説明

建造物の耐震補強構造

【課題】 安価なコストで建造物を構造的に補強して地震発生時における建造物の倒壊を防止するとともに、建造物が倒壊した時には避難シェルターとしても機能する建造物の耐震補強構造を提供する。
【解決手段】 本発明に係る建造物の耐震補強構造1は、骨組みたるフレーム9間にパネル10,11,12が組み付けられてなる略立方体形状の特殊コンテナ3が、建造物2を構成する基礎5の上面及び建物躯体6の双方にそれぞれ固定されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の地震に対する強度を高めるための建造物の耐震補強構造に関し、特に、略立方体形状の特殊コンテナを建造物の一部に組み込んだ建造物の耐震補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震多発地域にある我が国では、地震によって倒壊した建造物の下敷きになって多くの死傷者が発生する。このような建造物の倒壊から身を守る手段としては、建造物に対して倒壊を防止し得るような耐震補強構造を施す方法がある。しかし、建造物が倒壊するような大地震は、数十年或いは数百年に一度の確率でしか発生しないにもかかわらず、このような大地震に耐え得るような耐震補強構造を全ての建造物に採用することは、費用対効果の面から必ずしも好適ではない。一方、建造物の倒壊から身を守る他の手段としては、十分な強度を有する避難用シェルターを建造物の内部に設ける方法がある(例えば、特許文献1参照)。図5は、従来例に係る避難用シェルター80を示す概略斜視図である。避難用シェルター80は、略直方体形状を有する金属製の本体81の壁面に、人の出入り可能な扉82が設けられたものである。この避難用シェルター80によれば、地震発生時に扉82を介してその内部に避難することにより、建造物が倒壊した場合でも、生命の安全だけは最低限確保することができる。この場合、建造物の倒壊を防止し得るような耐震補強構造を建造物全体に採用する場合と比較して、比較的安価なコストで建造物の倒壊から身を守ることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−315039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の建造物の耐震補強構造は、前述のように、費用対効果の面から全ての建造物に採用するには適していないという問題がある。また、建造物の内部に避難用シェルター80を設ける方法では、避難用シェルター80が建造物を構造的に補強する役目を果たしておらず、建造物の倒壊を防止するためには、耐震補強構造を別途導入する必要があった。また、図5に示すように、従来の避難用シェルター80は、長手寸法が短手寸法の倍以上あるような略直方体形状なので、地震の縦揺れに対して、長手方向中間部で折れるような変形が生じやすいという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、安価なコストで建造物を構造的に補強して地震発生時における建造物の倒壊を防止するとともに、建造物が倒壊した時には避難シェルターとしても機能する建造物の耐震補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る建造物の耐震補強構造は、建造物の地震に対する強度を高めるための建造物の耐震補強構造において、骨組みたるフレーム間にパネルが組み付けられてなる略立方体形状のコンテナが、前記建造物を構成する基礎の上面及び建物躯体の双方にそれぞれ固定されたものである。
【0007】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造は、前記コンテナを構成する前記パネルに、開口部が形成されたものである。
【0008】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造は、前記コンテナを構成する前記パネルが、断熱層を備えたものである。
【0009】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造は、前記コンテナの内部に、岩盤浴手段が設けられたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建造物の耐震補強構造によれば、建物躯体が特殊コンテナを介して基礎に固定されるので、建物躯体が構造的に補強される。これにより、地震等の揺れによって建造物が倒壊するのを防止することができる。また、特殊コンテナは立方体形状を有しており、それ自体が地震等の揺れによって変形しにくいので、より確実に建物躯体を補強することができる。
【0011】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造によれば、開口部を通って特殊コンテナの内部と外部とを行き来できるようになっているので、地震発生時にはこの開口部から特殊コンテナの内部へ避難することができる。これにより、地震によって建造物が倒壊した場合でも、生命の安全を確保することができる。
【0012】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造によれば、パネルの断熱層によって特殊コンテナの内部と外部とが熱的に遮断されているので、特殊コンテナの外部で火災が発生してもその熱が内部まで伝わらず、火災から身を守ることができる。
【0013】
また、本発明に係る建造物の耐震補強構造によれば、特殊コンテナの内部に岩盤浴手段が設けられているので、地震等の災害発生時以外にも有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例に係る建造物の耐震補強構造について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る建造物の耐震補強構造1を示す概略斜視図である。建造物の耐震補強構造1は、建造物2の一部に、特殊形状を有する特殊コンテナ3が組み込まれてなるものである。
【0015】
建造物2は、図1に示すように、土地4に敷設された基礎5の上に、建物躯体6が設けられたものである。ここで、建物躯体6は、基礎5の上面に所定間隔で立設された複数本の柱7と、この柱7の上部を互いに接続するようにして水平方向に架設された複数本の梁8とを備えている。尚、建物躯体6は本実施例の構成に限定されず、従来公知の他の部材を含んで構成してもよい。また、図1では木造建築の場合を例に図示しているが、これに代えて鉄筋コンクリート建築とすることも可能である。
【0016】
図2は、特殊コンテナ3の構成を示す概略斜視図である。特殊コンテナ3は、中空の箱型部材であって、縦横に延びる骨組みとしてのフレーム9と、フレーム9間の空間を覆うように組み付けられた床パネル10,天井パネル11,壁パネル12とを備えている。ここで、これらフレーム9,床パネル10,天井パネル11,及び壁パネル12は、ステンレスや特殊鋼からなるものである。また、特殊コンテナ3は、幅寸法が約2.4メートル、長さ寸法が約2.2メートル、高さ寸法が約2.2メートルの略立方体形状を有している。一般的な貨物運搬用のコンテナとしては、いわゆる20フィートコンテナと呼ばれ、長さ寸法が約6メートルのものと、いわゆる40フィートコンテナと呼ばれ、長さ寸法が約12メートルのものとがあり、そのいずれもが、幅寸法に比べて長さ寸法が格段に大きく形成されている。この点、本実施例に係る特殊コンテナ3は、その長さ寸法が幅寸法と略等しい大きさに形成されているので、上下方向や水平方向に作用する外力に対し、20フィートコンテナや40フィートコンテナと比べて、長さ方向中間部で曲折するような変形が生じにくくなっている。
【0017】
また、図2に示すように、特殊コンテナ3を構成する壁パネル12には、略矩形の開口部13が形成されており、この開口部13を通って特殊コンテナ3の内部と外部を行き来することが可能となっている。尚、この開口部13の形状、形成位置、個数等は、本実施例に限定されず適宜設計変更が可能である。また、図に詳細は示さないが、この開口部13に、ヒンジ部材を介して開閉自在な扉を設けてもよい。
【0018】
また、特殊コンテナ3は、いわゆる冷凍用コンテナとして構成されている。すなわち、図2に詳細は示さないが、特殊コンテナ3を構成する床パネル10,天井パネル11,壁パネル12の内部には、硬質ポリウレタンフォーム等の断熱材からなる断熱層が設けられており、その内部と外部とが熱的に遮断されている。
【0019】
尚、図に詳細は示さないが、特殊コンテナ3の内部に貯水槽を設け、これを建造物2の水道経路に接続してその内部に常に新しい水が供給されるようにしておけば、災害発生後の水不足に対応することができる。また、貯水槽と水道経路との接続箇所に逆流防止弁を設けておけば、地震等によって水道経路が破損しても、貯水槽1杯分の水を最低限確保することができ、建造物2の倒壊によって特殊コンテナ3の内部に閉じ込められても、救助を待つ間の飲み水を確保することができる。更に、特殊コンテナ3の内部には岩盤浴手段14が設けられている。
【0020】
図3と図4は、岩盤浴手段14の構成を示す図であり、図3は図2におけるA−A線断面図、図4はB−B線断面図である。岩盤浴手段14は、特殊コンテナ3を構成する床パネル10の上に設けられ、断熱材15と、ワイヤーメッシュ16と、温水パイプ17と、エキスパンドメタル18と、複数の岩盤石19と、モルタル20と、ボイラ21と、散水ノズル22とを備えている。
【0021】
断熱材15は、図4に示すように、床パネル10の上に敷設されている。断熱材15としては、硬質ポリウレタンフォーム等が挙げられる。ワイヤーメッシュ16は、図4に示すように、縦方向の複数の線材23と横方向の複数の線材23とで格子状に形成されており、断熱材15の上に敷設されている。
【0022】
温水パイプ17は、図3及び図4に示すように、ワイヤーメッシュ16の上に蛇行するように例えば2本設置されている。温水パイプ17の数は、特に限定されるものではなく、1本又は3本以上であってもよい。温水パイプ17同士の間隔も、特に限定されるものではないが、例えば100mm程度にすることができる。
【0023】
ここで、図3及び図4に示すように、温水パイプ17を、ワイヤーメッシュ16を構成する縦方向の線材23又は横方向の線材23の長さ方向に沿って配置し、かつ縦方向の線材23又は横方向の線材23に番線(結束線)24等で固定しておけば、温水パイプ17同士の間隔を縦方向の線材23同士の間隔又は横方向の線材23同士の間隔にほぼ合わせることができるので、温水パイプ17の設置作業を簡単に行えるという利点がある。
【0024】
岩盤石19は、板状に形成されており、エキスパンドメタル18の上に複数枚設置されている。なお、ここでいう岩盤石とは、温水パイプ17等の加熱手段による加熱で遠赤外線を放射する石であって、遠赤外線の放射率が比較的高いか、あるいは加熱によりマイナスイオンも発生する石をいう。このような岩盤石19としては、天照石、ラジウム鉱石、トルマリン鉱石、天寿石、麦飯石、ゲルマニウム板石、角閃石、神天石(ブラックシリカ)、合成窯石等が挙げられる。
【0025】
モルタル20は、図4に示すように、ワイヤーメッシュ16、温水パイプ17、エキスパンドメタル18、及び岩盤石19を埋め込むように、かつ岩盤石19の上面が露出するように、断熱材15の上に打設されている。硬化後のモルタル20の上面又は岩盤石19の上面により、施工床面が構成される。このように、断熱材15と温水パイプ17との間にワイヤーメッシュ16を介在させておけば、ワイヤーメッシュ16がモルタル20に埋め込まれるので、モルタル層の強度を向上できるという利点がある。
【0026】
特殊コンテナ3の内部で岩盤浴をするためには、電気や石油等を熱源とするボイラ21により温水パイプ17の内部を通る温水を循環させ、温水パイプ17によりモルタル20及び岩盤石19を加熱すると共に、散水ノズル22によりモルタル20の上に蒸発用の水をまく。この際、モルタル20及び岩盤石19の温度が45℃程度、特殊コンテナ3の内部の気温が40℃程度、特殊コンテナ3の内部の湿度が60%以上となるようにするのが望ましい。そして、温水パイプ17により岩盤石19が加熱されれば、岩盤石19から遠赤外線が放射されるので、入浴者が岩盤石19の上に寝たり、座ったりすることにより岩盤浴をすることができる。
【0027】
尚、岩盤浴手段14は、本実施例に限定されず、従来公知の他の岩盤浴手段を採用してもよい。また、岩盤浴手段14は本発明に必須の構成要件ではなく、岩盤浴手段14のない構成とすることも可能であるし、或いは岩盤浴以外の他のサウナ設備等を設けることも可能である。尚、図に詳細は示さないが、特殊コンテナ3の内部に岩盤浴手段14を設ける場合には、特殊コンテナ3の内部の熱が外部に逃げないよう、前記開口部13に開閉扉を設けると好適である。
【0028】
以上のように構成される特殊コンテナ3は、図1に示すように、その底部を構成する床パネル10やフレーム9の一部が、基礎5の上面に固定される。更に、特殊コンテナ3は、壁パネル12や天井パネル11やフレーム9の一部が建物躯体6に固定される。尚、図1では、壁パネル12や天井パネル11やフレーム9を柱7にだけ固定する場合を例に図示したが、これに加えて或いはこれに代えて、壁パネル12や天井パネル11やフレーム9を、建物躯体6を構成する梁8やその他の部材に固定することも可能である。尚、特殊コンテナ3の基礎5や建物躯体6に対する固定は、図示しない例えば銅製の金具を介して行う。
【0029】
次に、本発明に係る建造物の耐震補強構造1の作用効果について説明する。本発明に係る建造物の耐震補強構造1によれば、特殊コンテナ3が建造物2を構成する基礎5の上面と建物躯体6の双方に固定されるので、建物躯体6が特殊コンテナ3を介して基礎5に固定され、建物躯体6が構造的に補強される。これにより、地震等の揺れによって建造物2が倒壊するのを防止することができる。また、前述のように、特殊コンテナ3自体も略立方体形状を有することで外力の作用に対して変形しにくくなっているので、より確実に建物躯体6を補強することができる。
【0030】
また、特殊コンテナ3は、前述のように開口部13を通って内部と外部とを行き来できるようになっているので、地震発生時にはこの開口部13から特殊コンテナ3の内部へ避難することができる。ここで、ステンレスや特殊鋼からなる特殊コンテナ3は、地震によって建造物2が倒壊した場合でも、その下敷きになって押し潰されないので、生命の安全を確保することができる。更に、特殊コンテナ3を構成するパネルは断熱層を有しているので、特殊コンテナ3の外部で火災が発生してもその熱が内部に達することがなく、火災から身を守ることができる。また、特殊コンテナ3は基礎5の上面に固定されているので、地震の影響で津波が発生して建物躯体6が押し流されても、基礎5が残存する限りこれとともに特殊コンテナ3も残存し、生命の安全を確保することができる。
【0031】
また、建造物2が倒壊した場合には、特殊コンテナ3を当面の仮設住宅として使用することにより、その後の余震等から身を守ることができる。更に、特殊コンテナ3は、その内部に岩盤浴手段が設けられているので、地震や津波等の災害発生時以外でも有効利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る建造物の耐震補強構造は、建造物の1階の一部に特殊コンテナを組み込んだが、2階やそれ以上の階に特殊コンテナを組み込むことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例に係る建造物の耐震補強構造1を示す概略斜視図。
【図2】本発明の実施例に係る特殊コンテナ3を示す概略斜視図。
【図3】図2におけるA−A線断面図。
【図4】図2におけるB−B線拡大部分断面図。
【図5】従来例に係る避難用シェルター80を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0034】
1 建造物の耐震補強構造
2 建造物
3 特殊コンテナ
5 基礎
6 建物躯体
9 フレーム
10 床パネル
11 天井パネル
12 壁パネル
13 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の地震に対する強度を高めるための建造物の耐震補強構造において、
骨組みたるフレーム間にパネルが組み付けられてなる略立方体形状のコンテナが、前記建造物を構成する基礎の上面及び建物躯体の双方にそれぞれ固定されたことを特徴とする建造物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記コンテナを構成する前記パネルに、開口部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の建造物の耐震補強構造。
【請求項3】
前記コンテナを構成する前記パネルが、断熱層を備えたことを特徴とする請求項2に記載の建造物の耐震補強構造。
【請求項4】
前記コンテナの内部に、岩盤浴手段が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の建造物の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−74268(P2009−74268A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242566(P2007−242566)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(506391657)
【Fターム(参考)】