説明

弁機構及び輸液セット

【課題】液送する液体の種類に関わらず用いることができ、液送ラインに液体を残留させつつ確実に液体を停止することのできる輸液用弁機構及び輸液セットを提供する。
【解決手段】液送ラインに設けられる輸液用弁機構1であって、輸液製剤を流入させる上部流入孔部15と、該上部流入孔部15から流入した輸液製剤を流出させるとともに上部流入孔部15よりも小径を成す下部流出孔部17と、上部流入孔部15と下部流出孔部17との間に設けられたテーパ孔部16とを有する弁保持容器2と、該弁保持容器2内に上下移動可能に保持され、上側に開口するとともにテーパ孔部16に当接してこれを開閉可能に閉塞する御碗型輸液受部4と、該御碗型輸液受部4の底部から突出して下部流出孔部17内に挿入される軸部5とを有する弁体3とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、医療用の輸液ラインに用いられる弁機構及び輸液セットに関する。
【背景技術】
【0002】
病院で点滴を受ける際、輸液製剤(液体)の終了が近づくにつれ、点滴筒内が空になり、チューブ内に残留する輸液製剤までもが体内へ注入されて、さらにそのまま放置しておくと血管に繋がったチューブ内へ空気が貯留し、次の輸液製剤の注入の際に体内へその空気が注入される虞がある。このため、上述したような事態が生じることを避けようとする医療従事者の負担が大きい。また、血液(液体)がチューブ内に逆流して凝固してしまった場合、次の輸液を注入する際、体内に刺針された輸液用針(注入針)を再刺入しなければならず、患者の苦痛が増える虞がある。
【0003】
そのため、輸液製剤の注入が完了しても、空気がチューブ内に進入しない機能を有した輸液ライン(液送ライン)が開示されている。
【0004】
例えば、吊り下げた輸液瓶下部に差し込まれる瓶針と、点滴状態を確認する点滴筒と、クランプ及びその先端の静脈針とからなるセットに於いて、点滴筒内に輸液より軽いチェックボールを配置し、点滴筒内の輸液面と一緒に下降するチェックボールがチューブ入口を閉塞して空気のチューブへの流入を阻止するものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−7244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このチェックボールは、輸液の比重よりも僅かに小さい比重を有するように形成されるもので、製造が困難となるだけでなく輸液製剤の種類に応じた比重のチェックボールを用意しなければならず汎用性に欠けてしまう。さらに、チェックボールの比重によっては残液によって浮いてしまい、確実にチューブ入口を閉塞することができない虞がある。また、チューブ入口を中央に有する点滴筒の底面は、液面に対して平行となっているため、点滴筒が少しでも傾くとチェックボールが左右にズレてしまい確実にチューブ入口を閉塞することができない虞も出てくる。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、液送する液体の種類に関わらず用いることができ、液送ラインに液体を残留させつつ確実に液体を停止することのできる弁機構及び輸液セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する請求項1記載の発明は、液送ラインに設けられる弁機構であって、液体を流入させる上部流入部と、該上部流入部から流入した液体を流出させるとともに上部流入部よりも小径を成す下部流出部と、上部流入部と下部流出部との間に設けられたテーパ部とを有する弁保持容器と、該弁保持容器内に上下移動可能に保持され、上側に開口するとともにテーパ部に当接してこれを開閉可能に閉塞する御碗型液受部と、該御碗型液受部の底部から突出して下部流出部内に挿入される軸部とを有する弁体とから構成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、軸部は、下端部側に開口する有蓋円筒形状であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、弁保持容器内から、浮力によって弁体が抜けることを規制する規制部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、弁体は、可撓性材料からなることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、軸部は、その下端部周縁から外方に張り出すとともに上側へと傾斜し、弁体が上昇すると下部流出部の端部に係合して弾性変形する抜止部を有することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5に記載の発明において、抜止部或いは弁保持容器のいずれか一方に液体を通過させる通過溝が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項の発明において、医療用の輸液ラインに設けられることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の弁機構において、一端側に輸液パックが連結可能であり、他端側に人体内へ刺入される注入針を有して輸液ラインを構成する輸液セットであって、輸液ラインの途中に請求項7記載の弁機構を配置してなる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、上側に開口する御碗型液受部によって、内部に液体を貯留させることができる。そのため、液体で満たされた弁保持容器内では浮力によって浮いていた弁体が、液送する液体の終了が近づいて液面が下がってくると、御碗型液受部内に貯留している液体の重みによって弁体が下降して御碗型液受部が弁保持容器のテーパ部に当接することになる。よって、弁保持容器内を確実に閉塞することができる。また、下部流出部内に挿入される軸部によって弁体の姿勢が安定し、御碗型液受部とテーパ部との当接状態を良好に保つことができる。また、液体自体が重りとなるため液体の種類に関わらず用いることができ、生産効率及び汎用性を高めることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、軸部の形状が、下端部に開口する有蓋円筒形状であることによって、弁体全体が液体で満たされても内部に空気を含むことができるため、弁体の浮力を増加させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、規制部が設けられていることによって弁保持容器内から弁体が抜けることを規制することができるので、液体の液送停止を確実に行うことができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、弁体が可撓性材料からなることにより、テーパ部と御碗型液受部との封止力を高めることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、軸部の下端部に、弁体が上昇すると下部流出部の端部に係合して弾性変形する抜止部を設けたことによって、弁保持容器から弁体が抜けることを規制することができる。また、弁体の浮力により弾性変形していた抜止部が、弁体の下降とともに弾性復帰する抜止部の弾性力によって、弁保持容器から弁体を引き下げることができる。これにより、御碗型液受部をテーパ部に圧接させることになり、液体の液送停止をより確実なものとすることができる。さらに、抜止部の弾性復帰に伴う弾性力によって弁保持容器に対する弁体のブレを抑えることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、抜止部或いは弁保持容器のいずれか一方に液体を通過させる通過溝を形成したことにより、液体をスムーズに流出させることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、医療用の輸液ラインに設けられることにより、輸液ラインの途中で液体の輸液を停止することができ、体内へ空気が入り込む虞がなくなる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、一端側に輸液パックが連結可能であり、他端側に人体内へ刺入される注入針を有して構成される輸液ラインの途中に弁機構を配置することによって該輸液ラインの途中で液体の輸液を確実に停止することができるので、体内へ空気が入り込む虞がなくなる。また、輸液パックを取り替えるだけで次の液体を輸液することができるので、輸液パックの交換ごとに注入針を体内へ再刺入する必要がなくなるため患者の負担を低減できる。さらに、この弁機構を注入針側に設けることにより、液体を無駄にすることなく適量の液体を輸液ラインに残留させることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の一実施形態を図1から図8を参照して以下に説明する。
本発明の輸液用弁機構(弁機構)1は、図1に示すように、軸方向に貫通する孔10を有する弁保持容器2と、該弁保持容器2内に上下移動可能に保持される弁体3とから構成されており、弁保持容器2の両端部に輸液製剤(液体)を輸液するチューブを装着可能に形成されている。
【0024】
弁体3は、図2に示すように、上方に開口する御碗型輸液受部4と、下端部側に開口する有蓋円筒形状を呈する軸部5とから構成されており、その全体が可撓性材料から形成されるものである。御碗型輸液受部(御碗型液受部)4は、内側に凹部を有する半球状を含む御碗形状を呈するもので、開口部6の直径がチューブの直径よりも大径となるよう形成されており、その深さは、チューブ内を流れる輸液製剤を十分に貯留可能な深さとなっている。
【0025】
一方、軸部5は、内部に空気室7を有してなるもので、御碗型輸液受部4の底部中央を貫通するようにして配置され、半球状を成す上部の蓋部5Aを御碗型輸液受部4の開口部6側から若干突出させるとともに下端部側を御碗型輸液受部4の底部から大幅に突出させている。また、軸部5を構成する円筒状の軸部本体8の下端部には、その周縁から外方に張り出すとともに上端部側へと傾斜する環状のフィン9(抜止部)が設けられている。このフィン9は、先端に行くに従って薄肉形状に形成され、弾性変形がし易くなっている。
【0026】
弁保持容器2は、図3に示すように軸方向に貫通する孔10を有して、上記弁体3(図1参照)を収容する弁保持容器本体11とその上方を覆うキャップ19(規制部)とを備えてなるもので、これら弁保持容器本体11及びキャップ19は、互いの軸心を一致させており、上述した孔10は、このような弁保持容器本体11及びキャップ19の軸方向に分離するとともに互いに径の異なる複数の孔からなるものである。
【0027】
弁保持容器本体11は、チューブの外径よりも大径を成す円筒状流入部12と、該円筒状流入部12の底部から突出し且つその外径がチューブの内径よりも若干大径を成すよう形成された円筒状流出部13とから構成されている。これら円筒状流入部12及び円筒状流出部13におけるそれぞれの下端の外径側は、周方向に面取りが施されて面12a,面13aが形成されている。さらに、この円筒状流出部13の下端には、周方向所定の箇所に、図4に示すような外方へと開口する一対の通過溝18が形成されている。通過溝18の形状や個数については、輸液速度に影響を与えないように適宜設定される。
【0028】
さらに弁保持容器本体11には、図3に示すように、円筒状流入部12の上端に開口するとともに上記御碗型輸液受部4(図1参照)の外径よりも大径を成す上部流入孔部15(上部流入部)が形成されており、その軸方向長さは、円筒状流入部12の中央付近まで達している。また、上部流入孔部15の下方には、該上部流入孔部15に連通するとともに円筒状流入部12の下端側に向かって縮径するテーパ孔部16(テーパ部)が形成されており、その傾斜角度は御碗型輸液受部4の湾曲形状にできるだけ沿うような角度となっている。このテーパ孔部16の長さは円筒状流入部12の下端までは達しておらず、底面12bから若干内方に入ったところにその端末が位置している。さらに、テーパ孔部16の下方には、該テーパ孔部16に連通する下部流出孔部17(下部流出部)が形成されている。この下部流出孔部17は、円筒状流入部12から円筒状流出部13を軸方向に貫通してなるもので、円筒状流出部13の下端に開口している。また、その孔径は、図1に示すような御碗型輸液受部4の軸部5よりも大径を成しながら、円筒状流出部13の下端部に上記弁体3のフィン9が係止可能となるように設定されている。これら上部流入孔部15、テーパ孔部16及び下部流出孔部17によって、上記孔10を構成する保持孔14が形成される。
【0029】
キャップ19は、図3に示すように、チューブを外装可能なチューブ装着部20と、所定幅を有してチューブ装着部20の下端部周縁から半径方向外側に垂直に張り出すフランジ状蓋部21と、該フランジ状蓋部21の幅方向一側であってチューブ装着部20とは反対側の端面から外方へ突出する環状の凸部22とから構成されている。
【0030】
チューブ装着部20は、軸方向に貫通する上位流入孔24を有して形成されており、チューブからの輸液製剤を弁保持容器本体11内へ流入させるため、上記上部流入孔部15に連通している。また、その外径は、チューブの内径よりも若干大径を成すよう形成されている。フランジ状蓋部21は、円筒状流入部12の上端に係止するようにその外径を円筒状流入部12の外径と一致させており、チューブ装着部20に対して垂直な姿勢となっている。また、凸部22は、その外径が弁保持容器本体11の内径、つまり、上部流入孔部15の直径と同径をなすよう形成されており、その軸心が上記チューブ装着部20及びフランジ状蓋部21の軸心と一致するように配設されている。そして、弁保持容器本体11の上部流入孔部15内に挿入させるようにして弁保持容器本体11の上端部に設けられる。この凸部22によって弁保持容器本体11に対するキャップ19の位置決めを容易にすることができる。また、所定の突出量で突出させることにより、弁保持容器本体11との係合が確実となる。
【0031】
このようなキャップ19は、接着等によって弁保持容器本体11の上端部に固定されており、輸液製剤に影響を及ぼす虞のない接着剤等を用いることは勿論のことである。そして、上記保持孔14と上位流入孔24とによって弁体3を収容するための孔10が構成される。
【0032】
このようにして構成される弁保持容器2の孔10内に、上記弁体3が保持されることになる。弁体3を保持させる際には、弁体3の御碗型輸液受部4の開口が上側となるように、まず、円筒状流入部12の開口側から弁体3の軸部5を挿入させていく。そして、上部流入孔部15及びテーパ孔部16を通過させて、さらに下部流出孔部17内へと挿入させようとすると、軸部5の下端部に設けられているフィン9が下部流出孔部17の上端部に当接する。それにもかかわらず弁体3を押し進めると、フィン9は、その弾性によって径方向内側に傾斜しながら下部流出孔部17内を通過していき外方へと抜け出ると、弾性復帰することによって元の形状に戻ることになる。したがって、一端、弁保持容器2内に弁体3を組み込んでしまうと弁体3を抜くことは困難となる。このようにして、輸液用弁機構1が構成される。
【0033】
本発明の輸液用弁機構1は、主に医療用の輸液ライン(液送ライン)に用いられるものであり、図5中符号50は輸液セットを示している。この輸液セット50は、一端側に輸液パック52を連結可能とし、他端側に人体内へ刺入される静脈針(注入針)53を有して輸液ラインを構成するものである。詳しくは、所定高さに吊り下げられる輸液製剤51の入った輸液パック52に一端が連結され、他端側に人体内へ刺入される静脈針53を有するチューブ54と、チューブ54の途中に輸液製剤51の滴下状態を確認する点滴筒55と、輸液速度を調節するクランプ56とを備え、輸液パック52内の輸液製剤51をチューブ54を介して人体内へと投与するものである。輸液用弁機構1は、このようなチューブ54における点滴筒55の下流に設けられるもので、キャップ19を上流側にして静脈針53の近傍に配置される。図5においては、クランプ56の下方に輸液用弁機構1が設けられているが、クランプ56との位置関係はこれに限ったものではない。すなわち、輸液用弁機構1は、輸液ラインの途中に設けられていればよく、上述のようにチューブ54の途中に設けてもよいし、点滴筒55の底部に組み込んで該点滴筒55と一体的に形成してもよい。
【0034】
輸液セット50に輸液用弁機構1を設けるには、図6及び図7に示すように、チューブ54を点滴筒55を備える上方チューブ54aと静脈針53を備える下方チューブ54bとに分け、上方チューブ54aをキャップ19のチューブ装着部20に外装させ、下方チューブ54bを弁保持容器本体11の円筒状流出部13に外装させる。このとき、チューブ装着部20及び円筒状流出部13の外径がチューブ54の内径よりも若干大きい大きさを有して形成されていることから、チューブ54a,54bを押し広げながら挿入させることで接着剤等を必要とすることなく互いを固定させることができる。直立状態の輸液用弁機構1は、弁体3の御碗型輸液受部4が弁保持容器本体11のテーパ孔部16に軽く当接した状態となっている。
【0035】
輸液を開始するには、チューブ54内を輸液製剤51で満たして空気を完全に排出させなければならない。輸液パック52から点滴筒55及びクランプ56を介して一定の量で流出する輸液製剤51は、上方チューブ54aからキャップ19の上位流入孔24内を通り、御碗型輸液受部4内に貯留される。御碗型輸液受部4内から溢れ出した輸液製剤51は、孔10内をつたって円筒状流出部13の下端に形成された通過溝18から下方チューブ54bへと流れていく。
【0036】
そして、図6に示すように、上方チューブ54a、弁保持容器2の孔10及び下方チューブ54bが輸液製剤51で満たされると、浮力によって弁体3が浮き、円筒状流出部13の面13aに当接しているフィン9は、弾性変形によってその傾斜角度を拡大させた状態となる。弁体3の浮力は、軸部5の空気室7内に溜まっている空気によって強められ、輸液製剤51の流動方向に反して確実に浮き上がることになる。このように、弁体3が浮くことで御碗型輸液受部4と弁保持容器2のテーパ孔部16との間に隙間ができ、輸液製剤51が自然と流れていくようになり輸液が開始される。
【0037】
輸液製剤51の終了が近づくにつれて液面が下がってくると、それにしたがって弁体3も沈んでくる。液面がさらに下がって弁体3よりも下になると、浮力を受けなくなった弁体3は、図7に示すように、御碗型輸液受部4に貯留している輸液製剤51の重みによって下降し、御碗型輸液受部4が弁保持容器本体11のテーパ孔部16に当接して隙間をなくす。それと同時に弁保持容器2に当接していたフィン9が、弾性復帰することによって、弁保持容器2から弁体3をさらに引き下げることになる。すると、御碗型輸液受部4をテーパ孔部16へより圧接させることになって隙間を確実に閉塞させる。つまり、御碗型輸液受部4が可撓性材料から形成されているため、弾性変形することによってテーパ孔部16に対する密着性がより高められるのである。こうすることで、孔10内に残った輸液製剤51はそれ以上は下がらず、空気が下方チューブ54b内へと入り込むことはない。よって、実質的にチューブ54を閉塞することになる。
【0038】
このように、上側に開口する御碗型輸液受部4によって、内部に輸液製剤51を貯留させることができる。そのため、輸液製剤51で満たされた弁保持容器2内では浮力によって浮いていた弁体3が、輸液製剤51の終了が近づいて液面が下がってくると、上側に開口する御碗型輸液受部4内に貯留している輸液製剤51の重みによって弁体3が下降し、御碗型輸液受部4が弁保持容器2のテーパ孔部16に当接することになる。こうして弁保持容器2内を閉塞することができる。すなわち、輸液製剤51を利用して弁体3に負荷が掛かるようにすることにより弁体3のテーパ孔部16に対する当接状態が安定し、弁保持容器2のテーパ孔部16に対する弁体3のズレや浮きを防止することができる。したがって、御碗型輸液受部4をテーパ孔部16に確実に当接させることができるので輸液を完全に停止させることができる。
【0039】
また、下部流出孔部17内に挿入される軸部5によって弁保持容器2内での弁体3の姿勢が安定するため、輸液用弁機構1が斜めに傾いたとしても御碗型輸液受部4とテーパ孔部16との当接状態を良好に保つことができる。さらに、フィン9の弾性復帰に伴う弁保持容器本体11への締め付けによって弁体3のブレをより抑えることができる。また、このような弁体3は、御碗型輸液受部4内に溜まった輸液製剤自体が重りとなるため、輸液製剤51の種類に関わらず用いることができ、生産効率及び汎用性を高めることが可能となる。
【0040】
軸部5の形状が、下端側に開口する有蓋円筒形状であることによって、弁保持容器本体11が輸液製剤51満たされても、軸部5の内部の空気室7に空気を含ませることができるため、弁体3の浮力を増加させることができる。
【0041】
軸部5の下端部に、弁体3が上昇すると下部流出孔部17の端部に係合して弾性変形するフィン9を設けたことによって、このフィン9が弁保持容器2から弁体3が抜けることを規制することができる。また、弁体3の上昇により弾性変形していたフィン9が、弁体3の下降とともに弾性復帰する際のフィン9の弾性力によって、弁保持容器2から弁体3を若干引き下げることができる。これにより、御碗型輸液受部4をテーパ孔部16に圧接させることになって、輸液の停止をより確実なものとすることができる。したがって、輸液用弁機構1が傾いた状態でも輸液を停止させることが可能となる。
【0042】
さらに、弁体3が可撓性材料から形成されているため、その弾性変形によりテーパ孔部16と御碗型輸液受部4との封止力を一層高めることができる。また、御碗型輸液受部4の形状を御碗型にしたことによってその湾曲面がテーパ孔部16に当接したとき、その弾性力がはたらき易い。
【0043】
そして、円筒状流出部13つまり弁保持容器本体11に輸液製剤51を通過させる上記通過溝18を形成したことによって、輸液製剤51をスムーズに流出させることができるので、輸液速度を乱すことなく輸液を行うことができる。また、通過溝18を弁保持容器本体11に形成するのではなく弁体3のフィン9に設けてもよい。
【0044】
また、輸液パック52内の輸液製剤51を、チューブ54を介して体内へと投与する輸液セット50における輸液ラインに輸液用弁機構1を設けることにより、チューブ54内、つまり、輸液ラインの途中に輸液製剤51を残留させつつ確実に輸液を停止することができるので、体内へ空気が入り込む虞がなくなる。また、このような輸液セット50によって、輸液パック52を取り替えるだけで次の輸液製剤を輸液することができるので、輸液パック52を交換するごとに静脈針53を体内へ再刺入する必要がなくなるため患者の負担を低減できる。また、この輸液用弁機構1を点滴筒55の下流に設けることによって、輸液製剤51を無駄にすることなく適量の輸液製剤51をチューブ54内に残留させることができる。したがって、チューブ54内に血液が逆流したリ、血管内に空気が入り込む虞もなくなるので、患者及び医療従事者の負担を軽減することができる。
【0045】
なお、図8に示すのは、上記輸液用弁機構1に収容可能な弁体30であって、軸部31を円柱に形成したものである。弁体30は、御碗型輸液受部4の底部から該御碗型輸液受部4の開口側とは反対側に突出してなる中実円柱の軸部31であって、その下端部が端末に向かって縮径する円錐部32となっている。円錐部32の基部には、外方に張り出すとともに上側へと傾斜する環状のフィン33が設けられており、円錐部32の傾斜の延長上に一体的に形成されている。また、先端にかけて薄肉形状に形成されているため弾性変形が容易なものとなっている。そして、弁保持容器2内に上下移動可能に保持され、軸部5の円錐部32及び御碗型輸液受部4の底部で受ける浮力によって上昇することになる。
【0046】
さらに、上記実施形態に於いては、弁体3にフィン9を形成したものを例に挙げたが、フィン9がなくてもよい。つまり、フィン9の弾性変形によって御碗型輸液受部4をテーパ孔部16に圧接するほうが密着性が増して好ましいのであるが、御碗型輸液受部4に貯留した輸液の重みによって弁体が下降して御碗型輸液受部4がテーパ孔部16に当接するだけでも十分に閉塞可能である。このようにフィン9を有しない弁体の抜け止めは、弁保持容器2のキャップ19によって可能となる。つまり、御碗型輸液受部4が弁保持容器2のキャップ19に当接することによって、弁保持容器2内から抜け出すことを防ぐことができる。
【0047】
また、上記では、輸液用弁機構1を医療用の輸液ラインに設けることとしたが、これに限らず、産業用等の各種機器における液送ラインにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における一実施形態の輸液用弁機構を示す側断面図である。
【図2】本発明における一実施形態の輸液用弁機構の弁体を示す側断面図である。
【図3】本発明における一実施形態の輸液用弁機構の弁保持容器を示す側断面図である。
【図4】本発明における一実施形態の弁保持容器に形成される通過溝を示す斜視図である。
【図5】本発明における輸液用弁機構を備えた輸液セットを示す図である。
【図6】本発明における一実施形態の輸液用弁機構弁体の動きを示すもので、輸液状態の弁体を示す概略図である。
【図7】本発明における一実施形態の輸液用弁機構弁体の動きを示すもので、輸液停止状態の弁体を示す概略図である。
【図8】本発明における弁体の他の実施例を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 輸液用弁機構(弁機構)
2 弁保持容器
3 弁体
4 御碗型輸液受部(御碗型液受部)
5 軸部
9 フィン(抜止部)
11 弁保持容器本体
15 上部流入孔部(上部流入部)
16 テーパ孔部(テーパ部)
17 下部流出孔部(下部流出部)
19 キャップ(規制部)
50 輸液セット
51 輸液製剤(輸液)
52 輸液パック
53 静脈針(注入針)
54 チューブ
55 点滴筒
56 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液送ラインに設けられる弁機構であって、
液体を流入させる上部流入部と、該上部流入部から流入した前記液体を流出させるとともに前記上部流入部よりも小径を成す下部流出部と、前記上部流入部と前記下部流出部との間に設けられたテーパ部とを有する弁保持容器と、
該弁保持容器内に上下移動可能に保持され、上側に開口するとともに前記テーパ部に当接してこれを開閉可能に閉塞する御碗型液受部と、該御碗型液受部の底部から突出して前記下部流出部内に挿入される軸部とを有する弁体とから構成されることを特徴とする弁機構。
【請求項2】
前記軸部は、下端部側に開口する有蓋円筒形状であることを特徴とする請求項1記載の弁機構。
【請求項3】
前記弁保持容器内から、浮力によって前記弁体が抜けることを規制する規制部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の弁機構。
【請求項4】
前記弁体は、可撓性材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の弁機構。
【請求項5】
前記軸部は、その下端部周縁から外方に張り出すとともに上側へと傾斜し、前記弁体が上昇すると前記下部流出部の端部に係合して弾性変形する抜止部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の弁機構。
【請求項6】
前記抜止部或いは弁保持容器のいずれか一方に前記液体を通過させる通過溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の弁機構。
【請求項7】
医療用の輸液ラインに設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の弁機構。
【請求項8】
一端側に輸液パックが連結可能であり、他端側に人体内へ刺入される注入針を有して輸液ラインを構成する輸液セットであって、
前記輸液ラインの途中に請求項7記載の弁機構を配置してなる輸液セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−105406(P2007−105406A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308329(P2005−308329)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(391007024)株式会社アドバネクス (45)
【Fターム(参考)】