺動シリンダ22と、基台16に対して運転室8を昇降動させる基台16と運転室8の間に設けられた昇降シリンダ24を備えている。
【0015】
昇降装置14はさらに、揺動シリンダ22および昇降シリンダ24に作動油を給排する上部旋回体6に設けられた制御弁26と、運転室8内に配設され運転室8の昇降を指令するスイッチ28と、このスイッチ28の指令に基づいて制御弁26を制御する上部旋回体6に設けられたコントローラ30を備えている。
【0016】
コントローラ30は、後に詳述するが、運転室8が「乗降位置」(二点鎖線で示す)で指令が「昇」のときには、運転室8を、昇降シリンダ24を駆動して上昇させ次に揺動シリンダ22を操作して揺動させ、「操縦位置」(実線で示す)に位置付け、運転室8が「操縦位置」で指令が「降」のときには、運転室8を、揺動シリンダ22を操作して側方に揺動させ(一点鎖線で示す位置)、次に昇降シリンダ24を操作して「乗降位置」に位置付ける。
【0017】
図1とともに図2を参照して説明する。基台16は、運転室8の背面8aと略同じ大きさの平板面16aを有した直方体状に形成されている。平板面16aには鉛直に延びる一対の凸状のキー16b、16bが形成されている。運転室8の背面8aには、この一対のキー16b、16bに摺動自在に嵌合する一対の凹状のキー溝8b、8bが形成されている。キー16bおよびキー溝8bは、平板面16aと背面8aが離反しないように断面が台形に広がった形に形成されている。
【0018】
基台16の平板面16aの一対のキー16b、16bの間の鉛直方向上端部には、昇降シリンダ24の一端をピンによって取付けるブラケット16cが備えられている。運転室8の背面8aの一対のキー溝8b、8bの間には、凹溝状のシリンダ格納部18cが形成され、鉛直方向の下端部には、昇降シリンダ24の他端をピンによって取付けるブラケット8d(図示は省略)が備えられている。
【0019】
基台16には、キー16bの延びる方向に貫通した、取付軸20が通される軸受穴16dが、直方体形状の端部に形成されている。取付軸20は、軸受穴16dから突出した両端部が、旋回体フレーム18に固定されている。
【0020】
昇降シリンダ24および揺動シリンダ22は、複動式の油圧シリンダである。図3を参照して揺動シリンダ22の取付けについて説明する。揺動シリンダ22は、ヘッド端が旋回体フレーム18のブラケット18aにピンによって取付けられ、ロッド端は、旋回体フレーム18のブラケット18bにピンによって揺動自在に取付けられたリンク32の先端に、基台16の下端部に設けたブラケット16eピンによって取付けられたリンク34とともにピンによって取付けられている。
【0021】
この揺動シリンダ22を図3(a)に示すように収縮端まで一杯に縮めると、運転室8の基台16は「操縦位置」に位置付けられ、図3(b)に示すように一杯に伸ばし伸張端に位置付けると、90°取付軸20を中心に上部旋回体6の側方に揺動させた位置に位置づけられる。2個のリンク32,34を採用することにより、揺動シリンダ22は、短い伸縮ストロークのものにすることができる。
【0022】
図1に戻って説明する。制御弁26は、油圧ショベル2の油圧源の作動油を揺動シリンダ22および昇降シリンダ24それぞれに給排する一対の、周知の、電磁切換弁を備えている。スイッチ28は押しボタン式の電気スイッチで、地上の「乗降位置」の運転室8を機上の「操縦位置」に上昇させる信号を指令する「昇」ボタン28aと、機上の「操縦位置」の運転室8を地上の「乗降位置」に降ろす信号を指令する「降」ボタン28bを備えている。
【0023】
スイッチ28は、図4を参照して説明すると、運転室8の側面の乗降ドア8eの近くに設けた開口の開閉自在な蓋8fの内側の室内に、室内および室外から操作を可能に設置されている。スイッチ28の近くには、エンジンの始動・停止を操作する、エンジンキーによって操作されるエンジンスイッチ36が設けられている。
【0024】
図5を参照してコントローラ30の制御手順、すなわち、スイッチ28の指令に基づいて制御弁26を制御し、揺動シリンダ22および昇降シリンダ24を作動させ、運転室8を昇降させる手順について説明する。
【0025】
スタートすると、ステップS1において、スイッチ28の「昇」または「降」のいずれかがONかどうかを判定する。いずれもONでない(N判定)ときにはステップS1に戻り判定を繰り返す。いずれかのスイッチONのとき(Y判定)にはステップS2に進む。
【0026】
ステップS2において、スイッチ28の「昇」がONのときにはステップS3に進み昇降シリンダ24の収縮を開始させステップS4に進む。スイッチ28の「昇」がONでないとき(「降」がONのとき)にはステップS5に進み揺動シリンダ22の伸長を開始させステップS6に進む。
【0027】
ステップS4においては、昇降シリンダ24が収縮端まで縮んだかどうかを、リミットスイッチあるいは油圧力スイッチなどの適宜の手段からの信号によって判定する。昇降シリンダ24が収縮端まで縮んでないときはステップS4に戻り判定を繰り返し、昇降シリンダ収縮端のときにはステップS7に進み昇降シリンダ24の作動を停止させ、次に揺動シリンダ22の作動を停止させ、次に揺動シリンダ22の収縮を開始させステップS8に進む。
【0028】
ステップS8においては、揺動シリンダ22が収縮端まで縮んだかどうかを、リミットスイッチあるいは油圧力スイッチなどの適宜の手段からの信号によって判定する。揺動シリンダ22が収縮端まで縮んでないときにはステップS8に戻り判定を繰り返し、収縮端のときにはステップS9に進み揺動シリンダ22の作動を停止させ、スタートに戻る。
【0029】
ステップS6においては、揺動シリンダ22が伸長端まで伸びたかどうかを、リミットスイッチあるいは油圧力スイッチなどの適宜の手段からの信号によって判定する。昇降シリンダ24が伸長端まで伸びていないときはステップS6に戻り判定を繰り返し、伸長端のときにはステップS10に進み揺動シリンダ22の作動を停止させ、次に昇降シリンダ24の伸長を開始しステップS11に進む。
【0030】
ステップS11においては、昇降シリンダ24が伸長端まで伸びたかどうかを、リミットスイッチあるいは油圧力スイッチなどの周知の手段の信号によって判定する。昇降シリンダ24が伸長端まで伸びていないときにはステップS11に戻り判定を繰り返し、伸長端のときにはステップS12に進み昇降シリンダ24の作動を停止させ、スタートに戻る。
【0031】
なお、運転室8を地上に降ろした「乗降位置」でスイッチ28の「降」ボタン28bを押しても、揺動シリンダ22および昇降シリンダ24は運転室8を降ろす方向の作動端にあるので、運転室8がさらに下降することはない。同様に、運転室8を「操縦位置」に上昇させた状態で「昇」ボタン28aを押しても、運転室8がさらに上昇することはない。
【0032】
次に、主として図6を参照して、運転室8を昇降させる操作手順について説明する。
【0033】
運転室を降ろす:
「操縦位置」(図6(a))の運転室8を地上の「乗降位置」(図6(c))に降ろすには、オペレータが運転室内にいるときは室内で、室外のときは運転室8の側面の蓋8f(図4)を開けて、スイッチ28の「降」ボタン28bを押す。このときエンジンが動いていない場合には、エンジンスイッチ36を操作してエンジンを始動させ、昇降シリンダ24、揺動シリンダ22への油圧源が使えるようにする。
【0034】
「降」ボタン28bを操作すると、揺動シリンダ22の作動により運転室8は上部旋回体6の側方に90°揺動移動される(図6(b))。
【0035】
運転室8がこの位置まで揺動すると、次に昇降シリンダ24が作動して、運転室8は地上の「乗降位置」に降ろされる(図6(c))。
【0036】
運転室を上げる:
地上の運転室8(図6(c))を「操縦位置」(図6(a))に上げるには、オペレータが運転室8に乗降ドア8eを開けて乗り込み室内から、あるいは単に運転室8のみの場合は室外から、「昇」ボタン28aを操作すればよい。
【0037】
主として図1を参照して上述したとおりの建設機械の運転室の効果について説明する。
【0038】
本発明に従って構成された建設機械の運転室は、運転室8を高位置の「操縦位置」と地上に降ろした「乗降位置」との間で昇降動させる昇降装置14を備えているので、運転室8を「地上位置」にして運転室8に乗りまた運転室から降り、さらに搭乗した運転室8を「操縦位置」と「乗降位置」の間で昇降動させることができる。したがって、高位置の運転室にステップなどを用いて乗降しなくてもよく、乗り降りが容易であり、乗降が面倒で労力を要する負担の大きい問題を除くことができる。
【0039】
さらに、昇降装置14は、運転室8を鉛直の方向に摺動を自在に取付けた基台16と、この基台16を建設機械の機体18に水平方向に揺動を自在に取付けた取付軸20と、この取付軸20を中心に基台16を揺動させる基台16と機体18の間に設けられた揺動シリンダ22と、基台16に対して運転室8を昇降動させる基台16と運転室8の間に設けられた昇降シリンダ24と、揺動シリンダ22および昇降シリンダ24に作動油を給排する制御弁26と、運転室8に配設され運転室8の昇降を指令するスイッチ28と、このスイッチ28の指令に基づいて制御弁を制御するコントローラ30を備えている。
【0040】
そして、コントローラ30は、運転室8が「乗降位置」で該指令が「昇」のときには、運転室8を、昇降シリンダ24を駆動して上昇させ次に揺動シリンダ22を操作して揺動させ、「操縦位置」に位置付け、運転室8が「操縦位置」で該指令が「降」のときには、運転室8を、揺動シリンダ22を操作して揺動させ次に昇降シリンダ24を操作して、「乗降位置」に位置付ける。
【0041】
したがって、建設機械本体の油圧源を利用することができる揺動シリンダ22および昇降シリンダ24による強い作動力および簡単な構成で、容易に運転室8を昇降させることができる。
【0042】
さらに、スイッチ28は、運転室8の側面に設けた開閉自在な蓋8f(図4)の内側の室内に、室内および室外から操作を可能に設置されている。したがって、運転室内あるいは室外から容易に運転室8を昇降させることができる。
【0043】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。例えば、スイッチ28と同じ機能のスイッチを有線あるいは無線方式にして、運転室8内および/または運転室8から離れた位置で操作できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
2:油圧ショベル(建設機械)
8:運転室
14:昇降装置
16:基台
18:旋回体フレーム(機体)
20:取付軸
22:揺動シリンダ
24:昇降シリンダ
26:制御弁
28:スイッチ
30:コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の運転室を、建設機械を操縦操作する「操縦位置」と地上に降ろした「乗降位置」との間で昇降動させる昇降装置を備えている、
ことを特徴とする建設機械の運転室。
【請求項2】
該昇降装置が、
運転室を鉛直の方向に摺動を自在に取付けた基台と、
この基台を建設機械の機体に水平方向に揺動を自在に取付けた取付軸と、
この取付軸を中心に基台を揺動させる基台と機体の間に設けられた揺動シリンダと、
基台に対して運転室を昇降動させる基台と運転室の間に設けられた昇降シリンダと、
揺動シリンダおよび昇降シリンダに作動油を給排する制御弁と、
運転室に配設され運転室の昇降を指令するスイッチと、
このスイッチの指令に基づいて制御弁を制御するコントローラと、を備え、
該コントローラが、
該運転室が「乗降位置」で該指令が「昇」のときには、運転室を、昇降シリンダを駆動して上昇させ次に揺動シリンダを操作して揺動させ、「操縦位置」に位置付け、
該運転室が「操縦位置」で該指令が「降」のときには、運転室を、揺動シリンダを操作して揺動させ次に昇降シリンダを操作して、「乗降位置」に位置付ける、
ことを特徴とする請求項1記載の建設機械の運転室。
【請求項3】
該スイッチが、
運転室の側面に設けた開閉自在な蓋の内側の室内に、室内および室外から操作を可能に設置されている、
ことを特徴とする請求項2記載の建設機械の運転室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189876(P2010−189876A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33381(P2009−33381)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】