説明

建設機械

【課題】 貯油タンク内の油の液面がフィルタ部材が露出する位置まで傾いたり、下がった場合でも、流出口が空気を吸込むのを防止して信頼性や作業性を向上する。
【解決手段】 作動油タンク16のタンク本体17内に、フィルタ部材23の周囲と上部を覆う上部カバー28を設け、この上部カバー28には底面板17Fに近接した位置にフィルタ部材23に向けて作動油が流出する開口部28Cを設ける。また、上部カバー28の蓋部28Bには、上部カバー28内の空気を抜くための空気抜き弁30を設ける。従って、作動油タンク16に作動油を給油したときに、空気抜き弁30を開弁させて上部カバー28内の空気を抜き、内部を真空状態にすることにより、作動油の液面が傾いたり下がったりした場合でも、上部カバー28内に作動油を保持することができ、流出口21に作動油だけを吸込ませることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に関し、特に、作動油タンク、燃料タンク等の貯油タンクを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械の代表例である油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
また、上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に搭載され油圧ポンプを駆動するエンジンと、該エンジンの前側に位置して前記旋回フレーム上に設けられ前記油圧ポンプに供給する作動油を貯える作動油タンクと、前記エンジンに供給する燃料を貯える燃料タンクとを備えている。
【0004】
また、貯油タンクは、底面、周面および天面からなる密閉容器として形成されたタンク本体と、該タンク本体に作動油、燃料からなる油を流入させるために天面に設けられた流入口と、前記タンク本体内の油を流出させるために前記タンク本体の底面に設けられた流出口と、前記タンク本体内の底面側に位置して該流出口を覆うように設けられ該流出口から流出する油を清浄化するフィルタ部材とにより構成されている。
【0005】
ここで、ミニショベルと呼ばれる超小型の油圧ショベルは、中型等の油圧ショベルと同等数の部品を非常に小さな旋回フレーム上に搭載するようになっている。このような状況下でも、作動油タンク、燃料タンク等の貯油タンクは、必要な容量を確保しなくてはならない。このため、設置スペースを必要とする貯油タンクは、タンク本体の形状や配置場所が制限される上に、周囲の機器との取り回しの関係で、流入口や流出口の位置を自由に配置することができない。
【0006】
このように、多くの制限を受けているミニショベルの貯油タンクでは、ミニショベルを傾斜地で作業させたり、斜面を走行させると、貯油タンクに対して液面が傾いて、フィルタ部材が空気中に露出し、流出口から空気を吸込んでしまうことも考えられる。
【0007】
そこで、油圧ショベルの貯油タンクには、貯油タンクに対して液面が傾いた場合でも、フィルタ部材が空気中に露出しないように、該フィルタ部材を円錐台状に形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−100885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上述した特許文献1による油圧ショベルでは、貯油タンクを縦長形状に形成しているから、フィルタ部材が空気中に露出し難い構造となっている。しかし、超小型の油圧ショベルには、制限されたレイアウトの関係から、水平方向に延びる貯油タンクをフロア下に配置したものがある。この横長形状の貯油タンクは、縦長形状の貯油タンクに比較して底面側に設けたフィルタ部材が空気中に露出する可能性が高くなるから、油圧ショベルによって作業、走行できる傾斜角度の範囲が狭くなってしまう。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、貯油タンク内の油の液面がフィルタ部材が露出する位置まで傾いたり、下がった場合でも、流出口が空気を吸込むのを防止でき、信頼性や作業性を向上できるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による建設機械は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、前記上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に搭載され油圧ポンプを駆動する原動機と、前記油圧ポンプに供給する作動油または原動機に供給する燃料からなる油を貯える貯油タンクとを備え、前記貯油タンクは、底面、周面および天面からなる密閉容器として形成されたタンク本体と、該タンク本体に油を流入させるために天面に設けられた流入口と、前記タンク本体内の油を流出させるために前記タンク本体の底面に設けられた流出口と、前記タンク本体内の底面側に位置して該流出口を覆うように設けられ該流出口から流出する油を清浄化するフィルタ部材とにより構成している。
【0012】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記貯油タンクのタンク本体内には、前記フィルタ部材を上側から覆う有蓋筒体として形成され、前記底面に近接した位置に前記フィルタ部材に向けて油が流出する開口部を有するフィルタカバーを設け、該フィルタカバーの蓋部には、当該フィルタカバー内の空気を抜くための空気抜き弁を設ける構成としたことにある。
【0013】
請求項2の発明は、前記フィルタカバーは、下側が前記開口部となった筒部と該筒部の上側を閉塞する前記蓋部とからなる上部カバーと、前記筒部の開口部よりも径方向の内側に位置して前記タンク本体の底面から上方向に向け立上がり上部側が前記筒部と同心状に重なった下部カバーとにより構成し、前記開口部は、前記上部カバーと下部カバーとの間に位置して前記タンク本体内とフィルタカバー内とを連通する全周通路として形成したことにある。
【0014】
請求項3の発明は、前記上部カバーの筒部と前記下部カバーの筒部とは、上,下方向に一定の高さ寸法の重なり代をもって配置したことにある。
【0015】
請求項4の発明は、前記貯油タンクの流入口と前記空気抜き弁とは、上,下方向でほぼ一直線状に配置し、前記流入口から前記空気抜き弁を操作して前記フィルタカバー内の空気抜きを行う構成としたことにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、貯油タンクのタンク本体内に設けた有蓋筒体からなるフィルタカバーは、タンク本体内の底面側に設けたフィルタ部材を上側から覆うことにより、底面に近接した位置に前記フィルタ部材に向けて油が流出する開口部を設けている。この上で、フィルタカバーの蓋部には、当該フィルタカバー内の空気を抜くための空気抜き弁を設ける構成としている。この構成では、貯油タンクの流入口から作動油、燃料等の油を流入させたときに、空気抜き弁を操作することによりフィルタカバー内の空気を抜いて大気圧が作用しない真空状態または真空に近い状態にすることができる。
【0017】
従って、タンク本体内の油に作用する大気圧によってフィルタカバー内に油を保持することができるから、タンク本体内で油の液面がフィルタ部材の下部位置まで下がったとしても、フィルタカバーの開口部よりも液面が高い位置であれば、油をフィルタカバー内に保持することができる。
【0018】
この結果、貯油タンク内で油の液面がフィルタ部材が露出する位置まで大きく傾いたり、油が減少した場合でも、流出口は油だけを吸込むことができるから、建設機械によって作業したり、走行できる傾斜角度の範囲を広くすることができ、信頼性や作業性を向上することができる。また、貯油タンクの形状、取付位置等の自由度を高めることができ、貯油タンクの容量を大きくして、作業性能や稼働時間を向上することができる。一方で、狭い場所にも貯油タンクを配置できるから、建設機械を小型化することもできる。
【0019】
請求項2の発明によれば、フィルタカバーを、下側が開口部となった筒部と該筒部の上側を閉塞する蓋部とからなる上部カバーと、該上部カバーの筒部の開口部よりも径方向の内側に位置してタンク本体の底面から上方向に向け立上がり上部側が前記筒部と同心状に重なった下部カバーとにより構成している。そして、開口部は、前記上部カバーと下部カバーとの間に位置して前記タンク本体内とフィルタカバー内とを連通する全周通路として形成している。
【0020】
これにより、上部カバーと下部カバーとの重なり部分に形成した開口部は、例えばタンク本体内に発生する気泡がフィルタカバー内に侵入するのを防止することができ、フィルタカバー内の真空状態を効率よく維持することができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、上部カバーの筒部と下部カバーの筒部とは、上,下方向に一定の高さ寸法の重なり代をもって配置しているから、この重なり代の分だけ気泡の侵入を防止することができ、フィルタカバー内を真空状態に維持することができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、貯油タンクの流入口と空気抜き弁とは、上,下方向でほぼ一直線状に配置しているから、前記流入口からタンク本体内に油を流入させたときに、この流入口から棒状体等を下方に挿入するだけで空気抜き弁を容易に操作することができ、フィルタカバー内の空気を簡単に抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態による油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】油圧ショベルを作業装置を省略した状態で拡大して示す平面図である。
【図3】上部旋回体の右側部分を作動油タンクを露出した状態で示す要部拡大の斜視図である。
【図4】作動油タンクを単体で示す斜視図である。
【図5】作動油タンクを単体で示す平面図である。
【図6】作動油タンクを図5中の矢示VI−VI方向から見た断面図である。
【図7】作動油タンクの流出口、フィルタ部材、フィルタカバー、空気抜き弁等を示す要部拡大の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械の代表例として超小型の油圧ショベルを例に挙げ、図1ないし図7に従って詳細に説明する。
【0025】
図1において、1は建設機械としての超小型の油圧ショベルを示している。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に揺動および俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置4とにより大略構成されている。
【0026】
また、上部旋回体3は、図1、図2に示す如く、狭い現場でも作業できるように非常にコンパクトに構成されている。そして、上部旋回体3は、後述の旋回フレーム5上にエンジン7、油圧ポンプ8、燃料タンク9、作動油タンク16等を搭載し、これらをエンジンカバー10、スカートカバー14,15で覆うことにより構成されている。
【0027】
5は上部旋回体3のベースとなる旋回フレームで、該旋回フレーム5の後部には、作業装置4の重量バランスをとるカウンタウエイト6が一体的に設けられている。また、旋回フレーム5の前側には、作業装置4を揺動可能に支持する支持ブラケット5Aが設けられている。そして、旋回フレーム5とカウンタウエイト6とは、例えば鋳造手段を用いて一体形成されている。
【0028】
7は旋回フレーム5の後部側に横置き状態で搭載された原動機としてのエンジン(図2中に点線で図示)である。このエンジン7は、カウンタウエイト6の前側となる旋回フレーム5の後部位置に取付けられている。また、エンジン7の右側には油圧ポンプ8が取付けられている。そして、エンジン7は、後述する燃料タンク9から供給される燃料によって運転されることにより、油圧ポンプ8を駆動するものである。これにより、油圧ポンプ8は、作動油タンク16から供給される作動油を圧油として油圧モータ、油圧シリンダ等の各種アクチュエータに供給することができる。
【0029】
9は旋回フレーム5に搭載された貯油タンクとしての燃料タンクで、該燃料タンク9は、後述する作動油タンク16と左,右方向の反対側となる旋回フレーム5の左前側に配設されている。そして、燃料タンク9は、エンジン7に供給する燃料を貯えるもので、前側部分が旋回フレーム5とフロアプレート13との間に収容されている。
【0030】
10はエンジン7等を覆うエンジンカバーで、該エンジンカバー10は、例えば旋回フレーム5の後部に設けられたカウンタウエイト6に対して開閉可能に取付けられている。さらに、エンジンカバー10は、運転席台座を兼ねるもので、上側にはオペレータが着座する運転席11が取付けられている。
【0031】
12は旋回フレーム5の前側の中央位置に立設されたレバースタンドで、該レバースタンド12は、下部走行体2、作業装置4等を操縦する操縦装置を構成している。このレバースタンド12の上部には、左,右方向に離間した位置に左,右の作業操作レバー12Aが設けられ、該各作業操作レバー12A間には、互いに接近して左,右の走行操作レバー12Bが設けられている。
【0032】
13はエンジンカバー10とレバースタンド12との間に設けられたフロアプレートである。このフロアプレート13は、運転席11に着座したオペレータが足を乗せるものである。また、14は旋回フレーム5の左側に設けられた左スカートカバーで、該左スカートカバー14は、旋回フレーム5とフロアプレート13との間で、燃料タンク9等を前側と左側から取囲むように覆っている。一方、15は旋回フレーム5の右側に設けられた右スカートカバーで、該右スカートカバー15は、旋回フレーム5とフロアプレート13との間で、後述の作動油タンク16等を前側と右側から取囲むように覆っている。
【0033】
16はエンジン7の前側に位置して旋回フレーム5に搭載された貯油タンクとしての作動油タンクを示している。この作動油タンク16は、図2に示すように、燃料タンク9と左,右方向の反対側となる右前側に配設されている。そして、作動油タンク16は、例えば後側がフロアプレート13よりも後側に位置し、中間部から前側が旋回フレーム5とフロアプレート13との間に収容されている。
【0034】
ここで、超小型の油圧ショベル1の構成について述べると、上部旋回体3を構成する機器、部品の数量は、例えば中型クラスの油圧ショベルと殆ど同じ数量となっている。従って、超小型の油圧ショベル1では、非常に小さな旋回フレーム5上に多くの機器、部品を窮屈に搭載しなくてはならない。また、作動油タンク16のように、設置スペースを必要とするものは、その形状や配置場所が制限される上に、周囲の機器との取り回しの関係で、後述する流入口19や流出口21の位置を自由に設定することができない。
【0035】
このために、作動油タンク16は、中間部から前側の部分が旋回フレーム5とフロアプレート13との間に収まるように、上,下方向に短尺で前,後方向に延びた横長形状に形成されている。また、作動油を流入させる流入口19は、流出口21と一緒にフロアプレート13よりも後側に配設している。このように、作動油タンク16を横長形状とし、流出口21を後側に配設した場合、例えば傾斜地での作業で上部旋回体3の前側が下がった場合、図6中に液面位置L2で示すように、フィルタ部材23の位置まで作動油の液面が達することになる。
【0036】
そこで、本実施の形態による作動油タンク16は、通常であればフィルタ部材23が空気中に露出する位置(液面位置L2)まで作動油の液面が達した場合でも、空気を吸込むことなく作動油だけを供給できるように、後述のタンク本体17、流入口19、流出口21、フィルタ部材23、フィルタカバー27、空気抜き弁30により大略構成されている。
【0037】
17は作動油タンク16を構成するタンク本体で、該タンク本体17は、図3、図4に示すように、例えば鋼板、樹脂材料等を用いて前,後方向および左,右方向に長尺な平たい直方体状のボックス構造体として形成されている。即ち、タンク本体17は、周面となる前面板17A、後面板17B、左側面板17C、右側面板17Dと天面板17Eと底面板17Fにより横長な直方体状の容器として形成されている。なお、タンク本体17の左前側部分は、レバースタンド12を避けために凹陥している。
【0038】
また、タンク本体17の天面板17Eの後側には後述のメンテナンス用開口18、流入口19、戻り口31が設けられ、底面板17Fの後側には後述の流出口21が設けられている。さらに、タンク本体17の右側面板17Dの上側位置には、前,後方向の中間部に位置して作動油の貯留量(液面高さ位置)を確認するための覗き窓17Gが設けられている。一般的に、作動油を推奨される充填量(適正貯留量)だけタンク本体17に充填した場合、作動油の液面は、覗き窓17Gの中央付近の液面高さ位置L1となるように設計されている(図6参照)。
【0039】
18はタンク本体17を構成する天面板17Eの後側に設けられたメンテナンス用開口である。このメンテナンス用開口18は、後述のフィルタ部材23、フィルタカバー27等を出し入れするための円形状の開口として形成されている。また、メンテナンス用開口18の上部側はフランジ部18Aとなり、該フランジ部18Aには円板状の蓋板18Bが着脱可能にボルト止めされている。さらに、蓋板18Bには、その中央部に位置して後述の流入口19が設けられ、下面側に位置して後述のロッド固定板26が設けられている。
【0040】
19はタンク本体17の後側となるメンテナンス用開口18の蓋板18Bに設けられた流入口である。この流入口19は、作動油タンク16内に作動油を給油するときに用いられるもので、蓋板18Bから上側に突出しつつ拡開した段付円筒体として形成されている。また、流入口19は、後述する空気抜き弁30のほぼ真上に配置されている。
【0041】
20は流入口19に取付け、取外し可能に取付けられたキャップで、該キャップ20は、流入口19を開閉可能に閉塞するものである。即ち、キャップ20は、流入口19を閉塞するキャップ本体20Aと、該キャップ本体20Aから垂下するように設けられた呼吸弁20Bとにより構成されている。ここで、呼吸弁20Bは、作動油タンク16の内部の圧力を調整するために、内部圧力を逃す圧力調整弁として機能している。
【0042】
21はタンク本体17の底面板17Fに設けられた流出口である。この流出口21は、タンク本体17内に貯えられた作動油を油圧ポンプ8に向け流出させるもので、メンテナンス用開口18の下側に配置されている。また、流出口21は、段付筒状に形成され、底面板17Fから上側に突出するように該底面板17Fに固着されている。さらに、流出口21の下側には、油圧ポンプ8に作動油を供給する作動油ホース等(図示せず)が接続されるホース接続部22が取付けられている。
【0043】
23はタンク本体17内の底面側に位置して流出口21を覆うように設けられたフィルタ部材で、該フィルタ部材23は、図6、図7に示すように、タンク本体17内の作動油が流出口21側に流出するときに、この作動油に混在する異物を捕らえることにより、流出口21から流出される作動油を清浄化するものである。また、フィルタ部材23は、円筒状に形成されたフィルタエレメント23Aと、該フィルタエレメント23Aの上側を閉塞する蓋部23Bと、前記フィルタエレメント23Aの下部に設けられ流出口21の周囲との間を液密にシールする環状のシール部23Cとにより構成されている。
【0044】
そして、フィルタ部材23は、シール部23Cを流出口21に上側から外嵌し、後述の押えロッド24等を用いて上側から押えることにより、流出口21を覆った状態でタンク本体17内の底面側に固定されている。
【0045】
24はフィルタ部材23の上側に上,下方向に延びて設けられた押えロッドで、該押えロッド24は、下側がフィルタ部材23の蓋部23B中央に螺着され、ナット25で固定されている。また、押えロッド24の上側には、2個のナット25が螺着され、この2個のナット25を後述のロッド固定板26に下側から押付けることにより、フィルタ部材23を固定している。また、押えロッド24は、フィルタ部材23を点検したり、交換したりする場合に、フィルタ部材23を引き上げることができる。なお、押えロッド24の下側には、後述するフィルタカバー27の上部カバー28がナット25によって取付けられている。
【0046】
26はメンテナンス用開口18内に設けられたロッド固定板で、該ロッド固定板26は、押えロッド24を介してフィルタ部材23、上部カバー28を固定するものである。また、ロッド固定板26は、メンテナンス用開口18の蓋板18B下面から下向きに延びた垂直板部26Aと、該垂直板部26Aの下端部から前側に延びた水平板部26BとによりL字状に屈曲して形成されている。この場合、ロッド固定板26は、水平板部26Bが流入口19の中心線を通って押えロッド24の上部に達するように配置されている。また、水平板部26Bの先端側には、押えロッド24の上部が嵌合する嵌合孔26Cが形成されている。
【0047】
さらに、水平板部26Bの長さ方向の中間部には、流入口19の中心位置の真下に位置して挿通孔26Dが形成されている。この挿通孔26Dは、流入口19から後述する空気抜き弁30を操作するときに、作動油中で空気抜き弁30が目視できない場合でも、流入口19から挿入した棒状体(図示せず)を挿通孔26Dに通すことにより、棒状体の先端部を空気抜き弁30に向け案内するものである。
【0048】
次に、本実施の形態の特徴部分となるフィルタカバー27、空気抜き弁30の構成について述べる。なお、本実施の形態では、フィルタカバー27を有蓋円筒体として形成した場合を例に挙げて説明する。
【0049】
即ち、27は作動油タンク16のタンク本体17内に設けられたフィルタカバーを示している。このフィルタカバー27は、フィルタ部材23の周囲に作動油を貯えるもので、該フィルタ部材23を上側から覆う有蓋円筒体として形成されている。また、フィルタカバー27は、後述の上部カバー28と下部カバー29とにより構成されている。
【0050】
28はフィルタカバー27を構成する上部カバーで、該上部カバー28は、フィルタ部材23を覆うようにタンク本体17内の底面板17F側に設けられている。また、上部カバー28は、フィルタ部材23よりも大径な円筒部28Aと、該円筒部28Aの上側を閉塞する蓋部28Bとにより有蓋筒状に形成され、円筒部28Aの下側は開口部28Cとなっている。また、開口部28Cは、後述する下部カバー29の円筒部29Aによってタンク本体17内とフィルタカバー27内とを連通する全周通路として形成されている。さらに、上部カバー28の蓋部28Bには、後述の空気抜き弁30が一体的に設けられている。
【0051】
そして、上部カバー28は、蓋部28Bの中心部に押えロッド24が挿通され、フィルタ部材23と一緒に押えロッド24にナット25を用いて取付けられている。ここで、上部カバー28の円筒部28Aの長さ寸法(上,下方向寸法)は、下端部がタンク本体17の底面板17F(下部カバー29の取付板部29B)に近接しつつ、下端部と底面板17Fとの間に、作動油を抵抗なく流すことができる隙間を確保できる寸法に設定されている。
【0052】
一方、29はフィルタカバー27の下側部分を構成する下部カバーで、該下部カバー29は、流出口21の外周側に位置してタンク本体17の底面板17F上に設けられている。また、下部カバー29は、上部カバー28の円筒部28Aの開口部28Cよりも径方向の内側に位置して底面板17Fから上方向に向け立上がった円筒部29Aと、該円筒部29Aの下側を拡径して設けられた鍔状の取付板部29Bとにより構成されている。
【0053】
また、下部カバー29は、円筒部29Aの上部側が上部カバー28の円筒部28Aと同心円状に重なっている。これにより、下部カバー29は、上部カバー28の開口部28Cを、各円筒部28A,29Aとの間に位置してタンク本体17内とフィルタカバー27内とを連通する全周通路として形成することができる。
【0054】
ここで、上部カバー28の円筒部28Aと該円筒部28Aの内周側に配置された下部カバー29の円筒部29Aとは、図7に示すように、上,下方向に一定の高さ寸法Hの重なり代をもって配置されている。この場合、高さ寸法Hの重なり代をもって重なった上部カバー28の円筒部28Aと下部カバー29の円筒部29Aとは、ラビリンスシールを形成している。この重なり代の高さ寸法Hは、例えば激しい揺れが生じてタンク本体17内の作動油に気泡が発生しても、この気泡が通り難くい寸法、また急激な流れに対して抵抗を与えてフィルタカバー27内の作動油の流出を防止できる寸法に設定されている。
【0055】
30は上部カバー28の蓋部28Bに設けられた空気抜き弁で、該空気抜き弁30は、上部カバー28内の空気を抜いて該上部カバー28内を作動油で満たし、真空状態または真空に近い状態にするものである。また、空気抜き弁30は、流入口19から容易に操作できるように、該流入口19、ロッド固定板26の挿通孔26Dと上,下方向でほぼ一直線状、即ち、流入口19の真下に配置されている。
【0056】
そして、空気抜き弁30は、蓋部28Bから上側に突出した円筒状の弁取付筒30Aと、該弁取付筒30Aの上部を閉塞するように設けられた段付円筒状の弁座部材30Bと、該弁座部材30B内に離着座可能に設けられた弁部材30Cと、前記弁取付筒30A内に設けられ該弁部材30Cを着座方向(閉弁方向)となる上側に向けて付勢する弁ばね30Dとにより構成されている。ここで、弁部材30Cには、弁座部材30B内を通って上方に突出した開弁操作棒30C1が設けられ、該開弁操作棒30C1を弁ばね30Dに抗して下側に押動したときは、弁部材30Cを離座させて上部カバー28の内側と外側とを連通することができ、該上部カバー28内の空気を抜くことができる。また、常時は、弁ばね30Dの付勢力で弁座部材30Bに弁部材30Cを着座させることにより、閉弁状体を保持することができる。
【0057】
なお、31はタンク本体17の天面板17Eの後側に設けられた戻り口で、該戻り口31は各アクチュエータから戻される作動油が流入するものである。また、32はタンク本体17の底面板17Fの前側に設けられたドレン排出口を示している。
【0058】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、本発明の特徴部分である作動油タンク16の組立て手順について述べる。
【0059】
まず、押えロッド24の下部側にナット25を用いてフィルタカバー27の上部カバー28を取付け、押えロッド24のさらに先端部に上部カバー28内に収まるようにフィルタ部材23を取付ける。これにより、フィルタ部材23の周囲と上部を覆うように上部カバー28を配置することができる。
【0060】
次に、押えロッド24の上部を把持し、上部カバー28、フィルタ部材23をタンク本体17の天面板17Eに設けたメンテナンス用開口18からタンク本体17内に挿入する。そして、フィルタ部材23のシール部23Cを流出口21の外周に嵌合させつつ、底面板17Fに向けて押付けることにより、上部カバー28、フィルタ部材23を所定位置に組付ける。このときに、フィルタ部材23のシール部23Cを流出口21に外嵌させることで、上部カバー28の円筒部28Aは、下部カバー29の円筒部29Aと同心円となる位置に配置することができ、所定の隙間をもった円環状の開口部28Cを形成することができる。
【0061】
次に、メンテナンス用開口18の蓋板18Bを閉じる。このときには、ロッド固定板26の嵌合孔26Cを押えロッド24の上部に嵌合させることにより、この押えロッド24の上部位置を固定しつつ、上部カバー28とフィルタ部材23を流出口21の周囲に固定することができる。
【0062】
このようにして、作動油タンク16を組立てたら、旋回フレーム5に搭載し、各種配管作業、配線作業を行った後、流入口19から作動油を充填し、図6に示すように、一般的に適正貯留量とされる覗き窓17Gの中央付近に液面L1を配置する。
【0063】
ここで、タンク本体17内に作動油を充填したときには、上部カバー28内は多くの空気で満たされている。そこで、流入口19から棒状体を挿入し、空気抜き弁30から上側に突出した弁部材30Cの開弁操作棒30C1を下向きに押動し、該弁部材30Cを開弁させる。このときに、作動油に浸っていないメンテナンス用開口18内には、流入口19と空気抜き弁30とを結ぶ直線上に位置してロッド固定板26に挿通孔26Dを設けているから、作動油中で空気抜き弁30が目視できない場合でも、作業者は、流入口19から挿入した棒状体を挿通孔26Dに通すことにより、該棒状体の先端部で空気抜き弁30を容易に操作することができる。
【0064】
そして、空気抜き弁30の弁部材30Cを開弁させることにより、上部カバー28内の空気を抜き、該上部カバー28内を真空状態または真空に近い状態としたら、キャップ20によって流入口19を閉じる。
【0065】
次に、上述のように組立てられた油圧ショベル1の動作について説明する。まず、オペレータは、運転席11に着座してレバースタンド12の各走行操作レバー12Bを操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、各作業操作レバー12Aを操作することにより、作業装置4等を動作させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0066】
一方、油圧ショベル1は、起伏の激しい荒地を走行したり、傾斜地で作業することがあり、特に、本実施の形態の作動油タンク16では、その流出口21をタンク本体17の後側に配置しているために、油圧ショベル1の前側が大きく下がった場合には、作動油タンク16内の作動油が前側に偏ってしまう。これにより、作動油の液面は、通常であればフィルタ部材23が空気中に露出する位置(液面L2の位置)まで達してしまう虞がある。
【0067】
また、油圧ショベル1には、油圧式のアタッチメントを追加して取付けたり、他の油圧機器を接続して油圧源として用いることがある。この場合、多くのアクチュエータを一度に動作させると、作動油の液面がフィルタ部材23の位置(液面L3の位置)まで下がってしまう虞がある。このように、作動油の液面が上述した液面L2,L3になった場合には、流出口21が空気を吸込む虞がある。
【0068】
然るに、本実施の形態によれば、作動油タンク16のタンク本体17内には、フィルタ部材23を上側から覆う有蓋円筒体として形成され、タンク本体17の底面板17Fに近接した位置に前記フィルタ部材23に向けて作動油が流出する開口部28Cを有するフィルタカバー27を設け、該フィルタカバー27の上部カバー28の蓋部28Bには、当該上部カバー28内の空気を抜くための空気抜き弁30を設ける構成としている。
【0069】
従って、作動油タンク16の流入口19からタンク本体17内に作動油を流入させたときに、空気抜き弁30の弁部材30Cを開弁させることにより、上部カバー28内の空気を抜いて大気圧が作用しない真空状態または真空に近い状態にすることができる。
【0070】
これにより、タンク本体17内の作動油に作用する大気圧によって上部カバー28内に作動油を保持することができるから、タンク本体17内で作動油の液面がフィルタ部材23の下部位置まで下がったとしても、上部カバー28の開口部28Cよりも高い位置、即ち、図6、図7に示す液面L4,L5よりも高い位置であれば、作動油をフィルタカバー27内に保持することができる。
【0071】
この結果、作動油タンク16内で作動油の液面がフィルタ部材23が露出する位置まで大きく傾いたり、作動油が減少した場合でも、流出口21は作動油だけを吸込むことができるから、油圧ショベル1によって作業したり、走行することができる傾斜角度の範囲を広く設定することができ、油圧ショベル1に対する信頼性や作業性を向上することができる。
【0072】
また、作動油タンク16の形状、取付位置等の自由度を高めることができるから、作動油タンク16の容量を大きくすることができ、作業性能や稼働時間を向上することができる。一方で、作動油タンク16は、狭い場所にも配置できるから、油圧ショベル1を小型化することもできる。
【0073】
また、フィルタカバー27は、下側が開口部28Cとなった円筒部28Aと該円筒部28Aの上側を閉塞する蓋部28Bとからなる上部カバー28と、該上部カバー28の円筒部28Aの開口部28Cよりも径方向の内側に位置してタンク本体17の底面板17Fから立上がった円筒部29Aの上部側が前記円筒部28Aと同心円状に重なった下部カバー29とにより構成している。また、上部カバー28の円筒部28Aと下部カバー29の円筒部29Aとは、上,下方向に一定の高さ寸法Hの重なり代をもって配置している。
【0074】
従って、上部カバー28の円筒部28Aと下部カバー29の円筒部29Aとは、ラビリンスシールを形成することができるから、例えば激しい揺れが生じてタンク本体17内の作動油に気泡が発生しても、この気泡がフィルタカバー27内に侵入するのを防止することができ、フィルタカバー27内の真空状態を効率よく維持することができる。また、フィルタカバー27内の作動油が流出するのを防止することができる。
【0075】
さらに、作動油タンク16の流入口19と空気抜き弁30とは、上,下方向でほぼ一直線状に配置しているから、前記流入口19からタンク本体17内に作動油を流入させたときに、この流入口19から棒状体等を下方に向けて挿入するだけで、この棒状体により空気抜き弁30を容易に操作することができ、目視が困難な作動油中でもフィルタカバー27内の空気を簡単に抜くことができる。
【0076】
なお、実施の形態では、フィルタカバー27を上部カバー28と下部カバー29とによって構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば下部カバー29を省略して上部カバー28だけでフィルタカバー27を構成することもできる。
【0077】
また、実施の形態では、フィルタカバー27を構成する上部カバー28と下部カバー29を円筒状に形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば上部カバーと下部カバーとは、楕円状、長円状等の丸形筒体、三角筒体、四角筒体等の多角筒体によって形成してもよい。この場合、上部カバーと下部カバーの中心が重なるように同心状に配置することが好ましい。
【0078】
また、実施の形態では、フィルタカバー27と空気抜き弁30を作動油を貯える作動油タンク16内に設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、フィルタカバー27と空気抜き弁30を燃料タンク9に設ける構成としてもよい。
【0079】
さらに、実施の形態では、建設機械としてクローラ式の下部走行体2を備えた油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばホイール式の下部走行体を備えた油圧ショベルに適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 作業装置
5 旋回フレーム
7 エンジン(原動機)
8 油圧ポンプ
9 燃料タンク(貯油タンク)
16 作動油タンク(貯油タンク)
17 タンク本体
17A 前面板(周面)
17B 後面板(周面)
17C 左側面板(周面)
17D 右側面板(周面)
17E 天面板
17F 底面板
18 メンテナンス用開口
19 流入口
21 流出口
23 フィルタ部材
27 フィルタカバー
28 上部カバー
28A,29A 円筒部
28B 蓋部
28C 開口部(全周通路)
29 下部カバー
29B 取付板部
30 空気抜き弁
30A 弁取付筒
30B 弁座部材
30C 弁部材
30C1 開弁操作棒
30D 弁ばね
L1〜L5 作動油の液面
H 重なり代の高さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、
前記上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に搭載され油圧ポンプを駆動する原動機と、前記油圧ポンプに供給する作動油または原動機に供給する燃料からなる油を貯える貯油タンクとを備え、
前記貯油タンクは、底面、周面および天面からなる密閉容器として形成されたタンク本体と、該タンク本体に油を流入させるために天面に設けられた流入口と、前記タンク本体内の油を流出させるために前記タンク本体の底面に設けられた流出口と、前記タンク本体内の底面側に位置して該流出口を覆うように設けられ該流出口から流出する油を清浄化するフィルタ部材とにより構成してなる建設機械において、
前記貯油タンクのタンク本体内には、前記フィルタ部材を上側から覆う有蓋筒体として形成され、前記底面に近接した位置に前記フィルタ部材に向けて油が流出する開口部を有するフィルタカバーを設け、
該フィルタカバーの蓋部には、当該フィルタカバー内の空気を抜くための空気抜き弁を設ける構成としたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記フィルタカバーは、下側が前記開口部となった筒部と該筒部の上側を閉塞する前記蓋部とからなる上部カバーと、前記筒部の開口部よりも径方向の内側に位置して前記タンク本体の底面から上方向に向け立上がり上部側が前記筒部と同心状に重なった下部カバーとにより構成し、
前記開口部は、前記上部カバーと下部カバーとの間に位置して前記タンク本体内とフィルタカバー内とを連通する全周通路として形成してなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記上部カバーの筒部と前記下部カバーの筒部とは、上,下方向に一定の高さ寸法の重なり代をもって配置してなる請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記貯油タンクの流入口と前記空気抜き弁とは、上,下方向でほぼ一直線状に配置し、前記流入口から前記空気抜き弁を操作して前記フィルタカバー内の空気抜きを行う構成としてなる請求項1,2または3に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256956(P2011−256956A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132916(P2010−132916)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】