説明

弁装置

【課題】ステムに嵌め込まれたシール部材の脱落を防止できる弁装置を提供すること。
【解決手段】高圧源に接続される筒状空間19と、筒状空間19の底部191(弁座)に開口する一端である流路開口部111aをもつ弁ハウジング連通孔111とを区画する弁ハウジング11と、筒状空間19内に配設され、弁座191に対し着離可能に移動し、高圧源と低圧源との間を断続可能なシール部材13と、シール部材13を保持する収納凹部121が一端部に形成されたステム12とを有し、シール部材13は、弁座191に密着した状態にあって、収納凹部121内と流路開口部111aとの間を連通するシール部材連通孔131をもつ。シール部材連通孔131をシール部材13に設けることにより、高圧源と低圧源との圧力差に起因して発生するシール部材13をステムから脱離する方向での力を抑制でき、シール部材131を収納凹部121から脱落させる力が弱くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関し、詳しくは、水素ガスなどの高圧ガスを貯蔵するガスタンクにおけるマニュアル弁などのように、圧力差が大きい流路を遮断・開放できる弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタンクの開口部を閉塞する栓体には、ガスタンクの内部と外部とを連通する1以上の流路をもち、その流路内におけるガスの流通を制御する弁装置が設けられている。弁装置の一例として、開閉操作をマニュアル操作により行うマニュアル弁がある(特許文献1など)。
【0003】
特許文献1に開示のマニュアル弁は、特許文献1の図3に示すように、その栓体ハウジング(16)の外側面(16a)に開口する第1凹部(21)内に配設される。マニュアル弁(14)は、有底筒状をなすハウジング(35)と、ハウジング(35)内にその軸線方向に沿って摺動可能に収容された弁体(36)と、その弁体(36)を操作するための操作螺子(37)とを備えており、ハウジング(35)は、その底部(35a)が逆止弁(9)の蓋体(26)に当接するように第1凹部(21)内に配設されている。そして、ハウジング(35)の底部(35a)には、逆止弁(9)の貫通孔(32)に連通される貫通孔(38)が形成され、底部(35a)近傍の側壁(35b)には第1流路(18)に連通される貫通孔(39)が形成されている。そして、弁体(36)の外周には、シール部材としてOリング(36c)が嵌装されている。弁体(36)の先端部(36a)は円錐状に形成されており弁座(40)に対して着離する。
【0004】
図5に示す従来技術のマニュアル弁は、有底円筒状の筒状空間99を区画する弁ハウジング91と、その筒状空間99の底部に流路開口部911a(弁ハウジング連通孔911の一端側)が開口する弁座991に着離可能なシール部材93と、そのシール部材93を一端部に嵌め込んで保持するステム92とから形成されており、シール部材93が弁座911に着離することにより、弁の開閉を行うものである。シール部材93はステム92などとは異なる素材から形成でき、例えば、樹脂材料から形成することによって、弁座911への密着性に優れたシール部材93とすることが可能になり、シール性に優れたマニュアル弁を提供することができる。
【特許文献1】特開2006−144841号公報(図3など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シール部材を設けることにより、弁座への密着性が向上することにより弁装置の性能が向上するが、弁座911側が低圧側、筒状空間99側が高圧側に接続される構成を採用すると、その優れたシール性により低圧側である弁座911にシール部材93が吸着してしまい、その後の弁の開閉に支障が生じる場合があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、ステムに嵌め込まれたシール部材を介してシールを行う際にシール部材がステムから脱落することを防止できる弁装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係る弁装置の特徴は、高圧源に接続される有底の筒状空間と、前記筒状空間の底部の弁座に開口する一端である流路開口部をもち且つ前記筒状空間及び低圧源の間を連通可能な弁ハウジング連通孔と、を区画する弁ハウジングと、
前記筒状空間内に配設され、前記弁座に対し着離可能に移動し、前記高圧源と前記低圧源との間を断続可能なシール部材と、
前記シール部材を嵌め込んで保持する収納凹部が一端部に形成され、軸方向に移動可能なステムと、
を有する弁装置であって、
前記シール部材は、前記弁座に密着した状態にあって、前記収納凹部内と前記低圧源との間を連通するシール部材連通孔をもつことにある。
【0008】
上記課題を解決する請求項2に係る弁装置の特徴は、請求項1において、前記ステムは、前記収納凹部の内外を連通するステム連通孔が形成され、
前記シール部材は、前記シール部材連通孔の周囲を囲むように前記収納凹部の内面に密着し、前記収納凹部内に開口する前記ステム連通孔の開口部及び前記収納凹部の外部と、前記低圧源との間の気密を保持する密着面をもつことにある。
【0009】
上記課題を解決する請求項3に係る弁装置の特徴は、請求項1又は2において、前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記高圧源と連通可能な高圧源連通可能部分の形状が、前記高圧源連通可能部分に前記高圧源から加わる外力が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っていることにある。
【0010】
上記課題を解決する請求項4に係る弁装置の特徴は、請求項3において、前記高圧源連通可能部分は前記着脱可能方向の前記弁座側からの投影面積が前記ステム側からの投影面積以上であることにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項5に係る弁装置の特徴は、請求項3において、前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記低圧源と連通可能な低圧源連通可能部分の形状が、前記低圧源連通可能部分に前記低圧源から加わる外力と前記高圧源から加わる外力との和が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っていることにある。
【0012】
上記課題を解決する請求項6に係る弁装置の特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記低圧源と連通可能な低圧源連通可能部分の形状が、前記低圧源連通可能部分に前記低圧源から加わる外力が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っていることにある。
【0013】
上記課題を解決する請求項7に係る弁装置の特徴は、請求項6において、前記低圧源連通可能部分は前記着脱可能方向の前記弁座側からの投影面積が前記ステム側からの投影面積と等しいことにある。
【0014】
上記課題を解決する請求項8に係る弁装置の特徴は、請求項1〜7の何れか1項において、前記シール部材の形状は前記ステムの移動方向に垂直な面において面対称であることにある。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明においては、収納凹部と低圧源との間を連通するシール部材連通孔をシール部材に設けることにより、高圧源と低圧源との圧力差に起因して発生するシール部材をステムから脱離する方向での力を抑制できる。つまり、シール部材にシール部材連通孔を設けたことにより、シール部材をステムの先端部の収納凹部から脱落させる力が弱くなると共に、収納凹部内も低圧になって、ステム側にも低圧源に由来する吸引力が作用することになり、シール部材が収納凹部から脱落する虞を少なくできる。
【0016】
請求項2に係る発明においては、ステム連通孔を形成することにより、シール部材と収納凹部との隙間と筒状空間内との間を連通させて、シール部材と収納凹部との隙間に気体が残留することが防止できる。
【0017】
請求項3に係る発明においては、シール部材における高圧源に連通可能な部分である高圧源連通可能部分が高圧源から受ける力がシール部材が収納凹部から着脱可能な方向に対して釣り合っているか、又は、シール部材を収納凹部内に押圧する力が勝る形状とすることにより、シール部材がステムから脱落することを防止するものである。特に、請求項4に係る発明のように、高圧源連通可能部分の着脱可能方向の弁座側(シール部材を収納凹部内に押圧する側)から見た投影面積が、ステム側(シール部材を収納凹部内から脱離する方向に押圧する側)から見た投影面積以上であることにより、シール部材がステムから脱離する方向に力が加わることを抑制できる。つまり、シール部材が着脱可能方向において受ける力はそれぞれの投影面積×高圧源の圧力であるが、高圧源の圧力は両方向共に等しいため、投影面積の大小の比較のみにより、高圧源により押圧される方向が決定できる。なお、高圧源連通可能部分の投影面積はシール部材が筒状空間の底部や収納凹部の底面に密着した部分を除いて算出する。
【0018】
請求項5に係る発明においては、高圧源連通可能部分及び低圧源連通可能部分が高圧源及び低圧源から受ける力がシール部材が収納凹部から着脱可能な方向に対して釣り合っているか、又は、シール部材を収納凹部内に押圧する力が勝る形状とすることにより、シール部材がステムから脱落することを防止するものである。
【0019】
請求項6に係る発明においては、シール部材における低圧源に連通可能な部分である低圧源連通可能部分が低圧源から受ける力がシール部材が収納凹部から着脱可能な方向に対して釣り合っているか、又は、シール部材を収納凹部内に押圧する力が勝る形状とすることにより、シール部材がステムから脱落することを防止するものである。特に、請求項7に係る発明のように、低圧源連通可能部分の着脱可能方向の弁座側(シール部材を収納凹部外に押圧する側)から見た投影面積が、ステム側(シール部材を収納凹部内に押圧する側)から見た投影面積と等しくすることにより、シール部材がステムから脱離する方向に力が加わることを抑制できる。つまり、シール部材が着脱可能方向において受ける力は、高圧源連通可能部分と同様に、それぞれの投影面積×低圧源の圧力であるが、低圧源の圧力は両方向で等しいため、投影面積の大小のみを比較することにより、低圧源により押圧される方向が決定できる。なお、低圧源連通可能部分の投影面積はシール部材が筒状空間の底部や収納凹部の底面に密着した部分を除いて算出する。
【0020】
請求項8に係る発明においては、シール部材の形状をステムが移動する方向に垂直な方向において面対称とすることにより、高圧源連通可能部分及び低圧源連通可能部分に高圧源及び低圧源から加えられる力が釣り合うことになり、シール部材がステムの収納凹部内から脱落することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の弁装置を水素用ガスタンクにおいて水素ガスを充填する充填路の開閉を行うマニュアル弁(INマニュアル弁)に具現化した一実施形態を図面に従って説明する。
【0022】
(構成)
本実施形態のマニュアル弁が適用される水素用ガスタンクは、図1及び2に示すように、高圧水素タンク2と、栓体3とを有する。高圧水素タンク2には内外を連通する開口部2aが形成されている。栓体3は、開口部2a内に挿入された栓体本体部30をもつ。栓体本体部30はOリング37により気密が保たれる。栓体本体部30内には、高圧水素タンク2内に水素を供給する充填路4と高圧水素タンク2内から水素を外部に供給する供給路5と高圧水素タンク2の内外を電気的に接続する配線路6とが形成されている。
【0023】
充填路4には、高圧水素タンク2の外部から内部に向けた水素ガスの流れに沿って、外部の水素ガス供給源(図略)に接続されるINポート42、本発明の弁装置が好適に適用できるINマニュアル弁10、逆止弁38が配置され、最終的に高圧水素タンク2内に開口する開口部41をもつ。
【0024】
供給路5には、高圧水素タンク2の内部から外部に向けた水素の流れに沿って、電磁弁36、OUTマニュアル弁32、外部の水素ガス供給対象(図略)に接続されるOUTポート51が配置されている。逆止弁38と開口部41との間の充填路4と、外部との間に、溶接弁32と圧抜き用のマニュアル弁33とが並列に接続されている。
【0025】
配線路6は栓体本体部30の先端に設けられた温度センサ39が生成する温度信号や電磁弁36を制御する制御信号を伝達するための電気的な配線を収納する通路であり、それらの配線を通した状態で高圧水素タンク2の内外の気密が保たれる構造をもつ。
【0026】
INマニュアル弁10は、図2に示すように、栓体本体部30に設けられた開口部301内に配設される。開口部301は外部に開口する部分から順に3段階の内径をもつ円筒状の第1〜第3空間301a、b及びcから構成され、外部に最も近い第1円筒状空間301aの内周面にはねじ溝が形成されている。外部から最も遠い第3円筒状空間301cの先端部は充填路4(低圧源)に接続されている。円筒状空間301a及び301cの間の第2円筒状空間301bの側面にはINポート42(高圧源)が接続されている開口部421が形成されている。
【0027】
INマニュアル弁10は、図3に示すように、弁ハウジング11と、その弁ハウジング11内において軸方向に移動可能なステム12と、ステム12の先端部に嵌め込まれているシール部材13と、ステム12及び筒状空間の間の保持・気密を確保する第1プラグ14、第1シールリング181、第1バックアップリング182、第2シールリング183、及び第2バックアップリング184と、ステム12をシール部材12が嵌め込まれている側と反対方向に付勢するスプリング16と、マニュアル操作によりステム12をシール部材12が嵌め込まれている方向に押圧する操作ねじ17及び第2プラグ15とを有する。
【0028】
弁ハウジング11は、一端側に開口する有底円筒状の筒状空間19と、その筒状空間19の底部191(弁座)に開口する流路開口部111aをもつ弁ハウジング連通孔111と筒状空間19及び第2円筒状空間301bの間を接続し且つ筒状空間19の側面に開口し第2円筒状空間301bに開口する開口部421と接続する連通孔112とを区画する部材である。底部191における流路開口部111aの周辺部が本INマニュアル弁10の弁座として作用する。弁ハウジング11は第2円筒状空間301b内に一端側を外側に向けて配設される。第2円筒状空間301bは、弁ハウジング11に対して第3円筒状空間301c側に逆止弁38が配設されている。流路開口部111aは逆止弁38を介して充填路4に接続される。詳細は省略するが、弁ハウジング11は逆止弁38のハウジングのうちの1つと一体化されている。
【0029】
ステム12は一端部の先端が拡径された先太部122をもち、その先太部122が弁ハウジング11の一端側から筒状空間19内に挿入される。先太部122の外径は筒状空間19の内径よりも僅かに小さく、水素ガスがその隙間を通過可能になっている。ステム12の軸方向における先太部122の長さは筒状空間19の長さより短い。ステム12は軸方向の中央部123における外径が一定であり、後述する第1プラグ14内にて軸方向に摺動可能になっている。ステム12の軸方向における摺動は、先太部122の先端が筒状空間19の底部191に当接する状態から先太部122が第1プラグ14に至ってそれ以上移動できなくなるまでの間で可能である。ステム12の他端部にはスプリング16の一端部をステム12の一端部側から他端部側に向けて受けスプリング16から付勢されるフランジ部124が嵌め込まれている。ステム12の一端部における先端にはシール部材12が嵌め込み可能な空間である円筒状の収納凹部121が形成されている。図3に示すように、収納凹部121の底部近傍からからステム12の拡径方向(軸方向に対し垂直な方向)に向けてステム連通孔121aが形成されている。ステム連通孔121aが形成されることで、シール部材13とステム12の収納凹部121との間にガスが溜まることが無くなる。
【0030】
シール部材13はステム12や弁ハウジング11の筒状空間19内面よりも容易に変形可能な素材(樹脂など)から形成されており、シール部材連通孔131が中央に設けられたドーナッツ状の部材である。シール部材13の外径はステム12の収納凹部121の内径に相当する大きさで収納凹部121に嵌め込まれることで固定可能な大きさである。シール部材13は一端面13aで筒状空間19の底部191に当接可能であり、他端面13bで収納凹部121の底面121bに当接している。シール部材13に設けられたシール部材連通孔131の大きさは流路開口部111aに当接する際に流路開口部111aに相当する大きさである。流路開口部111aの周辺部である一端面13aは流路開口部111aの周囲を囲むことができ、流路開口部111a及び筒状空間19の間をシールすることができる。筒状空間の底部191及び一端面13aの間はステム12の軸方向(一端側)への押圧により密着することによりシール性能を発揮する。収納凹部121の底面121b及び他他端面13bの間は常に密着することによりシールされている。シール部材13の軸方向の長さは収納凹部121の深さよりも僅かに長く、シール部材13を収納凹部121内に嵌め込み、その他端面13bが収納凹部121の底面121bに当接した状態で、僅かに一端面13aが収納凹部121から突出する。シール部材連通孔131の両端はそれぞれ同じ形状でテーパ状になったテーパ状部131a(一端面13a側)及び131b(他端面13b側)が形成されている。また、周辺部には同じ形状で面取りが為された面取り部132a(一端面13a側)及び132b(他端面13b側)が形成されている。
【0031】
第1プラグ14は弁ハウジング11の一端側に当接し、第2円筒状空間301bの内径とほぼ同じ外形をもつ第1プラグ先端部141と第1円筒状空間301aの内径とほぼ同じ外形をもち、外周面に第1円筒状空間301aの内面に設けられたねじ溝と螺合可能なねじ溝が形成されている第1プラグ基部142とをもち、第1プラグ基部142を第1円筒状空間301a内にねじ込むことで固定される。第1プラグ14の長さは、第1〜第3円筒状空間301a〜c内にねじ込んだ後も第1円筒状空間301a内には軸方向に空間があり、後述する第2プラグ15が挿設可能な長さである。第1プラグ先端部141は軸方向の中央部における外面側に弁ハウジング11に向けて徐々に縮径する外周テーパ面141aが形成されている。外周テーパ面141aの軸方向両端には第2円筒状空間301bの内径と概ね同じに保たれている。第1プラグ14の内部には軸方向に貫通する円筒状の内部空間143及び144をもつ。弁ハウジング11側から、内部空間143及び144の順に直列に形成される。内部空間143は、ステム12の中央部123の外径と内径が概ね同じであり、軸方向の中央部における内面側に弁ハウジング11に向けて徐々に拡径する内周テーパ面143aが形成されている。内周テーパ面143aの軸方向両端にはステム12の中央部123の外径と概ね同じに保たれている。内部空間144の内径はステム12の中央部123の外径よりも大きく且つフランジ部124の外径と概ね同じである。
【0032】
シールリング181は第1プラグ14の第1プラグ先端部141の外周に設けられた外周テーパ面141a内の弁ハウジング11側に配設され、第1プラグ14及び第2円筒状空間301bの内周面の間をシールする。シールリング181に対して弁ハウジング11側が高圧となるため、シールリング181は外周テーパ面141a内を第1プラグ基部142側に移動するが外周テーパ面141aは第1プラグ基部142側に行くに従い、拡径するため、シールリング181はより密着することになりシール性能が確保される。バックアップリング182はシールリング181よりも変形し難い材料から形成される。シールリング181の弁ハウジング11に対して反対側にバックアップリング182が設けられている。バックアップリング182は外周テーパ面141a及び第2円筒状空間301bの内面との間にシールリング181が過度に挟み込まれて損傷を受けることを防止する。
【0033】
シールリング183は第1プラグ14の第1プラグ先端部141の内周に設けられた内周テーパ面143a内の弁ハウジング11側に配設され、第1プラグ14及びステム12の中央部123の外周面の間をシールする。シールリング183に対して弁ハウジング11側が高圧となるため、シールリング183は内周テーパ面143a内を第1プラグ基部142側に移動するが内周テーパ面143aは第1プラグ基部142側に行くに従い、縮径するため、シールリング183はより密着することになりシール性能が確保される。バックアップリング184はシールリング184よりも変形し難い材料から形成される。シールリング183の弁ハウジング11に対して反対側にバックアップリング184が設けられている。バックアップリング184は内周テーパ面143a及びステム12の中央部123の外面との間にシールリング183が過度に挟み込まれて損傷を受けることを防止する。
【0034】
スプリング16はステム12の中央部123の外径よりも内径が大きく、第1プラグ14の内部空間144の内径(そしてフランジ部124の外径)よりも外径が小さい。スプリング16は中央部123及び内部空間144の間に配設され、一端が内部空間144から内部空間143に至る段差部分1431に当接し、他端がフランジ部124の中央部123側の側面124aに当接しており、フランジ部124を常に弁ハウジング11側から反対方向に付勢している。従って、スプリング16はシール部材13を流路開口部111aから離間する方向に付勢する部材である。
【0035】
第2プラグ15は、第1円筒状空間301aの内面に設けたねじ溝と螺合可能なねじ溝が外面に形成された円筒状の部材である。第2プラグ15には内部に操作ねじ17が螺合可能な内部空間151が形成されている。
【0036】
操作ねじ17は第2プラグ15の内部空間151に螺合されている。操作ねじ17の六角穴171にレンチを挿入して回転させることにより、螺合する程度が変化して、その先端部172の位置が軸方向に移動する。その先端部172によりステム12のフランジ部124を押動させ、ステム12を任意の位置に保持することができる。
【0037】
(作用効果)
本実施形態のINマニュアル弁10は以上の構成を有することから以下の作用効果を発揮する。
【0038】
まず、INマニュアル弁10を閉じる場合について説明する。六角穴171にレンチを差し込み操作ねじ17を回転させることにより操作ねじ17をステム12側に移動させる。すると、操作ねじ17の先端部172がステム12のフランジ部124を押圧し、ステム12を弁ハウジング11側に移動させる。ステム12の移動に伴い、ステム12の収納凹部121に嵌め込まれているシール部材13の一端面13aが流路開口部111aに当接する。このとき、シール部材13の一端面13aが筒状空間19の底部191に密着すると共に、他端面13bが収納凹部121の底面121bに密着することで、弁ハウジング連通孔111及び筒状空間19の間のシールが確保される。この場合に、テーパ状部131a及び131b(低圧源連通可能部分における軸方向における投影部分)は同じ圧力(弁ハウジング連通孔111:低圧源側)に曝されており且つステム12の軸方向に対するそれぞれの投影面積が等しいため、軸方向に加わる外力f1及びf2は反対方向且つ同じ大きさとなり釣り合うことになる。同様に、面取り部132a及び132b(高圧源連通可能部分における軸方向における投影部分)についても同じ圧力(筒状空間19に連通する空間121c及び121d:高圧源側)に曝されており且つステム12の軸方向に対するそれぞれの投影面積が等しいため、軸方向に加わる外力f3及びf4も反対方向且つ同じ大きさとなり釣り合うことになる。つまり、高圧源側及び低圧源側共に外力が釣り合い、シール部材13にはガスの圧力に起因する付勢力はいずれの方向(シール部材13が収納凹部121から脱落する方向はもちろん、内部に押し込まれる方向にも)にも加わらないことになる。
【0039】
この状態からINマニュアル弁10を開ける場合を説明する。六角穴171にレンチを差し込み回転させることにより、操作ねじ17がステム12側とは反対方向に移動する。ステム12はそのフランジ部124の側面124aにスプリング16により付勢力が加えられているため、操作ねじ17が離れていくと、その移動量に応じて、ステム12も軸方向に移動する。そのときに、ステム12の先端の収納凹部121内に嵌め込まれたシール部材13も一緒に移動する。その結果、シール部材13の一端面13aは筒状空間19の底部191から離れ、弁ハウジング連通孔111の流路開口部111aと筒状空間19とは直接、連絡することになり、両者の圧力差に従い、水素ガスが流れていく。この場合において、先に説明したように、シール部材13にはガスに起因する外力は加わっていないため、ステム12の移動に伴いシール部材13も支障なく移動できる。また、何らかの予期せぬ要因により、万が一、シール部材13が収納凹部121から脱離する方向に移動したとしても、完全にシール部材13が収納凹部121から脱離するまではシール部材13としての機能を果たすことができる。すなわち、シール部材13が底部191に密着し、収納凹部121から脱離する方向に僅かに移動した場合、流路開口部111aはシール部材連通孔131、収納凹部121、そしてステム連通孔121aを介して、INポート42にまで連通可能であり、弁としての機能を果たすことができる。反対にシール部材13が僅かに脱離した状態から、ステム12を一端部側に移動させることにより、収納凹部121内にシール部材13を迎え入れる状態になり、最終的にはシール部材13の他端面13bが収納凹部121の底面121bに当接・密着することになり、流路開口部111aと筒状空間19内とのシールが確保できる。
【0040】
ここで、図5にて説明した従来技術のマニュアル弁において、本実施形態のマニュアル弁10と同様の動作を行う場合、以下に説明する機構にて不具合が生じることがある。
【0041】
図6に示すステム92の先端部の拡大図に基づき説明を行う。ステム92の先端にはシール部材91が嵌合可能な収納凹部921が形成されている。収納凹部921の底面921b近傍の側面には収納凹部921及び筒状空間99の間を連通するステム連通孔921aが形成されている。シール部材93は大小2つの円筒を同軸状に重ね合わせた形状であり、小径部が収納凹部921の奥に入るように嵌め込まれる。このような構成をもつ従来技術のマニュアル弁を閉じると、筒状空間99(高圧源側)に由来する力がシール部材93に力f5として加わることになる。弁ハウジング連通孔911(低圧源側)に由来する力f6は力f5に比べて非常に小さく(受圧面積が小さい上にガスの圧力も小さいため)、シール部材93全体として考えると、シール部材93を収納凹部921内から脱落させる方向に外力が加わることになる。ここで、高圧水素タンク2内が空である場合など、低圧源と高圧源との圧力差が大きい場合に、力f5と力f6との差が大きくなって、シール部材13の外周面と収納凹部921の内面との間の摩擦力に打ち勝って、シール部材93を収納凹部921内から実際に脱落する方向に移動することになる場合も生じる。そうすると、シール部材93は弁ハウジング連通孔911を閉塞し続けることになり、弁を開くことが困難になる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態における水素用ガスタンクの部分断面模式図である(図2におけるI−I断面)。
【図2】実施形態における水素用ガスタンクの栓体の正面透視模式図である。
【図3】実施形態におけるINマニュアル弁の断面図である。
【図4】実施形態におけるINマニュアル弁のシール部材近傍の部分拡大断面図である。
【図5】従来技術のINマニュアル弁の断面図である。
【図6】従来技術のINマニュアル弁のシール部材近傍の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10…INマニュアル弁
11…弁ハウジング 111…弁ハウジング連通孔 111a…流路開口部 112…連通孔 19…筒状空間 191…筒状空間の底部(弁座)
12…ステム 121…収納凹部 121a…ステム連通孔 121b…収納凹部の底面 121c及び121d…シール部材及び収納凹部の隙間の空間 122…先太部 123…中央部 124…フランジ部 124a…フランジ部の側面
13…シール部材 13a…一端面 13b…他端面 131…シール部材連通孔 131a…一端面のテーパ状部 131b…他端面のテーパ状部 132a…一端面の面取り部 132b…他端面の面取り部
14…第1プラグ 141…第1プラグ先端部 142…第1プラグ基部 143…内部空間
15…第2プラグ 151…内部空間
16…スプリング
17…操作ねじ 171…六角穴
181、183…シールリング 182、184…バックアップリング
2…高圧水素タンク 2a…開口部
3…栓体 30…栓体本体部 301…開口部 301a〜c…第1〜第3円筒状空間
4…充填路 5…供給路 6…配線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧源に接続される有底の筒状空間と、前記筒状空間の底部の弁座に開口する一端である流路開口部をもち且つ前記筒状空間及び低圧源の間を連通可能な弁ハウジング連通孔と、を区画する弁ハウジングと、
前記筒状空間内に配設され、前記弁座に対し着離可能に移動し、前記高圧源と前記低圧源との間を断続可能なシール部材と、
前記シール部材を嵌め込んで保持する収納凹部が一端部に形成され、軸方向に移動可能なステムと、
を有する弁装置であって、
前記シール部材は、前記弁座に密着した状態にあって、前記収納凹部内と前記低圧源との間を連通するシール部材連通孔をもつことを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記ステムは、前記収納凹部の内外を連通するステム連通孔が形成され、
前記シール部材は、前記シール部材連通孔の周囲を囲むように前記収納凹部の内面に密着し、前記収納凹部内に開口する前記ステム連通孔の開口部及び前記収納凹部の外部と、前記低圧源との間の気密を保持する密着面をもつ請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記高圧源と連通可能な高圧源連通可能部分の形状が、前記高圧源連通可能部分に前記高圧源から加わる外力が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っている請求項1又は2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記高圧源連通可能部分は前記着脱可能方向の前記弁座側からの投影面積が前記ステム側からの投影面積以上である請求項3に記載の弁装置。
【請求項5】
前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記低圧源と連通可能な低圧源連通可能部分の形状が、前記低圧源連通可能部分に前記低圧源から加わる外力と前記高圧源から加わる外力との和が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っている請求項3に記載の弁装置。
【請求項6】
前記シール部材は、前記筒状空間の底部及び前記収納凹部内面に密着した状態で前記低圧源と連通可能な低圧源連通可能部分の形状が、前記低圧源連通可能部分に前記低圧源から加わる外力が前記ステムから前記シール部材が着脱可能な方向において釣り合っているか又は前記収納凹部内に押圧する方向が勝っている請求項1〜4の何れか1項に記載の弁装置。
【請求項7】
前記低圧源連通可能部分は前記着脱可能方向の前記弁座側からの投影面積が前記ステム側からの投影面積と等しい請求項6に記載の弁装置。
【請求項8】
前記シール部材の形状は前記ステムの移動方向に垂直な面において面対称である請求項1〜7の何れか1項に記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−281510(P2009−281510A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134530(P2008−134530)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】